(原審・千葉地方裁判所佐倉支部平成10年(ワ)第229号損害賠償請求事件(原審言渡日平成13年4月23日)) 主文 1 原判決を次のとおり変更する。 (1) 被控訴人は,控訴人に対し,金1553万0869円及びこれに対する平成10年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 控訴人のその余の請求を棄却する。 2 訴訟費用は1,2審を通じてこれを2分し,その1を控訴人の,その余を被控訴人の各負担とする。 3 この判決1項(1)は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,金3350万5747円及びこれに対する平成10年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,従前から被控訴人と証券取引を行っていた控訴人が,平成8年9月24日から始まり約1年に及んでした信用取引について,適合性の原則違反,説明義務違反・断定的判断の提供,無断売買・一任取引,過当売買を理由とする不法行為(使用者責任)に基づく損害(信用取引による損害内金3050万5747円及び弁護士費用300万円)の賠償請求をした事案である。 控訴人は,原審では,上記信用取引に係る期間の全証券取引が上記理由による不法行為に当たるとしていたが,当審で,上記のとおり不法行為の対象を信用取引に限定したものである。原審は,不法行為の成立を否定して,控訴人の請求を棄却した。 2 争いのない事実等次のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」の「第二事案の概要」一のとおりであるから,これを引用する。以下,別紙一ないし三は,原判決添付の別紙一ないし三を指す。 (訂正部分省略) 3 争点及び当事者の主張(1) 不法行為の成否ア控訴人 第二事案の概要」一のとおりであるから,これを引用する。以下,別紙一ないし三は,原判決添付の別紙一ないし三を指す。 (訂正部分省略) 3 争点及び当事者の主張(1) 不法行為の成否ア控訴人控訴人は,信用取引当時68歳の老齢で,退職金や唯一の資産を売った約5000万円程度の現金を老後の蓄えとして銀行預金をし,その中の一部を預金代わりに証券に投資していたが,預金金利の大幅な引下げに不安を感じ,それを何とか補充するためにFに言われるまま証券取引を行い,当初は外債に投資したところ,Fは,控訴人の投資金額が次第に増大したことにつけ込んで,預金金利の目減りを防ぐ目的とは異質の信用取引を勧誘し,手数料稼ぎのために過当な一任取引又は無断売買を繰り返して,控訴人に莫大な損害を負わせたのであり,以下のとおり,各違法理由が存するが,これに加えて,これらの違法理由が一体となって不法行為を構成する。 したがって,被控訴人は,使用者責任に基づき,信用取引により控訴人が被った損害を賠償すべき責任がある。 (ア) 適合性の原則(顧客の意向,財産状態,投資経験等に適合した投資勧誘を行う必要があるとの原則)違反証券取引に関し,①別紙一の取引当時の証券取引法(以下「旧証券取引法」という。)54条1項1号が「有価証券の買付け若しくは売付け又はその委託について,顧客の知識,経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることになっており,又は欠けることになるおそれがある場合」には,内閣総理大臣が是正監督命令を出せるとして適合性の原則を明文化していること,②同法54条1項2号を受けた「証券会社の健全性の準則等に関する省令」は,頻繁取引,無断売買,不適当条件等の引受等を「公益又は投資者保護のため,業務状況につき是正を加えることが必要な場合」 いること,②同法54条1項2号を受けた「証券会社の健全性の準則等に関する省令」は,頻繁取引,無断売買,不適当条件等の引受等を「公益又は投資者保護のため,業務状況につき是正を加えることが必要な場合」として規定していること,③公正慣習規則9号「協会員の投資勧誘,顧客管理等に関する規則」が,投資者保護のため,顧客カードの整備(4条),信用取引,先物取引開始基準の制定(5条),過当勧誘の防止(8条),取引一任勘定取引の管理体制の整備(14条),社内規則等の届出(21条)を規定していること,④旧証券取引法49条が,「証券会社並びにその役員及び使用人は,顧客に対して誠実かつ公正に,その業務を遂行しなければならない」と定めていることに照らすと,証券会社は顧客の最大の利益及び市場の健全性を確保するため,顧客に対し,誠実かつ公正に行動しなければならないという私法上の法的義務があるというべきところ,殊に,信用取引の仕組みは難解でリスクも大きいこと等の特質があるから,証券会社は顧客の属性を考慮し,不適合な取引を勧誘してはならず,投資経験や投資知識が十分な資金的に余裕のある顧客に限定して信用取引を勧誘することが許されるのであり,これに違反した場合には適合性の原則違反として顧客に対する不法行為が成立するというべきである。 これを本件についてみると,控訴人は,①技術畑の出身であり,信用取引や投資信託等の知識が欠如していたこと,②平成8年当時,満68歳の老齢に達していたこと,③Fらから勧誘を受けるとそのまま信用して取引に応じる傾向にあったこと,④新たな資金提供ができない状況にあったこと,⑤信用取引の投機性,難易性,⑥特に,信用取引は6か月又は3か月の極めて短期間に決済しなければならないリスクの大きい証券取引であること等に照らすと,控訴人には信用取引を行う適合性がな 況にあったこと,⑤信用取引の投機性,難易性,⑥特に,信用取引は6か月又は3か月の極めて短期間に決済しなければならないリスクの大きい証券取引であること等に照らすと,控訴人には信用取引を行う適合性がなかったにもかかわらず,Fらは,上記諸事情を熟知しながら,控訴人をして信用取引を行わせたのであるから,控訴人に対する不法行為責任を免れないというべきである。 (イ) 説明義務違反等証券会社は,顧客に対し,誠実,公正義務(旧証券取引法49条),書面の交付義務(同法47条の2)があり,信用取引については説明書交付義務及び説明義務がある(公正慣習規則9号)。