平成31年2月20日判決言渡 平成30年(ネ)第10041号補償金請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成27年(ワ)第8621号)口頭弁論終結日平成30年12月18日判決 控訴人兼被控訴人株式会社クレジェンテ(旧商号株式会社グラシアス)(以下「一審被告」という。) 訴訟代理人弁護士高橋淳 伊藤博昭 訴訟復代理人弁護士加藤伸樹 被控訴人兼控訴人株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズ(以下「一審原告」という。) 訴訟代理人弁護士山田威一郎 中村小裕 松本響子 柴田和彦 訴訟代理人弁理士水谷馨也 補佐人弁理士田中順也 迫田恭子 主文 1 一審原告の控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。 (1) 一審被告は,一審原告に対し,2154万0578円及びこれに対する平成27年9月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 一審原告のその余の請求を棄却する。 2 一審被告の控訴を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを3分し,その1を一審原告の負担とし,その余を一審被告の負担とする。 4 この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 控訴の趣旨 1 一審被告 (1) 原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。 (2) 一審原告の請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも一審原告の負担とする。 2 一審原告 (1) 原判決を次のとおり変更する。 (2) 主文第1項(1)に同じ。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも一審被告の負担とする。 (4) 仮執行宣言 一審原告の負担とする。 2 一審原告(1) 原判決を次のとおり変更する。 (2) 主文第1項(1)に同じ。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも一審被告の負担とする。 (4) 仮執行宣言第2 事案の概要(以下,特に断りがない限り,略称は原判決に従う。) 1 本件は,発明の名称を「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物」とする特許番号第5643872号の特許権(本件特許権)を有する一審原告が,一審被告において製造,販売等する炭酸パックが本件特許権に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属すると主張して,一審被告に対し,特許法65条1項に基づき,平成25年10月11日から平成26年11月7日(本件特許権の設定登録日)までの補償金3000万円及びこれに対する前記設定登録日の翌日であ る同月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原判決は,被告製品は本件発明の技術的範囲に属するとし,また,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められず,特許権者である一審原告はその権利行使を制限されないとして,1507万8405円及びこれに対する平成27年9月5日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で一審原告の請求を認容した。 これに対し,一審被告及び一審原告の双方が自己の敗訴部分を不服として控訴し,一審被告は一審原告の請求の全部棄却を求め,一審原告は前記控訴の趣旨記載の範囲での原判決の変更を求めた。 2 前提事実原判決「事実及び理由」の第1の2(原判決2頁13行目~5頁1行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 争点原判決5頁11行目の後に改行して「オ冒認又は共同出願義務違反(争点3-5)」と付け加えるほかは,原判決「事実及び 頁13行目~5頁1行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 争点原判決5頁11行目の後に改行して「オ冒認又は共同出願義務違反(争点3-5)」と付け加えるほかは,原判決「事実及び理由」の第1の3(原判決5頁2行目~12行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。 4 争点に関する当事者の主張後記5のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第3(原判決5頁13行目~24頁24行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。 5 当審における当事者の主張(一審被告の主張)(1) 構成要件Aの充足性(争点1)に関し原判決は,比較例1において,「発泡性」の評価が行われていないことから,構成要件Aの充足性の判断において「発泡性」が評価の対象にならない ことを前提に,「気泡状の二酸化炭素の量」が一定以上でなければならないと認めることはできないと判示しているが,失当である。 本件明細書の比較例1は,実施例1~84との対比で組成されたものであり,本件発明の実施例である227~249及び296との対比で組成されたものではないから,このことのみを理由として,「発泡性」が評価の対象ではないということはできない。 そもそも,構成要件の用語の解釈は,当該発明が奏する効果が生じるか否かという観点から行われるべきものであるところ,原判決は,気泡状の二酸化炭素の持続性の向上という点を本件発明の効果として理解している点において誤りがある。 すなわち,本件明細書によれば,本件発明は,二酸化炭素の経皮吸収の効率を高めることにより各種疾患の予防及び美容上の問題の改善等本件明細書記載の効果を奏するものとして特許されているものであるから,気泡状の二酸化炭素の持続性の向上は,本件発明の効果が生じるため 収の効率を高めることにより各種疾患の予防及び美容上の問題の改善等本件明細書記載の効果を奏するものとして特許されているものであるから,気泡状の二酸化炭素の持続性の向上は,本件発明の効果が生じるための手段にすぎない。 したがって,構成要件Aの充足性の判断においては,二酸化炭素の経皮吸収の向上を媒介として各種疾患の予防及び美容上の問題の改善等本件明細書記載の各種の効果が奏する程度に「気泡状の二酸化炭素が保持」されていなければならないところ,これを立証する証拠はないのであるから,被告製品は構成要件Aを充足しない。 (2) 作用効果不奏功の抗弁(争点2)に関し原判決は,本件発明の効果について,攪拌操作終了から2時間後においては,事前調製型と用時調製型との間に経皮吸収量(持続性)について有意な差異があることを前提として,「基本的には事前調製型の方が二酸化炭素をより多く保持し,継続的に経皮吸収させる」ことが,本件発明特有の効果であると認定し,被告製品はこの効果を奏していると判断しているが,失当である。 被告製品の通常の使用想定時間は30分であるところ,攪拌操作終了から30分後の経皮吸収量(持続性)に関し,事前調製型と用時調製型との間に経皮吸収量(持続性)の有意な差異がないことは,乙26が示すところであり,原判決も正当に認定する。 したがって,攪拌操作終了後30分を基準とする限り,被告製品と用時調製型との間に経皮吸収量(持続性)の有意な差異がないものと推認され,被告製品が本件発明特有の作用効果を奏さないことは明らかである。 (3) 乙8を主引用例とする進歩性欠如(争点3-4)に関しア本件発明の特徴は,水分の存在下で炭酸塩と酸とが反応して二酸化炭素を生じるところ,二酸化炭素の経皮吸収効果を向上させることを目的として気泡状の二酸 主引用例とする進歩性欠如(争点3-4)に関しア本件発明の特徴は,水分の存在下で炭酸塩と酸とが反応して二酸化炭素を生じるところ,二酸化炭素の経皮吸収効果を向上させることを目的として気泡状の二酸化炭素を保持し,本件明細書【0020】以下に記載のスモン病による神経疾患の治療等の各種効果が生じる程度に十分な量の二酸化炭素を経皮吸収させるために,増粘剤であるアルギン酸ナトリウムを事前に水に溶解させて水溶液(粘性組成物)とした点にある。しかるところ,2剤型の化粧料のうち,ジェルと粉末の組合せは周知慣用技術であり,アルギン酸ナトリウムの溶解には時間がかかるため事前に水に溶解させる必要性があることも周知の技術常識であった。したがって,鐘紡発明をアルギン酸ナトリウムの含水組成物が事前調製されているものに変更する動機付けがあり,本件発明1は鐘紡発明及び周知慣用技術から当業者が容易に発明をすることができたものであると認められる。 原判決は,本件発明の特徴について,水及び増粘剤を含む粘性組成物をあらかじめ調製し,発生した二酸化炭素を空気中に拡散させることなく,粘性の組成物中に気泡として含ませ,その二酸化炭素を気泡状態で保持させるとともに,持続的に放出させ,二酸化炭素を持続的に経皮吸収させるようにしたものであると判示するが,これは,本件明細書に記載の各種効果を奏するか否かという観点を無視する解釈であり,誤りである。 