平成13(ネ)142 家屋明渡等請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成14年10月15日 広島高等裁判所
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判決文本文11,779 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要本件は,被控訴人が,市営住宅を賃借し入居した控訴人に対し,賃料の不払いを理由に賃貸借契約を解除したとして,その明渡しを求めるとともに,未払家賃とこれに対する延滞金及び明渡し済みまでの使用損害金の支払を求める事案である。 1 前提となる事実(争いがないか,掲記証拠によって認定した事実)(1) 被控訴人は,控訴人に対し,平成5年8月1日,被控訴人所有の原判決別紙物件目録記載1の家屋(以下「本件家屋」という。)を次のとおりの約定で賃貸(使用許可)した(以下「本件賃貸借契約」という。)。 ア家賃は1か月7500円とし,毎月末日限り支払う。 イ家賃の支払を遅滞したときは,各月家賃に対する各納付期限の翌日から支払済みまで年14.6パーセント(納付期限の翌日から翌月の応当日の前日までは年7.3パーセント)の割合による延滞金(ただし,その計算の基礎となる家賃に1000円未満の端数があるとき,又は家賃の全額が2000円未満であるときは,その端数金額又はその全額を切り捨て,延滞金の確定額に100円未満の端数があるとき,又はその全額が1000円未満であるときは,その端数金額又はその全額を切り捨てる。)を支払う。 ウ控訴人は,本件賃貸借契約に付随して,被控訴人所有の原判決別紙物件目録記載2の倉庫を使用することができる。 (2) その後,本件家屋の月額家賃は,平成8年8月から9200円に,平成9年8月から9800円に,同年10月から1 随して,被控訴人所有の原判決別紙物件目録記載2の倉庫を使用することができる。 (2) その後,本件家屋の月額家賃は,平成8年8月から9200円に,平成9年8月から9800円に,同年10月から1万2740円に,平成10年4月から9800円に,同年8月から1万0400円に,平成11年8月から1万1000円に,平成12年4月から8万7400円に順次変更された(ただし,平成10年4月以降の変更の適法性については争いがある。)。 (3) 控訴人は,原判決別紙滞納家賃明細書のとおり,平成8年8月分から平成12年8月分までの間の35か月分の家賃を支払わず,これを前記(2)の家賃に従って算定すると,滞納家賃は合計74万1940円となる。 (4) 被控訴人は,控訴人に対し,平成12年9月11日付け最終通告書で,滞納家賃を同通告書到達の日の属する月の翌月の末日までに支払うよう催告するとともに,同期間内に支払わない場合には,同期間の末日をもって本件賃貸借契約を解除し(使用許可を取り消し),本件家屋の明渡しを求める旨通知した。 (5) 前記最終通告書は,同月22日,控訴人に到達したが,控訴人は,同通告書到達の日の属する月の翌月の末日である同年10月31日までに滞納家賃を支払わなかった。 (6) 被控訴人は,平成8年5月31日の公営住宅法の改正に伴い,平成9年3月7日広島市市営住宅等条例(昭和27年条例第40号。以下「旧市営住宅条例」という。)を改正し(以下,改正後の条例を「新市営住宅条例」という。),家賃滞納の入居者に対し,平成10年4月1日から,賃貸借契約解除後の使用損害金として,毎月,近傍同種の住宅の家賃額の2倍に相当する金額以下の金銭を徴収できる旨規定した(40条4項。ただし,その効力については争いがある。)。 (7) 被控訴人は,平 借契約解除後の使用損害金として,毎月,近傍同種の住宅の家賃額の2倍に相当する金額以下の金銭を徴収できる旨規定した(40条4項。ただし,その効力については争いがある。)。 (7) 被控訴人は,平成11年,広島市税外収入金の督促及び滞納処分に関する条例を改正し,平成12年1月1日からは,延滞金を各年の特例基準割合とする旨規定したところ,同日及び平成13年1月1日現在の特例基準割合は,年4.5パーセントである。 (8) 本件家屋は,公営住宅法の一部を改正する法律(平成8年法律第55号)の規定による改正前の住宅地区改良法(昭和35年法律第84号。以下「旧住宅地区改良法」という。)17条の規定に基づいて,被控訴人が国から補助を受けて建築した改良住宅(以下「本件改良住宅」という。)であるが,改良住宅の管理及び処分については,改良住宅を公営住宅法の一部を改正する法律(平成8年法律第55号)の規定による改正前の公営住宅法(昭和26年法律第193号。以下「旧公営住宅法」という。)に規定する第2種公営住宅とみなすこととされていた(旧住宅地区改良法29条1項)ところ,平成8年5月31日,旧公営住宅法及び旧住宅地区改良法が改正された(以下,改正後の法律を「新公営住宅法」及び「新住宅地区改良法」という。)。また,被控訴人は,旧市営住宅条例に基づいて市営住宅を管理していたところ,旧公営住宅法及び旧住宅地区改良法の改正に伴い,平成9年3月7日,同条例が改正された。新公営住宅法,新住宅地区改良法及び新市営住宅条例によれば,改良住宅の家賃について,次のとおり規定されている。 新住宅地区改良法29条3項は,改良住宅の家賃の決定及び変更並びに収入超過者に対する措置については,旧公営住宅法12条,13条等の規定が適用される旨規定している。そして,旧公営住宅法1 る。 新住宅地区改良法29条3項は,改良住宅の家賃の決定及び変更並びに収入超過者に対する措置については,旧公営住宅法12条,13条等の規定が適用される旨規定している。そして,旧公営住宅法12条は,公営住宅の家賃は,当該公営住宅の工事費(当該費用のうち国又は都道府県の補助に係る部分を除く。)を期間20年以上,利率年6分以下で毎年元利均等に償却するものとして算出した額に修繕費,管理事務費,損害保険料及び地代に相当する額を加えたものの月割額を限度として,事業主体が定める旨,同法13条は,物価変動に伴い家賃を変更する必要があると認めるとき,公営住宅相互間の家賃の均衡上必要と認めるとき,公営住宅について改良を施したときは,条例で家賃を変更できる旨それぞれ規定している。 また,旧市営住宅条例は,改良住宅の家賃は,旧公営住宅法12条,13条に基づいて決定される旨規定していたが,新市営住宅条例14条1項は,市営住宅の毎月の家賃は,同13条による入居者の申告に基づいて認定された収入額に基づき,近傍同種の住宅の家賃以下で新公営住宅法施行令2条に規定する方法により算出した額とする旨規定し,いわゆる応能応益家賃制度を導入するとともに,入居者から収入の申告がなく,同条例47条の規定による請求(市長が入居者に対し収入状況の報告を求めること)をしたにもかかわらず,入居者がこれに応じないときは,当該市営住宅の毎月の家賃は,近傍同種の住宅の家賃とする旨規定した。ただし,新市営住宅条例は,14条2項で,改良住宅の毎月の家賃に関しては,旧公営住宅法12条等に規定する家賃限度額を超えないものとする旨規定している。さらに,その15条では,市長は,入居者又は同居者の収入が著しく低額であるとき,入居者又は同居者が病気にかかっているとき,入居者又は同居者が災害により る家賃限度額を超えないものとする旨規定している。さらに,その15条では,市長は,入居者又は同居者の収入が著しく低額であるとき,入居者又は同居者が病気にかかっているとき,入居者又は同居者が災害により著しい損害を受けたときなどの特別の事情がある場合においては,家賃の減免又は徴収猶予を必要とする者に対し,当該家賃の減免又は徴収猶予をすることができる旨規定している。 (9) 本件改良住宅は,同和対策対象地域における市営住宅(地域改善向け住宅)であり,その家賃は,従前,公営住宅の通常の家賃計算方法により算出した家賃相当額に0.2を乗じて得た額とする特別低家賃が採用されていたところ,新市営住宅条例において,これを廃止し,応能応益家賃制度を導入することとしたが,直ちに他の市営住宅と同額家賃にするのではなく,平成10年4月分から平成19年3月分までの家賃については,旧市営住宅条例の規定により算出される家賃の額との差額について,各年度ごとに,0.1ずつ均等に加えた数値を乗じて得た額を加えた額を家賃とする負担調整措置を講じた(甲10,15)。 