ところが,Fは,控訴人に対し,信用取引の仕組み,決済期間,危険性等を説明すべき義務があるのに,平成8年9月18日ころ,控訴人に対し,「信用取引は現金がなくても取引できる。外債よりも利益を見込める。控訴人の取引額は4000万円以上になっているが,そのような顧客は皆信用取引をしている。小規模で損が出ないように取引をする。月額20万円程度は確実に利益が上がる。」等と勧誘し,信用取引について虚偽の説明(旧証券取引法50条1項6号,健全省令2条1項)をしたり,断定的判断の提供を伴う勧誘(同法50条1項1号,2号)を行った。これに対し,控訴人は,Fの同説明を信用して関係書類に署名捺印の上,信用取引を開始した。 よって,被控訴人側の上記説明義務違反等は不法行為に該当する。 (ウ) 無断売買又は一任取引無断売買が禁止されていることは当然であるし,一任取引は顧客の自己決定権を侵害する行為であり,いずれも権限濫用による手数料稼ぎの危険性が高いために禁止されているのである(旧証券取引法50条1項3号)から,証券会社がこれに違反した場合には不法行為が成立するというべきところ,Fは,信用取引について,売買の別,銘柄,数量 料稼ぎの危険性が高いために禁止されているのである(旧証券取引法50条1項3号)から,証券会社がこれに違反した場合には不法行為が成立するというべきところ,Fは,信用取引について,売買の別,銘柄,数量,価格等を独断で決定して無断売買を行ったのであり,仮にそうでないとしても,一任取引をしたのであるから,不法行為責任を免れない。すなわち,Fは,控訴人に対し,「任せて下さい」と述べたことから,控訴人もこれを承知したが,一任取引を問題視する記事が掲載されたことから,控訴人は,平成8年9月20日ころ,被控訴人支店に赴き一任売買の問題点に関して質問した。これに対し,Fは,「一任取引というのは顧客が総会屋や暴力団の場合をいうのであり,控訴人の場合には違う」等と適法であるかのように控訴人を欺いて取引を継続させた。 確かに,控訴人は,月次報告書を見て回答書を被控訴人支店に持参したが,信用取引については月次報告書からは判断できなかったこと,信用取引が頻繁になった同8年11月以降は,銘柄,数量ともに膨大でチェックできなかったこと,現金の出し入れもなく,Fを信用していたために注意しなかったこと,Fに質問しても「うまく行っています。同9年末には7000万円になる見込みです。」等の説明を受けたことから,回答書に署名捺印したにすぎない。 なお,別紙三の受注日時と控訴人の行動日程の比較から明らかなとおり,控訴人は,週2日,午前8時30分に自宅を出て,午前9時50分ころにG株式会社に出社,午後1時ころ退社していたこと,控訴人は,執務中は電話したことも受けたこともないこと,控訴人は携帯電話を所持しておらず通勤途中の電話をできないこと,控訴人は,頻繁にゴルフコンペに出場したり,ゴルフ練習場に赴いていたから,被控訴人主張の取引時に連絡を受けることは不可能であったこと,注文伝票 携帯電話を所持しておらず通勤途中の電話をできないこと,控訴人は,頻繁にゴルフコンペに出場したり,ゴルフ練習場に赴いていたから,被控訴人主張の取引時に連絡を受けることは不可能であったこと,注文伝票には「電注」の記載は一つもないから全て来店による注文ということになるが,控訴人が来店できない日でも受注したことになり不合理であること等に照らすと,Fらが無断売買ないし一任取引を行ったことは明らかである。 (エ) 過当売買証券会社には誠実,公正義務がある(旧証券取引法四九条)から,顧客の利益に優先して自己の利益を追求してはならないのであり,①売買の回転率(投資額が証券取引で何回転したかを示す数字),取引の頻繁性,②手数料金額・割合の過当性,③顧客口座の支配,④信頼を濫用して利益を図ったこと等の要件がある場合には右義務に反する過当売買として不法行為責任を免れない。 ① 取引の頻回性,回転率平成8年9月24日から同9年9月30日までの信用取引の売買総数,手数料,取引回数は別紙一の信用取引欄記載のとおりであり,取引総額は13億1753万8185円,取引回数362回であるところ,その保有日数は,別紙一の売買明細表(信用)のとおり,10日未満が181件のうち68件,10日以上30日未満が37件,30日未満の合計が105件,2日以下が28件である。これは信用取引の決済期間が3か月,6か月であることを考慮しても,極めて短期間の取引が頻繁にされているといわざるをえない。また,売買回転率は13.044であり,売買回転率が6回を超えた場合,過当売買とみなされるという考え方を考慮すると,正常な判断の下における取引とはいえない。 ② 手数料総額信用取引の売買手数料の総額は別紙一の売買明細表(信用)の末尾のとおり1170万7334円であり,その損害額に占める割合は, を考慮すると,正常な判断の下における取引とはいえない。 ② 手数料総額信用取引の売買手数料の総額は別紙一の売買明細表(信用)の末尾のとおり1170万7334円であり,その損害額に占める割合は,33.2パーセントとなっている。 ③ 無断・一任勘定信用取引のほとんどについて控訴人に無断又は一任勘定で取引を行っており,取引の種類,銘柄,数量の多さ等から見ても口座支配の要件も具備している。 ④ ①ないし③に照らすと,被控訴人が控訴人の信頼を濫用して利益を図ったといえるから,過当売買の要件があることは明らかである。 イ被控訴人(ア) 適合性の原則違反について控訴人は,大学を卒業し,東京都庁,大手会社の役員等を履歴する等,経済知識・社会経験も豊富であったこと,昭和55年以降被控訴人支店において株式売買,国内外の投資信託売買,ドル建てワラント売買を行う等,証券取引に関する知識・理解力・経験を十分有していたこと,外債等の預かり資産だけでも4000万円を超過していたこと等に照らすと,信用取引についても適合性を有する。 (イ) 説明義務違反等についてFは,Hとともに控訴人に対し,信用取引制度説明書を交付して,信用取引の特質・仕組み等を説明しており,保証金(株券等)の預託を要し,追加保証金が生じる場合もあり,元本保証がない等のリスクを説明したのであり,虚偽の説明や断定的判断の提供をしたことはない。 (ウ) 一任取引又は無断売買について控訴人は,店頭又は電話により,Fらの説明等を参考にしながら,すべて個別の買付け・売却の注文をしていたのであり,一任取引や無断売買の事実はない。控訴人は,月次報告書・回答書を見ては,Fらに毎月の取引内容,現在の状況,今後の見通し,預かりの状況等を質問していたが,信用取引自体について苦情を述べたことはなかった。 また 無断売買の事実はない。控訴人は,月次報告書・回答書を見ては,Fらに毎月の取引内容,現在の状況,今後の見通し,預かりの状況等を質問していたが,信用取引自体について苦情を述べたことはなかった。 また,信用取引が一任取引又は無断売買であれば,継続的に間断なく取引がされたはずであるのに,控訴人がハワイに旅行していた時期(平成8年12月19日から同月25日まで)や,取引相場が悪くなった平成9年1月8日から同年2月12日までの1か月以上の期間,全く信用取引がないことは,顧客の意思が反映していた証左である。 (エ) 過当売買について① 控訴人の購入した銘柄の価格,頻度は他の信用取引の顧客に比較しても平均的であること,控訴人の信用取引の約定日は分散しており,一度に1,2銘柄に限定されていること,売買期間も長期保有が多く見られ,日計り取引(株式や債券の取引について即日反対売買を行う超短期売買)はほとんど存在しないこと(控訴人主張の保有期間に照らすと,短期間とはいえず正常な取引である。),取引規模も極端に大きいものは存在せず,ほとんどが数百万円程度であること,同一銘柄の売買の繰り返しはほとんどないこと,被控訴人の手数料額が損失額の33パーセント程度というのは格別問題のない手数料額であること,確定した利益と損失の発生も分散しており異常性はないこと等に照らしても格別問題はない。 ② 無断売買・一任勘定取引ではないから,被控訴人が控訴人の取引口座に対する支配を及ぼしていないことも明らかである。 ③ 控訴人は,平成8年5月以降,外国債券を徐々に買い増しして預かり資産を約6000万円としたが,これは信用取引の預かり資産として十分であり,同8年9月以降,これを担保として信用取引を開始したため,売買の回数が多くなったにすぎない。殊に,控訴人が信用取引をした同月から同9年 万円としたが,これは信用取引の預かり資産として十分であり,同8年9月以降,これを担保として信用取引を開始したため,売買の回数が多くなったにすぎない。殊に,控訴人が信用取引をした同月から同9年9月の間は,同年1月,2月の一時的な低迷(同時期には控訴人の自主的判断で信用取引を控えた。)は別として,全般的に相場がよく証券取引が活発に動いていた時期であるから,売買回数が多くなるのは不自然なことではない。また,信用取引は投機的性格から一般に金額・売買回数が多くなる傾向があるものである。 (2) 損害ア控訴人(ア) 信用取引による損害損害額の計算のための損益計算は,(買付代金+手数料)-(売却代金-諸税-手数料)であり,信用取引について,別紙二,月次報告書等により,その開始時である平成8年9月24日から精算時点である平成9年11月11日(15時時点の終値)までの同計算をした結果,損害額は,以下のとおりである。 信用取引により買付けした場合,その決済の方法は売り返済か現引きの二者択一しかないところ,その選択は控訴人ができるはずなく,かつ,控訴人は一度も現引きの選択を相談されていないから,現引きにより株を取得したことによるその後の損害は,信用取引による損害となる。 ① 信用取引による現引き分損害 535万8586円別紙計算表NO1のとおり② 信用取引損害分 2194万0486円別紙計算表NO2(計算書NO2①ないし⑧の説明を含む。)のとおり③ 控訴人が引き取った株の損害(客渡分)1116万8783円別紙訂正分計算書NO3(訂正分計算表NO3内訳を含む。)のとおり④ 控訴人が被控訴人から信用取引による現金の振込みを受けた金額(甲25)39万0682円⑤ 損害金合計(①+②+③-④) 正分計算書NO3(訂正分計算表NO3内訳を含む。)のとおり④ 控訴人が被控訴人から信用取引による現金の振込みを受けた金額(甲25)39万0682円⑤ 損害金合計(①+②+③-④) 3507万7173円(イ) 弁護士費用控訴人は,本件訴訟の提起・追行を控訴人代理人弁護士に委任したところ,弁護士費用としては300万円を下らない。 イ被控訴人(ア) 現引きは自己の意思で行った行為であるから,現引きによって取得した株式について信用取引の損害額に加算することはできない。 (イ) 過失相殺信用取引による損失は,控訴人の自己責任というべきであり,控訴人の帰責性ないし落ち度(過失)は重大である。 第3 当裁判所の判断 1 前記争いのない事実等並びに証拠(甲2の1ないし11,3の1ないし5,4ないし6,7の1ないし8,8の1ないし4,10,11の1ないし20,14,15,16の1・2,17,18の1,19,21ないし23,乙1ないし3,4の1ないし4,5,6の1ないし3,7ないし11,12の1ないし17,13の1ないし5,14の1ないし27,15の1ないし26,16及び17の各1ないし117,18の1ないし7,19,20及び21の各1・2,22の1ないし3,23の1・2,24ないし28の各1ないし3,29の1・2,30及び31の各1ないし3,32の1・2,33ないし35,証人F,同H,同I,控訴人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(証拠評価を含む。)。 (1) 控訴人は,昭和55年6月30日,被控訴人支店に取引口座を開設し,同日,ミリオン200万口を買い付けて,証券取引を開始した。控訴人は,それ以前に投資経験はなく,その後も他の証券会社との間で証券取引をしたことはない。その際,控訴人は,同支店において,資産状況は ,同日,ミリオン200万口を買い付けて,証券取引を開始した。控訴人は,それ以前に投資経験はなく,その後も他の証券会社との間で証券取引をしたことはない。