令和4(ワ)754 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年12月22日 大阪地方裁判所
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判決文本文5,152 文字)

主文 1 被告らは、原告に対し、連帯して、55万円及びこれに対する令和3年9月30日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを12分し、その11を原告の負担とし、その余は被告らの 負担とする。 4 この判決は、1項及び3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは、原告に対し、連帯して、660万円及びこれに対する令和3年9 月30日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、被告倉敷紡績株式会社(以下「被告会社」という。)に勤務していた原告が、被告会社の執行役員であり原告の上司であった被告Aから罵声を浴びせられるなどのパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)を受けたこと により被告会社を退職せざるを得なくなり、精神的苦痛を受けたなどとして、被告らに対し、不法行為(被告Aに対しては民法709条、被告会社に対しては同法715条1項)に基づく損害賠償として、660万円及びこれに対する原告が被告会社を退職した日(不法行為の後の日)である令和3年9月30日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の連帯支 払を求める事案である。 1 前提事実(後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告(昭和▲年▲月生)は、平成31年2月1日、雇用期間の定めのない社員として被告会社に入社し、環境メカトロニクス事業部情報機器システム部画像情報課の課員として働き始めた。原告は、令和3年4月1日には同課 課長補佐に昇格したが、同年9月30日に被告会社を退職し、同年10月1 日、株式会社エム・シス 部情報機器システム部画像情報課の課員として働き始めた。原告は、令和3年4月1日には同課 課長補佐に昇格したが、同年9月30日に被告会社を退職し、同年10月1 日、株式会社エム・システム技研(以下「エム・システム社」という。)に入社した。(甲4、6、12、13、15、原告本人)(2) 被告Aは、昭和60年に被告会社に入社し、令和3年2月1日、原告が当時所属していた情報機器システム部の部長を兼務するようになった。被告Aは、同年6月29日付けで被告会社の執行役員に就任したが、被告会社から 執行役員の辞任勧告を受けて同年9月30日付けで執行役員を退任し、令和4年4月1日からは被告会社の子会社で勤務している。 (甲1の1・2、乙8、弁論の全趣旨)(3) 被告会社のハラスメント防止規則において、パワハラとは「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範 囲を超えたものにより、従業員の就業環境が害されること」と定義されている。(丙1) 2 争点及びこれに関する当事者双方の主張(1) 被告Aの不法行為の成否(争点1)(原告の主張) 被告Aは、別表の「原告の主張」欄記載のとおり、原告に対し、故意によるパワハラ行為を行った。被告Aのこれらの行為は、原告に対する不法行為に当たる。 (被告Aの主張)争う。被告Aの原告に対する言動は、被告会社のハラスメント防止規則に おけるパワハラの定義のうち「業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、従業員の就業環境が害されること」の要件を満たさない。原告の主張するパワハラ行為に関する個別の主張は、別表の「被告Aの主張」欄記載のとおりである。 (被告会社の主張) 被告 、従業員の就業環境が害されること」の要件を満たさない。原告の主張するパワハラ行為に関する個別の主張は、別表の「被告Aの主張」欄記載のとおりである。 (被告会社の主張) 被告Aの原告に対する言動の一部に、被告会社のハラスメント防止規則に おけるパワハラの定義に該当するものがあったことは認める。原告の主張するパワハラ行為に関する個別の主張は、別表の「被告会社の主張」欄記載のとおりである。 ただし、被告Aの原告に対する言動が原告に対する不法行為に当たる場合、被告会社が民法715条1項に基づいて一定程度の使用者責任を負うことは 争わない。 (2) 原告の損害及び因果関係(争点2)(原告の主張)被告Aの前記(1)の不法行為により、原告には、以下のア、イの合計660万円の損害が生じた。 ア慰謝料 600万円被告Aのパワハラ行為の強度及び頻度に照らせば、原告の精神的損害に対する慰謝料は600万円を下らない。また、慰謝料の算定に当たっては、逸失利益(被告Aのパワハラ行為がなければ、原告は被告会社で60歳まで就労することができ、エム・システム社で就労する場合よりも2288 万円余り多くの収入を得られたはずであること)も考慮すべきである。 イ弁護士費用 60万円(被告らの主張)原告が被告会社を退職した動機が、被告Aの原告に対する言動にあったとはいえない。また、原告は、複数回の転職を経て被告会社に入社し、被告会 社における在籍期間も2年余りにすぎないから、被告会社で60歳まで就労することを前提とした逸失利益の算定に合理性はない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実 が認 社で60歳まで就労することを前提とした逸失利益の算定に合理性はない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実 が認められる。 (1) 被告Aの原告に対する言動ア被告Aは、令和3年2月1日に情報機器システム部の部長に就任した後、同年9月30日に原告が被告会社を退職するまでの間、原告に対し、被告会社における業務の進め方等に関し、「アホ」「ボケ」「辞めさせたるぞ」「今期赤字ならどうなるかわかっているやろな」といった言動を日常 的に繰り返し行っていた。