主文 原告の土地家屋調査士の業務停止処分の取消請求に係る訴えを却下する。 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求 福井地方法務局長が平成18年11月27日付けで原告に対してなした同年12月3日から1か月間土地家屋調査士の業務を停止するとの処分を取り消す。 福井地方法務局長が平成18年11月27日付けで原告に対してなした同年12月3日から3週間司法書士の業務を停止するとの処分を取り消す。 被告は,原告に対し,220万円及びこれに対する平成18年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 本件は,土地家屋調査士及び司法書士である原告が,福井地方法務局長により受けた各懲戒処分(土地家屋調査士業につき業務停止1か月間,司法書士業につき業務停止3週間)はいずれも裁量を逸脱する違法なものであったなどと主張して,(1)各懲戒処分の取消し,(2)国家賠償法に基づき,違法な各懲戒処分により被った損害の賠償として,220万円(慰謝料200万円及び弁護士費用20万円の合計額)及びこれに対する各懲戒処分のなされた平成18年11月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提事実(争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)(1)当事者 原告は,平成▲年▲月▲日に司法書士名簿への登録を,平成▲年▲月▲日に土地家屋調査士名簿への登録をそれぞれ行い,平成17年当時は,福井県坂井市α×番地に事務所(以下「原告事務所」という。)を設け,司法書士及び土地家屋調査士として,各業務に従事していた(甲8,9)。 (2)土地家屋調査士についての懲戒処分ア懲戒処分の際 ,福井県坂井市α×番地に事務所(以下「原告事務所」という。)を設け,司法書士及び土地家屋調査士として,各業務に従事していた(甲8,9)。 (2)土地家屋調査士についての懲戒処分ア懲戒処分の際に認定された事実(甲9)(ア)原告は,平成17年12月下旬頃,別紙物件目録記載1の建物(以下「×番の建物」という。)について,その登記名義人であるA(以下「亡A」という。)の子であるBから,建物滅失登記申請(以下「本件滅失登記申請」という。)の依頼を受けた。 原告は,上記依頼以前に,Bから,亡Aを中間相続人とする土地の順次相続登記及び担保権設定登記の各登記申請の依頼を受けたことがあり,Bとは面識があった。 しかし,原告は,本件滅失登記申請の依頼を受けたのが年末の繁忙期であったため,上記順次相続登記等の件を失念し,×番の建物の登記名義人である亡Aが既に死亡していることに気づかずに,本件滅失登記申請の申請人を亡Aとしたまま手続を進めた。 (イ)原告は,×番の建物の登記名義人が亡Aであることを登記事項要約書で確認したが,本件滅失登記申請にあたっての現地調査においては,×番の建物の滅失の経緯等をBから聴取しただけであるのに,建物調査書(以下「本件建物調査書」という。)の「所有者の調査」欄中の「申請人」の項目に印を付け,「登記原因日付」欄の取毀年月日については「申請人の説明」によるとの事実と異なる記載をして自ら職印を押印してこれを完成させて,本件滅失登記申請書に添付した。 また,原告は,亡A名義の委任状の書式を原告の補助者において作成させたうえで,原告事務所において,同補助者立会いのもと,Bの叔母 をして上記委任状に「C」の印を押印させてこれを完成させ,この委任状を本件滅失登記申請書に添付した。 (ウ)原告は,平成17年12月22日,福井地方法 所において,同補助者立会いのもと,Bの叔母 をして上記委任状に「C」の印を押印させてこれを完成させ,この委任状を本件滅失登記申請書に添付した。 (ウ)原告は,平成17年12月22日,福井地方法務局登記部門に対し,死者である亡A名義の本件滅失登記申請書を提出し,同日,この申請は受付されたが(同日受付第×××号),同部門の調査担当者は,亡Aの死亡を疑い,同月26日,×番の建物につき実地調査を行ったところ,亡Aと親戚関係にある隣人からの聴取により亡Aは平成7年▲月▲日に死亡していたことが判明した。 上記調査担当者は,平成17年12月27日,原告から本件滅失登記申請の受託経緯等につき事情を聴取したうえで,平成18年1月4日,不動産登記法25条4号の規定により本件滅失登記申請を却下した。 その後,Bは,原告に対し,改めて亡Aの相続人として×番の建物の滅失登記申請を依頼し,原告は,その登記手続を完了させた。 イ聴聞手続(甲4)福井地方法務局長は,平成18年9月19日,原告に対し,土地家屋調査士法44条3項に基づき,上記アの事実を非違事実として,予定される処分内容,その理由及び聴聞の日を記載した聴聞通知書を交付したうえで,同月29日,聴聞手続を行った。 ウ処分の理由(甲9)福井地方法務局長は,×番の建物の登記申請人とされていた亡Aは既に死亡していたにもかかわらず,原告が本人確認を怠ったためこれを看過して,本件滅失登記申請の申請人を亡Aをとしたうえ,亡Aから×番の建物の滅失の経緯を聴取していないにもかかわらず,あたかもこれを聴取したかのように記載した建物調査書を添付して,本件滅失登記申請をしたとし,これは,土地家屋調査士法2条(職責),23条(虚偽の調査・測量の禁止),24条(会則の遵守義務)及び福井県土地家屋調査士会会則87条 (品位 た建物調査書を添付して,本件滅失登記申請をしたとし,これは,土地家屋調査士法2条(職責),23条(虚偽の調査・測量の禁止),24条(会則の遵守義務)及び福井県土地家屋調査士会会則87条 (品位保持等)に違反し,土地家屋調査士に対する社会の信頼と品位を著しく失墜させる行為であることなどを理由として,平成18年11月27日,原告に対し,同年12月3日から1か月の間,原告の土地家屋調査士としての業務を停止するとの懲戒処分(以下「懲戒処分1」という。)をした。 (3)司法書士についての懲戒処分及びその理由ア懲戒処分の際に認定された事実(甲8)(ア)原告は,平成17年12月27日,株式会社D銀行(以下「㈱D銀行」という。)E支店の担当者から別紙物件目録記載2の建物(以下「×番3の建物」という。)を含む3つの不動産について(以下「本件各不動産」という。),F株式会社(以下「F㈱」という。)を義務者とする抵当権抹消登記申請(以下「本件抹消登記申請」という。)の依頼を受けた。 上記依頼の際,原告の補助者は,㈱D銀行E支店担当者から登記原因証明情報,登記済証,登記権利者の署名及び押印がされた委任状3通を受領した。 (イ)×番3の建物の登記名義人は,かつてG及びH(以下「亡H」という。)であったが,亡Hの共有持分については,相続を原因として,その全部がIに移転しており,これについては,「平成15年▲月▲日相続」との持分全部移転登記もなされていた。 しかし,本件抹消登記申請においては,×番3の建物の登記権利者はG及び亡Hとされており,上記委任状もI名義ではなく亡H名義で作成されていた。 (ウ)原告は,補助者を介して,平成18年1月6日,㈱D銀行E支店の担当者から,登記義務者の代理権限証書を受領し,同日,本件各不動産の登記権利者らの申請意思 義ではなく亡H名義で作成されていた。 (ウ)原告は,補助者を介して,平成18年1月6日,㈱D銀行E支店の担当者から,登記義務者の代理権限証書を受領し,同日,本件各不動産の登記権利者らの申請意思を原告自身で確認しないまま,同補助者をし て,福井地方法務局登記部門に対し,亡H名義の委任状を添付した本件抹消登記申請書を提出させた(同日受付第×××号)。 福井地方法務局登記部門の調査担当者は,本件抹消登記申請につき調査したところ,×番3の建物につき登記権利者とされていた亡Hにつき,上記(イ)の相続を原因とした持分全部移転の登記がなされていたことが判明し,本件抹消登記申請書に添付された委任状のうち亡H名義の委任状が不真正なものであることが明らかになった。 原告は,平成18年1月13日,福井地方法務局登記部門統括登記官から本件抹消登記申請の受託経緯等について事情聴取を受け,同人に対し,本件各不動産の登記権利者らの登記申請意思の確認を怠ったと述べた。 (エ)本件抹消登記申請は,その後,補正の機会を与えられ,原告自身で亡Hを除く本件各不動産の登記権利者らの本人確認及び登記申請意思の確認を行ったうえで,同申請を補正し,登記手続を完了した。 イ聴聞手続(甲3)福井地方法務局長は,平成18年9月19日,原告に対し,司法書士法49条3項に基づき,上記アの事実を非違事実として,予定される処分内容,その理由及び聴聞の日を記載した聴聞通知書を交付したうえで,同年10月2日,聴聞手続を行った。 ウ処分の理由(甲8)福井地方法務局長は,原告が本件各不動産の登記権利者らにつき本人確認や登記申請意思の確認を行わずに本件抹消登記申請を行ったとし,これは司法書士法2条(職責),23条(会則の遵守義務),福井司法書士会会則88条(書類の作成)及び98条(会則等の遵 者らにつき本人確認や登記申請意思の確認を行わずに本件抹消登記申請を行ったとし,これは司法書士法2条(職責),23条(会則の遵守義務),福井司法書士会会則88条(書類の作成)及び98条(会則等の遵守義務)に違反する行為であり,司法書士制度に対する国民の信頼を著しく失墜させる行為であるうえ,同時期に土地家屋調査士として受託した業務についても登記申請 人の本人確認を怠った登記申請をするなど,登記制度の一翼を担う資格者代理人としての自覚を欠いているといわざるを得ないなどとして,平成18年12月3日から3週間,原告の司法書士としての業務を停止するとの懲戒処分をした(以下「懲戒処分2」といい,「懲戒処分1」と併せて「本件各懲戒処分」という。)。 (4)審査請求及び本訴提起(甲20,21)原告は,平成18年11月30日,名古屋法務局長に対し,本件各懲戒処分の取消しを求めて審査請求を行った。 名古屋法務局長は,平成19年1月5日,上記審査請求をいずれも棄却した。 原告は,平成19年4月27日,本件各懲戒処分の取消しを求めて本訴を提起した。 (5)本件各懲戒処分に付された期間の経過原告が本訴を提起するまでに,司法書士業の業務停止期間(平成18年12月3日から3週間)及び土地家屋調査士業の業務停止期間(同日から1か月間)は,いずれも経過した。 争点 (1)業務停止期間経過後に提起された本件各懲戒処分の取消請求につき,原告に訴えの利益が認められるか。 (2)本件各懲戒処分が,いずれも裁量の逸脱等により違法なものと認められるか。 (3)福井地方法務局長の過失(違法な職務行為),原告に生じた損害及びこれらの間の因果関係 争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(訴えの利益)について(原告の主張) ア処分に付された期限が経過した後 局長の過失(違法な職務行為),原告に生じた損害及びこれらの間の因果関係 争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(訴えの利益)について(原告の主張) ア処分に付された期限が経過した後も,当該処分を取り消さねば法律上の不利益を被るような場合には,当該処分を受けた者は,この処分の取消しにつき訴えの利益があるというべきである。 イ本件各懲戒処分について(ア)行訴法9条2項の趣旨からすれば,当該不利益が法律上のものか否かを判断するに際しては,法令の文言のみならず,当該不利益の及ぼす事実上の影響力も考慮すべきである。 (イ)確かに,土地家屋調査士法42条及び司法書士法47条には,過去の懲戒処分を将来の懲戒処分の際の加重事由とするとは規定されていない。 しかし,土地家屋調査士や司法書士に対して懲戒処分がなされる際には,過去の懲戒歴の有無や程度が考慮されているのが実情である。 特に,司法書士に対する懲戒処分については,司法書士等に対する懲戒処分に関する訓令(法務省民二訓第1081号。以下「訓令」という。)4条が,「司法書士等が行った行為の態様が極めて悪質であること,その行為の件数が多数であること等の相当の事由あるときは,……前条の規定において行うものとされる懲戒処分より重い懲戒処分を行うことができる」と規定し,過去になされた懲戒処分は上記「相当な事由」の内容となり,将来の懲戒処分の際には不利益な事実として考慮しうるとされている。 このように,本件各懲戒処分が取り消されない限り,原告は,将来の懲戒処分の際にこれが考慮されてしまうといった不利益を負っている。 そして,土地家屋調査士や司法書士に対する懲戒処分の各業務に与える影響の重大性からすれば,上記の不利益については,事実上の不利益に止まらず,法律上の不利益であるというべきである。 利益を負っている。 そして,土地家屋調査士や司法書士に対する懲戒処分の各業務に与える影響の重大性からすれば,上記の不利益については,事実上の不利益に止まらず,法律上の不利益であるというべきである。 (ウ)したがって,原告には,本件各懲戒処分の取消しを求めるにつき, 訴えの利益がある。 