主文 原判決を破棄する。 被告人両名は無罪。 理由 第1 本件控訴の趣意等 被告人Bの控訴の趣意は、被告人B弁護人中野雅文(主任)、同河口直規及び同大野正裕共同作成の控訴趣意書に、被告人Cの控訴の趣意は、被告人C弁護人弘中惇一郎(主任)、同米屋佳史、同大木勇、同白井徹、同太田貴久及び同山形勝共同作成の控訴趣意書⑴及び控訴趣意書⑵並びに被告人C弁護人弘中惇一郎(主任)作成の控訴趣意補充書に、これらに対する答弁は、 検察官金山洋文作成の答弁書に、それぞれ記載されたとおりである。 本件は、KKR(国家公務員共済組合連合会)札幌医療センター(以下「医療センター」という。)の事務部長として医療センター敷地内保険調剤薬局整備運営事業(以下「本件事業」という。)に関する事務を統括していたA、調剤薬局の経営等を業とする株式会社DのE支店支店長として同支店 の業務を統括していた被告人B、同社の全株式を保有し、調剤薬局の経営等を業とする株式会社F(前記Dと併せて又は両者を区別せず以下「G」ということがある。)の開発統括本部本部長として同社が参加する医療機関の敷地内保険調剤薬局整備運営事業の企画競争等に関する営業支援業務を統括していた被告人C及び前記DE支店従業員Hが、共謀の上、医療センターが企 画競争により本件事業に関する契約(以下「本件契約」という。)の優先交渉権者を決定するとしていたことに関し、Gを本件契約の企画競争(以下「本件企画競争」という。)における最優秀提案者とし、同社に本件契約の優先交渉権を得させようと考え、本件企画競争に参加する事業者は提案内容を記載した企画提案書を令和2年12月18日午後0時までに提出すること とされており、Gは、それまでに、本件事業に必要な土地を医 交渉権を得させようと考え、本件企画競争に参加する事業者は提案内容を記載した企画提案書を令和2年12月18日午後0時までに提出すること とされており、Gは、それまでに、本件事業に必要な土地を医療センターか ら借り受けることに対する賃借料として、同センターに月額450万円を支払うなどと記載した企画提案書を提出していたところ、Aが、企画提案書の提出期限を過ぎた同日午後、札幌市(住所省略)所在の医療センターにおいて、被告人Bに対し、G以外の事業者がGより高い支払額を提案していることやその概算を教示した上、企画提案書の提出後の追加及び変更は認められ ないとされていたにもかかわらず、Gから提出された企画提案書を返還し、賃借料等の支払額を増額した企画提案書を再提出するよう持ちかけ、被告人B及び被告人Cが、土地の賃借料として医療センターに月額750万円、保証金として5億2000万円を支払うなどとする内容の企画提案書を再提出することを決定し、Hらに、その旨記載した企画提案書を作成させた上、同 月23日、Hに、同企画提案書を医療センターに再提出させ、もって偽計を用いて公の入札で契約締結するためのものの公正を害すべき行為をしたという事案である。 被告人B及び同Cの共通の論旨は、法令適用の誤りの主張であり、本件企画競争は刑法96条の6第1項の「公の入札」に該当しないにもかかわらず、 これに該当するとした点などにおいて、原判決の判断には同法の解釈適用に誤りがあり、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというものである。これに加え、被告人Cについては、事実誤認の主張もなされ、被告人Cには公契約関係入札妨害罪の故意及び共謀が存しないにもかかわらず、これらを認めた原判決の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな に加え、被告人Cについては、事実誤認の主張もなされ、被告人Cには公契約関係入札妨害罪の故意及び共謀が存しないにもかかわらず、これらを認めた原判決の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな 事実誤認がある、というのである。 以上の論旨のうち、被告人両名の法令適用の誤りの論旨には理由があり、被告人Cの事実誤認の論旨を検討するまでもなく、原判決は破棄を免れないと判断したので、以下、その理由を説明する。 第2 原判決の判断の要旨 1 争点 原審における本件の争点は、刑法96条の6第1項該当性に関し、①医療センターが「公の」入札等実施主体に該当するかどうか、②本件企画競争は同法所定の「入札」及び「契約を締結するためのもの」に、原判示の企画提案書の再提出が「公正を害すべき行為」に、それぞれ該当するかどうか、さらに、③被告人Cに関し、故意及び共謀が認められるかどうかとされた。原 判決は、争点①について、医療センターが「公の」入札等実施主体に該当し、争点②について、本件企画競争が同法所定の「入札」及び「契約を締結するためのもの」に、原判示の企画提案書の再提出が「公正を害すべき行為」に、それぞれ該当するとした上で、争点③について、被告人Cに故意及び共謀が認められると判断し、被告人両名を有罪と判断している。以下、争点①及び ②に関する原判決の判断の概要を適宜表現を補正しつつ示す。 2 本件企画競争及び被告人らの行為の刑法96条の6第1項該当性⑴ 前提事実(以下の日付は、特段の記載がない限り、令和2年のものである。)ア Aは、被告人Bから敷地内薬局について説明を受けたことを契機にそ の開設に強い魅力を感じ、過去の実績があって経営状態も安定しており、被告人Bらの対応も信頼できるGに敷地内薬局の開設を依頼 ア Aは、被告人Bから敷地内薬局について説明を受けたことを契機にそ の開設に強い魅力を感じ、過去の実績があって経営状態も安定しており、被告人Bらの対応も信頼できるGに敷地内薬局の開設を依頼すれば、医療センターにとっても有益であると考えた。Aは、病院内で敷地内薬局の利点を重ねて説明した。病院長らが出席し医療センターの運営に係る重要事項を決定する場である管理者会議における質疑応答において、参加者から、「こうな んの杜」と呼ばれる緑化スペースを薬局開設候補地の1つとして挙げることへの懸念、薬局内に福利厚生スペース等を設けるといった要望等が示された。 Aは、Gとの打合せの中でこれらの要望等に対応できることを聞いていたため、薬局側はこれらの要望等を実現できると言っているなどと伝えた。最終的に、管理者会議における賛成が得られ、本件事業の実施が決定した。事業 者の選定は公募型企画競争の方式によることとされ、病院長やAら7名を委 員とした敷地内保険調剤薬局選定委員会が設置された。 イ他方、Aは、管理者会議と並行してGとのみ打合せを行い、こうなんの杜移設や福利厚生スペース等の設置が要望されていることを伝え、Gから薬局2階に福利厚生等のスペースを設けるなどの提案を受けていた。また、部下であるIに、Hらと連絡を取り合って本件企画競争の準備をするよう指 示し、Iを通じ、Gに対し、こうなんの杜に敷地内薬局を開設した場合の緑化率や専門家による想定賃料の調査、他の病院で行われた企画競争の公募要領の収集等を依頼した。AとIは、Gから入手した公募要領等に基づき、本件企画競争の公募要領(以下「本件公募要領」という。)を作成するとともに、不動産鑑定によって算出された月額賃借料をもとに予定価格を計算し、 これらを病院長らが決裁した。 募要領等に基づき、本件企画競争の公募要領(以下「本件公募要領」という。)