平成14年(わ)第2921号,平成15年(わ)第589号特別公務員暴行陵虐致傷,特別公務員暴行陵虐致死幇助被告事件 主文 被告人を懲役2年に処する。 未決勾留日数中90日をその刑に算入する。 この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 (犯罪事実)被告人は,愛知県西加茂郡a町b丁目c番地所在の甲刑務所に刑務官として勤務し,平成13年4月からは,副看守長として,被収容者の処遇,戒護及び規律維持等の職務を担当していたが第1 同刑務所において同様の職務を担当していた副看守長であるAが,平成13年12月14日午後2時20分ころ,同刑務所保護房第2室において,同所に収容されていた懲役受刑者のB(当時43歳)に対し,その必要がないのに,同人の肛門部を目掛け,消防用ホースを用いて多量に放水する暴行を加え,肛門部裂創,直腸裂開の傷害を負わせ,よって,同月15日午前3時1分ころ,同刑務所病室棟集中治療室において,同人を直腸裂開に基づく細菌性ショックにより死亡させる犯行を行ったのに先立ち,前記保護房内及び前記Bの身体等に付着した汚物を除去する目的で同保護房内に立ち入った際,前記Aが前記Bの身体に対して前記のとおり放水する可能性があることを認識しながら,同人をうつ伏せにした上,同人のズボン等を引き下ろすなどし,もって,前記Aの犯行を容易にしてこれを幇助した。 第2 同刑務所において被告人と同様の職務を担当していた看守長であるC,副看守長であるDらと共謀の上,同刑務所に収容されていた懲役受刑者のEが,かねてから反抗的態度を示しているとして,平成14年9月25日午前8時15分ころから午前9時45分ころまでの間,同刑務所保護房第2室において,その必要がないのに,前記E(当時30歳)に対し,その腹部に革手錠(平成15年押第 しているとして,平成14年9月25日午前8時15分ころから午前9時45分ころまでの間,同刑務所保護房第2室において,その必要がないのに,前記E(当時30歳)に対し,その腹部に革手錠(平成15年押第66号の1)のベルトを巻き付けて強く締め付け,腹部を強く圧迫するなどの暴行を加え,よって,同人に加療約70日間を要する外傷性腸間膜損傷等の傷害を負わせた。 (事実認定の補足説明)判示第1の事実について,弁護人は,A副看守長が,Bの肛門部を目掛け,消防用ホースを用いて,多量に放水する暴行を加え,肛門部裂創等の傷害を負わせたこと,これに先立ち,被告人が,Bをうつ伏せにした上,同人のズボンを引き下ろすなどしたことは間違いないが,被告人の行為は,Bを着替えさせ,転房させるためであり,Aの犯行を容易にしてこれを幇助したか否か疑問があり,また,Bをうつ伏せにした上,同人のズボンを引き下ろすなどした際,AがBに直接放水して暴行を加えるということを被告人は予測しておらず,幇助の意思もなかったのであるから,被告人は無罪である旨主張する。そして,被告人も,公判廷において,弁護人の主張に沿う供述をする。 そこで,前記のとおり認定した理由を補足して説明する。 1 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 ■ Bは,平成10年2月23日,東京地方裁判所において,強盗罪により懲役5年5月に処せられ,平成11年11月11日,服役していた乙刑務所から甲刑務所に移送された。Bは,甲刑務所において,独居房に収容されていたが,刑務官の指示にほとんど従うことなく,暴言を吐くなどして反抗し,刑務官に対し,食器等を投げ付けるなどの行為を繰り返えし,時には糞尿を浴びせたこともあった。そのため,いわゆる処遇困難者と評価されており,その言動等によって度々保護房に収容されていた。Bは,保護房 刑務官に対し,食器等を投げ付けるなどの行為を繰り返えし,時には糞尿を浴びせたこともあった。