- 1 -主文 被告は,原告X1に対し,金1194万0268円及びこれに対する平成16年5月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告X2に対し,金1194万0268円及びこれに対する平成16年5月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,これを33分し,その2を被告の負担とし,その15を原告X1の負担とし,その15を原告X2の負担とし,その余を原告X3の負担とする。 この判決は,1項及び2項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告X1に対し,金1億4850万3873円及びこれに対する平成16年5月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告X2に対し,金1億4850万3873円及びこれに対する平成16年5月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告X3に対し,金1000万円及びこれに対する平成16年5月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 本件は,被告が所有する漁船に被告の従業員として乗り組んでいたAが,甲板上での作業中に海へ転落し,死亡した海難事故(以下「本件海難事故」という。)につき,被告においては,甲板上での作業には海へ転落するおそれがある以上,甲板に転落防止用の柵等を設置した上,甲板上で作業させる際には,看視員を配置し,作業員には作業用救命衣を着用させるべき安全配慮義務があったのに,これを怠ったとして,原告らが,被告に対し,雇用契約上の債務不履行又は船長ないし漁ろう長の各不法行為に係る民法715条1項による損害- 2 -賠償請求権に基づき,Aの両親である原告X1及び原告X2に れを怠ったとして,原告らが,被告に対し,雇用契約上の債務不履行又は船長ないし漁ろう長の各不法行為に係る民法715条1項による損害- 2 -賠償請求権に基づき,Aの両親である原告X1及び原告X2においては,Aから相続した葬儀等の費用,逸失利益及び慰謝料並びに遺族固有の損害並びにこれらに対する本件海難事故によりAの死亡した日と推認される平成16年5月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,Aの弟である原告X3においては,遺族固有の損害及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の支払を,それぞれ請求している事案である。 基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。)(1) 当事者等アA及び原告ら(甲1,5の6・7,14,乙5の28・57,弁論の全趣旨)Aは,昭和60年9月27日生まれの男性で,宮崎県立宮崎海洋高等学校海洋科に在学中の平成16年2月6日,甲板員として被告に雇われ,本件海難事故時にはまぐろ延縄漁を行っていた△△丸に乗船していたが,平成17年2月2日,本件海難事故による死亡が認定されたものである。 原告X1及び原告X2はそれぞれAの父及び母で,原告X3はAの弟である。 イ被告等(甲1,乙5の13・20・21・28,弁論の全趣旨)被告は,△△丸を所有し,水産業等をその目的とする株式会社である。 B及びCは,本件海難事故当時,それぞれ船長及び漁ろう長として△△丸に乗り組んでいた者である。 (2) 本件海難事故の発生(甲1,乙5の4・5,弁論の全趣旨)Aは,平成16年5月10日午後10時10分ころ,マダガスカル沖の南インド洋上において,△△丸の船尾にあるベルトコンベア(以下「船尾側コンベア」という。)の上をまたごうとして足を滑らせ,船尾側コンベアの上の開口部(以下「本件開口部」という ころ,マダガスカル沖の南インド洋上において,△△丸の船尾にあるベルトコンベア(以下「船尾側コンベア」という。)の上をまたごうとして足を滑らせ,船尾側コンベアの上の開口部(以下「本件開口部」という。)から船外へ転落した。 本件海難事故時,Aは,作業用救命衣を着用しておらず,また,Aが浮玉- 3 -を整理するため1人で漁具格納庫へ向かっていたことから,その転落に気付いた者はいなかった。 (3) 本件海難事故に係る各金銭の支払(乙2ないし4,5の73ないし81,13の1ないし4,弁論の全趣旨)原告X1及び原告X2は,本件海難事故につき,被告から,行方不明手当金合計80万円の支払を受けるとともに,船員保険から,葬祭料として合計48万円,遺族一時金として合計864万円,第一種特別支給金として合計300万円,及び第二種特別支給金として合計69万1200円の各給付を受けた。 また,原告X1及び原告X2は,本件海難事故につき,平成17年11月1日,乗組員厚生共済(漁業労働災害共済契約)に基づく死亡共済金を全国共済水産業協同組合連合会から受け取っていた被告から,合計2640万円の支払を受けた。 (4) 関係各法令の定め船員法81条1項を受けた船員労働安全衛生規則は,船舶所有者が,船内作業による危害の防止に関し,次の事項を遵守すべきことを定めている。 ア保護柵の使用等(船員労働安全衛生規則27条の2)船舶所有者は,海中に転落するおそれのある場所においては,著しく作業の妨げとなる場合を除き,保護柵を使用させる等適当な措置を講じなければならない。 イ看視員の設置(船員労働安全衛生規則57条3号)船舶所有者は,甲板上で漁ろう作業を行わせる場合は,事故があった場合に速やかに救助に必要な措置をとることができる状態で二人以上の者が同時に作業に従事するときを 設置(船員労働安全衛生規則57条3号)船舶所有者は,甲板上で漁ろう作業を行わせる場合は,事故があった場合に速やかに救助に必要な措置をとることができる状態で二人以上の者が同時に作業に従事するときを除き,作業に従事する者との連絡のための看視員を配置しなければならない。 ウ作業用救命衣等の使用(船員労働安全衛生規則57条2号)- 4 -船舶所有者は,甲板上で漁ろう作業を行わせる場合は,作業に従事する者に命綱又は作業用救命衣を使用させなければならない。 第3争点及び争点に対する当事者の主張 争点 (1) 安全配慮義務違反の有無及び因果関係の有無Aは,B船長ないしC漁ろう長が下記アないしウの各安全配慮義務を怠ったことにより,本件海難事故で死亡したか。 