平成11(う)2136 爆発物取締罰則違反等被告

裁判年月日・裁判所
平成14年7月5日 東京高等裁判所
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判決文本文27,040 文字)

主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役15年に処する。 原審における未決勾留日数中900日をその刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人川上英一(主任)及び同飯島康博共同作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,検察官村主憲博作成の答弁書にそれぞれ記載のとおりであるから,これらを引用する。 所論は,事実誤認及び量刑不当の主張である。 第1 事実誤認の主張について所論は,要するに,原判決は,原判示第1のA弁護士殺人未遂事件,同第2の新宿青酸ガス事件及び同第3の東京都庁爆弾事件について,各「罪となる事実」において原判示の共犯者らとの共謀を認定したが,原判決の「罪となる事実」の認定は,被告人のオウム真理教教団内における地位,オウム真理教の階級組織の実体,オウム真理教に対する関与の程度,被告人と他の共犯者との上下関係,意思疎通の度合い,被告人の動機,被告人のなした具体的行為の内容や果たした役割,罪体に対する行為支配性についての綿密な検討を全く欠いており,根本的に誤っているのであって,被告人は,同第1のA弁護士殺人未遂事件,同第2の新宿青酸ガス事件については,いずれも従犯(幇助)が,同第3の東京都庁爆弾事件については,爆発物の製造に関与しておらず,無罪であり,その使用と殺人未遂につき従犯(幇助)が成立するにすぎないのであり,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。 そこで,犯罪組織としてのオウム真理教の特質や被告人のオウム真理教内部における地位などを考察した上で,各事件における被告人と他の共犯者との共謀の有無についての判断を示すこととする。 なお,表記は原判決に倣うこととする。 1 被告人のオウム真理教内部における地位及びオウ る地位などを考察した上で,各事件における被告人と他の共犯者との共謀の有無についての判断を示すこととする。 なお,表記は原判決に倣うこととする。 1 被告人のオウム真理教内部における地位及びオウム真理教の組織犯罪性について(1) 所論は,オウム真理教においては,Bを頂点とする厳格なまでのピラミッド型階級組織を策定し,恐怖政治の「掟」を貫徹させ,それに従って,日常生活でのあらゆる場面で,サマナ(師補)と師以上の幹部とを差別し,更に外界との通信を絶って,オウム真理教独自の価値観を形成させ,教祖及び幹部による絶対的な支配を確立しており,絶対的な階級格差が厳然たる事実であるところ,被告人は,平成6年1月,オウム真理教の出家信者となり,本件各犯行当時,オウム真理教でのステージは最下位のサマナであり,特にA弁護士殺人未遂事件のときは,出家から約4箇月のオウム真理教最下位の新兵であったところ,C,D,E,F,Gらといった,オウム真理教創設以来,Bと一心同体で,今日のオウム真理教を造ってきたオウム真理教の最高幹部らとは,オウム真理教への関わりの程度,オウム真理教での役割・地位のいずれをとっても比較することができない,新参の最下位の兵隊であり,前記のようなオウム真理教における支配・被支配の関係のもとで,被告人に正犯の責任を負わせるのは不自然である,などと主張する。 (2) 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。すなわち,アオウム真理教は,Bがヨーガの修行等により解脱,悟りに至ることを目的として発足させた「オウム神仙の会」を母体とする宗教団体を前身とし,その名称を改称したものであるが,平成6年6月ころから国家機関を模した省庁制を採用するなど,信者には階級が与えられ,オウム真理教では,Bを頂点とする上命下服の階層社会が構成され,信者は自分より し,その名称を改称したものであるが,平成6年6月ころから国家機関を模した省庁制を採用するなど,信者には階級が与えられ,オウム真理教では,Bを頂点とする上命下服の階層社会が構成され,信者は自分より階級が上の幹部らの命令や指示には基本的に従わざるを得なかった。 イ被告人は,昭和44年2月大阪府泉大津市で出生し,昭和62年3月私立H高等学校を卒業後,同年4月I大学教養学部理科Ⅲ類に入学し,医学部に進学して臨床医を目指し始めたが,同大学6年に在学中の平成4年6月30日ころ,高校時代からの友人で医学部に一緒に進学し既にオウム真理教の出家信者となっていたJや教団幹部のCらに勧誘されてオウム真理教に入信した。被告人は,在家信者として修行を行い,教団のヨーガ道場に通うなどしながら,平成5年3月同大学医学部医学科を卒業し,間もなく医師免許を取得して,同年6月から同大学医学部附属病院に研修医として勤務し始めたが,その後,Cから熱心に勧められ,また,修行をする中で,いわゆる「気」の上昇等を現実に感じるとともに,密教修行者と医師は両立できないと考えるようになって,同年12月末に同病院を退職して平成6年1月教団の出家信者となり,その約2箇月後には早くも出家修行を終えて,教団の出版部に所属して,ワークと称する教団活動に従事するようになり,B周辺への立入りを許されてBが教団幹部らと教団の武装化について話すのを聞いたり,教団内でLSDが製造された際にはBの側近であるJとともにこれを試用して効果を確かめるなどした。 ウ A弁護士殺人未遂事件の後の平成6年6月ころ,オウム真理教では,その運営に必要な各部署を国家機関に模した省庁制と称する組織体制が組まれたところ,被告人は,当初,Cを長官とする諜報省(CHS)に所属し(地位は次官),その指揮のもとで,ヴァジラヤーナの修 教では,その運営に必要な各部署を国家機関に模した省庁制と称する組織体制が組まれたところ,被告人は,当初,Cを長官とする諜報省(CHS)に所属し(地位は次官),その指揮のもとで,ヴァジラヤーナの修行と称して在日米軍の人員,装備,配置等の調査研究などを担当していたが,同年9月からは,法皇官房と呼ばれる機関に所属することになり,Jの指揮の下で,教団で使われる宗教用語集を作成したり,下部組織である学生班のリーダーとして学生に教団への入信を勧誘したりするなどの活動をしていた。 なお,法皇官房は,省庁間の調整のほか,在家信者及び出家修行者の教化並びに在家信者の勧誘などを任務とする部署であるが,ここは,いわゆるエリート等を多く集め,次代のオウム真理教の中枢となり得るものであり,その下部組織である学生班は,法皇官房の実質的リーダーだったJが有能な学生を集めることを目的としていた。 エオウム真理教では,エリートを優遇しており,前記のとおり,被告人が入信後,修行の過程で優遇されていることがうかがわれるところ,オウム真理教の幹部の目にも,被告人は,普通のサマナに比べると,独自の扱いというか,Bからかなり気を遣って育てられようとしているように映っており,Bも,被告人のことを,「あいつはマンジュシュリー(教団ナンバー2のNのこと)2世になるだろう。」と言って,とても信頼し期待していた。 (3) ところで,共謀が成立するためには,共犯者各自が本来の職務上あるいは社会生活上の対等の地位を有することは必要なく,その地位が対等でない場合でも共謀の成立には何ら影響しないというべきであるところ,前記認定事実によれば,被告人は,階級こそサマナではあったものの,短期間で出家修行を終え,ワークと称して様々な調査業務を課され,A弁護士殺人未遂事件の後は,Bから「ヴェーマチトラ」 べきであるところ,前記認定事実によれば,被告人は,階級こそサマナではあったものの,短期間で出家修行を終え,ワークと称して様々な調査業務を課され,A弁護士殺人未遂事件の後は,Bから「ヴェーマチトラ」というホーリーネームを授かり,在家信者及び出家修行者の教化,教団での修行の体系化,信者に対する薬物を使用しての修行の実施,大学班のリーダーとしての大学生に対する入信の勧誘,入信から出家に至るまでの導きなどの重要な任務を遂行するなどし,その結果,Bからは「あいつはマンジュシュリー2世になるだろう。」