平成20(ワ)6 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年8月30日 東京高等裁判所 その他
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判決文本文15,593 文字)

- 1 - 主文 1 被告らは,原告に対し,連帯して7986万6711円及びうち1324万5916円に対する平成16年5月28日から,うち517万5184円に対する同年12月28日から,うち1334万5880円に対する平成17年3月30日から,うち1497万1150円に対する同年5月28日から,うち1461万4918円に対する同年9月30日から,うち1851万3663円に対する同年12月28日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余は被告らの連帯負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求の趣旨被告らは,原告に対し,連帯して9259万5711円及びうち1535万7029円に対する平成16年5月28日から,うち599万9997円に対する同年12月28日から,うち1547万2925円に対する平成17年3月30日から,うち1735万7227円に対する同年5月28日から,うち1694万4220円に対する同年9月30日から,うち2146万4314円に対する同年12月28日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,解散前の日本道路公団(以下「公団という。)の権利義務を承継した原告が,被告らは公団が実施した中部横断自動車道α橋(鋼上部工)工事(以下「本件工事」という。)の競争入札につき談合を行い公団に損害を与えたなどと主張して,被告らに対し,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成17年法律第35号による改正前のもの。以下「独占禁止法」という。)25条1項に基づく損 - 2 団に損害を与えたなどと主張して,被告らに対し,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成17年法律第35号による改正前のもの。以下「独占禁止法」という。)25条1項に基づく損 - 2 -害賠償として9259万5711円及びうち1535万7029円(公団が契約金額として支払った分割金に対応する損害額である。以下の金額についても同じ。)に対する平成16年5月28日(不法行為後であり損害発生後の日である。以下の日付についても同じ。)から,うち599万9997円に対する同年12月28日から,うち1547万2925円に対する平成17年3月30日から,うち1735万7227円に対する同年5月28日から,うち1694万4220円に対する同年9月30日から,うち2146万4314円に対する同年12月28日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 1 争いのない事実(1) 原告は,高速道路の新設,改築,維持,修繕その他の管理を効率的に行うこと等により,道路交通の円滑化を図り,もって国民経済の健全な発展と国民生活の向上に寄与することを目的(高速道路株式会社法1条)とする株式会社である。 被告らは,いずれも建設業法3条1項所定の建設業の許可を受けた建設業者(鋼橋上部工工事請負業者)である。 (2) 公団は,平成16年1月26日,本件工事について競争入札(以下「本件入札」という。)を実施した。被告ら及び株式会社A(以下「A」という。)は本件入札に参加し,Aが本件工事の落札者となった。 公団とAは,平成16年1月28日,本件工事につき契約金額を7億0350万円とする工事請負契約(以下「本件契約」という。)を締結し,その後,契約金額を7億7258万8182円に変更する旨の合意をした(以下,変更後 成16年1月28日,本件工事につき契約金額を7億0350万円とする工事請負契約(以下「本件契約」という。)を締結し,その後,契約金額を7億7258万8182円に変更する旨の合意をした(以下,変更後の契約金額を「本件最終契約金額」という。)。 (3) 公団又は原告は,Aに対し,平成16年5月27日,本件最終契約金額のうち1億2813万4000円を,同年12月27日,うち5006万2000円を,平成17年3月29日,うち1億2910万1000円を,同年5月27日,うち1億4482万3000円を,同年9月29日,うち1億4137万7000円を,同年12月27日,残額1億7909万1182円を支払った。 - 3 -(4) 公正取引委員会は,平成17年9月29日,被告らを含む鋼橋上部工工事請負業者50社(以下「被告ら50社」という。)が,遅くとも平成14年4月1日から平成17年3月31日までの間(一部の鋼橋上部工工事請負業者を除く。),公団が競争入札の方法により発注する鋼橋上部工工事(以下「公団発注の鋼橋上部工工事」という。)につき,共同して,受注すべき者(以下「受注予定者」という。)を決定し受注予定者が受注できるようにすることにより上記工事の取引分野における競争を実質的に制限していたこと(以下,これを「本件入札談合行為」という。)は,独占禁止法2条6項所定の「不当な取引制限」に該当し,同法3条に違反するとして,被告らに対し,同法48条1項所定の排除勧告(以下「本件勧告」という。)をした。 公正取引委員会は,被告らが本件勧告を応諾したことから,平成17年11月18日,被告らにつき,審判手続を経ないで本件勧告と同趣旨の審決(勧告審決。以下「本件審決」という。)をし,本件審決は,その取消しの訴えが提起されることなく確定した。なお,本件審決 平成17年11月18日,被告らにつき,審判手続を経ないで本件勧告と同趣旨の審決(勧告審決。以下「本件審決」という。)をし,本件審決は,その取消しの訴えが提起されることなく確定した。なお,本件審決には,公正取引委員会が認定した事実として,被告ら50社は,公団発注の鋼橋上部工工事につき,受注価格の低落防止及び安定した利益の確保を図るため,① B株式会社の担当者らから落札予定者である旨の連絡を受けた者を受注予定者とする,② 受注価格は受注予定者が定め,受注予定者以外の者は受注予定者が当該価格で受注できるよう協力する旨の合意の下,受注予定者を決定して,受注予定者が受注できるようにし,これにより上記工事の大部分を受注していた旨の記載がある。 (5) 公団は,平成17年10月1日,解散し,原告は,日本道路公団等民営化関係法施行法13条1項所定の基本方針及び同法14条1項所定の実施計画に基づき公団の権利義務を承継し,被告らに対する損害賠償請求権を取得した。 また,Aは,平成19年5月25日,民事再生手続開始決定を受け,平成20年4月,破産手続開始決定を受けた。 2 当事者の主張 - 4 -(1) 原告ア公団は,被告ら及びAが,本件工事につき,共同して,受注予定者をAと決定して,同社が受注できるようにし,本件工事の取引における競争を実質的に制限していたこと(以下,これを「本件違反行為」という。)により,本来,公正かつ自由な競争の下で形成されたであろう落札価格(以下「想定落札価格」という。)を超える価格で本件契約を締結することを余儀なくされ,その差額に相当する損害を被った。したがって,落札者であるA及び入札参加者である被告らは,独占禁止法25条1項に基づき,連帯して損害賠償責任を負う。 イ(ア) 本件違反行為により公団が被った損害は, の差額に相当する損害を被った。したがって,落札者であるA及び入札参加者である被告らは,独占禁止法25条1項に基づき,連帯して損害賠償責任を負う。 イ(ア) 本件違反行為により公団が被った損害は,談合行為の結果として形成された現実の落札価格から当該談合行為がなければ形成されたであろう想定落札価格を控除した差額である(なお,想定落札価格を直接推計するのは困難であるから,正常な入札環境の下で現実に形成された同種工事の入札事例における落札価格をもって,これを推認する。)。 本件審決において違反行為があったと認定された期間の終期の翌日である平成17年4月1日から平成20年3月31日まで(平成17年度から平成19年度まで。被告ら50社が公団から指名停止を受けていた平成17年6月1日から平成19年1月31日までの期間を除く。)における同種入札事例は,別紙「想定落札率算定工事契約一覧表」記載の31事例(以下「本件同種入札事例」という。)であり,その落札率(予定価格(契約制限価格)に対する落札価格の割合)の平均値(以下「想定落札率」という。)は87.61%,他方,本件入札における現実の落札率は99.54%であるから,本件違反行為による公団の損害は,本件最終契約金額7億7258万8182円を現実の落札率99.54%で割り戻して算出された額に想定落札率87.61%を乗じて算出された額を,本件最終契約金額から控除した9259万5711円である。 