平成29年4月20日判決言渡名古屋高等裁判所平成28年(行コ)第50号退去強制令書発付処分等取消請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成27年(行ウ)第62号) 主文 1 原判決を取り消す。 2 名古屋入国管理局長が平成26年12月3日付けで控訴人に対してした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく控訴人の異議の申出には理由がないとの裁決を取り消す。 3 名古屋入国管理局主任審査官が平成26年12月16日付けで控訴人に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。 4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人主文同旨 2 被控訴人(1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)国籍を有する外国人男性である控訴人が,名古屋入国管理局(以下「名古屋入管」という。)入国審査官から,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条4号ロ(不法残留)に該当する旨の認定を受けた後,名古屋入管特別審理官から,上記認定に誤りがない旨の判定を受けたため,入管法49条1項に基づき,法務大臣に対して異議の申出をしたところ,法務大臣から権限の委任を受けた名古屋入国管理局長(以 下「名古屋入管局長」という。)から,平成26年12月3日付けで控訴人の異議の申出には理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を受け,引き続き,名古屋入管主任審査官から,同月16日付けで退去強制令書発付処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,本件裁決及び本件処分の取消しを求めた事案である。 原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却したた 古屋入管主任審査官から,同月16日付けで退去強制令書発付処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,本件裁決及び本件処分の取消しを求めた事案である。 原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が控訴した。 2 前提事実,争点及び当事者の主張は,次項に当審における当事者の新たな主張を加えるほか,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 当審における当事者の新たな主張(控訴人)控訴人とAは,平成28年9月14日,在東京フィリピン大使館において婚姻が成立した(甲45)。この婚姻は,本件裁決当時,Aが依頼していた離婚手続の目的がついに完結したことを表しており,遡って,本件裁決当時から控訴人とAが婚姻に向けて真摯な努力をしていたことを強く推認させるものである。また,本件裁決は,フィリピンの離婚(外国判決の承認ないし婚姻無効)制度が未成熟であり,事案によっては想定を超えた時間がかかるものであることを看過したものである。 (被控訴人)控訴人とAとの婚姻が成立したのは本件裁決後の事情であり,平成25年12月20日に控訴人が仮放免許可を付与されてから約2年9か月も経過した後の事情であるから,当該事実は本件裁決の違法性を基礎付ける理由とはなり得ない。むしろ,婚姻成立がこれだけ遅くなったことからすれば,本件裁決時において,近い将来に婚姻を成立させる見込みがあったとはいえなかったことが一層裏付けられたというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 控訴人の退去強制事由該当性等について前提事実によれば,控訴人は,入管法24条4号ロ(不法残留)の退去強制事由に該当し,かつ,出国命令対象者(同法24条の3)に該当しない外国人であるこ 1 控訴人の退去強制事由該当性等について前提事実によれば,控訴人は,入管法24条4号ロ(不法残留)の退去強制事由に該当し,かつ,出国命令対象者(同法24条の3)に該当しない外国人であることが認められる。 2 認定事実前提事実,掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 控訴人の本国における生活状況等ア控訴人は,昭和57年1月●日,フィリピンのマニラにおいて,フィリピン人の両親の間に,3人きょうだいの第2子として出生し,以後,フィリピン国内で成育し,平成16年に大学を卒業した後,船員として働いていた(甲35,乙12・1,3頁)。 