- 1 -平成25年3月5日判決言渡平成24年(ワ)第15963号地位確認等請求事件 主文 1 被告は,原告に対し,196万5002円及びうち195万2400円に対する平成24年4月1日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告に対し,657万円及びこれに対する平成24年5月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用はこれを10分し,その9を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,268万5882円及びうち266万2700円に対する平成24年4月1日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。 2 主文第2項と同旨第2 事案の概要本件は,被告の経営する病院の事務局長であった原告が,被告から平成23年12月に解雇されたところ,原告は,同解雇は客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当とは認められないから無効であり,被告に対し,解雇後の賃金等の請求権を有するとして,賃金及び賞与の支払を請求するとともに,上記解雇後の平成▲年▲月末日に就業規則上の定年に達したことから,被告を退職したとして,退職金規程に基づく退職金の支払を請求したという事案である(なお,賃金及び賞与に対する遅延損害金は,上記解雇時点から定年退職時点までは民法所定の年- 2 -5%の割合により〔原告の請求においては確定遅延損害金の形になっている。〕,上記定年退職から支払済みまでは賃金の支払の確保等に関する法律6条所定の年14.6%の割合による金額を請求している。退職金に対す の割合により〔原告の請求においては確定遅延損害金の形になっている。〕,上記定年退職から支払済みまでは賃金の支払の確保等に関する法律6条所定の年14.6%の割合による金額を請求している。退職金に対する遅延損害金は,その支払期の翌日から民法所定の年5%の遅延損害金の支払を請求している。)。 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び後掲各証拠等により容易に認めることができる事実。証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)(1) 当事者及び雇用契約の締結ア被告は,病院及び診療所並びに介護老人保健施設を運営し,看護,医学的管理下の介護及び必要な医療等を普及すること等を目的とする医療法人である。被告は,現在,病院,診療所,介護老人保健施設,介護事業所など300に近い数の施設(合計病床数2万以上)を有している。 イ原告は,平成5年12月25日,被告との間で,以下の約定の下に,期間の定めのない雇用契約を締結し,被告のA病院(以下「被告病院」という。)において,事務局長として勤務を開始した。 (2) 原告の賃金,賞与について原告の平成23年12月時点における賃金の額及び支払方法並びに賞与の額及び支払方法は,以下のとおりである。 ア給与月額48万8100円(内訳:基本給32万2300円,役職手当10万6000円,住宅手当1万4500円,通勤手当1万1300円,特別調整手当3万4000円)を毎月末日締め,当月28日払いイ賞与被告の賞与規程によれば,従業員に対し,年2回,7月15日及び12月15日に以下の計算式により算出した金額を支給するものとされている(同規程5条柱書)。 個人別賞与支給額=算定基礎額×平均支給率×成績係数×勤怠係数×在籍係数- 3 -これに基づき,原告に対し,平成 算式により算出した金額を支給するものとされている(同規程5条柱書)。 個人別賞与支給額=算定基礎額×平均支給率×成績係数×勤怠係数×在籍係数- 3 -これに基づき,原告に対し,平成22年12月に71万0300円が,平成23年7月には68万3000円がそれぞれ支給された。 (3) 原告の解雇ア被告の就業規則18条には,職員の勤務成績または技能が著しく不良で,職員として適格性を欠く場合(2号),懲戒解雇の処分を受けた場合(5号)には解雇する旨の規定が存する。 イ被告は,平成23年12月1日付けで,原告に対し,内容証明郵便を送付し,原告を即時解雇する旨の意思表示をするとともに,同書面到達後,速やかに事務引き継ぎをした上,被告病院から退去する旨求めた。 同書面によれば,同解雇の理由として,原告は,被告病院の事務局長として病院の運営管理に加え職員の監督について重要な職責を負っていたにもかかわらず,資料の上から明らかになったものだけでも平成23年1月から同年10月までの間,ほとんど出張に明け暮れている事実が認められ,その出張の理由については凡そ合理的に説明がつくものではなく,その職務懈怠の度合いは群を抜いており,その非違行為は論外であることから,就業規則の各条項に照らし即時解雇はやむを得ない旨記載されている(甲6)。 (4) 就業規則上の定年規定の存在及び原告が満65歳に達したことア被告の就業規則16条には職員の定年についての規定があるところ,事務局長については,満65歳に達した日の属する月の末日とする旨定められている(同条2項)。 イ原告は,昭和▲年▲月▲日生であり,平成▲年▲月▲日に満65歳に達した。 (5) 退職金規定の存在等(甲9)ア被告の退職金規程においては,退職金は,就業規則14条によっ る(同条2項)。 イ原告は,昭和▲年▲月▲日生であり,平成▲年▲月▲日に満65歳に達した。 (5) 退職金規定の存在等(甲9)ア被告の退職金規程においては,退職金は,就業規則14条によって退職した職員に対して支給するものとされ(1条),退職時までの各等級在級- 4 -年数に等級基準単価を乗じたものを累積し,それに退職事由別乗率を乗じて算定した金額とする旨規定されている(2条1項)。なお,就業規則14条所定の退職事由としては,死亡,定年,休職期間満了,有期雇用契約の場合における期間満了(雇止め)及び依願退職とされており,解雇された場合はこれに含まれていない(甲5)。 イ原告の等級は採用以来6等級のままであるところ,事務職員で6等級の者の等級基準単価は36万円である(2条2項)。 ウ原告の被告における在籍期間は,満65歳に達した日の属する月の末日である平成▲年▲月末日時点を基準とすれば18年3か月になる(4条(1),(2)参照)。 退職事由別乗率は在籍年数及び退職事由により定められるところ,在職期間10年以上25年未満で,定年により退職した者については「1.0」とされている(2条3項)。 (6) 労働審判手続の経緯(当裁判所に顕著な事実)ア原告は,平成24年3月6日,被告を相手方として,雇用契約上の地位確認並びに解雇後の賃金及び賞与の支払を請求して,東京地方裁判所に労働審判の申立てを行った(同裁判所平成○年(労)第○号地位確認等請求労働審判事件)。 イ労働審判委員会は,平成24年5月21日,原告と被告は,平成▲年▲月31日付けで原告が被告を定年退職したことを相互に確認するとともに,被告は,原告に対し,本件解決金として1000万円を支払義務があることなどを認め,同労働審判確定日から2週間以内に支払うなど 年▲月31日付けで原告が被告を定年退職したことを相互に確認するとともに,被告は,原告に対し,本件解決金として1000万円を支払義務があることなどを認め,同労働審判確定日から2週間以内に支払うなどを内容とする労働審判をした。 ウこれに対し,被告は,同年6月4日,上記労働審判に対して異議を申し立てたことから,同審判は失効し,本件訴訟が係属した。なお,原告は,本件訴訟係属後,従前の賃金請求,賞与金請求に加えて,退職金請求を追- 5 -加する一方で,雇用契約上の地位確認請求部分については取り下げている。 2 争点及び当事者の主張本件における主要な争点は,本件解雇の日時及び有効性である。 (被告の主張)(1) 被告は,平成23年12月1日付けで,原告に対し,被告訴訟代理人名義の内容証明郵便を送付し,解雇の意思表示を行ったものであって,平成23年11月30日に一般社団法人の事務総長であるBが原告に対し述べた内容は事実上の勧告にすぎず,解雇の意思表示ではない。そもそも,Bは被告の事務総長ではないから,原告に対する解雇権限を有しない。 (2) 本件解雇の理由は,原告が被告病院の事務局長という事務系のトップの役職であり,かつ同病院の責任者でありながら,出張に明け暮れていた事実が被告就業規則に違反するというものである。 原告は,平成6年ころ,被告職員となり,以来被告病院に勤務し,途中からは事務局長の職にあった。病院の事務局長は,病院の運営管理に加えて職員の監督に重要な職責を有しているが,原告は,平成18年,19年ころから病院業務を行わなくなり,月のほとんどを出張に充てるようになり,病院の業務を一切行っていない。 本来,病院の事務系のトップであり責任者であるはずの原告が日常的に病院におらず,やむなく事務部長や事務長を責任者と くなり,月のほとんどを出張に充てるようになり,病院の業務を一切行っていない。 本来,病院の事務系のトップであり責任者であるはずの原告が日常的に病院におらず,やむなく事務部長や事務長を責任者として運営せざるを得なかった。原告は,病院内の重要な会議,朝礼,安全管理委員会や運営委員会にも出席していない。 このように,原告は,被告病院の事務局長としての職責を果たしていないことは明らかであって,これが就業規則23条所定の禁止行為(2)(自己の権限を超えて,独断専行すること),(3)「許可なく他の業務につくこと」ないし(5)(許可なく勤務時間中にみだりに職場を離れ,もしくは,業務に- 6 -関係のない集会,その他これに類する活動をすること)に該当することが明らかであって,本件解雇は有効である。 (原告の主張)(1) 被告が,原告に対し,平成23年12月1日付け書面で解雇の意思表示を行ったとする点は否認する。同年11月30日に,Bは,被告の事務総長として,原告に対し,口頭で解雇の意思表示を行ったものである。 (2) 本件解雇の真の理由としては,Bが上記解雇通告時に述べたとおり,被告代表者理事長であるCの子であるD衆議院議員が中心となって開催したTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)反対集会に原告が参加しなかったことにある。その際,原告は,Bから,義理と人情が分からずE家に対する忠誠心がないので,もはやHにいる資格がないと言われた。 被告主張にかかる解雇理由に関して,原告が平成23年1月から同年10月の間に頻繁に全国各地に出張していたことは事実であるが,同出張は,平成22年及び平成23年中に年間50か所の介護施設を設置せよとの被告理事長の指示を受けて実施したものであって,業務上の必要性に基づくものである。原告は,上記出張中,随 とは事実であるが,同出張は,平成22年及び平成23年中に年間50か所の介護施設を設置せよとの被告理事長の指示を受けて実施したものであって,業務上の必要性に基づくものである。原告は,上記出張中,随時,被告理事長に対し,介護施設設置にかかる建設工事業者の選定等について指示を求めたり,工事の実施状況等につき報告するなどしていた。また,原告は,出張経費の精算などの事務処理も怠っていない。したがって,原告の出張には非難されるべき点は一切ない。 このように,被告主張の解雇理由は存在せず,本件解雇は,客観的に合理的な理由がなく,社会通念上相当と認められないから,無効である。 第3 当裁判所の判断 1 本件解雇の有効性等(本件における主要な争点)について(1) 被告は,平成23年12月1日付けの書面を原告に送付して,原告を解雇した旨主張するところ,証拠(甲6)によれば,同事実を認めることができる(原告の賃金請求に関し,原告の退職の事実については抗弁として被告- 7 -が主張・立証責任を負うところ,被告は,平成23年12月1日の書面による解雇のみを主張しており,同年11月30日のBと原告との口頭でのやりとりについては退職原因として主張していないから,当裁判所としては,上記12月1日付けの書面による解雇の事実の存否及び同解雇の有効性のみを判断することとなる。)。 (2) 本件解雇の理由についてア被告は,本件解雇の理由について,原告が被告病院の事務局長という役職にありながら,月のほとんどを出張に充てるようになり病院業務を一切行わなくなるなど,その職責を果たしていないことが就業規則違反に当たる旨主張し,被告病院事務部長F(以下「F事務部長」という。)。も同主張に沿う供述をする(乙40)。 イしかしながら,上記被告の主張にかかる原告の各 の職責を果たしていないことが就業規則違反に当たる旨主張し,被告病院事務部長F(以下「F事務部長」という。)。も同主張に沿う供述をする(乙40)。 イしかしながら,上記被告の主張にかかる原告の各出張旅費精算申請書(乙3ないし37)の多くにF事務部長の決済印が押され,それ以外の者にも経理担当係員等の押印がなされるなど,その出張手続に関し何ら不備はなく,原告が秘密裡にこれらの出張をしていたことを窺わせる証拠はない。この点について,F事務部長は,陳述書(乙40)において,原告から出張に行くと言われれば,その真偽については調査する術もなかったが,上司であるため疑うわけにもいかなかった旨供述するが,F事務部長も認めるとおり,事後的にであっても,上記旅費精算申請書が原告から提出されれば,その出張の日時,場所,行程等について確認ができるのであるから,もし,これらの出張の事実に不審な点があれば,本部に報告して指示を仰ぐこともできたはずである。しかるに,当時,原告のこれらの出張に問題があるとして議論された形跡は全くない。 また,証拠(甲13ないし32)によれば,原告は,その出張にかかる用件に関し,被告のC理事長に事細かに相談し,その判断を仰いでいることが認められるのであって,この点からも,原告の上記出張が被告に無断- 8 -でなされたなどと認めることはできない。 ウむしろ,証拠(甲34,乙39)によれば,本件解雇の経緯として,①本件解雇直前の平成23年11月30日に,Bが,被告病院を訪れて原告と面談した際に,「G氏がC理事長には義理があるがD代議士には何の義理もないので選挙応援はしないと公言していると聞こえてくる。Hの人間であれば,C理事長であれ,D代議士であれ同じような姿勢でなければ良くないのではないか。」