を作成するとともに、不動産鑑定によって算出された月額賃借料をもとに予定価格を計算し、 これらを病院長らが決裁した。 ウ本件公募要領には、企画提案書として、以下の8項目を記載したものを提出することが記載されている。 ①事業者の概要・経営状況(薬局運営実績、同事業の対応実績等を含む)②本件薬局の建築基本方針(配置、面積、設計コンセプト、設備、パース、 レイアウトイメージ等)③運営方針及び実施体制(営業日、営業時間、人的体制、在庫管理等)④危機管理及び災害・緊急時体制(薬品の応需体制、バックアップ体制等)⑤事業スケジュール(設計、工事から開局までのスケジュール)⑥収支計画(本事業の永続性及び安定性を示す事業計画) ⑦月額賃借料(㎡単価、算定根拠)⑧その他自由提案(本事業の目的を鑑み独自の提案があれば記載すること)また、提出書類について、提出された書類は返却せず部外秘とされ、提出後の追加及び変更は認めないが、審査に必要な書類の提出を求める場合があると記載されている。審査方法については、前記選定委員会において、提出 書類及びプレゼンテーションによる審査を行い、応募提案の企画内容、事業 者等の経験、過去の実績等について総合的に評価し、優先交渉権者を決定すると記載されている。選定後の手続については、優先交渉権者の決定後、病院運営と調整を図るため、薬局開設に伴う協議を行うが、提案内容は尊重しつつもこれに拘束されず、協議によって変更が生じる場合があるなどと記載されている。 エ採点方法については、前記選定委員会の各委員が、応募した事業者の企画提案書の内容、運営・実施体制、収支計画、応募者の運営実績等を 協議によって変更が生じる場合があるなどと記載されている。 エ採点方法については、前記選定委員会の各委員が、応募した事業者の企画提案書の内容、運営・実施体制、収支計画、応募者の運営実績等を総合的に審査し、企画提案内容について、本件公募要領記載の前記8審査項目に従って、それぞれ採点するものとされた。配点は非公表であり、①事業者の概要・経営状況5点、②本件薬局の建築基本方針10点、③運営方針及び実 施体制5点、④危機管理及び災害・緊急時体制5点、⑤事業スケジュール5点、⑥収支計画20点、⑦月額賃借料等30点、⑧その他自由提案20点の合計100点満点とされた。 11月11日、本件企画競争は、紙面を病院内に掲示する形式で公告された。本件公募要領交付期限は同月20日までとされ、企画提案書の提出締切 日時は12月18日午後0時、プレゼンテーションは同月24日に実施するとされた。 オ Aは、本件公募要領作成に当たって、Iから医療センターの希望事項やその事項を提案内容に盛り込むことを応募条件とする旨を記載する必要があるか確認されたが、その必要はない旨答えた。また、10月末頃、G以外 の事業者から敷地内薬局の企画競争実施予定の有無を問われた際には、その検討はされていない旨事実と異なる回答をした。 さらに、公告後、本件公募要領を入手したG以外の事業者から病院の要望等を問われた際には、何ら要望等を伝えなかった。 カ本件企画競争には、12月18日(原判示21日は明白な誤記)午後 0時の期限までに5社が応募し、うち1社は書類選考で不合格とされ、12 月24日に4社がプレゼンテーションを実施し、前記選定委員会委員らによる採点の結果、Fが最優秀提案者に選出された。 ⑵ 医療センターは「公の」入札等実施主体に該当す 選考で不合格とされ、12 月24日に4社がプレゼンテーションを実施し、前記選定委員会委員らによる採点の結果、Fが最優秀提案者に選出された。 ⑵ 医療センターは「公の」入札等実施主体に該当するか本件企画競争の実施主体である医療センターは、国家公務員共済組合連合会が設置する病院の1つである。 同連合会は、国家公務員の病気等に関して適切な給付を行い、国家公務員等の生活の安定と福祉の向上に寄与するとともに、公務の能率的運営に資するという国家公務員共済組合法の目的(同法1条)に従い、同法上同連合会の業務とされている福祉事業に関する業務(同法21条2項3号)の一環として病院を設置している。そして、本件事業も、病院利用者の利便等に資す る施設の整備事務であり、福祉事業に関する業務といえる。原審弁護人は、実際に行われる事業内容は民間企業によるものと相違ない旨主張するが、あくまで上記のような公務の能率的運営等との関係で実施されるものであるから、本件事業について公務性が認められる。 また、同連合会は国家公務員共済組合法に基づく法人であり(同法22 条)、同連合会職員は罰則の適用において公務員とみなされる(同法13条、36条)。そして、同連合会の事業計画及び予算は毎事業年度財務大臣の認可を受け(同法15条、36条)、業務執行や財産状況は財務大臣からの監督、監査を受け(同法116条)、理事長や一定の理事、幹事は財務大臣が任命するかその認可を受けて理事長が任命するとされており(同法29条)、 事業内容、人事、財政面において国による相当程度の監督下に置かれている。 以上のような事業の公務性、同連合会の公法人該当性、職員の公務員性、国による監督の度合いからすれば、本件事業は、国・地方公共団体に準ずる団体が実施する公務性 による相当程度の監督下に置かれている。 以上のような事業の公務性、同連合会の公法人該当性、職員の公務員性、国による監督の度合いからすれば、本件事業は、国・地方公共団体に準ずる団体が実施する公務性を有する事業といえるから、同事業に関する本件企画競争は「公の」入札等といえる。 ⑶ 本件企画競争は「入札」に該当するか ア最高裁判所昭和33年4月25日第2小法廷判決(刑集12巻6号1180頁、以下「昭和33年判例」という。)は、昭和16年法律第61号による改正後の刑法(平成23年法律第74号等による改正前のもの、以下「旧刑法」という。)96条の3第1項(競売入札妨害罪)が保護対象とする「入札」の意義について、当該工事の施行者において落札者を決定するに あたり、入札の結果施行者に最も有利な条件を申し出たことを契約締結の唯一の要素とする場合のみでなく、そのことを重要の要素としつつこれにその他の条件を加味して落札者を決定することができる場合も、競争入札の実質を有するものであるから、同項にいう「入札」に含まれるとする。検察官は、昭和33年判例に基づき、本件企画競争のような会計法規上競争入札の形式 でないものも、競争入札の実質を具備している場合には、入札に該当することを前提に、本件企画競争は競争入札の実質を有するものとして「入札」に該当する旨主張する。 これに対し、被告人両名の各原審弁護人は、昭和33年判例の射程は本件企画競争のような事案には及ばず、企画競争といった会計法、予算決算及び 会計令等所定の随意契約(本件企画競争も同令同様の省令に基づく随意契約である。)は、一般的に刑法96条の6第1項の「入札」には該当しない旨主張し、また、本件企画競争は競争入札の実質を有しない旨も主張しており、昭和33年判例を前提 競争も同令同様の省令に基づく随意契約である。)は、一般的に刑法96条の6第1項の「入札」には該当しない旨主張し、また、本件企画競争は競争入札の実質を有しない旨も主張しており、昭和33年判例を前提としても「入札」には該当しないというものと解される。 イ会計法等所定の随意契約の一種として行われる企画競争が刑法96条の6第1項の「入札」に該当し得るか旧刑法96条の3第1項制定時、会計法上、契約方式として、一般競争契約、指名競争契約、随意契約が規定されていた。 