ア本件開口部に転落防止用の柵等を設置すべき義務イ甲板上で作業させる際,看視員を配置すべき義務ウ甲板上で作業させる際,作業用救命衣を着用させるべき義務(2) 損害の発生及びその数額アA及び原告ら固有の各損害イ過失相殺の有無及びその割合ウ損害から控除すべき対象 争点に関する原告らの主張(1) 安全配慮義務違反及び因果関係があること(争点(1)について)Aは,次のとおり,B船長ないしC漁ろう長が各安全配慮義務を怠ったことにより,本件海難事故で死亡した。 ア本件開口部に転落防止用の柵等を設置すべき義務を怠ったこと及びその義務違反とAの死亡との間に因果関係があることB船長ないしC漁ろう長は,海中に転落するおそれのある場所においては原則として転落防止用の柵等を設置すべき安全配慮義務を負っていた(前記第2の2(4)ア参照)のに,これを怠り,本件開口部に転落防止用のネット,チェーン等を設置しても,著しく作業の妨げとならない揚縄作業中に,これを設置していなかった。 そして,転落防止 っていた(前記第2の2(4)ア参照)のに,これを怠り,本件開口部に転落防止用のネット,チェーン等を設置しても,著しく作業の妨げとならない揚縄作業中に,これを設置していなかった。 そして,転落防止用のネット,チェーン等が設置されていれば,Aが本- 5 -件開口部から海へ転落することもなかったのであるから,この安全配慮義務違反と,Aが甲板上での作業中に海へ転落し,死亡したこととの間には因果関係がある。 イ甲板上で作業させる際に看視員を配置すべき義務を怠ったこと及びその義務違反とAの死亡との間に因果関係があることB船長ないしC漁ろう長は,甲板上での漁ろう作業を行わせる際には原則として看視員を配置すべき安全配慮義務を負っていた(前記第2の2(4)イ参照)のに,これを怠り,Aに単独で甲板上での漁ろう作業を行わせた。 そして,看視員が配置されていれば,経験の乏しいAが危険な行為に及んだ時点で注意を促すことができたし,海へ転落したAを直ちに救助することもできたものであるから,この安全配慮義務違反と,甲板上での作業中に海へ転落したAが死亡したこととの間には因果関係がある。 ウ甲板上で作業させる際に,Aに作業用救命衣を着用させるべき義務を怠ったこと,及びその義務違反とAの死亡との間に因果関係があることB船長ないしC漁ろう長は,甲板上での漁ろう作業を行わせる際には作業用救命衣を着用させるべき安全配慮義務を負っていた(前記第2の2(4)ウ参照)のに,これを怠り,Aに作業用救命衣を着用させないで甲板上での漁ろう作業を行わせた。 そして,作業用救命衣を着用させていれば,顔を水面上に出した状態で相当長時間浮くことができた上,それ自体発見されやすい色で,付属品の笛で合図をすることもできた以上,この安全配慮義務違反と,甲板上での作業中に海へ転落したAが死亡 ていれば,顔を水面上に出した状態で相当長時間浮くことができた上,それ自体発見されやすい色で,付属品の笛で合図をすることもできた以上,この安全配慮義務違反と,甲板上での作業中に海へ転落したAが死亡したこととの間には因果関係がある。 (2) 損害の発生及びその数額(争点(2))についてアA及び原告ら固有の各損害について本件海難事故で死亡したA,及びその遺族である原告らは,それぞれ下- 6 -記(ア)及び(イ)の各損害を被った。 (ア) Aの損害合計2億7861万8946円a葬儀費用等700万円本件海難事故で死亡したAは,別紙葬儀費用等一覧表のとおり,葬儀費用等として合計736万0025円を支出しており,このうち700万円が,本件海難事故と相当な因果関係のある損害となる。 b調査費用等195万3596円本件海難事故に遭ったAは,本件海難事故に係る損害賠償を請求するため,別紙調査費用等一覧表のとおり,合計195万3596円の調査費用等の支出を余儀なくされ,損害を被った。 c逸失利益1億1966万5350円Aは,本件海難事故で死亡しなければ,18歳から67歳までの49年間,Aが死亡した平成16年賃金センサス第1巻第1表産業計企業規模計学歴計男子全年齢平均である542万7000円の年収を得られたはずであるのに,前記(1)の安全配慮義務違反により死亡した。 その逸失利益の額は,支出を免れた生活費として55%を控除しても,次のとおり,1億1966万5350円を下るものではない。 〔計算式〕¥5,427,000/年×(100%-55%)×49年d慰謝料1億5000万円Aは,前記(1)の安全配慮義務違反により死亡したこと自体で,精神的苦痛を被ったのみならず,当初,△△丸及びその僚船がAの捜索を怠ったことにより,さらに著しい精神 9年d慰謝料1億5000万円Aは,前記(1)の安全配慮義務違反により死亡したこと自体で,精神的苦痛を被ったのみならず,当初,△△丸及びその僚船がAの捜索を怠ったことにより,さらに著しい精神的損害を被ったもので,これを慰謝するための慰謝料は,1億5000万円を下らない。 (イ) 原告ら固有の損害合計4200万円a逸失利益2000万円原告らは,Aが本件海難事故により死亡したことで,仕事ができな- 7 -い状態にまで精神的に追い込まれ,自営していた塗装業を廃業することを余儀なくされたもので,67歳までに得られた営業利益として2000万円の損害を被った。 b慰謝料合計2200万円原告らは,その息子ないし兄であるAが本件海難事故により死亡したことで,それぞれ精神的苦痛を被っているもので,これらを慰謝するための慰謝料は,原告X1及び原告X2については各600万円を,Aの死亡後に精神的に追い込まれて緊急入院を余儀なくされるなどした原告X3については1000万円を,それぞれ下らない。 イ過失相殺についてAは,海洋高等学校に3年間在学していたが,その間,漁船には合計90日程度しか乗船しておらず,そのうち約30日しかまぐろ漁の実習を受けていないもので,本件海難事故時は甲板員としての初航海であった。 Aの乗船経験は,このように極めて乏しいものである一方,前記(1)の安全配慮義務違反は,いずれも法令に違反する重大なものであるから,損害額の算定に当たっては,Aが投縄用ベルトコンベアの上をまたごうとした際に足を滑らせたことを減額事由として考慮すべきではない。 ウ損害から控除すべき対象について被告から支払を受けた行方不明手当金80万円及び船員保険から給付を受けた合計1281万1200円が損害から控除されることは争わない。 これに対し,被告 きではない。 ウ損害から控除すべき対象について被告から支払を受けた行方不明手当金80万円及び船員保険から給付を受けた合計1281万1200円が損害から控除されることは争わない。 これに対し,被告が乗組員厚生共済に基づく死亡共済金として受領し,原告X1及び原告X2に支払った合計2640万円が損害から控除されることについては争う。