令和3(ワ)2595 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年12月3日 札幌地方裁判所
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判決文本文22,440 文字)

- 1 - 令和6年12月3日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官令和3年(ワ)第2595号 損害賠償請求事件口頭弁論終結日 令和6年9月17日判 決主 文1 被告は、原告Aに対し、20万円及びこれに対する令和3年7月6日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、5万円及びこれに対する令和3年7月6日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、これを20分し、その13を原告Aの、その4を原告Bの負担とし、その余を被告の負担とする。 5 この判決は、1、2項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由第1 請求1 被告は、原告Aに対し、120万円及びうち60万円に対する令和3年7月6日から、うち60万円に対する同月13日から各支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、40万円及びうち20万円に対する令和3年7月6日から、うち20万円に対する同月13日から各支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 (以下、令和3年の出来事につき年の表示を省略する。)第2 事案の概要等1 事案の概要(1) 原告A監禁の被疑事実により北海道警察本部留置施設(以下「本部留置施設」と- 2 - いう。)内に勾留された原告Aが、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき次の請求をするもの① 警察官の取調べにより黙秘権(憲法38条1項、刑訴法198条2項)、弁護人との接見交通権(同法39条1項)及び人格的利益を侵害されたとして、慰謝料60万円及びこれに対する最後の 請求をするもの① 警察官の取調べにより黙秘権(憲法38条1項、刑訴法198条2項)、弁護人との接見交通権(同法39条1項)及び人格的利益を侵害されたとして、慰謝料60万円及びこれに対する最後の取調べが行われた日である7月13日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求めるもの② 留置担当者が、原告Aが拒否したにもかかわらず、弁護人が差し入れた被疑者ノート及び原告Aの私物のノートを閲覧し、黙秘権及び接見交通権が侵害されたとして、慰謝料30万円及びこれに対する閲覧がなされた日である7月6日から支払済みまで前記同様の遅延損害金の支払を求めるもの③ 留置担当者が、原告Aが拒否したにもかかわらず、被疑者ノートを持ち去ったことにより、黙秘権及び接見交通権が侵害されたとして、慰謝料30万円及びこれに対する持ち去りがなされた日である7月6日から支払済みまで前記同様の遅延損害金の支払を求めるもの(2) 原告B原告Aの弁護人であった原告Bが、前記各行為により弁護人固有の権利である接見交通権が侵害されたとして、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき次の請求をするもの④ 取調べによる侵害に係る慰謝料20万円及びこれに対する最後の取調べが行われた日である7月13日から支払済みまで前記同様の遅延損害金の支払を求めるもの⑤ 被疑者ノート等の閲覧による侵害に係る慰謝料10万円及びこれに対する当該行為がなされた7月6日から支払済みまで前記同様の遅延損害金の支払を求めるもの- 3 - ⑥ 被疑者ノートの持ち去りによる侵害に係る慰謝料10万円及びこれに対する当該行為がなされた7月6日から支払済みまで前記同様の遅延損害金の支払を求めるもの2 前提事実以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠又は弁論 害に係る慰謝料10万円及びこれに対する当該行為がなされた7月6日から支払済みまで前記同様の遅延損害金の支払を求めるもの2 前提事実以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる。 (1) 当事者等ア 原告Aは、平成▲年▲月▲日生まれの女性であり、6月22日まで、息子であるC(平成▲年▲月▲日生まれ、6月23日死亡。以下「C」という。)と二人で生活していた。 イ 原告Bは、札幌弁護士会に所属する弁護士である。 ウ 被告は、北海道警察本部を置く地方公共団体である。 エ D(以下「D」という。)は、6月及び7月当時、札幌方面北警察署(以下「北署」という。)に所属していた警察官(女性)である。 オ E(以下「E」という。)は、7月当時、北署に所属していた警察官(男性)である。 カ F(以下「F」という。)は、7月当時、北海道警察本部総務部留置管理課(以下「本部留置管理課」という。)に所属していた警察官である。 キ G(以下「G」という。)は、7月当時、本部留置管理課に所属していた警察官である。 (2) 原告Aの逮捕・勾留に係る事実経過別紙2のとおり(3) 原告Aに対する取調べ状況別紙2のとおり、6月23日から7月12日までの間、Dが原告Aに対する取調べを行い、同月11日の取調べの一部をEが行った。これらの取調べにおいて、D又はE及び原告Aから、別紙3の発言がなされた(甲18の1- 4 - ~21)。 (4) 原告Aの被疑者ノートの取扱い状況本件留置担当官らは、本部留置施設において、7月6日、原告Aに対し、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)212条1項に基づく保安点検(被留置者に対する身体検査、衣類検査、居室検査 留置施設において、7月6日、原告Aに対し、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)212条1項に基づく保安点検(被留置者に対する身体検査、衣類検査、居室検査)に加え、3月17日付け「北海道警察留置施設及び被留置者の処遇に関する訓令の解釈及び運用要領の制定について(通達)」(以下「本件通達」という。)に基づくロッカー点検(以下「本件ロッカー点検」という。)を実施した。 