平成19(う)236 危険運転致傷,道路交通法違反

裁判年月日・裁判所
平成20年5月27日 広島高等裁判所 棄却 広島地方裁判所 平成19(わ)796
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判決文本文7,325 文字)

- 1 -主文本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は弁護人平田かおり(主任),同佐々木猛也連名作成の控訴趣意書記載のとおりであり,これに対する答弁は検察官仁田良行作成の意見書記載のとおりであるから,これらを引用する。 事実誤認の主張について,,「」,論旨は被告人が普通貨物自動車(以下被告人車ともいう)を運転し原判示の日の午前3時41分ころ,広島市佐伯区Aa丁目b番c号付近道路を進行中,警察車両により追尾してきた警察官に酒気帯び運転が発覚するを免れるため,反対車線を逆行して同車両から逃れようと考え,同所先の交差点から反対車線へと進入していたところ,同日午前3時44分ころ,対向車両の通行を妨害する目的で,重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約70から90キロメートルで,原判示のBサービスエリア先道路を広島市方面から大竹市方面に向かい進行して,折から対向してきたC運転の大型貨物自動車の前方約24.9メートルの地点まで著しく接近し,同人に衝突の危険を感じさせて左にハンドルを切らせ,その際被告人も衝突の危険を感じて右にハンドルを切り,被告人車をC運転車両の右前部に衝突させ,同車両,,を左斜め前方に逸走させてその左前部を道路左側の縁石に衝突させよってCに傷害を負わせたという事実(原判決の「1裁判所が認定した罪となるべき事実」の項(1)。以下「本件事故」という)を認定した原判決について,被告人は,とにかく警察車両から逃れることだけを意図していたのであり,対向車両の通行を妨害する積極的な意図を有していなかったから被告人に対,「向車両の通行を妨害する目的」があった旨認定し,危険運転致傷罪の成立を- 2 -認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。 所論にかんが 被告人に対,「向車両の通行を妨害する目的」があった旨認定し,危険運転致傷罪の成立を- 2 -認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。 所論にかんがみ記録を調査して検討するに,原判決の事実認定は,原判決の「2前記1の事実を認定した証拠の標目」の項の「なお」以下で説示するところも含めて,おおむね正当として是認できる。以下,付言する。 (1)関係各証拠によると,以下の事実が認められる。 ア被告人は,飲酒の上,被告人車を運転し県道D線を南から北に向かって走り,原判示の日の午前3時39分ころ,国道2号線Eバイパス高架下道路と交差する通称F交差点南側の2車線のうちの右折専用車線上,。 で信号待ちのため停止した先行車の後方に被告人車を停止させていたすると,その後方に警察車両が停止し,中から降りてきた警察官が,職務質問を行うため被告人車の運転席窓ガラスをノックした。被告人は,酒気帯び運転が発覚するのを恐れて,直ちに被告人車を発進させ,信号を無視して同交差点を左折し,Eバイパス高架下道路を西進した。上記警察車両は,降りていた警察官を乗せて発進し,被告人車に続いて同交差点を左折し,赤色灯を点灯しサイレンを吹鳴させて,停止命令を繰り返しながら被告人車を追跡した。 イ被告人は,警察車両の追跡を受けながら,Eバイパス高架下道路を,時速約60キロメートルで西進し,広島市佐伯区Aa丁目b番c号先G,,交差点手前において同交差点から反対車線に入り同車線を逆行すれば警察車両もそれ以上の追跡を諦めるであろうと考え,同日午前3時41分ころ,同交差点で,その進路を右に変更して反対車線に進入し,さらに西進を続けて同車線に接続するEバイパスHランプ流出路に逆方向から進入した。ところが,警察車両は,被告人車を追跡して, 午前3時41分ころ,同交差点で,その進路を右に変更して反対車線に進入し,さらに西進を続けて同車線に接続するEバイパスHランプ流出路に逆方向から進入した。ところが,警察車両は,被告人車を追跡して,同流出路に- 3 -進入してきたので,被告人は,そのままEバイパス(本線)東行道路(上り線)に進入し,時速約70ないし90キロメートルで西進を続けたところ,警察車両も,被告人車の約150ないし200メートル後方を同車に追従して走行した。 