平成29(ネ)426 鑑定報酬等請求控訴,同附帯控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成30年4月18日 名古屋高等裁判所 岐阜地方裁判所 平成27(ワ)306
ファイル
hanrei-pdf-88124.txt

判決文本文6,827 文字)

平成30年4月18日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成29年第426号,第523号鑑定報酬等請求控訴,同附帯控訴事件(原審・岐阜地方裁判所平成27年第306号)口頭弁論終結日平成30年2月2日主文 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 同部分に係る被控訴人の請求を棄却する。 被控訴人の附帯控訴を棄却する。 訴訟費用は,第1,2審を通じて,補助参加によって生じた費用は被控訴人補助参加人の負担とし,その余の費用は被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1控訴及び附帯控訴の趣旨 控訴の趣旨主文第1,2項と同旨 附帯控訴の趣旨⑴原判決中,被控訴人敗訴部分を取り消す。 ⑵控訴人は,被控訴人に対し,10万円及びこれに対する平成26年11月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 本件は,被控訴人が控訴人に対し,被控訴人は,Aを被告人とする刑事事件(以下「本件刑事事件」という。)に関し,Aの主任弁護人であった控訴人との間で,Aと面接等を行った上で精神鑑定書を作成する旨の準委任契約を締結し,同契約に基づく債務を履行したとして,鑑定報酬35万円(面接料15万円,鑑定書作成費20万円)と交通費実費2万3784円との合計額37万3784円及びこれに対する催告後であ る平成26年11月6日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原判決は,被控訴人の請求を27万3784円(面接料15万円,鑑定書作成費10万円及び交通費実費2万3784円の合計額)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却した。 これに対し控訴人が控訴し,被控訴人が附帯控訴した。 前提事実,争点及びこれに対する当事者の主張は,以下のとおり の合計額)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却した。 これに対し控訴人が控訴し,被控訴人が附帯控訴した。 前提事実,争点及びこれに対する当事者の主張は,以下のとおり補正し,後記3のとおり当審における追加,補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第2の2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。 ⑴原判決3頁18行目の「原告が証人尋問」を「被控訴人の証人尋問」に改める。 ⑵同6頁9行目の「費用の支払について,」を削る。 当審における追加,補充主張⑴控訴人の主張ア(8月17日の合意に係る顕名の事実について)仮に8月17日の合意が刑事事件の鑑定に関する面接の合意であると認定されるとしても,控訴人は,8月17日午前11時55分に被控訴人にCCで送信したメール(甲2)において,「結論から言えば…B(※被控訴人のこと)先生に引き続き面接をお願いしたい,とのことです。」と明記し,契約当事者がA及びその母親である旨の顕名をした。 イ(契約解除について)被控訴人は,10月11日午前11時53分に控訴人に送信したメール(甲5。14~15頁)において,「書面作成を停止し,証言を辞退することに決めます。理由は主任弁護人との協働関係決裂 です。独自で,自費で,Aさんのサポートに努めます。」と記載し,それまでの契約を全て解除して失効させた。 ウ(10月13日の合意に係る顕名の事実について)10月13日の合意は,鑑定書の完成を目的とするものであるところ,控訴人は,C弁護士も交えて,同月9日から同月13日までに被控訴人に送信したメール(甲5。