令和5(わ)2323 危険運転致死、道路交通法違反

裁判年月日・裁判所
令和6年11月13日 名古屋地方裁判所
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判決文本文7,730 文字)

主 文被告人を懲役9年に処する。 未決勾留日数中230日をその刑に算入する。 理 由(犯罪事実)被告人は、第1 令和5年11月28日午後11時26分頃、名古屋市甲区(住所省略)付近道路において、運転開始前に飲んだ酒の影響により前方注視及び運転操作が困難な状態で普通貨物自動車(以下「本件車両」という。)を走行させ、もってアルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させたことにより、同日午後11時31分頃、甲区(住所省略)先の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)を(地名省略)方面から(地名省略)方面に直進しようとして本件交差点に向かい走行中、対面信号機が表示する信号を認識できない状態に陥り、同対面信号機が赤色の灯火信号を表示していたのに本件車両を時速約60キロメートルで本件交差点手前の停止線を越えて進行させ、折から本件交差点入口に設けられた横断歩道上を信号表示に従い右方から左方に向かい横断進行中のA(当時20歳)に本件車両前部を衝突させて路上に転倒させ、よって、同人に骨盤輪骨折等の傷害を負わせ、同月29日午前2時46分頃、愛知県春日井市(住所省略)所在のB病院において、同人を前記傷害に起因する出血性ショックにより死亡させた。 第2 同月28日午後11時31分頃、名古屋市甲区(住所省略)先道路において、本件車両を運転中、前記のとおり、前記Aに傷害を負わせる交通事故を起こしたのに、その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を、直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。 (争点に対する判断)第1 争点 本件の争点は、①被告人が、公訴事実記載の令和5年11月28日(以下の時刻はいずれも同日)午後11時22分頃、名古屋市甲区(住所省略)付近交差点( った。 (争点に対する判断)第1 争点 本件の争点は、①被告人が、公訴事実記載の令和5年11月28日(以下の時刻はいずれも同日)午後11時22分頃、名古屋市甲区(住所省略)付近交差点(以下「a 交差点」という。)において、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態であったか(同時刻頃前記状態でなかった場合は、午後11時30分頃までのいずれかの時点で前記状態にあったか)、②この点に関する被告人の故意である。 検察官は、被告人は、午後11時22分頃、a 交差点で前記の状態であったと主張する。これに対し、弁護人は、被告人は、本件交差点の1つ手前の信号交差点(後記のf交差点)まで、概ね信号に従い車線を大きくはみ出すことなく運転できており、被告人もそのような認識であったが、同交差点を過ぎたところで急激に仮睡状態に陥ったもので、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下「自動車運転処罰法」という。)3条1項の危険運転致死罪の成立は積極的に争わないが、同法2条1号の危険運転致死罪は成立しないと主張し、被告人もこれに沿う供述をするので、この点につき判断する。 第2 争点①(被告人の状態)について 1 前提事実以下の事実は、証拠上明らかに認められる。 被告人は、いわゆる一人親方として、電気工事やエコキュート等の取り替え工事を行っていたところ、本件当日、友人と飲食するため、仕事を終えた後に本件車両を運転して岐阜県多治見市内に赴いた。午後7時16分頃から午後10時57分頃にかけて、2軒の飲食店で合わせてビール中ジョッキ7杯及び梅酒ソーダ割約2分の1杯を飲酒した後、友人と別れ、午後11時4分頃、同市内の駐車場から自宅に向けて本件車両の運転を開始した。午後11時31分頃、判示第1のとおり、本件交差点に向かい走行中、対 及び梅酒ソーダ割約2分の1杯を飲酒した後、友人と別れ、午後11時4分頃、同市内の駐車場から自宅に向けて本件車両の運転を開始した。午後11時31分頃、判示第1のとおり、本件交差点に向かい走行中、対面信号機が赤色信号なのにこれを認識できない状態に陥り、横断歩道上を青色信号に従って横断していた被害者に本件車両を衝突させて死亡させ(以下「本件事故」という。)、停止することなく本件車両の運転を続け(判示第2)、午後11時42分頃、帰宅して運転を終了した。 