昭和46(う)1561 道路交通法違反、業務上過失傷害被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和46年11月30日 東京高等裁判所
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判決文本文11,907 文字)

主文 原判決を破棄する。被告人を懲役八月に処する。当審における訴訟費用は被告人の負担とする。理由 本件控訴の趣意は、東京高等検察庁検察官検事辰巳信夫提出の静岡地方検察庁検察官検事斎藤巌作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所はつぎのとおり判断する。一、 控訴趣意第一(法令の解釈、適用の誤り)について所論は、原判決は、本件公訴事実のうち第一の(四)の事故報告義務違反の点について、外形的事実はほぼ公訴事実のとおり認定しながら、これに適用すべき罰条である道路交通法(以下当裁判所の判断を示す場合においても、法と略称する。)七二条一項後段、一一九条一項一〇号の解釈については、その前身である道路交通取締法施行令六七条二項を合憲とした最高裁判所昭和三七年五月二日大法廷判決の趣旨に従うのが望ましいところであるが、審法三八条一項の要請を考慮して「右規定による報告義務の範囲をできる限り制限的に解釈」することによりその合憲性を認めるのが相当であるとしたうえ「交通事故により人の死傷があつた場合において、警察官が事故発生直後に運転者のうちの一人からの報告等によつて右条項所定の事項を知り、または容易に知ることができる状態に置かれたときは、警察官が負傷者の救護、交通秩序の回復につき適切な措置をとるために他の運転者に右条項所定の事項の報告を求める必要は消滅するものと考えられるから、かような場合には、他の運転者は、右事項を報告する義務を免れるものと解すべきである」として、本件の場合においては、被告人運転の車両によつて追突された車両の運転者は、事故発生直後、沼津駅前派出所に出頭して、同所の巡査に対し、追突事故により同乗者一名が負傷し病院に収容された旨報告し、同巡 て、本件の場合においては、被告人運転の車両によつて追突された車両の運転者は、事故発生直後、沼津駅前派出所に出頭して、同所の巡査に対し、追突事故により同乗者一名が負傷し病院に収容された旨報告し、同巡査からの連絡により沼津警察署勤務巡査部長らが現場に赴いたが、その時にはすでに負傷者は病院に運ばれてしまつており、また本件事故のため現場付近の交通が混乱したこともなかつたので、負傷者の救護ないし交通秩序の回復のために措置をとることもなく、現場検証を実施したものであることが認められるから、被告人は、追突した運転者であつても、右事項を報告する義務を免れるにいたつたものというべきであるとし、公訴事実第一の(四)の事故報告義務違反の事実は、罪とならないという理由で、無罪の言い渡しをしたけれども、法七二条一項後段の前身である道路交通取締法施行令六七条二項の規定が憲法三八条一項に違反しないことは原判決の引用する最高裁判所大法廷判決が明白に判示しているところであり、従つて改正後の法七二条一項後段の規定についても同様に解すべきであるから、同規定にいささかたりとも違憲の疑いがあるとして、これを制限的に解釈して、同規定の合憲性を認めようとした原判決の解釈は、すでにその前提において失当であるばかりでなく、原判決が複数の車両相互間において交通事故が発生した場合に、警察官が事故発生直後に一方の運転者からの報告等により法七二条一項後段所定の事項を知る状況に置かれたときは、他方の運転者は報告義務を免れるとした点も、法律上明定された義務をほしいままに否定するものであることすなわち法七二条一項後段の規定は、複数の車両相互間における交通事故が発生した場合においても、その交通事故をひき起した当該車両の運転者らのそれぞれに対し、自ら所定の報告義務をつくすようあくまで命じているものと 