平成16年3月31日判決言渡平成13年(ワ)第25931号損害賠償請求事件判決 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨被告は,原告らに対し,それぞれ5999万1409円及びこれに対する平成11年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告らの長女であるAが,被告が開設していたB病院(現C病院)(以下「被告病院」という。)において死亡したところ,原告らが,被告に対し,被告病院においては,①Aの痰詰まり等による呼吸停止に備えて十分な対応をとらなかった,②Aが心肺停止に陥った際に適切な対応をとらなかった過失があるとして,不法行為に基づき,それぞれ5999万1409円の損害賠償及びこれに対するA死亡の日である平成11年3月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求をしている事案である。 1 争いのない事実等(1)ア原告Dは,A(昭和42年4月4日生)の父であり,原告Eは,Aの母である(争いのない事実,甲C2)。 イ被告は,東京都西東京市ab丁目c番d号において,被告病院を開設している(争いのない事実)。 ウ被告病院脳外科のF医師及び内科のG医師は,被告病院において,Aの治療に携わっていた者であり,H看護師は,被告病院において,Aの看護に携わっていた者である(争いのない事実,乙A5ないし7,証人G,同H)(2) Aは,かねてからてんかん治療のため,抗けいれ 治療に携わっていた者であり,H看護師は,被告病院において,Aの看護に携わっていた者である(争いのない事実,乙A5ないし7,証人G,同H)(2) Aは,かねてからてんかん治療のため,抗けいれん剤を服用していたが,平成10年9月20日(以下,平成10年を表すときは,年を記載しない。)午後3時ころから,数回にわたって全身けいれん発作を起こしたため,原告らは,同日午後8時30分ころ,Aを車で被告病院に連れて行った。Aは,被告病院を受診し,そのまま被告病院に入院した(乙A1,原告E本人)。 (3) 別紙診療経過一覧表中の診療経過欄のうち,下線の引かれていない各記載部分は,当事者間に争いがなく,青字の部分は裁判所が証拠欄記載の証拠によって認定した事実であり,それらによれば,本件診療経過の要旨は以下のとおりである。 ア Aは,同日午後8時30分ころ,被告病院の集中治療室に入院したが,集中治療室入室直後の意識レベルはジャパンコーマスケール(JapanComaScale)Ⅲ-300(以下単に数字だけで表示する。)であり,気管内挿管を施行されるとともに,IVH(経中心静脈栄養法)カテーテルを挿入された。 イ 9月26日,Aの意識レベルは,Ⅰ-3に回復し,被告病院は,Aに対し,経管栄養を開始した。 ウ被告病院は,10月3日,Aに対し,気管切開術を施行した。同月5日,Aは,集中治療室から東館3階病棟に転室し,同月13日,内科に転科した。 エ Aは,11月4日,経口からの水分摂取を開始し,同月6日,プリン,ヨーグルト等おやつの摂取を開始し,同月13日,気切カニューレを高研型(カフなし)に変更した。 オまた,同月30日には,経管栄養から経口摂取(7分粥食)へ変更し,12月5日から,常食 ヨーグルト等おやつの摂取を開始し,同月13日,気切カニューレを高研型(カフなし)に変更した。 オまた,同月30日には,経管栄養から経口摂取(7分粥食)へ変更し,12月5日から,常食へ変更した。 カ Aは,同月15日午前5時ころに,心肺停止に陥ったが,心臓マッサージ及びアンビューバッグによる人工呼吸を施行された結果,自発呼吸を再開した。 Aは,その後は集中治療室で治療を受けていたが,平成11年3月24日午後6時10分,再度心停止状態に陥り,同日午後7時19分,死亡した。 2 争点(1) 被告病院が,Aの痰詰まり又は誤嚥による呼吸停止に備えて十分な対応処置を取ることを怠った過失の有無(2) 被告病院が,Aの心電図モニターがフラットになっていることが判明した後に適切な対応を怠った過失の有無(3) 因果関係(判断の必要がなかった。)(4) 損害額(判断の必要がなかった。) 3 争点についての主張争点に関する当事者の主張は,別紙争点整理表記載のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 診療経過等前記第2,1に認定した事実,別紙診療経過一覧表における当事者間に争いのない事実及び裁判所が認定した事実に加えて,下記の証拠によれば,Aに対する診療経過等につき,以下の事実が認められる。 (1)ア Aは,幼少のころから精神の発達が遅延し,16歳のころからは,てんかん治療のため,I病院やJクリニックを受診し,抗けいれん剤の投与を受けていたが,1箇月に1回程度けいれん発作を起こしていた。Aは,9月20日午後3時ころから,10回から13回ほど,全身けいれん発作を起こし,顔面にチアノーゼが生じ,呼吸状態が不良になったため,同日午後8時30分,原告らの車で被告病院に 作を起こしていた。Aは,9月20日午後3時ころから,10回から13回ほど,全身けいれん発作を起こし,顔面にチアノーゼが生じ,呼吸状態が不良になったため,同日午後8時30分,原告らの車で被告病院に運ばれた。被告病院搬送時,Aの意識レベルは,Ⅲ-100(ジャパンコーマスケールでは,意識レベルを3段階に分類し,グレードⅠは刺激しないでも覚醒している状態,グレードⅡは刺激で覚醒する状態,グレードⅢは刺激をしても意識が覚醒しない状態であり,グレードⅢ-100は痛み刺激を払いのけるような動作をする状態である。)であり,被告病院は,Aを意識障害を伴うけいれん重積状態と診断し,同病院に緊急入院させ集中治療室管理とした。 なお,Aについては,集中治療室管理から10月13日内科に転科するまで,被告病院脳外科のFが主治医となっていた(甲A1,乙A1,B1,証人G,原告E本人)。 イ Aは,同日,集中治療室に入室した後,意識レベルがⅢ-300(痛み刺激にも反応しない)に低下し,舌根は沈下し,喀痰の排出及び吸引が困難であったため,被告病院は,Aに気管内挿管を行い,IVHカテーテルを挿入した。その後,Aの意識レベルは,Ⅱ-30(痛み刺激を加えつつ,呼びかけを繰り返すと,かろうじて開眼する状態)ないしⅢ-100まで回復した(乙A1,2,B1)。 ウ Aは,同月21日には意識レベルがⅠ-3(刺激しないでも覚醒しているが,名前,生年月日が言えない状態)まで回復し,けいれん発作もみられなかったため,同月22日,被告病院は,気管内挿管を止めてチューブを抜去したが,Aは自力で痰を喀出できず,被告病院が痰の吸引を行うも痰が取れず,咽頭喘鳴が強くなり,低酸素状態になったため,被告病院は再び気管内挿管を行った。Aは,その後も,痰の吹き出 めてチューブを抜去したが,Aは自力で痰を喀出できず,被告病院が痰の吸引を行うも痰が取れず,咽頭喘鳴が強くなり,低酸素状態になったため,被告病院は再び気管内挿管を行った。Aは,その後も,痰の吹き出しが多く,血圧も低い状態で推移していたので,被告病院は,引き続き集中治療室においてAの観察を続けた。被告病院は,同月26日からAに経管栄養を始めたが,Aは,同月27日に,けいれん発作を2回起こし,被告病院は,挿管チューブを長い間入れておけないこと,Aの痰の流出が極めて多く,口腔からの吸引だけでは痰を取りきれず閉塞するおそれもあったことから,痰を容易に吸引できるように,Aに対し,気管内挿管を止めて気管切開術を施行する方針を立てたものの,原告らから承諾を得られずこれを見合わせていたが,10月3日,原告らを説得して,Aに対し,気管切開術を行い気管カニューレを挿入した(乙A1,2,B1)。 