なお,本件同種入札事例は,工事の目的物の規模,設置形態,設置場所,鋼製主桁の製作場所等の点において異同があるが,いずれも鋼橋上部工工事という同種の - 5 -工事である上,その実施時期は公正かつ自由な競争が行われた期間内で,しかも,平成14年度から平成19年度までにおける経済条件,市場構造その他の経済的要因 も鋼橋上部工工事という同種の - 5 -工事である上,その実施時期は公正かつ自由な競争が行われた期間内で,しかも,平成14年度から平成19年度までにおける経済条件,市場構造その他の経済的要因に著しい変動がないことからすると,本件工事に係る想定落札率を本件同種入札事例に基づき87.61%と推認することには合理性がある。 (イ) 被告らは,① 本件入札談合行為は公団主導のいわゆる官製談合であり,原告に損害は発生していないし,原告はそもそも独占禁止法25条1項所定の「被害者」に該当しない,② 仮に損害が発生していたとしても,原告が被告らに対して損害賠償請求をすることは権利の濫用等に該当し許されないし,少なくとも大幅な過失相殺をすべきである旨の主張をする。 しかし,本件入札談合行為の主体は飽くまで被告ら50社である。公団が組織的に本件入札談合行為を主導した事実はなく,これを官製談合などということはできない。公団の理事らが,株式会社C(以下「C」という。)に勤務する公団の元理事から公団発注の鋼橋上部工工事に係る受注予定者の割付一覧表(以下「割付表」という。)の提示を受けてこれを承認し,当該割付表を公団の職員に保管させていたことはあるが,上記理事らの関与は受動的なものである。 本件入札談合行為により不正な利益を享受していたのは被告らであり,これによって損害が発生している以上,被告らがその賠償責任を負うのは当然であるし,公団の資本金は原則として政府の出資によるもので,本件入札談合行為により公団が被った損害は,公団が整備した道路の利用者(以下「道路利用者」という。)や納税者である国民に転嫁されることになることを考えると,被告らの権利の濫用等に係る主張は失当であるし,過失相殺をすることにより被告らに不正な利益を保持させる結果になることを考えると 者」という。)や納税者である国民に転嫁されることになることを考えると,被告らの権利の濫用等に係る主張は失当であるし,過失相殺をすることにより被告らに不正な利益を保持させる結果になることを考えると,被告らの過失相殺に係る主張も失当である。 なお,被告らは,原告は,Aに対する平成17年12月27日を支払日とする分割金の支払を留保し相殺することによって容易に損害の填補を図ることができたのに,漫然と上記分割金を支払い,その結果,破産手続開始決定を受けたAから損害の填補を受けることができなくなった旨の主張もするが,同日時点で,本件契約に - 6 -定める分割金の支払を留保し相殺をすることは不可能であるし,Aの倒産を予見することも困難であって,原告において上記分割金を支払ったからといって,原告が被告らに対して損害賠償請求をすることが権利の濫用等に該当することになるわけではないし,このことを理由に過失相殺をすべきことになるわけでもない。 (2) 被告らア被告株式会社D(ア) 公団は,いわゆる天下りによる人事組織制度の維持,人件費の軽減という公団全体の利益を確保する目的で,代表権を有する副総裁,理事のほか,職員らが一体となって組織的に本件入札談合行為を主導していた。本件入札談合行為は官製談合というべきものであって,公団はそもそも独占禁止法25条1項にいう「被害者」に該当しない。また,公団は,割付表に記載された受注予定者が落札者となり,その入札価格が落札価格となって契約金額が決定されることを認識し承認していたのであるから,現実の落札価格が想定落札価格を超えたとしても,その差額を公団の損害として観念することはできず,本件違反行為による損害の発生はない。 原告は,Aに対する平成17年12月27日(これは本件勧告後の日である。)を支払日とする 価格を超えたとしても,その差額を公団の損害として観念することはできず,本件違反行為による損害の発生はない。 原告は,Aに対する平成17年12月27日(これは本件勧告後の日である。)を支払日とする分割金1億7909万1182円の支払を留保し,損害賠償請求権と相殺することにより,極めて容易に損害の填補を図ることができたのに,漫然と上記分割金を支払ったことから,破産手続開始決定を受けたAから損害の填補を受けることができなくなったのであるし,本訴提起に至るまで,Aから損害の填補を受ける努力も一切していない。 本件入札談合行為が公団主導による官製談合であることも考慮すると,原告が被告らに対して損害賠償請求をすることは,自らの損失を被告らに転嫁しようとするものにほかならない。