平成26(ワ)11151等 不正競争行為差止等請求事件,業務禁止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年7月21日 大阪地方裁判所
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平成28年7月21日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成26年(ワ)第11151号不正競争行為差止等請求事件(A事件)平成25年(ワ)第13167号業務禁止等請求事件(B事件)口頭弁論終結日平成28年5月26日判決 A事件原告錫器事業協同組合AB事件原告大阪錫器株式会社上記原告ら訴訟代理人弁護士林幸二同松本武志同井上高和AB事件被告 P1同訴訟代理人弁護士吉田浩司同訴訟復代理人弁護士伊藤慎吾AB事件被告 P2同訴訟代理人弁護士橋本俊和同橋本智子 主文 1 A事件原告及びAB事件原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は同原告らの負担とする。 事実及び理由 1 A事件に関する事実及び理由は,別紙「事実及び理由(A事件関係)」のとおりである。 2 B事件に関する事実及び理由は,別紙「事実及び理由(B事件関係)」のとおりである。 3 以上によれば,A事件原告及びAB事件原告の請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 以上によれば,A事件原告及びAB事件原告の請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部裁判長裁判官 髙松宏之 裁判官 田原美奈子 裁判官 林啓治郎 (別紙)事実及び理由(A事件関係)以下,本別紙において,A事件原告錫器事業協同組合を「原告組合」,AB事件原告大阪錫器株式会社を「原告会社」,原告両名を併せて「原告ら」,AB事件被告P1を「被告P1」,AB事件被告P2を「被告P2」といい,被告両名を併せて「被告ら」という。 また,書証番号は,A事件に係る書証については,A事件での書証番号により,単に「甲1」などと表記し,B事件に係る書証については「B事件甲1」などと表記し,枝番号の全てを含むときは,枝番号の記載を省略する。 第1 請求 1 被告らは,別紙記載の合金を製品の製造販売に使用し,又は同合金の内容を開示してはならない。 2 被告らは,別紙記載の合金を使用して製造した製品を廃棄せよ。 3 被告らは,原告会社に対し,連帯して22 は,別紙記載の合金を製品の製造販売に使用し,又は同合金の内容を開示してはならない。 2 被告らは,別紙記載の合金を使用して製造した製品を廃棄せよ。 3 被告らは,原告会社に対し,連帯して2296万円及びこれに対する平成26年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 請求の要旨本件は,①錫器(錫製品)の製造に関する事業に携わる原告らが,被告らにおいて,錫器の製造に使用する別紙記載の合金(以下「本件合金」という。)に係る営業秘密を不正の利益を得る目的で使用して錫製品を製造販売していることが,不正競争防止法2条1項7号の不正競争に該当すると主張して,被告らに対し,同法3条1項に基づいて,本件合金につき,製造等の差止め,廃棄を求めるとともに,②錫器の製造を行う原告会社が,上記不正競争行為により損害を被ったと主張して,被告らに対し,同法4条に基づき,連帯して損害金2296万円及びこれに対する上記不正競争行為の後であり,訴状送達の日の翌日以降である平成26年12月12 日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる。)(1) 原告組合は,錫器の製造を行う事業者を組合員とし,組合員の製造する製品の共同販売,共同検査等を目的とする事業協同組合であり,原告会社は,原告組合の組合員であり,錫器の製造を行う株式会社である(以下,原告会社が製造販売する錫器を「原告製品」という。)。(B事件甲1,2)被告らは,かつて原告会社の従業員であった者である。 (2) 被告らは,原告に勤務していた平成22年10月頃から大阪市〈以下略)に工房を設置し,「P10」との名称を使用するな 事件甲1,2)被告らは,かつて原告会社の従業員であった者である。 (2) 被告らは,原告に勤務していた平成22年10月頃から大阪市〈以下略)に工房を設置し,「P10」との名称を使用するなどして,錫製品の製造販売等を行い(以下,被告らが製造販売する錫製品を「被告製品」という。),原告会社を退職した後も錫製品の製造販売等をしている。 3 争点(1) 本件合金が営業秘密に該当するか。 (2) 被告らが不正の利益を得る目的で営業秘密を使用(不正競争防止法2条1項7号)したか。 (3) 損害額第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(本件合金の営業秘密性)について【原告らの主張】以下のとおり,原告らが開発した別紙の内容の本件合金の組成は,営業秘密に該当する(なお,原告らは,本件合金の製造方法については営業秘密として主張しない。)。 (1) 有用性従前,錫製品には鉛が含まれていたが,食品,添加物等の規格基準が改正され, 容器等の鉛の含有量を●(省略)●未満にしなければならないと変更されたため,鉛レス合金を開発する必要が生じた。そこで,原告会社の昭和56年以降の基礎研究に基づき,原告組合は,平成19年以降,鉛レス合金の開発を行った。合金は,温度,成分の割合等によって液体,固体の状態が異なり,温度,割合,状態の関係を一つずつ実験する必要があり,原告組合は,平成20年4月頃から平成24年2月頃までの間,合計6302万0895円(補助金3293万9288円及び原告組合の負担金3008万1607円)を費やして,622種類の合金について実験を行い,●(省略)●から成る鉛レスの本件合金を開発した。 このようにして開発された本件合金を使用すると,鉛の含有率が●(省略)●以下であっても,錫の切削性が やして,622種類の合金について実験を行い,●(省略)●から成る鉛レスの本件合金を開発した。 このようにして開発された本件合金を使用すると,鉛の含有率が●(省略)●以下であっても,錫の切削性が失われず,加工,鋳造が容易になり,従来と同じく伝統的な技術による加工が可能となるから,本件合金は,特殊な伝統技術を用いた錫器製造の根幹をなす。 したがって,本件合金は,錫器の製造に有用な技術上の情報に当たる。 (2) 非公知性錫は,合金にしやすく,気体を含む100余りの元素と結び付けられるため,錫合金の各元素の含有量を解析するためには,添加元素を全て特定した上で,その含有率を測定する必要があり,錫と結合可能な100余りの元素を全て分析しなければならず,データの精度を確保するには,5点ないし10点の検体を分析する必要がある。1元素当たりの分析費用の平均が7000円であるとして,100元素につき,検体数を10点ずつとすると,合計700万円の費用を要し,半年ないし1年の期間がかかるから,錫の高品位部分の合金では,分析に高額の費用を要し,分析によって金属含有量を特定するのは困難である。 仮に,解析によって本件合金の金属含有率を測定できたとしても,金属がなじむ温度,金属を入れる順番等について専門知識,特殊な技術がなければ,偏析(金属や合金が凝固する際,不純物や成分元素の濃度分布が不均一になる現象)を起こしやすく,本件合金と同じ合金を製造することは不可能である。いわゆるリバースエ ンジニアリングが可能な製品であっても,分析により容易に製造できるものでない場合は,保護されるべき技術上の秘密に該当する。 被告らが主張する●(省略)●は,一般的に,●(省略)●の合金であり,本件合金とは異なる上,●(省略)●や●(省略)●に●(省略)●が含 るものでない場合は,保護されるべき技術上の秘密に該当する。 被告らが主張する●(省略)●は,一般的に,●(省略)●の合金であり,本件合金とは異なる上,●(省略)●や●(省略)●に●(省略)●が含まれるのは一般的でない。 したがって,本件合金は,公然と知られていないものに当たる。 なお,原告らは,被告製品の金属含有量を解析しているが,これは,原告らが本件合金を構成する添加元素をあらかじめ知っているから可能となっているのである。 (3) 秘密管理性開発過程の実験の結果を記載した書面等の本件合金に関する開発データは,原告会社代表者が原告組合の役員として管理し,本件合金の製造方法は,錫器の製造を担当する者にしか伝えられていない。また,本件合金の母合金(合金添加用としてあらかじめ作ってある合金)は,原告会社のみが製造し,原告組合の組合員のみに供給されている。 また,被告P2が本件合金の製造等を担当し,被告P1が被告P2の後を引き継いだので,被告らは,本件合金の配合を認識していたところ,原告会社の就業規則には,従業員が会社の業務上の機密事項及び会社の不利益となる事項を他に漏らしてはならない旨が定められており,被告らは労働契約及び就業規則により守秘義務を負っていた。 以上に加え,原告らが小規模であり,本件合金を知っている者が少人数であること,実際に本件合金及び母合金を製造している者が3名のみであること,本件合金が職人の技術であり,職人の知識として管理され,慣習や伝統によって暴露が許されないものであることなどを総合すると,本件合金は,秘密として管理されている情報に当たる。 【被告らの主張】以下のとおり,本件合金は,営業秘密には該当しない。 仮に本件合金が営業秘密に該当したとしても,原告らが主張するように,原告 として管理されている情報に当たる。 【被告らの主張】以下のとおり,本件合金は,営業秘密には該当しない。 仮に本件合金が営業秘密に該当したとしても,原告らが主張するように,原告組合が本件合金を開発し,組合員のみが本件合金を使用できるというのであれば,本件合金に係る権利ないし法的利益は原告組合に帰属するというべきであり,原告会社には権利侵害を主張すべき独自の利益がない。 (1) 有用性原告ら主張の有用性は知らない。本件合金が他の鉛フリー合金と異なる特性を有するのか,従来の合金のどの部分を変更したことで切削性・鋳造性が改善されたのか,指定した元素とその配合割合が合金の利用目的にとって最適であるのか等について,具体的な数値や実験結果による裏付けが全くない。 また,錫合金の原料として鉛以外の金属を配合することは古く知られた製法であり,本件合金に配合される金属は●(省略)●に配合されるものと同様である。また,本件合金の配合比率が定められるよりも前から,錫合金であるはんだに関し,日本工業規格(JIS)によって鉛フリーのはんだの配合比率が定められ,広く周知されていた。