さらに,「発生した二酸化炭素を空気中に拡散させることなく,粘性の組成物中に気泡として含ませ,その二酸化炭素を気泡状態で保持させるとともに,持続的に放出させ,二酸化炭素を持続的に経皮吸収させるようにしたものである」という点は,「水及び増粘剤を含む粘性組成物をあらかじめ調製し」たことによる効果(そのような効果を奏するかは疑問であるが ,持続的に放出させ,二酸化炭素を持続的に経皮吸収させるようにしたものである」という点は,「水及び増粘剤を含む粘性組成物をあらかじめ調製し」たことによる効果(そのような効果を奏するかは疑問であるが)として本件明細書に記載されているにすぎず,物の発明である本件発明の構成を特徴付けるものではない。 もっとも,原判決の理解に立っても,本件発明が容易想到であり無効と判断されるべきであることは後記イのとおりである。 イ原判決は,本件発明と鐘紡発明及び鐘紡発明2(以下,原判決認定の「鐘紡発明」を「鐘紡発明1」といい,鐘紡発明1と鐘紡発明2を併せて「鐘紡発明」という。)の関係について,「いずれも炭酸塩,酸,増粘剤,水を混合して組成物を得る2剤型の発泡性化粧料である」と正当に認めつつ,「それぞれの成分の組合せが異なり,それに応じて含水粘性組成物を事前調製により得るか,用時調製により得るかの相違がある」とした上で,2剤型の化粧料の一方の剤型を含水粘性組成物とする動機付けがない旨判断したが,失当である。 確かに,鐘紡発明は,第2剤をポリエチレングリコールで被覆することにより炭酸塩の放出速度を遅延させているから,従来技術と比較すると,気泡状の二酸化炭素の崩壊及び拡散をより防止することができる。 しかし,炭酸塩と酸の反応による気泡状の二酸化炭素の発生速度が非常に速いため,鐘紡発明においては,アルギン酸ナトリウムの気泡安定化効果及び閉じ込め効果が発動するまでの間に発生した気泡状の二酸化炭素は,崩壊するか又は拡散してしまい,依然として持続性の問題が残ることは当業者には明らかであり,「気泡状の持続性の更なる向上」が課題として残るといえる。このことは,特開昭61-252231号公報(乙152) に,ママコの形成を防ぐ手段として,粉末をコーティング(被覆 者には明らかであり,「気泡状の持続性の更なる向上」が課題として残るといえる。このことは,特開昭61-252231号公報(乙152) に,ママコの形成を防ぐ手段として,粉末をコーティング(被覆と同義)する方法が記載されているが,それが本質的な解決にならず,粘度が変動する等の問題点を抱えていることが明記されていることからも裏付けられる。 そして,アルギン酸ナトリウムが中性の水溶液として慣用されていたことに照らせば,アルギン酸ナトリウムの閉じ込め効果を利用して,気泡の持続性を向上させるという観点から,鐘紡発明の第1剤を中性のアルギン酸ナトリウム含有水溶液(事前調製型)に置換することには,十分な積極的動機付けがあるというべきである。 さらに,ガスの保留性を高めるため,気泡状の二酸化炭素の発生速度を遅延させることが必要であり,そのために,鐘紡発明の第2剤を慣用技術である本件複合剤に置換することも容易である。 したがって,鐘紡発明を主引用発明として本件発明に想到することは容易であり,本件発明が無効と判断されるべきことは明らかである。 (4) 冒認又は共同出願義務違反(争点3-5)に関し本件発明は,容易想到であるため無効と判断されるべきものであるが,仮に進歩性が認められるとしても,次のとおり,冒認又は共同出願義務違反を理由として無効とされるべきものである。 ア本件発明の特徴的部分(ア) 主位的主張原判決は,本件発明の特徴について,水及び増粘剤を含む粘性組成物をあらかじめ調製し,発生した二酸化炭素を空気中に拡散させることなく,粘性の組成物中に気泡として含ませ,その二炭化炭素を気泡状で保持させるとともに,持続的に放出させ,二酸化炭素を経皮吸収させるようにしたものであると判示しているが,この判断を前提とすれば,本件発明の発明者 組成物中に気泡として含ませ,その二炭化炭素を気泡状で保持させるとともに,持続的に放出させ,二酸化炭素を経皮吸収させるようにしたものであると判示しているが,この判断を前提とすれば,本件発明の発明者は,ネオケミア株式会社の代表取締役社長P(商品企画担 当者。)と鐘紡株式会社(以下「鐘紡」という。)の元従業員であるQ(粘性組成物の専門家。)の2名である。 (イ) 予備的主張仮に,本件発明の特徴的部分が粘性組成物と固形製剤の組合せを選択した点にあるとすれば,本件発明の発明者は,PとQと鐘紡の元従業員であるR(固形剤の専門家。)の3名である。 イ本件発明に至る経緯(ア) 炭酸ガス外用剤の着想Pは,鐘紡在職中に,研究企画業務の一環として,新規な研究開発テーマの提案を担当していたが,種々検討の結果,気泡状の二酸化炭素を含む炭酸ガス外用剤(炭酸ガスの塗り薬)を褥瘡(床ずれ)治療剤として開発することを着想した。 そして,Pは,炭酸水はガーゼに染み込ませて褥瘡の治療に使えるものの,褥瘡に塗布することはできない欠点を認識し,炭酸水をジェル状(ゲル状)にすれば,ガーゼを使うことなく褥瘡に塗布することが可能となることから,ジェル状の製品とすることを目標とした探索研究を開始した。 (イ) Qの参加Pは,その粘性組成物に関する知識と技術に厚い信頼を寄せていたQ(薬品研究所製剤研究部所属)に対し研究担当を依頼した。QとPは,当初は,炭酸塩のジェルと酸のジェルを作り,使用時にこれらを混合するという着想に基づき実験を行ったが,ジェル全体に炭酸ガスが発生しなかった。 打開策を検討する中で,当時の鐘紡のグループ会社であったカネボウフーズ株式会社(以下「カネボウフーズ」という。)が開発した組合せ発泡菓子(商品名「ねるねるねるね」。以下「本件菓 発生しなかった。 打開策を検討する中で,当時の鐘紡のグループ会社であったカネボウフーズ株式会社(以下「カネボウフーズ」という。)が開発した組合せ発泡菓子(商品名「ねるねるねるね」。以下「本件菓子」という。)の 発泡メカニズムが,炭酸ガス入浴剤と同じであることが判明した。そこで,Pは,カネボウフーズの高槻工場に行き,技術担当者から本件菓子の製造法とノウハウについて教えてもらい,それをQに伝え,新たな2剤混合製剤の製造法の検討を依頼した。 Qは本件菓子の製造法を元に,気泡状の二酸化炭素の発泡性及び持続性を高めることを目的として,炭酸塩とアルギン酸ナトリウムに代表される増粘剤を含むジェルと固形の酸の組合せを考案し,アルギン酸ナトリウムの含有量及び粘性組成物中の水分量を調整する等して,多数の試作を繰り返した。 (ウ) Rの参加その過程において,Pは,固形製剤の専門家であるRにも協力を求め,3人の協力により,用時調製の2剤混合製剤である炭酸ガスジェルパック(二酸化炭素含有粘性組成物)の技術を確立することができた(本件明細書において「実施例」として記載されている二酸化炭素含有粘性組成物は,これらの過程で調製した試作品の一部である。)。 (エ) Pの鐘紡退職に至る経緯その後,Pは,鐘紡の薬品研究所長に炭酸ガス外用剤の商品化を提案したが,採択されなかった。 一方,Pは,当時別件で共同研究を行っていたベンチャー企業であるユニコロイド株式会社から,同社が共同研究を行っていた開業医のSを紹介された。PはSに起業意欲があることを知り,炭酸ガスパック剤の鐘紡での事業化が進展しないことの打開策として,Sとの共同事業として,炭酸ガスパック剤の実用化(工業生産技術の開発)を図ることを考えた。 そして,Sが共同事業に参加することに同意したた パック剤の鐘紡での事業化が進展しないことの打開策として,Sとの共同事業として,炭酸ガスパック剤の実用化(工業生産技術の開発)を図ることを考えた。 そして,Sが共同事業に参加することに同意したため,Pは鐘紡終業後及び土日を利用して,Sの所有する長屋(当時はS医院従業員の着替 え場所として使用)の台所で実験を重ね,炭酸ガスパック剤の実用化を目指した。 もっとも,Pは,実際の研究開発の主な部分は,製剤学の知識があるRに委ねていた。 (オ) Pの鐘紡退職後Pは,鐘紡を平成9年9月に退職した後,Sと共同で株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズ(一審原告)を設立し,本件発明の実用化(工業生産技術の開発)のための研究(本件発明の特徴部分ではない)を継続した。 一審原告における最初の製品である炭酸ガスパック剤「メディプローラー」は,クエン酸をノンパレルに吹き付けた真球状の顆粒であり,顆粒表面にクエン酸があるため,炭酸ガスの発泡は急激であり,粘性による閉じ込め効果では足りず,ジェル全体に炭酸ガスが万遍なく行き渡ることがなかった。 その後,ノンパレルのメーカーであるフロイント産業に依頼してクエン酸をコートしたノンパレルを注文し,「メディプローラー」製造に使用した。しかし,クエン酸は非常に吸湿性が高く,クエン酸をコートしたノンパレルは,製造時にも吸湿し,保存性にも劣ったため,Rに更に研究開発を続けてもらい,2剤型の炭酸ガスパック剤において,その1剤を「酸を含む顆粒剤,細粒剤,粉末剤」とする技術の実用化が完成した。 なお,医師であるSの関与は,本件明細書に記載の疾患の選択及び試験例の記載だけである。 ウ以上のとおり,本件発明の特徴部分に創作的に関与した者は,QとPの2名であるか,QとPとRの3名であるから,いずれにせよ, Sの関与は,本件明細書に記載の疾患の選択及び試験例の記載だけである。 ウ以上のとおり,本件発明の特徴部分に創作的に関与した者は,QとPの2名であるか,QとPとRの3名であるから,いずれにせよ,Sは発明者ではなく特許を受ける権利を有していない。