平成19(行ケ)10144 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成20年5月15日 知的財産高等裁判所 3部 判決 請求棄却
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判決文本文20,522 文字)

- 1 -平成20年5月15日判決言渡平成19年行ケ第10144号審決取消請求事件()平成20年3月25日口頭弁論終結判決原告エアプロダクツアンドケミカルズインコーポレイテッド同訴訟代理人弁護士上谷清同永井紀昭同萩尾保繁同笹本摂同山口健司同薄葉健司同訴訟代理人弁理士古賀哲次同永坂友康被告大陽日酸株式会社同訴訟代理人弁理士志賀正武同高橋詔男同勝俣智夫同伏見俊介主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 - 2 -第1請求特許庁が無効2005-80266号事件について平成18年12月19日にした審決中「特許第3308248号の請求項1ないし7,9ないし13に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。 第2事案の概要 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「空気の純化」とする発明(以下「本件発明」という。)につき,平成11年(1999年)10月6日,特許を出願し(パリ条約による優先権主張平成10年(1998年)10月8日,米国),平成14年5月17日,本件発明に係る特許(特許第3308248号,以下「本件特許」という。)の設定登録を受けた。被告は,平成17年9月5日,無効審判請求をし(無効2005-80266号),原告は,同手続の過程で,平成18年1月31日,訂正請求をした(甲24の1,2。以下「本件訂正」という。)。特許庁は,同年12月19日付けで「訂正を認める。特許第3308248号の請求項1ないし7,9ないし13に係る発明についての特許を無効 ,訂正請求をした(甲24の1,2。以下「本件訂正」という。)。特許庁は,同年12月19日付けで「訂正を認める。特許第3308248号の請求項1ないし7,9ないし13に係る発明についての特許を無効とする。特許第3308248号の請求項8に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」旨の審決をした。 特許請求の範囲本件特許に係る明細書(甲23)及び平成18年1月31日付け訂正請求書に添付した訂正明細書(甲24の1,2。以下,本件訂正後の明細書を「本件訂正明細書」という。)によると,本件訂正後の本件発明の請求項1ないし7,9ないし13は,下記のとおりである(訂正箇所に下線を引いた。)。 【請求項1】空気流れを窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れに分離する低温蒸留の前に,供給空気流れから水,二酸化炭素,及び一酸化窒素を除去する方法であって,水,二酸化炭素,一酸化二窒素を含む前記供給空気流れを,第1の吸着剤に通して前記水を吸着させ,第1の吸着剤と同じ物質であっ- 3 -てもよい第2の吸着剤に通して二酸化炭素を除去し,そして第3の吸着剤に通して前記供給空気から前記一酸化二窒素を除去することを含み,前記第3の吸着剤の,二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が,30℃において0.49以上であることを特徴とする方法。 【請求項2】前記第3の吸着剤が,二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が,30℃において0.49から1.0であり,又,3つの前記吸着剤をTSAによって再生する請求項1に記載の方法。 【請求項3】前記第1の吸着剤が,活性アルミナ,浸漬法アルミナ,又はシリカゲルを含む請求項1又は2に記載の方法。 【請求項4】前記第2の吸着剤が,NaX,NaA,又はCaAゼオライトを含む請求項1~3のうちのいずれか1項に記載の方法。 アルミナ,浸漬法アルミナ,又はシリカゲルを含む請求項1又は2に記載の方法。 【請求項4】前記第2の吸着剤が,NaX,NaA,又はCaAゼオライトを含む請求項1~3のうちのいずれか1項に記載の方法。 【請求項5】前記第3の吸着剤の,二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が,30℃において0.5以上である請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の方法。 【請求項6】前記選択率が少なくとも0.9である請求項5に記載の方法。 【請求項7】前記第3の吸着剤の,一酸化二窒素吸着のヘンリー則定数が,少なくとも79mmol/g/atmである請求項1~6のうちのいずれか1項に記載の方法。 【請求項9】前記第3の吸着剤の量が,前記第2の吸着剤の二酸化炭素吸着能力が使い果たされる時点までに空気流れの一酸化二窒素含有物を吸着するのに必要な第3の吸着剤の量の150%を超えない請求項1~8のうちのいずれか1項に記載の方法。 【請求項10】前記供給空気流れがエチレンを含有し,前記第3の吸着剤がこのエチレンを除去する請求項1~9のうちのいずれか1項に記載の方法。 【請求項11】水,二酸化炭素,及び一酸化二窒素を含む供給空気流れを,第1の吸着剤に通して前記水を吸着させ,第1の吸着剤と同じ物質であっても- 4 -よい第2の吸着剤に通して前記二酸化炭素を除去し,そして前記空気流れから前記一酸化二窒素を除去するために存在する第3の吸着剤に通すことによって前記供給空気流れから水,二酸化炭素,及び一酸化二窒素を除去すること,並びに,純化された空気流れの低温蒸留を行って窒素に富む流れ及び/又は酸素に富む流れを分離することを含み,前記第3の吸着剤の,二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が,30℃において0.49から1.0である,空気の分離方法。 