- 1 -判決主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求亡Aの作成に係る別紙1の令和元年12月30日付け自筆証書による遺言が無効であることを確認する。 第2 事案の概要本件は,亡Aの二男である原告が,Aの作成した令和元年12月30日付け自 筆証書(以下「本件遺言書」という。)による遺言(以下「本件遺言」という。)は無効であると主張して,本件遺言で指定された遺言執行者である被告遺言執行者,Aの妻である被告B及びAの長男である被告Cに対し,本件遺言が無効であることの確認を求める事案である。 1 前提事実(証拠を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。) (1) 当事者ア原告は,Aと亡D(平成▲年▲月▲日死亡。)との間の二男である。 イ被告Cは,AとDとの間の長男である。 ウ被告Bは,Dの死亡後にAと婚姻した者である。 エ被告遺言執行者は,本件遺言において遺言執行者に指定され,その就 任を承諾した者である。 (2) 本件遺言書の作成Aは,令和元年12月30日付けで別紙1の本件遺言書を作成した。 本件遺言書は10枚の紙から成り,このうち1枚目から7枚目まで並びに9枚目及び10枚目はAの自書により作成され,また7枚目には日付の記載 とともに署名押印がされていた。 - 2 -他方,8枚目の「財産目録」(以下「本件目録」という。)はワープロ打ちされており,本件目録自体には民法968条2項後段所定の署名押印はなかった(甲1)。 (3) 相続の発生Aは,令和▲年▲月▲日に死亡した。 Aの相続人は,妻の被告B,長男の被告C及び二男の原告である。 2 争点(1) 本件目録に署 署名押印はなかった(甲1)。 (3) 相続の発生Aは,令和▲年▲月▲日に死亡した。 Aの相続人は,妻の被告B,長男の被告C及び二男の原告である。 2 争点(1) 本件目録に署名押印がないことを理由として本件遺言が無効となるか(2) 本件目録が金融資産を網羅していないことを理由として本件遺言が無効となるか 3 当事者の主張(1) 争点(1)(本件目録に署名押印がないことを理由として本件遺言が無効となるか)について(原告の主張)ア自筆証書遺言に自書によらない財産目録を添付する場合には,遺言者は 財産目録の毎葉に署名押印をしなければならない(民法968条2項後段)。 本件においては,本件目録にAの署名押印がなく,少なくとも本件目録は無効となるところ,これにより本件遺言書には財産目録が全く添付されていないことになる。そして,本件遺言書によれば,本件遺言の対象たる 「預貯金,投資信託および全ての金融資産」とは「別紙の財産目録」すなわち本件目録で特定された金融資産のことを指すのであり,本件目録によって本件遺言の対象とする金融資産を特定・限定したものであって,本件目録は本件遺言書の中で最も重要な部分を構成する。 したがって,本件目録が無効である以上,相続人に相続させるべき目的 物を特定することは不可能となるから,本件遺言書は全体として遺言の意- 3 -味が通らなくなり,無効となる。 イまた,本件目録は本件遺言書と一体をなし,本件遺言書に不可欠の部分であるところ,本件目録はAの自書によるものではないから,本件遺言書は,民法968条1項が自筆証書遺言の方式要件として定める全文自書の要件を欠くことになる。そして,本件目録にはAの署名押印がないのであ るから,本件遺言書は同 によるものではないから,本件遺言書は,民法968条1項が自筆証書遺言の方式要件として定める全文自書の要件を欠くことになる。そして,本件目録にはAの署名押印がないのであ るから,本件遺言書は同条2項の要件も欠く。 したがって,本件遺言書は,その全体が民法968条1項の全文自書の要件を欠いて無効となる。 (被告らの主張)本件遺言書においては,本件目録がなくともその本文のみで相続させるべ き目的物を特定することができているから,本件目録自体が無効となったとしても,本件遺言書の全体が無効となるわけではない。 すなわち,本件遺言書の本文においては,相続させるべき目的物は「全ての金融資産」として特定されており,これを妻の被告Bに対して50%,長男の被告Cに対して25%,二男の原告に対して25%の割合で取得させる 旨記載されているのであって,本件遺言書の本文自体から,どの相続人に何を相続させるのかは十分に特定されている。また,本件目録には生命保険の死亡保険金についての記載もあるが,そもそも保険金請求権は相続財産には含まれないのであって,遺言書に記載がなくても保険金受取人が保険金請求権を取得する。 したがって,本件目録に署名押印がないからといって,本件遺言書全体が無効となることにはならない。 (2) 争点(2)(本件目録が金融資産を網羅していないことを理由として本件遺言が無効となるか)について(原告の主張) 本件目録には,①有限会社G(以下「本件会社」という。)の株式270- 4 -0株及び②ゆうちょ銀行の担保定額貯金100万円が記載されておらず,Aの金融資産の全てが網羅されているわけではない。しかも,上記①の評価額は3458万7000円であり,上記②の貯金額と合わせると3558万7000円と 行の担保定額貯金100万円が記載されておらず,Aの金融資産の全てが網羅されているわけではない。