平成20(行ウ)28 在留特別許可の義務付け等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成20年8月22日 東京地方裁判所 警察関係
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判決文本文13,665 文字)

主文 本件訴えのうち,在留特別許可の義務付けを求める部分を却下する。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1請求 東京入国管理局長は,原告に対して平成17年3月10日付けでした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を撤回せよ。 東京入国管理局長は,原告に対し,在留特別許可をせよ。 第2事案の概要 東京入国管理局(以下「東京入管」という。)入国審査官から出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条1号(不法入国)に該当する旨の認定を受け,次いで,東京入管特別審理官から上記認定に誤りはない旨の判定を受け,さらに,法務大臣から権限の委任を受けた東京入国管理局長(以下「東京入管局長」という。)から入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を受けたバングラデシュ人民共和国(以下「バングラデシュ」という。)の国籍を有する男性である原告が,東京入管主任審査官から退去強制令書発付処分を受けたため,上記裁決及び上記退去強制令書発付処分の各取消しを求める訴えを提起したところ,原告の請求をいずれも棄却する旨の判決が確定した。 本件は,原告が,上記裁決後に新たな事情が生じたことを理由に,上記裁決 の撤回及び在留特別許可の各義務付けを求める事案である。 前提事実本件の前提となる事実は,次のとおりである。証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実等はその旨付記しており,それ以外の事実は,当事者間に争いがない。 ( )原告の身分事項 原告は,昭和▲年▲月▲日,バングラデシュにおいて出生した,バングラデシュ国籍を有する外国人の男性である。(乙1,7)( )原告の入国及び在留状況 ア原告は,平成10年10月 の身分事項 原告は,昭和▲年▲月▲日,バングラデシュにおいて出生した,バングラデシュ国籍を有する外国人の男性である。(乙1,7)( )原告の入国及び在留状況 ア原告は,平成10年10月ころ,大韓民国から貨物船に乗って千葉県の船橋港に到着し,有効な旅券又は乗員手帳を所持せず,かつ,法定の除外事由がないのに,不法就労目的で本邦に不法に入国して,以後本邦で不法就労に従事していた。(乙1,7)イ(ア)原告は,東京都江東区長に対し,平成16年1月27日,日本人女性であるAとの婚姻の届出をした。(乙1,7)(イ)原告は,平成16年4月30日,千葉県白井市α××番地株式会社BC営業所内を居住地として,平成16年法律第73号による改正前の外国人登録法3条に基づく新規登録をした。(乙1,7)(ウ)原告は,平成16年7月5日,東京入管に出頭し,不法入国の事実を申告するとともに,Aとの婚姻を理由に在留特別許可を受けたいとの希望を申し出た。(乙1,7)(エ)原告は,平成16年9月30日,新居住地を東京都目黒区β××番 35号γ×××とする外国人登録法8条に基づく居住地変更登録をした。 (乙1,7)ウ原告は,平成16年12月19日,入管法違反の容疑で現行犯逮捕され,同17年1月7日,入管法違反(不法在留)の罪により起訴された。この起訴につき,東京地方裁判所は,原告に対し,同年2月9日,懲役2年6月,執行猶予3年の刑を言い渡した。(乙1,7)エ(ア)Aは,平成▲年▲月▲日,原告との間の長男であるDを出産し,同年3月初め,Dを乳児院に預けた。(乙1,7)(イ)原告とAは,千葉県白井市長に対し,平成17年9月5日,Dの親権者を原告と定めて協議離婚の届出をした。(乙1,7)( )原告の退去強制手続等 ア東京入管入国警備官は, 。(乙1,7)(イ)原告とAは,千葉県白井市長に対し,平成17年9月5日,Dの親権者を原告と定めて協議離婚の届出をした。(乙1,7)( )原告の退去強制手続等 ア東京入管入国警備官は,原告が入管法24条1号(不法入国)に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして,平成17年2月8日,東京入管主任審査官から収容令書の発付を受け,同月9日,同令書を執行して,原告を東京入管収容場に収容し,違反調査を実施した上,同月10日,原告を同号該当容疑者として,東京入管入国審査官に引き渡した。