昭和36年、会計法改正により、一般競争又は指名競争入札における総合 評価落札方式(価格と価格以外の要素を総合的に評価して発注者にとって最 も有利な者を落札者とする方式)の根拠となる規定が設けられた(同法29条の6第2項)。 その後、不適切な随意契約等が指摘されるようになり、平成18年8月25日、「公共調達の適正化について」と題する財務大臣通知(財計第2017号)が発せられ、従来、競争性のない随意契約を行ってきたものについて は、一般競争入札(総合評価落札方式を含む。)又は企画競争(複数の者に企画書等の提出を求め、その内容について審査を行う方式)若しくは公募(どのような設備又は技術等が必要かを明らかにした上で参加者を募る方式)を行うこととされた。また、企画競争を行う場合には、特定の者が有利とならないよう、参加者を公募すること、業者選定に当たっては業務担当部局だ けではなく契約担当部局も関与する必要があること、審査にあたってあらかじめ具体的に定めた複数の採点項目により採点を行うこと等により、競争性及び透明性を担保するものとされた。その後、国家公務員共済組合連合会に対しても同様の口頭指示がされた。企画競争の態様も様々あるが、現在、企画提案を公 数の採点項目により採点を行うこと等により、競争性及び透明性を担保するものとされた。その後、国家公務員共済組合連合会に対しても同様の口頭指示がされた。企画競争の態様も様々あるが、現在、企画提案を公募した上、最も優れた企画提案を行った者を選定し、被選定者と 交渉の上、契約を締結するという公募型企画競争も、会計法等所定の随意契約の一形態として広く実施されている。 以上のとおり、旧刑法96条の3第1項が定められた当時、総合評価落札方式の競争入札や一定の競争性を担保した契約方式である企画競争は念頭に置かれていたわけではない。同項の「入札」に企画競争が含まれるかどうか は、解釈に委ねられているというべきである。 また、原審弁護人は、平成23年における旧刑法96条の3の改正に際して企画競争等に対する手当てがされなかったこと、平成14年に成立した入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律(以下「官製談合防止法」という。)が、処罰対象 として企画競争等を含み得る文言を設けたのに、刑法96条の6第1項にお いて同様の手当てがされなかったことを理由に、企画競争は「入札」に該当しない旨主張する。 しかし、平成23年改正は、強制執行を妨害する犯罪等に対する罰則整備を目的とし、旧刑法96条の3のうち強制執行に関するものを96条の4として独立して規定したため、残余の部分をこれと区別するために「契約を締 結するためのもの」という文言を加えたものであり、公の「入札」の範囲については、何ら変更されていないと理解すべきである。官製談合防止法との関係についても、既に昭和33年判例によって「入札」の範囲について、競争入札の実質を有するものも含むとする解釈が成立している以上、旧刑法96条の 更されていないと理解すべきである。官製談合防止法との関係についても、既に昭和33年判例によって「入札」の範囲について、競争入札の実質を有するものも含むとする解釈が成立している以上、旧刑法96条の3について同様の文言の修正を行うかどうかは立法政策の問題であり、 「入札」の意義を制限的に解する理由にはならないと考えられる。 そして、前記のとおり、会計法制定当時と比べ、競争契約又は随意契約という枠組みの中で行われる契約の方式も多様化しており、総合評価落札方式の入札と企画競争には相当程度の類似性がみられる。このような契約方式の相対化も踏まえれば、競争入札の実質を有する会計法上の随意契約が刑法9 6条の6第1項における「入札」に該当するとしても、罪刑法定主義に反するものではないと考えられる。 以上のとおり、会計法等所定の随意契約として実施された契約方式であっても、個別に検討した上、競争入札の実質を有するといえる場合には、刑法96条の6第1項の「入札」に該当すると解するのが相当である。 ウそこで、本件企画競争が、競争入札の実質を有するかどうかについて、企画競争の一般的な特質や本件企画競争の特殊事情も考慮しつつ、検討することとする。 本件企画競争の内容面について検討する。 最低価格落札方式の競争入札においては、入札価格によって機械的に優劣 が決定されることと比較すると、企画競争や総合評価落札方式の競争契約は、 価格面以外の要素も考慮して判断するものであって、判断の客観性はある程度損なわれることになる。しかし、このことは、価格以外の条件を加味して評価することに伴う制約であって、直ちに単なる随意契約のような裁量性を意味することにはならず、できる限り公平で客観的な競争を志向することも可能である。 このことは、価格以外の条件を加味して評価することに伴う制約であって、直ちに単なる随意契約のような裁量性を意味することにはならず、できる限り公平で客観的な競争を志向することも可能である。 その中で、本件公募要領では、審査項目が8つに分けられ、さらに各項目内において審査される細項目もある程度列挙されているから、事業者はこれらの事項について他の事業者と優劣を競うことが求められているといえる。 また、審査基準については、審査員の判断に委ねられる面は否めないが、各審査項目は、7名の委員がそれぞれ採点してそれらを合計することで最優秀 提案者を決定するという方式によることで、判断の客観性、公平性を保っている。配点割合が3割とされている月額賃借料等については、1億円1点という客観的基準が定められている。さらに、採点結果については各委員のつけた点数も含めて病院内部における決裁に付され、国家公務員共済組合連合会契約監視委員会による点検等の対象ともなっている。このように、審査基 準についても、相当程度の判断の客観性、公平性が図られていたといえる。 また、前記のとおり、本件企画競争については、医療センターに支払われる月額賃借料等(審査項目⑦)の配点割合が3割とされている。これに対し、その他自由提案(審査項目⑧)については、本事業の目的を鑑み独自の提案があれば記載することとされている。そして、医療センターは、こうなんの 杜の移設や薬局2階への会議スペース等の設置を要望していたが、本件公募要領にはその旨記載されず、G以外にはそのような要望は明らかにされなかった。 この点に関し、被告人両名の各原審弁護人は、賃借料等の比重は低く、その採点方法も1億円を1点とするもので参加者間の差がつきづらいものであ り、その他自由提案(同⑧) 明らかにされなかった。 この点に関し、被告人両名の各原審弁護人は、賃借料等の比重は低く、その採点方法も1億円を1点とするもので参加者間の差がつきづらいものであ り、その他自由提案(同⑧)等が実際上重視されているから、発注者に対し て支払われる金額以外の要素が補充的といえない程度に考慮されており、競争入札としての実質は失われている旨主張する。 しかし、こうなんの杜の移設等は、企画提案書に盛り込むことが必須の条件とはいえない。企画提案書にこうなんの杜の移設等を記載しなかった事業者にとっても、優先交渉権者として選定後に、交渉次第で要望に応じられる 程度の非本質的な条件であると考えられる。