そのため,いわゆる処遇困難者と評価されており,その言動等によって度々保護房に収容されていた。Bは,保護房に収容されても,保護房の監視孔をちり紙でふさいだり,天井に据え付けられた監視カメラに食べ物や大便を投げ付けて視察できないようにし,また,食べ物や糞尿を房内にまき散らすなどして汚損したり,引き裂いた枕や布団等を保護房内の便器に入れて詰まらせるなどしていた。 保護房の汚損が著しくなると,Bを隣の保護房に移し,舎房区の刑務官(矯正処遇官)が受刑者の衛生夫を使って汚損された保護房を清掃していたが,Bを転房させるため保護房内に入った刑務官に対し,Bが,コップに入れた糞尿などを浴びせることがあった上,水道用ホースで保護房内に水をまき,モップ等で拭くなどの通常の清掃方法では保護房の汚れを容易に拭き取ることができず,清掃に多くの時間を費やしていた。 ■ Bは,平成13年11月22日,刑務官の指示に従わないで大声を発し続けた上,刑務官に詰め寄り,制圧された後も暴言を吐いて暴れ続けたため,保護房第1室に収容された。保護房に収容された後,Bは,監視孔をちり紙等でふさぐなどし,保護房内を視察できなくした。 ■ 同月27日に法務省巡閲官による甲刑務所に対する巡閲が予定されていたため,それに先立ち,同刑務所処遇部処遇部門の舎房区担当の統括矯正処遇官であるF看守長は,舎房区担当の被告人及びG看守部長に対し,Bが収容されている保護房第1室を視察可能な状態にするように指示した。同月27日,法務省巡閲官による巡閲が行われる直前,被告人は,F,Gらとともに,保護房第1室内を清掃するため同室内に入ろうとしたが,Bから汚物を浴びせかけられるなどしたため,清掃することができず,結局,巡 日,法務省巡閲官による巡閲が行われる直前,被告人は,F,Gらとともに,保護房第1室内を清掃するため同室内に入ろうとしたが,Bから汚物を浴びせかけられるなどしたため,清掃することができず,結局,巡閲の際,同室内を視察することができなかった。 ■ そのころ,Fは,H首席矯正処遇官から,「Bの保護房がずいぶん汚れているから,転房させて,清掃しておくように。」「消火ホースを使ってもよいから,きれいにしておくように。」「Bが房から出てこなければ,そのまま房内に向かって放水しても仕方ないだろう。そうすれば,Bだって,ひるむだろうから,その隙に制圧して転房させればよいだろう。Bにも少しくらい水がかかってしまうのは仕方がないが,ただ,その後は風呂にでも入れてやれ。」「舎房区と警備隊が協力してやるように。」と指示された。Fは,舎房区を担当する刑務官である被告人やGらにHの指示を伝え,「水がかかったらアフターケアをちゃんとやれ。濡れたら必ず身体を拭いて着替えもさせろ。」と言った。 また,甲刑務所処遇部処遇部門の警備担当の統括矯正処遇官I看守長も,Hから,「舎房区が苦労しとる。Bが,保護房の中を汚したような時に,警備隊が消火ホースを出して洗うのを手伝ってやれ。」「暴れたり抵抗したりしたときは,少しくらい水がかかるのは仕方がない。ただし,直接身体にはかけるな。」などと言われた。 Fは,Iとの間で,Bの転房の際,消防用ホースを使って放水すること,保護房内に向けて放水し,Bがひるんだ隙に転房させること,警備隊が舎房区の応援をすることなどの打合せをした。 その後,Iは,警備隊に属していたA及びJ看守部長に対し,「放水は警備隊がすることになった。ノズルは警備隊が持て。どちらかがやれ。Bに直接かけるようなことはするな。向かってきたり抵抗したりしたときには少しくらいかか 備隊に属していたA及びJ看守部長に対し,「放水は警備隊がすることになった。ノズルは警備隊が持て。どちらかがやれ。Bに直接かけるようなことはするな。向かってきたり抵抗したりしたときには少しくらいかかるのはやむを得ないが,その時は足下などを狙い,身体に水を直接かけるようなことはするな。」