平成24年10月31日判決言渡同日原本受領裁判所書記官平成23年(行ケ)第10274号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成24年9月26日判決原告株式会社ダナフォーム同訴訟代理人弁護士山上和則藤川義人同弁理士辻丸光一郎中山ゆみ吉田玲子伊佐治創被告栄研化学株式会社同訴訟代理人弁護士永島孝明安國忠彦明石幸二郎朝吹英太浅村昌弘同訴訟復代理人弁護士安友雄一郎同弁理士磯田志郎浅村 池田幸弘 主文 1 特許庁が無効2010-800195号事件について平成23年7月25日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文1項と同旨第2 事案の概要本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,被告の後記2の本件発明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯(1) 被告は,平成11年11月8日,発明の名称を「核酸の合成方法」とする特許出願(特願2000-581248号。国内優先権主張日:平成10年11月9日(特願平10-31747 おける手続の経緯(1) 被告は,平成11年11月8日,発明の名称を「核酸の合成方法」とする特許出願(特願2000-581248号。国内優先権主張日:平成10年11月9日(特願平10-317476))をし,平成12年5月18日の出願公開を経て,平成14年5月31日,設定の登録(特許第3313358号)を受けた。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(甲37)を「本件明細書」という。 (2) 原告は,平成22年10月25日,本件特許に係る発明の全てである請求項1ないし11に係る発明(以下,請求項の番号に応じて「本件発明1」ないし「本件発明11」といい,これらを併せて「本件発明」という。)について特許無効審判を請求し,無効2010-800195号事件として係属した。 (3) 特許庁は,平成23年7月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の本件審決をし,その謄本は,同年8月4日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。なお,「/」は,本文中の改行箇所を示す。 【請求項1】次の工程を繰り返すことによる1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の増幅方法。/A)3′末端と5′末端において,それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え,この互いに相補的な塩基配 列がアニールしたときに両者の間に塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型を提供する工程/B)同一鎖にアニールさせた前記鋳型の3′末端を合成起点として相補鎖合成を行う工程,/C)前記ループのうち3′末端側に位置するループ内に相補的な塩基配列を3′末端に含むオリゴヌクレオチドを,ループ部分にアニールさせ,これを合成起点として鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼ ,/C)前記ループのうち3′末端側に位置するループ内に相補的な塩基配列を3′末端に含むオリゴヌクレオチドを,ループ部分にアニールさせ,これを合成起点として鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによる相補鎖合成を行って,工程B)で合成された相補鎖を置換してその3′末端を塩基対結合が可能な状態とする工程,および/D)工程C)において3′末端を塩基対結合が可能な状態とした鎖を工程A)における新たな鋳型とする工程【請求項2】工程C)におけるオリゴヌクレオチドが,その5′側末端に工程B)において合成起点となった3′末端に相補的な塩基配列を備えたものである請求項1に記載の増幅方法【請求項3】更に工程C)におけるオリゴヌクレオチドを合成起点として合成された相補鎖を工程A)における鋳型とする工程を含む請求項2に記載の増幅方法【請求項4】融解温度調整剤の存在下で鎖置換相補鎖合成反応を行う請求項1に記載の方法【請求項5】融解温度調整剤がベタインである請求項4に記載の方法【請求項6】反応液中に0.2~3.0Mのベタインを存在させる請求項5に記載の方法【請求項7】請求項1~6に記載のいずれかの増幅方法を行い,増幅反応生成物が生じたかどうかを観察することにより試料中の標的塩基配列を検出する方法【請求項8】増幅反応生成物に,ループに相補的な塩基配列を含むプローブを加え,両者のハイブリダイズを観察する請求項7に記載の方法【請求項9】プローブが粒子標識されており,ハイブリダイズによって生じる凝集反応を観察する請求項8に記載の方法【請求項10】核酸の検出剤存在下で請求項1~6に記載のいずれかの増幅方法を行い,検出剤のシグナル変化に基づいて増幅反応生成物が生じたかどうかを観察す る請求項7に記載の方法【請求項11】請求項7に記載の 酸の検出剤存在下で請求項1~6に記載のいずれかの増幅方法を行い,検出剤のシグナル変化に基づいて増幅反応生成物が生じたかどうかを観察す る請求項7に記載の方法【請求項11】請求項7に記載の検出方法によって標的塩基配列の変異を検出する方法であって,増幅対象である塩基配列における変異が,増幅方法を構成するいずれかの相補鎖合成を妨げるものである方法 3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,要するに,①本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものであり,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているから,本件特許が平成14年法律第24号による改正前の特許法(以下「法」という。)36条6項1号(いわゆるサポート要件)及び同条4項(いわゆる実施可能要件)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず,②本件発明は後記アないしエの引用例1ないし4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから本件特許が特許法29条2項に違反してされたものとはいえず,③後記オの先願明細書に記載の発明は本件発明と同一ではないから本件特許が同法29条の2に違反してされたものとはいえない,というものである。 ア引用例1:THEJOURNALOFBIOLOGICALCHEMISTRYVol.266, No.21, pp.14031-14038(平成3年(1991年)刊行。甲1の1・2)イ引用例2:DNAREPLICATIONSECONDEDITION, ARTHURKORNBERG, TANIAA.BAKER, W.H.FREEMANANDCOMPANY, pp.700-703, pp.713-716, pp.492-493 &pp.504(平成4年(1 NBERG, TANIAA.BAKER, W.H.FREEMANANDCOMPANY, pp.700-703, pp.713-716, pp.492-493 &pp.504(平成4年(1992年)刊行。甲2の1~4)ウ引用例3:国際公開第96/01327号(平成8年公開。甲3の1・2)エ引用例4:国際公開第97/04131号(平成9年公開。甲4の1・2)オ先願明細書:特開2000-37194号公報(本件優先権主張日よりも前である平成10年6月24日が優先権主張日であり,本件出願公開日よりも前である平成12年2月8日に出願公開された特願平11-179056号の願書に最初に添付された明細書及び図面。甲9の1) (2) 本件審決が認定した引用例1ないし4に記載の発明(以下「引用発明1」ないし「引用発明4」という。)及び本件発明1とこれらの各引用発明との相違点(以下「相違点1」という。)は,次のとおりである(本件発明1とこれらの各引用発明との一致点については,明確な認定の記載がない。)。 ア引用発明1:uvsXリコンビナーゼの組換え反応に依存する,T4ホロ酵素を用いたスナップバックDNA増幅機構を開発することを課題とするものであり,その増幅機構は図8に記述され,T4ホロ酵素がスナップバック機構により中央にヘアピンを有する長い2本鎖DNAが合成され,このDNAに相同な直鎖ssDNAがuvsXリコンビナーゼの作用によって侵入し,該直鎖ssDNAがプライマーとして伸長し鎖置換相補鎖合成を行うというものイ引用発明2:種々のウイルスの生体内におけるDNA複製機構を明らかにすることを課題とするものであり,例えば,アデノ随伴ウイルスの増幅機構は,図19-6に詳述されているが,3′末端と5′末端の双方にループが形成された のウイルスの生体内におけるDNA複製機構を明らかにすることを課題とするものであり,例えば,アデノ随伴ウイルスの増幅機構は,図19-6に詳述されているが,3′末端と5′末端の双方にループが形成された1本鎖核酸(鋳型)において,その3′末端から自己を鋳型とする相補鎖合成が開始され,2本鎖の複製型が一旦形成され,その親鎖の3′末端の反対側でニックが生じ,ニックからの伸長反応の結果,ヘアピン構造への転移が生じ,末端ヘアピンの再構成によって,どちらかの末端に3′末端が形成され,当該末端からの自己を鋳型とする相補鎖合成によって,次の新しい鋳型が提供されるというものウ引用発明3:ヘアピン構造を形成し得るプライマーを使用し,核酸を等温増幅する方法の提供を課題とするものであり,2本鎖DNAの末端にあるパリンドローム配列は動的平衡によってヘアピン構造を形成し,折り曲げられた末端はプライマーとして機能し,自己を鋳型とする相補鎖合成を行って,核酸の伸長反応が継続的に生じるというものエ引用発明4:単一のプライマーを用いて,ヘアピン構造を有する核酸を増幅することを課題とするものであり,その詳細は,図17に示されるとおり,標的ポリヌクレオチドの領域Aに相補的な配列と,標的ポリオヌクレオチドの領域Bと同 一の配列を有するプライマー(TP)を標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズさせ,3′末端からの伸長反応によって伸長生成物を生じさせ,これを熱変性によって鎖分離し,該伸長生成物が5′末端にヘアピン構造を形成した後に,PCRプライマー(D)をハイブリダイズさせ,該生成物を増幅するというものオ相違点1:本件発明1には,3′末端側に位置するループ部分にプライマーをアニールさせる工程(工程C))があるのに対し,引用発明1ないし4には,いずれもこの工程がない 生成物を増幅するというものオ相違点1:本件発明1には,3′末端側に位置するループ部分にプライマーをアニールさせる工程(工程C))があるのに対し,引用発明1ないし4には,いずれもこの工程がない点(3) 本件審決が認定した本件発明1と先願明細書に記載の発明との一致点及び相違点(以下「相違点2」という。)は,次のとおりである(先願明細書に記載の発明自体については,明確な認定の記載がない。)。 ア一致点:A)3′末端と5′末端において,それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え,この互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の間に塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型を提供する工程を備える,1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の増幅方法イ相違点2:本件発明1では,さらに,「B)同一鎖にアニールさせた前記鋳型の3′末端を合成起点として相補鎖合成を行う工程,C)前記ループのうち3′末端側に位置するループ内に相補的な塩基配列を3′末端に含むオリゴヌクレオチドを,ループ部分にアニールさせ,これを合成起点として鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによる相補鎖合成を行って,工程B)で合成された相補鎖を置換してその3′末端を塩基対結合が可能な状態とする工程,およびD)工程C)において3′末端を塩基対結合が可能な状態とした鎖を工程A)における新たな鋳型とする工程」を備えており,これらの工程を繰り返して核酸を増幅するのに対し,先願明細書に記載の発明について,先願明細書には工程B)ないしD)(特に,工程B))を備えることが明記されておらず,これらを繰り返して核酸を増幅することが記載されていない点 4 取消事由 (1) 実施可能要件及びサポート要件に係る判断の誤り(取消事由1)(2) 引 )を備えることが明記されておらず,これらを繰り返して核酸を増幅することが記載されていない点 4 取消事由 (1) 実施可能要件及びサポート要件に係る判断の誤り(取消事由1)(2) 引用発明1に基づく容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2)ア引用発明1についての認定の誤りイ相違点1に係る判断の誤り(3) 拡大先願に係る認定・判断の誤り(取消事由3)第3 当事者の主張 1 取消事由1(実施可能要件及びサポート要件に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件審決は,①本件発明では2つのアウタープライマー(OP)は鋳型の合成のために使用されており(本件明細書の図1~3),本件発明1の1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸を増幅する方法において,2つのOPが必須ではないから,特許請求の範囲に2つのOPを記載する必要はない,②本件発明1は鋳型の合成と,当該鋳型の増幅からなる等温増幅の一連の反応から,後者のみを取り出して特許請求しているのであるから,目的の核酸の等温増幅が行えるように記載されていれば足りるところ,本件明細書の図1ないし3に示される反応機構からみても,本件発明1の増幅方法が等温条件下で行えることが自明である,③わずか一度の熱変性を行うことが本件発明の目的に反するとまではいえないから,2つのOPを用いなくても所定の鋳型核酸を合成することが可能であるとする。 (2) しかしながら,前記(1)①及び②についてみると,本件発明の工程A)の鋳型核酸の製造方法については,2つのOPを用いた方法以外に本件明細書には記載がない。したがって,当業者は,これ以外の上記鋳型核酸の製造方法の記載がない限り,これを容易に実施できないのであり,本件発明の特許請求の範囲の記載は,本件明細書のサポートを超えたもの 明細書には記載がない。したがって,当業者は,これ以外の上記鋳型核酸の製造方法の記載がない限り,これを容易に実施できないのであり,本件発明の特許請求の範囲の記載は,本件明細書のサポートを超えたものとなっている。また,本件発明は,いわゆるLAMP法と呼ばれる等温増幅法であるが,LAMP法は,2つのターンバックプライマー(TP)と2つのOPとを必須としている(甲40~42)。 