【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人らの負担とする。 理 由 上告代理人佐藤義彌、同駿河哲男、同竹澤哲夫、同小池貞夫、同藤原周、同藤原 充
主文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人らの負担とする。 理由 上告代理人佐藤義彌、同駿河哲男、同竹澤哲夫、同小池貞夫、同藤原周、同藤原充子の上告理由について第一上告理由第二について一所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認するに足り、その過程に所論の違法があるとはいえない。 右事実及び原審の適法に確定したその余の事実関係は、おおむね次のとおりである。 1 国有林野事業へのチエンソー等の導入と上告人らの使用による振動障害の罹患国有林野事業は、わが国の国土全体の約七割を占める森林面積の約三分の一を対象とし、木材の供給、国土の保全、水資源の涵養、保健休養場の提供、地域振興への寄与、林業技術の開発普及等を果たすことを目標としている。この事業の現場作業は、伐木造材、集運材、植林の各部門に大別できるが、従前は主として人力、天然力を用いており、伐木造材作業は、斧、鋸、腰鉈、くさび等を用い、全身の力を長時間使って木を伐倒し、枝払い及び玉切りをするという重労働で、その技量を修得するには八年程度の経験を要するものであり、また、造林作業は、地ごしらえには鎌、鉈、鍬等を、下刈りには鎌を、植付けには鍬を使用して行うものであった。 チエンソー(自動鋸)は、明治三〇年代後半に米国で試作が行われ、振動軽減のための改良を経て、昭和二五年ころには米国で広く使用されはじめた。ブッ- 1 -シュクリーナーも、外国でほぼ同じ時期に製作されたものである。チエンソー及びブッシュクリーナー(以下「チエンソー等」という。)はガソリンエンジンを原動力とするのでエンジン振動工具といわれ、圧縮空気を原動力とする空気振動工具(さく岩機、鋲打機等)、電気モーターを原動力 及びブッシュクリーナー(以下「チエンソー等」という。)はガソリンエンジンを原動力とするのでエンジン振動工具といわれ、圧縮空気を原動力とする空気振動工具(さく岩機、鋲打機等)、電気モーターを原動力とする電気振動工具(グラインダー、タイタンバー等)と区別され、さく岩機等とは、その作動によって生ずる振動の性質、程度を異にする。 わが国では、チエンソーは終戦直後に米軍によって導入され、昭和二三年には国産化が始められ、同二六年には民有林に米国製チエンソーが導入されていたところ、林野庁は、伐木造材、造林等の作業員を重筋労働から解放するとともに、戦後の経済復興期、これに続く高度経済成長期における木材需要の増大に応じて生産性を向上させるため、同二八年に「国有林野事業機械化促進要綱」を定めるなどして機械の導入実用化を積極的に促進することとなり、同年ころ以降主として米国製のチエンソーを国有林に試用導入し、同三二年ころから本格的に実用導入を図った結果、同三六年には保有台数四一九四台に達し、国有林の造材作業中約七五パーセントにチエンソーが使用されるに至った。高知営林局管内でも、同二九年から導入され、一時林野庁職員で組織されるD労働組合(以下「D」という。)の反対で使用が中止されたが、同三四年一月にD四国地方本部と高知営林局との間でチエンソー実用化に関する合意文書が取り交わされ、同年度に一三五台が導入されて実用化が進められ、同四四年には保有台数が四二六台となり、そのころ同局管内の造材手全員がチエンソーを使用するようになった。また、ブッシュクリーナーは、同三二年から民有林に実用導入されていたところ、同三六年から本格的に国有林に導入が始められ、同四四年には保有台数一方二九六〇台に達した。高知営林局管内でも同三六年に導入、実用化された。 上告人ら八 年から民有林に実用導入されていたところ、同三六年から本格的に国有林に導入が始められ、同四四年には保有台数一方二九六〇台に達した。高知営林局管内でも同三六年に導入、実用化された。 上告人ら八名(A1・A2・A3・A4・A5・A6・A7・A8)及び- 2 -死亡したD、E、F、Gは、いずれも林野庁の高知営林局管内の事業所に所属する作業員で、亡Gのみが機械造林手、その他は伐木造材手であったものである(以下、これら一二名を「上告人ら一二名」という。)。上告人ら一二名が営林署に採用された時期は大正一三年から昭和二八年にわたっているが、チエンソー等の使用を始めたのはそれぞれ所属していた事業所にチエンソー等が導入されると同時であったので、亡Gがブッシュクリーナーを使用したのが同三九年六月であるほか、他の一一名は同三四年五月から同三六年八月までに使用を始め、そして、いずれも同三八年一〇月から同四五年までにその使用を終了している。 上告人ら一二名は、いずれもチエンソー等の使用により振動障害(白ろう病)に罹患し、その典型的な症状である「レイノー現象」という傷病名により(但し、上告人A2は「関節炎」)、営林署退職の前後に公務上災害の認定を受け、それ以来療養補償、休業補償等を受けているが、退職後、上告人A1は、手鋸による玉切作業に約一か月間、道路舗装の小直し作業に約四年間従事し、同A2は、一年間縫製工場に工場長として勤め、その後乗用車を運転するようになり、縫製工場の裁断作業に従事し、同A5は、一年間寿司屋営業で包丁を常時使用し、その後の一〇年余は造園左官業や日雇人夫を続け、乗用車の運転をし、同A6は、約七年間土木作業や造林等の雑役に断続的に従事し、亡Fは、六年余土木工事の現場監督や型枠大工等の肉体作業に従事し、上告人A7は、タクシーの運転業務 左官業や日雇人夫を続け、乗用車の運転をし、同A6は、約七年間土木作業や造林等の雑役に断続的に従事し、亡Fは、六年余土木工事の現場監督や型枠大工等の肉体作業に従事し、上告人A7は、タクシーの運転業務に従事し、毎年厳寒期に山中で野猪の狩猟も行っており、同A8は、鮮魚商を始め、毎日貨物自動車を運転して午前六時ころ約四八キロメートル離れた市場に赴いて鮮魚等を仕入れ、これを行商して回り、午後三時過ぎから夕方まで自宅店舗で働いており、亡Gは、約八年間日用雑貨店の経営に伴う商品の仕入れや配達のため日常的に自動車を運転した。 2 昭和四四年ころまでの振動障害に関する医学的知見等- 3 -昭和四四年ころまでの振動障害に関する医学的知見等は、次のとおりである。 (1) 昭和四年までに、ドイツ労働者補償法では、空気振動工具使用による労働者の筋肉、骨、関節の疾病を補償対象疾患損傷の一つに法定していた。 (2) 昭和一三年にHが鋲打工の一臨床例を報告し、その後、同二二年までに労働衛生学の専門家三名が空気又は電気による打撃振動工具の使用による手指の蒼白発作や肘の関節等の障害に注目したが、これらの文献によると、右各振動工具使用による人身障害はすべて局所的かつ軽症で、特別の治療を行わなくてもさして危険な性質の疾病ではなく、その従事作業に支障があるのはきわめて稀であるとされている。 (3) 昭和二二年までに外国で発表された九つの文献は、すべて空気又は電気による振動工具の使用による身体障害を調査研究したもので、そのうち、ソ連のIが、振動による人身障害を振動病と呼び、この疾患の症状には手指の血管運動神経の障害、感覚障害など局所的な症状が多いが、右症状のほかに中枢神経系に影響を及ぼすなど全身性の変化がみられるので、局所的な疾患とはいえないとして 害を振動病と呼び、この疾患の症状には手指の血管運動神経の障害、感覚障害など局所的な症状が多いが、右症状のほかに中枢神経系に影響を及ぼすなど全身性の変化がみられるので、局所的な疾患とはいえないとしているほかは、すべて右障害を局所疾患としており、軽症のものが大半であるとの所見もみられる。 (4) わが国では、昭和二二年に、労働基準法施行規則(同年八月三〇日厚生省令二三号)三五条一一号により、「さく岩機、鋲打機等の使用により身体に著しい振動を与える業務に困る神経炎その他の疾病」が業務上の疾病に指定された。 しかし、それらによる労働災害として補償が行われた事例は少なく、多い年でも一〇件前後にすぎなかった。 (5) 昭和二三年から同三四年までの間におけるわが国の四つの文献は、すべて空気又は電気による打撃振動工具と回転振動工具の振動障害の医学的知見であ- 4 -り、チエンソー等のエンジンによる回転振動工具の振動障害に言及したものはなかった。 (6) 昭和三四年、農林省林業試験場経営部作業研究室は、チエンソー作業の実態把握及びその作業における振動・騒音による疲労症候等の実態把握を目的とし、チエンソー三台以上使用の伐木造材事業所の作業員、指導員、事業所主任、営林署の事業課長、機械係を対象として、チエンソー作業のアンケート調査を実施した。 そして、右調査に当たった職員のJとKは、同三五年二月、右調査結果を取りまとめたが、林業試験場経営部作業研究室では、右調査内容につき更に研究を重ねる必要があるとの認識で、この調査結果を内部研究資料にとどめ、林野庁等に連絡通知することも部外へ公表することもなかった。 (7) しかし、右Kは、昭和三四年五月、六月、九月に、右調査内容の一部をL協会発行の雑誌「林業機械化情報」に掲載して発表した どめ、林野庁等に連絡通知することも部外へ公表することもなかった。 (7) しかし、右Kは、昭和三四年五月、六月、九月に、右調査内容の一部をL協会発行の雑誌「林業機械化情報」に掲載して発表した。右六月号においては、チエンソーの振動障害で顕著なのは、局所的な振動の負荷により一過性の疲労症状として上肢の血管・神経に血行障害が起こって蒼白となり、しびれ感及び疼痛感が起こり、これが筋萎縮を起こし、関節にも同様に慢性の関節炎や神経炎が起こるとみられること及びその対策の必要性等が記述されているが、当時医学界からも林野庁、D等からも関心を持たれた形跡はなかった。 (8) 昭和三五年と同三六年に、振動障害に関する医学的知見が相当多数発表されたが、ソ連のIらとMらのものを除き、チエンソー等による障害に言及したものも、チエンソー等の使用によって人身障害が生ずることを予見したものもなかった。右両名らは、ソ連のチエンソー使用伐木夫に振動病が発症していること、そのチエンソーを含む振動工具全般の使用で発症する振動障害の臨床的特性や症状分類、疾病の進行段階に関する所見を発表した。しかし、同四一年にソ連の振動障害- 5 -防止規則がNの翻訳で紹介されるまでは、ソ連においてチエンソー使用伐木夫等に振動障害が生じていることを記述した文献も報告もなかった。 (9) 昭和三六年一一月、D長野地方本部から長野営林局に対し、機械化によって作業員に肉体的影響が現われているとして調査、措置の要求があったので、長野営林局が同三七年一二月「林業機械化に伴う職業病的傾向に対する調査」を実施した結果、チエンソー使用作業員の中に同三五、六年ころに手指の白ろう化や無感覚を経験したと訴えた者が一五名いたが、その症状は日常の作業等には支障のない程度のものであり、調査時点において右の 」を実施した結果、チエンソー使用作業員の中に同三五、六年ころに手指の白ろう化や無感覚を経験したと訴えた者が一五名いたが、その症状は日常の作業等には支障のない程度のものであり、調査時点において右のような症状が発現していると訴えた者は皆無であった。 (10) 昭和三七年一一月、前記(6)のJは、「林業機械概論」を出版し、チエンソー等の振動により作業員の人体に振動感、しびれを起こすのみでなく、その振動が強くなると体内の心臓、肺臓、胃、腸、眼球、脳などに障害を生ずるに至ることを記述しているが、前記(7)のK論文と同様、当時医学界その他から関心を持たれた形跡はなかった。 (11) そのほか、昭和三七年と同三八年において、チエンソー使用による振動障害に言及した医学的知見はなかった。 (12) 昭和三八年一〇月、長野営林局坂下営林署は、前記(9)の調査で手指の蒼白現象が発現したことがあると訴えた者三名にO病院長P医師の診断を受けさせた結果、同医師から、一過性の血管運動神経症によるもので、作業自体による職業病と認められる程度のものではないなどの所見を得た。そして、坂下営林署は、手指の蒼白等の原因はチエンソーではなく、通勤のためのオートバイ運転によるものと考えられる旨を長野営林局へ報告した。 (13) 昭和三八年一一月、林野庁は、林野事業における機械化が本格的に進められて以来約一〇年経過したこの時期に、チエンソー等を含む林業機械の使用- 6 -が災害や健康に与える影響の実態調査を行うこととし、Q科学研究所に調査票の設計、調査後の集計・分析を委嘱して、各種林業機械作業従事者全員約一万一〇〇〇名を対象として全国の国有林野事業所において一斉にアンケート調査を実施した。 その調査結果の全貌は、同三九年三月から夏ころまでに明らかになった。 析を委嘱して、各種林業機械作業従事者全員約一万一〇〇〇名を対象として全国の国有林野事業所において一斉にアンケート調査を実施した。 その調査結果の全貌は、同三九年三月から夏ころまでに明らかになった。 その調査結果によると、チエンソー等の使用作業員中にレイノー現象(チエンソー使用作業員の五・七パーセントに当たる一六八名、ブッシュクリーナー使用作業員の一・〇パーセントに当たる五一名)や指のしびれ(同一二・三パーセント)等の自覚症状を訴えた者のあること及び集材機、トラクターの使用者からも同様の訴えがあったことが判明したが、蒼白発作の訴え者率はチエンソー使用者が最高であった。しかし、これらの訴えの内容は、一般的な訴えや局所的な訴えなど多岐にわたり、これらの原因が果たしてチエンソー等や集材機等の使用に基因するのか明確でなかった。 (14) 昭和三九年、オーストラリアのRは、チエンソー使用の伐木手二二名中二〇名(九一パーセント)の手指にレイノー現象の発症がみられたが、作業をやめさせる必要があるとは何人も考えていないと発表した。この文献がわが国に紹介されたのは同四〇年以降である。 (15) 昭和三九年一二月、S大学衛生学教室のTらは、Dから依頼を受けて翌四〇年一月まで現地(長野営林局付知営林署管内の事業所)調査を行い、同年五月、U衛生学会で、「チエンソー使用の伐木造材手三〇名中一七名に蒼白現象が発現しており、チエンソーの振動によるものであることを疑わせるに十分である」などと発表した。 これに先立ち、同年三月二六日、日本放送協会(NHK)は、テレビの全国番組「現代の映像」で「白ろうの指」と題してチエンソー使用の伐木造材手にその使用に基因するとみられる手指の蒼白発作が発症していることを放映した。 - 7 -Tらの右所 K)は、テレビの全国番組「現代の映像」で「白ろうの指」と題してチエンソー使用の伐木造材手にその使用に基因するとみられる手指の蒼白発作が発症していることを放映した。 - 7 -Tらの右所見は、右テレビ放送と結びついて、一挙に社会的注目を集め、以後、チエンソー使用による振動障害に関する研究所見が多数発表された。 (16) こうした状況の中で、労働省は、昭和四〇年五月二八日付労働基準局長通達(基発第五九五号)により、「チエンソーは、さく岩機、鋲打機と同様振動工具であり、しかもその使用によって身体に著しい振動を与え振動障害をもたらす場合があるものと思料される。従って、チエンソーは、労働基準法施行規則三五条一一号に規定する『さく岩機、鋲打機等』に含まれるものであるから、その疾病の取扱いについては遺憾のないよう留意されたい。」と示達した。 (17) 昭和四〇年一一月、U衛生協会内に設置されたV障害研究会は、人事院に対し、チエンソー等使用によるレイノー症候を公務疾患と認定するよう要望した。 (18) 昭和四〇年、Wは、振動障害につき全身障害説をとる「職業性レイノー現象」を発表した。 (19) 昭和四一年、Xらは、「局所振動障害としての職業性レイノー症候群」を発表し、Y医学会総会において、チエンソー等の振動工具による人身障害について一七題の報告が提出された。 (20) 昭和四二年、Z、Tら外多数は、Y医学会総会とAa医学会総会衛生関係六分科会連合学会において、振動障害の人体に及ぼす影響と診断等につき多数の報告を提出した。 (21) 昭和四三年、Abらは、Y医学会総会において、ブッシュクリーナーの生体に及ぼす影響等につき発表した。 (22) 昭和四四年、Ac、Adは、「職業病とその対策」を、Tは、「振動障 (21) 昭和四三年、Abらは、Y医学会総会において、ブッシュクリーナーの生体に及ぼす影響等につき発表した。 (22) 昭和四四年、Ac、Adは、「職業病とその対策」を、Tは、「振動障害の経過」を発表した。 3 林野庁等の行った施策等- 8 -(一) 林野庁等は、チエンソー等の導入実用化段階(おおむね昭和四〇年ころまで)において、次のような施策等を行った。 (1) 昭和二七年、林野庁は、動力鋸作業試験委員会を設置して、機種性能の検討、作業実験の実施とその結果資料の作成、所見の報告を求め、同委員会は、同二九年四月作業試験報告書を提出した。 (2) 昭和二九年、北海道における台風による風倒木の処理のため、旭川営林局等で急遽外国製チエンソーを導入使用したところ、その作業能率は手作業の約二倍であり、同局技術者は、林野庁に対しチエンソーは作業者にとって重筋労働からの解放の効果が極めて高いことを報告した。 (3) 昭和三一年、林野庁は、チエンソーの本格的導入に当たり、林業機械の専門家であるAeを三か月間米国、カナダに派遺してチエンソーの現場での使用状況を視察させた。当時米国では既にチエンソーが年間十数万台生産され使用されていたが、そこでは重筋労働の軽減効果が強調されており、振動障害やレイノー現象の訴えはなかった。Aeは、さく岩機等による振動障害のことは知っていたが、チェンソーはさく岩機等とは振動の性質、程度が違うと認識し、チエンソー使用による振動障害発生については全く思い及ばず、チエンソー導入を推進させた。 (4) 昭和三二年、林野庁は、前橋営林局沼田営林署を機械化作業実験営林署に指定し、チエンソー等の機械作業の指導者養成訓練を行った。 (5) 林野庁は、右(1)の作業試験報告書や昭和三四年 (4) 昭和三二年、林野庁は、前橋営林局沼田営林署を機械化作業実験営林署に指定し、チエンソー等の機械作業の指導者養成訓練を行った。 (5) 林野庁は、右(1)の作業試験報告書や昭和三四年ころに林業試験場に委託して行ったチエンソー等の作業方法ないし作業の標準工程策定に関する調査、実験研究の結果などに基づき、国有林機械管理規定(同二九年四月一日)、伐木造材作業基準(同三五年四月一日)、チエンソー取扱要領(前同日)、チエンソー等の造林作業点検要領(同三四年八月)を制定施行した。 (6) 林業試験場は、昭和三四年前記2の(6)のとおりチエンソー作業の- 9 -アンケート調査を実施し、長野営林局は、同三七年一二月(9)のとおり「林業機械化に伴う職業病的傾向に対する調査」を実施し、同局坂下営林署は、同三八年一〇月同(12)のとおり右調査で蒼白現象を訴えた者三名にO病院長の診断を受けさせ、林野庁は、同年一一月同(13)のとおりQ科学研究所に委嘱して各種林業機械作業従事者全員を対象として全国一斉にアンケート調査を実施した。 (7) 林野庁は、昭和四〇年三月ころから五月ころまでの間、チエンソー使用作業員を対象に第一回及び第二回の臨時健康診断を実施した(高知営林局管内では、第一回の約八〇名の作業員中一〇名足らず、第二回の約一〇〇名の作業員中一〇名余にレイノー現象の発症が確認された。)。 (8) 林野庁は、昭和四〇年四月、人事院との間で、チエンソー使用作業員のレイノー現象発症者につき個別的協議により公務上疾患の認定を受けることができる旨の協定をした(上告人A5はこの個別的協議により認定を受けた。その他の者は後記(12)の人事院規則改正後に認定を受けた。)。 (9) 昭和四〇年五月、労働省は前記2の(16)のとおりチエン る旨の協定をした(上告人A5はこの個別的協議により認定を受けた。その他の者は後記(12)の人事院規則改正後に認定を受けた。)。 (9) 昭和四〇年五月、労働省は前記2の(16)のとおりチエンソーが労働基準法施行規則三五条一一号に規定する「さく岩機、鋲打機等」に含まれる旨の通達を示達した。 (10) 昭和四〇年、林野庁は、人事院等と共催でQ科学研究所にチエンソー等の使用によるレイノー現象発症等の実態調査を委託し、Q科学研究所は、長野営林局の三営林署管内のチエンソー使用の伐木造材手、ブッシュクリーナー、オーガー使用の造林手につき調査研究をし、翌年三月ころまでに林野庁に報告した。 (11) 人事院は、昭和四〇年、同四一年の二か年にわたり、科学技術庁及び林野庁と共催で、Af大学Ag衛生研究室等とAh大学研究室に林野庁作業員の作業環境、作業意欲等に関する実態調査を委嘱し(同四一年三月中間報告)、同四〇年八月、Ai協会内Ajサービスセンターに沼田営林署管内におけるレイノー- 10 -現象の発症等に関する実地検診を委嘱し、翌四一年二月、右AjサービスセンターとQ科学研究所に熊本・高知両営林局管内の九営林署管内の前同様の実地検診を委託した(同四二年三月右各実地検診の調査結果報告書を林野庁に伝達した。)。 (12) 昭和四〇年、人事院は、学識者、科学技術庁、労働省、林野庁、人事院関係者で構成された専門委員からなるAk研究会を設置し、チエンソー等使用によるレイノー現象に対する補償基準について諮問し、同研究会は翌四一年一月までにいわゆる白ろう病については職業病に指定するよう人事院規則の別表を改正することなどを答申した。人事院は、これを受けて、同年七月一一日、人事院規則一六―〇、一〇条別表第一の番号四四につき、疾病欄の「手指神経症 白ろう病については職業病に指定するよう人事院規則の別表を改正することなどを答申した。人事院は、これを受けて、同年七月一一日、人事院規則一六―〇、一〇条別表第一の番号四四につき、疾病欄の「手指神経症、関節炎又は筋炎」を「レイノー現象又は神経、骨、関節、筋肉、けんしょう若しくは粘液のうの疾患」と、公務欄の「さく岩機又はびょう打機を使用する公務」を「さく岩機、びょう打機、チエンソー等の身体に局部的振動を与える機械を使用する公務」と改正した(同月一日より適用)。 (13) 林野庁は、昭和四〇年七月、Al研究会を設置し、その意見を聞いて、同年八月チエンソー等使用作業員に毎年定期的に健康診断を実施することとした。 (14) 林野庁は、昭和四〇年四月、L協会の中に振動問題を検討するための委員会を設置して振動機械の改良を検討し、チエンソーのハンドル取付部に防振ゴムパッキンを取り付けた改良ハンドルを開発し、人体に伝わる振動を従来の一〇G以上から三分の一程度に減衰させることに成功し、翌四一年から実用化した(チエンソーメーカー等に防振機構内蔵型の開発を依頼し、同四四年、振動が約三Gの防振機構内蔵型チエンソーが実用に供された。)。 高知営林局は、独自に防振ハンドルを開発し、同四〇年末ころまでに実用化し、同四五年三月ころまでに振動が約三Gの防振型チエンソーに全部切り替- 11 -えた。また、亡Gの所属した川崎営林署では、同四四年に防振型で軽量のブッシュクリーナーに切り替えられた。 (二) 林野庁は、昭和四一年ころ以降、次のような諸施策を行った。 (15) 昭和四一年三月、林野庁長官通達をもって、営林局管理医と大学病院等との連携強化、権威者又は専門医の増員配置、営林署管理医の原則一名配置等を各営林局長に指示し、管理医体制の 行った。 (15) 昭和四一年三月、林野庁長官通達をもって、営林局管理医と大学病院等との連携強化、権威者又は専門医の増員配置、営林署管理医の原則一名配置等を各営林局長に指示し、管理医体制の充実強化に努め、振動障害患者の認定に遅滞遺漏なきを期するよう指示し、同年三月及び六月、営林署の衛生管理者の現場巡視強化、現場巡視要領の作成、レイノー現象訴え者経過表の備付けにより作業員の健康管理に努めるよう各営林局長を指導した。 (16) 昭和四一年ころから振動障害対策として作業基準の改善を行い、同年にはチエンソーの目立の正しい行い方の技能修得再研修を実施し、同年五月新たに小型造林機械取扱要領及び造林作業基準を定め、昭和四三年二月には同三五年制定施行の伐木造材作業基準及びチエンソー取扱要領を改定し、防振技能修得に役立たせた。 (17) 昭和四一年一〇月、前記(12)の人事院規則改正に伴い、チエンソー使用により公務上の疾病として認定及び補償する場合の取扱要領規程を制定してその通達を発し、同年一一月、認定作業は原則として営林局段階で処理することにする旨の通達を発した。ブッシュクリーナーの使用によるレイノー現象等振動障害については、同四三年九月の通達により、チエンソーの場合と同様に営林局段階で処理することにした。 (18) 昭和四二年八月、林業労働障害対策研究会の意見により「局所振動機械作業従事職員に対する健康診断の実施要領」を制定実施し、同年一〇月これを改定し、問診表の作成、運動系器の検査、神経系の検査及び精密検査等を検査項目に追加した。 - 12 -(19) 昭和四四年三月、寒冷期における寒冷感の防止又は局所振動軽減のため、休憩施設の整備、保温用具の備付け、耳栓の着用、体操、マッサージの励行等を各営林局長に指示し した。 - 12 -(19) 昭和四四年三月、寒冷期における寒冷感の防止又は局所振動軽減のため、休憩施設の整備、保温用具の備付け、耳栓の着用、体操、マッサージの励行等を各営林局長に指示し、同年度から防寒防振対策の一環として通勤バスを導入した。 (20) 昭和四四年五月、振動障害の予防、治療及び補償等についての総合的な調査研究を行い、諸対策を立てるための振動障害対策委員会を設置した。 (21) 昭和四一年から同四八年まで、振動障害の診断方法、予防、治療等の基礎資料を得るために、Af大学医学部、Q科学研究所、An病院、Ao病院等各種専門機関に調査研究を委託し、その結果報告書を逐次受け取った。 (三) チエンソーの使用実働時間については、従前ワンマンソー(一人で一台を使用)の場合で平均四時間余、ツーマンソー(二人で一台を交替使用)の場合で平均約二時間三〇分であったところ、昭和四〇年一一月九日、Dは、機械の使用を一日二時間三〇分、連続使用時間を三〇分に規制すること、機械一台を二人が交替制で使用すること(ツーマンソー制)、雇用を減少しないこと、安全が確保できないときは使用を中止することを申し入れる要求書を林野庁に提出したが、林野庁は、同月二九日、雇用については配置換え、職種換え等の措置をとるとしたほかは、他の申入れは受け入れられないとする回答を行った。その後も同四〇年一二月二四日から翌四一年七月一七日まで交渉が継続されたが、進展せず、その後同四四年四月四日、Dが林野庁に対し、振動病の予防対策として振動機械の使用は一日二時間以内、一か月四〇時間以内とし、ツーマンソー制、諸施設の完備、健康診断、臨時検診の実施、罹病者の機械使用中止と療養専念ができる施策の実行を要求したところ、林野庁は、同月一〇日、「操作時間をどの程度にす 内、一か月四〇時間以内とし、ツーマンソー制、諸施設の完備、健康診断、臨時検診の実施、罹病者の機械使用中止と療養専念ができる施策の実行を要求したところ、林野庁は、同月一〇日、「操作時間をどの程度にすべきかは医学的にも明らかでなく、究明する必要がありなお検討する。