平成27年4月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成26年(ワ)第5011号損害賠償請求事件口頭弁論の終結の日平成27年3月24日判決当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 本件訴えを却下する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 原告のために控訴の付加期間を30日と定める。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,1億8150万円及びこれに対する平成26年12月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,「被告が中華人民共和国内において製造・販売しているエピクロロヒドリン(以下「被告製品」という。)は,別紙製造方法目録記載の方法により製造されているから,蝶理株式会社(以下「蝶理」という。)が被告製品を日本国内に輸入し販売する行為は,原告の特許権を侵害するものであり,被告が蝶理に対し被告製品を販売する行為は,蝶理を通じて日本国内で被告製品を販売することを目的としており,蝶理の特許権侵害行為と共同不法行為の関係にある」旨主張して,被告に対し,民法709条,719条1項ないし2項,特許法102条2項に基づき,損害賠償金1億8150万円及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。被告は,国際裁判管轄が認められないとして本件訴えの却下を求めている。 1 前提事実(後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告の特許権原告は,発明の名称を「グリセロールからジクロロプロパノールを製造するための方法であって,該グリセ 1 前提事実(後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告の特許権原告は,発明の名称を「グリセロールからジクロロプロパノールを製造するための方法であって,該グリセロールが最終的にバイオディーゼルの製造における動物性脂肪の転化から生じる方法」とする特許第4167288号(以下「本件特許1」という。)の特許権(以下「本件特許権1」という。)及び特許第4642142号(以下「本件特許2」という。)の特許権(以下「本件特許権2」という。)を有している(甲1,2)。 (2) 本件発明ア本件特許1の特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(甲5。以下,この発明を「本件発明1」という。)。 「グリセロールを,アジピン酸の存在下で,塩素化剤との反応に付すジクロロプロパノールの製造方法」イ本件特許2の特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(甲6。以下,この発明を「本件発明2」という。)。 「アジピン酸の存在下でグリセロールを塩素化剤との反応に付して得られたジクロロプロパノールの少なくとも1種のフラクションを脱塩素化水素反応に付す,エピクロロヒドリンの製造方法」(3) 被告及び蝶理の行為被告は,中華人民共和国の法令に基づいて設立された,化学農薬製造業を営む会社である(弁論の全趣旨)。蝶理は,合成樹脂,化学工業薬品等の輸出入,売買,仲立その他の業務を目的とする株式会社である(甲14)。 被告は,中国国内において被告製品を製造し,蝶理に対して販売し,蝶理は,被告製品を日本に輸入し,日本国内で販売している(甲13,乙2の 1・2,乙3)。 2 本案前の争点本件訴えにつき国際裁判管轄が認められる 製造し,蝶理に対して販売し,蝶理は,被告製品を日本に輸入し,日本国内で販売している(甲13,乙2の 1・2,乙3)。 2 本案前の争点本件訴えにつき国際裁判管轄が認められるか否か 3 本案前の争点に関する当事者の主張(1) 原告の主張ア被告製品は,別紙製造方法目録記載の方法により製造されているから,蝶理が,被告製品を日本に輸入する行為,及び日本国内において被告製品の譲渡及び譲渡の申出を行う行為は,特許法2条3項3号により,本件発明1及び2の実施行為に該当し,本件特許権1及び2を侵害する行為である。そして,被告は,被告製品を蝶理に対して販売したものであるところ,これは,蝶理という日本の商社を通じて,日本国内で被告製品を販売することを目的として行われたものであるから,被告の行為は,蝶理による本件特許権1及び2の侵害行為と,共同不法行為(民法719条1項又は2項)の関係にある。したがって,原告は,民事訴訟法3条の3第8号に基づき,日本の裁判所に特許権侵害に係る訴えを提起することができる。 イ本件では,被告の蝶理に対する販売行為により原告の有する日本の特許権が侵害された以上,損害発生地は日本国内であり,被告の行為と損害発生との条件関係もある。