その際,控訴人は,同支店において,資産状況は「小」(他の区分は「中」,「大」),証券知識は「知らない」(他の区分は「詳しい」,「普通」),投資態度は「投資的」(他の区分は「投機的」)とされた。その後,控訴人は,約5年間,証券取引をしなかったが,東京都庁を退職して,退職金約3000万円が入った(大半は銀行に預金)ことから,昭和60年3月18日付けで,総合取引申込書を提出し,そのころから複数の証券取引をするようになり,昭和61年11月19日付け及び平成元年8月2日付けで外国証券取引口座設定約諾書を,同年10月4日付けで同約諾書及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書をそれぞれ差し入れており,総合取引約款等に基づき,別紙二(同8年9月13日までの取引欄)のとおり,株式,国内外の投資信託,債券(外債,転換社債を含む),ドル建てワラント,新株引受権等の取引を行ってきたところ,その買付取引はいずれも控訴人が被控訴人支店の店頭に来店してしたもので,そのほとんどが担当者からの勧めによるものであった(控訴人が電話により買付注文をしたことはなかった。)が,トラブルとなったことはなかった。その買付取引回数は,昭和60年から平成7年までで,昭和62年の33件が突出しており,その余は年間1件から18件までで,年間平均10件弱であった。また,控訴人は,上記のとおりワラント取引もしたことがあったが,平成元年10月買付けの2件だけであり,いずれもわずかに利益が出たにすぎない(控訴人は,ワラント取引をしたことはない,知らなかった等と供述するが,上記程度の取引内容にすぎず,これをもって,控訴人が取り立てて虚偽の供述をしてい だけであり,いずれもわずかに利益が出たにすぎない(控訴人は,ワラント取引をしたことはない,知らなかった等と供述するが,上記程度の取引内容にすぎず,これをもって,控訴人が取り立てて虚偽の供述をしていると認めることはできないし,控訴人が上記程度のワラント取引等をしていたことから,控訴人が証券取引の知識,経験を十分有していたと認めることもできない。また,Fは,控訴人の投資傾向について,どちらかというと投機性のある方だと思ったと供述するが,信用取引開始前の取引状況に照らして,到底そのようには認められず,同供述は信用し難い。)。 (2) 被控訴人支店では,平成6年4月15日ころ,Fが控訴人に対する営業担当者となったが,当時控訴人が保有していた株式は3銘柄,金額にして750万円程度であったところ,Fが担当者になってからも,控訴人の取引規模,状況は従前と同様であった。 その後,控訴人は,平成8年春ころ,家賃収入が減少しており,この賃貸不動産を売却する予定であり,銀行金利の目減りも生じているが,月額20万円程度の利益を得たいとして,Fに対し,「よい商品はないか。」と相談した。そこで,Fは,パンフレットで金利(外貨ベースで確定金利)や償還期限等を示しながら,円高による為替リスクがあるため,円ベースでの元本・利息保証はないが,高利(外貨ベースで年5.35ないし8パーセント。Fは,同利子の説明はしていないと供述(乙33)するが,そのようなことはおよそ考えられず,Fの供述は信用し難い。)の期待が持てて,控訴人の要望に適い得るものとして,外国債券を推奨した。これに対し,控訴人は,パンフレットを自らも読んで為替リスクによって外債の場合には元本,金利の保証がないことを承知しながら,同年5月21日に米州開発債を,同年6月4日に国際金融を買い付けた。殊に,後者は,大口の買 訴人は,パンフレットを自らも読んで為替リスクによって外債の場合には元本,金利の保証がないことを承知しながら,同年5月21日に米州開発債を,同年6月4日に国際金融を買い付けた。殊に,後者は,大口の買付けであったことから,Fは,副支店長に直接面談してもらい,事前にパンフレットを交付した上,Hとともに船橋駅前の喫茶店において面談し,控訴人は,買付資金として持参していた2000万円の小切手を交付した。その後も,控訴人は,Fらの上記同様の説明を受ける等して,上記退職金の銀行預金(従前の株投資と併せて約3000万円)及び上記賃貸不動産の売却代金(約2100万円)を原資として,別紙一の売買明細表(外国債券)のとおり併せて約4150万円の外債の買付けを行った。 (3) 上記経過の中で,控訴人は,平成8年9月18日,被控訴人支店に為替・株式の動向,資産状況の確認に来た。その際,Fらは,控訴人が保有していた第二電電(DDI)が株価を下げていたので,難平買い(既に買い付けた株式が下落している場合,将来株価が上がるという見込みのもとに,同一株式を買付けして買値の平均を下げておき,実際に値上がりしたときの平均利益を増やし,当初買い付けた株式の下落による損失を補填する手法)を提案したが,控訴人は,買付資金がないとしてこれを断った。 これに対し,Fは,控訴人からの預かり資産が上記外債の買付けにより4000万円を優に超えていたことから,買付資金が不足していても取引可能な信用取引を勧めようと考え,被控訴人支店では,信用取引が一定の投資経験,知識,資力等を求められ,資金に比べて大きな利益が期待できる反面,損失も大きくなる危険性のある取引であるため,信用取引を開始するに先立ち,副支店長クラスによる面談・説明が義務づけられていたので,副支店長のHに相談したところ,Hも賛成した きな利益が期待できる反面,損失も大きくなる危険性のある取引であるため,信用取引を開始するに先立ち,副支店長クラスによる面談・説明が義務づけられていたので,副支店長のHに相談したところ,Hも賛成した。そこで,FとHは,控訴人に対し,信用取引を開始することを勧め,信用取引の仕組み,内容,リスクを説明するとともに,信用取引制度説明書を交付し,控訴人は,その受領書に署名押印した。同説明書には,①委託保証金(預かり保管中の株券や投資信託等)を担保に入れ,売付けに必要な株券や買付けに必要な資金を借り入れて売買し,委託時に選択した3か月以内ないし6か月以内に決済する必要があり,借入れについては利息もかかること,②出捐する資金以上の取引が可能になるから,資金に比べて大きな利益を期待できるが,予想と違った場合には損失も大きくなること,③委託保証金は,売買金額の30パーセント以上必要で,その率が20パーセント未満になったときは追加保証金(追い証)を差し入れる必要がある(この率が20パーセント未満にならなくても追い証があり得る。)