平成30年10月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成29年(ワ)第22041号差止等請求事件口頭弁論終結日平成30年8月29日判決原告株式会社ダイヤコーポレーション 同訴訟代理人弁護士岡﨑紳吾同補佐人弁理士白﨑真二同阿部綽勝同勝木俊晴被告株式会社ワイズ 同訴訟代理人弁護士山田基司同訴訟代理人弁理士二瓶正敬 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告製品目録記載の被告製品1ないし16を製造し,販売し,販売のために展示をしてはならない。 2 被告は,前項の被告製品及びその半製品(同目録記載の構造を具備している が,製品として完成するに至らないもの)を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,3398万7869円及びこれに対する平成29年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 5 仮執行宣言 第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「洗濯用ネット」とする特許第3523141号(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が,被告において業として別紙被告製品目録1~16記載の洗濯ネット(以下,目録番号順に「被告製品1」などといい,これらを「被告製品」と総称する。)を製造等する行為は本件特許権を侵害すると主張して,特許法10 0条1項及び2項に基づき,被告 6記載の洗濯ネット(以下,目録番号順に「被告製品1」などといい,これらを「被告製品」と総称する。)を製造等する行為は本件特許権を侵害すると主張して,特許法10 0条1項及び2項に基づき,被告製品1ないし16の製造,販売等の差止め,被告製品の完成品及び半製品の廃棄を求めるとともに,民法709条に基づき,損害賠償金3398万7869円及びこれに対する不法行為の後の日である平成29年8月4日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中に掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)(1) 当事者ア原告は,家庭用品等の製造販売を営む株式会社である。 イ被告は,生活用品の製造販売を営む株式会社である。 (2) 原告の特許権原告は,以下の本件特許権を有している。 登録番号第3523141号発明の名称 「洗濯用ネット」 出願日平成12年3月14日登録日平成16年2月20日(3) 特許請求の範囲の記載本件特許に係る特許請求の範囲請求項1(以下,単に「請求項1」という。)の記載は以下のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」と いい,本件特許出願の願書に添付した明細書を図面も含めて「本件明細書」 (甲2)という。なお,下線部は,平成15年9月11日付け手続補正(乙6)により付加された構成である。)。 【請求項1】「ネット状袋体に務歯よりなる開口部とスライダと引き手とを備えたスライダファスナーにより開閉自在な洗濯用ネットであっ 1日付け手続補正(乙6)により付加された構成である。)。 【請求項1】「ネット状袋体に務歯よりなる開口部とスライダと引き手とを備えたスライダファスナーにより開閉自在な洗濯用ネットであって,引き手にはそれ より大きく摘みやすい逆台形状のリング形状を有し,かつ合成樹脂又はゴム材で形成された拡大把持体を設け,開口部の閉口端には,閉口された状態において,スライダと引き手と拡大把持体とで構成されるスライダ構成体を10~50%露出させ,かつ少なくともスライダの肩部が露出し,拡大把持体が収まった状態になるように弾圧的に覆うカバー体を設け,拡大 把持体が基部を備え,該基部がスライドファイスナーの引き手を内挿して該引き手に設けられた切抜き穴及び頭部に不可逆的に係止するための係止爪及び止め部を備えたことを特徴とする洗濯用ネット」(4) 構成要件の分説本件発明の構成要件は,以下のとおり分説できる。 A ネット状袋体に務歯よりなる開口部とスライダと引き手とを備えたスライダファスナーにより開閉自在な洗濯用ネットであって,B 引き手にはそれより大きく摘みやすい逆台形状のリング形状を有し,かつ合成樹脂又はゴム材で形成された拡大把持体を設け,C 開口部の閉口端には,閉口された状態において,スライダと引き手と拡 大把持体とで構成されるスライダ構成体を10~50%露出させ,D かつ少なくともスライダの肩部が露出し,E 拡大把持体が収まった状態になるように弾圧的に覆うカバー体を設け,F 拡大把持体が基部を備え,該基部がスライドファスナーの引き手を内挿して該引き手に設けられた切抜き穴及び頭部に不可逆的に係止するための 係止爪及び止め部を備えた G ことを特徴とする洗濯用ネット。 (5) 被 スライドファスナーの引き手を内挿して該引き手に設けられた切抜き穴及び頭部に不可逆的に係止するための 係止爪及び止め部を備えた G ことを特徴とする洗濯用ネット。 (5) 被告製品1~16についての具体的な構成に関する原告の主張は別紙被告製品説明書記載のとおりであり,被告製品1~16についての具体的な構成は別紙被告製品説明書図3のとおりである。被告が製造販売していた被告製品1~16は,本件特許に関わる構成部分(洗濯ネットの開口部分やスライ ドファスナーなど)については,いずれも共通している。なお,被告は,平成29年3月頃,被告製品の仕様を変更し,合成樹脂の把持体を布製リボン(紐)に変更した(乙8)。 3 争点(1) 構成要件充足性 ア構成要件Bの充足性(争点1-1)イ構成要件Cの充足性(争点1-2)ウ構成要件Dの充足性(争点1-3)エ構成要件Eの充足性(争点1-4)(2) 無効理由の有無 ア乙9を主引用例とする進歩性欠如の有無(争点2-1)イ明確性要件違反の有無(争点2-2)(3) 差止め等の必要性(争点3)(4) 損害額(争点4)第3 当事者の主張 1 構成要件充足性(1) 構成要件Bの充足性(争点1-1)〔原告の主張〕被告製品の把持体外側の外郭部分全体の形状(下記〔被告の主張〕に掲げられた被告製品の写真のうち赤線で囲われた部分)は「逆台形状」であるか ら,構成要件Bを充足する。 