主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告社会福祉法人札幌育成園、被告北海道及び被告株式会社北海道銀行は、原告に対し、連帯して605万2679円及びこれに対する被告社会福祉法人札幌育成園は平成14年5月12日から、被告北海道及び被告株式会社北海道銀行は平成14年5月14日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告社会福祉法人札幌育成園及び被告北海道は、原告に対し、連帯して1721万5337円及びこれに対する被告社会福祉法人札幌育成園は平成14年5月12日から、被告北海道は平成14年5月14日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、被告社会福祉法人札幌育成園(以下「被告園」という。)が経営する知的障害者更生施設に入所していた原告が、被告園において、原告の意思に反して原告名義の年金受取口座を開設するなどの方法により、原告に支給された障害基礎年金を不法に領得して横領したと主張して、被告園、被告園の所轄庁であった被告北海道(以下「被告道」という。)及び同口座の開設手続をした被告株式会社北海道銀行(以下「被告道銀」という。)に対し、不法行為又は国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める(請求1)とともに、被告園が、原告の意思に反して作業指導等の名目で労働を強要しつつ、作業収益を還元せずに搾取したと主張して、被告園及び被告道に対し、同様の損害賠償を求める(請求2)ものである。 1 争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨により認定した事実については、証拠を括弧内に掲記した。)(1) 原告は、昭和35年2月2日生まれの男性であり、昭和54年7月2日、東京都の心身障害者福祉センターより総合判定「4度」(全5段 全趣旨により認定した事実については、証拠を括弧内に掲記した。)(1) 原告は、昭和35年2月2日生まれの男性であり、昭和54年7月2日、東京都の心身障害者福祉センターより総合判定「4度」(全5段階評価で1が最も重度の障害である。)の判定を受け、さらに、平成13年6月1日、札幌市の同センターにより障害程度「B-」(Aが重度であり、B-は最軽度である。)の判定を受けた知的障害者である(甲1及び2)。 (2) 被告園は、知的障害者福祉法(昭和35年法律第37号。平成10年法律第110号による改正前においては精神薄弱者福祉法が適用されるが、以下、知的障害者福祉法の条項をもって表示する。)に規定する知的障害者更生施設を経営する事業(第1種社会福祉事業に該当する。)を行うことを目的として、社会福祉法(昭和26年法律第45号。平成12年法律第111号による改正前においては社会福祉事業法が適用されるが、以下、社会福祉法の条項をもって表示する。)の規定により設立された社会福祉法人である。 (3) 原告は、平成7年2月3日から平成13年5月26日までの間、被告園が北海道寿都郡寿都町において経営する知的障害者更生施設の寿都浄恩学園(以下「本件施設」という。)に入所し、野菜作りや鶏卵の採取などの作業に従事した(乙イ3の1ないし3の8の各1、2)。原告は、その間、合計489万4384円の障害基礎年金の支給を受け、さらに、平成13年6月15日にも13万4033円の障害基礎年金の支給を受けた。これらの年金合計502万8417円は、原告名義の北海道銀行琴似支店普通預金口座(以下「本件口座」という。)に入金され、入金日当日に、本件口座から、被告園の父兄互助会会長名義の預金口座に、自動振替の方法で送金されていた(甲5ないし7)。 (4) 原告が、平成13年5月26日に本 以下「本件口座」という。)に入金され、入金日当日に、本件口座から、被告園の父兄互助会会長名義の預金口座に、自動振替の方法で送金されていた(甲5ないし7)。 (4) 原告が、平成13年5月26日に本件施設を退所した際、被告園から、原告が本件施設に入所する際に預けていた現金110円及び私物の返還を受けたが、上記の障害基礎年金は返還されず、入所期間中の作業収益を工賃として還元されることもなかった(甲3)。そこで、原告は、平成13年12月20日、被告道の保健福祉部に対し、入所期間中の障害基礎年金が被告園により無断使用され返還されないといった苦情を申し出た。 (5) 道知事は、平成14年1月10日から同年2月12日の間、被告園及び本件施設その他被告園が経営する知的障害者更生施設に対し、社会福祉法に基づく特別監査を実施し(以下「本件特別監査」という。)