この死亡共済金は,船主責任保険に基づく保険金のような民事上の損害賠償責任をてん補するものではなく,船員保険による給付の上積みとして,民事上の損害賠償責任と無関係に乗組員等に対する補償をするもので,掛金を誰が負担していたかにかかわらず,乗組員等の- 8 -遺族に支給されるべきものだからである。 争点に関する被告の主張(1) 安全配慮義務違反ないし因果関係がないこと(争点(1)について)B船長ないしC漁ろう長においては,次のとおり,原告らの主張に係る各安全配慮義務はなく,また,原告らの主張に係る安全配慮義務違反により,Aが本件海難事故で死亡したものでもない。 ア本件開口部に転落防止用の柵等を設置すべき義務はなく,これを設置しなかったこととAの死亡との間の因果関係もないこと本件開口部は,まぐろ延縄漁を行うために必須のものであり,そもそもその作業を妨げないように転落防止用の柵等の設置が免除される可能性がある場所であるし,実際は高さ1m以上の転落防止壁で囲まれているのであるから,B船長ないしC漁ろう長において,漁ろう作業とは無関係に船尾側コンベアの上をまたごうとした者が足を滑らせ,上記転落防止壁を越えて船外へ転落することは予測できなかったもので,上記転落防止壁に加えて転落防止用の柵等を本件開口部に設置すべき義務はなかった。 また,本件海難事故は,船尾側コンベアの上をまたごうとした際に足を滑らせたAが本件開口部か とは予測できなかったもので,上記転落防止壁に加えて転落防止用の柵等を本件開口部に設置すべき義務はなかった。 また,本件海難事故は,船尾側コンベアの上をまたごうとした際に足を滑らせたAが本件開口部から船外へ転落したものであり,転落防止用の柵等を設置していても防ぐごとができたかどうかは疑問であるから,転落防止用の柵等を設置しなかったことによりAが死亡したとはいえない。 イ看視員を配置すべき安全配慮義務がなかったこと看視員の配置は,海中転落の危険性の高い甲板上での漁ろう作業の際に義務付けられるものである。 しかし,本件海難事故は,このような作業に当たらない,船尾における浮玉整理整頓作業中に生じたもので,かつ,本件海難事故時の海の状況は,作業用救命衣を着用しなくても海中転落の危険性がない,穏やかなものであった以上,本件海難事故時,B船長ないしC漁ろう長において,看視員- 9 -を配置すべき義務はなかった。 ウAに作業用救命衣を着用させるべき義務はなく,これを着用させなかったことと本件海難事故との間の因果関係もないこと作業用救命衣は,海中転落の危険性の高い甲板上での漁ろう作業の際に着用が義務付けられるものである。しかし,本件海難事故時の作業の内容及び海の状況は前記イのとおりであるから,本件海難事故時,B船長ないしC漁ろう長において,Aに作業用救命衣を着用させるべき義務はなかった。 また,本件海難事故は,船尾側コンベアの上をまたごうとした際に足を滑らせたAが本件開口部から船外へ転落したもので,Aが作業用救命衣を着用していたか否かと無関係に発生したといえるから,Aに作業用救命衣を着用させなかったことにより,本件海難事故が発生したとはいえない。 (2) 損害の発生及びその数額(争点(2))についてアA及び原告ら固有の各損害について(ア) A いえるから,Aに作業用救命衣を着用させなかったことにより,本件海難事故が発生したとはいえない。 (2) 損害の発生及びその数額(争点(2))についてアA及び原告ら固有の各損害について(ア) Aの損害について次のとおり,否認ないし争う。 a葬儀費用等について葬儀費用等は,社会的儀礼を行うための相当な範囲内でのみ損害と認められるべきで,本件においては,100万円程度が相当である。 b調査費用等について損害賠償請求のための調査費用等は,相当な範囲内でのみ因果関係のある損害と認められるべきで,原告らの請求する調査費用等のうちこのような因果関係が認められるのは,神戸地方海難審判庁の裁決書謄本の交付費用程度である。 c逸失利益について逸失利益の算定に当たっては,Aの基礎収入は,Aが死亡した平成- 10 -16年賃金センサス第1巻第1表産業計企業規模計高卒男子全年齢平均である490万1300円とすべきである。 また,原告らの逸失利益の請求は,将来分の収入を現在に請求するものであるから,18歳から67歳までの49年間の就労可能期間に対応するライプニッツ係数(18.1687)を乗じることで,その中間利息を控除すべきである。 d慰謝料について死亡による精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は,相当な範囲内でのみ因果関係のある損害と認められるべきで,本件においては,2000万円程度が相当である。 なお,△△丸及びその僚船がAの捜索を怠った事実はなく,そもそも,このような捜索とAの死亡との間には相当な因果関係がないので,このような事情は,Aの慰謝料の増額事由とならない。 (イ) 原告ら固有の損害について次のとおり,否認ないし争う。 a逸失利益についてAが本件海難事故により死亡したことと,原告らが自営していた塗装業を廃業したこととの間には相当な 事由とならない。 (イ) 原告ら固有の損害について次のとおり,否認ないし争う。 a逸失利益についてAが本件海難事故により死亡したことと,原告らが自営していた塗装業を廃業したこととの間には相当な因果関係がない。 b慰謝料について原告ら固有の慰謝料については,否認ないし争う。 なお,本件海難事故によるAの死亡後に原告X3が緊急入院したことなどは本件海難事故と相当な因果関係がなく,慰謝料の増額事由とならない。 イ過失相殺についてAにおいては,船上にある甲板員として,転落防止壁天面よりも高い位置に出ないよう注意すべきであるのに,転落防止壁天面よりも高い船尾側- 11 -コンベアの上をまたごうとしており,そのことが本件海難事故の要因となっているから,これをAの過失として考慮し,Aの損害から4割を減ずべきである。 ウ損害から控除すべき対象について原告らが,被告から支払を受けた行方不明手当金80万円,並びに船員保険から給付を受けたもののうち第一種特別支給金及び第二種特別支給金を除く合計992万円については,過失相殺後のA及び原告ら固有の各損害を填補するものであるから,これを控除すべきである。 また,乗組員厚生共済に係る死亡共済金は,被告が全国共済水産業協同組合連合会と漁業労働災害共済契約を締結し,掛金を支払ってきたことにより被告に支払われたものであるから,これを原資として被告が原告らに支払った合計2640万円についても,過失相殺後のA及び原告ら固有の各損害を填補するものとして,これを控除すべきである。 