「逆台形状」の「状」とは,「…のような形である」の意味であるから,本件発明の「逆台形状」とは,必ずしも正確な「逆台形」に限られない。被告製品の把持体は,中央からやや後方に偏った位置に孔を有するリング形状であり, 状」とは,「…のような形である」の意味であるから,本件発明の「逆台形状」とは,必ずしも正確な「逆台形」に限られない。被告製品の把持体は,中央からやや後方に偏った位置に孔を有するリング形状であり,引き手の取り付け部分の幅よりも後方部分の幅が大きく,その周辺のカーブの度合いが大きいのであるから,「逆台形状」である。 〔被告の主張〕被告製品の把持体は「逆台形状」ではないので,構成要件Bを充足しない。 広辞苑等によれば「台形」とは「一組の対辺が平行な四角形」を意味するところ,本件明細書には「逆台形状」の意義に関する記載は存在しないものの,同明細書の【図2】には,上底の長さが下底の長さより短い台形が例示 されている。これによれば,本件発明における逆台形状とは,引き手に対する取り付け部分側を短辺,先端側を長辺とする台形状を意味すると解される。他方,被告製品の把持体は,略楕 円形状であり,その全体形状を見てもリング形状部分を見ても「逆台形状」ではない。 (2) 構成要件Cの充足性(争点1-2)〔原告の主張〕被告製品は,スライダーが10~50%露出しているので,構成要件Cを充足する。 被告製品1においては,務歯がファスナーカバーの端より約5mm延出被告製品の把持体本件明細書の【図2】 して設けられているから,開口部が閉口された状態で,必然的にスライダーはファスナーカバーから露出する。そして,被告製品1の実測値(別紙被告製品説明書の図1が不明確であるので再度実測したもの。下記の被告製品1の実測値の写真参照。)によれば,被告製品1のファスナーカバーの長手方向の全長は約25mmであり,露出部分が約3.5mmであるか 明書の図1が不明確であるので再度実測したもの。下記の被告製品1の実測値の写真参照。)によれば,被告製品1のファスナーカバーの長手方向の全長は約25mmであり,露出部分が約3.5mmであるか ら,被告製品のスライダーは約14%(3.5/25×100=0.14)露出している。 このように,被告製品1は構成要件Cを充足し,他の被告製品も同様に構成要件Cを充足する。 被告は,上記の実測はスライダーをファスナーカバーに無理に押し込ん で行ったものであると主張するが,特許発明の技術的範囲は,被告製品が,スライダーをファスナーカバーから所定の割合で露出させることが可能な構成を有するか否かで判断されるべきである。被告製品のファスナーカバーが弾圧性を有する以上,ファスナーを押し込むことによってファスナーカバーが伸びること,それに伴いファスナーの先端がファスナーカバーよ り露出することは,当然に被告製品の利用態様として想定されている。 被告製品1の実測値の写真 〔被告の主張〕被告製品は,スライダーが10~50%露出していないので,構成要件Cを充足しない。 乙19の写真から明らかなように,被告製品は,いずれも,閉口された状態において,ファスナーカバーからスライダーが閉口端側に露出してい る割合が10%以下である(乙19)。また,別紙被告製品説明書の図1の実測値も,全長は約25mm,露出部分は約2mmであるから,露出割合は約8%であり,原告が主張する再計測の結果も,露出部分は3.5mmではなく3mmであるというべきであるから,露出割合は10%を下回る。 原告は,スライダーをファスナーカバーに押し込んで,閉口端側にスライダーを押し出した状態を無理に作出した上で露出部分を計測しているが あるというべきであるから,露出割合は10%を下回る。 原告は,スライダーをファスナーカバーに押し込んで,閉口端側にスライダーを押し出した状態を無理に作出した上で露出部分を計測しているが,そのような状態での計測は,被告製品の通常の使用方法に反するものであり,適切でない。 (3) 構成要件Dの充足性(争点1-3) 〔原告の主張〕被告製品のスライダーの「肩部」が露出しているので,構成要件Dを充足する。 本件発明の「肩部」とは,本件明細書の段落【0022】に「図5に示すように,洗濯 用ネットN本体を,一方の手の親指の腹が,カバー体4から露出しているスライダ3の肩部に当たる状態で掴む。」と記載されているとおり,同明細書の【図5】において親指の腹が触れている部分,すなわち,スライダ体より務歯と直角方向に突出したスライダ体の角部分をい う。 本件明細書【図5】 被告製品1においては,務歯がファスナーカバーの端より約5mm延出して設けられているから,閉口された状態では,必然的にスライダーの肩部はファスナーカバーから露出することとなる。 したがって,被告製品1は構成要件Dを充足し,他の被告製品も同様に同構成要件を充足する。 〔被告の主張〕被告製品は,スライダーの「肩部」が露出していないので,構成要件Dを充足しない。 被告製品は,把持体のリング状部分がファスナーカバー体から露出したままの状態で洗濯を行い,洗濯終了後にファスナーを開く際には把持体の リング状部分を指先でつまんでファスナーを開口するように構成されているので,本件発明のように,開口時にスライダーの肩部を指先で押して反対側から把持体を露出させることは,その利用態様として想定されていな ング状部分を指先でつまんでファスナーを開口するように構成されているので,本件発明のように,開口時にスライダーの肩部を指先で押して反対側から把持体を露出させることは,その利用態様として想定されていない。 実際上,乙19から明らかなように,被告製品においてはスライダーの 閉口端側の露出はほとんどなく,「肩部」をいかなる意味に解したとしても,構成要件Dを充足しない。 (4) 構成要件Eの充足性(争点1-4)について〔原告の主張〕被告製品は,ファスナーカバーに把持体が「収まった状態」となっている ので,構成要件Eを充足する。 