令和5年7月7日東京地方裁判所刑事第11部宣告令和4年特(わ)第2543号、同第2714号金融商品取引法違反被告事件 主文 被告人を懲役2年6月及び罰金200万円に処する。 その罰金を完納することができないときは、金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 この裁判が確定した日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。 被告人から金1億7122万9870円を追徴する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、株式会社A(以下「A」という。)第二開発事業本部シニア・マネージャーとして勤務していた従業員であり、第1(令和4年12月7日付け起訴状記載の公訴事実)令和2年1月30日頃、その職務に関し、同事業本部に勤務していた従業員らが、株式会社Bが開設する有価証券市場に株券を上場している株式会社C(以下「C」という。)とAが共同で進めていたゲームタイトル「D」の関連作品となる携帯電話機向け新作ゲームの開発に係る業務提携契約の履行及び同ゲームの配信開始後にその配信等を共同して運営していく旨の業務提携契約の交渉に関し知った、同ゲームの共同開発が配信開始を見込める段階まで進捗したことなどのCの運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす重要事実及びCの業務執行を決定する機関が、前記交渉に係る業務上の提携を行うことについての決定をした旨のCの業務等に関する重要事実をそれぞれ知り、法定の除外事由がないのに、前記各重要事実の公表前である同月31日、株式会社Eを介し、東京都中央区a町b番c号所在の前記B及び東京都港区de丁目f番g号所在のF株式会社において、被告人名義で、Cの株券合計1万株を代金合計289万4900円で買い付けた第2(令和4年12月27日付け 京都中央区a町b番c号所在の前記B及び東京都港区de丁目f番g号所在のF株式会社において、被告人名義で、Cの株券合計1万株を代金合計289万4900円で買い付けた第2(令和4年12月27日付け追起訴状公訴事実) 令和2年12月11日頃、その職務に関し、A第一開発事業本部に勤務していた従業員らが、株式会社Bが開設する有価証券市場に株券を上場している株式会社G(以下「G」という。)とAが共同で進めていたゲームタイトル「H」の関連作品となる携帯電話機向け新作ゲームの開発に係る業務提携契約の履行及び同ゲームの配信開始後にその配信等を共同して運営していく旨の業務提携契約の交渉に関し知った、同ゲームの共同開発が配信開始を見込める段階まで進捗したことなどのGの運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす重要事実及びGの業務執行を決定する機関が前記交渉に係る業務上の提携を行うことについての決定をした旨のGの業務等に関する重要事実をそれぞれ知り、法定の除外事由がないのに、前記各重要事実の公表前である令和3年1月25日から同年2月25日までの間、株式会社Eを介し、東京都中央区a町b番c号所在の前記Bにおいて、被告人名義で、Gの株券合計12万株を代金合計1億4476万5200円で買い付けたものである。 (追徴に関する補足説明)弁護人は、C株については現物売買であったため、売却代金全額を追徴されるのもやむを得ないが、G株については信用取引であって、買付代金が返済されることにより被告人が実質的に手にできるのは最大で計算上の売買差益額約1916万円(ここから金利、手数料等が差し引かれる)であって、実際に手にできる金額と売付代金額約1億6392万円との乖離は甚だしく、売付代金全額を追徴するのは被告人にとっ 最大で計算上の売買差益額約1916万円(ここから金利、手数料等が差し引かれる)であって、実際に手にできる金額と売付代金額約1億6392万円との乖離は甚だしく、売付代金全額を追徴するのは被告人にとって過酷に過ぎることが明らかであるから、金融商品取引法198条の2第1項ただし書により、売買差益分、又はそれに引出し可能保証金額を加えた額を追徴の対象とすべきであると主張する。 必要的没収・追徴を規定した金融商品取引法198条の2第1項本文、第2項は、いずれも違法な証券取引によって取得した財産を残らずはく奪することによって、これらの犯罪の収益が犯罪行為に再投資されるのを防止して健全な証券取引市場の確 保を図る趣旨の規定であると解され、このような法の趣旨に照らせば、インサイダー取引によって取得した不正財産は全て没収、追徴されるのが原則である。そして、没収、追徴の対象となる不正財産として、法は、犯行によって得た利得ではなく、犯行によって得た財産及びその財産の対価又は行使により得た財産をその対象と定めており(同法198条の2第1項本文、第2項)、その際、財産を取得するために要した費用等は考慮しないのを原則とするのが法の趣旨であると考えられる。他方、同法198条の2第1項ただし書は、その取得の状況、損害賠償の履行の状況その他の事情に照らし、当該財産の全部又は一部を没収、追徴することが被告人にとって過酷な結果をもたらすなどの特段の事情がある場合に没収・追徴を例外的に減免することを許容するものと解される。 本件の売買代金や売却益等に照らすと、G株が信用取引によるものであったことを考慮しても本件において売却代金全額を没収することが被告人にとって過酷な結果をもたらすなどの特段の事情があるとまでは認められない。 以上からすれば、没収すべき金額はC株 取引によるものであったことを考慮しても本件において売却代金全額を没収することが被告人にとって過酷な結果をもたらすなどの特段の事情があるとまでは認められない。 以上からすれば、没収すべき金額はC株に関する売付代金総額730万円とG株に関する売付代金総額1億6392万9870円の合計1億7122万9870円となるが、すでに特定性を欠いて没収することはできないため、その価額を追徴することとする。 (量刑の理由)本件は、ゲームの開発会社であるAのシニアマネージャーであった被告人が、その職務に関連して知った事実、すなわち同会社が上場会社であるC及びGと共同でそれぞれ進めていたいずれも世界的な人気を誇るゲームの派生作品に当たる新作ゲームの開発・運営に関し、配信開始を見込める段階まで開発が進捗した事実及び配信開始後その配信等に関し、それぞれの会社と共同して運営していく旨の業務上の提携をすることに関する事実について、その公表前に、両会社の株を現物又は信用買いしたというインサイダー取引2件の事案である。 被告人は、Aの役員ではなかったものの、世界的に有名なゲームの開発者の一人と して知られていることもあり、ゲーム開発において重要な役割を果たすことを期待され、同社において進行中のゲームの共同開発に関する情報にアクセスできる権限を与えられていたところ、被告人はその権限を利用して上記各重要な事実に関する情報を閲覧し、その後それぞれの株式の買付けを行ったというのであって、これは株式市場の公正性や健全性ひいては投資家の信頼を損なうものであり、その買付け規模に照らしても犯行態様は悪質である。被告人は本件各犯行により合計約2300万円の利益を得ている。 被告人が上記情報を閲覧した状況や、その後株式の買付けを行うに至った経緯において、自ら積極的に関係資 照らしても犯行態様は悪質である。被告人は本件各犯行により合計約2300万円の利益を得ている。 被告人が上記情報を閲覧した状況や、その後株式の買付けを行うに至った経緯において、自ら積極的に関係資料の閲覧をしていることなどからすれば、特に酌むべき事情があったとは認められない。 以上からすれば、被告人の刑事責任を軽くみることはできない。 しかしながら、被告人が事実を認め、市場の公正性や健全性を損なう行為を行ったことについては反省していると述べていること、前科がないことなど被告人のために酌むべき事情もあるから、これらの事情も考慮した上で、主文のとおり懲役刑の執行を猶予することとし、この種事犯が経済的に見合わないことを示すため罰金刑を併科することとした。 (求刑懲役2年6月及び罰金250万円、1億7122万9870円の追徴)令和5年7月31日東京地方裁判所刑事第11部 裁判官蛭田円香
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