2 争点(1) 新市営住宅条例は違法ないし違憲か(控訴人の主張)ア従前,改良住宅の家賃は,旧公営住宅法12条に基づき,住宅建設の工事費の減価償却費,修繕費,管理費,地代相当額等から算出した額を限度として定められており,新住宅地区改良法29条3項の規定により,新公営住宅法施行後も,改良住宅の家賃については,旧公営住宅法12条を適用する旨規定しているところから,前記の額を限度として広さに応じて均一でなければならない。また,本件改良住宅は,同和対策事業特別措置法(以下「特別措置法」という。)に基づいて同和対策対象地域内に建設された改良住宅であり,その家賃は,従前,同和関係者に対する差別の廃絶と ければならない。また,本件改良住宅は,同和対策事業特別措置法(以下「特別措置法」という。)に基づいて同和対策対象地域内に建設された改良住宅であり,その家賃は,従前,同和関係者に対する差別の廃絶という目的を実現するために,一般公営住宅に比して低額に定められていたが,旧公営住宅法改正後も,特別措置法の趣旨に則り,一般公営住宅の家賃よりも低額に定めなければならない。ところが,新市営住宅条例は,他の市営住宅と区別することなく,各入居者に収入申告を義務づけ,入居者の収入額によって家賃を決定し,しかも,それに違反する者に対しては,懲罰的に最高額の家賃を決定するものであって,特別措置法の趣旨に反し,新住宅地区改良法29条3項,旧公営住宅法12条に反することは明らかである。 イ前記アのとおり,新市営住宅条例は,新住宅地区改良法29条3項,旧公営住宅法12条に反しているのであって,地方公共団体は,法律の範囲内で条例を制定することができる旨規定する憲法94条に反する。 ウ本件改良住宅の家賃は,前記アのとおり,広さに応じて均一であり,また一般の公営住宅よりも低額の,いわゆる一律低家賃制度によっていた。この一律低家賃制度は,社会的身分たる同和関係者に対する文化,経済,政治等全社会的領域にわたる全人格的な差別を解消し,もって憲法14条に規定する国民の法の下の平等及び同25条に規定する健康で文化的な生活を実現することを目的とするものであり,同25条の生存権が具体化され,具体的権利となったものである。したがって,現在なお,同和関係者に対する前記差別が解消されていない以上,一律低家賃制度を廃止することは,同和関係者の生存権を侵害し,これら憲法の条項に反するというべきである。 エしたがって,違法,違憲である新市営住宅条例に基づく平成10年4月以 ていない以上,一律低家賃制度を廃止することは,同和関係者の生存権を侵害し,これら憲法の条項に反するというべきである。 エしたがって,違法,違憲である新市営住宅条例に基づく平成10年4月以降の家賃の変更は無効である。 (被控訴人の主張)同和地区住民の生活は常に不安定であり,経済的・文化的水準は極めて低いことが差別の結果であり,同時に,それが差別を助長し再生産する原因でもあること(同和対策審議会の内閣総理大臣に対する「同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本的方策」に関する昭和40年8月11日付け答申)にかんがみ,地域改善向け住宅(本件改良住宅は,これに当たる。)の家賃については一律低家賃制度が採用されてきた。しかし,その後,地域改善対策が推進され,その成果は,少なからぬものがあったと評価できることに加え,社会経済の発展もあり,同和地区の実態を初め,地域改善策をめぐる状況も大きく変わり,むしろ,公営住宅等の一部にみられる著しい低家賃の実態が,国民の間に不公平感を招来し,新たな差別意識を生む要因の一つともなったことから,著しく均衡を失した低家賃を適正な家賃とする必要が生じた(地域改善対策協議会の内閣総理大臣及び関係各大臣に対する「今後における地域改善対策について」の昭和61年12月11日付け意見具申)との認識から,被控訴人は,旧公営住宅法の改正に伴い旧市営住宅条例を改正し,改良住宅の家賃についても,他の市営住宅と同様,応能応益家賃制度を導入することとした。