- 1 -主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告の原告に対する平成14年7月23日付け遺族補償年金不支給決定処分及び葬祭料不支給決定処分をいずれも取り消す。 第2事案の概要 本件は,セイコーエプソン株式会社(以下「セイコーエプソン」という。)に勤務して海外現地法人の技能認定業務等に従事していたP1(以下「被災者」という。)が,出張先である東京都内のホテルにおいてくも膜下出血を発症し死亡したことについて,被災者の妻である原告が,被災者の疾病はセイコーエプソンの業務に起因するものであるとして,労働者災害補償保険法に基づき遺族補償年金の給付及び葬祭料の支給を請求をしたところ,被告が被災者の疾病は業務に起因するものに該当しないとしていずれも不支給とする決定をしたので,原告が上記各決定の取消しを求めた事案である。 基礎となる事実(当事者間に争いがない事実等並びに各事実の末尾に記載した証拠又は弁論の全趣旨により認定できる事実である。)(1)被災者及び当事者等被災者は,昭和▲年▲月▲日生まれの男性であり,平成13年10月4日,出張先である東京都内のホテルにおいて死亡しているのが発見された。被災者は,死亡時には41歳であった。 原告は,被災者の妻である。(当事者間に争いがない。)(2)セイコーエプソンについてセイコーエプソンは,情報関連機器(パソコン,プリンター,スキャナ等コンピュータ周辺機器,液晶プロジェクター等映像機器),電子デバイス- 2 -(半導体,液晶表示体,水晶デバイス),精密機器(時計,眼鏡レンズ)の開発,製造,販売及びサービス等を主要な事業とする株式会社である。(乙11)セイコーエプソンは,平成12年ころ,プリンターの製造を国内生産から 示体,水晶デバイス),精密機器(時計,眼鏡レンズ)の開発,製造,販売及びサービス等を主要な事業とする株式会社である。(乙11)セイコーエプソンは,平成12年ころ,プリンターの製造を国内生産から海外生産に切り替えた。(当事者間に争いがない。)(3)被災者の業務等被災者は,昭和57年10月12日,セイコーエプソンに入社して,技術関係の業務に従事し,パソコン用のカラープリンター組立工程に関する知識と経験を有し,QC(品質管理)研修及び問題解決実施コースを修了していた。被災者は,平成12年11月ころ,セイコーエプソンの広丘事業所(長野県塩尻市に所在)のTP(ターミナルプリンター)生産技術部に配属となり,生産技術部の中では,P2課長及びP3課長のグループ(以下「P2・P3グループ」という。)のうちのP4主事がリーダーとなっているチーム(以下「P4チーム」という。)に属していた。(当事者間に争いがない。)被災者は,生産技術部に配属された平成12年11月ころから平成13年1月ころまでは主に品質向上活動支援を担当し,同年2月ころからは,セイコーエプソンの海外の生産拠点(現地法人)における技能認定の業務等も担当するようになった(証人P2,弁論の全趣旨)。被災者らが技能認定業務を行うのは,主にフィリピン及びインドネシアの現地法人で,1か月ないし2か月に1回程度実施されることが年間計画で決まっていた(当事者間に争いがない。)。 (4)被災者の海外出張被災者は,セイコーエプソンの生産技術部に配属された平成12年11月13日から平成13年9月28日までの間に,以下のとおり,合計183日間の海外出張をした(当事者間に争いがない。)- 3 -ア被災者は,平成12年11月13日から同年12月22日の40日間,品質向上活動支援の目的で,中華人民共和 間に,以下のとおり,合計183日間の海外出張をした(当事者間に争いがない。)- 3 -ア被災者は,平成12年11月13日から同年12月22日の40日間,品質向上活動支援の目的で,中華人民共和国に出張をした。 イ被災者は,平成13年1月8日から同月17日までの10日間,品質向上活動支援の目的で,中華人民共和国に出張をした。 ウ被災者は,同年2月4日から同年3月8日までの33日間,海外現地法人における技能認定のためにフィリピンへ,品質向上活動支援のために中華人民共和国へ出張をした。 エ被災者は,同年3月25日から同年4月7日までの14日間,海外現地法人における技能認定のためにフィリピンに出張をした。 オ被災者は,同年5月20日から同年6月2日までの14日間,海外現地法人における技能認定のためにフィリピンに出張をした。 カ被災者は,同月10日から同月28日までの19日間,リワーク業務(製品の不具合,製品のクレーム又は生産トラブルが発生した際,現地へ赴き生産ラインを含めた原因究明,検討及び改善を行う業務)の目的で,アメリカ合衆国に出張をした。 キ被災者は,同年7月7日から同月20日までの14日間,リワーク業務の目的で,チリに出張をした。 ク被災者は,同年8月19日から同年9月6日までの19日間,海外現地法人における技能認定及び品質向上活動支援の目的で,フィリピンに出張をした。 ケ被災者は,同月9日から同月28日までの20日間,海外現地法人における技能認定の目的で,インドネシアに出張をした。 (5)被災者は,上記インドネシアでの出張を終えて帰国し,平成13年9月28日午前10時40分に松本空港に到着し(当事者間に争いがない。),同日午前中に帰宅できるところであったが,被災者が実際に帰宅したのは同日午後6時ころであった(乙3,4 えて帰国し,平成13年9月28日午前10時40分に松本空港に到着し(当事者間に争いがない。),同日午前中に帰宅できるところであったが,被災者が実際に帰宅したのは同日午後6時ころであった(乙3,4,原告本人)。 - 4 -翌29日(土曜日)は被災者の休日であり,被災者は自宅で過ごした(当事者間に争いがない。)。 翌30日(日曜日)も被災者の休日であり,被災者は,同日午後,子供のサッカーの練習を見ていたところ,P2課長から電話でリワーク作業のために東京へ出張することを要請され,同日午後3時ころから広丘事業所における打合せ会議に参加した後,同日午後4時ころ帰宅した。(当事者間に争いがない。)(6)被災者の東京(台場倉庫)出張及び被災者の死亡被災者は,平成13年10月1日午前6時10分に松本市の自宅を出発して,東京に出張をし,同日から同月3日までの間,夜はホテルに宿泊しながら,東京都内の台場倉庫におけるリワーク作業に従事した。 被災者は,同日午後6時30分ころ,同僚とともに夕食を摂り,同日午後7時45分ころにホテルの部屋に戻り,その後,同日午後8時45分ころ,同僚の部屋に翌日のスケジュールを確認するために電話をしたり,同日午後10時20分ころ,上司からの電話を受けて打合せをするなどしていた。 被災者は,平成13年10月4日の朝,集合時間になってもホテルのロビーに姿を見せず,その後,ホテルの部屋で死亡しているのが発見された。 (当事者間に争いがない。)(7)被災者の死因等について東京都監察医P5は,被災者の直接死因を「くも膜下出血」,直接死因の原因を「椎骨動脈解離・破綻」,死亡日時を平成13年10月4日午前1時ころと認め,被災者の解剖の結果,下記アないしオの所見を認めた(乙10)。したがって,被災者は,左椎骨動脈に類紡錘状の解離性動脈瘤 原因を「椎骨動脈解離・破綻」,死亡日時を平成13年10月4日午前1時ころと認め,被災者の解剖の結果,下記アないしオの所見を認めた(乙10)。したがって,被災者は,左椎骨動脈に類紡錘状の解離性動脈瘤(脳動脈血管が血流により切り離され,動脈壁を内外二層に解離(剥離)して解離腔に血液が入り込み,そのため動脈瘤様の拡大を来す。)を有し,これが破綻したことによりくも膜下出血が発症し,死亡したものと認められる(当事- 5 -者間に争いがない。)。 アくも膜下出血左右対称,脳幹部,小脳付近に限局したくも膜下出血。左椎骨動脈に類紡錘状(1cm長,0.7cm径)の動脈瘤があり破裂,組織上椎骨動脈解離を伴う。 イ心臓376グラムウ胆嚢コレステリン沈着症エ大動脈硬化は不存在オ血中エタノール濃度0.26mg/ml(8)不服申立て等の経緯ア原告は,上記のとおり被災者がくも膜下出血により死亡したことについて,平成13年10月,被告に対し,労働者災害補償保険法に基づき遺族補償年金の給付及び葬祭料の支給を請求をした(当事者間に争いがない。)。 イ被告は,原告の上記労働災害補償請求に対して,平成14年7月23日,被災者の死亡原因であるくも膜下出血と業務との因果関係が認められないとして,遺族補償年金及び葬祭料をいずれも不支給とする決定をした(甲1の1・2)。 ウ原告は,平成14年9月17日,長野県労働局労働者災害補償保険審査官に対し,審査請求をしたが,長野県労働局労働者災害補償保険審査官は,平成15年3月28日,被災者のくも膜下出血の発症と業務との相当因果関係を認めることは困難であると判断し,原告の審査請求を棄却する決定をした(甲2)。 エ原告は,平成15年4月24日,労働保険審査会に対し,再審査請求をしたが,請求後3か月を経過しても の相当因果関係を認めることは困難であると判断し,原告の審査請求を棄却する決定をした(甲2)。 エ原告は,平成15年4月24日,労働保険審査会に対し,再審査請求をしたが,請求後3か月を経過しても決定がなされなかった(当事者間に争いがない。)。そこで,原告は,平成15年10月4日,本件訴えを提起- 6 -した(行政事件訴訟法8条2項。当裁判所に顕著な事実)。 (9)関係法令の規定労働者災害補償保険法12条の8第2項は,業務災害に関する保険給付は,労働基準法75条ないし77条,79条及び80条に規定する災害補償の事由が生じた場合に補償を受けるべき労働者もしくは遺族又は葬祭を行った者に対しその請求に基づいて行うとしており,労働基準法75条1項は,労働者が「業務上」負傷し,又は疾病にかかった場合においては,使用者は,その費用で必要な療養を行い,又は必要な療養の費用を負担しなければならないとしている。そして,労働基準法75条2項は,業務上の疾病の範囲については命令で定めるものとしており,これを受けて労働基準法施行規則35条の別表1の2においては,当該業務に起因して発症し得ることが医学経験則上一般的に認められている疾病(2号ないし7号)等のほか,個々の事案に即して業務起因性があると認められた疾病を補償の対象となし得るものとするため,9号において「その他業務に起因することの明らかな疾病」と規定されている。 (10)脳血管疾患等の業務起因性の認定基準厚生労働省労働基準局長は,「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日基発第1063号。以下「認定基準」という。)を策定し,各都道府県労働局長宛てに発出している。認定基準は,「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」が,厚生労働省か いて」(平成13年12月12日基発第1063号。以下「認定基準」という。)を策定し,各都道府県労働局長宛てに発出している。認定基準は,「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」が,厚生労働省からの依頼により,疲労の蓄積等と脳・心臓疾患の発症との関係を中心に,業務の過重性の評価要因の具体化等について,現時点における医学的知見に基づいて検討を行い,その検討結果を取りまとめた平成13年11月16日付け「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書」を参考にして作成されたものである。 認定基準は,脳血管疾患及び虚決性心疾患等(負傷に起因するものを除- 7 -く。)の業務起因性の認定基準として,①発症直前から前日までの間において,発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(「異常な出来事」)に遭遇したこと,②発症に近接した時期において,特に過重な業務(「短期間の過重業務」)に就労したこと,③発症前の長期間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(「長期間の過重業務」)に就労したことのいずれかに該当する業務による明らかな加重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患には,業務起因性が認められるとしている。 そして,①異常な出来事とは,(ア)極度の緊張,興奮,恐怖,驚愕等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態(精神的負荷),(イ)緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態(身体的負荷),(ウ)急激で著しい作業環境の変化(作業環境)をいい,異常な出来事と発症との関連性については,通常,負荷を受けてから24時間以内に発症が出現するとされているので,発症直前から前日までの間を評価期間とするとされている。 ②短期間の加重負荷とは,日常業務に比較して特に過重な身体的,精神的負荷を生じさ 荷を受けてから24時間以内に発症が出現するとされているので,発症直前から前日までの間を評価期間とするとされている。 ②短期間の加重負荷とは,日常業務に比較して特に過重な身体的,精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいうものであり,発症前概ね1週間を評価期間とする。 また,③長期間の過重業務の判断にあたり,労働時間については,(ア)発症前1か月間に特に著しいと認められる長時間労働(おおむね100時間を超える時間外労働)に継続して従事した場合,(イ)発症前2か月間ないし6か月間にわたって,著しいと認められる長時間労働(1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働)に継続して従事した場合には,業務と脳・心臓疾患の発症との関連性は強いと判断され(この場合の発症前2か月間ないし6か月間とは,発症前2か月間,発症前3か月間,発症前4か月間,発症前5か月間,発症前6か月間のいずれかの期間をいう。),これに対し,(ウ)発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね4- 8 -5時間を超える時間外労働が認められない場合には,業務と発症との関連性は弱いと判断される(この場合の発症前1か月間ないし6か月間とは,発症前1か月間,発症前2か月間,発症前3か月間,発症前4か月間,発症前5か月間,発症前6か月間のすべての期間をいう。)とされている。そして,この労働時間の検討に加えて,不規則な勤務,拘束時間が長い勤務,出張の多い業務,交替制勤務・深夜勤務,作業環境(温度環境,騒音,時差),精神的緊張を伴う業務といった負荷要因についても検討し,特に過重な身体的,精神的負荷と認められるか否かという観点から判断することとされている。 (甲3,乙19,乙20)第3 争点 被災者の疾病が業務に起因するものか否か。 第4争点に対する当事者の主張 に過重な身体的,精神的負荷と認められるか否かという観点から判断することとされている。 (甲3,乙19,乙20)第3 争点 被災者の疾病が業務に起因するものか否か。 第4争点に対する当事者の主張(原告の主張)以下のとおり,被災者は,長期にわたり,頻繁に重い任務を負って海外出張を繰り返したために,平成13年夏ころには疲労が蓄積し,疲労困憊になっていたところ,その後もフィリピン及びインドネシアへの出張が続き,休む間もなくやはり重い任務を負って東京台場への出張を命ぜられたことにより,くも膜下出血を発症させて死亡したものである。すなわち,被災者が従事していたセイコーエプソンの業務は,ストレスや疲労を蓄積させて,くも膜下出血を発症させる危険性を内在又は随伴しているものであったのであり,被災者のくも膜下出血の発症には業務起因性がある。 本来業務以外の業務に従事していたこと被災者は,平成13年2月ころから,セイコーエプソンの海外の生産拠点(現地法人)における技能認定の業務を担当するようになったものであるが,それ以降も,①平成13年2月24日から同年3月4日までの13日間は品質向上活動支援のために中華人民共和国に,②同年6月10日から同月28日ま- 9 -での19日間はリワーク業務の目的でアメリカ合衆国に,③同年7月7日から同月20日までの14日間はリワーク業務の目的でチリに,④同年8月26日から同年9月6日までの12日間は品質向上活動支援の目的でフィリピンに,⑤同年10月1日から同月4日までの4日間はリワーク業務の目的で東京台場に出張をし,上記の合計62日間,本来業務以外の業務に従事していた。 セイコーエプソンにおける品質向上活動支援の業務は,被災者の属していたP4のチームの担当となっており,被災者も以前担当していた業務であるが,被災者が 合計62日間,本来業務以外の業務に従事していた。 セイコーエプソンにおける品質向上活動支援の業務は,被災者の属していたP4のチームの担当となっており,被災者も以前担当していた業務であるが,被災者が平成13年2月に海外現地法人における技能認定の業務を担当するようになった以後は,必ずしも被災者の担当業務であると決まっていたとも見られない。リワーク業務については,P2・P3グループあるいはP4チームの担当といえるかも疑問である。特に上記⑤東京台場におけるリワーク作業は,被災者の本来の業務との関連性は薄いものといわざるを得ない。被災者が,これらの本来業務以外の業務に従事していたのは,海外現地法人におけるトラブルや新製品の立ち上げ等に関する経験と能力を有していたために,押しつけられたものと見るほかはない。 このように本来業務以外の業務に従事することは被災者にとって大きな負担となるものであるし,そのために出張期間も長期にわたり,特に死亡に近接する時期においては,一つの出張と次の出張との間隔が短くなり,帰国してすぐにまた出張に行くということになってしまった。 