と高く評価されて,Bからの信頼も厚く,将来,教団の中枢を担う幹部となることを期待されており,既に幹部に準じる立場にあったと理解することが可能であるから,被告人の地位が単なるサマナであったとしてその正犯性を否定することは誤りであるといわなければならず,結局のところ,各事件における被告人の地位・立場,果たした役割,そのときの被告人の心情,他にとり得る手段の有無などを総合的に考慮して,被告人が独自の判断で共謀に加功(事件に加担することの決定,あるいは自己決定)していたといえるのかどうかを個別に検討すべきである。 2 A弁護士殺人未遂事件について(1) 所論は,① 動機に関し,被告人の関与により経済的利益が約束されておらず,かといって教団内における地位,階級の上昇が約束されている状況にもないのであって,被告人が何ら積極的な動機を持ち合わせておらず,B,Dから命令されるがままに,関与させられてしまったこと,② 被告人と他者との意思疎通に関し,被告人がA弁護士殺人未遂事件への関与を開始したのは,事件前日(平成6年5月8日)の午後であり,そのときには,ほぼ100パーセント犯行を実行することの決定と,その準備ができた段階で(また,事件の2日前(同月7日)にBがD 遂事件への関与を開始したのは,事件前日(平成6年5月8日)の午後であり,そのときには,ほぼ100パーセント犯行を実行することの決定と,その準備ができた段階で(また,事件の2日前(同月7日)にBがDに命じてA弁護士殺人未遂事件の謀議が始まったとの原判決の認定は非現実的で誤りである。),初めて,犯行計画を知らされ,Dの車の運転手を一方的に命じられ,そして命じられるままに以後同席させられたのであって(謀議における受動性・命令従属性),正犯性はないこと,③ 被告人が果たした具体的加担行為ないし役割に関し,まず,被告人が担当した行為は,極めて代替性の高い機械的な行為であり,現に,Dは被告人を単なる手足のようにしか認識しておらず,Dに命じられるがまま運転手をし(被告人が具体的指示がないまま自分の判断で行動したことはない。),A車両の位置を確認してKらに報告したにすぎず,その役割は極めて従属的で,Dの犯行の道具であったといわざるを得ない上,サリンの危険に対する注意を怠っていた(サリン予防薬の飲み忘れ,エアコンの作動により外気注入という不注意があった。)ことなどを根拠に被告人には傷害罪の従犯が成立するにすぎないと主張する(弁護人は,控訴趣意書では,殺人未遂罪の従犯が成立すると主張していたが,当審での最終弁論で,被告人には殺意がなく,傷害罪の従犯が成立するにすぎないと主張を変更した。)。 そこで,検討する。 (2) 関係証拠によれば,原判決が,犯行に至る経緯,犯行状況及びその後の状況などについて,「争点についての判断」第一の一の1ないし6(原判決24ないし33頁)に認定したとおりの事実が認められる。 すなわち,関係証拠によれば,① 被告人は,Bに呼び出されて,平成6年5月8日午後,第6サティアンに赴いたところ,部屋にいた同人から,「サマナを無理やり下 頁)に認定したとおりの事実が認められる。 すなわち,関係証拠によれば,① 被告人は,Bに呼び出されて,平成6年5月8日午後,第6サティアンに赴いたところ,部屋にいた同人から,「サマナを無理やり下向させているAという弁護士がいる。明日もその関係で甲府で裁判がある。同人に悪業を積むのをやめさせるために魔法を使ってポアする。君には,Dの車を運転してもらう。詳しくはKたちに聞いてくれ。」などと命じられたこと,② 被告人がBの部屋を出ると,同建物1階のリビングにいたD,K及びEは,被告人を交えて具体的な打合せを行い,その結果,女性信徒が変装して犯行に加わること,被告人がDを乗せた車を運転し,KがE及び女性信徒を乗せた車を運転して別々に出発し,途中甲府精進湖道路を出た付近で合流して,甲府地裁に行くこと,同裁判所では,被告人らの車は正門側駐車場に,Kらの車は東門側駐車場にそれぞれ駐車すること,被告人がAの車が駐車していることを確認した上でその位置をKらに知らせること,犯行方法は,女性信徒がAの車に「魔法」をかけ,気化させた「魔法」を車内に入れて,運転している間に効き目が現れるようにすること,あらかじめ「魔法」の予防薬を飲むことなどが確認され,被告人にはAの車の車種,ナンバー等の情報が与えられたこと,③ その打合せの後,第3上九と呼ばれる教団敷地内の農道で,Eから,「明日,出発前にこの薬を飲んでおいて。」と言われ,「魔法」の予防薬であるメスチノンの錠剤4錠(Dと被告人の分)を手渡されるとともに,有機リン系中毒の治療薬であるパムの箱を示され,「『魔法』は,いったん症状が出ると進行を止めることはできない。ただ,これだったら効果があるかもしれない。」との説明を受けた上,Eあるいはその場にいたKから,「もし,自分たちに症状が出て,注射することができない状態 たん症状が出ると進行を止めることはできない。ただ,これだったら効果があるかもしれない。」との説明を受けた上,Eあるいはその場にいたKから,「もし,自分たちに症状が出て,注射することができない状態になったときは,君が代わりに私らに注射を打ってくれ。」などと頼まれたこと,④ 被告人は,翌9日午前10時ころ,Dを乗せて上九一色村から甲府地裁に向けて出発したが,途中,Dに「薬はどうしたの。飲むのを忘れちゃ駄目だよ。」などと注意されて,Eから渡されていたメスチノンをDとともに服用した後,K,E及びLの乗った車と合流し,犯行後の待ち合わせ場所などを決め,再び同人らと別れて別々に甲府地裁に向かったこと,⑤被告人は,Dとともに,甲府地裁正門側駐車場に到着し,間もなく,Aの車(三菱ギャラン)が駐車しているのに気付いたDの指示で,車から降りてAの車であることを確認しに行き,いったん自分の車に戻ってその駐車位置を示す略図を書いた後,甲府地裁の庁舎内を通って東門側駐車場に行き,同所に駐車していたKらの車に乗り込んで,同人らに上記略図を渡して説明し,自分の車に戻ったこと,⑥ 同日午後1時15分ころ,Dが口頭弁論に出頭するため法廷に出かけたところ,一人車内に残っていた被告人は,間もなく,変装したLがAの車の方に歩いて行き,いったん視界から消えた後に今度は犯行を終えて甲府地裁の正門から出ていく姿をバックミラー越しに確認したこと,⑦ その後,被告人は,甲府地裁の守衛から他の車の邪魔になるから駐車位置を変えるように言われ,誘導されるままに同裁判所正面玄関付近に移動させ,その結果,Aの車との距離は13メートル余りにまで接近してしまい,また,しばらくして,車のエアコンを入れたが,数分後に外気導入にしていたことに気付き,Aの車に仕掛けていた物質が外気吸入口から自車内に入り 果,Aの車との距離は13メートル余りにまで接近してしまい,また,しばらくして,車のエアコンを入れたが,数分後に外気導入にしていたことに気付き,Aの車に仕掛けていた物質が外気吸入口から自車内に入り込むのをおそれ,慌てて内気循環に切り替えたこと,⑧ 同日午後1時30分過ぎころ,同裁判所での口頭弁論を終えたDを乗せて同裁判所を出発することになり,同人が車に乗り込む際,「こんな近くに止めたら危ないじゃない。」などと注意された上,上九一色村に帰る途中,あらかじめ決めていた待ち合わせ場所でKらの車と落ち合った際,KとEがLにサリン中毒の症状が出たことから,自分たちも被曝しているおそれがあると考えて互いにパムを注射し合っているのを見て,被告人は自分にも注射してくれと頼んだが,「君は大丈夫だよ。」などと言われ,注射してもらえなかったこと,などの事実が認められる。 (3) 弁護人は,当審の最終弁論で,被告人に殺意がなかった旨の主張をし,被告人も,当審公判において,「平成6年5月8日の午後に受けたBの指示等(同第一の一の2の事実)に関し,BからA弁護士に対し『魔法』を使う旨言われたが(「ポアする」という表現は出ていなかった。),『魔法』とは,麻薬の一種であるLSD(リゼルギン酸ジエチルアミド)だと思い込んでおり,LSDを吸引した場合に意識を失って交通事故を起こす可能性はあるものの,『魔法』でA弁護士を殺すものとは思わなかった。」などと所論に沿う供述をする(なお,被告人は,原審公判では,「Bに『魔法』と言われたか明確な記憶はない。 ただ,『魔法使い』は普通に使う言葉ではないので,言われたら違和感を感じるが,そうした記憶はないのに対し,『魔法』なら違和感はなく,Bから『魔法』と言われてもおかしくない。また,A弁護士をポアするという表現も具体的に記憶にないが,言 ではないので,言われたら違和感を感じるが,そうした記憶はないのに対し,『魔法』なら違和感はなく,Bから『魔法』と言われてもおかしくない。また,A弁護士をポアするという表現も具体的に記憶にないが,言っていると思う。 自分は,自分がとんでもない体験をしたLSDをかけるものと理解していた。」などと供述している。)。 しかしながら,原判決も指摘するとおり,被告人は,本件犯行前にBの指示のもと,LSDを体験し(飲料に溶かして服用した。),本件当時,教団内で,LSDの隠語としては,「骨」,「L」,「キリスト」が使われていたことを認識しており,Bがあえて「魔法」ないし「魔法使い」と表現する必要も考え難いこと,Kらとの打合せで,「魔法」を気化させてA弁護士の車の送風口から車内に流入させ,運転中に効き目が現れるようにするものであると聞かされており,LSDの通常の使用方法とは異なっており,被告人もこれを認識していたこと,Eから「魔法」の予防薬であるメスチノンの錠剤を渡された際,「有機リン剤中毒解毒剤パム注射液」などと印字された箱を示されながら,これがなければ「魔法」による症状の進行を止めることができないなどとの説明を受けているところ,本件以前に被告人がLSDを使用して中毒症状に陥った際にEから受けた治療は,酸素マスクによる酸素吸入と水分の摂取だけであって,「魔法」による中毒の場合と治療方法が異なることを容易に認識し得るはずであることなどに照らすと,被告人が使用される薬物をLSDであったと考えていた旨の被告人の原審及び当審の公判供述はにわかに信用することができない。 むしろ,被告人は,検察官に対して,Bの指示の内容について,「M君か。君を呼んだのは,今,オウム真理教の信徒を無理やり下向させているAという被害対策弁護団の弁護士がいる。明日,その関係で甲府で裁 むしろ,被告人は,検察官に対して,Bの指示の内容について,「M君か。君を呼んだのは,今,オウム真理教の信徒を無理やり下向させているAという被害対策弁護団の弁護士がいる。明日,その関係で甲府で裁判があるので,彼に悪業を積むのを止めさせるために『魔法』を使ってA弁護士をポアする計画をしているからだ。君にはアパーヤージャハ(D)の運転をしてもらうので,詳しいことはジーヴァカ(K)達と打ち合わせるように。」と言われた旨供述しており(乙B1),この供述は,具体的である上,その前日に「BがA弁護士にサリンの隠語である『魔法使い』を使う。」あるいは「A弁護士をポアする。」(E検察官調書謄本・甲B88)とか,「Aの車に『魔法』を使う。」(K検察官調書謄本・甲B93)とか指示してきたとするE及びKの供述と符合しているのであって,十分信用に値するといえる。 したがって,被告人の検察官調書その他関係証拠によれば,被告人が平成6年5月8日にBから「サマナを無理やり下向させているAという弁護士がいる。明日もその関係で甲府で裁判がある。同人に悪業を積むのをやめさせるために魔法を使ってポアする。君には,Dの車を運転してもらう。詳しくはKたちに聞いてくれ。」などと命じられた旨認定することができる。 そして,Bの指示命令を受けた後の被告人の認識について見るに,被告人の立場や被告人の行動などに照らし,サリンの製造をし,あるいは少なくとも幹部としてこれを知り得る立場にあったE,K及びDとは異なり,被告人においては,「魔法」がサリンを意味する隠語であるとまでは認識せず,かつEやKらとの間でこのことを確認するような会話が交わされていたこともなかったことなどからすると,サリンを用いてA弁護士を殺害しようとしていたことまで理解していたとはいえないものの,Bが教団内では「殺害す Kらとの間でこのことを確認するような会話が交わされていたこともなかったことなどからすると,サリンを用いてA弁護士を殺害しようとしていたことまで理解していたとはいえないものの,Bが教団内では「殺害する。」という俗語の意味も含めた「ポアする」という表現を用いるのを聞いていたこと,予防薬を事件前にあらかじめ服用するとともに,被曝した場合に備えて治療薬を準備していること,犯行方法につき「魔法」をA弁護士の車にかけると聞いていたことなどから,被告人としては,人の殺害の用に供し得る毒物を用いて殺害を実行するという程度の認識を有していたものと認められるのであって,被告人が確定的殺意を有していたことを優に認定できるとした原判決の事実認定に誤りはない。 (4) そこで,以上の認定事実を前提に被告人に正犯性があるのか検討する。 アまず,動機について見るに,被告人は,犯行に加担することを決意した動機について,検察官に対し,「Bの命令を受け,自分は,真理の探究を阻害する悪業を重ねているA弁護士を殺害する計画に私を参加させる指示であることが分かっただけだった。殺人に関与するという衝撃はあったものの,教祖に教団の秘密のワークを指示された時には,私がそのようなヴァジラヤーナ世界に入るステージにまで達したのを認められ,選ばれたという誇らしさのような気持ちや教祖の指示に従って功徳を積むことになるという気持ちも湧き,犯行に関わる決意をして『はい』と答えた。」(乙B1)と供述するところ,オウム真理教を信じて修行を積んできた自分が認められたという思いと,教祖であるBの指示に従えば,功徳を積むことができ,ステージアップを図りたいという功名心から加功することにしたという心情は十分理解できるところであって,十分信用に値するといえる。 してみると,動機に関しては,被告人は,Bと ,功徳を積むことができ,ステージアップを図りたいという功名心から加功することにしたという心情は十分理解できるところであって,十分信用に値するといえる。 してみると,動機に関しては,被告人は,Bと教団幹部らが教団の武装化などの話をしているのを聞いており,教団が世間や一般信徒に隠れて非合法な活動をしているのを知っていたことから,自分がBからA殺害を指示されたのは,被告人がBの唱えるヴァジラヤーナ世界に入るステージにまで達したとBから認められ,選ばれたためであると誇りに感じ,Bの指示に従えば功徳を積むことになるという気持ちからAの殺害に加わることを了承したものと見るのが相当であって,Bを頂点とする教団だけではなく,被告人自身の利益も十分計算に入れての加担であると認められる。 イ次に,被告人の果たした役割について見るに,被告人は,共犯者との事前の謀議に加わり,サリンを使用することの認識こそなかったものの,犯行の手順や方法,不測の事態が発生した場合の対処方法など,犯行計画の全容を把握した上,本件犯行に際しては,その日甲府地裁で弁論のあるDを車に乗せて送迎したばかりではなく,同裁判所では,Aの車を確認してその駐車位置をKらに伝えているのであって,もしKらにサリン中毒症状が出て,同人らが自ら治療薬を注射できないときには,被告人が代わって注射することになっていたことにもかんがみると,被告人は,本件凶器となったサリンの製造等に全く関わっておらず,また本件で実行行為こそ行っていないものの,犯行に密接した必要かつ不可欠な役割を果たしたものと評価することができる。 