と指示した。 ■ 同月28日,被告人は,Bを保護房第1室から同第2室に移すため,Gのほか,A,Jら警備隊の応援職員等とともに,保護房第1室に赴いた。被告人は,当日,上司の指示により,放水を担当することになり,保護房第1室の扉が開くと同時に,屋外消火栓に接続した消防用ホースを用いて保護房内に放水した。被告人が放水を止めると,他の刑務官が同室内に入り,尿の入ったコップを投げ付けるなどして抵抗するBを制圧した上で,同人を保護房第2室に移した。そして,同室において,Bの衣服を脱がせ,同人の身体を拭き,乾いた衣服を着せるなどして,同室に収容したが,同日夕方には,Bを保護房第2室から同第1室に戻した。 ■ その後も,Bが,保護房第1室において,監視孔や監視カメラにちり紙等を貼ったり,同室内に残飯や汚物をまき散らすなどしたため,同年12月5日,Bを保護房第2室に再び移すことになった。被告人は,Gのほか,A,Jら警備隊の応援職員等とともに,保護房第1室に赴いた。そして,前回と同様,被告人は,放水を担当し,保護房の扉が開くと同時に,消防用ホースを用いて保護房内の天井等に向けて放水し,その後,抵抗するBを制圧するなどした上で,同人を保護房第2室に移した。 Bは,同月7日,保護房収容を解除されたが,翌8日,大声を発したとして,保護房第2室に収容された。 ■ Bは,保護房第2室に収容された後,同室の監視孔や監視カメラにちり紙等を貼ったり,同室内に残飯や汚物をまき散らすなどした。このた されたが,翌8日,大声を発したとして,保護房第2室に収容された。 ■ Bは,保護房第2室に収容された後,同室の監視孔や監視カメラにちり紙等を貼ったり,同室内に残飯や汚物をまき散らすなどした。このため,同月10日,Bを保護房第1室に移すことになった。被告人は,Gのほか,A,Jら警備隊の応援職員等とともに,保護房第2室に赴いた。当日は,Aが,自分が放水する旨申し出たことから,同人が放水を担当することになった。Aは,保護房の扉が開くと同時に,消防用ホースを用いて保護房内の天井あるいは床に向けて放水した。Aがいったん放水を止めた後,GやJらが保護房内に入り,Bの頭を保護房の奥に向けて床にうつ伏せにし,制圧した。 Bの服を脱がせ始めた刑務官が,Bのズボン等を引き下ろして,同人の尻に便が付いている旨言ったところ,Aが,Bの肛門部付近等に放水したため,Bは,痛がり,身体をよじるなどして放水から逃れようとし,痛そうな叫び声を上げたり,放水を止めるよう大声で頼んでいた。その後,Bは,保護房第1室に移された。 ■ Bは,革手錠を施用されて保護房第1室に収容されたが,大小便を室内にまき散らしたため,同月11日,保護房第2室に移され,その際,革手錠は解除された。この革手錠の解除,転房のため刑務官が保護房内に入った際,消防用ホースを用いて保護房内への放水が行われたが,短時間で終わり,Bの身体に向けての放水はなかった。 ■ Bは,保護房第2室に収容された後,同室の監視孔や監視カメラをふさぐなどして視察を不能にしたり,同室内に残飯や汚物をまき散らすなどした。このため,Bは,同月12日,保護房第1室に移された。その際,Jが消防用ホースを用いて保護房内の天井等に向けて放水した後,被告人及び他の刑務官が同室内に入り,布団をかぶって横になって寝ていたBをうつ伏せにし,押さえ付 12日,保護房第1室に移された。その際,Jが消防用ホースを用いて保護房内の天井等に向けて放水した後,被告人及び他の刑務官が同室内に入り,布団をかぶって横になって寝ていたBをうつ伏せにし,押さえ付けて制圧するなどした。 ■ Bは,革手錠を施用されて保護房第1室に収容されていたが,同月13日,保護房第2室に移されることになった。被告人は,Gのほか,Aら警備隊の応援職員等とともに,保護房第1室に赴いたが,当日は,Aが放水を担当した。