【請求項12】供給 及び/又は酸素に富む流れを分離することを含み,前記第3の吸着剤の,二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が,30℃において0.49から1.0である,空気の分離方法。 【請求項12】供給空気流れを窒素に富む流れ及び又は酸素に富む流れを/分離する低温蒸留の前の供給空気流れから水,二酸化炭素,及び一酸化二窒素を除去する設備であって,一連の流体の連絡路に,前記空気流れから前記水を吸着する第1の吸着剤,前記供給空気流れから前記二酸化炭素を除去する第2の吸着剤,及び前記空気流れから前記一酸化二窒素を除去する第3の吸着剤を有し,前記第3の吸着剤の,二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が,30℃において0.49から10である,供給空気流れから水,二.酸化炭素,及び一酸化二窒素を除去する設備。 【請求項13】供給空気流れから水を吸着する第1の吸着剤,前記空気流れから二酸化炭素を除去する第2の吸着剤,及び前記空気流れから一酸化二窒素を除去する第3の吸着剤を一連の流体の連絡路に具備し,前記第3の吸着剤の,二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が,30℃において0.49から10である純化装置,並びに前記純化装置における水,二酸化.炭素,及び一酸化二窒素の除去の後の前記供給空気流れ中の酸素から窒素を分離する低温空気分離装置,を具備した空気分離設備(以下各発明を「本件訂正発明1」などといい,これらを総称して「本件各訂正発明」という。)。 審決の内容別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件訂正発明1の「第3の吸着剤の,二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が,30℃にお- 5 -いて0.49以上である」との事項(以下「本件特定事項」という。)が明確でなく,本件訂正発明1を従属項とする又は本件特定事項を含 化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が,30℃にお- 5 -いて0.49以上である」との事項(以下「本件特定事項」という。)が明確でなく,本件訂正発明1を従属項とする又は本件特定事項を含む本件訂正発明2ないし7,9ないし13も同様であるから,本件各訂正発明は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法123条1項4号の規定に該当し,無効とされるべきであるというものである。 第3原告の主張審決は,本件特定事項に関し,①ヘンリー則定数及びヘンリー則選択率の明確性の判断の誤り,②ヘンリー則定数の決定方法に関する判断の誤り,③吸着等温線の測定に関する判断の誤り,④吸着等温線の初期勾配に関する判断の誤りがあり,取り消されるべきである。 ヘンリー則定数及びヘンリー則選択率の明確性の判断の誤り審決は,「ヘンリー則定数は,吸着等温線の初期勾配から求められることは理解できるものの,ヘンリー則定数は一義的な値として決定できるものでなく,また『ヘンリー則選択率』が一義的な値として決定できない」と判断したが,誤りである。 「ヘンリー則定数が一義的に決定できる」ことは必要であるが,その趣(1)旨は,その測定精度及び測定誤差を考慮しないで,ある吸着ガスに対してある吸着体物質のヘンリー則定数に関して同一の値が常に間違いなく得られることが必要であるのではなく,適正な測定方法によれば正確な値が測定により決定できることで足りるというべきである。そして,ヘンリー則定数は,ある吸着ガスに対して吸着剤の状態と,吸着ガスと,温度が決まれば初期低圧領域においては,平衡圧力と吸着量との関係を示す吸着等温線が一定の直線関係となることから,その初期低圧領域の勾配から一義的に決められるし,また,ヘンリー則選択率は,2つの と,温度が決まれば初期低圧領域においては,平衡圧力と吸着量との関係を示す吸着等温線が一定の直線関係となることから,その初期低圧領域の勾配から一義的に決められるし,また,ヘンリー則選択率は,2つの気体のヘンリー則定数の比によって求められるから,一義的に決められるといえる。したがって,本件特定事項- 6 -中の「0.49」自体の意味は明確である。 (2)「吸着と吸着プロセスの原理」(甲25)によると,ある圧力において,平衡状態にある吸着物質の吸着量を測定し,その吸着量と圧力の比を求めることによってヘンリー則定数を一義的に決定することは可能である。そして,ヘンリー則選択率は,上記(1)のとおり,2つの気体のヘンリー則定数の比とによって求められるから,ヘンリー則定数が決まれば一義的に決まるものである。 したがって,ヘンリー則定数及びヘンリー則選択率が一義的に定まらないとの審決の判断は誤りである。 ヘンリー則定数の決定方法の判断の誤り審決は,「本件訂正発明1は,上記したとおり,『二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率』が『0.49以上である』との具体的な数値を下限値として特定するものであるから,この具体的な数値である『下限値』について検討すると,このヘンリー則選択率の具体的な数値を求めるには,上記したとおり吸着等温線の初期(初期低圧領域)勾配から『ヘンリー則定数』を求めることになるが,本件訂正明細書には,『ヘンリー則定数を測定した』(記載b)と記載されるのみで,具体的な求め方については何ら記載はない。」と判断したが,誤りである。 (1)本件訂正明細書において,ヘンリー則選択率の決定方法について「吸着剤で示される二酸化炭素に対する一酸化二窒素の選択率は,30℃における2つの気体のHenry則定数(初期等温勾配)の比として表わ 1)本件訂正明細書において,ヘンリー則選択率の決定方法について「吸着剤で示される二酸化炭素に対する一酸化二窒素の選択率は,30℃における2つの気体のHenry則定数(初期等温勾配)の比として表わすことができる。