したがって,Sが発明者であ ることを前提とする一審原告による本件特許の出願は特許を受ける権利を有さない者によるものであり,冒認であって,本件特許は無効であることが明らかである。 なお,仮に,一審原告が特許を受ける権利を有しており,本件特許の出願が冒認に該当しないとしても,Qも本件発明の発明者であり,少なくともQは一審原告に対して特許を受ける権利を譲渡していないため,一審原告による本件特許の出願は特許法38条に反するものであり,本件特許は無効と判断されるべきものであるといわざるを得ない。 (5) 補償金の額(争点4)に関しア原判決は,本件発明の技術分野が属する分野の近年の統計情報(以下「本件情報」という。)を基礎として,実施料率を●●●●●●●●が,誤りである。 まず,本件情報は,MLM(マルチレベルマーケティング)という特別な販売手法を利用する者を対象とするものではないから,判断の基礎とすること自体に疑問がある。仮に本件情報を判断の基礎としても,MLMは資本を投下して形成された特別な人的ネットワークに基づくものであり,本件情報が前提とする会社よりも営業コストが高いと推認できるから,本件情報に現れた実施料の半分程度が適切であって,実施料率が●●●●●●ことはない。 次に,一審原告は,一審原告自身が認めるとおり,特許権の行使を主たる事業とする会社であり,特許主張事業体といえるところ,本件情報は,特許主張事業体が特許保有者の場合を対象とするものではないから,判断の基礎とするこ ,一審原告自身が認めるとおり,特許権の行使を主たる事業とする会社であり,特許主張事業体といえるところ,本件情報は,特許主張事業体が特許保有者の場合を対象とするものではないから,判断の基礎とすること自体に疑問がある。仮に本件情報を判断の基礎としても,以下のとおり,特許による不当な独占という害悪を最小限とするため,本件情報に現れた料率の半分程度を実施料率とするのが適切であって,実施料率が●●●●●●ことはない。 すなわち,一審原告のビジネスモデルは,分割出願を繰り返し,特徴部分が「事前に粘性組成物を調製する」という慣用技術である点において共通する特許を多数保有し,2剤型炭酸ジェルパックの生産者及び販売者に対し,これらの者が一定の資本を投下した後に,警告書の送付又は訴訟の提起等の手段により高額の実施料を得るというものである。このようなビジネスモデルを許すことは,2剤型炭酸ジェルパックの生産者及び販売者の市場からの退出を強要するに等しく,不当に競争を制限するものであって,妥当ではない。したがって,競争促進の観点からも実施料率は通常の特許侵害訴訟の場合に比較して低減されるべきである。 イ一審原告の主張について一審原告の主張のうち,二酸化炭素を利用したパック化粧料の販売時期に関する主張は,原判決の理解を誤ったものであり理由がない。 すなわち,原判決が「二酸化炭素(炭酸ガス)を利用したパック化粧料は従来から販売等されていた」とするのは,一審原告が主張する「原出願日以前」ではなく,「被告製品の販売時以前」という意味である。原判決は,「二酸化炭素(炭酸ガス)を利用したパック化粧料」については,被告製品の販売時には,既に他の商品が存在していたのであり,「二酸化炭素(炭酸ガス)を利用したパック化粧料」であるというだけで新しいタイプの 酸化炭素(炭酸ガス)を利用したパック化粧料」については,被告製品の販売時には,既に他の商品が存在していたのであり,「二酸化炭素(炭酸ガス)を利用したパック化粧料」であるというだけで新しいタイプの商品として消費者が購入動機を形成することはない,ということを指摘するものである。 また,乙26の信用性に関する主張は,時機に後れた攻撃防御方法であって,却下されるべきである。仮に却下されないとしても,甲30の実験には実験条件等に問題があるから,乙26の信用性には何らの影響も与えない。 したがって,一審原告の主張はいずれも理由がない。 (一審原告の主張) (1) 構成要件Aの充足性(争点1)に関し原判決で認められたとおり,本件発明は,水及び増粘剤を含む粘性組成物をあらかじめ調製することで,当該含水粘性組成物中で二酸化炭素を発生できるようになり,発生した二酸化炭素が空気中に拡散するのを抑制して,気泡状の二酸化炭素を封じ込めることを可能にすることを特徴とする。すなわち,本件発明の構成要件Aにおける「気泡状の二酸化炭素を含有する」との構成の技術的意味は,発生した二酸化炭素が空気中に拡散することを抑制して,気泡状の二酸化炭素を含水粘性組成物中に保持できる状態にすることにあるというべきであり,含水粘性組成物が,一定時間の間,二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を有していれば,当該構成要件を具備すると解釈するのが妥当である。 この点,一審被告は,被告製品から得られる組成物が気泡状の二酸化炭素を含有していること自体は争っていない。また,一審被告が提出した乙6の実験結果においても,被告製品の複合顆粒剤をジェルの中に入れて攪拌すると,1分後に体積が約20%増加し,ジェル剤の中に気泡状の二酸化炭素を含有した状態になり,当該気泡状の二酸化炭 告が提出した乙6の実験結果においても,被告製品の複合顆粒剤をジェルの中に入れて攪拌すると,1分後に体積が約20%増加し,ジェル剤の中に気泡状の二酸化炭素を含有した状態になり,当該気泡状の二酸化炭素が120分経過後も保持されていることが確認されているほか,これを人の腕に塗布すると,赤みを帯びることが確認されている。 そのため,被告製品が本件発明の構成要件Aを充足することは明らかである。 (2) 作用効果不奏功の抗弁(争点2)に関し本件発明の作用効果は,組成物中に気泡としての二酸化炭素を含有させ,その二酸化炭素を気泡状態で保持させるとともに,持続的に放出させ,二酸化炭素を持続的に経皮吸収させることであるところ,前記のとおり,被告製品から得られる組成物は,二酸化炭素を気泡状態で保持させているものである。 また,前記のとおり,一審被告が提出した乙6の実験結果においても,被告製品の複合顆粒剤をジェルの中に入れて攪拌したものを人の腕に塗布すると,赤みを帯びることが確認されているし,一審被告は,被告製品を実際に「化粧品」として販売している。 したがって,被告製品が本件発明の効果を奏していることは明らかであり,一審被告の主張は失当である。 なお,一審被告は,乙26の実験結果を根拠に事前調製型と用時調製型とでは撹拌操作終了から30分後の経皮吸収量に有意な差異がないことを主張し,被告製品の通常の使用想定時間が30分である以上,被告製品は本件発明の効果を奏さないと主張しているが,事前調製型の本件発明と用時調製型の従来技術との間の作用効果の大きさの程度と,被告製品が本件発明の作用効果を発揮するかとの問題はそもそも無関係であり,一審被告の主張は失当である。また,後記のとおり,乙26の実験結果は信用性に欠けるものであって,当該実験結果を きさの程度と,被告製品が本件発明の作用効果を発揮するかとの問題はそもそも無関係であり,一審被告の主張は失当である。また,後記のとおり,乙26の実験結果は信用性に欠けるものであって,当該実験結果を根拠に事前調製型と用時調製型の効果に差異がないということはできない。 (3) 乙8を主引用例とする進歩性欠如(争点3-4)に関しア本件発明の特徴に関する一審被告の主張は,本件発明の構成を無視した主張というほかなく,明らかに失当である。 原審でも主張したとおり,本件特許の請求項1では「気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料を得るためのキットであって」との用途限定がなされており,医薬組成物を得るためのキットの発明は,特許請求の範囲に記載されていない。そのため,「本件明細書【0020】以下に記載のスモン病による神経疾患の治療等の各種効果が生じる程度の十分な量の二酸化炭素を経皮吸収」できるか否かが本件発明の特徴になるなどということはあり得ない。 また,本件発明では増粘剤の種類に関する限定はなされていないため, 「増粘剤であるアルギン酸ナトリウムを事前に水に溶解させて水溶液(粘性組成物)とした点」が本件発明の特徴になるということもできない。 本件発明の特徴は,原判決でも認められているとおり,「水及び増粘剤を含む粘性組成物をあらかじめ調製することで,当該含水粘性組成物中で二酸化炭素を発生できるようになり,発生した二酸化炭素が空気中に拡散するのを抑制して,気泡状の二酸化炭素を封じ込めることを可能にする」という点にあるというべきであるが,かかる本件発明の特徴は,一審被告が挙げている公知文献のいずれにも現れていないものであり,一審被告提出の公知文献の記載から本件発明が容易に想到できるものでないことは という点にあるというべきであるが,かかる本件発明の特徴は,一審被告が挙げている公知文献のいずれにも現れていないものであり,一審被告提出の公知文献の記載から本件発明が容易に想到できるものでないことは明らかである。 イ一審被告は,「鐘紡発明においては,アルギン酸ナトリウムの気泡安定化効果及び閉じ込め効果が発動するまでの間に発生した気泡状の二酸化炭素は,崩壊するか又は拡散してしまい,依然として持続性の問題が残ることは当業者には明らかであり,『気泡状の持続性の更なる向上』が課題として残るといえる。」と主張するが,乙8公報を読んだ当業者が,鐘紡発明にそのような課題があると認識するとは考えられず,一審被告の主張は前提において誤りがある。 