ウEバイパスは自動車専用道路であり,その上り線は幅員約9.7メートルの2車線で,平行して走る同バイパス下り線との境界には中央分離帯があり,上り線から下り線への移行はできない。同バイパスは,上り線下り線ともに昼夜間を問わず車両の通行が頻繁である。 なお,EバイパスのHランプより西方にBサービスエリアがあり,その間にIトンネルがあって,本件事故は,同トンネルと同サービスエリアとの間で起きたものであるところ,その道路状況は,同サービスエリア方面から同トンネル西側入口に向けて右(通常の進行方向に向かって右側。以下同様にいう)に緩やかに湾曲し,同トンネル東側出口から東に向けて左に緩やかに湾曲した後は,ほぼ直線であり見通しは良い。 エ被告人は,Eバイパス東行道路の逆行を開始して間もなく,同道路の第2車線と第1車線(道路中央線側の車線を「第2車線,その左側の」車線を「第1車線」という)をほぼ並行して対向進行してきた大型貨物自動車および普通自動車を前方約56メートルないし56.3メートルに発見して,衝突の危険を感じたものの,それらの車両が左右に避けて,,。 ,くれたため被告人車はその間を抜けて進行することができたまた10台弱くらいの車両の集団が対向して走行してきたことがあったところ,それら車両の中には, それらの車両が左右に避けて,,。 ,くれたため被告人車はその間を抜けて進行することができたまた10台弱くらいの車両の集団が対向して走行してきたことがあったところ,それら車両の中には,被告人車が走行していた第2車線を走行してきた車両もあったが,それらの車両は,被告人車に気づいて避けてくれたため,被告人車は衝突せずに進行することができた。その間,被告人- 4 -,,,はその進路前方から対向車両が走行してきたときにはその運転者が被告人車を発見して避けてくれるよう,同車の前照灯を点灯し,その進路前方に対向車両がいなくなれば,警察官に被告人車の位置が分からなくなるよう,前照灯および尾灯を消すことを繰り返しながら進行を続けた。 オCは,大型貨物自動車(以下「C車」という)を運転し,その進路前方約30メートルを進行していた普通乗用自動車(タクシー)に追随して,Eバイパス上り線の第2車線上を時速約70キロメートルで進行してい。 ,,たすると上記タクシーが急に第2車線から第1車線に進路を変更しその瞬間,C車の進路前方約56.9メートルにライトが2つ見えたので,とっさに危険を感じて左にハンドルを切るとともに急ブレーキをかけたものの,C車が第1車線に入りかけたときに,同車の右前部分が,対向してきた被告人車の右前部分と衝突して,本件事故が発生した。 (2)以上認定したとおり,被告人は,被告人車を運転して,信号待ちのため交差点手前で停止中,警察官に職務質問されそうになったことから,酒気帯び運転の発覚を免れようとして被告人車を発進させ,逃走を開始したところ,警察車両が追跡してきたため,Eバイパスを逆行すれば,警察車両もそれ以上の追跡を諦めるであろうと考えて,その逆行を始めたものである。そして,その後の被告人車の走行状況にかんがみる を開始したところ,警察車両が追跡してきたため,Eバイパスを逆行すれば,警察車両もそれ以上の追跡を諦めるであろうと考えて,その逆行を始めたものである。そして,その後の被告人車の走行状況にかんがみると,被告人は,何台もの対向車両とすれ違ったり,対向車両と衝突する危険を生じさせたことから,そのままEバイパス上り線を逆行し続ければ,さらに対向車両と衝突する危険が生じることを十分に認識しながら,警察車両の追跡から逃れるためには,その危険を生じさせてもやむを得ないと考え,敢えて逆行を継続したものと認められる。なお,実際に被告人車が対向車両と衝突- 5 -してしまえば,それ以上逃走することができなくなるところ,被告人は,上述のとおり,本件事故に至るまでの間は,対向車両と衝突する危険が生じた際,いずれも対向車両に急ハンドルや急ブレーキ等の措置を取らせるなどして,被告人車との衝突を回避させたことから,被告人車がさらにEバイパス上り線の逆行を続け,対向車両に同様の措置を取らせて衝突を避けさせることにより,逃走できることを期待して,逆行を続けたものであることが認められる。 そうすると,被告人は,警察車両の追跡から逃れるため,逆行を継続す,,ることにより対向車両が被告人車と衝突する危険を生じさせるとともに逃走を続けるために,対向車両に対し被告人車との衝突を避けるための措置を取らせることをも意図しながら,逆行を継続したものということができる。 