第4当裁判所の判断 認定事実基礎となる事実に加え,証拠(甲1,5の2,6,7の2,9ないし12,14,138の1・2,乙5の13・21・23・25・28・33・44ないし48・50ないし53・83・85,7,8)及び弁論の全趣旨に なる事実に加え,証拠(甲1,5の2,6,7の2,9ないし12,14,138の1・2,乙5の13・21・23・25・28・33・44ないし48・50ないし53・83・85,7,8)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) △△丸の構造,まぐろ延縄漁の概要などア△△丸の構造(別紙参考図1及び2参照)(甲1,138の1,乙5の21・23・25・47・48・50)△△丸は,平成7年9月に進水の,長さ54.80m,幅9.40m,深さ4.25m,総トン数499tの汽船であり,最上層にある航海船橋甲板の一つ下の層に長船尾楼甲板があり,その前方には一つ下の層として前部作業甲板がある。 - 12 -前部作業甲板は,右舷側には,前方から幹縄を引き揚げるラインホーラ及び漁獲物を取り入れる舷門があり,右舷船尾側には,長船尾楼甲板へと上がる階段があり,左舷側には,舷側沿いに長船尾楼甲板の漁具格納庫の前へつながるベルトコンベア(以下「左舷側コンベア」という。)が設置されていた。 長船尾楼甲板には,船首側から順に便所及び浴室を備えた船員居住区,幹縄収納庫並びに漁具格納庫が配置され,両舷側並びに船員居住区の船首側及び船尾側に通路がある。両舷側及び船尾側の外側には,高さ約1mの転落防止壁が備えられており,両舷側の転落防止壁の上には,天井の高さまで波除板が取り付けられている。漁具格納庫には,仕切り板で閉鎖することができる開口部が両舷側及び船尾側にあり,左舷側コンベアの終点につらなる左舷側の開口部は漁具搬入口となっていて,残りの2か所の開口部は縄を引き揚げる揚縄作業の際にはほとんど閉鎖されていた。 漁具格納庫の後方は,縄を投げ入れる投縄作業を行う長さ約3.5mのスペースとなっており(以下,長船尾楼甲板のこの部分を「船尾甲板」という。),漁 を引き揚げる揚縄作業の際にはほとんど閉鎖されていた。 漁具格納庫の後方は,縄を投げ入れる投縄作業を行う長さ約3.5mのスペースとなっており(以下,長船尾楼甲板のこの部分を「船尾甲板」という。),漁具格納庫の船尾側開口部である漁具搬出口から船尾中央左舷寄りにかけて船尾側コンベアが設置されていた。この船尾側コンベアは,ステンレス製の枠を備えた幅約0.6m,長さ約4mのベルトコンベアであり,船尾甲板から高さ約1mの位置に設置され,その先端は,縄を投げ入れることができるよう,船尾側の転落防止壁の天面に設置されたステンレス製の作業板に向けられており,その周りの転落防止壁の上には波除板などは取り付けられていなかった(本件開口部)。また,本件開口部の前には,長さ約1.6m,高さ約0.3mの作業台が設置されていた。 イまぐろ延縄漁の概要など(甲1,138の2,乙5の45ないし47,弁論の全趣旨)△△丸が行っていたまぐろ延縄漁は,船を進めながら,釣針付きの枝縄- 13 -及びプラスチック製浮玉付きの浮縄を結びつけた幹縄を海中に投げ入れた後,ラインホーラで海中から引き揚げた幹縄から枝縄,浮玉などを外して漁獲するものであった。 揚縄作業は,前部作業甲板でラインホーラを操作し,幹縄を引き揚げる役割,引き揚げられた幹縄から枝縄を取り外す役割,幹縄から取り外した枝縄を巻いてかごに入れる役割,及び左舷側コンベアで搬送される浮玉とかごとを漁具格納庫に整理する役割に分かれ,これらを交代で行うことになっていた。このうち漁具格納庫を整理する役割は,その作業自体が二,三分で終わるものであるため,その担当はおおむね2時間に1回の休憩を兼ねるものとされ,用を足すなどしても10分程度で前部作業甲板へ戻ることとなっていた。 (2) 本件海難事故に至る経緯などア△△丸の出帆 わるものであるため,その担当はおおむね2時間に1回の休憩を兼ねるものとされ,用を足すなどしても10分程度で前部作業甲板へ戻ることとなっていた。 (2) 本件海難事故に至る経緯などア△△丸の出帆,Aの乗船経験,作業用救命衣の着用に係るB船長及びC漁ろう長の指示など(甲1,6,乙5の13・28・45・46・51ないし53・83・85,弁論の全趣旨)△△丸は,平成16年3月3日午後1時,静岡県にある焼津港から出発した。この△△丸に乗船したAは,海洋高校在学中,実習船に乗船し,まぐろ釣りなどの実習を受けたことはあったが,実際に操業を行う漁船に甲板員として乗船するのは初めてであった。△△丸は,途中,外国人甲板員を乗船させた後,同月27日から,南アフリカの南東沖合にある漁場において,まぐろ延縄漁の操業を始めた。 △△丸は,本件海難事故までに36回の投縄を行い,まぐろを漁獲していたが,この間,船舶所有者から安全担当者として選任されていたB船長は,Aには海中転落のおそれがない作業をさせており,作業用救命衣を着用していると漁ろう作業に支障が出るとの認識から,Aに作業用救命衣を着用するよう指示しておらず,C漁ろう長も,作業用救命衣を着用してい- 14 -ると気持ちがだらけ,漁ろう作業に支障が出るとの認識から,同じく指示をしていなかったもので,両名は,A以外の乗組員に対しても,作業用救命衣の着用を指示していなかった。 イ本件海難事故に至る経緯(甲138の2,乙5の45・46・51・52・85)△△丸は,平成16年5月10日午前11時10分,南緯41度40分東経52度30分の地点で37回目の投縄を始めて南下し,同日午後3時50分,南緯42度18分東経53度01分の地点で投縄を終えて,同日午後8時,おおむね北西方向に進行しながら,揚縄を始めた。 A 分東経52度30分の地点で37回目の投縄を始めて南下し,同日午後3時50分,南緯42度18分東経53度01分の地点で投縄を終えて,同日午後8時,おおむね北西方向に進行しながら,揚縄を始めた。 Aは,揚縄開始後,前部作業甲板において,作業用救命衣を着用せずに,幹縄から取り外した枝縄を巻いてかごに入れる作業を行っていたが,同日午後10時ころ,左舷側コンベアで搬送される浮玉やかごを漁具格納庫に整理する順となり,1人で漁具格納庫へ赴いた。しかし,Aは,約10分が経過しても,前部作業甲板に戻ってこなかった。 (3) 本件海難事故後の事実経過アAの捜索など(甲5の2,乙5の44ないし46・51・85)B船長は,平成16年5月10日午後10時15分ころ,前部作業甲板にAが戻ってこないとの報告を受け,乗組員全員で船内を捜索したが,Aは見つからなかった。この際,船尾側コンベアのそばには翌日の投縄に用いるえさの入った缶が置いてあり,船尾側コンベアの下を通って船尾甲板の左舷側から右舷側へ横切ることはできない状態となっていた。 