しかも,前記(1)③についてみると,本件明細書の16及び17欄は,本件明細 書の図5の核酸から合成した図6(D)及び(E)の核酸について説明しているものであるが,これらは,いずれもループを3′末端にしか有しておらず,5′末端にループを有しないから,そもそも本件発明に含まれない。なお,この核酸合成法は,1サイクルごとに熱変性が必要であり,本件審決が認定する一度の熱変性で実施できるものではない。 (3) 以上のとおり,本件発明において2つのOPは,必須であり,これに反する本件審決の判断は,誤りである。 〔被告の主張〕本件発明1は,工程A)の鋳型の合成方法に関するものではなく,工程A)において提供される鋳型を出発物質として,工程A)ないしD)を繰り返すことによって,「1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸」を増幅する方法である。かかる本件発明1の増幅方法においては,2つのOPは,必須の構成要件ではないから,請求項に記載する必要はなく,現に,本件明細書の図2(7)から図3に例示された増幅機構においてもOPを使用していない。 本件明細書にも,鋳型核酸の合成方法について「様々な方法によって得ることができる。」との記載があるとおり,核酸の合成方法は,限定されていない。 よって,本件発明が2つのOPを必須とするものではないと認定した本件審決には何らの認定・判 ついて「様々な方法によって得ることができる。」との記載があるとおり,核酸の合成方法は,限定されていない。 よって,本件発明が2つのOPを必須とするものではないと認定した本件審決には何らの認定・判断の誤りもなく,本件特許は,法36条4項及び同条6項1号に違反するものではない。 2 取消事由2(引用発明1に基づく容易想到性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件審決は,①引用発明1が解決課題及び課題解決手段において,特に工程C)において,本件発明1とは全く異なる発明であり,引用例1ないし4にはループ部分にプライマーをアニールさせることも記載されておらず,したがって,②引用例1ないし4に記載された発明をどのように組み合わせたとしても,本件発明を当業者が容易に発明できないものというべきであるとする。 (2) しかしながら,前記(1)①についてみると,引用例1は,ウイルスの遺伝子の複製機能に関する学術論文であるが,そこには,等温での増幅方法を提供するという本件発明1と共通の課題を明確に記載しており,かつ,ステムループ構造を「ヘアピン構造」(甲25)と呼び,プライマーを「直鎖ssDNA」と呼んでいる(引用例1のFig.8の説明)。そして,本件明細書は,「アニール」を「核酸がワトソン-クリックの法則に基づく塩基対結合によって2本鎖構造を形成することを意味する。」と定義していることから,ここにいう「アニール」は,酵素の作用によるものも含む全ての結合を介した2本鎖の形成を意味する。 以上によれば,引用例1におけるヘアピン構造に直鎖ssDNAが侵入してDループを形成するということは,プライマーがループにアニールすることを意味することが明らかである。このように,引用例1には,ループ部分にプライマーをアニールさせることが記載され sDNAが侵入してDループを形成するということは,プライマーがループにアニールすることを意味することが明らかである。このように,引用例1には,ループ部分にプライマーをアニールさせることが記載されている。 (3) 前記(1)②についてみると,まず,本件審決は,引用例1のステップ5では,酵素(uvsXタンパク質)を用いて反応を起こしているから,酵素を用いなければ引用例1に記載された鋳型にフリーループを形成するはずがない(阻害要因)と当業者が考えるであろうとする。 しかしながら,酵素を用いなくても,平衡反応(呼吸)により2本鎖が1本鎖になり得ることや,そのようにして形成されたループにプライマーがアニールし得ることは,いずれも周知である(引用例2,甲53~58)。したがって,引用例1においてフリーループを形成して,酵素(uvsXタンパク質)を用いないようにしても,Fig.8ステップ5の反応は起こり得るし,引用例1にも,その旨の記載がある(Fig.1)。したがって,引用例1には上記阻害要因はない。 次に,本件発明のポイントは,①ループの3′末端からの自己伸長反応及び②ループにアニールしたプライマーの伸長反応の2つの構成要件の組合せであるところ,①は,周知技術であり(引用例2,3,甲46~51,59),②については,前記(2)に記載のとおり,引用例1に記載がある。そして,引用例1には,②のルー プにアニールしたプライマーの伸長反応が等温増幅反応のモデルになるという教示があり,この教示に従って①の3′末端から自己伸長反応するループに②を組み合わせて本件発明1の等温増幅法を想到することは,当業者には容易であるというべきである。 なお,遺伝子の増幅方法であるPCR法は,生体内の細胞分裂において起こっているところ,生体内での複製反応では,2 せて本件発明1の等温増幅法を想到することは,当業者には容易であるというべきである。 なお,遺伝子の増幅方法であるPCR法は,生体内の細胞分裂において起こっているところ,生体内での複製反応では,2本鎖のDNAを分離して1本鎖にする際に,生体に害を及ぼさないように複雑なプロセスを要するが,人工的に実施する場合には,このような考慮を要しないため,試験管内で簡単に再現することが可能である。むしろ,引用例1のFig.8の説明には,同図の反応が試験管での増幅方法のモデルとなることが明確に記載されているから,引用例1の増幅機構が生体内での反応であることを根拠とする被告の主張は,失当である。 また,「単一酵素で,特異性が高い等温増幅方法」という本件発明の効果を奏するためには,前記のとおり一対のOPが必須であるところ,本件発明1ないし11は,これを必須としないため,当該効果を奏しない部分を含んでおり,進歩性が欠如している。 (4) 以上のとおり,本件審決は,引用発明1の認定を誤り,相違点1の判断を誤っているから,取り消されるべきである。 〔被告の主張〕(1) 本件発明1では,工程A)において,「互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型」を提供することが必要となるが,引用発明1では,そのようなループが形成されない。引用例1のFig.8は,単に折り返しを有する2本鎖を図示しているにすぎない。 (2) 本件発明1の工程C)では,「ループ内に相補的な塩基配列を3′末端に含むオリゴヌクレオチドを,ループ部分にアニールさせる」ことが必要になるが,引用例1のFig.8の工程1から2は,2本鎖であるヘアピン構造に対し,組換え酵素(リコンナーゼ)により,2本鎖ヘアピン生成物や2本鎖の二量体中間体の切断, ニールさせる」ことが必要になるが,引用例1のFig.8の工程1から2は,2本鎖であるヘアピン構造に対し,組換え酵素(リコンナーゼ)により,2本鎖ヘアピン生成物や2本鎖の二量体中間体の切断, プロセシング,対合(組換え),合成及び解離という各反応を経て直鎖ssDNAを導入しているにすぎず,塩基対結合可能な領域を有するループが存在しないことが明白であり,塩基対結合が可能となるループにプライマーをアニールさせることとは明らかに異なる。 (3) そもそも,引用例1は,人工的な核酸増幅方法に関するものではなく,単に生体内におけるT4バクテリオファージの相同遺伝子組換え機構を観察して報告したものであって,特定の標的核酸を増幅させる核酸増幅反応に関するものではないばかりか,T4-ホロ酵素やuvsXタンパク質等の生体内に存在する物質の関与を必須とするものであるから,核酸の増幅方法への応用の可能性は,極めて抽象的なものである。 以上のように,引用発明1は,解決課題及び課題解決手段において,特に工程C)において,本件発明と比較自体が困難なほどに相違した発明であって,引用例2及び3に適用できるものでもない。 (4) 原告は,ループ3′末端からの自己伸長反応が周知技術である旨を主張するが,引用例2に記載されているのは,アデノ随伴ウイルスの生体内での反応機構のモデルにすぎず,本件発明1とは解決課題及び解決手段が全く異なるし,引用例3の図5は,いわゆるヘアピン構造を有するプライマー及びそのプライマー由来の折り返し構造であって塩基対結合が可能な領域を有するループではない。したがって,本件発明1におけるループ構造からの自己伸長反応(工程B))は,公知でも周知でもない。原告が援用するその余の証拠も,いずれも異なるウイルス等の複製機構に関するものなどであっ プではない。したがって,本件発明1におけるループ構造からの自己伸長反応(工程B))は,公知でも周知でもない。原告が援用するその余の証拠も,いずれも異なるウイルス等の複製機構に関するものなどであって,周知技術を認定する根拠たり得るものではない。 また,原告は,ループにプライマーがアニールすることが周知技術である旨(甲53~58)を主張するが,これらの証拠に記載の技術は,いずれも引用例1ないし3に適用し得る周知技術とは到底認められないものばかりである。 (5) 以上のとおり,原告の主張に理由はなく,本件発明の進歩性を肯定した本件審決の認定・判断は,至極正当である。 3 取消事由3(拡大先願に係る認定・判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件審決は,相違点2として,先願明細書に記載の発明について,先願明細書には工程B)ないしD)(特に,工程B))を備えることが明記されておらず,これらを繰り返して核酸を増幅することが記載されていない点を認定し,その理由として,①先願明細書の実施例1の記載から本件発明1の反応が読み取れないこと,②先願明細書の実施例2の記載から本件発明1の反応が読み取れないこと,③先願明細書の記載(【0106】【0107】【0159】【0183】)の解釈,④被告が別件訴訟で本件発明と先願明細書に記載の発明とが同一であると認めているとしても,そのこと自体が本件特許が無効であるか否かの判断を左右しないことを挙げている。 (2) 前記(1)①についてみると,先願明細書の実施例1は,2つのTPを用いたPCR産物,すなわち先願明細書の図3④に記載の核酸(以下「ダンベル型中間体」ともいう。)を提供する工程である(本件発明1の工程A)に該当する。)。先願明細書には,本件明細書の図2及び3の「ループが形成される鋳型」に ち先願明細書の図3④に記載の核酸(以下「ダンベル型中間体」ともいう。)を提供する工程である(本件発明1の工程A)に該当する。)。先願明細書には,本件明細書の図2及び3の「ループが形成される鋳型」に相当するものに対してTPがアニールした結果,本件発明1の工程A)ないしD)が起きている旨の記載があるところ(【0183】),本件審決は,当該反応が起きている可能性を認めているにもかかわらず,先願明細書の図17が不鮮明であること及び時間の経過に伴って分子量の増大を示すための図17A及びBの2つの電気泳動のゲルが異なることを挙げて,先願明細書の実施例1の記載からは当該反応を読み取ることができないとする。 しかしながら,先願明細書には,ダンベル型中間体が増幅産物の最終生成物という記載はない(【0130】参照)から,先願明細書に記載の発明の技術的思想は,図3④のダンベル型中間体を得ることにあるのではなく,これを核にしたTPによる等温増幅反応である。そして,先願明細書の図17A及びBには,ゲル濃度の相違を考慮したとしても,時間の経過に従った分子量の段階的増大が生じていること を示す複数のバンドが確認できるし(甲38,39),仮に,当該図17Aが不鮮明であるとしても,中間体の二次構造にはステムループ構造が双方の末端にある場合,片方の末端にある場合及び当該構造がない場合の3種類に限られる一方,当該図17Aには3個以上の複数のバンドが確認できる以上,分子量の増大すなわち3′末端からの自己伸長反応が起きていることは,明らかである(甲52)。 また,本件発明の実施例と先願明細書の実施例1とでは,OPの使用の有無を除き反応条件が実質的に同一であって,かつ,OPは,ダンベル型中間体の形成のみに関与してこれからの増幅反応には関与しないから,両者で同一の反応 の実施例と先願明細書の実施例1とでは,OPの使用の有無を除き反応条件が実質的に同一であって,かつ,OPは,ダンベル型中間体の形成のみに関与してこれからの増幅反応には関与しないから,両者で同一の反応が起きていることは,明らかである(甲38,39)。 さらに,先願明細書によれば,先願明細書の実施例1の後段の反応は,一対のTPを用いた反応であるから(【0025】),当該反応では本件発明1の実施例と同じ非直線的増幅反応(指数関数的増幅反応)が起きているといえる(甲38)。 よって,先願明細書の実施例1からは,本件発明1の自己伸長反応を読み取ることができる(甲25,43,44)。 なお,先願明細書の図9④⑤の配列a′b′は,本件発明の3′末端の「F1」に,abは,本件発明の「F1c」に,x′y′c′d′は,本件発明のF2cに,それぞれ該当するから,そこには,本件発明と同一の自己伸長反応(工程B))が記載されているということができ,このことは,先願明細書が図9について「自己伸長を例示する模式図」と記載していることからも明らかである。また,図9のプライマーは,配列c′′が先願明細書の請求項1に記載の「第1のセグメント」に,配列abが「第2のセグメント」に,それぞれ該当するから,先願明細書の実施例1のプライマーと同じであるから,ここでも自己伸長反応が起こることが明らかである。 (3) 前記(1)②についてみると,先願明細書の実施例1は,2つのTPと2つのOPを用いているのに対し,実施例2は,2つのTPのみを用いている点が相違するが,当該TPは,本件発明のOPと同じ機能をするものであり,反応条件も本件 明細書の実施例1と同様であるところ,本件審決は,引用例2の実施例2が本件明細書の実施例1と同様の工程の反応が生じる可能性を指摘しつつも,反応 OPと同じ機能をするものであり,反応条件も本件 明細書の実施例1と同様であるところ,本件審決は,引用例2の実施例2が本件明細書の実施例1と同様の工程の反応が生じる可能性を指摘しつつも,反応条件が全く同じではないために,本件発明1と同じ工程の反応が起きているとまでいえないとする。 しかしながら,本件審決も認定するとおり,先願明細書の実施例2の反応条件は,実質的に本件明細書の実施例1とも先願明細書の実施例1とも同じであるから,本件発明1と同じ反応が起きていないと判断すべき理由はない(甲38)。しかも,先願明細書には,フォワードとリバースの双方にTPを用いた等温増幅反応では非直線的増幅反応(指数関数的増幅反応)が起きることが明記されているから(【0025】),同じくフォワードとリバースにTPを用いた先願明細書の実施例2の増幅反応においては,本件発明1と同じ増幅反応が起きているといえる。 よって,先願明細書の実施例2からは,本件発明1の反応を読み取ることができる。 (4) 前記(1)③についてみると,本件審決は,先願明細書からは3′末端のステムループ構造からの自己伸長反応が起こり,次いで,ループにTPがハイブリダイズし,鎖置換相補鎖合成反応が起きることを読み取ることができず(【0106】【0107】【0183】等),副反応により高分子量産物の複雑な多様性を形成し得,有害であることが記載されている(【0159】)とする。 