また,一審被告がその主張の根拠として挙げる乙152には,「水に対して即溶性のある粒状糊料およびその製造法」に関する発明が開示されているにすぎず,同文献に記載されている粉末をコーティングすることにより粘度が変動する等の問題点は,粉末糊料に生じる問題点であって,炭酸塩の粉末をコーティングすることにより生じる問題点ではない。 さらに,乙152には,アルギン酸ナトリウム等の水溶性粉末糊料を水に溶解させる際に通常の撹拌による溶解時にはママコを形成するという課題に対し,「水溶性粉末糊料の粒子間を架橋してなる粉末糊料を提供することにより本目的を達成しようと」(2頁右上欄)するとの解決方法が開 示されており,他の解決方法による課題解決は前提とされていない。 そのため,乙152は,鐘紡発明に「気泡状の持続性の更なる向上」が課題として残ることを示唆するものとはいえず,鐘紡発明に基づく進歩性欠如の主張を補強する証拠にはなり得ない。 (4) 冒認又は共同出願義務違反(争点3-5)に関しア冒認又は共同出願義務違反の 課題として残ることを示唆するものとはいえず,鐘紡発明に基づく進歩性欠如の主張を補強する証拠にはなり得ない。 (4) 冒認又は共同出願義務違反(争点3-5)に関しア冒認又は共同出願義務違反の主張は,訴訟の経過に鑑み,時機に後れた攻撃防御方法の提出として却下されるべきである。 イ仮に却下されないとしても一審被告の主張は争う。 本件発明は,本件特許の願書に発明者として記載されているSとPが共同で行ったものであるから,本件発明の発明者は,SとPである。本件発明の完成に至る過程において,QやRが関与した事実はなく,QやRが発明者であるとする一審被告の主張は失当である。 また,仮に,QやRが本件発明の発明者の一人であったとしても,両人の特許を受ける権利は一審原告へ譲渡されている。 したがって,本件特許に冒認出願又は共同出願要件違反の無効理由がないことは明らかである。 (5) 補償金の額(争点4)に関しア原判決の「二酸化炭素(炭酸ガス)を利用したパック化粧料は従来から販売等されていた」との認定には事実誤認があるから,当該事実を前提とした原判決の実施料率に関する認定には誤りがある。一審原告が知る限り,本件特許の原出願日である平成11年5月6日より以前に二酸化炭素を経皮吸収させるパック化粧料は,事前調製型のもの,用時調製型のものを含め一切存在していなかった。原判決が認定の根拠として挙げる甲6は,一審原告の製品である「メディプローラーAA」の商品カタログであり,当該製品は本件特許の出願後に販売されたものである。乙1(特開昭60-215606号公報),乙8(特開昭63-310807号公報),乙7 8(特公平5-35123号公報),乙79(特開平8-268828号公報),乙80(特許第4099129号公報)は,いずれも公開特許公 号公報),乙8(特開昭63-310807号公報),乙7 8(特公平5-35123号公報),乙79(特開平8-268828号公報),乙80(特許第4099129号公報)は,いずれも公開特許公報又は特許公報にすぎず,前記一審原告製品以外に,二酸化炭素(炭酸ガス)を利用したパック化粧料が市場に流通していたことの根拠にはならない。また,乙80の特許出願は平成15年9月17日付けでなされたものであり,本件特許の原出願日以後の出願である。 また,乙26の実験結果は信用性に欠けるものであり(甲30),ブチレングリコールの配合の有無によらず,事前調製型と用時調製型とでは,撹拌終了後30分経過時までの二酸化炭素の経皮吸収量に有意な差が認められるから(甲15),「ブチレングリコールが5%配合されている場合の混合後30分経過時までの二酸化炭素吸収量は,事前調製型と用時調製型とで有意な差異が認められない」として本件発明を実施したことの寄与は限定的であるとした原判決は妥当でない。 したがって,本件における実施料率の算定においては,別件訴訟の判決(甲14)及び和解事案(甲5,19,20)と区別すべき事情はなく,本件における実施料率は●●●●●●●●相当である。 イ一審被告の主張について一審被告の主張はいずれも失当であり,本件では実施料率を低減する要因は存在しない。 すなわち,一定の資本を投下して販促活動を行うことは通常の営業努力の範囲内であり,「本件発明の技術分野が属する分野の近年の統計情報」は当該事情も前提として決められているものであるし,一審被告の販売手法が実施料率を下げる要因になるほど特殊な手法ともいえない。一審被告は炭酸パックを呼び水にして,新たな会員の獲得を行っていた可能性が極めて高く,一審被告がセット販売の形態で販売している各種 の販売手法が実施料率を下げる要因になるほど特殊な手法ともいえない。一審被告は炭酸パックを呼び水にして,新たな会員の獲得を行っていた可能性が極めて高く,一審被告がセット販売の形態で販売している各種化粧品の売上げは炭酸パックの魅力によって達成されているものと考えられること,一 審被告が会員に販売している化粧品のセットの中でも,炭酸パックの占める割合が大きいこと等に鑑みれば,被告製品の販売方法がMLMであることは,むしろ,実施料率を引き上げる要因であるといえる。 また,一審被告は,一審原告のことを「特許主張事業体」などと主張するが,この点は言いがかりにすぎない。一審原告は,医薬品,化粧品等の研究,開発,製造,販売等を業とする法人であって,平成11年9月以降,「メディプローラー」ないし「スパオキシジェル」との商品名で顆粒とジェル剤の2剤型の炭酸ジェルパックの販売を行っている。 第3 当裁判所の判断当裁判所は,一審被告の控訴は理由がなく,一審原告の控訴は理由があるものと判断する。理由は以下のとおりである。 1 本件発明の技術的特徴について本件明細書の記載によれば,本件発明は,二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物,該組成物の製造用キット,該組成物を含む皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴うかゆみ,末梢循環障害に基づく皮膚潰瘍等の疾患の予防ないし治療剤及び化粧料に関するものである(【0001】)。ただし,特許請求の範囲は,補正により化粧料に関する発明に減縮されている(甲9,10)。 また,本件明細書には,従来技術として,炭酸ガスが血行を良くすることが知られており,炭酸ガスを含む湿布剤を提案する特許文献1が存在するが,当該湿布剤は,炭酸塩と有機酸を用いて発生させた炭酸ガスを水に溶かして利用するものであり,水に溶解する炭酸ガスの絶対 くすることが知られており,炭酸ガスを含む湿布剤を提案する特許文献1が存在するが,当該湿布剤は,炭酸塩と有機酸を用いて発生させた炭酸ガスを水に溶かして利用するものであり,水に溶解する炭酸ガスの絶対量は極めて少ないために,効果が期待できないものであったことが記載されており(【0004】),その他の従来技術としては,発泡性の粉末飲料やコンタクトレンズ等の洗浄剤に用いられるものであり,発生した炭酸ガスを保持する技術的課題が存在しないものや(【0005】),爪のクチクラに対し軟化作用を有する気泡性水溶液であり,炭酸ガスを保持することができない組成物(【0006】),性交時の潤 滑性及び膣の乾燥防止のためのムース状潤滑剤であり,容器から出されると速やかに炭酸ガスを失うもの(【0007】)などが記載されている。 そして,本件発明における二酸化炭素は,炭酸飲料や発泡性製剤のように短時間,例えば数秒から数分以内に消失するものではなく,本件発明の組成物に気泡状態で保持され,持続的に放出されるものであること(【0037】),本件発明の組成物は二酸化炭素の持続的経皮・経粘膜吸収が目的であること(【0042】)が記載され,当該目的に対応する課題の解決手段として,「水,増粘剤及び気泡状二酸化炭素を含有し,二酸化炭素を持続的に経皮・経粘膜吸収させることができる組成物」など(【0011】)が記載されている。 以上の記載からみると,本件明細書の記載上,従来から,二酸化炭素が血行促進作用を有することが知られており,また,二酸化炭素を皮膚に適用する技術も存在したところ,これらの技術は,いずれも二酸化炭素を保持する組成物に関するものではなかったと認められる。そして,本件明細書に記載された技術は,二酸化炭素の作用を利用するために,二酸化炭素を持続的に経皮吸収させ ,これらの技術は,いずれも二酸化炭素を保持する組成物に関するものではなかったと認められる。そして,本件明細書に記載された技術は,二酸化炭素の作用を利用するために,二酸化炭素を持続的に経皮吸収させることを課題とし,当該課題を解決するために,アルギン酸ナトリウム等の増粘剤を含有する含水粘性組成物(ジェル等)の粘性を利用して,当該組成物中に二酸化炭素を保持するようにし,その状態の当該組成物から経皮的に二酸化炭素を吸収させることにより,経皮吸収させる時間を長くするものであると認められ,この点は,気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素経皮吸収用組成物からなるパック化粧料を得るためのキットであって,水と増粘剤を含む粘性組成物を備えるキットに限定されている本件発明にも当てはまるといえる。 そうすると,本件発明の技術的特徴は,二酸化炭素経皮吸収用組成物からなるパック化粧料を得るためのキットにおいて,得られるパック化粧料が,含水粘性組成物の粘性を利用して,二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができる点にあると認められる。 