また、この審査項目はあくまで自由に提案するということであり、事業者はそれぞれ医療センター側にとって有益な提案を創意工夫する競争が可能であった。実際、1名の採点者はGと他社を同じ得点としているし、医療センターが地域がん診療連携拠点に指定されていることに着目した提案に、より高い評価をつけた採点者もいた。 そうすると、自由提案の項目があることやこうなんの杜移設等が病院側において要望されていたことは、本件企画競争の競争入札の実質を失わせるほどの事情とはいえない。 また、月額賃借料等の配点割合からすれば、これ以外の要素を相当程度考慮していることは否定しがたいものの、月額賃借料等の配点割合は、各審査 項目の中では最も高く、月額賃借料等を他の要素に比して重視していたことも指摘できる。また、本件の賃貸借契約の期間は20年間と長期間にわたるもので、収支計画(審査項目⑥、配点20点)が賃料の継続的な支払を担保する項目として考慮されていたのであるから、長期的視点で見た場合の医療センターが得られる経済的利益の期待値に関する配点割合が5割を占め で、収支計画(審査項目⑥、配点20点)が賃料の継続的な支払を担保する項目として考慮されていたのであるから、長期的視点で見た場合の医療センターが得られる経済的利益の期待値に関する配点割合が5割を占め、基 本的考慮要素となっていたということもできる。 その他自由提案(同⑧)の配点も20点と比較的重視されているが、それ以外の審査項目を含め、長期的視点で見た場合の医療センターが得られる経済的利益の期待値に関する配点割合と比べれば、補充的な位置づけにとどまる。 そうすると、その他自由提案等の医療センターの経済的利益に必ずしも直 結しない事項を相当程度考慮していることをもって、競争入札の実質が失われていたとはいえない。 また、被告人両名の各原審弁護人は、配点が明らかにされていない参加者にとっては、いずれの項目が重視されているか不明であるから、審査基準の予想が困難であった旨主張する。 たしかに、本件企画競争において、審査基準や審査方法等が事業者に対して明示されず、本件公募要領の記載だけでは基準が不明確であることも否めない。しかし、本件公募要領は他の病院で行われた企画競争の公募要領を参考に作成されたもので、殊更特殊な内容ではなく、実際、本件企画競争に参加した事業者も、各項目についてあげるべきポイントを踏まえて記載してい る。実際の配点も一般的に想定可能な程度の内容であると考えられる上、本件企画競争の主体が公法人であり、明示はされなくても、客観的で公平な審査が期待されていたと考えられる。これらを踏まえれば、事業者にとっても、一般的な病院内薬局の企画競争の審査基準、審査方法であるとして、十分予想できるものであったとうかがわれ、競争入札の実質を損なうほどの事情と はいえない。 以上のとおり、本件企画 とっても、一般的な病院内薬局の企画競争の審査基準、審査方法であるとして、十分予想できるものであったとうかがわれ、競争入札の実質を損なうほどの事情と はいえない。 以上のとおり、本件企画競争の内容は、審査項目についていずれも競争に付され、審査基準についても客観性、公平性が相当程度担保されており、発注者に対して支払われる金額の多寡を他の要素に比して重視するとともに、長期的視点で見た場合に得られる経済的利益の期待値に関する要素が基本的 考慮要素になっており、それ以外の事項についても有益な提案を創意工夫させて、競争させるものであった。 本件企画競争の手続面について、検討する。 競争入札は、予定価格の作成、入札の公告、入札保証金の納付、入札、開札及び落札者の決定という手順を踏むことが会計法等によって規定されてい る。他方、随意契約については、予算決算及び会計令において、予定価格の 作成が規定されている程度である。企画競争の方式は、前記財務大臣通知等に基づく運用に委ねられている。 そこで、本件企画競争の手続の詳細を検討すると、あらかじめ非公表の予定価格を定める、不特定多数の参加者を公募し、その期間についても競争契約に関する法令上の規定に準じ10日間確保する、参加者は互いに他の者の 提示内容を知らずに契約内容を提示する、発注者はあらかじめ定まった具体的基準に従い提示内容に順位をつけるといった点は、競争入札ほど厳格ではないにせよ、いずれも手続の競争性を担保する意義を有するものである。 また、競争入札においては、提出した入札書の引換え、変更等はできないとされており、定められた期間内に提出された入札書の内容の優劣で落札者 を定めることで、競争の公平性を徹底する趣旨であると理解される。これに対し、本件企 出した入札書の引換え、変更等はできないとされており、定められた期間内に提出された入札書の内容の優劣で落札者 を定めることで、競争の公平性を徹底する趣旨であると理解される。これに対し、本件企画競争では、競争契約における開札手続の公開主義に相当する手続は設けられていない。提出後の追加及び変更は認めないが、審査に必要な書類の提出を求める場合があるとされている。 この点につき、被告人両名の各原審弁護人は、本件企画競争においては、 企画提案書提出後のプレゼンテーションにおいて、提案内容を変更することが許容されていた旨主張しており、そうだとすれば、競争入札との実質的な相違になるとも考えられなくはない。 しかし、本件企画競争についても、明確な規定はないものの、医療センター側においても、事業者においても、他の事業者の企画提案を見て企画案を 修正するようなことは許容されないと認識されていたことが認められる。原審弁護人が主張の根拠とする事情は、あくまで、事業者側も変更は許容されていないと認識しているため、企画提案書の内容を補足する体裁で追加提案をプレゼンテーションに含めたというものであるから、本件企画競争の手続として、企画提案書提出後に内容を変更することが許容されていたとはいい がたい。また、医療センターから審査に必要な書類の提出を求める場合があ るとされている点についても、変更等を認めるものではない旨の文言に引き続き記載されていることからして、提案内容の変更を認めるものではないことは文面から理解されるところであり、Aですら自由提案内容等が抽象的であった場合に具体的資料を求めることを想定していたにすぎないと供述している。さらに、本件企画競争は、前記のとおり審査基準等が定められ、採点 結果については各委員のつけた点数 提案内容等が抽象的であった場合に具体的資料を求めることを想定していたにすぎないと供述している。さらに、本件企画競争は、前記のとおり審査基準等が定められ、採点 結果については各委員のつけた点数も含めて病院内部における決裁に付され、国家公務員共済組合連合会契約監視委員会による点検等の対象ともなっていたのであるから、公平な競争の結果を踏まえた決定が予定されている。そうすると、本件企画競争では、提出した企画提案書の趣旨を明確にするなどのあくまで補充的な資料追加等が、求められて提出することがあり得ただけで、 企画提案書の重要部分にわたるような変更、追加は許容されていなかったと認められる。 そうすると、本件企画競争は、提出期間内に提出された企画提案書の優劣で最優秀提案者を選出するものであって、その後に企画提案書の重要部分を変更して再提出するようなことは予定されていないというべきであり、徹底 の度合いはともかくとしても、競争入札と同趣旨の公平な競争を志向する仕組みといえる。 