発生直後に一方の運転者からの報告等により法七二条一項後段所定の事項を知る状況に置かれたときは、他方の運転者は報告義務を免れるとした点も、法律上明定された義務をほしいままに否定するものであることすなわち法七二条一項後段の規定は、複数の車両相互間における交通事故が発生した場合においても、その交通事故をひき起した当該車両の運転者らのそれぞれに対し、自ら所定の報告義務をつくすようあくまで命じているものと 二条一項後段の規定は、複数の車両相互間における交通事故が発生した場合においても、その交通事故をひき起した当該車両の運転者らのそれぞれに対し、自ら所定の報告義務をつくすようあくまで命じているものと解すべきこと文理上疑いをはさむ余地が全くないのであるから、原判決の解釈はこの明文に反するものであることおよびこれを実質的にみても、交通事故をひき起した当該車両の運転者らが自ら報告をなすことにより、その報告事項の内容について具体性をそなえ、正確かつ迅速を期しえられることや、もし原判決の考え方に従つて、極端な場合を例にとると、自己以外に何人も警察官に事故の発生を報告する者がなければ、運転者に報告義務あり、いやしくも相手方の運転者或いは第三者の通報があれば、その報告義務がなくなることとなつて、報告義務者である運転者と全くかかわりのない外部的、偶然的な事情によつて報告義務の有無が決せられることとなり、単に法的安全を害するばかりでなく、その義務違反が本法のように刑罰法規に触れる場合においては、処罰の有無も同様外部的、偶然的な要素に左、右され、著しい不均衝と不正義とを生ずることとなることにかんがみると、きわめて不当な解釈であつて、採るをえないものであり、とくにつぎにあげるような諸事情すなわち本件交通事故についての救護および報告は、被害車両の運転者であり、自らも受傷したAによりもつぱらなされたものであり、加害車両の運転者である被告人は、事故直後その現場において相手車両に負傷者があることなどを知悉しながら、負傷等なんらやむをえない事情もなかつたのに、自ら、報告する意思がなかつたのはもちろん、右Aらにこれを依頼することもなく、事故現場をいち早く逃走したものであることや、被告人運転の車両は、追突したことにより、前バンパー、ラヂエターシエル、左前フエンダー、左霧除 がなかつたのはもちろん、右Aらにこれを依頼することもなく、事故現場をいち早く逃走したものであることや、被告人運転の車両は、追突したことにより、前バンパー、ラヂエターシエル、左前フエンダー、左霧除け灯、左前方向器のレンズ等が破損しており、従つて夜間に右のような故障車両を運転し、交通頻繁とみられる事故現場から走行をつづけることは、さらに新たな危険状態が発生するおそれなしとしないのであるから、これが未然に防止されるための適切な措置が警察官によつてとられる必要があつたことの認められる本件においては、原判決のように一方の運転者からの報告等によつて、他方の運転者が報告義務を免れると解することの不当であることがますます明らかとなるのであるから、本件について事故報告義務違反罪の成立を否定する判断をした原判決は、法令の解釈、適用を誤つたものであり、この誤りは原判決の全部に影響を及ぼしていることが明らかであり、原判決はその全部について破棄を免れないというものである。 あつたことの認められる本件においては、原判決のように一方の運転者からの報告等によつて、他方の運転者が報告義務を免れると解することの不当であることがますます明らかとなるのであるから、本件について事故報告義務違反罪の成立を否定する判断をした原判決は、法令の解釈、適用を誤つたものであり、この誤りは原判決の全部に影響を及ぼしていることが明らかであり、原判決はその全部について破棄を免れないというものである。