隔月ごとのチエンソー使用も考えるが、ツーマンソーは採用しない。諸施設は改善する。訴え者の臨時健康診断は行う。罹- 13 -病者も従来どおり業務に従事しながら療養させる。機械の使用は続ける。」との回答をし、これを巡って団体交渉が行われた結果、同月二六日、林野庁とDの間で、振動機械の使用時間を原則として一人一日二時間に規制することなどを内容とするいわゆるメモ確認がなされ、その後右四・二六確認中のチエンソー操作時間の解釈を巡って労使間で紛争が生じ、団体交渉を重ねた結果、同年一二月六日、両者の間で、振動機械の操作時間は一人一日二時間以内、月四〇時間を限度とし、連続操作日数は三日を超えないこと、一連続操作時間はチエンソー一〇分、ブッシュクリーナー三〇分を基準とすること、治療については、症状に応じて職種換え、機械の使用制限等を実施することとし、職種換えした場合の賃金補償は別に協定することなどを内容とする「振動障害に関する協定」が締結された。 (四) 右のように林野庁は、昭和四〇年以降振動障害認定者の職種換えを図る方針で対処してきたが、チエンソー等の振動機械を使用しない仕事に職種換えされた場合、従来の職種に比較して賃金が低下することから認定者側においてこの措置には消極的であったこともあり、このため必ずしも職種換えが進展しなかったので、林野庁は、同四四年一二月に職種換え以前の賃金のおおむね八五パーセントを補償することにし、これを同四七年には九五パーセント、同四八年六月には一〇〇パーセント め必ずしも職種換えが進展しなかったので、林野庁は、同四四年一二月に職種換え以前の賃金のおおむね八五パーセントを補償することにし、これを同四七年には九五パーセント、同四八年六月には一〇〇パーセントに改善し、職種換え以前の賃金が全額補償されることになった。 また、休業補償の点では、同四〇年当時は、国家公務員災害補償法一二条に基づき療養に要した日について平均給与額の六〇パーセントが支給され、同四一年七月以降は、人事院事務総長通達により休業援護金一〇パーセントが併せて支給されることになり、同四五年には右休業援護金が二〇パーセントに増額され、更に同四八年には、休業特別給制度の新設により、療養のため勤務できない日の賃金が一〇〇パーセント補償されることになった。 二ところで、被上告人は、国有林野事業遂行のため、伐木造材手又は機械造林- 14 -手として雇用していた上告人ら一二名にチエンソー等を提供して使用、操作させるについては、上告人ら一二名の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っているのであり、右安全配慮義務の具体的内容は、それが問題となる具体的状況等に応じて定まるべきものであるので(最高裁昭和四八年(オ)第三八三号同五〇年二月二五日第三小法廷判決・民集二九巻二号一四三頁参照)、本件の具体的状況のもとにおいて安全配慮義務違反の有無について検討することとする。 1 本件において上告人らは、被上告人たる国の林野庁が安全性を確認することなく国有林野事業にチエンソー等を実用導入し、万全の規制と予防措置を講ずることなく上告人ら一二名に使用、操作させ、チエンソー等の使用により多くの作業員に振動障害が発症し増悪の一途をたどっているにもかかわらず、その後もチエンソー等の使用中止の措置をとることなく使用を継続させた点、及 告人ら一二名に使用、操作させ、チエンソー等の使用により多くの作業員に振動障害が発症し増悪の一途をたどっているにもかかわらず、その後もチエンソー等の使用中止の措置をとることなく使用を継続させた点、及び昭和四四年までチエンソー等の使用時間を短縮制限しなかった点において、被上告人に安全配慮義務違反があると主張する。 2 しかして、右の各点について安全配慮義務違反があるとするには、その前提として、チエンソー等の使用によって振動障害の発症することを予見し得たものであることを要するところ、前示原審の確定するところによれば、(イ) さく岩機、鋲打機等による障害については、既に昭和四年までにドイツにおいて補償の対象とされ、わが国においても同二二年には労働基準法施行規則により職業病に指定されていたが、右さく岩機等はいずれも空気振動工具のうちの打撃振動工具に属するものであって、チエンソー等エンジン振動工具のうちの回転振動工具とは振動の性質、程度を異にするものである、(ロ) 戦前から昭和三八年ころまでに内外で発表された医学的知見は、いずれも空気振動工具と電気振動工具のうちの打撃振動工具と回転振動工具による振- 15 -動障害に関するものであり、チエンソー等のエンジン振動工具のうちの回転振動工具に言及したものはソ連の学者のものを除いてはなく、そのような工具は検討の対象外となっており、したがって内外の専門家の問題意識の外にあった(同三六年にソ連の学者はチエンソー使用による振動障害に言及しているが、それらは同四一年ころまではわが国に知られていなかった。)、(ハ) 昭和三一年当時チエンソーが広い範囲に使用されていた米国においてもそれによる振動障害やレイノー現象の訴えはなく、林野庁から派遣された林業機械の専門家であるAeも、さく岩機等による )、(ハ) 昭和三一年当時チエンソーが広い範囲に使用されていた米国においてもそれによる振動障害やレイノー現象の訴えはなく、林野庁から派遣された林業機械の専門家であるAeも、さく岩機等による振動障害は承知していたが、チエンソーとは振動の性質、程度が違うと認識していたため、チエンソー使用による振動障害発生については全く思い及ばなかった、(ニ) 昭和三四年農林省林業試験場経営部作業研究室ではチエンソー作業のアンケート調査を実施し、その結果に基づき、J及びKは調査内容の一部をそれぞれ専門誌等に発表しているが、調査内容自体は更に研究を重ねる必要があるとの認識で内部研究資料にとどめられ、林野庁等に連絡通知されず、また部外に公表されなかったものであって、このようにみると、右両名の発表は研究検討過程における内部の資料を使用してなされた私的な立場からの見解の表明にすぎず、したがって医学界、林野庁、D等の関心をひくに至らなかった、(ホ) その後昭和三六年一一月D長野地方本部から長野営林局に対し機械化によって作業員に肉体的影響が現われているとして調査、措置の要求があり、同三七年長野営林局は調査を実施したが、かつて手指の白ろう化や無感覚を経験したと訴えた者が一五名いたものの、調査時点でそのような症状が発現していると訴えた者は皆無であり、右一五名のうち三名については所属営林署からその原因は通勤のためのオートバイ運転にあると考えられる旨の報告があったなど、この調査の結果のみではチエンソー等使用による振動障害を深刻に受け止める事例が発見されな- 16 -かった、(ヘ) しかし、林野庁としてもD長野地方本部の申出、長野営林局の調査等の経過を踏まえ、チエンソー等を含む林業機械の使用が健康に与える影響の実態調査を行うことが必要であると考え -かった、(ヘ) しかし、林野庁としてもD長野地方本部の申出、長野営林局の調査等の経過を踏まえ、チエンソー等を含む林業機械の使用が健康に与える影響の実態調査を行うことが必要であると考え、昭和三八年一一月にQ科学研究所に委託して大規模なアンケート調査を実施し、その結果は同三九年夏ころまでには明らかになったが、それによると、全体に占める割合はわずかではあるものの、チエンソー等使用作業員の中にレイノー現象や指のしびれを訴える者のいることが判明したが、それらがチエンソー等の使用に基因するものか否か必ずしも明確ではなかった、(ト) 昭和三九年一二月S大学衛生学教室のTらは、Dから依頼を受けて翌四〇年一月まで長野営林局付知営林署管内の事業所につき調査を行い、同年五月、チエンソー使用作業員三〇名中一七名についてレイノー現象が発現している旨の調査の結果を発表し、これに先立つ同年三月二六日日本放送協会(NHK)がテレビの全国番組「現代の映像」で「白ろうの指」と題してチエンソー使用作業員のレイノー現象について放映し、そのため右Tらの調査結果と相まってこの問題が一挙に社会的注目を集めるに至った、(チ) 労働省は、昭和四〇年五月二八日付労働基準局長通達により、林業労働者のチエンソー使用による振動障害は業務上の疾病に含まれる旨示達した、(リ) 林野庁としても、その早急な対応に迫られ、昭和四〇年四月には人事院との間でチエンソー使用作業員のレイノー現象発症者につき個別的協議により公務上疾患の認定を受けることができる旨の協定をし、更に人事院規則の別表を改正していわゆる白ろう病につき公務災害の認定を受けられるよう人事院に働きかけるとともに人事院の行う作業に積極的に協力した、ということができる。 これらを総合すると、昭和四〇 の別表を改正していわゆる白ろう病につき公務災害の認定を受けられるよう人事院に働きかけるとともに人事院の行う作業に積極的に協力した、ということができる。 