件名平成16年1月23日宣告,平成15年合(わ)第314号,強盗殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件 主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中130日をその刑に算入する。 押収してある包丁の刃1本(平成15年押第1645号の1)及び包丁の柄1本(同押号の2)を没収する。 理由 (犯行に至る経緯等)第1 本件犯行当日に至るまでの経緯等 1 被告人は,東京都東大和市の中学校を卒業した後,工員や風俗店,パチンコ店の店員などをしていたが,昭和54年ころから,Aと同棲を始め,昭和62年9月にAと婚姻した。被告人とAは,婚姻した当初2人ともパチンコ店の店員などをして働いていたが,被告人は,平成10年ころには仕事をやめ,以後は主にAの収入で暮らす生活をしていた。 2 B(昭和25年12月生)は,C(昭和50年7月生),D(昭和62年12月生)の2子をもうけ,保険外交員,飲食店店員などをして働いた後,平成15年7月の後記「罪となるべき事実」記載の本件各犯行当時は,生活保護を受給しながら,東京都板橋区ab丁目所在の後記Ec号室でDとともに暮らしていた。 3 被告人とAは,平成2年ころ,同区ab丁目所在のアパートFd階に住み始めたが,このとき,このアパートのe階にはBがDと2人で住んでいたことから,被告人とAは,B親子と親しく付き合うようになり,この付き合いは,平成6年ころ被告人夫婦が同区fg丁目h番i号Gアパート(公団住宅)に引っ越したことによりいったん途切れたが,平成10年ころ,AとBが偶然再会したことにより,また再開することになった。 4 Aは,この再会の1ないし2箇月後くらいから,Bに頼まれて金を貸すようになり,その後は,ほぼ毎月のように数万円程度を貸し続け,その総額は150万円くらいに達したが,Bは,Dが将来働くようになったら返 Aは,この再会の1ないし2箇月後くらいから,Bに頼まれて金を貸すようになり,その後は,ほぼ毎月のように数万円程度を貸し続け,その総額は150万円くらいに達したが,Bは,Dが将来働くようになったら返すなどと言って,その返済をしようとせず,Aも,特段Bに強く返済を迫ることはしないで,上記のように,Bに頼まれると金を貸すことを続けていた。そして,平成15年1月10日ころ(以下,特に断りのない限りは「平成15年」のことである。),Aは,Bから,Dの高校進学に必要だからという理由でまた10万円の借金を申し込まれた。 Aは,これまでは,Bに頼まれると,被告人にも断らず,A自身の手持ちの金の中からBに金を貸していたが,このときには,手元にもあまり余裕がなくなり,金額もいつもより大きかったこともあり,どうしても必要なら被告人に話してみるようにとBに言ったところ,Bが被告人に相談して,被告人も貸付けに同意し,被告人がAから渡された予備の生活費を使ってBに10万円を貸し付けた。なお,このとき,Bは,被告人に対し,2月半ばころと3月半ばころにそれぞれ5万円ずつを返済する旨約束した。 5 ところで,被告人は,Aと結婚生活を始めて以来,気に入らないことがあると,家の中の家具類を壊したり,Aに暴力を振るう行動に及ぶことがあったが,1月31日ころ,ささいなことでまたAに腹を立てた挙げ句,Aのバッグや財布などをはさみで切ったりしたばかりか,ぜんそくの持病があるAが使用している吸引機のボンベを引き抜き,更にはAの身体を殴打したり足蹴にしたりするなどの行動に及んだ。Aは,被告人からこのような仕打ちまで受けるに及んで,もはや家を出て被告人と離婚しようと考え,Bにその意思を伝えると,Bは協力してくれるとのことだったので,Aはその決心を固め,2月5日早朝,被告人が寝ているすき からこのような仕打ちまで受けるに及んで,もはや家を出て被告人と離婚しようと考え,Bにその意思を伝えると,Bは協力してくれるとのことだったので,Aはその決心を固め,2月5日早朝,被告人が寝ているすきに,住居である前記Gアパートj号室を出,その日からCがその妻子とともに住む同区ak丁目所在のアパートに同居させてもらい,被告人からは所在を隠して暮らすようになった。なお,Aは,4月にはC方を出て埼玉県和光市に転居したが,被告人に対しては依然その所在を隠していた。 6 そして,Aは,2月6日以降,BとともにH警察署へ行って被告人の暴力について相談するなどした上,被告人との離婚に向けて,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律に基づく保護命令を東京地方裁判所に,離婚調停を東京家庭裁判所にそれぞれ申し立てたり,生活保護受給のための手続をするなどした。こうして,3月17日,東京地方裁判所から,被告人に対し,以後6箇月間前記Gアパートj号室以外の場所でAの身辺につきまとい,又は上記住居以外のAの勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいすることを禁ずる旨の保護命令が出されたが,離婚調停は,3月24日に東京家庭裁判所で開かれた期日に被告人が出頭しなかったため,不調となった。 