平成15(わ)400 殺人,逮捕監禁,横領被告

裁判年月日・裁判所
平成16年9月16日 甲府地方裁判所
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判決文本文13,283 文字)

主文 被告人Aを懲役2年に,被告人Bを懲役9年に,被告人Cを懲役1年に,被告人Dを懲役3年に,被告人Eを懲役2年にそれぞれ処する。 未決勾留日数中,被告人Aに対しては270日を,被告人B及び被告人Cに対しては各160日を,被告人Dに対しては50日を,被告人Eに対しては150日を,それぞれその刑に算入する。 この裁判が確定した日から,被告人Aに対し4年間,被告人C及び被告人Dに対し各5年間,被告人Eに対し3年間,それぞれその刑の執行を猶予する。 理由 【認定事実】Ⅰ 逮捕監禁,殺人被告事件(犯行に至る経緯) 1 有限会社F(以下「F」ともいう。)は,G(以下「G」ともいう。)が経営する会社で,山梨県内及びその周辺の工事現場に人夫を派遣する事業を営み,東京都内や大阪府内などから浮浪者を人夫として集め,自社の人夫宿舎に居住させていたが,人夫の中には,飲酒して人夫宿舎で騒いだり,交通事故を起こすなどの不始末をしたり,あるいは反抗的態度をとる者もいた。Gは,こうした人夫に対して,他の人夫たちに対する見せしめとして,暴力をもって徹底的に制裁を加え,人夫たちを屈服させており,被告人A,同B,同C,同D,H(以下「H」ともいう。)は,社内で,一般の人夫たちとは一線を画し,社長であるGのもとで,一般の人夫たちを管理する立場にあった。 2 Fの人夫であったIことJ(以下「J」ともいう。),K(以下「K」ともいう。),LことM(以下「M」ともいう。)は,平成12年5月14日の昼間に山梨県都留市ab番地所在のRキャンプ場で飲食した後,普通乗用自動車で山梨県都留市cd番地所在のF人夫宿舎に戻る途中,酒店に立ち寄り,その際, (以下「M」ともいう。)は,平成12年5月14日の昼間に山梨県都留市ab番地所在のRキャンプ場で飲食した後,普通乗用自動車で山梨県都留市cd番地所在のF人夫宿舎に戻る途中,酒店に立ち寄り,その際,酒店前に駐車中の他の普通乗用自動車と接触する交通事故を起こしたが,謝罪しないまま,F人夫宿舎に戻った。同日午後3時ころ,上記酒店経営者からF事務所に苦情の電話がかかってきたことから,上記の交通事故が発覚した。 3 事故の報告を受けたGは,J,K,Mの3名に制裁を加えるため,Fの人夫宿舎にいた上記3名をF事務所に呼びつけた。 Gの暴力を伴う厳しい叱責に対して,Mは素直に反省する姿勢を示したものの,JやKは,反省する態度を示さなかったばかりか,Jにおいては,Gに対して「給料も払わないのに何が社長だ。」,「仲間を連れて仕返しに来る。」などと述べて反抗的な態度をとったあげく,Gの厳しい叱責にたまりかねて,事務所を飛び出して人夫宿舎に戻り,同宿舎内において,追いかけてきたHの腹部付近を所携のナイフ様の刃物で刺した。この状況を目撃した被告人Bは,同DとともにJから刃物を取り上げようとして,刃の部分を素手で握ったことから,右手の平を負傷した。Jは,被告人Bらに取り押さえられた後も,悪態をついていた。 (犯罪事実)第1 被告人B,同Dは,G及びHと共謀の上,IことJ(当時51歳)及びK(当時50歳)に制裁を加えるため,両名を監禁しようと企て,平成12年5月14日の午後5時ころ,山梨県都留市cd番地所在の有限会社Fの事務所や人夫宿舎において,標識ロープでJの両手首及び両足首を緊縛し,ナイロン製紐でKの両手首を緊縛し,さらに,同日午後6時過ぎころ,Gから普通乗用自動車の運転を命じられ,情を知った被告人Eがこれに加わり,ここに被告人B,同D,同Eは,G及び 首及び両足首を緊縛し,ナイロン製紐でKの両手首を緊縛し,さらに,同日午後6時過ぎころ,Gから普通乗用自動車の運転を命じられ,情を知った被告人Eがこれに加わり,ここに被告人B,同D,同Eは,G及びHと共謀の上,J及びKの両名を普通乗用自動車に押し込み,同所から約17キロメートル離れた同市ab番地所在のRキャンプ場に至るまで同車を疾走させ,さらに同キャンプ場事務所において,Jの両手首及び両足首に布製粘着テープを巻き付け,Kの両手首に布製粘着テープを巻き付けるなどした上,再度,J及びKの両名を同キャンプ場に駐車中の上記普通乗用自動車に押し込み,よって,同日午後7時ころまでの間,J及びKの両名がその場から脱出することを不能ならしめ,もってJ及びKの両名を不法に逮捕監禁した。 