13Xゼオライトでは,この比は約0.39であることを見出している。」との記載があり,具体的な数値として「本発明者は,いくつかの吸着剤の一酸化二窒素及び二酸化炭素に対するヘンリー則定数を測定した。以下の表1は,これらとヘンリー則選択率(ヘンリー則定数)を示している。」と記載されている。そうすると,当業者がこれらの記載に接すれば,- 7 -ヘンリー則定数は,計測対象となる吸着剤について,選択的吸着対象となる複数のガスの吸着等温線を通常標準的に使用されている測定法によって測定し,その吸着等温線の初期低圧領域における勾配を入手して,それら複数の気体のヘンリー則定数の比を得ることができ,また,ヘンリー則選択率を得ることもできる。 (2)ヘンリーの法則定数を定める方法は重量法である。すなわち,ヘンリーの法則によれば,初期低圧領域では吸着剤に吸着されるガスは,そのガス圧に応じてその吸着量が決まり,そのガス圧が低圧領域内で増加すると一定の割合で増加することを示す。そして,重量法は,初期低圧領域で一定のガス圧を一定にして平衡状態を保ち,吸着されたガスの質量を測ることによって吸着等温線が得られ,ガス吸着質量と平衡圧力との比が一定になることは直接領域にあることを示し,その比がヘンリー則定数を意味する。 また,甲27ないし29によると,重量法が吸着等温線を用いるヘンリー則選択率の測定方法の標準的方法であるといえるから,吸着等温線を得てヘンリー則定数を得る場合に重量法を採用することは,この技術分野の技術常識であるといえる。 (3)被告は,甲28 を用いるヘンリー則選択率の測定方法の標準的方法であるといえるから,吸着等温線を得てヘンリー則定数を得る場合に重量法を採用することは,この技術分野の技術常識であるといえる。 (3)被告は,甲28の図12において,重量法と容量法とは,1MPa以上の比較的高い圧力領域では一致しているが,1MPa以下の比較的低い圧力領域では必ずしも一致しないと主張する。しかし,低い圧力領域においては,メタンの密度を0.42ml/gと仮定することにより重量測定に代えて体積測定が有効に利用できることを報告していることを確認できるので,低圧領域では重量法及び容量法による吸着等温線が必ずしも一致しないとの被告の主張は理由がない。本件訂正発明1の吸着等温線は,重量法により測定されたものであるから,被告の主張は本訂正発明1の明確性に直接関連するものではない。 (4)本件訂正発明1の「ヘンリー則定数」の求め方に関して,当業者が技術- 8 -常識に従ってヘンリー則定数を決めることができる程度に明細書に記載すれば足りるのであって,具体的な求め方を逐一記載することまで求められているわけではない。出願人に対して,周知の技術常識に至るまで逐一特許明細書に記載することを求めることは,出願人に過度の負担を負わせることになり,特許制度の趣旨に反し,妥当でない。 吸着等温線の測定に関する判断の誤り審決は,吸着等温線について,従来法として知られた重量法と容量法,そして簡便な方法としてクロマトグラフ法によって得られた吸着等温線が一致しないと判断したが,誤りである。 (1)前記2(2)のとおり,ヘンリー則定数は標準的な重量法により吸着等温線の最初の部分の傾きから測定していることは技術常識であるし,発明者の陳述書(甲26)によると,本件訂正発明1において,吸着等温線の測定には重量法 おり,ヘンリー則定数は標準的な重量法により吸着等温線の最初の部分の傾きから測定していることは技術常識であるし,発明者の陳述書(甲26)によると,本件訂正発明1において,吸着等温線の測定には重量法が用いられたこと,重量法と容量法とにより得られる吸着等温線はよく一致し,それらとクロマトグラフ法により得られた吸着等温線ともよく一致すること,ヘンリー則定数の測定誤差は±3.8%であることが記載されている。そして,この程度の誤差はこの種技術分野の測定に当たって当然に予測されるほどのものであり,ヘンリー則定数を明確に定めることの本質的な妨げにはならない。 (2)「クロマトグラフ法による単一成分及び二成分の吸着平衡に関する実験的研究」(甲29)によると,ヘンリー則定数を測定するためのクロマトグラフ法によるデータと重量測定法のデータ及び体積測定法のデータとの間には満足すべき一致が見られる。甲29の図1の不一致は測定条件の不一致に基づくものであり,測定法の違いによるものではない。 (3)本件訂正明細書の【0025】の表1に示された,ヘンリー則定数の単位が「mmol/g/atm」であることから,ヘンリー則定数は吸着等温線に基づいて決定されたものといえる。他方,クロマトグラフ法は,吸着剤- 9 -を通して流れる吸着気体の流量と時間との関係データから所定の関係式を用いてヘンリー則定数を計算で求める間接的な測定方法であり,気体と吸着剤とを吸着平衡状態においた場合の気体の圧力と吸着量とを直接測定して,これらの測定値に基づいて吸着等温線をプロットして,その吸着等温線の初期勾配からヘンリー則定数を求める測定方法ではない。すなわち,吸着等温線はクロマトグラフ法により得られるものではなく,重量法又は容量法により得られたものといえる。したがって,重量法及び容量法に の初期勾配からヘンリー則定数を求める測定方法ではない。すなわち,吸着等温線はクロマトグラフ法により得られるものではなく,重量法又は容量法により得られたものといえる。したがって,重量法及び容量法による吸着等温線とクロマトグラフ法による吸着等温線とが一致しないことを根拠とした審決の判断は誤りである。 (4)重量法及び容量法は,測定精度さえ十分に高い測定を行えば,ヘンリー則定数の測定値は測定精度に応じて十分に正確な値が得られる。甲28等において一致性に十分でないものがあるとしても,その求める程度に応じた測定精度の測定方法及び測定器具が採用されたからにすぎず,重量法と容量法による等温吸着線のデータに高い一致性がないことを意味するものではない。 本件訂正明細書に吸着等温線の具体的な測定条件が記載されていなくても,当業者には,ヘンリー則選択率を高い測定精度で測定することは可能である。 吸着等温線の初期勾配に関する判断の誤り審決は,吸着等温線の初期勾配がその直線領域の特定方法について一般的に定められた方法があるとはいえないから,一義的に定まるものとはいえないと判断したが,誤りである。 