応能応益家賃制度は,入居者が申告した収入に応じて家賃を決定するものであり,入居者の収入を無視して著しく高額な家賃を強要するものではない上,新市営住宅条例は,入居者又は同居者の収入が著しく低額であるなど,一定の事情があるときは家賃の減免を行うことがで を決定するものであり,入居者の収入を無視して著しく高額な家賃を強要するものではない上,新市営住宅条例は,入居者又は同居者の収入が著しく低額であるなど,一定の事情があるときは家賃の減免を行うことができることも規定するなどして入居者の生活の安定を図っている。このように,新市営住宅条例は,地域改善向け住宅のみ,一律に特別扱いをするのではなく,入居者ごとに負担能力に応じて家賃を決定し,事情に応じて家賃の減免を行えるようにするなど,入居者ごとの事情に配慮し,また,改良住宅の家賃については,旧公営住宅法12条による家賃限度額を超えない旨規定し,同条の遵守を前提としている。さらに,本件改良住宅のような地域改善向け住宅で,従前特別低家賃を採用していたものについては,一定期間の負担軽減措置を講じてもいる。なお,入居者が収入の申告をしない場合,新市営住宅条例47条の規定による請求を行ったにもかかわらず,当該入居者がこれに応じないときは,その家賃を近傍同種の住宅の家賃とする旨の規定(同14条1項)は,制裁措置を定めたものではなく,上記請求をしても収入状況の報告に応じない入居者については,収入の認定ができず,応能応益家賃制度による家賃の決定ができないことから,民間の賃貸住宅とほぼ同程度の家賃である近傍同種の住宅の家賃を当該入居者の家賃とするにすぎないのである。 このようなことからすれば,応能応益家賃制度を導入した新市営住宅条例は,十分に合理性を有し,新住宅地区改良法29条3項,旧公営住宅法12条,憲法14条,25条に反するものではない。 (2) 本件家屋の明渡し請求は権利の濫用に当たるか(控訴人の主張)前記(1)の「(控訴人の主張)」のとおり,本件改良住宅は,同和対策事業として,国の特別助成に基づいて建築された住宅であり,条例改正に 明渡し請求は権利の濫用に当たるか(控訴人の主張)前記(1)の「(控訴人の主張)」のとおり,本件改良住宅は,同和対策事業として,国の特別助成に基づいて建築された住宅であり,条例改正によって,応能応益制度による家賃を適用することは,法律ひいては憲法に反するというほかない。また,被控訴人は,本件家屋の建築につき自己負担した総建設費等の約半分を控訴人が支払った家賃により既に回収しており,控訴人が旧家賃の支払をそのまま続けたとしても,被控訴人が負担した建築費を,本件改良住宅建設事業のため発行した地方債の償還期間内に回収することは十分可能である。しかも,控訴人は,他の多くの地域住民とともに,被控訴人の治水事業に協力し,本件改良住宅に居住するようになったものである。これらの事情や他の公共団体においては,家賃滞納の事例で,家賃の支払を求める裁判のみ提起し,建物の明渡しを求める行政措置を採らない事案もあることなどにかんがみれば,本件家屋の明渡しを求めることは,権利の濫用に当たり許されない。 (被控訴人の主張)前記(1)の「(被控訴人の主張)」のとおり,新市営住宅条例に定める応能応益家賃制度は,適法かつ合憲である。また,そもそも市営住宅の家賃は,その建設費用の負担額に応じて定めるべき性格のものではない。地域改善向け住宅と他の市営住宅との建築費用に係る国の補助には差異があるが,それは,地域改善向け住宅の入居者の家賃を他の市営住宅の入居者よりも低額に維持するためのものではなく,地域改善向け住宅の整備を促進するなど,住宅整備に係る政策全般を進めるためである。