平成12(う)49 殺人,詐欺被告

裁判年月日・裁判所
平成13年9月10日 広島高等裁判所 松江支部
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判決文本文4,984 文字)

主文 1 原判決を破棄する。 2 被告人を懲役20年に処する。 3 原審における未決勾留日数中180日をその刑に算入する。 理由 第1 本件控訴の趣意は検察官天野和生作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり,これに対する答弁は弁護人直野喜光作成名義の答弁書記載のとおりであるから,これらを引用する。 検察官の控訴趣意は,被告人を懲役15年に処した原判決の量刑は不当に軽く,無期懲役に処すべきであるというにある。 第2 そこで記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。 1 本件は,原判示のとおり,A(以下「被害者」という。)の妻であった被告人が,親しい知人を通じて,暴力団員らに被害者が締結していた生命保険金等から報酬金を支払うことを約して被害者の殺害を依頼し,これを請け負った暴力団員らと共謀の上,同暴力団員らの手によって被害者を射殺し(原判示第1),その情を秘して被害者を被保険者とする約5000万円の死亡保険金等を騙取した(原判示第2),という事案である。 2 まず,本件殺人に至る経緯,動機をみるに,これらの点に関しては,原判示のとおり酌量の余地は全くないというほかない。すなわち,被告人は,被害者と昭和59年婚姻し,両名の間に3人の子どもを持つ主婦であったが,平成4年ころから複数の男性と安易に情交関係を結び,被害者に対する嫌悪感を一方的に募らせていき,夫婦関係は破綻していったが,もし離婚ということになれば,自分の方が家を出なければならなくなるとの思い等から,離婚することはできないと考え,夫婦関係の修復あるいは解消に向けての話し合いをすることもなく,そのために苦悩する被害者の行為に一方的に不安や憎悪を募らせ,何の非もない被害者を亡き者にしようと決意するに至ったもので きないと考え,夫婦関係の修復あるいは解消に向けての話し合いをすることもなく,そのために苦悩する被害者の行為に一方的に不安や憎悪を募らせ,何の非もない被害者を亡き者にしようと決意するに至ったものであって,その経緯,動機は自己中心的なものというほかなく,酌量の余地などない。 3 次に,本件殺人の結果をみるに,被害者は,仕事をまじめにこなし,他に女性関係もなく,子煩悩で,善良な性格であったにもかかわらず,前記被告人の理不尽な動機から,妻である被告人の依頼により,暴力団員らの手によって4発の銃弾を命中させられて射殺されるという非業の最期を遂げたものであって,愛する3人の子どもを残したまま,38歳という若さで突然この世を去らなければならなくなった無念さは察するに余りあり,また,残された3人の子どもは,自宅のすぐ近くで父親が射殺されるという衝撃的な出来事に遭遇したうえ,その後母親が父親殺害の容疑者として逮捕されるという更に衝撃的な出来事により,両親ともに失う結果となっており,子どもらに与えた心理的影響はまことに重大なものがあるのであって,被告人の招いた結果は被害者のみにとどまらず,我が子にも重大な結果を与えているのである。また,養子に出した我が子を殺され,残された孫らの将来に心を痛める被害者の実父母ら親族の悲嘆や苦悩,痛恨の情にも計り知れないものがあるのであって,同人らの被告人に対する処罰感情が極めて厳しいのも十分理解することができる。 また,本件殺人の社会的影響,特に暴力団員らを使っての本件殺人が周辺住民等に恐怖感を与えており,この点についても量刑上考慮すべきである。 4 更に,被告人は,自ら保険金等を請求し,5000万円余りを騙取したものであり,その金額が高額である上,予め被害者の死亡による保険金の中から暴力団員らに対し殺害の報酬を 量刑上考慮すべきである。 4 更に,被告人は,自ら保険金等を請求し,5000万円余りを騙取したものであり,その金額が高額である上,予め被害者の死亡による保険金の中から暴力団員らに対し殺害の報酬を支払う約束をしていたものであり,また,同保険金の残額及び被害者の退職金等を被害者殺害後の生活に使用しようと計画していたことも併せ考えると,本件詐欺が保険制度の根幹を揺るがす非常に悪質なものである上に,主たる目的ではなかったことを考慮しても,本件殺人の利得目的の存在を軽視することはできない。 この点について,原判決は,その量刑の理由の中で,「本件は,夫の殺害によって多額の保険金等を騙取してはいるものの,保険金を得ることを主たる目的としたいわゆる保険金殺人とは,一線を画するものがある点である。すなわち,被告人が夫の殺害を依頼した直接の動機は,前記のとおりであり,殺害すれば保険金が下り,殺害を依頼する以上当然高額な報酬を支払わなければならないとは考えていたものの,被告人自身が保険金等の利得を得んがために殺害を依頼したものではなく,法定刑として死刑と無期懲役のみを定めた強盗殺人罪に比肩すべき事案とはいえない。」と判示し,本件殺人における利得目的をいささか軽く判断しているかに窺われるのであるが,前記のとおりであって,相当ではない。 5 次に,原判決は,その量刑の理由の中で「被告人がBに依頼するまでの犯意の形成過程に,緻密さや用意周到さは窺われず,被告人が,早くから確定的な殺意を抱き,緻密な計算のもとに完全犯罪を狙って夫の殺害を依頼したような状況は認められない。」として,更に続いて「すなわち,判示のとおり,被告人は,平成8年2月中旬ころまでは,Aが死んでくれればよいとの思いを抱いて悶々としていたものの,Aを殺害したいとまでは考えておらず,そのころ, ない。」として,更に続いて「すなわち,判示のとおり,被告人は,平成8年2月中旬ころまでは,Aが死んでくれればよいとの思いを抱いて悶々としていたものの,Aを殺害したいとまでは考えておらず,そのころ,以前雑談の中でBが金で人を殺す者がいる旨話していたことを思い出して初めて殺意を抱き,同人に夫の殺害を依頼したが,このときは言下に一蹴されて,それ以上懇請するようなこともなく,簡単に犯意を放棄している。