そこで、所論に基づいて、記録を検討すると、原判決は、本件公訴事実のうち第一の(四)の事実すなわち法七二条一項後段所定の事故報告義務違反の事実について、ほぼ公訴事実記載のとおりの事故すなわち昭和四三年四月二二日午後八時二五分頃ないし午後八時三〇分頃沼津市a町b番地付近の原判示交差点の手前において、被告人運転の車両がA運転の車両に追突し、その衝撃により右Aが加療約八か月間を要する頸椎捻挫、相手車両の同乗者Bが加療約三か月間を要する頸腕症候群の傷害を負つたことおよび被告人が警察官に対し右事故発生の日時、場所等前記条項所定の事項を報告しなかつたことを認めながら、これに適用されるべき罰条である法七二条一項後段、一一九条一項一〇号については、所論のとおりの制限的解釈をしたうえ、本件の場合においては、 場所等前記条項所定の事項を報告しなかつたことを認めながら、これに適用されるべき罰条である法七二条一項後段、一一九条一項一〇号については、所論のとおりの制限的解釈をしたうえ、本件の場合においては、被告人運転の車両によつて追突された車両の運転者であるAが、事故発生直後、沼津駅前派出所に出頭して、同所の巡査に対し、追突事故により同乗者一名が負傷し、病院に収容された旨報告し、同巡査からの報告により沼津警察署勤務の巡査部長が現場に赴いているのであるから、右解釈にいう警察官が事故発生直後に運転者のうちの一人からの報告によつて前記条項所定の事項を知り、または容易に知ることができる状態に置かれたとして、被告人は右事項を報告する義務を免れるに至つたものとして、前記事故報告義務違反の事実は、罪とならないという理由で、無罪の言い渡しをしたことは所論のとおりである。ところで、所論は、原判決の引用する大法廷判決が、法七二条一項後段の前身である道路交通取締法施行令六七条二項の規定は、憲法三八条一項に違反しないと宣言しているのに、原判決がその合憲とされた法七二条一項後段の規定に違憲の疑いがあるとして、これを制限的に解釈することにより、同規定の合憲性を認めようとしたのは、その前提において失当であると主張する。 いう理由で、無罪の言い渡しをしたことは所論のとおりである。ところで、所論は、原判決の引用する大法廷判決が、法七二条一項後段の前身である道路交通取締法施行令六七条二項の規定は、憲法三八条一項に違反しないと宣言しているのに、原判決がその合憲とされた法七二条一項後段の規定に違憲の疑いがあるとして、これを制限的に解釈することにより、同規定の合憲性を認めようとしたのは、その前提において失当であると主張する。しかしながら、右大法廷の判決は、前記施行令六七条二項中事故内容の報告義務を定める部分は自己の不利益な供述を強要するものであつて、審法三八条一項に違反し無効であるとの論旨に答えて、同令六七条二項により同条項所定の操縦者らに対し事故の報告を命ずることは憲法三八条一項にいう自己に不利益な供述の強要に当らないと判示したものであつて、原判決でいう事故報告義務の消長の点にまで言及しているわけのものではないから、原判決が所論の解釈をしたからといつて、そのことが右の判例と いう自己に不利益な供述の強要に当らないと判示したものであつて、原判決でいう事故報告義務の消長の点にまで言及しているわけのものではないから、原判決が所論の解釈をしたからといつて、そのことが右の判例と直接関係があるわけのものではないばかりでなく、原判決が所論のように法七二条一項後段の規定を「制限的に解釈することによりその合憲性を認めるのが相当である」と判示したのは、措辞やや適切を欠いたきらいがないでもないが、その趣旨とするところは、大法廷が合憲とした前記施行令六七条二項ひいてはこれに相当する改正法律の法七二条一項後段の規定を解釈するにあたつても、大法廷判決の趣旨に従うのが相当であるとする一方、いわゆる違憲説にも耳を傾けて、憲法上の要請をとり入れ、運転者らが事故の報告を義務づけられる場合を限定的に解釈して、いささかたりとも違憲の非難をうけることのないような解釈をするのが相当であるということをうたつたまでのことであつて、所論が右において指摘する部分は、むしろこの種規定の解釈をするにあたりとるべき指針を強調したにすぎないものとみられないでもないのであるから、原判決が前記のように判示したからといつて、法七二条一項後段の規定が違憲であるとか、その疑いがあるとか断じているわけのものではなく、ましてや大法廷判決が明白に合憲と判断した事項を無視ないし軽視する趣旨のことを述べているわけのものでもないのであるから、原判決のした前記の判示は相当であり、原判決の試みた制限的解釈が、所論のように、その前提において誤りをおかしているとの非難をうくるいわれはごうも存しない。 