しかも,上記①の評価額は3458万7000円であり,上記②の貯金額と合わせると3558万7000円となって,本件目録に記載された金融資産(合計5922万2117円)の60%超にも当たり,Aの相続財産たる金融資産の重要な部分を占 める。 したがって,本件遺言書によって相続人に相続させるべき目的物を特定することは不可能であり,全体として遺言の意味が通らないから,無効となる。 (被告らの主張)本件会社はAが経営していた会社であり,その株式はいわゆる譲渡制限株 式であって,他の金融資産と同列に語ることはできない。また,本件遺言書においては,遺言者が「全ての金融資産」を遺言の対象とする意思であることは明らかであり,個々の財産を個別に特定すること自体が不要である。そもそも本件目録は無効なのであるから,そこにいかなる財産が記載されていようが,本件目録の存在は一旦除外して考えるべきであるし,争点(1)にお いて主張したとおり,本件遺言書の本文部分には,「全ての金融資産」を妻の被告Bに対して50%,長男の被告Cに対して25%,二男の原告に対して25%の割合で取得させる旨記載されている。 したがって,本件目録が金融資産を網羅していないからといって,本件遺言書全体が無効となることにはならない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実証拠(甲1)によれば,本件遺言書の構成及び記載内容については,以下のとおり認められる。 (1) 全体の構成 本件遺言書は,①1枚目から7枚目までの本文部分(以下単に「本文部分」- 5 -という。),②8枚目の本件目録,③9枚目及び10枚目の付言部分(以下単に「付言部分」という。)から成 本件遺言書は,①1枚目から7枚目までの本文部分(以下単に「本文部分」- 5 -という。),②8枚目の本件目録,③9枚目及び10枚目の付言部分(以下単に「付言部分」という。)から成る。 このうち本文部分及び付言部分はAの自書により作成されているが,本件目録はワープロ打ちにより作成されている。 (2) 本文部分の記載内容 本文部分の記載内容は別紙2のとおりであり,「遺言者Aはこの遺言書によって以下のとおり遺言する」(第1文),「遺言者Aの預貯金,投資信託および全ての金融資産については次の通り分割し相続させる」(第2文),「遺言者Aが所持する金融資産について別紙の財産目録に記述する」(第3文)との柱書きに続けて,概要以下の記載がある。 ア生命保険の死亡保険金については,保険契約に基づき,本件目録の番号1,2及び3については受取人被告Bが受け取り,番号4については受取人被告C及び受取人原告が受け取る。 イその余の金融資産については,被告Bに50%,被告Cに25%,原告に25%を相続させる。 (3) 本件目録の記載本件目録の記載は別紙1の「8枚目」のとおりであり,①生命保険として4個の保険が記載され(うち番号1,2及び3の保険は被告Bを受取人とするものであり,番号4の保険は被告C及び原告をそれぞれ50%の割合で受取人とするものである。),②預貯金として2個の預貯金が記載され,③国庫 債券として1個の債券が記載されている。 (4) 付言部分の記載内容付言部分の記載内容は別紙3のとおりであり,概要,葬式と墓についての希望が記載されるとともに,被告Cと原告とがけんかをせずに理解し合って生きてほしい旨記載されている。 2 争点(1)(本件目録に署名押印がないことを理由として あり,概要,葬式と墓についての希望が記載されるとともに,被告Cと原告とがけんかをせずに理解し合って生きてほしい旨記載されている。 2 争点(1)(本件目録に署名押印がないことを理由として本件遺言が無効とな- 6 -るか)について(1) 民法968条は,自筆証書遺言はその全文を自書しなければならないとしつつも(同条1項),自筆証書に財産目録を添付する場合には,その目録については自書を要しないこととして,自筆証書遺言の方式を緩和している(同条2項前段)。もっとも,自書によらない財産目録を添付する場合には, その目録の毎葉に署名押印をしなければならないこととしており(同項後段),この規定の趣旨は,遺言者以外の者の作成した目録が添付されてしまうことの防止にあるものと解される。このような法の規定及びその趣旨に照らすと,自筆証書に添付された財産目録の毎葉に署名押印がない場合には,当該目録自体は無効になるものといわざるを得ない。 しかしながら,そもそも民法968条1項が自筆証書遺言の方式としてその全文の自書を要するとした趣旨は,遺言者の真意を確保すること等にあるのであって,必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは,かえって遺言者の真意の実現を阻害することになりかねない(最高裁令和3年1月18日第一小法廷判決・裁判所時報1760号2頁参照)。そして,同条2項前段が 財産目録については自書を要しないとした趣旨は,財産目録は対象財産を特定するだけの形式的な事項であるため,この部分については自書を要求する必要性が類型的に低い点にあるものと解されるのであって,このような形式的な事項にすぎない財産目録の方式に瑕疵があることを理由に,直ちに自筆証書遺言の全部が無効であるとするのは,遺言者の真意の実現を阻害するも のに にあるものと解されるのであって,このような形式的な事項にすぎない財産目録の方式に瑕疵があることを理由に,直ちに自筆証書遺言の全部が無効であるとするのは,遺言者の真意の実現を阻害するも のに他ならない。 