その際、本件留置担当官らは、原告Aの被疑者ノート(身柄を拘束された被疑者が取調べや弁護人との接見の内容等を記録するものとして日本弁護士連合会が発行したノートであり、A4サイズ縦型、約70枚、左端2箇所の綴じ穴がそれぞれ紙紐で結着されている。以下、原告Aが所持していた被疑者ノート(甲13)を「本件被疑者ノート」という。)を点検し、その下部の紙紐が外れてなくなっていることを認めたことから、原告Aから本件被疑者ノートを預かり、これを修繕して原告Aに返還した。 3 争点及び争点に対する当事者の主張(1) 取調べによる黙秘権侵害及び接見交通権侵害の違法性(争点1)【原告らの主張】ア 原告Aは、弁護人等との接見における協議により、本件被疑事件における取調べに対しては、捜査官に一切応答しない、供述調書にも署名しない方針をとることとし、それ以降、原告Aは、Dに対して黙秘権を行使する旨告げ、取調べに臨んだ。 しかし、Dは、取調べの際、原告Aに対し、毎回繰り返しかつ執拗に、供述ひいては自白を迫った。原告Aに対する取調べの時間は、毎回長時間に及ぶものであった。 - 5 - 少なくとも被疑者段階においては、被疑者が黙秘の意思を明確に表明した後に、弁護人を飛び越えて供述させようと被疑者を直接説得すること自体が、黙秘し又は任意の供 及ぶものであった。 - 5 - 少なくとも被疑者段階においては、被疑者が黙秘の意思を明確に表明した後に、弁護人を飛び越えて供述させようと被疑者を直接説得すること自体が、黙秘し又は任意の供述をすることを困難にするおそれがあり、D及び警察当局は、故意をもって黙秘権及び接見交通権を侵害するような態様で繰り返し取調べを続けたものといえる。 イ D又はEは、6月23日から7月12日の間、原告Aに対して行われた取調べにおいて、次の発言をした。これらの発言自体に加え、身振り等の身体的動作・態度(別紙3参照)を併せ考慮すれば、原告Aに対する取調べは、全体として、原告Aが黙秘し又は任意の供述をすることを困難とするおそれがあり、その黙秘権を侵害するものである。なお、D又はEは、取調べに先立ち黙秘権及び供述拒否権の告知を行っているが、法令上の告知義務を形式的に履行したにすぎず、前記おそれがあることに変わりはない。 ① 供述拒否権について「本当のことを言わなくてもいいっていう権利」ではないと説明した発言(別紙2番号90の発言(以下、別紙2記載の発言を、その番号により「番号90」などと記載する。)。以下「発言①」という。)② 原告Aが黙秘を続けるのであれば、捜査官が把握している事実関係のみで事件処理が進むことになるという趣旨の発言(番号25、27、28、34、44、58、62~64、75、122、123、127等。 以下「発言②」と総称する。)③ 黙秘せずに弁解しなければ不利になるという趣旨の発言(番号28、58、63、112、146等。以下「発言③」と総称する。)④ 不利な事実を訂正する機会は取調べの場しかなく、裁判の場で訂正することはできないという趣旨の発言(番号82、83、91、95、102、109、119、151、204等。以下 ③」と総称する。)④ 不利な事実を訂正する機会は取調べの場しかなく、裁判の場で訂正することはできないという趣旨の発言(番号82、83、91、95、102、109、119、151、204等。以下「発言④」と総称す- 6 - る。)⑤ 黙秘権の行使が、原告AやCのためにならず、責任をとっていないという趣旨の発言(番号22、24、25、42、57、58、60、63、71~73、75、76、83、85、88、100、103、107、111、112、115、119、120、124、126、129~131、134、137、138、140、142~144、146、148、153、155、157~160、164~167、171、174~177、180、182、183、185~187、191、196、197、199、201、205、208、211~220等。以下「発言⑤」と総称する。)ウ 原告Aと弁護人等との接見の内容は、そのほとんどが本件被疑事件に関する事項である。したがって、本件被疑事件を対象とした前記態様の取調べは、黙秘権を行使する原告Aを介して、弁護人等との接見の内容を聞き出そうとするものに他ならない。また、被疑者が黙秘している状況下において、捜査機関が原告Aに対し、黙秘の意思を翻意させ、本件被疑事件について供述させれば、自ずと弁護人等の接見の内容が捜査機関に明らかになるものといえる。 原告Aに対する取調べにおいては、直接的に接見の内容を尋ねる発言(番号2、3。以下「発言⑥」と総称する。)がされたほか、直接的に接見の内容を尋ねるものでなかったとしても黙秘の意思を翻意させることを目的とする発言が繰り返されていたものであり、原告Aの接見交通権に加え、実質的には、弁護人である原告B固有の接見交通権も侵害するものであった。 るものでなかったとしても黙秘の意思を翻意させることを目的とする発言が繰り返されていたものであり、原告Aの接見交通権に加え、実質的には、弁護人である原告B固有の接見交通権も侵害するものであった。 【被告の主張】ア 逮捕されている被疑者は、取調べに対して出頭・滞留する義務に加えて、捜査官の行う取調べを受忍すべき義務を負担している。黙秘権や弁護人依- 7 - 頼権が刑罰権や捜査権に絶対的に優先するわけではなく、捜査権を行使するために、身体を拘束して被疑者を取り調べることを、憲法は否定しない。 また、被疑者が黙秘し、取調べに真摯な態度で応じようとせず、又は不合理な弁解をしているような場合に、取調べに応じ、真実を語るよう被疑者を説得することは、当然に許された取調べの手法であり、捜査権の行使として社会通念上相当と認められる範囲を逸脱するものと認められない限り、違法の評価を受けない。 イ 原告Aに対する取調べは、その都度、供述拒否権を告げた上で行われており、D又はEが不利益な供述をするように迫った事実はなく、強制、拷問、暴行、脅迫又は偽計を用いて自己の犯罪事実を認めるように自白を迫った事実もない。 また、原告Aが黙秘に転じた後の取調べは、1日当たり最長3時間48分であり、必要な限度を超える長時間であったとはいえず、時間帯についても、深夜に及ぶような方法で行われたものではない。 ウ D及びEは、本件被疑事件の真実解明のために当然するべき追及や説得をしていたのに過ぎず、原告Aと弁護人等との間の接見の内容を聞き出そうとする取調べはしていない。 (2) 取調べによる人格権侵害の違法性(争点2)【原告Aの主張】原告Aに対する取調べにおける発言(特に、Cに関する発言として番号86、126、130、181、186、201、2 ない。 (2) 取調べによる人格権侵害の違法性(争点2)【原告Aの主張】原告Aに対する取調べにおける発言(特に、Cに関する発言として番号86、126、130、181、186、201、221~223、黙秘権に関する発言として番号22、24、71~73、75~77、83、88、100、103、107、111、115、119、120、124、126、129~131、134、137、138、140、143、148、153、155、157~160、164~167、171、174~177、180、182、183、185~187、191、196、197、- 8 - 199、201、205、208、211~217、220等。以下「発言⑦」と総称する。)は、各発言はもとより、全体としても、原告Aの人格権を侵害するものであり、社会通念上相当と認められる方法ないし限度を逸脱する。 【被告の主張】D及びEによる取調べの方法や態様は、捜査権の行使として社会通念上相当と認められる範囲を逸脱したものではなく、人格権の侵害はない。 (3) 被疑者ノート等の閲覧の違法性(争点3)【原告らの主張】ア 本件ロッカー点検の際、本件留置担当官らは、原告Aが拒否したにもかかわらず、本件被疑者ノート及び原告Bが原告Aに差し入れた大学ノート(以下「本件大学ノート」という。)の記載内容を閲覧・精査した。本件大学ノートは、原告Aが本件被疑事件に係る事実認識やその他捜査機関に黙秘している事実等を記載してきたものであるから、これが閲覧・精査されることによる被害利益の内容等は、被疑者ノートと同様である。 イ 原告Aの言動等から、留置施設の規律及び秩序を害する行為の徴表となる事項が記載されるおそれがあったという事情は全くなく、その他、留置施設の規律及び秩 利益の内容等は、被疑者ノートと同様である。 イ 原告Aの言動等から、留置施設の規律及び秩序を害する行為の徴表となる事項が記載されるおそれがあったという事情は全くなく、その他、留置施設の規律及び秩序を維持するための高度の必要性が認められる特段の事情もないにもかかわらず、本件被疑者ノート及び本件大学ノートの中身をそれぞれ閲覧する行為は、原告Aの黙秘権と原告らの接見交通権を侵害するものである。 ウ 本件通達が、個人ロッカーについて「審査の申請、事実の申告及び苦情の申出をするにあたり作成した書類(作成中のものを含む。)は、検査しないこと」としていることからして、被疑者ノート等に対する検査は、外形的な確認の限度を超えて記載内容を目にする態様で行うことは許されないというべきである。 - 9 - 本件被疑者ノートの検査が1分もかからずに終了したとする証人Fの供述は信用できるものではないが、これを前提としても、本件被疑者ノートの外形的な確認の限度を超えて記載内容の確認に及んでおり、違法であるとの結論に変わりはない。 【被告の主張】ア 本件留置担当官らが本件被疑者ノートを点検し、原告Aから本件被疑者ノートを預かって修繕した経緯は、次のとおりである。 (ア) 本件留置担当官らが本件被疑者ノートを点検するに当たり、原告Aは「見ないでください」と申し立てたが、Fらが、危険物などが挟められていないか確認するものであること、看守は捜査部門とは別であることなどを説明したところ、原告Aは点検を拒否しなかった。 (イ) 本件留置担当官は、本件被疑者ノートの左端を左手で持ち、右手で頁を素早くめくり、各頁の間に危険物や異物がないかを確認して、本件被疑者ノートの点検を実施した。本件被疑者ノートの点検に要した時間は1分に満たない程度であり、留置保安上必 の左端を左手で持ち、右手で頁を素早くめくり、各頁の間に危険物や異物がないかを確認して、本件被疑者ノートの点検を実施した。本件被疑者ノートの点検に要した時間は1分に満たない程度であり、留置保安上必要な点検を行うことを目的とし、危険物隠匿の有無、破損の有無などについて、外形的に一瞥して確認できる範囲で点検したものである。 なお、本件留置担当官らは、本件大学ノートを点検した記憶はないが、本件被疑者ノートと同様、頁を素早くめくる方法により各頁の間に危険物や異物がないかを点検したと思われる。 (ウ) 本件留置担当官らは、本件被疑者ノートを点検して、その下部の紙紐が外れてなくなっていることに気付いた。 Fは、破れた紙の落丁や紛失、さらには事故防止のため、本件被疑者ノートを修繕する必要があったことから、原告Aに対し、破損箇所を修繕する必要がある旨説明したところ、原告Aは拒否しなかった。 Fは、本件被疑者ノートを留置場内の留置担当官が使用する看守席の- 10 - 後方にある棚に置き、他の被留置者に対する保安点検に移行し、すべての保安点検を終了した後の午前9時45分頃、管理事務室で勤務していた管理係の担当者であるGに本件被疑者ノートを手渡し、修繕を依頼した。 (エ) Gは、留置場と扉を隔てて接続する、留置場外の管理事務室で勤務していたところ、Fから本件被疑者ノートを手渡されて修繕を依頼されたため、同管理事務室の扉の直近の机上において、直ちに修繕を開始した。 Gは、本件被疑者ノート表紙の下部の綴じ穴付近が破れている状態であったため、残っていた上部の紙紐を一旦外し、表紙を少しずらして千枚通しを用いて新たな綴じ穴をあけ、綴じ穴2箇所を紙紐で綴り直した。 (オ) Gは、修繕を終了した後すぐに本件被疑者ノートを持って留置場内に入り、留置場内 上部の紙紐を一旦外し、表紙を少しずらして千枚通しを用いて新たな綴じ穴をあけ、綴じ穴2箇所を紙紐で綴り直した。 (オ) Gは、修繕を終了した後すぐに本件被疑者ノートを持って留置場内に入り、留置場内にいた原告Aに対し、差入口から本件被疑者ノートを手渡して修繕方法を説明した上、再び破損が生じた場合には留置担当官に修繕を願い出るように伝えた。 このとき、原告Aは「はい」と答え、修繕したことに対して不満等を述べることはなかった。 イ 留置担当官が、被疑者ノートを一瞥して確認可能な範囲で留置保安上必要な点検を行うことは、留置施設の規律と秩序を維持して被留置者の留置を確保し、適切な処遇を行うために必要な職務行為である。 本件留置担当官は、本件被疑者ノートを素早くめくる方法により、破損の有無、各頁の間の危険物等混入の有無を確認したのみであって、一瞥して確認可能な範囲で留置保安上必要な点検を行ったに過ぎず、その内容を精査していない。本件留置担当官が本件被疑者ノートの内容を精査していないことは、1分に満たないごく短時間で本件被疑者ノートの点検を終了していることからも明らかである。留置担当官は、留置施設に留置されている被留置者に係る犯罪の捜査に従事してはならない(刑事収容施設法1- 11 - 6条3項)。