、入所者の年金の管理、入所者からの寄付の取扱い、作業収益の還元状況及び原告への対応等といった事項に関して、改善措置を講じるよう指導を行った(甲8)。 2 争点(1) 被告園が原告の障害基礎年金を横領したか否か(被告園の不法行為責任その1)。 (原告の主張)原告が本件施設に入所する際、被告園は、原告に付き添ったa(当時、日野市福祉部社会福祉課障害者係に所属していた。)に対して原告名義の年金は被告園が預かる旨の方針を一方的に示したのみで、原告に対して直接こうした説明を一切していない。原告は、自己の受領する年金について、被告園を始めいかなる者に対しても寄付する旨の約束をした事実はない。本件施設の入所者及び保護者から被告園の理事長宛てに提出される承諾書のひな形(甲44、乙ロ16。「障害福祉年金及び生活保護日用品費の使途については園において互助会費として積立し園生の日用品等の必要な物品購入、または園生のため から被告園の理事長宛てに提出される承諾書のひな形(甲44、乙ロ16。「障害福祉年金及び生活保護日用品費の使途については園において互助会費として積立し園生の日用品等の必要な物品購入、または園生のためになると園が認めた諸経費に使用することを承諾します。」と記載されている。)に原告名の署名押印がある承諾書(以下「本件承諾書」という。)が提出されているが、原告が自署押印した記憶はない。被告園は、入所の際に原告と同行したa及びbも承知の上で原告が本件承諾書を作成したなどと主張するが、原告の収入を全て被告園に取得させる内容の文書を福祉業務に従事する両氏が黙認することはあり得ないし、入所前に両氏が本件承諾書の書式について検討していたことからすれば、なおさらそう言える。 仮に、原告が本件承諾書に署名等をしたとしても、原告に知的障害があることなどを考えると、原告において真に文書の内容を理解して真意に基づき署名したのかは極めて疑問であり、原告の真意に基づく財産処分とは言えない。 さらに、仮に、原告が本件承諾書の内容を理解して署名等をしたとしても、こうした贈与契約自体が、入所を申し込む者と受け入れる者との力関係からして、あるいは、目的が抽象的で将来的にも全額を寄付させるという内容からして、強要というほかなく、公序良俗に反し無効である。 以上、被告園が、原告に無断で、原告名義の本件口座を開設し、同口座に入金された原告名義の障害基礎年金を全額払い戻し、もって不正に領得して横領した事実は明らかである。 (被告園の主張)被告園においては、従前より、できるだけ公的な補助金に頼らずに入所者が自ら施設を建設し自由な運営を目指す方針のもと、入所者の承諾を得て、父兄互助会に対して障害基礎年金等を全額寄付させ、父兄互助会が互助会費として積み立て、被告園が、父兄互助会から委託を らずに入所者が自ら施設を建設し自由な運営を目指す方針のもと、入所者の承諾を得て、父兄互助会に対して障害基礎年金等を全額寄付させ、父兄互助会が互助会費として積み立て、被告園が、父兄互助会から委託を受けて、互助会費を施設の整備や維持に要する費用、入所者の自己使用に当てる費用、入所者の国民健康保険料や介護保険料等の支出に要する費用に使用していた。 原告が本件施設に入所する際、被告園は、札幌市内の法人本部において、原告に付き添ったaの立会いの下、原告に対して、上記のように説明したところ、原告は、aと相談の上で本件承諾書に自署押印した。同承諾書の署名が原告の自署であることは、その筆跡から明らかである。その際、原告は、自ら持参した印鑑を被告園に預け、同年金の入金口座の開設、同口座への自動振替手続を被告園に委任している。また、入所者から募った寄付金は、上記のとおり、入所者の利益のために使用していたのであって、公序良俗に反することにもならない。 したがって、被告園は、原告の承諾に基づき、父兄互助会宛てに原告名義の障害基礎年金の寄付を受け、これを入所者の利益のために使用していたのであるから横領行為ではなく、不法行為とは言えない。 (2) 被告園が原告に労働を強制し、搾取したか否か(被告園の不法行為責任その2)。 (原告の主張)被告園は、原告に対し、本件施設に入所していた期間中、年間313日にわたって、午前9時から午後4時までの間、農作業、鶏卵の採取、作物の出荷作業等の過酷な労働を強要した。その一方で、入所期間中の作業収益が還元されたことはなく、こうした労働の対価が原告に支払われたこともなかった。したがって、被告園が、指導、訓練に名を借りて原告に労働を強制し、搾取していたことが明らかであって、こうした行為は不法行為と言うほかない。 (被告園の主張)被告 価が原告に支払われたこともなかった。したがって、被告園が、指導、訓練に名を借りて原告に労働を強制し、搾取していたことが明らかであって、こうした行為は不法行為と言うほかない。 (被告園の主張)被告園は、原告を含めた入所者に対し、希望に応じて、一般的な能力を向上させるための指導及び各種作業を実施していた。そもそも、被告園における入所者の作業は、入所者の自立及び社会復帰に向けられた教育ないしは訓練として実施されるものであって、対価を伴う労働とは言えず、作業収益は入所者に対して配分されるようなものではない。しかも、被告園は、入所者によるレクリエーションや旅行のための費用に供する形で作業収益を還元している。したがって、被告園が、作業指導等の名目で原告から搾取をしたことはなく、不法行為に当たらない。 (3) 被告道の被告園に対する指導監督権限の行使に国家賠償法上の違法があったか否か(被告道の国家賠償責任)。 (原告の主張)道知事は、被告園の所轄庁であり、社会福祉法に基づき指導監督権限が付与されているところ、本件特別監査の実施以前から、被告園の前記各不法行為その他の不当な運営状況、すなわち、被告園が入所者の年金を取得しあるいは管理し、また、被告園が作業収益を入所者に還元していなかったなどの被告園の不適切な運営を認識していたのであるから、被告道が適切な指導監督措置を取れば、本件各損害の発生を防ぎ得たのである。それにもかかわらず、被告道が何ら指導監督権限を行使せずに放置したことは、国家賠償法1条1項の違法がある。また、被告道が本件特別監査に至るまで、上記の事実を知らなかったとすれば、同条の重大な過失があったと言うほかない。 (被告道の主張)被告道は、原告からの苦情の申出を受けて本件特別監査を実施した結果、初めて、被告園又はその施設が入所者の障害基礎 実を知らなかったとすれば、同条の重大な過失があったと言うほかない。 (被告道の主張)被告道は、原告からの苦情の申出を受けて本件特別監査を実施した結果、初めて、被告園又はその施設が入所者の障害基礎年金等を預り金として管理していた事実、あるいは被告園又はその施設が入所者に対して作業収益を一切還元していなかった事実を認識するに至ったのであって、本件特別監査の実施に至るまで、定期的な運営指導のほかに社会福祉法56条1項ないし4項の各措置を講じなかったという被告道の権限不行使が、行政庁の専門的判断に基づく合理的裁量の範囲を逸脱し、著しく合理性を欠くに至ったとはいえず、国家賠償法上の違法があるとは言えない。また、毎年度定期的に実施される運営指導を通じても、上記の事実があると具体的に疑われるような事情はなかったのであるから、被告道に重大な過失があったとも言えない。 (4) 被告道銀が本件口座の開設手続等をするに当たり、本人確認義務の懈怠等の義務違反があったか否か(被告道銀の不法行為責任)。 (原告の主張)被告道銀は、被告園の担当者から、本件口座の開設申込みがあった際、及び自動送金の申込みがあった際に、口座名義人である原告の意思に基づくものか否かを確認する義務があったにもかかわらず、漫然と本件口座を開設し、同口座の入出金に対応した。被告園の前記不法行為(横領行為)は、このような被告道銀の故意又は過失により惹起されたものであるから、被告道銀も、原告に対して不法行為責任を負う。 (被告道銀の主張)被告道銀は、原告が当時入所していた被告園の職員から、口座開設の目的として障害基礎年金等を受領するためと告げられて、原告名義の口座開設の申込みを受けたことから、本件口座の開設の申込みが原告の意思に基づくものであったと判断したのであって、何ら注意義務違反はない。 的として障害基礎年金等を受領するためと告げられて、原告名義の口座開設の申込みを受けたことから、本件口座の開設の申込みが原告の意思に基づくものであったと判断したのであって、何ら注意義務違反はない。さらに、届出印鑑に基づいて預金の払戻し又は自動送金の手続が行われた場合、更に本人の真意を確認すべき法的義務はないのであるから、入出金確認時においても、何ら注意義務違反はない。 (5) 原告の被った損害(原告の主張)ア請求1に係る損害被告園による障害基礎年金の横領によって、原告には、障害基礎年金相当額502万8417円及びこれに関する弁護士費用として102万4262円の合計605万2679円の損害が発生した。よって、原告は、被告園、被告園の所轄庁であった被告道及び本件口座開設手続をした被告道銀に対し、不法行為又は国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として605万2679円及び各被告に対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。 イ請求2に係る損害被告園による労働の搾取によって、原告には、平成7年2月3日から平成13年5月26日までの間の労働に対する対価相当額(それぞれの期間に対応する北海道における最低賃金額に期間中の推定労働日数を乗じたもの。)