実際に,同業他社には,錫100%で錫器を製作する業者や,●(省略)●配合して鉛レスの錫器を製作する業者が存在し,鉛レスの錫合金は,市場に出回るありふれたものである。 したがって,本件合金は,錫器の製造に有用な技術上の情報には当たらない。 (2) 非公知性ア ICP発光分光分析法は,現在,あらゆる物質の分析に利用され,錫合金のような非鉄金属の成分分析にも一般的に用いられている。ICP発光分析に用いられる機材は,市販され,各大学の教育・研究施設や公設機関,一般企業にも多数導入されており,数千万円の高価な機材もあるが,申請すれば部外者でも有償で機材が 般的に用いられている。ICP発光分析に用いられる機材は,市販され,各大学の教育・研究施設や公設機関,一般企業にも多数導入されており,数千万円の高価な機材もあるが,申請すれば部外者でも有償で機材が利用できる大学や公設機関が複数存在する。また,成分分析の知識ないし経験が全くなくても,分析対象となる製品ないし原料を提供すれば,試料サンプリングから成分分析及びその結果報告を請け負う各種団体,一般企業が多数存在する。 このように,本件合金の配合比率を調べるための技術手段は,配合比率の解析を求 める需用者自身若しくは企業等の専門機関を通じて利用することが容易である。 イ古来,錫合金に用いられてきた元素は数種類しかなく,●(省略)●などの金属を用いて錫合金を作ること自体は,つとに広く知られた技法と考えられる。 錫合金の素材となり得るのは融点が比較的錫と近いものに限られ,●(省略)●など人体,環境への悪影響がある元素は,本件合金の材料として使用できない。錫器として工業的に製造販売するためには,●(省略)●の元素で,調達が容易な元素でなければならず,入手が困難なものや高価なものは採算がとれない。 また,日本工業規格で示された21種の鉛フリーはんだ合金に配合されるべき金属は,錫を除けば●(省略)●にすぎない。 実際には,合金に上記の元素以外の不純物も混入しているが,ごく微量の元素は,合金の特性に格別の影響を及ぼすものではなく,本件合金の配合比率を知るために調査する必要はない。錫製品の製造に携わって錫の性質を熟知した者は,いかなる元素が錫合金に適しているかを経験によって知悉しており,リバースエンジニアリングを行うに際して分析対象とする元素も自ずと見当が付き,多大な手間,費用を掛ける必要はない。他方で,錫製品を専門的に製造した経験のない者であっても かを経験によって知悉しており,リバースエンジニアリングを行うに際して分析対象とする元素も自ずと見当が付き,多大な手間,費用を掛ける必要はない。他方で,錫製品を専門的に製造した経験のない者であっても,錫合金の素材となり得る元素は,インターネットや一般の書籍で得た知識に基づいて容易に推測して,およその見当が付くのであり,リバースエンジニアリングを行う際の分析対象となる元素は,●(省略)●など,せいぜい数種類の候補に絞られる。 したがって,本件合金の配合比率を実際に知るためには,錫と結合可能な100余りの元素を逐一分析しなければならないわけではなく,●(省略)●等の錫合金を参考に,●(省略)●を特定するだけで必要十分である。また,偏析による検出結果のばらつきを考慮しても●(省略)●の検体を調査すれば足りる。 そうすると,仮に外部団体に調査依頼する場合でも,調査費用は十数万円から高くても20万円程度で十分である。装置を既に保有している者,無償利用できる者,試料分析の知識経験があって機材さえ利用できれば自主調査できる者であれば,更 に低廉な費用で分析ができる。 ウ以上より,ICP発光分光分析法を用いて,自ら又は外部団体を通じて本件合金の配合比率を調べることは,一般的に利用可能な技術手段を用いた調査といえ,これに要する費用も過大なものにならない。 したがって,本件合金を構成する金属成分の種類,配合比率は容易に分析することができ,本件合金を用いた錫器は市販されているから,本件合金は非公知性を欠く。 (3) 秘密管理性本件合金の開発過程における各金属の配合比率等が記載された実験ノートは,原告会社代表者の机の上に置かれ,施錠,保管や,マル秘等の注意書きもされていなかった。被告らは,開発作業の際,各金属の配合比率について,メモ 発過程における各金属の配合比率等が記載された実験ノートは,原告会社代表者の机の上に置かれ,施錠,保管や,マル秘等の注意書きもされていなかった。被告らは,開発作業の際,各金属の配合比率について,メモ書きを作成し,鋳造を担当する職人にメモを見せ,切削を担当する職人に,配合比率及びテスト項目が記載された書面を渡していた。被告らは,本件合金の配合比率が営業秘密であることにつき,口頭で厳命されたこともなければ,営業秘密として遵守するよう書面によって明確に注意されたこともなく,秘密保持の契約書や誓約書を作成したこともない。 また,被告らは,在籍当時,原告会社の就業規則を見せてもらったこともなく,就業規則がどこに備え置いているかも知らされていなかったから,就業規則は周知手続(労働基準法106条1項)がとられておらず,被告らを拘束しない。そもそも,原告会社の就業規則や労働契約は単に従業員の一般的義務を定めたものにすぎず,就業規則43条4項では,「会社の業務上の機密事項」の内容が全く特定されていないため,就業規則や労働契約によって本件合金の秘密管理性が基礎付けられることはない。 原告らが主張するように,当該情報が単に職人の頭の中で管理され,慣習や伝統によって暴露が許されないものとされていたというだけでは,管理の認識可能性がなく,秘密管理方法として適切とはいえない。 したがって,本件合金は,開発の過程から結果に至るまで,秘密として管理されてはいなかった。 2 争点(2)(被告らの不正競争防止法2条1項7号該当性)について【原告らの主張】被告らは,本件合金の開発を担当したが,本件合金を自ら発明していないため,原告らから「営業秘密を示された」といえるところ,平成22年10月頃,原告らの保有する営業秘密を使用して錫器の製造及び販 被告らは,本件合金の開発を担当したが,本件合金を自ら発明していないため,原告らから「営業秘密を示された」といえるところ,平成22年10月頃,原告らの保有する営業秘密を使用して錫器の製造及び販売等を行い,不正な利益を得る目的で,工房設立を準備し,遅くとも,同月22日頃から,「P10」を名乗り,大阪市〈以下略)に工房を設置し,錫器の製造販売及び宣伝等を始めた。 被告製品を試料とした分析結果によれば,被告らは,本件合金を使用したと認められる。原告製品の反射電子画像及びSEM画像と,被告製品の反射電子画像及びSEM画像を比べると,組織形状や粒界析出の状態等を含め,同じ合金を使っていることは明らかである。被告製品の中には,●(省略)●含まれている旨の分析結果が得られたものもあるが,被告らは,本件合金を使用した際に,不注意で●(省略)●含有させたにすぎない。 したがって,被告らは,原告らから示された営業秘密を,不正の利益を得る目的で使用しており,被告らの行為は,不正競争防止法2条1項7号に該当する。 【被告らの主張】被告らは,本件合金の開発を担当し,本件合金に係る情報を自ら取得したから,原告らから「営業秘密を示された」とはいえない。 また,被告らが本件合金を用いて錫製品を製造したことはない。 3 争点(3)(損害額)について【原告会社の主張】(1) 不正競争防止法5条2項の損害被告らは,少なくとも16件のイベントに出展し,イベント1件当たり平均15万円の売上げを得た。その売上額の70%が利益額に相当し,被告らは,合計16 8万円(15万円×70%×16件)の利益を得た。 また,被告らは,平成22年11月から平成26年10月までの48か月間にわたり,通信販売,店舗や工房での販売等を行い,1か月で 合計16 8万円(15万円×70%×16件)の利益を得た。 また,被告らは,平成22年11月から平成26年10月までの48か月間にわたり,通信販売,店舗や工房での販売等を行い,1か月で20万円,合計960万円の利益を得た。 さらに,被告らは,平成24年から平成26年10月までの22か月間にわたり,錫製品の販売等の活動を続け,少なくとも,1か月で40万円,合計960万円の利益を得た。 したがって,原告会社は,合計2088万円の損害を被った。 (2) 弁護士費用208万円(3) 合計2296万円【被告らの主張】否認する。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件合金の営業秘密性)について(1) 有用性について原告らは,本件合金を使用すると,鉛の含有率が●(省略)●以下であっても,錫の切削性が失われず,加工,鋳造が容易になる旨主張する。 しかし,本件合金がそのような効果を有することを認めるに足りる証拠はない。 原告らは,本件合金の開発経緯について,多くのテストと会議を重ねたとして鉛レス地金開発事業地金研究会議の議事録(甲8)及びそのテスト結果の一部(甲34)を提出し,また,多額の開発資金を投じた証拠(甲5,6,24)を提出する。 しかし,証拠として提出された上記議事録では,テスト結果の部分は開示されておらず,また,上記テスト結果の一部(甲34)のみでは,地金テストの結果が持つ意味は明らかでなく,多額の投下資金を投じたからといって直ちに本件合金に上記 の効果があると認めることもできない。原告製品が本件合金を用いて製造されているとしても,そのことから直ちに別紙記載の一定の成分組成と一定の配合範囲から成る本件合金が原告ら主張の効果を有すると認めることもできない。 こともできない。原告製品が本件合金を用いて製造されているとしても,そのことから直ちに別紙記載の一定の成分組成と一定の配合範囲から成る本件合金が原告ら主張の効果を有すると認めることもできない。 また,原告ら代表者は,陳述書(甲20)において,本件合金の有用性を説明するが,本件合金がその説明に係る効果を有することは,客観的に確認されるべきものであり,関係者の陳述のみによって直ちにそれを認めることはできない。 結局,原告らは,本件合金の技術上の有用性について,これを認めるに足りる証拠を提出していないといわざるを得ず,本件合金について営業秘密としての有用性を認めることはできない。 (2) 非公知性について「公然と知られていない」(不正競争防止法2条6項)とは,保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態にあることをいうと解されるところ,市場で流通している原告製品から容易に本件合金の成分及び配合比率を分析できるのであれば,本件合金は「公然と知られていないもの」とはいえないため,本件合金の成分及び配合比率を検出するための分析方法及びその費用を検討する。 ア認定事実(ア) ICP発光分光分析法の特徴ICP(InductivelyCoupledPlasma,誘導結合プラズマ)発光分光分析法(ICP-AES)は,アルゴンガスのICPを光源とする発光分析法である。