しかしながら,先願明細書の【0183】の「アンプリコン」は,実施例1の前段の反応で得られたPCR産物を意味しており(【0180】),【0183】の記載は,当該PCR産物(ダンベル型中間体。ダンベル型中間体であるアンプリコンは,サイズが小さい170bpのものである。)を鋳型核酸としてTPを用いて等温増幅を行った結果 180】),【0183】の記載は,当該PCR産物(ダンベル型中間体。ダンベル型中間体であるアンプリコンは,サイズが小さい170bpのものである。)を鋳型核酸としてTPを用いて等温増幅を行った結果であって,その実証データは,電気泳動の結果,分子量の異なる複数のバンドの存在を示している(先願明細書の図17A及びB)。そして,先願明細書の【0183】には,これらの複数のバンドの存在から導き出される時間経過に伴う分子量サイズの段階的増大の理由が,「おそらく,アンプリコンをプライマ ーおよびテンプレートとして機能させる二次構造の存在に起因し得る」旨の記載があり,ここで,アンプリコンの「二次構造」は,ステムループを意味し,かつ,「プライマー」とは,ポリメラーゼが合成を開始する「テンプレート」にアニールして,その3′末端から伸長反応を起こすものを意味するから,当該記載のうち,「アンプリコンをプライマー…として機能させる二次構造」とは,増幅産物(アンプリコン)の3′末端側のループの3′末端からの自己をテンプレートとして伸長反応を意味することが明らかである。 さらに,上記記載のうち,「アンプリコンを…テンプレートとして機能させる二次構造」とは,増幅産物(アンプリコン)の3′末端側のループにプライマーがアニールして伸長反応が起きることを意味するか,又は3′末端からの自己伸長反応そのものを意味する。 以上のとおり,先願明細書の【0183】には,本件発明1における①ループの3′末端からの自己伸長反応及び②ループにアニールしたプライマーからの伸長反応の2つの反応が起きていることが記載されている。 次に,先願明細書の【0106】及び【0107】は,引用例2を引用して「呼吸」という現象を説明しており,そこでは,先願明細書の図2の②から③へと変化する現 の反応が起きていることが記載されている。 次に,先願明細書の【0106】及び【0107】は,引用例2を引用して「呼吸」という現象を説明しており,そこでは,先願明細書の図2の②から③へと変化する現象すなわち3′末端にステムループが形成される現象が起これば,その3′末端のステムループ構造から自己伸長反応が起きることは,著名な教科書である引用例2のFigure19-6にも記載されているとおり,当業者には自明である。 さらに,3′末端のステムループ構造からの自己伸長反応については,先願明細書の図9④⑤や図2④等に記載がある。 また,先願明細書の【0159】には,電気泳動の複数のバンド形成が副反応であるという記載はなく,また,先願明細書の実施例1及び2にも,電気泳動の複数のバンドで確認できる増幅反応が副反応であるという記載はないから,両者は,無関係である。そして,先願明細書には,電気泳動の複数のバンドの形成自体が有害である旨の記載はない。 (5) 前記(1)④についてみると,被告は,他の訴訟事件における準備書面及び技術説明資料(甲10の1・2~甲19)において,いずれも先願明細書に本件発明と同一の発明が記載されていることを自認している。したがって,被告は,信義則に基づき,先願明細書に記載の発明と本件発明の同一性を本件審判及び本件訴訟においては争えないというべきである。 (6) むしろ,本件明細書には,「ヘアピンループを形成させて自身を鋳型(template)とする相補鎖合成反応の報告は多い」,「3′末端に同一鎖上の塩基配列に相補的な配列を持たせ,末端でヘアピンループを形成させる方法が公知である(Gene 71, 29-40,1988)。このようなヘアピンループからは,自身を鋳型とした相補鎖合成が行われ,相補的な塩基配列で構成された 持たせ,末端でヘアピンループを形成させる方法が公知である(Gene 71, 29-40,1988)。このようなヘアピンループからは,自身を鋳型とした相補鎖合成が行われ,相補的な塩基配列で構成された1本鎖の核酸を生成する。たとえばPCT/FR95/00891 では,相補的な塩基配列を連結した末端部分で同一鎖上にアニールする構造を実現している。」との記載があり,ここで引用されている文献(甲3等)の発行は,先願明細書の優先権主張日よりもはるかに前である。したがって,本件明細書の記載から,ループ部分の3′末端からの自己伸長反応は,周知技術であった。 なお,本件明細書の図2及び3並びに先願明細書の図3には,いずれもダンベル型中間体が記載されており,本件明細書で1本鎖として記載されている部分が先願明細書において2本鎖として記載されているのは,表現上の相違にすぎず,実質的な相違ではない。そして,これらのダンベル型中間体は,いずれもTP伸長鎖によって形成されているから,その機能も同じであることは,明らかである。そして,ダンベル型中間体が同じであるのであれば,ダンベル型中間体及び一対のTP(フォワード及びリバースにTPを用いること)を用いた増幅反応も同じであると考えるのが科学的に正しい認定であるというべきである。 (7) 以上のとおり,本件発明(特に,本件発明1)は,先願明細書の実施例において起きている反応の一部である,ダンベル型中間体及び一対のTPからの核酸増幅反応を取り出して反応機構を説明したものにすぎず,新たな用途を提供するも のでもない。このように,本件発明と先願明細書に記載の発明との間に相違点2は存在せず,本件審決は,先願明細書に記載の発明の認定を誤っているから,取り消されるべきである。 〔被告の主張〕(1) 先願明細書に記載 ように,本件発明と先願明細書に記載の発明との間に相違点2は存在せず,本件審決は,先願明細書に記載の発明の認定を誤っているから,取り消されるべきである。 〔被告の主張〕(1) 先願明細書に記載の発明の技術的思想は,TPである「第1のセグメントB′及び第2のセグメントCを含む第1の初期プライマー(核酸構築物)」,TPである「第1のセグメントF及び第2のセグメントE′を含む続く初期プライマー(核酸構築物)」,基質,緩衝液及びテンプレート依存性重合化酵素を提供する工程と,該特定の核酸配列及び該新規プライマー(核酸構築物)をインキュベートし,該特定の核酸配列を非線形に増幅する工程とを包含する増幅方法であって(先願明細書の図1~3),各末端において,各鎖のステムループ構造を含む2本鎖分子(図3④のダンベル型中間体)を得ることを目的とするものである(【0130】)。 (2) 原告は,先願明細書の実施例1の図17A(30分インキュベーション)及びB(180分インキュベーション)に現れているバンド移動度の違いから,インキュベーション時間が長いほど分子量の大きなバンドが出現しており,これが「自己伸長反応」が起こったことを示すものであるから,そこには本件発明1の工程B)ないしD)が記載されている旨を主張する。 しかしながら,図17A及びBは,電気泳動によって分子量の低い産物のバンドがより下方に移動する一方,より分子量の高い産物のバンドがより上方に留まることを示しているといえるが,両者は,異なる組成のアガロースゲルを使用しており(先願明細書【0182】),Bで用いられたゲル濃度の高いものは,よりサイズの小さいDNA長の分離に適しているから(甲36),Bの移動度の方が小さいのは当然であって,Aとの違いから「自己伸長反応」の発生を読み取ることはできない。 用いられたゲル濃度の高いものは,よりサイズの小さいDNA長の分離に適しているから(甲36),Bの移動度の方が小さいのは当然であって,Aとの違いから「自己伸長反応」の発生を読み取ることはできない。 次に,上記のような移動度の小さいアガロースゲルは,低分子量の増幅産物のバンドをより判別しやすくする目的で使用されるのであるから,先願明細書の実施例1は,分子量の大きな増幅産物を全く想定しておらず,現に,先願明細書は,図1 7について,増幅産物の増量について記載するのみで(【0183】),その分子量の大小については何ら言及していない。 また,先願明細書の図17A及びBでは,標的が存在しないコントロールにおいても増幅産物が生じており(【0183】),実施例1において複数のバンドが生じる原因は,分子量が異なる産物が複数存在するというだけではなく,産物が二次構造を形成しているかどうかもその原因となるのであるから(甲25),図17A及びBは,「自己伸長反応」を示すものとはいえない。 さらに,図17A及びBは,いずれも不鮮明であり,いずれのバンドが先願明細書に記載の発明の最終産物であるダンベル型中間体に対応するものであるかも記載されていない(Bでは,バンド同士の密着により,どのようなバンドが生じているかは,判別不能である。)から,これらの図から段階的な分子量の増大やダンベル中間体の整数倍の伸長反応を読み取ろうとする見解(甲38,39)は,本件発明1に基づく後知恵にすぎない。 以上のとおり,先願明細書には,本件発明1の工程B)ないしD)を備えていることが明記されておらず,また,「自己伸長反応」の記載がないから本件発明1の「1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸」との構成を開示するものではない。 (3) 原告は,先願明細書の実施例2の が明記されておらず,また,「自己伸長反応」の記載がないから本件発明1の「1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸」との構成を開示するものではない。 (3) 原告は,先願明細書の実施例2の反応条件から,実施例1と同様の反応が生じているから本件発明1の反応を読み取ることができる旨を主張する。 しかしながら,先願明細書の実施例2には,実施例1の記載以上の記載が存在しないから,「自己伸長反応」を含む増幅反応に係る発明が記載されていると解する余地はない。むしろ,実施例1の実験は,そのタイトルが「PCR産物の等温増幅」であることから明らかなとおり,PCRで得られたダンベル型産物を等温でコピーすることを目的としていることが明らかである。 (4) 先願明細書の「この複数のバンドは,おそらく,アンプリコンをプライマーおよびテンプレートとして機能させる二次構造の存在に起因し得る」との記載 (【0183】)には,「自己伸長反応」とは記載されておらず,当該記載部分は,先願明細書の作成者が複数のバンドができた原因を抽象的に複数推測しているにすぎないことが明らかであって,先願明細書【0180】に記載のとおり,単に二次構造が一方又は両方のいずれかの末端上で形成されることを原因として移動度が変化し,複数のバンドが形成された可能性を示唆しているにすぎない(現に,ダンベル型中間体は,分子間でアニールして二次構造を形成することもある。)から,原告の主張に係るようなループ部の自己伸長を意味するものとはいえず,特許法29条の2が求める同一の発明を記載したものとは到底いえない。 また,原告は,先願明細書【0159】の「副反応」による高分子量産物が有害であるとの本件審決の認定を争っているが,前記(1)に記載のとおり,先願明細書に記載の発明は,ダンベル型中間体を いえない。 また,原告は,先願明細書【0159】の「副反応」による高分子量産物が有害であるとの本件審決の認定を争っているが,前記(1)に記載のとおり,先願明細書に記載の発明は,ダンベル型中間体を得ることを目的とするものであるからそれ以外の産物を生じる反応は,「副産物」に該当するのであって,現に,複数のバンドがどのような産物に相当するのかの分析はされていない(【0183】)。 さらに,原告は,引用例2を参照すれば先願明細書【0106】【0107】の「呼吸」から「自己伸長反応」を読み取れる旨を主張するが,引用例2は,アデノ随伴ウイルスの生体内での予想されるモデルに関するものであり,特許法29条の2の適用に当たって参酌し得るような周知技術ではない。そして,先願明細書の図9④⑤は,原告が主張の根拠とする実施例1等の反応とは,プライマーの構造自体及び反応機構が異なる別反応であるから,ここに「自己伸長反応」が記載されているということはできない。 (5) 別件の訴訟事件は,本件特許とは無関係な別件特許の進歩性が争われたものであって,先願明細書に対する特許法29条の2の適用とは無関係であるし,被告の主張に矛盾抵触はない。 (6) 原告は,被告が本件明細書の記載により「自己伸長反応」が周知であることを自認しており,引用例3にも同旨の記載がある旨を主張する。 しかしながら,原告が援用する本件明細書の記載部分は,ループの3′末端から の自己伸長に関するものではなく,むしろ,他の部分ではヘアピンループを相補鎖合成に利用している点において新規である点を明記している。また,引用例3の図5iの記載も,ループからの自己伸長反応に関するものではない。そして,他に自己伸長反応が周知であるとする証拠はない。 (7) なお,先願明細書の出願人は,出願経過におい している。また,引用例3の図5iの記載も,ループからの自己伸長反応に関するものではない。そして,他に自己伸長反応が周知であるとする証拠はない。 (7) なお,先願明細書の出願人は,出願経過において「自己伸長反応」に関する記載を付加したところ,これが当初明細書に記載されていない新規事項であると指摘されたために,当該出願を取り下げている。このように,先願明細書に「自己伸長反応」が記載されていないことは,明らかである。 (8) よって,先願明細書には,本件発明が記載されておらず,これと同旨の本件審決の認定は,正当である。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明について(1) 本件明細書の記載について本件発明は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件明細書には,おおむね次の記載がある。 ア本件発明は,核酸の増幅方法として有用な,特定の塩基配列で構成される核酸を合成する方法に関する。 イ核酸の塩基配列の相補性に基づく分析方法は,遺伝的な特徴を直接に分析することが可能なため,遺伝的疾患等には非常に有力な手段であるが,試料中に存在する目的の遺伝子量が少ない場合の検出は,一般に容易ではなく,標的遺伝子そのもの等を増幅することが必要となる。PCR法は,invitro における核酸の増幅技術として,現在最も一般的な方法であるが,実施のために特別な温度調節装置が必要であるし,1塩基多型(SNPs)の解析では,誤って混入した核酸を鋳型として相補鎖合成が行われた場合,誤った結果を与える原因となるので,PCR法をSNPsの検出に利用するには,特異性の改善が必要とされている。LCR法も,合成した相補鎖と鋳型との分離に温度制御が必要であり,SDA法は,温度制御を 省略できるが,鎖置換型のDNAポリメラーゼに加えて,ニックをもたらす制限酵 の改善が必要とされている。LCR法も,合成した相補鎖と鋳型との分離に温度制御が必要であり,SDA法は,温度制御を 省略できるが,鎖置換型のDNAポリメラーゼに加えて,ニックをもたらす制限酵素を組み合わせる必要があり,コストアップの要因となっているほか,一方の鎖には酵素消化に耐性を持つように基質としてdNTP誘導体を利用しなければならないので,増幅産物の応用が制限される。