第2 被告人Bは,G及びHと共謀の上,前同日午後7時過ぎころ,前記Rキャンプ場に駐車中の前記普通乗用自動車内において,殺意をもって,Gが, 1 前記Jの頸部に前記標識ロープを巻いて強く締め付け,よって,そのころ,同所において,同人を窒息死させて殺害し, 2 続いて,前記Kの頸部を両手で強く締め付け,よって,そのころ,同所において,同人を窒息死させて殺害した。 第3 被告人A,同B及び同Cは, 1 Gと共謀の上,LことM(当時41歳)に制裁を加えるため,同人を監禁しようと企て,平成12年5月14日午後6時ころ,前記の有限会社F事務所において,被告人Bが標識ロープでMの両手首を後ろ手に緊縛し,被告人A,同C及び同Bが交替でMを監視するなどし,そのころから同月15日午後2時ころまでの間,Mがその場から脱出することを不能ならしめ, 2 隙を窺って脱出したMがGに発見されて前記のF事務所に連行されるや,Gと共謀の上,Mに制裁を加えるため,同人を監禁しようと企て,同日午後6時こ 間,Mがその場から脱出することを不能ならしめ, 2 隙を窺って脱出したMがGに発見されて前記のF事務所に連行されるや,Gと共謀の上,Mに制裁を加えるため,同人を監禁しようと企て,同日午後6時ころ,同所において,G,被告人A,同B,同Cの4名でMを監視し,さらに,GがMに対し,模造刀を示しながら,「今度逃げたらこれで頭をかちわったろか。」などと怒号して脅迫し,被告人Bが標識ロープでMの両手首,両足首を緊縛するなどし,そのころから同日午後11時ころまでの間,Mがその場から脱出することを不能ならしめ,もってMを不法に逮捕監禁した。 Ⅱ 横領被告事件(犯罪事実)被告人Aは,山梨県都留市cd番地所在有限会社Fの経理事務を担当していた者であるが,同社代表取締役のGと共謀の上,平成14年10月1日に同社の人夫であったNが普通乗用自動車に乗車中に左半身運動障害等の後遺症を残す頸髄損傷の傷害を負った交通事故について,同人に対する損害賠償金として株式会社Oから,同市ef丁目g番h号株式会社P銀行Q支店の同人名義の普通預金口座に,平成15年6月26日に振り込まれた2411万9387円を含む2412万0387円を同人のため預かり保管中,これを有限会社Fの借金返済などの用途に費消するため,上記普通預金口座から,同日中に,上記P銀行Q支店において299万円,同市ij丁目k番l号P銀行Q支店R出張所において1100万円,同月27日に,上記P銀行Q支店において100万円,上記P銀行Q支店R出張所において900万円,同年7月1日に上記P銀行Q支店において13万円の合計2412万円を,それぞれ払い戻して着服し,もって横領した。 【事実認定の補足説明】判示Ⅰの第1の事実に関し,被告人Eにつき,一連の犯行の当初から共同正犯が成立する旨の訴因に対して,被害者両 合計2412万円を,それぞれ払い戻して着服し,もって横領した。 【事実認定の補足説明】判示Ⅰの第1の事実に関し,被告人Eにつき,一連の犯行の当初から共同正犯が成立する旨の訴因に対して,被害者両名を車に押し込んだころ以降の犯行についてのみ共同正犯が成立するとの事実を認定した理由を補足説明するに,検察官は,被告人Eが当初からK及びJの逮捕監禁に関与していたと主張しているわけではないから,検察官の掲げる訴因は,同被告人との関係では,いわゆる承継的共同正犯としての責任を問うているものと解されるところ,同被告人については,自分が関与する以前の逮捕監禁状態を殊更ないしは積極的に利用する意思をもって,K及びJの逮捕監禁に関与したとまでは認められないから,継続犯という逮捕監禁罪の性質を考慮しても,同被告人がK及びJの逮捕監禁について共同正犯としての責任を負うのは,Gから車の運転を命じられて犯行に関与することになった時点以降の逮捕監禁に限られると解するのが相当であるので,判示のとおりの事実を認定することとしたものである。 また,判示Ⅰの第3の2の事実に関し,被告人A,同B,同Cにつき,犯行の当初から共同正犯が成立する旨の訴因に対して,被告人らがF事務所において,Gに連行されてきたMを監視し始めたころ以降の犯行についてのみ共同正犯が成立するとの事実を認定した理由を補足説明するに,検察官は,被告人A,同B,同Cが当初からMの逮捕監禁に関与していたと主張しているわけではないから,検察官の掲げる訴因は,同被告人らとの関係では,いわゆる承継的共同正犯としての責任を問うているものと解されるところ,同被告人らについては,それぞれが関与する以前の逮捕監禁状態を殊更ないしは積極的に利用する意思をもって,Mの逮捕監禁に関与したとまでは認められないから,継続犯という逮 うているものと解されるところ,同被告人らについては,それぞれが関与する以前の逮捕監禁状態を殊更ないしは積極的に利用する意思をもって,Mの逮捕監禁に関与したとまでは認められないから,継続犯という逮捕監禁罪の性質を考慮しても,同被告人らがMの逮捕監禁について共同正犯としての責任を負うのは,F事務所において犯行に関与した時点以降の逮捕監禁に限られると解するのが相当であるので,判示のとおりの事実を認定することとしたものである。 