こと,④委託手数料のほか,金利,管理費,権利処理等手数料等の諸経費が必要であること,⑤空売り(現物株と異なり,売りから入って下がれば買い戻す方法)も可能であること,⑥買付けの決済は売却して返済するか,その株券の買付代金を証券会社に引き渡して返済する(現引き)方法があること等が記載されていた。 そして,控訴人は,同日,信用取引口座設定約諾書及び貸借銘柄以外の銘柄の信用取引に関する承諾書を差し入れた(Fは,同各書面を翌々日の20日(金曜日)に来店した際,受領したと供述するが,同各書面等の記載自体にも反するし,後記のとおり同日にされたという最初の信用取引の買付けについてのFの供述の変遷等に照らしても,Fの供述は信用し難い。)。 (4) 店した際,受領したと供述するが,同各書面等の記載自体にも反するし,後記のとおり同日にされたという最初の信用取引の買付けについてのFの供述の変遷等に照らしても,Fの供述は信用し難い。)。 (4) 以後,控訴人名による信用取引は,別紙一の売買明細表(信用)及び別紙二のとおり行われており,その売買受注日時は,別紙三記載のとおりFが作成した注文伝票に記載されている(売買注文件数各117件)ので,その信用取引は,注文伝票記載のとおり控訴人から受注があったものとして行われている。その買付注文の約7割は指し値によるものであったが,指し値が変更されて約定に至ったものも少なくない(なお,売付注文は信用取引の最終精算のためにされた平成9年11月11日の5件を除くとほとんど全部が指し値によるものである。また,指し値のため約定に至らなかった注文があることを認めるに足りる証拠はない。)。そして,注文伝票の注文区分には,「1:本日 2:電注 3:翌注」の3区分があるところ,すべて「1:本日」とされており,また,弁済区分は,すべて「6か月選択」とされている(「3か月選択」はない。)。 この注文伝票の記載について,Fは,上記受注はすべて控訴人が直接来店又は電話してしたものであるが,注文伝票の受注日時には,顧客から具体的に発注があった日時を記載しておらず,注文を流す際に,その日時を記載している,したがって,午後3時(市場終了後)をすぎて受注した場合には,翌営業日の午前9時前に発注しており,受注日と約定日の記載が同じになる,注文伝票には,注文区分として,3区分があるが,電話の場合にも,翌営業日に発注した場合にも,すべて「本日」としていると供述(乙35を含む。)し,Hも同旨の供述をする。 しかしながら,注文伝票は,顧客から注文を受けたことを記録に残し,後に受注の有無,日 にも,翌営業日に発注した場合にも,すべて「本日」としていると供述(乙35を含む。)し,Hも同旨の供述をする。 しかしながら,注文伝票は,顧客から注文を受けたことを記録に残し,後に受注の有無,日時等について紛争が生じないようにするために作成されるものであること,注文伝票自体に,上記のとおりの注文区分欄が明確に記載されていること,注文伝票のほかには,Fが控訴人から注文を受けたことを示す資料は提出されていない(したがって,同資料は作成されていないか,記載内容が被控訴人に不利益であるため提出しないものと推認される。)ことなどに照らすと,Fらの上記受注伝票の記載についての供述は,直ちに信用することができず,他にFらの供述に沿う趣旨の客観的な証拠は全く提出されていない(Fは,被控訴人のシステムでは翌注(翌日注文)というのは入らない形になっていると供述するが,それなのに,被控訴人において作成,使用している注文伝票に「翌注」の記載があるというのはおかしいというほかない。)。Fは,これに関連して信用取引の最初のもので最も記憶に残っているという平成8年9月24日の買付けについて,当初(乙33)は,同日に控訴人が来店した際に信用取引の説明をした上,口座を開設し,買付けの発注をしたとしていた(Hの供述も同旨,乙34)のを,その後(乙35),当該注文伝票記載の受注時間に照らし,前日の同月23日午後2時30分ころ来店し,午後3時以降(市場終了後)に発注を受けたとしていたが,反対尋問において,控訴人代理人から同日が休日(祝日)であることを指摘されて初めて,前営業日である同月20日(金曜日)の午後3時以降の受注であると変更し,さらには,上記のとおり前営業日に注文を受けたが,当日の朝にも再度電話で注文を確認したとの供述(乙35も同旨)までしているが,これらの供述の変遷 月20日(金曜日)の午後3時以降の受注であると変更し,さらには,上記のとおり前営業日に注文を受けたが,当日の朝にも再度電話で注文を確認したとの供述(乙35も同旨)までしているが,これらの供述の変遷は,極めて不自然であるし,当日電話で注文を確認したのなら,そもそも前営業日の受注であるなどという必要は全くなく,しかも,Fは,10時33分受注の新電元についても,前営業日の受注としているが,これは,前営業日の受注は当日午前9時前に発注している旨の上記供述とも明らかに矛盾しており(控訴人がハワイ旅行に出発した平成8年12月19日の午前11時17分受注の特殊陶についても同様である。),Fらの供述は,その供述に沿う客観的な証拠がなく,全般的に信用し難いというほかない。 (5) 控訴人は,被控訴人支店で信用取引をしていたころ,非常勤でG株式会社東京支店に週2日程度勤務し(原則として月曜日及び木曜日。午前8時30分ころ自宅を出て,午前9時50分ころ出社し,午後1時ころ退社していた。),そのほかの日には,自宅におり,囲碁やゴルフ練習場に出かけることが多く,また,ゴルフコンペにも頻繁に出席していた。また,控訴人は,通常の日刊新聞(読売新聞又は産経新聞)を購読しているだけで,日経新聞等の経済紙等は購読してなかった。 そして,控訴人は,別紙三の右欄記載の理由(通勤中,執務中,出張中,ゴルフコンペ出席)によりその受注時間には,Fに来店又は電話で注文を出すことはできなかった(そもそも電話による注文をしたことはない。),すなわち,控訴人において当該売買指示はしていないと主張,供述する。