公団は独占禁止法違反の被害者に該当するということはできず,公団の地位を承継した原告においても,訴訟要件たる原告適格を欠くというべきであるから,本件訴えは却下されるべきであるし,これは,権利の濫用に該当し,又は信義誠実の原則,クリーンハンドの原則若しくは禁反言の法理に反し許されな - 7 -いというべきである。また,上記の事情に鑑みると,少なくとも大幅な過失相殺をすべきである。 (イ) 落札価格は,種々の要因が複雑に影響しあって形成されるのであるから,個々の工事の特殊性等を考慮することなく,本件同種入札事例の落札率の平均値(想定落札率)に基づき想定落札価格を推認し損害額を算定するのは合理性,相当性を欠くというべきである。 また,本件同種入札事例には,新設工事とは性質の異なる既設の橋梁に関する更新工事や,技術提案協議方式(落札者との間で合理的な施工方法や資材調達方法等について技術的協議を実施し,その結果に基づく価格で契約を締結する方式をいう。)が採用された入札事例も含ま の橋梁に関する更新工事や,技術提案協議方式(落札者との間で合理的な施工方法や資材調達方法等について技術的協議を実施し,その結果に基づく価格で契約を締結する方式をいう。)が採用された入札事例も含まれている上,入札事例の抽出期間,抽出事例数を相当とする根拠は不明確であり,経済的要因等の変動の有無についても正確に考慮されていない。 仮に本件違反行為により原告に損害が発生したとしても,その損害額は,本件最終契約金額から仕様変更に伴い新たに発生した項目に係る契約金額を控除した額の5%相当額を上回るものではないというべきである。 イ被告E株式会社(ア) 上記ア(ア)のとおり,公団が組織的に本件入札談合行為を主導し,損害の填補を受けるための努力をしていないことなどからすると,本件においては大幅な過失相殺をすべきであるし,また,本件入札談合行為に関し刑事罰を受けた公団の理事らが負担すべき額は,損害額から控除すべきである。 (イ) 想定落札価格は,現実には存在しない価格であり,多種多様な要因が複雑に絡みあって形成されるのであるから,これを証拠に基づき具体的に認定することは著しく困難というべきであって,本件同種入札事例の落札率の平均値(想定落札率)に基づき想定落札価格を推認することはできない。 国土交通省は,落札率が85%以下になると,当該契約の内容に適合した履行がされないことになるおそれが生じ,公共工事の品質を確保することが困難となるこ - 8 -とから,低入札価格調査基準価格(予算決算及び会計令85条所定の「当該契約の内容に適合した履行がされないこととなるおそれがあると認められる場合の基準」であり,この価格を下回った場合には調査を行うこととされている価格をいう。なお,国土交通省は,平成20年3月31日及び平成21年4月3日,低入札価格調 いこととなるおそれがあると認められる場合の基準」であり,この価格を下回った場合には調査を行うこととされている価格をいう。なお,国土交通省は,平成20年3月31日及び平成21年4月3日,低入札価格調査基準価格の引上げを実施している。)を定めて低入札価格調査を実施し,同調査の対象となる工事のうち,地方整備局発注の予定価格2億円以上の工事で,入札者の積算内訳における費目別金額のいずれかが発注者の積算内訳額の一定割合を下回る場合(以下,この基準を「特別重点調査基準」という。)には,特別重点調査を実施している。また,原告も,国土交通省と同様の基準で低入札価格調査を実施しているほか,入札者の積算内訳における費目別金額が一定割合未満である場合(以下,この基準を「失格基準」という。)には,入札者の落札を許容せず,失格とする制度も導入している。 本件同種入札事例のうち,別紙「想定落札率算定工事契約一覧表」記載7(落札率62.75%),9(同64.88%),12(同81.12%),14(同77. 15%),20(同78.72%)及び22(同74.07%)の各工事については,特別重点調査基準を下回り,又は失格基準に該当することが明らかであり,同記載5の工事(同80.77%)についても,特別重点調査基準を下回る疑いがあるから,独占禁止法所定の不当廉売に該当するものとして,本件同種入札事例から上記各工事に係る入札事例を除外すべきである。 ウ被告F株式会社(ア) 公団は,職員の天下り先を確保するため,組織として本件入札談合行為の全過程に深く関与し,また,割付表に記載された受注予定者が落札者となり,その入札価格が落札価格となって契約金額が決定されることを認識し承認していたのであるから,現実の落札価格が想定落札価格を超えたとしても,それは自らが招いた結果であ 載された受注予定者が落札者となり,その入札価格が落札価格となって契約金額が決定されることを認識し承認していたのであるから,現実の落札価格が想定落札価格を超えたとしても,それは自らが招いた結果であって,公団において現実の落札価格と想定落札価格の差額を損害として主張することは許されない。 - 9 -また,原告は,Aに対する平成17年12月27日を支払日とする分割金1億7909万1182円の支払を留保し,損害賠償請求権と相殺することにより,極めて容易に損害の填補を図ることができたのに,漫然と上記分割金を支払い,その結果,破産手続開始決定を受けたAから損害の填補を受けることができなくなったのであるし,本訴提起に至るまで,Aから損害の填補を受ける努力を一切しなかったのであるから,原告が被告らに対して損害賠償請求をすることは,自らの損失を被告らに転嫁しようとするものにほかならず,権利の濫用に該当するというべきであるし,上記の事情に鑑みると,少なくとも大幅な過失相殺をすべきである。 (イ) 本件同種入札事例には,既設の橋梁に関する補修,補強,改良等の工事も含まれるが,これらは橋梁新設工事とは性質の異なる工事であるから,想定落札率を算出するに当たっては,これらを対象事例から除外すべきである。 また,本件契約については契約金額が変更されている。この場合,想定落札価格を推認するに当たっては,契約金額の変更が入札当初から見込まれていたなど特段の事情がない限り,当初金額によるべきである。 第3 当裁判所の判断1(1)ア前記争いのない事実によれば,① 公団は,被告らの本件違反行為により想定落札価格を超える価格で本件契約を締結することを余儀なくされ,その差額に相当する損害を被ったこと,② 原告は,公団の権利義務を承継し,その損害賠償請求権を取得 公団は,被告らの本件違反行為により想定落札価格を超える価格で本件契約を締結することを余儀なくされ,その差額に相当する損害を被ったこと,② 原告は,公団の権利義務を承継し,その損害賠償請求権を取得したことが認められるのであり,原告は,被告らに対し,独占禁止法25条1項に基づき損害賠償請求をすることができるというべきである。 イ(ア) 被告らは,① 公団は,組織的に本件入札談合行為を主導し,受注予定者の入札価格が落札価格となり,これに基づいて契約金額が定まることを認識し承認していたのであるから,損害は発生していないし,原告はそもそも独占禁止法25条1項所定の「被害者」に該当しない,② 仮に損害が発生していたとしても,上記のとおり,公団が組織的に本件入札談合行為を主導していたことなどに鑑みると,原告は訴訟要件たる原告適格を欠くというべきあるし,原告が被告らに対して - 10 -損害賠償請求をすることは権利の濫用等に該当し,少なくとも大幅な過失相殺をすべきである旨の主張をする。 (イ) この点,証拠(甲15から18まで,乙イ12,乙イ17から63まで,乙ハ1から12まで)及弁論の全趣旨によれば,① 公団は,従前,公団発注の鋼橋上部工工事につき,公団の担当理事が自ら工事ごとの受注予定者の割付けをし,公団を退職しCに再就職していたG(公団の元副総裁)を通じてこれを各鋼橋上部工工事請負業者に伝達する方法により受注調整を行っていたが,いわゆるゼネコン汚職事件の摘発等を契機に官製談合に対する社会的な非難の声が高まったことから,平成5年頃,上記の取扱いを中止したこと,② 各鋼橋上部工工事請負業者は,その後,工事の受注に係る混乱を回避するため,Gに対し,公団発注の鋼橋上部工工事の受注予定者の割付調整役を依頼し,Gは,各鋼橋上部工工事請負業者に勤務す 止したこと,② 各鋼橋上部工工事請負業者は,その後,工事の受注に係る混乱を回避するため,Gに対し,公団発注の鋼橋上部工工事の受注予定者の割付調整役を依頼し,Gは,各鋼橋上部工工事請負業者に勤務する公団の元職員が公団の工事発注業務の担当職員から入手した未公表情報等に基づき,公団発注の鋼橋上部工工事の受注予定者を選定して割付表を作成し,これを公団側の窓口となる理事に提示して承認を受ける方法により受注調整を行っていたこと,そして,平成9年頃,上記割付調整役は,公団の元理事であり,公団を退職しCに再就職していたHに引き継がれたこと,③ 他方,公団においては,道路の建設等の事務を担当する技術系理事が,代々鋼橋上部工工事請負業者に対する公団側の窓口となって上記割付調整役から割付表の提示を受け,公団の職員に当該割付表の保管を指示するなどしていたこと,そして,公団の技術系理事であり,平成16年6月16日,副総裁に就任したIは,平成13年頃,前担当理事から上記窓口としての役割を引き継ぎ,平成16年2月頃,同じく技術系理事であるJにこの役割を引き継いだこと,④ 