20む32020.5.13大阪地裁棄却316条の20 主文 本件証拠開示命令請求を棄却する。 理由 第1本件請求の趣旨及び理由並びに検察官の意見 本件請求の趣旨及び理由本件請求の趣旨及び理由は,主任弁護人作成の平成20年3月6日付け「証拠開示命令請求書」,同月26日付け「証拠開示命令請求補充書」及び同年4月25日付け「証拠開示命令請求補充書2」に記載のとおりである。 その要旨は,弁護人は,被告人の自白の任意性を争う予定であるところ,既にその点について詳細な主張をし,刑事訴訟法316条の20に基づいて,存在することが明らかである①被告人の取調べに関する警察官の取調べメモ(手控え),取調べ小票,調書案,備忘録及びこれらの電子データ(以下,これらを併せて「本件取調べメモ等」という。)並びに②被告人の取調べに関する検察官の取調べ手控え(ノート)(以下「本件手控え」という。)を開示するよう求めたが,検察官は開示に応じられないとした。これは,最高裁判所第三小法廷平成19年12月25日決定(以下「最高裁第三小法廷決定」という。)の解釈を誤ったものであるから,上記証拠の開示命令を発するよう求めるというものである。 検察官の意見これに対する検察官の意見は,検察官作成の平成20年3月14日付け「意見書」に記載のとおりである。 その要旨は,①検察官が,最高裁第三小法廷決定を前提に,「取調警察官が,犯罪捜査規範13条の規定に基づき,取調べについてその供述内容や取調べの状況等を記録した備忘録及び電子データであって,捜査機関において保管中のもの」の存否につき警察に照会を行ったところ,警察からは該当するものは存在しないとの回答がなされたものであり(平成20年4月23日付け検察官A作成の捜査報告書),犯罪捜査規範13条に基づいて作成された の」の存否につき警察に照会を行ったところ,警察からは該当するものは存在しないとの回答がなされたものであり(平成20年4月23日付け検察官A作成の捜査報告書),犯罪捜査規範13条に基づいて作成されたものか否かについては警察において判断が可能な事柄であって,特段の事由がない限りかかる警察の判断は尊重すべきであるから,本件において,証拠開示の対象となる本件取調べメモ等は存在しないし,②検察官は犯罪捜査規範の規律を受けるものではないから,本件手控えは,犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録に該当せず,また,検察官が作成する取調べのメモは,専ら自己が使用するために作成したもので,他に見せたり提出したりすることを全く想定していないものにほかならないから,最高裁第三小法廷決定に照らせば,証拠開示命令の対象になるものではない,というものである。 第2当裁判所の判断 本件取調べメモ等の開示請求について(1)証拠開示命令の対象適格について刑事訴訟法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は,必ずしも検察官が現に保管している証拠に限られず,当該事件の捜査の過程で作成され,又は入手した書面等であって,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものを含むと解するのが相当である。そして,公務員がその職務の過程で作成するメモについては,専ら自己が使用するために作成したもので,他に見せたり提出することを全く想定していないものがあり,これを証拠開示の対象とするのは相当でないが,取調警察官が,犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録であって,取調べ経過その他参考となるべき事項が記録され,捜査機関において保管されている書面は,個人的メモの域を超え,捜査関係の公文書ということができるので,これに該当する備忘録については,当該事件の公判の ,取調べ経過その他参考となるべき事項が記録され,捜査機関において保管されている書面は,個人的メモの域を超え,捜査関係の公文書ということができるので,これに該当する備忘録については,当該事件の公判の審理において,当該取調べ状況に関する証拠調べが行われる場合には,証拠開示の対象となり得るものと解するのが相当である(最高裁第三小法廷決定参照)。 本件の公判前整理手続において,弁護人は,被告人の犯人性を争い,被告人の捜査段階における自白は,取調警察官であるB及びCが,被告人に対し,「放火について認めれば殺人については捜査対象にしない。認めれば罪が軽くなる調書を作成する。」旨を告げるなどして利益誘導を行い,更に「被告人が放火をしている写真やビデオがある。」などと虚偽の事実を告げて欺罔するという違法な取調べを行ったことによりなされたものであり,この違法性を承継したD検察官の取調べも違法であるなどとして,検察官請求の被告人の検察官調書6通(以下「本件検察官調書」という。)の任意性を争う予定であることを明示している。当裁判所は,本件検察官調書の任意性を判断するために,弁護人の請求するB警察官及びC警察官の証人尋問を実施することを予定しているが,D検察官の証人請求については採否を留保している。 以上によれば,弁護人が開示を求めている本件取調べメモ等のうち,B警察官及びC警察官が犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録であって,捜査機関において保管中のものについては,証拠開示の対象となると解するのが相当である。 これに対し,弁護人が開示を求めている本件取調べメモ等のうち,犯罪捜査規範13条に基づき作成された備忘録に該当しないものは,他に見せたり提出することを想定していない個人的メモの類に属するものと解されるから,これを証拠開示の対象とするのは相当ではない。 ち,犯罪捜査規範13条に基づき作成された備忘録に該当しないものは,他に見せたり提出することを想定していない個人的メモの類に属するものと解されるから,これを証拠開示の対象とするのは相当ではない。 (2)犯罪捜査規範13条に基づき作成された備忘録の存否について検察官の意見は,前記第1の2のとおりであり,加えて,弁護人が開示を求める本件取調べメモ等の中から犯罪捜査規範13条に基づき作成された備忘録に該当するものを選別するため,当裁判所から同メモ等の一覧表及び同メモ等自体の提示を命ぜられたとしても,検察官が保管するものではない以上,その提示命令に応じることはできないとする。 