被災者の海外出張について(1)上記第2の2(4)のとおり,被災者は,頻繁に海外出張をしており,その移動の前後においてほとんど有効な休息を得られておらず,時差による睡眠障害や飛行機移動の際の窮屈さも原因となって,疲労が蓄積される状態を強いられていた。 (2)海外出張をして行う業務は,言語,習慣,気候・風土等の違いによる精神的ストレスが大きく,国内における業務と比べると負担が大きい。被災者- 10 -の出張先であるインドネシア,フィリピン,チリ,アメリカ,中国も,気候,言語,宗教,治安,風俗,習慣,衛生面がそれぞれ異なり,日本とも大きく異なっているし,治安が悪いという点におけるストレスも -の出張先であるインドネシア,フィリピン,チリ,アメリカ,中国も,気候,言語,宗教,治安,風俗,習慣,衛生面がそれぞれ異なり,日本とも大きく異なっているし,治安が悪いという点におけるストレスもあった。また,特に被災者のような技術者にとっては,現地の従業員の仕事に対する価値観や教育程度に起因するカルチュアショックやコミュニケーションがうまくいかないなどの要因により,大きな精神的ストレスを受けていたと考えられる。 このように,被災者は,海外出張により,衣食住に至るまで十分な意思疎通ができないことの不満,指導・説得が十分にできないことなどにより精神的ストレスを受け続けていたことは明らかである。 (3)被災者が海外出張をして従事していた業務の内容からしても,被災者が過重な負荷を受けていたと考えられる。すなわち,セイコーエプソンは,平成13年に株式市場への上場を目指し,そのためにはプリンターの海外生産により業績を回復する必要があったが,クレームが多発するなど課題も多く,その改善が会社の存亡をかけた緊要のものとなっていた。このような状況の中で,被災者は,製品の品質向上の一策としての海外現地法人における技能認定の指導,実施の特命を与えられていた。したがって,被災者が海外出張をして従事していた業務は,①生産技術の指導・その技能の検定が主題であって裁量性はなく,しかも②会社からの要求度が高く,その検定成果も数値で明瞭になるものであるから,精神的緊張を生じやすいものであり,それが継続することにより大きな精神的負担となっていた。 (4)被災者は,平成13年5月20日から同年7月20日までの間に,アメリカ,チリという経験のない出張先で,しかも時差の大きい地域への出張を立て続けにしていた。この間,62日間に47日間も海外に出張し,その間に1週間程度国内 月20日から同年7月20日までの間に,アメリカ,チリという経験のない出張先で,しかも時差の大きい地域への出張を立て続けにしていた。この間,62日間に47日間も海外に出張し,その間に1週間程度国内にいただけで,しかも特に休日を取らずに通常どおりの国内業務をこなしていたのである。すなわち,被災者は,同年6月29日にアメリカから帰国した後,翌30日及び7月1日を休んだだけで,同月2日か- 11 -らは国内の通常勤務をしており,また,同月20日にチリから帰国した後,翌21日午後に自宅で1時間ないし3時間の整理をし,その翌日である同月22日を休んだだけで,同月23日から国内の通常勤務をしている。 時差が5時間以上ある地域を移動すると「Jetlag症候群」が起こるといわれ(甲51),時差5時間以上の地域への出張は評価基準においても評価要因として挙げられている。また,時差8時間の移動をした後に体が回復するまでには7ないし10日間くらいを要するとされている(甲51)。 しかるに,被災者は,日本との時差7時間のアメリカや時差13時間のチリから帰国した後,特に休日を取らずに通常どおりの国内業務をこなしていたのであるから,時差による疲労が取れないばかりか,疲労がたまる一方であった。 (5)被災者の同年8月19日から同年9月6日までのフィリピンへの出張(上記第2の2(4)ク)については,被災者は,現地法人における技能認定の業務を終えて同年8月25日には帰国できたはずであった。しかし,同僚であるP6に代わって,被災者の本来業務ではない品質向上活動支援の業務を実施するために,被災者のフィリピン出張の期間が同年9月6日まで延長されたのである。 このために,被災者は,フィリピンへの出張から帰って来て2日間(同月7日及び同月8日)日本に滞在しただけで,次のインド するために,被災者のフィリピン出張の期間が同年9月6日まで延長されたのである。 このために,被災者は,フィリピンへの出張から帰って来て2日間(同月7日及び同月8日)日本に滞在しただけで,次のインドネシア出張に出発しなければならないことになった。しかも,被災者は同月7日午前は国内業務に従事しているので,上記フィリピン出張後にまる1日休むことができたのは同月8日の1日だけに過ぎない。 東京台場への出張について(1)上記のとおり,被災者は,平成13年9月28日にインドネシア出張から帰国した段階で,過密スケジュールにより疲労困憊の状態となっていた。 被災者は,このように出張の疲労を引き継いだままで,同月30日(日曜- 12 -日),好きな息子のサッカーの練習に行っても車中で寝ているだけであったところへ,上司から電話で急に呼び出され,翌10月1日から東京台場へ出張することを命ぜられた。東京台場の出張業務(リワーク業務)は被災者の本来業務ではないため,被災者は当然には上記出張命令を受ける立場にはなかったものの,結局,被災者はこの出張命令に従わざるを得なかったものである。そして,被災者は,同日から東京台場に出張し,同月4日の朝,宿泊先のホテルにおいて死亡しているところを発見されたのであるから,フィリピンへ出張した同年8月19日から死亡した同年10月4日までの47日間のうち,出張していない日は4日間(同年9月7日,同月8日,同月29日,同月30日)だけであり,しかもそのうち2日は会社に呼び出されるなどしているので,まる1日出勤しなかったのは2日間(同年9月8日及び同月29日)だけである。 また,被災者の東京台場の出張は途中で期間が延期されており,それも,被災者にとっては通常ではない精神的ストレスとなった。 上記のような経緯に照らすと,被災者の 年9月8日及び同月29日)だけである。 また,被災者の東京台場の出張は途中で期間が延期されており,それも,被災者にとっては通常ではない精神的ストレスとなった。 上記のような経緯に照らすと,被災者の海外出張による疲労が癒されない状態で,東京台場へ出張をしたことにより,被災者の疲労が一層拡大され,その業務の負担が被災者の死亡の原因になったことは明らかである。 (2)東京台場における作業は,発売日(平成13年10月5日)の迫っている製品(プリンター)の欠品等のクレーム処理,出荷数量の確保のためのもので,セイコーエプソンのキャノンとの年末商戦の結果を左右しかねないものであるから,時間に追われ,神経を使い,緊張を強いられる業務であったことは明らかである。 すなわち,東京台場における作業は,当初は,プリンターの使用方法を説明するためのCD-ROMを同梱すること等であったが,4機種のプリンターについて一斉に作業を実施するため,混乱が生じやすいものであった。また,これに,プリンターの葉書セッター(給紙のための部品)が間に合わな- 13 -いために葉書セッター請求葉書を同梱する作業も加わった。そして,さらにその後,平成13年9月28日にプリンターの廃液キャップ下の吸収剤の欠品のためにインクもれが生じたり,同年10月2日にプリンターに紙がひっかかってしまい給紙がうまくできないバリが発見されるなど,製品自体の致命傷となるようなミスの発覚が続いた。加えて,同月3日には,個装箱の印刷がかすれているものを交換することや個装箱の側面4面をウエスで乾拭きする作業も追加で指示された。 このような経緯に照らせば,セイコーエプソンは,この製品(プリンター)の致命的なミスを市場に知られないうちに解決しなければならなかったのであり,被災者を含むセイコーエプソンの従業員は, 指示された。 このような経緯に照らせば,セイコーエプソンは,この製品(プリンター)の致命的なミスを市場に知られないうちに解決しなければならなかったのであり,被災者を含むセイコーエプソンの従業員は,発売日である同月5日が迫っている状況で,この製品の欠品を確認してそれを市場に出さないようにすることが最大の任務であったのであり,その業務は,緊張を強いられる大変な労力を要するものであった。また,被災者が従事した作業についても,単なる同梱作業だけではなく,欠陥製品を抜き取ったり,個装箱を拭いたり,交換したりすることを,しかも次々と追加指示されたというものであり,決して楽な作業ではなかった。 被災者の健康状態及び飲酒習慣について被告は,被災者がくも膜下出血を発症させて死亡したのは,被災者のアルコール摂取や中性脂肪値の高さ等に原因があると主張するが,これは証拠に基づかない主張であり不当である。被災者の死亡直前におけるアルコール摂取量は,被災者が二日酔いになっていたわけではないことなどからしても,被告が主張するほどに大量のものではない。なお,一般に出張中には飲酒をしがちであり,出張が飲酒とつながっていることは否定できない。 被災者がくも膜下出血を発症させて死亡したのは,血管壁に対する疲労の蓄積,即ち,頻回の出張による緊張の連続,休息・睡眠の不十分さ等に原因があると見るべきである。 - 14 - 被災者の死亡後におけるセイコーエプソンにおける扱いの変更被災者が死亡した後,セイコーエプソンは,被災者が従事していた海外出張による技能認定制度を廃止したほか,2週間以上の出張については産業医の健康診断を必要なものとして産業医の健康診断をクリアできない者は出張をすることができないこと,海外出張の上限を原則として30日にとすること,健康上の問題がある場合 2週間以上の出張については産業医の健康診断を必要なものとして産業医の健康診断をクリアできない者は出張をすることができないこと,海外出張の上限を原則として30日にとすること,健康上の問題がある場合は上司(職制)に伝えることに制度を変更した。セイコーエプソンが,このように制度を変更したことは,被災者が従事していた業務が大きな負担となっていたことを裏付けるものである。 認定基準に当てはめた場合被災者の担当業務は,認定基準が「精神的緊張を伴う業務」として挙げている「過大なノルマがある業務」,「決められた時間(納期等)どおりに遂行しなければならないような困難な業務」,「顧客との大きなトラブルの処理等を担当する業務」,「支援のない状況下での困難な業務」,「複雑困難な新規事業,会社の建て直しを担当する業務」に該当する。また,出張は,認定基準においても負荷要因として掲げられていることからして,出張を繰り返していたこと自体がストレス・疲労を蓄積させるものである。 したがって,被災者が担当した業務は,認定基準によっても負荷が大きいものと評価されているものであるから,被災者の死亡に業務起因性が認められることは明らかである。 治療機会の喪失について被災者は,インドネシアに滞在中の平成13年9月26日又は同月27日に頭痛を訴え,同年10月2日にも頭痛を訴えている。被災者のこの頭痛はくも膜下出血の前駆症状(血管壁の解離痛)であり,この時すでに被災者の血管壁の解離そのものが始まっていたとみるのが相当である。被災者に生じていた血管壁の解離は未だ破裂に至っていなかったが,偽腔が徐々に拡大し,東京台場の出張のストレスが加わることによって,同月4日についに外膜が破裂し,大- 15 -量のくも膜下腔への強度の出血となったものである。 被災者は,上記くも膜下出血の たが,偽腔が徐々に拡大し,東京台場の出張のストレスが加わることによって,同月4日についに外膜が破裂し,大- 15 -量のくも膜下腔への強度の出血となったものである。 被災者は,上記くも膜下出血の警告症状(前駆症状)のあるときに適切な治療を受けることができていれば,被災することはなかった。被災者が,くも膜下出血の前駆症状が出ていたにもかかわらず,東京台場に出張し,業務を継続したのは,代替者が予定されていなかった上,出張期間の延長までをも命じられ,それも時間を限定された就業だったからである。それにより,被災者は,安静と治療の機会を喪失したものであるから,被災者をそのような立場に置くという業務の性質に内在する危険が現実化したことによって被災者の動脈瘤破裂を招いたものであるといえ(最高裁平成8年1月23日判決参照),被災者の死亡には業務起因性が認められる。 (被告の主張)以下のとおり,被災者がくも膜下出血の発症直前までに従事した業務は,いずれも日常業務の範囲内であって,日常業務に比較して過重性は認められず,被災者のくも膜下出血は,被災者自身が有していた基礎疾患がその自然経過の過程で発症したものである。また,被災者がくも膜下出血発症後,業務のために治療機会を喪失して死亡したということもできない。したがって,被災者の疾病の業務起因性は認められず,被告のした各処分は適法である。 一般に,くも膜下出血は,業務に従事していなくても,加齢,日常生活等において生体が受ける日常的要因によって,自然経過により血管病変等が進展・増悪し発症するものである。したがって,業務がくも膜下出血と因果関係があるというためには,業務による生体への負荷が,くも膜下出血の発症の基礎となる血管病変等を,その自然経過を超えて急激に著しく増悪させることが必要となる。このような業 ,業務がくも膜下出血と因果関係があるというためには,業務による生体への負荷が,くも膜下出血の発症の基礎となる血管病変等を,その自然経過を超えて急激に著しく増悪させることが必要となる。このような業務による負荷(過重負荷)に当たるかどうかについては,認定基準に基づき検討することとする。 台場出張は基礎疾患等を自然的経過を超えて増悪させるような「異常な出来事」にはあたらないこと- 16 -(1)認定基準における「異常な出来事」については,発症直前から前日までの間に被災者が遭遇した出来事が,①極度の緊張,興奮,恐怖,驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態(精神的負荷),②緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態(身体的負荷),③急激で著しい作業環境の変化(作業環境)のいずれかに該当するか否かによって判断すべきところ,被災者が発症直前から前日まで,すなわち平成13年10月4日午前1時ころから同月3日までの間に,上記のような「異常な出来事」に遭遇したとは認められない。なお,被災者が同年9月26日以降に頭痛を訴えていたことにかんがみ,同日を発症日と考えたとしたところで,同日及びその前日の同月25日から被災者が死亡するまでの間に,上記のような異常な出来事に遭遇したとは認められない。 (2)被災者の本来業務であったこと等被災者が,平成12年11月ころにTP生産技術部に異動してから従事した,生産拠点におけるQCDS(クオリティ・コスト・デリバリー・セーフティー)向上支援業務には,技能認定業務のほか,品質向上支援業務,量産体制支援業務が含まれており,また,リワーク業務と称する不具合となった製品の原因究明等の(国内外における)業務も,主業務ではないがまぎれもない業務としてあり,これらは被災者 ,品質向上支援業務,量産体制支援業務が含まれており,また,リワーク業務と称する不具合となった製品の原因究明等の(国内外における)業務も,主業務ではないがまぎれもない業務としてあり,これらは被災者の本来の担当業務であったことが明らかである。東京台場において実施されたリワーク業務についても,被災者の属する部署が実施している業務であって,通常業務の範囲内であることからして,被災者にとって予測困難な突発的事態であったとはいえない。平成13年10月2日に出張の期間が延長されたことについても,リワーク作業について十分な経験を有する被災者にとって想定の範囲外であったなどということはできない。 リワーク作業について既に十分な経験を有する被災者にとって,お台場でのリワーク作業のみ困難なものであったとか,想定の範囲外であったなどと- 17 -いうことはできず,これが突発的又は予測困難な非日常的な生死に関わる事件又は事故に比肩すべき異常事態であるとか,急激で著しい作業環境の変化と評価できるものとして,被災者の血管病変等を自然的経過を超えて増悪させるような異常性を有していたものとは到底認められない。 (3)業務内容について台場倉庫におけるリワーク作業自体は,セイコーエプソンと業務委託契約を締結した日本通運株式会社(以下「日本通運」という。)がセイコーエプソンの作業指示書に基づき実施したものであって,被災者らセイコーエプソンの社員は,日本通運が手配した作業員の作業状況を管理監督するというものであり,被災者は,台場倉庫で行われたリワークのうち,同梱作業の監督作業にのみ従事したにすぎない。上記リワークの作業内容は,実際に作業する日本通運関係者の監督をするのみで,強度の精神的,身体的負荷はなく,急激で著しい作業環境の変化もないことから,「異常な出来事」に該当 にのみ従事したにすぎない。上記リワークの作業内容は,実際に作業する日本通運関係者の監督をするのみで,強度の精神的,身体的負荷はなく,急激で著しい作業環境の変化もないことから,「異常な出来事」に該当しないことは明らかである。 被災者の短期業務が,基礎疾患等を自然的経過を超えて増悪させるような加重負荷ではないこと(1)認定基準において,短期間の過重業務の有無については,①まず,発症直前から前日までの業務について検討し,②①について,業務が特に過重と認められない場合であっても,発症前おおむね1週間以内について過重業務の有無を判断すべきとされ,その際には,①労働時間,②不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,出張の多い業務,交替制勤務・深夜勤務,作業環境,③精神的緊張(心理的緊張)を伴う業務という付加要因を十分検討すべきとされている。なお,被告は,業務の過重性を評価するに当たって,平成13年9月26日に被災者に頭痛が発現したとされていることを考慮して,その1週間前の同月19日以降同年10月3日までを死亡日又は発症日に近接した期間すなわち短期間としてその間の過重業務についての評価を行った。 - 18 -(2)労働時間について被災者の労働時間は,平成13年10月3日は7時間,10月2日も7時間,10月1日は10時間である。9月30日については,被災者は,子供のサッカーを観戦中,午後2時ころに上司のP2課長から急遽呼出の電話が携帯にあり,午後3時ころに広丘事業所へ出社し,P2課長,P3課長らとリワーク作業のための出張日程の打合せを行い,午後4時30分ころ帰宅したが,業務に従事していたとはいえない。9月29日は業務に従事していない。9月28日の労働時間は12時間であるが,その内容は,飛行機搭乗中の仮眠,空港での手続・待ち時間,伊丹空港への移動 ころ帰宅したが,業務に従事していたとはいえない。9月29日は業務に従事していない。9月28日の労働時間は12時間であるが,その内容は,飛行機搭乗中の仮眠,空港での手続・待ち時間,伊丹空港への移動時間であり,労働密度は低い。9月27日の労働時間は12時間であるが,その内容は,通常業務の技能認定試験(7時間30分)の外,空港への移動時間と空港での手続・待ち時間等(4時間30分)であり,労働密度は高くはない。9月26日の労働時間は9時間30分,9月25日は7時間30分,9月24日は7時間30分,9月23日は所定休日であり出勤していない。9月22日は,所定休日であったが出勤しており労働時間は7時間30分であった。休日出勤はしているが,直前の休日は1週間前の9月15日と16日であり,直後の休日は翌日の9月23日であることから,休日なしの連続勤務ではない。9月21日から29日までの労働時間は,いずれも7時間30分であった。 以上のとおり,被災者が12時間勤務している日が2日あるものの,いずれの日も労働密度は低く,過重な負荷があったとはいえない。その他の日は,いずれも労働時間が長いとはいえない。 (3)不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,出張の多い勤務,交代制勤務,深夜勤務,作業環境についてこの間の被災者の業務が,不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,交替制勤務・深夜勤務のいずれにも該当しないことは明らかである。 被災者の業務が出張の多い業務に該当するか否かについてみると,被災者- 19 -は,インドネシア出張から帰国後,平成13年10月1日から台場倉庫へ出張したが,海外生産現場等の技術指導のための海外出張業務や台場倉庫でのリワーク作業業務それ自体被災者の本来の担当業務である上,海外出張業務は,もとより被災者ら出張者自身で立案した計画に基づくもので 張したが,海外生産現場等の技術指導のための海外出張業務や台場倉庫でのリワーク作業業務それ自体被災者の本来の担当業務である上,海外出張業務は,もとより被災者ら出張者自身で立案した計画に基づくものである。また,リワーク作業はおおむね2週間から3週間の行程で実施されるものであり,旅券や宿泊先は出張者本人が自ら企画,手配していた。また,作業環境についても,温度環境,騒音等,特に問題となるものではない。 (4)精神的緊張を伴う業務の有無について被災者が,精神的緊張(心理的緊張)を伴う業務をした事実又は出来事に遭遇した事実は認められない。なお,セイコーエプソンの従業員らは,いずれも,プリンターの発売日の平成13年10月5日までに間に合うように作業をせかされたことを否定している。 (5)小括以上のとおり,被災者の短期業務についてみると,12時間勤務の日が2日あるもののそれらの日の労働密度は低く,他の日はいずれも労働時間が長いとはいえないこと,不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,交替制勤務・深夜勤務とはいえず,出張の多い業務にも当たらないこと,精神的緊張を伴う業務を行っていたともいえないことを総合考慮すれば,被災者について短期間の過重業務があったとは認められない。 被災者の長期業務が,基礎疾患等をその自然的経過を超えて増悪させるような加重負荷ではないこと(1)認定基準によれば,発症前おおむね6か月間に,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるかについては,不規則勤務,拘束時間の長い勤務,出張の多い業務,交替制勤務・深夜勤務,作業環境,精神的緊張の負荷要因について十分検討し,その際,労働時間については,①発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時- 20 -間を超える時間外労働が認められない 作業環境,精神的緊張の負荷要因について十分検討し,その際,労働時間については,①発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時- 20 -間を超える時間外労働が認められない場合は,業務と発症との関連性が弱く,おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること,②発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められるときは,業務と発症との関連が強いと評価できるとされていることを考慮すべきである。 (2)労働時間について被災者の発症前おおむね6か月間の時間外労働時間数は,別紙1ないし6「労働時間集計表」のとおりである。これによれば,被災者の時間外労働時間数は,死亡前1か月間は28時間,死亡前2か月間は0時間,死亡前3か月間は49時間,死亡前3か月間は35時間,死亡前5か月間は23時間,死亡前6か月間は17時間であった。これによれば,発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働があったとは認められず,発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働も認められない。 (3)加重負荷の有無の具体的検討上記の時間外労働時間数を踏まえ,被災者の発症前おおむね6か月の業務の過重性の有無について検討すると,以下のとおり,過重負荷があったとは認められないものである。 ア死亡前1か月(9月4日ないし10月3日)についてこの間,2度の海外出張(フィリピン,インドネシア)があるが,海外出張期間中を含め,休日は7日(うち,9月9日,9月30日は午前のみ半休)確保されていること,海外現地 4日ないし10月3日)についてこの間,2度の海外出張(フィリピン,インドネシア)があるが,海外出張期間中を含め,休日は7日(うち,9月9日,9月30日は午前のみ半休)確保されていること,海外現地法人での勤務中は,1日の休日出勤と1日の時間外労働(2時間)があるのみであること,フィリピンからの帰国翌日(9月7日)からインドネシアへの出張のための国内移動(9月- 21 -9日午後)まで実質2日間の休日(連続48時間以上)が確保されていること,インドネシアからの帰国(9月28日午前)から東京台場倉庫への出張日程の打合せ(9月30日午後)まで実質2日間の休日(連続48時間以上)が確保されていること,及び時間外労働時間数は「28時間」であって,蓄積疲労を生じるとされている1か月の時間外労働時間の下限値「45時間」未満であることから,死亡前1か月の業務からは,長期間の蓄積疲労を生じさせる程度の業務による過重な負荷は認められない。 イ死亡前2か月間(8月5日ないし10月3日)について死亡前2か月間の1か月平均の時間外労働時間数は,死亡前1か月目,2か月目の時間外労働時間数「28時間」,「0時間」の平均値「14時間」であり,長期間の蓄積疲労を生じるとしている1か月平均の時間外労働時間数の下限値「45時間」未満であることから,死亡前2か月の業務からは,長期間の蓄積疲労を生じさせる程度の業務による過重な負荷は認められない。 なお,死亡前2か月目の1か月間(8月5日ないし9月3日)は,フィリピンへの海外出張期間を含めて休日は15日(うち,8月18日は午後半休,8月19日は午前半休)確保されていること,海外滞在中は休日出勤も時間外労働もないこと,及び認定基準による時間外労働時間数は0時間であり,法定の労働時間をも下回っている。 ウ死亡前3か月間(7 休,8月19日は午前半休)確保されていること,海外滞在中は休日出勤も時間外労働もないこと,及び認定基準による時間外労働時間数は0時間であり,法定の労働時間をも下回っている。 ウ死亡前3か月間(7月6日ないし10月3日)について死亡前3か月間の1か月平均の時間外労働時間数は,死亡前1か月目,2か月目,3か月目の時間外労働時間「28時間」,「0時間」,「49時間30分」の平均値「25時間50分」程であり,長期間の蓄積疲労を生じるとしている1か月当たりの時間外労働時間数の下限値「45時間」未満であることから,死亡前3か月の業務からは長期間の蓄積疲労を生じさせる程度の業務による過重な負荷は認められない。 - 22 -なお,死亡前3か月目(7月6日ないし8月4日)の1か月間は,チリへの海外出張期間を含め,休日は8日間確保されていること,海外滞在中は休日出勤も残業もないこと,新認定基準による時間外労働時間数は49時間30分であり,蓄積疲労を生じるとする1か月間の時間外労働時間の下限値45時間を僅かに越えているが,チリからの帰国日(7月20日午後)の直後は休日(7月21日,22日)が確保され,会社の夏期休暇が7月28日ないし8月1日,8月4日,8月5日と連続して確保されていること(さらには,8月9日ないし8月16日まで連続8日間の休暇が続いている。)から,チリとの時差13時間(日付変更線を挟んで▲11時間)による身体的・神経的な負荷は,回復ないしは十分な回復傾向を図れる環境であったことから,長期間の蓄積疲労を生じさせる業務による特に過重な負荷は認められない。 エ死亡前4か月間(6月6日ないし10月3日)について死亡前4か月間の1か月平均の時間外労働時間数は,死亡前1か月目,2か月目,3か月目,4か月目の時間外労働時間数「28時間」,「0時 れない。 エ死亡前4か月間(6月6日ないし10月3日)について死亡前4か月間の1か月平均の時間外労働時間数は,死亡前1か月目,2か月目,3か月目,4か月目の時間外労働時間数「28時間」,「0時間」,「49時間30分」,「35時間」の平均値「28時間08分」程であり,長期間の蓄積疲労を生じるとしている1か月当たりの時間外労働時間数の下限値「45時間」未満であることから,死亡前4か月の業務からは,長期間の蓄積疲労を生じさせる業務による過重な負荷は認められない。 なお,死亡前4か月目(6月6日ないし7月5日)の1か月間は,アメリカへの海外出張期間を含め,休日は8日間確保されていること,海外滞在中は休日出勤も残業もないこと,時間外労働時間数は35時間であるが,蓄積疲労を生じるとされている1か月間の時間外労働時間数の下限値45時間未満であること,及び,アメリカからの帰国日(6月29日午後)の直後は休日(6月30日,7月1日)があり,さらに,7月3日に休暇を- 23 -取得していることから,アメリカ(シアトル)との時差17時間(日付変更線を挟んで▲7時間)による身体的・神経的な負荷は,回復ないしは十分な回復傾向を図れる環境であったことから,長期間の蓄積疲労を生じさせる業務による特に過重な負荷は認められない。 オ死亡前5か月間(5月7日ないし10月3日)について死亡前5か月間の1か月平均の時間外労働時間数は,死亡前1か月目,2か月目,3か月目,4か月目,5か月目の時間外労働時間数「28時間」,「0時間」,「49時間30分」,「35時間」,「23時間」の平均値「27時間06分」であり,長期間の蓄積疲労を生じるとされている1か月当たりの時間外労働時間数の下限値「45時間」未満であることから,死亡前5か月間の業務からは長期間の蓄積疲労を生じ得る 」の平均値「27時間06分」であり,長期間の蓄積疲労を生じるとされている1か月当たりの時間外労働時間数の下限値「45時間」未満であることから,死亡前5か月間の業務からは長期間の蓄積疲労を生じ得る過重な負荷は認められない。 なお,死亡前5か月目(5月7日から6月5日)の1か月間は,フィリピンへの海外出張期間を含めて休日は6.5日間(5月20日は午前半休)確保されていること,海外滞在中は休日出勤も時間外労働もなかったこと,新認定基準による時間外労働時間数は23時間であり,長期間の蓄積疲労を生じるとしている1か月間の時間外労働時間数の下限値「45時間」を大きく下回っていること,フィリピンとの時差は1時間であり,時差による身体への影響は少ないことから,長期間の蓄積疲労を生じさせる業務による過重な負荷は認められない。 カ死亡前6か月間(4月7日ないし10月3日)について死亡前6か月間の1か月平均の時間外労働時間数は,死亡前1か月目,2か月目,3か月目,4か月目,5か月目,6か月目の時間外労働時間数「28時間」,「0時間」,「49時間30分」,「35時間」,「23時間」,「17時間」の平均値「25時間25分」であり,長期間の蓄積疲労を生じるとされている1か月当たりの時間外労働時間数の下限値「4- 24 -5時間」未満であることから,死亡前6か月間の業務からは長期間の蓄積疲労を生じさせる業務による過重な負荷は認められない。 なお,死亡前6か月目(4月7日ないし5月6日)の1か月間は休日(又は休暇)は14日間確保されていること,時間外労働時間数は17時間であり,蓄積疲労を生じるとする1か月間の時間外労働時間の下限値45時間未満であることから,長期間の蓄積疲労を生じさせるような業務による負荷は認められない。 (4)海外出張が加重負荷を与えた業 間であり,蓄積疲労を生じるとする1か月間の時間外労働時間の下限値45時間未満であることから,長期間の蓄積疲労を生じさせるような業務による負荷は認められない。 (4)海外出張が加重負荷を与えた業務とはいえないこと被災者の海外出張については,①同僚も行なっていた海外出張の範囲内であること,②被災者はチームの一担当者であって責任を負う立場にはなかったこと,③海外出張の経験も積んでおり,出張先は平成13年7月に出張したチリを除けば,過去に2回以上出張したことがあり,かつ日本人マネージャーもいる現地法人のある国であること,④出張先は,1ないし2時間程度の時差にすぎず身体に与える影響が少ないとされる東南アジア諸国が中心であること,⑤比較的大きな時差を伴う出張においては,いわゆるビジネスクラスも利用しており,疲労の軽減を図っていたこと,⑥海外出張での用務は定型的なものであり,困難を伴う特別な用務の遂行を義務付けられたものではなく,納期に迫られる業務でもなく,判断に迷う場合は上司の指示を受けていることから出張先でのミス等のトラブルもないこと,⑦海外出張先でも休日は確保されており,休日・時間外勤務はほとんどないこと,⑧本件過重負荷の評価期間中の約6か月間のうち,平成13年8月25日から同年9月6日までのフィリピンでの品質管理キーパーソン教育(4日間の休日と9月6日の帰国日を除く8日間)以外は,すべて複数体制での出張であること,⑨技能認定業務についての海外出張は,人材育成教育の経験のある他の従業員を同行させて,被災者の手本としたこと,⑩現地工場は空調設備が整っており,騒音等の設備上の問題点はないこと,⑪ホテルから現地法人までの移- 25 -動は現地法人による車での送迎であること,⑫飛行機やホテルの予約手続は常時エプソントラベルを通じており,自ら 整っており,騒音等の設備上の問題点はないこと,⑪ホテルから現地法人までの移- 25 -動は現地法人による車での送迎であること,⑫飛行機やホテルの予約手続は常時エプソントラベルを通じており,自ら航空会社やホテルを予約するわけではないこと,⑬帰国後には,休息可能な時間が確保されていたことなどから,被災者につき,他の同僚に比べて特別に負担の重い業務に従事したとはいえない。また,宿泊先のホテルの環境面でも,安全性・利便性・快適性に関して特段の問題は認められず,日本食を食べることもできたのであって,良好な宿泊環境と判断される。さらに,海外出張に際しては,前日に空港付近のホテルで一泊しており,慌しく時間に追われる緊急な出張でもなかった。 以上のように,海外出張先の労働環境及びホテルの居住環境等につき過重な負荷を生じるような問題はない。したがって,被災者につき,くも膜下出血の発症の基礎となる血管病変等を自然経過を超えて悪化させた環境にあったとはいえない。 (5)小括以上のとおり,くも膜下出血の発症に近接した時期のみならず,それ以前の6か月間をみても,被災者の時間外労働は微々たるものにすぎず,それ以外の負荷要因についても,特に本件疾病の基礎となる血管病変等をその自然的経過を超えて増悪させるような過重な業務に従事していたものと評価することはできない。 被災者のくも膜下出血の発症原因等について被災者は,家族歴(実父がくも膜下出血をしたことがある。),年齢,高脂血症,飲酒,多重の危険因子競合など,くも膜下出血のリスクファクターを有していた。特に,被災者の平素の飲酒状況は,常習的飲酒であり,頭痛発現後の平成13年10月2日及び3日においてすら,その2日間で,被告の主張では純アルコール換算で285ミリリットル(15パーセントの日本酒換算で1升強) の平素の飲酒状況は,常習的飲酒であり,頭痛発現後の平成13年10月2日及び3日においてすら,その2日間で,被告の主張では純アルコール換算で285ミリリットル(15パーセントの日本酒換算で1升強),仮に最も少ない原告の主張によっても162.5ミリリットル(15パーセントの日本酒換算で6合強)を超える飲酒をしたことが認められる。こ- 26 -のような被災者の飲酒はくも膜下出血を引き起こす危険な行為であって,これによりくも膜下出血の発症リスクが高まったと考えることは極めて合理的である。 