原判決が前記のように判示したからといつて、法七二条一項後段の規定が違憲であるとか、その疑いがあるとか断じているわけのものではなく、ましてや大法廷判決が明白に合憲と判断した事項を無視ないし軽視する趣旨のことを述べているわけのものでもないのであるから、原判決のした前記の判示は相当であり、原判決の試みた制限的解釈が、所論のように、その前提において誤りをおかしているとの非難をうくるいわれはごうも存しない。しかしながら、原判決が法七二条一項後段の規定について示した前記の制限的解釈は、たとえ交通事故を起した一方の運転者から事故の報告がなされても、他方の運転者、本件の場合においては被告人が事故の報告を しかしながら、原判決が法七二条一項後段の規定について示した前記の制限的解釈は、たとえ交通事故を起した一方の運転者から事故の報告がなされても、他方の運転者、本件の場合においては被告人が事故の報告をしなかつた事情のいかんによつては、事故報告義務違反の罪が成立するものであるのに、そのような事情を一切看過し、事故発生の直後に運転者のうちの一人から事故の報告がなされ、その報告によつて警察官が前記条項所定の事項を知り、または容易に知ることができる状態に置かれさえすれば、他の運転者はただちに右事項報告の義務を免れるに至るとした点において、誤つているといわなければならない。これを本件の具体的な事案について考察すると、原判決挙示の証拠のうちAの捜査官に対する供述調書と当審における事実取調の結果、ことに証人Aの当審公判廷における供述によると、被害車両(タクシー)の運転者Aは、信号待ちのため、原判示の交差点入口側に設けられた横断歩道の手前において、一時停止していた際、前記のように被告人運転の車両によつて、いきなり追突され、そのため約五メートル程押し出されて停止したこと、同人はまもなく我に返つて、うしろの客席をみたところ、客のBが両手で頭をかかえこみ、しかめ面をしていたので、その客を医者に連れてゆかなければならないと考え、下車すると、自車がさき程まで信号待ちをしていた地点の付近に被告人運転の車両が停止していたこと、そこでAはその車両の運転台の近くにゆき、被告人に対し「客が怪我していて大変だ」と訴えたり、車はそのままにしておくように指示したりしたのち、同所付近の歩道に上り、客を病院に運ぶためのタクシーが通るのを待つうち、同人の勤務する会社のタクシー(空車)が反対方向より通りかかつたので、その車を止め、事情を話して、その車を転回させて、自己の運転していた前記 いた地点の付近に被告人運転の車両が停止していたこと、そこでAはその車両の運転台の近くにゆき、被告人に対し「客が怪我していて大変だ」と訴えたり、車はそのままにしておくように指示したりしたのち、同所付近の歩道に上り、客を病院に運ぶためのタクシーが通るのを待つうち、同人の勤務する会社のタクシー(空車)が反対方向より通りかかつたので、その車を止め、事情を話して、その車を転回させて、自己の運転していた前記 に上り、客を病院に運ぶためのタクシーが通るのを待つうち、同人の勤務する会社のタクシー(空車)が反対方向より通りかかつたので、その車を止め、事情を話して、その車を転回させて、自己の運転していた前記事故車両に横づけさせ、怪我した客をその車に収容して、病院にいつてもらつたこと、これと前後して同人が被告人運転の車両が停止していた方向をみると、同車両が見当らなかつたので、同人は客を収容した車が発進したのち、付近を探し廻つたが、やはり発見できないため、逃げられたものと思い、そこから約四〇メートル程はなれた沼津駅前派出所にあわてて走つていつて、事故の報告をしたこと、右の報告がなされたのは事故が発生してから長くみて五、六分後であつたこと、その間Aの運転していた事故車両は押し出されて停止した前記の地点に放置されたままであり、また被告人運転の車両は本件追突事故によつて所論指摘のとおり破損しており、夜間にその故障車両を運転して、交通の頻繁な事故現場付近を走行することは危険であり、交通秩序の回復、交通の危険防止と安全確保について警察官