【累犯前科】被告人Cは,・平成4年8月20日福井簡易裁判所で窃盗罪により懲役1年6月(4年間執行猶予・保護観察付き,平成6年2月16日執行猶予取消し)に処せられ,・・の刑の執行猶予期間中に犯した窃盗罪により平成6年1月20日厚木簡易裁判所で懲役1年10月に処せられ,平成7年9月20日その刑の執行を受け終わり,引き続き・の刑の執行を受け,平成10年7月15日その刑の執行を受け終わったものであって,上記各事実は検察事務官作成の前科調書(検察官請求乙74)及び上記・の前科に係る調書判決謄本(同乙77)によってこれを認める。 【法令の適用】 1 被告人Aについて被告人Aの判示Ⅰの第3の1及び同2の各所為はいずれも包括して刑法60条,220条に,判示Ⅱの所為は包括して同法60条,252条1項にそれぞれ該当するところ,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示Ⅰの第3の2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役2年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中270日をその刑に算入し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予することとする。 2 被告人Bについて被告人Bの判示Ⅰの第1の所為は被害者ごとに包括し 0日をその刑に算入し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予することとする。 2 被告人Bについて被告人Bの判示Ⅰの第1の所為は被害者ごとに包括して刑法60条,220条に,判示Ⅰの第2の1及び同2の各所為はいずれも同法60条,199条に,判示Ⅰの第3の1及び同2の各所為は,いずれも包括して同法60条,220条にそれぞれ該当するところ,判示Ⅰの第1の所為は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により1罪として犯情の重いJに対する逮捕監禁罪の刑で処断することとし,判示Ⅰの第2の1及び同2の各罪について所定刑中有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示Ⅰの第2の2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役9年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中160日をその刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して同被告人に負担させないこととする。 3 被告人Cについて被告人Cの判示Ⅰの第3の1及び同2の各所為は,いずれも包括して刑法60条,220条に該当するところ,同被告人には前記の各前科があるので,以上の各罪につき,同法56条1項,57条によりそれぞれ再犯の加重をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の重い判示Ⅰの第3の2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役1年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中160日をその刑に算入し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して同 21条を適用して未決勾留日数中160日をその刑に算入し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して同被告人に負担させないこととする。 