イ控訴人は,平成17年6月●日,フィリピン国内において,婚姻関係のないフィリピン人女性との間に長女B(以下「B」という。)をもうけた(乙12・4,7頁)。 ウ控訴人は,フィリピン国内で育ったため,母国語であるタガログ語及びビサヤ語での会話及び読み書きに不自由はない。日本語も日常会話及び簡単な平仮名と片仮名を読むことができるが,漢字は読み書きともにできない(乙6・1頁)。 (2) 控訴人の本邦入国及び在留状況等ア控訴人は,平成19年3月1日,先に本邦に入国して日本人男性と婚姻していた姉の子の世話をする目的及びフィリピンにいる親族に送金するために本邦に不法残留して稼働する目的で,在留資格を「短期滞在」,在留期間を「90日」とする上陸許可を受けて本邦に上陸し,在留期限である同年5月30日を超えて本邦に不法残留した(甲35・1頁,乙1・3枚目,乙2,乙14・6頁)。 イ控訴人は,本邦に入国後,静岡県富士市内の姉の家で姉の子の面倒を見ながら生活していたが,在留期間が近づいてきた頃,姉と喧嘩したことをきっかけとして,姉の家を出て友人の家を 6頁)。 イ控訴人は,本邦に入国後,静岡県富士市内の姉の家で姉の子の面倒を見ながら生活していたが,在留期間が近づいてきた頃,姉と喧嘩したことをきっかけとして,姉の家を出て友人の家を転々としていた。そして,在留期間経過後,静岡県内の自動車部品の製造工場等で稼働し,平成25年10月に逮捕されるまで,稼働して得た収入の中から月額1,2万円程度を,フィリピンにいる母に送金していた(甲35・1頁,乙12・9~10頁)。 ウ控訴人は,平成23年12月頃,Aと知り合い,平成24年6月に交際を開始し,同年9月頃からAと同居を始めた(甲46・2~3頁,A証人1~2頁)。Aは,昭和57年2月●日生まれのフィリピン国籍の女性であり,「永住者」の在留資格で本邦に在留している者である(甲17)。 エ控訴人は,平成25年10月●日,入管法違反により逮捕されたが,同年12月20日,仮放免された。 オ控訴人は,名古屋入管局長から,平成26年12月3日付けで本件裁決を受け,更に名古屋入管主任審査官から,同月16日付けで本件処分を受けて,同日,名古屋入管入国警備官により本件退令の執行を受け,名古屋入管収容場に収容された。その後,控訴人は,平成27年6月24日,再度,仮放免された(乙19ないし21)。 (3) 控訴人とAの婚姻に至る経過等ア Aは,平成12年頃に本邦に不法入国した後,平成16年11月1日,日本人男性であるCと婚姻し,同年12月●日に長女Dを,平成18年9月●日に長男Eをもうけた(甲3,甲46・1頁。以下,Cとの間の二人の子をまとめて「Dら」という。)。 Aは,平成23年10月頃,Dらを連れて家を出てCと別居し, 静岡県富士市内のマンションに転居した(甲32)。その後,Aは,Cとの間でDらの養育について話し まとめて「Dら」という。)。 Aは,平成23年10月頃,Dらを連れて家を出てCと別居し, 静岡県富士市内のマンションに転居した(甲32)。その後,Aは,Cとの間でDらの養育について話し合った結果,DらをCに引き渡すこととし,以後,CがDらを養育することになった(甲46・1~2頁)。 イ前記のとおり,控訴人とAは,平成24年6月に交際を始め,同年9月頃から同居するようになった。控訴人は,交際を開始する前に,Aに対し,自身が不法残留であることを打ち明けた。Aは,控訴人が同容疑で逮捕されるのではないかと不安であったが,それよりも控訴人と一緒に居たいという気持ちの方が強く,交際に発展した(甲34・2頁)。 ウ平成25年11月6日,AとCとの離婚届が富士市役所に受理され,日本においては同人らの離婚が成立した(甲2,甲3)。その際,CがDらの親権者となった。 エ控訴人は,平成26年5月●日,Aとの間に長女Fをもうけた。 Fは,フィリピン国籍を有し,「永住者」の在留資格で本邦に在留している(甲9,甲17)。 また,控訴人は,同年7月15日,在東京フィリピン大使館にFの認知宣誓供述書及び父親である控訴人の氏の使用を認める宣誓供述書を提出した(甲10,甲11の1・2)。 オ控訴人は,平成26年7月31日,名古屋入管で事情を聴取され,Aとの婚姻手続の見通しについて尋ねられた。