本件発明の拡大把持体がカバー体に収まった状態となるのは,洗濯中における洗濯用ネットの開き防止及び洗濯時の絡みや引掛りを防止するためであるから,拡大把持体の一部が覆われていれば目的を達成することが可能である。このため,構成要件Eの「収まった」とは,拡大把持体の一部がカバー 体に収まっている態様を含むと解すべきであり,本件明細書の【図4】(C) は実施態様の一例にすぎない。 被告製品1の吊り下げヘッダー(甲3の図5)には,「スライダーをファスナーカバーの中に収めてから洗濯して下さい」と記載され,スライダーがファスナーカバーに収まった状態になることが想定されているのであるから,構成要件Eを充足する。このことは,他の被告製品も同様である。 〔被告の主張〕被告製品は,ファスナーカバーに把持体が「収まった状態」とはなっていないので,構成要件Eを充足しない。 本件明細書の段落【0022】の記載によれば,本件発明に係る洗濯用ネットの開口部を開口する際には,カバー体の逆側からスライダの肩部を押す ことによってはじめて把持体の先の部分がカバー体から露出し,これにより 落【0022】の記載によれば,本件発明に係る洗濯用ネットの開口部を開口する際には,カバー体の逆側からスライダの肩部を押す ことによってはじめて把持体の先の部分がカバー体から露出し,これにより他方の指先でつかんで引き抜くことが可能になる。このように,本件発明の拡大把持体は反対側から肩部を押さないとつまむことができないのであるから,閉口時においては拡大把持体がカバー体に完全に収納されていると考えられる。 そして,本件明細書の【図4】(C)には拡大把持体全体がカバー体に収納されている状況が示されており,同明細書の段落【0020】には「スライダ構成体Kは,図4(C)に示すよ うに,…確実にカバー体4に収まって」と記載されている。このような記載及び図面からも,本件発明の拡大把持体が閉口時においてカバー体に完全に収まっていると解すべきであ る。 本件明細書の【図4】 これに対し,被告製品においては,把持体が大きくファスナーカバーから飛び出しており(乙19),開口時にはスライダーの肩部を反対側から押す必要はなく,そのまま把持体をつまんで開口することが可能である。また,原告が指摘する被告製品の吊り下げヘッダーの記載は,ファスナー上をスライドする「スライダー」をファスナーカバーに収めるとの記載であって,把 持体を収めるとは記載されていない。 以上のとおり,被告製品の把持体はファスナーカバーに完全には収まっていないので,構成要件Eを充足しない。 2 無効理由の有無(1) 乙9を主引例とする進歩性欠如の有無(争点2-1)について 〔被告の主張〕ア乙9に開示された考案(以下「乙9考案」という。) 足しない。 2 無効理由の有無(1) 乙9を主引例とする進歩性欠如の有無(争点2-1)について 〔被告の主張〕ア乙9に開示された考案(以下「乙9考案」という。)ネット状袋体に務歯よりなる開口部とスライダと引き手とを備えたスライドファスナーにより開閉自在な洗濯用ネットであって,引き手にはそれより大きく摘みやすい合成樹脂又はゴム材で形成された拡大把持体を設 け,拡大把持体が,スライドファスナーの引き手を内挿して該引き手に設けられた切抜き穴及び頭部に不可逆的に係止するための係止爪及び止め部を備えたことを特徴とする洗濯用ネット。 イ本件発明と乙9考案の一致点ネット状袋体に務歯よりなる開口部とスライダと引き手とを備えたスラ イドファスナーにより開閉自在な洗濯用ネットであって,引き手にはそれより大きく摘みやすい合成樹脂又はゴム材で形成された拡大把持体を設け,拡大把持体が,スライドファスナーの引き手を内挿して該引き手に設けられた切抜き穴及び頭部に不可逆的に係止するための係止爪及び止め部を備えたことを特徴とする洗濯用ネット。 ウ本件発明と乙9考案の相違点 (相違点1)本件発明は,拡大把持体が,逆台形状のリング形状であるのに対して,乙9考案の拡大把持体は,そのようなものではない点(相違点2)本件発明は,(C)開口部の閉口端には,閉口された状態において,スラ イダと引き手と拡大把持体で構成されるスライダ構成体を10~50%露出させ,(D)かつ少なくともスライダの肩部が露出し,(E)拡大把持体が収まった状態になるように弾圧的に覆うカバー体を設けるものであるのに対して,乙9考案は,そのようなものではない点(相違点3) 乙9考 少なくともスライダの肩部が露出し,(E)拡大把持体が収まった状態になるように弾圧的に覆うカバー体を設けるものであるのに対して,乙9考案は,そのようなものではない点(相違点3) 乙9考案の凸部は鋭利な形状ではないので,本件発明の係止爪に該当するか否かが明らかではない点エ相違点に係る構成の容易想到性(ア) 相違点1について乙10には,ファスナー付き袋体開閉用スライダが引き手を備え,当 該引き手には,人差し指を挿入し得る「円形,楕円形,三角形,四角形,ハート形などいかなる形状でも差し支えない」リング形状を有する合成樹脂で形成された拡大把持体が開示されている。ハート形という上部が広く,底部が狭い形状と,台形を包含する四角形まで記載されているから,当業者が逆台形状とするのは容易である。 乙9考案と乙10に係る発明は,ファスナー付き袋体という同一技術分野であり,いずれも,引き手に拡大部分を設け,引っ張ることを容易とする共通の作用効果に関するものであるから,乙9考案に乙10の上記構成を適用することは本件特許出願時の当業者であれば容易に想到し得たものである。 (イ) 相違点2について 乙14には,連結突部20b(スライドの肩部)が露出し,引き手の一部が収まった状態になるように弾圧的に覆う弾性止め部材が記載されている。なお,乙14にはスライダ構成体を10~50%露出させることは直接的には記載されていないが,露出割合をどの程度にするのかは,当業者が適宜設定し得る事項である。 乙9考案と乙14に係る考案は,技術分野が同一であるから,乙9考案に乙14の上記構成を適用することは本件特許出願時の当業者であれば容易に想到し得たものである。 (ウ) 相違点3について 乙9考案と乙14に係る考案は,技術分野が同一であるから,乙9考案に乙14の上記構成を適用することは本件特許出願時の当業者であれば容易に想到し得たものである。 (ウ) 相違点3について乙9の凸部14の作用効果は,引き手であるつまみ10の開口と嵌合 し,つまみを不可逆的に係止するという点にあるから,乙9の凸部14は本件発明の係止爪に相当する。 また,仮に乙9の凸部14が本件発明の係止爪に相当しないとしても,戻り防止のために爪を設けることは,例えば乙17にも記載されているように周知ないし公知技術である。 (エ) 以上のとおり,本件発明は,乙9考案に周知慣用技術を組み合わせたものにすぎず,当業者が容易に想到し得たものであるから,進歩性を欠く。 〔原告の主張〕ア乙9に開示された考案 被告の主張する乙9考案の認定は,以下のとおり誤りである。 (ア) 本件発明の「止め部」は「引き手」の先端に当接するのに対し,乙9の「キャプ12の先端12a」は「つまみ10」の先端に当接しておらず隙間があるから,乙9の「キャプ12の先端12a」は,本件発明の「止め部」に相当しない。 (イ) 本件発明の「係止爪」は,「不可逆的に係止」するためのものである ことが発明特定事項とされているのに対して,乙9の「凸部14」は,不可逆的とはいえない係合をするものである。また,乙9の「凸部14」は丸みを帯びていて「爪」ではないので,乙9の「凸部14」は本件発明の「係止爪」に相当しない。 (ウ) 乙9の「キャプ12」は,つまみ10とほぼ同じ大きさであるから, 本件発明の「(引き手より)大きく摘みやすい」拡大把持体に相当しない。 イ相違点に係る構成の容易想到性上記のとおり ) 乙9の「キャプ12」は,つまみ10とほぼ同じ大きさであるから, 本件発明の「(引き手より)大きく摘みやすい」拡大把持体に相当しない。 イ相違点に係る構成の容易想到性上記のとおり,被告の乙9発明の認定は誤っているので,一致点及び相違点の主張も誤っていることになるが,以下のとおり,被告の主張する各 相違点に係る構成のみを取り上げても,当業者が容易に想到し得たものではないので,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものではない。 (ア) 相違点1について被告は,乙10の「円形リング状吊り下げ部22」が本件発明の「拡 大把持体」に相当することを前提としているが,「円形リング状吊り下げ部22」は,スライダの背部に脚部とともに一体成型されるものであるから,本件発明の「引き手」に相当するものであり,「拡大把持体」には相当しない。 仮に,乙10の「引手本体」の一部が本件発明の「拡大把持体」に相 当するとしても,乙10の「円形リング状吊り下げ部22」はスライダと一体となっているので,「円形リング状吊り下げ部22」のみを取り出して乙9の「キャプ12」に適用することはできない。 また,乙9考案の「洗濯中の耳障りな音を防止する」ための先端部分に,吊り下げ強度を持たせるための乙10の「引子」を適用することは, 乙9考案の目的・効果を阻害する可能性が高いので,両者を組み合わせ ることは困難である。 (イ) 相違点2について乙14の「弾性止め部材」は,スライド子を覆うものではなく,スライド子が大きく露出する構成であるので,洗濯時の引っ掛かり等を充分に防止できるとはいえないから,本件発明の「カバー体」に相当しない。 また,乙14には,スライダ構成体 子を覆うものではなく,スライド子が大きく露出する構成であるので,洗濯時の引っ掛かり等を充分に防止できるとはいえないから,本件発明の「カバー体」に相当しない。 また,乙14には,スライダ構成体を10~50%露出させるという構成は記載されておらず,そのような構成にすることが当業者にとって適宜設定し得る事項にすぎないということもできない。 したがって,当業者が乙9考案に乙14に係る構成を適用することにより相違点2に係る本件発明の構成を容易に想到し得たということはで きない。 (ウ) 相違点3について乙9の凸部は,不可逆的でない係合をするものであるから,本件発明の「係止爪」に相当しない。また,乙17にも,本件発明の「係止爪」に相当する構成は示されていない。 (エ) 以上のとおり,被告の主張する各相違点に係る構成は当業者が容易に想到し得たものではない。 (2) 明確性要件違反の有無(争点2-2)について〔被告の主張〕ア構成要件Cにおける「10~50%露出させ」という要件は,その臨界 的な意義が不明であり,その数値の範囲に含まれるかどうかで効果が異なることについて合理的な説明がされていない。また,本件発明のスライダ構成体をどの程度押し込むか,また,カバー体がどのような状態であるかについての記載もないので,構成要件Cの記載は明確性を欠く。 イ本件発明における「肩部」が何を意味するかは,本件明細書を参酌して も明らかではないので,構成要件Dの記載も明確性を欠く。 〔原告の主張〕争う。いずれの記載も明確である。 3 差止等の必要性(争点3)について〔原告の主張〕被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するものであるから,被告が業とし て,被告製品を製 争う。いずれの記載も明確である。 3 差止等の必要性(争点3)について〔原告の主張〕被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するものであるから,被告が業とし て,被告製品を製造販売等する行為は本件特許権を侵害する行為である。被告製品は現に販売されており,将来にわたって侵害が継続するおそれがあるので,特許法100条1項に基づき,被告による本件特許権の侵害行為の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,同侵害行為を組成した被告製品及びその半製品の廃棄を求める。 〔被告の主張〕否認ないし争う。 4 損害額(争点4)について〔原告の主張〕被告は,平成26年8月31日以降,被告製品の販売等をしており,被告製 品の販売数量は25万7640個,原告製品の平均利益額は131.92円であるから,特許法102条1項により,3398万7869円が原告の損害となる。 