4 被告人Dについて被告人Dの判示Ⅰの第1の所為は包括して刑法60条,220条に該当するところ,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により1罪として犯情の重いJに対する逮捕監禁罪の刑で処断することとし,その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役3年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中50日をその刑に算入し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予することとする。 5 被告人Eについて被告人Eの判示Ⅰの第1の所為は包括して刑法60条,220条に該当するところ,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により1罪として犯情の重いJに対する逮捕監禁罪の刑で処断することとし,その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役2年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中150日をその刑に算入し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して同被告人に負担させないこととする。 【量刑の理由】 1 本件は,・ Fの人夫であるM,J,Kの3名が飲酒の上で交通事故を起こすという不始末をしたことに対して,Gが厳しい叱責を加えた上で,Mについては,素直に反省する態度を示していたが,他の人夫たちに対する見せしめとして,被告人A,被告人B,被告人Cが,社長であるGと共謀の上,Mをロープで緊縛して事務所内の物置に閉じ込め えた上で,Mについては,素直に反省する態度を示していたが,他の人夫たちに対する見せしめとして,被告人A,被告人B,被告人Cが,社長であるGと共謀の上,Mをロープで緊縛して事務所内の物置に閉じ込め,J,Kについては,反省する態度を見せなかったばかりか,反抗的態度をとったことから,被告人B,被告人D,被告人Eが,社長であるGや幹部であるHと共謀の上,J,Kの両名をロープや紐で緊縛した上で普通乗用自動車に押し込み,約17キロメートル離れた山中のキャンプ場まで連行し,同所において,被告人Bが,GやHと共謀の上で,J,Kの両名を殺害したという逮捕監禁,殺人の事件(判示Ⅰ)と,・ Fの人夫であるNが交通事故で重傷を負い,同人に多額の保険金が入ることになったことを奇貨として,Fの経理担当者であった被告人Aが,社長であるGと共謀の上,その保険金を横取りして,Fの借金返済などの用途に費消したという横領の事件(判示Ⅱ)とからなる事案である。 2 まず,判示Ⅰの逮捕監禁,殺人事件の犯情について見るに,Fにおいては,従前から,交通事故などの不始末をしたり,会社側の管理職に対して反抗的態度をとった人夫に対して,他の人夫に対する見せしめとして,暴力を伴う徹底的な制裁を加えることが日常的に行われており,前示の犯行に至る経緯にかんがみれば,今回の一連の犯行も,このような日常的に行われていた峻烈な制裁行為の一環として行われたことが明らかである上,本件の被害者らにはこれほどまでの峻烈な制裁を受けなければならないほどの落ち度は皆無であったといわなければならないから,本件犯行は,Fという会社の非人間的な体質から起こるべくして起きた事件というほかなく,犯情はまことに悪質である。 Mに対する逮捕監禁事件を見ても,その犯行態様は,激しい暴行を加えた上で,丈夫な標 件犯行は,Fという会社の非人間的な体質から起こるべくして起きた事件というほかなく,犯情はまことに悪質である。 Mに対する逮捕監禁事件を見ても,その犯行態様は,激しい暴行を加えた上で,丈夫な標識ロープで緊縛したばかりか,昼夜を分かたず複数人で監視を続け,いったんは逃げられたもののたまたま事務所に連行されて来るや,更に標識ロープで緊縛して監視し,前後2回にわたり合計約25時間も監視していたというものであって,執拗かつ凶悪である。被害者であるMは,2回目の監禁において,殺されるかもしれないという恐怖を感じて,縛られているロープをライターの火であぶって必死に脱出を試み,2日間も山中をさまよった末に警察に保護されたものであって,その肉体的,精神的苦痛は甚大なものであったと推察される。にもかかわらず,何らの慰謝の措置も講じられておらず,当然のことながら被害者の処罰感情には厳しいものがある。 J,K両名に対する逮捕監禁事件について見ても,その犯行態様は,激しい暴行を加えた上で,丈夫な標識ロープやナイロン製紐で緊縛して車に押し込み,一層苛烈な制裁を加えることを予定して,人気のない山中のキャンプ場まで連行したというものであり,被害者両名の殺害,死体遺棄という重大な結果に結びついていったものであるから,まことに悪質である。