エ被告病院の看護師らは,Aの入院期間中のほぼ毎日,口腔と気管カニューレの両方からAの痰を吸引しつつ,挿入孔を消毒してY字ガーゼを交換し,週1回から2回気管カニューレの交換を行い,ネブライザー(エアロゾール吸入療法)を1日4回施行し,痰が吸引できないときには,体位交換やタッピング(5本の指先を合わせ,指先で胸背部を軽打することによって,気管支内に詰まった痰を気管側に誘導し,痰の排出を促す手法)等の手法を併用するなどして,痰を出しやすくすることもあった。被告病院の看護師らは,痰の吸引以外にも,Aの病室を訪れるたびに,痰の状態や呼吸状態や顔色,尿が出ているかなどを確認していた(甲B5,乙A1,2,6,8,証人H,同G)。 (2)ア被告病院は,10月5日,Aが重篤期を乗り越え,症状が安定したと判断し,Aを集中治療室から一般病棟である被告病院の東館3階 認していた(甲B5,乙A1,2,6,8,証人H,同G)。 (2)ア被告病院は,10月5日,Aが重篤期を乗り越え,症状が安定したと判断し,Aを集中治療室から一般病棟である被告病院の東館3階に転室させた。Aは,一般病棟に転室した後も,ほとんどの日に,粘性のある多量の痰の吹き出しがあり,しばしば発熱や徐脈が見られ,39度を超える高熱が生じたこともあった(乙A1,6)。 イ Aは,同月13日,原告らの希望もあり,被告病院の脳外科から内科へと転科し,Gが担当医師となった(乙A1,7,証人G)。 ウ同月22日及び同月24日,Aの痰に血液が混入しているのが相次いで認められたので,Gは,肺炎の発症を疑い,同月24日から,肺炎治療のためにセフォメシンの投与を開始し,同月26日,胸部及び腹部のX線撮影を施行した結果,同月27日右下肺の肺炎と診断し,投薬をセフォメシンからハロスボア及びミノベンに切り替えた。その後も,Aには,たびたび血液混入痰が確認されたが,同年11月2日以降には,血液混入痰の喀出は収まり,体温の上昇もみられず,肺炎も軽快するに至った(乙A1,8)。 エ Aは,10月31日,ベッド上でのリハビリを始めた。また,被告病院に入院してからは点滴と経管栄養で栄養を摂取していたが,11月4日からは,経口による水分摂取を開始し,同月7日ころからおやつが開始され,プリン,ヨーグルト等誤嚥のおそれが小さく,誤嚥による危険が比較的小さい食品類が,むせ込まないで食べられるようになった。Gは,同月10日,被告病院耳鼻咽喉科のK医師に対し,Aの咽喉頭に麻痺が生じていないかについて検査を依頼し,同日,K医師は,内視鏡を用いてAの検査をしたところ,声帯が動いているのを確認し,神経麻痺はないとの診断をした。Gは,同月13日, 医師に対し,Aの咽喉頭に麻痺が生じていないかについて検査を依頼し,同日,K医師は,内視鏡を用いてAの検査をしたところ,声帯が動いているのを確認し,神経麻痺はないとの診断をした。Gは,同月13日,K医師の診断等に基づいて,Aが万一誤嚥しても自ら吐き出す力があると判断して,Aの気管カニューレを,カフ付きカニューレからカフなしカニューレへと変更した(乙A1,7,証人G)。 オ同月12日,Aに血液混入痰が確認され,同月13日,Aの右肺に再び肺炎が生じていたことが確認されたが,その後も体温の上昇はみられず平熱を保ち,Aは,ラジオを聞くなどしており活気がみられた。同月19日と同月20日午前6時にも血液混入痰が確認されたが,同日午前7時の痰にはほとんど血液の混じりがなく,以後12月15日にAが心肺停止に陥るまで,血液混入痰は確認されなかった(乙A1)。 カ Gは,同月27日,喀痰培養検査の結果,AがMRSAに罹患していると診断し,翌日からタゴシッドの投薬を開始した。Gは,12月9日から,Aに対し,バンコマイシンの投与を開始したところ,同月10日,Aの顔面が紅潮したので,バンコマイシンの使用を中止し,メロパンに切り換えた(乙A1,7,証人G)。 キ Aの食事は,11月30日には7分粥食へ,12月5日には常食へと変更された。Aの食欲は良好であり,同日から同月15日まで,ほとんどの日に,食事のほぼ全量を摂取し,椅子に座ることもできるようになった。また,11月の終わりごろからは,被告病院の看護師に対し,ときおり笑顔を見せて,手を振るようにもなった(乙A1,7,証人G)。 (3)ア 12月14日から15日にかけての,被告病院東館3階の夜間当直は,H及びL看護師の2名であり,1号室から10号室がHの,11号室から1 を振るようにもなった(乙A1,7,証人G)。 (3)ア 12月14日から15日にかけての,被告病院東館3階の夜間当直は,H及びL看護師の2名であり,1号室から10号室がHの,11号室から16号室がLの担当であった。Aの病室は,6号室でHの担当であった(乙A4,5,6,証人H)。 イ同月14日,Aは,夕食を喉に詰まらせて吐いてしまい,痰の吹き出しもあったものの,呼吸は平静であり,ラ音も軽度であり,自尿も認められ,夕食もすべて食べ,アルバムを胸の上に置いて,看護師に対し指で説明するなどしていた(甲A3,乙A1,原告E本人,証人H)。 ウ Hが,同日午後6時ころ,Aの病室を訪室したところ,Aの体温は36度8分と平熱であったが,痰の噴き出しが認められ,痰のからみがあったので,痰の吸引を行った(乙A1,5,H)。 エ Hが,同日午後9時ころ,Aの病室を訪室したところ,Aの体温は37度6分と上昇していたので,クーリングを行った(乙A1,5,証人H)。 オ Hは,同月15日午前0時ころ,Aの体温を測るためにAの病室を訪室し,Aの体温を計測したところ,Aの体温は37度6分であった(乙A1,証人H)。 なお,原告らは,看護記録(乙A1)には同日午前0時に訪室した旨の記載はなく,したがって,Hは,同日午前0時に訪室していないと主張するが,証拠(乙A1,証人H)によれば,体温表には同日午前0時のAの体温が記録されていること,Hは,同日午前0時3分にAの体温を測ったという証言をしていることが認められ,これらの事実によれば,Hが,同時刻にAの病室を訪室したことは認められる。 カ同日午前3時ころ及び4時30分ころに,HがAの病室を訪室したところ,Aは特に異状を示すことなく眠って られ,これらの事実によれば,Hが,同時刻にAの病室を訪室したことは認められる。 カ同日午前3時ころ及び4時30分ころに,HがAの病室を訪室したところ,Aは特に異状を示すことなく眠っており,心拍数も60台と安定しており,痰の吸引を行ったところ,通常と同じような白色の粘調の痰が引けた(乙A1,6,証人H)。 なお,証人Hは,夜間のAの観察状況について,痰を引くために30分か1時間おきに訪室していたと証言をしている。しかし,証拠(乙A1,証人H)によれば,同日の看護記録には,同日午前3時及び4時30分にAを観察したことを示す記載しかないこと,Hは,看護記録等の記載について,観察して異状がなければ転記しないようにしているものの,同日の記録については,Aの心停止が発生する前の段階の観察内容は重要な情報だと考え,異状がなかったこと及び観察した時刻について,同日の夜勤が明けた午前10時ころに控えのメモから転記したと証言していること,Hは,急変後駆けつけた当直医に対し,午前0時,3時,4時30分と問題がなかったことを告げたと証言していることが認められる。 以上によると,Hは,少なくとも同日においては,体温表及び看護記録に記載されたとおり,同日午前0時ころ,午前3時ころ及び午前4時30分ころの3回,Aの病室を訪室したことは認められるが,それ以外の時刻に訪室した事実をいまだ認めることはできない。 (4)ア Hは,同日午前4時40分ころから,被告病院の東館3階の各個室を回っておむつ交換を行っていたところ,個室の患者のおむつの交換を終わって廊下に出たときに,ナースステーションの方で心電図のアラームが鳴っているのに気付き,同日午前5時ころ,ナースステーションに向かったところ,Aの心電図モニターの波形が 室の患者のおむつの交換を終わって廊下に出たときに,ナースステーションの方で心電図のアラームが鳴っているのに気付き,同日午前5時ころ,ナースステーションに向かったところ,Aの心電図モニターの波形がフラット(真っ直ぐ)になっていた(乙A1,6,証人H)。 