973万5076円、慰謝料として500万円及びこれらに関する弁護士費用として248万0261円の合計1721万5337円の損害が発生した。よって、原告は、被告園及び被告園の所轄庁であった被告道に対し、不法行為又は国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として1721万5337円及び各被告に対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。 (被告ら)いずれも争う。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)について(1) 5337円及び各被告に対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。 (被告ら)いずれも争う。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)について(1) 証拠(括弧内に掲記したもののほか、甲35、39、48、53、乙ロ20、証人c、同a、同b、同d、被告園代表者、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告園における年金管理の取扱い及び本件承諾書の作成経緯等について、以下の事実が認められる。 ア被告園は、地域の知的障害者の家族が中心となって昭和36年に設立された。 イ被告園は、一般に、入所時において、入所者及び保護者から、被告園宛てに、本件承諾書と同内容の記載のある承諾書を提出させる取扱いをしており、これを受けて、被告園において入所者を名義人とする預金口座を開設し、年金等が同口座に入金されると、父兄互助会会長名義の預金口座に自動振替により送金する方法等により、入所者が受給する年金等をすべて互助会費として積み立てていた(甲44、乙ロ16)。なお、父兄互助会には規約はなく、役員会や総会などが開催された形跡もなく、父兄互助会会長名義の預金口座の通帳及び印鑑は被告園が管理し、父兄互助会の出納事務は被告園の職員が行い、同口座からの入出金に際して、父兄互助会役員の決裁を受けることもなかった。 ウ一方、原告は、昭和54年9月1日、東京都日野市から施設入所の措置を受け、同市が設置する知的障害者更生施設である七生福祉園において、更生援護を受けていた。原告は、平成2年3月以降は、東京都多摩市において自らアパートを借り、就労しながら自活生活を始め、同年8月ころに一旦は上記措置が解除されたものの、平成6年6月ころから、再び七生福祉園に緊急一時保護を求め、知的障害者更生施設への入所を強く希望するようになった。この間 就労しながら自活生活を始め、同年8月ころに一旦は上記措置が解除されたものの、平成6年6月ころから、再び七生福祉園に緊急一時保護を求め、知的障害者更生施設への入所を強く希望するようになった。この間、七生福祉園成人援護課援護係のcら柊寮の職員が原告を支援し、また同係職員であるbが、個人的に生活上の助言をするなどボランティアとして関わっていた。そして、原告は、財産の管理をbに任せており、障害基礎年金の受取口座の管理もbに委ねていた。 エ原告は、平成6年11月ころ、bの付添のもと、東京において、本件施設へ入所するための面接を受け、被告園から本件施設に入所することが許可された。被告園から、同年12月22日付けで、日野市福祉部長に宛てて、入所準備のための書類一式が送付されたが、この書類一式には、身柄引受書とともに承諾書のひな形が在中していた(甲40、41)。日野市福祉部社会福祉課障害者係に所属していたaは、原告にこれらを交付して、その内容を一通り説明した。原告は、c及びbと相談しながら、入所に必要な書類をもとに、入所に向けての準備をした(甲42、43)。また、原告は、bと相談の上で、本件施設へ入所する期間中、原告の既得財産を権利擁護センター「すてっぷ」に管理してもらうことにした。そこで、bは、a、cとともに権利擁護センター「すてっぷ」へ赴き、原告の預金口座の管理を委託する手続をした。その際、本件承諾書についても話題になったが、権利擁護センター「すてっぷ」から、入所者個人と施設との間の問題であると回答された。 オ原告は、平成7年2月3日、札幌市西区に所在する被告園の法人本部において入所手続を行った。入所手続は、当時本件施設の施設長であった被告園代表者が行い、原告にはa及びbが付き添った。被告園代表者は、原告に対し、本件施設に入所する意思の確認 在する被告園の法人本部において入所手続を行った。入所手続は、当時本件施設の施設長であった被告園代表者が行い、原告にはa及びbが付き添った。