その中で控訴人は,フィリピンにおいてAとCとの離婚手続が終了しなければAとの婚姻手続が進められないこと,姉の知人を通じてフィリピンで離婚手続を専門とする代理人宛てに書類を送ったが,日本語で記載されたものであったため断られたこと,その後,離婚手続に詳しい弁護士を紹介してもらったが,費用の準備ができていないこと,子供 の監護養育が優先で,当分は婚 てに書類を送ったが,日本語で記載されたものであったため断られたこと,その後,離婚手続に詳しい弁護士を紹介してもらったが,費用の準備ができていないこと,子供 の監護養育が優先で,当分は婚姻成立が難しい旨供述した(乙18・3~5頁)。 カ Aは,費用の問題のほか,Fの出産も重なり,フィリピンの離婚手続を進めることができないでいた。しかし,上記オのような控訴人に対する事情聴取があり,早く離婚手続を進めなければ控訴人が本邦に残れないのではないかと不安になり,急ぎ借金等をして離婚の手続費用の一部を工面した(甲46・4頁,A証人26頁)。そして,平成26年8月21日,G株式会社に対し,フィリピンにおける離婚承認裁判の申立手続を63万円で依頼するとともに,同日,手付金20万円を支払った。また,残金については,同年12月16日に15万円,同月26日に10万円(なお,同日の残り8万円はAの姉の分である。),平成27年8月24日に18万円をそれぞれ支払った(甲4の1・2ないし甲6の1・2,甲27,甲46・4頁)。 これにより遅くとも平成26年12月2日までに,フィリピンの裁判所にAとCの離婚承認裁判の手続が申し立てられた(甲7の1・2)。 キ Aは,平成26年11月終わり頃から同年12月初め頃,同人が勤務する店の客である日本人男性と一度だけ性的関係を持ち,Hを懐胎した(A証人15~16頁)。 ク平成27年5月14日,フィリピンの裁判所において,日本におけるCとAの離婚を承認し,かつ,これを執行する旨の裁判があり,同裁判は遅くとも同年6月18日までに確定した(甲29,甲30)。 ケ Aは,平成27年9月●日,Hを出産した(甲37,甲38)。 Aは,Hが生まれてすぐに顔つきを見て控訴人の子ではないと分 かったが,真実を 18日までに確定した(甲29,甲30)。 ケ Aは,平成27年9月●日,Hを出産した(甲37,甲38)。 Aは,Hが生まれてすぐに顔つきを見て控訴人の子ではないと分 かったが,真実を話すと控訴人が離れて行ってしまうことを恐れて,これを言い出すことができなかった。しかし,平成28年2月頃,代理人弁護士からDNA鑑定をやってほしいとの話があったことを機に,控訴人に対して,Hが別の男性の子であることを告白した。これを聞いた控訴人は,ショックを受けたが,悩んだ末,これを受け入れ,Hを自分の子として育てていくことにした(甲44・1頁,甲46・5頁,A証人8~9頁)。 コ控訴人とAは,平成28年9月14日,在東京フィリピン大使館において婚姻が成立した(甲45)。 なお,新しく発行されたAのパスポートや在留カードの名前は,Aと記載されている(甲60,甲61)。 サ控訴人は,平成28年11月15日,在東京フィリピン大使館にHを自身の子として届け出て,出生届の父親の欄には控訴人の名前が記載された(甲55)。Hは永住者の在留資格を得ている(甲38)。 (4) 現在の控訴人ら家族及び親族の状況ア現在,控訴人は,仮放免中であることから収入がないが,Aが昼はレストラン,夜はパブで働き(甲49,甲50の1~3,甲52の1~3),その収入により家族全体の生活費を賄い,控訴人が家事・育児全般を担当して,一家4人の生活を維持している。F及びHは,いずれも就学前であり,控訴人とAの子として監護養育されている。家族の会話は,日本語とタガログ語が半々である。控訴人とAは,今後も本邦で生活していきたいと話している(A証人14頁,27頁)。 また,Dらが控訴人ら家族と同じ富士市内に居住しているため,月に3回程度,DらがAの自宅を訪れる 語が半々である。控訴人とAは,今後も本邦で生活していきたいと話している(A証人14頁,27頁)。 また,Dらが控訴人ら家族と同じ富士市内に居住しているため,月に3回程度,DらがAの自宅を訪れるなどして控訴人ら家族と交 流を持ち続けている(甲33,甲34・5頁,A証人11頁)。 イ控訴人の本国であるフィリピンには,控訴人の母及びBが在住しており,控訴人の母がBを養育している。控訴人は,母及びBに週に1回程度電話をして連絡を取っている(甲35・4頁,乙14・11~12頁)。 なお,控訴人の弟は,本件裁決当時,フィリピンにおいて控訴人の母及びBと同居していたが,平成27年4月26日に病死した(甲35・4頁)。 ウ一方,Aも,本国であるフィリピンには,Aの父母及び実子I(以下「I」という。)が在住している。Iは,平成13年頃,フィリピン国内において,Aが婚姻関係のないフィリピン人男性との間にもうけた子であり,Aの父母がIを養育している。