従前の地域改善向け住宅の一律低家賃は,前記(1)の「(被控訴人の主張)」のとおり,当時の同和地区の状況にかんがみて採用されたものであり,被控訴人の建設費用の負担が軽いこととは を進めるためである。従前の地域改善向け住宅の一律低家賃は,前記(1)の「(被控訴人の主張)」のとおり,当時の同和地区の状況にかんがみて採用されたものであり,被控訴人の建設費用の負担が軽いこととは無関係である。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について(1) 本件改良住宅は,地域改善向け住宅であることから,その家賃については,従前,旧公営住宅法12条により算出された家賃に0.2を乗じた額とする一律低家賃制度が採用されていた。このような措置は,同和関係者の生活は常に不安定であり,経済的・文化的水準は極めて低いことが差別の結果であり,同時に,それが差別を助長し再生産する原因でもあること(同和対策審議会の内閣総理大臣に対する「同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本的方策」に関する昭和40年8月11日付け答申)にかんがみて採られたものである。しかし,その後,地域改善対策が推進され,その成果は,少なからぬものがあったと評価できることに加え,社会経済の発展もあり,同和地区の実態を初め,地域改善策をめぐる状況も大きく変わり,むしろ,公営住宅等の一部にみられる著しい低家賃の実態が,国民の間に不公平感を招来し,新たな差別意識を生む要因の一つともなったことから,著しく均衡を失した低家賃を適正な家賃とする必要が生じた(地域改善対策協議会の内閣総理大臣及び関係各大臣に対する「今後における地域改善対策について」の昭和61年12月11日付け意見具申)との認識を受けて,広島市同和対策推進審議会は,平成9年3月27日,「広島市同和行政の今後のあり方について(意見)」において,同和地区の市営住宅に関し,次のような意見を取りまとめた。すなわち,同和対策の住宅として管理され,政策的に設定されてきた市営住宅の家賃については,旧公営住宅法改正に伴 方について(意見)」において,同和地区の市営住宅に関し,次のような意見を取りまとめた。すなわち,同和対策の住宅として管理され,政策的に設定されてきた市営住宅の家賃については,旧公営住宅法改正に伴い新制度が適用されるなど新たな対応が必要となっている。市営住宅の管理に関しては,その家賃について,県営住宅と調整を図りつつ,一定期間の負担軽減措置を講ずるなどにより段階的に一般対策へ移行するとともに,適切な入居者管理を図るべく,管理体制を強化する必要がある。そこで,被控訴人は,このような経過に照らし,地域改善向け住宅に適用されていた特別低家賃を廃し,新市営住宅条例において,応能応益家賃制度の導入に至ったものである(甲8,9,16ないし19及び弁論の全趣旨)。 応能応益家賃制度とは,入居者の申告に基づいて認定した収入に応じて家賃を決定するものであり,新市営住宅条例は,家賃の上限を近隣の民間住宅の家賃とほぼ同額の近傍同種の住宅の家賃(甲4,11,13及び弁論の全趣旨)としており,また,市長は,入居者又は同居者の収入が著しく低額であるときなど一定の事情があるときは,家賃の減免又は徴収猶予の措置を採り得ることを規定している。以上によれば,新市営住宅条例の応能応益家賃制度は,入居者の負担能力に応じて家賃を決定し,一定の場合には,家賃の減免等の措置を講じることとしており,入居者の負担能力を無視して高額の家賃負担を強いるものということはできず,同制度の導入によって,入居者ごとの収入状況をきめ細かく検討し,それを家賃の決定に反映することが可能になったというべきである。しかも,改良住宅の家賃額は,旧公営住宅法12条による家賃限度額内とされている(新市営住宅条例14条2項)。また,従来,一律低家賃制が採られていた本件改良住宅のような地域改善向け住宅につい である。しかも,改良住宅の家賃額は,旧公営住宅法12条による家賃限度額内とされている(新市営住宅条例14条2項)。