ウそうすると,A弁護士殺害未遂事件について,被告人は共同正犯として殺人未遂罪の罪責を負担するものというべきであって(なお,A弁護士に対する本件犯行が,人を殺害する具体的危険性のある行為であり ウそうすると,A弁護士殺害未遂事件について,被告人は共同正犯として殺人未遂罪の罪責を負担するものというべきであって(なお,A弁護士に対する本件犯行が,人を殺害する具体的危険性のある行為であり,殺人罪の実行行為性が認められることは,原判決(24ないし38頁)判示のとおりである。),その旨の認定,判示をした原判決に誤りはなく,被告人には傷害罪の従犯が成立するにすぎないとの所論は採用できない。 3 新宿青酸ガス事件について(1) 所論は,① 犯行動機につき,Cらを通じてBから「捜査を攪乱しろ」と言われたからにすぎないのであって,「本件犯行を行わなければ,Bが逮捕され,教団も潰されて解脱ができなくなると思った。」との原判決認定の動機はいかにも不自然である,② 原判決の謀議の参加状況についての認定は,被告人と他の実行行為者らとの立場の違い,格・地位の違いを全く考慮しておらず不当である上,被告人の行動は,終始,CやE,Fらから言われ,指示されているだけであり,そこには主体的な行動はほとんど見られないのであって,当時の教団内における地位の違いを考えれば当然のことである,③ 被告人の果たした役割に関し,被告人は,極めて危険な青酸ガス材料の調達,製造,時限装置の製造ということには全く関与していないところ,実際に被告人の果たした清掃作業終了確認行為とバス時刻確認行為はいずれも代替可能な行為である上(加えて,後者は事件の遂行にとって必要な作業か大いに疑問がある。),被告人は,指示されたことを指示されたとおりにしているだけであるから,被告人の当日の行動を過大評価する原判決の認定は不合理である,として被告人には殺人未遂罪の従犯が成立するにすぎないと主張する。 (2) 関係証拠によれば,平成7年3月22日に上九一色村の教団施設が警察の強制捜査を受けてか 価する原判決の認定は不合理である,として被告人には殺人未遂罪の従犯が成立するにすぎないと主張する。 (2) 関係証拠によれば,平成7年3月22日に上九一色村の教団施設が警察の強制捜査を受けてから,新宿青酸ガス事件が発生した同年5月5日までの事実経過については,原判決が「争点についての判断」の第二の一の1ないし5(原判決52ないし63頁)において認定しているとおりの事実が認められる。すなわち,ア謀議の進展状況と被告人の参加状況について関係証拠によれば,① 同年4月11日,Cが,教団青山道場に呼び出され,Eとともに,Nから捜査攪乱のために,空気爆弾等を使って事件を起こすように言われ,翌12日,西荻アジトに,E,F,G,O,P,Qらを集め,「捜査の攪乱をし,教祖の逮捕を免れるようなことをこれから行う。」旨告げて,Nの指示を伝え,その具体的方策を話し合った結果,ダイオキシンを散布して騒ぎを引き起こす方向で話がまとまり,Nの了解を得たが,被告人は,この話合いの場にはいなかったものの,後にCからこの経緯を聞かされていること,② 同月16日,Cは,Bの呼出しを受け,被告人運転の車で第6サティアンに赴いたところ,Bから「4月30日に石油コンビナートを爆破しろ。これから政権交代が起きるまで,30日ごとにテロをやり続けろ。」などと命じられ(同所からの帰路の車中で,被告人にもその旨伝えている。),同月18日,八王子アジトにおいて,CがE,G,F,被告人らにその旨を伝え,ダイオキシン散布計画を更に具体化し,その後,Nが同月23日に刺されて翌日死亡する事件が起こり,同月25日ころ,Bから新たな指示がなかったことから,再度,C,E,G,F,被告人が具体策を検討することになり,案として上っていた捜査攪乱方法のうち,実現可能なものについて改めて話し合った結果 こり,同月25日ころ,Bから新たな指示がなかったことから,再度,C,E,G,F,被告人が具体策を検討することになり,案として上っていた捜査攪乱方法のうち,実現可能なものについて改めて話し合った結果,ダイオキシン散布については,生成に必要な器具が手に入らないことから断念し,「青酸ガスなら原料があるのですぐできる。」とのEの発言で青酸ガスを発生させる事件を起こすことに決まり,青酸ガスの材料調達,製造等の犯行方法につき詳しい打合せがなされたものの,青酸ガス発生装置を仕掛ける場所についてはなかなか決まらず,同月29日ころになって,永福町アジトで,地上では発生した青酸ガスが拡散してしまい不都合になること,新宿駅には人が多数集まること,監視カメラがないことなどの理由から,ようやく青酸ガスの発生場所を新宿駅の地下街にある男子便所とすることに決定されたこと,③ 新宿駅の地下街の男子便所で青酸ガスを発生させることに2度失敗(同月30日にEが中心となって青酸ガス発生装置を完成させ,Fがトイレ個室に仕掛けたが,Eが塩化ナトリウムと間違えて砂糖を時限装置に使用したため失敗し,同年5月3日にもEが青酸ガス発生装置を作成してトイレ個室に仕掛けに行ったが,付近に人通りが多いため機会を逃し失敗した。)した後,同月4日,C,E,G,F及び被告人は,八王子アジトにおいて,青酸ガス発生装置を仕掛ける場所について再度検討し,紆余曲折を経て,翌5日新宿駅地下街の男子便所に仕掛けることに決まったが,清掃が済んだことを確認してから仕掛ければ清掃作業員によって上記装置が除去されることがないとして,被告人は,Fから,午前10時ころと午後2時ころの2回,本件便所に行き,清掃終了を確認するとともに,実行役のEが逃走する際に利用する路線バスの発車時刻等を調べて報告するように言われて,これを して,被告人は,Fから,午前10時ころと午後2時ころの2回,本件便所に行き,清掃終了を確認するとともに,実行役のEが逃走する際に利用する路線バスの発車時刻等を調べて報告するように言われて,これを了承したこと,そして,④ 被告人は,謀議の全部に参加しているわけではないが,しばしば謀議には参加している上,参加していなくても他から結果を聞くなどしているところ,被告人は,同年4月18日の話合いの際には,「八王子と横浜の間に貨物列車の線路がある。」,「ダイオキシンを散布する場所は兜町の証券取引所がよいのではないか。」と,同月25日ころの話合いの際には,被告人は,青酸ガス発生装置を仕掛ける場所として,「映画館やディスコなら暗くて騒ぎが大きくなるだろう。」,「フリーメーソンということを考えるなら,横須賀のディスコがいいんじゃないか。」,あるいは別の機会に「青酸ガスを新宿アルタ前の路上で発生させればよいのではないか。」などと発言していることなどが認められる。 以上の認定事実によれば,被告人は,青酸ガス発生装置の仕組み等を具体的に知らないにしても,新宿駅地下街のトイレに青酸ガスを発生させて捜査を攪乱させる旨の計画のほぼ全容を知っていたと推認される上,謀議の場面で,被告人の発言が採用されるか否かは別にして適宜意見を述べるなどしており,謀議への参加が消極的であったとは考えにくい。 イ被告人の果たした役割について関係証拠によれば,⑤ Cは,同年1月ころになされたBからの石油コンビナート爆破の指示を思い出し,同年3月25日ころ,かつての部下であった被告人を呼び出し,石油コンビナートを爆破してそれを過激派の仕業に見せ掛けることの可能性の調査を命じたほか,同月末から同年4月初めころにかけて,Cは,Jらを通じて,Bから「社会の対立し合う勢力をぶつけて混乱を引 し,石油コンビナートを爆破してそれを過激派の仕業に見せ掛けることの可能性の調査を命じたほか,同月末から同年4月初めころにかけて,Cは,Jらを通じて,Bから「社会の対立し合う勢力をぶつけて混乱を引き起こし,捜査攪乱を行え。」