〔被告の主張〕否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明の概要及び意義(1) 本件明細書(甲2)には,以下の記載がある。 ア発明の属する技術分野「本発明は,洗濯用ネットに関し,更に詳しくは洗濯用ネットにおいて 洗濯物を出し入れするための開口部に使用されるスライドファスナーに関 する。」(段落【0001】)イ従来の技術「…洗濯用ネットのスライドファスナーに関しては,洗濯中のスライドファスナーの開きを防止するための手段として,スライドファスナー閉口端近傍に,カバー,布帯等を取り付ける方法がある。…しかし,これは開 き防止に主眼が置かれ,カバーや布帯下に,スライダ,並びに引き手を差し込む操作や引き出す操作に対しての配慮に欠けていた。すなわち,カバーや布 ,布帯等を取り付ける方法がある。…しかし,これは開 き防止に主眼が置かれ,カバーや布帯下に,スライダ,並びに引き手を差し込む操作や引き出す操作に対しての配慮に欠けていた。すなわち,カバーや布帯の下にスライダや引き手を挿入した後,今度は,スライダや引き手を元に戻して開口する場合に簡単にそれが行えないのである。」(段落【0003】) ウ発明が解決しようとする課題「周知のように,市販のスライドファスナーの引き手は,経験的に,洗濯物を治めて開口部を閉じた後は,極力小さな方が障害にならず使い勝手が良い。このようなスライドファスナーを使用している洗濯用ネットにおいては,開口部の開閉時に,この開口部に使用されているスライドファス ナーの引き手が小さ過ぎるため摘まみにくい。特に,老人等の指力の小さい人や手先の不器用な人にとって,指自体が水や洗剤で滑りやすい状態時に,小さな引き手を探り出し,これを把持して開閉する操作は容易ではなかったのである。」(段落【0005】)「洗濯用ネットを使用する立場において最も重要なことは,まずは洗濯 用ネットの開口部を開閉し洗濯物を出し入れすることであるのに対し,洗濯用ネットに関する従来技術は,洗濯物や洗濯機を保護することに主眼がおかれ,最も重要な使い手の立場を全く考慮しないものであった。つまり,従来技術は洗濯作用や洗濯物の保護にはそれなりの効果があるものの,必ずしも使用者にとって使い易いものではない。本発明は,上記の問題点を 解決すべく,洗濯物や洗濯機の保護効果を充分に満足しつつ,更に,洗濯 をする立場からも極めて使い勝手の良い開閉利便性を重視した洗濯用ネットを提供することを目的とする。」(段落【0006】)エ課題を解決するための手段「上記目的 更に,洗濯 をする立場からも極めて使い勝手の良い開閉利便性を重視した洗濯用ネットを提供することを目的とする。」(段落【0006】)エ課題を解決するための手段「上記目的を達成するために,本発明の洗濯用ネットNにおいては,スライドファスナー7の引き手2に,更に別体の引き手,つまり,拡大把持体 1を取り付け,スライドファスナー7の開閉を容易,確実に行い得ることとした。同時に,スライダ3や拡大把持体1による洗濯物や洗濯機への損傷防止と,洗濯中における開口部6の開き防止との両目的を達成するために,開口部6の閉口端8に,スライダ3と引き手2と拡大把持体1とで構成されるスライダ構成体Kを覆うための,スライダ構成体Kの出し入れに も好都合なカバー体4を設けることとした。」(段落【0007】)「本発明は,以上の構成を具備するので,少なくとも,洗濯物や洗濯機の保護効果が充分であり,開口部を開閉する際の利用性も優れている。」(段落【0014】) オ発明の実施の形態「洗濯用ネットNは,図1に示すように,本体がネット状袋体5で形成され,その開口部6にスライドファスナー7を有する。 なお,開口部は,具体的には歯務によって 形成されている。そのスライドファスナー7は,スライダ3と引き手2と拡大把持体1とで構成されるスライダ構成体kによって開閉される。」(段落【0015】)「拡大把持体1は,引き手2より大きな 寸法に形成されており,把持し易い形状となっている。…そして,開口部本件明細書【図1】 6の開口端8近傍には,弾性を有するカバー体4が開口部6を跨ぐような形で縫い込まれている。」(段落【0016】)「拡大把持体1は,図 る。…そして,開口部本件明細書【図1】 6の開口端8近傍には,弾性を有するカバー体4が開口部6を跨ぐような形で縫い込まれている。」(段落【0016】)「拡大把持体1は,図2に示すように基部11と把持部12とで構成される。基部11は引き手2を内挿するための内挿部13を有し,その内挿 部13の上端には引き手2に設けられている切抜き穴21に不可逆的に係止するための係止爪14が形成されている。係止爪14は上下2個でなり,引き手2を挿入する際,引き手2頭部が係止爪14を通過し易いようにその内側に傾斜部15を有 する…。また,2個の係止爪14の外側は,引き手頭部22が係止爪14を通過して,係止爪14が切抜き穴21に嵌入した後は,引き手頭部22が再び抜けないように平坦状に形成された平坦部16を有する。」(段落【0017】) 「把持部12は,ここでは逆台形形状のリング形状に形成されている。」(段落【0018】)「次に,洗濯用ネットNの開口部6を閉じる際の手順を説明する。まず,図4(A)に示すように,開口部6の閉口については,拡大把持体1を 指で摘み,スライダ構成体Kをスライドさせて,カバー体4の近傍の位置まで引き寄せる。次に図4(B)に示すように,指で把持したそのままの状態で,拡大把持体1を,閉口端8の反対方向に寝かせるようにして進行させ,スライダ3を カバー体4下方に押し込む。スライダ3がカバー体4の下方に挿入した適本件明細書【図4】本件明細書【図2】 宜な位置で,拡大把持体1を持ち替え,親指の腹で拡大把持体1の先端部を押し込めば,スライダ構成体Kは,図4(C)に示すように,スムース確実にカバー体4に収まって,結果的にスライダ3は閉口端8に至る。 宜な位置で,拡大把持体1を持ち替え,親指の腹で拡大把持体1の先端部を押し込めば,スライダ構成体Kは,図4(C)に示すように,スムース確実にカバー体4に収まって,結果的にスライダ3は閉口端8に至る。」