2 被告人の運転状況について本件車両のドライブレコーダーの映像(甲61)によれば、本件事故に至るまでの被告人の運転状況について、次の事実が認められる。 ⑴ 午後11時4分~21分頃(多治見市内~a 交差点)この間、複数か所で本件車両をふらつかせ、中央線や左外側線をまたいで戻ることもあったものの、概ね、車線や信号表示に従い、前方車両との車間距離を保つなどの状態であった。 ⑵ 午後11時22分頃(a 交差点停車)同交差点で赤色信号に従い停車し、青色信号になった後、約17秒間発進しなかった。 ⑶ 午後11時22分~25分頃(a 交差点~b交差点)a 交差点発進後、次の信号交差点を青色信号で通過し、次の信号交差点を赤色信号に従い減速中に青色信号に変わって加速して通過するなどし、午後11時25分頃、名古屋市甲区(住所省略)先の信号交差点(以下「b交差点」という。)において、赤色信号に従い停車した。この間、ところどころ本件車両をふらつかせることもあったものの、概ね車線や信号表示に従った運転をしていた。 ⑷ 午後11時25分~26分頃(b交差点~c交差点)b交差点停車中、青色信号になった後、約8秒間発進しなかった。また、午後11時26分頃、次の甲区(住所省略)先の信号交差点(以 していた。 ⑷ 午後11時25分~26分頃(b交差点~c交差点)b交差点停車中、青色信号になった後、約8秒間発進しなかった。また、午後11時26分頃、次の甲区(住所省略)先の信号交差点(以下「c交差点」という。)において、赤色信号に従い停車し、青色信号になった後、約6秒間発進しなかった。 ⑸ 午後11時26分~27分頃(c交差点~d交差点)c交差点発進後、次の対面信号機を青色信号で通過したものの、午後11時27分頃、次の甲区(住所省略)先の信号交差点(以下「d交差点」という。)を、対面信号機が赤色信号を表示しているにもかかわらず、減速せずに通過した。 ⑹ 午後11時27分~29分頃(d交差点~e交差点)d交差点通過後の午後11時28分頃、甲区(住所省略)先の信号交差点(以下 「e交差点」という。)において、赤色信号に従い停車し、午後11時29分頃、青色信号になった後、約5秒間発進しなかった。 ⑺ 午後11時29分~30分頃(e交差点~f交差点)e交差点発進後しばらくして、第1車線から第2車線に大きくはみ出した状態で約7秒間走行し、そのまま第2車線に移行した。次の甲区(住所省略)先の信号交差点(以下「f交差点」という。)で赤色信号に従って停車する際、停止線を大きく越えた先の横断歩道上で停車し、青色信号になった後、約5秒間発進しなかった。 ⑻ 午後11時30分~31分頃(f交差点~本件交差点)f交差点発進後、第2車線を走行中、第3車線を走行する車両が付近にいるのに同車線にはみ出したり、並走状態でも同車に接近するなどしながら本件交差点に向かい、午後11時31分頃、第2車線から第3車線方向にやや斜行しながら赤色信号の本件交差点に向け進行し、本件事故が発生した。 3 前記の運転状況等から認められる被告人の心身の状態につ 本件交差点に向かい、午後11時31分頃、第2車線から第3車線方向にやや斜行しながら赤色信号の本件交差点に向け進行し、本件事故が発生した。 3 前記の運転状況等から認められる被告人の心身の状態について⑴ア前記のとおり、被告人は、午後11時22分頃のa 交差点に始まり、午後11時30分頃のf交差点まで、信号停車中に青色信号になってもしばらく発進しないことが度々あった。これらの停車状況に加え、被告人が、青色信号になったのを認識した上で何らかの作業をしたなどの供述は一切しておらず、寝てしまっていた、寝落ちしたなどと供述していることなどに照らすと、この間の不発進は、一時的な仮睡状態(いわゆる寝落ち)によると認められる。 イまた、前記2⑸の赤色信号でのd交差点通過につき、本件車両は、第1車線から第2車線(右側)にはみ出した後に車体を左に戻して左側路側帯をまたぎながら同交差点に進入し、同交差点出口付近のガードレールで縁石に左側タイヤを接近させた後、再び車体を右側に切り返している。これらの運転状況や、その前後の寝落ちの状況からすれば、被告人は、眠気のため赤色信号に気付かず、運転操作を誤りながらd交差点を通過したと推認することができる。 これに対し、被告人は、d交差点は小さな交差点だったため、横断してくる車や 人がいないことを確認した上で、わざと通過した旨供述するが、前記の運転状況、交差点進入に当たって減速した様子もないこと等と整合せず、信用することができない。 ウ前記2⑺の車線のはみ出しや停止線を越えた停車についても、前記ア、イの運転状況と併せ考えれば、眠気によると認めるのが相当である。 