などとの指示を受けたことから,被告人に対し,ガスタンク,東京都庁舎及び東京タワーの爆破や,間近に迫っていた東京都知事選挙の有力候補者数名の自宅付近に爆弾を仕掛けることができるかどうかについて更に調査を命じ,被告人はこれに応じて調査活動をし,さらに,その後,被告人は,同月3日ころから同月8日ころまでの間に,C,E,F,R,Sほか十数名の信者とともに,教団が所持していたけん銃の部品を廃棄したり,薬品等を日光山中に隠匿したりする作業を行ったこと,⑥ 被告人は,前記のとおり,同年5月4日,本件犯行に際して,本件トイレの清掃終了時刻や逃走のときに利用する路線バスの発車時刻などの調査をFから依頼され,翌5日朝,かつら及びスーツを着用して新宿駅に向かい,同日午前10時ころから午前11時ころまでの間に本件便所に着いたが,ごみがまだ回収されていなかったことから,その足で同駅西口バスターミナルに行って永福町方面行きの路線バスの発車時刻や乗り場等を調べて暗記した後,書店で立ち読みをするなどして時間を潰し,同日午後2時ころ再び本件便所に赴いたところ,ちょうど清掃中であったことから,いったんその場を離れ,しばらくして同所に戻り,清掃終了を確認すると,同日午後3時過ぎころ,同駅東口付近の喫茶店で,Fの代わりに来たSと会って,本件便所の清掃の終了とバスの発車時刻を伝えたこと,そして,⑦ S及びFを通じて被告人の報告を伝え聞いたEは,同日午後4時過ぎころ,本件便所に赴き,個室の一つに入ると,備付けのごみ入れ容器内にごみを装って青酸ガス発生装置を設置 発車時刻を伝えたこと,そして,⑦ S及びFを通じて被告人の報告を伝え聞いたEは,同日午後4時過ぎころ,本件便所に赴き,個室の一つに入ると,備付けのごみ入れ容器内にごみを装って青酸ガス発生装置を設置し,同人を待っていたFとともに同駅西口のバスターミナルから永福町方面行きの路線バスに乗って逃走したことなどの事実が認められる。 以上の認定事実によれば,被告人は,Cの部下として調査活動をして必要な情報を収集していただけではなく,本件犯行に際しても,トイレの清掃状況や逃走経路となる路線バスの時刻を調べるなど,実行行為を分担していないとはいえ,これを行いやすい環境を整えたもので,比較的重要な役割を果たしたのは明らかである。 ウ動機に関する被告人の供述について被告人は,捜査段階において,「(Cから,コンビナートを炎上させるための調査を命じられ,説得を受けたときに,)教団施設に対する大掛かりな強制捜索は,オウム真理教潰しを目的とした国家的弾圧と考えられるし,このまま警察の捜査が進んでいくといつかは教団が潰される事態にもなりかねないという危機感を感じていた。」(乙A4),「本件犯行の前日である平成7年5月4日ころには,マスコミでもBの逮捕が取りざたされており,私も,オウム真理教の信徒や幹部が次々と逮捕されていく中で,Bの逮捕も間近に迫っていると認識し始めていた。私にしてみれば,信徒が何人逮捕されようともBさえ逮捕されなければ,Bを中心に違法行為に関与しなかった信徒を集めて教団を維持することは何とか可能ではないかという気持ちもあったが,Bが逮捕されてしまえばオウム真理教が崩壊してしまうことは目に見えており,そうなれば,オウム真理教の教えを後世に残すこともできなくなる。その意味でも,私としては,Bの逮捕を何とか遅らせたい,その目的のためには,手段にお オウム真理教が崩壊してしまうことは目に見えており,そうなれば,オウム真理教の教えを後世に残すこともできなくなる。その意味でも,私としては,Bの逮捕を何とか遅らせたい,その目的のためには,手段において,たとえ,非人間的なことであっても必要なことはしなければならないという悲壮な気持ちになっていた。」(乙A5)などと供述し,原審公判においても,「同年4月20日ころまでには地下鉄サリン事件等が教団の仕業であることを知った。 強制捜査の結果,Bが逮捕されたり教団が潰されるようなことになれば,『解脱・悟り』が達成できなくなると考えた。」などと供述している。このように,被告人は,本件犯行を行って捜査を攪乱し,その矛先を他に向けなければ,自己の所属するオウム真理教という宗教団体を維持すること,ひいては自己の目標とする『解脱・悟り』を得るという自己の目的を達成できなくなることをおそれていたものであって,被告人自身,教団の信者・修行者の一人として本件犯行に加担するだけの自分なりの利害を有していたと見ることができる。 (3) これらの認定事実をもとに共謀の成否を検討する。 以上の検討によれば,本件に加担するだけの動機がないではないこと,被告人は,Bが逮捕されると,オウム真理教の教えが失われたり,教団が潰されてしまうとの強い危機感を抱き,Bを逮捕させないためには非人間的なことであっても必要なことをしなければならないと考えたもので,CやEらと同じ思いであったと考えられるところ,被告人は,いわゆる無差別テロの準備段階からこれに深く関与し,ほぼ犯行の全容を認識していた上,話合いの場面で適宜発言するなど,謀議への参加も消極的とはいえない上,Cに命じられて各種の調査を担当したほか,本件犯行に際しては,犯行場所となるトイレの清掃状況や実行役のEが逃走する際に利用する路線 話合いの場面で適宜発言するなど,謀議への参加も消極的とはいえない上,Cに命じられて各種の調査を担当したほか,本件犯行に際しては,犯行場所となるトイレの清掃状況や実行役のEが逃走する際に利用する路線バスの発車時刻等を調査して共犯者に報告したりするなど比較的重要な役割を果たしているのは明らかであって,被告人がサマナとして下位の地位にあったことや,実行行為を分担していないことなどの事情を考慮しても,被告人は共同正犯としての罪責を負うものというべきである。 したがって,被告人には殺人未遂罪の従犯が成立するにすぎないとの所論は採用できない。 4 東京都庁爆弾事件について(1) 所論は,① 爆発物製造に関しては,爆発物取締罰則3条違反の事実(製造)については,もとより,被告人は,爆発物製造には何ら関っていないところ,原判決は,爆発物製造について他の者(Eら)がいかにして被告人の行為を利用したかなどには一切触れておらず,その後も爆発物使用と一緒にして安易に共謀を認定しているが(被告人が爆発物製造の場面を見ていることを根拠にしているのも不当である。),爆発物の製造と使用がそれぞれ別個の構成要件に法定されていることを無視する不当なものであって,共謀も幇助も存在しないから,爆発物製造に関しては被告人は無罪である,②爆発物使用と殺人未遂については,教団の動機(捜査の攪乱)を共謀認定の根拠にすることは不合理である上,被告人が本件計画を聞かされたときには,既に,爆発物を製造して送り付けること,送る相手はU都知事にすることまでは既に決定されていたところ(もちろん被告人が決定過程には参加していない。),被告人の発言(Cに歩調を合わせたもの)や提案(調査方法や調査の基準など事細かに指示あり)につき,主体性の現れと見るのは無理があるし,また,本件郵便物差出封筒の 告人が決定過程には参加していない。),被告人の発言(Cに歩調を合わせたもの)や提案(調査方法や調査の基準など事細かに指示あり)につき,主体性の現れと見るのは無理があるし,また,本件郵便物差出封筒の作成人はEであって,被告人は故意ある幇助道具にすぎず,さらに,ポスト投かん行為も,これが代替可能な行為である上,上位のEが差出人であり,被告人はオウム真理教階級組織絶対命令をもって汚れ役を押しつけられただけのことであるから,被告人には,爆発物使用と殺人未遂罪の従犯が成立するにすぎない,と主張する。 (2) 関係証拠によれば,原判決が,「争点についての判断」第三の一の1ないし3(原判決76ないし81頁)に認定したとおりの事実が認められる。 すなわち,関係証拠によれば,① C,E,G,F及び被告人は,新宿青酸ガス事件が未遂に終わったことを報道で知り,教団やBに対する警察の捜査を攪乱するには至らなかったとして,次なる攪乱手段について考えていたが,同年5月8日,八王子アジトに来たTから,Bが全出家信者にあてたパソコン通信で「1週間以内に何が起きても動揺しないように。」との通知を送ったことや,人づての言葉としてBが「有能神が怒っている。」