なお,この間,被告人は,Aが家出をした2月5日にAの捜索願を板橋警察署に出すなどしたが,間もなく,Aが被告人との離婚を望んでいることなどを知るに至り,また,2月下旬ころには,Bと電話で話をした際の同女の話しぶりなどから,BはAの居場所を知っているが自分に隠していると察するようになった。 ところで,被告人は,Aと結婚する前にトルエン等を吸入していたものの,結婚後はそれを断っていたが,5月初めころから,Aに出て行かれた寂しさなどのためまたトルエンに手を出すよ するようになった。 ところで,被告人は,Aと結婚する前にトルエン等を吸入していたものの,結婚後はそれを断っていたが,5月初めころから,Aに出て行かれた寂しさなどのためまたトルエンに手を出すようになり,以後トルエンを購入しては自宅で常用するようになった。 7 Aは,家を出るとき,20万円くらいの現金を被告人のもとに残してきたが,被告人は,引越しのアルバイトなどでいくらかの収入を得てはいたものの,他には収入のあてもないことから,室内にあった家電製品や家具,更にはゲームソフトなどまで売却して金を捻出していたが,生活費のほか,パチンコや風俗店などの遊興費等で費消してしまい,Gアパートの4月分の賃料も滞納するようになった。 そこで,被告人は,6月初めころ,友人から10万円を借りて,4月分の賃料はかろうじて支払うことができたが,その後の賃料は未払いを続けた。なお,被告人は,Bに対して前記4の10万円の貸金を返済するよう求めていたが,Bは,Aの方に返すなどと言いながら,結局はその要求に応じず,返済を受けられない状態が続いていた。 8 被告人は,前記保護命令によりAとの接近を禁じられていたにもかかわらず,やはりAの所在を探して同女と会いたいと強く思っていたところ,6月10日ころ,Bと電話で話した際,翌日AがI病院に受診に来るかもしれないとBから聞き,翌11日ころ,同女とともに同病院に行った。もっとも,そのときにはAが現れず,被告人はAに会うことができなかったが,その帰り道にBと一緒にH警察署の前を通りかかった際,Bが被告人に対し,2月にAと一緒にこの警察署に相談に来たなどと話すのを聞いて,被告人は,やはりAの家出や保護命令,離婚調停の申立てなどについては,すべてBが入れ知恵をしていたのだと思い,Bに対して強い不快の気持ちを抱いた。さらに,被告 察署に相談に来たなどと話すのを聞いて,被告人は,やはりAの家出や保護命令,離婚調停の申立てなどについては,すべてBが入れ知恵をしていたのだと思い,Bに対して強い不快の気持ちを抱いた。さらに,被告人は,その日の夜,またBと電話で話をした際,Aがかねて勤め先のパチンコ店の系列会社の関係者と不倫関係にあったとBから聞かされて,強い衝撃を受け,6月12日ころには,かつてAが勤めていたパチンコ店に行って,事情を問いただそうとするなどもした。被告人は,このようなこともあって,何としてもやはりAの居場所を探し出し,同女と会って,離婚を求めた事情を問いただしたいなどと考えるとともに,上記のように,Bが借金も返済しない一方で,離婚のためAに入れ知恵をして,自分にはAの居場所も教えようとしないなどとして,Bに対して強い反感を抱くに至った。 9 このように,被告人は,Bに対して反感を募らせていったところ,6月13日ころ,トルエンを吸入しながらあれこれ考えるうち,B方に包丁を持って押し掛けて,同女を包丁で脅してAの居場所を聞き出し,どうしてもBが応じなければ同女を包丁で刺し殺しても仕方がないなどと考えるに至り,テレビ局数局に電話して,これから大きな事件を起こす,人を殺すかもしれないなどと話したが,相手にされなかった。それから,被告人は,今度は友人に電話して,人を殺しに行くなどと話したところ,驚いた友人らが被告人方に駆けつけてきて,落ち着くように説得されたため,思いとどまるに至った。 10 ところで,被告人は,前記のとおり,Aが家出をしてからは,特段の収入もなく,経済的に極めて窮迫した状況にあり,家財道具等を売っては何とかその場をしのいでいくという暮らしを続けていたが,6月30日には,いよいよ手持ちの所持金も7000円くらいしかなくなり,Gアパートの賃料 ,経済的に極めて窮迫した状況にあり,家財道具等を売っては何とかその場をしのいでいくという暮らしを続けていたが,6月30日には,いよいよ手持ちの所持金も7000円くらいしかなくなり,Gアパートの賃料も借金をして4月分をようやく支払ったものの,5月分と6月分が未払いで,その支払の目処も立たないという状況に立ち至った。そこで,被告人は,同日午前中に,公団事務所に電話して事情を話したところ,応答に出た職員は今すぐ支払えなければ近いうちに支払ってくれればいいと答えてくれ,いったんは安心して電話を切ったとはいうものの,以後の収入の目処も立たない上,賃料の未払いを3箇月続けていたら立ち退かなければならなくなると聞いていたこともあり,このままではアパートを退去せざるを得なくなる,何とかして賃料を支払う方法がないかなどと考えるうち,この際やはりBから前記10万円の貸金を返済してもらおうと考えるに至った。 第2 本件犯行当日の状況等(強盗予備の犯罪事実等を含む。) 