Aは,Iに月に3回程度電話等により連絡を取っている(甲34・5頁,乙11・6頁)。 3 本件裁決の違法性について(1) 本件裁決当時の控訴人とAの関係についての評価ア前記認定事実2(2)ウ記載のとおり,控訴人とAは,平成24年6月頃から交際を開始し,同年9月頃から同居するようになったというのであるから,本件裁決当時,その交際期間は約2年6か月,同居期間は約2年3か月であって,いずれも著しく長いとはいえないものの,双方の婚姻に対する考え方を確かめ合うには十分な期間が経過していたといえる。そして,その後も控訴人とAは,内縁生活を継続し,2人で力を合わせてF及びHを懸命に監護養育してきたものと認められ,その結果,平成28年9月に正式に婚姻が成立し,今後も本邦において一家 たといえる。そして,その後も控訴人とAは,内縁生活を継続し,2人で力を合わせてF及びHを懸命に監護養育してきたものと認められ,その結果,平成28年9月に正式に婚姻が成立し,今後も本邦において一家4人で生活していくことを強く望んでいる。かかる本件裁決以降の経過からみても,本件裁決時における 控訴人とAとの内縁関係は,既に十分に安定かつ成熟していたと評価し得るから,このことは本件裁決に当たり十分斟酌されるべき事柄であったということができる。 イもっとも,Aは,本件裁決直前に,別の男性と性的関係を持ち,Hを懐胎しているから,これのみに着目すると,控訴人とAの間に安定かつ成熟した関係があったかについては疑問が生じないではない。この点,Aは,従前は,控訴人が平成26年12月16日に名古屋入管に収容されたことにより心が弱くなり,店の客と1回だけ性的関係を持ったと説明していたが,当審における証人尋問において,店の客と性的関係を持ったのは,同日よりも1週間から数週間前(同年11月終わり頃~同年12月初め頃)であり,その経緯は客と閉店後に酒を飲みに行ったところ,離婚手続のために借金をせざるを得なかった上に,フィリピンで弟が亡くなったことから葬式費用のために新たに借金をしたことなどによるストレスから,性的関係を持ちたいとの気分になり,1度だけホテルへ行ったと証言しているところである(A証人15~18頁,22頁)。 確かに,上記の事実は,被控訴人が主張するように,Aが控訴人に対して自己の不安やストレスの原因を明らかにすることができない関係にあったことをうかがわせるものではある。しかし,当時,Aは,同人のみが借金等をして費用を工面し,Cとの離婚手続のための多額の費用を負担していたところ,当該費用の負担は控訴人との正式な婚姻関係の 係にあったことをうかがわせるものではある。しかし,当時,Aは,同人のみが借金等をして費用を工面し,Cとの離婚手続のための多額の費用を負担していたところ,当該費用の負担は控訴人との正式な婚姻関係の成立の障害を取り除き,ひいては控訴人が本邦に在留することへの一助とするためのものでもあるから,そのストレスや将来への不安をそのまま控訴人に伝えると,控訴人にも多大な精神的負担を与えることになるのであって,Aがそれを避けるために自己のストレス等を控訴人に吐露できなかったことも理解し得 ないわけではない。そして,客との性的関係は1度のみであったこと,その後,控訴人は真実を告白したAを許し,Hを自身の子として監護養育していること,平成28年9月に2人は正式に婚姻関係に至っていることを併せて考慮すると,浅はかな行為ではあるが,1度の過ちのみで安定かつ成熟した2人の関係がすべてなかったと断ずることもできない。かえって,控訴人が他人の子であるHを自らの子として育てるに至ったことは,複雑な心境であったと推察されるが,Aとの良好な信頼関係が根底にあって初めて成し得るということもできる。よって,本件裁決の直前にAが店の客と性的関係を1度だけ持ったことは,前記認定を左右しない。 ウまた,被控訴人は,控訴人とAとの婚姻が成立したのは本件裁決後の事情であり,平成25年12月20日に控訴人が仮放免許可を付与されてから約2年9か月も経過した後の事情であるから,当該事実は本件裁決の違法性を基礎付ける理由とはなり得ず,むしろ,婚姻成立がこれだけ遅くなったことからすれば,本件裁決時において,近い将来に婚姻を成立させる見込みがあったとはいえなかったことが一層裏付けられた旨主張する。 しかし,フィリピン法上,我が国のような協議離婚が認められて とからすれば,本件裁決時において,近い将来に婚姻を成立させる見込みがあったとはいえなかったことが一層裏付けられた旨主張する。 