による適切な措置が早急にとられる必要があつたことの各事実が認められ、また前記証拠に原判決の挙示する被告人の捜査官に対する供述調書をあわせ考察すると、被告人は追突事故をひき起したのち、引き続き車内にあつたが、そのうち自己が無免許運転をしており、かつ友人の原審相被告人Cから借りうけた車両を運転していて事故を起したことを思い、右Cに相談するため、Aが前記のように負傷した客を別のタクシーに収容しようとして動き廻つている隙をみて、自車を発進させて、現場から逃走し、右Cの待つているバー「D」に至り、Cに対し事情をうちあけた結果、Cが被告人の身代りとなつて、事故の責任をひきうけてくれることになつたので、被告人はCの運転する前記車両に同乗して 、現場から逃走し、右Cの待つているバー「D」に至り、Cに対し事情をうちあけた結果、Cが被告人の身代りとなつて、事故の責任をひきうけてくれることになつたので、被告人はCの運転する前記車両に同乗して既に実況見分の終つた事故現場に至り、Cに対し事故発生のもようを説明したのち、再びCの運転する車両で、Aの勤務しているタクシー会社に至り、Cにおいて、追突車両の運転者であると述べ、被告人ともどもあやまつたが、警察に連絡され、まもなく同所に駈けつけた警察官によつて、Cの酒気帯び検知がなされたこと、その検知がなされた時刻が午後九時四五分頃であつたことおよび被告人はこの事故によつて負傷しなかつたことが認められる。 見分の終つた事故現場に至り、Cに対し事故発生のもようを説明したのち、再びCの運転する車両で、Aの勤務しているタクシー会社に至り、Cにおいて、追突車両の運転者であると述べ、被告人ともどもあやまつたが、警察に連絡され、まもなく同所に駈けつけた警察官によつて、Cの酒気帯び検知がなされたこと、その検知がなされた時刻が午後九時四五分頃であつたことおよび被告人はこの事故によつて負傷しなかつたことが認められる。すなわち被告人は追突によつて相手車両の同乗者が負傷しており、また自、他双方の車両が損傷をうけたことを知りながら、自分が負傷したわけではなく、また他の負傷者救護に協力するなどのやむをえない事情もなく、報告しようと思えば事故後いつでも直ちに報告ができる状態にあつたのにもかかわらず、事故の報告をする意思なく相手車両の運転者Aが負傷者救護に奔走中のすきに、事故現場から逃走したものであることが認められる。そして法七二条一項後段は事故車両の各運転者にそれぞれ報告義務があることを規定しているのであるが、各運転者は、警察官が交通事故に対する応急の処理をする必要があるために、右の報告義務を科せられたものであつて、それに必要な限度においてのみ報告の義務をおうのであり、従つて若し一方の運転者により事故後直ちに右法条所定の事項の報告が警察官になされ、それにより負傷者の救護、道路における危険の防止、その他交通の安全と円滑を図る為の万全の措置がとられ、既に警察官関与の必要性がなくなり、最早他の運転者より重ねて報告をしても意味がないような状態に立ち至つたときは、他の運転者 道路における危険の防止、その他交通の安全と円滑を図る為の万全の措置がとられ、既に警察官関与の必要性がなくなり、最早他の運転者より重ねて報告をしても意味がないような状態に立ち至つたときは、他の運転者による報告義務が消滅することも考えられるのであるから、本件の場合、追突した運転者である被告人が被害運転者から直ちに右事項の報告が警察官になされた結果事故に対する応急処理が完了した状態に至つたことを見届けた上で、事故現場を立ち去つたというのであ<要旨>れば、その際の事情によりあるいは、事故報告義務違反の罪が成立しないとする余地もないではないが、前段</要旨>認定の通りそのような事跡が全く認められない被告人については、事故報告の意思なくして事故現場から逃走してしまつた時点において、既に報告義務をつくさなかつたものとして事故報告義務違反の罪が成立したものといわなければならない。 