Aは,消防用ホースを用いてノズルを絞った状態で保護房内に向けて放水した。放水は,最初の30秒くらいは,床に向けてなされたが,その後は,革手錠を施用されて保護房の中央辺りに座っていたBの顔面や胸辺りに向けてなされ,水を当てられたBは,「馬鹿野郎。やめろ。」などと叫んでいた。放水が止むと,被告人は,他の刑務官らと保護房内に入り,Bの革手錠を外し,ハサミを使ってBの着衣を引き裂いて全裸にし,Bを身動きできない状態に押さえ付けながら,着替えさせ,再度,革手錠を施用した上で,保護房第2室に移した。転房後,片付けをしている際に,Aは,他の看守に,「保護房だと風呂に入れんからな。」と言い,また,被告人も,「普通は保護房に入れて革手錠をするとおとなしくなるんだけど。Bは直らないから。」と言った。 ■ Bは,同日中に革手錠を外されたが,監視孔にちり紙を貼り付けるなどして視察を不能にした。このため,同月14日,Bを転房させることになった。 同日午後2時ころ,被告人は,Gのほか,A,Jら警備隊の応援職員等とともに,保護房第2室に赴いた。Aが,保護房前で,消防用ホースのノズルを手にして,自分が放水する旨申し出たことから,同人が放水を担当することになった。そして,同日午後2時20分ころ,Aは,保護房第2室の扉が開くと同時に,消防用ホースのノ 護房前で,消防用ホースのノズルを手にして,自分が放水する旨申し出たことから,同人が放水を担当することになった。そして,同日午後2時20分ころ,Aは,保護房第2室の扉が開くと同時に,消防用ホースのノズル先端部分から水を直線状に出して,保護房内の奥の壁,左右の壁,天井等に向けて放水し,さらに,布団に横たわり掛け布団を頭の方までかぶっていたBに向けて放水した。Aが放水を止めると,被告人は,Jらとともに同室内に入り,保護房の中央やや扉よりのところで布団を頭までかぶって仰向けに寝ていたBを,布団の上から床に下ろした後,Jとともに,保護房のほぼ中央で,Bの足が出入口に向いた状態でうつ伏せにして押さえ付けた。そして,被告人は,Bの服を脱がせ始め,Bの身体を押さえたまま,Jと一緒にBのズボン,パンツを引き下ろし,Bの臀部がむき出しになった。このとき,Bの肛門部付近に大便や血は付着しておらず,Bが履いていたパンツにも血は付いていなかった。 被告人は,Bの臀部に便が付いていないことを確認すると,すぐ傍に立っていたAの方に顔を向け,「ないですね。」と言った。しかし,Aは,「やっとこうか。」と言うと,保護房の出入口付近から,消防用ホースのノズルをやや下方向に向け,Bの肛門部を目掛け,至近距離(約1メートルないし約1.5メートル)から放水した。Bの身体から放水がいったん逸れた際,Jは,Bの肛門部の方から太股内側に血が垂れているのを認め,放水を止めさせた。 ■ その後,Bは,保護房第1室に移され,保護房内での診察の結果,Bの肛門部に裂創が認められた。 Bは,甲刑務所病室棟に運ばれ,肛門部裂創の止血,縫合手術を受けたが,同日午後7時5分ころには,血圧が低下し,低体温で測定不能となり,翌15日午前1時5分ころには,脈拍数が低下し,血圧が測定不能となって,心停止に至 室棟に運ばれ,肛門部裂創の止血,縫合手術を受けたが,同日午後7時5分ころには,血圧が低下し,低体温で測定不能となり,翌15日午前1時5分ころには,脈拍数が低下し,血圧が測定不能となって,心停止に至り,同日午前3時1分,死亡が確認された。 同月17日,Bの遺体の司法解剖が行われ,肛門出口から約11センチメートルの直腸に約5センチメートルの裂開が認められ,その際,死因について,直腸裂開によって生じた汎発性腹膜炎と判断された。 