所論は,危険運転致傷罪が成立するためには,相手の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することが必要であって,その未必的な認識では足りないとの解釈が立案担当者からも示されている(「刑法の一部を改正する法律の解説」法曹時報第54巻第4号71頁)と指摘した上,被告人の意思は,一貫して,警察車両から逃れること その未必的な認識では足りないとの解釈が立案担当者からも示されている(「刑法の一部を改正する法律の解説」法曹時報第54巻第4号71頁)と指摘した上,被告人の意思は,一貫して,警察車両から逃れることにあったのであり,被告人は,対向車両の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図していないから,被告人に人または車の通行を妨害する目的はなく,同罪は成立しない旨主張する。 たしかに,被告人は,警察車両から逃れることを意図して,Eバイパスを逆行したものである。 しかし,自動車専用道路であるバイパスを逆行すれば,直ちに対向車両の自由かつ安全な通行を妨げる結果を招くことは明らかであり,バイパス- 6 -を逆行することと対向車両の自由かつ安全な通行を妨げることとは,表裏一体の関係にあるというべきである。また,上記認定事実に照らせば,被告人が,警察車両の追跡から逃れるため,バイパスを逆行することを積極的に意図していたことは明らかである。そして,バイパスを逆行することを積極的に意図していた以上,被告人は,これと表裏一体の関係にある対向車両の自由かつ安全な通行を妨げることをも積極的に意図していたと認めるのが相当である。 (3)したがって,対向車両の通行を妨害する目的が被告人にあったと認定した原判決に,所論の事実誤認はない。論旨は理由がない。 量刑不当の主張について論旨は,被告人を懲役1年6月に処した原判決の量刑は,重過ぎて不当であるというのである。 所論にかんがみ記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せ検討する。 本件は,被告人が,①普通貨物自動車を運転して,バイパス道路の反対車線に進入し,対向車両の通行を妨害する目的で,重大な交通の危険を生じさせる速度で逆行して,折から対向してきた大型貨物自動車に著しく接近し,被告人運転車両を同大型 動車を運転して,バイパス道路の反対車線に進入し,対向車両の通行を妨害する目的で,重大な交通の危険を生じさせる速度で逆行して,折から対向してきた大型貨物自動車に著しく接近し,被告人運転車両を同大型貨物自動車に衝突させるなどして,同車を左斜め前方に逸走させてその左前部を道路左側の縁石に衝突させ,その運転者に加療約5日間を要する右膝・右肘打撲および擦過傷ならびに加療約170日間を要する頚椎捻挫,腰椎捻挫の傷害を負わせ,②その際,酒気を帯びて上記普通貨物自動車を運転したという事案である。 本件危険運転致傷は,被告人が,飲酒後,自動車を運転して交差点手前で信号待ちのため停止中,警察官に職務質問されそうになったことから,酒気- 7 -帯び運転の発覚を免れようと考え,信号を無視して逃走を開始し,警察車両に追跡されて,その追跡から逃れるため,深夜とはいえ多くの自動車が走行する自動車専用道路であるバイパスの反対車線に進入し,2.6キロメートル以上もの距離を,時速約70から90キロメートルという高速度で逆行した上,被害者運転車両に衝突して,被害者に長期間の加療を要する傷害を負わせたものである。その犯行態様は,対向車との正面衝突の危険性の高い,極めて危険なものである。しかも,被告人は,被告人車の走行位置を警察官から把握されにくくするため,対向車がいないと思うと前照灯を消し,対向車があれば前照灯を点けるということを繰り返しており,対向車の安全という意識は全くみられない。被害者に負わせた傷害の程度も重く,職業運転手である被害者は,本件事故による傷害のため長時間の運転に困難を覚えるなどしたことが窺われるところ,被告人について厳しい処分を望んでいる。ま,,,た被告人が逆行したEバイパスは中央分離帯によって上下線が分離され交差点もないことから,自動車が逆 転に困難を覚えるなどしたことが窺われるところ,被告人について厳しい処分を望んでいる。