上記のとおり,被災者が大量のアルコール摂取というくも膜下出血の危険因子を有していたほか,実父がくも膜下出血を発症したことがあるなど家族歴においても危険因子が認められるなど,多重の危険因子を有する一方,既にみたとおり業務の過重性が認められないことからすれば,上記各リスクファクターのもとで長期間かけて形成されてきた被災者の血管病変が脆弱性を増し,既にいつくも膜下出血を発症してもおかしくないといった状況の下において,解離性脳動脈瘤が自然的経過により破裂したため被災者のくも膜下出血が発症したとみるのが医学的に自然で合理的というべきである。よって,被災者のくも膜下出血の発症には業務起因性は認められない。 治療機会の喪失の主張について原告は,被災者が,既にくも膜下出血の前駆症状が出現していたにもかかわらず,セイコーエプソンの業務に従事し,安静と治療の機会を喪失したものであるから,被災者のくも膜下出血の発症には業務起因性があると主張するが,以下の理由により,理由がない。 (1)くも膜下出血の前駆症状についてくも膜下出血を発症した者に頭痛が前駆して発現することがあることは知られているが,頭痛の原因は極めて多い上,被災者が自訴する頭痛は,医師のもとに受診せざるを得 (1)くも膜下出血の前駆症状についてくも膜下出血を発症した者に頭痛が前駆して発現することがあることは知られているが,頭痛の原因は極めて多い上,被災者が自訴する頭痛は,医師のもとに受診せざるを得ないような激しい頭痛であることが多いくも膜下出血の予兆とは異なっている。少なくとも,この時の頭痛は,被災者本人にとっては飲酒すればまぎれる程度と認識した頭痛であって,日常的にありうる頭痛とは異なるために,医療を受けなければ治らないような激痛ではなく,本人自身も深刻な状態でないと認識していたと考える方が合理的である。そうすると,被災者が自訴した程度の頭痛はくも膜下出血の前駆症状と断定す- 27 -ることはできないというのが医学的知見に照らして一般的で合理的な見方である。 (2)条件関係の存否等について原告の主張する治療機会喪失法理により,私病発症後の業務と労働者の死亡との間に相当因果関係を認めるためには,まずその前提として,当該私病発症後に当該労働者が業務に従事せずに安静治療の機会を得ていたら死亡という結果は発生していなかったであろうという条件関係が認められることが必要であり,このような条件関係が認められる場合としては,①私病発症後の業務の遂行がその後の症状の自然的経過を超える増悪の原因となった場合,②その間の治療の機会が奪われた場合が考えられる。そして,当該労働者において,直ちに安静を保ち,又は医師の診断を受けようと感ずるほどの自覚症状が生じなかった場合,あるいは,医師の診断を受けても通常死亡等の重大な結果を生ずる私病を発見診断できなかったであろう場合には,そもそも業務を休んだり,交代をしたりしたとしても,直ちに安静を保ち,又は医師から適切な治療を受けることが困難であり,死亡等の重大な結果の発生を避けることができなかったことになるから ろう場合には,そもそも業務を休んだり,交代をしたりしたとしても,直ちに安静を保ち,又は医師から適切な治療を受けることが困難であり,死亡等の重大な結果の発生を避けることができなかったことになるから,上記①及び②のような場合に該当するとして条件関係の存在を肯定することはできないというべきである。また,私病発症後の業務内容が過重でない場合に,当該労働者の死亡が業務に内在する危険の現実化として相当因果関係を肯定されるためには,当該業務の内容,当該労働者の役割,当時の状況における業務の必要性,緊急性等の客観的事情から,当該労働者において自己の体調に応じた業務の軽減又は免除の措置を採り得なかったという相当高度の非代替性ないし就業の不可避性が認められることが必要である。 しかるに,被災者は,インドネシア出張から帰国後,一番身近な存在である原告に対してすら,頭痛があったことを打ち明けたり,薬の補充を依頼したりしていないこと,P2課長に対し,平成13年9月26日又は27日の- 28 -頭痛の件を含め,具体的事実を挙げて出張拒否を申し出ていないことなどからすれば,インドネシア出張時や,インドネシアからの帰国後から東京台場出張前において,被災者には,直ちに安静を保ち,又は医師の診断を受けようと感ずるほどの自覚症状が生じていなかったものとみることができる。また,仮に被災者がこの時点で医師の診断を受けたとしても,被災者にくも膜下出血の発症を示唆するような特異的な症状がみられていたわけではないから,脳神経外科医の診断を受けることになった可能性は極めて低く,この時点で適切な治療を受けることは期待できなかったというべきである。そうすると,この時点で被災者には就業の不可避性があったとはいえない。 また,被災者は,同年10月2日に頭痛がし,とりわけ夕食時には最も重 で適切な治療を受けることは期待できなかったというべきである。そうすると,この時点で被災者には就業の不可避性があったとはいえない。 また,被災者は,同年10月2日に頭痛がし,とりわけ夕食時には最も重い頭痛を感じていたのに,同日はもちろん翌3日も業務をこなし,頭痛があったとP7に話しはしたが,それだけで病院に行こうとはせず,寝しなには自宅にいるときと同じように飲酒をしている。これらのことから,被災者には,直ちに安静を保ち,又は医師の診断を受けようと感ずるほどの自覚症状が生じていなかったものというべきであるし,仮に被災者がこの時点で医師の診断を受けたとしても,この時点でくも膜下出血に対する適切な治療を受けることは期待できなかったというべきである。そうすると,被災者にはこの時点で就業の不可避性があったとはいえず,勤務終了後のみならず勤務時間中にも病院へ行くことは可能であった。 以上によれば,被災者に頭痛が出現した後の業務がその後の症状の自然的経過を超える増悪の原因となったとか,治療の機会を奪ったと認める余地はなく,被災者のくも膜下出血による死亡との間に条件関係を認めることはできないというべきである。 (3)相当因果関係もないこと上記のとおり,被災者にとって,東京台場でのリワーク業務に関し,他の者との交替が困難であったり,交替を申し出ることができないような状況で- 29 -はなかった。被災者において業務の交代を申し出ることは可能であり,自己の体調に応じた業務の軽減又は免除の措置を採り得なかったことはないから,その後の業務と被災者のくも膜下出血による死亡との間に相当因果関係を認めることはできないというべきである。 第5当裁判所の判断 上記第2の2の事実に,証拠(下記の文中又は文末の括弧内に掲記したもの)及び弁論の全趣旨を総合すると,被災 死亡との間に相当因果関係を認めることはできないというべきである。 第5当裁判所の判断 上記第2の2の事実に,証拠(下記の文中又は文末の括弧内に掲記したもの)及び弁論の全趣旨を総合すると,被災者の労働状況及び健康状態等に関して,以下の事実が認められる。 (1)被災者の業務内容等ア被災者が属していた組織の業務内容被災者は,平成12年11月にセイコーエプソンTP生産技術部に配属となり,同部のP2・P3グループの中のP4チームに属していたところ,P4チームは,プリンターの製造について,生産拠点(国内外注メーカー及び海外生産現地法人)におけるQCDS(Q;quality品質,C;costコスト,D;delivery納期,S;safety安全)の向上を図るための支援を横断的に行う業務を担当していた。(乙30,証人P2,調査嘱託の結果)イ人材育成業務被災者は,平成13年2月以降,P8とともに,海外現地法人の人材育成業務(技能検定打合せ,量産フォロー,技能認定インストラクター養成,技能認定試験立会い等)を担当していた。なお,この海外現地法人の人材育成の業務は,当初はP9とP8が担当していたが,平成13年2月に被災者がP9の後任となったものである。 被災者及びP8が担当して実施している技能認定制度は,生産拠点におけるプリンターの製造体質の強化の一環として,海外現地法人の現地労働者を対象にプリンター製造のレベルアップのための教育を実施し,当該教- 30 -育後に技能に関して試験による認定を行なう制度であり,平成12年5月に最初にインドネシアの現地法人において導入された。これは,将来的には海外現地法人に自主的なプリンターの製品管理を任せることができるように,海外現地法人の人的な能力の向上を図り,また,現地労働者の中のリーダー的な人達に 現地法人において導入された。これは,将来的には海外現地法人に自主的なプリンターの製品管理を任せることができるように,海外現地法人の人的な能力の向上を図り,また,現地労働者の中のリーダー的な人達に資格を認定して,その者が他の労働者に教育を行うことができるようにしていくことを目的とする制度である。技能認定の手順としては,まず海外現地法人の現地労働者に対しプリンター製造等に関する教育を実施し,その後,学科試験(プリンターの製造知識,仕事の教え方,管理の仕方に関する正誤問題を50問出題し,100点満点のうち70点以上を得点した者を合格者とする試験)及び実技試験(標準時間内に作業手順に沿ってプリンターを組み立てる技能を見極める試験)を実施し,合格者には認定書を交付することとされている。(甲9,14,乙1,24,25,38)技能認定などの海外現地法人の人材育成業務については,担当者である被災者及びP8が,4月から5月中に予め大まかな年度計画を立てており,特に技能認定試験は,ほとんどフィリピン又はインドネシアにおいて,1か月ないし2か月に1度なされ,年度スケジュール化していた。また,技能認定等を実施するに際しては,被災者やP8が,直接,現地の日本人マネージャー(生産管理総括者)と出張期間,業務内容を事前に打合せ調整を行い,2週間前(遅くとも10日前)に出張申請を提出し,社内決裁を得るという方法がとられており,被災者は,技能認定の出張の策定及び実行に関してある程度の自己裁量権が与えられていた。(乙24,弁論の全趣旨)被災者は,技能認定などの海外現地法人の人材育成業務のために,中国,フィリピン及びインドネシアの3か国に出張したが(上記第2の2(4)のとおり),海外現地法人の現地労働者に対して行う教育内容については,- 31 -教科書,資料及 人の人材育成業務のために,中国,フィリピン及びインドネシアの3か国に出張したが(上記第2の2(4)のとおり),海外現地法人の現地労働者に対して行う教育内容については,- 31 -教科書,資料及びマニュアル等によって予め定められているため,それに従い,現地労働者に対して英語で説明をしたり,実際に被災者やP8が製品組立ての実技をやって見せた後,現地労働者に実践してもらうなどした。 また,技能認定の試験問題についても,予め作成されていた問題を使用した。被災者及びP8が現地労働者に対する教育や試験を実施するに際して,言語の違い等から意思疎通に問題が生じるような場合には,当該海外現地法人に常駐している日本人マネージャーが援助してくれる体制がとられていた。(証人P8)ウリワーク業務リワーク業務は,製品の不具合,製品のクレーム又は生産トラブルが発生した際,現地へ赴き生産ラインを含めた原因究明,検討及び改善を行う業務であり,その性質上,年度スケジュールで予め決まっているような業務ではなく,リワーク業務のために急遽出張することになったり,作業の進行状況によって出張期間を延長することもあり得る。 被災者がTP生産技術部への配置後,製品リワーク業務のため海外へ出張した先は,アメリカ及びチリの2か国である(上記第2の2(4)のとおり)。(乙1,24,弁論の全趣旨)エ国内勤務の際の業務被災者が,広丘事業所のTP生産技術部に勤務している際に従事していた主な業務は,年間計画に基づき海外現地法人の人材育成計画を実行するための日程調整や教材の検討など海外出張に向けての準備と,終了した海外出張の結果報告のまとめ等であった。(乙24,25,33)(2)被災者の一般的な勤務状況等ア海外出張時の勤務状況等被災者の海外出張中の勤務体制は,所定休日は土曜日と日 ての準備と,終了した海外出張の結果報告のまとめ等であった。(乙24,25,33)(2)被災者の一般的な勤務状況等ア海外出張時の勤務状況等被災者の海外出張中の勤務体制は,所定休日は土曜日と日曜日が原則で,現地のカレンダーに従うこととされている。所定労働時間は,フィリピン- 32 -の現地法人では午前8時から午後5時まで(実労働時間8時間),インドネシアの現地法人では午前8時30分から午後5時30分まで(実労働時間7時間30分)等といった形で決められていた。技能認定試験などの人材育成業務のための海外出張の際には,教育の対象者である現地労働者は所定労働時間内のみ労働し,残業はほとんどしないところ,現地労働者が退社してしまえば被災者やP8の仕事も特にないため,被災者らも,通常は定時に退社しており,宿泊先のホテルに仕事を持ち帰ることもなかった。 なお,被災者及びP8は,現地法人の工場と宿泊先間の移動については,主に現地法人が手配したマイクロバスを使用し,マイクロバスが利用できない時にはタクシーを利用した。(乙8,25,証人P8)イ国内勤務時の勤務状況被災者の国内勤務(広丘事業所への勤務)については,土曜日及び日曜日が所定休日とされ,その間の労働時間については,フレックスタイム制がとられているが,平成13年5月以降の「フレックスタイム個人別勤務管理表」の実施欄には,始業時刻が午前8時30分,終業時刻が午後5時15分中断が0分,労働時間が8時間と記入されている日がほとんどであり,セイコーエプソンの月毎(21日から翌月20日締め)の所定労働時間を超える残業時間は最大月でも5時間にすぎない。セイコーエプソンにおいては,午後零時15分から午後1時までの45分間が昼休みとされ,午前及び午後の労働時間中に適宜休憩をとることができる。(乙1, 時間を超える残業時間は最大月でも5時間にすぎない。セイコーエプソンにおいては,午後零時15分から午後1時までの45分間が昼休みとされ,午前及び午後の労働時間中に適宜休憩をとることができる。(乙1,22)被災者は,通常,午前6時20分ころ起床し,朝食を食べて午前7時30分ころに家を出て,自動車を約15分間運転して午前7時45分ころ広丘事業所に到着し,業務に従事した後,午後5時30分ころには退社しており,残業をすることがあっても午後6時ころまでには退社していた。被災者は,通常,午後7時ころには帰宅し,夕食を食べ,午後11時ころ就- 33 -寝しており,仕事を自宅に持ち帰ってくることはなかった。また,被災者は,休日に広丘事業所に出社することはなかった。(乙1,3,23,証人P2,証人P8,原告本人)。 (3)被災者の死亡前6か月以前の勤務状況等被災者は,セイコーエプソンに入社後,アメリカ,フランス,中国,シンガポール,フィリピン,インドネシアなどへの海外出張を経験していた。そして,被災者は,セイコーエプソンの生産技術部に配属された以降は,上記第2の2(4)のとおり,平成12年11月13日から同年12月22日まで品質向上活動支援の目的で中国に出張をし,平成13年1月8日から同月17日まで品質向上活動支援(キザローラー交換のリワークを実施)の目的で中国に出張をし,同年2月4日から同年3月8日まで技能認定のためにフィリピンへ,品質向上活動支援のために中国へ出張をし,同年3月25日から同年4月7日まで技能認定のためにフィリピンへ出張をした。(甲11,15,乙2)(4)被災者の死亡前6か月目(平成13年4月7日から5月6日まで)の労働状況等ア被災者の死亡前6か月目(平成13年4月7日から5月6日までの30日間)における各日の労働時間 ,15,乙2)(4)被災者の死亡前6か月目(平成13年4月7日から5月6日まで)の労働状況等ア被災者の死亡前6か月目(平成13年4月7日から5月6日までの30日間)における各日の労働時間は別紙6の「1日の労働時間数」欄に記載の各時間であり,各7日間ごとの時間外労働時間(認定基準に従い,原則として7日間あたり40時間を超える時間を時間外労働時間とした。以下同じ。)は別紙6の「時間外労働時間数」欄に記載の各時間であり,この1か月間の時間外労働時間数は合計17時間である。 なお,上記被災者の労働時間の中には,被災者が出張先のフィリピンから帰国した平成13年4月7日の旅行のための移動時間合計14時間が含まれている。(乙4,22の1・2,29の6,弁論の全趣旨)イこの1か月間の被災者の休日又は休暇は,平成13年4月8日(日曜- 34 -日),同月9日(年次有給休暇),同月14日(土曜日),同月15日(日曜日),同月21日(土曜日),同月22日(日曜日),同月28日(土曜日),同月29日(日曜日),同月30日(祝日),同年5月2日(年次有給休暇),同月3日(祝日),同月4日(祝日),同月5日(土曜日),同月6日(日曜日)の合計14日間であった。(乙22の1・2,29の6,弁論の全趣旨)ウ被災者は,平成13年4月7日午後8時20分ころ,出張先のフィリピンから帰宅したところ,その翌日である同月8日は休日(日曜日)であり,その翌々日である同月9日は年次有給休暇を取得している。(乙22の1・2,29の6,弁論の全趣旨)エ被災者は,平成13年度の主任への昇任試験(一次の論文試験と二次の面接とにより構成されている。)を受けており,平成13年4月18日,主任エントリーの専門論文として「東南アジア圏の製造体質強化について現状の課題と今後の 度の主任への昇任試験(一次の論文試験と二次の面接とにより構成されている。)を受けており,平成13年4月18日,主任エントリーの専門論文として「東南アジア圏の製造体質強化について現状の課題と今後の取り組みについて」を提出した。被災者は,一次試験(論文試験)には合格し,二次試験(面接試験)については次年度以降に評価されることになっていた。(甲9,乙1,23)(5)被災者の死亡前5か月目(平成13年5月7日から6月5日まで)の労働状況等ア被災者の死亡前5か月目(平成13年5月7日から6月5日までの30日間)における各日の労働時間は別紙5の「1日の労働時間数」欄に記載の各時間であり,各7日間ごとの時間外労働時間は別紙5の「時間外労働時間数」欄に記載の各時間であり,この1か月間の時間外労働時間数は合計23時間である。 