平成26年3月25日判決言渡平成25年(行ケ)第10278号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成26年3月11日判決 原告 X訴訟代理人弁理士鮫島信重 被告特許庁長官指定代理人久島弘太郎同伊藤元人同藤原直欣同氏原康宏同大橋信彦 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求特許庁が不服2012-16577号事件について平成25年8月22日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等(認定の根拠を掲げない事実は当事者間に争いがない。)原告は,発明の名称を「安全エレベータ」とする発明につき,平成18年6月26日,特許出願(特願2006-175440号。以下「本願」という。 また,本願の明細書及び図面をまとめて「本件明細書」という。)をした。原告は,平成23年11月17日付けで拒絶理由の通知を受けたので,同年12月28日付けで意見書及び手続補正書(特許請求の範囲の請求項1を補正するものである(甲13)。)を提出した。原告は,平成24年6月22日付けで拒絶の査定を受けたので,同年8月9日,拒絶査定に対する不服の審判(不服2012-16577号)を請求するとともに,同日付けで明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正をした(以下「本件補正」という。)。 特許庁は,平成25年8月 絶査定に対する不服の審判(不服2012-16577号)を請求するとともに,同日付けで明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正をした(以下「本件補正」という。)。 特許庁は,平成25年8月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,同年9月14日,原告に送達した(乙4)。 なお,審決は,本件補正を却下したが,原告はこの点について争っていない。 2 特許請求の範囲の記載(甲13)本願の特許請求の範囲(請求項の数1)の請求項1の記載(平成23年12月28日付けの手続補正後のもの)は,以下のとおりである(以下,同請求項に記載された発明を「本件発明」という。)。 「指紋認証,瞳認証,手のひら認証,暗唱番号キーボード,など個人認証装置をエレベータカゴのみに設け,且つ個人認証回路が組み込まれた行先階ボタン登録回路を設け,且つカゴのドアおよび乗場ドアの開閉を確認する安全回路を設け,前記行先階ボタン登録回路は前期(「前記」の誤記である。)安全回路と別回路になっており,前記カゴのドアおよび前記乗場ドアが全て閉まっているとき且つ行先階が登録されているときに,エレベータが走行することを特徴とする防犯を目的とした安全エレベータ。」 3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。その要旨は,本件発明は,特開平5-8951号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物1に記載された発明」という。),特開平10-17233号公報(甲2。以下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「刊行物2に記載された発明」という。)及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,かつ,本件発明を全体としてみても,刊行物1及び2に記載された発明並びに周知技術等 2に記載された発明」という。)及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,かつ,本件発明を全体としてみても,刊行物1及び2に記載された発明並びに周知技術等から予測される以上の格別な効果を奏するものでもないので,特許法29条2項により特許を受けることができないというものである。 審決が認定した刊行物1に記載された発明の内容,本件発明と刊行物1に記載された発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。 (1) 刊行物1に記載された発明の内容「掌形ないし指紋識別検出装置6をエレベータかごに設け,且つ掌形ないし指紋識別検出装置6,バイオIDタイマ14及びバイオIDタイマ接点14aを含む回路が組み込まれたかご内行先登録回路を設け,かご扉9および乗場扉3を含んで構成され,行先階が登録されているときに,エレベータが走行する防犯を目的としたエレベータ。」