状態に至つたことを見届けた上で、事故現場を立ち去つたというのであ<要旨>れば、その際の事情によりあるいは、事故報告義務違反の罪が成立しないとする余地もないではないが、前段</要旨>認定の通りそのような事跡が全く認められない被告人については、事故報告の意思なくして事故現場から逃走してしまつた時点において、既に報告義務をつくさなかつたものとして事故報告義務違反の罪が成立したものといわなければならない。従つて被告人の逃走後に、相手方車両の運転者Aから事故の報告がなされた事実があつたとしても、またその報告が事故発生後それほど時間が経つていない時点においてなされ、従つてA運転者については、直ちに報告がなされたものと解せられたとしても、被告人について既に成立した事故報告義務違反の罪に何ら消長を来たすものではない。然るに、原判決は、被告人の側に存する右の重要な事実を看過し、その後に、被告人と何ら関係なく、相手運転者Aの報告があつたという事実にとらわれ、その報告があつたことにより被告人は事故報告をする義務を免れるにいたつたとして、事故報告をしなかつたことは罪とならないとして無罪の言い渡しをしているのであるから、法七二条一項後段の解釈ないしはその適用を誤つたものといわなければならない。そして右の事故報告義務違反の罪と原判示第一の一ないし三の罪は、すべて刑法四五条前段の併合罪として処断 ているのであるから、法七二条一項後段の解釈ないしはその適用を誤つたものといわなければならない。そして右の事故報告義務違反の罪と原判示第一の一ないし三の罪は、すべて刑法四五条前段の併合罪として処断されるべきものであるから、原判決はその全部について破棄を免れない。論旨は理由がある。よつて、本件控訴は理由があるから、量刑不当の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により、原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い、当裁判所においてただちにつぎのとおり自判する。(罪となるべき事実)第一の四として、左の事実を追加するほかは、原判示第一の一ないし三のとおりであるから、これを引用する。「右二記載の日時、場所において、右二記載のとおり、自己の運転する自動車の交通により、AおよびBに傷害を負わせたのに、ただちにその日時、場所等所定の事項をもよりの警察署の警察官に報告しなかつたものである。」(証拠の標目)(省略)(法令の適用)被告人の判示各所為中無免許運転の点(原判示第一、一の事実)は道路交通法一一八条一項一号、六四条にあたるので、所定刑中懲役刑を選択し、業務上過失傷害の点(原判示第一、二の事実)は、被害者毎に、行為時法によると、昭和四三年法律六一号による改正前の刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号、裁判時法によると、右改正後の刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号にあたるので、刑法六条、一〇条により軽い旧法を適用し、右は刑法五四条一項前段の一個の行為で二個の罪名に触れるものであるから、同法一〇条により重いAに傷害を負わせた罪の刑に従い、所定刑中禁錮刑を選択し、負傷者救護義務違反の点(原判示第一、三の事実)は道路交通法一一七条、七二条一項前段に、事故報告義務違反の点(前記第一、四の事実)は同法 よると、右改正後の刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号にあたるので、刑法六条、一〇条により軽い旧法を適用し、右は刑法五四条一項前段の一個の行為で二個の罪名に触れるものであるから、同法一〇条により重いAに傷害を負わせた罪の刑に従い、所定刑中禁錮刑を選択し、負傷者救護義務違反の点(原判示第一、三の事実)は道路交通法一一七条、七二条一項前段に、事故報告義務違反の点(前記第一、四の事実)は同法 