と話し,原告がTPP反対集会 士には何の義理もないので選挙応援はしないと公言していると聞こえてくる。Hの人間であれば,C理事長であれ,D代議士であれ同じような姿勢でなければ良くないのではないか。」と話し,原告がTPP反対集会に参加しなかったことを非難したこと,②同日,Bの下へ電話で,被告理事長の意向として,原告については(妻も含めて)懲戒解雇の意向であることを伝えるように,その理由については「義理と人情を忘れたら決別」と言うように,との指示が伝えられたこと,③原告が,解雇理由について,口頭ではなく書面で通知されたいと求めたところ,Bは後日書面で通知する旨告げ,その後,前記同年12月1日付けの書面が原告の下に送付されたこと,以上の事実が認められる。 このような本件解雇の経緯に照らすと,原告が,D衆議院議員の意向に従わずTPP反対集会に参加しなかったことが,本件解雇の真の動機であると推認され,前記の被告主張にかかる解雇理由は後付けの理由であって,実態に基づかないものと認めるのが相当である。 エ以上のとおり,被告主張にかかる解雇理由は認められず,この点から,本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上も相当なものと認められないから,これを無効と認めるのが相当である(労働契約法16条)。 2 原告の賃金及び賞与請求権について(1) 前記1のとおり,平成23年12月1日になされた本件解雇は無効であるから,原告は,その請求にかかる平成23年12月分ないし平成24年3月分までの賃金請求権を有することとなる。原告の給与が手当等を含めて月額48万8100円であることについては当事者間に争いがないから,原告- 9 -の上記期間中の未払賃金額は,195万2400円となる。 (2) 前提となる事実(2)イのとおり,被告賞与規程において,従業員に対する賞与の額は,算 いては当事者間に争いがないから,原告- 9 -の上記期間中の未払賃金額は,195万2400円となる。 (2) 前提となる事実(2)イのとおり,被告賞与規程において,従業員に対する賞与の額は,算定基礎額に,①平均支給率,②成績係数,③勤怠係数,④在籍係数を乗じて決するものとされ,さらに,同規程(甲3)によれば,①平均支給率は被告においてその都度定めるものとされ,②成績係数,③勤怠係数についてはそれぞれ個人別の成績評価ないし出勤状況により定めるとされている(同規程5条(1)ないし(3))。しかるに,平成23年12月15日支給の原告に対する賞与に関し,被告が,上記①ないし③の数値を定めたことを認めるに足りる証拠はないから,原告に対する上記賞与請求権はいまだ発生していないといわざるを得ない。 (3) 以上のとおり,原告は,平成23年12月分から平成24年3月分までの賃金請求権を有するところ,被告において,賃金は毎月末日締め,当月28日であるから(前提となる事実(2)ア),各支払日の翌日(各月29日)から退職日である平成24年3月31日まで年5%の割合による遅延損害金を計算すると,以下のとおり,1万2602円となる。 12月分:488,100(円)×3(日)/365(日)×5%≒200488,100(円)×90(日)/366(日)×5%≒6,0011月分: 488,100(円)×62(日)/366(日)×5%≒4,1342月分: 488,100(円)×31(日)/366(日)×5%≒2,0673月分: 488,100(円)×3(日)/366(日)×5%≒200合計: 200+6,001+4,134+2,067+200=12,602 3 原告の退職金請求権について前記1のとおり,原告に対 ,100(円)×3(日)/366(日)×5%≒200合計: 200+6,001+4,134+2,067+200=12,602 3 原告の退職金請求権について前記1のとおり,原告に対する本件解雇は無効であることから,原告は,平成▲年▲月に満65歳に達し定年となったことにより,同月末日をもって,被告を退職したと認められる。 前提事実(5)アのとおり,退職金については,退職時までの各等級在級年数に- 10 -等級基準単価を乗じたものを累積し,退職事由別乗率を乗じて算定するものとされており,前提となる事実(5)イ,ウの各事実に基づいて原告の退職金を算定すると,以下のとおり,657万円となる。 360,000×18.25(6等級の在級年数)×1.0(退職事由別乗率)=6,570,000第4 結論以上によれば,原告の本訴請求は主文第1項及び第2項の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第11部 裁判官西村康一郎
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