7,12,13,19頁)において,Aは控訴人の依頼者だけでなく被控訴人の依頼者でもある旨を繰り返し伝え,控訴人がAの代理人である旨の顕名をした。 エ(顕名 までに被控訴人に送信したメール(甲5。7,12,13,19頁)において,Aは控訴人の依頼者だけでなく被控訴人の依頼者でもある旨を繰り返し伝え,控訴人がAの代理人である旨の顕名をした。 エ(顕名の要否について)被控訴人は,8月17日の合意成立以前から,鑑定報酬等の支払をするのは控訴人ではなくAの母親であり,控訴人は母親の代理人であることを明確に自覚し,8月12日午前8時05分に控訴人に送信したメール(乙13。1~2頁)において,報酬の支払を「別途お願いしなくてはなりません。その旨,お母さんにご許可いただけるかどうか,お尋ね願えますでしょうか?」などと問い合わせていた。また,被控訴人は,前記ウの10月9日から同月13日までのメールのやり取りにより,Aが依頼者であることを明確に自覚していた。 このような場合には,顕名をするまでもなく,控訴人と被控訴人との間に契約が成立することはない。 オ(鑑定書作成費について)後記⑵の被控訴人の主張オは争う。 C弁護士が10月31日午後7時06分に被控訴人に送信したメール(甲9の2。1頁)は,Aの母親の代理人として回答したものであり,被控訴人が主張するようにC弁護士が控訴人の履行補助者として回答したものではない。 ⑵被控訴人の主張ア(8月17日の合意に係る顕名の事実について)8月17日午前11時55分のメール(甲2)で顕名した旨の控訴人の主張は争う。鑑定契約がA側関係者の意向を踏まえていることを被控訴人に告げたからといって,そのことが法律上の顕名と評価されるものではない。また,上記メールは,(Aの兄である)「Dさんと1時間近く電話で話しました。」から始まっており,同人の意向を確認したという報告であるから,A及びその母親のための顕名に当たるとする余地はない。 イ(契約解除について)被 の兄である)「Dさんと1時間近く電話で話しました。」から始まっており,同人の意向を確認したという報告であるから,A及びその母親のための顕名に当たるとする余地はない。 イ(契約解除について)被控訴人の解除により契約が失効した旨の控訴人の主張は争う。 一連のメールのやり取りを観察すると,控訴人は,被控訴人が10月11日午前11時53分に送信したメール(甲5。14~15頁)を受けた後も,未だ契約が解除されていないとの認識で,被控訴人に対し翻意するよう説得を続け,被控訴人は,これを受けて解除を翻意したことが明らかである。 ウ(10月13日の合意に係る顕名の事実について)10月9日から同月13日までに被控訴人に送信したメール(甲5。7,12,13,19頁)で顕名した旨の控訴人の主張は争う。 上記メールは,控訴人とA側との弁護契約に必要な事件経費は控訴人に支払済みであるから鑑定契約の諸費用はそこから支払を受けられるという内情説明にすぎず,これをもって顕名と評価することはできない。また,それまでに控訴人を当事者とする契約が成立した以上,上記メールにより契約の当事者が切り替わるという現象が生じるはずもない。 エ(顕名の要否について) 被控訴人が鑑定契約の依頼者をAであると認識していた事実は否認する。8月17日の合意の段階で,契約当事者が控訴人であったことは凡そ明らかであるが,そうであれば,その後,被控訴人が,控訴人との弁護契約当事者による事件経費の負担状況等について何らかの認識を抱くという契約後の過程における事情で契約当事者そのものが変動するということ自体観念できない。 また,8月17日の合意が認定される場合において,控訴人がその効果帰属を争うには,控訴人において,顕名の事実のほか授権の事実を主張立証しなければならない。 オ(鑑定書作 いうこと自体観念できない。 また,8月17日の合意が認定される場合において,控訴人がその効果帰属を争うには,控訴人において,顕名の事実のほか授権の事実を主張立証しなければならない。 オ(鑑定書作成費について)控訴人の履行補助者であるC弁護士は,被控訴人が本件鑑定書修正版を作成した後,被控訴人に対し,全ての作業が終わったので費用を請求するよう電話連絡をした。そこで,被控訴人は,10月31日午前1時42分,報酬部分を20万円とすることをメール(甲9の2。