公団において,技術系職員の人事を事実上所管し,早期退職する同職員の再就職先の確保及びあっせんを行っていた企画部の職員は,技術系理事の意見を踏まえて上記再就職先を決定するとともに,鋼橋上部工工事請負業者等の受入れ企業に対し,技術系職員の再就職に当たり公団退職時の給料を下げないことや65歳まで在職させることなどを要求し,上記受入れ企業は,公団の退職者 - 11 -を受け入れれば受注を安定的に確保することができることを期待し,また,これを拒否すると受注調整において不利益を受けることもあり得るとの考えから,上記退職者を受け入れてきたこと,⑤ 被告ら50社のうち大部分は,公団の退職者を自社の役員又は従 できることを期待し,また,これを拒否すると受注調整において不利益を受けることもあり得るとの考えから,上記退職者を受け入れてきたこと,⑤ 被告ら50社のうち大部分は,公団の退職者を自社の役員又は従業員として受け入れていることが認められる。 (ウ) 上記認定事実に加え,証拠(乙イ12)及び弁論の全趣旨によれば,① 公団は,平成5年頃,従前行っていた公団主導による受注調整を中止していること,② 公団は,平成8年6月,入札に付する工事につき入札談合に関する情報があった場合には契約課等に通報することなどを定める「談合情報対応マニュアルについて」と題する書面を作成し,さらに,「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」,いわゆる官製談合防止法の施行を受けて,平成15年2月,上記のマニュアルに,入札談合に関する情報の信用性につき,公正中立な立場の学識経験等を有する第三者に意見を照会する手続を加えるなどした「工事,調査等及び業務委託に関する談合情報対応マニュアルについて」と題する書面を作成するなどして,一定の入札談合防止策を導入していることが認められるほか,本件全証拠によるも,鋼橋上部工工事請負業者に対する公団側の窓口となった理事以外の理事が,本件入札談合行為の存在やその仕組みを明確に認識していたのか否かは必ずしも明らかでない。 しかしながら,上記のとおり,入札談合防止策が導入されたにもかかわらず,長年にわたり,上記の取扱いが継続され,公団側の窓口としての役割が,代表権(日本道路公団法9条2項,3項)を有し,あるいは公団発注の鋼橋上部工工事に関する業務を統括する権限を有する副総裁,理事の間で代々引き継がれてきたこと自体,公団がこれを容認し黙認してきたことを強くうかがわせるし,また,上記の取扱いがされることにより,公団が早期退職する公団の職 る業務を統括する権限を有する副総裁,理事の間で代々引き継がれてきたこと自体,公団がこれを容認し黙認してきたことを強くうかがわせるし,また,上記の取扱いがされることにより,公団が早期退職する公団の職員の再就職先の確保という現実的な利益を享受していたことは明らかというべきである。かかる事情に加え,公団の資本金は原則として政府の出資によるもので(日本道路公団法4条1項),公団の被った損害は,結局,道路利用者や納税者である国民に転嫁されることになること - 12 -をも考えると,本件入札談合行為を公団主導の組織的な官製談合とまで評価し得るかどうかはともかく,公団自体の社会的責任が極めて重大であることは自明といわざるを得ない。 (エ) 他方,被告らにおいても,本件入札談合行為により受注価格の低落防止及び安定した利益の確保という不正な利益を享受してきたことは明らかであるし,①そもそも独占禁止法25条が,事業者の無過失責任という特殊な損害賠償責任を定めるのは,これにより個々の被害者の受けた損害の填補を容易にするとともに,審決における排除措置と相まって同法違反の行為に対する抑止的効果を挙げようとするものと解されること(最高裁昭和47年11月16日第一小法廷判決・民集26巻9号1573頁参照),② 上記のとおり,公団の被った損害は,結局,道路利用者や納税者である国民に転嫁されることになり,その意味では本件入札談合行為による真実の被害者は道路利用者又は国民であるともいい得るところ,本件において,被告らの権利の濫用等に係る主張を採用して原告の損害賠償請求を棄却し,あるいは過失相殺に係る主張を採用して原告の請求額を減額すると,真実の被害者たる道路利用者や国民の負担において,被告らが本件入札談合行為により享受した不正な利益を今後も保持することを許すこと 却し,あるいは過失相殺に係る主張を採用して原告の請求額を減額すると,真実の被害者たる道路利用者や国民の負担において,被告らが本件入札談合行為により享受した不正な利益を今後も保持することを許すことになって,独占禁止法違反の行為に対する抑止的効果を挙げようとした同法25条の趣旨に反する結果となることも看過することはできない。 