Aが船外へ転落したと判断したB船長及びその旨の報告を受けたC漁ろう長は,縄を切ってその端にブイを取り付け,海流を考慮しつつ揚縄中に進んできた進路を逆に進行し,Aの捜索を開始するとともに,近くで操業中の僚船3隻に応援を求め,Aの捜索をした。このころの気象状況は,天候が曇,気温が約8℃,海水温が約13℃で,西南西から風力3の風があ- 15 -ったが,海面の状態は,△△丸の船体が揺れない程度の穏やかなものであった。 その後,△△丸は,串木野市船主組合救難対策協議会対策本部の指示を受け,僚船3隻とともに付近の捜索を続けたが,手がかりを発見するには至らず,同月13日の日没をもって,すべての捜索が打ち切られた。 イ本件海難事故に係る海難審 船主組合救難対策協議会対策本部の指示を受け,僚船3隻とともに付近の捜索を続けたが,手がかりを発見するには至らず,同月13日の日没をもって,すべての捜索が打ち切られた。 イ本件海難事故に係る海難審判及び刑事手続(甲1,乙5の33・83,7,8)本件海難事故については,平成18年4月26日,神戸地方海難審判庁に対し,B船長及びC漁ろう長を受審人とする海難審判開始が申し立てられた後,同年7月12日,C漁ろう長のみが出席して審判期日が開かれた。 その後,同年8月31日に言い渡された裁決は,主文で,その原因を明らかにすることができないとしつつ,理由では,海難事故防止の観点から,船尾側コンベアの下の通路を確保するよう是正するとともに,甲板上で作業を行う際には予期しない危険から命を守る最後の手段として作業用救命衣を着用させるよう是正すべきとの勧告をした。 また,本件海難事故については,平成19年5月2日,伊集院簡易裁判所に対し,被告を被告人として,甲板上で漁ろう作業を行わせる際に作業用救命衣を使用させなかった船員法違反の罪で略式命令が請求され,同月8日,被告人を罰金20万円に処するとの略式命令がされた。 (4) 作業用救命衣などについての一般的知見(甲7の2,9ないし12,14,弁論の全趣旨)昭和39年に船員労働安全衛生規則が施行された当初は,作業用救命衣は製造されておらず,海中転落のおそれのある作業を行う場合には救命胴衣の着用が義務付けられていたが,救命胴衣を着用しての作業には不便さが伴うため,昭和40年代に作業用救命衣が開発され,救命胴衣の代わりに着用が義務付けられた。この作業用救命衣は,着用した状態で足下の視界を著しく- 16 -妨げず,作業を行うのに支障がないこと,7.5kgの重量の鉄片を淡水中で24時間以上支えられること,水中で顔面 用が義務付けられた。この作業用救命衣は,着用した状態で足下の視界を著しく- 16 -妨げず,作業を行うのに支障がないこと,7.5kgの重量の鉄片を淡水中で24時間以上支えられること,水中で顔面を水面上に支持できること,見やすい色であること,耐食性の笛がひもで取り付けられていること,作業用救命衣という文字を見やすい場所に表示すること,などが法令上の適合要件として定められている(船舶設備規定311条の20第1項,311条の21参照)。 また,海中転落事故の生存率は,ライフジャケットを着用していた場合が84%であるのに対し,着用していなかった場合が24%で,漁船の事故についても,救命胴衣を着用していたことで命を取り留めた事例がみられる。 なお,10ないし15℃の海水中で生存可能な時間は,約3ないし6時間である。 安全配慮義務違反の有無及び因果関係の有無(争点(1))について(1) 本件開口部に転落防止用の柵等を設置すべき義務(争点(1)ア)について本件開口部は,縄を海に投げ入れるための開口部で,まぐろ延縄漁を行うために必須のものである一方,船尾甲板には,波除板などは取り付けられていないが,高さ約1mの転落防止壁が備えられており,そもそも揚縄作業の際には,漁具格納庫を整理する役割であっても,船尾甲板及び本件開口部に近寄る必要はないのである(前記1(1)ア及びイ)から,B船長及びC漁ろう長において,上記転落防止壁以外に,本件開口部に転落防止用の柵等を設置すべき義務はない。 なお,船舶設備規定115条の26第1項によれば,転落防止壁の高さは1m以上であることが要求されている一方,本件開口部の前には高さ約0. 3mの作業台があるため,実効性という側面からして,船尾甲板の転落防止壁の高さは,上記基準を満たしていないのではとの疑問もあり得るが,上 上であることが要求されている一方,本件開口部の前には高さ約0. 3mの作業台があるため,実効性という側面からして,船尾甲板の転落防止壁の高さは,上記基準を満たしていないのではとの疑問もあり得るが,上述したとおり,そもそも揚縄作業の際には船尾甲板に近寄る必要がないものであるから,上記疑問があったとしても,上述の判断が覆されることはない。 - 17 -(2) 甲板上で作業させる際に看視員を配置すべき義務(争点(1)イ)について法令上,船舶所有者は,甲板上で漁ろう作業を行わせる場合には,原則として看視員を配置しなければならず(前記第2の2(4)イ),船舶所有者から安全担当者として選任されていた(前記1(2)ア)B船長も,原則として同様の義務を負うものである。 しかし,Aが本件海難事故時に担当していた役割は,短い休憩を兼ねた漁具格納庫の整理であり(前記1(1)イ,(2)イ),長船尾楼甲板の両舷側には高さ約1mの転落防止壁が備えられ,その上に天井の高さまで波除板が取り付けられている(前記1(1)ア)もので,本件海難事故ころは特に荒れた気象状況になかった(前記1(3)ア)以上,漁具格納庫での作業,短時間の休憩,及び漁具格納庫や休憩中に赴く可能性のある船員居住区内の便所までの通路通行中にAが海へ転落することは想定できず,このような抽象的可能性に備え,常にその行動を看視すべきとすることは,過剰な負担を強いるものといわざるを得ない。そうすると,このような漁具格納庫の整理については,法令で看視員を配置すべき義務が免除されている場合(前記第2の2(4)イ)に形式的に当たらないとしても,民事上の損害賠償責任との関係では,看視員を配置すべき義務はないものというべきである。 (3) 甲板上で作業させる際,作業用救命衣を着用させるべき義務(争点(1)ウ)について に当たらないとしても,民事上の損害賠償責任との関係では,看視員を配置すべき義務はないものというべきである。 (3) 甲板上で作業させる際,作業用救命衣を着用させるべき義務(争点(1)ウ)について法令上,船舶所有者は,甲板上で漁ろう作業を行わせる場合には,作業に従事する者に作業用救命衣を使用させなければならず(前記第2の2(4)ウ),船舶所有者から安全担当者として選任されていた(前記1(2)ア)B船長はもとより,漁ろう作業を統轄する者であるC漁ろう長も,同様の義務を負うものと解される。 