(2) 一致点「指紋認証,瞳認証,手のひら認証,暗唱番号キーボード,など個人認証装置をエレベータカゴに設け,且つ個人認証回路が組み込まれた行先階ボタン登録回路を設け,行先階が登録されているときに,エレベータが走行する防犯を目的としたエレベータ。」(3) 相違点ア相違点1「『個人認証装置』を設ける箇所に関し,本件発明においては,『個人認証装置をエレベータカゴのみに設け』ているのに対し,刊行物1に記載された発明においては,そのようになっているか否か不明である点。」イ相違点2「本件発明においては,『カゴのドアおよび乗場ドアの開閉を確認する安全回路を設け,行先階ボタン登録回路は安全回路と別回路になっており,カゴのドアおよび乗場ドアが全て閉まっているとき且つ行先階が登録されているときに,エレベータが走行する』『安全エレベ 全回路を設け,行先階ボタン登録回路は安全回路と別回路になっており,カゴのドアおよび乗場ドアが全て閉まっているとき且つ行先階が登録されているときに,エレベータが走行する』『安全エレベータ』であるのに対し,刊行物1に記載された発明においては,本件発明における『カゴのドア』及び『乗場ドア』に相当する『かご扉9』及び『乗場扉3』を含んで構成されているものの,そのような安全回路が,本件発明における『行先階ボタン登録回路』に相当する『かご内行先登録回路』と別回路になって設けられているか否か不明であり,また,『カゴのドアおよび乗場ドアが全て閉まっているとき且つ行先階が登録されているときに,エレベータが走行する』『安全エレベータ』であるか否か不明である点。」第3 原告主張の取消事由 1 取消事由1(相違点1に関する認定判断の誤り)以下のとおり,相違点1に関する審決の認定判断には誤りがある。 (1) 刊行物1に記載された発明においては,掌形ないし指紋識別検出装置6を乗場部とエレベータかご内にそれぞれ設けることが記載されており,本件発明のようにエレベータかご内のみに設けるものではない。刊行物1に記載された発明は,各階にセンサーを設けざるを得ないものであるのに対し,本件発明は各階に設けるセンサーをいかに取り除くかという発明であって,刊行物1に記載された発明から容易に想到することができるものではない。 審決は,エレベータにおいて,コストダウンのために,指紋検出器等の個人認証装置をエレベータかごのみに設けることは,本願出願前の周知の技術(例えば,特開平5-776号公報(特に,【0002】の【従来の技術】等参照。))であると認定しているが(以下,上記公報を「甲3公報」といい,審決の認定した上記周知の技術を「周知技術1」という。) (例えば,特開平5-776号公報(特に,【0002】の【従来の技術】等参照。))であると認定しているが(以下,上記公報を「甲3公報」といい,審決の認定した上記周知の技術を「周知技術1」という。),刊行物1に記載された発明をかご内のみのセンサーにすると全く動作しない。 (2) 甲3公報記載の発明は,【0009】に記載されているように,複数の指紋検出器の出力を組み合わせて,行先階を決めるもので,作動するための構成が極めて複雑であり,本件発明とは全く異なるものであるので,進歩性判断の基準になり得ない。 (3) 本件発明は,個人認証装置をエレベータかご内のみに設けることにより,不審者が目的の階に侵入できないようにしている点に発明のポイントがあるものであり,審決の引用例のいずれにも,本件発明の意味で使用される個人認証装置をエレベータかご内のみに設けるというものは記載されておらず,本件発明は,多大な発明力を必要とするものである。 2 取消事由2(相違点2に関する認定判断の誤り)審決は,刊行物1に記載された発明において,周知の課題に対応するために,刊行物2に記載された発明を適用するに当たり,その具体化の手段として,周知技術を採用して,相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到することができた旨認定判断している。しかし,本件発明は次のとおりの発明力を有する。そしてこれらについては引用例のいかなるものにも記載されていない。 したがって,審決の認定判断には誤りがある。 (1) かごの外側から本件発明の認識を無くする発明力(2) かご内のみの認識にする発明力(3) かご内を1個の認識装置とする発明力(4) かご内の1個の認識装置でも安全にする発明力(5) かごが外部から引き寄せられても,目的階 する発明力(2) かご内のみの認識にする発明力(3) かご内を1個の認識装置とする発明力(4) かご内の1個の認識装置でも安全にする発明力(5) かごが外部から引き寄せられても,目的階まで行ける発明力(6) たとえかごに人が乗っても目的階まで行かない安全化する発明力(7) たとえ人が乗って目的階まで行っても,かごからのドアが開かない安全の発明力第4 被告の反論 1 取消事由1(相違点1に関する認定判断の誤り)について以下のとおり,相違点1に関する審決の認定判断に誤りはない。 (1) 本件発明と刊行物1に記載された発明とは,特定の人のみがエレベータを利用ないし使用できるようにするという共通する技術的課題を有しており,本件発明の個人認証装置と刊行物1に記載された発明の掌形ないし指紋識別検出装置6とは,エレベータを利用ないし使用できる特定の人を識別するという技術的意義の点でも差異はない。周知技術1も,特定の人のみがエレベータを利用ないし使用できるものである点で,刊行物1に記載された発明と共通の技術的課題を有している。 したがって,刊行物1に記載された発明において,周知技術1を考慮し,コストダウンのために,個人認証装置としての掌形ないし指紋識別検出装置6をエレベータかごのみに設けることは,当業者が容易に想到することができたとする審決の判断に誤りはない。 (2) 特定の人のみが利用ないし使用できるエレベータにおいて,個人認証装置を「かご内」又は「乗場」のいずれに設置しても,エレベータが動作することは技術常識である(本件明細書【0011】,特開昭62-121184号公報(乙2。以下「乙2公報」という。),特開平5-139641号公報(乙3。以下「乙3公報」という。))。したがって,本件発明におけ 術常識である(本件明細書【0011】,特開昭62-121184号公報(乙2。以下「乙2公報」という。),特開平5-139641号公報(乙3。以下「乙3公報」という。))。したがって,本件発明における「個人認証装置をエレベータカゴのみに設け」との発明特定事項は,刊行物1に記載された発明における掌形ないし指紋識別検出装置6の設置箇所について,単に「かご内」とすることを選択したにすぎない。そして,刊行物1に記載された発明において,周知技術1を考慮して,掌形ないし指紋識別検出装置6を「かご」のみに設ける際には,エレベータを呼び寄せるための構成も当然必要となるから,乗場に設けた「掌形ないし指紋識別検出装置6」を「一般乗客用乗場ボタン5」に戻して,エレベータとして普通に作動するように構成することは当業者にとって自明であるか,少なくとも容易になし得るものである。 (3) 原告は,甲3公報記載の発明は,複数の指紋検出器の出力を組み合わせ て,行先階を決めるもので,作動するための構成が極めて複雑であり,本件発明とは全く異なるものであるので,進歩性判断の基準になり得ない旨主張する。しかし,審決は,「エレベータにおいて,コストダウンのために,指紋検出器などの個人認証装置をエレベータカゴのみに設けることが周知の技術であること」を立証する趣旨で,周知技術1の例として甲3公報記載の従来技術を用いたのであるから,原告の主張はその前提において誤っている。 (4) 個人認証装置をエレベータかごのみに設けることは,刊行物1に記載された発明に周知技術1を考慮することによって,当業者が容易になし得たことであり,不審者が目的の階に侵入できないという効果は,特定の人のみがエレベータを操作できるようにするという刊行物1に記載された発明の課題及び特定の人を識別 ることによって,当業者が容易になし得たことであり,不審者が目的の階に侵入できないという効果は,特定の人のみがエレベータを操作できるようにするという刊行物1に記載された発明の課題及び特定の人を識別するという掌形ないし指紋識別検出装置6の技術的意義から予測できる程度のものである。 2 取消事由2(相違点2に関する認定判断の誤り)についてエレベータにおいて,安全運行のために,かご及び昇降路のすべての出入口の戸が閉じていなければかごを昇降させることができないようにする安全装置を設けることは,建築基準法施行令にも定められているように,エレベータの当業者にはごく普通に知られている技術課題(甲4,5)であって,エレベータ設計上,当然認識すべき技術課題であるから,刊行物1に記載された発明においても,そのような安全装置を設けるという課題が内在している。そして,刊行物2に記載された発明は,そのような安全装置の具体例といえ,かかる安全装置が本件発明の構成と同じであることを原告も認めている。 一方,エレベータにおいて,行先階ボタン登録回路とかごのドア及び乗場ドアの開閉を確認する安全回路とを別回路とすることは,甲第6号証ないし第9号証により示されるように周知の技術(以下「周知技術2」という。)である。 そうすると,刊行物1に記載された発明において,周知課題に対応するために,刊行物2に記載された発明を適用するに当たり,その具体化の手段として周知技術2を採用することは当業者が容易になし得たことである。 したがって,相違点2に関する審決の認定判断に誤りはない。