2 被告人の行為が,客観的に幇助行為に当たるか否かについて■ 前記認定事実から,平成13年12月14日(以下,「放水事件当日」ともいう),AがBの肛門部を目掛け,消防用ホースを用いて放水したこと,放水直前にはBの肛門部からの出血はなかったこと,放水直後,Bの肛門部から出血したこと,放水後の医師の診察により肛門部に裂創が確認されたことが認められ,AがBの肛門部に放水したことにより,肛門部裂創の傷害結果が生じたことは明らかである。また,鑑定書謄本によれば,Bの遺体に認められた肛門部裂創と直腸裂開は,表面が滑らかな棒状の鈍体が肛門から直腸上部に向かって一気に挿入されるということによって生じたものであり,これらの創傷は,Bに対する放水と同様の条件で行われた豚を用いた放水実験からみて,Bの肛門部に対する放水によって生じ得るし,Bの腹腔内に約1200ミリリットルという多量の腹水が存在し,また,Bの身体内に著明な溶血現象が生じていた可能性が高いことから,放水によってBの腹腔内に多量の水が侵入した可能性があるというのである。そうすると,AがBの肛門部に放水したことにより,同人の死因につながる直腸裂開の傷害結果が生じたものと認められる。 そして,保護房に収容された受刑者の肛門部を目掛け,消防用ホースを用いて至近距離から多量に放水する Bの肛門部に放水したことにより,同人の死因につながる直腸裂開の傷害結果が生じたものと認められる。 そして,保護房に収容された受刑者の肛門部を目掛け,消防用ホースを用いて至近距離から多量に放水することが,刑務官の正当な職務行為に該当せず,違法な有形力の行使であることは明らかである。AがBの肛門部を目掛け,消防用ホースを用いて多量に放水し,同人に肛門部裂創及び直腸裂開の傷害を負わせ,よって,同人を死亡させた行為は特別公務員暴行陵虐致死罪に当たる。 ■ そして,Aの放水に先立ち,被告人がBをうつ伏せにした上,同人のズボン等を引き下ろすことにより,肛門部へ直接放水することが客観的に可能になったものであり,また,消防用ホースを用いて身体に向けて放水がなされる場合に,裸の状態か否かで,身体に対する危険に明らかに差があると容易に推認することができる。したがって,Aの放水に先立ち,Bのズボン等を引き下ろすなどした被告人の行為は,肛門部への放水を容易にし,本件致傷の結果の発生を促進したものと評価することができるから,幇助行為に当たる。 3 被告人が幇助の故意を有していたか否かについて■ 被告人は,放水事件当日までに,Bを他の保護房に移す際の消防用ホースを用いた6回にわたる放水にすべて立ち会っているところ,平成13年12月10日及び同月13日のAによる放水の際,同人が,Bの身体に向けて直接放水するのを現認している。同月10日の放水は,Bの尻に便が付いている旨の他の刑務官からの発言がきっかけでなされたものであるが,便が付いていても,拭き取るなどすればよいのであって,消防用ホースを用いて臀部に放水する必要はなく,放水を肯定する理由を認めることはできない。また,同月13日の放水は,革手錠を施用され,何ら制圧の必要がない状況下において,Bの顔面や胸辺りに向けてな ,消防用ホースを用いて臀部に放水する必要はなく,放水を肯定する理由を認めることはできない。また,同月13日の放水は,革手錠を施用され,何ら制圧の必要がない状況下において,Bの顔面や胸辺りに向けてなされており,Bに苦痛を与えることを目的とした放水であった。 したがって,これらの経緯を認識していた被告人が,Bをうつ伏せにした上,同人のズボン等を引き下ろした時点で,AがBの身体に向けて直接放水する可能性があることを認識していたことは明らかである。そして,被告人も,公判廷において,この認識のあったことを認めている。 ■ もっとも,被告人の行為は,Bを保護房第1室に移すに当たり,濡れた衣類を脱がせ,身体を拭き,乾いた衣類を着せることを目的とする作業であることから,被告人が,Bの身体に向けて直接放水することを認容していたといえるか否かは問題となり得る。 