イ Hは,Aの病室に向かい,Aの様子を見ると,Aの顔色はいつもと変わりがなく,チアノーゼも現れておらず,眠っているように見えたので,まずAの体に装着してあった心電図モニターの電極が外れていないか確認したところ,外れていなかった。次に,Aの手をとって脈を確かめようとしたものの,脈が触れないように感じ,痰を引くと声をかけながらAの呼吸を確認したところ,呼吸が止まっていることに気づき,痰や異物が詰まっているのではないかと考え痰を引いたが,痰も引けず,痰を引くときにいつもあったAからの拒否反応もなく,瞳孔の散大も認められた(乙A1,6,証人H)。 ウそこで,Hは,Aの急変を認識し,すぐに廊下に出てLを大声で呼び,Lに当直医への連絡と心電図モニターの搬入を指示し,自らは,ナースステーションの隣にある処置室から,アンビューバッグ等が搭載されている救急カートを,Aの病室に運び入れ,Aの心臓マッサージを開始し,Lは,同日の当直医であったM医師に連絡した後,ナースステーションから,心電図モニターのモニターをAの病室に運び入れた(乙A1,4,6,証人H)。 オ M医師は,Aの病室に到着した後,Hに対し,アンビューバックを使用して人工呼吸を行うことと点滴のラインを取ることを指示し,自らはAの心臓にボスミンの注射を行い,Hと交互に,心臓マッサージと人工呼吸とを施行した(乙A1,6,証人H)。 カ Aは,同日午前6時10分ころ,自発呼吸を取り戻し,酸素飽和度は98% らはAの心臓にボスミンの注射を行い,Hと交互に,心臓マッサージと人工呼吸とを施行した(乙A1,6,証人H)。 カ Aは,同日午前6時10分ころ,自発呼吸を取り戻し,酸素飽和度は98%を示し,血圧も収縮期圧が110,拡張期圧が60と正常範囲に戻ったので,しばらく経過観察を行ったが,意識が回復しないので,同日午前10時55分から呼吸循環管理のため集中治療室へ転室した(乙A1,7,証人G)。 キ Gは,同日午前7時30分ころ,原告らに対し,Aが心停止に陥り,心肺蘇生術により心拍,呼吸共に回復したが,低酸素のため全身にダメージがあること,12月15日におけるAの急変の原因については,窒息,痰詰まりの可能性等が疑われるが,現時点では明確なことは分からないことなどを説明した(乙A1,7,証人G)。 ク Gは,現時点においては,窒息であれば,普通は血中酸素濃度が落ちて,顔面,体全体が紫色になるチアノーゼの状態で発見されるが,チアノーゼがなかったこと,急変時には痰も引けず,体の表面には異物がなく,看護師が吸引チューブを入れた時には抵抗なく入ったこと,着衣の乱れがなく,暴れたりした形跡がなかったことからすると,Aが窒息だったのかどうか疑問が残ると考えていることを陳述(乙A7)ないし証言している。 (5) Aは,12月15日の急変以後,集中治療室で治療を受けていたが,脈拍数の高い状態が続き,意識は回復せず,平成11年3月24日午後6時10分,心停止状態に陥り,同日午後7時19分,多臓器不全のため死亡した(争いのない事実,乙A1)。 2 争点(1)(被告病院が,Aの痰詰まり又は誤嚥による呼吸停止に備えて十分な対応処置をとることを怠った過失の有無)について(1) カフ付きカューレについて 乙A1)。 2 争点(1)(被告病院が,Aの痰詰まり又は誤嚥による呼吸停止に備えて十分な対応処置をとることを怠った過失の有無)について(1) カフ付きカューレについて原告らは,被告病院において,Aの痰詰まりや誤嚥を防止するため,カフ付きカニューレの使用を継続すべき義務があったにもかかわらず,カフなしカニューレに変更した過失があると主張するので,以下検討する。 ア証拠(乙A7,証人G)によれば,以下の事実が認められる。 (ア) カニューレのカフは,カニューレの先端の部分に全周にわたって付いている小さな風船をふくらませることによって,患者の肺の部分と口腔部とを完全に遮断し,口からの食物や嘔吐による異物等の肺への侵入を防ぐという役割がある。 (イ) 一般に,カフ付きカニューレについては,カフの風船が患者の気管内の組織,粘膜等に接触することにより刺激を与え,痰が多くなるとともに,カフにより気管内の組織,粘膜等を損傷する危険性が高いから,気管切開により呼吸管理をしている患者については,誤嚥等の危険性がないことを確認しながら,患者の負担を軽減し,患者への侵襲を少なくするために,カフ付きカニューレからカフなしカニューレへ変更し,最終的には,気管切開による呼吸管理を離脱するという過程を踏むことが望ましい。 (ウ) カフ付きカニューレからカフなしカニューレに変更する場合は,カフがないことで,万が一患者が食物等を誤嚥することがあっても,自らの力で,食物等を吐き出すことができる力を持っていることを確認することが必要である。 イ前記アによれば,誤嚥物を自ら吐き出す力があると確認された場合,カフ付きカニューレからカフなしカニューレへと変更する 吐き出すことができる力を持っていることを確認することが必要である。 イ前記アによれば,誤嚥物を自ら吐き出す力があると確認された場合,カフ付きカニューレからカフなしカニューレへと変更することは,患者の負担を軽減させるための有効な措置であることが認められるところ,前記1(2)エに認定したとおり,Aは,プリンやヨーグルト等おやつ類であればむせ込むことなく食べられるようになっていたこと,Gは,Aに被告病院耳鼻咽喉科を受診させた結果,Aには咽喉頭の麻痺は生じておらず,万一誤嚥しても自ら吐き出す力があると判断したこと,Gはこれらの事実に基づいてカフなしカニューレへと変更したことが認められる。 以上によれば,被告病院がカフなしカニューレからカフなしカニューレに変更したことは,Aを気管切開による呼吸管理状態から回復させるための過程における,合理的な措置であったというべきであり,カフ付きカニューレの装着を継続する義務を怠ったとする原告らの主張は理由がない。 ウなお,原告らは,人証調べ後に,被告病院は,カフなしカニューレに変更した場合,看護師自身が食事の世話を行うべきであったにもかかわらず,これを怠った過失があると主張するが,かかる義務の存在を基礎づける事実については何らこれを裏付ける証拠はなく,また,原告らが主張する上記過失とAが12月15日に心肺停止に陥ったこととの因果関係についても,本件全証拠によるもこれを認めることはできないといわざるをえないから,この点に関する原告らの主張も理由がない。 (2) 観察について原告らは,被告病院において,Aの痰詰まりや誤嚥を防止するため,あるいは,痰詰まりや誤嚥の際には直ちに対処できるように,頻繁にAの観察をすべき義務があったにもかかわらず,極め ついて原告らは,被告病院において,Aの痰詰まりや誤嚥を防止するため,あるいは,痰詰まりや誤嚥の際には直ちに対処できるように,頻繁にAの観察をすべき義務があったにもかかわらず,極めて不十分な頻度の観察しかしなかった過失があると主張するので,以下検討する。 ア前記1(2)アエオ,(3)イの事実及び証拠(甲C3,乙A1,6,証人H,原告本人)によれば,Aは,気管切開による呼吸管理になってからも,痰の吹き出しが多く,頻回に痰の除去を行う必要がある患者であったこと,Aは体調が回復するに従って,体動も活発になり,気管に入っているカニューレや鼻から胃に入っているマーゲンチューブを自分で抜去することがあったこと,Hは,12月14日の当直看護につく際,日勤の看護師からAに取り付けていた尿を取るための管を抜いたこと,相変わらず痰は多いことの引き継ぎを受けるとともに,原告EからAが夕食を喉に詰まらせて吐いたことを聞き,誤嚥に注意をすべきことを認識していたことが認められる。 