1~2頁)で提案したところ,C弁護士は,同日午後7時06分,刑事弁護契約上控訴人に対し費用支払義務を負担するA側から了承を取り付けた上で,メール(甲9の2。1頁)で上記提案に応諾した(甲9の2)。 したがって,控訴人の履行補助者であるC弁護士と被控訴人との間で,報酬部分を20万円とする明示の合意が成立している。 仮に明示の合意が認められないとしても,控訴人と被控訴人との間では,数十枚程度(二十ないし三十枚)でコンパクトにまとめた場合で10万円を鑑定書作成の報酬とし,鑑定意見書の充実度に応じて増額する黙示の合意が成立していたところ,実際に作成した本件鑑定書修正版は50頁を超えていたから,その報酬は20万円とするのが相当である。 第3当裁判所の判断 争点⑴(被控訴人と控訴人間で締結された契約の内容及び締結時期)について争点⑴(ただし,交通費の額の確定に関する部分を除く。)については,当裁判所も,被控訴人と控訴人間において,8月17日に,本件刑事事件における私的鑑定の一環として,被控訴人がAとの面接を行うとの内容の契約(本件契約)が成立し,費用に関しては交通費・宿泊費の実費及び面接費用に消費税8パーセントを加えた額とする旨の合意が成立したところ,10月13日に,上記の本件契約の がAとの面接を行うとの内容の契約(本件契約)が成立し,費用に関しては交通費・宿泊費の実費及び面接費用に消費税8パーセントを加えた額とする旨の合意が成立したところ,10月13日に,上記の本件契約の存在を前提に,同契約に基づいて被控訴人が履行する債務の内容として,被控訴人が同月27日までに鑑定書を作成することを追加ないし明確化する合意が成立したものと判断する。その理由は,原判決「事実及び理由」第3の1⑴ないし⑷に記載のとおりであるから,これを引用する。 争点 (被控訴人と控訴人間で締結された契約の当事者は誰か)について⑴証拠(乙24,控訴人本人)によれば,控訴人は,Aと本件刑事事件に係る私選の刑事弁護契約を締結したこと,控訴人は,Aのほか,Aの母親とも相談し,刑事弁護の鑑定に必要な費用については,Aの母親が準備するという話になっていたこと,控訴人は,当初から,Aの治療のための面接及び刑事弁護のための面接,鑑定のいずれについても,A及びAの母親の代理人として被控訴人に依頼するという意思であり,自らが被控訴人との間の契約の当事者となって私法上の権利義務の主体となる意思はなかったことが認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 ⑵控訴人が本件契約に先立って被控訴人に対しA又はAの母親の代理人であることを明示的に示したこと(顕名)を認めるに足りる証拠は ない。 しかし,被控訴人は,6月11日午後4時42分に控訴人に送信したメール(甲6。1~2頁)において,本件刑事事件の傍聴に先立ってAと面会することを希望した上で,経費面で母親の承諾が得られることが懸念材料であることを記載し,8月12日午前8時05分にに控訴人に送信したメール(乙13。1~2頁)において,「費用について,交通費等の実費以外に,これまで及び今後のAさん及びお母さ られることが懸念材料であることを記載し,8月12日午前8時05分にに控訴人に送信したメール(乙13。1~2頁)において,「費用について,交通費等の実費以外に,これまで及び今後のAさん及びお母さんへの面接料も請求させていただきたいと思っています。」,「また,意見書等の資料作成が必要になりましたら,別途お願いしなくてはなりません。その旨,お母さんにご許可いただけるかどうか,お尋ね願えますでしょうか?」などと記載していたものである。また,被控訴人は,原審本人尋問においても,控訴人からの「治療のための面接あるいは鑑定のための面接の費用ですけれども,これを支払うのは私ではなくて母親だということも知っていましたね。」との質問に対し,「出どころはそうかもしれませんけども,弁護士さんが責任を持ってそれを仲介してくれると今回の場合は思ってました。」と答え(31~32頁),「意見書の作成費用を払うのは母親で,母親の許可を得てくれと私に頼んだんですね」との質問に対し,「はい。」と答えている(33頁)。