試料の溶液を霧状にした分析試料に外部からプラズマのエネルギーを与えると,試料に含まれる成分元素(原子)が励起され,励起された原子が低いエネルギー準位に戻る時に元素固有の波長の光を放出し,この放出される発光線(スペクトル線)を測定する。具体的には,発光線の位置(波長)から成分元素の種類を判定し(定性分析),その強度から各元素の含有量を求める(定量分析)。分析装置には, の光を放出し,この放出される発光線(スペクトル線)を測定する。具体的には,発光線の位置(波長)から成分元素の種類を判定し(定性分析),その強度から各元素の含有量を求める(定量分析)。分析装置には,1元素ずつの測定になるが分解能が高いシーケンシャル型と,分解能は劣るが,多元素同時測定が可能であるマルチチャンネル型があり,目的によって使い分けられる。(甲29,乙 B1及び2)ICP発光分光分析法の特長の一つとして,同一条件で多くの元素を励起でき,主成分元素,中成分元素,微量成分元素までの多くの元素を同時に定性・定量することができる点が挙げられる(乙A14,乙B1)。マルチチャンネル型の装置には,通常,1ないし2分程度の測定で測定可能な72元素全てについての知見を得ることができるという特徴を有するものもある(乙B2のエッシェルクロス型)。 ICP発光分光分析法は,製造・生産の高度化や管理,環境の保全,食の品質管理など日々の生活に密接に関連する分野において,高度な研究活動から日々の検査分析まで幅広いレベルで用いられている。これらを支える測定装置の進歩も著しく,マニュアルに従って分析条件を設定し,試料をセットしてパソコンから測定を開始させれば,数分で分析結果が表示される(乙B3)。 ICP発光分光分析法は,種々の元素分析に用いられているが,鉄鋼試料の構成元素の分析,鉛フリーはんだ中の有害元素の分析,ステンレス合金やアルミ合金などの材料判別のための微量元素分析等にも用いられ(乙A13及び14),●(省略)●。 (イ) ICP発光分光分析の費用ICP発光分光分析装置は市販されており,その中には,多くの元素の定性及び定量が,極微量から高濃度まで広い濃度範囲で行えて63種類の元素が測定可能であるとされている装置(乙A10) 分光分析の費用ICP発光分光分析装置は市販されており,その中には,多くの元素の定性及び定量が,極微量から高濃度まで広い濃度範囲で行えて63種類の元素が測定可能であるとされている装置(乙A10)や,「72元素の定性分析は約3分で半定量値まで得られます。」,「ppbから%までの一斉分析が可能で,主成分から微量元素まで簡単に分析できます。」とうたうもの(乙A9のICPS-8100),ガス,ハロゲン,炭素,硫黄を除くほとんどの元素が分析可能であるもの(乙B5)もある。 それらの分析装置は,大学,研究所,企業において設置され,外部からの分析依頼も受け付ける旨がウェブサイト等において紹介されており(乙A10ないし15,乙B4及び5),料金については,1時間につき1万4510円と定める例(乙A12),定性分析は1件1万6000円,定量分析は1成分2500円と定める例(乙 A13),定量分析について1試料1成分を9500円とし,1成分を増すごとに1570円を加算し,その他に化学分析試料調製として1試料1520円を要すると定める例(乙B4),定量分析について1試料1成分を7700円と定める例(乙B5)がある。 (ウ) 錫合金に通常含まれる成分競合他社が市場に流通する原告製品を分析する場合,主成分が錫であることは当然の前提であり,配合各成分についても,人体や環境に有害でなく,入手困難なものや高価なものではないことが前提となる(弁論の全趣旨)。 ここで,「JISZ 3910」では,錫を主成分とするはんだ(低融点合金)について,ICP発光分光分析法を利用して分析することが規格化されている成分元素として,鉛,銀,アンチモン,銅,ビスマス,亜鉛,鉄,アルミニウム,ヒ素,カドミウム,インジウム,金,ニッケルが定められている(乙A16 発光分光分析法を利用して分析することが規格化されている成分元素として,鉛,銀,アンチモン,銅,ビスマス,亜鉛,鉄,アルミニウム,ヒ素,カドミウム,インジウム,金,ニッケルが定められている(乙A16の173頁)。 また,「JISZ 3282(はんだ-化学成分及び形状)」においては,「鉛フリーはんだ」の定義として,「固相線温度が450℃未満の溶加材で,鉛を含まないすず系はんだの総称。ここでは,すず,亜鉛,アンチモン,インジウム,銀,ビスマス,銅からなる鉛分0.10%以下のはんだをいう。」とされ,「表2 鉛フリーはんだの種類・記号及び化学成分」では,上記定義外の不純物成分として,金,アルミニウム,ヒ素,カドミウム,鉄,ニッケルが掲記され,「適用範囲」において,はんだが美術,工芸,装飾品に至るまで広く使用されている旨が説明されている(乙A6)。 さらに,インターネットでの検索結果やブログにおいて,●(省略)●について,錫を主成分とする合金であり,錫以外の成分として,●(省略)●等が含まれる旨が紹介されている(乙A1ないし4)。 なお,錫合金の錫の含有量を算出する場合は,分析を行った錫以外の金属の金属量を分析し,その合計を100%から差し引いて算出するのが一般的である(甲25。乙A6の前記「JISZ 3282」の表2でも,錫は「残部」とされてい る。)。 イ以上に基づき判断する。 (ア) 前記のとおり,ICP発光分光分析法によれば,多くの元素を定性・定量分析することができ,合金の成分元素の分析にも用いられていることからすれば,原告製品を本分析法により分析すれば,その成分元素と構成割合を知ることが可能であると認められる。 (イ) これに対し,原告らは,錫合金の各元素の含有量を解析するには,添加元素を全て特定した れば,原告製品を本分析法により分析すれば,その成分元素と構成割合を知ることが可能であると認められる。 (イ) これに対し,原告らは,錫合金の各元素の含有量を解析するには,添加元素を全て特定した上で,その含有量を分析しなければならないことから,錫と結合可能な100余りの元素を全て分析しなければならず,その分析には高額の費用と半年ないし1年の期間を要すると主張する。 しかし,まず,鉛フリーの錫合金については,●(省略)●,錫合金を製造する事業者においては,錫合金で使用されている添加成分についておおよその見当を付けることができるといえる。そして,●(省略)●,他の業者が原告製品に使用された合金の組成を知るに当たり,100余りの元素を全て分析する必要があるとはいえない。 また,前記のとおり,ICP発光分光分析法は,多くの元素を同時に定性・定量することができる点に特徴がある分析法であり,分析機関では,定量分析については1成分単位の料金(乙A13の例では1成分2500円)が定められているものの,定性分析については1件単位の料金(乙A13の例では1件1万6000円)が定められているにすぎないから,多くの元素を指定して定性分析を行えば,対象物に含有されている成分元素の種類を比較的安価に特定することができるといえる。 そして,原告製品を定性分析した場合,証拠(甲21)によれば,錫以外では,本件合金を組成する●(省略)●元素が検出されると考えられ,他に不純物として存在する元素が検出されると考えても,●(省略)●,さほど多い種類の元素が不純物として検出されるとは考え難い。そうすると,定量分析は,そうした定性分析によって検出された元素のみを対象に行えば足りるから,原告らが主張するように, 100余りの元素の全てを定量分析する必要があるとはいえず は考え難い。そうすると,定量分析は,そうした定性分析によって検出された元素のみを対象に行えば足りるから,原告らが主張するように, 100余りの元素の全てを定量分析する必要があるとはいえず,むしろ比較的安価に組成を特定することができるというべきである。 したがって,原告らの上記主張は採用できない(なお,本件で原告らは被告製品の組成を分析している(甲9,30及び31)が,仮に上記の原告らの主張のとおりであるとするならば,原告らは,被告らが添加しているはずであると自ら考えた金属元素だけを定量分析したにすぎないから,厳密にいえば,それによっては被告製品の組成を解明できていないこととなるというべきである。)。 (ウ) そして,原告製品の合金に偏析がないことについては,証拠(甲21,22)のとおり,反射電子像及びSEM像から容易に確認することができるから,本件合金は,原告製品の分析により,第三者が容易に知ることができるものであり,非公知性を欠くというべきである。 これに対し,原告らは,本件合金の成分及び配合比率を容易に分析できたとしても,特殊な技術がなければ本件合金と同じ合金を製造することは不可能であるから,本件合金は保護されるべき技術上の秘密に該当する旨主張する。しかし,その場合には,営業秘密として保護されるべきは製造方法であって,容易に分析できる合金組成ではないから,原告らの上記主張は採用できない(なお,前記のとおり原告らは,本件で本件合金の製造方法は営業秘密として主張しない旨を明らかにしている。)。 (3) まとめ以上によれば,本件合金は,少なくとも有用性及び非公知性を欠き,営業秘密に該当するとは認められない。 2 結論以上の次第で,原告らのA事件に係る請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理 れば,本件合金は,少なくとも有用性及び非公知性を欠き,営業秘密に該当するとは認められない。 2 結論以上の次第で,原告らのA事件に係る請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。 以上 (別紙) ●(省略)● (別紙)事実及び理由(B事件関係) 以下,本別紙において,AB事件原告大阪錫器株式会社を「原告」,AB事件被告P1を「被告P1」,AB事件被告P2を「被告P2」といい,被告両名を併せて「被告ら」という。 また,書証番号は,B事件に係る書証については,B事件での書証番号により,単に「甲1」などと表記し,枝番号の全てを含むときは,枝番号の記載を省略する。 第1 請求 1 被告P1は,錫器の製造及び販売並びにこれに附帯する一切の業務を,本判決確定後から1年6か月間,行ってはならない。 2 被告P2は,錫器の製造及び販売並びにこれに附帯する一切の業務を,本判決確定後から1年間,行ってはならない。 3 被告らは,原告に対し,連帯して1068万円及びこれに対する平成26年1月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告らは,原告に対し,別紙物件目録記載の道具を引き渡せ。 