主文 被告人を懲役1年に処する。 この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成14年10月17日午前8時35分ころ,新潟県白根市a先道路において,運転開始前に飲んだ酒の影響により,前方注視及び運転操作が困難な状態で,普通乗用自動車を時速約30キロメートルで走行させ,もって,アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自車を走行させたことにより,同日午前8時36分ころ,同市b先道路において,折から信号待ちのため停止していたA(当時60歳)運転の普通貨物自動車後部に自車前部を追突させ,よって,同人に加療約2週間を要する見込みの頸椎捻挫の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)略(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,本件運転当時,被告人が,前夜の飲酒によるアルコールの影響により正常な運転が困難な状態にあったという客観的状況自体は争わないものの,被告人には,当時,その旨の認識及び認容がなく,危険運転致傷罪の故意を欠いており,業務上過失傷害罪及び道路交通法違反の罪(酒酔い運転罪)が成立することはあっても,危険運転致傷罪は成立しない旨主張し,被告人も,当時の認識について,当公判廷において概ねこれに副う供述をするので,以下検討する。 2 前掲各証拠によると,以下の事実関係を認めることができる。 (1) 被告人は,平成14年10月16日午後9時30分ころ,新潟県白根市cのB女方に普通乗用自動車を運転して出向いたが,その途上,コンビニエンスストアに立ち寄り,夜食用としておでん等と共に700ミリリットル入りのウイスキー1瓶を購入し,同日午後10時ころから翌17日午前2時前ころまでの間,このウイスキーをお茶等で割るなどした上,おでん等のつまみと共にその9割程度を飲み,同日午前2 に700ミリリットル入りのウイスキー1瓶を購入し,同日午後10時ころから翌17日午前2時前ころまでの間,このウイスキーをお茶等で割るなどした上,おでん等のつまみと共にその9割程度を飲み,同日午前2時ころに就寝した。 そして,被告人は,同日午前6時30分ころ起床し,上記Bのための朝食や弁当を準備するなどして,同女を午前7時40分ころに送り出したが,同女は,被告人の朝方の様子について,ウイスキーを飲んだときのような状態であったと感じた。その後,被告人は,一旦自宅に戻ってから当時のパート先に出向こうと思い,同日午前8時30分ころ,上記車両を運転してB方を出発した。 (2) 被告人は,運転を開始した直後,国道8号線沿いのコンビニエンスストアの敷地内を経由し,同国道に突き当たり,そこで左折して同国道上に進出したが,その際,大回りしてふくらみつつ進出し,時速約20ないし30キロメートル程度で対向車線上にはみ出して自車を走行させ,同市a先道路において,対向進行してきたC運転の車両と接触する事故(以下「第1の接触事故」という。)を起こし,さらに,そのまま自車を走行させ,同市b先道路に至り,前方に車両が停止していたが,十分な避譲措置を講じる間もなく,同車両後部に追突し,その運転手に判示のとおりの傷害を負わせた(以下「本件事故」という。)。その直後,被害者Aが被告人に対し,同国道脇のレストランの駐車場に入るように左手で指し示して合図したものの,被告人はこれに従わず,自車を発進させて同国道上を三条市方面に進行した。その後,被告人は,時速約40ないし50キロメートルで自車を進行させていたが,その運転態様は,左右に大きく蛇行し,あるいは対向車線にはみ出すなどするものであった。そして,被告人は,自宅に戻るためには本来右折すべきところではない同市d先の交差点を右折し, 車を進行させていたが,その運転態様は,左右に大きく蛇行し,あるいは対向車線にはみ出すなどするものであった。そして,被告人は,自宅に戻るためには本来右折すべきところではない同市d先の交差点を右折し,その後,暫く走行した後に左折して進行していたが,同日午前8時53分ころ,同市e付近に急停車するところを警察官に現認された。なお,被告人は,同日朝に起床した後は,アルコールの類は一切摂取していなかった。 (3) 被告人は,警察官による職務質問に対し,自車前部の破損原因について「ぶつけたような,どうしたろ」などとしどろもどろに答え,さらに,警察官から飲酒の有無を尋ねられ,「Bの家でウイスキーを飲んだ」旨回答し,警察官が飲酒検知を実施すべく被告人を車から降車させたところ,最初は直立できず,付近の警察車両までもふらつきながら歩行する状態であった。そして,検査の結果,被告人の呼気1リットルあたり0. 65ミリグラム以上のアルコールが検出され,その際,約10メートルの歩行能力の検査ではふらつくという異常歩行が認められ,約10秒間の直立能力の検査では約7秒でふらつき,被告人の顔面から約50センチメートル離れた位置においては酒臭が強く感じられ,顔面も赤く,目も涙目の状態であった。また,被告人は「北川式飲酒検知管(SE型)検知結果濃度表」(甲2)中の署名欄に乱れた筆跡で署名し,かつ指印した。その後,同日午前9時13分,被告人は,酒酔い運転の道路交通法違反の罪により現行犯逮捕された。 3 以上認定の諸事実,とりわけ,被告人が,犯行前日から当日にかけて多量のウイスキーを飲酒したこと,朝方に被告人のBが感じた被告人の様子,車の運転を開始した直後及び第1の接触事故の際の運転態様,本件事故惹起時の運転状況,及び逃走していた際の運転状況がいずれも不安定であって,到底正常な心身 たこと,朝方に被告人のBが感じた被告人の様子,車の運転を開始した直後及び第1の接触事故の際の運転態様,本件事故惹起時の運転状況,及び逃走していた際の運転状況がいずれも不安定であって,到底正常な心身の状態での運転とは考えられないこと,検挙された際の飲酒検知によるアルコールの検出濃度,その検査の際の被告人の歩行能力及び直立能力,警察官との受け答えの状況,その外見の状況等によれば,被告人が,本件犯行当時,前夜に飲んだウイスキーのアルコールの影響により自動車の正常な運転が困難な客観的状況にあったことが認められる。 4(1) ところで,被告人は,捜査段階において,犯行当日の朝方,B方にいたころの行動等については途切れ途切れにしか覚えておらず,その後の状況についても記憶がない部分,あるいは,はっきりしない部分があることを前提としつつも,上記Bを送り出した後,当時のパート先に出勤する必要があったことから,車で出掛け,自宅を経由してパート先に行こうと思ったこと,B方アパートを出る際には,前夜に飲んだ酒が身体に残っていて,そのために自分の身体が疲れていてだるいこと,気持ちをしっかりしないと事故を起こすかもしれないことなどを感じたが,仕事に行かなくてはいけないから,しっかりしないといけないなどと自分に言い聞かせていたこと,前夜に乗ってきた乗用車でB方アパートを出発し,左折して国道8号線上に出たところで,自車のどこかが擦るか,ぶつかるような衝撃を感じたものの,ぶつかった対象やぶつかった箇所等については明確な記憶がなく,そのときはそのまま走行し続けたこと,本件事故を惹起した際の状況については,前方に赤信号が見えてブレーキをかけた直後に何かに衝突した記憶があるというのみで,その後も,目の前の車両がいなくなったことから発進したこと,その際,衝突した相手方車両の運転 した際の状況については,前方に赤信号が見えてブレーキをかけた直後に何かに衝突した記憶があるというのみで,その後も,目の前の車両がいなくなったことから発進したこと,その際,衝突した相手方車両の運転手が発した合図には気付いていないこと,その後,暫く走行して信号機のある交差点を右折したが,道を間違ったことに気付き,左折して進行し,自車を停止した際に警察官から質問を受け,逮捕されたことなどを供述しているそして,この被告人の一連の供述は,当時の記憶が曖昧で,一部途切れている部分があるなどの供述自体の状況,そして,当時のパート先に出勤するという被告人にとっての必要性が存在し,これが為に車を運転を開始する動機があることをも含め,被告人が,前夜に飲んだウイスキーによるアルコールの影響で正常な運転が困難であったという前記の客観的状況によく符合しており,犯行当時の自らの身体状況に関する認識を表すものとして合理的かつ自然であって,信用性は十分である。 (2) 一方,被告人は,当公判廷において,本件犯行当日の記憶が非常に曖昧であり,第1の接触事故,あるいは,本件事故を惹起した状況や,運転していた当時の状況については記憶が曖昧な点が多いこと,第1の接触事故を起こしたことは明確に覚えておらず,本件事故についても事故を惹起した自体は認識しつつも,前方の車両がいなくなったからそのまま走り去ったことなどについては,基本的に捜査段階と同様の供述をする一方,本件犯行当日の自己の身体の状況については,その供述を変遷ないしは後退させて,その日の朝方の家事等も特に問題なくこなしており,自分の行動に問題があったとは感じていないこと等を根拠として,また,捜査段階では,取調官から当時の客観的状況を示され,その運転態様はアルコールの影響があったという以外に考えられないとの指摘 ており,自分の行動に問題があったとは感じていないこと等を根拠として,また,捜査段階では,取調官から当時の客観的状況を示され,その運転態様はアルコールの影響があったという以外に考えられないとの指摘を受けるなどしたため,それを肯定する供述をしたに過ぎず,必ずしも自分の真意ではないとして,本件犯行当時,アルコールの影響が自己の身体にあったことを否定し,当日はアルコールの影響すら感じておらず,アルコールの影響で正常な運転が困難であったとは認識していないことなどを供述している。 しかし,被告人は,運転開始直後から,対向車線上に進出するなどの不安定な走行を繰り返した末に,第1の接触事故や本件事故を惹起し,さらに蛇行運転などを繰り返しつつ進行して結局現行犯逮捕されるに至ったこと,被告人なりに自宅を目指して自車を走行させていたものの,予定していた道順を間違えていること,被告人は,現行犯逮捕される直前に飲酒検知等の諸検査を受けているが,そこで現れた検査結果は,明らかにアルコールの影響がその身体に表れているのであって,しかもその程度がかなり高いこと,また,被告人がB方を出発した午前8時30分ころにはアルコールの影響が身体に出ていないにもかかわらず,それから現行犯逮捕された午前9時13分までの約45分余りの間に,一気にこれほどのアルコールの影響が現出するということは通常考えられないこと,B自身,被告人の様子がウイスキーを飲んだときのようなものであったと供述していること,また,捜査段階の供述について説明するところは必ずしも判然としないことなどに照らすと,本件犯行時に自己の身体にアルコールの影響があったことを全く自覚していないという被告人の公判供述は信用することはできないというべきである。 5 以上を前提として,被告人に対する危険運転致傷罪の成否を検討する。 自己の身体にアルコールの影響があったことを全く自覚していないという被告人の公判供述は信用することはできないというべきである。 5 以上を前提として,被告人に対する危険運転致傷罪の成否を検討する。 (1) 刑法208条の2第1項前段による危険運転致傷罪は故意犯であり,本件のようにその危険運転行為がアルコールの影響によるという場合には,アルコールが自己の身体に作用したために道路・交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態に陥り,その状態で運転をしたことの認識が必要であると解される。 (2) そして,前記のとおり,本件では,被告人が,犯行前日から当日にかけての深夜に飲んだウイスキーによるアルコールの影響により,本件犯行当日,正常な運転が困難な客観的な状態にあったことが認められるが,被告人は,B方で起床した後,家事等はほぼ遺漏なくこなしてはいるものの,前記信用性の高い被告人の捜査段階の供述によれば,被告人は,前記のとおり多量のウイスキーを飲んで就寝し,起床して約2時間後に車でB方を出発する際には,そのウイスキーが身体に残存しており,そのために身体が疲れていてだるいと感じ,自分の気持ちをしっかりしないと事故を起こすかもしれないなどと思っていたこと,それにもかかわらず,特に躊躇することなく車の運転を開始したこと,第1の接触事故を起こした際には,自車のどこかが擦るか,ぶつかるような衝撃を感じたものの,ぶつかった対象やぶつかった箇所等について判然としない状態で走行し続けていること,本件事故を惹起した際には,前方に赤信号が見えてブレーキをかけた直後に何かに衝突したとの記憶があり,その後,目の前の車両がなかったことからさらに発進して運転し続けたことなどが認められ,これらの諸事実によれば,被告人は,犯行前日から当日にかけての深夜にウイスキーを飲ん 