平成24年11月27日判決言渡平成24年(行ウ)第1号土壌汚染対策法による土壌汚染状況調査報告義務付け処分取消請求事件主文 1 本件訴えを却下する。 2 訴訟の総費用(ただし,上告審において負担を命じられた分を除く。)は,被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求旭川市長が原告に対し平成20年8月21日付けでなした土壌汚染対策法第3条第2項の通知に基づく同法第3条第1項の規定による土壌汚染状況の調査及び報告を義務付ける旨の処分を取り消す。 第2 事案の概要本件は,旭川市長から,平成20年8月21日付けで土壌汚染対策法(以下「土対法」という。)3条2項に基づく通知(以下「本件処分」という。)を受けた原告が,①本件処分の際に行政手続法(以下「行手法」という。)所定の弁明の機会が付与されていないこと,②本件通知は土対法の解釈を誤ってなされたものであること,③本件処分の根拠となる土対法3条は憲法29条に違反していることなどを理由として本件処分の違法性を主張し,その取消しを求める抗告訴訟(以下「本件訴え」という。)を提起した事案である。 差戻前の第1審である当庁は,平成21年9月8日,土対法3条2項に基づく通知は行政処分に当たらないと判断して,本件訴えを却下した(当庁平成○年(行ウ)第○号)。そこで,原告が控訴をしたところ,差戻前の控訴審である札幌高等裁判所は,平成22年10月12日,土対法3条2項に基づく通知は行政処分に当たるとし,差戻前の第1審判決を取り消して本件を当庁に差し戻すとの判決をした(同庁平成○年(行コ)第○号)。これに対し,被告が上 告したが,最高裁判所は,平成24年2月3日,上告を棄却した(同庁平成○年(行ヒ)第○号)。 本件は,差戻後の第1審である。 1 前 (同庁平成○年(行コ)第○号)。これに対し,被告が上 告したが,最高裁判所は,平成24年2月3日,上告を棄却した(同庁平成○年(行ヒ)第○号)。 本件は,差戻後の第1審である。 1 前提事実(証拠を摘示した事実を除き,当事者間に争いのない事実又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)(1) 当事者等ア原告は,旭川市内に住所を有し,旭川市α×1号(登記簿上の所在地番は,旭川市β×番1)所在の土地(以下「本件土地」という。)を所有する者である。 イ被告は,中核市である地方公共団体である(公知の事実)。 (2) 訴外株式会社Aによる本件土地の占有等ア訴外株式会社B(以下「訴外B」という。)は,平成18年3月1日当時,本件土地上に特定有害物質であるテトラクロロエチレンを使用する有害物質使用特定施設である洗たく業の用に供する洗浄施設を設置し,本件土地を占有していたところ,同日,綜合クリーニング業部門等を訴外「株式会社A」(以下「訴外A」という。)として会社分割した(甲4の1,2)。 イ訴外Aは,同日以降,平成19年11月30日ころまで,上記洗たく業の用に供する洗浄施設を使用し,本件土地を占有していた(弁論の全趣旨)。 ウ旭川市長は,平成20年4月17日,上記特定施設の廃止を確認した(甲22)。 (3) 本件処分(甲1,弁論の全趣旨)旭川市長は,原告に対し,平成20年8月21日,同日付け旭環対第○号「有害物質使用特定施設の使用廃止等について(通知)」と題する書面(以下「本件通知書」という。)により本件処分を行い,原告は,同日ころ,本 件通知書を受け取った。 なお,旭川市長は,本件処分に際して,原告に対して,弁明の機会を付与する旨の書面による通知(行手法30条)をして という。)により本件処分を行い,原告は,同日ころ,本 件通知書を受け取った。 なお,旭川市長は,本件処分に際して,原告に対して,弁明の機会を付与する旨の書面による通知(行手法30条)をしていない。 (4) 本件訴えの提起原告は,平成20年11月14日,差戻前の第1審である当庁に本件訴えを提起した(顕著な事実)。 (5) 本件処分の取消し旭川市長は,本件訴えが当審に差し戻された後の平成24年9月18日付けで,本件処分に行手法13条の弁明の機会の付与を欠いた瑕疵があることを理由に,本件処分を取り消し,原告に対して,同月19日,その旨通知した(乙12,14の1,14の2)。 2 争点に関する当事者の主張(1) 訴えの利益の有無(本案前の主張)【被告の主張】旭川市長は,平成24年9月18日付けで本件処分を取り消し,原告に対し,同月19日にその旨通知しているから,本件訴えの利益は消滅した。 【原告の主張】旭川市長が再度の通知処分を予定しながら本件処分を取り消し,本案の判断を免れることは,原告に二重の行政手続や訴訟遂行の負担を強いるもので許されない。 (2) 弁明の機会付与を欠いた違法の有無【原告の主張】本件処分は,原告に対する不利益処分に該当するところ,旭川市長は,原告に対して,行手法13条1項2号に基づき,弁明の機会を付与すべきである。しかし,旭川市長は,原告に対して,弁明の機会を付与する旨の書面による通知(行手法30条)をしていない。 したがって,本件処分には,弁明の機会付与を欠いた違法がある。 