主文 本件保釈取消決定を取消す。理由 本件抗告申立の理由は別紙記載のとおりである。よつて被告人に関する盛岡地方裁判所一関支部昭和二十八年(わ)第四一号公職選挙法違反被告事件の記録を調査するに、昭和二十八年六月十三日同支部に繋属した公訴事実は「被告人は、昭和二十八年四月十九日施行の衆議院議員選挙に際し、岩手県第二区から立候補したAの選挙運動者であり且つ同区の選挙人であるが、(一) 同年三月三十一日頃、及同年四月二日頃の両回に亘り、江刺郡a町字bの自宅において(被告人)Bから、同候補者のため投票並に投票取纏等の選挙運動方を依頼せられ、その費用並に報酬としてその都度現金一万円宛、計二万円の供与を受け、(二) 同年四月五日頃、右自宅において被告人Cから被告人D、同E、同Bが前同趣旨の下に提供したる現金十万円の供与を受けたものである。」というのであつて、被告人は同年五月二十五日付水沢簡易裁判所裁判官の勾留状によつて勾留され同年六月十九日弁護人よりの保釈請求に対し検察官の保釈相当の意見の下に同日一関簡易裁判所裁判官の保釈許可決定に基き即日釈放となつたものであるが同支部第二回公判期日において検察官の起訴状朗読後被告人は同人に関する公訴事実につき冒頭事実は相違なく、第九の(一)は記載の日時場所においてBから各記載の現金を受取つたことは間違なきも、その趣旨は事務費として受取つたもの、同(二)は記載の日時頃自宅にCが残包を置いて行つたのを当日午後九時頃開けて見て始めて金ということを知り、その翌々日先に受取つていた二万円と一緒に全部Eに返した、従つてD外二名の提供に係る現金の供与を受けたようなことはない旨供述したこと、被告人の右被告事件に対する陳述に先立ち弁護人より公訴事実と不可分の関係にあると考え ていた二万円と一緒に全部Eに返した、従つてD外二名の提供に係る現金の供与を受けたようなことはない旨供述したこと、被告人の右被告事件に対する陳述に先立ち弁護人より公訴事実と不可分の関係にあると考えられる捜査関係につき検察官に釈明を求めたい旨の発問があつたが許されなかつたこと並に同支部はその翌二十七日被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由があるとして前記保釈許可決定を取消す旨決定し同年三月二日被告人を収監したことを各確認しうる。 従つてD外二名の提供に係る現金の供与を受けたようなことはない旨供述したこと、被告人の右被告事件に対する陳述に先立ち弁護人より公訴事実と不可分の関係にあると考えられる捜査関係につき検察官に釈明を求めたい旨の発問があつたが許されなかつたこと並に同支部はその翌二十七日被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由があるとして前記保釈許可決定を取消す旨決定し同年三月二日被告人を収監したことを各確認しうる。<要旨>そこで右取消原因につき検討を加えるに、本件は同支部第二回公判期日に被告人出頭の上いわゆる罪状認否</要旨>の段階を終了したに止り未だ証拠調に入らず続行となつたものであり従つて裁判所は爾後如何なる証拠が提出されるか全く不明の段階である。一方被告人の供述の如きは憲法及び刑事訴訟法において原則として絶対的な証拠とは認めていないことは憲法第三十八条、刑事訴訟法第三百十一条第三百一条第三百十九条の趣旨から洵に明瞭であるから仮りに公判廷で自白かあつたとしてもこれのみで有罪として刑罰を科せられることはないのである。従つて罪状認否の内容如何の如きはいわゆる「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の有無の決定につき左程重要な役割をもつものでないことは言を俟たない。しかるに被告人は前記の如く全面的に公訴事実を否認した訳でもないのであるし各事状を綜合して考察するも本件は未だ罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由があると認めることは困難である。いわゆる右相当の理由とは単なる主観的抽象的な判断では足りない。客観的に妥当するもの換言すれば具体的な証拠を掴んだ場合でなけれは裁判所は之れありと断じ職権をもつて保釈取消決定の如きはなしえないものであるというべきであるのに全記載を通じても特に右罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由を発見 言すれば具体的な証拠を掴んだ場合でなけれは裁判所は之れありと断じ職権をもつて保釈取消決定の如きはなしえないものであるというべきであるのに全記載を通じても特に右罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由を発見しえないのであるから輙く之れありと認定し職権をもつてなした保釈取消決定は失当であり本件抗告は理由がある。以上のとおりであるから当裁判所は刑事訴訟法第四百二十六条第二項に則り主文のとおり決定する。(裁判長裁判官松村美佐男裁判官檀崎喜作裁判官有路不二男)
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