以上によれば,被告らが主張する諸事情を考慮しても,本件において,原告が本件訴訟の原告適格を欠き,原告が被告らに対して損害賠償請求をすることが権利の濫用等に該当すると解することはできないし,また,本件において,損害の公平な分担を目的とする過失相殺をすることが相当であるとも解されない。したがって,被告らの上記各主張はいずれも理由がない。 2 そこで,原告の損害額について検討する。 (1) 談合による発注者の損害額は,談合がなければ存在したであろう落札価格(想定落札価格)を推定し,これを当該談合に係る物件の現実の落札価格から控除 - 13 -して算定するのが相当である。そして,想定落札価格は,現実には存在しなかった価格であり,一般的には当該価格形成の前提となる経済条件,市場構造その他の経済要因等に変動がない限り,当該行為が実施される直前の落札価格をもって想定落札価格と推認するのが相当と解されるが(最高裁平成元年12月8日第二小法廷判決・民集43巻11号1259頁参照),違反行為が相当長期にわたる場合や違反行為の前においても同様の行為が存在していた疑いがある場合には,違反行為終了後,公正かつ自由な競争によって行われた入札における現実の落札価格をもって想定落札価格を推認するのが相当である。そして,この場合,工事の規模,仕様等が相違するなど,比較の対象となる同一の工事が存在せず,個別の工事に係る現実の落札価格をもって想 ける現実の落札価格をもって想定落札価格を推認するのが相当である。そして,この場合,工事の規模,仕様等が相違するなど,比較の対象となる同一の工事が存在せず,個別の工事に係る現実の落札価格をもって想定落札価格を推認することが相当でないときは,違反行為終了後の期間で,かつ,違反行為がされていた期間と比較して価格形成の前提となる経済条件,市場構造その他の経済的要因等に変動のない期間における同種事例を抽出し,その落札価格と予定価格との比率(落札率)をもって想定落札価格を推認するのが相当と解される。なお,落札後に契約金額が変更されている場合であっても,変更後の契約金額は,通常,談合行為によって決定された金額を基礎とするものであり,変更後の契約金額にも談合の影響が及んでいるというべきであるから,当該契約金額の変更が当初工事との関連が希薄な追加工事又は変更工事に係るもので具体的な競争制限効果が発生しないと認められるなど特段の事情がない限り,当初の契約金額ではなく変更後の最終契約金額に基づき上記損害額を算定するのが相当である。 (2)ア原告は,本件審決において違反行為があったと認定された期間の終期の翌日である平成17年4月1日から平成20年3月31日まで(平成14年度から平成19年度まで。被告ら50社が公団から指名停止を受けていた平成17年6月1日から平成19年1月31日までの期間を除く。)における本件同種入札事例の落札率の平均値(想定落札率)が87.61%であり(甲4の1から3まで,甲5の1から3まで),平成14年度から平成19年度までにおける経済条件,市場構造その他の経済的要因に著しい変動がないことから,公団の損害額を,本件最終契約金額 - 14 -7億7258万8182円と,これを現実の落札率99.54%で割り戻して算出した額に本件想定 市場構造その他の経済的要因に著しい変動がないことから,公団の損害額を,本件最終契約金額 - 14 -7億7258万8182円と,これを現実の落札率99.54%で割り戻して算出した額に本件想定落札率87.61%を乗じた額との差額である9259万5711円と算定するところ,その算定の方法には一応の合理性があるといえる。 イこの点,被告らは,個々の工事の特殊性等を考慮することなく,本件同種入札事例の落札率の平均値(想定落札率)に基づき想定落札価格を推認し損害額を算定するのは合理性,相当性を欠くなどと主張するが,本件同種入札事例は,具体的な工事の規模,場所,内容,更には最終契約金額の決定方法等の点において,異同があることは否定し難いものの,いずれも鋼橋上部工工事という同種の工事であり,類型的な同一性を認めることができる上,相当数の同種入札事例を集積してその平均値を採ることで,個々の工事の特殊性を排除し,同種入札での一般的な落札傾向を把握することは可能と解される。 