第2 事案の概要 1 請求の要旨本件は,錫器の製造販売を業とする原告が,元従業員である被告らに対し,以下の請求をした事案である。 (1) 被告らが,原告と被告らとの間の平成24年12月14日付けの合意に違反して競業行為を行っていると主張して,同合意に基づき,被告P1については本判決確定後1年6か月間,被告P2については同1年間の競業行為の差止めを請求した。 (2) 被告らが,①原告に在職中に競 して競業行為を行っていると主張して,同合意に基づき,被告P1については本判決確定後1年6か月間,被告P2については同1年間の競業行為の差止めを請求した。 (2) 被告らが,①原告に在職中に競業行為をしたことが,労働契約上の職務専念義務,競業避止義務,使用者の名誉・信用を毀損しない義務に違反するとともに 共同不法行為を構成し,②原告に在職中に関係者から錫器の製作道具を騙し取ったことが,労働契約上の使用者の名誉・信用を毀損しない義務に違反するとともに共同不法行為を構成し,③原告に在職中に原告から錫器の製作道具を持ち出したことが,労働契約上の会社の機械器具その他の備品を大切にする義務に違反するとともに共同不法行為を構成し,④被告P2については,退職後に被告P1の上記債務不履行に加功したことが不法行為を構成すると主張して,債務不履行又は共同不法行為に基づき,連帯して1068万円の損害賠償及びこれに対する平成26年1月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した(債務不履行に基づく請求と不法行為に基づく請求とは選択的併合の関係にある。)。 (3) 上記(1)の合意に基づき別紙物件目録記載1ないし7の道具の引渡し及び上記(1)の合意又は所有権に基づき同目録記載8及び9の道具の引渡しを請求した(同目録記載8及び9の道具の引渡しについては,合意に基づく請求と所有権に基づく請求とは選択的併合の関係にある。)。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる。)(1) 当事者原告は,錫器の製造及び販売等を目的とする株式会社である。 被告P1は,平成18年3月27日に原告に入社し,錫器の製作業務に従事したが,平成24年10月22日 られる。)(1) 当事者原告は,錫器の製造及び販売等を目的とする株式会社である。 被告P1は,平成18年3月27日に原告に入社し,錫器の製作業務に従事したが,平成24年10月22日に退職した。 被告P2は,平成17年11月21日に原告に入社し,錫器の製作業務に従事したが,平成23年5月31日に退職した。 (2) 被告らの活動被告らは,平成22年10月22日頃から,「P10」として,大阪市〈以下略)に工房を設置し,錫器の製作等を行った。 (3) 原告の就業規則 原告の就業規則には,次の定めがある(ただし,その周知性には争いがある。甲1)。 「第42条(服務の基本原則)従業員はこの規則に定めるものの他業務上の指示命令に従い自己の業務に専念し作業能率の向上に努力すると共に互に協力して職場の秩序を守らなければならない。 第43条従業員は次の事項を守らなければならない。 ・・・3.常に品位を保ち会社の名誉を害し信用を傷つける様な事はしない。 4.会社の業務上の機密事項及び会社の不利益となる事項を他に漏らさない事。 5.会社の機械器具その他の備品を大切にし原材料燃料その他の消耗品を節約し製品及び書類は丁寧に取扱いその保管を厳にすること。 6.許可なく職務以外の目的で会社の設備車両機械器具,その他の物品を使用しないこと。」(4) 本件誓約書の作成被告らは,平成24年12月14日,原告代表者宛てに以下の記載の誓約書(以下「本件誓約書」という。甲11及び12)を作成した(以下,本件誓約書に係る原告と被告らとの合意を「本件合意」という。)。 「この度,大阪錫器株式会社および所属組合に対して許可なく製造行為を行った事に際し,今後,以下の事項を尊守履行することをこ (以下,本件誓約書に係る原告と被告らとの合意を「本件合意」という。)。 「この度,大阪錫器株式会社および所属組合に対して許可なく製造行為を行った事に際し,今後,以下の事項を尊守履行することをここに謹んで誓約いたします。 記1.組合が開発した錫地金を許可なく使用した賠償責任として,全ての資産を引き渡し,現在の工房を閉鎖すること。 2.組合員の承諾を得るまで,2月の展示会終了後より無期限でP10としての活動を停止すること。 3.許可なく,錫を扱う会社への入社および創業はいたしません。 4.上記の事項につき誓約を違反した場合は,必要に応じた賠償責任を負うこと。 以上」 3 争点(1) 競業行為の差止請求についてア本件合意は心裡留保,虚偽表示若しくは錯誤により無効又は詐欺により取り消し得るものか。 イ本件合意は公序良俗違反により無効か。 (2) 損害賠償請求についてア被告らが錫器の製作道具を騙し取ったか,また,それが労働契約上の使用者の名誉・信用を毀損しない義務の違反又は不法行為を構成するか(被告P2が被告P1の債務不履行に加功したかを含む。)。 イ被告らが在職中に競業行為を行ったか,また,それが労働契約上の職務専念義務違反及び競業避止義務違反又は不法行為を構成するか(被告P2が被告P1の債務不履行に加功したかを含む。)。 ウ被告らが在職中に競業行為を行ったか,また,それが労働契約上の使用者の名誉・信用を毀損しない義務の違反又は不法行為を構成するか(被告P2が被告P1の債務不履行に加功したかを含む。)。 エ被告らが在職中に原告の道具を持ち出したか,また,それが就業規則4 者の名誉・信用を毀損しない義務の違反又は不法行為を構成するか(被告P2が被告P1の債務不履行に加功したかを含む。)。 エ被告らが在職中に原告の道具を持ち出したか,また,それが就業規則43条5号の義務(会社の機械器具その他の備品を大切にする義務)の違反又は不法行為を構成するか(被告P2が被告P1の債務不履行に加功したかを含む。)。 オ被告らが退職後に競業行為を行ったことが,本件合意に基づく競業避止義務の違反又は不法行為を構成するか(本件合意の有効性を含む。)。 カ損害額(3) 道具の引渡請求についてア本件合意に基づく道具の引渡請求権の有無(本件合意の有効性を含む。)イ原告が別紙物件目録記載8及び9の道具を所有し,被告らがそれらを占 有しているか。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)ア(本件合意の心裡留保・虚偽表示・錯誤無効,詐欺取消し)について【被告らの主張】本件誓約書では,被告らの全資産を原告に引き渡すとか,P10としての活動を無期限停止すると記載されており,被告らに大きな不利益を課すものとなっているが,被告らがこのような誓約書を作成したのは,P10の活動が原告に発覚した後に,原告代表者から,P10の活動に反対するA事件原告錫器事業協同組合(以下,本別紙において「本件組合」という。)の組合員を説得する際に見せるために使うとの説明を受けたためであって,被告らが今後も円満に錫器の製作を行えるようにするためのいわば方便として利用する趣旨であった。 したがって,原告代表者と被告らは,本件誓約書の内容を実行する必要はないと合意していたのであるから,本件合意は虚偽表示により無効であり,そうでないとしても,被告らのそのような意思を原告代表者は知り得たから って,原告代表者と被告らは,本件誓約書の内容を実行する必要はないと合意していたのであるから,本件合意は虚偽表示により無効であり,そうでないとしても,被告らのそのような意思を原告代表者は知り得たから,本件合意は心裡留保により無効である。また,仮に本件合意が本件誓約書の記載どおりの効力を有するのであれば,被告らは,原告代表者の上記説明を信じて,本件誓約書の内容を実行する必要はないと誤信して本件合意をしたのであり,その動機は表示されているから,本件合意は錯誤により無効であり,また,被告らは,原告代表者による上記の虚偽説明により上記のとおり誤信して本件合意をしたのであるから,詐欺による意思表示であり,被告P1はB事件の平成26年4月3日付け準備書面(1)により,被告P2はB事件の同月4日付け準備書面により,本件合意を取り消す旨の意思表示をした。 【原告の主張】被告らの主張は否認する。 被告らは,P10として,本件組合が開発した営業秘密である地金を使用した競 業行為を行い,そのことが平成24年10月16日に発覚したが,本件組合では,被告らの組合加入を認める組合員はおらず,理事会の承認が得られる状態でもなかった。そこで,原告代表者は,被告らの活動を休止させ,自分たちの行ったことを反省させて,それを公表し,組合員その他の業界関係者に謝った上で,改めて一から再スタートしたいという形で持って行けば,ある程度,組合員等の理解を得ることができると思い,また,組合に加入ができなかったとしても,原告が責任を持って,原告の傘下で上記地金を使用して活動できるようにしようと思い,被告らに,いったん活動を休止することを促した。しかし,被告らは,ブログに謝罪文を掲載したものの,その後の出展予定も掲載したため,本件組合の組合員からは,被告らが反省 活動できるようにしようと思い,被告らに,いったん活動を休止することを促した。しかし,被告らは,ブログに謝罪文を掲載したものの,その後の出展予定も掲載したため,本件組合の組合員からは,被告らが反省していると思える状態ではないとの意見が出された。そのため,被告らは,同年12月14日,被告らが錫器の製作道具を原告に預けて活動を休止して,自分たちの行ったことを反省して,組合員その他業界関係者に謝った上で,相当期間経過後,再スタートするという意味で,本件誓約書を作成した。その際には,被告らから,平成25年2月までは出展させてほしいとの申出があったので,原告としてもその旨を了解した。 したがって,被告らが主張する心裡留保,虚偽表示,錯誤,詐欺はいずれも存しない。 2 争点(1)イ(本件合意の公序良俗違反)について【被告らの主張】本件合意は,被告らがP10として使用していた全資産を原告が取り上げ,工房を閉鎖することを強いるというものであり,競業禁止の期間や範囲はほとんど無限定である上,条項違反の場合にはほとんど無限定の賠償責任をとらされることとなっており,代償措置もない。かかる内容は,被告らの営業の自由(憲法22条1項)を過剰に制約するものであり,原告が被告らの元雇用主であるという優越的地位に乗じて一方的に不利益な内容を押し付けたといわざるを得ない。 