他方、本件企画競争は、開札及び落札者の決定によって契約が成立する競争契約と異なり、最高順位となったとしても優先交渉権を獲得するのみであり、契約内容はその後の交渉によって変更され得る。この点についての原審 弁護人の指摘は、競争入札の実質を争う主張として解する余地もある。 この点について検討すると、優先交渉権を獲得した段階では、既に、比較的詳細な項目に沿って契約条件を提示し、複数の審査員による審査・採点も経ているから、これを変更するのは容易ではない。被告人Cも、合理的事情なく提案内容の変更を申し出れば信用に関わるため、一般的には提案したと おりの内容で契約に至っていた旨捜査段階で述べており、この供述は理由付 けを含め合理的なものであっ Cも、合理的事情なく提案内容の変更を申し出れば信用に関わるため、一般的には提案したと おりの内容で契約に至っていた旨捜査段階で述べており、この供述は理由付 けを含め合理的なものであって信用することができる。実際、Gと医療センターの契約はほぼ企画提案書のとおり締結されたことがうかがわれ、優先交渉権獲得後の交渉があっても、企画競争の結果は維持されていたといえる。 他方で、検察官が主張するとおり、競争入札においても、最も有利な条件を付した者が契約の相手方に選定されない場合がある(会計法29条の6第1 項ただし書)。 したがって、競争入札において落札者が直ちに契約の相手方になることと、本件企画競争の結果が優先交渉権の獲得にとどまることとの差異は、程度が小さく、競争入札の実質を有するかどうかの判断に当たって重視すべき事情とはいえない。 本件企画競争においては、Gにのみ医療センターの前記要望を教示したり、G以外の事業者からの企画競争実施予定の問合せに対して予定はない旨回答するなど、公平な競争とはいえない取扱いが認められる。そして、Aにおいては、その供述するとおり、敷地内薬局の開設を発案した当初からGと契約することを希望しており、本件企画競争の立案、実施を通じてGに有 利な取扱いをした末に、原判示犯行に至ったことが認められる。このようなことから、競争入札の実質が失われるとの疑問があり得なくもない。 しかし、このような取扱いやGを契約相手としたいという意図はあくまでA独自の考えによるものである。医療センターの病院長やそのほかの選定委員の供述を踏まえれば、医療センターとしては、あくまで、本件企画競争に おいて、客観的に優れた提案をして高得点を獲得した事業者を優先交渉権者として選定し、そのために、参加した事業 ほかの選定委員の供述を踏まえれば、医療センターとしては、あくまで、本件企画競争に おいて、客観的に優れた提案をして高得点を獲得した事業者を優先交渉権者として選定し、そのために、参加した事業者間で公平な競争をさせるとの意図であったと認められる。A自身も、あくまで競争の結果契約相手を選定することになると考えており、それゆえGに企画提案書の再提出を持ちかけたともいえる。 したがって、本件企画競争において、前記の不公平な取扱いがあるからと いって、競争入札の実質が失われているとはいえず、かえって、医療センターとしては、競争入札と同趣旨の目的で本件企画競争を実施していたというべきである。 エ以上を総合すると、本件企画競争は、競争入札との各種の相違点を踏まえても、その内容、手続及び目的等に照らして、単なる随意契約ではなく、 競争入札の実質を具備していると評価できるのであって、刑法96条の6第1項の「入札」に該当すると認めるのが相当である。 ⑷ 本件企画競争は「契約を締結するためのもの」に該当するか被告人両名の各原審弁護人は、最優秀提案者に選出されることによって獲得できるのは優先交渉権であり、優先交渉権の結果契約が締結されるのであ って、交渉の過程で契約内容が変更されることや契約に至らないこともあるのであるから、本件企画競争が「契約を締結するためのもの」には該当しないと主張する。 しかし、本件企画競争が契約締結に向けた相手方選定手続であることは明らかであり、優先交渉権獲得後の交渉の経過によって契約内容等の変更があ りうるとしても、あくまで優先交渉権獲得の過程における提案を踏まえた交渉が想定されているのであって、前記検討のとおり、競争入札との差異の程度は小さく、本件企画競争が契約締結に向けたもの があ りうるとしても、あくまで優先交渉権獲得の過程における提案を踏まえた交渉が想定されているのであって、前記検討のとおり、競争入札との差異の程度は小さく、本件企画競争が契約締結に向けたものであることに疑いはない。 そもそも「契約を締結するためのもの」との文言は、旧刑法96条の3のうち強制執行に関するものを96条の4として独立して規定した際、同条と保 護対象を区別するために設けられた文言であって、その保護対象を制限する趣旨のものとは解されない。 結局、本件企画競争について、「契約を締結するためのもの」ではないとして刑法96条の6第1項該当性を否定することはできない。 ⑸ 企画提案書の再提出等は「公正を害すべき行為」に該当するか 判示のとおり、Aは、本件企画競争において月額賃借料として450万円 を支払うなどとしたGの企画提案書について、G以外の事業者がGより高い支払額を提案していることやその概算を教示した上、提出書類についての提出後の追加及び変更は認めないとされていたにもかかわらず、提出期限後に、同企画提案書を返還し、支払額を増額した企画提案書を再提出するよう持ちかけ、被告人Bらは、これに応じ、月額賃借料として750万円などを支払 うなどとした企画提案書を再提出した。 以上の行為は、競争対象項目について、互いに他の事業者の提案内容を知らされずに提案して優劣を競い、期間内に提出された企画提案書の内容を公平に審査して最優秀提案者を定め、優先交渉権者とするという本件企画競争の趣旨に反する取扱いであり、特定の事業者にのみ再提出の機会が与えられ る不公平な取扱いでもあることも考慮すれば、入札の公正を害する行為であることは明らかである。 これに対し、被告人両名の各原審弁護人は、企画提案書の再提出は「公正 のみ再提出の機会が与えられ る不公平な取扱いでもあることも考慮すれば、入札の公正を害する行為であることは明らかである。 これに対し、被告人両名の各原審弁護人は、企画提案書の再提出は「公正を害すべき行為」に当たらないと主張し、その根拠として、最優秀提案者が獲得できるのは優先交渉権であり、必ずしも契約締結に至るわけではないこ とを挙げる。しかし、既に検討したとおり、必ず契約締結に至るかどうかの差異は、競争入札の場合と比較しても小さな程度にすぎないから、各原審弁護人の主張は、「公正を害すべき行為」に当たることを否定する理由とはならない。 なお、被告人Cの供述によっても、これまで企画競争でGが優先交渉権を 獲得した事案で契約締結に至らなかった件数は1件のみであり、それもそもそも敷地内薬局を開設しないことになったという例外的な事情によるものである。また、本件公募要領においても、優先交渉権付与の決定を取り消す場合は、医療センターが求める営業条件等を満たせないと判断した場合とされており、あくまで例外的な場合を規定したにとどまる。いずれも、前記判断 を動かす事情とはいえない。 ⑹ 結論したがって、判示のとおり、本件企画競争において他の事業者の提案内容を教示するなどした上で企画提案書を提出期限経過後に再提出させるなどした行為は、刑法96条の6第1項の「公の入札」で「契約を締結するためのもの」の「公正を害すべき行為」に該当する。 