また,従来,一律低家賃制が採られていた本件改良住宅のような地域改善向け住宅については,家賃の急激な上昇を緩和するため,平成10年度から平成18年度までの間の家賃について,負担軽減措置が講じられている(甲10)。 これらのことは,新市営住宅条例施行直後の平成10年4月分の本件家屋の月額家賃が,その直前の平成9年10月に定められた1万2740円よりも低額の9800円であったこと(前記第2の1(2))からも明らかである。 以上の事実,特に,社会状況等の変化に応じて,本件改良住宅にも応能応益家賃制度を導入し,それにより入居者ごとの収入状況に応じたきめ細かな家賃決定が可能になったこと,しかも,その家賃は旧公営住宅法12条の規定による家賃額限度内であることなどからすれば,新市営住宅条例が定める家賃の決定方法は,十分合理性を有するものであって,新住宅地区改良法29条3項,旧公営住宅法12条に反するということはできないし,憲法94条に違反するということもできない。 このように,応能応益家賃制度は,入居者ごとの収入状況に応じたきめ細かな家賃決定を行うことが可能であるのに対し,地域改善向け住宅について従来採用されていた一律低家賃制は,入居者の収入状況を一切考慮しないものであって,一律低家賃制よりも応能応益家賃制度のほうが,国及び地方公共団体が協力して,健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し,これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸する等により,国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする新公営住宅法1条の趣旨に合致するということができるのであって,新市営住宅条例の応能応益家賃制度の内容(家賃の減免 廉な家賃で賃貸する等により,国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする新公営住宅法1条の趣旨に合致するということができるのであって,新市営住宅条例の応能応益家賃制度の内容(家賃の減免等の措置を含む。)に照らせば,地域改善向け住宅への応能応益家賃制度の導入が,国民の法の下の平等を定めた憲法14条及び国民の生存権の保障を定めた憲法25条の趣旨に背馳するものということはできない。 控訴人は,一律低家賃制は,憲法14条及び25条の平等権や生存権を実現するために具体的に発生した権利であり,これを廃止することは許されない旨主張するが,上記説示に照らし,採用することができない。 なお,控訴人は,新市営住宅条例には,入居者が収入申告をせず,同47条に規定する請求に応じなかった場合に,家賃を高額な近傍同種の住宅の家賃とする制裁措置の定めがあることも,同条例が違法ないし違憲であることの根拠として主張する。新市営住宅条例14条1項ただし書によると,入居者が収入申告をせず,上記請求に応じなかった場合には,家賃は,収入額に基づいて決定されないことになる。しかし,その場合でも,家賃は,近隣の民間住宅の家賃とほぼ同額の近傍同種の住宅の家賃(甲11,13,弁論の全趣旨)を限度としていること(なお,改良住宅については,旧公営住宅法12条1項所定の家賃限度額を超えないものとされている。同条例14条1,2項),使用損害金については,近傍同種の住宅の家賃の2倍を限度としていること(同条例40条4項)からすると,前記14条1項ただし書は,収入申告をせず,上記請求に応じなかった入居者に対する制裁措置と解すべきものではなく,当該入居者について,家賃を近傍同種の住宅の家賃と決定するのが相当といえる収入があるものとみなす趣旨の規定であると解するのが相当で 記請求に応じなかった入居者に対する制裁措置と解すべきものではなく,当該入居者について,家賃を近傍同種の住宅の家賃と決定するのが相当といえる収入があるものとみなす趣旨の規定であると解するのが相当である。