仮に本件合意の解釈により競業禁止の期間や範囲を限定することができるとして も,①被告らは原告の営業秘密を害しているわけではなく,若手の従業員にすぎず,独自の販路を有しているわけでもなかったのに対し,原告は常時20名前後の従業員を抱える会社であり,分業体制をとって大規模に錫器を製作し,日本各地の百貨店等で広範囲にわたり販売していることから,被告らの活動によって,原告に損害 でもなかったのに対し,原告は常時20名前後の従業員を抱える会社であり,分業体制をとって大規模に錫器を製作し,日本各地の百貨店等で広範囲にわたり販売していることから,被告らの活動によって,原告に損害を与える可能性はなく,被告らに競業避止義務を課してまで原告に保護すべき利益がないこと,②被告らにとって錫器の製作は,自己表現の手段であると同時に唯一の生計手段であり,被告らに対して錫器の製作を禁止する本件合意は,被告らに対してのみ一方的に多大なる不利益を強いるものであること,③被告らは,伝統的な錫器の作風に飽き足らず,錫器の新たな可能性を追求していたのであり,多様な工芸品の発表ないし普及を図ることは社会的に保護・奨励されるべき試みであるから,これを禁止することは社会的にも有害であり,公序良俗に反し,無効である。 【原告の主張】被告らの主張は争う。 本件合意は,活動停止の期間について,「組合員の承諾を得るまで」との限定が付されており,被告らが主張するように無期限の活動停止を定めたものでない。この趣旨は,被告らが活動を休止して,自分たちの行ったことを反省して,組合員その他業界関係者に謝った上で,相当期間経過後,再スタートするというものである。 また,本件合意は,被告らが,在職中に競業行為という背信行為をしたことから,その解決のために締結されたものである。このことからすると,文言上は期限が明確でないこと,錫器製作のための道具を原告が預かること,代償措置が定められていないこと,全ての活動を禁止するものであることも問題がない。 さらに,原告では,食品容器等の鉛の含有量が規制されたことから,5000万円以上の開発費と4年以上の期間をかけて,錫器の鉛レスの合金及びロウ金(地金)を開発したのであり,鉛レス合金は営業の秘密として極めて重要であ は,食品容器等の鉛の含有量が規制されたことから,5000万円以上の開発費と4年以上の期間をかけて,錫器の鉛レスの合金及びロウ金(地金)を開発したのであり,鉛レス合金は営業の秘密として極めて重要である。このような営業の秘密を保護するという観点からも,本件合意は有効である。 加えて,被告らは,原告において,将来有望な職人として,鉛レスの合金の開発 において重要な役割を果たし,技術やノウハウを伝授されていたのであり,競業行為を禁止することは,後継者を育成し,伝統工芸品の技術を伝承するためにも必要である。 他方,被告らは,活動休止の解除後には鉛レス合金を使用できるのであり,本件合意をするに当たっても,活動休止の開始時期につき被告らの要望を容れて「2月の展示会終了後」とされており,被告らの利益に十分に配慮した内容となっている。 以上からすると,本件合意は公序良俗に反するものではない。 そして,本件合意は,被告らの真摯な反省の態度を示すという目的のために締結されたものであるから,業務禁止を命じることが絶対に必要であり,その期間については,被告P1については1年6か月,被告P2については1年と解するのが相当である。 3 争点(2)ア(道具騙取による名誉・信用の毀損)について【原告の主張】被告らは,平成22年10月頃,本件組合の組合員であるP3に対し,自ら錫器の製造販売を行うという意図を隠して,練習のために錫器製作のための道具を貸してほしいと述べて,P3から道具を騙し取った。また,被告らは,平成23年2月頃,本件組合の組合員であるP4からも,同様にして道具を騙し取った。この行為は,被告らが原告の従業員として負っていた,原告の名誉・信用を毀損しない義務に違反する。 【被告らの主張】原告の主張は否認する。 員であるP4からも,同様にして道具を騙し取った。この行為は,被告らが原告の従業員として負っていた,原告の名誉・信用を毀損しない義務に違反する。 【被告らの主張】原告の主張は否認する。 被告らは,P3及びP4に対して,将来自分たちの工房を開設したい旨を説明して道具を譲り受けたものであり,騙し取ってなどいない。 また,原告の名誉や信用が害されたこともない。 4 争点(2)イ(在職中の競業行為による職務専念義務違反・競業避止義務違反)について 【原告の主張】(1) 被告らは,遅くとも平成22年10月22日頃から,P10を名乗り,大阪市〈以下略)に工房を設置した上,自ら錫器の製造販売及び宣伝等を開始し,イベントへの出展やインターネット通信販売により,錫器の製造及び販売等を行った。 これは,就業規則に定める職務専念義務(就業規則42条)及び競業避止義務に違反するとともに,共同不法行為(退職後の被告P2については,被告P1の債務不履行に加功した不法行為を含む。)を構成する。 (2) 被告らは,就業規則の周知性を争うが,就業規則は,原告の本社において,事務員2名の席に備え付けており,いつでも見ることができるし,求めがあれば書面で交付するなどもしていたから,周知性はある。 【被告らの主張】(1) 原告主張の就業規則は,周知性を欠いており,効力を有しない。被告らは,就業規則を書面で交付されたことも,作業場のどこに備え置かれているかを教えてもらったこともない。 (2) 被告らは,勤務時間外に,自由に使える時間を使って,一般的な錫器加工技術を用いて錫器の製作作業をしたにすぎず,イベントへの出展やインターネットを通じて被告らの錫器に関心を持った者から注文を受けて製作したことはあるが,原告の営業 使える時間を使って,一般的な錫器加工技術を用いて錫器の製作作業をしたにすぎず,イベントへの出展やインターネットを通じて被告らの錫器に関心を持った者から注文を受けて製作したことはあるが,原告の営業秘密を用いたわけではなく,原告の従業員を引き抜いたり顧客を奪ったりしたこともなく,活動規模も小さい。被告らの活動は,せいぜい若手職人が自由な創作活動の場を求めて行った課外活動というべきものにすぎず,本来の勤務をおろそかにしてもいないから,原告主張の職務専念義務違反や競業避止義務違反に当たらない。 5 争点(2)ウ(在職中の競業行為による名誉・信用の毀損)について【原告の主張】原告は,伝統工芸品業界において,若手の育成に力を入れ,社内で適切な育成がなされているという社会的評価を得ていたところ,被告らが,原告に教えられた技 術やノウハウを用いて,原告に無断で競業行為を行ったことにより,原告は,業界関係者から,高い給料を支払い,また,周りの人間に協力をさせながらも,半人前以下の人間を世に出したと言われたのであり,原告の名誉・信用が毀損された。この行為は,被告らが原告の従業員として負っていた,原告の名誉・信用を毀損しない義務に違反するとともに,共同不法行為(退職後の被告P2については,被告P1の債務不履行に加功した不法行為を含む。)を構成する。 【被告らの主張】原告の主張は否認する。 原告の名誉・信用は害されていない。 6 争点(2)エ(在職中の道具持出しの就業規則43条5号違反)について【原告の主張】被告らは,原告の工房から,錫器の製作道具である「キサゲ」(別紙物件目録記載8)を無断で持ち出した。これは,就業規則43条5号所定の義務(会社の機械器具その他の備品を大切にする義務)に違反する行為である らは,原告の工房から,錫器の製作道具である「キサゲ」(別紙物件目録記載8)を無断で持ち出した。これは,就業規則43条5号所定の義務(会社の機械器具その他の備品を大切にする義務)に違反する行為である。 【被告らの主張】原告の主張は否認する。 原告主張の就業規則は周知性を欠き,効力を有しない。また,原告では,「キサゲ」等の製作道具について,入社時に個人専用の道具として支給されていたから,会社の備品を勝手に持ち帰ったことにはならない。 7 争点(2)オ(退職後の競業行為による本件合意違反)について【原告の主張】被告らが,退職後にP10として錫器の製造販売を行ったことは,本件合意が定める競業避止義務に違反する行為であるとともに,共同不法行為を構成する。 本件合意が有効であることは,争点(1)に関する原告の主張のとおりである。 【被告らの主張】原告の主張は争う。争点(1)に関する被告らの主張のとおり,本件合意は無効であ るから,被告らの行為に債務不履行や不法行為は成立しない。 8 争点(2)カ(損害額)について【原告の主張】(1) 競業行為による損害額原告は,被告らを,将来のセカンドブランド(若者に向けられて価格を抑えた普及版)の主任とすべく,莫大な費用をかけて,錫器の製作過程を全て理解させ,技術的には未熟であってもアイデアを出したりデザインをしたりすれば製品が作れるようにし,それにより大阪工芸展等における賞を受賞させたほか,雑誌の記事の取材やテレビへの出演等でも,将来の後継者候補として育成してきた。それにもかかわらず,被告らは,原告の期待を裏切り,自らの利益のためだけに競業行為を行ったため,原告は,新たに数年をかけて人材育成を行わなければならなくなり,セカンドブランドの実 して育成してきた。それにもかかわらず,被告らは,原告の期待を裏切り,自らの利益のためだけに競業行為を行ったため,原告は,新たに数年をかけて人材育成を行わなければならなくなり,セカンドブランドの実現が大幅に遅れ,損害を被った。また,被告らが,その製作した錫器を原告を通じて販売していた場合には,それらは原告の利益となっていたのであるから,被告らの競業行為により原告に損害が生じた。 そして,原告の損害額は,会社法423条2項の法意に鑑み,被告らが競業行為によって得た利益の額として認定すべきである。具体的には,①イベント1回当たりの売上げは平均15万円程度であり,利益率は70%であり,被告らのイベント出展回数は16回であるから,イベントへの出展による利益の額は,合計168万円(15万円×16回×70%)となり,②インターネットでの通信販売,店舗への販売,工房での販売,注文を受けての販売の利益は1か月当たり20万円であるから,平成22年11月1日から平成24年12月末までの26か月間の被告らの利益の額は,520万円(20万円×26か月)となり,③本件合意後の錫器の製造販売による利益は,1か月当たり40万円を下らないから,平成25年1月から同年12月までの被告らの利益の額は,280万円(40万円×12か月)となり,合計で968万円となる。 もっとも,被告らが得た利益の額を,原告が把握することは困難であり,被告ら の行為と損害との因果関係を立証することも困難なのであって,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるから,民事訴訟法248条に基づき,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき相当な損害額が認定されるべきである。 (2) 名誉・信用の毀損による損害額被告らによる名誉・信用の毀損による損害額としては,100 8条に基づき,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき相当な損害額が認定されるべきである。 (2) 名誉・信用の毀損による損害額被告らによる名誉・信用の毀損による損害額としては,100万円が相当である。 (3) 予備的主張ア本件においては,被告らの違法行為により原告の社会的,経済的信用が減少したことは明らかであるから,民事訴訟法248条によって,400万円を相当な損害額と認定すべきである。 イ本件においては,原告が本件業務禁止等の訴えの提起を余儀なくされたことは明らかであるから,諸般の事情を総合考慮して,弁護士費用相当額として150万円の損害を認めるべきである。 【被告らの主張】原告の主張は否認する。 (1) 競業行為による損害額については,原告は,被告らの行為によってどのような損害が発生したのか具体的に主張立証していない。原告は,会社法423条2項を指摘するが,被告らは単なる従業員であるから,同条項が適用ないし類推適用されることはない。また,原告が被告らの利益を把握できないというのは単なる怠慢であり,実際には営業損害が発生していないことを自認するに等しく,本件には民事訴訟法248条の適用はない。なお,P10の事業は赤字であって,被告らが得た利益は存しない。 (2) 名誉・信用の毀損による損害額については,原告に名誉・信用の毀損は生じていない。 (3) 予備的主張については,原告の社会的,経済的信用が減少したことは何ら立証されておらず,弁護士費用相当額の損害についても理由はない。 9 争点(3)ア(本件合意に基づく引渡請求権)について 【原告の主張】本件合意において,被告らは,全ての資産を引き渡す旨合意しているところ,これは,錫器製作のための道具を 9 争点(3)ア(本件合意に基づく引渡請求権)について 【原告の主張】本件合意において,被告らは,全ての資産を引き渡す旨合意しているところ,これは,錫器製作のための道具を原告が預かるという趣旨である。したがって,被告らは,原告に対し,その占有する別紙物件目録記載1ないし9(以下,同目録記載の道具を「本件道具8」などという。)の道具を引き渡す義務がある。 なお,本件合意が有効であることは,争点(1)に関する原告の主張のとおりであり,被告らが主張する本件道具8及び9の引渡しについては知らない。 【被告らの主張】争点(1)に関する被告らの主張のとおり,本件合意は無効であるから,原告は本件合意に基づいて道具の引渡請求をすることはできない。なお,被告P1は,平成28年5月26日,原告に対して本件道具8及び9を引き渡した。 10 争点(3)イ(道具の所有と占有)について【原告の主張】本件道具8及び9は,原告の所有であるから,被告らは,原告に対し,その占有する同道具を引き渡す義務がある。なお,本件道具8及び9の引渡しについては,争点(3)アに関する原告の主張のとおりである。 【被告らの主張】原告の主張は争う。 本件道具9については,試作品であり,それらを実際に製作した被告らがその所有権を有する。また,争点(3)アに関する被告らの主張のとおり,被告P1は,本件道具8及び9を原告に引き渡した。 第4 当裁判所の判断 1 事実経過前記前提事実に加え,証拠(後掲書証,甲4,20,22及び72,乙A1,乙B1,証人P4,証人P5,原告代表者本人,被告P1本人,被告P2本人)によれば,以下の事実が認められる。 (1) 原告は,錫器の製造販売等を目的とする株式会社であり, ,乙A1,乙B1,証人P4,証人P5,原告代表者本人,被告P1本人,被告P2本人)によれば,以下の事実が認められる。 (1) 原告は,錫器の製造販売等を目的とする株式会社であり,その製造する錫器は伝統工芸品「大阪浪華錫器」として指定を受けている。原告は,伝統工芸の業界の中で,若手の職人の育成に力を入れており,若手の従業員の作品を各種の展示会に出品して賞を受けさせたり,テレビの取材に対して若手の従業員を出演させたり,雑誌の記事に若手の従業員を掲載させたり,一般市民向けの製作体験を行わせるなどしており(甲45ないし67),錫器業界においても,原告は若手の後継者育成に努力しているとの評価を受けていた。(甲58)被告P1は,平成18年3月に大学を卒業して原告に入社し,同年9月から正社員として勤務した。また,被告P2は,平成17年11月に原告に入社し,その後,正社員として勤務した。被告らは,いずれも若手として主として錫器の製作に従事したが,上記のとおり,作品を出展して賞を受賞するなどした。 (2) 大阪市,東大阪市,松原市及び富田林市に事業所を有する錫器の製造事業者は,協同組合である本件組合を結成しており(甲2),平成24年10月当時の組合員は,原告のほか,P6,P4,P3,P7,P8の6名であった。本件組合では,毎年5月末頃に総会(いわゆる春の総会)を開催している。 本件組合では,厚生労働省が定める「食品,添加物等の規格基準」の平成20年7月31日の改正において,容器包装の食品に接触する部分に鉛を0.1%を超えて含んではならないよう定められた(甲39)ことから,国や大阪府から補助金を受けて鉛レス地金の開発を進め,被告らはこの開発にも携わった(甲43,44)。 本件組合では,こうして開発して製造した地金については ならないよう定められた(甲39)ことから,国や大阪府から補助金を受けて鉛レス地金の開発を進め,被告らはこの開発にも携わった(甲43,44)。 本件組合では,こうして開発して製造した地金については,組合員のみに供給する方針をとった。 (3) 被告らは,平成22年6月頃,堺市で開催される「灯しびと」というイベントに個人として作品を出展しようとしたが,原告代表者の了解を得られなかった。 このことが契機となり,被告らは,自分たちが作りたい錫器を製作したいと考えるようになり,同年10月頃,原告の従業員であったP9と共にP10を結成し,大阪市〈以下略〉に工房を借りて(甲17),P10の名で錫器の製作活動をするよ うになった。その際,被告らは,本件組合の組合員であるP3から,錫器の製作道具を借りた。 それ以後,被告らは,P10として,クラフトフェア等の種々のイベントに錫器を出展して販売したほか,ギャラリーショップ「P11」のサイトやハンドメイド作品の購入サイト「P12」を通じて錫器を販売し,それらの活動状況をブログに掲載した(甲3,6,7,13ないし16)。もっとも,被告らは,活動に当たり,原告の名を出したり,原告との関連を示唆するような言動をすることはなかった。 この間,被告らは,平成23年2月頃,原告の従業員であり本件組合の組合員であったP4から錫器の製作道具を借りた。また,被告P2は,同年5月31日,原告を退職したが,在職期間が短かったことから退職金は支払われず,また,退職の理由もP10の活動とは関係がないもので,その後もP10としての活動は継続した。また,被告P1は,同月以降,P10が出展するイベントが開催される前後に,無届けの欠勤や遅刻,早退が多くなった(甲29ないし31)。他方,P9は,同年12月にP10を脱退した しての活動は継続した。また,被告P1は,同月以降,P10が出展するイベントが開催される前後に,無届けの欠勤や遅刻,早退が多くなった(甲29ないし31)。他方,P9は,同年12月にP10を脱退した。 (4) 被告らは,平成24年10月に開催された「水都大阪」というイベントにP10として錫器を出展したが,それを原告の関係者が目撃し,被告らのP10としての活動が業界関係者の知るところとなった。 そのため,日本伝統工芸士会大阪地区連合会の元会長であり彫刻職人であるP5は,原告代表者に対し,技術を教えるのに給料等を支払ったことが無駄になったから,返金してもらったらどうかなどと述べた。もっとも,P5は,原告がその後も若手の育成に力を入れていることから,その姿はやはり伝統工芸の世界に希望を持たせる行いであると評価している。 被告P1は,同月22日,P10の活動の件を原告代表者と話した後,原告において作成した退職届(甲10)に署名押印して退職した。その退職届には,「この度,会社の規則に違反し,所属組合にご迷惑をおかけいたしました」,「またこの度,会社にご迷惑をおかけしました為,退職金に関しましては,一切,お受け取り 致しません。」等と記載されている。 また,被告P2は,同日,原告代表者宛てに,「この度は大阪錫器株式会社に多大なご迷惑をおかけしてしまい,本当に申し訳ありませんでした。」,「やはり,始める時にどういう形であれお伝えしておくべきだったということは十分承知しておりますので本当に申し訳ない気持ちで一杯です。」,「私の生活から錫を取られてしまうと,何よりも本当に耐えがたい事です。どうかこれからも錫での製作を続けさせて下さい。」等と記載した手紙を送付した(甲18)。 (5) これらの被告らの対応に対し,原告代表者は,被 取られてしまうと,何よりも本当に耐えがたい事です。どうかこれからも錫での製作を続けさせて下さい。」等と記載した手紙を送付した(甲18)。 (5) これらの被告らの対応に対し,原告代表者は,被告らは自分が育成した者たちであることから,被告らがいったんP10の活動を休止して,真剣に反省をしている態度を示すことにより,本件組合の組合員らの理解を得て,本件組合の地金を使った錫器の製作活動ができるようにしてやりたいと考え,組合員らに対する説得材料にするために,被告らに対し,P10のブログに反省文を掲載するよう勧めた。 そして,被告らは,これに応じて,平成24年12月3日,P10のブログに反省文(甲8)を掲載した。そこでは,「この度は私どもの軽卒な行動により,周りの方々にご迷惑をおかけすることとなってしまい心よりお詫び申し上げます。」,「会社に在籍しながら「P10」を立ち上げ,後にオリジナルの錫器を作り販売する事に至りました。」,「工房での製作にあたり,販売することを口にせず産地組合の職人さんの協力により使っていない道具などを頂き,一部お借りしておりました。」,「個人でしか出来なかった錫の可能性を探る事や,錫の未来や普及を思いこれらの活動をしていたのですが,社会的に間違っていたことに気づかされ改めて深く反省している次第です。」等と記載されていた。 (6) しかし,被告らの活動予定がインターネット上に掲載されたことから,組合員らの中には,被告らが反省していないと述べる者があった。そこで,原告代表者は,被告らが活動を休止する旨の誓約書を作成することにより,被告らが真摯に反省する態度を示しているとして組合員らを説得しようと考え,平成24年12月 14日,被告らを原告の事務所に呼び,誓約書の原案(甲11,12の2項のうち「2月の ことにより,被告らが真摯に反省する態度を示しているとして組合員らを説得しようと考え,平成24年12月 14日,被告らを原告の事務所に呼び,誓約書の原案(甲11,12の2項のうち「2月の展示会終了後より」が記載されていないもの)を見せて,署名押印するよう求めた。 