第3 当裁判所の判断以上の原判決の判断は、前提事実の認定及び医療センターが刑法96条の6第1項にいう「公の」入札等実施主体に当たるとした点は相当であるが、本件企画競争が同項にいう「入札」及び「契約を締結するためのもの」に該当するとした点については、同項の解釈及び適用を 刑法96条の6第1項にいう「公の」入札等実施主体に当たるとした点は相当であるが、本件企画競争が同項にいう「入札」及び「契約を締結するためのもの」に該当するとした点については、同項の解釈及び適用を誤ったものであり、是認 できない。 1 医療センターが刑法96条の6第1項にいう「公の」入札等実施主体に当たるか所論(以下、各弁護人の所論を一括して「所論」ということがある。)は、㋐本件事業が、公務員ではない者に医療を提供するものであり、公務員の生 活の安定と福祉の向上に寄与して公務の能率的運営に資する目的を有するとはいえない、㋑その形態及び本質において民間病院が事業主として活動するところとなんら異なるところはなく、およそ刑法上その事務を当然「公務」とするにふさわしくないものであると主張する。 しかしながら、㋐については、本件事業が公務員でない者に対しても医療 を提供するものであることは確かではあるものの、その基本的な性格は原判決が認定しているように公務の能率的運営等との関係で実施されるものである。また、㋑についても、医療センターの設置目的が、公務の能率的運営等であると解されることに照らせば、所論指摘の点を考慮したとしても、「公務」性が否定されるわけではなく、原判決が、①事業の公務性、②国家公務 員共済組合連合会の公法人該当性、③職員の公務員性、④国による監督の度 合いの各点に照らし、医療センターを「公の」入札等実施主体に該当するとした判断に誤りはなく、この点に関する所論は採用できない。 2 本件企画競争が同項所定の「入札」に該当するか⑴ 所論は、本件企画競争が随意契約の一種である企画競争であり、㋐一般競争入札に関して国家公務員共済組合法、同法施行規則及び国家公務員共 済組合連合会契約規程で定めら 定の「入札」に該当するか⑴ 所論は、本件企画競争が随意契約の一種である企画競争であり、㋐一般競争入札に関して国家公務員共済組合法、同法施行規則及び国家公務員共 済組合連合会契約規程で定められた手続が実施されていない、㋑本件企画競争では判断基準等が事前に明示されていない、㋒本件企画競争の公募要領に「公募型プロポーザル方式により選定する」と明記されている、㋓実際の審査も各採点者の自由な裁量によって優先交渉権者を選定するものであった、㋔参加事業者も入札ではなく企画競争と理解していた、㋕価格とのバランス において他の要素の持つウエイトが補充的とはいえないなどとして、本件企画競争は刑法96条の6第1項の「入札」には当たらないと主張する。 ⑵ そこで、以上の所論に加え、検察官の答弁も踏まえ、本件企画競争が刑法96条の6第1項の「入札」に当たるかを検討する。 原判決も指摘するように、旧刑法96条の3第1項制定時の状況に照らし、 同項所定の「入札」が会計法規上の競争入札に限定されるものではなく、会計法規上競争入札の形式でないものであっても、競争入札の実質を具備しているものについては、刑法96条の6第1項の「入札」に該当するものというべきである。 そして、入札とは、入札施行者において、自己に有利な契約内容を見出す ため入札者をして自由競争をさせる契約締結の方法をいうとされることから(原判示最高裁判所昭和33年4月25日判決)、競争入札の実質を具備すると認められるには、第1に、応募者の「競争」が実現される態様であることが不可欠であり、そのためには、応募者において何について他の応募者と競争することになるのか(競争の対象)、優劣の判定は何によってなされる のか(競争の優劣、落札者決定基準)が事前に明らかにされるなどして各応 、そのためには、応募者において何について他の応募者と競争することになるのか(競争の対象)、優劣の判定は何によってなされる のか(競争の優劣、落札者決定基準)が事前に明らかにされるなどして各応 募者に理解可能な状態にされていることが必要であり、落札者決定基準において、応募者の側に予想困難な裁量的要素が少なからず認められる場合は、前記「競争」の要件が満たされない。さらに、従前、競争入札においては最低(最高)価格落札主義が原則とされており、原判決指摘のような入札等を巡る契約方式の多様化を踏まえる必要はあるにせよ、同主義を逸脱ないし無 視するような方式であれば競争入札の実質を具備するものとはいえないから、入札価格とのバランスにおいて他の落札者決定要素の持つウエイトが補充的とはいえないような場合は、競争入札の実質を具備するものとは認められない。 なお、所論は、会計法規上随意契約とされるものについて、刑法96条の 6第1項の「入札」に含めることは罪刑法定主義に反するとも主張するが、同項が規定する「入札」と規定されるものが如何なる範囲のものと解釈するかの問題であり、前記のとおり、刑法96条の6第1項の「入札」について、会計法規上の競争入札に限定されないことを前提に、同「入札」の該当性について、前記の趣旨で「競争入札の実質を具備する」か否かを判断基準とす ることは、合理的かつ一般的に見ても十分了解可能なものであって、犯罪の成否に関する行為者の予測可能性が害されるなどとはいえないから、罪刑法定主義に反することにはならないというべきである。 ⑶ 以上を前提として、本件企画競争が刑法96条の6第1項にいう「入札」に当たるかを検討する。 ア本件企画競争の内容面について原判示のとおり、本件企画競争においては、応募 きである。 ⑶ 以上を前提として、本件企画競争が刑法96条の6第1項にいう「入札」に当たるかを検討する。 ア本件企画競争の内容面について原判示のとおり、本件企画競争においては、応募事業者は、企画提案書として、以下の8項目を記載したものを提出することが要求されており、各項目の配点基準は公表されていないものの、①事業者の概要・経営状況(薬局運営実績、同事業の対応実績等を含む)5点、②本件薬局の建築基本方針 (配置、面積、設計コンセプト、設備、パース、レイアウトイメージ等)1 0点、③運営方針及び実施体制(営業日、営業時間、人的体制、在庫管理等)5点、④危機管理及び災害・緊急時体制(薬品の応需体制、バックアップ体制等)5点、⑤事業スケジュール(設計、工事から開局までのスケジュール)5点、⑥収支計画(本事業の永続性及び安定性を示す事業計画)20点、⑦月額賃借料(㎡単価、算定根拠)30点、⑧その他自由提案(本事業の目的 を鑑み独自の提案があれば記載すること)20点の100点満点で評価されることとされている。 この点、原判決は、本件公募要領では、審査項目が8つに分けられ、さらに各項目内において審査される細項目もある程度列挙されているから、応募事業者はこれらの事項について他の応募事業者と優劣を競うことが求められ ているといえるとする。しかしながら、細項目を含めて、各審査項目を子細にみたところで、応募事業者において、何を企画提案書に記載すべきかの概要は理解できるとしても、各審査項目においてどのように優劣が決定されるかの基準を理解するのは困難であるし、各審査項目の配点が公表されていないのであるから、どの審査項目が重視されているのかさえ、ある程度予想は 可能であっても、正確に把握することはできない。