しかし,フィリピン法上,我が国のような協議離婚が認められていないから(甲53・155頁参照),控訴人とAが婚姻するためには,まずはAとCとの離婚がフィリピンにおいても法的に承認される等の法的手続が必要となるところ,同国の弁護士に依頼して裁判所で上記手続を進めるためには多額の費用と時間を要すること,その費用の蓄えがAらになかったことが認められ,控訴人らの自助努力のみでは手続を容易に進め難いことも事実である。また,Aは,平成26年5月にFを出産しているから,とりわけ平成26年の前半は肉体的にも精神的にも負担を余儀なくされ,これにより思 うようには収入が得られず,かつ,出産後は育児で余裕がなかったものと推察される。かかる事情を考慮すると,控訴人とAの婚姻成立までにある程度時間を要することはやむを得なかったというべきである。 その上,前記認定事実2(3)オ及びカ記載のとおり,控訴人らは,平成26年7月の事情聴取前においても,フィリピンでの法的手続に向けて努力していたことがうかがわれ,実際に同年8月には手続を正式に依頼していることが認められる。 そうすると,本件裁決当時,近い将来,婚姻を成立させる見込みがなかったとはいい難いから,被控訴人の上記主張は採用できない。むしろ,控訴人及びAは,上記のような厳しい経済的状況にもかかわらず,何とか費用を工面し,本件裁決前にAとCとの離婚承認手続を申し立てているのであるから,これを看過したまま同申立ての結果を待たずに本件裁決をしたことは早計といわざるを得ず,いわゆる時の裁量を誤ったものと認められる。 (2) 本件処分による控訴人ら家族 申し立てているのであるから,これを看過したまま同申立ての結果を待たずに本件裁決をしたことは早計といわざるを得ず,いわゆる時の裁量を誤ったものと認められる。 (2) 本件処分による控訴人ら家族等の不利益についての評価ア控訴人がフィリピンへ強制的に帰国させられることになれば,本邦においてすでに生活の基盤を有し,かつ,本邦で暮らすことを希望しているA,F及びHと離れて暮らすことになり,控訴人ら家族が一家離散となりかねない。そのような事態は,控訴人ら家族に重大な不利益を及ぼし,著しく人道に反する結果となる。 他方で,Aらが控訴人とともにフィリピンに戻るとすると,言葉の問題はないとしても,子らを養育しながら,新たに生計を立てて安定した暮らしができるか否かが懸念される。しかも,本邦で生活しているDらと離れて暮らすことになり,Aとしてはもちろん,年齢からしていまだ発達途上にあり,実母との頻繁な交流を望んでい るD及びE(当審の口頭弁論終結時においてそれぞれ12歳と10歳)にとっても耐え難い結果となり,これらの日本国籍を有する子らの福祉に重大な悪影響を及ぼすものと認められる。これらの点も本件裁決に当たり十分に斟酌されるべき事柄であったということができる。 イこれに対して,被控訴人は,Aが少なくとも当初はFをフィリピンで出産する予定であったと認められるから,Aと母国であるフィリピンとのつながりは強く,Aがフィリピンに帰国することに特段の支障はなく,Fもタガログ語を理解していると認められるから,いずれもフィリピンで生活していくことに特段の支障は認められない旨主張する。 しかし,出産のためにフィリピンに一時的に帰国することと,2人の子を監護養育しながら生活していくこととは質的に大きく異なるから,フィ していくことに特段の支障は認められない旨主張する。 しかし,出産のためにフィリピンに一時的に帰国することと,2人の子を監護養育しながら生活していくこととは質的に大きく異なるから,フィリピンで生活していくことに特段の支障がないと直ちにいうことはできない。しかも,より豊かな生活を求めて外国で居住し続けたいと願うのは人として自然な感情であるから,交際前に控訴人の不法在留を知っていたとの一事をもって,永住者の在留資格を有し,かつ,長期にわたり本邦で生活をしているAの意向や生活の利益を全く無視することは許されない。よって,被控訴人の上記主張は採用できない。 ウまた,被控訴人は,AがIと長年離ればなれの生活をしていることからすれば,Dらが本邦で生活しているからといって,当然にAがフィリピンに帰国することができないという結論が導かれるものではないと主張する。 確かに,AとIは,日本とフィリピンで離れて暮らしていることが認められるが,だからといって他の子らが実母であるAと離れて 暮らしても構わないとの帰結も導かれない。被控訴人の上記主張は,外国人を親に持つ子が通常抱く感情や親子の営みを一切無視するものであり,採用できない。その上,Iは,フィリピン人の両親の下に生まれたフィリピン人であるのに対し,Dらは日本人を父とする日本人であるから,少なくとも我が国の公的機関においては,Dらの福祉を重視せざるを得ない。 (3) 不法残留等の消極事由についての評価被控訴人は,控訴人には在留特別許否判断における消極事情が複数存在するとして,①不法残留した経緯に酌むべき事情が認められないこと,②不法就労は出入国管理行政上看過できないこと,③外国人登録法に違反して居住地等につき法定の変更登録手続をすることなく居住実態 存在するとして,①不法残留した経緯に酌むべき事情が認められないこと,②不法就労は出入国管理行政上看過できないこと,③外国人登録法に違反して居住地等につき法定の変更登録手続をすることなく居住実態を秘匿していたことを挙げている。 この点,①の不法残留については,控訴人は,当初から不法残留する目的で入国したことが認められ,その経緯に酌むべき事情はないから,消極要素として考慮されることはやむを得ない。しかし,他方で,在留特別許可制度は,退去強制事由が存在する外国人に対して在留資格を付与する制度であり,法は,不法残留者であっても一定の事情がある場合には在留資格を付与することを予定しているとみることもできるから,不法残留の点を過度に重視することはできない。 また,②の在留期間経過後の就労の事実は,在留資格の存在を前提とする入管法70条1項4号の資格外活動罪に該当しないのであるから,就労の事実そのものを犯罪視することはできず,その違法性は不法残留により既に評価されているともいい得るし,控訴人が本邦で日々の生活の糧を得るために働くこと自体は,人道上何ら非難されるべきことでもない。 さらに,③の外国人登録法違反は,それのみで直ちに退去強制事由 となるものではないし,同法がすでに廃止されていること等に照らして,同法違反に対する非難の度合いが大きいともいえない。 そうすると,上記の諸事情は,消極事由として評価し得るとしても,これらを過大視することはできない。しかも,控訴人は,それ以外の点においては,平成19年に本邦に入国以来,約10年に渡って特段の問題もなく生活してきた者であるから,本件裁決に当たっては,上記の消極事由だけではなく,その余の在留を認めるべき事情も十分に加味して検討されるべきである。 (4) 小括以上に検討したこ 特段の問題もなく生活してきた者であるから,本件裁決に当たっては,上記の消極事由だけではなく,その余の在留を認めるべき事情も十分に加味して検討されるべきである。 (4) 小括以上に検討したことからすると,前記(1)のとおり,本件裁決当時,控訴人とAとの間には安定かつ成熟した内縁関係の実態があったと認められ,本件処分は同関係により真摯な意思をもって形成された控訴人ら家族の結合を破壊し,甚大な不利益を与えかねない。他方で,前記(3)のとおり,被控訴人の指摘する控訴人の消極事由は,これだけを捉えて殊更重視することはできない。しかるに,本件裁決は,名古屋入管の入国審査官が控訴人らから事情聴取をした際,控訴人とAの内縁関係の実態を十分に把握せず,又は同関係及び本件処分による控訴人ら家族等の不利益を軽視する一方で,前記(3)の控訴人にとって不利な情状のみを殊更重視し,これをもって看過し難い重大な消極要素になると評価することによってされたものといわざるを得ないし,その時期も著しく不適切であったと認められる。 そうすると,本件裁決は,その判断の基礎となる事実に対する評価において明白に合理性を欠くことにより,その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことは明らかであるから,裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものであり,いわゆる時の裁量をも誤った違法なものというべきである。よって,控訴人による本件裁決の取消請求には理由 がある。 4 本件処分の違法性について本件処分は,名古屋入管局長から本件裁決をした旨の通知を受けた名古屋入管主任審査官が,入管法49条6項に基づいてしたものであるが,上記3において述べたとおり,本件裁決に裁量権の範囲を逸脱濫用した違法性があって取り消されるべきである以上,これを前提とする本件処分も違法というほ 官が,入管法49条6項に基づいてしたものであるが,上記3において述べたとおり,本件裁決に裁量権の範囲を逸脱濫用した違法性があって取り消されるべきである以上,これを前提とする本件処分も違法というほかなく,その取消請求にも理由がある。 第4 結論以上によれば,控訴人の本件各請求はいずれも理由があるから認容すべきところ,これと結論の異なる原判決は失当であるから取り消すこととし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4部 裁判長裁判官藤山雅行 裁判官前田郁勝 裁判官金久保茂
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