吸着等温線が直線関係にあるか否かの判断は,ガス吸着量/平衡ガス圧の比の値(勾配)が一定(同じ値)になるか否かにより可能となり,吸着等温線における直線領域の定め方は技術常識に属する。また,甲18,19においては,2つの吸着データにおいてゼロ点と結ぶ傾きの差は2%であり,想定され- 10 -る一般的な誤差の範囲内に入ったので,それを直線的領域に入ったものとして採用したものである。審決がこれを「直線関係が成立していない」とするのは,不可避的に生ずる測定誤差を考慮しないで判断したものであって誤りである。 第4被告の反論審決の認定判断は,以下のとおり,いずれも正 ものである。審決がこれを「直線関係が成立していない」とするのは,不可避的に生ずる測定誤差を考慮しないで判断したものであって誤りである。 第4被告の反論審決の認定判断は,以下のとおり,いずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。 ヘンリー則定数及びヘンリー則選択率の明確性の判断の誤りに対し(1)「ヘンリー則選択率が一義的に決まる」こととは,技術常識に基づき,数ある吸着等温線の測定方法の中から唯一の方法を選択できるとともに,数ある吸着等温線の初期勾配の求め方の中から唯一のものを選択でき,その結果,その選択された求め方によって,第三者が吸着剤のヘンリー則定数を求めればほぼ同じ値が得られることを意味するものと解される。 ヘンリー則定数は,吸着等温線の初期勾配から求められる値であって,吸着剤の吸着性能を示すものである。そして,ヘンリー則定数を一義的に決定するためには,測定方法測定条件等を含めた吸着等温線の求め方が明確に,定められかつ,吸着等温線の初期勾配の求め方が明確に定められることが,必須である。しかし,本件訂正発明1の出願時において,吸着等温線の求め方及び初期勾配の求め方として一般的に標準化ないし共通化された唯一の,方法は知られていないにもかかわらず,本件訂正明細書には,ヘンリー則定数の求め方についての具体的な記載もない。そうすると,第三者は任意の吸着等温線の測定方法及び初期勾配の決定方法によってヘンリー則定数を求めることになり,そこで得られたヘンリー則定数は一定の精度の範囲で一致するとはいえず,本件訂正発明1を不明確にすることになる。 (2)原告は,吸着等温線の十分な低濃度領域では複数点での平衡圧力に対する吸着量の比(q/p)を求めてその比が一定になれば,それが「十分な低- 11 -濃度」であり,その比が「ヘン ことになる。 (2)原告は,吸着等温線の十分な低濃度領域では複数点での平衡圧力に対する吸着量の比(q/p)を求めてその比が一定になれば,それが「十分な低- 11 -濃度」であり,その比が「ヘンリー則定数」であることは,ヘンリー則定数及びヘンリー則選択率に関する技術的背景から明らかであるから,ヘンリー則定数及びヘンリー則選択率は一義的に定まらないとの審決の判断は誤りであると主張する。 しかし,吸着等温線に基づいてヘンリー則定数を決定し,ヘンリー則選択率の比較を行うためには,吸着剤や吸着ガス毎に,直線領域(十分な低圧領域)を個別具体的に決定する必要がある。しかるに,本件訂正明細書には,「十分な低濃度領域」がどの程度の圧力範囲の領域であるのか具体的に示す記載がなく,技術常識に基づいたとしても特定することができない。したがって,ヘンリー則定数及びヘンリー則選択率が一義的に求められないから原告の主張は失当である。 ヘンリー則定数の決定方法の判断の誤りに対し(1)原告は,本件訂正明細書にヘンリー則選択率の意味と13Xゼオライトのヘンリー則選択率(0.39)とが記載されているから,ヘンリー則選択率の決定方法は明確であると主張するが,失当である。 本件訂正明細書には,ヘンリー則定数を重量法で求めたとは明確に記載されていないから,当業者は,技術常識に基づいたとしても,吸着等温線の測定方法が重量法であるとは一義的に決めることができない。結局,本件訂正明細書には,ヘンリー則選択率の決定方法が具体的に特定されておらず,ー則定数の測定値に影響を及ぼす再生温度についての記載もなく,また,ヘンリー則選択率の決定方法のうちいずれの方法を用いたとしても全く同じ値が得られるとは限らないから,13Xゼオライトについて常に0.39という値が得られるわけではない。 についての記載もなく,また,ヘンリー則選択率の決定方法のうちいずれの方法を用いたとしても全く同じ値が得られるとは限らないから,13Xゼオライトについて常に0.39という値が得られるわけではない。 (2)原告は,甲27ないし29に基づいて,吸着等温線を得るための従来周知の標準手段が重量法であると主張する。 しかし,甲27ないし29には,重量法及び容量法の中で重量法だけが標- 12 -準的であることを明確に示す記載はない。また,甲28の図12には重量法と容量法により得られた吸着等温線が記載されており,両者は1MPa以上の比較的高い圧力領域では一致するが,1MPa以下の比較的低い圧力領域では容量法によるプロットが重量法によるプロットよりも若干高めに位置しており,必ずしも一致しない。さらに,甲29の図1には重量法,容量法,クロマトグラフ法から求められたヘンリー則定数の温度依存性が示されているが,温度30℃すなわち10/Tが3.3近辺のヘンリー則定数の値を 参照すると,重量法又は容量法とクロマトグラフ法とでは1.5倍程度の相違がある。 以上のように,本件出願当時において吸着等温線からヘンリー則定数を決定する方法が複数考えられるところ,これら複数の方法によって得られるヘンリー則定数は必ずしも一致しないから,ヘンリー則定数及びヘンリー則選択率の決定方法は本件特許出願時の技術常識に基づいて明確であるとはいえない。 (3)原告は,「ヘンリー則定数の決定方法」のような周知の技術常識まで本件訂正明細書の逐一記載することを求めるのは,特許制度の趣旨に反して,妥当でないと主張する。 しかし,特許権者である原告がヘンリー則選択率を発明特定事項として選択した以上は,原告の責任において,その明確性を担保しなければならない。具体的なヘンリー則選択率の求め方を 妥当でないと主張する。 