- 1 -主文本件抗告を棄却する。 抗告費用は抗告人の負担とする。 理由 抗告代理人田路至弘ほかの抗告理由について 記録によれば,本件の経緯等は次のとおりである。 (1)相手方らは,A株式会社と取引関係があり同社に対し売掛金債権を有していたものであり,抗告人は,同社のいわゆるメインバンクであったものである。Aは,平成16年12月22日,民事再生手続開始決定を受けた。 相手方らは,抗告人に対し,平成17年6月,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起したが(東京地方裁判所平成17年(ワ)第12920号損害賠償請求事件。以下「本案訴訟」という。),同訴訟における相手方らの主張は,抗告人は,平成16年3月以降,Aの経営破綻の可能性が大きいことを認識し,同社を全面的に支援する意思は有していなかったにもかかわらず,全面的に支援すると説明して相手方らを欺罔したため,あるいは,Aの経営状態についてできる限り正確な情報を相手方らに提供すべき注意義務を負っていたのにこれを怠ったため,相手方らはAとの取引を継続したが,取引の途中で同社が民事再生手続開始決定を受けたことにより売掛金が回収不能になり,損害を被ったなどというものである。 本件は,相手方らが,本案訴訟において抗告人の上記欺罔行為及び注意義務違反行為を立証するために必要があるとして,抗告人が所持する下記の文書(以下「本件文書」という。)について文書提出命令を申し立てた事案である。抗告人は,本件文書は民訴法220条4号ハ又はニ所定の文書に該当する旨主張した。 - 2 -記抗告人が,平成16年3月,同年7月及び同年11月の各時点において,Aの経営状況の把握,同社に対する貸出金の管理及び同社の債務者区分の決定等を行う目的で作成し,保管していた自己査定資料一式(2)本件文書は,金融機関である抗告 7月及び同年11月の各時点において,Aの経営状況の把握,同社に対する貸出金の管理及び同社の債務者区分の決定等を行う目的で作成し,保管していた自己査定資料一式(2)本件文書は,金融機関である抗告人が,融資先であるAについて,同社に対して有する債権の資産査定を行う前提となる債務者区分を行うために作成し,監督官庁による査定結果の正確性についての事後的検証に備える目的もあって保存した文書である。 (3)差戻し前の第1次抗告審は,本件文書は民訴法220条4号ニ所定の文書に該当するとして相手方らの申立てを却下する旨の決定をしたが,第1次許可抗告審は,本件文書は民訴法220条4号ニ所定の文書に該当しないとして上記決定を破棄し,本件文書が同号ハ所定の文書に該当するかどうか等について更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻した。 (4)差戻し後の第2次抗告審である原審は,民訴法223条6項に基づき抗告人に本件文書を提示させた上でこれを閲読し,本件文書に記載されている情報は,大別して,①公表することを前提として作成される貸借対照表及び損益計算書等の会計帳簿に含まれる財務情報,②抗告人が守秘義務を負うことを前提にAから提供された非公開の同社の財務情報,③抗告人が外部機関から得たAの信用に関する情報及び④Aの財務情報等を基礎として抗告人自身が行った財務状況,事業状況についての分析,評価の過程及びその結果並びにそれを踏まえた今後の業績見通し,融資方針等に関する情報であること,並びに本件文書に記載された査定方法における抗告人の工夫の独自性,価値は限定的なものであって,特別な保護を与えるべきノ- 3 -ウハウとはいえないことを認定した。 原審は,本件文書のうち,前記③の情報の全部並びに前記②及び④の情報のうちAの取引先等の第三者に関するものが記載され って,特別な保護を与えるべきノ- 3 -ウハウとはいえないことを認定した。 原審は,本件文書のうち,前記③の情報の全部並びに前記②及び④の情報のうちAの取引先等の第三者に関するものが記載されている部分は民訴法220条4号ハ所定の文書に該当するが,その余はこれに該当せず,他に同号所定の事由を認めることもできないとして,上記部分を除く本件文書の提出を命じた。 これに対し,抗告人は,本件文書のうち,Aの取引先等の第三者に関するものを除く前記②及び④の情報(以下,それぞれ「本件非公開財務情報」,「本件分析評価情報」という。)が記載された部分(以下,それぞれ「本件非公開財務情報部分」,「本件分析評価情報部分」という。)も,民訴法220条4号ハ所定の文書に該当するから提出義務はないと主張して,当審への抗告の許可を申し立て,許可された。 3(1)本件非公開財務情報部分の提出義務について金融機関は,顧客との取引内容に関する情報や顧客との取引に関して得た顧客の信用にかかわる情報などの顧客情報について,商慣習上又は契約上の守秘義務を負うものであるが,上記守秘義務は,上記の根拠に基づき個々の顧客との関係において認められるにすぎないものであるから,金融機関が民事訴訟の当事者として開示を求められた顧客情報について,当該顧客が上記民事訴訟の受訴裁判所から同情報の開示を求められればこれを開示すべき義務を負う場合には,当該顧客は同情報につき金融機関の守秘義務により保護されるべき正当な利益を有さず,金融機関は,訴訟手続において同情報を開示しても守秘義務には違反しないと解するのが相当である(最高裁平成19年(許)第23号同年12月11日第三小法廷決定・民集61巻9号3364頁参照)。民訴法220条4号ハにおいて引用される同法197- 4 -条1項3号にいう「職 するのが相当である(最高裁平成19年(許)第23号同年12月11日第三小法廷決定・民集61巻9号3364頁参照)。民訴法220条4号ハにおいて引用される同法197- 4 -条1項3号にいう「職業の秘密」とは,その事項が公開されると,当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうが(最高裁平成11年(許)第20号同12年3月10日第一小法廷決定・民集54巻3号1073頁参照),顧客が開示義務を負う顧客情報については,金融機関は,訴訟手続上,顧客に対し守秘義務を負うことを理由としてその開示を拒絶することはできず,同情報は,金融機関がこれにつき職業の秘密として保護に値する独自の利益を有する場合は別として,職業の秘密として保護されるものではないというべきである。 