そして,Hは,上記のAの症状からして,昼の時間帯は30分に1回,夜の時間帯は30分ないし1時間に1回の割合でAの症状を観察する必要があり,実際にも巡回を行っていたと証言する。 イ以上によれば,被告病院においては,Aの痰詰まりや誤嚥を防止するなどのために,夜間においては30分ないし1時間に1回の割合でAの状態を観察すべき義務があったと認められる。 ところで,前記1(3)ウないしカのとおり,Hが12月14日及び15日の夜間にAの状態を観察したとして認定できるのは,同月14日午後6時ころ,午後9時ころ,同月15日午前0時ころ,午前3時ころ,午前4時30分ころの5回であって,上記に認定した,夜間には30分ないし1時 夜間にAの状態を観察したとして認定できるのは,同月14日午後6時ころ,午後9時ころ,同月15日午前0時ころ,午前3時ころ,午前4時30分ころの5回であって,上記に認定した,夜間には30分ないし1時間に1回の割合でAを観察すべき義務という点からすると,不十分なものであったといわざるを得ない。 ウしかしながら,前記1(3)カ,(4)アに認定したとおり,Hが12月15日午前4時30分ころにAの様子を見た時点では,Aは特に異状を示すことなく眠っており,Aの痰を引くこともでき,脈拍も安定していたことが認められ,HがAの異状を認識したのは,その約30分後に過ぎない同日午前5時ころのことであるから,そうすると,同日午前4時30分ころから同日午前5時ころにAの容態が急変するまでのわずか30分ほどの間に,被告病院の看護師がAの病室を訪室しなかったことが,違法であるとすることはできないし,また,本件全証拠によるも,被告病院の看護師による同日午前4時30分ころ以前の不十分なAの観察がAの急変の原因になったと認めることはできず,原告らが主張する過失とAの急変との因果関係についても認めることはできない。 (3) 夜間の人員配置について原告らは,被告病院において,Aの痰詰まりや誤嚥を防止するため,あるいは,痰詰まりや誤嚥の際には直ちに対処できるように,痰を吸引するための人員配置をするべき義務があったにもかかわらず,これを怠った過失があると主張するので,以下検討する。 ア証拠(甲A2,B5,乙A5,証人N)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 12月15日当時の,健康保険法及び厚生省告示によれば,被告病院の東館3階の入院患者の看護類別加算は,特1類のB加算 によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 12月15日当時の,健康保険法及び厚生省告示によれば,被告病院の東館3階の入院患者の看護類別加算は,特1類のB加算であり,この加算を採用した場合,患者と看護師,准看護師及び看護補助者の比率が3対1以上であることが必要となる。 (イ) 被告病院の東館3階には,同日,Aも含めて42名の患者が入院していたところ,常勤の看護師及び准看護師が合計17名配置されており,夜勤者は2名配置されていた。 (ウ) 現実では,前記(ア)において定められた基準の人員より多くの看護師を配置したり,看護補助者を導入している病院もあるが,どのくらいの数の病院がどのくらい余分の看護師を配置しているかは定かではなく,夜勤者の人数も含めた被告病院の人員配置は,看護類別加算特1類のB加算によっている限りでは問題なく,通常許されないような看護体制であるとはいえない。 イ以上によれば,被告病院の人員配置は前記ア(ア)の基準を満たしていることが認められ,本件全証拠によるも,前記基準を超えて看護師を配置することが,平成10年当時の医療水準であったと認められず,また,同月15日に,夜間の人員を増員すべきであったという特別の事情も認められない。 ウ以上によれば,被告病院が,前記ア(イ)の定員を超えた人員配置をしなかったことが違法であるということはできず,この点に関する原告らの主張は理由がない。 (4) サチュレーションモニターについて原告らは,被告病院において,Aの痰詰まりによる呼吸停止を防止するため,サチュレーションモニターを装着する義務があったにもかかわらず,これを怠った過失がある ーションモニターについて原告らは,被告病院において,Aの痰詰まりによる呼吸停止を防止するため,サチュレーションモニターを装着する義務があったにもかかわらず,これを怠った過失があると主張するので,以下検討する。 ア下記の証拠によれば,以下の事実が認められる。 (ア) サチュレーションモニターとは,パルスオキシメーターとも呼ばれ,指尖,趾尖あるいは耳朶に取り付けたクリップ状のプローベによって経皮的に動脈血酸素飽和度を測定する機械であり,酸素飽和度を知るという意味においては,心電図モニターよりもサチュレーションモニターの方が適している(甲B6,乙B4,証人G)。 (イ) サチュレーションモニターについて,モニターとしての長所は,即時性,連続性,非侵襲性,低価格であり,呼吸不全患者の呼吸管理においては必須かつルーチンのモニターとなっており,その長所をうまく活用する状況としては,動脈血ガス値が急激に変化するあるいは不安定な場合,吸入酸素が低下,あるいはその可能性のある場合(ウィーニングの途中,気管内吸引,気管挿管と抜管,航空機での患者運送)との記載がある平成15年に出版された文献が存在する(甲B6)。 (ウ) 患者に装着したサチュレーションモニター本体に,測定結果が表示される方式のサチュレーションモニター(以下「簡易式サチュレーションモニター」という。)は,その測定結果を病室において確認することができるにとどまり,測定するスタッフがその病室内にいない限り,数値を確認できない(乙A9,証人H,同G)。 (エ) ナースステーションのモニターに有線で接続し,酸素飽和度が一定の数値になった時に,ナースステーションのモニタ 値を確認できない(乙A9,証人H,同G)。 (エ) ナースステーションのモニターに有線で接続し,酸素飽和度が一定の数値になった時に,ナースステーションのモニターからアラームが鳴るよう設定することによって,患者の酸素飽和度を常時監視することができるサチュレーションモニター(以下「遠隔式サチュレーションモニター」という。)が存在する(乙A8,9,証人G)。 (オ) 当時,簡易式サチュレーションモニターは,被告病院の東館3階にはなかったが,循環器科の医師が個人で買って保有していたので,Aに急変が起きた12月15日午前6時15分,その簡易式サチュレーションモニターを借りてAに対し装着された(乙A6,8,9,証人G,同H)。 (カ) 被告病院においては,遠隔式サチュレーションモニターは,当時から現在に至っても,集中治療室にしか常設されていない。 (キ) 心電図モニターは,患者の心拍数を計測し,管理するための装置であり,Aに対しては,午後9時から午前9時の夜間帯にかけて装着されており,徐脈(心拍数55を下回った場合)又は頻脈(心拍数140を上回った場合)が生じた場合,ナースステーションに設置されたモニターからアラームが鳴るように設定されていた(乙A1,8,9,証人G)。 (ク) 気道に異物が詰まって閉塞した場合,酸素飽和度が低下するとともに,大量の酸素を吸入するために心肺に負荷がかかり,頻脈となる。その後,心肺がその負荷に耐えられなくなれば,心筋の力が弱り,徐脈となる(証人G)。 (ケ) 被告病院の東館3階のナースステーションに設置されていた心電図モニターが異状を感知すると,持続的な音が鳴り,その音量は,ナースステーションを挟んで反対側 脈となる(証人G)。 (ケ) 被告病院の東館3階のナースステーションに設置されていた心電図モニターが異状を感知すると,持続的な音が鳴り,その音量は,ナースステーションを挟んで反対側の小児病棟にも届く音であり,どの病室にいても,病室のドアを閉めた状態であっても,モニター音は聞こえる(証人H)。 