しかし,特許権者である原告がヘンリー則選択率を発明特定事項として選択した以上は,原告の責任において,その明確性を担保しなければならない。具体的なヘンリー則選択率の求め方を逐一特許明細書に記載することを求めることにより出願人が受ける負担と,第三者の不測の不利益とを比較考量した場合には第三者が受ける不測の不利益の方がはるかに大きい。したがって,原告の主張は失当である。 吸着等温線の測定に関する判断の誤りに対し(1)原告は,甲28,29のとおり,重量法及び容量法による吸着等温線がそれぞれよく一致すると主張する。しかし,甲28,29について,上記2- 13 -のとおり,低圧領域において重量法と容量法による吸着等温線が必ずしも一致しない。したがって,原告の主張は失当である。 (2)原告は,重量法による測定値には3.8%程度の誤差があり,このような測定誤差は吸着等温線の測定時に常に伴うので,重量法及び容量法とクロマトグラフ法との間で吸着等温線が異なるというのは,前提において誤りであると主張する。しかし,誤差が含まれるからといって,重量法,容量法,クロマトグラフ法との間で不一致を否定する根拠にはなり得ない。また,甲29の図1において,30℃すなわち10/Tが3.3近辺のヘンリー則 定数の値を参照すると,Ar(a)とAr(c)のデータは1.5倍程度の相違があり,重量法と容量法においても大きく相違する場合がある。したがって,低圧領域において測定誤差が3.8%程度を示すからといって,そのことが異なる測定方法による吸着等温線同士が一致しないとする審決の認定を否定する根拠となり得ない。 (3)原告は,甲29の図1について,ヘンリー則定数が測定方法ごとに異なるのは,バインダの有無,再生温度等が異なることに起因するのであっ 士が一致しないとする審決の認定を否定する根拠となり得ない。 (3)原告は,甲29の図1について,ヘンリー則定数が測定方法ごとに異なるのは,バインダの有無,再生温度等が異なることに起因するのであって,測定方法の違いによるものではないと主張する。しかし,原告の主張は,吸着剤のヘンリー則定数を求めるに当たり,吸着剤の再生温度が重要な測定条件であることを自ら認めているに等しく,このような重要な条件である再生温度が本件訂正明細書に記載されていない以上,本件訂正明細書の記載が十分なものであるとはいえない。 吸着等温線の初期勾配に関する判断の誤りに対し(1)原告は,吸着等温線における直線領域の定め方は技術常識に属するものであると主張する。しかし,吸着等温線の初期勾配からヘンリー則定数を決定するためには,吸着剤や吸着ガスごとに,直線領域を個別具体的に決定する必要があるところ,本件訂正明細書には,直線領域がどの程度の圧力範囲の領域であるのか具体的に示した記載がない。したがって,ヘンリー則定数- 14 -及びヘンリー則選択率が一義的に求めることができない。 また,仮に本件訂正明細書に圧力範囲が記載されていたとしても,それだけで初期勾配を一義的に求めることはできず,吸着等温線のデータを何らかの方法で処理して初期勾配を求めることを要する。しかし,本件訂正明細書には,いかなる手段で吸着等温線のデータを処理して初期勾配を求めるのか明確な記載がない。 (2)原告は,甲18,19における2つの吸着データにおける傾きの相違が2%であり,測定誤差の範囲に入ったので「直線領域」に入ったものとして採用したと主張する。しかし,測定誤差の影響を極力減らすためには複数の測定点を採用すべきことは技術常識である。上記2つのヘンリー則定数は同一の値であると推認できる証拠は 直線領域」に入ったものとして採用したと主張する。しかし,測定誤差の影響を極力減らすためには複数の測定点を採用すべきことは技術常識である。上記2つのヘンリー則定数は同一の値であると推認できる証拠はなく,より低い圧力における値のみを採用するのは不自然である。 第5当裁判所の判断当裁判所は,原告主張に係る取消事由は失当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。 本件訂正明細書の記載本件訂正明細書(甲23,24の2)には,次の記載がある。 (1)「吸着剤で示される二酸化炭素に対する一酸化二窒素の選択率は,30℃における2つの気体のHenry則定数(初期等温勾配)の比として表すことができる。13Xゼオライトでは,この比は約0.39であることを見出している。」(段落【0010】)(2)「前記第3の吸着剤は好ましくは30℃において,二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率が0.5以上,より好ましくは少なくとも0.9である。」(段落【0020】)(3)「更に,第3の吸着剤の一酸化二窒素吸着に対するヘンリー則定数は,好ましくは少なくとも79mmol/g/atm,より好ましくは少なくと- 15 -も500mmol/g/atm,更により好ましくは少なくとも1000mmol/g/atmである。」(段落【0021】)(4)「本発明者は,いくつかの吸着剤の一酸化二窒素及び二酸化炭素に対するヘンリー則定数を測定した。以下の表1は,これらとヘンリー則選択率(ヘンリー則定数の比)を示している。」(段落【0024】)「図2は,・・・13Xゼオライトで得られた破過曲線である。・・・(5)結果は,NOがCOよりもかなり破過する・・・COが破過するまで予 備純化装置に使用すると,かなりの量のNOが吸着床を破過し,低温装置 オライトで得られた破過曲線である。・・・(5)結果は,NOがCOよりもかなり破過する・・・COが破過するまで予 備純化装置に使用すると,かなりの量のNOが吸着床を破過し,低温装置 に達して液体酸素中で凝縮する。・・・図3は同じ実験を示し・・・バインダーレスCaXゼオライトを吸着剤として使用し・・・この場合にはNO とCOの破過が実質的に同時に起こっている。」(段落【0043】) (6)「従って本発明によれば,13Xの第2の吸着層で二酸化炭素の吸着をこの層の許容能力まで続けることができる。・・・第2の吸着剤を去る空気中の一酸化二窒素を本質的に周囲レベルにする。