また,被告E株式会社は,本件同種入札事例には,特別重点調査基準を下回り,又は失格基準に該当することが明らかであるものや,特別重点調査基準を下回る疑いがあるものも含まれており,独占禁止法所定の不当廉売に該当するものとして,これらを本件同種入札事例から除外すべきである旨の主張もするが,本件同種入札事例に,低入札価格調査又は特別重点調査の対象となったものが含まれるとしても,これらの調査の結果,当該契約の内容に適合した履行がされないこととなるおそれがないと判断されたのであるし,公正取引委員会も,独占禁止法上の不当廉売規制の観点から低入札価格調査の対象となった工事等につき情報提供を受け調査を実施しているところ,本件同種入札事例のうち不当廉売に該当するおそれがあるとして警告がされたもの も,独占禁止法上の不当廉売規制の観点から低入札価格調査の対象となった工事等につき情報提供を受け調査を実施しているところ,本件同種入札事例のうち不当廉売に該当するおそれがあるとして警告がされたものはないことが認められるのであって(乙ロ5,6,弁論の全趣旨),被告らの上記主張を採用することはできない。 ウもっとも,本件同種入札事例のうち別紙「想定落札率算定工事契約一覧表」記載7及び9の工事については,上記のとおり,低入札価格調査等の結果,当該契約の内容に適合した履行がされないこととなるおそれがないと判断されたとはいえ,落札率がそれぞれ62.75%,64.88%と他の入札事例における落札率や, - 15 -国土交通省がこれを下回ると当該契約の内容に適合した履行がされないことになるおそれが生じ公共工事の品質を確保することが困難となるとする落札率である85%と比較しても突出して低い上,本件工事は,新設の鋼上部工工事であるところ,上記工事は「遮へい壁設置工事」,「橋支承更新工事」であり,工事の具体的内容をやや異にすることもうかがわれ,上記の各落札率が同種入札における一般的な落札傾向を示しているとはいい難いことから,想定落札率の算定に当たっては,本件同種入札事例から上記の2入札事例を除外するのが相当である。 以上によれば,上記の2入札事例を除く本件同種入札事例の落札率の平均値(想定落札率)は89.25%であると認められる。そして,上記想定落札率をもって算定される想定最終契約金額(公団とAは,落札後,本件契約の契約金額を当初の契約金額である7億0350万円から7億7258万8182円(本件最終契約金額)に増額していることが認められるが,本件全証拠によるも,この契約金額の変更が当初工事との関連が希薄な追加工事等に係るもので具体的な競争制限効果が 0万円から7億7258万8182円(本件最終契約金額)に増額していることが認められるが,本件全証拠によるも,この契約金額の変更が当初工事との関連が希薄な追加工事等に係るもので具体的な競争制限効果が発生しないと認められるなどの特段の事情があるとは認められないから,本件最終契約金額に基づき公団の損害額を算定するのが相当である。)は6億9272万1471円であり,これと本件最終契約金額7億7258万8182円との差額は7986万6711円,そのうち平成16年5月27日支払分に対応する金額は1324万5916円,同年12月27日支払分に対応する金額は517万5184円,平成17年3月29日支払分に対応する金額は1334万5880円,同年5月27日支払分に対応する金額は1497万1150円,同年9月29日支払分に対応する金額は1461万4918円,同年12月27日支払分に対応する金額(残額)は1851万3663円となる。 3 したがって,原告は,被告らに対し,独占禁止法25条1項に基づく損害賠償として,連帯して7986万6711円及びうち1324万5916円に対する平成16年5月28日から,うち517万5184円に対する同年12月28日から,うち1334万5880円に対する平成17年3月30日から,うち1497 - 16 -万1150円に対する同年5月28日から,うち1461万4918円に対する同年9月30日から,うち1851万3663円に対する同年12月28日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 よって,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第3特別部 裁判長裁判官前田順司 裁判官都築民枝 裁判官飯 文のとおり判決する。 東京高等裁判所第3特別部 裁判長裁判官 前田順司 裁判官 都築民枝 裁判官 飯田恭示 裁判官 石垣陽介 裁判官 森冨義明は填補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 前田順司

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