その誓約書については,その場で少なくとも1時間程度の協議がされたが,その際に,原告代表者は,被告らに対し,この誓約書は,錫器の製作道具を原告に預けて被告らが無期限でP10の活動を休止する態度を示すことにより,真摯な態度で反省をしていることを組合員らに示すためのもので,真に活動を休止すれば,組合員らも納得するだろうから,次の春の総会のときに期限を組合員間で協議して,被告らが謝罪する場を設けた上で,短期間で活動を再開できるようにするとの趣旨を述べて,この誓約書に署名押印をするよう説得した。また,原告代表者は,仮に組合員らの中に被告らの加入に反対する者がいたとしても,準組合員制度を作るとか,被告らを原告の傘下に入れることにより,被告らが本件組合の地金を使えるようにすることを考えていた。 これに対し,被告らは,平成25年2月の展示会までは活動をさせてほしいと求めたため,原告代表者はそれを容れて誓約書をその旨に修正し,被告らは本件誓約書に署名押印した。 (7) 被告らは,本件誓約書を作成することにより,平成25年2月の展示会後はP10としての活動を休止するつもりでいた。 しかし,原告の従業員が,同年1月10日,P10の工房に行き,被告P1がいる中で,工房の写真を撮影した(別紙物件目録添付の写真)。この趣旨について,被告P1は,原告が,本件誓約書を盾にとって被告らの資産を差し押さえようとしたと理解したことから,これ以上,原告側の意向に沿うことはできないと考え,ま (別紙物件目録添付の写真)。この趣旨について,被告P1は,原告が,本件誓約書を盾にとって被告らの資産を差し押さえようとしたと理解したことから,これ以上,原告側の意向に沿うことはできないと考え,また,被告P2も本件合意は無効になったと考え,同年2月の展示会以後も,P10としての活動を休止することなく継続した。 なお,被告P2は,平成26年から平成27年頃,被告P1との意見の食い違いから,P10としての活動を解消した。 (8) 被告らの取引先と原告の取引先とが競合したことはなかったが,平成27年頃以降,名古屋の名鉄百貨店においては,原告が食器売場で販売しているところに,被告らが手作り製品を集めたイベント関係の売場で販売したことがあった。 2 争点(1)ア(本件合意の心裡留保・虚偽表示・錯誤無効,詐欺取消し)について被告らは,原告代表者と被告らとの間では,本件誓約書は被告らが今後も円満に錫器の製作を行えるようにするために,本件組合の組合員らを説得するための方便として利用する趣旨であり,被告らが本件誓約書の内容を実行する必要はないと合意していたと主張する。 そこでまず,本件合意の内容について検討するに,本件誓約書は,文言上,「全ての資産を引き渡し,現在の工房を閉鎖する」,「組合員の承諾を得るまで,2月の展示会終了後より無期限でP10としての活動を停止する」,「許可なく,錫を扱う会社への入社および創業はいたしません。」と記載されているが,原告代表者自身,本件合意の趣旨がこの文言どおりではない旨を供述している。 また,前記1(6)の認定事実のとおり,被告らは,本件誓約書に署名押印するに当たり,原告代表者から,この誓約書は,錫器の製作道具を原告に預けて被告らが無期限でP10の活動を休止する態度を示すことにより,真摯 記1(6)の認定事実のとおり,被告らは,本件誓約書に署名押印するに当たり,原告代表者から,この誓約書は,錫器の製作道具を原告に預けて被告らが無期限でP10の活動を休止する態度を示すことにより,真摯な態度で反省をしていることを組合員らに示すためのもので,真に活動を休止すれば,組合員らも納得するだろうから,次の春の総会のときに組合員らの了解をとり,被告らが謝罪する場を設けた上で,活動を再開できるようにするとの趣旨の説明を受けて,活動を休止する時期を平成25年2月の展示会終了後と修正した上で,この求めを受け入れたと認められる。 そうすると,本件誓約書が組合員らを説得するための方便として作成されたことは被告らが主張するとおりではあるが,全く実体を伴わないものではなく,原告と被告らとの間では,被告らは,平成25年2月の展示会の終了後,錫器の製作道具を原告に預けて実際にP10の活動を休止し,錫を扱う会社への入社及び創業をし ないこととし,こうして真に活動を休止すれば,次の春の総会のときに休止期限を組合員間で協議し,短期間で活動を再開させるが,合意に反したときは損害賠償責任を負わせる旨の合意(本件合意)がされたと認めるのが相当であり,原告の主張もこの趣旨をいうものと解される。 そして,合意内容がこのようなものであるとすると,被告らはその説明を聞き,その旨を理解して本件誓約書に署名押印したのであるから,心裡留保,虚偽表示,錯誤のいずれも認められず,原告代表者が被告らを騙したとも認められない。 以上より,争点(1)アに係る被告らの主張は理由がない。 3 争点(1)イ(本件合意の公序良俗違反)について(1) 本件合意は前記2のとおりのものであるところ,これによれば,被告らがP10としての活動を休止し,錫を扱う会社への入社及び創 ない。 3 争点(1)イ(本件合意の公序良俗違反)について(1) 本件合意は前記2のとおりのものであるところ,これによれば,被告らがP10としての活動を休止し,錫を扱う会社への入社及び創業が禁止される期間は,被告らが真に活動を休止すれば短期間に限られるというものであったから,活動休止自体によって被告らが受ける不利益は,必ずしも大きいとはいえない。 また,本件合意は,被告らがいずれも原告を退職した後にされたものであって,在職中に労働契約上の指揮命令関係を背景としてされたものでもなければ,退職時の退職条件としてされたものでもないのであって,原告がその優越的地位に基づいてしたということはできず,被告らが本件合意を受け入れたのは,その自由な意思によるということができる(なお,この点について,被告P2は,原告から,本件誓約書に署名押印しなければ裁判になるとして迫られたと供述するが,それをもって不当な強迫であるということはできない。)。 (2) 他方,本件合意においては,被告らが合意を履行しない場合には,それが継続する限り無期限に債務不履行状態となり,原告に損害が生じる限り,被告らはその賠償責任を負い続けることとなる。このことは,被告らが真に活動を休止して合意を誠実に履行することを担保する意義を有するといえるが,合意を履行しない限り無期限に債務不履行責任を負わせ続けるというのは,錫器の製作技術を習得してきた被告らの職業選択の自由に対する制約が大きく,履行担保措置としても過大 であるというべきである。 (3) 原告がこのような制約の合理性として主張するのは,①被告らが原告に在職中に競業行為を行ったことの解決を図る必要性,②本件組合が開発した鉛レス合金(地金)に関する営業秘密を保護する必要性,③伝統工芸産業の後継者を育 な制約の合理性として主張するのは,①被告らが原告に在職中に競業行為を行ったことの解決を図る必要性,②本件組合が開発した鉛レス合金(地金)に関する営業秘密を保護する必要性,③伝統工芸産業の後継者を育成し,伝統工芸品の技術を伝承する必要性である。 しかし,①については,被告らが,在職中の競業行為による責任を免れる代償として,退職後の行為についての規制を受け入れるというのであれば,一定の合理性があるが,被告P1は在職中の競業行為が原因で原告を退職するに至り,退職金の支給も辞退したのであるし,原告は,本件で被告らに対して在職中の競業行為による損害賠償請求もしているのであるから,そのような合理性を認めることはできない。 また,②については,原告が主張する鉛レス合金の組成自体は,別紙「事実及び理由(A事件関係)」のとおり,法律上保護されるべき営業秘密性が認められないし,その製造方法については,内容も明らかでなく,営業秘密として保護されるものか明らかでないといわざるを得ない。 さらに,③については,費用をかけて育成した従業員が無断で競業行為を行うことを許容するのでは,業界における後継者の育成に支障を来すとの趣旨であると解されるが,従業員に対する教育投資は,第一義的には事業者自身の利益のためになされるものであり,このことは伝統工芸産業においても同様であると考えられることからすると,後継者の確保のために競業行為を禁止することに高度の必要性を認めることはできない。 (4) 以上に加え,本件合意による禁止の範囲が,P10としての活動のみならず,錫を扱う会社への入社及び創業一般に及んでいること,これに対して被告らに特段の代償措置が講じられていないことを考慮すると,本件合意は,その履行の有無にかかわらず,被告らに対して,平成25年2月のイベン を扱う会社への入社及び創業一般に及んでいること,これに対して被告らに特段の代償措置が講じられていないことを考慮すると,本件合意は,その履行の有無にかかわらず,被告らに対して,平成25年2月のイベント終了後長くとも3年間に限り競業避止義務を課す限度でのみ有効と解するのが相当である。 そうすると,現在では,既に同月から3年を経過しているから,原告の被告らに対する業務禁止請求は認められない。 4 争点(2)ア(道具騙取による名誉・信用の毀損)について原告は,被告らが,P3及びP4から,自ら錫器の製造販売を行うという意図を隠して,練習のために錫器製作のための道具を貸してほしいと述べて,道具を騙し取ったことが,原告の名誉・信用を毀損しない義務に違反すると主張する。 しかし,証人P4の証言によれば,同人は,自分から練習をするように述べて,製作道具を貸したのであり,被告らが練習のために貸してほしいなどといった特段の話をしたわけではないと認められ,これに反する甲4,19及び20の記載は採用できない。 したがって,原告の上記主張に係る事実は認められないから,原告の上記主張は採用できない。 5 争点(2)イ(在職中の競業行為による職務専念義務違反・競業避止義務違反)について原告は,被告らの在職中の競業行為が,労働契約上の職務専念義務(就業規則42条)違反及び競業避止義務違反の債務不履行を構成すると主張する。 まず,原告の就業規則の周知性については争いがあるが,一般に,労働者は,使用者に対して,労働契約上の付随義務として,在職中の職務専念義務及び競業避止義務を負い,上記の就業規則の定めもそれを確認したものと解されるから,被告らは,就業規則の周知性いかんにかかわらず,それらの義務を負っていたといえる。 そして,被告ら 中の職務専念義務及び競業避止義務を負い,上記の就業規則の定めもそれを確認したものと解されるから,被告らは,就業規則の周知性いかんにかかわらず,それらの義務を負っていたといえる。 そして,被告らは,前記1(3)の認定事実のとおり,在職中から,クラフトフェア等の種々のイベントに錫器を出展して販売したほか,ギャラリーショップのサイトやハンドメイド作品の購入サイトを通じて錫器を通信販売するなどし,また,被告P1は,P10が出展するイベントが開催される前後に,無届けの欠勤や遅刻,早退が多くなったと認められるから,被告らには競業避止義務違反があり,被告P1には職務専念義務違反があったと認められるが,被告P2に職務専念義務違反があ ったとは認められない。 