重いAに傷害を負わせた罪の刑に従い、所定刑中禁錮刑を選択し、負傷者救護義務違反の点(原判示第一、三の事実)は道路交通法一一七条、七二条一項前段に、事故報告義務違反の点(前記第一、四の事実)は同法一一九条一項一〇号、七二条一項後段にあたるので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条、一〇条により最も重い原判示第一の三の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において、被告人を処断することとなるが、被告人は幼少時に小児麻痺をわずらい、そのため左手が自由に動かない身体であつたのにもかかわらず、原判示第一、一のとおり無免許運転を敢行したものであつて、交通法規をないがしろにしており、かつその運転が危険であつたばかりでなく、その際原判示第一、二のとおり、交通のふくそうする国鉄沼津駅前にある原判示の広い交差点にさしかかつて直進するにあたり、降雨のためくもつてきた前面ガラスをふくことに気をとられて、前方注視を十分にしないまま進行したため、同交差点入口側横断歩道の手前において、信号に従い一時停止していた被害車両の発見がおくれ、同車両に自車を追突させて、同車両の運転者に対し加療約八か月間、その同乗者一名に対し加療約三か月間を要する原判示の各傷害を負わせたものであつて、過失の程度が高く、結果も重く、被害車両の運転者の側には責められるような事由が全く認められないこと、被告人は原判示第一、三および前記第一、四のとおり、右事故をひき起したのにもかかわらず、負傷者の救護等法の定める措置を講ずることも、また事故発生の日時、場所等法所定の事項を警察官に報告することもしなかつたこと、被告人は事故後原審相被告人のCに対し本件事故の身代りを依頼し、これを承諾した同人をして、昭和四四年三月四日静岡地方裁判所沼津支部において、道路交通法違 の事項を警察官に報告することもしなかつたこと、被告人は事故後原審相被告人のCに対し本件事故の身代りを依頼し、これを承諾した同人をして、昭和四四年三月四日静岡地方裁判所沼津支部において、道路交通法違反、業務上過失傷害罪により懲役八月の実刑を言い渡されるの憂き目にあわせるとともに国の裁判を誤まらせたこと(上記判決は昭和四五年一月二六日控訴審で破棄され、無罪の言い渡しがなされている。 いて、道路交通法違 の事項を警察官に報告することもしなかつたこと、被告人は事故後原審相被告人のCに対し本件事故の身代りを依頼し、これを承諾した同人をして、昭和四四年三月四日静岡地方裁判所沼津支部において、道路交通法違反、業務上過失傷害罪により懲役八月の実刑を言い渡されるの憂き目にあわせるとともに国の裁判を誤まらせたこと(上記判決は昭和四五年一月二六日控訴審で破棄され、無罪の言い渡しがなされている。)、被告人は道路交通法違反の罪により罰金刑に処せられたことが二回(そのうち一回は無免許運転)あることなど被告人の刑責は軽視できないと思わしめるような諸事実が存する一方、前記Cが、身代り事件の裁判をうけるにあたり、相手運転者および乗客との問に示談金を合計六九万八、八一〇円とする示談を成立させ、同運転者に対しその示談金の全額を支払つていたので、被告人は昭和四六年二月頃Cに対し右示談金相当額を毎月一万円(ボーナス月に三万円)づつ支払うことを約束し、現在までに合計三〇万円(原判決後の支払額は二八万円)を支払つたこと、右Cが前記のとおり実刑判決をうけたため、周囲の者に促されたという事情があつたにしても、被告人の方から進んで警察署に出頭し、自己が本件の犯人である旨申告して、自首していること、被告人が現在においては自己の非を深く反省していることなど被告人に有利な事情も認められるので、これらの事情をかれこれ勘案し、その他被告人の年齢、経歴、家庭の状況、環境、犯行後の情況等諸般の事情をも考量したうえ、被告人を懲役八月に処し、当審における訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文に従い、被告人に負担させることとして、主文のとおり判決する。(裁判長判事江里口清雄判事上野敏判事中久喜俊世) 主文 に負担させることとして、主文のとおり判決する。(裁判長判事江里口清雄判事上野敏判事中久喜俊世)

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