と言っていることを聞かされ,Tが帰った後,皆でBの言葉の解釈について議論し,「1週間以内にBが逮捕されるので,そのことを同人が怒っている。」との意味に理解し,「爆弾ならすぐ用意できる。」旨のEの発言を受けて,Bの逮捕を免れるために捜査の矛先を他にそらす手段として,1週間以内に爆発物を作って当時の東京都知事であるUに書籍に偽装して郵送することに決定したところ,その話合いの中で,被告人は,「自宅に爆弾を送れば,U都知事が自分で郵便物に目を通すはずだ。」などと発言した上,Cから差出人を誰にしたらよいかと尋ねられた際,世界都市 て郵送することに決定したところ,その話合いの中で,被告人は,「自宅に爆弾を送れば,U都知事が自分で郵便物に目を通すはずだ。」などと発言した上,Cから差出人を誰にしたらよいかと尋ねられた際,世界都市博覧会の開催中止に反対していた都議会議員の一人であった都議会自由民主党幹事長のWの名前を挙げたこと,② それ以後,Cら5人は全員がそろわなくても,うち二人以上が顔を合わせるたびに犯行の具体的方法につき話合いを重ね,その場にいなかった者に対しても何らかの方法でその後に伝えられたこと,③ EやGらが,同月9日ころから,前もって日光山中から掘り起こして同アジトに持ち込んでおいた薬品類を利用して爆薬であるRDX(トリメチレントリニトロアミン)及び起爆剤であるアジ化鉛の製造に取りかかる一方,起爆装置の材料や書籍を用意して同アジトにやってきたXは,Eと相談しながら,書籍が開くと爆発する仕組みの起爆装置の製作を始め,同月11日,EとXが,完成した爆薬であるRDX及びアジ化鉛を単三乾電池等とともに書籍の中に組み込み,本件爆発物を完成させたが,被告人は,これまでに,Eらが「爆薬はRDXを使おう。」と言っているのを聞いており,実際に同アジトの台所で爆薬製造中のEから「これがRDXで強力な爆薬なんだ。」などと教えられたこともあったこと,④ 同日本件爆発物が完成した後,被告人は,Eの指示に従い,ゴム手袋をはめて指紋が付かないようにして,ペンと定規を使って茶封筒の表面に名あて人の住所・氏名として都知事公館の住所及びU都知事の氏名と速達郵便である旨を書き,裏面に差出人の住所氏名としてWの氏名及びVホテルの住所を書いた上,共犯者らの中では警察に比較的顔を知られていないという理由から,被告人が本件爆発物を投かんすることに決まり(その際に,被告人は投かんの際に爆発することはない してWの氏名及びVホテルの住所を書いた上,共犯者らの中では警察に比較的顔を知られていないという理由から,被告人が本件爆発物を投かんすることに決まり(その際に,被告人は投かんの際に爆発することはないか心配してEに尋ねたが,同人から「本を開けば爆発するようになっているが,今はゴムでくるんであるから大丈夫だ。」などと言われている。),同日午後4時ころ,かつらとスーツを着用し,指紋が付かないようにタオルでくるんだ本件爆発物を持って同アジトを出発し,同日午後6時ころに新宿駅に着いたが,投かんすべき郵便ポストを探すなどして1時間ほど歩き回った末,同日午後7時ころ,東京都新宿区内の路地にある郵便ポストに本件爆発物を投かんしたこと,その後,被告人は,永福町のアジトに立ち寄って,本件爆発物を投かんしたことをFに報告した後,八王子アジトに戻り,Cらに対し,同様の報告をするとともに,「投かんする際に爆発するかと思って緊張した。」などと述べたこと,などの事実が認められる。 (3) そこで,以上の認定事実を前提に,東京都庁爆弾事件における共謀の成否について検討する。 前記認定事実,とりわけ,新宿青酸ガス事件のところで判示したとおり,被告人が本件犯行に加担するだけの動機が認められるところ,本件の謀議に際し,被告人は,爆発物を作り,これをU都知事(当時)に送り付けることの犯行の概要を認識した上,その謀議の中でU都知事が自分で郵便物を開けるだろうなどと言ってこれに異を唱えず,差出人としてWの名前を挙げ,これが採用されるなど,謀議に主体的に参加していたといえること,Eらの指示に従ったとはいえ,被告人が本件爆発物のあて名書きをし,更に東京都新宿区内まで赴き,これを投かんするという重要かつ不可欠な行為に及んでいることなどに照らせば,被告人が正犯者として責任を負担すべきは 示に従ったとはいえ,被告人が本件爆発物のあて名書きをし,更に東京都新宿区内まで赴き,これを投かんするという重要かつ不可欠な行為に及んでいることなどに照らせば,被告人が正犯者として責任を負担すべきは明らかである。 なお,被告人が爆発物の製造に対する共同正犯としての責任まで負担すべきかについて付言すると,確かに,関係証拠によれば,被告人は,本件爆発物の具体的な仕組みなどについての知識を有しない上,その製造過程には直接関与していないことが認められるが,本件謀議の内容は,前述したとおり,爆発物を製造してこれをU都知事(当時)あてに郵送するというものであって,その旨の共謀を遂げているのは明らかであり(この点に関し,被告人は,本件犯行の前に,EやGが爆薬の調合をしている現場を見たことがあり,また,爆薬製造中のEから「これがRDXで強力な爆薬なんだ。」と教えられたことがあったというのであって,その後の謀議の過程で爆発物の製造に疑問を持たなかったこと自体が,被告人が共犯者が爆発物の製造をすることを認識の上,共犯者が製造した爆発物を送付するという犯行を共に遂げようという共同意思を有していたことの証左となるものである。),しかも,本件事案の特質や本件謀議が成立するに至った経緯などからして,爆発物製造と同使用が併合罪の関係に立つとはいえ,前記謀議に基づいて遂行された本件爆発物の製造と使用は一連のものであり,これらを分断して評価することはできないのであるから,被告人は,爆発物製造に関しても共同正犯の責任を負うというべきである。 そうすると,被告人に本件爆発物の製造及び使用,殺人未遂罪の成立を認めた原判決に誤りはなく,爆発物使用と殺人未遂罪の従犯が成立するにすぎないとの所論は採用できない。 事実誤認をいう論旨は理由がない。 第2 量刑不当の主張について び使用,殺人未遂罪の成立を認めた原判決に誤りはなく,爆発物使用と殺人未遂罪の従犯が成立するにすぎないとの所論は採用できない。 事実誤認をいう論旨は理由がない。 第2 量刑不当の主張について 1 所論は,要するに,被告人を懲役18年の刑に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である,というのである。 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果も併せて検討する。 2 本件は,オウム真理教の信者であった被告人が,① 教祖であるBや他の信者らと共謀の上,サリンを吸引させてA弁護士を殺害しようとしたが,同弁護士に軽度のサリン中毒症を負わせたにとどまり,その目的を遂げなかったという殺人未遂の事案(A弁護士殺人未遂事件),② 地下鉄サリン事件以降,教団に対する捜査が進み,Bの逮捕が現実味を帯びてくる中で,教団に対する強制捜査の矛先をそらし,Bの逮捕を免れるために,他の教団信者らと共謀の上,<ア> 多くの死傷者が出ることを認識しながら,新宿駅地下街の公衆便所に時限式青酸ガス発生装置を仕掛けたが,発火後間もなく消火されるなどして青酸ガスが発生しなかったため,その目的を遂げなかったという殺人未遂の事案(新宿青酸ガス事件),<イ> さらに,その直後に,同様の目的で,当時の東京都知事を殺害して治安を妨害しようと企て,書籍をくり抜いた爆発物を製造し,同知事あてに郵送して,これを開封した知事室知事秘書担当参事に重傷を負わせたが,殺害するには至らなかったという爆発物取締罰則違反,殺人未遂の事案(東京都庁爆弾事件)である。 3 本件各犯行の犯情は,原判決が「量刑の理由」で適切に判示しているとおりであって,いずれも非常に悪質である。以下,本件各犯行の犯情につき詳述する。 (1) A弁護士殺人未遂事件についてアオウム真理教被害対策弁護団に所属して,教団を相 由」で適切に判示しているとおりであって,いずれも非常に悪質である。