平成15(行コ)15 納税告知処分及び重加算税賦課処分取消請求控訴事件(原審・青森地方裁判所平成12年(行ウ)第3号)

裁判年月日・裁判所
平成16年3月12日 仙台高等裁判所 租税
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判決文本文7,959 文字)

主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人主文同旨 2 被控訴人(1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2 事案の概要事案の概要は,次のとおり当審における補足主張を付加するほか,原判決当該欄(同2頁6行目から同10頁末行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,同4頁14行目冒頭の「について」の次に「(以下,前記ア,イの各金員を合わせて「本件各金員」という。)」を加え,同8頁19行目の「法人の行為計算」から同頁22行目の「問題というべきところ,」までを削除する。)。 1 控訴人の当審における補足主張(1) 所得税法28条1項は,給与所得について「俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」と規定し,包括的所得概念を採用し,所得の源泉を問わずに担税力を増加させる経済的利益(純資産の増加)の全てが所得であると観念されている。 そこで給与所得か否かは,形式的観点のみにとらわれて判断すべきではなく,より実質的にみて,雇用契約又はこれに類する原因に基づき,自己の危険と計算とによらず非独立的に提供される労務の対価であり,その労務の提供が他人の指揮命令に服してなされるかで判断すべきであり,かつ,それで足りると解するべきである。 そして,「労務(役務)対価性」は,厳密に労務それ自体の対価として相応する給付のみに限られるのではなく,労務提供の程度には直接関連しないものであっても,勤労者(役員)たる地位に基づいて支給されるものも含まれるものと解するべきである。 ところで,役員の業務内容は,極めて包括的かつ広範で法人の業務全般に及ぶもの 度には直接関連しないものであっても,勤労者(役員)たる地位に基づいて支給されるものも含まれるものと解するべきである。 ところで,役員の業務内容は,極めて包括的かつ広範で法人の業務全般に及ぶものであることから,その給与の支給は指揮命令を受けて労働する従業員の賃金とは性格を異にし,必ずしも直接的対価性は認められないため,その役務提供の対価性の判断に当たっては,具体的かつ個々的な業務を観念することは,極めて困難である上,非現実的である。ことに当該法人の代表権を有する者は,定款の定め等による限度額の範囲で,自己の報酬の支給方法を決定する権限を有しており,さらに,定款の定め等が元来予定していない経済的利益の享受によって利益を得ることが可能である。このことは,法人の経営(特に経理関係)の実権を代表者が掌握し,法人を支配している等の事情があれば,一層容易に起こり得ることである。 したがって,理事長のような権限のある法人代表者が,自己の権限を濫用して,当該法人の事業活動を通じて得た利益は,その支給が役員の立場と全く無関係であり,法人からみて純然たる第三者との取引ともいうべき態様によるものであるなどの特段の事情がない限り,実質的に法人代表者が受けた給与であると推認することを妨げないというべきである。 (2) 所得税法183条1項は,「居住者に対し国内において・・給与等・・支払をする者は,その支払の際,・・所得税を徴収」することを義務付けている。この「支払」とは,所得の源泉を問わずに担税力を増加させる経済的利益の移転行為の全てをいうものと解され,正規の手続に基づく金銭による給与の支払のみならず,事業活動の一環として受給者に金員等(経済的利益を含む。)が移転することも含む包括的な支払行為であって,支払に関する会計手続がなされているか否か,いかなる源泉か づく金銭による給与の支払のみならず,事業活動の一環として受給者に金員等(経済的利益を含む。)が移転することも含む包括的な支払行為であって,支払に関する会計手続がなされているか否か,いかなる源泉から生じたものであるか,適法な利得か不法な利得かを問わない包括的な利益移転行為をいうと解される。 (3) 給与は,法人の決算において,常に給与としての名目で支出されるとは限らず,給与支出の外形を伴わない役員等の利益取得が給与と認定される場合がある。同族会社,個人会社等の法人においては,代表者等の実質的経営者が,その資産を自由に処分し得る地位,権限を有し,簿外資産を捻出し,これを当該法人の事業とは無関係に利得し,費消する可能性が高い。