ウ懲戒処分2について(ア)福井県司法書士会司法書士総合相談センター設置規則(以下「相談センター設置規則」という。)5条4項(4)によれば,福井県司法書士会の運営する司法書士総合相談センター相談員(以下,同センターを「相談センター」と,その相談員を単に「相談員」という。)の欠格事由として,「司法書士法47条第2号の懲戒処分を受け,その処分の期間が終了した日の翌日から2年を経過しない者」が挙げられている。 また,福井県司法書士会調停センター設置規則(以下「調停センター設置規則」という。)13条1項(4)によれば,福井県司法書士会の運営する福井県司法書士会調停センターの手続実施者(以下,同センターを「調停センター」と,その手続実施者を単に「実施者」という。)の欠格事由として,「司法書士法47条第2号の懲戒処分を受け,その処分の期間が終了した日の翌日から2年を経過しない者」が挙げられている。 (イ)懲戒処分2は,平成18年12月23日に終了したから,原告は,未だ処分終了した日の翌日から2年が経過しない者にあたり,相談員及び実施者の資格を有しないことになる。 (ウ)以上のとおり,原告には,相談員や実施者になれないといった法令上の不利益があるのだから,これを取り消すことによって回復すべき法律上の利益がある。 (被告の主張)ア原告の主張イについて原告の主張は,要するに,将来,原告が懲戒処分を受ける際,本件各懲戒処分が情状として事実上考慮される虞があると すことによって回復すべき法律上の利益がある。 (被告の主張)ア原告の主張イについて原告の主張は,要するに,将来,原告が懲戒処分を受ける際,本件各懲戒処分が情状として事実上考慮される虞があるというにとどまるものである。この不利益は,あくまでも事実上のものであるから,本件各懲戒処分の取消しにつき,原告に訴えの利益はない。 イ原告の主張ウについて相談センター設置規則及び調停センター設置規則は,法令ではなく,いずれも福井県司法書士会が設けた規則に過ぎない。したがって,上記各規則により原告が被る不利益は,法令上の不利益ということはできず,懲戒処分2の取消しにつき,原告に訴えの利益はない。 (2)争点(2)ア(懲戒処分1の裁量逸脱)について(原告の主張)ア本件滅失登記申請(ア)申請者への意思確認a原告は,本件滅失登記申請より1年以上も前の時期に,Bから亡Aを中間相続人とした登記申請を受任したことがあったものの,本件滅失登記申請時には,亡Aの死亡を失念していた。この点については,年間800件を超える登記申請業務を取り扱っているためやむを得ないところである。したがって,原告が亡Aの死亡を看過したことはやむを得ず,また,その生存を誤信したことについても落ち度があるとはいえない。 b原告は,本件滅失登記申請時,亡Aが生存しており,かつBにおいて亡Aの意思を確認のうえ本件滅失登記申請の依頼をしたと誤信していた。そして,本件滅失登記申請のため亡A名義で委任状が作成された際,その作成に関わったBの叔母からも何らの疑問が示されなかった。したがって,原告が,亡A本人の意思を確認しなかったことはやむを得ず,落ち度があるとはいえない。 (イ)本件建物調査書本件建物調査書は,12月という繁忙期に登記申請に不慣れな補助者が関与して作成され がって,原告が,亡A本人の意思を確認しなかったことはやむを得ず,落ち度があるとはいえない。 (イ)本件建物調査書本件建物調査書は,12月という繁忙期に登記申請に不慣れな補助者が関与して作成されたため,結果的に亡A本人から調査したかのような虚偽の記載がなされたのであって,あえて虚偽記載をしたものではない。 イ有利に考慮すべき事情(ア)本件滅失登記申請は却下されたが,原告は直ちにBを申請人として×番の建物の滅失登記申請をし,この手続は完了した。これにより,Bに実害は生じていない。 (イ)本件滅失登記申請は,報告的登記であって権利変動に関係する登記ではないから,権利変動に関する登記の事案に比較すれば,非違の程度は軽いといえる。 (ウ)原告は,再発防止のために原告及び補助者において必ず申請人本人から申請意思を確認するよう徹底し,本人確認も同様とした。 (エ)原告にはこれまで懲戒歴等はなく,原告は,本件を深く反省して,福井地方法務局による事情聴取にも誠実に供述して事案の解明に協力した。 ウ原告が,本件滅失登記申請により得た報酬は9220円であり,これに比較すると,業務停止1か月は重きに失する。 エ土地家屋調査士自ら現地調査を行わず,補助者をしてこれを行わせ,所有者の立会いがなかったのに立会人欄に所有者の氏名住所を記載したという建物調査報告書に虚偽の記載をした事案では,被懲戒者は,以前に同様の過誤を行っていたにもかかわらず戒告処分とされている。 土地家屋調査士による滅失登記申請の際,補助者が死者名義を冒用した委任状を作成した事案において,土地家屋調査士がタイプミスであるなどと不合理な弁解をしたにもかかわらず,業務停止1週間とされている。 また,業務停止1か月の事案は,懲戒処分1に比較して相当悪質な事案である。 オ以上のとおり て,土地家屋調査士がタイプミスであるなどと不合理な弁解をしたにもかかわらず,業務停止1週間とされている。 また,業務停止1か月の事案は,懲戒処分1に比較して相当悪質な事案である。 オ以上のとおり,原告の土地家屋調査士の業務停止期間を1か月とした懲戒処分1は,事案の内容等や他の懲戒処分に比較すると重きに失し,裁量の逸脱がある違法なものである。 (被告の主張)ア申請者への意思確認(ア)原告は,それまでにBから亡Aを中間相続人とした登記申請等を受任しており,本件滅失登記申請を受任した際には,亡Aの死亡を知っていた。 (イ)原告は本件滅失登記の申請人は亡Aであり,かつ亡AとBとは別人であると認識していたのだから,原告自身で又は補助者に適切な指示・監督をして亡A本人の意思を確認すべであったのに,土地家屋調査士としての基本的な注意義務を怠った。 イ建物調査書原告は土地家屋調査士として,原告自身で又は補助者に適切な指示・監督をして適正な建物調査書を作成すべきであったにもかかわらず,これを怠り,×番の建物の所有関係につき亡Aから確認していないのに,原告が亡Aから×番の建物の所有関係について事情を聴取したかのような体裁の本件建物調査書を作成した。 上記経過によれば,原告は,亡Aから何ら事情聴取をしていないにもかからわらず,憶測で亡Aが所有権を有していると判断し,同人から事情を聴取したかのように装って本件建物調査書にその旨記載したに等しい。 ウ以上のとおり,原告は,土地家屋調査士としての基本的な調査・確認事項である申請人の本人確認や申請意思の確認を怠り,不動産の表示の登記の適正を期すべき土地家屋調査士の使命に違背したことが明白である一方,原告にとりたてて酌むべき事情はない。 