イそこで,被告病院が,Aに対し,サチュレーションモニターを装着すべき義務について検討する。 (ア) まず,簡易式サチュレーションモニターの装着について検討するに,前記ア(ウ)に認定したとおり,患者に対し,簡易式サチュレーションモニターを装着したとしても,病室にいない限り,患者の急変を認識することはできないことが認められる。 そうすると,12月15日の時点で,Aに簡易式サチュレーションモニターを装着していたとしても,被告病院の看護師が,12月15日に,Aに生じた急変を認識することはできなかったというべきであるから,簡易式サチュレーションモニターを装着していなかったこと及び病棟に備え付けていなかったことをもって,違法とすることはできないし,Aの急変及び死亡との因果関係についても認めることはできない。 なお,Nは,簡易式サチュレーションモニターは平成10年ころには小さな病院でも既に使用されており,簡易式サチュレーションモニターを装着して,Aの酸素状態を把握しておけば,もう少し先手の対応ができたかもしれないと証言ないし陳述(甲B2)している。しかし,一方で,Nは,被告病院の看護体制と12月15日にAの容態が急変したこととの因果関係について断定できないとしている(甲B2)ことに加えて,Nの証言ないし陳述は,本件記録をすべて検討した結果に基づくもの で,Nは,被告病院の看護体制と12月15日にAの容態が急変したこととの因果関係について断定できないとしている(甲B2)ことに加えて,Nの証言ないし陳述は,本件記録をすべて検討した結果に基づくものではなく,12月15日までの看護記録,Hの陳述書(乙A6)並びに被告病院の東館3階の看護婦勤務予定及び実施表(乙A5)だけを検討して,過去の経験事例から類推して述べているにすぎないこと(甲B2,証人N),先手の対応として何を行うべきかについても具体的に述べていないことなどの事情をかんがみると,上記証言及び陳述は,経験豊富な看護師が考える理想的な看護という観点から,12月15日にAの容態が急変したという事実から振り返った結果,Aの急変を予防するための万全の措置について言及したものにすぎないと考えられ,前記認定を左右するものではない。 また,その他簡易式サチュレーションモニターを装着することによってAの急変を予測し,防止し得たと認めるに足りる的確な証拠もない。 (イ) 次に,遠隔式サチュレーションモニターの装着について検討するに,前記ア(カ)に判示したところによれば,被告病院には,平成10年当時,遠隔式サチュレーションモニターは一般病棟にはなく,集中治療室にしかなかったことが認められる。 ところで,Gは,平成10年当時は,サチュレーションモニター自体が一般的に普及し始めた時期で,その有用性自体も確立しておらず,サチュレーションモニターが,機械の精度の信用性も含めて,一般病院レベルで使用可能となったのは,ここ2,3年のことであると陳述(乙A8)ないし証言し,Nにおいても,遠隔式サチュレーションモニターの普及度及びこれを一般病棟に備え付ける義務の有無については言及できないという証言をしてお たのは,ここ2,3年のことであると陳述(乙A8)ないし証言し,Nにおいても,遠隔式サチュレーションモニターの普及度及びこれを一般病棟に備え付ける義務の有無については言及できないという証言をしており,その他遠隔式サチュレーションモニターを一般病棟においても備え付けることが平成10年当時の医療水準として確立されていたと認めるに足りる的確な証拠もない。 そうすると,本件全証拠をもってしても,一般的な病院の一般病棟において遠隔式サチュレーションモニターを備え付けることが,平成10年当時の医療水準として確立されていたと認めることはできないから,遠隔式サチュレーションモニターが被告病院の一般病棟に備え付けられていなかったことが違法であったとはいえない。 (ウ) さらに,Aを遠隔式サチュレーションモニターが備え付けられていた集中治療室において看護すべきであったかを検討するに,前記1(2),(3)アイによれば,Aは,集中治療室から一般病棟に移った後も,痰が多く,発熱がありラ音や喘鳴もしばしば認められたものの,呼吸も平静でラ音も軽度であり,点滴と経管栄養から経口摂取に変えられ,12月5日ころからは常食となって食欲も良好であり,同月14日にはアルバムを見て看護師に指で説明する状態になるなど意識状態も回復していたのであるから,Aについて集中治療室で管理する必要があったとは到底認められない。Nも,Aを集中治療室に入れる必要性については否定する証言をしている。 以上によれば,被告病院が,Aを遠隔式サチュレーションモニターが備え付けられている集中治療室において看護すべき義務も認められない。 (エ) なお,前記ア(キ)(ク)(ケ)に認定したとおり,Aには,被告病院の一般病 ションモニターが備え付けられている集中治療室において看護すべき義務も認められない。 (エ) なお,前記ア(キ)(ク)(ケ)に認定したとおり,Aには,被告病院の一般病棟に入院していた当時には午後9時から午前9時にかけて心電図モニターが付けられていたところ,患者が低酸素状態を起こした場合,それに伴って頻脈が生じ,心電図モニターはこの頻脈に反応してアラームを鳴らし,それによって病室の外にいる看護師が急変を察知することができるのであるから,被告病院においては,Aに対し,心電図モニターを装着していたことで十分な措置をとっていたと認められる。 以上によれば,被告病院において,Aに対し,サチュレーションモニターを装着する義務があったとは認められず,原告らの主張は理由がない。 (5) 以上によれば,争点(1)に関する原告らの主張は,いずれも認められない。 3 争点(2)(被告病院が,Aの心電図モニターがフラットになっていることが判明した後に適切な対応を怠った過失の有無)について(1) 前記1(4)アないしウに認定したとおり,Hは,Aの心電図モニターのアラームに気付いてAの病室に行った際,まず,Aの体に装着してあった心電図モニターの電極が外れていないか確認したこと,次に,Aの手をとって脈を確かめ,痰を引くと声をかけながらAの呼吸を確認し,さらには痰を引いたこと,Aの脈が確認できず,呼吸が止まっており,瞳孔の散大も認められたので,Hは,Aの急変を認識し,すぐに廊下に出てLを大声で呼び,Lに当直医の連絡と心電図モニターのAの病室への移動を指示し,自らは,ナースステーションの隣にある処置室から,アンビューバッグ等が搭載されている救急カートを,Aの病室に運び入れてAの心臓マッサージを に当直医の連絡と心電図モニターのAの病室への移動を指示し,自らは,ナースステーションの隣にある処置室から,アンビューバッグ等が搭載されている救急カートを,Aの病室に運び入れてAの心臓マッサージを開始したこと,Lは,同日の当直医であったM医師に連絡した後,ナースステーションから,心電図モニターのモニターをAの病室に運び入れたことが認められる。 (2) 原告らは,被告病院において,Hが,Aの心電図モニターがフラットになっていることに気付いてAの病室を訪室した後,即刻,自発呼吸を回復させるための蘇生措置をとるべきであったにもかかわらず,電極がAの体から外れていないことを確認した後に蘇生措置を開始した過失があったと主張する。 