以下,本件発明の技術的特徴が以上のような点に認められるものであること を前提に検討する。 2 技術的範囲の属否-構成要件Aの充足性(争点1)について(1) 本件特許の出願時において,二酸化炭素が血行促進作用を有すること,皮膚に二酸化炭素を含有する組成物を適用すると二酸化炭素が経皮吸収されることは,当業者に周知の事項であったと認められるところ,本件特許の請求項1において,組成物中の二酸化炭素の含有量を特定する記載はなく,「気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料を得るためのキット」との記載があるのみなのであるから,パック化粧料が,気泡状の二酸化炭素を含有する組 載はなく,「気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料を得るためのキット」との記載があるのみなのであるから,パック化粧料が,気泡状の二酸化炭素を含有する組成物からなるものとして得られるキットであれば,構成要件Aを充足する。 しかるところ,一審被告は,被告製品から得られる組成物について気泡状の二酸化炭素の量を問題としているだけで,組成物が気泡状の二酸化炭素を含有していること自体は何ら争っていないのであるから,被告製品は構成要件Aを充足すると認めるのが相当である。 (2) これに対し,一審被告は,構成要件Aの充足性の判断においては,二酸化炭素の経皮吸収の向上を媒介として各種疾患の予防及び美容上の問題の改善等の本件明細書記載の各種の効果が奏する程度に「気泡状の二酸化炭素が保持」されていなければならない(当審における主張)とか,出願経過における主張と異なる主張をすることは信義則違反に当たる(原審における主張),などと主張する。 しかしながら,前記1に認定したとおり,本件発明の技術的特徴は,含水粘性組成物の粘性を利用して,二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができる点それ自体に認められるのであって,効果との関係でその量や程度を問題とするものではない。また,本件発明はその構成自体について特許性を認められたものであることからすると,作用効果の点をもって構成要件を限定的に解釈すべき理由はないし,原判決認定の出願経過 (この点に関しては,原判決29頁14行目~同32頁13行目の記載を引用する。)に照らしても,一審原告の主張が信義則に反するとすべき事情があるとはうかがわれない。 したがって,一審被告の主張はいずれも理由がない。 (3) 以上によれば,被告製品は,構成要件Aの「気 用する。)に照らしても,一審原告の主張が信義則に反するとすべき事情があるとはうかがわれない。 したがって,一審被告の主張はいずれも理由がない。 (3) 以上によれば,被告製品は,構成要件Aの「気泡状の二酸化炭素を含有する」という部分及び構成要件DないしHのうちこれに係る部分を充足すると認められる。 また,被告製品が構成要件A及びDないしHのその余の部分(配合成分や含有量等に関する部分)並びに構成要件B及びCを充足することについては当事者間に争いがない。 したがって,被告製品は本件発明の技術的範囲に属する。 3 作用効果不奏功の抗弁(争点2)について一審被告は,被告製品は,本件明細書に記載された各種疾患等の予防及び治療効果,美肌作用,部分肥満解消作用等の効果が生じる程度に発泡性,持続性の認められる気泡状二酸化炭素が皮下組織に持続的に十分供給される程度の気泡状の二酸化炭素を含有する構成ではない(原審における主張),あるいは,被告製品の通常の使用想定時間は30分であるが,乙26の実験結果によれば,攪拌操作終了後30分を基準とする限り,被告製品(事前調製型)と用時調製型との間に有意な差異がないものと推認される(当審における主張)から,被告製品は本件発明特有の作用効果を奏さないと主張する。 その主張は,要するに,本件発明は,二酸化炭素の経皮吸収の向上を媒介として各種疾患の予防及び美容上の問題の改善等本件明細書記載の各種効果を奏する程度に「気泡状の二酸化炭素が保持」されていなければならない(用時調製型との間に有意な差が認められなければならない)とする自らの主張を前提に,被告製品はそのような作用効果を奏するものではないから,本件発明の技術的範囲に属しないと主張するものと解される。 しかしながら,仮に作用効果不奏功の抗弁なるもの とする自らの主張を前提に,被告製品はそのような作用効果を奏するものではないから,本件発明の技術的範囲に属しないと主張するものと解される。 しかしながら,仮に作用効果不奏功の抗弁なるものが成り立ち得るとしても,一審被告の原審における主張は,実質的に構成要件Aの充足,非充足に関する議論の蒸し返しにすぎないというべきであって,その主張が採用できないことは既に説示したとおりであるし,一審被告の当審における主張についても,そもそも本件発明は特定の時間内に作用効果が現れることを特徴とするものではないのであるから,被告製品の通常の使用想定時間なるものに技術的範囲の属否が左右される理由は全くないというべきである。 したがって,この点に関する一審被告の主張は理由がない。 4 本件特許の効力(争点3)について(1) 一審被告が主張する特許無効の抗弁のうち,本件発明の未完成(争点3-1),サポート要件違反(争点3-2)及び実施可能要件違反(争点3-3)の各無効理由が認められないことは,次のとおり補正するほかは,それぞれ,原判決「事実及び理由」の第3の3(1)~(4)(原判決40頁16行目~46頁14行目)及び第3の4(1)~(3)(原判決46頁17行目~48頁9行目)に記載のとおりであるから,これらを引用する。かかる認定判断に反する一審被告の主張はいずれも採用できない。 ア原判決42頁11行目に「前記1(1)イ(エ)cのとおり,」とあるのを削除する。 イ原判決42頁23行目~46頁13行目を次のとおり改める。 「イ一審被告の主張について(ア) まず,一審被告は,化学の分野においては構成から効果を予測することが困難又は不可能であるため,化学物質発明が完成していると判断されるためには,当該化学物質が所望の効果を奏することが試験に (ア) まず,一審被告は,化学の分野においては構成から効果を予測することが困難又は不可能であるため,化学物質発明が完成していると判断されるためには,当該化学物質が所望の効果を奏することが試験により証明される必要があると主張する。 しかし,前記1(本判決第3の1)のとおり,本件発明が,含水粘性組成物の粘性を利用して,二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的 に経皮吸収させることができる点に特徴を有するものであることからすると,そのような特徴が発揮されれば,公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚,毛根の新陳代謝の活発化などの効果が得られるであろうことは,前記公知技術に係る技術常識に照らして合理的に理解することができるから,本件発明の効果が予見困難又は予見不可能であるとはいえない。 したがって,一審被告の前記主張は採用することができない。 (イ) 次に一審被告は,本件明細書の試験例が信用できないとか,その結果が本件明細書に正確に記載されているものとは考えられないなどと主張している。 しかし,本件明細書の試験例で使用された組成物については,実施例として,具体的な配合成分や含有量,さらにその製造方法が記載されている上に,発泡性や気泡の持続性についても客観的な数値によって評価されている。 また,試験例についても,実施例の組成物の使用前と使用後の状態等を客観的な数値によって評価したり(試験例8,13,33,37),複数の評価者又は専門医によって評価したり(試験例8,9,36)しており,極力恣意的な評価とならないような工夫がされていると認められる。確かに,髪の艶がよくなったとか,肌が白くなったなどという主観性の強い評価結果もみられるが,このような評価は,本件発明の作用効果の一つである美容上の問題の改善という性 工夫がされていると認められる。確かに,髪の艶がよくなったとか,肌が白くなったなどという主観性の強い評価結果もみられるが,このような評価は,本件発明の作用効果の一つである美容上の問題の改善という性質上やむを得ない面もあるし,これらも本件発明の組成物の使用前と使用後の状態を比較した結果であるという点では,それなりの客観性を備えていると認めることができる。 一審被告は試験例の原データが提出されていないなどとも主張しているが,本件発明の技術的意義に照らせば,試験例記載のような結果 を得られる場合があることも合理的に理解し得るものであるし,試験の手法等においても,特段不信を抱くべき点はない。また,本件明細書には多数の実施例や試験例が記載されているところ,その内容に不整合な点などはみられず,本件明細書の実施例や試験例の記載内容は,本件発明の技術的範囲に属する被告製品についての実験結果(乙6)とも矛盾していない。 したがって,本件では,原データが提出されなくとも,前記各試験例の信用性を肯定することができる。 (ウ) また,一審被告は,本件発明の全ての課題が解決されたことを示す試験例は一つもないなどと主張している。 しかし,一審被告がいう課題とは,本件明細書の【0009】及び【0010】に記載された課題であるが,これらのうち各種疾患に対する効能は特許請求の範囲には記載されていないから,そもそも本件発明の課題とはいえない。