1 被告人は,7月1日,朝起床すると,またトルエンを吸入するなどしてすごした後,前記のとおり,やはりBから10万円の借金をいくらかでも返してもらおうと考え,午後1時ころ,自宅近くの公衆電話から同女方に電話したところ,Bは,全額は返せないが,4万ないし5万円くらいなら返せると答えたので,被告人は,それを受け取るべく同女方へ赴くこととした。もっとも,被告人は,このように金に窮して何としても貸金の一部でも返済を受けようと思い,またこの機会にBからAの居場所も聞き出したいとも考えたものの,Bはこれまでも借金を約束どおり返済してこなかったので,自宅に行けばまた返済を渋るかもしれないし,Aの居場所についてもこれまでの経緯からして求められるままには教えてくれないだろうなどと考えるうち,6月13日ころいっ 約束どおり返済してこなかったので,自宅に行けばまた返済を渋るかもしれないし,Aの居場所についてもこれまでの経緯からして求められるままには教えてくれないだろうなどと考えるうち,6月13日ころいったん計画したように包丁を使用することをまた思いつき,Bが借金返済を渋るときは,包丁を突きつけて同女を脅し,場合によっては更に包丁で同女を刺してでも,金員を強取して,貸金の返済を受ける目的を達するのもやむを得ないし,BがAの居場所を任意に明かさない場合にも,やはり前同様にして包丁を使ってでもBから聞き出そうと考えるに至った。そこで,被告人は,Bに対しては,自宅に帰って包丁を用意するための時間を見込んで,自分が実際よりB方から遠くにいるように装い,今池袋にいてこれからB方に赴くとの趣旨を言って電話を切った上,いったん自宅に帰って,柳刃包丁(刃体の長さ約20センチメートル。 平成15年押第1645号の1はその刃で,同押号の2は後記「罪となるべき事実」第1の犯行の際衝撃によって刃と分離した同包丁の柄)を手に取り,刃が長すぎて一部はみ出した状態のままこれをショルダーバッグの中に入れて持ち出し,さらに,自分に勢いをつけようという意図から,自宅で吸入していたトルエンの缶も持って,自宅を出た。 2 被告人は,自宅近くからタクシーに乗車して前記Eの近くまで行き,タクシーを降りた後歩きながらトルエンを吸入し,午後2時ころ,Ec号室のB方に到着し,同女から,居間に招じ入れられた。被告人は,居間のテーブルをはさんでBと向かい合って座り,その後,既に帰宅していた高校1年のDも加わって3人でしばらく話をしたが,そのとき,被告人は,居間の電話台の上にBのものと思われる財布があるのを目にし,その中にはBが電話で言っていた4万ないし5万円くらいは入っているだろうと思い,Bが任 わって3人でしばらく話をしたが,そのとき,被告人は,居間の電話台の上にBのものと思われる財布があるのを目にし,その中にはBが電話で言っていた4万ないし5万円くらいは入っているだろうと思い,Bが任意に返済しようとしない場合でもその財布は強取しようなどとも考えた。もっとも,被告人は,Dが一緒にいる席では,貸金の返済やAの居場所の話がしづらいし,Dの前で包丁を使うわけにもいかないと思ったことから,たばこを買ってきてくれとDに頼み,Dはいったん渋ったものの結局これを引き受けて近くのたばこ屋に出かけた。 被告人は,こうして,室内にBと2人だけになると,Bに対し,「おれも,妻に逃げられてから毎日の生活にも困っているんだ。」とか,「前から言っていて悪いけど,もう一度かみさんと会いたいから,連絡先を教えてくれないか。本当に居場所を知らないのか。」などと,貸金の返済を促したり,Aの居場所を尋ねる趣旨のことを言ったが,Bは,Aの居場所は本当に知らないなどと答え,そのうち,折から携帯電話にメールが入ると,携帯電話の操作を始め,被告人が「大事な話なんだけど。」などと言って,被告人との話を続けるように求めても,それに特段取り合わないで,携帯電話の操作を続けた。被告人は,このようなBの態度を見て,無視され,馬鹿にされたなどと感じるとともに,電話で約束していた貸金の返済をしようともしないBの態度に対しますます憤りが高じるとともに,これまでAが被告人のもとから逃げ出すのを手伝った上,Aの居場所を知らないなどと言い続けてきたBに対する恨みや憎しみがいよいよ押さえ難くなって激高し,ここに同女を殺害しようと決意するとともに,その際に上記財布に在中する金員を強取しようと決意するに至った。 (罪となるべき事実)こうして,被告人は,第1 B(当時52歳)を殺害し, なって激高し,ここに同女を殺害しようと決意するとともに,その際に上記財布に在中する金員を強取しようと決意するに至った。 (罪となるべき事実)こうして,被告人は,第1 B(当時52歳)を殺害し,その際金員を強取する目的で,平成15年7月1日午後2時10分ころ,東京都板橋区ab丁目l番m号Ec号室の同女方において,ショルダーバッグから前記柳刃包丁(平成15年押第1645号の1は刃,同押号の2は柄)を取り出し,これを右手で逆手に持って立ち上がり,座って携帯電話を操作している同女の背後に回り込み,同包丁で同女の背部を1回突き刺したが,同包丁の刃が同女の身体に深く突き刺さって抜けなくなり,これを抜こうとしたところその柄だけが取れてしまったことから,同女方台所にあった刃体の長さ約18センチメートルの牛刀1本及び刃体の長さがそれぞれ約16センチメートルと約15.5センチメートルの鎌形包丁2本を次々に持ち出して,これらの牛刀等で同女の背部等を多数回突き刺し,同女に背部刺切創等の傷害を負わせ,その反抗を抑圧して,同女所有又は管理に係る現金12万4170円及びキャッシュカード1枚ほか67点在中の前記財布1個(時価約1万円相当)を強取し,同日午後4時25分ころ,同区n町o番p号J病院において,同女を上記背部刺切創による心臓及び下大静脈刺切創に起因する失血死により死亡させて殺害し,第2 業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午後2時10分ころ,前記B方において,前記柳刃包丁1本を携帯した。 (補足説明)弁護人は,被告人には,Bを殺害するに際して金員を強取する意思がなかったから,判示第1の事件について,強盗殺人罪は成立せず,殺人罪と窃盗罪が成立するにすぎない旨主張するので,この点について補足して説明する。 1 既におおむね前記「犯行に至る経緯等 強取する意思がなかったから,判示第1の事件について,強盗殺人罪は成立せず,殺人罪と窃盗罪が成立するにすぎない旨主張するので,この点について補足して説明する。 1 既におおむね前記「犯行に至る経緯等」及び「罪となるべき事実」の各項で認定,摘示したように,関係証拠によれば,①被告人は,それまで家計を支えてきたAが家出した後,Aが残していった20万円くらいと家財道具等を売却して得た金銭のほか,若干のアルバイト収入によって生活していたところ,生活費のほか,パチンコや風俗店等の遊興費に多くを費やしたこともあって,金銭に窮し,アパートの賃料支払も滞りがちとなり,4月分は友人からの借金で何とかまかなったものの,5月分以降は支払う目処が立たなくなったこと,②被告人は,6月30日,5月分及び6月分の賃料滞納について公団に説明して一応の理解を得ることはできたが,3箇月分の賃料を滞納するとアパートを退去しなければならないと聞いていたこともあり,その当時,被告人の所持金はわずか7000円程度しかなくなり,他方,7月以降に収入を得られるあても特段なかったことから,被告人は,このままではアパートを退去しなければならなくなるのではないかとの危惧を抱き,この際,Bに貸している10万円を全部ではなくても返してもらい,それをアパートの賃料の支払に充てようと考え,7月1日午後1時ころ,同女に10万円の貸金の返済を求める電話をしたところ,同女からは4万ないし5万円くらいであれば返済できる旨の返答を得たことから,同女方に行くこととしたこと,③被告人は,それまでのBの借金返済に対する態度などから,同女がいざとなったら借金の返済を渋るかもしれないと考えるとともに,この際,これまで同女からはぐらかされてきたAの居場所を聞き出そうと考え,そのためには,包丁を突き付けて脅し,場合に 態度などから,同女がいざとなったら借金の返済を渋るかもしれないと考えるとともに,この際,これまで同女からはぐらかされてきたAの居場所を聞き出そうと考え,そのためには,包丁を突き付けて脅し,場合によっては更に包丁で同女を刺すようなことをして,金員を強取してでも,貸金返済分の金を支払わせ,かつAの居場所を明らかにさせようと考え,アパートの自室に戻り,刃体の長さ約20センチメートルの前記柳刃包丁を持って,同女方へ向かったこと,④被告人は,B方の居間に通されて座ったが,そのとき,室内の電話台にBの財布が置いてあるのに気付き,この財布の中には同女が先に話していた4万ないし5万円くらいの金が入っているだろうと思うとともに,Bが任意に返済しようとしない場合でもその財布は強取しようなどとも考えたこと,⑤被告人は,口実を設けてDを外出させた上,Bと2人きりになると,借金返済を催促する趣旨で「おれも,妻に逃げられてから毎日の生活にも困っているんだ。」と言ったり,Aの居場所を教えてくれるよう頼んだりしたが,Bはそのうち携帯電話の操作を始めて,被告人の話にあまり取り合わない態度をとるようになり,被告人は,判示の経緯で激高して,合計4本の包丁を使用し,同女の背部等を多数回突き刺す行為に及んだこと,⑥被告人は,Bを刺突し終えると,室内にあったBの携帯電話をいったん取り上げて放り投げ,その後直ぐ上記財布を取り上げて,それを自分のズボンの下の部分に差し入れて持ち出したが,その間の行動は,ごく短時間の間(ちなみに,被告人がBに対する刺突行為を始めてから同女方を立ち去るまでの時間は,約3分程度にすぎなかった。)に,特段のちゅうちょ逡巡もなく一連の動作として行われたこと,⑦被告人は,こうして上記財布を持ってB方から逃走したが,その後間もなく,本件で逮捕された後にも自 時間は,約3分程度にすぎなかった。)に,特段のちゅうちょ逡巡もなく一連の動作として行われたこと,⑦被告人は,こうして上記財布を持ってB方から逃走したが,その後間もなく,本件で逮捕された後にも自分の金として使いたいという意図で,この財布の中から現金11万2000円を抜き取って,自分の財布の中に移し替えるなどもしたこと等の事実を認定することができる。 2 前記1の事実認定について補足すると,弁護人は,被告人が7月1日午後1時ころB方に電話したのは,Aの居場所を更に聞き出すためであり,その際Bの方から,これまでのやり取りを踏まえて,4万ないし5万円くらいなら借金を返済できるという話があったのであって,被告人の方から貸金の返済を要求したものではなく,その後B方に赴いたのも,Aの居場所を聞き出すのが主たる目的であって,貸金の返済を受けるのは付随的なことにすぎなかったという趣旨を主張し,被告人も,公判で,これに沿うかの趣旨を供述している。 