そのため、本件留置担当官らは、原告Aが取調べに対して黙秘していることは認識しておらず、本件被疑者ノートに記載された内容を精査したり情報を保全する合理的な理由や必要性は見出せない。 (4) 被疑者ノートの持ち去りの違法性(争点4)【原告らの主張】ア 本件ロッカー点検において、原告Aは、Fから、「被疑者ノートの綴りが解けそうだから見せてほしい。あと、このページ破れてるよ。」と言われた。これに対し、原告Aは、「これは誰にも見せてはだめだ 】ア 本件ロッカー点検において、原告Aは、Fから、「被疑者ノートの綴りが解けそうだから見せてほしい。あと、このページ破れてるよ。」と言われた。これに対し、原告Aは、「これは誰にも見せてはだめだと強く弁護士に言われているから、見せられない。」と伝えた上、落丁していた頁については、憲法の前文が印刷された頁であったため「そのページは要らないので捨てていいです。」と申し向けたところ、Fは、「施設内のことが書かれていないか確認しなければならない。」などと告げ、原告Aが拒否しているにもかかわらず、本件被疑者ノートを持ち去り、原告Aから見えない場所に移動させた(以下「本件持ち去り」という。)。 Fが本件被疑者ノートを持ち去ってから約15分後、原告Aの手元に本件被疑者ノートが返却された。 イ 本件持ち去りによって、原告A及び弁護人等は、本件被疑者ノートに書いたことが捜査機関に知られたとの危惧を抱いた。そして、原告Aは、再び本件被疑者ノートを見られてしまうことをおそれ、本件被疑事件についての認識や、原告A及び弁護人等が接見で協議したことを記録に留めることを萎縮するようになった。被疑者が弁護人との接見内容や弁護人からの助言をメモすることは、接見交通権の実質的保証という見地から非常に重要であり、これに萎縮効果を生じさせたことは、接見交通権が侵害されたことに他ならない。 ウ 原告Aは、黙秘権を行使しているため、本件被疑者ノートには、捜査機関が与り知らない情報が多数記載されていた。原告Aは、本件持ち去りに- 12 - よって、黙秘しても意味がないのではないかとの危惧を抱くに至ったものであるから、本件持ち去りは、実質的に原告Aの黙秘権も侵害したものといえる。 【被告の主張】ア 留置担当官は、留置施設の規律及び秩序を維持するために必要があ はないかとの危惧を抱くに至ったものであるから、本件持ち去りは、実質的に原告Aの黙秘権も侵害したものといえる。 【被告の主張】ア 留置担当官は、留置施設の規律及び秩序を維持するために必要がある場合は、被留置者の身体、着衣、所持品及び居室を検査し、並びにその所持品を取り上げて一時保管することができる(刑事収容施設法212条1項、北海道警察留置施設及び被留置者の処遇に関する訓令(乙17)69条)。 イ 本件被疑者ノートを放置すれば、頁を紛失するおそれがあったほか、紙を利用して自殺や逃走を企図するおそれがあり、原告Aが本件被疑者ノートの適正な使用を継続し、かつ、留置施設の規律及び秩序を維持し、被留置者に係る事故を防止するため、本件被疑者ノートを修繕する必要があった。そして、留置場内にはさみ、千枚通し等の危険物を持ち込むことは禁止されているため、留置場外における修繕作業が必要であった。 原告Aの被疑者ノートを看守席後方の棚から移動させて修繕し、同人に手渡すまでに要した時間は、長くても5分程度という短時間であったものであり、実質的に黙秘権侵害及び接見交通権侵害があったと評価されるものではない。 (5) 原告らの損害(争点5)について【原告らの主張】ア 原告らは、違法不当な取調べによって、甚大な精神的損害を被った。これに対する慰謝をするために相当な金額は、原告Aにおいては60万円を、原告Bにおいては20万円を下らない。 イ 原告らは、黙秘権及び接見交通権を侵害する違法な本件ノート点検によって、甚大な精神的損害を被った。これを慰謝するために相当な金額は、原告Aにおいては30万円を、原告Bにおいては10万円を下らない。 - 13 - ウ 原告らは、黙秘権及び接見交通権を侵害する違法な本件持ち去りによって、甚大な精神的損害 ために相当な金額は、原告Aにおいては30万円を、原告Bにおいては10万円を下らない。 - 13 - ウ 原告らは、黙秘権及び接見交通権を侵害する違法な本件持ち去りによって、甚大な精神的損害を被った。これを慰謝するために相当な慰謝料は、原告Aにおいては30万円を、原告Bにおいては10万円を下らない。 【被告の主張】原告らの損害はいずれも争う。 第3 当裁判所の判断1 争点1(取調べによる黙秘権侵害及び接見交通権侵害の違法性)について(1) 黙秘の意思表明後の取調べの継続による黙秘権侵害について刑訴法198条1項本文は、司法警察職員等は、犯罪の捜査をするために必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができると規定し、同項ただし書は、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができると規定していることからすると、逮捕又は勾留されている被疑者が黙秘の意思を表明した場合において、捜査官が、その後も当該被疑者を取調べのために滞留させ、取調べを継続したとしても、直ちに黙秘権を侵害するとはいえない。 また、被疑者が黙秘の意思を表明した場合において、捜査官が、当該被疑者に対し、任意の供述を得るため説得することも、直ちに黙秘権を侵害するとはいえない。原告らは、被疑者が黙秘の意思を明確に表明した後に、これを翻意させて供述させようと被疑者を直接説得すること自体が、黙秘し又は任意の供述をすることを困難にする旨を主張するが、採用することができない。 そうすると、本件において、原告Aは、6月26日の取調べにおいて黙秘の意思を表明したものであり、Dらは、その後も取調べを継続して原告Aに対し黙秘を翻意するよう説得していたものと認められるが(前提事実(2)、別紙2・3 いて、原告Aは、6月26日の取調べにおいて黙秘の意思を表明したものであり、Dらは、その後も取調べを継続して原告Aに対し黙秘を翻意するよう説得していたものと認められるが(前提事実(2)、別紙2・3)、このことから直ちに当該取調べが違法であるとはいえない。 (2) 取調べ中の発言による黙秘権侵害について- 14 - ア 前記(1)で説示のとおり、捜査官が黙秘する被疑者に対し黙秘を翻意するよう説得を行うことが直ちに黙秘権を侵害するとはいえず、捜査権の行使として社会通念上相当と認められる範囲を逸脱するものと認められない限り、違法の評価を受けるものではない。 