これらを総合すると、昭和四〇年までは、振動工具の継続使用による振動- 17 -障害に関する医学的知見は、空気振動工具と電気振動工具のうちの打撃振動工具と回転振動工具、特にさく岩機、鋲打機等に関するものがほとんどであって、エンジン振動工具のうちの回転振動工具に属するチエンソー等に関するものは僅少であったが、これらの知見と前記各種の調査の結果の積重ねを総合すれば、同年に至ってはじめて、チエンソー等の使用による振動障害を予見し得るに至ったというべきである。 3 したがって、昭和四〇年前は、右のようにチエンソー等使用による振動障害発症の予見可能性が否定される以上、予見可能性を前提とする結果回避義務を問題にする余地はなく、右時点前は被上告人の安全配慮義務違反を問うことはできない。 4 そこで、昭和四〇年に右予見可能性が生じたことを前提に、林野庁の行った施策等についてみるに、前示原審の確定するところによれば、同年前においては、チエンソー等の本格的導入に当たって、動力鋸作業試験委員会による機種性能の検討・作業実験の実施(同二七年)、チエンソーの現場での使用状況視察のための林業機械専門家の米国、カナダへの派遣(同三一年)、実験営林署におけるチエンソー等の機械作業の指導者養成訓練(同三二年)、林業試験場委託によるチエンソー等の作業方法ないし作業の標準工程策定に関する調査、実験研究(同三四年ころ)、これらに基づく伐木造材作業基準、チエンソー取扱要領の制定施行(同三五年)の施策等を行い、その後、長野営林局による「林業機械化に伴う職業病的傾向に対する調査」(同三七年)、長野営林局坂下 年ころ)、これらに基づく伐木造材作業基準、チエンソー取扱要領の制定施行(同三五年)の施策等を行い、その後、長野営林局による「林業機械化に伴う職業病的傾向に対する調査」(同三七年)、長野営林局坂下営林署におけるO病院長による診断(同三八年)、Q科学研究所に対する全国一斉のアンケート調査の委嘱(同年一一月)を実施しているが、右予見可能性が生じた同四〇年以降は、症状に応じて配置換え、職種換え等の施策を実施するとともに、第一回及び第二回の臨時健康診断、個別的協議による公務上疾患の認定についての人事院との協定、Q科学研究所に対するチ- 18 -エンソー等の使用によるレイノー現象発症等の実態調査の委託、Af大学Ag衛生研究室等に対する作業環境、作業意欲等に関する実態調査の委嘱、Ak研究会への参加、Al研究会の設置とその意見に基づく定期的健康診断の実施(以上、同四〇年)、営林局管理医と大学病院等との連携強化等を内容とする林野庁長官通達(同四一年三月)、営林署の衛生管理者の現場巡視強化等の指示、作業基準の改善(同四一年ころ以降)、公務上の疾病として認定及び補償する場合の取扱要領規程の制定(同年一〇月)、「局所振動機械作業従事職員に対する健康診断の実施要領」の制定(同四二年八月)、その検査項目の追加(同年一〇月)、職種換え作業員に対し職種換え以前の賃金を補償するための努力、罹患者に対する補償の実現など各般の措置を講ずる一方、同四一年から、人体に伝わる振動を従前のもの(約一〇G)の三分の一程度に減衰させた改良ハンドルのチエンソーを実用化し、高知営林局も、同四〇年末ころまでに独自に防振ハンドルを実用化したのであって、振動源であるチエンソー等の機械自体の改良にも努めており、同四四年にはチエンソー等の使用時間を一人一日二時間以内に規制する措置を打ち出してい 〇年末ころまでに独自に防振ハンドルを実用化したのであって、振動源であるチエンソー等の機械自体の改良にも努めており、同四四年にはチエンソー等の使用時間を一人一日二時間以内に規制する措置を打ち出しているなど、これら林野庁の行った一連の施策等を通じてみれば(同四〇年前の施策等も同年以降の施策等の基礎になっているものとして考慮し得る。)、同四〇年前のものからはもとより同年以降における医学的知見及び各種の調査研究の結果からも、必ずしも振動障害発症の回避のための的確な実施可能の具体的施策を策定しうる得る状況にあったとはいえない時期においては、林野庁としては振動障害発症の結果を回避するための相当な措置を講じてきたものということができ、これ以上の措置をとることを求めることは難きを強いるものというべきであるから、振動障害発症の結果回避義務の点において被上告人に安全配慮義務違反があるとはいえないというべきである。 以下、敷衍するに、戦後における科学技術の著しい発達に伴い、往時とは比較にならぬほど種々の形態の機械器具が開発、利用され、そのため我々の社会、- 19 -経済生活を営む上で各種の利便ないし利益を享受してきたが、それによってもたらされる危険もまた否定し得ない。社会、経済の進歩発展のため必要性、有益性が認められるがあるいは危険の可能性を内包するかもしれない機械器具については、その使用を禁止するのではなく、その使用を前提として、その使用から生ずる危険、損害の発生の可能性の有無に留意し、その発生を防止するための相当の手段方法を講ずることが要請されているというべきであるが、社会通念に照らし相当と評価される措置を講じたにもかかわらずなおかつ損害の発生をみるに至った場合には、結果回避義務に欠けるものとはいえないというべきである。 これを本件につ いうべきであるが、社会通念に照らし相当と評価される措置を講じたにもかかわらずなおかつ損害の発生をみるに至った場合には、結果回避義務に欠けるものとはいえないというべきである。 これを本件についてみれば、新しい形態の機械器具であるチエンソー等を導入したことは、当時の情勢からみて何らの落度もなく、むしろ作業員の肉体的負担の大幅な軽減のため必要であり、有用であったのであって、前示のようにチエンソー等の使用による振動障害発症の予見可能性が生じた昭和四〇年当時、チエンソー等は既に本格的に導入されていたのであるから、この段階においてその使用を中止するとすれば、林野庁の全国の職域に混乱を招き、林野行政に深刻な影響を与えることは明らかであり、他方、伐木造材等の作業員にとっても、林野庁にとっても、その使用によって現に肉体的負担の大隅な軽減、作業能率の飛躍的向上等の大きな利益がもたらされていたことを考えれば、チエンソー等は伐木造材、造林事業を円滑に遂行するための必要不可欠な機械としてその使用がしだいに定着したものと認められるのであって、このような見地からすれば、被上告人に振動障害を回避するためチエンソー等の使用自体を中止するまでの義務はないものといわざるを得ない。 そこで、チエンソー等の継続使用を前提として結果回避のための注意義務を検討すると、その注意義務は、チエンソー等は新たに採用された新しい形態の機械器具であり、国の内外の専門家の間でも被害発生の点につき十分な研究がなされていなかったなどの諸事情を勘案すれば、前述したところから明らかなように、社- 20 -会通念上相当と認められる措置を講ずれば足りると考えられるのであり、この点については前述したとおり振動障害の発生を防止するため各種の措置が講じられてきたのである。チエンソー等の継続使用に 20 -会通念上相当と認められる措置を講ずれば足りると考えられるのであり、この点については前述したとおり振動障害の発生を防止するため各種の措置が講じられてきたのである。チエンソー等の継続使用による振動障害の発生という事態はわが国においては過去に例がないため、その対策を検討するには原因究明のための科学的、医学的な調査研究が必要であり、その対策を樹立し、実施するには、右調査研究と相まって、作業体制、作業員の待遇その他の勤務環境、条件の整備、機械の改良等の各種の検討、試行を繰り返しながらある程度の期間をかけざるを得ないのであって、前記の措置が遅きに失しあるいは不十分であるとはいえない。例えば、チエンソー等の使用時間を一日二時間に短縮する措置は、昭和四四年に至ってはじめて実施されており、振動障害の発症を予見し得た時期から約四年を経過しているが、チエンソー等の使用時間と身体への影響の関係については当時科学的、医学的に解明がなされておらず、そのため林野庁はその調査研究等を各研究機関に委託していたものであり、使用時間の規制の基準及び規制のための所要措置についても、それらの調査研究の結果や多くの経験例を積み重ねるなどそれなりの資料の収集と根拠なくして安易に実施されるべきものでないことはいうまでもなく、更に、使用時間の規制が直接生産高に影饗し、使用時間を短縮された作業員の賃金の低下を補償するための予算的措置を講じなければならないなど背後に複雑困難な諸事情があることをも併せ考えれば、右程度の期間の経過もやむをえなかったものというべきである。 上告人らは、被上告人の義務違反として時間短縮措置の遅れをいうが、被害防止のためには時間短縮と並んで機械の改良が大きな要素をなしており、この点については、林野庁は昭和四〇年から直ちに改良の研究にとりかかり、これを逐次 人の義務違反として時間短縮措置の遅れをいうが、被害防止のためには時間短縮と並んで機械の改良が大きな要素をなしており、この点については、林野庁は昭和四〇年から直ちに改良の研究にとりかかり、これを逐次実施に移していったことは、前示のとおりである。 