被告人は,Bのズボン等を脱がせた後,肛門部を確認した上,Aに対し,「ないですね。」と告げているところ,この発言は,Aに放水の要否を判断させるためになされたものであることから,肛門部が便で汚れていれば,同月10日と同様,Aが肛門部を目掛け放水することを予期し,これを認容していたものといえる。被告人において,そのような事情が無くても肛門部を目掛け,放水することを認容していたと認めることはできないが,少なくとも,被告人は,Bの肛門部が便で汚れていれば,Aが肛門部を目掛け,放水するであろうことを認識し,かつ,認容して,これを容易にする行為を行ったものと認められる。 すると,肛門部が便で汚れていないにもかかわらず放水したAの行動は被告人の予期した展開とは異なるものの,被告人の認識認容した内容と結果とは,特別公務員暴行陵虐致死幇助という構成要件の範囲で符合しており,幇助の故意に欠けるところはない。 4 以 放水したAの行動は被告人の予期した展開とは異なるものの,被告人の認識認容した内容と結果とは,特別公務員暴行陵虐致死幇助という構成要件の範囲で符合しており,幇助の故意に欠けるところはない。 4 以上のとおり,特別公務員暴行陵虐致死幇助についての弁護人の主張は理由がない。 (適用法令)罰条第1の行為刑法62条1項,196条,195条2項第2の行為刑法60条,196条,195条2項刑種の選択第1の罪につき,刑法10条により同法195条2項所定の刑と同法205条所定の刑とを比較し,重い傷害致死罪の刑により,第2の罪につき,同法10条により同法195条2項所定の刑と同法204条所定の刑とを比較し,重い傷害罪について定めた懲役刑により,それぞれ処断法律上の減軽第1の罪につき,刑法63条,68条3号併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(重い第2の罪の刑に(ただし,短期は傷害致死幇助罪の刑のそれによる。)法定の加重)未決勾留日数刑法21条(90日算入)刑の執行猶予刑法25条1項(量刑の事情)本件は,甲刑務所に刑務官として勤務する被告人が,同刑務所内において,■同僚の刑務官が,平成13年12月,処遇が困難な者と評価されていた受刑者に対し,その必要がないのに,同人の肛門部を目掛け,消火栓に接続した消防用ホースを用いて多量に放水する暴行を加え,傷害を負わせて死亡させた犯行の現場に立ち会った際,前記暴行に先立ち,その暴行の可能性を認識しながら,同人をうつ伏せにした上,同人のズボン等を引き下ろすなどし,同僚刑務官の前記犯行を容易にして幇助した事案,■同僚の刑務官らと共謀の上,平成14年9月,かねてから反抗的な態度を示 可能性を認識しながら,同人をうつ伏せにした上,同人のズボン等を引き下ろすなどし,同僚刑務官の前記犯行を容易にして幇助した事案,■同僚の刑務官らと共謀の上,平成14年9月,かねてから反抗的な態度を示していると評価されていた受刑者に対し,保護房へ収容して戒具である革手錠を施用する際,その必要がないのに,その腹部に革手錠のベルトを巻き付けて強く締め付け,腹部を強度に圧迫するなどの暴行を加え,傷害を負わせた事案である。 第1の犯行は,刑務官の指示にほとんど従うことなく,暴言を吐いたり,刑務官に食器等を投げ付けたり,糞尿を浴びせるなど処遇が困難な者と評価されていたB受刑者が,保護房に収容されても同室内を視察できないようにしたり,保護房内に糞尿等をまき散らすなどして汚損する行為を繰り返すため,B受刑者の抵抗を排除して転房させ,着替えさせたり,保護房内を清掃する必要があり,これを容易にする目的で消防用ホースを用いて保護房内に多量の放水をする方法をとっていた際,同僚の刑務官が,その必要がないのに,B受刑者の身体に向けて直接放水する暴行を加えて傷害を負わせ,死亡させた犯行に関して,これを幇助したというものである。 