そして,この法令上の義務は,漁ろう作業の合間の短時間の休憩中に乗組員が想定外の行動に出た場合であっても,民事上の損害賠償責任との関係で- 18 -法的義務となると解すべきである。というのも,作業用救命衣は,そもそも漁ろう作業中の不測の事態に備えるものである一方,これを着用させること自体は,看視員を配置することと異なり,漁ろう作業の前にこれを着用するよう指示し,着用していない乗組員には漁ろう作業させないことで,容易に実践できるからである(乗組員が想定外の不用意な行動に出たことは,損害額の算定に当たって考慮され得る事情ではあるが,そうであるからといって作業用救命衣を着用させるべき義務まで否定されるものではない。)。このような考え方は,本件海難事故に係る海難審判の裁決が予期しない危険から命を守る最後の手段として作業用救命衣を着用させるよう是正すべきと勧告し,本件海難事故に係る刑事手続において作業用救命衣を使用させなかった罪で罰金の略式命令がされていること(前記1(3)イ)からもうかがわれる。 そうすると,Aに漁ろう作業を行わせていたのに,作業用救命衣を着用するようにとの指示を全くせず,Aにこれを着用させていなかった(前記1(2)ア及びイ)B船長及びC漁ろう 3)イ)からもうかがわれる。 そうすると,Aに漁ろう作業を行わせていたのに,作業用救命衣を着用するようにとの指示を全くせず,Aにこれを着用させていなかった(前記1(2)ア及びイ)B船長及びC漁ろう長は,作業用救命衣を着用させるべき安全配慮義務を怠った過失がある。 (4) 因果関係について(争点(1)ウ)本件海難事故が発生したころの現場付近の気象状況は,海水温は約13℃であり,海面の状態も穏やかであった(前記1(3)ア)から,呼吸を確保することができれば,海中転落後も3時間は生存することができたと認められる(前記1(4)参照)。他方で,作業用救命衣は,頭部を水面上に24時間は支持する機能を備えている上,見やすい色であり,これを着用していれば,近くを通る船舶などに自己の存在を発見してもらいやすく,付属の笛を吹鳴して知らせることで,その可能性はさらに高まる(前記1(4))。 そうすると,Aが作業用救命衣を着用していれば,海中に転落後すぐに死亡することはなく,3時間は海面上に顔面を出した状態で生存することができたし,海流を考慮しつつ揚縄中の進路を戻って捜索をしていた△△丸や応- 19 -援要請に応じて捜索に当たっていた僚船(前記1(3)ア)などにその存在を発見してもらえる可能性も相当高かったといえる。加えて,作業用救命衣の着用の有無により,海中転落時の生存率には有意差があると推認されること(前記1(4)参照)などをも考え合わせると,B船長ないしC漁ろう長がAに作業用救命衣を着用させていれば,海中転落後程なくしてAが死亡する事態を回避することができた蓋然性はもとより,Aを救助することができた相当高度の可能性もあったといえるから,作業用救命衣を着用させるべき安全配慮義務の違反(前記(3))とAの死亡との間には,因果関係が認められる(作業用救命 蓋然性はもとより,Aを救助することができた相当高度の可能性もあったといえるから,作業用救命衣を着用させるべき安全配慮義務の違反(前記(3))とAの死亡との間には,因果関係が認められる(作業用救命衣を着用させていても本件開口部からの転落は防げなかった以上,因果関係はないとする被告の主張は,不測の事態に備えるという作業用救命衣の機能を無視したもので,失当である。)。 (5) まとめそうすると,Aは,B船長及びC漁ろう長が作業用救命衣を着用させるべき安全配慮義務違反を怠った過失により,本件海難事故で死亡したものであるから,B船長及びC漁ろう長を使用していた被告は,民法715条1項に基づき,損害賠償責任を負う。 損害の発生及びその数額(争点(2))について(1) Aの被った損害ア葬儀費用等150万円証拠(甲16ないし43(枝番を含む。))によれば,別紙葬儀費用等一覧表記載の合計736万0025円の出捐があったことが認められる。 しかし,葬儀費用等は,社会的儀礼である葬儀を執り行うのに必要かつ相当な範囲内においてのみ,賠償請求の対象となる損害となるものというべきであり,不幸にして先立った息子を手厚く葬ってやりたいという親心などは十分理解できるものの,法的観点からは700万円を超える出捐は過大であるといわざるを得ないから,このうち150万円の限度で相当な- 20 -範囲内の損害と認めるのが相当である。 イ調査費用等20万円証拠(甲44ないし136(枝番を含む。))によれば,別紙調査費用等一覧表(この項において,「別表」という。)記載の合計195万3596円の出捐があったことが認められる。 しかし,損害賠償請求をするための調査費用等は,原則として損害賠償請求を行うために必要かつ相当な範囲内においてのみ,賠償請求の対象である損害と 計195万3596円の出捐があったことが認められる。 しかし,損害賠償請求をするための調査費用等は,原則として損害賠償請求を行うために必要かつ相当な範囲内においてのみ,賠償請求の対象である損害となるものというべきである。 このような観点から上記各出捐の内容をみると,海難審判傍聴に要した諸費(別表№11)のうち交通費並びに原告X1及び原告X2の宿泊費,並びに海難審判裁決書謄本交付代(別表№12)のうち謄本1部分などは,上記損害に当たるものと認められる一方,それ以外の各出捐については,日本殉職船員顕彰会出席に要した諸費(別表№16)といった上記損害に当たる余地のないものや,必要性が不明確ないし乏しいもの(別表№14,15など),調査等以外にも利用可能な物品を購入しているもの(別表№21)などがうかがわれ,これらすべてが損害に当たるということはできない。もっとも,本件訴訟に提出されている書証の中には海難審判以外の原告らの調査により取得されたとうかがわれるものも複数存在し(甲5の1ないし8など),上述のような海難審判関係費用以外の各出捐がすべて損害に当たらないというのも,また妥当でない。 そこで,損害の公平な分担を図る見地,民事訴訟法248条の法意などにかんがみ,上記各出捐のうち20万円の限度で,必要かつ相当な範囲内にある調査費用等と認め,損害に当たるものとするのが相当である。 ウ逸失利益4930万0767円Aは,本件海難事故により死亡していなければ,その死亡時の18歳から就労が可能な67歳までの49年間,収入を得ることができたものと認- 21 -められる。 そして,Aは,海洋高校海洋科の卒業生として甲板員に雇われ(前記第2の2(1)ア),生産奨励金なども含め,同年代の者より相当高い収入を得るはずのものであった(甲2の1ないし7)し, -められる。 