しかしながら,前記1(3)カ,(4)イ認定の各事実及び証拠(乙A6,証人H)によれば,Aは,12月14日午前3時及び4時30分のいずれにおいても,特に異状を示すことなく眠っており,心拍数も60台と安定しており,痰の吸引を行ったところ,通常と同じような白色の粘調の痰が引けたこと,Hが同月15日午前5時ころにAの心電図モニターがフラットになっていることに気付いてAの病室を訪室した際にも,Aの顔色はいつもと変わりがなく,チアノーゼも現れておらず,Aは眠っているように見えたこと,患者に取り付けた心電図モニターは患者の体動や患者自身が取り外すことにより外れることがあり,その際にも心電図モニターのアラームが鳴ること,Aは体動が多い患者であり,気管カニューレを抜いたり,心電図モニターの電極を外したりしたことがあったことが認められるのであり,かかる事実からすると,Hが心電図モニターがフラットになっていることに気付いてAの病室に行った際,まずAに装着された心電図モニターの電極が外れていないか否かを確認したことは,やむ められるのであり,かかる事実からすると,Hが心電図モニターがフラットになっていることに気付いてAの病室に行った際,まずAに装着された心電図モニターの電極が外れていないか否かを確認したことは,やむを得ない行動であって,これを過失と評価することはできないといわなければならない。 (3) また,原告らは,心停止後の蘇生措置は3分以内に着手することが必要であり,本件では,Aの心停止の発見までに,既に5分以上経過していたことが明らかであったのだから,1秒でも早く心臓マッサージを施行するべきであり,Hらが心電図モニターを運び入れた後に心臓マッサージを開始したのは過失であると主張する。 しかしながら,前記(1)のとおり,Hは,Aの急変を認識し,すぐに廊下に出てLを大声で呼び,Lに当直医の連絡と心電図モニターのAの病室への移動を指示し,自らは,ナースステーションの隣にある処置室から,アンビューバッグ等が搭載されていた救急カートを,Aの病室に運び入れてAの心臓マッサージを開始し,Hから指示を受けたLが当直医であったM医師に連絡した後,心電図モニターをAの病室に運び入れたのであり,原告らの主張は,そもそも前提を欠き認めることはできない。 なお,証拠(証人G)によれば,アンビューバッグは,脳に酸素を送るために直ちに必要となるものであることが認められ,この事実によれば,Hがアンビューバッグ等が搭載されていた救急カートを,Aの病室に運び入れてAの心臓マッサージを開始したことは適切な措置であったと認められる。 (3) 以上によれば,争点(2)についての原告らの主張も理由がない。 4 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。 よれば,争点(2)についての原告らの主張も理由がない。 4 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官前田順司 裁判官池町知佐子 裁判官筈井卓矢 ・争点整理表 1 被告病院が,Aの痰詰まり又は誤嚥による呼吸停止に備えて十分な対応処置を取ることを怠った過失の有無(原告らの主張)(1) Aの12月14日までの状態Aは,9月20日午後3時ころから軽いけいれんを起こしては止むということを何度か繰り返したので,午後8時ころ,自家用車で被告病院に行った。しかし,被告病院の対応は極めて遅く,Aは,午後8時30分ころになってやっと脳波検査室に入室できたが,そのころのAの様子は急変してぐったりした状態であった。Aは,けいれん重積状態との診断で,一週間の予定で被告病院に入院することになり,集中治療室に入った。 しかし,Aの意識レベルの悪化は,風邪による一時的なものであり,翌日には,Aは,面会にきた けいれん重積状態との診断で,一週間の予定で被告病院に入院することになり,集中治療室に入った。 しかし,Aの意識レベルの悪化は,風邪による一時的なものであり,翌日には,Aは,面会にきた原告Eを見てにっこり笑ったり,原告Eが手を握ると泣き顔になったり,意識ははっきりしていたが,それまで痰は出なかったのに急に痰が多くなった。 原告らは,F医師から,Aの痰が多く窒息の危険があることを理由に気管切開術の施行を促されて,やむなくこれに応じ,Aは,同術を受けたが,術後も相変わらず痰が多く,しかも,逆に感染症にかかりやすくなり,肺炎になった上,MRSAにも罹患した。 Aは,痰が極めて多いため,常時誰かが付き添って痰を頻繁に吸引しなければ痰がたまって呼吸ができなくなる危険のある状態であったので,昼間は毎日原告らが付き添って痰が多くなると看護師を呼んで吸引してもらっていた。その上,Aは,時々てんかんにより夜間けいれんを起こしていたため,夜間に痰が詰まって窒息する心配があったので,原告らは,夜間の付添いを申し出たが,被告病院に拒否された。 12月12日,被告病院は,Aに対し,MRSA治療のために,テストをしないで,それまで使用していたものとは別の抗生物質に変えたため,副作用によりAの全身が真赤になり,あわてて担当医を呼ぶ事態となり,これを機に翌13日から,Aは,急激に体力を失い元気がなくなった。 同月14日,Aは,食べ物を喉に詰まらせ,原告Eが看護師を呼ぶとともに,Aの喉に指を入れて吐かせた。この日はAの痰がいつもより多く,原告Eは,通常は面会時間終了の午後8時に病室を出るところ,Aの様子が心配で午後10時まで付き添っていた。 (2) 被告病院において,Aに対しとるべきであった この日はAの痰がいつもより多く,原告Eは,通常は面会時間終了の午後8時に病室を出るところ,Aの様子が心配で午後10時まで付き添っていた。 (2) 被告病院において,Aに対しとるべきであった処置アカニューレについてカニューレには,カフ付きのものとカフなしのものとがある。カニューレのカフは,誤嚥防止のために,カニューレと気管の間の隙間を風船を膨らませて埋める装置であり,誤嚥による死亡を防止するためには必要なものである。 Aは,入院当初から痰が非常に多く,気管切開による呼吸管理にした後も痰は相変わらず多く,痰が絡んで呼吸停止に至る可能性も十分にあった。その上,食事,菓子等を誤嚥するおそれが十分にあり,他方,Aには自力で吐き出す力はなかったため,誤嚥物による窒息の可能性も十分にあった。 したがって,被告病院は,このような状態のAに対して,痰詰まりや誤嚥を防止するため,カフ付きのカニューレの使用を継続すべきであった。 仮に,被告病院において,カフなしカニューレに変更するのであれば,誤嚥を生じないように食事の世話は必ず看護師が行うなどするべきであった。 イ観察について前記アのとおり,Aは,痰が多く,痰を詰まらせたり,食物,菓子等を誤嚥して,呼吸停止になるおそれがあった。このほか,Aは,てんかんによるけいれん発作がいつ生じるか分からない状態であった。また,Aは,マーゲンチューブやカニューレをしばしば自分で抜くことがあった。 その上,被告病院は,Aに対し,途中からカフなしカニューレに変更していたのであるから,痰詰まり又は誤嚥の際には直ちに対処することのできる体制を作っておく必要があった。 その上,被告病院は,Aに対し,途中からカフなしカニューレに変更していたのであるから,痰詰まり又は誤嚥の際には直ちに対処することのできる体制を作っておく必要があった。 したがって,被告病院は,このような状態のAに対し,痰詰まりや誤嚥を防止するため,あるいは,痰詰まりや誤嚥の際には直ちに対処できるように,頻繁にAの観察をするべきであった。 ウ夜間の痰吸引のための人員配置についてAは,痰が非常に多く,常時痰を頻繁に吸引しなければ痰がたまって呼吸ができなくなる危険のある状態であった。そして,この状態は基本的に夜間でも同様であった。 その上,Aはいつてんかんによるけいれんを起こすか分からない状態にあり,実際に,夜間けいれんを起こしていた。 そこで,原告らは,本来は被告病院の義務であるが,昼間は絶えず付き添ってAの痰が多くなると看護師を呼んで吸引をしてもらっていた。他方,被告病院は,原告らに対して,夜間付添いを認めなかったのであるから,被告病院は,Aに対し,夜間痰を吸引するための人員を配置するべきであった。 エサチュレーションモニターについて(心電図モニターのみでは不足であることを含む。)