これに対し,被控訴人は,信用取引の受注はすべて控訴人が直接来店又は電話してしたものであると主張し,Fは,これに沿う供述をし,Hは,控訴人の来店の有無が分かる面談記録簿があり,被控訴人支店 供述する。これに対し,被控訴人は,信用取引の受注はすべて控訴人が直接来店又は電話してしたものであると主張し,Fは,これに沿う供述をし,Hは,控訴人の来店の有無が分かる面談記録簿があり,被控訴人支店に保存してあると供述するが,被控訴人は,この客観的な証拠を提出しようとせず,控訴人からの受注を示す唯一の客観的証拠となるべき注文伝票の記載について,前記のような状況であって,その記載からは来店によるものか,電話によるものか,さらには,当該取引日の受注なのか,前営業日の受注なのかも判然としないということになり,注文伝票によっては,控訴人が直接注文したことを直ちに認めることはできず,他に,控訴人が直接来店又は電話して注文したことを認めるに足りる直接的な証拠はない。 ところで,控訴人は,従前,証券取引の買付注文はいずれも被控訴人支店に来店の上,被控訴人担当者の勧誘,説明を受けて,これに応じていたものであり,信用取引についてのみ,従前と異なり,電話で買付注文をしていたとは考えにくい(この点は,被控訴人も,当初は,来店による注文が主である旨の主張をしていたが,控訴人から,受注日時に来店が不可能であると主張され,後には,電話による注文が主である旨主張を変遷させている。)し,また,後記のとおり控訴人が毎月の月次報告書の回答書を,必ず来店して直に説明を受けた上,提出していたことに照らしても,控訴人が電話で買付注文をしていたとは考えられない(したがって,Fの控訴人から電話で注文を受けた旨の供述は信用し難い。)。そうすると,控訴人が直接注文したとすれば,被控訴人支店に来店してしたものというべきであるが,別紙三の右欄に1(通勤中),2(執務中)又は5(ゴルフコンペ出席)と記載してある日時には,おおむね控訴人が来店することが不可能なものと認められる(ただし,2(執務中 してしたものというべきであるが,別紙三の右欄に1(通勤中),2(執務中)又は5(ゴルフコンペ出席)と記載してある日時には,おおむね控訴人が来店することが不可能なものと認められる(ただし,2(執務中)のうち午後の日時(通常の昼休み時間中)のものについては来店が不可能とは直ちに認め難い。また,3(出張中)は,都内出張がほとんどであるので,出張(時間が分からない。)の前後に来店が不可能とは直ちに認め難い。)ので,これらに係る受注については,少なくとも控訴人が個別的な売買注文をしていないと認めざるを得ない(これを覆すに足りる証拠はない。)し,その余の受注についても,控訴人が来店して注文したことを認めるに足りる客観的な証拠はない。なお,控訴人は,後記のとおり,毎月1回必ず被控訴人支店に来店して月次報告書の回答書を提出していたところ,その日は,平成8年10月14日,11月14日,12月16日,平成9年1月23日,2月20日,3月17日,4月11日,5月22日,6月18日,7月10日,8月11日,9月10日(及び10月16日)であるが,そのうちの平成8年11月14日(14時2分日CMKの売,14時58分東芝の買)及び平成9年6月18日(13時18分日石の買)を除いては,売買注文をしたとは認められず,回答書の提出のためだけに来店したと認められるから,控訴人が実際に来店して売買注文をしたことも少なかったと推認される(Fは,その担当中の約4年間を通じて,控訴人が週に1回,多いときは2,3回必ず来店していたと供述するが,信用取引開始前の取引状況に照らし,控訴人がそのように多数回来店していたとは到底考えられず,同供述は信用し難い。)。 (6) 平成8年10月24日に最初の現引き(アジア航測)をしているが,これは,信用取引において建玉が多くなったので,被控訴人担当 ように多数回来店していたとは到底考えられず,同供述は信用し難い。)。 (6) 平成8年10月24日に最初の現引き(アジア航測)をしているが,これは,信用取引において建玉が多くなったので,被控訴人担当者の判断,提案によりされた。その後の現引きも,おおむね同様の理由又は相場の回復が期待できないことから,被控訴人担当者の判断,提案によりされた。 また,同年11月ころに至り,Fは,円安状態であり利益を確定してはどうかと買付済みの外債の売却を勧めたところ,控訴人が最終的にこれに同意したことから,FとHは,同月21日,外債の一部を売却した。そして,同売却代金で,新たにダイナミックオープンを購入することを勧めたところ,控訴人が最終的にこれに同意したことから,Fは,翌日,ダイナミックオープンの買付注文処理をした。Fらがダイナミックオープンを勧めた主な理由は,同株式投資信託だとMMF(及び外国債券)と異なり信用取引の担保(委託保証金)にすることができるためであった。その後,同月25日にも,同様の理由で,外国債券の売却及びダイナミックオープンの買付けがされた。 そして,上記取引による株式投資信託が信用取引の委託保証金とされたことから,控訴人の信用取引の枠が一層拡大することになり,信用取引が増大した(被控訴人は,控訴人の信用取引の規模,頻度等は他の顧客と比較しても平均的な取引規模にとどまっていると主張するが,Fが同旨の供述をするだけで,何らの裏付資料が存しないにかかわらず,被控訴人は,その点についての資料は提出しないとしている。)。 (7) 被控訴人は,控訴人に対し,毎月末締めで,月次報告書及び回答書を送付していたが,これらには,現物取引,信用取引等の各取引明細(銘柄,取引区分,数量・株数,単価,金銭の移動明細(入出金,売買代金,決済代金)等),預り金残高の明 毎月末締めで,月次報告書及び回答書を送付していたが,これらには,現物取引,信用取引等の各取引明細(銘柄,取引区分,数量・株数,単価,金銭の移動明細(入出金,売買代金,決済代金)等),預り金残高の明細,預り有価証券等の明細(銘柄,数量,買付単価,預り日等),信用取引・発行日取引建玉明細(銘柄,約定日,売・買,株数,単価,作成基準日現在の時価,評価損益,諸経費・受取利息等)等が記載され,当該月中の個々の取引の明細,月末時点の預り金,預り証券等の明細,建玉明細は分かるものの,当該取引でどの程度の損益が出たのか,当該時点での控訴人の被控訴人支店における預かり資産の総額がどの程度かなどは直ちに判明しないものであった。