そして,Aは,海洋高校海洋科の卒業生として甲板員に雇われ(前記第2の2(1)ア),生産奨励金なども含め,同年代の者より相当高い収入を得るはずのものであった(甲2の1ないし7)し,将来的には幹部船員となる相当程度の可能性もあった(甲2の1ないし7,4,弁論の全趣旨)ことからすると,その年収は,542万7000円(平成16年賃金センサス第1巻第1表産業計企業規模計学歴計男子全年齢平均,顕著な事実)を下らないものと推認される。 もっとも,Aは,自身の死亡により生活費の支出を免れているから,これを50%の割合で控除し,また,将来分の逸失利益を先に得ることによる民法所定の割合による中間利息を控除する必要がある。 したがって,Aの逸失利益は,次のとおり,4930万0767円となる。 〔計算式〕¥5,427,000/年×(100%-50%)×18.1687(49年間の中間利息を控除するためのライプニッツ係数)エ慰謝料3000万円本件海難事故は,海洋高校を卒業した18歳の若者が,甲板員としての初航海中,南アフリカ南東沖合の海中へ転落し,死亡したという海難事故で,可能性にあふれる前途を有していたAが,将来の希望に満ちた中で,故郷から遠く離れたところで,両親よりも先にこの世を去らざるを得なくなった無念さは想像を超えるところと思われる。また,乗組員の命よりも漁ろう作業の効率を優先し,作業用救命衣を着用させていなかったというB船長及びC漁ろう長の過失も大きく,そのことは,上述の無念さをより強めるものといえる。加えて,本件で認められるその他の諸事情を斟酌すれば,A自身が本件海難事故で死亡したことにより著しい精神的苦痛を被ったことは明白であり,この精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては,- 22 -3000万円が相当である。 原告 諸事情を斟酌すれば,A自身が本件海難事故で死亡したことにより著しい精神的苦痛を被ったことは明白であり,この精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては,- 22 -3000万円が相当である。 原告らは,△△丸及びその僚船がAの捜索を怠っていたことにより,Aがさらに著しい精神的苦痛を被ったと主張し,これを裏付ける事情として,無線通信の記録(甲5の2)からはAの捜索が系統的に行われていないものとうかがわれること,原告らに当初知らされていた転落地点とC漁ろう長が本件海難事故に係る海難審判手続で述べたそれとが異なることなどを指摘する。しかし,事後的にみて捜索が十分系統的に行われていないものとうかがわれるとしても,△△丸及びその僚船が捜索を怠っていたということにはならない。また,C漁ろう長が述べた転落地点は,GPSによる基点から合理的に推認したものと認められる(乙5の85)一方,被告は当初投縄地点を転落地点として把握していたと認められ(乙5の4,44,52),これが上述の相違の原因と認められるから,この点からも,△△丸及びその僚船が捜索を怠っていたとは認められない。 (2) 原告ら固有の各損害ア逸失利益0円本件海難事故でAが死亡したことにより原告らが精神的苦痛を被ったことは否定しないが,遺族固有の損害も損害賠償請求の原因となる事実と相当な範囲内にある限度で認められるもので,原告らが自営していた塗装業を廃業したことは本件海難事故と相当な範囲内にあるとは認められないから,塗装業をしていれば得られた営業利益については,賠償請求の対象となる損害とは認められない。 イ慰謝料原告X1及び原告X2につき,各250万円Aの両親である原告X1及び原告X2は,前途洋々と旅立っていったわが子に突然異国の地で先立たれたもので,その喪失感は極めて大きいと思 られない。 イ慰謝料原告X1及び原告X2につき,各250万円Aの両親である原告X1及び原告X2は,前途洋々と旅立っていったわが子に突然異国の地で先立たれたもので,その喪失感は極めて大きいと思われ,前記(1)エの諸事情を斟酌すれば,原告X1及び原告X2が精神的苦痛を被ったことも明らかであり,この精神的苦痛を慰謝するための慰謝料- 23 -としては,各250万円が相当である。 これに対し,Aの弟である原告X3も,兄の死亡により精神的苦痛を被っていないわけではないが,弟は民法711条が列挙する遺族には含まれていないし,法定相続人でもないのに遺族固有の慰謝料を安易に認めるとなれば,損害賠償の範囲が際限なく拡大することになりかねないから,原告X3の慰謝料については,これを否定すべきである。 (3) 過失相殺△△丸の構造(前記1(1)ア)及び本件海難事故時の気象状況(前記1(3)ア参照)からすれば,長船尾楼甲板の中で本件開口部以外の場所から転落することは考えにくく,当時,Aが休憩を兼ねた漁具格納庫の整理作業に従事していた(前記1(2)イ)ことからすると,Aが船外へ転落した機序としては,漁具格納庫の左舷側から船員居住区内の便所に向かうなどのため,船尾甲板を左舷側から右舷側へ横切ろうとした際に,船尾側コンベアの上をまたごうとしてステンレス製の枠などで足を滑らせたと考えるのが自然である。洋上の船内の転落防止壁の近くで,転落防止壁よりも高いところを通れば,船外へ転落する危険が伴うもので,このような危険は,Aが初航海の甲板員であったとしても予測することができるものといえるし,便所などへ赴くのであれば,左舷側の通路及び船員居住区と幹縄収納庫との間にある通路を通るという経路もあった(前記1(1)ア)のであるから,損害額の算定に当たっては,このような危 きるものといえるし,便所などへ赴くのであれば,左舷側の通路及び船員居住区と幹縄収納庫との間にある通路を通るという経路もあった(前記1(1)ア)のであるから,損害額の算定に当たっては,このような危険な行為に及んだAの過失を考慮すべきである。 もっとも,Aが船尾側コンベアの上をまたごうとした事情の一つには,船尾側コンベアのそばにえさ入りの缶が置いてあり,船尾側コンベアの下を通ることができない状態にあった(前記1(3)ア)もので,このことは,本件海難事故に係る海難審判の裁決でも,問題点として指摘されているところである(前記1(3)イ)。また,△△丸の船舶検査手帳(乙5の48)及び安全担当者記録簿(乙5の62)には作業用救命衣を備えていたとの記載がない上,- 24 -△△丸が帰港した後の実況見分の際にも,救命胴衣の積載は認められるが,見やすい文字で表示がある(前記1(4))はずの作業用救命衣の存在はうかがわれず(甲138の1),作業用救命衣の着用が漁ろう作業の妨げになるとの認識を有していたB船長及びC漁ろう長(前記1(2)ア)が,そもそも△△丸に作業用救命衣を積載していなかった可能性も高いもので,安全担当者ないし漁ろう作業の統括者(前記1(2)ア)として乗組員の命を最優先しなければならないのに,漁ろう作業の効率を優先し,作業用救命衣を着用させる義務を怠った過失は重大なものというほかない。 