さらに,NASBA法は,複雑な温度制御を不要とするが,複数の酵素の組合せが必須であり,コストの面で不利であるし,複数の酵素反応を行わせるための条件設定が複雑なので,一般的な分析方法として普及させることは,難しい。このように,公知の核酸増幅反応においては,複雑な温度制御の問題点や複数の酵素が必要となることといった課題が残されている。 ウ本件発明の課題は,新規な原理に基づき,低コストで効率的に配列に依存した核酸の合成を実現することができる方法,すなわち,単一の酵素を用い,しかも,等温反応条件の下でも核酸の合成と増幅を達成することができる方法の提供である。 さらに,本件発明は,公知の核酸合成反応原理では達成することが困難な高い特異性を実現することができる核酸の合成方法及びこの合成方法を応用した核酸の増幅方法の提供を課題とする。 エ本件発明の発明者らは,鎖置換型の相補鎖合成を触媒するポリメラーゼの利用が,複雑な温度制御に依存しない核酸合成に有用であることに着目し,従来技術とは異なる角度から合成起点となる3′-OHの供給について検討した結果,特殊な構造を持ったオリゴヌクレオチドを利用することによって,付加的な酵素反応に頼らずとも3′-OHの供給が可能となることを見出し,本件発明を完成した。 オ本件発明が合成の目的としている1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結され ドを利用することによって,付加的な酵素反応に頼らずとも3′-OHの供給が可能となることを見出し,本件発明を完成した。 オ本件発明が合成の目的としている1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸とは,1本鎖上に互いに相補的な塩基配列を隣り合わせに連結した核酸を意味する。さらに,本件発明は,相補的な塩基配列の間にループを形成するための塩基配列を含まなければならないが,これをループ形成配列と呼ぶ。本件発明によって合成される核酸は,実質的に,上記ループ形成配列によって連結された互いに相補的な塩基配列で構成される。すなわち,本件発明における1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結した核酸とは,同一鎖上でアニールすることが可能な相補 的な塩基配列を含み,そのアニール生成物は,折れ曲がったヒンジ部分に塩基対結合を伴わないループを構成する1本鎖核酸と定義することもできる。 カ本件発明の特徴となっている,3′末端に同一鎖上の一部領域F1cにアニールすることができる領域F1を備え,この領域F1が同一鎖上の領域F1cにアニールすることによって,塩基対結合が可能な領域F2cを含むループを形成することができる核酸は,様々な方法によって得ることができる。最も望ましい態様においては,少なくとも,特定の塩基配列を持つ核酸の領域X2c(F2c又はR2c)に相補的な塩基配列を持つ領域X2(F2又はR2)及び当該領域X2c(F2c又はR2c)の5′末端側に位置する領域X1c(F1c又はR1c)と実質的に同じ塩基配列を持つ領域X1c(F1c又はR1c)とで構成され,領域X2(F2又はR2)の5′末端側に領域X1c(F1c又はR1c)が連結されたオリゴヌクレオチドを利用した,相補鎖合成反応に基づいてその構造を与えることができる。 本件発明に基づくオリゴヌク 領域X2(F2又はR2)の5′末端側に領域X1c(F1c又はR1c)が連結されたオリゴヌクレオチドを利用した,相補鎖合成反応に基づいてその構造を与えることができる。 本件発明に基づくオリゴヌクレオチドとしては,3′末端側から領域F2-F1cを備えるFAと,同じく領域R2-R1cを備えるRAとがあるが,まず,鋳型となる核酸(3′末端側からF3c-F2c-F1c-鋳型領域-R1-R2-R3)の領域F2cに対してFAの領域F2をアニールさせ,これを合成起点として相補鎖合成を行う。次に,3′末端側から領域F3を有するアウタープライマーを鋳型となる核酸の領域F3cにアニールさせ,鎖置換型の相補鎖合成をDNAポリメラーゼで行うことにより,FAから合成した相補鎖は,置換され,塩基対結合が可能な状態となる(図1)。そして,リバースプライマーとしてのRAの領域R2が,塩基対結合が可能となったFAの領域R2cにアニールして相補鎖合成が行われ,FAの5′側末端である領域F1cに至る部分まで行われる。この相補鎖合成反応に続いて,やはり置換型のアウタープライマーR3がアニールし,鎖置換を伴って相補鎖合成を行うことにより,RAを合成起点として合成された相補鎖が置換される。このとき置換される相補鎖は,RAを5′末端側に持ち,FAに相補的な 配列が3′末端に位置する(図2)。 なお,鋳型とすべき核酸が2本鎖である場合には,少なくともオリゴヌクレオチドがアニールする領域を塩基対結合が可能な状態とする必要があり,そのためには,一般に加熱変性が行われるが,これは,反応開始前の前処理として一度だけ行えばよい。 キ本件発明において,1本鎖核酸の3′末端側には,同一鎖上の領域F1cに相補的な領域F1が存在するので,当該領域F1と領域F1cとは,速やかにアニール 開始前の前処理として一度だけ行えばよい。 キ本件発明において,1本鎖核酸の3′末端側には,同一鎖上の領域F1cに相補的な領域F1が存在するので,当該領域F1と領域F1cとは,速やかにアニールして相補鎖合成が始まるが,その際,領域F2cが塩基対結合が可能な状態で維持されたループを形成する。そして,上記領域F2cに相補的な塩基配列を持つ本件発明のオリゴヌクレオチドFAは,上記ループ部分にアニールして,相補鎖合成の起点となり,先に開始した領域F1からの相補鎖合成の反応生成物を置換しながら進む結果,自身を鋳型として合成された相補鎖は,再び3′末端において塩基対結合が可能な状態となる。この3′末端は,同一鎖上の領域R1cにアニールし得る領域R1を備えており,やはり同一分子内の速やかな反応により,両者は,優先的にアニールする。このようにして,本件発明による1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸は,次々と相補鎖合成と置換とを継続し,その3′末端R1を起点とする伸長を続けることになるが,当該3′末端R1の同一鎖へのアニールによって形成されるループには常に領域R2cが含まれることから,以降の反応で3′末端のループ部分にアニールするのは,常に領域R2を備えたオリゴヌクレオチドRAとなる。一方,自分自身を鋳型として伸長を継続する1本鎖の核酸に対して,そのループ部分(領域F2c)にアニールするオリゴヌクレオチドを合成起点として相補鎖合成される核酸(FA)に着目すると,ここでも,本件発明による1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の合成が進行している。そして,この核酸の合成によって置換された核酸が(領域R2cを含むループを経て)相補鎖合成を開始すると,やがてその反応は,かつて合成起点であったループ部分(領域F2c)に達して再び置換が始 ている。そして,この核酸の合成によって置換された核酸が(領域R2cを含むループを経て)相補鎖合成を開始すると,やがてその反応は,かつて合成起点であったループ部分(領域F2c)に達して再び置換が始まる。こうして,ループ部分(領域F2 c)から合成を開始した核酸も,置換され,その結果,同一鎖上にアニールすることができる3′末端R1を得て,当該3′末端R1は,同一鎖の領域R1cにアニールして,次の相補鎖合成を開始する。このように,本件発明においては,1つの核酸の伸長に伴って,これとは別に伸長を開始する新たな核酸を供給し続ける反応が進行し,更に,鎖の伸長に伴い,末端のみならず,同一鎖上に複数のループ形成配列がもたらされる。これらのループ形成配列は,鎖置換反応により塩基対形成可能な状態となると,オリゴヌクレオチドがアニールし,新たな核酸の生成反応の起点となる。末端のみならず,鎖の途中からの合成反応も組み合わされることにより,更に効率のよい増幅反応が達成されるのである。以上のようにリバースプライマーとして本件発明に基づくオリゴヌクレオチドRAを組み合わせることによって,伸長とそれに伴う新たな核酸の生成が起きる。さらに,本件発明においては,この新たに生成した核酸自身が伸長し,それに付随する更に新たな核酸の生成をもたらすが,一連の反応は,理論的には永久に継続し,極めて効率的な核酸の増幅を達成することができるし,本件発明の反応は,等温条件のもとで行うことができる。 ク本件発明の方法により蓄積する反応生成物は,領域F1-R1間の塩基配列とその相補配列が交互に連結された構造を持つ。ただし,繰り返し単位となっている配列の両端には,領域F2-F1(領域F2c-F1c)又は領域R2-R1(領域R2c-R1c)の塩基配列で構成される領域が連続している。 が交互に連結された構造を持つ。ただし,繰り返し単位となっている配列の両端には,領域F2-F1(領域F2c-F1c)又は領域R2-R1(領域R2c-R1c)の塩基配列で構成される領域が連続している。これは,本件発明に基づく増幅反応が,オリゴヌクレオチドを合成起点として領域F2又はR2から開始し,続いて自身の3′末端を合成起点とする領域F1又はR1からの相補鎖合成反応によって伸長するという原理のもとに進行しているためである。 ケ一連の反応は,鋳型となる1本鎖の核酸に対して,4種類のヌクレオチド(FA,RA,アウタープライマーF3及びアウタープライマーR3),鎖置換型の相補鎖合成を行うDNAポリメラーゼ及びDNAポリメラーゼの基質となるヌクレオチドを加え,FA及びRAを構成する塩基配列が相補的な塩基配列に対して安定な塩基対結合を形成することができ,かつ,酵素活性を維持し得る温度でインキ ュベートするだけで進行する。したがって,PCR法のような温度サイクルは必要ない。 コこの反応は,融解温度調整剤を利用することによって,オリゴヌクレオチドのアニールを限られた温度条件の下で調製することができるし,ベタイン等は,そのisostabilize 作用によって鎖置換効率の向上にも有効である。ベタインは,反応液中0.2ないし0.3M,好ましくは,0.5ないし1.5M程度の添加により,本件発明の核酸増幅反応の促進作用を期待できる。 サ本件発明では,何らかの非特異的な反応が起きると,その生成物が以降の増幅工程に対して出発材料となる可能性を低く抑えることになる。この特徴は,遺伝子変異の検出に利用することができる。すなわち,本件発明では,各領域,特に相補鎖合成の起点となる各オリゴヌクレオチドの3′末端等が設計どおりに働かなければ本件発明の合成反 とになる。この特徴は,遺伝子変異の検出に利用することができる。すなわち,本件発明では,各領域,特に相補鎖合成の起点となる各オリゴヌクレオチドの3′末端等が設計どおりに働かなければ本件発明の合成反応を進行させないから,この配列を検出すべき変異に対応するよう設計すれば,塩基の欠失や挿入といった変異の有無により核酸の相補鎖合成反応は,著しく阻害されることになり,本件発明による合成反応生成物を観察することによって,当該変異の有無等を総合的に分析することができる。このような特徴は,PCR法などでは期待しにくい利点である。 シ本件発明によって合成された核酸は,大部分が塩基対結合を形成しているから,2本鎖特異インターカレーターである蛍光色素の存在下で実施すれば,生成物の増加に伴って蛍光強度というシグナルの増大が観察され,閉鎖系でリアルタイムな合成反応の追跡が可能となる。 ス本件発明は,塩基対結合が可能な状態にあるループを常に形成する特徴を有するので,この領域に対して相補的な塩基配列を持つプローブをハイブリダイズさせれば,鋳型特異的な検出を行うことができる。しかも,この領域は,常に塩基対結合が可能な状態にあることから,ハイブリダイズに先立って加熱変性する必要がないし,上記ループを構成する塩基配列は,任意の長さとすることができるから,プローブのハイブリダイズを目的とする場合には,プライマーがアニールすべき領 域とプローブがハイブリダイズすべき領域を別々にして両者の競合を避けることにより理想的な反応条件を構成できる。本件発明によれば,1本の核酸鎖上に塩基対結合が可能な多数のループがもたらされるから,核酸1分子に多数のプローブがハイブリダイズ可能であり,感度の高い検出を可能とするのみならず,例えばポリスチレンラテックスのような微粒子に固定し に塩基対結合が可能な多数のループがもたらされるから,核酸1分子に多数のプローブがハイブリダイズ可能であり,感度の高い検出を可能とするのみならず,例えばポリスチレンラテックスのような微粒子に固定したプローブを本件発明による反応生成物に加えることで,凝集反応に基づくラテックス粒子の凝集が観察される。凝集の強度を工学的に測定すれば,高感度に,しかも定量的な観察が可能である。 セ本件発明による核酸の合成方法を支えているのは,鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼであるが,そのようなものとして知られているポリメラーゼ(11種類の既存のポリメラーゼを列挙)のうち,BstDNAポリメラーゼ等は,ある程度の耐熱性を持ち,触媒活性も高いことから特に望ましい酵素である。本件発明の反応は,望ましい態様においては等温で実施することができるが,融解温度の調整などのために必ずしも酵素の安定性に相応しい温度条件を利用できるとは限らないから,酵素が耐熱性であることは,望ましい条件の一つである。 また,等温反応が可能とはいえ,最初の鋳型となる核酸の提供のためにも加熱変性は行われる可能性があり,その点においても耐熱性酵素の利用は,アッセイプロトコールの選択の幅を広げる。 ソ本件発明の特徴は,ごく単純な試薬構成で容易に達成できることにある。例えば,本件発明によるオリゴヌクレオチドは,特殊な構造を持つとはいえ,それは,塩基配列の選択の問題であって,物質としては単なるオリゴヌクレオチドである。 また,望ましい態様においては,鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼのみで反応を進めることができるなど,全ての酵素反応を単一の酵素によって行うことができる。したがって,本件発明による核酸合成方法は,コストの点においても有利である。このように,本件発明の合 メラーゼのみで反応を進めることができるなど,全ての酵素反応を単一の酵素によって行うことができる。したがって,本件発明による核酸合成方法は,コストの点においても有利である。このように,本件発明の合成方法及びそのためのオリゴヌクレオチドは,操作性(温度制御不要),合成効率の向上,経済性そして高い特異性という,複数の困難な課題を同時に解決する新たな原理を提供する。 (2) 本件発明の課題,課題解決手段及び作用効果について以上の本件明細書の記載によれば,本件発明は,核酸の増幅に当たり,従来技術では,複雑な温度調節又は複数の酵素の組合せが必要であったという課題を解決するため,本件発明の構成,特に,3′末端及び5′末端にそれぞれ領域F1-F2c-F1c及びR1c-R2-R1の塩基配列で構成される領域(ループ形成配列)を有する核酸を提供し,当該第1の3′末端がこれを鋳型として相補鎖合成を行う一方で,当該合成起点となったループ内の塩基配列部分(領域F2c)に別の第2の3′末端を含むオリゴヌクレオチドの相補的な塩基配列部分(領域F2)をアニールさせることで,これを第2の合成起点として相補鎖合成を行い,その際,第1と第2の各3′末端が,鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによる相補鎖合成により,他方の3′末端により合成された相補鎖を置換しあうことで,1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸を,等温条件かつ単一の酵素を利用するだけで増幅させることを可能とし,これによって操作性,合成効率の向上,経済性及び高い特異性を実現するという作用効果を有するほか,上記増幅方法を応用することで,増幅反応を促進し,あるいは核酸の観察等を容易にするという作用効果を有するものであるといえる。 2 取消事由1(実施可能要件及びサポート要件に係る判断の を有するほか,上記増幅方法を応用することで,増幅反応を促進し,あるいは核酸の観察等を容易にするという作用効果を有するものであるといえる。 2 取消事由1(実施可能要件及びサポート要件に係る判断の誤り)について(1) 実施可能要件についてア本件特許は,平成11年11月8日出願に係るものであるから,法36条4項が適用されるところ,同項には,「発明の詳細な説明は,…その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」と規定している。 特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。法36条4項が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることが できる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。 そして,方法の発明における発明の実施とは,その方法の使用をする行為をいうから(特許法2条3項2号),方法の発明については,明細書にその発明の使用を可能とする具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその方法を使用することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。 イこれを本件発明についてみると,本件明細書には,前記1(1)カに記載のとおり,本件発明1の工程A)の鋳型を提供する方法について,具体例を挙げつつ,様々な方法が可能である旨の記載があり,かつ,そこ イこれを本件発明についてみると,本件明細書には,前記1(1)カに記載のとおり,本件発明1の工程A)の鋳型を提供する方法について,具体例を挙げつつ,様々な方法が可能である旨の記載があり,かつ,そこに記載の具体例は,いずれも一般的な技術に基づくものであるから,本件出願日当時の技術常識に照らして,当業者が使用可能であると認められる。 次に,本件発明1の工程B)それ自体は,DNAポリメラーゼの機能によって,部分的に2本鎖となった鋳型核酸の3′末端が鋳型核酸の1本鎖となっている部分に対して相補鎖合成を行うということであって,本件出願日当時の当該分野における技術常識にほかならない(引用例2参照)。 本件発明1の工程C)のうち,既存の核酸のループ形成配列(領域F2c)と相補的な塩基配列(領域F2)を有するオリゴヌクレオチドをループ部分にアニールさせることそれ自体は,ループ部分に塩基対結合を生じていない塩基配列が存在すれば発生し得ることであって,これもまた,本件出願日当時の当業者の技術常識であったものと認められる。また,上記工程C)のうち,特定のDNAポリメラーゼが触媒となって,他の核酸にアニールしたオリゴヌクレオチドの3′末端(プライマー)が塩基対結合の置換による相補鎖合成反応を示すことは,本件明細書でも多数の既存のDNAポリメラーゼが鎖置換型ポリメラーゼとして紹介されていること(前記1(1)イ及びセ)から,やはり本件出願日当時の当業者の技術常識であった ものと認められる。したがって,上記工程C)自体は,当業者が本件出願日当時の技術常識に照らして使用可能であったといえる。 さらに,本件発明1の工程D)は,工程A)において,5′末端に領域R1c-R2-R1の塩基配列で構成されるループ形成配列をあらかじめ提供していたことによる論理的帰結で て使用可能であったといえる。 さらに,本件発明1の工程D)は,工程A)において,5′末端に領域R1c-R2-R1の塩基配列で構成されるループ形成配列をあらかじめ提供していたことによる論理的帰結であって,それ自体に何ら技術的な困難性が見当たらない。 以上に加えて,本件発明2以下は,いずれも,本件発明1に他の構成が追加されたものであるが,これらの追加された各構成は,前記1(1)に記載の本件明細書の記載によれば,いずれも既存ないし既知の技術に立脚するものと認められ,当該各構成を使用することが本件発明2ないし11の場合において不可能であると認めるに足りる証拠もないから,いずれも,本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に照らして当業者が使用可能であるものといえる。 したがって,本件発明は,いずれも本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に照らして当業者が使用可能なものであるといえる。 (2) サポート要件についてア本件特許は,平成11年11月8日出願に係るものであるから,法36条6項1号が適用されるところ,同号には,特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」でなければならない旨が規定されている(サポート要件)。 特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載 本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載 しなければならないというべきである。法36条6項1号の規定する明細書のサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。 そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,あるいは,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イこれを本件発明についてみると,本件明細書は,前記1(1)カに記載のとおり,本件発明の工程A)の鋳型核酸の製造方法について記載した上で,本件発明1ないし3については,前記1(1)キないしケにその作用機序及び技術的思想に関する詳細な説明を記載しており,本件発明4ないし6については,前記1(1)コに,本件発明7ないし11については,前記1(1)サないしスに,それぞれ 記1(1)キないしケにその作用機序及び技術的思想に関する詳細な説明を記載しており,本件発明4ないし6については,前記1(1)コに,本件発明7ないし11については,前記1(1)サないしスに,それぞれその構成及びその技術的意義に関する詳細な説明を記載しており,これらの記載は,いずれも当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるものであると認められる。 (3) 原告の主張についてア原告は,本件明細書には本件発明1の工程A)の鋳型核酸の製造方法として2つのOPを用いた方法以外には記載がないから,当業者がこれを実施できず,また,本件発明のLAMP法では2つのOP及びTPが必須である旨を主張する。 しかしながら,本件明細書には,原告も自認するとおり,上記工程A)の鋳型核酸の製造方法が記載されている(前記1(1)カ)から,この点を問題として実施可 能要件又はサポート要件違反を指摘する主張は,そもそも失当である。また,本件発明がそれ自体実施可能であり,本件明細書に記載のものであることは,前記(1)及び(2)に説示のとおりであるところ,前記第2の2に記載の本件発明の特許請求の範囲には,原告主張に係る2つのOP及びTPについての記載はないばかりか,本件明細書の記載(前記1(1)カ)によれば,鋳型核酸は,様々な方法によって得ることができるとされており,それ自体実施可能であるとされているから,本件発明がLAMP法であるか否かや,LAMP法において2つのOP及びTPが必要であるか否かは,実施可能要件及びサポート要件とは関係がないものというほかなく,これらの要件に関する前記判断を左右するものではない。 よって,原告の上記主張は,採用できない。 イ原告は,本件発明における工程A)の鋳型核酸を作るに当たり,加熱変性が必要であることから,本件発明が らの要件に関する前記判断を左右するものではない。 よって,原告の上記主張は,採用できない。 イ原告は,本件発明における工程A)の鋳型核酸を作るに当たり,加熱変性が必要であることから,本件発明が実施可能要件又はサポート要件に違反する旨を主張するもののようである。 しかしながら,本件明細書は,前記1(1)カ及びセに記載のとおり,本件発明における工程A)の鋳型核酸を作るに当たり,加熱変性を用いることについて記載しているものの,当該鋳型核酸の製造それ自体は,本件発明の特許請求の範囲には属していない。したがって,本件発明の方法以前の段階で加熱変性が実施されるからといって,本件発明が実施不可能となり,あるいは本件明細書に記載されたものでなくなるというものではない。 よって,原告の上記主張は,採用できない。 (4) 小括よって,本件発明は,いずれも実施可能要件及びサポート要件を満たすものというべきである。 3 取消事由2(引用発明1に基づく容易想到性に係る判断の誤り)について(1) 引用例1の記載について本件審決が認定した引用発明1は,前記第2の3(2)アに記載のとおりであると ころ,引用例1は,「THEJOURNALOFBIOLOGICALCHEMISTRYVol.266, No.21, pp.14031-14038」に掲載された「T4バクテリオファージ由来uvsXリコンビナーゼによるスナップバックDNA合成における増幅反応」と題する学術論文であり,そこには,おおむね次の記載がある。 ア観察に基づき,スナップバックDNA合成における増幅に関して,次のモデルを提案する。 (ア) 工程1:T4ホロ酵素が,スナップバック機構により,直鎖ssDNA鋳型を複製する。この反応の生成物は,長い2本鎖のヘアピンであり,それ NA合成における増幅に関して,次のモデルを提案する。 (ア) 工程1:T4ホロ酵素が,スナップバック機構により,直鎖ssDNA鋳型を複製する。この反応の生成物は,長い2本鎖のヘアピンであり,それは,出発物質である直鎖ssDNAに対して相同である。 (イ) 工程2:uvsXタンパク質が,直鎖ssDNA分子と工程1における2本鎖ヘアピン化合物との間の結合を触媒する。uvsXタンパク質によって触媒されるDNA分岐点移動の,5′から3′への方向性(ssDNAへの侵入に関する)により,当該3′末端は,D-ループ構造に組み込まれ,そこで,DNA複製を開始できる状態を保つ(脚注6:ヘアピン構造領域におけるループ部分の2重鎖は,直鎖状ssDNAと非相同的であり,このため,3′末端の対合が困難になっている。)。 (ウ) 工程3及び4:このように開始されるDNA合成により,D-ループ中間体を,ダイマー長の直鎖2本鎖に分解し,当該直鎖2本鎖は,複製開始DNA合成における鋳型としてもよい。 (エ) 工程5及び6:uvsXタンパク質が直鎖ssDNA分子(出発物質)と2本鎖の二量体中間体の相同性タンパク質との間のシナプシスを触媒し,DNA合成を開始する。「(DNA)バブル移動」機構によるこの鋳型の複製によって,内部相補的であり,急速に復元するダイマー長の直鎖ssDNA分子が生じる。 (オ) 工程7:この生成物の復元によって,工程1と同一のヘアピン構造が形成される。そして,これらの生成物は,新たなDNA合成に用いてもよく,それによって,これらの生成物は,増幅される。 イ前記アの方法は,T4uvsXタンパク質の複製開始活性に基づく,当該タンパク質によるスナップバックDNA合成の増幅モデルであり,uvsXタンパク質が触媒する,直線ssDNAプライマ イ前記アの方法は,T4uvsXタンパク質の複製開始活性に基づく,当該タンパク質によるスナップバックDNA合成の増幅モデルであり,uvsXタンパク質が触媒する,直線ssDNAプライマー/テンプレート(鋳型)と,スナップバック複製のdsDNA産物との再結合が,スナップバック産物と同じ配列を持つ2倍の長さの2重鎖を産生するDNA合成を開始する。このテンプレート(鋳型)における再結合で開始されたDNA合成は,スナップバック産物の産生を増幅させる。 ウこのスナップバックのDNA合成反応は,比較的シンプルな,試験管内システムにおいて,高い精度のDNAポリメラーゼを用いて実施されるDNAの等温増幅プロセスの一例である。 エ uvsXタンパク質の非存在下でも,3種のテンプレート(鋳型)の全てにおいて,ごくわずかながらDNA合成が起こった。 (2) 引用例1に記載の発明及び本件発明1との相違点の各認定についてア前記(1)の引用例1の記載によれば,そこには,「T4ホロ酵素がスナップバック機構により中央にヘアピン構造を有する長い2本鎖DNAを合成し,これに当該2本鎖DNAに相同な直鎖ssDNAがuvsXリコンビナーゼの作用によって侵入し,当該直鎖ssDNAがプライマーとして機能して鎖置換型の相補鎖合成を行うことによる,uvsXリコンビナーゼの組換え反応に依存する,T4ホロ酵素を用いたスナップバックDNA増幅機構」が記載されており,引用例1に記載の発明は,本件発明1とは,DNAの増幅方法である点で一致するものと認められる。 なお,本件審決による引用発明1の認定は,引用例1に記載の発明の構成の一部を課題として認定し,あるいは引用例1に記載の図8をそのまま引用するものであって,引用例1に記載の発明の構成を必ずしも具体的に示しておらず,本件 る引用発明1の認定は,引用例1に記載の発明の構成の一部を課題として認定し,あるいは引用例1に記載の図8をそのまま引用するものであって,引用例1に記載の発明の構成を必ずしも具体的に示しておらず,本件発明との対比をすべき発明を認定するものとしては,措辞が不適切であるが,そのことは,直ちに本件審決を取り消すべき違法を生ずるものではない。 イこの点に関して,原告は,引用例1におけるヘアピン構造が本件発明1のループ部分に相当し,同じく直鎖ssDNAがプライマー(オリゴヌクレオチド)に 相当するから,本件審決による引用発明の認定には誤りがある旨を主張する。 しかしながら,本件発明1の工程A)で提供される鋳型となる核酸のループ部分(ループ形成配列)は,前記1(2)に説示のとおり,3′末端及び5′末端にそれぞれ領域F1-F2c-F1c及びR1c-R2-R1の塩基配列で構成される領域(ループ形成配列)を有するものであり,かつ,当該領域は,本件発明1における工程C)以下を実現させる上で不可欠の構成である一方,引用例1に記載の発明のヘアピン構造は,T4ホロ酵素のスナップバック機構により生ずるものであるばかりか,前記(1)ア(イ)に記載のとおり,引用例1に記載の発明におけるヘアピン構造領域におけるループ部分の2重鎖は,直鎖状ssDNAと非相同的であり,このため,3′末端の対合が困難になっているとされていることからも明らかなように,本件発明1のループ形成配列における領域F2c又はR2に相当する部分を欠くものである。 