そして,控訴人は,郵送されたこれら書類を受領して,毎月,被控訴人支店に持参して,個々の取引内容に関して具体的説明を受けた上,回答書に署名押印して,被控訴人支店に提出していた。その際,控訴人は,別紙一の取引により,損金が発生したことに苦情を述べたことはあったが,取引銘柄,取引自体等に異議を述べ,また,手数料稼ぎである等の苦情や抗議をしたことはなかった。 (8) この間,平成9年1月以降,株相場が下がり続け,控訴人の委託保証率が30パーセントを割ったことから,Fは,同年4月10日ころ,控訴人に対し,その旨を連絡し,Hを交えて控訴人と協議し,日本特殊陶株を売却して保証金の維持率を確保すること,宇部興を売却して日立電線等の銘柄を買い付け,少しずつ損失を取り戻すということになったが,同年6月ころから7月ころにかけて次第に信用取引の損金が多くなった。このような時期に,控訴人は,Fらの求めに応じて,同年6月19日付けで,被控訴人が独自に指定した銘柄の信用取引において,被控訴人が増し担保又は発注時前の保証金の預託を請求した場合はこれに応じる旨及び被控 うな時期に,控訴人は,Fらの求めに応じて,同年6月19日付けで,被控訴人が独自に指定した銘柄の信用取引において,被控訴人が増し担保又は発注時前の保証金の預託を請求した場合はこれに応じる旨及び被控訴人が代用証券の範囲,掛目を制限した場合はこれに従う旨の信用取引に関する確認書を差し入れた。 ただし,信用取引期間中,取引当初の時期を除いては,委託保証金が不足した場合でも,控訴人において現金を支払って補充したことはなく,他の証券の売却等でまかなわれた。また,現引きについても,他の証券を売却して現引きの代金に充てており,控訴人において現金を支払ったことはなかった。 (9) 控訴人は,Fから,株式相場が下落していて損が出ているなどといわれていたところ,平成9年9月下旬に至り,アメリカで公認会計士の試験に合格し,会計分野の業務に就いていて簿記会計に詳しい控訴人の長女が帰国したので,同女に被控訴人との取引内容について相談し,同女において,被控訴人支店に問い合わせをし,FとHから取引内容について説明を受けた上,信用取引を始めた時点と現時点との控訴人の資産の簿価の差額を計算したところ,約3000万円もの簿価損が生じていることが判明したため,控訴人は,被控訴人との取引をやめる方向で処理することとし,かつ,弁護士に相談するなどして,被控訴人に対する損害の賠償(損失のてん補)を求めたが,拒否されたため,調停を経て,本訴を提起した。 2 不法行為の成否について(1) 一任取引以上認定の事実によれば,控訴人は,信用取引のすべてについて予め来店又は電話して自ら売買の指示をしたものではないものの,毎月月次報告書の送付を受け,自ら被控訴人支店に来店して個々の取引内容について説明を受けて回答書に署名押印して提出していたのであるから,事後的には信用取引のすべてについて承 をしたものではないものの,毎月月次報告書の送付を受け,自ら被控訴人支店に来店して個々の取引内容について説明を受けて回答書に署名押印して提出していたのであるから,事後的には信用取引のすべてについて承諾していたものと認められる。したがって,信用取引をもって無断売買で無効であるということはできない。 控訴人がこのような信用取引を開始したのは,被控訴人担当者Fらから,預かり資産(証券)高が4000万円を超えていることから,これらを委託保証金に充当して新たな資金を拠出することなく信用取引を開始することができるものとして,信用取引を勧められてこれに応じたものであり,その際,控訴人は従前から主として被控訴人担当者の勧めに従って証券取引をしていたもので,証券取引の知識,経験を十分に有していて自ら株価の動向を予測して株の売買注文ができるような状態ではなかったので,被控訴人担当者から勧められるままに一任取引(証券業者が顧客から売買の別,証券の銘柄,価格,数量等の決定を一任され,顧客の計算で行う売買取引)的に信用取引をすることを任せたものと推認される。これに対し,被控訴人は,控訴人が旅行していた時期や取引相場が悪くなった期間に取引がないことから一任取引でないと主張するが,一任取引は不相当,不適法な取引であるとされていた(旧証券取引法50条1項3号)のであるから,取引担当者としても,顧客が不在の期間中は取引を控えるのは当然であり,また,顧客の委託を受けて取引をしているので,取引相場が悪くなった期間にも取引を控えることは取引担当者の選択として当然にあり得ることであるから,被控訴人の主張は理由がない。 (2) 適合性の原則次に,適合性の原則は,証券会社が顧客に対する投資勧誘に際し,顧客の投資目的,財産状態,投資経験等に照らし,不適合な証券取引を勧誘してはならない ,被控訴人の主張は理由がない。 (2) 適合性の原則次に,適合性の原則は,証券会社が顧客に対する投資勧誘に際し,顧客の投資目的,財産状態,投資経験等に照らし,不適合な証券取引を勧誘してはならないというものであり,信用取引は,一定の投資経験,知識,資力等を求められ,投資額に比べて大きな利益が期待できる反面,予想と違った場合には損失も大きくなる危険性のあるハイリスク・ハイリターンの商品である(それゆえ,被控訴人支店では,信用取引を開始するに先立ち,副支店長クラスによる面談・説明が義務づけられていた。)ところ,控訴人は,大学を卒業し,長年都庁に勤めた後,会社役員をしていたもので,証券取引開始当時約5000万円の資産を保有していたが,その直前に購入した4000万円余りの外国債券は,為替リスクを除けば,当時の銀行金利等と比較してかなり高い確定利率による利益が見込まれたものであるし,この購入自体も被控訴人担当者の勧めによるものであるから,控訴人の上記のような経歴,資産保有をもって控訴人に信用取引をする適合性があるということはできず,また,控訴人が年平均10回程度の個別的な株式等の証券取引をしてきたとしても,いずれも被控訴人担当者の勧めに従って取引してきたものであり,控訴人において継続的に信用取引をすることにより,上記外国債券購入時に見込んでいた月額20万円程度の利益を上げ得る程の投資知識,経験等を有していたということは到底できないから,被控訴人担当者が控訴人に信用取引を勧めたのは,適合性の原則に反するものというべきである(それゆえ,被控訴人担当者は,控訴人に対し,一任的な取引をすることを前提に信用取引の勧誘をしたものと推認される。)