昭和22(上)71 横領被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和23年10月5日 名古屋高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      原判決を破毀する。      本件を富山地方裁判所に差戻す。          理    由  辯護人古屋東の上告趣意書第一點は、原制決ハ其理トシテ第二事實ニ於テ被告人 Aニ詐

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主文 原判決を破毀する。 本件を富山地方裁判所に差戻す。 理由 辯護人古屋東の上告趣意書第一點は、原制決ハ其理トシテ第二事實ニ於テ被告人Aニ詐欺ノ成立アリトシ刑法第二百四十六條第二項ヲ適用シ有罪ノ判決ヲ爲シタルモ全ク不法ニ同法條ヲ適用シタル法律違背アリ。原判決ハ「被告人Aハ………Bガ昭和二十一年四月二十一日頃Cノ手ヲ經テ相被告人Dノ窃取シ又ハ入手シタ富山縣氷見郡省線氷見驛前ニ集積シテアツタE株式會社所有ノドラム罐入ガソリン及モビール油等三十二本ヲ同所ヨリ富山市へ運搬スル際富山縣行政警察課勤務F警部補ニ現認セラレ右E株式會社ニ無償返還スル様交渉ヲ受ケテ居タガ、右Bカラ右ノ件ニ付テ圓満解決方依頼ヲ受ケタノデ同年五月二日頃富山縣廳ニ於テ右F警部補ト折衝シタ際右FガCノ運搬シタガソリン等ハトラツク一台分ニシテドラム罐十七、八本位デアルト誤信シテ居ルノヲ奇貨トシテ右Bヲシテガソリン及モビール油等ヲ右E株式會社ニ返還セズシテ不法ニ利得セシメヨウト企テ右三十二本ノ内既ニ處分セラレテ居タモノ九本ニシテ尚二十三本残存シテ居ルニモ拘ラズ運搬サレタモノ十八本ノ中既二處分サレタモノ十本ニシテ残リ八本デアリ右八本ヲ無償デ返還スルカラ夫レ丈ニテ内済ニセラレタイト虚僞ノ申述ヲナシ因テFヲシテ共旨誤信セシメ共ノ頃Bヲシテモビール油ノ充填セルモノ六本ヲ返還サシ以テ右Bヲシテ残り十五本ノ返還ヲ免レシメテ不法ノ利益ヲ得サシメダモノデアル」ト爲シ右縣行政警察課F警部補ヲ欺罔シBヲシテ油類残十五本ヲ利得セシメ因テ所有標者E株式會社ニ之ニ相當スル財産上ノ被害ヲ蒙ラセタル旨詐欺罪ノ成立ヲ認メタリ。凡ソ詐欺罪ノ成否ニハ被欺罔者ト被害者トガ同一人ナルコトヲ要セザルモ被欺同者ハ被害ニ係ル財産上ノ利益ニ付キ之ガ處分ヲ爲スコトヲ得ベキ權 之ニ相當スル財産上ノ被害ヲ蒙ラセタル旨詐欺罪ノ成立ヲ認メタリ。凡ソ詐欺罪ノ成否ニハ被欺罔者ト被害者トガ同一人ナルコトヲ要セザルモ被欺同者ハ被害ニ係ル財産上ノ利益ニ付キ之ガ處分ヲ爲スコトヲ得ベキ權限又ハ地位ヲ有スルコトヲ必要トス。則チ被欺同者ト被害者本人トノ間ガ當該財物ニ關スル管理處分上ノ連鎖ニヨリ法律上同一體化的關係ニアルコトヲ必要條件トス。蓋シ若シ然ラズトセバ似ニ財物ノ所有標者ニ於テ財物ヲ處分シタリトスルモ之ヲ以テ欺罔二因ルモノト謂フヲ得ザレバナリ。此ノ點ニ付テ八既ニ大審院判例ノ示ス處ニシテ(大正五年(れ)第二五五一号大審院刑事部判決―大審院刑事判決録第二十三輯一一三六頁)異論ノ餘地ナキ處ナリ。今原判決ニヨリテ本件ノ事實ヲ見ルニ被欺罔者ハ縣行政警察課勤務ノF警部補ニシテ財産上ノ被害者ハE株式會社ナル旨判示シ居ルモ果シテ然リトセバ宜シク原判決ハ右縣行政官吏タルF警部補ガ右E會社ト如何ナル關係ヲ有シタルヤ特ニ同警部袖ガ本件ガソリン、モビール油ノ管理及處分上ニ付キ權利者タルE會社ニ代テ交渉承認處分ヲナス權限ヲ有シタルヤ否ヤノ事實ニ付キ説示スルト同時ニソノ存在ヲ認定スルガ爲メニハ之ニ相當スル證據ヲ舉示セザルベカラズ。