本件非公開財務情報は,Aの財務情報であるから,抗告人がこれを秘匿する独自の利益を有するものとはいえない。そこで,本件非公開財務情報についてAが本案訴訟の受訴裁判所からその開示を求められた場合にこれを拒絶できるかをみると,Aは民事再生手続開始決定を受けているところ,本件非公開財務情報は同決定以前のAの信用状態を対象とする情報にすぎないから,これが開示されても同社の受ける不利益は通常は軽微なものと考えられること,相手方らはAの再生債権者であって,民事再生手続の中で本件非公開財務情報に接することも可能であることなどに照らせば,本件非公開財務情報は,それが開示されても,Aの業務に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるとはいえないから,職業の秘密には当たらないというべきである。したがって,Aは,民訴法220条4号ハに基づいて本件非公開財務情報部分の提出を拒絶することはできない。また,本件非公開財務情報部分は,少なくとも抗告人等の金融機関に提出することを想定して作成されたものと って,Aは,民訴法220条4号ハに基づいて本件非公開財務情報部分の提出を拒絶することはできない。また,本件非公開財務情報部分は,少なくとも抗告人等の金融機関に提出することを想定して作成されたものと解されるので,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書とはいえないから,Aは民訴法220条4号ニに基づいて同部分の提出を拒絶することもできず,他に同社が同部分の提出を拒絶できるような- 5 -事情もうかがわれない。 そうすると,本件非公開財務情報は,抗告人の職業の秘密として保護されるべき情報に当たらないというべきであり,抗告人は,本件非公開財務情報部分の提出を拒絶することはできない。 (2)本件分析評価情報部分の提出義務について文書提出命令の対象文書に職業の秘密に当たる情報が記載されていても,所持者が民訴法220条4号ハ,197条1項3号に基づき文書の提出を拒絶することができるのは,対象文書に記載された職業の秘密が保護に値する秘密に当たる場合に限られ,当該情報が保護に値する秘密であるかどうかは,その情報の内容,性質,その情報が開示されることにより所持者に与える不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,当該民事事件の証拠として当該文書を必要とする程度等の諸事情を比較衡量して決すべきものである(最高裁平成18年(許)第19号同年10月3日第三小法廷決定・民集60巻8号2647頁参照)。 一般に,金融機関が顧客の財務状況,業務状況等について分析,評価した情報は,これが開示されれば当該顧客が重大な不利益を被り,当該顧客の金融機関に対する信頼が損なわれるなど金融機関の業務に深刻な影響を与え,以後その遂行が困難になるものといえるから,金融機関の職業の秘密に当たると解され,本件分析評価情報も抗告人の を被り,当該顧客の金融機関に対する信頼が損なわれるなど金融機関の業務に深刻な影響を与え,以後その遂行が困難になるものといえるから,金融機関の職業の秘密に当たると解され,本件分析評価情報も抗告人の職業の秘密に当たると解される。 しかし,本件分析評価情報は,前記のとおり民事再生手続開始決定前の財務状況,業務状況等に関するものであるから,これが開示されてもAが受ける不利益は小さく,抗告人の業務に対する影響も通常は軽微なものであると考えられる。一方,本案訴訟は必ずしも軽微な事件であるとはいえず,また,本件文書は,抗告人- 6 -と相手方らとの間の紛争発生以前に作成されたもので,しかも,監督官庁の事後的検証に備える目的もあって保存されたものであるから,本件分析評価情報部分は,Aの経営状態に対する抗告人の率直かつ正確な認識が記載されているものと考えられ,本案訴訟の争点を立証する書証としての証拠価値は高く,これに代わる中立的・客観的な証拠の存在はうかがわれない。 そうすると,本件分析評価情報は,抗告人の職業の秘密には当たるが,保護に値する秘密には当たらないというべきであり,抗告人は,本件分析評価情報部分の提出を拒絶することはできない。 (3)民訴法223条6項の手続について抗告人は,本件文書には査定方法における抗告人独自の工夫が記載されていることを前提に,これは職業の秘密に当たるとも主張する。この点,原審は,民訴法223条6項に基づいて本件文書を提示させた上でこれを閲読し,本件文書に記載された査定方法における抗告人の工夫の独自性,価値は限定的なものであって,特別な保護を与えるべきノウハウとはいえないと認定したものであるところ,同項の手続は,事実認定のための審理の一環として行われるもので,法律審で行うべきものではないから,原審の認定が一件記録に照 て,特別な保護を与えるべきノウハウとはいえないと認定したものであるところ,同項の手続は,事実認定のための審理の一環として行われるもので,法律審で行うべきものではないから,原審の認定が一件記録に照らして明らかに不合理であるといえるような特段の事情がない限り,原審の認定を法律審である許可抗告審において争うことはできないものというべきである。抗告人の上記主張は,上記特段の事情を主張するものではなく,採用することができない。 以上によれば,所論の点に関する原審の判断は是認することができる。論旨は採用することができない。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 - 7 -(裁判長裁判官田原睦夫裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官近藤崇晴)
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