したがって,引用例1に記載の発明におけるヘアピン構造は,本件発明1のループ部分に相当するということはできず,むしろ,本件発明1のループ部分には領域F2cが存在すること,すなわち,本件発明1が「それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる ヘアピン構造は,本件発明1のループ部分に相当するということはできず,むしろ,本件発明1のループ部分には領域F2cが存在すること,すなわち,本件発明1が「それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖状に備え,この互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の間に塩基対結合が可能となるループが形成される(工程A))」との構成を有する一方,引用例1に記載の発明にはこれが存在しないことは,両者の実質的な相違点であるというべきである(以下「相違点A」という。)。 また,本件発明1においてアニールされるオリゴヌクレオチドは,前記1(2)に説示のとおり,3′末端側のループ内の領域F2c部分に相補的な塩基配列部分(領域F2)を含むもので,当該領域F2部分が当該領域F2c部分にアニールするというものであり,かつ,当該オリゴヌクレオチドの構成及びそれに基づくアニールの方法は,いずれも工程C)以下を実現させる上で不可欠の構成である一方,引用例1に記載の発明は,既存の2本鎖DNAに相同な直鎖ssDNAがuvsXリコンビナーゼの組換え反応に依存して侵入するというものであって,アニールさ れる直鎖ssDNAの構成及びアニール(侵入)の方法が,いずれも本件発明1とは相違するというほかない。 したがって,引用例1に記載の発明における直鎖ssDNAは,本件発明1のオリゴヌクレオチドに相当するということはできず,むしろ,本件発明1が上記のようなオリゴヌクレオチド,すなわち,「3′末端側に位置するループ内に相補的な塩基配列を3′末端に含むオリゴヌクレオチドを,ループ部分にアニールさせ(工程C))」るとの構成を有する一方,引用例1に記載の発明が「当該2本鎖DNAに相同な直鎖ssDNAがuvsXリコンビナーゼの作用によって侵入」するとの構成を有すること ,ループ部分にアニールさせ(工程C))」るとの構成を有する一方,引用例1に記載の発明が「当該2本鎖DNAに相同な直鎖ssDNAがuvsXリコンビナーゼの作用によって侵入」するとの構成を有することは,両者の実質的な相違点であるというべきである(以下「相違点B」という。)。 (3) 引用例1に記載の発明に基づく本件発明1の容易想到性についてア引用例1に記載の発明と本件発明1とでは,DNAの増幅方法である点で一致し,技術分野が同一であるといえる。他方,本件発明1と引用例1に記載の発明との間には,少なくとも前記(2)イに認定の相違点A及びBが存在する。 イそこで,相違点Aについてみると,前記(2)イに説示のとおり,引用例1に記載の発明におけるヘアピン構造は,T4ホロ酵素のスナップバック機構により生ずるものであって,本件発明のループ形成配列における領域F2c又はR2に相当する部分を欠くものであるから,構成として自己完結しているものであって,引用例1には,DNAの増幅に当たって,あえて本件発明1の相違点Aに係る構成を採用させるに足りる示唆ないし動機付けが見当たらない。また,技術分野を同じくする他の文献にも,この点に関する示唆ないし動機付けは見当たらない。 ウ次に,相違点Bについてみると,前記(2)イに説示のとおり,引用例1に記載の発明は,既存の2本鎖DNAに相同な直鎖ssDNAがuvsXリコンビナーゼの組換え反応に依存して侵入するというものであって,相補鎖の置換を開始するための方法としては,本件発明1における塩基対結合の相補性を利用したアニールと全く異なる原理に基づくものであるから,引用例1には,DNAの増幅に当たっ て,引用例1に記載の発明の相違点Bに係る構成に代えて,本件発明1の相違点Aに係る構成を前提とした本件発明1の相 と全く異なる原理に基づくものであるから,引用例1には,DNAの増幅に当たっ て,引用例1に記載の発明の相違点Bに係る構成に代えて,本件発明1の相違点Aに係る構成を前提とした本件発明1の相違点Bに係る構成を採用させるに足りる示唆ないし動機付けが見当たらない。また,技術分野を同じくする他の文献にも,この点に関する示唆ないし動機付けは見当たらない。 (4) 原告の主張についてア原告は,平衡反応(呼吸)により2本鎖が1本鎖になり得ることが周知であり(引用例2),そのようにして形成されたループにプライマーがアニールし得ることも周知であるから,引用例1に記載の発明においても,uvsXタンパク質を用いなくてもDNAの増幅が可能であり,引用例1には,その旨の記載もある(前記(1)エ)と主張する。 そこで検討すると,引用例2は,「DNAREPLICATIONSECONDEDITION(DNA複製第2版)」という学術書であって,そこには,2本鎖の核酸の末端部分における現象であって,末端領域の塩基配列と,これに相補的な塩基配列の領域が内側に存在するという特殊な塩基配列を有する場合の現象として,平衡反応(呼吸)についての記載がある。しかしながら,引用例1にいうD-ループは,2本鎖を形成した核酸の中央部分に位置するものであり,かつ,上記平衡反応(呼吸)が生じている場合にみられるような特殊な塩基配列を有しているか否かは明らかではないばかりか,引用例1に記載の発明におけるヘアピン構造は,前記(3)イに説示のとおり,構成として自己完結しているものであって,引用例1には,DNAの増幅に当たって,引用例1に記載の発明に対して引用例2に記載の上記現象を適用させるに足りる示唆ないし動機付けが見当たらない。また,引用例1には,前記(1)エに記載のとおり て,引用例1には,DNAの増幅に当たって,引用例1に記載の発明に対して引用例2に記載の上記現象を適用させるに足りる示唆ないし動機付けが見当たらない。また,引用例1には,前記(1)エに記載のとおり,uvsXタンパク質の非存在下でもごく僅かながらDNA合成が起こった旨の記載があるものの,当該DNA合成の発生がごく僅かであることに加えて,引用例1には,当該DNA合成が発生した理由ないし作用機序については何ら触れるところがないから,単にごく僅かのDNAが発生したという現象を確認できるにとどまり,これをもって,引用例2に記載の技術を適用させるに足りる示唆ないし動 機付けがあると認めるには足りない。むしろ,引用例1は,もっぱらuvsXタンパク質の使用を前提としたDNA増幅反応について論じた学術論文であるから,当業者は,引用例1の上記記載に基づいて,uvsXタンパク質を使用せずに引用例1に記載の発明を実施することを動機付けられるものではない。 したがって,原告の上記主張は,いずれも採用できない。 イ原告は,本件発明1のポイントが,①ループの3′末端からの自己伸長反応と,②引用例1に記載のループにアニールしたプライマーの伸長反応の2つの構成要件の組合せであるが,①及び②が,いずれも周知技術であって,引用例1には,②が等温増幅反応のモデルになるという教示がある(前記(1)ウ)から,両者を組み合わせることが容易である旨を主張する。 しかしながら,前記(2)イに説示のとおり,引用例1に記載の発明は,既存の2本鎖DNAに相同な直鎖ssDNAがuvsXリコンビナーゼの組換え反応に依存して侵入するというものであって,相補鎖の置換を開始するための方法としては本件発明1における塩基対結合の相補性を利用したアニールとは全く異なる原理に基づくものであるから ンビナーゼの組換え反応に依存して侵入するというものであって,相補鎖の置換を開始するための方法としては本件発明1における塩基対結合の相補性を利用したアニールとは全く異なる原理に基づくものであるから,上記②にいうループにアニールしたプライマー(オリゴヌクレオチド)の伸長反応が記載されているとはいえない。 したがって,原告の上記主張は,前提を欠くものであって,採用できない。 (5) 小括よって,本件優先権主張日当時の当業者は,引用例1に記載の発明に基づき,本件発明1の相違点A及びBに係る構成を容易に想到することができなかったものというほかない。 また,本件発明2ないし11は,いずれも本件発明1を引用する発明であるところ,本件発明1は,前記(3)イ及びウに説示のとおり,引用例1に基づいて当業者が容易に想到することができなかったものであるから,本件発明2ないし11も,同じく容易に想到することができなかったものというべきである。 4 取消事由3(拡大先願に係る認定・判断の誤り)について (1) 先願明細書の記載について先願明細書(甲9の1)は,「核酸を増幅するため,核酸配列のための終結後標識プロセス,および減少した熱力学安定性を有する核酸を生成するための新規の方法」という名称の発明について記載された明細書及び図面であるが,そこには,別紙図1ないし3のほか,おおむね次の記載がある。なお,後記ウ(ア)の下線は,当裁判所が便宜上付したものである。 ア本発明は,組換え核酸技術の分野に関し,より詳細には,核酸増幅,核酸配列決定のための終結後標識及び減少した熱力学安定性を有する核酸の生成のためのプロセスに関する(【0001】)。 イ本発明の特定の局面において,新規のプライマー及び核酸構築物は,少なくとも,テンプレートに結合し得,そ 標識及び減少した熱力学安定性を有する核酸の生成のためのプロセスに関する(【0001】)。 イ本発明の特定の局面において,新規のプライマー及び核酸構築物は,少なくとも,テンプレートに結合し得,そして伸長のためにそれを使用し得る第1セグメント及び目的の標的の配列に実質的に同一であり,その結果,第1セグメントの伸長が伸長配列を有する第2セグメントの自己ハイブリダイゼーションによって形成される二次構造の形成を可能にする2つのセグメントを含む(【0094】)。本発明における新規のプライマー又は核酸構築物のテンプレート依存性伸長は,自己ハイブリダイゼーションによって形成されるステムループ構造及び新規のプライマー又は核酸構築物を含む配列に同一又は相補的でない伸長配列を有する産物を作製し得る(【0103】)。この産物は,図1に例示され,そこにおける二次構造の形成は,テンプレートからの,伸長した新規のプライマーの第1セグメントの全て又は一部の除去を提供し得る(【0104】【図1】)。 ウ実施例1:53℃及び63℃でのBstポリメラーゼによるPCR産物の等温増幅(ア) HBVプラスミドDNAのPCR増幅HBVマイクロタイタープレートアッセイからのHBVポジティブコントロールを,PCRによる増幅のための標的として使用した。製造業者によると,このDNAは,80pg/ulである。1ulのHBV標的,1×PE緩衝液,4mMのM gCl2,250umのdNTP,6単位のアンプリサーム及び10ピコモルのHBVオリゴプライマーFC及びRCからなる50ulのPCR反応を実施した。 FC配列=5′-CATAGCAGCAGGATGAAGAGGAATATGATAGGATGTGTCTGCGGCGTTT-3′RC配列=5′-TCCTCTAATTC PCR反応を実施した。 FC配列=5′-CATAGCAGCAGGATGAAGAGGAATATGATAGGATGTGTCTGCGGCGTTT-3′RC配列=5′-TCCTCTAATTCCAGGATCAACAACAACCAGAGGTTTTGCATGGTCCCGTA-3′(【0178】)この実施例において,FCプライマーの3′末端における29塩基及びRCプライマーの3′末端における30塩基は,テンプレートとしてHBV標的DNAを使用して伸長し得る第1セグメントである。FC及びRCプライマーの5′末端における30塩基は,テンプレートしてHBVDNAを使用して,プライマーの伸長によって合成された最初の30塩基に相補的な第2のセグメントである。HBV配列に基づいて予想されたPCR産物は,長さが211bpであるべきである。ステムループ構造は,それぞれ,第2のセグメント及びその相補体により与えられる30塩基のステム並びにFC及びRCの第1のセグメントにより与えられる29及び30塩基対のループを伴って,この生成物のそれぞれの末端において起こり得る(【0179】)。 (イ) PCR産物の分析増幅は,0.5ug/mlの臭化エチジウムの存在下で,0.5×TBE緩衝液を用いて流した4%Metaphorアガロースゲル中の10ulのサンプルのゲル電気泳動によってアッセイした。UV照射下で,3つのバンドが出現し,それらは,DNAサイズマーカーによる判定で,長さがおよそ210,180及び170bpであった。210bpに対応するバンドは,予想された線状PCR産物であり,そしておそらく他の2つのバンドは,同じサイズのアンプリコンに対応しており,ここで,二次構造が一方又は両方のいずれかの末端上で形成され,それによってそれらの効果的な移動度が変化 状PCR産物であり,そしておそらく他の2つのバンドは,同じサイズのアンプリコンに対応しており,ここで,二次構造が一方又は両方のいずれかの末端上で形成され,それによってそれらの効果的な移動度が変化している(【0180】)。 (ウ) PCR産物の等温増幅 前記のPCR産物の種々の希釈物5ulは,1×ThermoPol緩衝液,200uMのdNTP,20ピコモルの正方向及び逆方向プライマー,8単位のBstポリメラーゼからなる100ulの反応混合物中で使用された。正方向プライマーは,FC又はLFCのどちらかであり,逆方向プライマーは,RC又はLRCのどちらかであった。FC及びRCプライマーの配列は,前記のとおりであり,LFC及びLRCプライマーは,FC及びRCプライマーだけの第1のセグメントに対応する次のような配列を有している。 LFC=5′-GGATGTGTCTGCGGCGTTT-3′LRC=5′-AGGTTTTGCATGGTCCCGTA-3′(【0181】)(エ) インキュベーションは,30分,180分又は終夜のインキュベーションであった。反応温度は,53℃又は63℃のどちらかであった。30分反応したものは,2%アガロースゲルを用いてゲル電気泳動で分析し,180分反応したものは,4%Metaphorアガロースを用いて分析した(【0182】)。 (オ) 「この分析結果を図17に示す。30分インキュベーションの後に取り出したサンプルの最初の組の中で,PCR産物の10-2希釈物だけが53℃でいくらかの合成を示すが,63℃からの反応物は,10-2,10-3および10-4希釈物で合成を示している。これらのデータは,合成量は加えた標的DNAの量に依存するということを示している。180分の合成の後に取り出されたサンプルの組では, 物は,10-2,10-3および10-4希釈物で合成を示している。これらのデータは,合成量は加えた標的DNAの量に依存するということを示している。180分の合成の後に取り出されたサンプルの組では,実質的により多くの合成が行われている。