なお,上記被災者の労働時間の中には,被災者が出張先のフィリピンへ出発した平成13年5月20日及び出国した同月21日並びにフィリピンから帰国した同年6月7日の旅行のための移動時間合計27時間が含まれ- 35 -ている。(乙4,22の2・3,29の5,弁論の全趣旨)イこの1か月間の被災者の休日又は休暇は,平成13年5月12日(土曜日),同月13日(日曜日),同月19日(土曜日),同月26日(土曜日。フィリピン出張中。),同月27日(日曜日。フィリピン出張中。),同年6月3日(休日)の合計6日間であった。(乙22の2・3,29の5,弁論の全趣旨)ウ被災者は,平成13年5月20日から同年6月2日までの技能認定のためにフィリピンに出張をしたところ(上記第2の2(4)のとおり),出張先へ出発した日の前日である同年5月19日は休日(土曜日)であり,帰国日の翌日である同年6月3日も休日(日曜日)であった。(乙22の2・3,29 出張をしたところ(上記第2の2(4)のとおり),出張先へ出発した日の前日である同年5月19日は休日(土曜日)であり,帰国日の翌日である同年6月3日も休日(日曜日)であった。(乙22の2・3,29の5,弁論の全趣旨)エ被災者の平成13年5月20日から同年6月2日までの上記フィリピン出張は,現地法人におけるスーパーバイザー(作業長)候補者を対象としてプリンター組立ての技能認定試験(学科試験及び実技試験)を実施するためのものであり,受験者は合計11名であった。被災者は,P8とともに当該出張をして当該業務に従事した。(甲17,乙2,乙24,弁論の全趣旨)フィリピン出張中の被災者の所定労働時間は,午前8時から午後5時まで(実労働時間8時間)であり,休憩時間としては午前中に約10分,昼休み12時から13時まで,午後約10分が設けられていた。被災者及びP8が出張中に宿泊したホテルは,マニラ市内に所在するホテルであり,ホテルから現地法人の工場までの通勤には現地法人が手配したマイクロバス又はタクシーを利用して,約1時間30分を要する距離にあった。(乙1,25,証人P8)(6)被災者の死亡前4か月目(平成13年6月6日から7月5日まで)の労働状況等- 36 -ア被災者の死亡前4か月目(平成13年6月6日から7月5日までの30日間)における各日の労働時間は別紙4の「1日の労働時間数」欄に記載の各時間であり,各7日間ごとの時間外労働時間は別紙4の「時間外労働時間数」欄に記載の各時間であり,この1か月間の時間外労働時間数は合計35時間である。 なお,上記被災者の労働時間の中には,被災者が出張先のアメリカへ向けて出国した平成13年6月10日並びにアメリカから帰国した同月28日及び帰宅した同月29日における旅行のための移動時間合計39時間が含ま 上記被災者の労働時間の中には,被災者が出張先のアメリカへ向けて出国した平成13年6月10日並びにアメリカから帰国した同月28日及び帰宅した同月29日における旅行のための移動時間合計39時間が含まれている。(乙4,22の3・4,29の4,弁論の全趣旨)この点,原告は,アメリカ出張中の被災者からのメールに,勤務時間につき「朝5時30分から午後4時まで」と記載されていること(甲13)を指摘するが,実際にアメリカ出張中の被災者の勤務時間が午前5時30分から午後4時までであることを裏付ける証拠がなく上記メールの記載内容の真偽を確認することができないし,上記メールの記載のみでは,休憩時間の有無やその時間,実労働時間がどれ程のものであったのか,また,そのような早朝から勤務しなければならない理由等も不明であるから,上記メールの記載を前提に被災者の労働時間を具体的に認定することは不可能である。 イこの1か月間の被災者の休日又は休暇は,平成13年6月9日(土曜日),同月16日(土曜日。アメリカ出張中。),同月17日(日曜日。 アメリカ出張中。),同月23日(土曜日。アメリカ出張中。),同月24日(日曜日。アメリカ出張中。),同月30日(土曜日),同年7月1日(日曜日),同月3日(年次有給休暇)の合計8日間であった。(乙22の3・4,29の4,弁論の全趣旨)ウ被災者は,平成13年6月10日から同月28日までリワーク業務のためにアメリカに出張をしたところ(上記第2の2(4)のとおり),出張- 37 -先へ出発した日の前日である同月9日は休日(土曜日)であり,帰宅した日の翌日である同月30日及び同年7月1日は休日(土曜日及び日曜日)であり,同月2日の国内勤務を挟んで同月3日には年次有給休暇を取得している。(乙22の2・3,29の5,弁論の全趣旨)エ 帰宅した日の翌日である同月30日及び同年7月1日は休日(土曜日及び日曜日)であり,同月2日の国内勤務を挟んで同月3日には年次有給休暇を取得している。(乙22の2・3,29の5,弁論の全趣旨)エ被災者の平成13年6月10日から同月28日までの上記アメリカ(シアトル)出張は,製品「スタイラスカラー40VX」のリワークを実施するためのものであった。(甲11,弁論の全趣旨)(7)被災者の死亡前3か月目(平成13年7月6日から8月4日まで)の労働状況等ア被災者の死亡前3か月目(平成13年7月6日から8月4日までの30日間)における各日の労働時間は別紙3の「1日の労働時間数」欄に記載の各時間であり,各7日間ごとの時間外労働時間は別紙3の「時間外労働時間数」欄に記載の各時間であり,この1か月間の時間外労働時間数は合計49時間30分である。 なお,上記被災者の労働時間の中には,被災者が出張先のチリへ向けて出国した平成13年7月7日,チリに入国した同月8日,チリから出国した同月19日及び帰国した同月20日における旅行のための移動時間合計69時間30分が含まれている。(乙4,22の4・5,29の3,弁論の全趣旨)イこの1か月間の被災者の休日又は休暇は,平成13年7月14日(土曜日。チリ出張中。),同月15日(日曜日。チリ出張中。),同月21日(土曜日),同月22日(日曜日),同月28日ないし同年8月1日(夏休み),同月4日(夏休み)の合計10日であった。(乙22の4・5,29の3,弁論の全趣旨)ウ被災者は,平成13年7月7日から同月20日までリワーク業務のためにチリに出張をしたところ(上記第2の2(4)のとおり),出張先へ出- 38 -発した日の前日である同月6日は通常どおり午後5時15分まで国内勤務をし,同月7日午前10時30 でリワーク業務のためにチリに出張をしたところ(上記第2の2(4)のとおり),出張先へ出- 38 -発した日の前日である同月6日は通常どおり午後5時15分まで国内勤務をし,同月7日午前10時30分ころに自宅を出発して出張に行った。また,被災者がチリ出張から帰宅した同月20日の翌日である同月21日及びその翌日である同月22日は休日(土曜日及び日曜日)であり,同月23日から同月27日までの通常の国内勤務を挾んで,同月28日から同年8月1日までは休暇(夏休み)であった。(乙4,22の4・5,29の3,弁論の全趣旨)エ被災者の平成13年7月7日から同月20日までの上記チリ出張は,製品「スタイラスカラー20」のリワークを実施するためのものであった。 (甲11,弁論の全趣旨)なお,被災者は,上記チリ出張の移動手段のうち,成田・ロサンゼルス間はの航空機については,ビジネスクラスシートを利用した。(乙67の1・2,弁論の全趣旨)(8)被災者の死亡前2か月目(平成13年8月5日から同年9月3日まで)の労働状況等ア被災者の死亡前2か月目(平成13年8月5日から同年9月3日までの30日間)における各日の労働時間は別紙2の「1日の労働時間数」欄に記載の各時間であり,各7日間ごとの時間外労働時間は別紙2の「時間外労働時間数」欄に記載の各時間であり,この1か月間の時間外労働時間数は合計0時間である。 なお,上記被災者の労働時間の中には,被災者が出張先のフィリピンへ向けて国内移動をした平成13年8月19日及び出国した同月20日における旅行のための移動時間合計13時間が含まれている。(乙4,22の5・6,29の2,弁論の全趣旨)イこの1か月間の被災者の休日又は休暇は,平成13年8月5日(夏休み),同月9日及び10日(フレックス休暇),同月11日ない 13時間が含まれている。(乙4,22の5・6,29の2,弁論の全趣旨)イこの1か月間の被災者の休日又は休暇は,平成13年8月5日(夏休み),同月9日及び10日(フレックス休暇),同月11日ないし16日- 39 -(お盆休み),同月25日(土曜日。フィリピン出張中。),同月26日(日曜日。フィリピン出張中。),同年9月1日(土曜日。フィリピン出張中。),同月2日(日曜日。フィリピン出張中。)の合計13日があったほか,同年8月18日は午後のみの半休であった。(乙22の5・6,29の2,弁論の全趣旨)ウ被災者は,平成13年8月19日から同年9月6日まで技能認定の業務のためにフィリピンに出張をしたところ(上記第2の2(4)のとおり),出発前には同年8月9日から同月16日までの連続8日間の休暇(フレックス休暇及び夏休み)があり,同月17日及び同月18日午前中の国内通常勤務を挾んで,同日午後の休暇(半休)があり,同月19日午後1時ころにフィリピン出張のために自宅を出発している。(乙3,22の5・6,29の2,弁論の全趣旨)エ上記フィリピン出張のうち平成13年8月25日までは,現地法人におけるラインリーダー(職長)候補者を対象としてプリンター組立て等の技能認定試験(学科試験及び実技試験)を実施するためのものであり,受験者は合計12名であった。被災者は,P8とともに当該出張をして当該業務に従事した。(甲17,乙2,乙24,弁論の全趣旨)上記技能認定試験の業務が終了した後,P8は,同月25日に帰国したが,被災者は,引き続きフィリピンに滞在して,品質向上活動支援(品質管理キーパーソン教育)の業務に従事した。この品質向上活動支援は,もともとはP6が実施するはずのものであったが,被災者がP6と交代して実施したものであった。もっとも,被災者が 品質向上活動支援(品質管理キーパーソン教育)の業務に従事した。この品質向上活動支援は,もともとはP6が実施するはずのものであったが,被災者がP6と交代して実施したものであった。もっとも,被災者が当該業務をP6に代わって実施することが決まったのは,フィリピン出張に出発した同月19日より前の時点であり,フィリピンの出張が当初の予定よりも延長したというわけではなかった。被災者は,上記品質向上支援の業務を終えて,同年9月6日に帰国した。(甲20,乙2,8,24,25,34,証人P8,証人- 40 -P6,調査嘱託の結果,弁論の全趣旨)。 オ上記フィリピン出張中の被災者の労働状況や宿泊したホテルなどの環境等については,上記(5)エと同様である。(乙1,25,証人P8)(9)被災者の死亡前1か月目(平成13年9月4日から同年10月3日まで)の労働状況等ア被災者の死亡前1か月目(平成13年9月4日から同年10月3日までの30日間)における各日の労働時間は別紙1の「1日の労働時間数」欄に記載の各時間であり,各7日間ごとの時間外労働時間は別紙1の「時間外労働時間数」欄に記載の各時間であり,この1か月間の時間外労働時間数は合計28時間である。 なお,上記被災者の労働時間の中には,被災者が出張先のフィリピンから帰国した平成13年9月6日,次のインドネシアへの出張のための国内移動をした同月9日,出国をした同月19日,インドネシアから帰国した同月28日における旅行のための移動時間合計43時間等が含まれている。 (乙4,22の6・7,29の1,弁論の全趣旨)イこの1か月間の被災者の休日又は休暇は,平成13年9月8日(土曜日),同月15日(土曜日。インドネシア出張中。),同月16日(日曜日。インドネシア出張中。),同月23日(日曜日。インドネシア出張 イこの1か月間の被災者の休日又は休暇は,平成13年9月8日(土曜日),同月15日(土曜日。インドネシア出張中。),同月16日(日曜日。インドネシア出張中。),同月23日(日曜日。インドネシア出張中。),同月29日(土曜日)の5日があったほか,同月9日は午前のみの半休,同月7日,28日は午後のみの半休,同月30日は午後に会社から呼び出されて約3時間労働した以外は休日(日曜日)であった。(乙22の6・7,29の1,弁論の全趣旨)ウ被災者は,平成13年8月19日から同年9月6日まで技能認定の業務のためにフィリピンに出張をしたところ(上記第2の2(4)のとおり),フィリピンから帰国した日の翌日である同月7日は午前中のみ国内通常勤務をして午後は休暇を取り,翌8日は休日(土曜日)であった。 - 41 -また,被災者は,同月9日から同月28日まで技能認定の業務のためにインドネシアに出張をしたところ(上記第2の2(4)のとおり),同月9日は午後2時ころにインドネシア出張へ向けて自宅を出発し,インドネシアから帰国して同月28日午前10時50分に松本空港に到着した後,同日午後は休暇を取り,翌29日及び30日は休日(土曜日及び日曜日。 ただし,上記のとおり同月30日は約3時間の労働をしている。)であった。その後,被災者は,同年10月1日,東京台場への出張のために出発した。(乙3,22の6・7,29の1,原告本人,弁論の全趣旨)エ被災者の平成13年9月9日から同月28日までの上記インドネシア出張は,現地法人におけるラインリーダー(職長)候補者を対象としてプリンター組立ての技能認定試験(学科試験及び実技試験)を実施するためのものであり,受験者は合計88名であった。被災者は,P8とともに当該出張をして当該業務に従事した。技能認定試験のうち学科試験は,同 ンター組立ての技能認定試験(学科試験及び実技試験)を実施するためのものであり,受験者は合計88名であった。被災者は,P8とともに当該出張をして当該業務に従事した。技能認定試験のうち学科試験は,同月11日午後1時30分から2時30分まで40名の現地労働者が受験し,同日午後3時30分から4時30分まで48名も現地労働者が受験した。実技試験は,同月12日から25日まで(同月15,16及び23日を除く。)の合計11日間にわたり,毎日,原則として,被災者及びP8がそれぞれ①午前9時ないし10時30分,②午前11時ないし午後0時30分,③午後2時ないし3時30分,④午後4時ないし5時30分と4回ずつ実施し(1日につき合計8人が受験),そのうち同月25日か26日については,夜勤の受験者のために午後7時30分まで延長して実技試験が実施された。(甲11,19,乙1,2,24,25,弁論の全趣旨)インドネシア出張中の被災者の所定労働時間は,午前8時30分から午後5時30分まで(実労働時間7時間30分)であり,休憩時間としては午前中に約10分,昼休み12時30分から14時まで,午後約10分が設けられており,土曜日及び日曜日が所定休日であった。被災者及びP8- 42 -が出張中に宿泊したホテルから現地法人の工場までの通勤には,現地工場の社用車を利用して,約30分から1時間を要する距離に所在していた。 被災者らは,インドネシアに滞在していた時期にアメリカで生じたテロ事件の影響を考えて,できるだけ外に出歩かないようにしていた。(乙1,25,33,証人P8)エなお,被災者は,インドネシアに出張中の平成13年9月26日か27日のどちらかの日の午後に一度だけ,P8に対し,「頭が痛くて。」,「薬を飲んだので大丈夫。」と被災者が常備していた市販薬を服用した旨を お,被災者は,インドネシアに出張中の平成13年9月26日か27日のどちらかの日の午後に一度だけ,P8に対し,「頭が痛くて。」,「薬を飲んだので大丈夫。」と被災者が常備していた市販薬を服用した旨を話していた。(乙25,33,証人P8,原告本人,弁論の全趣旨)。 (10)被災者のインドネシア出張よりの帰国から東京台場出張まで(平成13年9月27日から同年10月3日まで)の経緯等アインドネシアからの帰国(同年9月27日及び同月28日)被災者は,インドネシアの現地法人において,平成13年9月27日は午前8時30分から午後5時30分まで(そのうち,休憩時間は,午前と午後に各約10分,昼休みは午後零時から午後2時まで)技能認定試験の業務を実施し,業務終了後,ジャカルタ空港へ移動して同日午後9時20分発(現地時間)の関西空港行きの航空機に搭乗し,翌28日午前6時に関西空港に到着し,バスで大阪伊丹空港へ移動して国内線の航空機に搭乗し,同日午前10時40分ころに松本空港に到着した(乙4,25)。被災者の自宅は松本空港から約5キロメートルの場所に所在するため,被災者は,松本空港到着後に直ちに帰宅すれば正午までには帰宅できたはずであるが,実際に被災者が帰宅したのは午後6時ころであり,被災者がその間どのような行動をとっていたのかは不明である(当事者間に争いがない。)。被災者は,同日は,午後のみの休暇とされている(上記(9)イのとおり)。 被災者は,同日,帰宅してすぐに夕食を摂り,入浴した後,マグカップ- 43 -3杯の水割りの焼酎を飲み,午後11時ころに就寝した。(乙3)イ平成13年9月29日(休日)平成13年9月29日は被災者の所定休日(土曜日)であり,被災者は,外出することはなく,1日中自宅で過ごした。被災者は同日午前8時ころ目を覚まし,被 した。(乙3)イ平成13年9月29日(休日)平成13年9月29日は被災者の所定休日(土曜日)であり,被災者は,外出することはなく,1日中自宅で過ごした。被災者は同日午前8時ころ目を覚まし,被災者も行く予定にしていた娘の土曜参観について原告が「どうする。」と聞くと,被災者は「おれやっぱ行かない。」と言ってベットの中にいた。被災者は昼ころまで寝ており,午後には出張の荷物の整理をしていた。被災者は,同日午後6時ころ,家族とともに食事をし,マグカップ3杯の水割りの焼酎を飲んだ後,午後11時ころ就寝した。(甲58,乙3)。 ウ平成13年9月30日(休日),出張の要請平成13年9月30日は被災者の所定休日(日曜日)であり,被災者は,午前9時30分ころ目を覚まし,朝食を摂り,風呂に入り,午前中を自宅で過ごし,昼食後,午後1時ころ自動車を運転して自宅から約4キロメートルの場所にあるサッカーグランドに2人の息子を送って行った。