B受刑者の特異な行動が原因となって,消防用ホースを用いて多量の放水がなされたものであり,また,前記行動に誘発されて身体に向けての放水という同僚刑務官の暴行が行われたことは明らかであり,その意味ではB受刑者に責められるべき点があることは否定できない。 しかし,複数の刑務官が受刑者を身動きできないように制圧し,ズボンやパンツを引き下ろして臀部を露出させた状態で,受刑者の肛門部を目掛け,消防用ホースを用いて至近距離から多量に放水した正犯者の行為が危険なものであり,いかなる理由があってもこれを容認することができないところ,被告人は,正犯者の前記危険な行為 で,受刑者の肛門部を目掛け,消防用ホースを用いて至近距離から多量に放水した正犯者の行為が危険なものであり,いかなる理由があってもこれを容認することができないところ,被告人は,正犯者の前記危険な行為の可能性を認識しながら,肛門部が便で汚れていればそのような行為が行われてもよいとの考えから,正犯者の犯行を容易にする判示の幇助行為に及んでいる。そして,被告人は,本件以前に,同僚刑務官がBの身体に向けて放水したことを現認していながら,「普通は保護房に入れて革手錠をするとおとなしくなるんだけど。Bは直らないから。」と言っているのであり,処遇が困難な者と評価されていたB受刑者に痛手を与え,反抗的な態度を示さないようにさせる意図で前記行為がなされていると認識し,積極的ではないにせよ,被告人もこれを容認する意図があったことが窺える。 また,第2の犯行は,かねてからことあるごとに反抗的態度を示していると評価されていたE受刑者を保護房へ収容し,さらに,戒具である革手錠を施用する際,その必要がないのに,その腹部に革手錠のベルトを巻き付け,二人がかりで引っ張るなど強く締め付け,腹部を強く圧迫するなどの暴行を加え,傷害を負わせたものである。 第2の犯行において,E受刑者は,革手錠を解除された直後,腹部に強い痛みを訴えて腹腔内に出血があると判断され,刑務所外の病院に搬送され,開腹手術を受けて腸間膜損傷等の傷害を負っていたことが明らかとなったところ,この傷害は,革手錠を施用する際,その腹部に革手錠のベルトを巻き付け,二人がかりで引っ張るなど強く締め付け,腹部を強く圧迫したことによって生じたものと認められる。 革手錠は,革製の腕輪2個及びベルトからなり,腕輪に取り付けられている鎹型角鉄にベルトを通してから,被施用者の背部で尾錠を留めることにより,被施用者の両手を拘束して によって生じたものと認められる。 革手錠は,革製の腕輪2個及びベルトからなり,腕輪に取り付けられている鎹型角鉄にベルトを通してから,被施用者の背部で尾錠を留めることにより,被施用者の両手を拘束して固定する戒具であり,尾錠部の爪が外されないように,爪を螺旋錠で施錠する構造となっている。そして,「戒具の使用及び保護房への収容について(通達)」(平成11年11月1日矯正局長通達)によれば,「戒具の使用及び保護房の収容に当たっては,事態に応じ,その目的を達成するために合理的に必要と判断される限度を超えてはならないこと。」「戒具は,必要以上に緊度を強くして,使用部位を傷つけ,又は著しく血液の循環を妨げる等健康を害するような方法で使用しないこと。」とされている。 被告人は,E受刑者の腹部に巻き付けられた革手錠のベルトを,自らも加わり,刑務官二人がかりで,上体を後方に反らせるようにして力を入れて引っ張るなど強く締め付けたことを認めているが,前記の傷害結果と併せ考えると,このような施用の方法は,戒具としての革手錠の施用の目的からみても,前記通達の内容からみても,その必要がない危険な施用の方法である。 