一方,被告人は,捜査段階では,当初の供述を別として,7月1日午後1時ころB方に電話したのは,金に困って貸金の返済を求めようと思ったからである,実際に,電話の中で,被告人の方から貸金の返済を求める趣旨を申し向けたところ,Bが4万ないし5万円くらいなら返済できる旨話したので,同女方に赴くことにしたのであり,この機会にAの居場所を聞き出したいという意図もあったが,貸金の返済を受ける意図もあった,しかし,これまでの経緯に照らしても,Bは実際には借金の返済を渋るかもしれないから,そのときには包丁を突きつけて脅し,場合によってはこれで同女を刺してでも貸金の返済分の金を支払わせよう,同様にしてAの居場所も聞き出そうと考え,柳刃包丁を用意してB方に赴いた,などと供述している。 捜査段階における取調べ状況等について弁護 てはこれで同女を刺してでも貸金の返済分の金を支払わせよう,同様にしてAの居場所も聞き出そうと考え,柳刃包丁を用意してB方に赴いた,などと供述している。 捜査段階における取調べ状況等について弁護人が主張し,被告人が公判で述べている内容等に照らして慎重に考察しても,捜査段階における被告人の供述には,その任意性に疑いをいれるような事情があるとはおよそ認められない。のみならず,その内容について検討しても,金に困り,この際Bから貸金を返済してもらおうと考えて同女に電話した上,同女にその旨申し向け,その返済を受けるべく同女方に赴いたという被告人の上記捜査段階供述は,当時の被告人の極めて窮迫した経済状況等の客観的な諸事情に照らしても,自然で無理がなく,その信用性を十分肯定するに足りる。 これに対し,被告人は,公判では,弁護人の主張に沿い,7月1日にBに電話したり,柳刃包丁を持って同女方に赴いたりしたのは,Aの所在を知るためで,貸金の返済要求のためではなかったかの趣旨を供述するが,その公判供述の中には,Bに電話したり,柳刃包丁を持って同女方に赴いた際の被告人の気持ちの中に,貸金の返済を求める意図があったことを否定しないかの趣旨を述べる部分もあるなど,その供述内容自体,決して一貫していない。その上,被告人が経済的に窮迫し,7月分の賃料の支払も目処が立たなくなったため,7月1日に至ってBに電話して貸金の返済を求めたところ,同女がその一部を支払うと言ったため直ちに同女方に赴くことにしたという上記捜査段階供述が,関係の状況にも照らし,自然に理解できるのに対し,被告人はそれまでもBにはAの居場所を教える気がないことは分かっていたことが容易にうかがわれるのに,7月1日のこの時期に,貸金の返済問題とは関わりなく,専らAの居場所を知るためあえて包丁まで持っ ,被告人はそれまでもBにはAの居場所を教える気がないことは分かっていたことが容易にうかがわれるのに,7月1日のこの時期に,貸金の返済問題とは関わりなく,専らAの居場所を知るためあえて包丁まで持ってB方に行こうとしたという趣旨と解される被告人の公判供述部分は,誠に不自然,不合理で,その信用性を肯認し難いというほかはない(確かに,先にも認定したとおり,被告人は,6月13日ころにも,Bに対し,包丁を使ってでもAの居場所を聞き出そうと試みようとしたことがあったことはうかがえるが,このときは,被告人は,その直前の時期に,BがAの家出等について種々の助力をしていたことを知り,しかもAが長く不倫関係を持っていたなどとも聞いてひどく憤慨し,その気持ちの赴くまま,Bに迫ってAの居場所を聞き出した上,Aに会って,不倫関係の有無を含め,Aが離婚を求めるに至った事情について問いただしたいと考え,上記のような行動を試みようとしたことがうかがえるのであって,本件とは事情が異なるところがあるから,6月13日ころにも上記のような出来事があったから,本件当時もまた被告人が専らAの居場所を知るため包丁を持ち出すようなことをしてB方に赴いたとしても特に不自然ではないというような見方をするのは当たらない。)。 結局,信用性を肯定できる被告人の上記捜査段階供述にその他の関係証拠を総合すると,前記1で摘示した各事実をすべて認定できることが明らかであるから,この点を争う弁護人の主張は採用することができない。 3 そして,前記1で認定した各事実によれば,被告人は,経済的に著しく窮迫して賃料の支払もままならなくなり,このままではアパートを退去させられてしまうなどの危惧も抱いたことから,Bから貸金の返済を受けてそれを賃料の支払に充てようなどと考え,前記の経緯で同女に貸金返済を求め て賃料の支払もままならなくなり,このままではアパートを退去させられてしまうなどの危惧も抱いたことから,Bから貸金の返済を受けてそれを賃料の支払に充てようなどと考え,前記の経緯で同女に貸金返済を求めるため同女方に行くこととしたが,その際には,同女が返済を渋ったら前記柳刃包丁を突きつけて脅し,更にはこの包丁で刺すようなことをしてでも返済分の金員を支払わせようと考えて,上記柳刃包丁を携行して同女方に赴き,すなわち,条件付きのものとはいえ強盗の犯意を有して本件犯行現場に臨み(なお,このとき,被告人がBに対し貸金の返済を求めるのと併せて,Aの居場所を聞き出そうという意図も有していたことは,前記認定のとおり。),B方でしばらく同女と話をするうち,室内に同女の財布があるのも認識した(なお,被告人は,捜査段階で,この財布を認めたとき,「Bが返済を拒んでもあの財布は取ってやろうと思った」旨供述しているところ,この供述の信用性も肯認するに足りる。)