。 (3) 過当取引(取引の過当性)そして,信用取引期間は約1年間(買付期間は約11か月間)で,その約定買付注文件 人に対し,一任的な取引をすることを前提に信用取引の勧誘をしたものと推認される。)。 (3) 過当取引(取引の過当性)そして,信用取引期間は約1年間(買付期間は約11か月間)で,その約定買付注文件数は117回に及んでおり(売付けも同様),1か月平均約10件,平均して2営業日で1件あり(売付けも併せると,1か月平均約20件,平均して1営業日で1件あることになる。),1日に数銘柄の売買がされたことも少なくない状態であり,信用取引による手数料額は1170万7334円に達しており,後記控訴人の被った損害額(過失相殺前)の約33パーセントになっている。控訴人の従前の証券取引が年間平均10件弱であったことなどの控訴人の証券取引経験,投資目的・指向等に照らして,Fにより一任取引的に行われた信用取引は,多量,頻繁で,社会的相当性を逸脱した過当取引に当たるというべきであり,被控訴人担当者の手数料稼ぎといわれてもやむを得ないといわざるを得ない。 (4) 以上のとおりで,Fにより行われた控訴人の名義及び計算による信用取引は,当初から一貫して一任取引的に行われたものであり,Fらにおいて控訴人にこのような信用取引を勧誘して承諾させたことは,適合性の原則に反するものであり,しかも,その取引内容は過当売買に当たるものというべきであるから,全体として違法なものとして不法行為を構成するというべきであり,被控訴人は,Fらの使用者として,信用取引により控訴人が被った損害を賠償すべき責任を負うものである。 3 損害について(1) 信用取引による損害信用取引による損害額は,各取引に係る株式について,(買付代金+手数料)-(売却代金-諸税-手数料)の損益計算をした総和であり,その開始時である平成8年9月24日から最終精算時点である平成9年11月11日(15時時点の終値)までの計 る株式について,(買付代金+手数料)-(売却代金-諸税-手数料)の損益計算をした総和であり,その開始時である平成8年9月24日から最終精算時点である平成9年11月11日(15時時点の終値)までの計算をすることになる。そして,現引きした分についても,現引きは,信用取引による買付けをした結果である(しかも,被控訴人担当者の判断,提案によりされた。)から,現引きにより株を取得したことによるその後の損害も信用取引による損害というべきである。 以上により損害額を計算すると,控訴人主張のとおり,次のとおりとなる。 ア信用取引による現引分損害(客渡分を除く。) 535万8586円別紙計算表NO1のとおりイ信用取引損害分 2194万0486円別紙計算表NO2(計算書NO2①ないし⑧の説明を含む。)のとおりウ控訴人が引き取った株の損害(客渡分) 1116万8783円別紙訂正分計算書NO3(訂正分計算表NO3内訳を含む。)のとおりエ控訴人が被控訴人から信用取引による現金の振込みを受けた金額(甲25)339万0682円オ損害金合計(ア+イ+ウ-エ) 3507万7173円(2) 過失相殺本来,証券取引は投資家が自己の判断と責任において行うべきものである(自己責任の原則)ところ,控訴人は,Fらから信用取引をすることを勧められるままこれに応じ,Fに対し一任取引的に信用取引を開始し,これを継続することを許容したものであること,控訴人に対して毎月月次報告書(回答書を含む。)が送付され,これを検討すれば信用取引の状況がどうなっていたかは判明し得るものであり,信用取引を継続すべきか否かの判断をすることはできたはずであるのに,Fらの説明を信用して信用取引を継続していたもので 送付され,これを検討すれば信用取引の状況がどうなっていたかは判明し得るものであり,信用取引を継続すべきか否かの判断をすることはできたはずであるのに,Fらの説明を信用して信用取引を継続していたものであることなどに照らすと,控訴人にも,信用取引による損害の発生及び拡大について相当の落ち度(過失)があったというべきであり,以上の本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると,信用取引による控訴人の被った損害額について6割の過失相殺をするのが相当と認める。 したがって,過失相殺後の損害額は,1403万0869円となる。 (3) 弁護士費用控訴人が本件訴訟の提起・追行をその訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであるところ,本件事案の内容,上記請求認容額等本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると,控訴人が被控訴人に賠償として求め得る弁護士費用相当損害金は,150万円を相当と認める。 (4) 結論そうすると,(2)の過失相殺後の損害額に上記弁護士費用相当損害金を加えた損害額は,1553万0869円となるから,被控訴人は,控訴人に対し,同金額とこれに対する不法行為の日の後である平成10年7月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をすべきである。 4 よって,控訴人の請求を棄却した原判決を上記の限度で変更し,職権で仮執行宣言を付することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第七民事部裁判長裁判官奥山興悦裁判官杉山正己裁判官山崎まさよ(以下, 別紙計算表省略) 別紙計算表省略)
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