しかも,そのような利得は,しばしば仮装,隠蔽手段を伴ってなされ,法人の決算上,給与支出の外形を伴わない場合が多い。しかし,給与支出の外形を有しない利得であっても,法人の資金運用の一切を把握する経営者が法人の資産から支出をし,これが事業資金等に使用された形跡がなく,経営者自らが利得,費消したものと推認される場合には,同経営者が自らに対する給与(賞与)としてこれを支出し,取得したものと解するほかない。 法人の経営者が,このように実質的に給与とみなすべき利得により担税力を増加させているにもかかわらず,給与所得の課税を免れるとすれば,租税負担公平の原則に反する結果となる。 (4) 本件金員は,Aが不正に経理処理して取得したものであって,仮に,その行為が横領罪であるとしても,被控訴人の事業活動によって得たものであることは明らかであり,また,Aが本件金員を引き出し,取得できた理由は,Aが被控訴人の代表者の地位にあったこと以外には考えられないので,たとえ代表者の地位を悪用したものであっても,代表者の地位と無関係になされた給付でないこと ,Aが本件金員を引き出し,取得できた理由は,Aが被控訴人の代表者の地位にあったこと以外には考えられないので,たとえ代表者の地位を悪用したものであっても,代表者の地位と無関係になされた給付でないことは明らかである。 そして,本件では,本来,Aが本件金員を賞与として経理し,源泉徴収の手続を採るべきものであったものを怠ったに過ぎず,性質上,源泉徴収する余地がなかったのではない。 (5) 源泉徴収義務者(法人)としては,不法利得であることを理由に受給者(役員)に対し,損害賠償請求をすることが法的に可能であり,また,利得金の返還に伴う更正処分等により対処することが法的に可能である。仮に,かかる理由により法人が源泉徴収義務を免れ得るとすれば,法人と当該役員等が結託することにより容易に源泉徴収義務を免れることになり,ことに我が国に多い同族法人等の場合,その弊害が大きい。 したがって,源泉徴収による国税について,所得税の受給者が源泉徴収義務者から不法に利得した場合に,その利得を課税所得とし,源泉徴収義務者に源泉徴収義務を課することは法の予定するところであり,何ら不当ではない。 (6) 本件において,Aは,設立時において,被控訴人を唯一代表する理事長に就任し,その他の理事においては,開園準備業務等に参画した形跡が認められず,被控訴人の意思決定機関となる理事会が全く機能していなかったといえる。その中で,Aが実質一人で設立準備業務全般を取り仕切っていたことからすれば,正に,Aは,被控訴人の資産を含めて全面的な支配権を有していたというほかない。 したがって,本件金員の捻出及びAへの供与は,被控訴人の代表者の行為,すなわち被控訴人自身の行為であるから,被控訴人の意思に基づいたものであることは明らかである。 2 被控訴人の当審における補足主張本件金員の移動 員の捻出及びAへの供与は,被控訴人の代表者の行為,すなわち被控訴人自身の行為であるから,被控訴人の意思に基づいたものであることは明らかである。 2 被控訴人の当審における補足主張本件金員の移動は,Aが専ら自己の個人的用途に使用する目的で不正に移動したものであり,明らかに横領であり,Aの理事長としての地位,職務に基づく「その対価として支給され」たものとは全くいえない。 理事長等の役員が横領したときに,全くもってその横領行為を知らない法人に,後になって重加算税とともに源泉徴収義務を課すことは過酷に過ぎる。 横領した者はそれが発覚したときには,法人にいないことが多いし,資力がないのが普通である。本件金員において,被控訴人が源泉徴収義務を負い,後は被控訴人がAから求償すればよいという控訴人の主張は一方的過ぎる。むしろ,本件金員の移動はAの雑取得と捉えて課税するというのが,国と法人間の公平の原則というべきである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,本件各処分はいずれも適法であるから,被控訴人の本件請求を棄却すべきものと判断する。その理由は次のとおりである。 (1) 争点(1)について原判決11頁3行目冒頭から同頁17行目末尾までを引用する(ただし,同頁14行目の「が存在」を「を取得」と改める。)。 (2) 争点(2)についてア給与所得について(ア) 所得税法28条1項は,給与所得について「俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」と規定し,給与所得を包括的に規定している趣旨からすると給与所得を実質的に解し,雇用契約に限らず,これに類する委任契約などの原因に基づき提供した労務(役務)の対価として,あるいは労務(役務)を提供する地位に基づいて支給されるものを含むものと解すべきである。 (イ) ところで,法 契約に限らず,これに類する委任契約などの原因に基づき提供した労務(役務)の対価として,あるいは労務(役務)を提供する地位に基づいて支給されるものを含むものと解すべきである。 (イ) ところで,法人の役員は,その役務提供の内容が極めて包括的かつ広範で法人の業務全般に及ぶものであり,役員に就任していること自体(地位)によって法人に貢献することも含まれうるから,その役務提供の対価性の判断に当たって,具体的かつ個々的な業務を観念することは困難であり,相当でもない。ことに代表権を有する役員の場合には,代表権を有しない役員の場合より格段に権限が広範であり,なおさら上記のことがいえる。 (ウ) とりわけ,法人経営の実権を代表者が掌握し,法人を実質的に支配している事情がある場合には,代表者は,実質的に,その法人資産を自由に処分し得る地位及び権限を有し,簿外資産を捻出し,これを当該法人の事業とは無関係に利得し,費消することも可能であるから,その者が法人から得る利益を,その地位及び権限と切り離してその対応を観念することは著しく困難である。 そうすると,法人経営の実権を代表者が掌握し,法人を実質的に支配しているような法人において,代表者がその意思に基づき,法人の資産から,経理上,給与の外形によらず,法人の事業活動を利用して利益を得たような場合には,その利益は,当該代表者の地位及び権限と無関係に取得したと見ることは相当ではなく,当該代表者の地位及び権限に基づいて当該法人から当該代表者に移転したものと推認することができると解される。 他面,このような利益を代表者が取得している以上,代表者がその地位及び権限に基づいて当該法人から利益を得て担税力を増加させているにもかかわらず,給与所得の課税を免れるとすれば,租税負担公平の原則に反する結果となる。 したがって, 得している以上,代表者がその地位及び権限に基づいて当該法人から利益を得て担税力を増加させているにもかかわらず,給与所得の課税を免れるとすれば,租税負担公平の原則に反する結果となる。 したがって,法人代表者が法人経営の実権を掌握し法人を実質的に支配している事情がある場合,このような法人代表者が,自己の権限を濫用して,当該法人の事業活動を通じて得た利得は,給与支出の外形を有しない利得であっても,法人の資産から支出をし,その支出を利得,費消したと認められる場合には,その支出が当該法人代表者の立場と全く無関係であり,法人からみて純然たる第三者との取引ともいうべき態様によるものであるなどの特段の事情がない限り,実質的に,法人代表者がその地位及び権限(これに基づく法人に対する貢献などを含む。)に対して受けた給与であると推認することが許されるというべきである。 イ源泉徴収すべき支払についてところで,所得税法183条1項は,給与等の支払をする者に対し,その支払の際,その所得税を徴収することを義務付けている。この「支払」とは,所得の正確な把握と徴収の確保という趣旨から,所得の源泉を問わずに担税力を増加させる経済的利益の移転行為の全てをいうものと解され,いかなる源泉から生じたものであるか,適法な利得か不法な利得かを問わない包括的な利益移転行為をいうと解するべきである。 また,源泉徴収義務者(法人)は,受給者(役員)が権限を濫用して違法に給与を得た場合には,これに対し損害賠償請求することが可能であり,また,利得金の返還を受けた場合には更正処分等により対処することが法的に可能であるから,源泉徴収義務者(法人)を不当に扱うことにはならない。却って,このような場合に,法人が源泉徴収義務を免れ得るとすれば,法人と当該役員等が結託することにより容易に源泉徴収 ことが法的に可能であるから,源泉徴収義務者(法人)を不当に扱うことにはならない。却って,このような場合に,法人が源泉徴収義務を免れ得るとすれば,法人と当該役員等が結託することにより容易に源泉徴収義務を免れることになり,所得の正確な把握と徴収の確保という源泉徴収制度の趣旨に反することになる。 ウ Aの享受した経済的利益について(ア) 原判決説示の前提となる事実(2)のとおり,本件各金員は,Aが被控訴人の理事長たる地位を濫用して,理事会の議決を経ずに,被控訴人の資金を引き出し,また不正な経理処理をして被控訴人に債務を負担させ,いずれも夫のために自ら取得したものである。 (イ) ところで,原判決説示の前提となる事実(1)及び証拠(甲5ないし8,13,15,乙3,5,6,10の1ないし4,乙11の1ないし4,乙12の1,2,乙14の1ないし3,乙17ないし19,乙20の1,2,乙21ないし24,乙25の1,2,乙26,27の1ないし3,乙31ないし34,35の1ないし35,原審証人B)によれば,被控訴人は,平成8年4月1日,特別養護老人ホーム蓬生園の設置運営を主たる目的として設立された社会福祉法人であるが,その設立に当たり,Aの夫のCが1億2700万円を借り入れし,そのほぼ全額を寄付したこと(形式的な寄付者の名義はA及びCほか7人となっている。