本件公募 の基準を理解するのは困難であるし、各審査項目の配点が公表されていないのであるから、どの審査項目が重視されているのかさえ、ある程度予想は 可能であっても、正確に把握することはできない。本件公募要領は他の病院で行われた企画競争の公募要領を参考に作成されたもので、殊更特殊な内容ではない、などという原判示の事情を踏まえても、前記判断に影響しない。 さらに、原判決が認定するとおり、各項目の審査基準は審査員の判断に委ねられるとしており、実際の審査手続をみても、前記の審査項目及び細項目以 上に審査基準が示された形跡もないのであって、一定の判断基準によって審査されたともいい難く、各提案項目の採点は、各委員の大幅な裁量に委ねられているというほかないのであって、実際の配点も一般的に想定可能な程度の内容であるとする原判決の認定は支持できない。 また、原判決は、7名の審査員がそれぞれ採点してそれらを合計すること で最優秀提案者を決定するという方式によることで、判断の客観性、公平性 を保っているという。しかしながら、前記のとおり、各審査員がよって立つべき審査基準も存しないのであるから、そのような状況で審査した個々の結果を合計したからといって判断の客観性、公平性が保たれることにはならないし、採点結果について、病院内部における決裁に付され、国家公務員共済組合連合会契約監視委員会による点検等の対象ともなっているとする点をも ってしても、判断の客観性、公平性を担保するものとはいえない(現に、本件企画競争の採点について、前記のような問題点があるのに、それが指摘された形跡はない。)。 さらに、原判決は、配点割合が3割とされている月額賃借料等については、1億円1点という客観的基準が定められているという。しかしながら、1億 円1点では応募 それが指摘された形跡はない。)。 さらに、原判決は、配点割合が3割とされている月額賃借料等については、1億円1点という客観的基準が定められているという。しかしながら、1億 円1点では応募者間の差が付きにくいし、月額賃借料は対象となる土地の面積に影響されるはずであるところ(対象の土地が広くなればなるほど、賃料は高くなるはずである。)、最終審査に残った4社間でも、最も狭い土地面積を提案したJは290平方メートルであるのに対し、最も広い土地面積を提案したKは520平方メートルとなり、大きな差があるのに、単位面積当 たりの賃料ではなく、最終的には単純に賃借料等総額で比較している。また、企画提案書に記載すべき⑦としては、月額賃借料を記載することになっているのに、実際の審査においては、20年間の合計賃借料合計額に各提案者が提案した保証金等の額を単純合算して採点するなどしている。以上の採点方法は、応募者において容易に想定しがたいというほかない上、そもそも契約 当初に支払われることが想定される保証金と、20年間にわたって支払が行われる賃借料とを同列に扱うことに疑問があるし、保証金の返還の要否の扱いについても採点において考慮された形跡はない(4社中、Kを除く3社は返還不要としているが、Kは証拠上不明である。)。このように、比較的客観的とみえる採点基準を設けた月額賃借料の項目さえ、客観的かつ公平で、 応募者が容易に想定できる基準によって採点されていたとは到底認められな い。むろん、このような扱いになったのは、Gを優先交渉権者としたいAの意向によるものと解されるが(各委員に配付された採点表には、月額賃借料等の欄は予め事務方により計算された点数が記入されており、各委員の採点は行われていない。)、このような取扱いを許容するよ たいAの意向によるものと解されるが(各委員に配付された採点表には、月額賃借料等の欄は予め事務方により計算された点数が記入されており、各委員の採点は行われていない。)、このような取扱いを許容するような手続が現実にとられていた以上、その経緯が上記のとおりであっても本件の結論に影響しな い。 上記の各点は、本件企画競争において、優劣の判定は何によってなされるのかを決定する合理的かつ明確な基準が定められておらず、応募者に対して、事前に、競争の前提となる落札者決定基準が理解できる状況にあったといいがたいことを示している。 なお、検察官は、Gが当初提案した賃借料が他の事業者に比して低額であったことから、企画提案書の再提出がなされているところ、これは本件企画競争において月額賃借料額が重視されていたことを裏付けるという。しかしながら、これはGが当初提案した賃借料額の20年間の総額が他の事業者の半分以下とあまりに差があったためである。また、Aは、Gから企画提案書 の再提出を受け、依然Gの提案した賃借料が他の事業者よりも低いものの、Gの自由提案内容が優れているので十分Gに勝機があると思いながらも、月額賃借料の項目においても、他の事業者を上回っているように、Gが負担する費用等を明記するなど見せ方を工夫するよう伝え、Gが企画提案書の再々提出に応じたという経緯(原審乙4)が認められる。したがって、本件企画 競争において、賃借料額が相応に重視されていたことは確かであるとしても、自由提案の内容も補充的とはいいがたい程度に考慮されていたことが認められる。 また、原判決は、本件賃貸借契約の期間が20年間と長期間にわたるものであり、審査項目の中の⑥(収支計画)が賃料の継続的な支払を担保する項 目として考慮されており、長期的視点で見 められる。 また、原判決は、本件賃貸借契約の期間が20年間と長期間にわたるものであり、審査項目の中の⑥(収支計画)が賃料の継続的な支払を担保する項 目として考慮されており、長期的視点で見た場合の医療センターが得られる 経済的利益の期待値に関する配点割合が5割を占め、基本的考慮要素となっていたともいうが、各応募者の収支計画の優劣を評価する基準が存在したことはうかがえないし、実際の採点をみても、各審査員が独自の基準で採点しているというほかない。例えば、選定委員会の委員長のLは、年間売上額が最も大きいGと年間営業利益が最も大きいMを20点満点中最高点の19点 としたと供述している(原審甲27・16頁)が、年間売上額と年間営業利益とは別異のものであり、両者が最も大きいからといって共に高得点とするというのは合理的な採点とはいえない。原判決がいうように収支計画が、賃料の継続的支払を担保する項目として考慮されるのであれば、年間売上額ではなく、年間営業利益を基準として採点すべきと考えられるが、選定委員会 の委員長でさえ、採点基準の意味するところを理解せずに採点しているというほかない(そのほか、所論の指摘によれば、同じ資料をみて判断したはずであるJの収支計画の採点が7名の審査員間で1点から20点までのばらつきがあることがうかがわれ、この点も、共通の客観的な基準に基づいた採点がなされていないことをうかがわせる事情である。)。 以上のように、月額賃借料等の額の項目が、各審査項目中最も高い配点を割り当てられているとはいえ、その実態をみる限り、その額を中心として採点されたとはいいがたく、加えて収支計画の項目についても、前記のような実情でしかない。したがって、本件企画競争においては、長期的視点で見た場合の医療センターが得られ をみる限り、その額を中心として採点されたとはいいがたく、加えて収支計画の項目についても、前記のような実情でしかない。