なお,本件処分は,原告に対する十分な事情聴取と掘削権原に関する意見調整の機会を与えられないまま行われたものであり,適正手続を保障する憲法31条にも違反する。 【被告の 与を欠いた違法がある。 なお,本件処分は,原告に対する十分な事情聴取と掘削権原に関する意見調整の機会を与えられないまま行われたものであり,適正手続を保障する憲法31条にも違反する。 【被告の主張】本件処分に際して,原告に対し,弁明の機会を付与していないことについては争わない。 (3) 土対法3条の解釈を誤った違法の有無【原告の主張】ア(ア) 土対法3条1項によって,第一次的に調査報告義務を課せられるのは,その土地上に有害物質使用特定施設を設置していた者であり,有害物質使用特定施設を設置していない者が調査報告義務を課せられるのは,設置者自身が行方不明である等やむを得ない事由がある場合に限られると解するべきである。 なぜなら,①平成21年法律第23号による改正前の土対法(以下「旧土対法」という。)7条1項ただし書及び同条2項の趣旨が,環境基本法37条にいう原因者負担原則の現れと考えられるところ,これとの整合性を図る必要があり,②土対法3条1項及び2項において,有害物質使用特定施設を設置していない所有者等に対する調査報告義務の課し方が明らかに補充的であるからである。また,このように解釈しなければ,後記(4)のように土対法3条が違憲となってしまうからである。 (イ) 本件においては,訴外B及び訴外Aが,本件土地上で有害物質使用特定施設であるクリーニング工場を設置し,業務を行っていたのであるから,土対法3条1項の「所有者等」に含まれる「占有者」に当たる。 すなわち,土壌汚染状況調査報告義務を負うのは,原告ではなく,訴外B又は訴外Aである。 したがって,本件処分には土対法3条の解釈を誤った違法がある。 イ被告の主張に対する反論被告は,土対法3条1項の「所有者等」に含まれる占有者について,土 B又は訴外Aである。 したがって,本件処分には土対法3条の解釈を誤った違法がある。 イ被告の主張に対する反論被告は,土対法3条1項の「所有者等」に含まれる占有者について,土地の掘削等に関する権原が賃貸借契約において定められていることを要する旨主張する。しかし,この解釈は,条文に規定されていない条件を付加して,汚染について何ら帰責性がない所有者に調査報告義務を課すことになるから,土対法の趣旨を逸脱した解釈であり,妥当でない。 【被告の主張】ア土壌汚染状況調査の実施主体は,土地の状態に責任を有する「土地の所有者等」である。そして,土壌汚染状況調査は土地の掘削等を伴うから,その実施主体である「所有者等」は,土地の掘削等に関する権原を有する者である必要があり,通常,所有者がこれに当たる。なお,「土地の所有者等」に管理者及び占有者が含められたのは,賃貸借契約において,土地の掘削等を行うことも含め使用等の権原をすべて賃借人が有する旨定められている場合などが想定されていたからであり,かかる場合には,賃借人たる管理者又は占有者が上記実施主体となる。 本件において,旭川市長が原告に対し本件処分をしたのは,訴外B等が土対法3条1項の「土地の所有者等」に当たらず,原告が同条2項の規定に該当する,「有害物質使用特定施設を設置していた者以外」の「所有者等」であるからである。 すなわち,原告と訴外Bとの間の賃貸借契約には,契約書が存在しないのであるから,当然,土地の掘削等に関する取り決めはなされておらず,訴外BないしAは本件土地の掘削等に関する権原を有しないというべきである。したがって,本件処分に土対法3条の解釈を誤った違法はない。 イ原告の主張に対する反論(ア) 旧土対法7条は,同条1項において 件土地の掘削等に関する権原を有しないというべきである。したがって,本件処分に土対法3条の解釈を誤った違法はない。 イ原告の主張に対する反論(ア) 旧土対法7条は,同条1項において,土地の所有者等に対して,汚 染の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができる旨,同条ただし書において,汚染の原因が土地の所有者等以外の者の行為によることが明らかであって,行為者に汚染の除去等の措置を講じさせることが相当であると認められ,かつ,これを講じさせることについて土地の所有者等に異議がない場合に限って,汚染原因者に汚染の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができる旨規定しているところ,このような規定ぶりからは,旧土対法7条における汚染の除去等の措置の実施主体が,原則として,「土地の所有者等」であることは明らかである。 また,環境基本法における「原因者負担の原則」とは,費用負担に関するものであり,実施主体に関するものではない上,土対法3条の調査は,汚染原因者が判明していない段階で,汚染の発見のために行うものであり,かつ,状態責任を問うものであるから,上記原則は妥当しない。 (イ) 土対法3条1項は,有害物質使用「特定施設を設置していたもの又は次項の規定により都道府県知事から通知を受けたもの」と規定しているところ,このような規定ぶりからは,有害物質使用特定施設を設置していたものと通知を受けたものとの間に優先劣後の関係があるとは解されない。 (4) 土対法3条の憲法適合性の有無【原告の主張】ア土対法の立法目的は,「土壌汚染対策の実施を図り,もって国民の健康を保護すること」にあり(土対法1条),これ自体は正当である。 しかし,汚染状況調査の目的を実現するためには,所有者等に対して,汚染原因者又は国若しくは 壌汚染対策の実施を図り,もって国民の健康を保護すること」にあり(土対法1条),これ自体は正当である。 しかし,汚染状況調査の目的を実現するためには,所有者等に対して,汚染原因者又は国若しくは公共団体(又は一次的調査義務が課された有害物質使用特定施設設置者)が,当該土地に立ち入って,土壌を掘削し,採取することを受け入れる義務を課せば足りるのであり,これを超えて,賃借人が有害物質使用特定施設を設置した土地の賃貸人に過ぎない所有者に 対して,汚染原因者が明確であるにもかかわらず,過大な費用負担と行政刑罰の威嚇を伴う調査報告義務を課すことには,必要性も合理性もない。 また,土対法の成立は平成14年であるところ,本件土地に関する賃貸借契約が締結された昭和39年以前において,原告は,土壌汚染状況調査報告義務の負担を予定して事前求償の合意をする等の財産的負担の予防措置を執ることが不可能であった上,その後も予防措置等を執りようがなかった。そうすると,上記の費用負担等は,原告に対して特別の犠牲を強いるものであって,補償が必要になるところ,そのような規定はない。 したがって,土対法3条は,憲法29条に反している。 イ被告の主張に対する反論被告は,警察法上の状態責任を有しているから,所有者等が土壌汚染状況調査を行う必要がある旨主張する。しかし,状態責任を負うのは,社会生活,国民の健康被害に対する危険が発生しているか,若しくはその危険が差し迫った状態であることが必要であるところ,本件において,そのような状態は発生していない。 【被告の主張】ア土対法の立法事実としては,人の健康被害防止の必要性だけではなく,土壌の特定有害物質による汚染状況の把握の必要性も存在する。また,憲法29条2項は,財産権の内容は公共の福祉に適合するよう 】ア土対法の立法事実としては,人の健康被害防止の必要性だけではなく,土壌の特定有害物質による汚染状況の把握の必要性も存在する。また,憲法29条2項は,財産権の内容は公共の福祉に適合するように法律で定める旨規定しているところ,土壌汚染状況調査は,土地が人の健康に対して危険な状態を生じさせているかを把握する行為であり,危険な状態を支配している者である所有者等が危険の発生を防止する責任(いわゆる警察法上の状態責任)を有しているのであるから,土地の所有者として受忍すべき限度の範囲内のものである。 確かに,汚染原因者として蓋然性が高い者等が所有者等の承諾を得て調査を行う手法も考えられなくはないが,汚染が判明した場合には人の健康 に係る被害を防止するために早急に対策を講じる必要があること等を考慮すると,土壌汚染状況調査の実効性を高めるためには,確実に存在する所有者等をその実施主体とするのが最も合理的である。 したがって,土対法は,憲法29条に反しない。 イ原告の主張に対する反論原告の主張は,汚染原因者が明確となっていることを前提としているが,土壌汚染状況調査は,当該土地が汚染されているか否かを調査するものであって,調査を行っていない時点で,汚染されているかどうかは不明であり,汚染原因者は判明していないのであるから,失当である。 第3 当裁判所の判断前提事実(5)のとおり,本件処分は,平成24年9月18日付けで旭川市長により取り消され,その効力は失われたものであるから,本件処分の取消しを求める訴えの利益が失われたことは明らかである。 なお,原告は,旭川市長が再度の通知処分を予定しながら本件処分を取り消して,本案の判断を免れることは許されないと主張するが,本件処分は同処分を受けた者に義務を の利益が失われたことは明らかである。 なお,原告は,旭川市長が再度の通知処分を予定しながら本件処分を取り消して,本案の判断を免れることは許されないと主張するが,本件処分は同処分を受けた者に義務を生じさせるものであるから,違法の瑕疵がある限り,処分行政庁がこれを取り消し得るというべきであり,原告の主張は採用できない。 以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,本件訴えは,不適法であるから却下することとし,訴訟費用については,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法67条2項,62条を適用して本件訴訟の経過にかんがみて訴訟の総費用(上告審において負担を命じられた分を除く。)を被告に負担させることとし,主文のとおり判決する。 旭川地方裁判所民事部 裁判長裁判官田口治美 裁判官立 野 みすず 裁判官小谷岳央
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