高額収入の入居者が不当な利益を得ることを防止しつつ,市営住宅の管理に係る大量の事務処理を迅速に行うため,入居者が収入申告をせず,かつ上記請求に応じない場合に,当該入居者につき,家賃を近傍同種の住宅の家賃と決定することが相当といえる収入があるものとみなし,家賃決定をすることとしても,入居者としては,収入申告をし,請求に応じて,収入状況を報告することによって容易に不利益を免れることができるのであるから,新市営住宅条例14条1項ただし書の規定が不合理であるということはできない。 (2) したがって,新市営住宅条例は,新住宅地区改良法29条3項,旧公営住宅法12条,憲法94条,14条及び25条に違反せず,新市営住宅条例の規定による家賃の決定は有効であるから,控訴人の平成12年8月分までの滞納家賃額は,前記第2の1(3)のとおり合計74万1900円となり,同滞納家賃の不払いにより,本件賃貸借契約は,同年10月末日限り解除されたものというべきである。 そうすると,控訴人は,被控訴人に対し,本件家屋及び倉庫を明け渡すとともに,解除の日までの滞納家賃合計91万6740円とその延滞金及び賃貸借契約解除の日の翌日である同年11月1日から同明渡し済みまで月額8万7400円(同金額は,近傍同種の住宅の家賃である。新市営住宅条例40条4項,甲11,13,弁論の全趣旨)の使用損害金を支払う義務がある。 2 争点(2)について前記1のとおり,新市営住宅条例は,新住宅地区改良法29条3項,旧公営住宅法12条,憲法94条,14条及び25条に違反するものではない。 使用損害金を支払う義務がある。 2 争点(2)について前記1のとおり,新市営住宅条例は,新住宅地区改良法29条3項,旧公営住宅法12条,憲法94条,14条及び25条に違反するものではない。控訴人は,新市営住宅条例に基づいて家賃が改定された平成10年4月以前の平成8年8月分から平成12年8月分まで35か月分もの長期間にわたり家賃を滞納し(前記第2の1(3)),再三にわたり家賃の支払督促を受けたにもかかわらず,一向にこれに回答せず,平成12年度については収入申告をせず,収入状況の報告を求められてもこれに応じていない(甲14,弁論の全趣旨)。家賃の支払が困難であれば,その減免又は徴収猶予の措置を受けることができ(新市営住宅条例15条),同措置については,書面によって入居者に周知されていた(甲20,弁論の全趣旨)にもかかわらず,控訴人は,同措置を受ける手続をした形跡もない。 以上の諸事情に照らせば,控訴人が権利濫用を基礎づける事実として主張する事情や,控訴人が本訴提起後の平成13年11月21日及び同年12月20日に平成8年8月分から平成13年11月分までの未払家賃(ただし,平成10年4月以降は月額9200円)を供託した事実(乙1の1ないし50。なお,遅延損害金は供託していない。)等を考慮しても,被控訴人の控訴人に対する本件家屋及び倉庫の明渡し請求が権利の濫用に当たるものということは到底できず(被控訴人が市営住宅の建設費用に係る負担額を家賃収入によりどの程度回収したかは,当該市営住宅の家賃決定に影響する事柄ではないから,本件家屋の建設費に係る被控訴人の負担額ないしその回収の程度は,被控訴人の本件請求が権利濫用であることを基礎づける事実であるとはいえない。),控訴人の主張は採用できない。 3 以上の次第で,被控訴人の本訴請求は理由が る被控訴人の負担額ないしその回収の程度は,被控訴人の本件請求が権利濫用であることを基礎づける事実であるとはいえない。),控訴人の主張は採用できない。 3 以上の次第で,被控訴人の本訴請求は理由があるから,これを認容した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について,民事訴訟法67条1項,61条を適用して主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第2部裁判長裁判官高升五十雄 裁判官松井千鶴子 裁判官工藤涼二

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