したがって、本件企画競争においては、長期的視点で見た場合の医療センターが得られる経済的利益の期待値に関する配点割合が5割 を占め、基本的考慮要素となっているとの原判決の判断は、前提を欠くものというほかない。 そうすると、本件企画競争は、応募者において、何について他の応募者と競争することになるのか(競争の対象)、優劣の判定は何によってなされるのか(落札者決定基準)が、理解可能な状態にされているとはいえないどこ ろか、審査員においてさえ、優劣の判定基準に関する理解が共有されている とは到底いいがたい状態にあったというほかなく、落札者決定基準において応募者の側に予想困難な裁量的要素が少なからず認められるほか、配点基準上最も重視されている月額賃借料とのバランスにおいて他の要素の持つウエイトが補充的ともいえない。したがって、本件企画競争については、医療センター側に優先交渉権者として選ばれるように応募者間で競争を行っている かのごとき外観を呈していても、それは、競争入札におけるのと同様な意味で、優劣の判定が事前に開示された合理性明確性を備えた一定の基準に基づいて行われる「競争」には当たらないことなどから、内容面において、競争入札の実質を具備すると認めることには合理的な疑いが残るといえる。 イ本件企画競争の手続面について 原判決は、あらかじめ非公表の予定価格を定める、不特定多数の参加者を公募し、その期間についても競争契約に関する法令上の規定に準じ10日間確保する、参加者は互いに他の者の提示内容を知らずに契約内容を提示する、発注者はあらかじめ定まった具体的基準に従い提示内容に順位をつけるといった点 ついても競争契約に関する法令上の規定に準じ10日間確保する、参加者は互いに他の者の提示内容を知らずに契約内容を提示する、発注者はあらかじめ定まった具体的基準に従い提示内容に順位をつけるといった点は、競争入札ほど厳格ではないにせよ、いずれも手続の競争性を担保 する意義を有するものであるほか、本件企画競争は、提出期間内に提出された企画提案書の優劣で最優秀提案者を選出するものであって、その後に企画提案書の重要部分を変更して再提出するようなことは予定されていないというべきであり、徹底の度合いはともかくとしても、競争入札と同趣旨の公平な競争を志向する仕組みといえる、などとして手続面からも本件企画競争が 競争入札の実質を有するという。しかしながら、手続面と内容面とでは問題のレベルが異なり、既に述べたように、本件企画競争は、その内容面において、優劣の判定が合理性明確性を備えた一定の基準に基づいて行われるものとはいいがたい以上、原判決がいうように、手続面で公平な競争を志向している点が認められるからといって、ただちに、内容面でも競争入札の実質が 具備されることにはならない(付言すると、近時、随意契約においても、そ の手続の競争性及び透明性が求められているところに照らせば、医療センター側において、本件事業において求めるべき事項のいくつか(こうなんの杜の移転、薬局内の福利厚生スペース等を設けるなど)は明確であったのであるから、これを公募要領に明示した上で企画提案書の募集を行うべきであったというべきであって(そもそも随意契約の形式で行うべきであったかも検 討の余地はあり得る。)、本件企画競争が、手続の競争性及び透明性の確保といった要請に合致する適正なものであったかは大いに疑問があるし、他の事業者の提案内容をGに伝えるなどして、 であったかも検 討の余地はあり得る。)、本件企画競争が、手続の競争性及び透明性の確保といった要請に合致する適正なものであったかは大いに疑問があるし、他の事業者の提案内容をGに伝えるなどして、企画提案書の再提出を求めたAの行為や、その示唆に応じて企画提案書の再提出を行ったG側の行為は手続の「公平を害すべき行為」であることは明らかであるが、その前提として、本 件企画競争が、前記のとおり競争入札の実質を具備するとは認められない以上、刑法96条の6第1項の「入札」に該当することはないというほかない。)。 3 本件企画競争は「契約を締結するためのもの」に該当するか⑴ 所論は、刑法96条の6第1項の「契約を締結するためのもの」にい う「契約」とは競争の結果として締結する契約をいうところ、企画競争手続においては、提案内容の「競争」の結果として契約が締結されるのではなく、優先交渉権者として特定された後に展開される「交渉」の結果として契約が締結されるものであり、本件企画競争も同様であって、同項にいう「契約を締結するためのもの」に当たらないなどと主張する。 ⑵ 所論及び検察官の答弁を踏まえて検討すると、本件公募要領には、優先交渉権者の決定後、病院運営と調整を図るため、薬局開設に伴う協議を行うが、提案内容は尊重しつつもこれに拘束されず、協議によって変更が生じる場合があるなどと記載されている上、前記2で検討した本件企画競争における審査の実情に照らせば、実際の契約締結に当たっては、優先交渉権者と して選定された事業者と医療センターとの間で、あらためて、本件企画競争 において提案した内容を基礎としつつ、交渉を行い、契約締結することが想定されているというべきであり、交渉の結果、契約締結に至らないことや当初の企画提案書と との間で、あらためて、本件企画競争 において提案した内容を基礎としつつ、交渉を行い、契約締結することが想定されているというべきであり、交渉の結果、契約締結に至らないことや当初の企画提案書とその内容を異にする契約が締結されることも十分想定されているというべきであって、提案書の提出は「契約締結に向けてする」とはいえても、「契約を締結するためのもの」とはいえない。そして、立法経緯 に照らして「契約を締結するためのもの」との文言は保護対象を制限する趣旨のものとは解されない旨の原判決の指摘や、本件契約が結果的にGの提案内容のとおり締結されたことによっても、前記判断が左右されることにはならない。 4 結論 以上より、本件企画競争は、刑法96条の6第1項の「入札」及び「契約を締結するためのもの」に当たらず、被告人両名の本件公訴事実の各行為は罪とならないことは明らかであるから、これと異なる法の解釈適用により、被告人両名を有罪とした原判決の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり、法令適用の誤りの論旨は理由がある。 そうすると、被告人Cに係る事実誤認の論旨について検討するまでもなく、被告人両名について、公契約関係競売入札妨害罪が成立するとした原判決は破棄を免れない。 第4 自判よって、刑訴法397条1項、380条により、原判決を破棄し、同法4 00条ただし書を適用して、被告事件について更に判決することとする。 前記のとおり、本件企画競争は、刑法96条の6第1項の「入札」及び「契約を締結するためのもの」に当たらず、結局、本件公訴事実については罪とならないことに帰するから、刑訴法336条により、被告人両名に対し無罪の言渡しをする。 令和7年1月28日 札幌高等裁判所刑事 主文 もの」に当たらず、結局、本件公訴事実については罪とならないことに帰するから、刑訴法336条により、被告人両名に対し無罪の言渡しをする。 理由 令和7年1月28日 札幌高等裁判所刑事部 裁判長裁判官青沼 裁判官高杉昌希 裁判官並河浩二
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