心電図モニターのアラームは,呼吸停止が起こった直後に鳴るのではなく,誤嚥あるいは痰詰まりのため,肺に酸素が十分に供給されなくなり,血中酸素濃度が低下して,心電図モニターに設定されたアラームの鳴る数値になって初めてアラームが鳴り,異変を気づかせるものであり,誤嚥からアラーム作動まで30分かかることもある。 サチュレーションモニターとは,血流を感知する指輪状の器具を指に装着して血液中の酸素飽和度を測るもので,低 気づかせるものであり,誤嚥からアラーム作動まで30分かかることもある。 サチュレーションモニターとは,血流を感知する指輪状の器具を指に装着して血液中の酸素飽和度を測るもので,低酸素状態になり心停止の危険が生ずるとナースステーションの警報ブザーが鳴るという装置である。サチュレーションモニターは,人工呼吸管理や呼吸不全進行中の場合には設置が不可欠とされている。 Aは,前述のように,痰が非常に多く,痰がたまって呼吸ができなくなる危険のある状態にあった。 その上,被告病院は,夜間は原告らの付添いを認めず,他方,Aの観察に必要な人員を配置することもなかったのであるから,せめて,被告病院は,このような状況においては,Aに対して,痰詰まりによる呼吸停止を防止するため,サチュレーションモニターを設置すべきであり,かつ,心電図モニターと同様に,ナースステーションでアラームが鳴るような設備をしておくべきであったし,サチュレーションモニターを保有していなかったのであれば,買いそろえておくべきであった。 (3) 被告病院がAに対して前記処置を怠ったこと被告病院は,Aに対し,まず,11月13日から,Aの呼吸停止の危険性に変わりはないにもかかわらず,前記(2)アの処置を怠り,カフなしカニューレを使用するようになり,看護師が食事の世話をすることも怠った。 次に,夜間には,痰詰まり等による呼吸停止の危険が常にあったにもかかわらず,看護師は,食事の後と原告らが呼んだ時の,1日に4,5回程度訪室しただけであり,Aに対し,極めて不十分な頻度の観察しか行わず,(2)イの処置を怠った。 また,Aは,夜間でも常時痰の吸引が必要な状態であったにもかかわらず,原告らの常時 回程度訪室しただけであり,Aに対し,極めて不十分な頻度の観察しか行わず,(2)イの処置を怠った。 また,Aは,夜間でも常時痰の吸引が必要な状態であったにもかかわらず,原告らの常時付添いの申出を拒否しながら,被告病院において,夜間十分な人員の看護師を配置することなく,勤務の看護師を2名しか配置せず,(2)ウの処置を怠った。 そして,呼吸停止の際に心電図モニターだけのアラームでは結果回避のための機能を果たし得ないにもかかわらず,心電図モニターしか設置せず,(2)エの処置を怠った。 (4) 結論以上により,被告病院には,Aの痰詰まり又は誤嚥による呼吸停止に備えて十分な対応処置をとることを怠った過失がある。 (被告の主張)(1) Aの12月14日までの状態9月20日の入院当時のAは,全身ケイレン発作を10ないし13回起こしており,顔面はチアノーゼで,呼吸状態不良という状態であり,入院直後の意識レベルはⅢ―100であった。 被告病院は,入院当初,Aに対し,経口挿管による人工呼吸管理をしていたが,長期間の経口挿管は,口腔内及び気道を傷つける危険が高いことから,当時の担当医師の判断により,10月3日,気管切開術を施行し,気管切開による人工呼吸管理に変更された。 その後,被告病院の適切かつ懸命な治療と看護の結果,Aの体力は徐々に回復し,Aは,11月7日ころからプリン,ヨーグルト等誤嚥のおそれの小さいものを食べ始め,同月30日には7分粥食へ,12月1日には常食へ変更になった。 被告病院においては,痰による気道閉塞に対する処置としては,①ネブライザーを施行し,②痰の吸引の際には体位交換とタッピングを行い,③毎日1回以上の挿入孔の 日には常食へ変更になった。 被告病院においては,痰による気道閉塞に対する処置としては,①ネブライザーを施行し,②痰の吸引の際には体位交換とタッピングを行い,③毎日1回以上の挿入孔の消毒とY字ガーゼの交換を行い,④週1回から2回のカニューレの交換を行うなど,Aの気道内を正常に保つための処置をとっていた。 (2) Aに対してとった処置アカニューレをカフ付きからカフなしへ変更したことカフは,気管内の粘膜を損傷する危険が高いことから,患者に食物等を誤嚥しても吐き出す力がある場合は,カフなしカニューレに変更するべきである。 前記(1)の気管切開当時は,Aに対し,食物等の誤嚥防止のため,カフ付きカニューレを使用していたが,担当医師は,カフなしカニューレへの変更することを考え,11月10日,Aの喉咽頭に麻痺がないかを耳鼻科の診察により確認したところ,耳鼻科の診察の結果は,麻痺はないというものであった。また,当時,Aは,原則として点滴により栄養を摂っていた。そこで,担当医師は,Aが食物等を誤嚥する可能性は小さく,また,万が一誤嚥があったとしても,自ら吐き出す力があると考え,同月13日,Aのカニューレをカフ付きからカフなしへ変更した。 イ看護師の巡回による観察被告病院入院中のAの特徴としては,痰が異常に多いことで,これは経口挿管による人工呼吸管理をしていた入院当初から,気管切開術による人工呼吸管理となった以降も変わらなかった。それゆえに,担当看護師は,昼夜を問わず,Aの巡回の際には,痰が噴出していないかを確認するとともに,頻繁に吸引を施行していた。 ウ夜間の人員配置10月13日から12月15日までの間,Aが入院していた内 ,Aの巡回の際には,痰が噴出していないかを確認するとともに,頻繁に吸引を施行していた。 ウ夜間の人員配置10月13日から12月15日までの間,Aが入院していた内科病棟では,当直看護師が2名いた。当直の看護師は,原則として仮眠を取らず,緊急事態が発生した場合もすぐに対処できるようにしながら,患者の巡回や介護用オムツの交換,体位交換等をしていた。 エ心電図モニターによる観察Aは,入院当初より,夜間(午後9時より翌朝午前9時),心電図モニターを装着していた。モニタリングの結果は,ナースステーションに設置されたモニターに無線で送られ,心拍数が1分間に140を上回った場合及び55を下回った場合にアラーム音が鳴るように設定されていた。 これによって,当直看護師は,夜間でも,Aの心拍の様子を観察することができていたし,ナースステーションにいない間も,Aに急変が生じれば,すぐにそれを察知することができた。 (3) 前記処置が適切であって原告ら主張の各処置は不要であったこと原告らは,Aにサチュレーションモニターを装着すべきであったと主張するが,サチュレーションモニターは,当時のAのように,心疾患も抱えておらず,体力も回復しつつある患者については,通常装着しない。Aの心拍の様子は,前記(2)エで主張したとおり,心電図モニターの装着により十分観察できていたものである。 なお,当時,被告病院には,集中治療室のオールマイティモニター本体に有線で接続するサチュレーションモニターしかなく,一般病棟には,酸素飽和度が低下した場合にアラームで警告するというような装置はなかった。全国的にみて,一般病院としては,同じような環境であり,被告病院の設 で接続するサチュレーションモニターしかなく,一般病棟には,酸素飽和度が低下した場合にアラームで警告するというような装置はなかった。全国的にみて,一般病院としては,同じような環境であり,被告病院の設備が特に不十分であったということはない。 (4) 結論被告病院は,Aの痰詰まり又は誤嚥による呼吸停止に備えて十分な対応処置をとっており,被告病院の対応に過失は一切ない。 2 被告病院が,Aの心電図モニターがフラットになっていることが判明した後に適切な対応を怠った過失の有無(原告らの主張)(1) 発見した看護師がとるべきであった対応Aは,就寝中に体動が激しかったわけではなく,また,心電図モニターの電極が体から外れることはめったにある事態ではない。 