これらの反応の生成物は,分離したパターンを形成する一連のバンドである。これは,通常PCRでみられる単一の分離したバンド,またはPCR増幅の後でLCおよびRCプライマーを用いて以前にみられた2つもしくは3つのバンドと対照をなしている。この複数のバンドは,おそらく,アンプリコンをプライマーおよびテンプレートとして機能させる二次構造の存在に起因し得るか,またはストランドスイッチングの徴候であり得る。53℃で3時間インキュベーションした後,標的が少しもないようなコントロールでさえ, 実質的な合成の証拠を示している。しかし,標的テンプレートを有するすべての53℃の反応物にみられる,単一の標的依存性パターンが存在し,そして標的なしのコントロールに存在するパターンは実質的に異なることが留意され得る。これはおそらく標的が合成を開始した経路が異なっていることに起因する。63℃でインキュベーションしたものは,全てのテンプレート希釈物で実質的な合成を示し,そして同じパターンが53℃の反応によって生成されることを証明する。しかし,本実施例においては,63℃では,標的非依存性増幅の証拠はない。10-5の希釈でさえ実質的な量の合成があるということは,この系が実質的な増幅をし得ることを示している。終夜のインキュベーションもまたゲルによって分析され,そして3時間インキュベーションと同じパターンおよび同じ量を示した(データ表示なし)。」(【0183】)エ図1は,新規のプライマーによる直線的増幅を示す模式図である。図2は,新規 て分析され,そして3時間インキュベーションと同じパターンおよび同じ量を示した(データ表示なし)。」(【0183】)エ図1は,新規のプライマーによる直線的増幅を示す模式図である。図2は,新規のプライマー及び標準的なプライマーによる非直線的増幅を示す模式図である。 図3は,一対の新規のプライマーによる非直線的増幅を例示する模式図である。図17は,PCRによって作製される標的の等温増幅のゲルアッセイを示す電気泳動写真である。 (2) 「二次構造」の意義について先願明細書にいう「二次構造」とは,前記(1)イ及び図1の記載によれば,ステムループ構造と同義であり,図1③ないし⑤,図2①及び③ないし⑤並びに図3①,③及び④において,領域C-B′-C′,領域C-B-C′,領域E-F′-E′及び領域E-F-E′により形成されるループ部分を意味するものと認められる。 (3) 等温増幅に使用されたFCプライマー及びRCプライマーの構成について先願明細書【0179】(前記(1)ウ(ア))に記載のFCプライマー及びRCプライマーの塩基配列は,いずれも同【0178】(前記(1)ウ(ア))に記載されており,それによれば,これらの塩基数は,FCプライマーが49塩基であり,RCプライマーが50塩基であると認められる一方,同【0179】には,FCプライマーの 第1セグメントが29塩基で,第2セグメントが30塩基である旨及びRCプライマーの第1セグメントが30塩基で,第2セグメントが30塩基である旨が記載されており,両者の塩基数の記載は,一致していない。むしろ,先願明細書【0181】(前記(1)ウ(ウ))には,FCプライマー及びRCプライマーの第1セグメントに対応する配列として,塩基数が19のLFCプライマー及び塩基数が20のLRCプライマーの塩基配列 先願明細書【0181】(前記(1)ウ(ウ))には,FCプライマー及びRCプライマーの第1セグメントに対応する配列として,塩基数が19のLFCプライマー及び塩基数が20のLRCプライマーの塩基配列が記載されていることに照らすと,FCプライマーの第1セグメントの塩基数は19であり,RCプライマーの第1セグメントの塩基数は20であると認められる。したがって,前記(1)ウ(ア)の下線部分のうち,「29」は「19」の,「30」は「20」の誤記であり,PCR産物の等温増幅に使用されたFCプライマーは,3′末端側の19塩基対(第1セグメント)及びこれに連続する30塩基対(第2セグメント)からなる一方,RCプライマーは,3′末端側の20塩基対(第1セグメント)及びこれに連続する30塩基対(第2セグメント)からなるものと認められる。 また,ここで,第1セグメントは,前記(1)ウ(ア)(【0179】)に記載のとおり,テンプレート(鋳型)としてHBV標的DNA(HBVプラスミドDNA)を使用して伸長し得るものとして設計されているから,これと相補的な塩基配列と塩基対結合(アニール)を生じた場合,DNAポリメラーゼが触媒となって,FCプライマー及びRCプライマーは,いずれも第1セグメントに隣接する3′末端を合成起点として相補鎖合成反応を開始することになる。他方,第2セグメントは,前記(1)ウ(ア)(【0179】)に記載のとおり,FCプライマー又はRCプライマーの上記相補鎖合成反応によって合成された最初の30塩基に相補的に設計されているから,第1セグメント及び第2セグメントは,第2セグメント及びその相補体により与えられる30塩基対のステム並びに第1セグメント(FCプライマーの場合19塩基,RCプライマーの場合20塩基)からなるループを発生させ,これにより生成 メントは,第2セグメント及びその相補体により与えられる30塩基対のステム並びに第1セグメント(FCプライマーの場合19塩基,RCプライマーの場合20塩基)からなるループを発生させ,これにより生成物に1個のステムループ構造(二次構造)を生じさせることになる旨が記載されているといえる。 さらに,上記FCプライマーは,前記(1)ウ(ウ)(【0181】)に記載のとおり,正方向プライマーであるから,その「第1セグメント」は,図1①の太い矢印に記載された領域B′に対応する一方,上記RCプライマーは,前記(1)ウ(ウ)(【0181】)に記載のとおり,逆方向プライマーであるから,その「第1セグメント」は,図3①の下側の矢印に記載された領域Fに対応するものと認められる。また,これらのプライマーの各「第2セグメント」は,同じく領域C(FCプライマー)及びE′(RCプライマー)にそれぞれ対応するものであり,これらのプライマーの3′末端の相補鎖合成反応により生成するステムループ構造は,例えば,図1③の領域C-B′-C′(FCプライマー)及び図3④の領域E-F-E′(RCプライマー)により形成されるループ部分に対応するものと認められる。 (4) 先願明細書に記載の増幅反応についてア先願明細書の記載について先願明細書には,前記(1)ウ(ウ)及び(エ)(【0181】【0182】)に記載のとおり,HBVプラスミドDNAの211bpのPCR産物を,直前のPCRで使用したFCプライマー及びRCプライマーと同じプライマー及びBstポリメラーゼを使用して,53℃及び63℃で30分,180分又は終夜のインキュベーションを実施した旨の記載があるが,このインキュベーションについて「PCR産物の等温増幅」という標題が付されているから,当業者は,先願明細書から,当 及び63℃で30分,180分又は終夜のインキュベーションを実施した旨の記載があるが,このインキュベーションについて「PCR産物の等温増幅」という標題が付されているから,当業者は,先願明細書から,当該インキュベーションにより当該PCR産物を鋳型とする等温増幅が行われた旨を記載していることを読み取ることができる。 次に,上記インキュベーションによる等温増幅の結果について,先願明細書には,「これらの反応の生成物は,分離したパターンを形成する一連のバンドである。これは,通常PCRでみられる単一の分離したバンド,またはPCR増幅の後でLC及びRCプライマーを用いて以前にみられた2つもしくは3つのバンドと対照をなしている。」との記載がある(前記(1)ウ(オ)。【0183】)ところ,「PCR産物の等温増幅」という標題の実験の結果が,それまでにみられた「バンドと対照をな している。」と記載されていることに照らすと,当業者は,上記記載部分から,PCR産物の等温増幅により,これに先立つPCR増幅(前記(1)ウ(ア)。【0178】【0179】)及びこれによる産物の分析結果(前記(1)ウ(イ)。【0180】)とは異なる独自の等温増幅反応が生じていることを読み取ることができるものといえる。 そして,上記独自の等温増幅反応が発生した理由について,先願明細書には,「この複数のバンドは,おそらく,アンプリコンをプライマーおよびテンプレートとして機能させる二次構造の存在に起因し得る」との記載がある(前記(1)ウ(オ)。 【0183】)ところ,ここにいう「アンプリコン」とは,PCR産物にほかならず,「二次構造」とは,前記(2)に説示のとおり,ステムループ構造を意味するものであるから,ここにいう「二次構造」(ステムループ構造)を有する「アンプリコン」(PCR産物 とは,PCR産物にほかならず,「二次構造」とは,前記(2)に説示のとおり,ステムループ構造を意味するものであるから,ここにいう「二次構造」(ステムループ構造)を有する「アンプリコン」(PCR産物)とは,前記(1)ウ(イ)(【0180】)の記載に図1ないし3を参照すると,PCR産物である①210bpに対応するバンドで示される線状産物,②180bpに対応するバンドで示される,一方の末端上で二次構造(ステムループ構造)が形成された産物,③170bpに対応するバンドで示される両方の末端上で二次構造(ステムループ構造)が形成された産物(図3④。ダンベル型中間体)のうち,②及び③(ダンベル型中間体)を意味するものといえる。したがって,これらのPCR産物のうちダンベル型中間体に着目すると,上記記載部分は,「ダンベル型中間体をプライマー及びテンプレート(鋳型)として機能させるステムループ構造の存在」,すなわちステムループ構造が存在することによって,PCR産物であるダンベル型中間体それ自体が,相補鎖合成により核酸を合成するプライマーであると同時にその鋳型になるという増幅反応を発生させており,これが,上記独自の等温増幅反応の理由であると説明しているものと理解することができる。 イ先願明細書の記載から理解される増幅反応の作用機序について先願明細書に記載の等温増幅反応の鋳型とされたPCR産物には,前記アに説示のとおり,両方の末端上で二次構造(ステムループ構造)が形成された産物(図3 ④。ダンベル型中間体)が含まれている。 他方,上記等温増幅の際に使用されたFCプライマー及びRCプライマーは,前記(3)に説示のとおり,第1セグメント(領域B′又はF)が鋳型の相補的な塩基配列(領域B又はF′)と塩基対結合(アニール)を発生させ,第2セグメント(領 れたFCプライマー及びRCプライマーは,前記(3)に説示のとおり,第1セグメント(領域B′又はF)が鋳型の相補的な塩基配列(領域B又はF′)と塩基対結合(アニール)を発生させ,第2セグメント(領域C又はE′)が3′末端の相補鎖合成反応によって合成された最初の30塩基(領域C′又はE)に相補的になるように設計されているものである。 さらに,Bstポリメラーゼが鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼであることや,DNAポリメラーゼの機能によって,部分的に2本鎖となった鋳型核酸の3′末端が鋳型核酸の1本鎖となっている部分に対して相補鎖合成を行うということは,前記1(1)セ及び2(1)イに説示のとおり,いずれも本件出願日当時,当業者の技術常識であったものと認められるが,同時に,本件優先権主張日当時においても,当業者の技術常識であったものと認められる。 したがって,鋳型となる核酸としてダンベル型中間体に着目した場合,先願明細書の「アンプリコンをプライマーおよびテンプレートとして機能させる二次構造の存在に起因し得る」との前記記載,すなわちステムループ構造が存在することによって,PCR産物であるダンベル型中間体それ自体が,相補鎖合成により核酸を合成するプライマーであると同時にその鋳型になるという増幅反応を発生させており,これが,上記独自の等温増幅反応の理由であるとの記載部分について,当業者は,上記技術常識及び先願明細書の記載から,次の増幅反応が発生していることを読み取ることが可能であるというべきである。 (ア) Bstポリメラーゼは,鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼであるから,鋳型であるダンベル型中間体を構成する鎖の各3′末端(例えば,図3④の下側の鎖の領域C′)を合成起点として,ダンベル型中間体を構成する2 換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼであるから,鋳型であるダンベル型中間体を構成する鎖の各3′末端(例えば,図3④の下側の鎖の領域C′)を合成起点として,ダンベル型中間体を構成する2本の鎖の塩基対結合部分を置換しながら相補鎖合成を行うことになる。 (イ) 次に,FCプライマー及びRCプライマーは,いずれも鋳型と塩基対結合(アニール)を発生させる第1セグメントを備えているところ,ダンベル型中間体 の下側の鎖を鋳型とする場合を例にとると,FCプライマーの第1セグメント(領域B′)は,鋳型となる鎖のうち,塩基対結合を生じていないループ部分(図3④の下側の鎖の領域B)と塩基対結合(アニール)を発生させる。そして,前記のとおり,Bstポリメラーゼは,鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するから,FCプライマーの3′末端は,ダンベル型中間体のステム部分及びそれに引き続く塩基対結合を置換しながら相補鎖合成を開始する。 (ウ) ダンベル型中間体の下側の鎖の3′末端は,塩基対結合の置換により相補鎖を合成して当該鎖の5′側末端まで到達するが,次いで,FCプライマーの3′末端は,当該相補鎖を5′末端に至るまで置換して相補鎖合成を行うから,ダンベル型中間体の下側の鎖の3′末端が合成してきた塩基配列は,1本鎖となり,その結果,当該鎖は,3′末端に引き続く部分に新たなステムループ構造(3′末端側から,領域E-F′-E′となる。)を形成した上で,再び自らを鋳型として3′末端から塩基対結合の置換による相補鎖合成を開始する。他方,RCプライマーは,上記新たなステムループ構造のループ部分(領域F′)に対してアニールできる領域(領域F)を第1セグメントに備えているから,当該ループ部分に塩基対結合(アニール)を発生させ,先にFCプライマーが行ったのと同じ塩基 テムループ構造のループ部分(領域F′)に対してアニールできる領域(領域F)を第1セグメントに備えているから,当該ループ部分に塩基対結合(アニール)を発生させ,先にFCプライマーが行ったのと同じ塩基対結合の置換による相補鎖合成を行うことになる。こうして,ダンベル型中間体は,そのうち1本の鎖の3′末端が,Bstポリメラーゼの触媒により塩基対結合の置換による相補鎖合成を行うことに加えて,FCプライマー及びRCプライマーが相次いでアニールを繰り返すことで,それ自身がプライマーであると同時にテンプレート(鋳型)である増幅反応を繰り返す結果,1本鎖上に鋳型核酸の塩基配列が交互に連結された核酸が得られることになる。 (5) 先願明細書に記載の発明について以上のとおり,先願明細書には,PCR増幅に引き続くインキュベーションにより「等温増幅」が発生した旨が記載されており,それが先行するPCR増幅とは異なる独自の増幅反応であって,その理由について「おそらく,アンプリコンをプラ イマーおよびテンプレートとして機能させる二次構造の存在に起因し得る」との記載があるが,当該記載は,ステムループ構造が存在することによって,PCR産物(ダンベル型中間体を含む。)