被災者がサッカーグラウンドで子供のサッカーを観戦していた午後2時ころ,P2課長が被災者の携帯電話に電話をかけ,被災者に対し東京か大坂へ出張に行って欲しい旨伝えた。これに対し被災者は,「ちょっとー。」,「えー。」などと言って行きたくない様子を示していたが,P2課長の状況説明を聞いて「じゃあ,行きますから。」と答えた。なお,P2課長らは,被災者を含めた4名の部下に対して,出張に行って欲しいと打診していた。 同日午後,P2課長,P3課長,P6,P10及び被災者が,広丘事業所において打合せを行ったが,被災者が広丘事業所に到着して打合せに参加したのは午後3時ころであった。被災者らは,この打合せにおいて,出張に出発する日程を決定し,出張先の業務には3日くらいはかかると予測して同年10月3日までの出張を予定し,切符の手配とω1ホテルの 加したのは午後3時ころであった。被災者らは,この打合せにおいて,出張に出発する日程を決定し,出張先の業務には3日くらいはかかると予測して同年10月3日までの出張を予定し,切符の手配とω1ホテルの予約- 44 -をすることになった。P2課長とP6は同日中に東京台場の出張に出発したが,被災者は,「今夜,家で大工さんと打合せを行う用意がある。」と口実を述べて,翌10月1日に東京台場の出張へ出発することになった。 なお,被災者が,大工との打合せを予定していたという事実はない。 被災者は,同日午後4時30分ころ帰宅し,午後6時に夕食を摂り,入浴後,マグカップ3杯の水割りの焼酎を飲み,午後11時ころ就寝した。 被災者は,原告に対し,「明日から3日間,東京へ行くように言われた。」と話し,「ほんとは今日から行けって言われたんだよ。おれ,いやだからさ,一旦は断ったんだけど,明日の朝からでいいからっていわれちゃったんだ。」と話していた。(甲36,37,58,乙3,5,27,28,弁論の全趣旨)。 エ東京台場におけるリワーク業務について(ア)プリンターの発売開始日等セイコーエプソンは,プリンター「エプソンColorioPM-950C」(以下「PM-950C」ともいう。),「エプソンColorioPM-890C」,「エプソンColorioPM-830C」(以下「PM-830C」ともいう。),「エプソンColorioPM-730C」の4機種のプリンターの販売を,平成13年10月5日に開始する予定であった。同業他社も同日からプリンターの新製品の販売を開始すると発表しており,セイコーエプソンとの年末へ向けての年賀状商戦となるとも報道されていた。(甲6の1・2,7の1・2,22ないし25)(イ)同梱作業について東京台場倉庫は,日本通運が所有する すると発表しており,セイコーエプソンとの年末へ向けての年賀状商戦となるとも報道されていた。(甲6の1・2,7の1・2,22ないし25)(イ)同梱作業について東京台場倉庫は,日本通運が所有する倉庫であり,セイコーエプソンが日本通運と契約して,セイコーエプソンの海外現地法人(フィリピン,インドネシア,中国等)で生産したプリンター等の製品を日本国内向け- 45 -製品として出荷する際の最終出荷場として利用されている。セイコーエプソンは,日本通運に対し,海外現地法人から送られてきたプリンター等の製品に,部材(マニュアルやCD-ROM等)を同梱(箱に入れ,封をすること)する作業を依頼している。上記4機種の同梱作業は,東京台場倉庫において,平成13年9月27日から同年11月7日まで行われた。 同梱の作業は,日本通運の作業員が,プリンターの入っている箱をローラー付きの作業台に置き,順次,箱の中に国内向けのマニュアルやCD-ROM等を入れて箱の封をしていくことになるが,日本通運の作業員がセイコーエプソンが指示したとおりに作業を行うか否かをチェックしたり,作業員の不明点について指導するために,セイコーエプソンの従業員が,作業現場を巡回しながら注視・監視をする必要がある。特に,今回の作業においては,プリンター4機種について同時に同梱作業を実施するため,マニュアルの入れ間違いなどの混乱が生じるおそれがあり得るから,セイコーエプソンの従業員が監視や指導を行う必要性が高かった。(乙5,7,26,32,41,証人P2)(ウ)同梱以外の作業について東京台場倉庫においては,上記4機種に対するマニュアル等の部材を同梱する作業の他にも,いくつかの作業が行われた。 まず,PM-950Cのはがきセッター(給紙のための部品)が間に合わなかったために,はがきセッ 倉庫においては,上記4機種に対するマニュアル等の部材を同梱する作業の他にも,いくつかの作業が行われた。 まず,PM-950Cのはがきセッター(給紙のための部品)が間に合わなかったために,はがきセッター請求はがきを同梱する作業が行われた。この作業については,平成13年9月19日の段階で予定されていた。(甲5の2,乙26,調査嘱託の結果)また,平成13年9月28日,PM-830Cの部品(吸収材廃液キャップ下)に欠品があることが発覚したため,同日以降,プリンターのハウジング後方に光を当て通気孔の部分から製品の中を見て部品(吸収- 46 -材廃液キャップ下)の有無を確認し,欠品の場合には除外するなどの作業が行われた。(甲5の4・5,乙5,調査嘱託の結果)さらに,個装箱の破損や汚れがある場合は交換する作業が指示されていたし,平成13年10月2日付けでPM-830Cに紙送りに支障となるバリが発見されたことに伴う確認作業の指示がされ,同月3日付けで個装箱の印刷がかすれているものを交換することや個装箱の側面4面をウエスで乾拭きする作業も追加で指示された。(甲5の1・5・6,乙31,証人P6,調査嘱託の結果)(エ)セイコーエプソンの従業員の出張及び勤務態勢等被災者を含むセイコーエプソンの従業員らは,東京台場倉庫における上記作業のために,順次,出張している。まず平成13年9月27日にP11(TP生産技術部・組立て技術(IJPビジネス機)担当)が,同月29日にP12(TP生産技術部・生産技術(IJPビジネス機外装・梱包・ラベル)担当)及びP13(TP生産技術部・組立て技術(ローエンドIJP)担当)が,同年10月1日にP2課長,P6,被災者及びP7(TPCS品質保証部・IJP品質保証担当。)が東京台場倉庫に出張して作業に従事しており,その後も同月 技術部・組立て技術(ローエンドIJP)担当)が,同年10月1日にP2課長,P6,被災者及びP7(TPCS品質保証部・IJP品質保証担当。)が東京台場倉庫に出張して作業に従事しており,その後も同月4日には新たな従業員が派遣されてくる予定であった。その他,物流専門の会社であるエプソンロジスティックセンター(ELC)からも3ないし4名が東京台場倉庫に派遣されていた。なお,東京台場倉庫における現地責任者はP2課長であった。 なお,東京台場倉庫におけるのと同様な作業が,関西方面の出荷場として使用されている岸和田倉庫においても行われていた。(乙5,32,証人P2,調査嘱託の結果,弁論の全趣旨)(オ)被災者の労働状況等上記のとおりプリンター4機種の発売日が迫っていたため,台場倉庫- 47 -においては,日本通運の作業員も,セイコーエプソンの従業員らも,交代制の体制をとり,作業は24時間体制で続けられた(当事者間に争いがない。)。作業は,午前9時ないし午後5時まで(午後零時から午後1時までの昼休みが含まれる。)の日勤と,午後8時から翌日午前5時までの夜勤との交代制で行われ,被災者は,上記日勤の作業に従事した。 被災者は,所定時間(午前9時ないし午後5時)外の労働はしておらず(実労働時間7時間),労働時間中においても,日本通運の作業員の作業時間(90分間作業をして約15分間の休憩を入れる。)に合わせるようにして,適宜,休憩をとっていた。(乙5,7,8,26)台場倉庫における同梱作業等を直接に行うのは主に日本通運の作業員であり,被災者は,主に,日本通運の作業員による作業の進行状況の管理や間違いなく部材が入れられるかのチェックや作業の品質管理等を行い,作業ラインの中に入って作業員と一緒に作業することはなかった。 すなわち,被災者は,日本通運の作業 の作業員による作業の進行状況の管理や間違いなく部材が入れられるかのチェックや作業の品質管理等を行い,作業ラインの中に入って作業員と一緒に作業することはなかった。 すなわち,被災者は,日本通運の作業員の作業員に対し,作業工程を教示したり,作業員の周囲を巡回して監視をしたり,作業の流れた止まった場合などにはその場に行って指導するなどしていた。なお,台場倉庫における作業に従事した日本通運の日勤作業員数は,平成13年10月1日が55名,同月2日が74名,同月3日が57名であった。(乙5,7,8,26,41)。 オ平成13年10月1日(東京台場出張の1日目)被災者は,同日午前5時30分に起床し,午前6時10分に自宅を出発し,正午前には東京台場倉庫に到着し,同僚等とともに昼食を摂った後,作業の打合せを行い,その後,午後5時ころまで業務に従事し,その夜は台場倉庫近くのω1ホテルに宿泊した。(乙3,6,8,弁論の全趣旨)カ平成13年10月2日(東京台場出張の2日目)被災者は,同日午前9時から午後5時まで,台場倉庫において,業務に- 48 -従事した(実労働時間7時間)。被災者は,同日午後から,P7とともに日勤の業務に従事した。被災者は,午後の休憩時間中に,こめかみを押さえながら,P7に対し,「頭が痛い,肩こりからくる頭痛なのかな。何もしないで立っているより動いていた方がいい。」と話し,実際に箱に入れる作業もしていた。(乙7,26)被災者は,午後5時に業務を終え,午後6時ころ,P7とともに夕食を摂り,頭痛は訴えていたが,日本そばとご飯のセットを食べ,ビール中ジョッキ1杯を飲んだ。その後,被災者は,午後7時ころ,ω1ホテルの部屋に戻った。(乙7,26)同日,被災者らの東京台場出張の日程が,他のメンバーが到着する予定日の翌日(同月5日)まで2 ビール中ジョッキ1杯を飲んだ。その後,被災者は,午後7時ころ,ω1ホテルの部屋に戻った。(乙7,26)同日,被災者らの東京台場出張の日程が,他のメンバーが到着する予定日の翌日(同月5日)まで2日間延長された。ω1ホテルにおける宿泊予約は同日までであり,延宿をすることができなかったため,被災者は,P2課長に頼まれて,夕食時に翌日以降の宿泊先(ホテルω2)の手配をした。被災者は,同日午後7時ころ,原告に対し電話をかけ,「3日間の予定が延びて,帰りは平成13年10月5日の金曜日になる。たぶん金曜日は飲み会になる。」と言ったが,体調が悪いといった話はしなかった。 (乙3,5,7)被災者は,同日,買ってきたウイスキーをボトル半分くらい飲んでから就寝した。(乙7,弁論の全趣旨)キ平成13年10月3日(東京台場出張の3日目)被災者は,同日午前8時ころ,ホテルを出発して,台場倉庫に出勤し,午前9時から午後5時まで業務に従事した(実労働時間7時間)。被災者は,同日午前8時ころ,P7に対し「昨日夕食をしている午後7時ころが一番頭が痛かった。今も頭が痛くてバファリンを飲んできた。夕食後コンビニでウイスキーを買ってきてボトル半分くらい飲んでから寝た。」などと話していた。被災者は,同日,作業中や休憩中に,両手でこめかみを押- 49 -さえながら,しきりに「頭が痛い」と言っており,1時間に1回くらい休憩をとっており,ホテルへ帰る電車の中でも辛そうにしていた。(乙7,26)被災者は,同日午後5時ころ,原告に対し,「今日から,ホテルω2に移る。」等との携帯電話のメールを送信した。(乙3)被災者は,同日午後6時9分,同日の宿泊先であるホテルω2にチェックインをした後,P7とともに,ホテル前の回転寿司店において,夕食として寿司及び生ビール中ジョッキ1杯を のメールを送信した。(乙3)被災者は,同日午後6時9分,同日の宿泊先であるホテルω2にチェックインをした後,P7とともに,ホテル前の回転寿司店において,夕食として寿司及び生ビール中ジョッキ1杯を摂った。被災者は,夕食時にも頭痛を訴えていた。(乙7,9,26)被災者は,同日午後8時30分ころ,P7に電話をかけ,「明日からP14さんが合流します。日程の確認で広丘事業所へ電話しておいた方がいいよ。」と話した。また,P2課長は,同日午後10時ころ,被災者の携帯電話に電話をかけ,台場倉庫での出張作業が延びたこととリワーク作業の状況を会社に報告するように指示をしたが,その際には特に頭痛を訴えてはいなかった。被災者は,同日夜,P6に対し電話をかけ,翌日からリワーク作業に合流する人のことを聞いていると話し,頭が痛いと話した。 (乙5,7,8,証人P6)(11)被災者の死亡(平成13年10月4日)ア被災者は,同日午前7時の集合時間になっても,ホテルロビーに姿を見せなかった。その後,ホテルの部屋において,パジャマ姿でうずくまる姿勢で既に死亡していた被災者が発見された。(乙7ないし9)イ被災者の死因は,左椎骨動脈に類紡錘状の解離性動脈瘤(脳動脈血管が血流により切り離され,動脈壁を内外二層に解離(剥離)して解離腔に血液が入り込み,そのため動脈瘤様の拡大を来す。)が破綻したことにより発症したくも膜下出血であり,死亡日時は平成13年10月4日午前1時ころであると考えられる(上記第2の2(7)のとおり)。 - 50 -ウ死亡直前の飲酒状況上記(10)カのとおり,被災者は,平成13年10月2日,夕食時にビール中ジョッキ1杯を飲んだほか,就寝前に買ってきたウィスキーをボトル半分くらい飲んだ。ビールについては,一般的なアルコール度数5パーセントとし,中 おり,被災者は,平成13年10月2日,夕食時にビール中ジョッキ1杯を飲んだほか,就寝前に買ってきたウィスキーをボトル半分くらい飲んだ。ビールについては,一般的なアルコール度数5パーセントとし,中ジョッキ1杯を400ミリリットルとすると,被災者が摂取した純アルコール量は20ミリリットル(アルコールの比重0.8で,16グラム)となる。ウィスキーについては,そのボトルの大きさが不明であるが,一般的なウィスキーのアルコール度数40パーセントとし,一般的なウィスキーボトル700ミリリットルの半量(350ミリリットル)を前提とすると,被災者が摂取した純アルコール量は140ミリリットル(112グラム)となり,一般的なウィスキーのハーフボトル350ミリリットルの半量(175ミリリットル)を前提とすると,被災者が摂取したと考えられる純アルコール量は70ミリリットル(56グラム)となる。そうすると,被災者が同日(10月2日)に摂取した純アルコール量は合計160ミリリットル(128グラム)又は90ミリリットル(72グラム)となる。 また,上記(10)キのとおり,被災者は,同月3日,夕食時にビール中ジョッキ1杯を飲んだ。ビールについては上記と同様に計算すると,被災者が摂取した純アルコール量は20ミリリットル(アルコールの比重0. 8で,16グラム)となる。また,同月4日に死亡した被災者が発見された時,ホテル内に缶チュウハイのロング缶(500ミリリットル)の空き缶及び飲みかけの缶が数本置かれており,被災者は,死亡する直前にホテルの部屋で缶チュウハイを飲んでいたことが認められる(乙9,35,58,証人P6)。残されていた空き缶の数等については,ホテルω2総支配人のP15は,500ミリリットルのロングカンのカンチュウハイが4本あり,3本位はあいていたと思うと述 認められる(乙9,35,58,証人P6)。残されていた空き缶の数等については,ホテルω2総支配人のP15は,500ミリリットルのロングカンのカンチュウハイが4本あり,3本位はあいていたと思うと述べ(乙9),P6は,カンチュウ- 51 -ハイは500ミリリットルで開封された状態で2本あったが,コップに8分目くらい残っていたと述べ(乙35,証人P6),被災者の死体検案書には500ミリリットル缶チューハイ2缶空いており,1本半くらい飲んであると記載されており(乙58),それぞれの供述内容等が異なっていて判然としないが,缶チュウハイの一般的なアルコール度数7パーセントとし,被災者が500ミリリットルのロング缶3本(1500ミリリットル)を飲んでいたことを前提とすると,被災者が摂取した純アルコール量は105ミリリットル(84グラム)となり,被災者がロング缶1本半(750ミリリットル)を飲んでいたことを前提とすると,被災者が摂取した純アルコール量は52.5(42グラム)ミリリットルとなる。そうすると,被災者が同日(10月3日)に摂取したと考えられる純アルコール量は合計72.5ミリリットル(56グラム)ないし125ミリリットル(100グラム)となる。 なお,被災者の解剖時の血中エタノール濃度は0.26mg/mlであった(上記第2の2(7)のとおり)。 (12)被災者の健康状態等ア飲酒習慣等について被災者は,セイコーエプソンの健康診断等において,肥満傾向,高脂血症,肝機能障害(脂肪肝),多血症傾向が認められ,要治療であるとされていたほか,尿酸値にも問題があるとされていた。セイコーエプソン専属の産業医は,被災者について,平成6年から高脂血症,アルコール性肝機能障害(脂肪肝)と診断していたが,平成12年7月に被災者が指導を受けて1週間禁酒し も問題があるとされていた。セイコーエプソン専属の産業医は,被災者について,平成6年から高脂血症,アルコール性肝機能障害(脂肪肝)と診断していたが,平成12年7月に被災者が指導を受けて1週間禁酒したところ,中性脂肪が604mg/dl(基準値は~149mg/dl)から77mg/dlに,γ-GTPが404IU/l(旧基準値:~60IU/l)から196IU/lに下がったことから,投薬療法による治療よりもまずライフスタイルを改善すべきであるとの判- 52 -断のもと,被災者に対し禁酒(節酒)を指導していた。しかし,平成13年5月14日の定期健康診断時の中性脂肪が827mg/dl(基準値:~149mg/dl),γ-GTPが650IU/l(新基準値:~80IU/l)と非常に高い数値であったため,産業医らは,被災者に対し,節酒,できれば禁酒をするよう強く指導していた。