そして,美容上の効能についていえば,本件発明が,含水粘性組成物の粘性を利用して,二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができる点に特徴を有するものであることからすると,そのような特徴が発揮されれば公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚,毛根の新陳代謝の活発化などの効果が得 皮吸収させることができる点に特徴を有するものであることからすると,そのような特徴が発揮されれば公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚,毛根の新陳代謝の活発化などの効果が得られるであろうことは,公知技術に係る技術常識に照らして合理的に理解することができるから,本件明細書の【0009】及び【0010】に記載された効能(美容上の効能)の全てについての試験例がなくとも,発明が未完成とはいえない。 また,炭酸塩と酸を反応させれば二酸化炭素が発生することは技術常識といえる(【0039】,【0065】,乙1ないし3,8,78ないし80)から,本件発明の組成物と比較して発泡性や気泡の持続性が同じか,劣る組成物を使用した試験例を参照して本件発明の作 用効果を確認することが許されることは,前記(3)ア(原判決41頁19行目~同42頁22行目)において判示したとおりである。 (エ) さらに,一審被告は,本件発明には科学的根拠がないなどと主張し,一審原告の製品を用いて本件明細書の試験例13(腕の部分痩せ試験)の追試を行ったものとして,乙19の実験結果報告書を提出するとともに,医学博士による乙21の意見書等を提出している。 確かに,乙19では腕の部分痩せの効果がうかがえないが,本件発明の目的や作用効果の性質上,ある程度の個人差が生ずるのはやむを得ない(乙7,36も参照)から,これによって直ちに本件明細書の試験例の信用性が否定されるとはいえないし,試験例記載のような極めて良好な結果が生じることが本件発明の効果として必須のものとも認められないから,乙19の結果をもって本件発明が未完成であるとも認められない。また,乙21の意見書においては,本件明細書に記載のある全ての疾患・病態に対して,本物質の人への使用に当たっての有効性及 められないから,乙19の結果をもって本件発明が未完成であるとも認められない。また,乙21の意見書においては,本件明細書に記載のある全ての疾患・病態に対して,本物質の人への使用に当たっての有効性及び安全性についての科学的根拠の欠如が著しく,課題が解決しているとは到底認識できるものではないとの記載があるが,本件発明を利用すれば,公知技術において知られていた二酸化炭素の血行促進作用による皮膚,毛根の新陳代謝の活発化などの効果が得られるであろうことは,当該公知技術に係る技術常識に照らして合理的に理解することができることは既に指摘したとおりである(なお,各種疾患に対する効能は,特許請求の範囲には含まれていない。)。したがって,効果の予測できない新規化合物の場合のように,乙21がいうようなシステマティックレビューや一つ以上のランダム比較試験等の強いエビデンスレベルの根拠がないからといって,発明が未完成であるとはいえず,このことは乙20についても同様である。 また,一審被告が提出している乙36の実験結果によると,粘性の ない液状のものを使用した場合が最も皮膚の赤みに差が生じたとされているが,液状のものの製造方法等が不明であることに照らすと,乙36の実験結果を直ちに採用することはできない。一審被告は,乙35等に基づいて,被告製品を含む二酸化炭素経皮吸収剤の効果は,気泡状二酸化炭素ではなく水に溶解した二酸化炭素によってもたらされるものである(から気泡状二酸化炭素の存在は意味がない)とも指摘するが,本件発明も組成物中の気泡状二酸化炭素がそのまま経皮吸収されることを前提としているわけではないから,失当である。さらに,一審被告は乙23を提出し,徐放性で気泡が少ない炭酸ガスパック剤(サンプルA)よりも,混合時に大量の二酸化炭素を発生させる気泡 吸収されることを前提としているわけではないから,失当である。さらに,一審被告は乙23を提出し,徐放性で気泡が少ない炭酸ガスパック剤(サンプルA)よりも,混合時に大量の二酸化炭素を発生させる気泡が多い炭酸ガスパック剤(サンプルB)の方が二酸化炭素の経皮透過量(吸収率)はむしろ低いなどと主張しているが,二酸化炭素の放出能力(二酸化炭素の発生が急激であるかどうか)それ自体は,本件発明の技術的特徴とは直ちに関係しないから,乙23によっても本件発明の作用効果は否定されない。 (オ) 以上のとおり,本件発明が未完成であるという一審被告の主張は失当である。」ウ原判決46頁26行目~47頁12行目を次のとおり改める。 「しかし,本件明細書に作用効果が生ずる機序が記載されていないからといって,直ちに実施可能要件違反,サポート要件違反の問題が生ずるものではない。また,本件発明を利用することにより,二酸化炭素の血行促進作用による皮膚,毛根の新陳代謝の活発化などの効果が得られるであろうことを,技術常識に照らして合理的に理解することができることは既に再三指摘したとおりであるところ,この認定を単なる一般的,抽象的可能性を指摘するだけで覆すことはできない。一審被告は,本件出願の経過における一審原告の主張を引用して,血行促進作用以外のプラスαの作用が 関連しているなどとも主張しているが,本件発明が,血行促進作用を利用した発明として実施可能要件,サポート要件を満たしていると考えられるのであれば,本件発明の作用効果とは異なるプラスαの作用効果について記載がないとしても,そのことによって前記記載要件違反の問題が生ずるものではない。 したがって,一審被告の主張は失当である。」(2) 乙8を主引用例とする進歩性欠如(争点3-4)についてア乙8の ないとしても,そのことによって前記記載要件違反の問題が生ずるものではない。 したがって,一審被告の主張は失当である。」(2) 乙8を主引用例とする進歩性欠如(争点3-4)についてア乙8の記載によれば,乙8公報には,次の(ア)及び(イ)のとおりの鐘紡発明(鐘紡発明1及び2)が記載されており,また,本件発明と鐘紡発明を対比すると,少なくとも次の(ウ)のとおりの相違点(本件相違点)があると認められる。 (ア) 鐘紡発明1a 炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚を賦活化させるための2剤型の発泡性化粧料であって,b 酸を含有する水溶液と,炭酸塩と水溶性高分子及び/又は粘土鉱物を含有する固型物の組合せからなり,c 酸を含有する水溶液と,炭酸塩と水溶性高分子及び/又は粘土鉱物を含有する固型物を混合することにより組成物が得られ,d 前記組成物中の前記水溶性高分子及び/又は粘土鉱物の含有量が約1.8wt%である2剤型の発泡性化粧料。 (イ) 鐘紡発明2a 炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚を賦活化させるための2剤型の発泡性化粧料であって,b 酸を含有する水溶液と,炭酸塩と水溶性高分子及び/又は粘土鉱物を常温固型のポリエチレングリコールで被覆した固型物の組合せからなり, c 酸を含有する水溶液と,炭酸塩と水溶性高分子及び/又は粘土鉱物を常温固型のポリエチレングリコールで被覆した固型物とを混合することにより得られるd 2剤型の発泡性化粧料。 (ウ) 本件発明1と鐘紡発明の相違点(本件相違点)本件発明1は,「水及び増粘剤を含む粘性組成物」(構成要件B)と「炭酸塩及び酸を含む,複合顆粒剤,複合細粒剤,または複合粉末剤」(構成要件C)の組合せからなり,これらを混合して組成物を得るものであるのに対し,鐘紡 水及び増粘剤を含む粘性組成物」(構成要件B)と「炭酸塩及び酸を含む,複合顆粒剤,複合細粒剤,または複合粉末剤」(構成要件C)の組合せからなり,これらを混合して組成物を得るものであるのに対し,鐘紡発明(鐘紡発明1及び2)は,酸を含有する水溶液と,炭酸塩と水溶性高分子等を含有する固型物の組合せからなり,これらを混合して組成物を得るものである点。 イ本件相違点についての検討鐘紡発明1は,乙8公報において比較例として記載されているものであって,ガス保留性の向上を目的とする乙8公報の中にあっては,そのガス保留性に著しく劣るなどの課題があると位置付けられている技術であるから,同発明にガス保留性を高める動機付け自体はあるといえる。 しかしながら,乙8公報においては,当該課題を解決するために,酸を含有する水溶液である第1剤と,炭酸塩及びアルギン酸ナトリウム等の水溶性高分子をポリエチレングリコールで被覆した第2剤の組合せとする構成を採用し,かかる構成を採用した結果,用時混合の際に,炭酸ガスの泡が徐々に発生すると共に水溶性高分子等の粘性によって安定な泡を生成し,ガス保留性が高まることを見出して,鐘紡発明2を完成するに至ったものと認められる(乙8の1頁右欄5行目~13行目)。 そうすると,前記課題(ガス保留性の向上)を解決するための構成であるポリエチレングリコールで被覆した水溶性高分子等の固形物について,乙8にはゲル化に関する示唆は何ら存しないにもかかわらず,通常のパッ ク剤に使用されるからといって,あえてポリエチレングリコールによる被覆を外してゲル化しておくようにする動機付けがあるとはいえない。 したがって,本件相違点は容易想到とはいえない。 ウ一審被告の主張について(ア) 一審被告は,当審において新たな証拠を提出して,ジェルと てゲル化しておくようにする動機付けがあるとはいえない。 