加えて,Aは,海洋高校卒業ではあるが,実際に操業を行う漁船に甲板員として乗船するのは初めてであり(前記1(2)ア),このように経験の浅い者に対しては,より緻密な指示がなされるべきであり,この点からもB船長及びC漁ろう長の過失は大きいというべきことなどをも考慮すると,上述のAの過失については,3割の限度でしんしゃくするのが相当である(B船長は,△△丸帰港後 示がなされるべきであり,この点からもB船長及びC漁ろう長の過失は大きいというべきことなどをも考慮すると,上述のAの過失については,3割の限度でしんしゃくするのが相当である(B船長は,△△丸帰港後の実況見分の際,船尾側コンベアをまたいで通ることを禁止していたなどと説明し(甲138の2),C漁ろう長も,本件海難事故の海難審判で,船尾側コンベアをまたごうとしていた別の乗組員を注意したことがあるなどと述べている(乙5の85)が,上述のように作業用救命衣に対する意識が極めて乏しく,安全に対する意識が希薄であるB船長及びC漁ろう長が,Aに対し,同様の説明ないし注意をしていたとは考えにくく,上記の限度を超えてAの過失を考慮するのは相当でない。)。 (4) 損害からの控除原告X1及び原告X2は,本件海難事故につき,前記第2の2(3)の支払又は給付を受けている。 このうち第一種特別支給金及び第二種特別支給金は,原告の損害から控除されない(最高裁平成6年㨯第992号同8年2月23日第二小法廷判決・民集50巻2号249頁参照)が,その余の被告からの支払及び船員保険に- 25 -よる各給付については,損害額から過失割合による減額をした残額から支払及び給付の価額を控除するのが相当である(最高裁昭和63年㨯第462号平成元年4月11日第三小法廷判決・民集43巻4号209頁参照)。そして,被告からの支払の控除は,損害費目に拘束されるものではないが,船員保険による各給付の控除は,各給付と損害賠償とが「同一ノ事由」(船員保険法25条2項)の関係にある場合,すなわち,保険給付の対象となる損害と民事上の損害賠償の対象となる損害とが同じ性質であり,保険給付と損害賠償とが相互補完性を有する関係にある場合になされるもので(最高裁昭和58年㨯第128号同62年7月10日第二 付の対象となる損害と民事上の損害賠償の対象となる損害とが同じ性質であり,保険給付と損害賠償とが相互補完性を有する関係にある場合になされるもので(最高裁昭和58年㨯第128号同62年7月10日第二小法廷判決・民集41巻5号1202頁参照),本件についていうと,葬祭料については葬祭費用等から,遺族一時金については逸失利益から,それぞれ控除がなされることとなる。 原告らは,前記第3の2(2)ウのとおり,被告からの支払のうち乗組員厚生共済に基づく死亡共済金については損害から控除すべきでないと主張する。 確かに,乗組員厚生共済には,船員保険の上積み補償という側面がある(甲141)。しかし,その共済金の支払は,共済契約者が掛金を払ったことの対価であり,共済契約者が指定する受取人がこれを受領すべきこととされている(甲141)。そして,被告は,日本鰹鮪漁業協同組合連合会を窓口として,全国共済水産業協同組合連合会との間でAに係る乗組員厚生共済を締結し,自らを死亡共済金の受取人に指定したもので,その後掛金を払ってきたものである(甲141,乙2,9ないし11(枝番を含む。),弁論の全趣旨)から,原告X1及び原告X2に対する被告の支払の原資がこの死亡共済金であったとしても,これが損害から控除されるのは道理である(船員保険による各給付も損害から控除される以上,このように解したとしても,乗組員厚生共済の船員保険の上積み補償としての側面が損なわれるものではないし,原告らが指摘するような船主責任保険という別の制度が存在するとしても,乗組員厚生共済の仕組みが上記のとおりである以上,上述の判断は覆- 26 -されない。)。 (5) まとめ以上を総合すると,被告の賠償すべき額は,次のとおり,Aに対しては2038万0536円,原告X1及び原告X2に対しては175万円ずつ 以上,上述の判断は覆- 26 -されない。)。 (5) まとめ以上を総合すると,被告の賠償すべき額は,次のとおり,Aに対しては2038万0536円,原告X1及び原告X2に対しては175万円ずつとなり,Aの両親である原告X1及び原告X2は,Aの損害賠償請求権を2分の1(1019万0268円)ずつ相続するから,結局,被告は,原告X1及び原告X2に対し,それぞれ1194万0268円を賠償すべきこととなる。 損害損害からの控除損害費目過失相殺前過失相殺控除費目控除額(30%)後A分合計葬祭費用等¥1,500,000¥1,050,000 葬祭料¥480,000¥570,000調査費用等¥200,000¥140,000¥140,000逸失利益¥49,300,767 ¥34,510,536 遺族一時金¥8,640,000¥25,870,536慰謝料¥30,000,000 ¥21,000,000¥21,000,000被告からの支払の控除(行方不明手当金及び死亡共済金)-¥27,200,000賠償すべき損害額¥20,380,536遺族固有の慰謝料合計原告X1¥2,500,000¥1,750,000¥1,750,000原告X2¥2,500,000¥1,750,000¥1,750,000なお,各損害賠償請求権の遅延損害金の起算点については,本件海難事故によりAが死亡したものと推認される,平成16年5月10日とするのが相当である。 結論 よって,原告X1及び原告X2の各請求は,主文1項及び2項の限度でそれぞれ理由があるから,これらを各々の限度で認容し,原告X1及び原告X2のその余の各請求並びに原告X3の請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却し,訴訟費 の各請求は,主文1項及び2項の限度でそれぞれ理由があるから,これらを各々の限度で認容し,原告X1及び原告X2のその余の各請求並びに原告X3の請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却し,訴訟費用の負担について,民事訴訟法65条1項本文,64条本文,- 27 -61条を,仮執行の宣言について,同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。 宮崎地方裁判所延岡支部裁判官安木進
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