(段落【0020】)「この閉口された状態におけるスライダ構成体Kとカバー体4の位置関 係は,カバー体4に対するスライダ構成体Kの露出の状態により示すことができる。閉口端側の露出の割合(L1/L)が10%以上であればスライダ構成体Kをカバー体4から,より出し易い。ここで露出割合=(L1/L)×100(%)(L;カバー体の長さ,L1;スライダ構成体の露出長さ) また,露出の状態が50%以下であれば,洗濯時の絡みや引っかかりを防止できる。」(段落【0021】)「…開口部6の閉じる手順とは逆の開口手順について説明する。図5に示すように,洗濯用ネットN本体を,一方の手の親指の腹が,カバー体4から露出しているスライダ3の肩部に当たる状態で掴む。そのまま,親指 の腹でスライダ3を押し進めれば,拡大把持体1の先の部分が,一定量,カバー体4から露出する。…この露出した部分を他方の指で摘んで引き抜くことで一気に開口することができる。」(段落【0022】) カ発明の効果「本発明の洗濯用ネットNにおいて,引き手2に,それより大きい拡大把持体1が取り付けられている場合には,水や洗剤で滑りやすい状態時であっても,スライドファスナー7の開閉作業が容易にでき,視 力の弱い人や手先の不自由な人にも極めて便利である。」(段落【002本件明細書【図5】 5】)「本発明の洗濯用ネットNにおいて,開口部6の閉口端8近傍に,スライダ構成体Kを弾圧的に覆い得るカバー体4を設けている場合 便利である。」(段落【002本件明細書【図5】 5】)「本発明の洗濯用ネットNにおいて,開口部6の閉口端8近傍に,スライダ構成体Kを弾圧的に覆い得るカバー体4を設けている場合には,スライダ構成体Kがその弾性で押さえられているので,洗濯中における洗濯用ネットNの開き防止効果が充分に得られる他,カバー体4へのスライダ構成 体Kの出し入れに便利である。」(段落【0027】)「本発明の洗濯用ネットNにおいて,スライダ構成体Kの露出の状態が10~50%の範囲にあれば,スライダ構成体Kをカバー体4から,より出し易く,しかも,洗濯時の絡みや引っかかりを充分に防止できる。」(段落【0028】) 「本発明の洗濯用ネットNにおいて,拡大把持体1が合成樹脂,またはゴム材で形成されている場合には,錆びることもなく,作業者の手に良く馴染み,使い勝手が良い。」(段落【0029】)(2) 上記(1)によれば,本件発明は,①洗濯用ネットに関する発明であり,②洗濯ものや洗濯機の保護効果を充分に満足しつつ,スライドファスナーの開閉 を容易に行うという課題を解決するため,③スライドファスナーに把持体を取り付けると同時に,開口部の閉口端にスライダ構成体を覆うためのカバー体を設け,閉口時においてスライド構成体を閉口端側に10~50%露出させ,拡大把持体がカバー体に収まった状態になるようにすることにより,上記の課題を解決するものであると認められる。 2 争点についての判断(1) 争点1-1(構成要件Bの充足性)について原告は,被告製品の把持体外側の外郭部分全体の形状は「逆台形状」であるから,構成要件Bを充足すると主張する。 構成要件Bの「逆台形状」の意義に関し,本件明細書の段落【0008】, 【00 原告は,被告製品の把持体外側の外郭部分全体の形状は「逆台形状」であるから,構成要件Bを充足すると主張する。 構成要件Bの「逆台形状」の意義に関し,本件明細書の段落【0008】, 【0018】,【0023】,【0024】には,本件発明の把持部12が「逆 台形形状」である旨の記載があるが,その形状の定義や意義についての記載は存在しない。そこで,一般的な用法を参酌すると,広辞苑第六版(乙1)には,「台形」とは「一組の対辺が平行な四辺形」であると記載され,かつ,上底が下底より短い四辺形の図が掲載されている。これによれば,「逆台形」とは,「上底が下底より長く一組の対辺が平行な四辺形」をいうと解するのが相 当である。 このような理解に立って本件明細書の図2に図示された把持部をみると,その上部(引き手から遠い部分を「上部」,引き手に近い部分を「下部」という。)の直線が下部の直線より長く,その側辺が直線状であるので,本件明細書における「逆台形状」という語の意義は,上記の一般的用法に沿うものであ ると認められる。 他方,証拠(甲3)によれば,被告製品の把持体(前記第3の1(1)〔被告の主張〕掲記の「被告製品の把持体」の赤線で囲まれた部分)は,下底は直線状であるものの,下底から上部に向かう側辺は全体が曲線であり,把持体の中央部分で最大幅となり,その後,上部に向かい先端部に行くほど幅が狭く なっている上,上底も直線状ではなく,曲線から構成されていることが看取される。そうすると,被告製品の把持体は,平行な対辺もなく四辺形でもないことから「逆台形状」ということはできず,むしろ「楕円形状」というべきである。 これに対し,原告は,「逆台形状」の「状」とは,「…のような形である」 の意味であるから,本件発明の 形でもないことから「逆台形状」ということはできず,むしろ「楕円形状」というべきである。 これに対し,原告は,「逆台形状」の「状」とは,「…のような形である」 の意味であるから,本件発明の「逆台形状」は必ずしも正確な「逆台形」に限られないと主張する。しかし,被告の把持体が厳密な意味での「逆台形状」の定義を満たすことは要しないとしても,少なくとも,逆台形としての基本的な形状は備えていることを要すると解されるところ,被告製品の把持体は,側辺及び上部が曲線で「四辺形」ということは到底できず,「楕円形状」とい うべきものであり,逆台形の基本的な形状を備えているということはできな いことは前記判示のとおりである。 したがって,被告製品の把持体は「逆台形状」とは言えず,構成要件Bを充足しない。 (2)争点1-2(構成要件Cの充足性)について原告は,被告製品は,スライダーが10~50%露出しているので,構成 要件Cを充足すると主張する。 しかし,被告製品の写真である証拠(乙19の1の4枚目,19の2の5枚目,19の3の3枚目,19の4の3枚目,19の5の4枚目,19の6の4枚目,19の7の4枚目,19の8の3枚目,19の9の3枚目)によれば,被告製品において,スライダーがファスナーカバーに収まった状態に おいて閉口端側に露出することはあるものの,その露出割合は10%を超えないと認めることが相当である。 