(乙1,7)イ東京入管入国審査官は,平成17年2月14日及び同月23日,原告について違反審査をし,同日,原告が入管法24条1号に該当する旨の認定をし,原告にこれを通知した。原告は,同日,東京入管特別審理官による口頭審理の請求をした。(乙1,7)ウ東京入管特別審理官は,平成17年3月9日,Aから事情を聴取すると ともに,A立会いの下,原告について口頭審理を行い,同日,東京入管入国審査官の前記イの認定に誤りはない旨の判定をし,原告にその旨通知した。原告は,この判定について,同日,法務大臣に異議の申出をした。 (乙1,7)エ法務大臣から権限の委任を受けた東京入管局長は,平成17年3月10日,原告の前記ウの異議の申出について理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。本件裁決の通知を受けた東京入管主任審査官は,原告に対し,同日,本件裁決を通知するとともに,原告に対する退去強制令書(以下「本件令書」という。)を発付した(以下,本件令書の発付処分を「本件退令処分」という。)。(乙1,7)オ東京入管入国警備官は,平成17年3月10日,本件令書を執行した。 (乙1,7)カ東京入管主任審査官は,平成17年8月9日,原告を仮放免した。(乙 を「本件退令処分」という。)。(乙1,7)オ東京入管入国警備官は,平成17年3月10日,本件令書を執行した。 (乙1,7)カ東京入管主任審査官は,平成17年8月9日,原告を仮放免した。(乙1,7)( )本件裁決及び本件退令処分の取消しを求める訴え等 原告は,本件裁決及び本件退令処分の各取消しを求める訴え(以下「前訴」という。)を提起したところ,東京地方裁判所は,平成18年10月6日,原告の請求をいずれも認容したが,東京高等裁判所は,同19年7月18日,同判決を取り消し,原告の請求をいずれも棄却した。原告は,同判決を不服として,上告及び上告受理申立てをしたが,東京高等裁判所は,同年10月5日,同上告及び同上告受理申立てをいずれも却下する旨の決定をし,同判決は確定した。原告は,同決定を不服として,抗告許可の申立て及び特 別抗告をしたが,同裁判所は,同年11月7日,抗告を許可しない旨の決定をし,また,最高裁判所は,同年12月21日,特別抗告を棄却する旨の決定をした。(乙1,4から7まで)( )本件裁決後の事情 ア原告は,平成18年11月13日,東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(以下「東京都迷惑防止条例」という。)の規定に違反して,公共の場所において,異性による接待をして酒類を伴う飲食をさせる行為の提供について客引きをしたことによって,同条例違反の罪で罰金刑に処せられた。(乙1,2の1,2の2,3の3,3の4)イ(ア)原告は,東京都江戸川区長に対し,平成19年7月31日,日本人女性であるEとの婚姻の届出をし,同年10月9日,受理された。(甲6)(イ)Eは,東京都江戸川区長に対し,平成20年1月21日,Dを養子とする旨の縁組の届出をした。(甲6)(ウ)Dは,児童養護施設に るEとの婚姻の届出をし,同年10月9日,受理された。(甲6)(イ)Eは,東京都江戸川区長に対し,平成20年1月21日,Dを養子とする旨の縁組の届出をした。(甲6)(ウ)Dは,児童養護施設において養育されていたが,東京都墨田児童相談所長は,原告に対し,平成20年4月9日付けで,Dについて児童福祉法27条1項3号所定の措置を解除する旨通知した。(甲1)(エ)Eは,平成20年5月12日付けで,妊娠2箇月であると診断された。(甲7)( )本件訴えの提起 原告は,平成20年1月21日,本件裁決の撤回及び在留特別許可の義務 付けを求める本件訴えを提起した。(当裁判所に顕著な事実) 争点 ( )本件裁決を撤回しないことの適法性 ( )在留特別許可の義務付けを求める訴えの適法性 ( )在留特別許可をしないことの適法性 当事者の主張( )争点( )(本件裁決を撤回しないことの適法性)について (原告の主張)ア原告は,前訴の口頭弁論終結後にEと婚姻し,また,Dとの親子関係はますます親密なものとなっている。本件訴えにおける審理の対象は,このような原告に新たに生じた事情であり,前訴とは請求内容も審理対象となる事実も全く異なるものである。 イDは,これまで児童福祉施設において養育されてきたが,東京都墨田児童相談所は,平成20年4月11日,Dについて児童福祉法27条1項3号所定の措置を解除することとし,同月9日付けで,原告にその旨通知した。原告は,この通知を受け,同月10日からDを引き取り,原告の住所地においてEと共にDを養育している。したがって,原告とDの親子関係の判断の基礎となる事情について,前訴の口頭弁論終結後に重大な事実の変動があった。 ウ(ア)原告は,Eとの約2年の交際期間を経て,平成19年7月 共にDを養育している。