これは,第3の吸着剤のCaX層で吸着され,第3の吸着剤が二酸化炭素を吸着し始めるまで処理を続けるだけでなく(これは意図された操作条件からはずれることを示す),第3の吸着剤が二酸化炭素の破過をもたらすまで二酸化炭素を吸着させなければ,第3の吸着剤から一酸化二窒素が破過することはない。」(段落【0044】) 各刊行物等の記載(1)「吸着と吸着プロセスの原理」(甲25)には,次の記載がある。 「物理的吸着では,吸着時の分子の状態変化がない(すなわち会合も解離もない)。そのため,どの吸着分子も最も近くにある吸着分子とは離れているくらいに十分に低い濃度における一様な表面への吸着では,流体相の濃度と吸着相の濃度の間の平衡関係は線形になる。この線形関係は,一般に,液体中での気体溶液の極限の挙動との類推でヘンリーの法則と呼ばれる。比例- 16 -定数は単なる吸着平衡定数であり,ヘンリー定数と呼ばれる。ヘンリー定数は,圧力または濃度で表現することができる。q=Kcまたはq=Kp(’2.17)ただしqとcは,吸着相と流体相の単位体積当たりの分子またはモル数で表わされ ,ヘンリー定数と呼ばれる。ヘンリー定数は,圧力または濃度で表現することができる。q=Kcまたはq=Kp(’2.17)ただしqとcは,吸着相と流体相の単位体積当たりの分子またはモル数で表わされる。」(43頁,訳文)(2)「気体の物理的吸着」(甲27)には,ヘンリー則定数を測定する方法として吸着等温線を測定すること,吸着平衡は,重量測定法(重量法)又は体積測定法(容量法)で測定してきたことが記載されている。 (3)「石炭の諸特性に関係するボーエン盆地石炭のメタン容量」(甲28)には,次の記載がある。 ア「同じ石炭に関する体積測定と重量測定によるメタンの等温線は一致した。」(813頁要旨下から1行~3行,訳文1頁下から4行)イ「測定は0~10MPaにて30℃で実施した。・・・重量測定法で得られた等温線(図12,+と○)は再現性が非常によいこと,そして体積測定法による等温線(図12の●)と非常によく一致していることもわかる。」(818頁13行~22行,訳文2頁10行~14行)ウ図12の説明「体積測定法(●)と重量測定法(+と○)によって決定したメタン等温吸着線の比較」(818頁,訳文3頁)(4)「クロマトグラフ法による一成分吸着平衡と二成分吸着平衡の実験的研究」(甲29)には,次の記載がある。 ア「4A分子篩におけるAr,O,N,CH,COの平衡等温線と, 5A分子篩におけるAr,O,N,CH,CF,CH,CH,C Hの平衡等温線を,クロマトグラフ法で決定した。ヘンリー定数と等温 線の両方とも,入手できる重量測定法および体積測定法のデータと満足すべき一致を示す。」(27頁要約,訳文1頁6行~9行)イ「クロマトグラフ法は,吸着平衡等温線を決定する従来の重量測定法および体積測定 両方とも,入手できる重量測定法および体積測定法のデータと満足すべき一致を示す。」(27頁要約,訳文1頁6行~9行)イ「クロマトグラフ法は,吸着平衡等温線を決定する従来の重量測定法および体積測定法に代わる方法となる。クロマトグラフを利用してヘンリー- 17 -の法則の定数と吸着熱の極限値を求める方法はよく確立しており,この方法では,非吸着性キャリヤを用い,その中に吸着可能なほんのわずかの成分を注入する・・・クロマトグラフのカラムを通過する濃度波の速度は平衡等温線の傾きによって決定できるため,この方法を容易に拡張して完全な一成分等温線を決定することができる。」(27頁左欄1~13行,訳文1頁19行~2頁2行)ウ「本論文では,いくつかの軽いガスについて4A型ゼオライトと5型ゼオライトで一成分吸着平衡と二成分吸着平衡をクロマトグラフで調べた結果を報告する。調べた系のいくつかは重量測定法で以前に調べられており,その場合には,重量測定法による等温線とクロマトグラフ法による等温線の間の一致はよい。そのためクロマトグラフ法の有効さと正確さが確認される。」(27頁左欄下から5行~右欄3行,訳文2頁17行~21行)エ「図1.4A型篩に関して本クロマトグラフ法のデータから得られたヘンリー定数と,重量測定法および体積測定法によって以前に決定された値の比較(●,N;○,O;△,CH;▲,CO;■,Ar;□,H e)。線は以前のデータを表わす。以前の測定の温度範囲は実線で,外挿は点線で示してある。重量測定法と体積測定法のデータは,(a)RuthvenとDerrah(1975年);(b)EaganとAnderson(1975年);(c)Harper他(1969年)からのものである。」(28頁,図1の説明,訳文4頁)オ「クロマトグラフ法 venとDerrah(1975年);(b)EaganとAnderson(1975年);(c)Harper他(1969年)からのものである。」(28頁,図1の説明,訳文4頁)オ「クロマトグラフ法は,単一成分及び二成分の両方の平衡等温線を決定する従来の重量測定法及び容量測定法の簡単な代替法である。・・・単一成分等温線から二成分の平衡を予測する有効な近似法と考えられる。」(31頁右欄下から7行~32頁左欄5行,訳文は審決から引用。)(5)被告作成の実験成績証明書(甲10)によると,ヘンリー則定数により- 18 -ヘンリー則選択率を求める方法として,①直線近似法(吸着等温線の低圧領域の測定値を直接近似することにより,直線の傾きからヘンリー則定数を算出し,ヘンリー則選択率を求める方法),②ラングミュア法(低圧領域における傾きを求める方法の1つであり,吸着量と圧力の関係式であるラングミュア式を用いてヘンリー則定数を算出し,ヘンリー則選択率を求める方法),③破過法(破過曲線からヘンリー則定数を算出し,ヘンリー則選択率を求める方法)があるとされる。 ヘンリー則選択率等に関する技術常識前記1で認定した本件訂正明細書の記載及び弁論の全趣旨によると,本件特定事項のヘンリー則選択率等に関して,以下の事実が認められる。 (1)ヘンリーの法則とは,十分に低い濃度における一様な表面への吸着では,流体相の濃度と吸着相の濃度の間の平衡関係は線形になり,この線形関係をいう。ヘンリーの法則は,q=Kp(は吸着量,pは圧力,Kはヘンqリー則定数)で表わされる。 (2)二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率は,各気体の「ヘンリー則定数」の比として表され,「ヘンリー則定数」は,吸着等温線の初期(初期低圧領域)勾配から求めることができる。 (3)吸着 )二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率は,各気体の「ヘンリー則定数」の比として表され,「ヘンリー則定数」は,吸着等温線の初期(初期低圧領域)勾配から求めることができる。 (3)吸着等温線を求める方法として,従来は重量法(吸着前後の吸着剤の重量変化を直接に重量秤で測定して求める方法)と容量法(容器中に存在する気体の吸着前後の体積と圧力を測定して,気体の状態方程式(Pを圧力,Vを容量,nを気体のモル数,Rを気体定数,Tを絶対温度とした場合にPV=nRTで表わされる。)で気体の重量変化を計算して求める方法)があったが,その後これらの簡単な代替法としてクロマトグラフ法(吸着気体の流量と時間をクロマトグラフ装置で測定して,それらの測定データに基づきヘンリー則定数を求める方法)がある。 審決におけるヘンリー則定数及びヘンリー則選択率の明確性の判断の誤りに- 19 -ついて(1)原告は,ヘンリー則定数及びヘンリー則選択率は一義的に求められると主張する。 しかし,ヘンリー則定数及びヘンリー則選択率に関する本件訂正明細書の記載は,前記1で認定したとおりであり,ヘンリー則定数及びヘンリー則選択率の具体的な数値の測定方法ないし決定方法について記載がなく,その場合にヘンリー則定数が一義的な値として決定できないことは後記5,6のとおりである。原告の主張は採用できない。 (2)原告は,本件特定事項中の「0.49」自体の意味が明確であることを根拠にして特許請求の範囲は明りょうであると主張する。 しかし,本件特定事項は,本件訂正発明1を構成する「第3の吸着剤」の特定に当たって,「二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率」が「0.49以上である」という具体的な数値を下限値として記載したものであるから,この数値を測定し決定する手段が明確 の吸着剤」の特定に当たって,「二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率」が「0.49以上である」という具体的な数値を下限値として記載したものであるから,この数値を測定し決定する手段が明確に理解し把握できるものでなければ,本件訂正発明1の内容を明確に記載したものとはいえない。原告の主張は採用できない。 審決におけるヘンリー則定数の決定方法の判断の誤りについて(1)前記4で判断したとおり,本件訂正明細書には,具体的な測定方法及び測定条件は何ら記載されていない。そして,上記3で認定した事実によると,ヘンリー則定数を得るための測定方法としては,重量法,容量法及びクロマトグラフ法が知られており,本件特許出願時,複数の測定方法が存在していたと認められる。そうすると,具体的な測定方法が記載されていない本件訂正明細書において,ヘンリー則定数の測定方法を一義的に決定できるものでないというべきである。したがって,本件訂正明細書においてヘンリー則定数の具体的な求め方について何ら記載はないという審決の認定に誤りはない。 - 20 -(2)原告は,甲27ないし29を根拠に吸着等温線を得る場合は標準的手段の「重量法」が採用されると主張する。 確かに,ヘンリーの法則の定義及びヘンリー則定数の求め方からすると,重量法は一般的に理解できる方法であるとはいえる。しかし,測定方法として,重量法以外にも少なくとも容量法又はクロマトグラフ法が存在し使用されていることは上記のとおりであるし,甲27ないし29の記載内容は前記2のとおりであり,これらをもって直ちに吸着等温線を得る場合の標準的手段が重量法であるということはできず,他にヘンリー則定数の測定手段として重量法が標準方法であるとかそれを用いることが技術常識であると認めるに足りる証拠はない。そうすると,た 温線を得る場合の標準的手段が重量法であるということはできず,他にヘンリー則定数の測定手段として重量法が標準方法であるとかそれを用いることが技術常識であると認めるに足りる証拠はない。そうすると,たとえ重量法がヘンリーの法則の定義に沿うものであって一般的に使用される測定手段であるとしても,容量法やクロマトグラフ法もまた使用されている事実からすれば,具体的な測定方法が記載されていない本件訂正明細書において重量法が当然に採用されるものであるということはできない。 (3)原告は,ヘンリー則定数は本件訂正明細書の記載に基づいて技術常識に従い決定すればよく,寸法,時間,温度などと同様に,逐一その具体的な求め方を特許明細書に記載することは記載要件とされていないと主張する。 一般に,寸法,時間,温度等のように慣用される測定変量や,物品形状のように直接視認できるものについては,その測定方法を特許明細書に記載する必要はないといえる。しかし,本件特定事項のヘンリー則選択率及びその算出に必要なヘンリー則定数は,吸着物質としての機能・特性を評価するために「吸着等温線の初期勾配」から導き出される指標である。そうすると,そのような指標によって発明を特定する以上は,本件訂正明細書において具体的な求め方を記載する必要があるというべきである。しかるに,本件訂正明細書には,本件特定事項のヘンリー則選択率及びその算出に必要なヘンリー則定数の具体的な求め方が記載されていないのであるから,技術常識によ- 21 -って得ることはできない。したがって,原告の主張は採用できない。 審決における吸着等温線の測定に関する判断の誤りについて(1)原告は,ヘンリー則定数は標準的な重量法により吸着等温線の最初の部分の傾きから測定していることは技術常識であるし,本件特許に係る発明者の陳 における吸着等温線の測定に関する判断の誤りについて(1)原告は,ヘンリー則定数は標準的な重量法により吸着等温線の最初の部分の傾きから測定していることは技術常識であるし,本件特許に係る発明者の陳述書(甲26)によると,本件訂正発明1において,吸着等温線の測定には重量法が用いられ,重量法,容量法及びクロマトグラフ法により得られる吸着等温線は一致すると主張する。 