したがって,心電図モニターがフラットになっている以上,これを発見した看護師は,直ちにAの呼吸の有無を確認し,呼吸がなければすぐに宿直医に連絡をとるべきであった。 (2) その後に行われるべき処置一般的に,心停止から5分を超えると不可逆的な神経細胞障害が始まり,20分を超えると神経機能の回復はほぼ絶望的となるので,心停止後の蘇生措置の実施は,3分以内に着手することが必要である。 しかるに,本件では,Aの心停止の発見までに,既に5分以上経過していたことが明らかであるから,被告病院は,即刻自発呼吸のための蘇生措置をとるべきであった。 (3) 被告病院が前記各処置を怠ったこと被告病院の担当看護師は,Aの心電図モニターがフラットになっているのを認識してから,Aの病室に行き,就寝中にはあまり外れることが考えられないにもかかわらず,まず,電極が体から外れていないかを確認し,それから の担当看護師は,Aの心電図モニターがフラットになっているのを認識してから,Aの病室に行き,就寝中にはあまり外れることが考えられないにもかかわらず,まず,電極が体から外れていないかを確認し,それから,痰の吸引を確認して初めて瞳孔散大,脈及び呼吸の停止を発見したのであり,前記(1)の直ちにAの呼吸の有無を確認し,呼吸がなければすぐに宿直医に連絡をとるべき処置を怠った。 被告病院においては,Aに対し,即刻の蘇生措置が必要であり,心電図モニターの運び入れなどはその後ですればよいことであるにもかかわらず,心電図モニターを運び入れるという余分な行動をとったものであり,その結果として,同日午前5時に呼吸停止を確認した後,同日午前6時10分の自発呼吸回復までに1時間以上かかったものであり,(2)の即刻自発呼吸のための蘇生措置をとるべきことを怠った。 (4) 結論以上により,被告病院には,Aの心電図モニターがフラットになっていることが判明した後に適切な対応を怠った過失がある。 (被告の主張)(1) 被告病院の看護体制並びに被告病院の担当看護師及び医師らが実際にとった対応ア 12月14日から15日にかけての被告病院の看護体制被告病院の看護体制は,前記1(被告の主張)(2)イ及びウのとおりである。 Aは,前記1(被告の主張)(2)イで主張したとおり,痰の多い患者であったこと,また,急変が生じた前夜である同月14日より介護用オムツを使うようになったこと及び同日の夕食時に食べ物を吐いてしまったことから,当直担当看護師は,当夜は,特に頻回に観察をしようとしていた。 イ被告担当看護師及び医師らが実際に取った対応担当看護師が,当 夕食時に食べ物を吐いてしまったことから,当直担当看護師は,当夜は,特に頻回に観察をしようとしていた。 イ被告担当看護師及び医師らが実際に取った対応担当看護師が,当夜の午前3時ころ及び午前4時30分ころに,確認したAの様子は,特に変わったところはなく,心拍数も60代と安定していた。 その後,担当看護師は,午前4時40分ころより,担当患者の介護用オムツの交換と体位交換に回り,廊下に出た際,Aの心電図モニターのアラームが鳴っているのに気付き,ナースステーションにモニターを確認するために行った。同モニターを見ると,フラット(平坦)になっていたことから,Aの病室へ様子を見に行った。Aの様子は,通常と変わりなかったことから,担当看護師は,心電図の電極が外れていないか確認し,次に,脈及び呼吸を確認したところ,脈は触れず呼吸もなかった。そして,痰の吸引を施行したが,痰も引けなかった。 そこで,担当看護師は,もう一人の当直看護師を呼びに行くとともに,当直医に連絡し,心電図のモニター部分や救急カートを病室に運び,心臓マッサージを施行し始めた。 当直医が到着した後,担当看護師は,当直医にカルテを示すとともに,Aの様子を口頭で伝えた。そして,当直医と担当看護師とで,Aに対し,交互に人工呼吸と心臓マッサージを施行したところ,午前6時10分ころ,自発呼吸と心拍が再開した。 そこで,ベンチレーターによる人工呼吸に変更し,主治医に引き継いだ。 (2) 前記対応が適切であったこと患者に呼吸停止,心拍停止というような急変が生じた際には,まず心電図の電極や,脈,呼吸を確認することで患者の状態を正確に把握するよう努め,次に,心拍と呼吸の再開を が適切であったこと患者に呼吸停止,心拍停止というような急変が生じた際には,まず心電図の電極や,脈,呼吸を確認することで患者の状態を正確に把握するよう努め,次に,心拍と呼吸の再開を目指し,心臓マッサージと人工呼吸を施行するということが基本である。 担当看護師及び当直医の前記(1)イの対応は,患者の状態を把握し,心拍と呼吸の再開を目指すという極めて基本的に忠実な対応であり,いずれも至極適切である。 (3) 結論以上より,Aの心電図モニターがフラットになっていることが判明した後に被告病院の担当看護師及び当直医がとった対応は,いずれも極めて適切であり,被告の対応に過失は一切ない。 3 因果関係(原告らの主張)Aは,痰詰まりによる呼吸停止により,一旦は呼吸が回復したものの,長時間の心停止によりいわば植物状態という重篤な障害が生じ,多臓器不全により死亡した。この結果は,前記1,2に主張した被告病院の過失がなければ,生じなかったものである。 したがって,被告病院が痰詰まり又は誤嚥による呼吸停止に備えて十分な対応を怠った過失又は被告病院がAの心電図モニターがフラットになっていることが判明した後に適切な対応を怠った過失と,Aの死亡結果との間には,因果関係が存在する。 (被告の主張)そもそも,前記1,2(被告の主張)に記載したとおり,被告の対応には一切過失がない。 加えて,Aに急変が生じたのは,12月15日早朝であり,Aが死亡したのは,平成11年3月24日であって,その間実に3箇月以上が経過している。 したがって,原告ら主張の各過失とAの死亡との間に因果関係はない。 4 損害額(原告らの主張)(1) 慰謝料 月24日であって,その間実に3箇月以上が経過している。 したがって,原告ら主張の各過失とAの死亡との間に因果関係はない。 4 損害額(原告らの主張)(1) 慰謝料金3000万円Aは,軽いけいれん状態が続いたため被告病院を受診し,一週間後には退院予定であったところ,本来症状を改善,治癒すべき被告病院の医師らの重大な過失により死に至ったものであり,31歳という将来あるAの無念を多少とも慰謝するには少なくとも金3000万円以上をもってするのが相当である。 (2) 逸失利益金6098万2819円(計算)死亡時年齢 31才就労可能年数 67才-31才=36年ライプニッツ係数年利2%で計算すると,25.488842となる。 年間収入当時無職者のため,賃金センサス平成10年・全産業女子労働者・全年齢平均金341万7900円生活費控除 30%(3) 原告らの相続(1),(2)について,Aの死亡により,原告らが2分の1ずつ相続した。 (4) 原告ら独自の慰謝料各金1000万円Aは,原告らの唯一人の子供であって,文字どおりかけがえのない宝であり,原告らの生きがい,命そのものであった。原告らがAの死亡によって被った精神的苦痛は計り知れず,これを多少なりとも慰謝するには,独自にそれぞれ金1000万円をもってするのが相当である。 (5) 葬儀費用金150万円(原告ら75万円ずつ負担)(6) 弁護士費用金750万円(原告ら375万円ず るには,独自にそれぞれ金1000万円をもってするのが相当である。 (5) 葬儀費用金150万円(原告ら75万円ずつ負担)(6) 弁護士費用金750万円(原告ら375万円ずつ負担)(7) 合計 金1億1998万2819円(被告の主張)争う。 別紙診療経過一覧表(省略)
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