また,被告は,蝶理による特許権侵害により原告が日本国内において損害を被ることを予見し得たものであるから,民事訴訟法3条の3第8号の括弧書きの場合には該当しない。したがって,同号の文言からして日本の国際裁判管轄が認められるべきである。共同不法行為の成立が主張されていても,国際裁判管轄の審理では,関連共同性の主張立証は不要であると解すべきである。 ウ仮に関連共同性の主張立証が必要であるとしても,本件では,客観的関連共同性を基礎付ける事実が立証されている。 ても,国際裁判管轄の審理では,関連共同性の主張立証は不要であると解すべきである。 ウ仮に関連共同性の主張立証が必要であるとしても,本件では,客観的関連共同性を基礎付ける事実が立証されている。すなわち,被告は,被告製品が蝶理によって日本に輸入され日本国内で販売されることを認識した上 で,少なくとも,中国国内で被告製品の販売及び引渡しを行ったものであるし,また,被告は,蝶理に対し,日本において特許に関する問題が生じた場合には被告において問題を解決する旨特別に表明しており,このことからすれば,被告が蝶理に対し日本市場向けのエピクロロヒドリンとして被告製品を積極的に売り込んだこと,及び蝶理が日本向けの被告製品を独占的に被告から購入し日本において流通させていたことが窺われるからである。 エなお,本件において民事訴訟法3条の9に規定する「特別の事情」が存在しないことは明らかであるから,同条により本件訴えが却下されるべきものではない。 (2) 被告の主張ア原告の有する特許権について日本国内で損害が生じたとしても,それを生じさせたのは,蝶理による日本国内での被告製品の譲渡等の行為であって,被告が中国で行った製造販売行為ではない。原告は,被告の行為が蝶理との共同不法行為に当たる旨主張するが,国際裁判管轄に関する判例法理及び学説によれば,共同不法行為の事案においては比較的強固な関連共同性が要求されているところ,被告は,中国における被告製品の製造業者であり,蝶理は,被告製品以外の他社製品も輸出入販売する独立した商社であり,被告と蝶理との取引関係は,日本国内に支店も子会社も持たない中国所在の被告が,日本の商社である蝶理に被告製品を販売しているというものであって,通常の製造業者と商社との間の輸出入取引にすぎない。 原告が指摘す 理との取引関係は,日本国内に支店も子会社も持たない中国所在の被告が,日本の商社である蝶理に被告製品を販売しているというものであって,通常の製造業者と商社との間の輸出入取引にすぎない。 原告が指摘する被告の表明は,製品の製造業者として販売代理店から時に提出を求められる一般的なものにすぎず,原告の主張を裏付けるものではない。したがって,被告が蝶理を通じて日本国内において当該製品を輸入販売しているなどということはできず,被告の行為と蝶理の行為が共同不法行為に当たると評価できる余地はない。 イよって,本件訴えにつき,日本の裁判所の国際裁判管轄はないから,本件訴えは却下されるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 民事訴訟法3条の3第8号にいう「不法行為があった地が日本国内にある」として国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,被告が日本国内でした行為により原告の権利利益について損害が生じたか,被告がした行為により原告の権利利益について日本国内で損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りる(最高裁平成13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁,最高裁平成26年4月24日第一小法廷判決・民集68巻4号329頁参照)。そして,本件のように,原告が共同不法行為を主張する場合には,原則として,上記行為として,被告を含む共同不法行為者らの行為の関連共同性を基礎付ける客観的事実関係,又は被告がした教唆ないし幇助行為についての客観的事実関係を証明する必要があると解すべきである。 2 本件において,原告は,蝶理による被告製品の輸入販売行為が本件特許権を侵害する行為であるとし,被告が被告製品を蝶理に対して販売した行為が,蝶理との共同不法行為に当たるとして,民事訴訟法3条の3第8号に基づき国際裁判管轄が認められると主張する。 販売行為が本件特許権を侵害する行為であるとし,被告が被告製品を蝶理に対して販売した行為が,蝶理との共同不法行為に当たるとして,民事訴訟法3条の3第8号に基づき国際裁判管轄が認められると主張する。そして,原告は,共同不法行為の関連共同性を裏付ける客観的事実関係又は教唆ないし幇助行為についての客観的事実関係として,①被告は被告製品が蝶理によって日本に輸入され日本国内で販売されることを認識していたこと,②被告は蝶理に対し日本において特許権侵害の問題が生じた場合には被告において問題を解決する旨の表明をしていること,③被告は蝶理に対し被告製品を積極的に売り込んだこと,④蝶理は日本向けの被告製品を独占的に被告から購入していたことを主張する。 