被告園代表者は、原告に対し、本件施設に入所する意思の確認をした上、年金については父兄互助会に寄付してもらうこと、被告園は、父兄互助会からの寄付により施設の整備及び維持に必要な経費に充てることなどを説明した。この説明の間、終始、原告にはaが付き添っていた。被告園側の説明が一通り終了した後、原告は、aらと相談の上で、承諾書に自署押印をした。その上で、被告園は、年金の寄付を受けるため、原告名義の銀行口座を開設し、そこから自動振替により父兄互助会に年金を振り込むという手続になることを説明し、その手続のため原告の印鑑を預かった。その後、原告は、寿都町に所在する本件施設へ向かい、同所で、本件施設における生活上の注意事項について説明を受け、そのまま入所するに至った。 (2) この点、原告は、本件承諾書に自署押印した事実自体を否認し、年金振込のために本件口座の開設を承諾したこと等も否認している。しかしながら、本件承諾書の署名と関係証拠(甲36)等における原告の署名とを対照すると、両者は酷似しているから、本件承諾書の原告署名部分は、原告の筆跡によるものであることが優に肯認し得るところ、原告本人は、その本人尋問において本件承諾書に自署したかもしれないし、しなかったかもしれないなどという極めて不明確な供述に終始しており、同供述部分は到底採用できるものではない。その他、証人a及び同bの証言も、入所に際して本件承諾書に自署押印がされたかどうかという具体的状況については明確に記憶がないというものであるから、同様に採用できるものではない。原告は、同行していたa及びbが本件承諾書の差入れを容認することはあり得ないなどといった趣 れたかどうかという具体的状況については明確に記憶がないというものであるから、同様に採用できるものではない。原告は、同行していたa及びbが本件承諾書の差入れを容認することはあり得ないなどといった趣旨の主張もしているが、既に認定したところ(上記(1)エ)からも明らかなとおり、a及びbの両名は、入所前の段階より送付されていた本件承諾書のひな形の存在を認識した上で、原告も交えて事前に一定の検討を加えていたものであり、それにもかかわらず、各証言によっても、現実の入所に際して、承諾書の差入れを拒否したとか、抗議をしたとか、その他被告園との間で承諾書の件を話題に出したり、疑問を述べたりなどといった形で承諾書の問題が表面化することは一切なかったという経過が窺われるのであるから、むしろ、両名が付き添っていた上で特に問題もなく本件承諾書が差し入れられたものと認められる。同様に、原告本人は、障害基礎年金を受給していることを認識していながら、本件施設に入所中年金がどのように受給されており、それがどのように処理されていたか考えたことも疑問を述べたこともなかった旨を供述しており、同供述部分は、むしろ、原告は、本件施設入所時において、年金の取扱いについても、何らかの説明を受け、それを了解していた経緯を窺わせるものであるところ、被告代表者は、上記(1)オ記載の事実があった旨供述しており、同供述においては、本件承諾書の作成や本件口座開設に至る経緯が具体的かつ詳細に述べられており、その供述に特に不自然な点等は何ら見当たらない。 以上の諸事情を総合すれば、上記(1)オのとおり、原告は、本件承諾書に自署押印の上、これを被告園に差し入れ、その際、原告名義の本件口座を新たに開設し、障害基礎年金の振込先を同口座とし、そこから、後記認定のとおり、被告園が事実上管理する預金口座に振 告は、本件承諾書に自署押印の上、これを被告園に差し入れ、その際、原告名義の本件口座を新たに開設し、障害基礎年金の振込先を同口座とし、そこから、後記認定のとおり、被告園が事実上管理する預金口座に振り替えることについても承諾していたと認めるのが相当である。したがって、そもそも本件承諾書の作成や被告園から説明を受けた事実自体を否定した上で、被告園その他いかなる者に対しても寄付をした事実がないとか、被告園が無断で原告名義の口座を開設して障害基礎年金を管理し領得していたなどといった原告の主張は、その前提を欠くもので、理由がない。 なお、被告園は、本件承諾書に基づいて寄付を受けた主体はあくまで被告園とは別団体である父兄互助会である旨主張している。確かに、前記認定のとおり、形式的には父兄互助会会長名義の預金口座によって入所者の年金が管理されていたことが認められるが、他方で、上記(1)イの年金管理の実情や父兄互助会の実態といった諸事実に加え、本件承諾書はその宛先が被告園とされており、「園において」「互助会費として積立」てると記載されているが、父兄互助会が管理する旨の記載は一切なく、被告園が必要と認めた諸経費に対する費消を承諾する旨の記載内容になっていることなどの諸事情を総合考慮すると、名目や形式はともかくとして、実質的には、被告園において、原告を含む入所者が取得する年金の寄付を受けこれを「互助会費」として実質的に管理していたものと認めるのが相当である。