主文 被告人を懲役2年に処する。 未決勾留日数中330日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 公安委員会の運転免許を受けないで,平成14年2月17日午前1時35分ころ,神奈川県横須賀市a町b丁目c番地先道路において,普通乗用自動車を運転した第2 前記日時ころ,前記場所先の右に湾曲する道路をd町方面からe方面に向かい,自車左前方を先行するB(当時29歳)運転の大型自動二輪車に追従して進行中,同車を停止させるため同車の進行を妨害しようと企て,同車の通行を妨害する目的で,重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約70キロメートルの速度で自車を運転して前記自動二輪車に著しく接近したことにより,驚いた同人をして運転操作を誤らせ,同車を道路左端の縁石に接触させて,その反動により同車を右前方に暴走させ,同車を自車左側面に衝突させて,同人を同車とともに路上に転倒させ,よって,同人に開口障害,外傷性顎関節症,三叉神経麻痺(右下オトガイ神経領域)の後遺症を伴い,加療約3か月以上を要し全治不詳の多発性顔面骨解放性骨折等の傷害を負わせた第3 前記記載の日時・場所において,同記載の車両を運転中,前記記載のとおり前記Bに傷害を負わせる交通事故を起こしたのに,直ちに車両の運転を停止して同人を救護する等必要な措置を講ぜず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったものである。 (証拠の標目)省略(補足説明) 1 弁護人は,被告人運転の車両は被害車両の後を走っていただけで,進路を妨害したり,著しく接近したりはしていないなどと主張し,危険運転致傷罪の成立を争うので,検討する。 2 関係証拠によれば 説明) 1 弁護人は,被告人運転の車両は被害車両の後を走っていただけで,進路を妨害したり,著しく接近したりはしていないなどと主張し,危険運転致傷罪の成立を争うので,検討する。 2 関係証拠によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) 被告人は,本件犯行当日,友人から借りた普通乗用自動車(マツダセンティア,車体の長さ4.92メートル,車幅1.79メートル,車高1.38メートル)を無免許運転し,仲間2名を同乗させて,いわゆる暴走集会に参加した。被告人は,車約30台くらいで,道路一杯に広がる,信号無視等の暴走行為を繰り返していたところ,横須賀市f近辺の道路上で,B(以下「B」という。)の運転する大型自動二輪車(ハーレーダビッドソン880cc,車体の長さ2.20メートル,車幅0.6メートルないし0.7メートル,車高1.23メートル,以下「大型自動二輪」という。)が被告人らの集団に割り込んできた。Bは,大型自動二輪を運転しながら,被告人の仲間の車の側面を蹴ったり,仲間の顔を殴ったりした。これを見た被告人はBの大型自動二輪を停止させ,謝罪をさせようと考え,被告人車両でBを追い掛け始めた。しかし,大型自動二輪の方が速度が優っていたため,Bは被告人車両を引き離しては,速度を落とし,被告人に対して手招きする等の挑発行為を繰り返していた。被告人は,Bを追い掛けながら,f周辺からgを通り,a町交番前を経て,本件現場である横須賀市a町b丁目c番地先道路に至った。 (2) 本件現場は,被告人とBの進行方向から見て,事故発生場所の約100メートル手前から右にやや湾曲し始め,約38メートル手前からは左に湾曲して事故発生場所に至り,さらに交差点を経て左に湾曲する道路である。同道路は,一車線の幅員4.5メートルの二車線道路で,中央線には追い越し禁止の黄色ペイント 曲し始め,約38メートル手前からは左に湾曲して事故発生場所に至り,さらに交差点を経て左に湾曲する道路である。同道路は,一車線の幅員4.5メートルの二車線道路で,中央線には追い越し禁止の黄色ペイント表示線があり,最高速度は毎時40キロメートルと制限されている。 (3) 被告人は,前記の道路が右に湾曲しているのを利用してBの大型自動二輪を追い越し,その前に出ようとして,時速約70キロメートルの速度で大型自動二輪の後方に接近した。そのとき,大型自動二輪のタイヤ部分が道路縁石に接触し,反動で大型自動二輪は右前方に走行し,被告人車両の左フロントドア付近に衝突し,Bは大型自動二輪もろとも路上に転倒し,前記の傷害を負った。 3 刑法208条の2第2項前段の危険運転致死傷罪は,人または車の通行を妨害する目的で,走行中の自動車の直前に侵入し,その他通行中の人又は車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し,よって,人を死傷させる罪である。上記2の認定事実をもとに,同罪の成立を検討する。 (1) 「通行を妨害する目的」とは,相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することと解されるところ,本件において,前記2のとおり,被告人はBの大型自動二輪を停止させる目的で,同車を追い越し,その前に出ようとしたというのであるから,被告人がBに対し,その通行を妨害する目的を有していたことは明らかである。 (2) 「人又は車に著しく接近し」とは,上記(1)の目的で,自車を相手方の直近に移動させることと解されるところ,進路前方を走行している車両を後方からあおる行為もこれに当たり,また,「著しく接近した」か否かについては,運転車両の速度や接近形態に照らし,通常相手方に回避の措置をとらせることを余儀なくさせるものといえるかどう している車両を後方からあおる行為もこれに当たり,また,「著しく接近した」か否かについては,運転車両の速度や接近形態に照らし,通常相手方に回避の措置をとらせることを余儀なくさせるものといえるかどうかによって決せられるべきである。