なお、チエンソー等の使用時間短縮が実施された昭和四四年以降振動障害の認定者数が減少しているが、それは、機械の改良、各種の調査研究を参考にした- 21 -諸施策、健康診断の実施、職種換えや使用時間短縮等の措置が総合的に作用してその効果を発揮したものといえるのであって、減少の原因をチエンソー等の使用時間の短縮のみに求め、短縮に至る経過期間の長さのみを取り上げて、振動障害回避の注意義務違反とすることはできない。 林野庁は、全国的に配置されたチエンソー等を使用する多数の作業員の健康問題、その中にあって振動障害を訴える作業員の健康回復のための具体的措置、更にはそれらの作業員の給与待遇問題などに考慮を巡らし、他方において林野行政の適正円滑な遂行に配慮するなど、総合的な観点からその対応策を順次実現に移していったものであって、このような観点から事実関係の経過をみれば、林野庁としてはその置かれた諸条件のもとにおいて、結果回避のための努力を尽くしていたと認められるのである。したがって、被上告人において安全配慮義務に違反するところはなく、債務不履行による損害賠償責任はこれを否定せざるをえないのである。 三以上のとおりであるから、原審の適法に確定した前記事実関係の下において、被上告人の安全配慮義務違反の債務不履行責任を否定した原審の判断は、結論において是認することができる。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は前提を欠く。また、原判決は、所論引用の判例と抵触するもので 履行責任を否定した原審の判断は、結論において是認することができる。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は前提を欠く。また、原判決は、所論引用の判例と抵触するものでもない。論旨は、採用することができない。 第二上告理由第三、第四について所論チエンソー等による振動障害の病像、症状、上告人ら一二名の個別の健康障害に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認するに足り、その過程に所論の違法があるとはいえず、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は前提を欠く。また、原判決は、所論引用の判例と抵触するものでもない。 論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰するものであって、採用することができない。 - 22 -第三上告理由第六の一について上告人らの国家賠償法二条に基づく公の営造物の設置又は管理の瑕疵を理由とする損害賠償請求は、原審の適法に確定した前記事実関係のもとにおいては、前記第一に説示したところに徴し、理由がないというべきであるから、これを棄却した原審の判断は結論において是認することができ、所論引用の判例と抵触するものでもない。論旨は、採用することができない。 第四その余の上告理由について所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認するに足り、その過程に所論の違法があるとはいえず、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は前提を欠く。論旨は、採用することができない。 第五結論よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官奧野久之の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 裁判官奧野久之の反対意見は、次のとおりである。 私は、被上告人には安全配慮義務違反による損害賠償責 三条に従い、裁判官奧野久之の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 裁判官奧野久之の反対意見は、次のとおりである。 私は、被上告人には安全配慮義務違反による損害賠償責任があるものと考える。 その理由は、以下のとおりである。 一いわゆる安全配慮義務の内容及び程度労働関係に伴う使用者の責務として労働者に対する安全配慮義務が存することは、今日広く承認されているところであるが、特に作業機械の使用による職業病の場合について考えると、その機械は労務給付に必要なものとして労務を提供する作業員にその使用が強制され、当該作業員にとっては選択の自由のないものであるから、使用者としては、(1) 先ず新規の機械を導入するに当たっては、作業員の心身に障害を発生させるおそれの有無、程度及び安全使用基準についてあらかじめ調査、確認することを必要とし、(2) 導入後不幸にして作業員の心身に障害を生ぜ- 23 -しめることが判明し、もしくはこれを予見し得ることとなった場合には、その障害の内容、程度並びにその機械の有用性及び必要性の程度に応じ、その機械の使用を廃し、あるいはその機械の使用を一時休止もしくは制限するなど、とりあえず障害の続発ないし増悪を防止すべき措置を講じつつ、その障害の態様及び原因を究明して当該機械の改良、使用基準の改善を図り、障害発生の防止並びに障害の被害を受けた者の救済につき、有効適切な対策を講ずべき義務があるものといわなければならない。 この理は公務遂行の上においても同様であって、国等の安全配慮義務が公務遂行の基本的かつ不可欠の前提をなすことは、多数意見の引用する当裁判所の判決の判示するところである。特に、作業員に使用を命ずる作業機械に安全上の欠陥があった場合は、公の営造物の設置管理に瑕疵があった場合にも比 的かつ不可欠の前提をなすことは、多数意見の引用する当裁判所の判決の判示するところである。特に、作業員に使用を命ずる作業機械に安全上の欠陥があった場合は、公の営造物の設置管理に瑕疵があった場合にも比肩すべきものであるから、国家賠償法二条一項のような無過失責任(最高裁昭和四二年(オ)第九二一号同四五年八月二〇日第一小法廷判決・民集二四巻九号一二六八頁参照)を認めることはできないとしても、それとの均衡上も極めて高度の責任を生ずるものというべきである。 原審は、労働に支障を生ずる程度以上の人身障害の発症が予見できる場合には機械の実用化を差し控えるべく、また、右程度の危険が発生した場合には危険を回避する義務があるというのであるが、障害が労働に支障を生ずる程度であるか否かは、それ自体極めて判別が困難であるばかりでなく、一般に職業病的疾患は、発症の初期には極く軽微なものであっても次第に蓄積、増悪して大事に至るものが多いのであるから、たまたま発症した時点において労働に支障を生ずる程度でなかったからといって、これを放置してよいということにはならない。よって、そのような不明確な基準を設けて安全配慮義務の内容ないし程度を事実上制限することは相当でないと思われる。 - 24 -なお、公務遂行上安全配慮義務の不履行により、作業員の身体に障害を生ぜしめたときは、多くの場合に公務上の災害に該当し、災害補償が給付されることとなるが、その場合でも事業主体である国等は、災害補償によって補填されない損害、例えば精神的損害に対する慰謝料については損害賠償責任を免れないものである(国家公務員災害補償法五条、地方公務員災害補償法五八条参照)。 二本件チエンソー等の導入について原審の確定した事実関係によると、林野庁は、伐木造材作業等の生産性の向上及び重筋労働から ある(国家公務員災害補償法五条、地方公務員災害補償法五八条参照)。 二本件チエンソー等の導入について原審の確定した事実関係によると、林野庁は、伐木造材作業等の生産性の向上及び重筋労働からの解放を図るため、昭和二八年「国有林野事業機械化促進要綱」によりチエンソーの試用導入を開始し、同三二年ころより次第に本格的に導入したのであるが、(1) これより先、同二二年にはすでに労働基準法施行規則三五条一一号により、業務上の疾病の一つとして、「さく岩機、鋲打機等」の使用により身体に著しい振動を与える業務による神経炎その他の疾病が指定されていたけれども、その補償事例は多くなく、(2) 右導入当時までには、わが国でチエンソー等エンジンによる回転振動工具の使用による振動障害を問題にした文献は見当たらず、(3) また導入に先立ち、同三一年Aeを米国及びカナダに派遣してチエンソーの現場作業を視察させたところでは、振動障害やレイノー現象等の訴えは聞かれなかった、(4) なお高知営林局管内においては同三四年一月D四国地方本部との間でチエンソーの実用化を合意しており、このような経過の後、林野庁は同三五年四月、伐木造材作業基準・チェンソー取扱要領を設けて耳栓の着用等を規定し、伐木造材作業を従来の手作業からチエンソーの使用に切り替え、また、ブッシュクリーナーについては同三五年ころから使用を開始し、翌三六年から本格的に導入するに至った。すなわち、チエンソー等は、さく岩機、鋲打機のような空気振動工具中の打撃振動工具とは違って、格別作業員の心身に障害を及ぼすことはないものと考え、特に安全性に関する調査研究を行わないまま、これを導入したのである。 - 25 -しかし、採用されたチエンソーは米国製であり、給油最大重量が約一〇・五ないし一二キログラムあり、ブッシュク 考え、特に安全性に関する調査研究を行わないまま、これを導入したのである。 - 25 -しかし、採用されたチエンソーは米国製であり、給油最大重量が約一〇・五ないし一二キログラムあり、ブッシュクリーナーもこれと同様のものであったから、作業員の体格の違うわが国で、しかも一般に標高もかなり高くかつ急斜面の少なくない国有林で使用するのは、それだけでも身体に相当の負担がかかると思われる上、振動約一〇Gで、約一一〇ホン(耳栓を着用しても八〇ホン以上)の騒音を発する機械であったから、これを相当時間継続して使用すれば心身に障害を生ずるおそれがあることは、当然予測し得るところであったといわなければならない。そして、振動工具としての類型が異なるため振動の性質や程度に差異はあるとしても、「さく岩機、鋲打機等」の使用による障害がすでに業務上疾病に指定されていたことは前記のとおりであるから、林野庁としては、本来独自に調査研究してチエンソー等の安全性ないし振動許容基準を確認した上で導入すべきであったと思われ、この点において先ず安全配慮義務を欠いていたものとみることもできないではない。 しかしながらその当時は、国有林生産力増強計画が策定されてその緒についたばかりの時期に当たっていたところ、山林作業員は却ってむしろその数が減少しつつあった上、老齢化等により労働力が質的にも低下する傾向にあったため、伐木造材作業等の能率を上げ、かつ、同作業に従事する作業員をそれまでの重筋労働から少しでも解放することが急務であったので、チエンソー等はその打開策として導入されたのであり、前記のようにこれを早くから使用していた先進諸外国においては格別心身に障害を生ずるものとして問題にされたこともなく、また、この問題に関しては見るべき医学的知見もなく、なお高知営林局管内ではDとの間で導入 のようにこれを早くから使用していた先進諸外国においては格別心身に障害を生ずるものとして問題にされたこともなく、また、この問題に関しては見るべき医学的知見もなく、なお高知営林局管内ではDとの間で導入について合意も成立していたのであるから、導入したこと自体につき安全配慮義務違反を問責することは相当でないというべきである。 もっとも、チエンソー等は前記のとおり、元来その使用態様いかんによっては作業員の心身に障害を生ぜしめるおそれのある機械であったのであるから、導入後- 26 -はそのような事象の有無、態様等につき常に意を用いる必要があったことはいうまでもない。原審の確定したところによると、農林省林業試験場経営部作業研究室は、チエンソーの導入開始後間もない昭和三四年、チエンソーを操作する作業員が肉体的負担のほかに、神経感覚的負荷の影響を受けるであろうことを予見して、振動・騒音による疲労症候等の実態調査を行い、その第三表には、かねてXが行った労働省委託研究の結果等を参考にして、「しびれ」「蒼白」「しびれと蒼白」「関節痛」「筋肉痛」の五症状を自覚症状項目に設定、掲記していたというのであるが、当然の措置であったとはいえ、右の意味で極めて高く評価すべき事柄であったといわなければならない。 三チエンソー等の使用による振動障害が職業病と認められるまでの経緯について原審の確定した事実関係によると、(1) 前記アンケート調査の結果の一部は昭和三四年中より雑誌「林業機械化情報」に連載され、その中でKはしびれ、蒼白現象につき、回答の内訳、発症する部位及び発症の由来を説明するとともに、機械本体の改良はもちろんのこと、それ以前に騒音、振動の身体に及ぼす影響、障害の現れ方、進行程度を確実に調査して作業方式、作業者の交替制等の対策を立てる必要があることな 症の由来を説明するとともに、機械本体の改良はもちろんのこと、それ以前に騒音、振動の身体に及ぼす影響、障害の現れ方、進行程度を確実に調査して作業方式、作業者の交替制等の対策を立てる必要があることなどを論じた、(2) 翌三五年ころ以降、振動障害に関する医学的知見が相当数発表されたが、そのうちNは、同三六年、局所振動工具の使用者の振動による疾患は、欧米では一般に局所的疾患とされており、全身に影響が及んだ結果として症状が身体の一部に特にはっきりと現れる全身疾患であるとは考えられていないが、ソ連の学者の中には全身性の疾患であるとする者がいるとしてIの文献を紹介し、入手不能であるが、良書であるので和訳が望まれるとした、(3) 同年一一月にはD長野地方本部が、作業員に眼、耳、心臓の病気や神経痛、関節痛等の影響が現れていることを指摘して、長野営林局に対し調査、措置要求をするに至った、- 27 -(4) 同三七年一一月にはJは「林業機械概論」において、チエンソー等による振動障害を論じた、(5) 長野営林局は同年一二月「林業機械化に伴う職業病的傾向に対する調査」を行ったほか、これとは別に同三八年ころまでに「機械又は除草剤等の使用により異常を訴えた者の調査」を実施した。(6) 同三八年一一月林野庁は、Q科学研究所に委嘱して、各種林業機械作業従事者に対する全国一斉アンケート調査を実施した結果、翌三九年夏ころまでに、チエンソー等の使用者に相当数のレイノー現象や指のしびれ症状が発現していることが判明した、(7) 同四〇年三月NHKテレビが「白ろうの指」と題してチエンソー使用者の手指の蒼白発作について全国に放映したところから、「白蝋病」として一躍社会の注目を集め、(8)S大学のTらは、Dの依頼による現地調査の結果に基づき、同年五月U衛生学会でチエンソー使用に ー使用者の手指の蒼白発作について全国に放映したところから、「白蝋病」として一躍社会の注目を集め、(8)S大学のTらは、Dの依頼による現地調査の結果に基づき、同年五月U衛生学会でチエンソー使用による蒼白現象について発表し、(9) 林野庁でも同年三月ころから五月ころまでの間臨時健康診断を実施し、同年四月人事院との間でレイノー現象の発症者につき個別的協議により公務上疾患の認定を受けることができる旨の協定を締結し、その結果高知営林局管内でも一五名が公務上疾患と認定されることとなり、(10) 労働省は沼田営林署管内で白指発作を調査した結果、同年五月二八日付労働基準局長通達により、労働基準法施行規則三五条一一号の「さく岩機、鋲打機等」にチエンソーを含めて取り扱うこととし、(11) 人事院もまた、Ak研究会の答申を受けて、同四一年七月人事院規則一六ー〇(職員の災害補償)、一〇条別表第一の番号四四を改正し、「チエンソー等の身体に局部的振動を与える機械を使用する公務」による「レイノー現象」等の疾患を追加するに至った。 原審は右の経過につき、林野庁は、チエンソーの導入後昭和三六年ころまでは、作業員の身体に何らかの障害が生ずることのある可能性を全く予見できなかったと認めることはできないが、障害の性質、程度、どういう人に発症しやすいか等まで予見できたとは認められないから、この当時特別の配慮措置をしなかったこと等を- 28 -安全配慮義務の不履行であるとすることはできないという。しかし、安全配慮義務の具体的内容が、心身に及ぼす影響に対する認識ないし予見可能性の内容及び程度に応じて決せられるべきものであることはいうまでもないが、右のように障害の性質、程度等についてまで予見可能でなければ一切の安全配慮義務が生じないとするのは相当でないから、原審の右の考え方 容及び程度に応じて決せられるべきものであることはいうまでもないが、右のように障害の性質、程度等についてまで予見可能でなければ一切の安全配慮義務が生じないとするのは相当でないから、原審の右の考え方には賛成できない。そして右の事実関係からすれば、同三五、六年ころには現実に相当数の作業員にチエンソーの使用による初期的症状がみられたものと考えられ、すでにアンケート調査も行われていたのであるから、現場作業を直接管理している林野庁は、そのころには、チエンソー等の使用によりある程度の確率をもって蒼白現象その他の障害が発生することにつき、十分予見可能であったものといわなければならない。 もっとも、前記のような導入の契機となった事情をも考えると、右の程度の予見により直ちにチエンソー等の使用を一般に廃止もしくは停止すべき安全配慮義務が生じたとすることは相当でなく、対応策を策定する前提として、先ず発症の確率、病像等についての調査研究を進めることが当面の最重要課題であったと思われ、林野庁もこのころから諸種のアンケート調査を行っていることは前記のとおりである。 しかしながらチエンソー等は、元来これを使用する態様いかんによっては作業員の心身に障害を及ぼすおそれのある機械であったのであるから、その導入使用の結果、たとえ事例は少なくてもそのおそれが現実のものとなった以上、単に調査研究を進めあるいは症状を訴えた者を管理医に受診させるだけでは十分とはいえない。