したがって,原告とDの親子関係の判断の基礎となる事情について,前訴の口頭弁論終結後に重大な事実の変動があった。 ウ(ア)原告は,Eとの約2年の交際期間を経て,平成19年7月31日,Eとの婚姻の届出をし,同年10月10日,受理された。また,Eは,原告の在留特別許可の身元保証人となり,再審情願においては,東京入 管に対して,原告の在留特別許可を求める上申書を提出している。このように,原告とEの婚姻は,真しな愛情に基づくものである。 (イ)原告は,Eと平成17年12月ころから共に生活し,同居期間は2年に及ぶ。また,Eは,原告と共にDに面会に行き,原告及びDの3人で外食したり,自宅で共に過ごすなどして,Dの養育に積極的に関与してきた。 (ウ)Eは,本邦以外の外国での生活経験がなく,また,バングラデシュの公用語であるベンガル語も理解できないことから,バングラデシュで生活することは困難であり,原告がバングラデシュに送還されることになると,本邦に残らざるを得ない。原告に対する在留特別許可がされなければ,原告とEとの夫婦関係は,その基盤を失い,離婚せざるを得なくなる可能性があり,原告の夫婦関係に重大かつ回復不能な損害が生じることとなる。 (エ)Eは,原告との間の子を妊娠し,平成20年5月12日の時点で妊娠2箇月と診断されている。原告とEとの婚姻関係は,真しな愛情に基づくものであり,かつ,実質的にみても社会生活上の基礎を備えたものである。 エ他の在留特別許可がされた事例等と比較しても,原告が退去強制されるのは,憲法の定める平等原則に反する。 (被告の主張)ア行政処分の撤回は,その性質上,処分行政庁の判断にゆだねられるものであるから,明文の根拠がない限り,その判断は,処分行政庁の裁量にゆ だねられるものである。 等原則に反する。 (被告の主張)ア行政処分の撤回は,その性質上,処分行政庁の判断にゆだねられるものであるから,明文の根拠がない限り,その判断は,処分行政庁の裁量にゆ だねられるものである。 これを入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決の撤回についてみると,入管法には,同裁決の撤回について定めた明文の規定はなく,その判断の性質上,処分後の事情を考慮するか否か,考慮するとしていかなる事情をどの程度考慮するかについては,処分権者である法務大臣の政治的専門的な判断が必要となることから,入管法は,同裁決の撤回に係る判断について,法務大臣の広範な裁量にゆだねる趣旨であり,その判断について,当不当の問題が生じる余地があるとしても,およそ違法とされる余地はない。 イ仮に,一般論として,入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決の撤回における法務大臣の判断が違法となる余地があるとしても,本件裁決の撤回をしないという判断は適法であり,その判断に裁量権の逸脱又は濫用はない。 (ア)原告とE及びDとの関係は,既に前訴において争点となっており,前訴の口頭弁論終結後に生じた事情の基礎となる事情は,いずれも前訴の口頭弁論終結前に生じていたというべきであって,前訴の判決は,実質的には,原告が本件裁決の撤回の義務付けの訴えにおける主張の基礎とした事情を踏まえた上で,本件裁決が適法であると判断したものである。 したがって,原告の主張は,実質的には,前訴の審理の蒸し返しにすぎないから,現時点において本件裁決を撤回すべき理由は認められず,原告の主張には理由がない。 (イ)原告は,不法就労という違法な目的の下,本邦に不法入国し,実際に不法就労をし,外国人登録法違反をも犯し,本邦において,入管法違反(不法在留)の罪で,懲役2年6 原告の主張には理由がない。 (イ)原告は,不法就労という違法な目的の下,本邦に不法入国し,実際に不法就労をし,外国人登録法違反をも犯し,本邦において,入管法違反(不法在留)の罪で,懲役2年6月,執行猶予3年の有罪判決を受けたのみならず,その執行猶予期間中である前訴の第1審判決後,新たに,東京都迷惑防止条例違反の罪により,罰金刑に処せられたのであり,我が国の適正な入管行政,社会秩序等の実現をびん乱しているものである。 このような原告については,退去強制させる必要性,妥当性がより強く認められるべきであるから,よほどの事情がない限り,在留特別許可をすべきであるという判断にはならないところ,原告の主張する事情は,このような事情に当たらないから,本件裁決を撤回すべきであるとの原告の主張には理由がない。 ( )争点( )(在留特別許可の義務付けを求める訴えの適法性)について (被告の主張)ア在留特別許可の義務付けの訴えは,行政事件訴訟法3条6項1号所定の非申請型の義務付けの訴えであるというべきである。 