これに対し、被告人は、①車線のはみ出しは第1車線のバスレーンを避けるためのもので、②停止線を越えた停車は、本件車両にエコキュートを積 の運転状況と併せ考えれば、眠気によると認めるのが相当である。 これに対し、被告人は、①車線のはみ出しは第1車線のバスレーンを避けるためのもので、②停止線を越えた停車は、本件車両にエコキュートを積んでいたのであえてゆっくり停まった結果であるなどの供述をする。しかし、①につき、本件車両はバスレーンが現れる相当程度前で第1車線と第2車線に大きくまたがる形で走行していることに照らして、被告人の供述を信用することはできない。②につき、ドライブレコーダー映像からすれば、f交差点に差し掛かる約5秒前には赤色信号を視認でき、余裕をもって減速操作をすれば停止線前で容易に停止できたと認められることに照らすと、被告人の供述は前記の認定に影響を及ぼさない。 ⑵ 前記⑴の被告人の状態につき、前記2の運転状況に照らすと、被告人は、午後11時22分頃、a 交差点で寝落ちした時点で強い眠気を感じていたと推認できる。もっとも、その後b交差点までの約3分間は、赤色信号に従い一旦は減速しつつ、青色信号に変わったのに応じて加速して通過するなど、概ね車線や信号の状況に即して運転できていたこと、運転開始からa 交差点までは、眠気をうかがわせる部分もあるが、相当程度道路・交通状況に応じた運転ができていたことも併せ考えると、a 交差点の時点で正常な運転が困難な状態に陥っていたと認めるには、なお疑いが残る(この点の疑いは、故意の認定においてより強くあらわれる。)。 しかしながら、被告人は、午後11時25分頃から26分頃にかけて、b交差点、c交差点と2つの交差点で、続けて2回寝落ちしている。a 交差点で、時間の長短はともかく寝落ちしたことは自覚した以上、その後は再び寝落ちしないよう注意し、より運転に集中しようとするのが通常と考えられるのに、それどころか、そのわずか3分後、短時間の 。a 交差点で、時間の長短はともかく寝落ちしたことは自覚した以上、その後は再び寝落ちしないよう注意し、より運転に集中しようとするのが通常と考えられるのに、それどころか、そのわずか3分後、短時間のうち立て続けに寝落ちした。c交差点発進後の運転状況を見て も、前記⑴イの状態で赤色信号表示のd交差点を通過し、その後も眠気によると見られる車線のはみ出しや赤色信号停止後の寝落ち、併走車両への接近等を繰り返しながら、c交差点発進から約5分後に前記2⑻の態様で本件事故を起こしている。 以上からすれば、被告人は、遅くともc交差点を発進する午後11時26分頃の時点では、強い眠気に抗えず、いつ寝落ちしてもおかしくない状態となって前方注視及び運転操作が困難な状態に至っており、これによって仮睡状態に陥り本件事故が発生したと認められる。被告人は、c交差点後、ともかくも走行を続け、赤色信号に従って停車したりしているものの、同交差点以降、特に運転技術を要するような道路・交通状況はなく、眠気に抵抗して一時的に目を覚ましては再び眠気が生じる状態だったからといって、上記の認定に影響は及ぼさない。 4 アルコールの影響について被告人の供述や共に飲食した友人の供述等の証拠によれば、被告人は、①本件事故前夜、仕事を終えて午前1時頃帰宅し、午前2時過ぎ頃から午前6時頃まで4時間弱の睡眠をとった後、午前6時30分頃に仕事に行くため自宅を出発し、仕事を終えて帰宅後、飲酒先であるC駅周辺に向けて本件車両で出発したこと、②起床後、午後11時4分頃の運転開始まで仮眠はとっていないこと、③本件事故発生時の被告人体内のアルコール濃度は、呼気1リットル中少なくとも約0.258ミリグラムであったことが認められる。 これらの状況に照らすと、被告人が再三強い眠気を催して仮睡状態に陥った ③本件事故発生時の被告人体内のアルコール濃度は、呼気1リットル中少なくとも約0.258ミリグラムであったことが認められる。 これらの状況に照らすと、被告人が再三強い眠気を催して仮睡状態に陥ったことについては、睡眠時間の不足や仕事の疲れも相当程度影響したと推察される。しかし、前記のアルコール濃度は、高濃度とまでは言い難い一方、酒気帯び運転の基準値を十分超えるものである。何度も寝落ちを繰り返して本件事故に至った状況も併せると、疲労の感じ方やアルコールの影響の個人差を考慮しても、c交差点から本件交差点にかけての被告人の眠気に、運転直前のアルコール摂取が相当程度強く影響したことは、常識に照らして明らかである。 5 小括 以上からすれば、被告人は、午後11時26分頃、c交差点において、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態にあったと認められる。これに反する被告人の供述は、前記のとおり客観的な運転状況や道路状況と整合せず、信用することができない。 