したがって,原告の行為は,土地家屋調査士に対する社会の信頼と 確認を怠り,不動産の表示の登記の適正を期すべき土地家屋調査士の使命に違背したことが明白である一方,原告にとりたてて酌むべき事情はない。 したがって,原告の行為は,土地家屋調査士に対する社会の信頼と品位を著しく失墜させるものであるといえ,1か月の業務停止処分が重きに失するということはない。 (3)争点(2)イ(懲戒処分2の裁量逸脱)について (原告の主張)ア本件抹消登記申請(ア)不動産登記の閲覧等原告は本件抹消登記申請の際に登記事項要約書により登記権利者・義務者の確認をしていないが,不動産登記の閲覧・謄写は,申請人の本人確認や申請意思確認の1つの手段に過ぎず,費用もかかるのであるから,常に閲覧・謄写はできない。したがって,原告の上記確認未了の点につき落ち度があるとはいえない。 (イ)亡Hへの意思確認a金融機関から登記申請を依頼される場合,本人確認は金融機関においてされていることが多く,司法書士からの重ねての本人確認に対しては,本人から金融機関へ問い合わせなどがされるため,金融機関から不快感を示されることがしばしばある。そこで,担保権設定登記の抹消登記手続の場合,司法書士からの本人確認は控えてしまうことはよくある。 b㈱D銀行E支店担当者は,抵当権抹消登記手続に継続的に関与してその業務に習熟していたうえ,同支店からの依頼で問題が生じたことはなく,同支店に対してはそれまでの取引のなかで死者を申請人とする登記申請ができないことも説明してあった。したがって,㈱D銀行E支店担当者から亡H名義の委任状が交付されれば,生存する同女につき本人確認のうえでの依頼と信頼することはやむを得ない。 c㈱D銀行E支店の担当者からは,亡H名義の委任状が家族の委任状とともに交付され,同時に渡された登記関係書類からも亡H死亡につき疑いが生じ つき本人確認のうえでの依頼と信頼することはやむを得ない。 c㈱D銀行E支店の担当者からは,亡H名義の委任状が家族の委任状とともに交付され,同時に渡された登記関係書類からも亡H死亡につき疑いが生じるような事情は窺えなかった。 dしたがって,本件で原告自らが本人確認や登記申請意思確認をしなかったことについて落ち度があるとはいえない。 イ有利に考慮すべき事情(ア)本件抹消登記申請は,原告による補正のうえその登記手続が完了したのであり,登記権利者等に実害は生じていない。 (イ)本件は,抵当権設定登記の抹消登記申請であり,登記権利者にとっては保存行為であったのだから,本人確認を怠ったことの非違の程度は他の事案と比較してより軽い。 (ウ)原告は,㈱D銀行E支店担当者と協議し,今後,死者名義の委任状等の不真正な委任状を交付しないよう充分指導するとともに,担保権抹消登記手続についても原告が委任状作成の場に立ち会うようにし,再発防止を尽くした。 (エ)原告は,本件を深く反省し,福井地方法務局による事情聴取にも誠実に供述して事案の解明に協力した。また,原告は,司法書士会の会務にも熱心に取り組み,公的活動にも貢献してきた。 ウ原告が,本件抹消登記申請により得た報酬は1万0380円であり,これに比較すると,業務停止3週間は重きに失する。 エ本件と同種事案についてなされた懲戒処分を全国的に見ると,戒告処分にとどまることも多く,業務停止の場合は停止期間が1週間というものが多い。よほど悪質な事情があっても業務停止期間は2週間までである。 最近の福井県内における懲戒処分では,所有権移転登記等の登記義務者及び登記権利者の意思確認を怠って登記申請をした事案で戒告処分,土地家屋調査士の資格のない司法書士が表示の登記につき代理したという事案で戒告処分とい おける懲戒処分では,所有権移転登記等の登記義務者及び登記権利者の意思確認を怠って登記申請をした事案で戒告処分,土地家屋調査士の資格のない司法書士が表示の登記につき代理したという事案で戒告処分という状況にある。 したがって,より悪質性の低い原告に対して,業務停止期間3週間という懲戒処分2は重きに失する。 オ以上のとおり,原告の司法書士の業務停止期間を3週間とした懲戒処分2は,事案の内容等や他の処分に比較すると重きに失し,裁量の逸脱があ る違法なものである。 (被告の主張)ア不動産登記の閲覧等司法書士が登記申請業務を遂行するに際しては,登記権利者・義務者を把握することが必要である。これについては不動産登記を閲覧・謄写して確認するのが通常であり,本件ではそれ以外に有効な手段はなかったのである。このように,原告は,登記権利者・義務者の確認のために不動産登記を確認すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠ったもので,この原告の落ち度は重大である。 イ亡Hへの意思確認(ア)まず,金融機関からの登記申請の依頼であっても,司法書士において登記権利者・義務者の意思確認をするのはその職責上当然である。 (イ)次に,原告は,なによりも×番3の建物の登記を確認するなどして本件抹消登記申請における登記権利者・義務者を確認すべきであった。 亡Hの持分が相続によりIに全部移転したことは,×番3の建物の不動産登記上明らかだったのであるから,登記の確認により亡Hの死亡は容易に知り得たはずで,同女名義の委任状が本件抹消登記申請書に添付されるということも当然回避できた。 ウ以上のとおり,原告が亡Hの死亡を看過し,同女名義の委任状を添付しての本件抹消登記申請をしたのは,司法書士としてなすべき基本的な調査・確認を怠ったためである。 このように,原告の 然回避できた。 ウ以上のとおり,原告が亡Hの死亡を看過し,同女名義の委任状を添付しての本件抹消登記申請をしたのは,司法書士としてなすべき基本的な調査・確認を怠ったためである。 このように,原告の行為は,司法書士制度に対する国民の信頼を著しく失墜させるものであったうえ,本件滅失登記申請を却下された2日後に本件抹消登記申請をしたことからも窺えるように,原告には登記制度の一翼を担う資格者代理人としての自覚が著しく欠けている。 不動産登記法の改正(平成16年法律第123号)により,司法書士等 による登記名義人確認情報の提供制度が設けられたが,この制度の適正な運用のためには,司法書士による非違行為がなされた場合,厳正かつ的確な懲戒処分を行う必要がある。原告は,懲戒処分1,懲戒処分2と連続して本人確認及び申請意思確認を怠っており,不動産登記制度における司法書士の職責が重いことに照らせば,3週間の業務停止処分が重きに失するということはない。 (4)争点(3)(過失・損害・因果関係)について(原告の主張)ア福井地方法務局長は,その裁量を逸脱して漫然と違法な本件各懲戒処分を行った過失がある。 イ原告は,違法な本件各懲戒処分により,土地家屋調査士については1か月,司法書士については3週間の業務停止を余儀なくされ,多大な精神的苦痛を被ったが,これに対する慰謝料は200万円が相当である。 また,本訴の提起・遂行を弁護士に依頼するのに要した費用のうち20万円は違法な本件各懲戒処分と相当因果関係のある損害にあたる。 ウよって,原告は,被告に対し,国家賠償法に基づき220万円及びこれに対する本件各懲戒処分のなされた平成18年11月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)いずれも争う。 第3当裁判所 基づき220万円及びこれに対する本件各懲戒処分のなされた平成18年11月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)いずれも争う。 第3当裁判所の判断 争点(1)(訴えの利益)について(1)本件各懲戒処分の業務停止期間はいずれも経過したのであるから,原告がその取消しを求めるには,原告に本件各懲戒処分の取消しによって回復すべき法律上の利益(訴えの利益)が認められる必要がある(行訴法9条1項)。 (2)ア原告は,土地家屋調査士や司法書士に対する懲戒処分では,過去の処分 歴の有無・程度が考慮されているうえ,懲戒処分の業務に及ぼす影響が重大であることからすれば,過去の懲戒処分を考慮される不利益は,行訴法9条2項の趣旨からしても,法律上の不利益と解すべきであると主張する。 イしかし,行訴法9条2項は当該処分等の相手方以外の者について当該処分等を取り消す法律上の利益が認められるか否かについての判断指針を規定したものであり,本件のように当該処分に付された期限が経過した後,当該処分の相手方において当該処分の取り消しを求める事案について規定したものではない。 ウまた,原告の主張する不利益は,あくまでも事実上のものに止まるのであるから,それをもって本件各懲戒処分の取消しによって回復すべき法律上の利益(訴えの利益)があるとは言えない。 エ原告の上記主張は,理由がない。 (3)ア原告は,懲戒処分2を受けたため,相談センター設置規則や調停センター設置規則により,相談員及び実施者の資格を有しないという法令上の不利益を被っていると主張する。 イ司法書士法53条12号は,会則に「その他司法書士会の目的を達成するために必要な規定」を記載しなければならないと規定し,これを受けて福井県司法書士会会則が定 上の不利益を被っていると主張する。 イ司法書士法53条12号は,会則に「その他司法書士会の目的を達成するために必要な規定」を記載しなければならないと規定し,これを受けて福井県司法書士会会則が定められている。 そして,上記会則3条(18)は,福井県司法書士会の事業として,国民に対して司法書士が提供する法的サービスの拡充に関する事業を行う旨規定し,同会則116条は,会則の施行に必要な規程及び細則は理事会の承認を経て会長が定めると規定している。 以上に基づき,福井県司法書士会は,相談センター設置規則を定め,福井県司法書士会の事業として相談センターを設置し,「相談センターが開催する相談会における相談員には相談員名簿に登載された者を充てなければならない」が,司法書士法47条2号の懲戒処分(2年以内の業務の停 止)を受け,その処分期間が終了した日の翌日から2年を経過しない者については相談員名簿への登載を拒否するか,登載されている者については相談員名簿から削除しなければならないとしている(相談センター設置規則1条,5条2項,4項)。 ウまた,司法書士は,司法書士として活動するためには,日本司法書士会連合会に備える司法書士名簿に登録を受けるとともに(司法書士法8条),事務所所在地を管轄する法務局等の管轄区域内に設けられた司法書士会に入会することが法律により強制されている(同法57条,58条)。 エ上記イ,ウのとおり,司法書士に対する業務停止の懲戒処分は,その業務停止期間が経過した後にあっても,法律によって加入が強制される団体の内部において,法律で定めることが規定されている会則,それに基づく相談センター設置規則により,その活動や資格を2年間もの長期にわたり制約することになるのである。したがって,このような不利益については,法律上の不利益にあ めることが規定されている会則,それに基づく相談センター設置規則により,その活動や資格を2年間もの長期にわたり制約することになるのである。したがって,このような不利益については,法律上の不利益にあたるというべきである。 オ原告への懲戒処分2による業務停止期間は,平成18年12月23日に終了し,原告は,未だ処分終了した日の翌日から2年が経過しない者にあたるため,現在も相談員の資格を有しないのであるから,原告には,懲戒処分2の取消しによって回復すべき法律上の利益(訴えの利益)があると認められる。 (4)以上のとおり,懲戒処分1の取消請求に係る訴えは,原告に訴えの利益を認めることができず不適法であるものの,懲戒処分2の取消請求に係る訴えは訴えの利益が認められる適法なものである。 争点(2)(本件各懲戒処分の裁量逸脱)について(1)地方法務局長の裁量ア司法書士に対する懲戒処分は,当該司法書士の事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の長(以下「法務局長等」という。)に委ねられ ている。懲戒事由としては,司法書士法違反又は同法に基づく命令違反が規定されているが,司法書士法違反には,司法書士会の会則違反や日本司法書士連合会の会則違反も含まれている。(司法書士法47条,23条)イそして,司法書士に対する懲戒処分は,国が独占的資格として認めた司法書士の業務の適正を保持するために行われるものであり,本来的に国の責任において行使されるべき性質のものである。また,法務局長等は,その職務上司法書士の懲戒事由を最もよく知りうる立場にあり,かつ司法書士に対する指導を行う所属司法書士会との連携を充分に図りうる立場にある。このような事情から法務局長等に懲戒権限が付与されているのである。 また,懲戒権を行使すべきか否か,懲戒処分の内容を判断するに 書士に対する指導を行う所属司法書士会との連携を充分に図りうる立場にある。このような事情から法務局長等に懲戒権限が付与されているのである。 また,懲戒権を行使すべきか否か,懲戒処分の内容を判断するにあたっては,懲戒事由の内容,程度,被処分者への影響などの諸般の事情を総合的に考慮することが必要である。 