イ入管法50条1項4号,同条3項の規定からすれば,本件裁決の効力が存続している状態においては,法務大臣はこれと矛盾する処分である在留特別許可を行う権限はなく,在留特別許可を行うことはできないと解され,本件で在留特別許可が行われ得るようにしようとするならば,本件裁決の効力を失わせ,改めて入管法49条3項の裁決が行われる機会を設けなければならない。 ウ本件裁決の撤回の義務付けの訴えには理由がないところ,そうであれば, 在留特別許可の義務付けの訴えは,法務大臣に法的権限のない処分を求めることに帰し,不適法である。 ( )争点( )(在留特別許可をしないことの適法性)について (原告の主張)ア原告とEとの婚姻は,真しな愛 付けの訴えは,法務大臣に法的権限のない処分を求めることに帰し,不適法である。 ( )争点( )(在留特別許可をしないことの適法性)について (原告の主張)ア原告とEとの婚姻は,真しな愛情に基づくものであり,かつ,社会生活上の実質を備えたものであるから,在留特別許可の判断に際して,十分な保護を与える必要がある。Eとの婚姻は,1年10箇月の同居期間を経てされたものである。また,Eは,Dの養育にも積極的に関与しており,Eの両親も,原告とEとの婚姻に賛成しており,Dの養育についても協力する意思を有している。 イ本件令書が発付された当時,Dは,いまだ生後1箇月の乳児であったが,その後,精神的に発達し,その健全な育成にとって,父親の重要性は,その当時とは比べものにならないほど増大している。また,Dは,心身共に日々成長し,原告との親子関係を築き続けている。 (被告の主張)争う。 第3当裁判所の判断 争点( )(本件裁決を撤回しないことの適法性)について ( )ア処分後の事情変更を理由として,入管法49条1項に基づく異議の申出 には理由がない旨の裁決の撤回をすべきことを定める規定又は撤回を求めることができる旨の規定はないところ,一般に,行政処分について処分後の事情変更を理由として処分の撤回が認められるのは,行政上の法律関係 は常に公益に適合したものであることを要するという行政上の法律関係の性質から導き出されるものであり,専ら公益上の必要性がある場合に,処分をした行政庁が職権によりすることが認められるにすぎないのであって,撤回をすべきことを定める規定又は撤回を求めることができる旨の規定がない以上,関係者にそのような撤回を求める申請権が認められているということはできないというべきである。 したがって,本件裁決の撤回の義務付 すべきことを定める規定又は撤回を求めることができる旨の規定がない以上,関係者にそのような撤回を求める申請権が認められているということはできないというべきである。 したがって,本件裁決の撤回の義務付けを求める訴えは,いわゆる非申請型の義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項1号,37条の2参照)であると解するのが相当である。 イ本件裁決の撤回について検討する前提として,まず,本件裁決をした東京入管局長の裁量権について検討する。 (ア)憲法22条1項は,日本国内における居住及び移転の自由を保障するにとどまっており,憲法は,外国人の日本へ入国する権利や在留する権利等について何ら規定しておらず,日本への入国又は在留を許容すべきことを義務付けている条項は存在しない。このことは,国際慣習法上,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別な条約がない限り,外国人を受け入れるかどうか,受け入れる場合にいかなる条件を付するかについては,当該国家が自由に決定することができるとされていることと考えを同じくするものと解される。したがって,憲法上,外国人は,日本に入国する自由が保障されていないことはもとより,在留する権利ないし引き続き在留することを要求する権利を保障されているということはできない。このように外国人の入国及び在留の許否は国家 が自由に決定することができるのであるから,我が国に在留する外国人は,入管法に基づく外国人在留制度の枠内においてのみ憲法に規定される基本的人権の保障が与えられているものと解するのが相当である(最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁,最高裁昭和29年(あ)第3594号同32年6月19日大法廷判決・刑集11巻6号1663頁参照)。 (イ)入管法2条の2,7条等は, 120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁,最高裁昭和29年(あ)第3594号同32年6月19日大法廷判決・刑集11巻6号1663頁参照)。 (イ)入管法2条の2,7条等は,憲法の上記の趣旨を前提として,外国人に対し原則として一定の期間を限り特定の資格により我が国への上陸及び在留を許すものとしている。