そうすると,被控訴人は,被控訴人が行う面接,鑑定に係る費用の負担者がAの母親であることを認識し,Aの母親の了承が得られない場合には,被控訴人が費用の支払を受けられなくなると考えていたというべきところ,被控訴人が主張するように,控訴人自身が契約当事者で法律上の権利義務主体であれば,Aの母親の承諾が得られず,同人が金員を負担しないことによる不利益は専ら控訴人が負うのであるから,被控訴人がこれを危惧する必要は生じなかったと考えられる。 そうすると,被控訴人は,本件契約成立以前から,控訴人がA及びAの母親の代理人として,本件刑事事件における私的鑑定の一環でAとの面接を行うこと及び鑑定書を作成することを依頼する意思であることを知っていたと認められる。したが 件契約成立以前から,控訴人がA及びAの母親の代理人として,本件刑事事件における私的鑑定の一環でAとの面接を行うこと及び鑑定書を作成することを依頼する意思であることを知っていたと認められる。したがって,被控訴人は,本件契約成立時点で,代理人(控訴人)が本人(A及びAの母親)のためにすることを知っていたことになるから,民法100条ただし書きにより,控訴人は,本件契約の当事者としての責任を負うものではない(ちなみに,控訴人の主張するところではないが,上記ただし書きによれば,相手方が,代理人が本人のためにすることを知ることができたときも,相手方と代理人間での契約は成立しないことになるところ,前記事実によれば,少なくとも,被控訴人は,控訴人がA及びAの母親のために本件契約を締結することを知り得たということができる。)。 ⑶被控訴人は,控訴人が本件契約による効果の帰属を免れるには,上記の顕名の事実(又は被控訴人において控訴人が本人のためにすることを知っていたこと)に加えて,控訴人が授権(又は追認)を受けた事実を主張立証すべき旨主張する。 しかし,本訴請求は,民法100条に基づきいわゆる表意者の責任を追及するものであって,民法117条所定の無権代理人の責任を追及するものではない(被控訴人は,この点を当審において明言している。)から,民法100条の文言からして,控訴人がその責を免れるには,顕名の事実又は同条ただし書きに該当する事実を主張立証すれば足りることが明らかである。 したがって,被控訴人の上記主張は採用できない。 ⑷以上によれば,控訴人は,本件契約につき契約当事者としての責任を負うものではないから,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人の請求は理由がない。 なお,付言するに,刑事弁護人から依頼を受けて私的鑑定を行った者が,鑑 約につき契約当事者としての責任を負うものではないから,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人の請求は理由がない。 なお,付言するに,刑事弁護人から依頼を受けて私的鑑定を行った者が,鑑定料及び費用の支払を受けられず,その支払義務者が誰であるかを巡って刑事弁護人との間で紛争となり,訴訟にまで至ることは極めて稀な事態である。本件訴訟のような事態に至ったのは,被控訴人が本件鑑定書修正版を作成後に,Aに控訴人を解任するように勧めたり,本件刑事事件を傍聴後にツイッターで控訴人を揶揄するような記載をしたりしたという特殊事情があったにせよ,本件契約の当事者及び契約内容が明確にされていなかったことに起因するというべきであり,そのことについては法律専門家である控訴人の道義的責任も無視できない。本件と類似の訴訟が再び係属するようなときには,刑事弁護人に対する信頼が地に落ち,外部関係者の協力を求め難くなり,著しく公益が損なわれるとの被控訴人代理人の危惧(控訴答弁書)は杞憂ではなくなるのであり,控訴人に対しては,今後刑事弁護業務を行う上で,私的鑑定依頼を受ける者との間で無用な紛争を生じさせないための慎重かつ思慮深い言動が強く求められるといわざるを得ない。 結論 よって,原判決中,被控訴人の請求を認容した部分を取り消して,同部分に係る被控訴人の請求を棄却し,本件附帯控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4部裁判長裁判官藤山雅行裁判官朝日貴浩 裁判官金久保茂

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る