しかし,ヘンリー則定数が重量法により測定することが技術常識とはいえないことは前記のとおりであるし,上記各測定方法で吸着等温線が一致するとの記載についても,具体的な実験結果に基づくものではないから,上記記載のみをもってこれらの測定方法で吸着等温線が一致すると認めることはできない。 (2)原告は,甲29から異なる測定方法により得られるヘンリー測定数が一致すると主張する。 ア甲29の図1のグラフには,縦軸をヘンリー則定数(K),横軸を10/T(温度の逆数)として,クロマトグラフ法により得られたヘンリー 則定数のデータ(記号)と,従来から知られている重量法及び容量法によるヘンリー則定数のデータ(線)とが対比して表記されており,本件訂正発明1のヘンリー則選択率を規定する温度「30℃」すなわち「10/ T」が3.3近辺の値において両者のデータを対比すると,重量法及び容量法によるものはクロマトグラフ法によるものと近接しているとはいえるが,両者が一致するものではない。他方,甲29には,クロマトグラフ法により決定されたヘンリー則定数と等温線は重量測定法および体積測定法のデータと満足すべき一致を示すことが記載されているが,そもそも甲29は1研究論文であって,上記記載は著者の見解を記載したにすぎず,この記載をもって当業者における技術常識であるとまでは認めることはでき- 22 -ない。 イ すことが記載されているが,そもそも甲29は1研究論文であって,上記記載は著者の見解を記載したにすぎず,この記載をもって当業者における技術常識であるとまでは認めることはでき- 22 -ない。 イ原告は,甲29の図1において,3種類の測定方法によるデータが正確に一致しないのは,再生温度等の点で吸着剤のサンプルや測定条件が異なるからであって,測定方法の違いによるものではないと主張する。 しかし,本件特許に係る発明者の陳述書(甲26)には,「吸着重量測定と吸着体積測定の整合性を調べるためには,同じ吸着剤に対して測定を行なう必要がある。」との記載があり,異なる測定方法の整合性を調べるためには同じ吸着剤に対して測定を行う必要があるといえる。そうすると,甲29の図1における不一致の原因がサンプルや測定条件の違いにあるとすれば,甲29の図1の対比からは異なる測定方法の整合性について判断することができないこととなる。したがって,原告の主張は採用できない。 以上により,甲29からは,異なる測定方法により得られるヘンリー則定数が一致すると認めることはできない。 (3)原告は,測定精度が高ければ一致するヘンリー則定数が得られると主張する。しかし,甲29の図1におけるクロマトグラフ法と重量法又は容量法との不一致が測定精度によるものであるのか明らかではない。原告の主張は採用できない。 (4)原告は,クロマトグラフ法により吸着等温線を得ることができないから,重量法及び容量法による吸着等温線とクロマトグラフ法による吸着等温線とを対比した審決の判断は誤りであると主張する。 確かに,クロマトグラフ法は,気体と吸着剤とを吸着平衡状態においた場合の気体の圧力と吸着量とを直接測定する方法ではない。しかし,上記2(4)で認定した甲29の記載によると,クロマトグラフ法で吸 る。 確かに,クロマトグラフ法は,気体と吸着剤とを吸着平衡状態においた場合の気体の圧力と吸着量とを直接測定する方法ではない。しかし,上記2(4)で認定した甲29の記載によると,クロマトグラフ法で吸着等温線を決定し,ヘンリー則定数及び吸着等温線の両者について重量法と対比していることからすると,クロマトグラフ法において吸着等温線が得られるものといえ- 23 -るし,本件訂正明細書にも上記のような測定方法であるとの記載はない。原告の主張は採用できない。 (5)原告は,本件訂正明細書に示された,ヘンリー則定数の単位が「mmol/g/atm」であるところ,本件訂正発明1のヘンリー則定数は吸着等温線に基づいて決定されたものであるから,吸着等温線が得られないクロマトグラフ法ではなく,重量法又は容量法により得られたことを示していると主張する。 しかし,上記(4)で判断したとおり,クロマトグラフ法において吸着等温線が得られないとはいえず,重量法,容量法及びクロマトグラフ法のいずれからもヘンリー則定数を得ることができるものといえる。そして,甲29の図1の記載によると,重量法又は容量法で得られたヘンリー則定数とクロマトグラフ法で得られたヘンリー則定数とが同じ単位により表示されているし,甲31の表2によると,クロマトグラフ法により得られたヘンリー則定数の単位が「mol/g・Torr」であり,「mmol/g/atm」と実質的に同じである。そうすると,本件訂正明細書記載のヘンリー則定数の単位だけでは,本件訂正発明1のヘンリー則定数が重量法又は容量法により得られたものということはできない。したがって,原告の主張は採用できない。 小括以上のとおり,原告主張の審決の判断の誤り(前記4ないし6)は理由がなく,複数の測定方法により得られる吸着等温線が一致すると のということはできない。したがって,原告の主張は採用できない。 小括以上のとおり,原告主張の審決の判断の誤り(前記4ないし6)は理由がなく,複数の測定方法により得られる吸着等温線が一致するとはいえず,ヘンリー則定数についても一致するとはいえない。したがって,吸着等温線の初期勾配に関する判断の誤りに係る原告の主張について判断するまでもなく,本件特定事項が明りょうでないとした審決の判断は相当である。 結論 以上のとおり,本件訂正発明1についての原告の主張する取消事由には理由- 24 -がなく,また,本件訂正発明1を従属項とする又は本件特定事項を含む本件訂正発明2ないし7,9ないし13についても審決を取り消すべき誤りは認められない(原告はこれらについて固有の取消事由を主張していない。)。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官飯村敏明裁判官上田洋幸裁判官三村量一は,差し支えのため署名押印することができない。 裁判長裁判官飯村敏明

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