ま,,,た被告人が逆行したEバイパスは中央分離帯によって上下線が分離され交差点もないことから,自動車が逆行してくることなどあり得ない筈の道路であって,本件被害者のみならず,その運転車両の前方を走行し,被告人車と行き違った多くの自動車の運転者らも,進路正面から突然高速度で被告人車が走行したことにより,甚だ驚愕したものと認められ,中には,緊急の回避措置を取って,ようやく被告人車と正面衝突を回避できたものの,生命の危険を感じた者もあったことが認められる。本件の動機や経緯に酌量の余地はない。 本件酒気帯び運転は,本件事故の約1時間30分後においても,呼気1リットルにつき約0.3ミリグラムものアルコール分を身体に保有する状態であったにもかかわらず,上述のとおり,酒気帯び運転の発覚を免れるため,警察車両から追跡されながら危険な運転をしたものであって,その動機,態- 8 -様ともに甚だ悪質である。しかも,普通車の酒気帯び運転による罰金前科が2犯あることにもかんがみると,被告人は,交通法規を無視しており,飲酒運転の常習性も窺われる。 したがって,被告人の刑事責任は重い。 そうすると,本件危険運転致傷の被害者との間で,人損分として192万,,,1503円を支払って示談を成立させたこと物損分についても原判決後損害賠償金を支払って示談を遂げたこと,被告人が,本件について反省の態度を示していること,被害者およびその運転車両の所有会社に対して見舞品を送ったほか,被告人およびその母親において,被害者に謝罪の意思を伝えたこと,被告人は,本件事故により右脛骨高原骨折,左下腿挫創の傷害を負い,合計約3か月間入院治療を受けたほか,その傷害が原因で従前のように,,は働 よびその母親において,被害者に謝罪の意思を伝えたこと,被告人は,本件事故により右脛骨高原骨折,左下腿挫創の傷害を負い,合計約3か月間入院治療を受けたほか,その傷害が原因で従前のように,,は働けなくなったこと本件事故当時運転していた自動車は廃車処分となり本件犯行により被告人の自動車運転免許も取り消されたこと,被告人には上記のほかには前科がないこと,被告人には扶養すべき妻および幼児がいること,妻が,原審公判に出廷して,被告人に飲酒運転をさせない旨述べていること,母親も,妻とともに被告人を監督する旨の書面を提出していること,本件事故後,被告人が勤務するようになった建設会社の代表者が,当審公判に出廷して,被告人の技術,経験および指導力を評価して現場責任者を任せており,今後も被告人の雇用と指導を約束する旨供述していることなどの諸事情を十分考慮しても,原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。 論旨は理由がない。 なお,原判決は,危険運転致傷の事実を認定した上,その罰条として,単に平成19年法律第54号による改正前の刑法208条の2第2項前段(平成19年法律第54号附則2条)のみを挙示しているところ,同条項は,そ- 9 -の刑につき「前項と同様とする」と規定しており,同条1項前段によれば,人を負傷させた場合と死亡させた場合とではその法定刑が異なるのであるから,この点を明らかにするには,更に上記事実がそのいずれの場合に当たるのかについても,法令の適用でこれを明示しておく必要があるというべきであり,原判決は,この点の摘示を遺脱している。しかしながら,本件の起訴状には,罪名として「危険運転致傷」と記載されており,原判決も「1裁判所が認定した罪となるべき事実」の項の(1)において,被害者に傷害を負わせたという公訴事実と同じ事実を認定しているか ,本件の起訴状には,罪名として「危険運転致傷」と記載されており,原判決も「1裁判所が認定した罪となるべき事実」の項の(1)において,被害者に傷害を負わせたという公訴事実と同じ事実を認定しているから,上記2①が人を負傷させた場合であることは明らかであり,原判決が,上記2①について上記改正前の刑法208条の2第2項前段(負傷させた場合)に該当するとしていることも明らかである。したがって,原判決の法令適用には,人を負傷させた場合であることについての摘示遺脱があるものの,その遺脱があることをもって,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるとはいえない。 よって,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 平成20年5月27日広島高等裁判所第1部裁判長裁判官楢崎康英- 10 -裁判官森脇淳一裁判官友重雅裕

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