それ自体が,FCプライマー及びRCプライマーと相俟って,塩基対結合の置換による相補鎖合成を繰り返し,核酸を合成するプライマーであると同時にその鋳型になるという増幅反応を発生させているとの趣旨に理解することができる。そして,ここでみられる塩基対結合の置換による相補鎖合成反応は,3′末端からの自己伸長反応と呼んで差し支えない。 このように,当業者は,先願明細書の記載及び本件優先権主張日当時の技術常識に基づき,上記増幅反応の作用機序を,前記(4)イに説示したものとして理解することが可能であったものと認 んで差し支えない。 このように,当業者は,先願明細書の記載及び本件優先権主張日当時の技術常識に基づき,上記増幅反応の作用機序を,前記(4)イに説示したものとして理解することが可能であったものと認められるから,先願明細書には,次の発明が記載されているものと認められる。 先願発明:3′末端側から領域B′-Cという構造を有するFCプライマー,3′末端側から領域F-E′という構造を有するRCプライマー及びBstポリメラーゼを使用する等温増幅反応であって,工程1:両方の末端にステムループ構造を有する核酸であって,3′末端側から順に領域C′-B-C-D-E-F-E′を有する核酸(ダンベル型中間体の下側の鎖)を鋳型として,工程2:その3′末端からの自己伸長反応により,塩基対結合を可能とする領域Bを備えるループを有し,その余の部分が互いに相補的な配列で塩基対結合した核酸を得,工程3:このループにFCプライマーをアニールさせ,自己伸長反応を行うと同時に,上記工程2の自己伸長反応によって合成された相補的な塩基配列を置換し,その結果,上記工程2の自己伸長反応によって合成された鎖の3′末端に,塩基対結合を可能とする領域F′を備える新たなステムループ構造が形成され,工程4:上記工程3で新たに形成された3′末端のステムループ構造からの自己伸長反応により,塩基対結合を可能とする領域F′を備えるループを有し,その余 の部分が互いに相補的な配列で塩基対結合した核酸を得ると同時に,上記工程3のFCプライマーの自己伸長反応により合成された相補的な塩基配列を置換し,3′末端から順に,領域E-F′-E′-D′-C′-B′-Cである核酸を得,工程5:上記工程4の塩基対結合を可能とする領域F′を備えるループを有する核酸に,RCプライマーをアニールさせ,伸 換し,3′末端から順に,領域E-F′-E′-D′-C′-B′-Cである核酸を得,工程5:上記工程4の塩基対結合を可能とする領域F′を備えるループを有する核酸に,RCプライマーをアニールさせ,伸長反応を行うと同時に,上記工程4の自己伸長反応によって合成された相補的な塩基配列を置換し,その結果,上記工程4の自己伸長反応によって合成された鎖の3′末端に,塩基対結合を可能とする領域Fを備える新たなステムループ構造が形成され,工程6:これら一連の,ステムループ構造の3′末端からの自己伸長反応と,その際に形成されるループへのプライマー結合に伴う自己伸長反応を繰り返すことによって,鋳型の領域Dとその相補的配列を有する領域D′が交互に1本鎖の核酸上に延伸する方法(6) 本件発明1と先願発明との対比についてア本件発明1及び先願発明の目的物及び材料について(ア) 本件発明1及び先願発明の方法発明における目的物は,いずれも鋳型の有する領域と当該領域に相補的な配列を有する領域が交互に1本鎖の核酸上に延伸した核酸である点で一致する。なお,本件発明1では,この目的物が得られることをもって,核酸の増幅方法と表現しているが,両者の方法発明における目的物は相違しないから,本件発明1が「増幅」という表現を使用しているからといって,本件発明1における目的物と先願発明における目的物とが相違するということにはならない。 (イ) 次に,本件発明1の酵素は,「鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼ」であるが,前記1(1)セに記載のとおり,当該DNAポリメラーゼは,Bstポリメラーゼを含む一方,先願発明の酵素は,Bstポリメラーゼであるから,両者の酵素は,一致する。 (ウ) また,本件発明1の鋳型核酸は,「3′末端と5′末端において,それぞ れ末端 stポリメラーゼを含む一方,先願発明の酵素は,Bstポリメラーゼであるから,両者の酵素は,一致する。 (ウ) また,本件発明1の鋳型核酸は,「3′末端と5′末端において,それぞ れ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え,この互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型」であるが,これは,先願発明の3′末端側から順に領域C′-B-C-D-E-F-E′を有する両末端にステムループ構造を有する核酸と一致する。 (エ) さらに,本件発明1のプライマーは,「前記ループのうち3′末端側に位置するループ内に相補的な塩基配列を3′末端に含むオリゴヌクレオチド」であるが,本件発明1の鋳型が3′末端側から順に領域C′-B-C-D-E-F-E′を有する核酸であった場合,「前記ループのうち3′末端側に位置するループ内に相補的な塩基配列」は,領域B′となるので,先願発明のFCプライマーは,本件発明1のプライマーと一致する。また,前記(5)で説示したように,上記鋳型からの反応が進行すると,「前記ループのうち3′末端側に位置するループ内に相補的な塩基配列」は,領域Fとなるので,先願発明のRCプライマーは,本件発明1のプライマーと一致する。 (オ) 以上のとおり,本件発明1と先願発明とでは,その目的物及び材料の点で一致している。 イ本件発明1及び先願発明の工程について(ア) 本件発明1の工程A)は,鋳型を提供する工程であるところ,本件発明1と先願発明とでは,前記ア(ウ)に説示のとおり,最初の鋳型となる核酸が一致している。 (イ) 本件発明1の工程B)は,工程A)で与えられた鋳型核酸の3′末端からの自己伸長反応であり,この工程は,先願発明の工程2と一致する。 (ウ) 本件発明1の工程 型となる核酸が一致している。 (イ) 本件発明1の工程B)は,工程A)で与えられた鋳型核酸の3′末端からの自己伸長反応であり,この工程は,先願発明の工程2と一致する。 (ウ) 本件発明1の工程C)は,鋳型核酸の3′末端側のループにオリゴヌクレオチド(プライマー)がアニールし,その3′末端を合成起点として鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼにより相補鎖合成を行うものであり,その際,工程B)で合成された相補鎖を置換しながら相補鎖合成が進行し,その結果,工程B)で合成された相補鎖の3′末端が塩基対結合可能な状態となるという工程であ るところ,本件発明1と先願発明とでは,前記ア(イ)及び(エ)に説示のとおり,使用するポリメラーゼ及びプライマーが一致するほか,本件発明1の工程C)のうち,プライマーのアニールと鎖置換型の相補鎖合成及び工程B)で合成された相補鎖の3′末端を塩基対結合可能な状態とする点は,いずれも先願発明の工程3と一致する。 (エ) 本件発明1の工程D)は,工程B)で合成された相補鎖を新たな鋳型とすることを規定するものである。他方,先願発明の工程4では,同じく工程2の自己伸長反応により合成された核酸にRCプライマーがアニールし,一連の反応が進行するものであって,当該工程2は,前記(イ)に説示のとおり,本件発明1の工程B)と一致するから,先願発明においても,工程2の自己伸長反応により合成された核酸を新たな鋳型として一連の反応が進行しているということができる。したがって,本件発明1の工程D)は,先願発明の工程4と一致する。 (オ) 以上のとおり,本件発明1が特許請求の範囲に特定して記載した各工程は,先願発明における各工程と一致する。 ウしたがって,本件発明1は,先願発明と同一の発明であるといえる。 (7) 被告の (オ) 以上のとおり,本件発明1が特許請求の範囲に特定して記載した各工程は,先願発明における各工程と一致する。 ウしたがって,本件発明1は,先願発明と同一の発明であるといえる。 (7) 被告の主張についてア被告は,先願明細書に記載の発明が,ダンベル型中間体を得ることを目的とするものであって,現に,複数のバンドがどのような産物に相当するのかについての分析がされていない旨を主張する。 しかしながら,前記(4)アに説示のとおり,先願明細書に記載のPCR産物にはダンベル型中間体が含まれるところ,先願明細書には,「通常PCRでみられる単一の分離したバンド,またはPCR増幅の後でLCおよびRCプライマーを用いて以前にみられた2つもしくは3つのバンドと対照をなしている。」との記載があり(前記(1)ウ(オ)。【0183】),当業者は,当該記載から,PCR産物の等温増幅により,これに先立つPCR増幅及びこれによる産物の分析結果とは異なる独自の等温増幅反応が生じていることを読み取ることができるから,先願明細書に記載の 発明がダンベル型中間体を得ることを目的とするとはいえず,また,先願明細書には,複数のバンドがPCR増幅の結果とは異なるものであることが明記されているといえる。 したがって,被告の上記主張は,採用できない。 イ被告は,先願明細書の図17A及びBでは,使用されているゲルの条件が異なるから反応時間の経過から自己伸長反応を読み取ることができないし,先願明細書が分子量の大きな産物を想定していない旨を主張する。 しかしながら,先願明細書に記載の等温増幅によって鋳型の領域Dとその相補的配列を有する領域D′が交互に1本鎖の核酸上に延伸された様々な分子量を有する核酸が得られていると理解できることは,等温増幅の時間が経過することにより分 記載の等温増幅によって鋳型の領域Dとその相補的配列を有する領域D′が交互に1本鎖の核酸上に延伸された様々な分子量を有する核酸が得られていると理解できることは,等温増幅の時間が経過することにより分子量の大きな産物が得られたことを根拠とするものではないから,時間の経過により分子量の大きな産物が生じたことが確認できないからといって,自己伸長反応が読み取れないということにはならない。また,電気泳動の条件から,先願明細書の作成者が分子量の大きな産物を想定していなかったということはできるとしても,そのことは,当業者が先願明細書の記載から先願発明を読み取ることの妨げになるものではない。 したがって,被告の上記主張は,採用できない。 ウ被告は,先願明細書の図17A及びBが不鮮明であり,いずれのバンドがダンベル型中間体に対応するものであるのかについての記載がなく,また,180分後の産物についてのゲルによる分析では標的が存在しないコントロールにおいても増幅する産物が含まれることが示されている旨を主張する。 そこで検討すると,先願明細書の図17A及びBは,確かに不鮮明であるが,先願明細書には,前記(1)ウ(オ)(【0183】)に記載のとおり,「これらの反応の生成物は,分離したパターンを形成する一連のバンドである。」との記載があるから,先願明細書の作成者は,図17A及びBから「分離したパターンを形成する一連のバンド」を読み取ったものと理解することができる。加えて,先願明細書にはそれ に引き続いて,「この複数のバンドは,おそらく,アンプリコンをプライマーおよびテンプレートとして機能させる二次構造の存在に起因し得る」との記載があり,先願明細書の作成者が,当該一連のバンドが形成された理由について説明しているのであるから,当業者は,これらの記載から,先 よびテンプレートとして機能させる二次構造の存在に起因し得る」との記載があり,先願明細書の作成者が,当該一連のバンドが形成された理由について説明しているのであるから,当業者は,これらの記載から,先願明細書に記載の等温増幅の作用機序を読み取ることができるというべきであって,このことは,図17A及びBが不鮮明であり,先願明細書がバンドの同定をしておらず,また,53℃で180分間反応させた系で標的が存在しないコントロールで増幅産物が確認されたからといって,左右されるものではない。 したがって,被告の上記主張は,採用できない。 エ被告は,先願明細書にはそこに記載の等温増幅が自己伸長反応とは記載されておらず,当該等温増幅の理由が抽象的な推測や可能性として記載されているにすぎないから,そこから自己伸長反応を含む増幅方法に係る発明を認定できない旨を主張する。 しかしながら,先願明細書では,「自己伸長反応」という用語が使用されていないものの,「アンプリコンをプライマーおよびテンプレートとして機能させる」という記載が存在し,これが自己伸長反応を含む増幅反応を意味するものとして理解可能であることは,前記(4)に説示のとおりである。また,先願明細書には,「おそらく…起因し得る」という確定的ではない表現が使用されているものの,先願明細書に記載の等温増幅で生じている反応がステムループ構造に起因する自己伸長反応である旨を説明したものと理解することそれ自体には,誤りを見いだせない。 したがって,被告の上記主張は,採用できない。 (8) 小括ア以上のとおり,平成10年11月9日が優先権主張日であり,平成12年5月18日に出願公開された本件発明1は,平成10年6月24日が優先権主張日であり,平成12年2月8日に出願公開された特願平11-179056号の願書 10年11月9日が優先権主張日であり,平成12年5月18日に出願公開された本件発明1は,平成10年6月24日が優先権主張日であり,平成12年2月8日に出願公開された特願平11-179056号の願書に最初に添付された明細書及び図面である先願明細書(甲9の1)に記載された先願 発明と同一の発明である。そして,本件発明と先願発明の発明をした者は,同一ではなく,また,本件発明と先願発明の出願人も,同一ではないから,本件発明1は,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができないものであるというべきである。 よって,これと判断を異にする本件審決のうち本件発明1に係る部分は,拡大先願に係る認定・判断を誤るものであって,取消しを免れない。 イまた,本件発明2ないし11は,いずれも,本件発明1の構成を特定し,あるいは本件発明1に他の構成を付加したものであるところ,本件審決は,本件発明1が先願明細書に記載の発明とは同一ではないとの認定・判断を前提として,本件発明2ないし11が先願明細書に記載の発明とは同一ではないとしている。 しかしながら,本件審決による本件発明1についての拡大先願に係る認定・判断が上記のとおり誤りである以上,本件発明2ないし11に係る部分についての上記認定・判断も,誤りであるというべきであって,本件審決のうち当該部分も,取消しを免れない。 5 結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由3には理由があるから,本件審決は,その全部が取り消されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官土肥章大 裁判官井上泰人 裁判官荒井章光 別紙 1 図1 肥章大 裁判官井上泰人 裁判官荒井章光 別紙 1図1 2図2 3図3
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