そして、捜査官が被疑者に対し、黙秘によって不利益を受ける趣旨の発言をした場合においては、①当該発言の内容、回数、態様、②事前の黙秘権(供述拒否権)の告知の有無、③取調べの状況、④身柄拘束の有無、期間、⑤被疑者の年齢、精神状態等に照らし、被疑者が黙秘し又は任意の供述をすることを困難とするおそれがあると認められる場合に、当該発言は国家賠償法1条1項の適用上違法と解するのが相当である。 イ 以上を踏まえ、原告らが黙秘権侵害を指摘する発言①から⑤までの違法性の有無について検討する。 (ア) 発言①(供述拒否権について「本当のことを言わなくてもいいっていう権利」ではないと説明した発言)について発言①(番号90)は、その文言のみをみると、真実については供述を拒否することができない旨をいうものとも解されるが、当該発言は、供述拒否権があることを前提として、原告Aの逮捕前の供述(6月22日午後1時20分頃、Cをクローゼット内に閉じ込めた旨の供述)がその後の捜査により判明した事実(原告Aが同日午後0時51分頃から午後1時31分頃までの間に一人で外出していた事実)と矛盾していたこと(争い 1時20分頃、Cをクローゼット内に閉じ込めた旨の供述)がその後の捜査により判明した事実(原告Aが同日午後0時51分頃から午後1時31分頃までの間に一人で外出していた事実)と矛盾していたこと(争いがない。被告第1準備書面第3の3(7)、原告第2準備書面第2参照)を踏まえ、供述するのであれば真実と異なる供述をしてはならない旨をいうものと解されるから、黙秘権(供述拒否権)を侵害するとはいえない。 (イ) 発言②(原告Aが黙秘を続けるのであれば、捜査官が把握している事実関係のみで事件処理が進むことになるという趣旨の発言)について- 15 - 原告らが発言②に当たるとする各発言(番号25、27、28、34、44、58、62~64、75、122、123、127)は、その内容が誤りであるとはいえない上、直ちに原告Aが黙秘し続けることに対して強いおそれ等を覚え、黙秘を貫くことを断念するような内容であるともいえないから、黙秘権を侵害するとはいえない。 証拠(甲18)上、他に、かかる観点から原告Aの黙秘権を侵害すると認められる発言は見当たらない。 (ウ) 発言③(黙秘せずに弁解しなければ不利になるという趣旨の発言)について原告らが発言③に当たるとする各発言(番号28、58、63、112、146)は、黙秘が原告Aにとって不利になることを断定的に伝えるものではなく、黙秘することのメリットがないのではないかという捜査官の考えを述べるにとどまる上、情状面等で原告Aに有利に働く事情があれば、それを話さないことが原告Aにとって不利となり得るという点において誤りとはいえないから、任意の供述を促す範疇にとどまり、黙秘権を侵害するとはいえない。 証拠(甲18)上、他に、かかる観点から原告Aの黙秘権を侵害すると認められる発言は見当たらない。 において誤りとはいえないから、任意の供述を促す範疇にとどまり、黙秘権を侵害するとはいえない。 証拠(甲18)上、他に、かかる観点から原告Aの黙秘権を侵害すると認められる発言は見当たらない。 (エ) 発言④(不利な事実を訂正する機会は取調べの場しかなく、裁判の場で訂正することはできないという趣旨の発言)について原告らが発言④に当たるとする各発言(番号82、83、91、95、102、109、119、151、204)は、原告Aが裁判の場で供述する旨を述べる(番号4、7、15参照)のに対し、「もし違うことを言ってたんだったら、正す機会なの。今しかないよ。」(番号82)などと申し向けるものであって、必ずしも適切であるとはいえない。 しかし、これらの発言は、原告Aの逮捕前の供述がその後の捜査によ- 16 - り判明した事実と矛盾していたこと(前記(ア))を踏まえ、公判において客観的証拠と矛盾のない供述をしても、裁判官が供述の変遷について疑問を抱きかねないことや、検察官が被疑者の弁解も踏まえて公訴を提起するまでの勾留期間には限りがあることといった一般論を敷衍して説得を試みたものと評価でき、このような発言は、捜査官の取調べにおける発言として一般的に想定される範囲を逸脱しているとはいえず、原告Aが黙秘し続けることに対して強いおそれ等を覚え、黙秘を貫くことを断念するような内容であるともいえないから、黙秘権を侵害するとはいえない。 証拠(甲18)上、他に、かかる観点から原告Aの黙秘権を侵害すると認められる発言は見当たらない。 (オ) 発言⑤(黙秘権の行使が原告AやCのためにならず、責任をとっていないという趣旨の発言)について原告らが発言⑤に当たるとする各発言(番号22、24、25、42、57、58、60、63、71~73、7 ⑤(黙秘権の行使が原告AやCのためにならず、責任をとっていないという趣旨の発言)について原告らが発言⑤に当たるとする各発言(番号22、24、25、42、57、58、60、63、71~73、75、76、83、85、88、100、103、107、111、112、115、119、120、124、126、129~131、134、137、138、140、142~144、146、148、153、155、157~160、164~167、171、174~177、180、182、183、185~187、191、196、197、199、201、205、208、211~220)は、いずれも捜査官の考えを述べるにとどまり、捜査官の取調べにおける発言として一般的に想定される範囲を逸脱しているとはいえず、原告Aが黙秘し続けることに対して強いおそれ等を覚え、黙秘を貫くことを断念するような内容であるともいえないから、黙秘権を侵害するとはいえない。 証拠(甲18)上、他に、かかる観点から原告Aの黙秘権を侵害する- 17 - と認められる発言は見当たらない。 (カ) 以上のとおり、原告Aに対する発言自体に黙秘権の侵害にわたるものが認められないことに加え、原告Aに対する取調べは、事前に黙秘権及び供述拒否権の告知がされた上で行われていること(争いがない)、主に女性警察官(D)が切々と話しかけるような態様で行われ、原告らが指摘する机を叩く、深い溜息をつくなどの言動が威圧的な態様で行われたとは認められないこと(甲18)、取調べの時間は、平均すると1日2時間程度であったこと(前提事実(2)、別紙2)からすると、発言①から⑤までが複数回にわたり繰り返されていたこと、原告Aが当時20歳と若年であったこと、一人息子であるCを亡くした直後で精神的動揺が続いていたと推 たこと(前提事実(2)、別紙2)からすると、発言①から⑤までが複数回にわたり繰り返されていたこと、原告Aが当時20歳と若年であったこと、一人息子であるCを亡くした直後で精神的動揺が続いていたと推認されることを考慮しても、被疑者が黙秘し又は任意の供述をすることを困難とするような取調べが行われたとは認められない。 (3) 取調べ中の発言による接見交通権侵害についてア 刑訴法39条1項は、憲法34条前段の趣旨にのっとり、身体拘束を受けている被疑者又は被告人が、弁護人又は弁護人になろうとする者と立会人なしに接見することができると規定しており、この弁護人との接見交通権は、身体拘束を受けた被疑者が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに、弁護人の立場からは、その固有権の最も重要なものの一つである(最高裁昭和53年7月10日第一小法廷判決・民集32巻5号820頁参照)。 そうすると、被疑者と弁護人との接見交通の後に、捜査官が当該被疑者に対し、当該接見交通の具体的内容を尋ねて聞き出そうとする行為は、特段の事情のない限り、当該被疑者及び弁護人の接見交通権を侵害したものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法というべきである。 イ 以上を踏まえ、原告らが接見交通権を侵害する旨を指摘する発言⑥の違- 18 - 法性の有無について検討する。 これらの発言(番号2、3)は、その文言のみをみると、弁護人との接見交通の内容を尋ねるものとも解されるが、原告Aの発言を含む一連の発言を併せてみると、黙秘する旨を表明した原告Aに対し、黙秘の意図や理由を確認する趣旨でなされたものと認められるから、これらの発言により原告らの接見交通権が侵害されたとは認められない。 ウ なお、原告らは、発言⑥のほか、D及 旨を表明した原告Aに対し、黙秘の意図や理由を確認する趣旨でなされたものと認められるから、これらの発言により原告らの接見交通権が侵害されたとは認められない。 ウ なお、原告らは、発言⑥のほか、D及びEが黙秘の意思を表明した原告Aに対し、黙秘の意思を翻意させ本件被疑事件について供述させようとする発言が原告らの接見交通権を侵害する旨を主張するが、被疑者が事件の内容について供述することと弁護人との接見の内容を供述することは、(当該接見が被疑事件の内容に関するものであったとしても)別異の事柄である。 原告らは、原告Aが本件被疑事件について供述すれば、自ずと弁護人等との接見の内容が捜査機関に明らかになる旨を主張するが、事件の内容に関する供述が弁護人との接見の内容とは別異の事柄であることは前記のとおりであり、黙秘の意思を翻して事件の内容を供述するに至った被疑者が、直ちに弁護人との接見の内容を供述するとは限らないから、原告らの主張は失当といわざるを得ない。 (4) 小括以上によれば、D及びEによる原告Aの取調べについて、黙秘権侵害及び接見交通権侵害の違法を認めることはできない。 2 争点2(取調べによる人格権侵害の違法性)について(1) 取調べにおける捜査官の発言が、被疑者の人格権を侵害するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法であるか否かは、①事件の内容、性質、②当該被疑者に対する嫌疑の程度、③取調べの必要性、取調べの具体的態様等を勘案して、当該発言が社会通念上相当と認められる範囲を超えるものであ- 19 - るか否かにより判断するのが相当である。 (2) 以上を踏まえ、原告Aが人格権を侵害する旨を指摘する発言⑦の違法性の有無について検討する。 前提事実(2)・別紙2のとおり、①当時2歳のCが原告Aと二人で生活して するのが相当である。 (2) 以上を踏まえ、原告Aが人格権を侵害する旨を指摘する発言⑦の違法性の有無について検討する。 前提事実(2)・別紙2のとおり、①当時2歳のCが原告Aと二人で生活していた自宅において心肺停止状態で発見されたこと、原告Aは、②逮捕に先立ち、6月22日午後1時20分頃、Cをクローゼット内に閉じ込めた旨供述したこと、③黙秘権を行使する前の6月23日の取調べにおいて、監禁の事実を認める供述をしたことなどからすると、原告Aには、本件被疑事件について相当程度の嫌疑があったと認められる。Cは、原告Aの逮捕翌日、死亡するに至ったが、その経緯は明らかでなく、本件被疑事件は監禁致死や傷害致死、ひいては殺人など、より重大な犯罪の嫌疑に発展する可能性も否定できなかった。 また、その後の捜査において、原告Aが6月22日午後0時51分頃から午後1時31分頃までの間に一人で外出し、自宅近隣の大型店舗で買い物をしていた事実が判明したことから(前記1(2)イ(ア))、捜査官において、午後1時20分頃、Cをクローゼット内に閉じ込めたとの原告Aの前記供述との矛盾について説明を求める必要があったといえる。 このように、自宅で当時2歳のCが突然死した事案の真相を明らかにするためには、同居の母である原告Aの供述が極めて重要であったところ、原告Aには相当程度の嫌疑が認められ、その供述内容が裏付捜査から発覚した事実と矛盾していたことなどからすれば、取調官は、原告Aから、Cが心肺停止状態で発見された当日の行動や従前の親子の関係性等について聴取する必要性が高かったと認められる。このような状況で、取調べの途中から黙秘に転じた原告Aに対し、Cの話をしたり、Cに対して従前どのような感情を持って接していたのかなどを聴取することによって、事案の解明をしようと 高かったと認められる。このような状況で、取調べの途中から黙秘に転じた原告Aに対し、Cの話をしたり、Cに対して従前どのような感情を持って接していたのかなどを聴取することによって、事案の解明をしようとしていたということができる。 - 20 - 以上に加え、前記1(2)イ(カ)で認定のとおり、原告Aに対する取調べは、主に女性警察官(D)が切々と話しかけるような態様で行われ、威圧的な言動は認められないこと、発言⑦自体も、原告Aの言動や人格を否定するものではなく、Cを関連付けて任意の供述を促していたものといえることからすると、これらの発言が原告Aを心理的に追い込む面があったことは否定できないとしても、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱し、原告Aの人格権を侵害していたとは認められない。 そして、証拠(甲18)上、他に、かかる観点から原告Aの人格権を侵害すると認められる発言は見当たらない。 (3) 以上によれば、D及びEによる原告Aの取調べについて、人格権侵害の違法を認めることはできない。 3 争点3(被疑者ノート等の閲覧の違法性)及び争点4(被疑者ノートの持ち去りの違法性)について(1) 認定事実前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア 本件留置担当官らは、7月6日午前9時15分頃、原告Aの居室の保安点検を開始した(乙2、乙29、証人F〔2〕)。 