したがって,本件相違点は容易想到とはいえない。 ウ一審被告の主張について(ア) 一審被告は,当審において新たな証拠を提出して,ジェルと粉末の組合せは周知慣用技術であり,アルギン酸ナトリウムの溶解には時間がかかるので事前溶解の必要性があることも周知の技術常識であったことから,鐘紡発明をアルギン酸ナトリウムの含水組成物が事前調製されているものに変更する動機付けがあり,したがって,本件発明1は鐘紡発明及び周知慣用技術から当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する。 しかしながら,乙8公報には,アルギン酸ナトリウムに溶解性の問題があることは特に記載されておらず,むしろ,ガス保留性を改善するという課題の解決手段として第2剤をポリエチレングリコールで被覆した水溶性高分子等の固形物にすることが記載されているところ,アルギン酸ナトリウムの事前溶解に関する周知慣用技術を適用して,前記固形物を事前調製された含水粘性組成物に変更しようとすると,前記課題の解決手段である固形物の形態自体が失われてしまうという問題が生じることが明らかである。 したがって,乙8公報に接した当業者が,引用発明に対してわざわざそのような変更を行うとはいえず,一審被告の主張は理由がない。 (イ) 一審被告は,炭酸塩と酸の反応による気泡状の二酸化炭素の発生速度が非常に速いため,鐘紡発明においては,アルギン酸ナトリウムの気泡安定化効果及び閉じ込め効果が発動するまでの間に発生した気泡状の二酸化炭素は,崩壊するか又は拡散してしまい,依然として持続性の問題が残ることは当業者には明らかであって,「持続性の更なる向上」が課 題として残るといえ,このことは,乙152にママコの形成を防ぐ手段として,粉末をコー 拡散してしまい,依然として持続性の問題が残ることは当業者には明らかであって,「持続性の更なる向上」が課 題として残るといえ,このことは,乙152にママコの形成を防ぐ手段として,粉末をコーティング(被覆と同義)する方法が記載されているが,それが本質的な解決にならないと明記されていることからも裏付けられる,などと主張する。 しかしながら,炭酸塩と酸を直接反応させるのではなく,酸を含んだ水と,ポリエチレングリコールで被覆した炭酸塩と水溶性高分子とを反応させた場合においても,同様に「持続性の更なる向上」の課題が残ると断定できるかどうかには疑問がある(現に,乙8においては,安定な泡を生成し,ガス保留性が高まるとされている。)。一審被告は,被覆によっては,ママコ発生の問題を解決できないから,炭酸塩と酸が先行して反応してしまうという事態を防止することはできないことを示すものとして乙152を提出しているものと考えられるが,乙152の記載は,ママコを生じやすい粉末糊料(主成分)について,ポリビニルアルコール等のママコを生じにくい粉末糊料(主成分とは別の糊料)で被覆すると,主成分である糊料の特性が阻害され,糊液粘度も変動するというものであって,ママコ発生とは関係のない問題点を指摘しているのにとどまるから,一審被告の主張の裏付けとなるものではない。 エ以上によれば,本件発明は,乙8及び周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,乙8を主引用例とする進歩性欠如によって無効とされるべきものであるとは認められない。 (3) 冒認又は共同出願義務違反(争点3-5)についてア一審被告が提出した冒認又は共同出願義務違反の主張については,一審原告が時機に後れた攻撃防御方法の提出に当たるものとして却下されるべきである旨 冒認又は共同出願義務違反(争点3-5)についてア一審被告が提出した冒認又は共同出願義務違反の主張については,一審原告が時機に後れた攻撃防御方法の提出に当たるものとして却下されるべきである旨主張しており,現に原審においては,審理の経過に鑑み,そのような判断がなされている。 しかしながら,一審被告が説明する冒認の主張を追加するに至った経緯 や,原審及び当審を通じた本件の審理経過等に鑑みれば,控訴審の第1回期日までに控訴理由としてその主張を追加することが時機に後れているとまではいえず,ほかに当審において同主張を時機に後れた攻撃防御方法の提出に当たるものとして却下すべき事由があるとは認められない。 イそこで,一審被告の主張の当否について検討するに,本件発明の技術的特徴(特徴的部分)が,含水粘性組成物の粘性を利用して,二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができる点にあると認められることは既に説示したとおりであるから,これを前提にまず本件発明が完成に至るまでの経緯をみることとする。 この点につき,証人Pは,要旨,①酸と炭酸塩の反応から二酸化炭素を発生させる組成物として,酸の溶けたジェルと炭酸塩の溶けたジェルを混合させる組成物を試作したが,当該試作品では,混合すると酸と炭酸塩の反応が即座に起こってしまい,発生した炭酸ガスが空気中に逃げてしまう現象が確認されたこと,②カネボウフーズの「ねるねる」シリーズの知育菓子(本件菓子)は,粉末状の材料に水を入れてジェルを形成し,そこに酸の顆粒を加えて混ぜると発泡するものであり,ジェルの全体に炭酸ガスが行き渡って持続することが目に見えて分かるものであったので,その技術情報を教えてもらうために,平成9年3月にカネボウフーズの食品研究所を訪ねたこと,③そこで,アルギン酸ナト ジェルの全体に炭酸ガスが行き渡って持続することが目に見えて分かるものであったので,その技術情報を教えてもらうために,平成9年3月にカネボウフーズの食品研究所を訪ねたこと,③そこで,アルギン酸ナトリウムはしっかりとしたジェルを形成することができ,離水現象が起きにくい反面,水に溶けにくい性質があることなどを教えてもらい,それらを製剤研究部のQに伝えて試作を依頼したこと,④試作の過程では,更に同じ製剤研究部のRの協力も得て試作品の作成及び改善を進め,Qはジェルの調合等を担当し,Rはワックスの技術などを使って顆粒について酸が徐々に溶け出すような工夫を行ったこと,などを証言しており,これによれば,Pはカネボウフーズの食品研究所に話を聞きに行く時点で既に含水粘性組成物を二酸化炭素保持の 目的で利用する着想を得ていたと認められる。 また,証人Sは,要旨,①そもそも2剤式の製剤を考案したのは,炭酸ガスと床擦れのキーワードで文献を調査していたときに,花王のバブを用いた床擦れの治療法を発見したのがきっかけであったこと,②当該治療法は,洗面器に水を張ってその中に花王のバブを砕いたものを入れ,その中にガーゼを浸して,そのガーゼを患部に当てるという方法であったが,有効成分の炭酸ガスがどんどん空気中に放散されてしまうので,洗面器の中の水が仮にジェルであればより濃度を高く保って炭酸ガスを封じ込めることができるのではないかと考えたこと,③当初Pに提案した2剤式の製剤は,炭酸水素ナトリウムを含むジェル剤と単独の酸の粉末の2剤からなるものであったこと,④かかる研究開発を始めたのは平成9年2月頃のことであったこと,⑤Pからカネボウフーズの食品研究所に行く話を聞いたことはあるが,既にそこそこの結果が出ていたので,わざわざ話を聞きに行くまでもないと言った記憶が 開発を始めたのは平成9年2月頃のことであったこと,⑤Pからカネボウフーズの食品研究所に行く話を聞いたことはあるが,既にそこそこの結果が出ていたので,わざわざ話を聞きに行くまでもないと言った記憶があること,⑥同年3月後半には,酸単独の粉末剤を酸を含む顆粒剤に変更するなどして二酸化炭素がうまく発生するようになっていたこと,⑦その後もジェルの改良や粉末,顆粒の研究開発などを進め,ジェルに関しては,ジェルの濃度を高めることによって,今までできなかった酸単独の粉末剤を入れても顆粒剤と同じようにジェル全体に気泡を発生させることができるようになったこと,⑧同年4月から自分の医院で患者の協力を得て開発中の炭酸製剤による治療を開始したこと,⑨その後,自ら使用して部分肥満改善効果や美容効果があることも発見したこと,⑩一審被告の主張に出てくるQとは面識がなく,Rとは面識があるが,それは同年9月以降のことであって,飽くまでPの補助者であると認識していたこと,などを証言しており,これによれば,着想を得た主体(PかSか)や,Qらの関与の有無・程度に関する認識などの点において,Pの証言内容と一部食い違いが認められるものの,平成9年3月にPがカ ネボウフーズの食品研究所を訪ねた時点で既に含水粘性組成物を二酸化炭素保持の目的で利用する着想を得ていたという点では,Pの証言内容と一致しているということができる。 他方で,QやRがかかる着想を得るのに現実に関与したことを認めるに足る証拠はなく,また,その後の創作活動においても,同人らが単なる補助者としての地位にとどまらず,共同発明者としてPやSと一体的・連続的な協力関係の下に相応の貢献をしたといえるだけの具体的かつ客観的な事情の存在が裏付けられているとも認められない(Rに関しては本件訴訟への関与自体を拒絶して ず,共同発明者としてPやSと一体的・連続的な協力関係の下に相応の貢献をしたといえるだけの具体的かつ客観的な事情の存在が裏付けられているとも認められない(Rに関しては本件訴訟への関与自体を拒絶しており,Qに関しては,同人の陳述書が乙169として提出されているものの,その内容は発明者と認定するには乏しいといわざるを得ない。)。 