第5 当裁判所の判断当裁判所は,原告の各取消事由の主張にはいずれも理由がなく,その他,審決にはこれを取り消すべき違法はないものと判断する。その理由は,以下のと する審決の認定判断に誤りはない。第5 当裁判所の判断当裁判所は,原告の各取消事由の主張にはいずれも理由がなく,その他,審決にはこれを取り消すべき違法はないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 取消事由1(相違点1に関する認定判断の誤り)について(1) 刊行物1について刊行物1は,発明の名称を「エレベータ制御装置」とする発明に関するものであるが,同公報には前記第2の3(1)の内容の発明が記載されているものと認められる(甲1)。そして,刊行物1【0004】の記載に照らすと,刊行物1に記載された発明の目的は,特定機関の建物ないし特定階へ限定された人を識別してエレベータ輸送することにあるものと認められる。 (2) 周知技術等についてア甲3公報について甲3公報は,エレベータの呼び登録を指紋照合により行う装置に関する発明についてのものである(【0001】)。そして,甲3公報【0002】の記載内容に照らすと,同段落には,従来技術として,あらかじめ指紋が登録されている乗客だけがエレベータを操作できるように指紋検出器(個人認証装置)を設置すること,上記検出器をエレベータかごのみに設けること,及び,上記検出器(個人認証装置)をエレベータかごのみに設けるのは,コスト高とならないようにするためで,一般的であったことが記載されているものと認められる。 イ乙2公報について乙2公報は,特定の人だけが運転できるエレベータの運転装置に関する発明についてのものである(1頁左下欄14行ないし同欄15行)。そして,乙2公報の特許請求の範囲及び3頁右上欄19行ないし同頁左下欄12行の記載に照らすと,乙2公報には,特定の人だけが運転できるエレベータの運転装置において,指紋検出装置(個人認証装置 て,乙2公報の特許請求の範囲及び3頁右上欄19行ないし同頁左下欄12行の記載に照らすと,乙2公報には,特定の人だけが運転できるエレベータの運転装置において,指紋検出装置(個人認証装置)をエレベータかご内のみに設けること,上記装置はエレベータかご内又は乗場に設けることができること,上記装置をエレベータかご内又は乗場のいずれに設置しても,エレベータが作動することが記載されているものと認められる。 ウ乙3公報について乙3公報は,エレベータの防犯用呼び登録装置に関するもので(【0001】),エレベータの操作を特定の人に限定するための認証装置と運転途中での犯罪防止のため目的階への直行運転制御を行うエレベータを提供する発明に関するものである(【0005】)。そして,乙3公報【0006】及び【0007】の記載に照らすと,乙3公報には,特定の人のみが操作できるエレベータにおいて,エレベータの乗場及びかごの操作盤のいずれか,又は両方に指紋検出部(個人認証装置)を設けること,上記検出部を設ける場所にかかわらずエレベータが作動することが記載されているものと認められる。 エ上記アないしウにおいて認定したところに照らすと,エレベータにおいて,指紋検出器といった個人認証装置をエレベータかご内のみに設けることは,本願出願前周知の技術であり(周知技術1),しかも,上記装置をエレベータかご内に設けるか,乗場に設けるかは当業者において適宜選択すべき事項であったものと認められる。 また,コスト高にならないよう,上記装置をエレベータかごのみに設けることが一般的であったことが認められる。 (3) 容易想到性の判断について上記(1)及び(2)において認定したところに照らすと,エレベータにおいて,指紋検出器といった個人認証装置 に設けることが一般的であったことが認められる。 (3) 容易想到性の判断について上記(1)及び(2)において認定したところに照らすと,エレベータにおいて,指紋検出器といった個人認証装置をエレベータかご内のみに設けることは,本願出願前周知の技術であり,個人認証装置をエレベータかご内に設けるか,乗場に設けるかは当業者において適宜に選択すべき事項であった。しかも,コスト高にならないようにすることは,エレベータの技術分野において一般的な課題であると解され,刊行物1に記載された発明にも内在する課題であるというべきところ,コスト高にならないよう,上記装置をエレベータかごのみに設けることが一般的であったことも併せ考えると,本願出願当時の当業者において,刊行物1に記載された発明に周知技術1を適用して,相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは,容易に想到することができたものと認められる。 (4) 原告の主張についてア原告は,刊行物1に記載された発明は,本件発明のようにエレベータかご内のみに設けるものではなく,各階にセンサーを設けざるを得ないものであるのに対し,本件発明は各階に設けるセンサーをいかに取り除くかという発明であって,刊行物1に記載された発明から容易に想到することができるものではない旨主張する。 確かに,刊行物1には,エレベータ乗場に個人認証装置を設ける構成並びにエレベータ乗場及びかご内の両方に個人認証装置を設ける構成の記載しか存在しない。 しかし,上記(3)において認定したところに加え,刊行物1には個人認証装置をエレベータかご内のみに設ける構成を除外するような記載はなく,上記構成によっても,特定機関の建物ないし特定階へ限定された人を識別してエレベータ輸送するという刊行物1に記載された 1には個人認証装置をエレベータかご内のみに設ける構成を除外するような記載はなく,上記構成によっても,特定機関の建物ないし特定階へ限定された人を識別してエレベータ輸送するという刊行物1に記載された発明の目的を達することができることも併せ考えると,原告の上記主張を採用することはできない。 イ原告は,刊行物1に記載された発明をかご内のみのセンサーにすると全く動作しないなどと主張する。 しかし,前記(2)イ及びウにおいて認定したところに照らすと,特定の人のみが利用ないし使用できるエレベータにおいて,個人認証装置をエレベータかご内又は乗場のいずれに設置しても,エレベータが作動することは技術常識であると認められる。そうすると,刊行物1に記載された発明における掌形ないし指紋識別検出装置6(個人認証装置)をエレベータかご内のみに設けてもエレベータとして普通に作動することは,当業者にとって自明であるというべきである。 さらに,刊行物1の記載(特に【0009】及び【0010】)に照らすと,刊行物1に記載された発明において,個人認証装置をエレベータかご内のみに設ける周知技術を適用して,掌形ないし指紋識別検出装置6をかごのみに設ける際には,エレベータを呼び寄せるための構成も当然必要となるので,乗場に設けた「掌形ないし指紋識別検出装置6」 を「一般乗客用乗場ボタン5」に戻して,エレベータとして普通に作動するように構成することは,当業者にとって自明であるか,少なくとも容易になし得るものであることであると認められる。 また,原告は,刊行物1に記載された発明をかご内のみのセンサーにすると,一般人が個人認証装置を操作しようとしても操作することは不可能であるとも主張する。 しかし,上記認定のとおり,特定の人のみが利用ないし使用できるエレ 記載された発明をかご内のみのセンサーにすると,一般人が個人認証装置を操作しようとしても操作することは不可能であるとも主張する。 しかし,上記認定のとおり,特定の人のみが利用ないし使用できるエレベータにおいて,個人認証装置をエレベータかご内又は乗場のいずれに設置しても,上記特定の人は個人認証装置を操作し,エレベータを作動させることができる。また,上記特定の人以外の者が個人認証装置を操作できないことは,発明の目的に照らし当然のことである。 よって,原告の上記各主張を採用することはできない。 ウ原告は,甲3公報記載の発明は,本件発明とは全く異なるものであり進歩性判断の基準になり得ない旨主張する。 しかし,前記(2)認定のとおり,エレベータにおいて,指紋検出器等の個人認証装置をエレベータかごのみに設けることが周知の技術であることを認定するために,その例として甲3公報記載の従来技術(【0002】)の記載を用いたにすぎず,原告の上記主張を採用することはできない。 エ原告は,本件発明は,個人認証装置をエレベータかご内のみに設けることにより,不審者が目的の階に侵入できないようにしている点に発明のポイントがあるなどとも主張する。 しかし,上記の点は,刊行物1に記載された発明に前記(2)認定の周知技術を適用した構成においても容易に予測し得る効果であり,原告の上記主張が進歩性を根拠付ける事情であるということはできない。 よって,原告の上記主張を採用することはできない。 オその余の原告が種々主張する点も,いずれも前記(3)の認定を左右するものではない。 (5) よって,相違点1に関する審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(相違点2に関する認定判断の誤り)について 3)の認定を左右するものではない。 (5) よって,相違点1に関する審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(相違点2に関する認定判断の誤り)について(1) 刊行物2について刊行物2には,「かご戸(かごのドア)および乗場戸(乗場ドア)の開閉を確認する安全回路を設け,かご戸(かごのドア)及び乗場戸(乗場ドア)が全て閉まっているときかつ行先階が登録されているときに,エレベーターが走行する安全エレベーター」の発明(刊行物2に記載された発明)が記載されているものと認められる(甲2)。 (2) 周知の課題について特開昭61-166489号公報(甲4)の記載(1頁左下欄最下行ないし右下欄6行)及び特開昭61-221079号公報(甲5)の記載(1頁右下欄4行ないし11行)に照らすと,エレベータにおいて,安全運行のために,かご及び昇降路の全ての出入口の戸が閉じていなければかごを昇降させることができないようにする安全装置を設けることは,建築基準法施行令にも定められた,本願出願前の周知の技術課題であったと認められる。 そうすると,刊行物1に記載された発明においても,安全運行のために,かご及び昇降路の全ての出入口の戸が閉じていなければかごを昇降させることができないようにする安全装置を設けることが課題として内在していたものと認められる。 (3) 周知技術について発明の名称を「エレベーター制御装置」とする発明に関する特開昭55-31769号公報(甲6)の記載(2頁右下欄下から2行ないし3頁左上欄11行,3頁右上欄1行ないし同欄4行,3頁左下欄3行ないし同欄10行,4頁左上欄2行ないし同欄14行及び4頁右上欄下から2行ないし左下欄4行並びに第1図),発明の名称を「 から2行ないし3頁左上欄11行,3頁右上欄1行ないし同欄4行,3頁左下欄3行ないし同欄10行,4頁左上欄2行ないし同欄14行及び4頁右上欄下から2行ないし左下欄4行並びに第1図),発明の名称を「エレベータ制御装置」とする発明に関する特開平2-132088号公報(甲7)の記載(2頁左上欄9行ないし同欄14行,2頁右下欄4行ないし同欄18行及び3頁右上欄下から2行ないし左下欄8行並びに第1図),発明の名称を「エレベータ運転装置」とする発明に関する特開平6-1554号公報(甲8)の記載(【0009】ないし【0013】並びに図1及び2),及び, 考案の名称を「エレベータ運転装置」とする考案に関する実願平1-2111号(実開平2-94877号)のマイクロフィルム(乙5)の記載(明細書4頁8行ないし5頁5行及び第1図)に照らすと,エレベータにおいて,行先階ボタン登録回路とかごのドア及び乗場ドアの開閉を確認する安全回路とを別回路とすることは,本願出願前の周知の技術(周知技術2)であったと認められる。 (4) 容易想到性の判断について前記(1)ないし(3)において認定したところに照らすと,刊行物1に記載された発明において,前記(2)認定の課題を解決するために,刊行物2に記載された発明を適用し,そのための具体的手段として周知技術2を用いて,相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは,本願出願当時の当業者において容易に想到することができたものと認められる。 (5) 原告の主張について原告は,刊行物1に記載された発明から相違点2に係る本件発明の発明特定事項に想到するには種々の発明力を必要とするなどと主張し相違点2に関する審決の認定判断を争うが,上記(1)ないし(4)において認定したところに照らすと,原告の上記主張を採用 に係る本件発明の発明特定事項に想到するには種々の発明力を必要とするなどと主張し相違点2に関する審決の認定判断を争うが,上記(1)ないし(4)において認定したところに照らすと,原告の上記主張を採用することはできない。 (6) よって,相違点2に係る審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がない。 3 なお,原告は本件発明の有する七つの発明力は,引用例には記載されておらず,予測できないものであるとか,本件発明は,①指紋照合器が全体で1個だけで済み,故障率が低コストで最低である,②各階入口の指紋照合器が不要となり,非常にコストダウンされる,③安全性が増大するという画期的効果が生じるものであるなどとも主張する。 しかし,前記1及び2において認定したところに照らすと,上記の各効果は,いずれも,刊行物1に記載された発明に,周知技術1を適用し,かつ,刊行物2に記載された発明を適用し,その際の具体的手段として周知技術2を用いた構成においても容易に予測し得る効果であると認められる。 そうすると,原告の上記主張を採用することはできない。 4 まとめ以上のとおり,原告主張の各取消事由はいずれも理由がない。また,他に審決に取り消すべき違法もない。 第6 結論よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官設樂 一 裁判官西理香 裁判官神谷 裁判官 西理香 裁判官 神谷厚毅
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