イ 本件留置担当官らは、前記アの後、本件ロッカー点検を開始し、同日午前9時20分頃、本件被疑者ノート及び本件大学ノートの点検を実施した(以下「本件ノート点検」という。本件大学ノートの点検が実施されたことにつき弁論の全趣旨、その余の事実は争いがない。)。 ウ 原告Aは、本件ノート点検を受ける際、本件留置担当官らに対し、ノートの点検を拒否す 件ノート点検」という。本件大学ノートの点検が実施されたことにつき弁論の全趣旨、その余の事実は争いがない。)。 ウ 原告Aは、本件ノート点検を受ける際、本件留置担当官らに対し、ノートの点検を拒否する旨伝えた(争いがない)。 エ Fは、本件被疑者ノートの点検について、危険物の有無を確認するものであって、内容を読むものではないこと及び留置と捜査は別であること等- 21 - を説明し、原告Aに対し、本件被疑者ノートの点検に応じるよう説得した(証人F〔4〕)。 オ 原告Aは、前記エの説得に対し、それ以上の反対をしなかった(証人F〔4〕)。 カ 本件被疑者ノートを点検した留置担当官は、本件被疑者ノートを数十秒間(1分に満たない時間)、ノートの内側を自らに向けた状態でめくって点検した(乙30の2、証人F〔4~5〕、弁論の全趣旨)。 なお、この点について、原告Aは、当該担当官が本件被疑者ノート及び本件大学ノートを「書いてある内容を目で追うようなスピードで、ゆっくりページをめくっていた」と陳述するが(甲20)、当該陳述によっても当該担当官が本件被疑者ノート及び本件大学ノートをどの程度の速さで閲覧していたかは必ずしも明らかでない上、反対尋問による供述内容の検証も経ていない以上、当該陳述を採用することはできない。 キ 本件被疑者ノートは、上下2本の紙紐のうち下部1本が紛失し、一部頁の下部綴じ穴付近に破れた箇所があった(乙35、証人F〔6〕、証人G〔3〕)。 ク 本件留置担当官らは、原告Aの書類袋内を確認したが、紙紐の発見に至らなかったため、Fは、原告Aに対し、いつから紙紐がなくなっているのか質問したところ、原告Aは、それまで気が付いていなかった旨回答した(争いがない)。 ケ Fは、原告Aに対し、本件被疑者ノートを修繕する必要性を伝え、 、原告Aに対し、いつから紙紐がなくなっているのか質問したところ、原告Aは、それまで気が付いていなかった旨回答した(争いがない)。 ケ Fは、原告Aに対し、本件被疑者ノートを修繕する必要性を伝え、本件ロッカー点検が終わった際、本件被疑者ノートを看守席の後方にある棚に置いた。このとき、Fをはじめ本件留置担当官らは、原告Aに対し、棚上に本件被疑者ノートを置くことを特に伝えていなかった。(証人F〔8、25~26〕)コ 前記ケの看守席は、原告Aの居室の真向かいに位置しており、身長約1- 22 - 58.5cmの原告Aが居室内で直立した場合、看守席後方の棚上に置かれた本件被疑者ノートを視認することができる位置にあった(乙39、40)。 サ 本件留置担当官らは、本件被疑者ノートを前記コの場所に置いたまま、他の被留置者に対する保安点検を続けた(証人F〔8~9〕)。 シ Fは、同日午前9時45分頃、管理事務室で待機していた管理係の担当者であったGに対し、本件被疑者ノートの修繕を依頼した(証人G〔2〕、証人F〔9〕、弁論の全趣旨)。 ス Gは、同日、留置場を出てすぐの管理事務室(原告Aの居室から1、2分程度で行くことが可能)に午前8時45分から待機しており、同時刻以降、依頼があれば直ちに本件被疑者ノートの修繕に対応できる状況であった(証人G〔6、17〕)。 セ Gは、前記シの後、1、2分程度で本件被疑者ノートを修繕し、原告Aの居室で原告Aに本件被疑者ノートを手渡した(乙32、証人G〔3~6〕)。 ソ 本件被疑者ノートが、原告Aの手元を離れていた時間(前記ケ~セまでの時間)は、15分から20分程度であった(証人F〔17~18、24~25〕、弁論の全趣旨)。 (2) 被疑者ノートの閲覧・持ち去りについてア 前記1(3)アで説示のとお た時間(前記ケ~セまでの時間)は、15分から20分程度であった(証人F〔17~18、24~25〕、弁論の全趣旨)。 (2) 被疑者ノートの閲覧・持ち去りについてア 前記1(3)アで説示のとおり、被疑者と弁護人の接見交通権は、両者にとって最も重要な権利であるところ、逮捕又は勾留された被疑者が弁護人との接見に備えて取調べや接見の内容等を記載した被疑者ノートを作成することは、接見行為そのものではないものの、面会時における両者の意思疎通を補完し、又はこれと一体となって弁護人の援助の内容となるものである。 そうすると、刑事収容施設法212条1項に基づき留置担当官が被留置- 23 - 者の所持品を検査する場合であっても、その対象が被疑者ノートである場合には、記載内容の検査が無制限に許容されるとすることは相当でなく、少なくともこれを精査する行為は、留置施設の規律及び秩序を維持するための高度の必要性が認められない限り許容されないと解される。また、被疑者ノートを持ち去る行為は、修繕等の理由がある場合であっても一定の制限があるものと解すべきであり、その当否は、留置施設の規律及び秩序を維持するための必要性の程度と、持ち去りの態様・程度等とを比較衡量して決することが相当である。 イ また、被疑者が黙秘している場合において、当該被疑者が被疑者ノートに記録した弁護人との接見の内容は、黙秘に係る事件の内容に及ぶことが常であるから、捜査官が当該記載内容を閲覧することは、当該被疑者の黙秘権を侵害するといえる。 一方、留置担当官は被留置者に係る犯罪の捜査に従事するものではない以上(刑事収容施設法16条3項)、留置担当官が黙秘中の被留置者(被疑者)の被疑者ノートの記載内容を閲覧する行為は当該被留置者(被疑者)の黙秘権を直接侵害するものではないものの 従事するものではない以上(刑事収容施設法16条3項)、留置担当官が黙秘中の被留置者(被疑者)の被疑者ノートの記載内容を閲覧する行為は当該被留置者(被疑者)の黙秘権を直接侵害するものではないものの、当該被留置者(被疑者)においてその記載内容が捜査官に伝播するのではないかとの不安感は看過し得ないものであって、その限度で当該被留置者(被疑者)の黙秘権を侵害するものと解するのが相当である。 (3) 争点3(被疑者ノート等の閲覧の違法性)について前記(1)で認定のとおり、本件留置担当官は、本件被疑者ノートの内側を自らに向けた状態でめくる方法により点検しているものの、同担当官は、約140頁の本件被疑者ノートを数十秒で点検し終えたものと認められるから、その点検は、危険物等の混入の有無や記載事項(留置施設の構造に関する記載の有無など)の確認にとどまっていたと考えるのが自然である。