ウこれらからすれば,司法書士の行為が懲戒事由に該当する場合に,懲戒権を行使すべきか否か,どのような内容の懲戒処分とするかについては,法務局長等の合理的な裁量に委ねられているものと解される。 したがって,法務局長等による懲戒処分は,全く事実の基礎を欠くか,又は社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超え,又は裁量権を濫用してなされたと認められる場合に限り違法となるというべきである。 エ以上の理は,土地家屋調査士に対する懲戒処分についても同様である(土地家屋調査士法42条,24条)。 (2)懲戒処分1ア前提事実及び証拠(甲40,乙1ないし3,原告本人)によれば,次の事実が認められる。 (ア)原告は,Bから,J,亡A及びBとの順次相続を原因とした別紙物件目録記載3の土地(以下「×番の土地」という。)の所有権移転登記申請の依頼を受け,平成16年10月6日,登記原因を「昭和63年▲ 月▲日亡A相続・平成7年▲月▲日相続」として,上記所有権移転登記申請をした。 原告は,×番の土地の登記名義人であるBから,同土地についての抵当権設定登記申請の依頼を受け,平成17年8月29日,上記抵当権設定登記申請をした。 Bは,×番の建物を取り壊し,平成17年12月21日,その代わりに,別紙物件目録記載4の建物(以下「×番2の建物」という。)を新築のうえ,原告に対し,その頃,×番2の建物の表示登記申請を依頼した。 (イ)原告は,上記表示登記申請に係る 2月21日,その代わりに,別紙物件目録記載4の建物(以下「×番2の建物」という。)を新築のうえ,原告に対し,その頃,×番2の建物の表示登記申請を依頼した。 (イ)原告は,上記表示登記申請に係る現地調査の際,×番の建物の滅失登記がなされていないことに気づき,その旨Bに指摘したところ,同人から平成17年12月下旬頃,本件滅失登記申請の依頼をされたので,これを受けた。 ×番の建物については,亡Aが登記名義人であったが,同人は,平成7年▲月▲日に死亡していた。 (ウ)原告は,本件滅失登記申請をするにあたって,補助者であるKと共に現地に赴き,×番の建物に係る調査を行った。その際,大工から×番の建物滅失の事情を聴取したが,Bは現場にいなかったため,原告は,Bから事情を聴取することはなかった。 原告の補助者であるLは,Kの指示を受け,建物調査書の書式中,「⑤所有者の調査」欄の「申請人」欄,「⑧登記原因日付」欄の「申請人の説明」欄に,それぞれ記しを付けて本件建物調査書を作成し,原告は,その内容を確認のうえこれに押印した。 (エ)Bは,原告ないしその補助者に対し,住宅取得控除を受けるため,本件滅失登記申請を年内に行う必要があるが,自身は仕事が忙しく年内に委任状作成のために原告事務所を訪れることはできないから,代わり の者を訪問させて,その者をして委任状へ押印させると電話で述べた。 その後,Bの叔母が,原告事務所を訪問し,同叔母において,原告の補助者立会いのもと,委任者の氏名「A」と記載された委任状に「C」との印鑑を用いて押印した。その際,原告は,原告事務所外にいたため,上記押印に立ち会うことはなかった。 (オ)原告の補助者であるMは,申請人欄に「A」と記載した本件滅失登記申請書を作成し,原告はその内容を確認のうえ,これに押印した。 そして, 事務所外にいたため,上記押印に立ち会うことはなかった。 (オ)原告の補助者であるMは,申請人欄に「A」と記載した本件滅失登記申請書を作成し,原告はその内容を確認のうえ,これに押印した。 そして,原告は,平成17年12月22日,その補助者をして,本件滅失登記申請書に本件建物調査書及び亡A名義の委任状を添付して,これらを福井地方法務局に提出した。 イ亡A名義の委任状の作成(ア)不動産登記法16条1項は,登記は原則として当事者の申請でなければすることができないと規定し,当事者とは,登記権利者,登記義務者,登記名義人,表題部に所有者として記載された者及び実体法上の権利者等とされている。 不動産登記法24条1項,25条4号は,登記の申請があった場合,登記官は申請人となるべき者以外の者が申請していると疑うに足りる相当な理由があると認めるときは,その権限の調査をし,申請の権限を有しない者の申請による登記の申請を却下しなければならないと規定する。 以上からすれば,土地家屋調査士や司法書士の有資格者が依頼を受けて登記申請をするにあたっては,まず,申請人の権限を調査・確認すべき注意義務があり,これは土地家屋調査士及び司法書士の職務上,極めて基本的なものである。 また,土地家屋調査士や司法書士が上記登記申請をするにあたっては,委任者である登記申請人に委任及び登記申請の意思のあることが前提になるから,この意思を確認すべきこともごく基本的な注意義務である。 さらには,直接の依頼者と当該登記の申請人とが異なる場合には,登記申請人に対し,委任及び登記申請の意思があることを確認すべき注意義務がある。 したがって,申請人の権限の調査・確認を怠ったり,申請人の委任及び登記申請の意思確認を怠った土地家屋調査士及び司法書士の負うべき職務上の責任は重大である。 ( あることを確認すべき注意義務がある。 したがって,申請人の権限の調査・確認を怠ったり,申請人の委任及び登記申請の意思確認を怠った土地家屋調査士及び司法書士の負うべき職務上の責任は重大である。 (イ)本件において,原告は,亡Aが生存しているとの認識のもと,亡A名義の委任状を本件滅失登記申請書に添付して本件滅失登記申請をしようとしたのであるが,依頼者であるBと登記申請人である亡Aとが別人であることは認識していたのであるから,その委任状の作成にあたっては,原告自身ないしその補助者をして,亡Aに対して,本件抹消登記申請をする意思があるのか,これを原告に委任する意思があるのかを確認すべき職務上の注意義務があるものとして行動すべきであったということができる。 また,原告が依頼者であるBに対して,亡Aの委任及び登記申請の意思を確認したいなどと申し向けていれば,亡Aの死亡は容易に判明したはずである。 しかるに,原告は,亡Aの上記意思の確認をしようとはせず,結果,Bの叔母が押印した亡A名義の委任状が作成されるに至ったのである。 (ウ)原告の上記行為は,土地家屋調査士法2条(職責),24条(会則の遵守義務)及び福井県土地家屋調査士会会則87条(品位保持等)の規定に違反することは明らかである。 そして,本件滅失登記申請の際の申請人とされた亡Aの意思確認をしようとする姿勢が見られないという原告の職務態度からすれば,原告の非違の程度は著しいというべきである。 (エ)なお,被告は,それまでの経緯から原告が亡Aの死亡を知っていた と主張するが,原告が年間約800件の登記申請事務を行っていたことからすれば(原告本人),亡Aの死亡を失念していたとの説明は合理的であって,被告の上記主張は直ちに採用できない。 また,原告は,本件滅失登記申請の依頼に至る経緯や,B 件の登記申請事務を行っていたことからすれば(原告本人),亡Aの死亡を失念していたとの説明は合理的であって,被告の上記主張は直ちに採用できない。 また,原告は,本件滅失登記申請の依頼に至る経緯や,Bの叔母が亡A名義の委任状作成に何ら疑問を呈さなかったことから,原告が亡Aの意思はBにより確認済みであると信じたことに落ち度はないと主張するが,上記(ア)のとおり,土地家屋調査士が負担する基本的な注意義務の内容に照らし,原告の上記主張は理由がないことは明らかである。 ウ本件建物調査書の作成(ア)建物調査書は,登記官による当該不動産の表示に関する調査(不動産登記法29条)を補助するため作成されるもので,したがって,土地家屋調査士において建物調査書を作成するにあたり適正な調査を行うことは極めて基本的かつ重要な事柄である。土地家屋調査士法23条,71条も,その適正な調査を確保するために,土地家屋調査士に対しては,罰則(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)をもって虚偽の調査を禁じている。 したがって,適正な調査を怠り,漫然と建物調査書に虚偽の記載をした土地家屋調査士の負うべき職務上の責任は重大である。 (イ)本件において,原告は,×番の建物の滅失経緯について調査するにあたって,現場で大工から聞き取っただけであり,申請人である亡Aは当然であるが,依頼者であるBからも全く事情を聴取していなかっうえ,補助者が作成した本件建物調査書には,亡Aから聞き取りをした旨記載されていたのに漫然とこれを見逃し,申請人である亡Aから×番の建物の取毀年月日に関する調査をしたとの虚偽の内容を記載した本件建物調査書に押印をしてこれを完成させた。 原告のこの行為は,土地家屋調査士法2条(職責),23条(虚偽の 調査,測量の禁止)及び24条(会則の遵守義務)並びに福井 たとの虚偽の内容を記載した本件建物調査書に押印をしてこれを完成させた。 原告のこの行為は,土地家屋調査士法2条(職責),23条(虚偽の 調査,測量の禁止)及び24条(会則の遵守義務)並びに福井県土地家屋調査士会会則87条(品位保持等)の規定に違反することは明らかである。 また,原告は,土地家屋調査士が職務として果たすべきごく基本的な注意義務である適正な建物調査書の作成を怠ったもので,その責任は重大であるうえ,亡Aから×番の建物の滅失経緯につき聞き取っていないことは原告自身が知っていたのだから,本件建物調査書の内容を確認した際に,その誤りに気付くことは容易であったことからすれば,非違の程度も著しいというべきである。 (ウ)なお,原告は,意図的に本件建物調査書に虚偽の記載をしたものではないと主張する。しかし,土地家屋調査士は,適正な建物調査書を作成すべき職務上の注意義務があり,意図的に虚偽の記載をしてはならないことは論を待たないうえ,補助者を使うのであれば,適切な指示と的確な点検をすべき注意義務を負っているのであるから,虚偽の記載が故意によるものではなく補助者の過誤によるものであったことをもって,直ちにその責任を軽減させる根拠とすることはできない。 エ(ア)以上のとおり,原告は,申請人の意思確認義務及び適正な建物調査書を作成すべき義務といった土地家屋調査士として果たすべきごく基本的な職務上の注意義務を怠ったものであり,その非違の程度は甚だしいといえる。 (イ)したがって,原告の土地家屋調査士としての業務を1か月停止するとした懲戒処分1については,原告主張の本件に関するその余の事情(実害が生じていないこと,本件滅失登記申請が報告的登記であったこと,再発防止策を講じたこと,懲戒歴等や反省の態度,本件滅失登記申請による報酬額)や, については,原告主張の本件に関するその余の事情(実害が生じていないこと,本件滅失登記申請が報告的登記であったこと,再発防止策を講じたこと,懲戒歴等や反省の態度,本件滅失登記申請による報酬額)や,他の懲戒処分との比較を考慮しても,なお社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超えるものであったというこ とはできない。 (ウ)原告は,土地家屋調査士や司法書士に対する懲戒処分の基準が不明確であって,懲戒処分1においては恣意的な加重がなされたと主張する。 しかしながら,上記のとおり,懲戒処分1の処分内容が重きに失するとは認められないから,原告に対する処分に恣意的な加重がなされたと認めることもできない。したがって,原告の上記主張は理由がない。 (エ)よって,懲戒処分1につき,国家賠償法上の違法があるとは認められず,その余の点を判断するまでもなく,懲戒処分1の違法を理由とする国家賠償請求については理由がない。 (3)懲戒処分2についてア前記前提事実及び証拠(甲2,40,乙6,10,12,原告本人)によれば,次の事実が認められる。 (ア)原告は,平成15年に×番3の建物を含む本件各不動産の抵当権設定登記申請の依頼を受けて,これを行った。 ×番3の建物は,もともとNとGの共有であった。そして,Nの持分については,平成12年▲月▲日相続を原因として亡Hに移転したとの登記がなされた(平成12年8月25日受付)。さらに,亡Hの持分については,平成15年▲月▲日相続を原因としてIに移転したとの登記がなされた(平成16年6月15日受付)。 (イ)原告は,平成18年1月4日,㈱D銀行E支店(担当者:O)から,×番3の建物を含む本件各不動産につき本件抹消登記申請の依頼を受けた。 原告は,Oから,亡H名義の委任状を受け取ったが,亡Hに対して,原告自 ,平成18年1月4日,㈱D銀行E支店(担当者:O)から,×番3の建物を含む本件各不動産につき本件抹消登記申請の依頼を受けた。 原告は,Oから,亡H名義の委任状を受け取ったが,亡Hに対して,原告自身又は補助者をして,委任及び登記申請の意思確認をしようと試みることはなかった。 原告は,平成15年に行った本件各不動産についての抵当権設定登記 についての事件記録や電磁的記録をもとに,補助者であるMをして本件抹消登記申請書を作成させ,これを確認のうえ押印した。 (ウ)原告事務所においては,登記申請書を提出する直前に登記事項要約書の閲覧ないし謄写をしてその内容と登記申請書の内容とを比較確認したうえで,登記申請書を提出する方法を採用していた。 しかるに,原告ないしその補助者は,福井地方法務局に対し,亡H名義の委任状を添付した本件抹消登記申請書を提出する際,×番3の建物の登記事項要約書の閲覧・謄写をすることはなかった。 イ(ア)原告は,申請人の権限(誰が登記権利者・義務者が誰であるのか)を調査・確認すべき注意義務があることは,上記(2)イのとおりである。 本件抹消登記申請において,登記権利者・義務者を正確に把握する方法は,×番3の建物の最新の登記を確認するのが最も適切な方法だったのであり,原告自身ないしその補助者が登記内容の確認をしていれば,原告においても,亡Hが既に死亡しており同人を申請者とすることができないことは容易に知り得たといえる。 しかるに,原告は,×番3の建物に係る過去の登記申請資料をもとにして本件抹消登記申請書を作成し,最新の登記を確認することを怠ったため,登記権利者・義務者を正確に把握することができないまま,亡Hの死亡とそれに基づくIへの移転登記を看過し,亡H名義の委任状を添付した本件抹消登記申請書を提出するに至ったのである。 ことを怠ったため,登記権利者・義務者を正確に把握することができないまま,亡Hの死亡とそれに基づくIへの移転登記を看過し,亡H名義の委任状を添付した本件抹消登記申請書を提出するに至ったのである。 (イ)また,原告は,亡Hは生存していると認識していたのであるから,亡Hの意思確認しようと試みれば,少なくともその死亡は容易に判明したはずである。 さらに,原告の主張するように,司法書士の多くが金融機関からの登記申請依頼を受けた場合に,申請人本人に意思確認をしていないとしても,依頼を受けた司法書士としては,少なくとも,金融機関の担当者か ら意思確認の状況等を聴取すべきである。そして,㈱D銀行の担当者は亡Hの死亡を知っていたのであるから,原告が担当者に亡Hに対する意思確認状況の確認をしていれば,同人の死亡は容易に判明していたはずである。 このように原告が基本的な注意義務を尽くしていれば,亡Hの死亡に気付くことは全く容易なことだったということができ,亡H名義の委任状を添付した本件抹消登記申請書を提出することも容易に避けられたのである。 (ウ)原告のこれらの行為は,司法書士法2条(職責),23条(会則の遵守義務)並びに福井県司法書士会会則88条(法令又は依頼の趣旨にそぐわない書類の作成を禁ずる旨の定め。)及び98条(会則等の遵守義務)に違反するというべきである。 そして,原告の行為態様は,司法書士としての全く基本的な注意義務に違反したというものであり,その態様は芳しくなく非違の程度は著しいといわざるを得ない。 (エ)なお,原告は,㈱D銀行の担当者を信頼して亡Hの意思確認をしなかったことにつき落ち度がないとしてるる主張するが,司法書士は資格を得て業として登記申請を行うのであるから,たとえ直接の依頼者が金融機関であり,担当者がその業務に習熟し 信頼して亡Hの意思確認をしなかったことにつき落ち度がないとしてるる主張するが,司法書士は資格を得て業として登記申請を行うのであるから,たとえ直接の依頼者が金融機関であり,担当者がその業務に習熟していたとしても,申請人の委任及び登記申請の意思の確認をするという司法書士の注意義務が軽減されないことは当然であり,原告の上記主張は理由がない。 また,原告は,常に不動産登記を確認するのは困難であるとも主張する。しかし,司法書士は,登記申請にあたり登記権利者・義務者等を正確に把握すべき職務上の注意義務を負っており,その手がかりとして最も重要かつ適切な資料が当該不動産についての最新の登記であるのはいうまでもないのであるから,最新の登記に匹敵する他の資料があればと もかく,そうでないならば,登記権利者・義務者を把握するために当該不動産の最新の登記を確認すべきである。本件では,最新の登記に匹敵するような他の資料があったとは認められないし,原告がそのような資料を確認してその職責を果たしたということもできず,原告の上記主張は理由がない。 ウ(ア)そして,原告は調査担当者から本件滅失登記申請について申請人の意思確認等をしたか否かなどの点について聞き取りを受けた後に,ほどなくして行われた本件抹消登記申請においても,申請人の意思確認を全く行っていないことに鑑みると,原告は,業として登記申請を行う資格を与えられた者として,申請人の意思確認の重要性を真に理解しているのか,その補助者らにそれを周知徹底しているのか甚だ疑問であって,本件抹消登記申請における非違の程度は重大と言わざるを得ない。 (イ)したがって,原告の司法書士としての業務を3週間停止するとした懲戒処分2については,原告の主張する本件に関するその余の事情(実害が生じていないこと,抵当権設定登記の 重大と言わざるを得ない。 (イ)したがって,原告の司法書士としての業務を3週間停止するとした懲戒処分2については,原告の主張する本件に関するその余の事情(実害が生じていないこと,抵当権設定登記の抹消登記申請は,登記権利者にとっては保存行為であったこと,再発防止策を講じたこと,反省の態度,これまでの司法書士としての公務貢献,本件抹消登記申請の報酬額)や,他の懲戒処分との比較を考慮しても,なお社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超えるものであったということはできない。 (ウ)原告は,土地家屋調査士や司法書士に対する懲戒処分の基準が不明確であって,懲戒処分2においても恣意的な加重がなされたと主張する。 しかしながら,上記のとおり,懲戒処分2の処分内容が重きに失するとは認められないから,原告に対する処分に恣意的な加重がなされたと認めることもできない。したがって,原告の上記主張は理由がない。 (エ)よって,懲戒処分2につき,原告の取消請求を認めるに足りる違法や,国家賠償法上の違法があるとは認められないから,その余の点を判 断するまでもなく,懲戒処分2の違法を理由とする取消請求及び国家賠償請求はいずれも理由がない。 第4 結論 以上のとおり,懲戒処分1の取消しに係る訴えは,訴えの利益がないからこれを却下し,本件各懲戒処分につき裁量を逸脱した違法はないから,原告のその余の請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 福井地方裁判所民事第2部裁判長裁判官坪井宣幸裁判官池上尚子裁判官中嶋万紀子
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