ウまた,一審被告はSの発明者性を否定するが,Sが作成した陳述書(甲38)の内容や同人の証言内容を併せ考慮すれば,同人は,1剤式から2剤式の製剤にアイデアを変更した経緯や,2剤式に変更してから前記着想を得て具体化するまでの試行錯誤の経緯,化粧品としての効果を発見した経緯等,最終的に化粧料のキットとして本件発明が完成するまでの研究開発の経緯全般について,具体的な説明ができており,その供述ないし陳述には相応の信用性があるものというべきである。そして,ほかに,願書の記載に反して,あえて同人の発明者性を否定すべき事情があるとは認められない。 エ以上によれば,本件発明の技術的思想(含水粘性組成物の粘性を利用して,二酸化炭素を保持できる組成物とすること)の創作に現実に関与したのは,飽くまでPとSであって,RとQが関与したのは,製品の具体化に向けて二酸化炭素の発生と保持を最適化する作業にすぎないというべきであるから,QとRが本件発明の発明者であるとはいえず,また,Sの発明者性を否定することもできない。 したがって,一審被告の主張は,主位的主張(真の発明者はPとQの2名であるとの主張)及び予備的主張(真の発明者はPとQとRの3名であるとの主張)共に理由がなく,本件発明が冒認出願であるとか,共同出願義務に違反してなされたものであるとはいえない。 (4) 以上によれば,一審被告が主張する特許無効の抗弁はいずれも理 とRの3名であるとの主張)共に理由がなく,本件発明が冒認出願であるとか,共同出願義務に違反してなされたものであるとはいえない。 (4) 以上によれば,一審被告が主張する特許無効の抗弁はいずれも理由がなく,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。 5 補償金の額(争点4)について(1) 本件は,特許法65条1項に基づく補償金請求の事案であるところ,一審被告の売上高や実施料率を検討する上で前提となる事実の認定については,原判決「事実及び理由」第3の6(1)及び(2)ア(ア)~(オ)(原判決53頁23行目~58頁18行目)に記載のとおりであるから,これらを引用する。 (2) 実施料率の低下要因についてア一審原告は,原判決が「二酸化炭素(炭酸ガス)を利用したパック化粧料は従来から販売等されていた」から,二酸化炭素を経皮吸収させるなどというだけでは,消費者の購入動機を形成するとは認められないと認定したのに対し,一審原告が知る限り,本件特許の原出願日である平成11年5月6日より以前に二酸化炭素を経皮吸収させるパック化粧料は一切存在していなかったから,原判決の認定は誤りであると主張する。 確かに,前記認定に供された証拠のうち,実際に販売された商品に関するものは,一審原告の商品カタログである甲6のみであり,その他は特許文献であるので,必ずしもそこに記載されている化粧料が商品化され,販売されているとはいえない。 もっとも,原判決の認定は,本件特許の被告製品の販売に対する寄与を論じる部分における認定であることからすると,そこでいう「従来から」の「従来」は,本件特許の原出願日ではなく,被告製品の販売時を基準とするものとみるのが相当であって,また,本件訴訟の係属後は一審被告か ら多数の競合品の存在が立証され( こでいう「従来から」の「従来」は,本件特許の原出願日ではなく,被告製品の販売時を基準とするものとみるのが相当であって,また,本件訴訟の係属後は一審被告か ら多数の競合品の存在が立証され(乙46~71),被告製品が存在しなくてもこれらの競合品が需要を吸収する旨の主張がなされていることも併せ考慮すると,本件特許の被告製品の販売に対する寄与を検討するに当たり,二酸化炭素を経皮吸収させるなどというだけでは,消費者の購入動機を形成するとは認められないと認定したことが,あながち誤った認定であるということはできない。 イ次に,一審原告は,乙26の実験結果は信用性に欠けるものであり(甲30),ブチレングリコールの配合の有無によらず,事前調製型と用時調製型とでは,撹拌終了後30分経過時までの二酸化炭素の経皮吸収量に有意な差が認められるから(甲15),「ブチレングリコールが5%配合されている場合の混合後30分経過時までの二酸化炭素吸収量は,事前調製型と用時調製型とで有意な差異が認められない」として本件発明を実施したことの寄与は限定的であるとした原判決は妥当でない,と主張する。 この点,被告製品は炭酸水素ナトリウム,クエン酸を含有するパウダー剤と,水,セルロースガム,キサンタンガム等を含有するジェル剤を混合するパック用化粧料のキットであって,正に本件発明の構成を有するものであるから,含水粘性組成物の粘性を利用して,二酸化炭素を組成物中に保持し,持続的に経皮吸収させることができるという本件発明の特徴を備えることは明らかである。そして,そうである以上,本件発明は,被告製品に全面的に寄与しているというべきなのであって,仮に本件発明とは構成が異なるが効果は異ならない製品が存在し得たとしても,そのことによって本件発明の寄与が限定的なものになるわけで 本件発明は,被告製品に全面的に寄与しているというべきなのであって,仮に本件発明とは構成が異なるが効果は異ならない製品が存在し得たとしても,そのことによって本件発明の寄与が限定的なものになるわけではない。 また,仮にこの点を措くとしても,乙26の実験は,被告製品を用いた対比実験ではなく,実施例44とその改変キット(粘性組成物中の水を酸成分に添加しておくことにより,実施例44のキットを一審被告主張の「用時調製型」のキットに改変したもの)という,被告製品とは構成が異なる キットを用いて対比実験を行ったものにすぎない(ブチレングリコールの配合量が同じであるかどうかも定かでない)のであるから,その一例をもって直ちに被告製品において(あるいは,ブチレングリコールを配合した製品において)本件発明の構成を採用したこと(本件発明を実施したこと)の寄与が限定的であるということはできないし,ほかに被告製品における本件発明の寄与が限定的であるとみるべき具体的事情はない。 したがって,いずれにせよ原判決が乙26の実験結果に基づいて被告製品において本件発明を実施したことの寄与が限定的であると認定したのは相当でないというべきであり,一審原告の主張は,乙26の実験結果の信用性について論じるまでもなく,かかる点を指摘する限度で理由がある。 ウ他方,一審被告は,①一審被告が採用するMLMの販売手法は資本を投下して形成された特別な人的ネットワークに基づくものであって,通常よりも営業コストが高いと推認できること,②一審原告は特許権の行使を主たる事業とする会社であり,平均的な実施料率を判断の基礎とすること自体に疑問がある上,仮に判断の基礎とするにしても,競争促進の観点から実施料率は通常の特許侵害訴訟の場合に比較して低減されるべきであることなどを理由に,本件に 平均的な実施料率を判断の基礎とすること自体に疑問がある上,仮に判断の基礎とするにしても,競争促進の観点から実施料率は通常の特許侵害訴訟の場合に比較して低減されるべきであることなどを理由に,本件における実施料率が●●●●●●ことはないと主張する。 しかしながら,前記①の点については,MLMという販売手法を採用しているからといって,直ちにそれが通常よりも実施料率を低減させるべき事情になるとはいえないし,前記②の点についても,一審原告の特許権行使が実施料率の面で差別的扱いを受けなければならないほどに競争促進の観点から問題のあるものと認めるに足りる証拠はないから,その主張は理由がない。 また,一審被告が原審において主張したその他の事情についても,いずれも通常より実施料率を低減させるべき要因として特に取り上げるべきと いえるほどの事情であるとは認められない。 以上によれば,実施料率の低下要因に関する一審被告の主張はいずれも理由がない。 (3) 以上の認定判断を踏まえ,被告製品の販売に関する相当な実施料率を検討するに,本件発明の内容及び作用効果,被告製品の構成,一審原告が保有する別件特許に係る紛争の和解内容や別件訴訟における実施料率の認定,本件発明の技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率の値に加えて,本件が訴訟提起にまで至った事案であることや,被告製品における本件発明の寄与が特に限定的であるとは認められないこと等の諸事情を勘案すれば,一審被告が本件発明の実施に対し受けるべき補償金の額を算定するに当たっての実施料率は●●●●●●●●●相当である。 そうすると,一審被告が一審原告に対し支払うべき補償金の額は,次のとおり,2154万0578万円と認められる。 (計算式)●●●●●●●●●●●●●●●●=2154万057 ●●●●●相当である。 そうすると,一審被告が一審原告に対し支払うべき補償金の額は,次のとおり,2154万0578万円と認められる。 (計算式)●●●●●●●●●●●●●●●●=2154万0578円(1円未満四捨五入)(4) 以上によれば,一審原告の一審被告に対する請求は,2154万0578円及びこれに対する平成27年9月5日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がないことに帰する。 第4 結論以上のとおり,一審原告の控訴は理由があるので,これに基づいて前記の限度で原判決を変更することとし,一審被告の控訴は理由がないのでこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官鶴岡稔彦 裁判官寺田利彦 裁判官間明宏充
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