証拠(証人d)によれば、被告園が入所者の年金等を直接管理する形式をとっていれば、行政監査の調査の対象となったはずであるのに、任意団体である父兄互助会が管理する形式をとっていたため、社会福祉法による調査権限が及ばないものとして処理されたことが認められ、この点において、本件特別監査において被告道が指摘す たはずであるのに、任意団体である父兄互助会が管理する形式をとっていたため、社会福祉法による調査権限が及ばないものとして処理されたことが認められ、この点において、本件特別監査において被告道が指摘するとおり、被告園における年金管理等の方法には不適切なところがあったものと言わねばならない。しかしながら、既に認定判断したとおり、原告は、被告園に年金の管理を実質的に委ねてこれを寄付する旨の本件承諾書の用紙を事前に交付されており、付き添ってきたボランティアとも相談の上でそれに特段異議も疑問も述べることなく自署押印の上、これを被告園に自ら差し入れる等しているから、自己の障害基礎年金を被告園の実質的な管理に委ねることを相応に認識した上で承諾していたものと言うべきであって、被告園の年金管理に不適切な点があることをもって、年金を横領された旨の原告の上記主張が前提を欠いて理由がないとの前記認定判断を左右するものではない。 (3) 原告は、仮に原告が本件承諾書に自署押印したとしても、同承諾は真意に基づくものではないとか、真意であったとしても公序良俗違反で承諾は無効であるなどとも主張する。 しかしながら、関係証拠を精査しても、本件承諾書の作成が原告の真意に基づくものでないことを窺わせる事情や証拠は原告本人の極めて不明確な供述を除いて見当たらない。また、証拠(証人d、同c)によれば、知的障害者施設における入所者の預金等の管理形態には、①施設管理、②保護者管理、③入所者の父兄等の親睦団体等による管理があること、民間の知的障害者更生施設においては、施設入所者の年金、預金等をすべて預り、その中から必要な諸経費を支出する取扱いが必ずしも特異な取扱いではなかったことが窺われることに照らすと、本件承諾書に基づく取扱いが公序良俗に反するとまではいえず、このような取扱いが公 をすべて預り、その中から必要な諸経費を支出する取扱いが必ずしも特異な取扱いではなかったことが窺われることに照らすと、本件承諾書に基づく取扱いが公序良俗に反するとまではいえず、このような取扱いが公序良俗に反することを基礎付ける事情というのも存しないものと言うべきである。さらに、既に認定したところの本件承諾書作成に至る具体的経緯、特に、原告が本件施設に入所する以前から本件承諾書のひな形の用紙を受領し、aやbから説明を聞くなどして一定の検討をしていたこと、証人bは、当時、原告が寄付の意味を十分理解し認識し得る能力を有していた旨証言していること、現に、原告らは、入所の際の被告園との面談に当たり、原告の既得財産については、「すてっぷ」に管理してもらうこととし、被告園の管理には委ねない旨明確に伝え、これを実行していることなどの諸事情に照らせば、原告は、被告代表者の説明を受け、aとも相談の上、本件承諾書にあるとおり被告園に年金の管理等を実質的に委ねて寄付する趣旨を相応に認識した上でこれを差し入れたものと認められるので、本件承諾書の提出が本件施設の入所の条件になっていたとしても、原告は、本件承諾書の提出を拒否して本件施設への入所を辞退することができたとも言い得るから、本件承諾書の提出に強制の要素があったと見ることもできない。 (4) 以上のとおり、被告園が原告の障害基礎年金を横領したとする原告の主張は理由がない。 2 争点(2)について(1) 証拠(括弧内に掲記したもののほか、乙イ3の1ないし3の8の各1、2、証人e、被告園代表者、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア原告は、衛生面や食事面に特に課題があったことから、本件施設において、起床から就寝までの日常一般に関わる指導に加えて、着衣や入浴といった衛生管理や食事の指 旨によれば、以下の事実が認められる。 ア原告は、衛生面や食事面に特に課題があったことから、本件施設において、起床から就寝までの日常一般に関わる指導に加えて、着衣や入浴といった衛生管理や食事の指導を中心に日常生活訓練を受けていた。また、原告は、農業班に所属し、主として野菜作りの作業訓練を受け、具体的には、春から秋にかけて、畑おこし、種まき、除草、収穫及び出荷準備という各作業の指導を受けた。 