(甲1の1・2、3)イ被告Aは、前記アの期間において、原告に対し、「自分からかかってきた電話は3コール以内に出ろ」と言い、実際に原告が電話に出るのが遅かった場合は原告を叱責することがあった。(甲1の1・2、3)ウ被告Aは、令和3年4月又は5月、顧客とのWEB会議の終了後に、 原告が座っていた椅子の脚を蹴ったことが1回あった。(甲1 の1・2、3、丙5)エ被告Aは、令和3年7月頃、原告が新入社員を指導していた際、WEB会議システムを介して、新入社員の目の前で、原告ほか1名を指して「こいつらは無能な管理職だ。こんな奴らに教育されて可哀そうだ。こ れくらいのことができないのは本当に無能だ。」と発言した。(甲1の1・2、3、丙5)オ被告Aは、前記アの期間において、原告に対し、被告会社において利用が認められているフレックスタイム制度や在宅勤務の抑制を示唆する言動をし、また、被告会社の規定で認められている宿泊費の定額精算を 認めず、実費で精算すべきであると述べた。(甲1の1・2、丙3)(2) 原告の職歴及び収入並びに被告会 抑制を示唆する言動をし、また、被告会社の規定で認められている宿泊費の定額精算を 認めず、実費で精算すべきであると述べた。(甲1の1・2、丙3)(2) 原告の職歴及び収入並びに被告会社を退社した経緯ア原告は、平成8年3月に大学を卒業した後、計測機器等の製造販売等を行う会社に約4年、医薬品会社に約3年、転職支援会社に2、3年勤務し、平成19年頃にエム・システム社に入社した。原告は、平成31 年1月まで約12年間にわたって同社で勤務し、平成30年には年間8 20万円程度の収入を得ていた。(甲13、原告本人、弁論の全趣旨)イ原告の被告会社における収入は、入社時は年額630万円程度、退職時は年額840万円程度であった。(甲8の1ないし10、11、12、弁論の全趣旨)ウ原告は、令和3年7月上旬頃から転職活動を開始し、同月29日にエ ム・システム社から採用内定通知を受けた。原告は、同年8月4日、被告会社に対して退職を申し入れ、同月5日には、被告会社の社内公益通報窓口に対し、被告Aからパワハラ行為を受けている旨を通報した。原告は、同年9月30日に被告会社を退職し、同年10月1日からエム・システム社で勤務し始めた。エム・システム社入社時の原告の収入は年 額630万円程度であった。(前提事実(1)、甲6、15、弁論の全趣旨) 2 事実認定の補足説明(1) 原告は、被告Aから、前記1(1)で認定した言動のほかにも、別表の「原告の主張」欄記載のとおりパワハラ行為を受けた旨主張し、証人Bの証言及び陳述(甲16)並びに原告本人の供述及び陳述(甲15)中にはこれ に沿う部分がある。 しかし、これらの証言等を裏付ける客観的な証拠がないことや、証人Cの証言及び陳述(丙5)等に Bの証言及び陳述(甲16)並びに原告本人の供述及び陳述(甲15)中にはこれ に沿う部分がある。 しかし、これらの証言等を裏付ける客観的な証拠がないことや、証人Cの証言及び陳述(丙5)等に照らすと、証人B及び原告の前記の証言等により直ちに、被告Aが前記1(1)で認定した言動に加えて別表の「原告の主張」欄記載の言動をしたと認めることはできず、他にこれを認めるに足り る証拠はない。 (2) 他方、被告Aは、別表の「被告Aの主張」欄記載のとおり、前記1(1)で認定した言動の一部を否認し、同被告の供述及び陳述(乙8)中にはこれに沿う部分がある。しかし、前記1(1)で挙げた証拠(特に、甲1の1・2、3)等に照らし、前記1(1)で認定した言動の一部を否認する被告Aの供述 等は採用できない。 3 争点1(被告Aの不法行為の成否)について(1) 前記1(1)ア、ウ、エ、オにおいて認定した被告Aの原告に対する言動は、被告会社のハラスメント防止規則の定めるパワハラ(前提事実(3))に当たり、原告に対する注意や指導のための言動として社会通念上許容される限度を超え、相当性を欠くものであるから、原告に対する不法行為に当たる というべきである。また、被告Aの前記言動は、被告会社の被用者であった間に、被告会社の事業の執行に関連してされたものである。 したがって、被告Aは民法709条に基づき、被告会社は民法715条1項に基づいて、原告に対し、連帯して損害賠償責任を負う。 (2) これに対し、前記1(1)イにおいて認定した被告Aの原告に対する言動は、 原告に対する注意や指導のための言動として社会通念上許容されるものというべきであるから、原告に対する不法行為に当たるとはいえない。 4 争点2(原告の損害及び因果関係) 原告に対する言動は、 原告に対する注意や指導のための言動として社会通念上許容されるものというべきであるから、原告に対する不法行為に当たるとはいえない。 4 争点2(原告の損害及び因果関係)について(1) 前記1において認定した事実経過に照らせば、原告が被告会社を退職した原因は、被告Aの前記3(1)の言動にあったものと認めるのが相当である。 そして、被告Aの原告に対する言動の内容、これらの言動がされた状況、期間及び頻度、その他本件において現れた一切の事情を考慮すれば、被告Aの前記3(1)の言動により原告が受けた精神的損害に対する慰謝料の額は、50万円と認めるのが相当である。また、本件事案の難易、認容額その他の事情を考慮すれば、被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士 費用は、慰謝料額の1割に当たる5万円と認めるのが相当である。 (2) 原告は、慰謝料額の算定に当たって逸失利益を考慮すべきである旨主張する。しかし、前記1(2)で認定した原告の被告会社及びそれ以前の勤務先における勤務期間等に照らすと、被告Aの前記3(1)の言動がなければ原告が被告会社で60歳まで就労することが確実であったということはできな い。また、原告が被告会社で60歳まで就労した場合に、エム・システム 社で就労する場合より多くの収入を得られることが確実であったと認めるに足りる証拠はない。以上によれば、本件において、前記(1)の50万円を超える慰謝料を認めるべき理由はない。 5 結論よって、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第13民事部 裁判官伊澤大介 (別表の掲載省略) 大阪地方裁判所第13民事部 裁判官伊澤大介 (別表の掲載省略)

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