(乙36,37,43,51)被災者は,平成13年ころには,自宅においては,毎日,就寝前に,アルコール度数20度の焼酎の水割りを湯飲み茶碗4杯又はマグカップ3杯くらい飲んでいた(甲58,乙3,36,37,原告本人)。また,被災者は,海外出張に行った際には,夕食時にいつも中ジョッキ2杯くらいのビールを飲んでいたし,一人でも飲酒していることがあった(乙8,25)。 イ血圧について健康診断時の被災者の血圧については,平成7年4月6日には最高血圧140mmHg・最低血圧90mmHgの軽症高血圧の数値が記録されているものの,それ以外には問題となる高血圧は見られなかった。(甲38,乙36,43)ウ肝機能障害について健康診断時の被災者のγ-GTP値については,一貫して高値を示しており,特に平成13年5月14日の健康診断時のγ-GTP値650IU/l(新基準値:~80IU/l)は著しい高 ウ肝機能障害について健康診断時の被災者のγ-GTP値については,一貫して高値を示しており,特に平成13年5月14日の健康診断時のγ-GTP値650IU/l(新基準値:~80IU/l)は著しい高値であり,このγ-GTPの上昇はアルコール性肝障害を反映したものと考えられる。(甲38,乙43)エ高脂血症について健康診断時の被災者の中性脂肪値についても,高値が続き,特に平成12年5月の中性脂肪604mg/dl(基準値:~149mg/dl)や- 53 -平成13年5月の中性脂肪827mg/dlは著しい高値であり,被災者が高脂血症であったことを示している。血清中性脂肪値は,γ-GTPとの関連性などをも考慮すれば,被災者の飲酒習慣の影響を強く反映したものと考えられる。(甲38,乙43)オなお,被災者の実父が,くも膜下出血に罹患した経験がある。(甲58,乙36) くも膜下出血,解離性脳動脈瘤等に関する医学的知見(1)くも膜下出血についてくも膜下出血とは,頭蓋内血管の破綻により,血液がくも膜下腔(くも膜と軟膜の間の腔で,脳脊髄液が循環している。)に流入して起こる病態をいう。くも膜下出血の原因の75パーセントは脳動脈瘤の破裂である。(甲3,乙19)くも膜下出血を含む脳・心臓疾患は,その発症の基礎となる血管病変等が,主に加齢,食生活,生活環境等の日常生活による諸要因や,遺伝等の個人に内在する素因(病気に罹り易い性質)により,生体が受ける日常的な通常の負荷によって,長年の生活の営みの中で,極めて徐々に血管病変等が形成,進行及び増悪するといった自然経過を辿り発症するものであり,労働者に限らず,一般の人々の間にも普遍的に数多く発症する疾患である。ただし,業務による過重な負荷が加わることにより,血管病変等を自然経過を超えて著しく増悪させ た自然経過を辿り発症するものであり,労働者に限らず,一般の人々の間にも普遍的に数多く発症する疾患である。ただし,業務による過重な負荷が加わることにより,血管病変等を自然経過を超えて著しく増悪させ,脳・心臓疾患を発症させる場合があることは医学的に広く認知されている。(乙19)(2)解離性能動脈瘤について解離性脳動脈瘤とは,脳動脈の解離により血管壁内に血液が入り込み,動脈瘤様拡大を来したり,本来の血管腔を閉塞させたりするものである。 解離性動脈瘤に関する知見は乏しく,解離性動脈瘤やその破裂の原因も未解明であるが,脳血管自体の加齢現象と高血圧などによる血行力学的な圧力- 54 -が考えられる。(甲12,38,乙46,47,66の1・3)なお,解離性動脈瘤は,発生した後,一方的に進行するわけではなく,自然に治癒して発症に至らない例も多数認められている。(甲38,乙46)(3)脳動脈瘤破裂の前駆症状について脳動脈瘤破裂による大出血に前駆して種々の警告サイン(頭痛,吐き気,嘔吐,視覚障害など,前駆症状とも呼ばれる。)があり,微量の漏出性出血が原因であると考えられている。脳動脈瘤の破裂に前駆する警告サインの中で最も重要なのが頭痛であり,頭痛の持続期間は平均13日で,ほとんどの症例で頭痛が全く消失しないうちに大出血が起こっているとされる。また,頭痛に伴い,吐き気や嘔吐が認められることも多く,吐き気・嘔吐の持続時間は平均4日であるとされている。(甲3,4,12,乙19,66の1)(4)くも膜下出血のリスクファクターについてくも膜下出血のリスクファクター(危険因子。特定の疾患や異常条件の発生に関連がある個人の属性や性質,環境条件等。)として,以下のものが挙げられる。(甲12,乙19,45,47ないし50,52,65の1・3・9・10)ア クター(危険因子。特定の疾患や異常条件の発生に関連がある個人の属性や性質,環境条件等。)として,以下のものが挙げられる。(甲12,乙19,45,47ないし50,52,65の1・3・9・10)ア高血圧イ喫煙ウ飲酒長期間大量にアルコールを摂取し続けると,高血圧を促進したり脳血流を増加させるなど血行動態の変化を生じさせ,また,肝機能障害により肝臓における血液凝固因子の生成を阻害するなどのことから,飲酒は,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血のリスクファクターとされている。(甲12,乙45,51)また,飲酒の翌日の二日酔いあるいはwithdrawal(離脱)の時期にはカテコラミンの増加による血圧上昇と血管の過剰反応性がみられ,- 55 -くも膜下出血の12ないし13パーセントは大量の飲酒から24時間以内の二日酔い又はwithdrawal(離脱)の時期に発生するとされているが,飲酒時のくも膜下出血や脳出血の発症には血圧上昇や血管の過剰反応性が引き金になっていると考えられている(乙45)。脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血について,発症前24時間以内に純アルコールに換算して40グラム,1週間以内に150グラムを超える飲酒をしていた者にリスクが高く,大量のアルコール摂取はくも膜下出血のリスクファクターであると報告があり,これは,アルコール摂取により血圧が上昇することが脳動脈瘤破裂に関係すると考えられている(乙52。ただし,これは,厳密には,解離性動脈瘤ではなく,嚢状脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血を前提とする記述であると考えられる。)。 エ高脂血症について高脂血症は,非出血系の脳梗塞ではリスクファクターとして有意性が確認されているが,くも膜下出血を起こした動脈解離性病変の8パーセントにも高脂血症が認められたとする報告があり,高脂血症は 血症について高脂血症は,非出血系の脳梗塞ではリスクファクターとして有意性が確認されているが,くも膜下出血を起こした動脈解離性病変の8パーセントにも高脂血症が認められたとする報告があり,高脂血症はくも膜下出血のリスクファクターであると考え得る。(乙50,乙66の1)。 オストレスについてストレスは,高血圧及び動脈硬化の進行に何らかの影響を与えることが広く認められているが,その定量的評価法が確立されておらず,その関与の有無とその程度については,個々の症例に則して,総合的に判断せざるを得ないものとされている。(乙19)カ加齢について加齢は,高血圧症及び動脈硬化の進行を促す要因でもあり,くも膜下出血の好発年齢は,日本人では40歳代にあるともされている。(甲4,乙19,47,50)キ遺伝的素因について- 56 -近親者(一親等以内)に脳動脈瘤患者を有する者の4パーセントが脳動脈瘤を有するとの報告があるなど,遺伝的素因が脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の危険因子であるとする見解も存する。(乙47,48,66の1・3・9)ク多重リスクファクターくも膜下出血について,多重のリスクファクターを有する者は,発症のリスクが高いとされている。(乙19) 業務起因性の有無の判断(1)労働者災害補償保険法による保険給付である遺族補償年金給付及び葬祭料が支給されるためには,労働者に生じた傷病等が「業務上」(同法7条1項1号,労働基準法75条1項)のものである必要があるところ,労働者の疾病に業務起因性が認められるためには,当該疾病等と労働者が従事していた業務との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。また,労働者災害補償保険制度が,業務に内在又は随伴する危 ていた業務との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。また,労働者災害補償保険制度が,業務に内在又は随伴する危険が現実化した場合に,それによって労働者に発生した損失を補填することを目的とするものであることからすれば,上記の相当因果関係が認められるためには,労働者が従事していた業務に内在ないし通常随伴する危険の現実化として,当該疾病が発症したものと認められることが必要である(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁参照,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁参照)。 上記2(1)のとおり,被災者に発症したくも膜下出血を含む脳・心臓疾患は,基礎的病態(動脈瘤ないし血管病変)が,生体が受ける日常的な通常の負荷によって,徐々に進行及び増悪するといった自然経過を辿って発症するものであり,労働者に限らず,一般の人々の間にも普遍的に数多く発症する疾患であるが,業務による過重な負荷が加わることにより,基礎的病態を- 57 -自然経過を超えて著しく増悪させ,脳・心臓疾患を発症させる場合があることは医学的に広く認知されている。そうだとすると,被災者が過重な業務により,基礎的病態を自然経過を超えて著しく増悪させ,くも膜下出血を発症したと認められる場合に,業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したものと評価して,被災者の疾病(解離性動脈瘤の破裂によるくも膜下出血)の業務起因性を認めるのが相当である。 (2)過重な業務について上記のとおり,くも膜下出血は,生体が受ける日常的な通常の負荷によって,基礎的病態が徐々に進行及び増悪するといった自然経過を辿って発症するものであり,業務についてもまた,それが日常的なものにとどまる 上記のとおり,くも膜下出血は,生体が受ける日常的な通常の負荷によって,基礎的病態が徐々に進行及び増悪するといった自然経過を辿って発症するものであり,業務についてもまた,それが日常的なものにとどまるときは,それにより基礎的病態の増悪があったとしても自然経過の範囲内のものであると考えられる。そこで,まず,被災者の従事していた業務が,被災者の基礎的病態を自然経過を超えて著しく増悪させ,くも膜下出血を発症させ得るほどの過重な業務であったか否かにつき検討する。 ア長期間の業務の加重性について(ア)海外出張について上記のとおり,被災者は,セイコーエプソンの生産技術部に配属された平成12年11月13日から平成13年9月28日までの間に,合計183日間にわたる9回の海外出張(出張先は,中国,フィリピン,アメリカ,チリ,インドネシアの5か国)をしているが,被災者が海外現地法人におけるプリンターの製造体質の強化を支援する業務を担当していた以上,海外出張をしての業務に従事することが多いのは当然のことであり,被災者が生産技術部に配属される以前にも海外出張の経験を積んでいることなどにも照らせば,単に海外出張が多いことのみを理由にしてその業務が過重であったと判断することはできず,被災者が従事していた業務の内容や実態等を具体的に検討して,それが被災者の基礎的- 58 -病態を自然経過を超えて著しく増悪させ得るほどの加重なものであったかを判断すべきである。 (イ)労働時間について認定基準は,行政の解釈基準であって裁判所を拘束するものではないが,上記のとおり,業務の過重性の評価要因を現時点における医学的知見に基づいて検討した結果が反映されているものであり,その内容は一般的に認められている医学的知見に基づいて定型化された経験則であるということができるから 務の過重性の評価要因を現時点における医学的知見に基づいて検討した結果が反映されているものであり,その内容は一般的に認められている医学的知見に基づいて定型化された経験則であるということができるから,業務起因性の認定・判断にあたってはこれを参考にすることができる。そして,認定基準は,長期間の加重業務の判断にあたり,発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合には,業務と発症との関連性は弱いと判断される(この場合の発症前1か月間ないし6か月間とは,発症前1か月間,発症前2か月間,発症前3か月間,発症前4か月間,発症前5か月間,発症前6か月間のすべての期間をいう。)としている。 しかるに,上記のとおり,認定基準に基づく被災者の時間外労働時間数は,発症前6か月目の1か月間が17時間,発症前5か月目が23時間,発症前4か月目が35時間,発症前3か月目が49時間30分,発症前2か月目が0時間,発症前1か月目が28時間である。これを前提に,認定基準に従い,発症前1か月間ないし6か月間(発症前1か月間,発症前2か月間,発症前3か月間,発症前4か月間,発症前5か月間,発症前6か月間のすべての期間)の各1か月当たりの平均時間外労働時間を算出すると,発症前1か月間が28時間,発症前2か月間が14時間(1か月目の28時間と2か月目の0時間との平均値),発症前3か月間が25時間50分程度(1か月目の28時間,2か月目の0時間及び3か月目の49時間30分の平均値。以下,計算方法は同様であ- 59 -る。),発症前4か月間が28時間8分程度,発症前5か月間が27時間6分程度,発症前6か月間が25時間25分程度である。したがって,被災者については,発症前1か月間ないし6か月間にわたっての1か月当たり ,発症前4か月間が28時間8分程度,発症前5か月間が27時間6分程度,発症前6か月間が25時間25分程度である。したがって,被災者については,発症前1か月間ないし6か月間にわたっての1か月当たりの時間外労働時間数は,いずれも30時間未満であり,認定基準において業務と発症との関連性が弱いとされる時間外労働時間の基準(45時間以下)をもはるかに下回るものである。 (ウ)労働の密度について上記のとおり,認定基準に基づく被災者の労働時間の中には,出張のための移動時間(航空機や電車に乗っている時間や手待時間等)が多く含まれており,各月ごとの移動時間数を見ると,ほとんど当該月の時間外労働時間数を上回っているという状態である(発症前6か月目は時間外労働時間数17時間に対し移動時間数14時間,発症前5か月目は時間外労働時間数23時間に対し移動時間数27時間,発症前4か月目は時間外労働時間数35時間に対し移動時間数39時間,発症前3か月目は時間外労働時間数49時間30分に対し移動時間数69時間30分,発症前2か月目は時間外労働時間数0時間に対し移動時間数13時間,発症前1か月目は時間外労働時間数28時間に対し移動時間数43時間等)。そうすると,被災者の時間外労働時間数自体が多いとはいえない上,労働時間の中にかなり多くの移動時間が含まれていることから,その労働の密度も高いものとはいえない。 (エ)休日について上記のとおり,被災者の所定休日は土曜日及び日曜日であり,そのいずれかが出張のための移動日とされていることも多いものの,被災者は適宜休暇を取得するなどしており,10日を超えるような連続労働は認められない。また,上記のとおり,平成13年7月7日にチリ出張に出発した際を除き,海外出張の前後には,いずれも実質的に1日以上の休- 60 -日が確保 どしており,10日を超えるような連続労働は認められない。また,上記のとおり,平成13年7月7日にチリ出張に出発した際を除き,海外出張の前後には,いずれも実質的に1日以上の休- 60 -日が確保されている。 なお,海外の出張先における休日はホテル等で過ごすことになり,国内の自宅で過ごす休日と比較すれば十分にくつろぐことが難しいこともあると考えられるが,それだからといって直ちに疲労の回復が困難で疲労が蓄積する過重な業務であると認めることはできない。 (オ)勤務体系について被災者の勤務は,海外出張における業務も,国内勤務における業務も,勤務の開始及び終了時刻が一定しており,勤務時間は規則正しいものといえる。勤務途中に待機時間や仮眠時間があるわけでもないので,拘束時間が長時間に及ぶ業務であるとはいえない。この点,原告は,被災者の拘束時間は被告が主張しているものよりも長時間に及ぶとして詳細な拘束時間の主張をしているが,原告が主張する被災者の拘束時間の中には,自宅における海外出張の準備及び後片付けのための時間や国内勤務時の通勤時間が含まれているなど,それ自体採用することができないし,業務の過重性の判断にあたっては,被災者の労働実態等がいかなるものなのかを具体的に検討することが重要であると解されるから,原告が主張するように詳細な拘束時間を算出しても,それだけでは業務の過重性に関する結論が左右されることはないといわざるを得ない。 また,上記のとおり,被災者が海外出張をして行う業務のうち,技能認定などの海外現地法人の人材育成業務については,予め年度計画が立てられ,原則としてその計画に従って実施していくものであるから,海外出張の見通しを容易に立てることができ,予め出張の準備をすることも可能な性質のものである。上記のとおり,平成13年8月19日から 立てられ,原則としてその計画に従って実施していくものであるから,海外出張の見通しを容易に立てることができ,予め出張の準備をすることも可能な性質のものである。上記のとおり,平成13年8月19日から同年9月6日までのフィリピン出張の際には,被災者は,技能認定業務が終了した後,もともとはP6が実施するはずであった品質向上活動支援(品質管理キーパーソン教育)の業務に従事するため,引き続きフィ- 61 -リピンに滞在したものであるが,これもフィリピン出張に出発する以前から決定していたことであったから,予想外の事態により海外出張が延長されたというようなものではない。