そして,本件においては,このような施用が意図してなされていることは明らかであるところ,甲刑務所における過剰収容の実態,E受刑者がかねてからことあるごとに反抗的態度を示していると評価されていた受刑者であることなどからみて,このような施用は,E受刑者に痛手を与え,反抗的な態度を示さないようにさせる意図からなされたものと評価せざるを得ない。 以上のとおり,本件各犯行は,いずれも処遇が困難であった受刑者に対して,専らそのことだけを目的としてなされたとまではいえないものの,制裁として痛手を与え,反抗的な態度を示さないようにさせる意図,即ち懲らしめる意図を含んでなされたも れも処遇が困難であった受刑者に対して,専らそのことだけを目的としてなされたとまではいえないものの,制裁として痛手を与え,反抗的な態度を示さないようにさせる意図,即ち懲らしめる意図を含んでなされたものというべきである。 甲刑務所は,過剰収容の状態が続くとともに,処遇が困難な受刑者を多数抱えており,刑務官の職務上の負担が過大になっていたことが,本件各犯行の背景にあると認められる。 しかしながら,行刑施設の規律の維持等に関する職務を行う刑務官が,収容されている受刑者を制圧した上,危険な態様で有形力を行使することが正当化されることはない。その動機や経緯を過大に考慮することはできない。 そして,本件各犯行における被害者の一人は死亡し,もう一人も加療約70日間を要する重傷を負っているのであって,生じた結果は重大である。 また,刑務官が,刑務所内において,その職務執行中に,受刑者に対し違法な有形力を行使し,重大な結果を生じさせたこと,そして,これが大きく報じられたことにより,行刑施設の運営,刑務官の職務執行の公正さに対する一般国民の信頼が大きく損なわれたのであって,社会に与えた影響も大きい。 そうしてみると,被告人の刑事責任は重い。 他方,第1の犯行は,幇助犯としての責任は免れないが,被告人が積極的に正犯者の犯行に関わったものではなく,また,その幇助の形態も,被害者の身体に向けての直接の放水が行われる可能性を認識しながら,ズボン等を引き下ろすなどしたにすぎないこと,第2の犯行は,非常ベルが鳴ったためその現場に駆け付け,その後,保護房内において,上司の指示に従って革手錠の施用に加わったにすぎず,従たる立場で関与したものであること,本件各犯行の背景には,甲刑務所において過剰収容の状態が続き,処遇が困難な受刑者を多数抱えて刑務官の職務上の負担が過大になっていた 革手錠の施用に加わったにすぎず,従たる立場で関与したものであること,本件各犯行の背景には,甲刑務所において過剰収容の状態が続き,処遇が困難な受刑者を多数抱えて刑務官の職務上の負担が過大になっていたという事情があり,このため,規律の維持等に関する職務を行う現場の刑務官が,危険な態様で有形力を行使するという手段を安易に選択したという側面があること,被告人は,本件各犯行について,捜査,公判を通じ,事実関係を認めるとともに,自らの行為が間違っていた旨述べ,約5か月間にわたる身柄拘束を経験して,反省の態度が顕著であること,第2の犯行の被害者に賠償金として50万円を支払っていること,同被害者が被告人を宥恕し,寛大な処罰を求める旨の上申書を作成していること,被告人には前科,前歴がないこと,昭和50年に刑務官となってから,第1の犯行まで26年余りの間,真面目に勤務して社会生活を送ってきたこと,扶養すべき家族がいることなど,被告人に有利な又は酌むべき事情も認められる。 そこで,これら被告人に有利不利な一切の事情を総合して考慮し,主文のとおり刑を定める。 (求刑懲役2年)平成16年5月14日名古屋地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官石山容示裁判官鈴木芳胤裁判官村松教隆
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