そうすると、本件ノート点検において、本件被疑者ノートの具体的な記載内容の点検- 24 - が行われたとは認められない。また、前記(1)で認定のとおり、本件留置担当官らは、本件ノート点検において本件大学ノートの点検も実施したものと認められるが、その点検も具体的な記載内容に及んだとは認められないから、本件ノート点検が原告らの接見交通権を侵害したとは認められない。 そして、前記(1)で認定のとおり、本件ノート点検は原告Aの面前で行われたものであり、原告Aも前記のような点検の態様を当然認識していたといえるから、本件ノート点検が原告Aの黙秘権を侵害したとも認められない。 以上によれば、本件ノート点検について、国家賠償法1条1項の適用上の違法は認められない。 (4) 争点4(被疑者ノートの持ち去りの違法性)についてア 本件持ち去りによる接見交通権侵害について( 上によれば、本件ノート点検について、国家賠償法1条1項の適用上の違法は認められない。 (4) 争点4(被疑者ノートの持ち去りの違法性)についてア 本件持ち去りによる接見交通権侵害について(ア) 修繕の必要性等被告は、本件被疑者ノートを放置すれば、頁を紛失するおそれがあったほか、紙を利用して自殺や逃走を企図するおそれがあったことから、本件被疑者ノートを修繕する必要があった旨を主張する。 しかし、本件被疑者ノートの一方の紙紐が脱落・紛失していたことで一部の頁が紛失する可能性があったとしても、本件被疑者ノートを一時的に袋等で保管した後に弁護人にその修繕を求めることも可能であったと考えられる。また、そもそも被留置者らは紙(便箋等)を居室内に持ち込むことが認められている以上、本件被疑者ノートの紛失によって、紙を利用した自殺や逃走のおそれが増大するものとは考え難い。当時、原告Aが自殺や逃走を図るおそれが具体的に存在したことの主張立証もないことからすると、本件留置担当官らにおいて本件被疑者ノートを修繕する必要性が高かったとは認められない。 (イ) 侵害される利益の内容・程度前記(1)ケ、ソで認定のとおり、本件被疑者ノートは、1、2分で修- 25 - 繕を終えるものであったにもかかわらず、少なくとも15分間にわたって、原告Aに対しその所在場所が明示に知らされないまま手元から離れた状態にされていたものと認められる。その間、本件留置担当官ら又は捜査官が本件被疑者ノートを閲覧したことを認めるに足りる証拠はないものの、原告Aからすれば、本件留置担当官ら又は捜査官がその記載内容を閲覧していることを危惧するのが通常であって、その不利益は看過できない。 この点について、被告は、本件留置担当官らは、本件被疑者ノートの修繕を依頼する 本件留置担当官ら又は捜査官がその記載内容を閲覧していることを危惧するのが通常であって、その不利益は看過できない。 この点について、被告は、本件留置担当官らは、本件被疑者ノートの修繕を依頼する前に、他の被留置者の保安点検や業務の引継ぎ等を行っていた旨を主張する。しかし、前記(ア)で説示したところによれば、少なくとも本件被疑者ノートを修繕すべき緊急の必要性は認められず、本件留置担当官らがこれらの業務を終えた後に本件被疑者ノートを受け取る方法をとり得たというべきであるし、前記(1)ス、セで認定の事実によれば、本件被疑者ノートを直ちに修繕に回した上で保安点検を再開したとしても格別の支障が生じることは想定されないのであって、前示のような被疑者ノートの重要性に鑑みれば、本件留置担当官らの措置は合理性を欠くものであったといわざるを得ない。 (ウ) 小括以上のとおり、本件被疑者ノートは、合理的理由なく15分以上にわたって原告Aの手元から離れた状態にされ、その間、その所在場所も明らかにされていなかったのであるから、本件持ち去りは、留置施設の管理の必要から許容される限度を超え、原告らの接見交通権を違法に侵害したものと認められる。 イ 本件持ち去りによる黙秘権侵害について前記3(4)ア(イ)で認定・説示のとおり、本件留置担当官ら又は捜査官が本件被疑者ノートを閲覧したことを認めるに足りる証拠はないものの、原- 26 - 告Aからすれば、本件留置担当官ら又は捜査官がその記載内容を閲覧していることを危惧するのが通常であって、原告Aの黙秘を含む供述意思形成に対する萎縮効果を否定することはできず、本件持ち去りは、その意味において原告Aの黙秘権を侵害したものと認められる。 なお、この点について、被告は、本件留置担当官らは原告Aが黙秘して 供述意思形成に対する萎縮効果を否定することはできず、本件持ち去りは、その意味において原告Aの黙秘権を侵害したものと認められる。 なお、この点について、被告は、本件留置担当官らは原告Aが黙秘していることを認識していなかった旨を主張するが、被留置者が取調べにおいて黙秘することは留置担当官において当然に想定可能な事態であるから、前記判断を左右するものではない。 ウ 小括以上によれば、本件持ち去りは、原告らの接見交通権及び原告Aの黙秘権を侵害するものであって、国家賠償法1条1項の適用上違法と評価すべきである。 4 争点5(原告らの損害額)について本件持ち去りは、原告らの接見交通権及び原告Aの黙秘権を侵害するものであるところ、これらの権利は刑事手続上最も基本的な権利であること、他方、前記3(4)ア(イ)で認定のとおり、本件持ち去りによって本件留置担当官ら又は捜査官が本件被疑者ノートを閲覧したことを認めるに足りる証拠はないことなどを考慮すると、本件持ち去りによる原告らの精神的苦痛を填補するのに必要な慰謝料の額は、原告Aにつき20万円、原告Bにつき5万円と認めるのが相当である。 第4 結論よって、原告Aの請求は、20万円及び7月6日以降の遅延損害金の支払を求める限度で、原告Bの請求は、5万円及び前記同様の遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるから認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱宣言は、相当でないからこれを付さない。 - 27 - 札幌地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官 布 施 雄 士 裁判官 長 峰 志 織 方裁判所民事第1部 裁判長裁判官 布 施 雄 士 裁判官 長 峰 志 織 裁判官 小 松 美 緖 (別紙1は掲載を省略する。)

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