前記のとおりすでに昭和三四年には農林省の一部職員が発症の状況等についての説明とともに、対応策にも触れた論文を雑誌に発表していたのであり、同三六年一一月にはD長野地方本部から長野営林局に対してではあるが、具体的症状を指摘した措置要求も出され、また同三七年には振動障害に論及した「林業機械概論」の出版もあったのである していたのであり、同三六年一一月にはD長野地方本部から長野営林局に対してではあるが、具体的症状を指摘した措置要求も出され、また同三七年には振動障害に論及した「林業機械概論」の出版もあったのであるから、とりあえずある範囲、程度の使用制限を行いつつ経過を観察す- 29 -るなど、障害の発生を予防、軽減するための具体的方策についても直ちに立案、検討に着手すべきであったと考えられる。ところが原審の確定したところによると、同三四年に行われたアンケート調査の結果は内部資料にとどめられて公表されず、その調査結果に基づく右論文や著書も林野庁等の注目を惹くに至らなかったというのであるが、そのこと自体この当時の農林省ないし林野庁のこの種問題に対する取組の姿勢を最も有力に物語るものであり、右のような応急の具体的方策は全く立案も検討も行われなかったのである。 もとより作業員一般を対象とする使用頻度、継続使用時間、連続作業日数等にわたる使用制限については、一面障害発生の確率、発生する障害の内容、程度等の解明結果いかんにかかわることでもあり、他面作業員の労働条件とも関係するところがあるので、その具体的方策の策定並びにその実施のための条件整備に若干の時日を要することは当然であるが、その後次第に職業病的性格が明らかになり、特に使用者の立場にある林野庁においてはいち早くその状況を察知できた筈であるから、遅くとも昭和三八年ころまでには、機械の改良、使用基準の見直しとともに時間制限を含む使用制限に関する具体的方策が策定され、実施に移されてしかるべきであったものと思われる。 しかるに林野庁は、昭和四〇年までは実態調査以外格別の対策を講ずることなく推移し、原審の確定した事実関係によると、(1) 同四〇年にはチエンソー作業員の臨時健康診断を行い、人事院との協定によりレ しかるに林野庁は、昭和四〇年までは実態調査以外格別の対策を講ずることなく推移し、原審の確定した事実関係によると、(1) 同四〇年にはチエンソー作業員の臨時健康診断を行い、人事院との協定によりレイノー現象発症者が公務上疾患の認定を受け得る途を拓き、(2) 同年ころ以降更に実態調査を行い、(3) 同四一年には管理医体制等の充実を図るとともに、作業基準の改善等を行い、(4) 機械の改良については同四〇年ころから研究に着手し、高知営林局管内でも同年末ころ防振ハンドルを実用化し、同四五年三月までにチエンソー等をすべて防振型(振動約三G)の中小型機に切り替え、(5) 同四四年には通勤バスを導入する等寒冷- 30 -期対策を実施するなど、徐々に対応策を強化拡充し、(6) 使用実働時間の制限については、同四〇年一一月Dから具体的要求があった後も医学的知見の不足等を理由として拒否を続けたが、同四四年四月の「メモ確認」及び同年一二月の「振動障害に関する協定」締結により一転して実施するに至り、これらの対策の結果として同年度以降振動障害の認定患者数の減少をみることとなったのである。 四被上告人の安全配慮義務違反について以上を要約すると、被上告人は、昭和三二年ころ以降国有林野事業の生産性の向上と、作業員の重筋労働からの解放を目的として、振動工具の一種であるチエンソー等を、その安全性ないし安全使用基準についてあらかじめ調査研究しないままこれを導入したのであるから、導入後チエンソー等の使用により作業員の心身に障害の発生することが予見可能となったときは、速やかにその実態を調査して障害の発生を防止すべき方策を策定する必要があることはいうまでもないが、それらの調査研究の結果が判明し、もしくは対策が確立する以前においても、チエンソー等の使用を継続する以上は、 その実態を調査して障害の発生を防止すべき方策を策定する必要があることはいうまでもないが、それらの調査研究の結果が判明し、もしくは対策が確立する以前においても、チエンソー等の使用を継続する以上は、時間制限を含む使用制限により、とりあえず発症を抑止しもしくは軽減する措置を講ずべき安全配慮義務があったものと解せられるところ、国有林野事業の管理運営に直接携わる林野庁においては、遅くとも同三五、六年ころまでには上記障害の発生を予見し得る状況にあり、したがって遅くとも同三八年ころまでには機械の改良に着手するほか、応急の対策としてチエンソー等の使用制限の方策を策定、実施すべきであったにもかかわらず、安全配慮義務に違反して同四〇年ころまでは実態調査以外にみるべき対応を示さず、殊に最も簡便に実施することができ、しかも最も直截的な効果が期待できる使用実働時間の制限に至っては同四四年までこれを実施しようとしなかったのである。 そして、原審の確定したところによると、上告人ら一二名(多数意見の定義するところによる。)のうち亡Gがブッシュクリーナーの使用を開始したのは昭和三- 31 -九年六月であるが、その余の者はいずれも同三四年五月から同三六年八月までにチエンソーの使用を開始し、最終的に使用を終了したのは、亡Gが同四四年九月、亡Eが同三八年一〇月、その余の一〇名は同四〇年ないし同四五年であり、上告人ら一二名はいずれも同三七年一一月ころから同四四年三月ころまでに最初の発症を訴え、そして上告人A5は前記人事院との個別協議により、その余の者はいずれも前記人事院規則の改正後退職の前後に、公務上疾患の認定を受け、その後災害補償を受給している。よって、上告人ら一二名の本件振動障害については、被上告人の安全配慮義務違反がその発症又は増悪を招来したものと認めることができ 正後退職の前後に、公務上疾患の認定を受け、その後災害補償を受給している。よって、上告人ら一二名の本件振動障害については、被上告人の安全配慮義務違反がその発症又は増悪を招来したものと認めることができる。 多数意見は、先ず昭和四〇年ころまではチエンソー等の使用による振動障害の発生につき被上告人には予見可能性がなかったとし、次いで振動障害の発生が予見可能となった後においても、チエンソー等が社会的に有用であってその使用を継続する必要がある以上、障害の発生を防止するため社会通念上相当と認められる適切妥当な措置を講ずれば足るものであるところ、その当時なお科学的、あるいは医学的な調査研究が十分でなかったこと等に徴し、林野庁のとった措置は振動障害の結果を回避するための相当な措置であって、これ以上の措置をとることを求めるのは驚きを強いるものであるとし、使用時間の制限を同四四年まで行わなかったことも遅きに失したものとはいえず、その他林野庁としては、その置かれた諸条件のもとにおいて結果回避の努力を尽くしたものであるから、何ら安全配慮義務に欠けるところはなかったというのである。 しかし、いかに社会的に有用な機械であっても、これを使用する作業員の心身に及ぼす影響を軽視してよいわけはなく、右の考え方には、チエンソー等が元々使用態様いかんによっては作業員の心身に障害を及ぼす可能性のある振動工具の一種であったのであるから、これを作業員に使用させる以上、障害を及ぼすことのないよう常に注意を怠らないことが必要であったこと、並びに、直接事業の執行に当た- 32 -る林野庁としては、作業機械のことは別にしても、作業の態様が作業員の健康状態に与える影響については不断に留意する必要があり、また、他の何人よりも早期にかつ的確にその状況を把握し得る立場にあったこと、の視点が としては、作業機械のことは別にしても、作業の態様が作業員の健康状態に与える影響については不断に留意する必要があり、また、他の何人よりも早期にかつ的確にその状況を把握し得る立場にあったこと、の視点が欠落しているように思われる。そして、前記のように障害の発生が予見可能となったと考えられるころから国有林野の木材供給量が漸増し、昭和三九年度においてそのピークに達して国内産の三四%を占めるに至ったと認められることは注目に値するところであり、これが上告人ら一二名を含む振動障害被害者の犠牲において達成されたものでなければ幸いである。 五結論以上のとおり、私は、被上告人は安全配慮義務に違反し、よって上告人らに対し損害賠償義務を負うべきものと考えるので、その点で原審は法令の解釈適用を誤ったものであり、その違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その限りにおいて上告論旨は理由がある。よって、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして本件は、各上告人の損害につき更に審理を尽くす必要があるので、これを原審に差し戻すべきものと思料する。 最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官草場良八裁判官藤島昭裁判官香川保一裁判官奧野久之裁判官中島敏次郎- 33 -
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