以下,本件各犯行の犯情につき詳述する。 (1) A弁護士殺人未遂事件についてアオウム真理教被害対策弁護団に所属して,教団を相手方とする民事訴訟の代理人を務めたり,カウンセリングによって信者らを脱会させようとして,元信者であったオウム真理教被害者の会会長の長男とともにカウンセリングを行ったりするなど教団から見て障害となる活動をしていたA弁護士に対し,教祖のBが,教団に敵対する者と位置付けて,その殺害を企て,D,Eら教団幹部らに指示し,これを受けた教団幹部や被告人らがその殺害を実行しようとしたという動機は,教団に敵対して目障りとなる人物がいればその生命をも奪ってよいとの誠に身勝手な発想に基づき,かつ弁護士としての正当な活動を圧殺しようとしたものであって,独善的で卑劣な犯行であると断ぜざるを得ない。 A弁護士の車の運転席側フロントガラスとボンネットの境目付近にサリンを滴下し,走行中の車内に気化したサリンを流入させ,これを運転中の同弁護士に吸入させて殺害しようとしたという犯行態様を見ると,サリンは,もともと化学兵器として開発された神経剤の一種で,ごく少量で多数の人の殺傷を可能とする猛毒ガスであり,殺傷能力が極めて高く,当時の気候等から気化が早く進んでいたと見られることに加え,同弁護士がすぐに車に乗り込まず,かつエアコンを内気循環としていたこととも相まって,幸いなことに同弁護士の死亡という最悪の結果こそ発生していなかったものの,同弁護士が死亡していた可能性は大いにあり,もくろみどおりに事が運んだ場合,交通事故を引き起こすなどして無関係の車両を巻き込んで惨事を引き起こしたことも十分予想されるところであって,その態様は,危険極まりない凶悪かつ悪質なものである。これに加えて,犯行の に事が運んだ場合,交通事故を引き起こすなどして無関係の車両を巻き込んで惨事を引き起こしたことも十分予想されるところであって,その態様は,危険極まりない凶悪かつ悪質なものである。これに加えて,犯行の実行行為者であるEら教団幹部は,犯行に先立ち,実行,送迎,医療担当等のきめ細かい役割分担を決めた上,車の内外の空気の流れを調べる実験をしたり,変装道具や治療薬等を用意したり,直前には実行役の女性にサリン滴下の予行演習をさせたりするなど,周到に準備をして犯行を実行に移しているのであって,組織性や計画性も極めて高い。 前述したような事情もあって,幸いA弁護士は死に至らずに済んだが,それでも軽微なサリン中毒症状を呈し,帰路の車の運転に支障を生じていたのであって,発生した結果も看過できない。 イ被告人は,突然東京から呼び出され,Bに命じられて,甲府地裁での民事裁判に出廷するDの運転手役をすることになり,詳しい背景事情,具体的な犯行の手段や態様などを十分把握していたとはいえないものの,少なくとも被告人においては,教団幹部らがBの指示を受けて人の殺害の用に供し得る薬物を用いてA弁護士の殺害を実行しようとしていることを認識しながら,無批判に犯行に加担することを承諾したもので,その態度は軽率かつ短絡的であるとの非難は免れない。しかも,被告人は,犯行当日,同裁判所に出廷するDを車に乗せて運転した上,犯行前にA弁護士の車の駐車位置を確認して,別の教団幹部に知らせるという役割を担ったばかりではなく,さらに,医療行為を分担した共犯者らがサリン中毒症状に陥った場合には被告人が代わりに治療薬を注射する手はずにもなっており,これらの共犯者らの心理的支えにもなっていたことなども併せ考えると,A弁護士殺人未遂事件で被告人が果たした役割は大きなものがある。 (2) 新宿青 人が代わりに治療薬を注射する手はずにもなっており,これらの共犯者らの心理的支えにもなっていたことなども併せ考えると,A弁護士殺人未遂事件で被告人が果たした役割は大きなものがある。 (2) 新宿青酸ガス事件についてアオウム真理教が地下鉄サリン事件を引き起こしたにもかかわらず,教団施設が警察の捜索を受け,信者らが次々と逮捕され,教祖のBの逮捕が現実味を帯びてきた中で,Bや教団幹部等が,Bの逮捕を免れ,教団の存続を図ろうと画策し,社会の耳目を集める事件を引き起こし,教団に対する捜査の矛先を他に向けるために,Bの意を受けて,教団幹部や被告人らが共謀の上,新宿駅地下街のトイレに青酸ガス発生装置を設置するなどしたものであるが,その動機は,多数の死傷者が出ることを予想しながら,教祖のBの逮捕の回避や教団の存続のみを図ろうとしたもので,誠に身勝手であって,人命尊重の意思や他者への思いやりなどみじんも感じられず,言語道断の犯行である。 Eらは,日光山中に埋めておいた薬品類を掘り起こすなどして原料を用意し,試行錯誤の末,硫酸による腐食作用を利用した時限式青酸ガス発生装置を製作し,2度にわたり新宿駅地下街の便所に設置を試みて失敗したにもかかわらず,犯行をあきらめず,役割分担を決めた上で相互に連携を図って原判示第2の便所に設置をしているのであって,誠に用意周到に準備がなされ,計画性も顕著で,何としても犯行を成功させたいという執念もうかがわれる。 また,幸い青酸ガス発生装置が仕掛けられた後に,何者かによって希硫酸の入ったビニール袋が装置から取り外されてゴミ箱のわきに置かれ,これを発見した清掃作業員によって装置が分解された状態のまま,トイレの入口付近に並べられ,やがて時限発火装置が作動したものの,通行人に発見されて直ちに消火されるという幸運に恵まれて事な きに置かれ,これを発見した清掃作業員によって装置が分解された状態のまま,トイレの入口付近に並べられ,やがて時限発火装置が作動したものの,通行人に発見されて直ちに消火されるという幸運に恵まれて事なきを得たが,その装置は仕組みこそ単純なものであるものの,正常に作動していれば,数千人を殺傷できるほどの青酸ガスを生じさせるほどの威力のあるものであって,同装置の置かれたのが人出の極めて多い新宿駅地下街のトイレであり,同トイレの空気が隣接する地下コンコースや地下鉄のホームにも流出する可能性があったことも勘案すると,多数の死傷者を出す大惨事になりかねない非常に危険かつ悪質な犯行であって,社会に与えた影響も計り知れないものがある。 イ被告人は,地下鉄サリン事件がオウム真理教による仕業であり,捜査の矛先が教団に向けられていることを十分認識しており,捜査の矛先を他に向けなければ,自己の所属するオウム真理教という宗教団体を維持すること,ひいては自己の目標とする『解脱・悟り』を得るという自己の目的を達成できなくなることをおそれて犯行に加担しているのであるが,被告人は誠に自己中心的な発想しかできておらず,加担の動機は身勝手というほかない。被告人は,謀議に参加したり,共犯者から予想される本件の結果を聞いたりして犯行の全容をほぼ把握した上で,清掃作業員によって青酸ガス発生装置が片づけられることのないように,事前にトイレの清掃が終わったことを確認し,実行役の者が逃走に利用する路線バスの発車時刻を調べて共犯者に知らせるという比較的重要な役割も果たしている。 (3) 東京都庁爆弾事件についてア新宿青酸ガス事件後,捜査の矛先を他に向けるなどという目的を十分遂げられず,Cや被告人らのもとにBから「有能神が怒っている。」旨のメッセージが届けられたことから,同事件と同 庁爆弾事件についてア新宿青酸ガス事件後,捜査の矛先を他に向けるなどという目的を十分遂げられず,Cや被告人らのもとにBから「有能神が怒っている。」旨のメッセージが届けられたことから,同事件と同様の目的の下に,世界都市博覧会中止等の政策で注目を集めていたU都知事(当時)にあてて爆発物を送り付けようと考えてこれを実行に移したもので,誠に身勝手であり,また,教団や教祖を守るためには要人の暗殺をも辞さないという態度も卑劣である。 