また,被告製品1の吊り下げヘッダー裏面にはスライダーをファスナーカバーに収めた状態が図示されているが(甲3の1の図5),同図においても,スライダーはファスナーカバーから閉口端側に露出していない。これによれ ば,被告製品の通常の用法においては,スライダーがファスナーカバーに収められた際に閉 (甲3の1の図5),同図においても,スライダーはファスナーカバーから閉口端側に露出していない。これによれ ば,被告製品の通常の用法においては,スライダーがファスナーカバーに収められた際に閉口端側に露出することは想定されていないものというべきである。 これに対し,原告は,被告製品1の実測値(別紙被告製品説明書の図1を再度実測したとされるもの。原告第1準備書面11頁の図1)によれば,被 告製品1のファスナーカバーの長手方向の全長は約25mmであり,露出部分が約3.5mmであるから,被告製品のスライダーは約14%(3.5/25×100=0.14)露出していると主張する。 しかし,原告が根拠とする上記の実測値は,被告製品の把持体を弾性のあるファスナーカバーにどの程度強く押し込んだ上で実測されたかが明らか ではなく,訴状に添付された同製品に係る別紙被告製品説明書の図1(甲3 の1の図3)においては,被告製品1のスライダーの露出部分は約3mm程度にとどまっている上,前記のとおり,吊り下げヘッダー裏面の図(甲3の1の図5)においては,スライダーがファスナーカバーから閉口端側に露出していないことなどに照らすと,上記の再実測図(原告第1準備書面11頁の図1)は,被告製品1のスライダーを通常使用される態様より強くファス ナーカバーに押し込んで実測されたものであると推認される。 この点,原告は,本件発明の技術的範囲は,被告製品がスライダーをファスナーカバーから所定の割合で露出させることが可能かどうかで判断されるべきであるから,スライダーを強くファスナーカバーに押し込んだ状態で露出割合が10%を超えるのであれば構成要件Cを充足すると主張するが, 被告製品におけるスライダーの露出割合は,当該製品が通常使用さ あるから,スライダーを強くファスナーカバーに押し込んだ状態で露出割合が10%を超えるのであれば構成要件Cを充足すると主張するが, 被告製品におけるスライダーの露出割合は,当該製品が通常使用される状態において測定されるべきであり,弾性を有するファスナーカバーにスライダーを強く押し込んだ状態においてスライダーの露出割合が10%を超えるとしても,それによって構成要件Cを充足するということはできない。 したがって,被告製品は構成要件Cを充足しない。 (3) 争点1-4(構成要件Eの充足性)について原告は,被告製品は,ファスナーカバーに把持体が「収まった状態」となっているので,構成要件Eを充足すると主張する。 構成要件Eの「収まった状態」との語に関し,本件明細書には,拡大把持体がカバー体にどの程度覆われていることを意味するかについての直接的な記 載はないが,本件発明に係る洗濯用ネットの開口部を開口及び閉口する際の手順を記載した本件明細書の段落【0020】及び段落【0022】の記載によれば,本件発明は,洗濯ネットの閉口時にはスライダ構成体を「確実にカバー体に収」め,開口時には閉口端側からスライダ3を押すことにより,拡大把持体1の「先の部分」を一定量カバー体から露出させ,その部分を指でつか んで引き抜くことにより開口するものであると認められる。 このような,本件発明に係る洗濯ネットの開閉時の手順及び仕組みによれば,閉口時において拡大把持体は,その「先の部分」まで「確実に」カバー体に覆われた状態にあるものと解するのが相当であり,本件明細書の【図4】(C)にも,開口部を閉じた際に拡大把持体1が完全にカバー体に収められた状況が図示されている。 そうすると,構成要件Eの「収まった状態」とは, ものと解するのが相当であり,本件明細書の【図4】(C)にも,開口部を閉じた際に拡大把持体1が完全にカバー体に収められた状況が図示されている。 そうすると,構成要件Eの「収まった状態」とは,拡大把持体がカバー体に完全に覆われた状態をいうものと解すべきであり,このような理解は,「収まる」という語が,一般的には「ある範囲内に全部が残らず入る」ことなどを意味すること(乙3)とも整合するというべきである。 また,仮に,原告の主張するように閉口時において拡大把持体がカバー体 に完全に覆われることを要しないと解し得るとしても,上記の開閉時の手順及び仕組みによれば,少なくとも,拡大把持体は,開口時にその先の部分を指でつまんでそのまま開口することができない程度までカバー体に覆われていることを要するというべきである。 以上に基づき被告製品についてみると,証拠(甲3,乙19)によれば,被 告製品はいずれも開口時に閉口端側からスライダーを押して把持体の先の部分を露出することを必要とせず,そのまま把持体を指でつまんで開口するものであり,これを可能にするように,開口部側において把持体のリング部分の一部が指でつまむことができる程度にファスナーカバーから露出していることが認められる。 このように,被告製品は,閉口時に把持体がファスナーカバーに完全に覆われておらず,少なくとも,把持体が指でつまむことができる程度に露出しているのであるから,被告製品は構成要件Eの「拡大把持体が収まった状態」にあるということはできない。 (4) 小括 したがって,被告製品は,本件発明の構成要件B,C,Eを充足しない。 3 結論よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の各請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主 たがって,被告製品は,本件発明の構成要件B,C,Eを充足しない。 