したがって,上陸を許された外国人は,その在留期間が経過した場合は当然我が国から退去しなければならないことになる。そして,入管法21条は,当該外国人が在留期間の更新を申請することができることとしているが,この申請に対しては法務大臣が「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り,これを許可することができる。」ものと定められている。これらによると,入管法においても,在留期間の更新が当該外国人の権利として保障されていないことは明らかであり,法務大臣は,更新事由の有無の判断につき広範な裁量権を有するというべきである(前掲昭和53年10月4日大法廷判決参照)。 (ウ)また,入管法50条1項4号は,入管法49条1項所定の異議の申出を受理したときにおける同条3項所定の裁決に当たって,異議の申出が理由がないと認める場合でも,法務大臣は在留を特別に許可することができるとし,入管法50条3項は,上記の許可をもって異議の申出が 理由がある旨の裁決とみなす旨定めている。 しかし,①前記のように外国人には我が国における在留を要求する権利が当然にあるわけではないこと,②入管法50条1項柱書き及び同項4号は,「特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」に在留を特別に許可することができると規定するだけであって,この在留特別許可の判断の要件,基準等については何ら定められていないこと,③入管法には,そのほか,上記在留特別 べき事情があると認めるとき」に在留を特別に許可することができると規定するだけであって,この在留特別許可の判断の要件,基準等については何ら定められていないこと,③入管法には,そのほか,上記在留特別許可の許否の判断に当たって考慮しなければならない事項の定めなど上記判断をき束するような規定は何ら存在しないこと,④在留特別許可の判断の対象となる者は,在留期間更新の場合のように適法に在留している外国人とは異なり,既に入管法24条各号の規定する退去強制事由に該当し,本来的には退去強制の対象となる外国人であること,並びに,⑤外国人の出入国管理は,国内の治安と善良な風俗の維持,保健,衛生の確保,外交関係の安定,労働市場の安定等,種々の国益の保持を目的として行われるものであって,このような国益の保持の判断については,広く情報を収集し,時宜に応じた専門的又は政策的考慮を行うことが必要であり,時には高度な政治的判断を要することもあり,特に,既に退去強制されるべき地位にある者に対してされる在留特別許可の許否の判断に当たっては,このような考慮が必要であることを総合勘案すると,上記在留特別許可をするか否かの判断は,法務大臣の極めて広範な裁量にゆだねられていると解すべきである。そして,その裁量権の範囲は,在留期間更新許可の場合よりも更に広範であると解するのが相当である。したがって,これらの点からすれ ば,在留特別許可をするか否かについての法務大臣の判断が違法とされるのは,その判断が全く事実の基礎を欠き,又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣が裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用した場合に限られるというべきである。 そして,入管法69条の2は,入管法に規定する法務大臣の権限は,法務省令で定めるところにより,地方入国管理局長に委任すること 大臣が裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用した場合に限られるというべきである。 そして,入管法69条の2は,入管法に規定する法務大臣の権限は,法務省令で定めるところにより,地方入国管理局長に委任することができる旨規定しており,権限の委任につき何らの制約を設けていないから,以上のことは,法務大臣から権限の委任を受けた地方入国管理局長についても同様に当てはまるところというべきである。 ウこのように,在留特別許可をするか否か,すなわち,入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決をするか否かの判断は,法務大臣又は法務大臣から権限の委任を受けた地方入国管理局長(以下「法務大臣等」という。)の極めて広範な裁量にゆだねられているところ,前示した同裁決の撤回の法的性質を考慮すると,同裁決を撤回をするか否かの判断も,法務大臣等の極めて広範な裁量にゆだねられていると解するのが相当である。 エところで,行政事件訴訟法37条の2第5項は,非申請型の義務付けの訴えの本案要件について規定しており,義務付けの訴えにより求められている処分について,行政庁に裁量が認められている場合には,「行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められる」ことを要する旨規定している。 