前記(1)のとおりの本件公判前整理手続における争点及び証拠の整理状況からして,捜査段階における被告人供述の任意性,信用性が公判審理において重要な争点となることは明らかであるところ,このことは,本件検察官調書等の作成経緯を確認する状況が録音,録画されていることからすれば,捜査段階においても十分に認識されていたはずであるし,本件が現住建造物等放火という重大犯罪であることからしても,取調警察官としては,将来の公判段階における被告人供述の任意性等の立証に備え,犯罪捜査規範13条に基づく備忘録を作成して保管しておくべきであって,同条に基づいて作成された備忘録が存在しないという警察の回答には少なからず疑念を抱かざるを得ない。 しかし,警察としても,犯罪捜査規範13条に基づき作成された備忘録に該当するか否かについては,独自に判断をすることが可能であるから,警察の上記回答を虚偽と断ずることまではできず,また,検察官が本件取調べメモ等の標目及び同メモ等自体の提示命令に応じないとしている以上,当裁判所としては,犯罪捜査規範13条に基づき作成された備忘録に該当するものの存否を確認することがで はできず,また,検察官が本件取調べメモ等の標目及び同メモ等自体の提示命令に応じないとしている以上,当裁判所としては,犯罪捜査規範13条に基づき作成された備忘録に該当するものの存否を確認することができないのであり,かかる状況においては,B警察官及びC警察官が犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録が存在すると認めることはできないものと判断せざるを得ない。 ただし,犯罪捜査規範13条に基づき作成された備忘録が存在しないということは,捜査機関において取調べの適正化を指向し,その過程の立証に備えようとする姿勢があったのか否かについて疑念を抱かざるを得ないこと,また,B警察官及びC警察官としても,予定されている証人尋問において,同条に基づく備忘録により被告人の取調べ状況に関する当時の記憶を喚起して証言をすることができないのであるから,当裁判所としては,この点に留意した上で両名の証言の信用性を判断することを付言しておく。 (3)小括したがって,弁護人が開示を求める本件取調べメモ等のうち,犯罪捜査規範13条に基づき作成された備忘録に該当しないものは,取調警察官の個人的メモの類に属するものというべきであって証拠開示の対象とするのは相当ではなく,また,B警察官及びC警察官が犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録については,その存在を認めることはできないので,本件取調べメモ等の開示を求める弁護人の請求は理由がない。 本件手控えの開示請求について(1)証拠開示の対象適格について検察官は,犯罪捜査規範の規律を受けるものではなく,備忘録を作成することを義務づけられているものではないことからして,本件手控えは,最高裁第三小法廷決定の射程範囲には含まれないものである。したがって,仮に本件手控えが証拠開示の対象となり得るとしても,それは,検察官の取調 務づけられているものではないことからして,本件手控えは,最高裁第三小法廷決定の射程範囲には含まれないものである。したがって,仮に本件手控えが証拠開示の対象となり得るとしても,それは,検察官の取調べについて固有の違法が具体的に主張され,その立証方法として特に重要である場合に限られるというべきであり,以下,その前提で,本件手控えについて開示の相当性が認められるかを検討することとする。 (2)証拠開示の相当性について本件公判前整理手続において,弁護人は,①被告人は,B警察官から「検事の質問には,はい,はい,と答えるんやぞ。」というアドバイスを受けており,D検察官から取調べを受けた際に,B警察官のアドバイスのとおり,犯行を認める旨の供述をしたのであるから,検察官の取調べも警察官の取調べの違法を承継しているし,また,②D検察官自身も,被告人に対して誘導,誤導に基づく違法な取調べを行ったと主張して,本件検察官調書の任意性を争った上で,D検察官の証人尋問を請求している。 しかし,弁護人の上記①の主張は,検察官の取調べが警察官の取調べの違法を承継しているというだけで,検察官の取調べ自体の違法事由を問題としているものではなく,また,弁護人の上記②の主張については,D検察官が被告人に対して誘導,誤導に基づく違法な取調べを行ったとはいうものの,それ以上にD検察官が行ったとされる誘導,誤導について具体的な事実の主張がなされているものではない。そうだとすると,本件手控えが検察官の取調べの違法を立証する上で重要であるとは認められず,一定の関連性は肯定できるとしても,その程度は低いものといわざるを得ない。 加えて,検察官は,弁護人による本件証拠開示請求を受け,検察官による被告人の取調べ状況を撮影したDVD(弁1)及び取調警察官が被告人の取調べ状況について作成した その程度は低いものといわざるを得ない。 加えて,検察官は,弁護人による本件証拠開示請求を受け,検察官による被告人の取調べ状況を撮影したDVD(弁1)及び取調警察官が被告人の取調べ状況について作成した捜査報告書6通を開示している。これにより,弁護人において,被告人の取調べ状況をある程度把握することができること,当裁判所が,D検察官の証人尋問の採否を留保していることからすると,被告人の防御の準備の観点から見ても,本件手控えを開示する必要性の程度は高くないというべきである。 以上のとおり,本件手控えについては,弁護人の主張との関連性及び開示の必要性のいずれの点からも,未だ開示を命ずるのが相当であるとは認められない。 (3)小括したがって,本件手控えの開示を求める弁護人の請求は相当性を欠くものであるから,理由がない。 第3結語以上によれば,弁護人の本件証拠開示請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・中川博之,裁判官・仁藤佳海,裁判官・山下隼人)
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