主文 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の各請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 三井大有 裁判官 遠山敦士 別紙被告製品目録 1 製品名 ZU-001 ズボラーネットバッグ型小 2 製品名 ZU-002 ズボラーネットバッグ型大 3 製品名 ZU-003 ズボラーネットポーチ型小 4 製品名 ZU-004 ズボラーネットポーチ型大 5 製品名 ZU-005 ズボラーネットバッグ型特大 6 製品名 ZU-006 ズボラーネットトラベル用 7 製品名 ZU-007 目隠しにもなる洗濯ネット 8 製品名 ZU-008 キューブ型洗濯ネット 9 製品名 ZU-011 CPズボラーネットバッグ型小 10 製品名 ZU-012 CPズボラーネットバッグ型大 11 製品名 ZU-015 CPズボラーネットバッグ型特大 12 製品名 ZU-016 CPズボラーネットトラベル用 13 製品名 ZU-017 CP目隠しにもなる洗濯ネット 14 製品名 ズボラーネットバッグ型大(PP袋なし) 15 製品名 ズボラーネット BLS 16 製品名 ズボラーネット BLL以上 別紙被告製品 ト 14 製品名ズボラーネットバッグ型大(PP袋なし) 15 製品名ズボラーネット BLS 16 製品名ズボラーネット BLL以上 別紙被告製品説明書 第1 被告製品1について 1 製品名ZU-001 ズボラーネットバッグ型小 2 製品の説明洗濯用ネットである。 ネット状袋体に務歯よりなる開口部とスライダ部と引き手とを備えたスライドファスナーにより開閉自在となっている。 引き手にはそれより大きく摘みやすい逆台形状のリング形状を有し,かつ合成樹脂で形成された把持体が設けられている。引き手より,把持体は大きい。 開口部の閉口端には,閉口された状態において,スライダ部と引き手と把持体とで構成されるスライダーは,ファスナーカバーより閉口端側に露出する構造となっている。すなわち,開口部の閉口端において務歯がファスナーカバーを越えるように延長して設けられており,務歯の末端までスライダ部を移動できる構造となっている。 (閉口された状態において)スライダ部の肩部は露出している。 把持体が収まった状態になるように弾圧的に覆うファスナーカバーが設けられている。 把持体は基部を備え,該基部がスライドファスナーの引き手を内挿して該引き手に設けられた切抜き穴及び頭部に不可逆的に係止するための係止爪及び止め部を備えている。 直径約250mm,高さ約300mmの円筒形状である。 3 図面の説明 図1は,被告製品1の開口部が閉口された状態におけるスライダーを撮影した写真である。 図2は,被告製品1に付与された吊り下げヘッダーの裏面である。 図3は,被告製品1の構成を示す説明図である。 4 図面図1 図2 図3 た写真である。 図2は,被告製品1に付与された吊り下げヘッダーの裏面である。 図3は,被告製品1の構成を示す説明図である。 4 図面図1 図2 図3 第2 被告製品2ないし16について 1 製品名被告製品2 ZU-002 ズボラーネットバッグ型大被告製品3 ZU-003 ズボラーネットポーチ型小被告製品4 ZU-004 ズボラーネットポーチ型大被告製品5 ZU-005 ズボラーネットバッグ型特大被告製品6 ZU-006 ズボラーネットトラベル用被告製品7 ZU-007 目隠しにもなる洗濯ネット被告製品8 ZU-008 キューブ型洗濯ネット被告製品9 ZU-011 CPズボラーネットバッグ型小ファスナーカバースライダ部ネット状袋体務歯開口部引き手係止爪把持体止め部 被告製品10 ZU-012 CPズボラーネットバッグ型大被告製品11 ZU-015 CPズボラーネットバッグ型特大被告製品12 ZU-016 CPズボラーネットトラベル用被告製品13 ZU-017 CP目隠しにもなる洗濯ネット被告製品14 ズボラーネットバッグ型大(PP袋なし)被告製品15 ズボラーネット BLS被告製品16 ズボラーネット BLL 2 製品の説明洗濯用ネットである。 ネット状袋体に務歯よりなる開口部とスライダ部と引き手とを備えたスライドファスナーにより開閉自在となっている。 引き手にはそれより大きく摘みやすい逆台形状のリング形状を有し,かつ合成樹脂で形成された把持体が設けられている。引き手の長さは約17mmであり,把持体の長さは約21mmであ 開閉自在となっている。 引き手にはそれより大きく摘みやすい逆台形状のリング形状を有し,かつ合成樹脂で形成された把持体が設けられている。引き手の長さは約17mmであり,把持体の長さは約21mmである。 開口部の閉口端には,閉口された状態において,スライダ部と引き手と把持体とで構成されるスライダーは,スライダーは,長手方向の全長が約35mmであり,ファスナーカバーから露出している部分が約3mmである。ファスナーカバーの全長は約25mmである。 (閉口された状態において)スライダ部の肩部は露出している。 把持体が収まった状態になるように弾圧的に覆うファスナーカバーが設けられている。 把持体は基部を備え,該基部がスライドファスナーの引き手を内挿して該引き手に設けられた切抜き穴及び頭部に不可逆的に係止するための係止爪及び止め部を備えている。 被告製品2,10,14及び16は,直径約320mm,高さ約400mmの円筒形状である。 被告製品3は,約25×100×200mmの直方体状である。 被告製品4は,約320×100×230mmの直方体状である。 被告製品5及び11は,直径約370mm,高さ約40mmの円筒形状である。 被告製品6及び12は,約300×100×200mmの直方体状である。 被告製品7及び13は,約650×15×350mmの直方体状である。 被告製品8は,一辺約250mmの立方体状である。 被告製品9及び15は,直径約250mm,高さ約300mmの円筒形状である。 3 図面の説明図は,被告製品2の開口部が閉口された状態におけるスライダーを撮影した写真である。 4 図面 図は,被告製品2の開口部が閉口された状態におけるスライダーを撮影した写真である。 図面
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