被害者両名がキャンプ場に連行されるまでの車中において味わった肉体的,精神的苦痛には想像を絶するものがあったと推察される。 さらに,J,K両名に対する殺人事件について見ると,標識ロープやナイロン製紐で緊縛されて全く抵抗できない状況下にある被害者両名を,その必死の命乞いにも耳を貸さずに,無情にも扼殺したのであって,その殺害方法は,極めて卑劣であり,残忍であり,非道なものである。扼殺という激しい苦悶の中でその生涯を終えなけれ 下にある被害者両名を,その必死の命乞いにも耳を貸さずに,無情にも扼殺したのであって,その殺害方法は,極めて卑劣であり,残忍であり,非道なものである。扼殺という激しい苦悶の中でその生涯を終えなければならなかった被害者両名の肉体的苦痛や精神的苦痛はいうまでもなく,殺害されるまさにその瞬間に被害者両名の胸中に去来したであろう無念さは察するに余りある。のみならず,被害者両名は,殺害された後も,緊縛された状態のままでキャンプ場の土の中に埋められ,孤独に朽ち果てていったのであって,まことに痛ましい限りである。被害者両名の遺族は,いずれも極刑を望んでおり,当然のことながら処罰感情は峻烈である。本件が地域社会に与えた衝撃も甚大である。 このように,判示Ⅰの逮捕監禁,殺人事件の犯情はまことに悪質であって,このような事件に関わった被告人らは,いずれも厳しい非難を免れない。 もっとも,他方で,Mに対する逮捕監禁事件については,被害者Mが必死の努力によって脱出に成功し,警察に保護されたことにより,その生命は無事であったこと,J,K両名に対する逮捕監禁,殺人事件については,もとよりこれほどまでに苛烈な制裁を受けたり,ましてや殺害されるまでの落ち度があったとまでいえないことは明らかであるけれども,被害者両名の言動が今回の一連の重大な犯行を誘発した面もないではないことなどの事情が存在していたことを考慮しなければならない。 3 次に,判示Ⅱの横領事件の犯情について見るに,一生被害者の面倒を見るかのように装い,言葉巧みに口座開設のための委任状を作成させるなど,巧妙な手口による計画的犯行である上,被害金額も判示のとおり非常に高額であって,悪質である。被害者は,左半身運動障害等の後遺症を残す重傷を負いながら,自らの保険金を全く手にすることができなかったのであり 手口による計画的犯行である上,被害金額も判示のとおり非常に高額であって,悪質である。被害者は,左半身運動障害等の後遺症を残す重傷を負いながら,自らの保険金を全く手にすることができなかったのであり,被告人Aらの資力等に照らすと被害回復の見込みは絶望的であって,被害者の無念さ,将来に対する不安は推測するに難くない。のみならず,Fにおいては,従前から,交通事故に遭った従業員が受け取るべき保険金を自社の運転資金に流用していたことがうかがわれ,常習性も否定できない。以上の事情に照らすと,横領事件の犯情も悪質で,このような悪質な犯行に加担した被告人Aの刑責は,到底軽視できるものではない。 4 ここで,各被告人らにつき個別の情状を見るに,・被告人Aは,Fにおいて事務所に詰めて経理事務を担当していた者として,Mに対する逮捕監禁及び横領に関与したものであるが,逮捕監禁については事務所でMが逃走しないよう監視する行為を分担し,横領については口座を開設し,現金を引き出す行為を分担したもので,その果たした役割を軽視することはできない。 しかも,当公判廷において,自分の関わった犯行の重大さを直視することなく,自己の責任を矮小化しようとする発言をしており,真摯な改悛の情もうかがえない。 しかしながら,他方,被告人Aが本件各犯行に関与したのは,社長であるGから指示されたことにあり,本件各犯行によって自己固有の利益を図ったことはうかがわれない。現に,横領についても,横領した金銭から何ら直接的な利益を得ていないものであるし,逮捕監禁についても,自らは何ら直接的な強制を加えることなく,監禁場所が職場の事務所であったことから日常業務の合間を利用して見張り行為をしていたにすぎず,いずれの犯行についても,従属的な関与にとどまっている。その他,Fに勤務していたときの同僚が ることなく,監禁場所が職場の事務所であったことから日常業務の合間を利用して見張り行為をしていたにすぎず,いずれの犯行についても,従属的な関与にとどまっている。