何かに衝突したとの記憶があり,その後,目の前の車両がなかったことからさらに発進して運転し続けたことなどが認められ,これらの諸事実によれば,被告人は,犯行前日から当日にかけての深夜にウイスキーを飲んでアルコールを摂取し,それがなお自己の身体に残存していることをも認識し,かつ,自己が正常な運転することが困難であることを基礎づける事実を認識していたと認められるから,被告人には,アルコールが自己の身体に作用したために正常な運転が困難になった状態に陥ったことの認識があったと認めるのが相当である。 (3) したがって,被告人には,本件危険運転致傷罪についての故意が認められるから,弁護人の主張は採用することができない。 6 以上のとおりであり,本件においては,被告人に危険運転致傷罪の成立を認めることができるから,判示のとおり認定したものである。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法208条の2第1項前段の人を負傷させた場合に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予することとする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,本件犯行前日の深夜から当日の未明にかけて飲んだウイスキーの影響で正常な運転操作が困難な状態で車を運転し,交差点で赤色信号表示に従って停車中の前方車両に追突し,同車両の運転者に対し傷害を負わせたという危険運転致傷の事案である。 被告人は,多量のウイスキーを飲んで就寝した後,早朝に起床して自己の当時のパート先に向かうべく車を運転して本件犯行に及んだものであり,その経緯や動機は短絡的で酌量すべきところはない。そして,被告人は,国道上を蛇行して対向車線上にはみ出すなど非常に不安定な運転を続けた挙げ句,対向車に接触し,ついには,本件事故を惹起したもの あり,その経緯や動機は短絡的で酌量すべきところはない。そして,被告人は,国道上を蛇行して対向車線上にはみ出すなど非常に不安定な運転を続けた挙げ句,対向車に接触し,ついには,本件事故を惹起したものであり,また,運転停止後の飲酒検知の結果によれば,呼気1リットルあたり0.65ミリグラム以上のアルコールが検出され,その際の歩行能力や直立能力は非常におぼつかないものであったことなど,本件運転行為は非常に危険性が高いものであったというべきであり,犯行態様は悪質である。また,被告人は,本件事故を惹起した後も,なお正常な運転が困難である状態で運転を続けたものであり,犯行後の事情も芳しいものではない。被害者は,本件事故により,加療約2週間を要する見込みの頸椎捻挫の傷害を負ったものであり,これによる肉体的及び精神的苦痛は大きく,発生した結果は軽視し得ない。加えて,被告人自身のこれまでの酒癖をみると,過度の飲酒をするような場合には,なお危険な行動に出る可能性も否定し得ず,これらの諸事情に照らすと,本件犯情は悪質で,被告人の刑事責任は重いというべきである。 一方,被告人は,当公判廷において,このような危険な運転をして被害者に傷害を与えたことについて反省の態度を示していること,本件の原因となった飲酒については,自己の健康状態も見据えた上でこれを慎んでいる事情が窺われること,本件による物的損害及び人身損害については示談が成立し,その旨の金員が支払われたこと,これまでに前科前歴がないことなど被告人に有利に斟酌すべき事情も認められる。そこで,これらの諸事情を総合考慮した上,被告人を主文掲記の刑に処し,今回はその刑の執行を猶予することが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年1月31日新潟地方裁判所刑事部裁判官金子大 ,被告人を主文掲記の刑に処し,今回はその刑の執行を猶予することが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年1月31日新潟地方裁判所刑事部裁判官金子大作
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