イ原告は、午前6時半ころ起床し、午前8時の朝食までは、洗顔、歯磨き及び掃除をし、午前8時40分ころ、点呼の後に作業所へ行き、作業着に着替え、午前9時ころから午前11時半ころまで、上記の作業訓練に従事した。その後、本件施設において、手洗いやうがい、着替の後に昼食をとり、昼食後は、再び作業所に戻り、作業着に着替えて、午後4時ころまで、作業訓練に従事した。 作業訓練終了後は、手足を洗い、汚れ物を洗濯場に持参し、持ち場の掃除をし、午後4時45分ころ、点呼の後に夕食をとった。夕食後は、歯磨き、入浴(週3日)、日記記入の指導を受けたが、午後8時50分の消灯時間までは、テレビを見て過ごしていた。 ウ本件施設においては、月1回程度、入所者10名に付添いの職員2、3名がグループとなって、近隣の岩内町のホームセンター等や、時折は、札幌市まで外出することがあった。この外に年2回の他の施設と合同で実施するソフトボール大会、6月の遠足、7月の海水浴と岩内祭り、夏冬休み期間中の外食などの行事が設けられていた。被告園は、入所者の外出行事に際しては、入所者に小遣いを渡し、小遣いの使い方等の買い物指導を行うこととしていた。また、被告園は、概ね毎年、その経営する施設入所者全体で宿泊を伴う修学旅行を行い、平成13年4月には、東京ディズニーランドへ4日間の旅行を実施した。原告は、こ 方等の買い物指導を行うこととしていた。また、被告園は、概ね毎年、その経営する施設入所者全体で宿泊を伴う修学旅行を行い、平成13年4月には、東京ディズニーランドへ4日間の旅行を実施した。原告は、これらの行事にいずれも参加した。 エ被告園ないし本件施設においては、毎年度、相当金額の作業収益を上げていたが、これらの作業収益は、工賃として入所者個人に支払うことはせず、入所者が参加する旅行等の行事の経費、行事等の小遣いとして、被告園から本件施設に支出していた。 オ道知事は、本件特別監査において、平成12年度収支報告書によると作業収益を施設の運営を通して入所者に還元していたとは認められない状況にあり、作業収益の入所者への還元は一切行われていなかったと指摘した上、会計処理上から言っても、作業収益の発生状況が明瞭に把握できない会計処理が行われていたものと認定し、被告園に対し、入所者に対する作業収益の還元等を指導した(甲8)。 (2) 原告は、本件施設において、過酷な労働を強制されたと主張するので、まずは、この点について検討する。 本件施設は知的障害者更生施設であるところ、知的障害者更生施設は、18歳以上の知的障害者を入所させて保護するとともに、その更生に必要な指導及び訓練を行うことを目的とする施設である(知的障害者福祉法21条の6)。ところで、同法15条の26の規定に基づき定められた指定知的障害者更生施設等の設備及び運用に関する基準(平成14年6月13日付け厚生労働省令第81号)においては、入所者に対する指導及び訓練は、入所者の自立の支援と日常生活の充実に資するよう入所者の心身の状況に応じて適切な技術をもって行うこと、入所者が日常生活における適切な習慣を確立するとともに社会生活への適応性を高めるようあらゆる機会を通じて生活指導を行うこと、入所者の に資するよう入所者の心身の状況に応じて適切な技術をもって行うこと、入所者が日常生活における適切な習慣を確立するとともに社会生活への適応性を高めるようあらゆる機会を通じて生活指導を行うこと、入所者の有する能力を活用することにより社会経済活動に参加することができるようにするため入所者の心身の特性に応じた必要な訓練を行わなければならないこと、並びに入所者が自立して社会生活を営むことができるよう作業指導を行わなければならないこと(同21条1、3項、23条)とされているが、これらは、原告が本件施設を退所した後に定められたものではあるが、知的障害者更生施設の入所者に対する指導及び訓練の内容を考察する上で参考になるものである。 この点、本件施設で実施する作業訓練の内容は、野菜作りを主とする農作業であるが、こうした農作業が知的障害者の更生に必要な指導及び訓練の内容として不合理なものではない。また、上記(1)のとおり、原告は、本件施設において、畑おこし、種まき、除草、収穫及び出荷準備の各段階で、その心身の状況を考慮した技術的な指導を受けていたものと認められる。さらに、原告の作業時間、作業量等も、入所者が自立して社会生活を営むという作業指導の目的に照らして明らかに不合理であるとは言えないし、これらの指導及び訓練は、入所者の日常生活における習慣を確立し、社会生活への適応性を高めるための生活指導の側面も有することを勘案すれば、知的障害者更生施設の設置目的との関係でも相応の合理性が認められる。