その他,Fに勤務していたときの同僚が情状証人として出廷し,被告人Aが社会復帰したときは,自分の経営する会社に雇い入れ,指導監督していく旨を誓約していることや,被告人Aは,自分の関与した犯行については素直にこれを認め,被告人なりに反省の態度を示すとともに,今後は真面目に働いて被害弁償にも努める旨述べていること,これまでに前科がないことなどの事情も認められる。これらの諸事情を総合考慮し,被告人Aについては,主文のとおりの刑に処した上で,その刑の執行を猶予するのが相当と判断した。 ・被告人Bは,Fにおいて人夫を管理する立場にあった者として,Mに対する逮捕監禁,J及びKに対する逮捕監禁・殺人に関与したものである。被告人Bは,日頃から,もめ事を起こした人夫に対する制裁として,人夫を縛り上げる役を率先して行っていたところ,本件においても,被害者らを丈夫なロープや紐で緊縛するなど,逮捕監禁における欠くことのできない重要な役割を積極的に果たしていた。 特に,J,K両名に対する逮捕監禁については,事件の直前にJの持っていたナイフで右手の平を切ったことで抑えきれないほどの怒りを抱いていたこともあって,被害者両名に相当に苛烈な制裁を加えることになることも理解していたが,相当に積極的な姿勢でこれに加担していたものである。また,J及びKに対する殺人においては,Gと意思を通じたHから被害者両名の殺害に加わるよう指示されるや躊躇することなくこれを承諾し,K殺害時には,同人の胸部や大腿部を両手で押さえ付けるなど殺人の実行行為を現実に分担している。同被告人が本件において,これほどまでに行動をエスカレートさせ 指示されるや躊躇することなくこれを承諾し,K殺害時には,同人の胸部や大腿部を両手で押さえ付けるなど殺人の実行行為を現実に分担している。同被告人が本件において,これほどまでに行動をエスカレートさせてしまった背景には,日頃から人夫たちに対して峻烈な制裁を加えていたことから正常な感覚が麻痺してしまっていたことや,Fにおいて自分を取り立ててくれたGへの歪んだ忠誠心が存在していたものと推察され,規範意識が著しく鈍磨していたことは否定できない。以上の事情に照らすと,被告人Bの刑事責任には相当に重いものがある。しかしながら,他方,同被告人がK,J両名の殺害にまで至ったのは,Gと意思を通じたHから命じられたからであって,被告人自身は被害者両名を殺害することを積極的に望んでいたわけではなく,そういう意味では,K,J両名の殺害については,従属的な立場で犯行に関与したということができる。また,被告人Bは,当公判廷において,自分の関与した犯行について素直にこれを認めて反省の態度を示し,自らの犯した罪の重大性に思いを致して被害者らの冥福を祈っているなど改悛の情もうかがわれる。その他,同被告人には窃盗の前科が3犯あるものの,同種の前科はないことなどの事情も認められる。しかし,これらの被告人Bのために考慮するべき諸事情を十分考慮しても,既に説示したような刑責の重大性にかんがみれば,同被告人については,主文掲記の実刑に処するのが相当である。 ・被告人Cは,Fにおいて人夫を管理する立場にあった者として,Mに対する逮捕監禁に関与したものであるが,被告人BがMを緊縛する際にその手伝いをしたほか,同人を監視したり,同人が逃走した際にこれを追跡するなど,逮捕監禁における重要な役割を果たしていた。しかも,同被告人には,前示の累犯前科があり,前刑の執行終了後わずか2年足らず の手伝いをしたほか,同人を監視したり,同人が逃走した際にこれを追跡するなど,逮捕監禁における重要な役割を果たしていた。しかも,同被告人には,前示の累犯前科があり,前刑の執行終了後わずか2年足らずで,このような悪質な事件に加担したものであって,その規範意識にはかなり問題があったといわざるを得ない。しかしながら,他方,同被告人は,社長のGを頂点とするFという組織において,Gの指示のもと,従属的な立場で本件犯行に関与したものであること,もともと人夫の面倒見が良かったことをGに買われて人夫を管理する立場にまわったが,異様に緊迫した状況が続いていた本件の最中にあっても,被害者を縛っているロープを密かにほどいてやったり,お茶を飲ませてやったりするなど,同被告人の立場で可能な限りの配慮をしていたほか,逃走したMを追跡した際も,同人の身を案じてあえて深追いしなかったことも認められ,その関与の仕方は消極的なものにとどまり,行動の端々に同被告人の人間性がうかがわれる。その他,同被告人が自分の関与した犯行については,これを素直に認めて反省の態度と被害者に対する謝罪の気持ちを示していること,同被告人には前示の累犯前科があるものの,同種の前科はないことなどの事情も認められる。