第3 争点②(被告人の故意)について前日から当日にかけての勤務状況、睡眠状況や運転開始前までの飲酒状況は、被告人も当然に認識していた事実である。運転開始後の度重なる寝落ちその他の自らの心身の状態についても、寝落ちした時間の長短はともかく、被告人は認識していたと認められる。 これらの状況や自身の状態を認識していた以上、被告人は、午後11時26分頃、c交差点を発進した時点において、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態であることを認識して運転を継続したと認めることができ、その認定を妨げる事情は特に見当たらない。 第4 結論以上によれば、判示第1のとおり、自動車運転処罰法2条1号に係る危険運転致死の事実が認められる。 (量刑の理由) 1 ビール7杯等を飲酒して運転を開 る事情は特に見当たらない。 第4 結論以上によれば、判示第1のとおり、自動車運転処罰法2条1号に係る危険運転致死の事実が認められる。 (量刑の理由) 1 ビール7杯等を飲酒して運転を開始し、寝落ちを繰り返したり赤色信号を看過したりする状態となった後も運転を続けた態様は、重大な事故につながるものであり、挙句に仮睡状態に陥って、赤色信号の交差点に向け時速約60キロメートルで進行し、被害者に自車を衝突させている。被告人が事故当時に保有していたアルコールは高濃度とまでは言えず、速度超過があったものでもないが、事故直前の被告人の運転状況を見れば、運転行為の危険性は明らかである。これに対し、青色信号に従い横断歩道を横断していた被害者にもとより落ち度はない。 被害者の死という結果は、言うまでもなく取り返しのつかない重大なものである。被害者は、交差点の入口近くから出口近くまで跳ね飛ばされ、骨盤輪骨折、 多発肋骨骨折、外傷性くも膜下出血等、多数箇所に重篤な傷害を負って死亡するに至っている。事故当時大学生であった被害者は、仲の良い家族との買い物や旅行、家の仕事の手伝いや資格取得への挑戦、友人との旅行等の充実した生活を送り、未来への様々な可能性があったのに、突然の事故で命を絶たれるに至ったもので、その肉体的苦痛や無念さは計り知れず、かけがえのない家族を失った遺族が厳罰を求めるのは至極無理からぬところである。 被告人は、飲酒する予定でありながら、自動車を運転して飲食店に行き、同席した友人から飲酒運転をしないよう注意されたのに、店を出てまもなく運転を開始し、前記の経緯で本件事故を惹起した。身勝手な判断でその危険性を軽視して運転を開始し、寝落ちし始めてから何度も運転をやめる機会があったのに、運転を継続した意思決定は強い非難に値する。飲酒運転 を開始し、前記の経緯で本件事故を惹起した。身勝手な判断でその危険性を軽視して運転を開始し、寝落ちし始めてから何度も運転をやめる機会があったのに、運転を継続した意思決定は強い非難に値する。飲酒運転の発覚を防ぐため、警察に申告せず逃走した第2の犯行も看過できず、後にドライブレコーダーを確認するなどして重大な人身事故を起こしたことを確信してからも、飲酒の臭いを消すためシャワーを浴び、当初警察官に虚偽を述べるなど、犯行後の行動もよくない。 2 被告人は、許されないし取り返しのつかないことをしたと反省の弁を述べているものの、遺族に対して謝罪の手紙を含め能動的な慰藉の措置を講じていないことなどに照らすと、本件と十分に向き合っているとは認められない。車両所有者が加入し、被告人が保険料を支払った任意保険によって示談が成立したことは、任意保険不加入の事案と比べる限りで評価できるにしても、任意保険に加入するのがごく一般的といえる現状に照らせば、格別大きく斟酌することはできない。 3 以上の事情をもとに、同種事案(アルコールの影響による危険運転致死1件、単独犯、前科なし、その他の主要な罪なし)の量刑傾向(重く処罰されているものの多くは、本件よりかなり高濃度のアルコールを身体に保有していたり、あるいは大幅な速度超過や歩道への進入、救護義務違反(いわゆるひき逃げ)を伴っている。)を踏まえつつ、飲酒運転による重大事故が社会問題となって久しいにもかかわらず、本件のような悲惨な事故が後を絶たない現状も考慮して、主文の とおり量刑した。 (求刑懲役13年)令和6年11月21日名古屋地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官坂本好司 裁判官岩田澄江 裁判官荒田航希 年11月21日 名古屋地方裁判所刑事第2部 裁判長 裁判官 坂本好司 裁判官 岩田澄江 裁判官 荒田航希

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