が,Bが被告人の話にあまり取り合おうとしない態度をとるうち,判示の経緯で同女の殺害を決意して,上記柳刃包丁等を使って同女を繰り返し刺突する行為に及び,刺突行為終了後やはり時間的隔たりをおかずに,かつ,特にちゅうちょすることもなく,上記財布を取得し,その後その中の現金を自分の財布に移し替えるなどもしたと認められるのであるから,他に特段の事情がうかがわれない限り,このような被告人には,本件犯行現場に臨むころからBの財布を取得するまでの間,強盗の犯意が継続して存在しており,かつ,被告人が,同女に対して任意の返済を求めることをやめて,本件の刺突行為に及んだ時点で,この強盗の犯意が確定的なものとなったと考えるのが自然である。したがって,被告人には,Bに対する刺突行為を開始するに当たって,同女の反抗を抑圧して同女の財布 をやめて,本件の刺突行為に及んだ時点で,この強盗の犯意が確定的なものとなったと考えるのが自然である。したがって,被告人には,Bに対する刺突行為を開始するに当たって,同女の反抗を抑圧して同女の財布の中に入っている現金を強取しようとする意思,すなわち強盗の故意があったと強く推認することができる。もとより,関係証拠によって認められる本件の事実関係に照らすと,被告人の金員強取の意思は,当初の段階では,主としてBを包丁で脅して貸金返済名下に金員を交付させるというものであり,前記経緯でBの殺害を決意してからは,同女の殺害の機会に金員を取得するというように,状況の変化につれてその内容を変えるに至ったことはいうまでもないが,強取の意思自体は,継続して存在していたと認められるのである。 補足すると,確かに,関係証拠に照らすと,被告人がBの殺害を決意するに至った経緯には,Bが被告人の話にあまり取り合おうとしないで携帯電話の操作を続けるのを見て,被告人が,Bに無視され,馬鹿にされたなどと,著しく腹を立てて憤激したという事情のあったことが優に認められ,本件の刺突の態様も,上記柳刃包丁を同女の背部深く突き刺し,衝撃で刃が柄から抜けてしまうや,B方にあった3本の包丁を次々に持ち出して,背部等を多数回にわたり突き刺したというものであり,また,以上の刺突の結果,Bは背部等に約20箇所もの刺切創を負って,その中には,背面から刃が胸腔内に深く入り込んで心臓や下大静脈等を刺切するに至ったものもあり,被告人がB方で持ち出した上記包丁の中には刺突の衝撃で刃が曲がってしまったものもあるなど,極めてし烈なものであったことが明らかであって,このようにし烈な攻撃の態様等にも照らしてみると,上記憤激の気持ちが極めて大きかったことも明らかである。そして,被告人がBに対してこのよう もあるなど,極めてし烈なものであったことが明らかであって,このようにし烈な攻撃の態様等にも照らしてみると,上記憤激の気持ちが極めて大きかったことも明らかである。そして,被告人がBに対してこのように強い憤激の気持ちを抱いたのについては,そもそも被告人は,Aが黙って家を出て離婚を求めるに至ったことについて納得できない気持ちを抱き,裁判所の前記保護命令等にもかかわらず,Aの所在を知って会いに行きたいという気持ちを強く持ち続ける一方,かねてBに対して,借金の返済をまともにしないだけではなく,Aの家出に手を貸し,離婚に向けて種々入れ知恵をしたりする一方,自分に対してはAの居場所も隠して教えないなどとして,その対応に不快の念や恨みの気持ちを抱くに至っていたという事情があり,このような気持ちが,犯行当日のBの対応について,携帯電話の操作を続けるなどして被告人の話にまともに取り合おうとしないと感じられたという事情をきっかけにして,押さえ難くなり,ついに激しく憤激,激高するに至ったものと認めるのが相当であり,そうとすると,上記憤激の原因としては,Bが借金の返済になかなか応じようとしないという事情ももとより重要な要因をなしていたとはいえ,主としては,被告人がAとの離婚問題に関するBの対応について不快の念や恨みの気持ちを抱いていたという事情が大きな位置を占めていたとうかがうことができる(被告人が本件犯行当日,Bに会いに行った際,貸金の返済を求めるとともに,Aの所在も聞き出したいという目的を有していたことも前記認定のとおりである。)。しかし,被告人が上記のように憤激してBの殺害を決意するに至ったのについては,Bが被告人の貸金返済の求めなどにも真しに取り合う態度をとらないと被告人が感じたという事情もあずかっていたと認められ,したがってこの憤激の気持ちなる 憤激してBの殺害を決意するに至ったのについては,Bが被告人の貸金返済の求めなどにも真しに取り合う態度をとらないと被告人が感じたという事情もあずかっていたと認められ,したがってこの憤激の気持ちなるもの自体,金員強取の目的と無関係ではないといわなければならない上,その点をひとまずおいても,上記認定の本件の事実関係に照らすと,被告人の上記憤激の気持ちは,それ自体金員強取の意思の存在と何ら矛盾するものではなく,かえって,被告人がBに対する刺突行為を終了してから速やかに,あらかじめ注目していた財布を取得する行為に及んでいるなどのその行動自体,被告人の金員強取の意思が継続して存在し,被告人が金員の取得に強く執着していたことをむしろ端的にうかがわせるものということができるから,上記憤激の気持ちの存在は,強取の意思に関する上記の推認に疑いを生ずるような特段の事情に当たるものではないと解するのが相当である。 