然ルニ原判決ハ此兩者ノ關係ヲ全ク閑却シ、詐欺罪ノ構成主要件ヲ爲ス欺罔行爲ノ方法及成否ニ關シ何等説示スル處ナク勿論之ガ證據ヲ擧示スル處絶無ナルヲ以テ本件ハ原判示事實自體既二詐欺罪ヲ構成セザルコト極メテ明白ナリ。則チ原判決ハ罪ヲ構成セザル事實ニ對シ不法ニ刑法第二百四十六條ヲ適用シタル違法アリ。と謂い同第二貼は、原判決ハ前掲摘記ノ如ク「右Fヲシテ其旨誤信セシメ其頃Bヲシテモビール油ノ充填シテアルモノ六本ヲ返還サセ以テ右Bヲシテ残十五本ノ返還ヲ免レシメテ不法ノ利益ヲ得サシメタモノ」ト判示セルモ何人ガ被害者ニシテ如何ナル財産上ノ損害 Fヲシテ其旨誤信セシメ其頃Bヲシテモビール油ノ充填シテアルモノ六本ヲ返還サセ以テ右Bヲシテ残十五本ノ返還ヲ免レシメテ不法ノ利益ヲ得サシメタモノ」ト判示セルモ何人ガ被害者ニシテ如何ナル財産上ノ損害ヲ生ゼシメタルヤヲ判示セズ。亦之ニ關スル證據ノ設明スル處ナキヲ以テ刑法第二百四十六條ヲ適用スルニ足ル犯罪行爲アリト認メ難シ。抑々詐欺罪ハ財産犯ノ一種ニシテ個人ノ法益ヲ侵害スル犯罪ナルヲ以テ必ズヤ之ニ依ツテ被害ヲ受ケタル被害者ト被害事實ヲ明カニゼザルベカラズ。然ルニ原判決ニ於テハ單ニ被欺罔者タルF警部補ト利得者タルBノ關係ヲ與示セルニ止マリ被害者ガ何人ニシテ如何ナル財産ノ損害ヲ受ケタルヤニ付毫モ判示スル處ナキヲ以テ法律上詐欺罪ノ構成ナキモノト謂フベク之ニ直チニ刑法第二百四十六條ヲ適用シタルハ審理不盡カ然ラザレバ法律ヲ不法ニ適用シタル違法アルヲ免レズ。原判決ノ證據説明ヲ見ルモ被害者ト認メラルベキE株式會社ノ詐欺被害關係ニ關シテハ全然論及スル所ナシ。と謂い同第三點は、本件ガソリン及モビール油ハ相當ノ紹介者ノ斡旋ニヨリ第一審相被告人Bガ代金三萬二千圓(當時ノ價格トシテハ相當呈度ノモ)ヲ支沸ヒ而モ使用人Cヲ態々現地ニ出張調査セシメタル上其報告ニ基キ何等疑ハシキ品物等ニアラザルヲ信ジ買受ケタルモノニシテ白書公然トラツクニ依り遠距離間ヲ運搬セル事實二徴スルモ平穏、公然、善意、無過失ノ取得者ナルコト明カナリ。則チBハ本件油類ニ對シテハ民法第百九十二條ノ即時取得者トシテ法律上之ガ所有權ヲ取得シタル者ナルヲ以テ假ニ該品ガ盗品ナリトスルモ民法第百九十三條ニ依り原所有者ヨリ回復ノ請求ヲ受ケ之ガ返還ヲ爲ス迄ハ右Bガ權利者トシテ之ヲ保持シ得ベキハ當然ナリト信ズ。果シテ然ラバ本件被告人Aニ於テ原所有者ト何等ノ關聯ナキF警部補ニ對シ判示ノ如キ事實ニ反スル申述アリタリトス リ回復ノ請求ヲ受ケ之ガ返還ヲ爲ス迄ハ右Bガ權利者トシテ之ヲ保持シ得ベキハ當然ナリト信ズ。果シテ然ラバ本件被告人Aニ於テ原所有者ト何等ノ關聯ナキF警部補ニ對シ判示ノ如キ事實ニ反スル申述アリタリトスルモ之レ則チ權利ノ實行ニ外ナラズ。權利者Bノ爲保持スベキ物件ヲ保持センガ爲メノ行動ニ外ナラザルヲ以テ欺罔事實ノ有無ニ係ラズ結局罪トナラザルモノトス(大正二年十二月二十三日大審院判例同刑事制決録第十九輯第一五〇二頁)。則チ原判決ハ此點ニ於テモ罪トナラザル事實ニ對シ法律ヲ適用シタル違法アリ。と謂い同第四點は、原判決ハ公訴事實ヲ逸脱シ全ク公訴ノ提起ナキ事實ヲ認メ法律ヲ不法ニ適用シタルモノナリ。公訴事實ハ一件記録ノ許スル通リ被告人Aガ第一審相被告人Bト共同シ右E會社ニ返還スベキ十五本ヲ横領シタコトヲ言フニ在ルコト明確ナリ。然ルニ原判決ハ之ヲ無視シ前掲摘記ノ如ク詐欺行爲ヲナシタリトシ刑法第二百四十六條ヲ適用シタリ。