被告人は,このときの気持ちについて,『このままの状態だと耐え難い苦痛を味わっていかなければならないが,それでも断られてどこかほっとした気持ちがあった。』旨供述しているところである。その後,さらに追いつめられた心境になって,やはりAに死んでもらうしかないと思うに至り,再度Bに殺し屋による殺害を依頼したのであるが,このような犯意の形成過程をみると,被告人は,Bから,殺し屋の話を聞いたことがあったために,Aに対する殺意自体が形成され,同人が親密な相談相手であったことから,殺し屋に依頼してもらおうと考えるに至ったもので,それが無理なら,自ら暴力団員に依頼しようとか,別の方法でAを殺害しようなどと考えたことは全くないのである。この点は,被告人の殺意の程度を考える上で,無視することのできない事情である。」と判示し,被告人が殺意を抱くに至った点について被告人が親密な交際をしていたBの言葉がなければ本件殺人には至らなかったかのように説示しており,また,犯意の形成過程に緻密さや用意周到さは窺われないとするのであるが,被告人が本件殺人を決意するについてBの言葉が契機となっていることは,被告人の本件殺人の動機からして,本件殺人の量刑に関し,重視すべきものとはいえず,また,犯意の形成過程に緻密さや用意周到さは窺われないとする点も,本件殺人は,被告人が報酬を支払うことを いることは,被告人の本件殺人の動機からして,本件殺人の量刑に関し,重視すべきものとはいえず,また,犯意の形成過程に緻密さや用意周到さは窺われないとする点も,本件殺人は,被告人が報酬を支払うことを条件に被害者の殺害を依頼したものであり,実行犯である暴力団員らの手配等は被告人と親密な関係にあったBにすべて依存していたものであることからすると,被告人が本件殺人を意図しなければ,被害者の殺害という結果は生じなかったものであって,被告人がBに本件殺人を依頼するまでの過程は,量刑判断に当たり重視すべきものではない。 6 次に,原判決はその量刑の理由の中で「被告人は,Bに依頼後,同人の指示により夫に関する情報提供行為や殺害報酬の手当をするなど,依頼者としてなすべきことをやっているものの,実行行為を行う暴力団の名前や殺害方法など,具体的な情報は何も教えられておらず,被告人自身が犯行の実現に向けて積極的に行動したり,これを催促するようなことも一切行っていないのである。かえって,被告人は,殺し屋に依頼すれば絶対に大丈夫というBの言葉を信じつつも,本当に大丈夫なのかと不安になり,犯行を止めることはできないかと尋ねて,今更できるわけがないと一喝されるなど,心が揺れていたことが窺われるのである。もとより,被告人は,自身の身勝手な犯行動機に基づき,親密な相談相手であるBを通して,暴力団員らに被害者の殺害を依頼し,これによって,自己の犯罪を実現したものというべきであるから,こうした事情があるからといって,被告人が共謀共同正犯としての罪責を免れるものではないことはいうまでもない。また,殺し屋に殺害を依頼した以上,その後の関与が受動的であることもむしろ当然であって,これを過大に斟酌することはできないが,この点を考慮しても,なお無視することのできない事情である。」と もない。また,殺し屋に殺害を依頼した以上,その後の関与が受動的であることもむしろ当然であって,これを過大に斟酌することはできないが,この点を考慮しても,なお無視することのできない事情である。」と判示し,本件殺人に関する被告人の関与の程度について一定の斟酌をしているのであるが,本件殺人の方法からして,被告人の関与は依頼した後は受動的なものになるのは当然であって,その中で被害者殺害に必要な情報提供行為はなしており,また,被告人がいったんBに対し犯行を止めることはできないかと尋ねた点も,その後被告人が真摯に犯行を止めようとする行動には何ら出ていないことを考慮すると,原判決はこの点について過大に評価しているといわざるを得ない。 7 以上のような本件の罪質,犯行の動機,態様(特に多数の者を犯罪に巻き込んでいる点),結果の重大性,被害者の親族らの処罰感情,社会的影響などに照らすと,被告人の刑事責任は重大であり,被告人が逮捕後は素直に犯行を自供し,反省悔悟していること,本件詐欺被害については被告人の父親から全額被害弁償がなされていること,本件殺人に関し被害者の実父宛に慰謝料名目で1000万円が支払われていること,被告人には前科前歴がないことを考慮すると,本件殺人について無期懲役を選択すべきものとまではいえないが,被告人を懲役15年に処した原判決の量刑は斟酌すべきでない事情を斟酌しあるいは過大に斟酌した結果であって,不当に軽いというべきである。 第3 よって,刑事訴訟法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条但し書により直ちに当裁判所において自判すべきものと認め,更に次のとおり判決する。 原判決が証拠により認定した各犯罪事実はいずれも原判決の挙示する各法条にそれぞれ該当するところ,原判示第1の罪について所定刑中有期懲役刑を選択 自判すべきものと認め,更に次のとおり判決する。 原判決が証拠により認定した各犯罪事実はいずれも原判決の挙示する各法条にそれぞれ該当するところ,原判示第1の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い原判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役20年に処し,同法21条を適用して原審における未決勾留日数中180日をその刑に算入し,原審における訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項但し書を適用して被告人に負担させないこととする。 よって,主文のとおり判決する。 (検察官見越正秋出席)平成13年9月10日広島高等裁判所松江支部裁判長裁判官宮本定雄裁判官吉波佳希裁判官植屋伸一

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