爆薬の中でも威力が大きいRDXを製造し,これを書籍をくり抜いて埋め込み,表紙を開けると爆発するという仕掛けを施した上で,同知事と対立していた都議会議員からの郵便物だと装って都知事公館に郵送したという態様は,仕掛けも巧妙である上,爆発により多数の者を巻き込んで殺傷するおそれが極めて高い危険かつ悪質なものであり,現に,職務として都知事公館に届けられた本件爆発物の中身を確認すべく開けた知事秘書担当参事の被害者は,一瞬にして爆風に包まれ,辺りに肉片を飛び散らせて血だるまになり,左手のすべての指と右手の親指を失ったほか,全身に挫創等の重傷を負わされており,その肉体的精神的苦痛の大きさは言うに及ばず,日常生活や仕事で多大の支障を受けているのであって,生じた結果は重大かつ悲惨である。 イ被告人は,本件爆発物の仕組みなどを具体的に理解しているとはいえないが,爆発物を製造してこれをU都知事(当時)にあてて郵送することを認識しながら,犯行に加担することとし,実際に,本件爆発物が完成した後,本件爆発物を入れた封筒にあて名書きをした上,これを投かんするなど,実行行為そのものを行っているのであって,被告人の果たした役割が不可欠かつ重要であるのは言うまでもない。 (4) 前述したとおり,被告人は,本件各犯行当時,サマナという最下級の階層に 投かんするなど,実行行為そのものを行っているのであって,被告人の果たした役割が不可欠かつ重要であるのは言うまでもない。 (4) 前述したとおり,被告人は,本件各犯行当時,サマナという最下級の階層にあったものの,短期間で出家修行を終え,ワークと称して様々な調査業務を課され,A弁護士殺人未遂事件後は,Bからホーリーネームを授かり,在家信者及び出家修行者の教化,教団での修行の体系化,信者に対する薬物を使用しての修行の実施,大学班のリーダーとしての大学生に対する入信の勧誘,入信から出家に至るまでの導きなどの重要な任務を遂行するなどして,その結果,Bからは「あいつはマンジュシュリー2世になるだろう。」などと高く評価されるなど,Bからの信頼も厚く,将来教団の中枢を担う幹部となることを期待されており,既に幹部に準じる立場にあったと理解することも可能であって,前記各事件において,相応の役割を果たしているのであるから,被告人がサマナの地位にあったことをもって被告人の立場や役割を過小評価するのは相当ではない。 4 他方,被告人のために酌むべき事情として次のようなものがある。 (1) A弁護士殺人未遂事件では,偶然の要素が重なったとはいえ,同弁護士は軽度のサリン中毒症を負ったにとどまり,新宿青酸ガス事件では,青酸ガス発生装置が設置されたものの,青酸ガスが発生するには至らなかったため,人身被害が生じておらず,さらに,東京都庁爆弾事件では,被害者に重篤な傷害を負わせたものの,死の結果が生じていないのであって,殺人の点はいずれも未遂に終わっている。 (2) 被告人の立場や役割について,被告人は,各犯行の謀議の場面では,主要な謀議に参加し,特に新宿青酸ガス事件や東京都庁爆弾事件に至るまでの謀議の場面では適宜意見を述べるなどしていたとはいえ,C,E,Kといった教団幹 や役割について,被告人は,各犯行の謀議の場面では,主要な謀議に参加し,特に新宿青酸ガス事件や東京都庁爆弾事件に至るまでの謀議の場面では適宜意見を述べるなどしていたとはいえ,C,E,Kといった教団幹部がいずれも意思決定を行って具体的な犯行を立案するなどしていたのであって,被告人には最終的な意思決定権はなかったこと,被告人は,殺人の凶器となるサリン,青酸ガス,書籍をくり抜いた爆発物の製造過程に全く関与していないし,また,東京都庁爆弾事件で爆発物を投かんしたこと以外には実行行為をしていない上,前述のとおり,被告人は各事件で重要な役割を演じているが,教団幹部らの指示・命令を受けて行動したという面が強いことなどからすると,共犯者らに比べれば従属的立場にあったのは否定し難い。 また,被告人は,私立H高等学校,I大学医学部を卒業した後,医師となってその職務に励み,将来を嘱望されていた青年であったところ,Bや教団幹部から出家を巧みに勧められ,純粋な宗教心から入信したが,教団の修行を通じて人格が変容させられ,健全な規範意識が希薄化して,教団やB至上主義的な偏向な考えを強くする中で本件各犯行に関与するに至ったと見る余地もあり,Bや教団幹部に利用された面も否定できない。 (3) 被告人は,指名手配となっていることを認識しながら,平成7年10月8日に自ら警察に出頭して,事実を供述するに至るとともに,Bの説く教義が誤りであると悟り,教団を脱退しているところ,被告人の供述状況を見ると,捜査,原審,当審と手続が進むに連れて反省を深めていることがうかがわれる。 (4) 被告人は,元来知的能力に秀でており,大学卒業後は医師としての活躍が期待されていたところ,もとより前科がなく,オウム真理教に入信して出家するまではまじめに社会生活を送っていた上,被告人には,被告人のこ 告人は,元来知的能力に秀でており,大学卒業後は医師としての活躍が期待されていたところ,もとより前科がなく,オウム真理教に入信して出家するまではまじめに社会生活を送っていた上,被告人には,被告人のことを心から心配し,更生を支援する母親をはじめ家族がいるほか,被告人の恩師(高校時代の数学教師,研修医時代の指導教官)や友人が当審公判に出廷し,被告人に対する思いを供述するとともに,今後の被告人の更生に協力する意向を示していることからすると,被告人の更生を支える環境が整いつつあるということができる。 5 そこで,以上の事情を総合考慮して被告人を懲役18年に処した原判決の量刑の当否を検討する。 本件各犯行は,まれに見る組織的な凶悪事件で,特に,新宿青酸ガス事件や東京都庁爆弾事件については,幸い殺人の結果こそ発生していないものの,不特定多数人を対象とした無差別テロであったり,都知事という要人をねらったりしたものであるが,被告人は,末端のサマナの地位にあったものの,犯行のほぼ全容を知りながら犯行に加担し,しかも,いずれの犯行においても重要な役割を果たしているのであって,被告人の刑責は重大であるといわざるを得ないから,前記の被告人のために酌むべき事情や,他のオウム真理教犯罪者,とりわけ,C,D,Yらの量刑などを十分考慮してもなお,被告人を懲役18年に処した原判決の量刑は,その言渡しの時点においては,重過ぎて不当であるということはできない。 6 しかしながら,当審における事実取調べの結果によると,原判決後,被告人は,現在まで6年半以上に及ぶ身柄拘束の状態の下において,内省の機会を与えられて,更に反省・悔悟の情を深めており,二度と他人に迷惑を及ぼすような犯罪は行わないなどと述べるとともに,被害者らに対する謝罪の意を表明していること,原判決後,A弁護士に おいて,内省の機会を与えられて,更に反省・悔悟の情を深めており,二度と他人に迷惑を及ぼすような犯罪は行わないなどと述べるとともに,被害者らに対する謝罪の意を表明していること,原判決後,A弁護士に謝罪文を送付するとともに,被害弁償の申出をし,同弁護士の希望により,サリン事件共助基金に対し100万円の贖罪寄附をしたほか,東京都庁爆弾事件の被害者に対し,400万円の見舞金を支払って慰謝の措置を講じていることなどの事実が認められ,これに加え,前記4の被告人のために酌むべき事情を併せて考慮すると,現時点においては原判決の前記量刑は重過ぎるといわざるを得ない。 よって,刑事訴訟法397条2項により原判決を破棄し,同法400条ただし書により被告事件について更に判決することとし,原判決が認定した事実に原判決が掲げる法令を適用(科刑上一罪の処理,刑種の選択及び併合罪の処理を含む。)し,その処断刑期の範囲内で被告人を懲役15年に処し,刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中900日をその刑に算入し,原審における訴訟費用を被告人に負担させないことについて刑事訴訟法181条1項ただし書を適用することとして,主文のとおり判決する。 平成14年7月5日東京高等裁判所第5刑事部裁判長裁判官高橋省吾裁判官小原春夫裁判官山田耕司

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