抑々詐欺罪ハ他人ノ權利ニ屬スル財物ヲ欺罔手段二依リ錯誤ニ陥ラシメテ之ヲ騙取スルモノナルニ反シ横領犯ハ何等ノ手段ヲモ施用スルコトナク單ニ自己占有中ニアル他人ノ財物ヲ横領スルニアリテ根本的ニ其ノ罪質、態様ヲ異ニスルモノナリ。サンバ刑法法典上ニ於テモ詐欺及恐喝罪ヲ第三十七章ニ規定セルニ拘ラズ横領罪ハ之ヲ全然別章タル第三十八章ニ規定シ截然其ノ同一性ナキコトヲ表示シ居レリ。則チ原判決ハ公訴事實ノ同一性ナキ起訴外ノ事實ニ法律ヲ適用シタル違法アリ。此ノ點ニ於テモ破毀ヲ免レザルモノト信ズ。殊ニ近ク實施セラルベキ改正刑事訴訟法ニ於テハ此ノ點ニ關シテハ極メテ厳格ナル制限制ヲ採用シ居ル点ヨリ見ルモ事苟モ國民ノ浮沈ニ關スル刑罰權運用上ノ重大問題ニ係ルヲ以テ公訴事實ノ同一性ニ關シテハ現行法ニ於テモ制限的解釋ヲナスベキガ至當ナルヲ信ズ。以上ノ理由ニ依リ原判決破毀ノ上 限制ヲ採用シ居ル点ヨリ見ルモ事苟モ國民ノ浮沈ニ關スル刑罰權運用上ノ重大問題ニ係ルヲ以テ公訴事實ノ同一性ニ關シテハ現行法ニ於テモ制限的解釋ヲナスベキガ至當ナルヲ信ズ。以上ノ理由ニ依リ原判決破毀ノ上相當御判決アランコトヲ望ム。と謂うにある。 よつて案ずるに原判決認定の事實によれば「Bは、昭和二十一年四月二十一日頃富山縣省線氷見驛前に於てDから、同人が窃取し又は入手したE株式會社所有のガソリン及モビール油等ドラム罐三十二本(量に於で三十二本、数に於て三十三、四本)を買受け之を右同所から富山市に運搬する途中、富山縣行政警察課勤務F警部補に現認せられて右物件を前記所有者に無償返還するよう交渉を受けたのであるが被告人は、Bから依頼を受け同人と共謀の上同年五月二日頃、富山縣廳に於てF警部補が右油類の数量に付錯誤に陥つているのを利用し、同人を欺罔して、Bをしてモビール油の充填してあるドラム罐六本(外に空罐二本)を返還せしめたに止まりBが當時處分していたドラム罐九本を除いた残り二十三本の中、十五本の返還を免れさせて不法の利益を得た」と謂うにあつて前記ガソリン及びモビール油等ドラム罐三十二本の所有者がE株式會社であることは原判決が明示するこころであるが、原判決は右三十二本をDが窃取し又は入手したものと判示したのみで、右三十二の中幾本が窃取せられ残り幾本がどんな経緯で入手されたかについて判示していない上、Bが代理人Cを通して入手するに付平穏、公然、善意、無過失であつたかどうかに付でも判示していないから、Bに於で、動産である右油類三十二本の中幾本を民法第百九十二條により取得したのかしないのか、或は一部は同法第百九十三條により所有者に返還すべき義務があるのかどうか、更に又右三十二本は統制法規に違反して賣買されたものであるからBに於て完全にその所有權を取得し 條により取得したのかしないのか、或は一部は同法第百九十三條により所有者に返還すべき義務があるのかどうか、更に又右三十二本は統制法規に違反して賣買されたものであるからBに於て完全にその所有權を取得しないものであるかどうかを判断することができないこととなり、如何なる法律的根據に基きBが右油類三十二本を元の所有者に無償返還せねばならない法律上の義務があるかどうか全く不明である。従つてBが右三十二本の中九本を處分し残り二十三本の中十五本を返還ぜずに領得したことがどんな犯罪を構成するのか、之に加工した被告人の責任はどうなるか、もつと詳細に事實の審理を盡し之を判決に設明しなければその判決は審理不盡か理由不備の非難を免れない。 