他方,被災者が海外出張をして行う業務のうち,リワーク業務については,その性質上,年間スケジュールで予め決まっているような業務ではなく,リワーク業務のために急遽出張することになったり,作業の進行状況によって出張期間を延長することもあり得るが,被災者がリワーク業務に従事した際のアメリカ出張(平成13年6月10日から同月29日)については遅くとも出発日の5日前に,チリ出張(同年7月7日から同月20日)については遅くとも出発日の15日前には具体的な日程が決定されていたと認められるから(調査嘱託の結果),上記のとおり被災者がアメリカ又はチリ出張時に長時間労働をしたわけでもなく,下記のとおりその業務内容をみても特に負担となるようなものであったとはいえないことも併せ考慮すれば,それにより大きな身体的又は精神的負担が生じるものとまでいうことはできない。 (カ)業務内容について上記のとおり,被災者が海外出張をして行う業務のうち,技能認定などの海外現地法人の人材育成業務については,現地労働者に対する教育内容及び試験内容が予めマニュアル等によって定められており,被災者はそれに従って教育及び試験 海外出張をして行う業務のうち,技能認定などの海外現地法人の人材育成業務については,現地労働者に対する教育内容及び試験内容が予めマニュアル等によって定められており,被災者はそれに従って教育及び試験を実施するのであるから,定型的な業務であるといえ,特に負担の大きな業務であるとはいえない。また,技能認定のための試験を実施するといっても,この試験は,上記のとおり,一定水準以上の成績の者の技能を認定するというもので,選抜試験などとは性質が異なっているから,特に重大な責任を負った業務であるとか,精神的ストレスが大きな業務であるともいい難い。他方,被災者は,上記のとおり,人材育成業務のための出張計画の策定・実行についてはあ- 62 -る程度の裁量権が与えられていたから,その意味では精神的負担の比較的少ない業務であったともいい得る。 また,被災者が国内勤務の際に従事していた業務は,上記のとおり,主に,年間計画に基づき海外現地法人の人材育成計画を実行するための日程調整や教材の検討など海外出張に向けての準備と,終了した海外出張の結果報告のまとめ等であり,これも身体的又は精神的負担の大きい業務であるとはいい難い。 被災者が海外出張をして従事した業務のうち,リワーク業務及び品質向上活動支援の業務については,原告は,被災者の本来的な業務ではないにもかかわらず押しつけられた業務である等と主張している。確かに,上記認定の被災者の労働状況等,証拠(乙1,24,証人P2)及び弁論によれば,被災者の平成13年当時の主たる業務は,技能認定などの海外現地法人の人材育成業務であったと認められるが,被災者が主たる業務以外の業務に従事したからといって直ちにそれが過重な業務であるということにはならない。上記のとおり,被災者が属していたP4チームは,海外現地法人等におけるQC ったと認められるが,被災者が主たる業務以外の業務に従事したからといって直ちにそれが過重な業務であるということにはならない。上記のとおり,被災者が属していたP4チームは,海外現地法人等におけるQCDS(Q;quality品質,C;costコスト,D;delivery納期,S;safety安全)の向上を図るための支援を横断的に行う業務を担当していたところ,リワーク業務も品質向上活動支援業務も,その性質上,生産拠点における製品の品質や安全の向上を図ることに資する業務であるといえるから,P4チームの業務に密接に関連する業務であるということができるし,被災者のプリンターの組立工程に関する技術的な知識や経験を生かすことのできる業務でもあるともいえる上,上記のとおり被災者が海外出張時に長時間労働をしたわけでもないことも併せ考慮すれば,リワーク業務及び品質向上活動支援業務が被災者にとって負荷の大きな業務であるということはできない。 - 63 -(キ)労働環境等について上記認定のとおり,被災者が海外出張をした現地法人には,日本人マネージャーが常駐しており,言語の違い等から意思疎通に問題が生じるような場合には援助をしてもらえる体制がとられていたし,被災者が滞在するホテルから現地法人の工場までの通勤には送迎の車が準備されていたものであり,そのほか,海外出張時の被災者の労働環境や生活環境に特段の問題があったというような事情は認められない。 (ク)時差について一般に,5時間以上の時差のある地域間を飛行機で急速に移動すると,体内のリズムと生活時間の間に一時的にずれが生じ,不眠や眠気を中心とする症状(時差症候群又は時差ぼけ)が出現するとされており,認定基準においても,5時間以上の時差のある地域への出張については業務の過重性の判断にあたって考慮すべき要 にずれが生じ,不眠や眠気を中心とする症状(時差症候群又は時差ぼけ)が出現するとされており,認定基準においても,5時間以上の時差のある地域への出張については業務の過重性の判断にあたって考慮すべき要素として挙げられている(甲57,乙19)。 被災者の海外出張先のうち,中国,フィリピン,インドネシアは,日本との時差が1時間ないし2時間程度にすぎないから,これらの地域への出張については,時差による身体的な影響は大きくはないものといえる。 他方,被災者の海外出張先のうち,アメリカ及びチリは,日本との時差が5時間以上あり(シアトルとの時差は17時間,サンチアゴとの時差は13時間),これらの地域への出張については,時差による身体的な影響が問題となり得る。しかし,上記のとおり,アメリカ出張と次のチリ出張との間には1週間以上の期間が空いていること,アメリカ出張から帰宅した翌日である平成13年6月30日及び翌々日である同年7月1日は休日であり,通常の国内勤務をした同月2日を挟んで,同月3日には年次有給休暇を取得していること,チリ出張から帰宅した翌日で- 64 -ある同月21日及び翌々日である同月22日は休日であり,その後の1週間の通常の国内勤務を挟んで,同月28日から同年8月1日までの5日間は夏休みであることから,被災者は時差による身体的影響から回復することが可能であったと考えられるし,上記のとおり,被災者がアメリカ及びチリ出張時にも国内勤務時にも長時間労働をしたわけでもなく,その業務内容をみても特に負担となるようなものであったとはいえないことも併せ考慮すれば,5時間以上の時差のあるアメリカ及びチリヘの出張が特に負荷の大きなものであったとまでは認められない。 (ケ)その他の事情についてa証拠(乙2,40)及び弁論の全趣旨によれば,被災者の死亡 すれば,5時間以上の時差のあるアメリカ及びチリヘの出張が特に負荷の大きなものであったとまでは認められない。 (ケ)その他の事情についてa証拠(乙2,40)及び弁論の全趣旨によれば,被災者の死亡前6か月間における海外出張の状況について,同僚と比較すると,回数では,被災者は6回,P8は6回,P6は4回であり,1回当たりの出張日数は,被災者は13日間ないし19日間,P8は6日間ないし19日間,P6は22日間ないし43日間であり,海外出張日数の合計は,被災者は96日間,P8は84日間(国内異動日を除く。),P6は143日間(国内異動日を除く。)であると認められ,これによれば,被災者の海外出張回数や出張期間が,同僚と比べて特別に負担の大きなものであったとはいえない。 b証拠(原告本人)によれば,被災者は,原告に対し,海外出張についての不満などを述べたことはないことが認められる。 (コ)まとめ以上のとおり,被災者の長期間の業務をみると,多数回の海外出張をしているものの,長時間の時間外労働は認められず,その労働の密度も高くはなく,その勤務体系,業務内容,労働環境及び生活環境等にも照らせば,海外出張による疲労の回復が妨げられ,疲労が蓄積するような状態であったとは認められず,被災者の従事していた長期間の業務が,- 65 -被災者の基礎的病態を自然経過を超えて著しく増悪させ,くも膜下出血を発症させ得るほどの過重な業務であったとは認められない。 イ東京台場出張について上記のとおり,被災者は,インドネシア出張から帰宅した日の翌々日であり休日であった平成13年9月30日,P2課長から携帯電話で呼び出されて出張を命じられ,翌10月1日から東京台場に出張して夜はホテルに宿泊しながらリワーク業務に従事していたところ,同月4日午前1時ころ,宿泊してい 成13年9月30日,P2課長から携帯電話で呼び出されて出張を命じられ,翌10月1日から東京台場に出張して夜はホテルに宿泊しながらリワーク業務に従事していたところ,同月4日午前1時ころ,宿泊していたホテルの部屋において死亡したという経緯であることから,被災者が東京台場へ出張して業務に従事したことが,被災者の基礎的病態を自然経過を超えて著しく増悪させ,くも膜下出血を発症させ得るほどの過重な業務であったといえるか否かについて検討する。 上記のとおり,東京台場出張の際の被災者の労働時間は,平成13年10月2日及び同月3日は7時間にすぎず,初日である同月1日は労働時間10時間であるが,そのうち4時間ないし5時間程度は出張先への移動時間であったことから,その労働の密度は高くはない。また,セイコーエプソンの従業員らは,当番制により24時間態勢で業務に従事しているが,被災者は,午前9時から午後5時まで(1時間の昼休みを含み,適宜休憩を取ることも可能であった。)の日勤の業務に従事したから,その勤務形態が不規則であるとか拘束時間が長いなどといった事情も認められない。 さらに,被災者は,東京台場出張前,インドネシア出張から帰宅した同年9月28日の午後は半休をとり,翌29日は1日休日で,同月30日午後にP2課長から連絡を受けるまで実質2日間休息することができたのであるから,東京台場出張に行くまでの間にはインドネシア出張による疲労を相当程度回復することができたものと考えられるし,東京台場出張は国内出張であるから,海外出張に比べて負担は少ないものといえる。 被災者が従事した業務内容は,上記のとおり,主に,日本通運の作業員- 66 -による同梱等の作業の進行状況の管理や間違いなく部材が入れられるかのチェックや作業の品質管理であり,被災者の主たる業務(人材育成業務 した業務内容は,上記のとおり,主に,日本通運の作業員- 66 -による同梱等の作業の進行状況の管理や間違いなく部材が入れられるかのチェックや作業の品質管理であり,被災者の主たる業務(人材育成業務等)とはやや異質な業務ではあるものの,被災者が主たる業務以外の業務に従事したからといって直ちにそれが過重な業務であるということにはならない。海外現地法人で製造されたプリンターに係る同梱作業やリワーク作業は,生産拠点における製品の品質の向上を図ることにも資する業務であるといえ,P4チームの業務に関連する業務であるということができるし,プリンターの組立工程に関する技術的な知識や経験を有する被災者にとっては特に困難な業務であるともいえない。また,上記のとおり,被災者は,作業ラインの中に入って作業員と一緒に作業をすることはほとんどなかったのであるから,台場倉庫における業務が身体的な負担が大きな業務であったともいえない。 もっとも,上記のとおり,当時,同年10月5日のプリンター発売開始日が迫っており,同日までにはある程度の数量の製品についてリワーク作業を終えて出荷しなければならない状況であったことが容易に予想される上,事後的に,欠品を確認の上除外する等の同梱作業以外の作業が追加されており,台場倉庫での作業においてはやや混乱した状態も生じていた可能性が高く,そうであるからこそ,上記のとおり,順次セイコーエプソンの従業員が台場倉庫に派遣され,当番制により24時間態勢で業務に従事していたものと考えられる。そうすると,東京台場倉庫における業務には緊急性があり,セイコーエプソンの従業員らには,ある程度の精神的な緊張はあったものと考えられる。しかしながら,上記のとおり,台場倉庫における作業の現場責任者はP2課長であるから,その部下である被災者が,それほど重大 コーエプソンの従業員らには,ある程度の精神的な緊張はあったものと考えられる。しかしながら,上記のとおり,台場倉庫における作業の現場責任者はP2課長であるから,その部下である被災者が,それほど重大な責任を負っていたわけではなく,被災者の従事していた業務が著しい精神的緊張を伴うものとまではいうことは困難である。 また,上記のとおり,被災者らの東京台場出張は,同月2日に,2日間- 67 -延長されているが,リワーク作業の性質上,出張期間が延長されることはある程度予測することが可能であるし,国内出張にすぎないことも考慮すれば,出張期間が延長されたことが被災者にとって著しい負荷になったということも困難である。 他に,被災者が業務に従事した労働環境や,宿泊したホテルなどの生活環境等に関して,特段の問題があったとは認められない。 以上のとおり,被災者が東京台場に出張して従事した業務については,やや突発的な経緯があり,ある程度緊急性のある業務であったとはいえるものの,被災者に長時間の時間外労働は認められない上,その勤務体系,業務内容,労働環境及び生活環境等にも業務の過重性を基礎づける事情があるとはいえず,また,下記のとおり,被災者がくも膜下出血を発症した誘因となった可能性のある要因として,被災者の死亡直前の飲酒行為という事情が存することにも照らせば,台場倉庫において被災者が従事した業務が,被災者の基礎的病態を自然経過を超えて著しく増悪させ,くも膜下出血を発症させ得るほどの過重な業務であったとまでは認められない。 (3)くも膜下出血発症の原因について上記のとおり,解離性動脈瘤の破裂によるくも膜下出血が発症する原因等についての医学的知見は未だ乏しいこともあり,被災者がくも膜下出血を発症した原因は厳密には不明であるといわざるを得ない。 しかし,上記のと とおり,解離性動脈瘤の破裂によるくも膜下出血が発症する原因等についての医学的知見は未だ乏しいこともあり,被災者がくも膜下出血を発症した原因は厳密には不明であるといわざるを得ない。 しかし,上記のとおり,被災者は,産業医から強く指導を受けるほどの常習的な飲酒習慣,高脂血症,年齢的要素,遺伝的素因等のくも膜下出血のリスクファクターを複数有していた上,上記のとおり被災者の従事した業務には基礎的病態を自然経過を超えて著しく増悪させ得るほどの過重性は認められないことに照らすと,当時,被災者の基礎的病態が自然経過によりくも膜下出血を発症させる寸前にまで増悪していた可能性を否定することはできない。 - 68 -また,上記1(11)ウのとおり,被災者は,死亡直前である平成13年10月3日の夜及びその前日である同月2日の夜,相当量のアルコールを摂取しており(なお,上記認定のアルコール量に加えて,半分ほど飲んだというボトルのウィスキーの残りの半分も,その後飲んだ可能性が否定できない。),これらの死亡前の飲酒が被災者の脳動脈瘤の破裂の誘因となった可能性は十分に考えられる(乙66の1)。 (4)治療機会の喪失について労働者が,私病が発症したにもかかわらず,治療を受けたり安静を保つことが困難で,引き続き業務に従事せざるを得ず,それにより死亡に至ったような場合には,業務に内在する危険が現実化したものとして,業務起因性が認められる余地があり得る(最高裁平成8年1月23日判決・裁判集民事178号83頁参照)。 上記のとおり,被災者は,インドネシア出張中の平成13年9月26日又は同月27日,東京台場出張中の同年10月2日及び3日に,頭痛を訴えているところ,同年9月26日又は同月27日の頭痛については,その後同年10月2日まで頭痛の訴えがみられないことなどから,く 6日又は同月27日,東京台場出張中の同年10月2日及び3日に,頭痛を訴えているところ,同年9月26日又は同月27日の頭痛については,その後同年10月2日まで頭痛の訴えがみられないことなどから,くも膜下出血の前駆症状(警告サイン)であるとは認められないが,同月2日及び同月3日の頭痛については,被災者の解剖結果などに照らし,くも膜下出血の前駆症状(警告サイン)であると推認することができる(甲38,乙66の1・3)。 そうすると,同月2日及び同月3日にくも膜下出血の前駆症状(警告サイン)を発症させていた被災者が,直ちに治療を受けたり安静を保つことが困難で,引き続き業務に従事せざるを得ず,それにより死亡に至ったと認められるか否かが問題となる。しかし,上記のとおり,被災者は,頭痛を訴えながらも,両日とも,業務に従事した上,同僚とともに夕食を執り,飲酒をしており,午前9時から午後5時までの勤務時間以外の時間にも医師の治療を受けようとした様子もうかがわれないところ,このような被災者の行動にか- 69 -んがみると,当時の被災者の頭痛が,直ちに安静を保ったり診療治療を受ける必要を感じるほどのものではなかったのではないかと疑われ,そうであれば,業務がなかったならば被災者が安静治療を受けたであろうという関係は認められないことになり得る。また,仮に被災者が頭痛を訴えた時点で直ちに治療を受けたり安静を保った場合に,解離性動脈瘤の破裂によるくも膜下出血の発症を回避できたであろうことを認めるに足りる証拠もない。 したがって,被災者が治療の機会を喪失したとして,くも膜下出血の発症に業務起因性を認めることもできない。 (5)以上によれば,被災者が従事した業務が,被災者の基礎的病態を自然的経過を超えて著しく増悪させ,くも膜下出血を発症させたと認めることはできず, 出血の発症に業務起因性を認めることもできない。 (5)以上によれば,被災者が従事した業務が,被災者の基礎的病態を自然的経過を超えて著しく増悪させ,くも膜下出血を発症させたと認めることはできず,被災者の疾病と業務との間に相当因果関係(業務起因性)は認められない。 第6 結論 以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 長野地方裁判所民事部裁判長裁判官辻次郎裁判官宮永忠明裁判官三輪睦
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