そして,前示のとおり,入管法49条1項に基づく異議の申出には理由 がない旨の裁決を撤回するか否かの判断は,法務大臣等の極めて広範な裁量にゆだねられていると解すべきであるから,同裁決の撤回の義務付けの訴えが認められるためには,法務大臣等が同裁決の撤回をしないことが,その裁量権の範囲の逸脱又は濫用となると認められることを要することとなる。そして,前示した同裁決の撤回の法的性質を考慮すると,同裁決の撤回の義務付けの訴えが認められるためには,法務大臣等がした が,その裁量権の範囲の逸脱又は濫用となると認められることを要することとなる。そして,前示した同裁決の撤回の法的性質を考慮すると,同裁決の撤回の義務付けの訴えが認められるためには,法務大臣等がした同裁決を撤回するほどの公益上の必要性がないという判断が,その裁量権の範囲の逸脱又は濫用となると認められることを要するものというべきである。 そこで,東京入管局長が本件裁決を撤回しないことが,その裁量権の範囲の逸脱又は濫用となると認められるか否かについて検討する。 ( )アこの点につき,原告は,本件裁決後である平成19年7月31日にEと の婚姻の届出をしたこと及びEが原告との間の子を妊娠したことを理由に,本件裁決を撤回しないことが東京入管局長の裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものである旨主張している。 しかし,不法入国をした外国人が日本人と交際をして婚姻したという事実は,入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を撤回するか否かの判断に当たって,種々の考慮要素の1つにすぎないというべきである。 また,在留資格を有して在留している者ではない外国人の在留の継続は,違法状態の継続にほかならないのであるから,それが平穏に継続されたからといって,直ちに法的保護を受ける筋合いのものではないというべきところ(最高裁昭和53年(行ツ)第37号同54年10月23日第三小法廷 判決・裁判集民事128号17頁参照),原告がEと知り合ったのは,原告が本邦に不法入国した後のことであり,婚姻の届出をしたのは,東京高等裁判所が本件裁決の取消しを求める訴えに係る請求を棄却する旨の判決をした後であるから,このような違法状態の上に築かれた両名の関係は,当然に法的保護に値するものではないというべきである。 また,Eの妊娠は,本件訴え提起後に生じたものであるから 請求を棄却する旨の判決をした後であるから,このような違法状態の上に築かれた両名の関係は,当然に法的保護に値するものではないというべきである。 また,Eの妊娠は,本件訴え提起後に生じたものであるから(甲7),当該事実もまた,原告の不法在留の継続という違法状態の上に築かれたものであって,このような違法状態の上に築かれた関係は,当然に法的保護に値するものではなく,入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を撤回するか否かを判断する際の一事情にすぎないというべきである。 したがって,婚姻の届出後現在までわずか1年程度しか経過しておらず,Eは本件訴え提起後に妊娠したものであり,いまだ出産していないことなどの事情を総合的に考慮すると,本件裁決後に原告がEとの婚姻の届出をし,Eが妊娠したことをもって,本件裁決を撤回しなかった東京入管局長の判断が裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであるということはできない。 イ次に,原告は,本件裁決後更にDとの親子関係が親密になり,また,児童福祉法27条1項3号所定の措置が解除され,Dを自宅で養育していることを理由に,本件裁決を撤回しないことが東京入管局長の裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものである旨主張している。 しかし,前記前提事実のとおり,Dは,原告が本邦に不法残留していた 平成▲年▲月▲日に出生したものであるところ,日本国籍を有する児童を監護養育する活動を目的とした在留資格はなく,その監護養育の権利を有し,義務を負う場合にあっても,そのことのみをもって,本邦に在留することを保障されるものではなく,日本国籍を有する児童の親権者であることを殊更重視することはできない。また,前記前提事実のとおり,Dは,生後約3週間で乳児院に預けられ,本件裁決当時も乳児院に預けられていたところ,その後児 はなく,日本国籍を有する児童の親権者であることを殊更重視することはできない。