上記寄付金額は被控訴人設立の寄付額の全部である。),Aが一人で設立行為を行い,設立と同時に理事長に就任したこと,被控訴人の定款には,理事は8名(うち1名が互選で理事長に選出され,理事長のみが代表権限を有する。)で理事長が委嘱するとされ,法人の業務は理事会で決し,日常の軽易な業務は理事長が専決し,予算は毎会計年度開始前に理事長が編成して,3分の2以上の理事の同意を得ることを要するなどの記載があり,設立当 で理事長が委嘱するとされ,法人の業務は理事会で決し,日常の軽易な業務は理事長が専決し,予算は毎会計年度開始前に理事長が編成して,3分の2以上の理事の同意を得ることを要するなどの記載があり,設立当初の役員として,理事長Aほか,理事7名,監事2名の記載があり,設立後遅滞なく定款に基づき役員の選任を行うとされていたこと,しかしながら,Aは,平成9年4月1日特別養護老人ホーム蓬生園が開園するに当たり,やっと理事を委嘱し,開園前には理事会も開かれないで理事会の機能は全く働いていなかったこと,また,理事委嘱後も,平成9年9月に青森県の監査により指摘を受けるまで,理事会は,形式的に1回開かれた程度で,実質的に機能していなかったこと,理事長の専決事項を定めた定款細則は平成9年9月に青森県の監査により指摘を受けるまでは作成されなかったこと,そのような状況の下で,Aは,被控訴人の全額寄付者であるCの妻であり設立代表者として(Aは,被控訴人の設立につき,夫Cに全面的な理解と協力を得ていたと考えられる。),実質的に一人で,被控訴人の設立行為をし,特別養護老人ホーム蓬生園の開園準備をし,経理事務を含め被控訴人の運営全般を専断実行し,開園準備期間中である平成8年5月31日には,青森ロード工業との間に工事代金を2400万円とする架空工事を計上し,運用財産として被控訴人口座に準備されていた金員を準備室口座に移し替え,その後,順次引き出して費消し,また,開園後間もない平成9年6月2日に発電機1台のリース契約を締結した際に,真実の代金は3605万円であるにもかかわらず,代金が4200万円であるかのように水増して被控訴人にリース契約を締結させ,その差額を取得し,夫Cの事業資金に費消したこと,が認められる。 (ウ) 以上によれば,Aが,被控訴人の実質的な設立者として理事長に 4200万円であるかのように水増して被控訴人にリース契約を締結させ,その差額を取得し,夫Cの事業資金に費消したこと,が認められる。 (ウ) 以上によれば,Aが,被控訴人の実質的な設立者として理事長に就任し,ワンマン理事長として,被控訴人が運営する老人ホームの開園準備,開園後の運営を含め,被控訴人の経営を一人で専断実行し,それを牽制する理事会も全く機能していなかったという事情の下で,その代表者としての意思で,被控訴人の事業活動の体裁を採りつつ,被控訴人の資金から金員を引き出し,また不正な経理処理をして被控訴人に債務を負担させて本件各金員を取得したのであるから,本件各金員は,Aが,実質的に多額の寄付をした設立者であり,ワンマン理事長である地位及び権限に基づき,いわば公私混同して,夫の事業資金捻出のため,被控訴人の資金を流用し,取得したものであるといえる。 そうすると,Aの本件各金員の取得は,Aの被控訴人における上記の地位及び権限に基づく以外には考えられないのであるから,上記ア(ウ)のとおり,被控訴人の代表者であったAが,代表者の地位及び権限を濫用したものであるが,Aが被控訴人の理事長として実質的に有した権限に基づきなした役務に対し,ないし理事長として実質的に有した地位(法人に対する貢献などを含む。)に基づいて支給されたもの,すなわち給与(臨時の一時金といえるので賞与)であると推認することが許されるものと解される。 エ結論以上によれば,Aの本件各金員の取得は,被控訴人からAに対する給与の支払と推認できるから,原判決説示の「前提となる事実(3)」の経緯でなされた本件各処分はいずれも適法であるというべきである。 オ被控訴人の当審における補足主張は,上記の説示から明らかなように,本件各処分を違法とする理由とはなり得ない。 2 よって,原判決 の経緯でなされた本件各処分はいずれも適法であるというべきである。 オ被控訴人の当審における補足主張は,上記の説示から明らかなように,本件各処分を違法とする理由とはなり得ない。 2 よって,原判決を取り消し,被控訴人の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所第1民事部裁判長裁判官小野貞夫裁判官阿部則之裁判官高橋光雄

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