以上の諸事情を慎重に総合考慮した結果,被告人Cについては,社会内で更生する機会を与えるのを相当と認め,主文のとおりの刑を科した上で,その刑の執行を猶予することとした。 ・被告人Dは,Fにおいて人夫を管理する立場にあった者として,J及びKに対する逮捕監禁に関与したものである。同被告人は,被害者両名が徹底的に痛めつけられ,場合によっては両名の生命に危険が及ぶかも知れないことを認識しながら,被害者両名をキャンプ場に行く車に押し込めたり,被害者Jの両手首,両足首に布製粘着テープを巻き付けて 両名が徹底的に痛めつけられ,場合によっては両名の生命に危険が及ぶかも知れないことを認識しながら,被害者両名をキャンプ場に行く車に押し込めたり,被害者Jの両手首,両足首に布製粘着テープを巻き付けて身体を拘束するなど,逮捕監禁において重要な役割を積極的に果たしている。しかも,同被告人は,捜査段階の当初においては,Gから事前に指示された口裏合わせのとおり,本件の殺人,死体遺棄にはGが関与していなかった旨の虚偽の説明をしていたのであって,犯行後の情状も芳しくない。しかしながら,他方,同被告人に係る訴因は,あくまでも逮捕監禁にとどまるものであること,同被告人は,社長のGを頂点とするFという組織において,Gの指示のもと,従属的な立場で本件犯行に関与したものであること,同被告人は,本件犯行後,直ちに警察に真実を申告することはしなかったものの,最終的には,自らが罪に問われることも覚悟の上で警察に出頭し,当初はGの関与の点につき一部に虚偽を含んでいたとはいえ,事件の全容を供述し,事件の解明に協力したこと,同被告人の父母が情状証人として出廷し,父親において今後の監督を約束していること,同被告人が当公判廷において自らの関わった犯行の重大性に思いを致し,本件犯行を素直に認めて反省の態度を示すとともに,被害者らの冥福を祈っているなど改悛の情も顕著にうかがわれること,同被告人には窃盗の前科が1犯あるものの,同種の前科はないことなどの事情も認められる。以上の諸事情を慎重に総合考慮した結果,被告人Dについては,社会内で更生する機会を与えるのを相当と認め,主文のとおりの刑を科した上で,その刑の執行を猶予することとした。 ・被告人Eは,J及びKの逮捕監禁に関与したものであるが,被害者両名が痛めつけられると認識しながらキャンプ場まで自動車を運転したほか,被害者に粘 を科した上で,その刑の執行を猶予することとした。 ・被告人Eは,J及びKの逮捕監禁に関与したものであるが,被害者両名が痛めつけられると認識しながらキャンプ場まで自動車を運転したほか,被害者に粘着テープを巻き付ける手伝いをするなど,重要な役割を分担している。しかしながら,他方,同被告人は,社長のGを頂点とするFという組織において,Gの指示のもと,従属的な立場で本件犯行に関与したものであること,同被告人は,Fにおいて何の役職にも就いていない一人夫にすぎなかったのに,本件当時,偶々,人夫の中で,車の免許を有していて,酒も飲んでいなかったことから,Gに車の運転を指示されて,途中から本件に関与することになったものであること,これまでも車の免許を持っているという理由で車の運転を頼まれたことはあったが,もめ事のある人夫を運んだのは今回が初めてであること,過去にGから手ひどい暴力をふるわれたことがあり,Gに対する恐怖心が強く,そのためGの指示を断ることができなかったこと,同被告人の母親が情状証人として出廷し,今後の監督を誓約していること,同被告人は,当公判廷において,自分の関与した犯行を素直に認めて反省の態度と被害者に対する謝罪の気持ちを示していること,その他,同被告人にはこれまでに前科がないことなどの事情も認められる。これらの諸事情を総合考慮し,被告人Eについては,主文のとおりの刑に処した上で,その刑の執行を猶予するのが相当と判断した。 5 よって,主文のとおり判決する。 (検察官佐藤方生,私選弁護人松本和英〔被告人A〕,国選弁護人深澤一郎〔被告人B,被告人C〕,私選弁護人吉田曉充〔被告人D〕,国選弁護人渡辺和廣〔被告人E〕各出席)(求刑懲役2年〔被告人A〕,懲役15年〔被告人B〕,懲役1年〔被告人C〕,懲役5年〔被告人D〕,懲役2年〔被告 被告人C〕,私選弁護人吉田曉充〔被告人D〕,国選弁護人渡辺和廣〔被告人E〕各出席)(求刑懲役2年〔被告人A〕,懲役15年〔被告人B〕,懲役1年〔被告人C〕,懲役5年〔被告人D〕,懲役2年〔被告人E〕)平成16年9月16日甲府地方裁判所刑事部裁判長裁判官川島利夫裁判官柴田誠裁判官肥田薫

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