そこで検討すると,本件において,被告は,日本の商社である蝶理に対して被告製品を販売したものであり(乙2の1・2,乙3),また,この販売に際して,「今後,日本において特許に関する問題が発生することがあれば, 江蘇揚農化工集団有限公司は,蝶理株式会社に協力し,誠心誠意,問題を解決することを約束する。ここに特別に表明する。」旨の声明(甲13)を差し入れたと認められるから,被告は被告製品が日本に輸入され日本国内で販売されることを認識していたと認められ(前記①),かつ,被告は蝶理に対し日本において特許権侵害の問題が生じた場合には被告において問題を解決する旨の表明をしていると認められる(前記②)。しかしながら,一方,前記③及び④の事実についてはこれを認めるに足りる証拠がなく,後者については,かえって,被告と蝶理との間の取引は独占的なものでないことが認められる(乙3)。そして,前記①及び②の事実は,一般的な製造業者と商社との間の国際商取引の範囲を超えるものではないといえるから,これらの事実のみをもって, との間の取引は独占的なものでないことが認められる(乙3)。そして,前記①及び②の事実は,一般的な製造業者と商社との間の国際商取引の範囲を超えるものではないといえるから,これらの事実のみをもって,被告と蝶理の行為の関連共同性を基礎付けるものということはできないし,蝶理に対する被告の教唆ないし幇助行為を認めることもできない。 したがって,関連共同性を基礎付ける客観的事実関係又は教唆ないし幇助行為についての客観的事実関係が証明されているとはいえず,その他本件訴えにつき我が国の国際裁判管轄を認めるべき特段の事情も窺われないから,本件において「不法行為があった地が日本国内にある」とは認められない。 3 なお,原告は,被告が被告製品を中国国内で蝶理に対して販売した行為と日本国内における損害発生(本件特許権侵害)との間には条件関係が存在するから,蝶理との共同不法行為についての関連共同性の主張立証がなくても,被告の上記行為のみに基づき国際裁判管轄が認められる旨も主張する。 しかしながら,そもそも,本件において原告は,被告の行為が蝶理との共同不法行為に当たる旨を主張しているのであって,蝶理の行為と無関係に被告の行為のみで不法行為に当たる旨の主張はしていないから,そうであれば,国際裁判管轄の審理においても,共同不法行為を前提とした関連共同性等の客観的事実関係の証明が必要であるというべきである。 また,属地主義の原則が採られている我が国特許法の下においては,被告による中国国内における被告製品の販売行為それ自体は,我が国特許法に照らして適法な行為であり,被告による中国国内における被告製品の販売行為それのみでは我が国特許法上違法となり不法行為の成立要件を具備するものではないというべきである。このように,我が国特許法に照らして適法な行為のみを であり,被告による中国国内における被告製品の販売行為それのみでは我が国特許法上違法となり不法行為の成立要件を具備するものではないというべきである。このように,我が国特許法に照らして適法な行為のみをとらえてこれにより我が国特許法に基づき原告が有する権利利益(本件特許権)について損害が生じたということはできない。 したがって,少なくとも本件について,関連共同性の主張立証もないのに,被告による中国国内における被告製品の販売行為のみに基づき我が国の国際裁判管轄を認めることはできない。 4 以上のとおりであって,本件訴えは,我が国の国際裁判管轄が認められないものとして不適法であるから,これを却下することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官沖中康人 裁判官宇野遥子 裁判官藤田壮は,転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官沖中康人 (別紙)当事者目録 ベルギーブリュッセル<以下略>原告ソルヴェイ・エスエー同訴訟代理人弁護士窪 田 英一郎柿内瑞絵乾 裕介今井優仁中岡起代子同訴訟代理人弁理士塩澤寿夫渡辺紫保同訴訟復代理人弁護士石原一樹中華人民共和国江蘇省<以下略>被告江蘇揚農化工集団有限公司 澤寿夫渡辺紫保同訴訟復代理人弁護士石原一樹中華人民共和国江蘇省<以下略>被告江蘇揚農化工集団有限公司同訴訟代理人弁護士山内貴博郷家駿平同訴訟復代理人弁護士近藤正篤以上 (別紙)製造方法目録 以下の第1および第2の工程からなる,エピクロロヒドリンの製造方法。 第1の工程:グリセロールを,アジピン酸の存在下で,塩素化剤との反応に付し,ジクロロプロパノールを得る。 第2の工程:第1の工程により得られたジクロロプロパノールの少なくとも1種のフラクションを脱塩素化水素反応に付し,エピクロロヒドリンを得る。
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