また,前記前提事実のとおり,Dは,生後約3週間で乳児院に預けられ,本件裁決当時も乳児院に預けられていたところ,その後児童養護施設に預けられ,児童福祉法27条1項3号所定の措置が解除されるまで児童養護施設において養育され,順調に生育してきたことがうかがわれるのであり,それに加えて,前記前提事実のとおり,Eは,Dを養子とする旨の縁組の届出をしており,かつ,証拠(甲3の1から3の7まで,8,9)によれば,Eは,就労して経済的に自立しており,Dは,現在,Eと同居して,順調に生育していることがうかがわれることからすると,原告がDを日本に残留させることとした場合であっても,Dの福祉に欠けるということはできないから,本件裁決を撤回しなかった東京入管局長の判断が裁量権の逸脱又は濫用であるということはできない。 ウさらに,原告は,本件裁決を撤回しないことが他の事案との比較において憲法の規定する平等原則に反する旨主張しているものと解される。 しかし,原告が挙げる事例は,いずれも在留特別許可がされた事例,あるいは在留特別許可がされなかった事例であって,入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を撤回した事例ではないから,これらの事例を前提に本件裁決を撤回しないことが平等原則に違反する旨の 原告の主張は,失当といわざるを得ない。 仮にこの点を措くとしても,前示のとおり,在留特別許可をするかどうかは,諸般の事情を総合的に考慮した上で,個別的に決定されるべきものであるから,仮に,原告に類似する外国人に対し在留特別許可がされた事例があるとしても,そのことのみをもって,本件裁決を撤回しないことが平等原則に違反するということはできない。 エ加えて,前記前提事実のとおり, 仮に,原告に類似する外国人に対し在留特別許可がされた事例があるとしても,そのことのみをもって,本件裁決を撤回しないことが平等原則に違反するということはできない。 エ加えて,前記前提事実のとおり,原告は,本件裁決後である平成18年11月13日,東京都迷惑防止条例違反の罪で罰金刑に処せられたというのであるから,本件裁決後の在留状況も不良というほかない。 オ以上のことからすると,東京入管局長が本件裁決を撤回しないことは,その裁量権の範囲の逸脱又は濫用であるということはできず,適法であるというべきである。 争点( )(在留特別許可の義務付けを求める訴えの適法性)について ( )入管法は,外国人に対する退去強制手続において,当該外国人から入管法 49条1項の異議の申出がある場合,又は,在留資格未取得外国人に対する難民認定手続において,当該在留資格未取得外国人について難民の認定をしない処分をする場合若しくは入管法61条の2の2第1項の定住者の在留資格の取得の許可をしない場合に,法務大臣が,在留を特別に許可すべき事情があると認めるときは,在留特別許可をすることができる旨を定めている(入管法50条1項,61条の2の2第2項)。しかし,これらの手続によらず,法務大臣等が,入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を受けている外国人に対し,同裁決後に生じた新たな事情を考慮し て,在留特別許可をすることを認めた法令の規定は存在せず,また,他にこのような権限を認めるべき根拠も存在しない。 そうすると,入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を受けた外国人が,同裁決後に生じた新たな事情を主張して,在留特別許可を求めるためには,難民認定手続による場合でない限り,その前提として,同裁決の効力が失われている必要があると は理由がない旨の裁決を受けた外国人が,同裁決後に生じた新たな事情を主張して,在留特別許可を求めるためには,難民認定手続による場合でない限り,その前提として,同裁決の効力が失われている必要があるというべきであり,同裁決の効力が存続しているにもかかわらず,在留特別許可を求めることは,行政庁に法的権限のない処分を求めることにほかならないから,そのような在留特別許可の義務付けの訴えは,不適法であるというべきである(行政事件訴訟法3条6項参照)。 ( )これを本件についてみると,前示のとおり,東京入管局長が本件裁決を撤 回しないことは適法であるというべきであり,本件裁決の効力が失われているということはできないから,在留特別許可の義務付けの訴えは,不適法であるといわざるを得ない。 第4 結論 よって,その余の点について判断するまでもなく,本件訴えのうち,在留特別許可の義務付けを求める部分は,不適法であるからこれを却下し,原告のその余の請求は,理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 杉原則彦裁判長裁判官松下貴彦裁判官島田尚人裁判官

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