若し假りにBに於で、右三十二本が總て賍物であることを知つていたとすれば、之を買受けたBに對しては賍物故買罪が成立し、之を知つて加工したものは共犯者としての責任があり、爾後右三十二本を如何なる方法を用いて處分又は領得しようと統制法規に牴觸することは格別、横領罪又は詐欺罪は成立しないものと解さ<要旨第二>れる。又若しBが右三十二本が盗品であることを知らなかつたにしても、知らなかつたことについて過失が</要旨第二>あつたとすれば民法第百九十二條により、動産である右三十二本の油類に付行使の權利を取得しないと同時に賊物であることに氣が付いてから之を所有者に返還しない以上完全に返還するまで所有者のため之を保管する法律上の義務を負擔すべきもので、之を擅に領得又は費消すれば横領罪が構成するものにして(大審院大正六年十月二十三日判決)之を領得するに付欺罔手段を講しても詐欺罪は成立しないことは判例の示すところである(大審院大正十二年三月一日、同大正七年七月五日判決)。従つて之に加工した被告人も横領罪の共犯者とし<要旨第一>て處断せらるべきであ 欺罔手段を講しても詐欺罪は成立しないことは判例の示すところである(大審院大正十二年三月一日、同大正七年七月五日判決)。従つて之に加工した被告人も横領罪の共犯者とし<要旨第一>て處断せらるべきである(起訴状及び第一審判決は之と同旨)。更に若しBが、右三十二本の油類を取得する</要旨第一>に付平穏、公然、善意、無過失であつたとしても、右油類が盗品又は遺失品であつたとすれば民法第百九十三條により二年間所有者から回復の請求がないときは右動産の所有權を取得するが、右二年間は所有權は依然として元の所有者にあるものにして(大審院昭和四年十二月十一日判決)所有者から請求あり次第何時にても無償で返還せねばならない法律上の義務があり、従つてBが盗品又は遺失品であつたことに気が付いてからは完全に返還するまで所有者のため保管すべき法律上の義務があるものと解さねばならない。従つてBと被告人とが共謀の上、欺罔手段を講じて之が返還を免れて之を領得したのは横領罪に該當し、詐欺罪は成立しない。 然るに原判決は、動産であるドラム罐三十二本の油類の中、幾本が盗品で残りは如何なる性質のものかについて確定しないばかりでなく、之を入手したBが如何なる法律的根據に基き、無償返還せねばならないかに付<要旨第三>ても判示せず、而も右物件に付處分又は管理の權限又は地位があつたかどうかもわからない第三者F警部補</要旨第三>を欺罔し、右油類の一部の返還を免れた行爲を漫然詐欺罪と認定したのは、詐欺罪としては全く犯罪の構成要件を缺いた事實の摘示で理由不備である。この黙に關する上告論旨第一點、第二點、第三點は其の設明の内容に於では妥當でない點もあるが結局結論に於ては、理由あることに歸着するから、其の他の論旨に付ては説明を省略し、原判決を破毀せねばならぬ。而して本件は前述の通り、事實の確定に 、第三點は其の設明の内容に於では妥當でない點もあるが結局結論に於ては、理由あることに歸着するから、其の他の論旨に付ては説明を省略し、原判決を破毀せねばならぬ。而して本件は前述の通り、事實の確定に影響を及ぼすべき法令の違反があり、當裁判所自ら審理制決をすることは適當でないから刑事訴訟法第四百四十七條、第四百四十八條の二第一項に基き、本件を富山地方裁判所に差戻す。 よつて主文の通り判決する。 (裁判長判事世古件逸郎判事鈴木正路判事赤間鎭雄)

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