そして、原告も、これらの作業について、当初は、今までやったことがない作業であったので、腰が痛くなったりしてきついと感じたが、慣れるに従ってひどい疲れはなくなり、作業内容も、当初は職員の指示、指導があったが、慣れるに従って指示がなくともある程度はできるようになった旨供述し ったので、腰が痛くなったりしてきついと感じたが、慣れるに従ってひどい疲れはなくなり、作業内容も、当初は職員の指示、指導があったが、慣れるに従って指示がなくともある程度はできるようになった旨供述しており、これらの供述に照らしても、被告園の原告に対する作業指導が、原告の意思に反して強制的に行われたり、作業が過酷なものであったといった状況は窺われない。 以上の事実に照らせば、原告が主張するように、原告が強制的に過酷な労働に従事させられたといった事実はおよそ認められないと言うべきである。 (3) また、原告は、被告園が作業収益を還元せずに、原告から搾取したとも主張するので、この点についても判断する。 知的障害者福祉法21条の7所定の知的障害者授産施設は、知的障害者に対して自活に必要な訓練を行うとともに職業を与えて自活させることを目的とする施設であり、同法15条の26の規定に基づき定められた前記運用基準52条によると、授産活動に従事している者に、事業収益から事業に必要な経費を控除した額に相当する金額(作業収益)を工賃として支払わなければならないとされている。しかしながら、本件施設は、上記のとおり、知的障害者の更生に必要な指導及び訓練を行うことを目的とする知的障害者更生施設であって、こうした知的障害者授産施設とは異なる性質のものである。そして、知的障害者更生施設の入所者が行う作業は、知的障害者授産施設の入所者が行う作業とは異なり、入所者の職業としての労働ではなく、入所者の自立生活のための指導ないし訓練と言うべきであるから、その労働については当然に対価性が認められるものではないし、入所者に還元されるべき性質のものでもないと言うべきである。 そうだとすれば、作業収益を入所者に一切還元しなかったとしても、直ちに知的障害者福祉法に違背することにはならず、不 められるものではないし、入所者に還元されるべき性質のものでもないと言うべきである。 そうだとすれば、作業収益を入所者に一切還元しなかったとしても、直ちに知的障害者福祉法に違背することにはならず、不法行為となるものではないと解するのが相当である。 ところで、昭和42年の厚生省児童家庭局長通知(乙ロ17)によると、知的障害者更生施設の職業訓練等についても、労働の搾取が行われることのないよう厳重に指導監督することとされており、被告道もこれを受けて、知的障害者更生施設においても作業収益を入所者に還元するよう指導していたものと認められる。こうした行政の通達に照らして本件につき実質的に見ても、被告園においては、上記(1)のとおり、入所者に対して小遣いを交付したり、宿泊を伴う修学旅行等のレクリエーション行事を実施して当該行事に係る経費に充当するなどといった方法で、作業収益の一部を、入所者に対し、一定程度還元していた状況が認められる。こうした事情を踏まえ、他方で、前記のとおり、そもそも本件施設における作業については労働の対価性が問題となり得ないことなどを総合すると、被告園が原告から不法に搾取をしていたとの事実はいまだ認めるに足りないものと言うほかない。原告に対する作業指導が、特に原告の意思に反して強制的に行われたものでなかったことは、既に認定したとおりであり、関係証拠によっても、被告園が、指導、訓練に名を借りて原告に労働を強制し、搾取していたことを窺わせる事情は何ら見当たらないものと言うべきである。 (4) 以上のとおり、被告園による労働の強制及び搾取に関する原告の主張も理由がない。 3 争点(3)及び(4)について上記のとおり、原告の被告園に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がない。そうすると、被告園の各不法行為があることを前提に、 原告の主張も理由がない。 3 争点(3)及び(4)について上記のとおり、原告の被告園に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がない。そうすると、被告園の各不法行為があることを前提に、被告道及び被告道銀に対して損害賠償を求める原告の主張は、その前提を欠くものであって、理由がない。 4 結論以上のとおりであるから、争点(5)について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 (口頭弁論の終結の日平成16年2月12日)札幌地方裁判所民事第3部裁判長裁判官生野考司裁判官佐伯恒治裁判官大淵茂樹
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