更に補足すると,この点については,被告人も,捜査段階で,その供述がやや変遷しているところがあるとはいえ,Bを刺し殺してもいいから金を取ってやろうと思ったなどと,殺害行為当時金員強取の意思があったことを自認する趣旨の供述をしている。被告人の捜査段階供述の任意性に疑いをいれる点がないことは前説示のとおりであるのみならず,この捜査段階供述部分も,上記説示のような本件の状況に照らして自然でそれなりに首肯できる内容のものであるということができ,金員強取の意思に係る上記推認を支持する意味のある証拠価値を持つものということができる。弁護人は,種々の主張をしてこの捜査段階供述の信用性を論難するが,取調べ状況に係る被告人の公判供述にも照らし,慎重に検討しても,弁護人のこの主張に理由があるとは認められない。なお,被告人は,公判では,殺害行為当時,金員強取の意思 査段階供述の信用性を論難するが,取調べ状況に係る被告人の公判供述にも照らし,慎重に検討しても,弁護人のこの主張に理由があるとは認められない。なお,被告人は,公判では,殺害行為当時,金員強取の意思があったことを否定する趣旨を述べてもいるが,そもそも被告人の公判供述は,本件当日B方に赴いた意図の点などを始めとして,あいまいで信用し難い点が多いことは既に説示したとおりであって,この公判供述部分の信用性も到底認め難い。また,その他検討しても,被告人の金員強取の意思に係る上記の推認に疑いをいれるような事情が他にあるとも認めることはできない。 4 以上のとおり,被告人には,Bを殺害するために同女に対して前記柳刃包丁等で刺突行為に及んだ際に,同女の反抗を抑圧して同女の財布の中の現金を強取する意思があったと認められるので,被告人には強盗殺人罪が成立すると認められる。 したがって,弁護人の前記主張は採用することができない。 (量刑の理由)本件は,判示のとおり,強盗殺人と銃砲刀剣類所持等取締法違反とから成る事案である。 本件の経緯,態様等は,既に詳細に説示したとおりであって,被告人は,判示の経緯でBに対する殺意を抱くや,あらかじめ自宅から携行していた刃体の長さ約20センチメートルの柳刃包丁を取り出し,Bの背後に回っていきなりその背部を力強く刺突し,その刺突の衝撃で刃がBの身体深くに入り込み,柄が抜けてしまうと,今度はB方にあった牛刀など3本の包丁を次々に取り出して,Bの身体を多数回にわたって力強く刺突し続け,その背部等に合計約20箇所の刺切創を負わせ,同女を心臓及び下大静脈刺切創に起因する失血のため死亡させるに至ったものである。Bの背部の刺切創の中には,刃が背面から胸腔深く入り込んで,心臓や下大静脈等を刺切するに至ったものもあり,また,被告人がB方か 心臓及び下大静脈刺切創に起因する失血のため死亡させるに至ったものである。Bの背部の刺切創の中には,刃が背面から胸腔深く入り込んで,心臓や下大静脈等を刺切するに至ったものもあり,また,被告人がB方から取り出した上記各包丁も,刺突の衝撃のため,刃が同女の身体から抜けなくなったものや,刃が曲がってしまったものもあるなど,被告人の攻撃の態様は,強固な殺意に基づく誠にし烈なものであったことが明らかであり,しかも,被告人は,Bが,攻撃を受けていた途中,必死に被告人のシャツの裾をつかんで,「何で」などと言いながらすがりついてきても,その手を振り払い,罵倒しながらなおも攻撃を加え続けるなどしたことも認められるのであって,無抵抗の女性の不意を襲ってこのような凄惨な攻撃を加え続けた本件の犯行態様は,誠に残忍,残酷で,悪質というほかない。 もとより,本件の結果は極めて重大であり,自宅内で,かねて親交を持っていた被告人からいきなりこのような攻撃を加えられて,重篤な傷害を負わされ,まだ15歳のDを含め2子を残したまま絶命するに至ったBの苦痛と衝撃,無念の気持ちには誠に大きなものがあったとうかがわれ,残された遺族の衝撃もまた重大であったことが明らかである。殊に,Dは,本件直後帰宅して,凄惨な現場の中でBが背部に包丁の突き刺さった姿のまま倒れている状況を目にさせられたのであり,その衝撃には言葉に尽くし難いものがあったと察せられ,遺族の被害感情は当然のことながら依然として極めて厳しいことが明らかである。なお,Dは,唯一の保護者であった母親を本件のために失い,その身上の面でも極めて不安定な立場に陥らされたことも認められ,この点でも,本件の結果は重大である。また,本件強取に係る財産的被害も決して軽視できない。このように,被告人は,被害者及びその遺族に対し本件によって も極めて不安定な立場に陥らされたことも認められ,この点でも,本件の結果は重大である。また,本件強取に係る財産的被害も決して軽視できない。このように,被告人は,被害者及びその遺族に対し本件によって重大な被害を加えたにもかかわらず,後述する被害金品の還付等の関係を除き,慰謝等のため何らの措置を講じておらず,またその見込みがあるともうかがえない。 