この点について,被告らは,P10としての活動は勤務時間外に行っており,若手職人が自由な創作活動の場を求めて行った課外活動というべきものにすぎないと主張するが,錫器の製造販売を業とする原告において錫器の製作業務に従事していながら,独自に錫器を製作するだけでなく,展示会やインターネットを通じて販売活動までする行為を単なる課外活動ということはできず,被告らの主張は採用できない。 したがって,被告らによる在職中の競業行為は,原告に対する債務不履行を構成する。もっとも,被告P2が,自己の退職後に,在職中の被告P1と共同でP10の活動をしたことについては,被告P1自身が自ら同活動を積極的に行ったと認められる以上,単に被告P1の債務不履行を知りつつこれと共同したということをもって,原告に対する不法行為を構成するだけの違法性を認めることはできない。 6 争点(2)ウ(在職中の競業行為による名誉・信用の毀損)について原告は,被告らが在職中に競業行為を行ったことにより,伝統工芸品業界におい 為を構成するだけの違法性を認めることはできない。 6 争点(2)ウ(在職中の競業行為による名誉・信用の毀損)について原告は,被告らが在職中に競業行為を行ったことにより,伝統工芸品業界において,若手の育成に力を入れ,社内で適切な育成がなされているという社会的評価を害されたと主張する。 しかし,前記1(4)の認定事実のとおり,P5は,原告代表者に対し,技術を教えるのに給料等を支払ったことが無駄になったから,返金してもらったらどうかなどと述べたものの,原告がその後も若手の育成に力を入れていることから,その姿はやはり伝統工芸の世界に希望を持たせる行いであると変わらず評価しているのであって,被告らの競業行為により原告の社会的評価が害されたとは認められない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 7 争点(2)エ(在職中の道具持出しの就業規則43条5号違反)について原告は,被告らが原告の工房から「キサゲ」を無断で持ち出したことが,就業規則43条5号所定の会社の機械器具その他の備品を大切にする義務に違反する行為であると主張する。 まず,原告の就業規則の周知性については争いがあるが,一般に,労働者は,使用者に対して,労働契約上の付随義務として,使用者の財産を害しない義務を負い,上記の就業規則の定めはこれを確認したにすぎないと解されるから,被告らは,就業規則の周知性いかんにかかわらず,使用者財産の保護義務を負っていたといえる。 そして,被告らが原告で使用していた「キサゲ」をP10の工房に持ち出して使用したことは,弁論の全趣旨から認められるところ,被告らは,「キサゲ」は入社時に個人専用の道具として支給されていたと主張する。しかし,使用者が労働者に対して業務用の製作道具を支給する場合は,その所有権を与えるのではなく, 趣旨から認められるところ,被告らは,「キサゲ」は入社時に個人専用の道具として支給されていたと主張する。しかし,使用者が労働者に対して業務用の製作道具を支給する場合は,その所有権を与えるのではなく,貸与するのが通常であり,本件でそれと異なる特段の事情があったとは認められない。 そうすると,被告らが原告の工房から「キサゲ」を無断で持ち出したことは,使用者財産の保護義務に違反したと認められる。 8 争点(2)オ(退職後の競業行為による本件合意違反)について前記2及び3のとおり,本件合意は,被告らに対し,平成25年2月のイベント終了後長くとも3年間に限り競業避止義務を課す限度で有効であると解されるところ,被告らは,その期間中,錫器の製作販売行為を継続したのであるから,本件合意に違反し,債務不履行を構成するというべきである。 9 争点(2)カ(損害額)について(1) 競業行為による損害額についてア原告は,被告らを将来の後継者候補として育成してきたにもかかわらず,被告らが原告の期待を裏切り,競業行為を行ったため,原告は,新たに数年をかけて人材育成を行わなければならなくなり,セカンドブランドの実現が大幅に遅れ,損害を被ったと主張する。 しかし,これは,一定の役割を担っていた従業員が退職する場合には常に生じる性質のものであって,競業避止義務違反と相当因果関係のある損害とはいえない。 確かに,被告P1については,同被告が競業行為をしなければ,退職することもなかったという意味で,競業行為と上記損害との間に条件関係は存するが,使用者が 従業員ないし元従業員に競業避止義務を負わせる趣旨は,使用者が得るはずの市場利益を従業員等が奪うことを防止する点にあるから,原告が主張する上記損害は,競業避止義務によって確保しようとした利 従業員ないし元従業員に競業避止義務を負わせる趣旨は,使用者が得るはずの市場利益を従業員等が奪うことを防止する点にあるから,原告が主張する上記損害は,競業避止義務によって確保しようとした利益の範囲外のものというべきである。 イそして,前記1(3)及び(8)の認定事実のとおり,被告らが錫器を販売していたのは,主としてイベントと2つのショップサイトでの販売にすぎず,被告らの取引先と原告の取引先とは1件を除いて競合したことがなく,唯一競合した名鉄百貨店においても売場が大きく異なっていることからすると,被告らの競業行為によって原告が得るべき市場利益を失い,原告に損害が発生したと認めるに足りない。 これに対し,原告は,被告らが,その製作した錫器を原告を通じて販売していた場合には,それらは原告の利益となっていたのであるから,被告らの競業行為により原告に損害が生じたと主張する。しかし,競業避止義務に基づいて,被告らが原告を通じて錫器を販売する義務が生じるとはいえないから,原告の得べかりし利益として,被告らが原告を通じて錫器を販売していた場合の利益を想定することはできない。 また,原告は,会社法423条2項の法意を主張するところ,同条項は,会社の経営に関与する取締役又は執行役に特有の規定であるから,本件にその趣旨を及ぼすことはできない。 ウ以上よりすれば,被告らの競業行為によって原告に相当因果関係のある損害が発生したとは認めるに足りない。原告は,民事訴訟法248条の適用も主張するが,損害の発生が認められない以上,同条を適用することはできない。 したがって,被告らの競業避止義務違反による損害賠償請求は,理由がない(なお,被告P1に職務専念義務違反が,また,被告らに使用者の財産保護義務違反が認められることは,前記5及び7 とはできない。 したがって,被告らの競業避止義務違反による損害賠償請求は,理由がない(なお,被告P1に職務専念義務違反が,また,被告らに使用者の財産保護義務違反が認められることは,前記5及び7のとおりであるが,それらによりいかなる損害が発生したかは明らかでなく,それらによる損害の発生も認めるに足りない。)。 (2) 名誉・信用の毀損による損害額について前記4及び6で述べたとおり,被告らの行為によって原告の名誉・信用が毀損さ れたとは認められないから,その余について判断するまでもなく,名誉・信用の毀損による損害賠償請求は理由がない。 (3) 予備的主張についてア原告は,被告らの違法行為によって,原告の社会的,経済的信用が減少したことによる損害が発生したと主張する。 しかし,前記1(3)の認定事実のとおり,被告らは,活動に当たり,原告の名を出したり,原告との関連を示唆するような言動をすることはなかったのであり,他に,被告らの行為により原告の社会的,経済的信用が減少したとの事情を認めることはできないから,原告の上記主張は理由がない。 イ原告は,業務禁止等を求める本件訴訟の提起を余儀なくされたから,それに要した弁護士費用相当額の損害賠償が認められるべきであると主張する。 しかし,本件での業務禁止請求及び弁護士費用以外の損害賠償請求は,いずれも認められないから,本件訴訟が原告の権利実現のために必要となったとはいえず,原告の上記主張は採用できない。 以上によれば,原告の損害賠償請求は理由がない。また,以上のことは,被告らに不法行為が成立する場合についても同様であり,不法行為に基づく損害賠償請求も理由がない。 10 争点(3)ア(本件合意に基づく引渡請求権)について前記2のとおり また,以上のことは,被告らに不法行為が成立する場合についても同様であり,不法行為に基づく損害賠償請求も理由がない。 10 争点(3)ア(本件合意に基づく引渡請求権)について前記2のとおり,本件合意では,被告らに錫器の製作道具を引き渡す義務を課していると認められる。 しかし,前記2のとおり,本件合意は,被告らが,平成25年2月の展示会の終了後,錫器の製作道具を原告に預けて実際にP10の活動を休止し,錫を扱う会社への入社及び創業をしないこととし,こうして真に活動を休止すれば,次の春の総会のときに休止期限を組合員間で協議し,短期間で活動を再開させるが,合意に反したときは損害賠償責任を負わせるという趣旨である。この趣旨からすると,道具の引渡しは,被告らの活動休止を確保する手段として合意されたと認められるから, 競業避止義務が平成25年2月の展示会終了から長くとも3年間の範囲でのみ認められる以上,道具の引渡義務も,同じ範囲でのみ認められるにすぎないと解するのが相当である。 したがって,3年間を経過した現在では,原告は,被告らに対し,本件合意に基づいて錫器の製作道具の引渡しを請求することはできない。 11 争点(3)イ(道具の所有と占有)について証拠(乙A2ないし4)によれば,被告P1は,平成28年5月26日,原告側に本件道具8と本件道具9のうちの徳利を引き渡したことが認められる。 また,別紙物件目録添付の写真によれば,本件道具9には他に2品があるが,それは試作品とされており,その試作品が原告の所有物であることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告が被告に対して所有権に基づき本件道具8及び9の引渡しを求めることはできない。 12 結論以上によれば,B事件に係る原告の請求は,いずれも理由がない 足りる証拠はない。 したがって,原告が被告に対して所有権に基づき本件道具8及び9の引渡しを求めることはできない。 結論以上によれば,B事件に係る原告の請求は,いずれも理由がない。 以上 (別紙)物件目録(添付の写真は,各物件を撮影したものである。) 1 錫溶解用鉄鍋 2 錫溶解用コンロ 3 たん金用木台 4 ブローパイプ(ロウ付用バーナー) 5 エアーポンプ(上記ブローパイプ用) 6 小型サオバカリ 7 作業用木箱5箱 8 中仕事用キサゲ 9 試作品3点

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