本件について,これをみるに,前記2(3)のとおり,被告人は「Bの大型自動二輪を追い越し,その前に出ようとして,時速約70キロメートルの速度で大型自動二輪の後方に接近した。」というのであるから,上記のあおる行為ということができ,また,その速度(後記のとおり,道路の状況等から見て,時速70キロメートルという速度は自車が相手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に考えられる速度といえる。)や上記の接近形態からみて,被告人車両の大型自動二輪に対する上記あおり行為は,Bに回避の措置をとらせることを余儀なくさせるものと一般的にいえるものであるから,被告人車両は大型自動二輪に「著しく接近した」と優に認められる。 (3) 「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは,妨害目的で特定の相手方に著しく接近した場合に,自車が相手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認められる速度と解されるところ,前記2(2)の道路の湾曲状況,幅員,追い越し禁止区域であること,四輪対自動二輪,両者の位置関係からすると,被告人車両の時速70キロメートルという速度は,自車が相手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認められる速度と言って妨げなく,被告人の公判供述からしても,被告人はその認識を有していたものと認められる。 (4) 被告人の上記危険運転と本件事故との因果関係については,Bは本件交通事故については何も覚えていない旨供述しているが,前記2の道路状況,事故発生状況等から見て,Bの大型自動二輪が道路縁石に接触した原因は,被告人の上記 運転と本件事故との因果関係については,Bは本件交通事故については何も覚えていない旨供述しているが,前記2の道路状況,事故発生状況等から見て,Bの大型自動二輪が道路縁石に接触した原因は,被告人の上記あおり行為により,Bがそのハンドル操作を誤ったことによると推認するのが相当であり,被告人の危険運転と本件事故との間に因果関係を優に認めることができる。 4 以上の次第で,本件においては,被告人の判示第2の危険運転致傷罪の成立を優に認めることができる。 ところで,検察官,弁護人双方とも,刑法208条の2第2項前段の「著しく接近した」とは,本件においては,「被告人が被告人車両を大型自動二輪に追い付かせ,同車両を被告人車両と車道端との1.3メートルの間に追い込み挟んだ」状態をさすものと主張するようであり,特に,弁護人はそのような状態は起こっていないから危険運転致傷罪は成立しない旨主張する。しかし,同条所定の「著しく接近した」とは,過失のようにある一時点の行為を特定するものではなく,運転行為という継続的な状態の中で特定され,評価されるべきものであるから,前記3のとおり解するのが相当であり,被告人の本件危険運転致傷罪の成立について,上記のような状態が招来したかどうかについて判断する要をみない。 (適用法令) 1 罰条第1につき道路交通法64条,118条1項1号(平成13年法律第51号による改正前のもの)第2につき刑法208条の2第2項前段第3の救護義務違反につき道路交通法117条,72条1項前段,同じく報告義務違反につき同法119条1項10号, 72条1項後段(いずれも平成13年法律第51号による改正前のもの) 2 科刑上の一罪第3につき刑法5 通法117条,72条1項前段,同じく報告義務違反につき同法119条1項10号, 72条1項後段(いずれも平成13年法律第51号による改正前のもの) 2 科刑上の一罪第3につき刑法54条1項前段,10条(重い救護義務違反罪の刑で処断) 3 刑種の選択いずれも懲役刑を選択 4 併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条,47条ただし書(最も重い危険運転致傷罪の刑に加重) 5 未決勾留日数算入刑法21条 6 訴訟費用不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑事情)被告人は,15歳のころからいわゆる暴走族集団に加入し,無免許のまま暴走行為を重ねていたものであり,無免許運転はまさに常習であり,少年院での矯正教育を受けたにもかかわらず,規範意識の欠如は甚だしい。そして,判示のような危険な運転行為により,交通事故を惹起し,被害者に重傷を与えたばかりか,無免許運転の発覚を恐れて被害者を放置したまま逃走し,あまつさえ,配下の少年らに口止めをする等証拠隠滅を図る等しており,行為態様は極めて悪質で,結果も重大である。 そうすると,本件事故の発端につき被害者Bにも挑発行為があったこと,被告人が運転していた車両に付されていた保険により,被害者Bに対する損害填補の可能性はあること,被告人が若年であること,反省の程度等を考慮しても,主文掲記の実刑を科することが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑ー懲役3年)平成15年7月8日横浜地方裁判所横須賀支部裁判官福島節夫 裁判官福島節夫
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