被告人が本件に及んだ経緯等も,既に説示したとおりであるが,被告人は,その粗暴な行動が重要な原因となってAとの結婚生活の破綻を招き,裁判所からAに対する接近等を禁止されていたというのに,BからAの居場所を聞き出して同女に会いに行こうと求め続け,BがAの居場所を教えてくれないなどといわば逆恨みをした挙げ句,Bに対する悪感情を募らせたことが本件の重要な原因となったことが明らかである。また,被告人が貸金の返済をBに求めたこと自体は,もとよりその当然の権利に属することであるとはいえ,被告人は,その貸金の返済を履行させ,更にAの居場所を聞き出すため,包丁を使ってBを脅そうなどと考え,現に前記柳刃包丁を携帯して同女方に赴くという誠に粗暴で短絡的な行動に出,Bが携帯電話の操作に気を取られて自分の方を取り合ってくれないと感じられたなどという程度のことを契機に激高した挙げ句,殺意を生じて上記のようにし烈な攻撃に及んだものであって,本件は,被告人の抑制が乏しく(なお,この点については,被告人が自己に勢いをつけようと,ことさらトルエンを吸入して同女方に赴いたという事情もあずかっていたようにうかがえる。),短絡的で自己中心的な行動傾向が顕著に現れた犯行であるというほかなく,その動機,経緯等も誠に悪質といわなければならない。もとより,本件は,貸金の返済要求に端を発したとはいえ,金員強取目的を伴う犯行であり,現に被告人は 行動傾向が顕著に現れた犯行であるというほかなく,その動機,経緯等も誠に悪質といわなければならない。もとより,本件は,貸金の返済要求に端を発したとはいえ,金員強取目的を伴う犯行であり,現に被告人はBに対する刺突行為を終了した後,室内にあった現金入り財布を領得する行為に及んでその目的を達した点でも,犯情が甚だ悪質である。 以上のほか,本件のような犯行が近隣住民など社会に与えた衝撃も到底軽視できないなどの事情をも併せて考慮すると,被告人の刑責は誠に重大であるというほかはない。 そうすると,他方,本件の一因となった被告人のBに対する貸金の返済問題については,Bの対応の仕方にも確かに誠実さを欠く点があったようにうかがえること,Bが,被告人の粗暴な行動を嫌ってAが家出や離婚を決意するや,これに助力して同女を一時かくまい,その居場所を被告人に教えなかったことなどは,もとより適切な対応であったということができるとはいえ,Bは,Aとの接近が禁じられている被告人に対し,Aの通院先の病院に行けば同女に会えるかもしれないという趣旨を言ってその病院を教えたり,Aから特に打ち明けられていたとうかがえる同女の不倫関係のことをあえて被告人に話すなどし,そのことがAに会って問いただしたいという被告人の気持ちを一層強くしたという面のあったことは否定できないようにうかがうことができ,そうすると,Aの離婚問題に関するBの対処の仕方にも疑問とすべき点がなかったとはいえないこと,本件については,強盗の計画性は否定し難いとはいえ,被告人は,B方に臨むに当たり,その殺害までをあらかじめ意図していたとは認められず,前記のとおり同女方でのBの態度等を見て,無視されたなどと思い込み,それまでの同女に対する恨みなどの気持ちが押さえ難くなって激高し,同女に対する殺意を生じたと認められる 意図していたとは認められず,前記のとおり同女方でのBの態度等を見て,無視されたなどと思い込み,それまでの同女に対する恨みなどの気持ちが押さえ難くなって激高し,同女に対する殺意を生じたと認められるのであるから,本件は,殺害の点では偶発性があったと認められること,強取に係る被害金品のうち,被告人が自己の財布に移し替えた現金11万2000円以外は遺族に還付されることが見込まれるようにうかがわれ,また,上記の現金11万2000円についても,被告人は,還付を受けたら遺族の手に渡るように手配を依頼した旨公判で供述していること,被告人は,犯行直後に出会ったDや,その後立ち寄った飲食店の経営者らに警察等への通報を依頼し,これらの通報により駆け付けた警察官により現行犯人逮捕されているのであって,自首には当たらないとはいえ,この事実も被告人のために一定程度酌むべき事情に当たると考えられること,被告人は,捜査段階では本件犯行を全面的に認め,当公判でも,強盗の意思など一部の点については不合理な内容を述べているところもあるとはいえ,被告人なりに謝罪と反省の態度を示していること,被告人には,20年以上前にさかのぼる罰金前科を除いては,前科前歴がないことなど,被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,本件について酌量減軽を相当とするほどの事情があるとは認めることができず,以上摘示の諸事情を総合して考慮すると,被告人に対しては,主文掲記の刑を科するのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 平成16年1月23日東京地方裁判所刑事第11部裁判長裁判官木口信之裁判官小林正樹裁判官鈴木涼 事第11部裁判長裁判官木口信之裁判官小林正樹裁判官鈴木涼子
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