したがって,自筆証書遺言において,自筆証書に添付された財産目録の毎葉に署名押印がなく,当該目録自体は無効となる場合であっても,当該目録が付随的・付加的意味をもつにとどまり,その部分を除外しても遺言の趣旨が十分に理解され得るときには,当該自筆証書遺言の全体が無効となるもの ではないというべきである。 - 7 -(2) 本件についてこれをみるに,本件目録は本件遺言書の本文部分に添付された財産目録というべきところ,ワープロ打ちにより作成されているにもかかわらず署名押印がないのであるから,本件目録自体は民法968条2項後段所定の方式を欠いて無効であるといわざるを得ない。 しかし,そもそも本件目録には,生命保険(4個),預貯金(2個)及び 国庫債券(1個)が記載されているにすぎない。 そして,このうち生命保険の死亡保険金については,本件遺言書の本文部分において,本件目録の番号1,2及び3の保険は受取人の被告Bが受け取り,番号4の保険は受取人の被告C及び原告が受け取るというように,本件目録の番号を引用した記載がされているところ(前記1(2)ア),保険金受取 人としてその請求権発生当時の相続人たるべき個人が指定されている場合には,当該請求権は保険契約の効力発生と同時に当該相続人の固有財産となり,被保険者兼保険契約者の遺産より離脱しているのであるから(最高裁昭和40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁参照),本件遺言書における生命保険の記載は,その権利の帰属を左右するものではなく,いわば無 益的記載という 脱しているのであるから(最高裁昭和40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁参照),本件遺言書における生命保険の記載は,その権利の帰属を左右するものではなく,いわば無 益的記載というべきものである。念のため検討しても,本件遺言書の本文部分における上記記載の内容は,結局のところ,生命保険の死亡保険金は各受取人が受け取るというものにすぎないのであって,本件目録自体の記載を除外しても遺言の趣旨が十分に理解され得るところでもある。 また,本件目録に記載された財産のうち預貯金及び国庫債券については, 本件遺言書の本文部分において個別具体的に引用・参照されることはなく,ただ包括的に,生命保険以外の金融資産については被告Bに50%,被告Cに25%,原告に25%の割合で相続させると記載されているにすぎないのであって(前記1(2)イ),やはり,本件目録の記載を除外してもその遺言の趣旨が十分に理解され得るところである。 したがって,本件遺言書における本件目録は,付随的・付加的意味をもつ- 8 -にとどまり,これを除外しても遺言の趣旨が十分に理解され得るのであるから,本件目録が署名押印を欠いて無効となるからといって,本件遺言書の全体が無効となるものではないというべきである。 (3) この点につき原告は,本文部分の第1文ないし第3文の記載に照らすと,本件遺言の対象たる「預貯金,投資信託および全ての金融資産」(第2文) とは本件目録で特定された金融資産のことを指すのであり,本件目録によって本件遺言の対象とする金融資産を特定・限定したものであって,本件目録は本件遺言書の中で最も重要な部分を構成するなどと主張する。その上で原告は,本件目録が無効である以上,相続人に相続させるべき目的物を特定することは不可能となるから,本件遺言 たものであって,本件目録は本件遺言書の中で最も重要な部分を構成するなどと主張する。その上で原告は,本件目録が無効である以上,相続人に相続させるべき目的物を特定することは不可能となるから,本件遺言書の全体が無効となるとも主張する。 しかし,本件遺言書の本文部分の記載の趣旨は,結局のところ,①生命保険の死亡保険金については各受取人が受け取ることとし,②生命保険以外の金融資産については被告Bに50%,被告Cに25%,原告に25%の割合で相続させるというものにすぎないのであって,本件目録の有無によって上記①及び②の趣旨自体が変わり得るというものではない。しかも,このうち 上記②の相続割合は法定相続分どおりであるから(被告BはAの妻であり,被告C及び原告はAの子であって,他に相続人は存在しない。),仮に本件遺言の対象とはしない金融資産なるものが存在したとしても,そのような金融資産もまた,本件遺言書の本文部分に記載されたのと同様に,法定相続分により相続されるにすぎない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 (4) 以上によれば,本件目録が署名押印を欠いて無効となるからといって,本件遺言書の全体が無効となるということはできない。 したがって,争点(1)における原告の主張は,理由がない。 3 争点(2)(本件目録が金融資産を網羅していないことを理由として本件遺言 が無効となるか)について- 9 -原告は,本件目録には本件会社の株式及びゆうちょ銀行の担保定額貯金が記載されておらず,Aの金融資産の全てを網羅しているわけではないから,目的物の特定が不可能となり,本件遺言書の全体が無効となると主張する。 しかし,そもそも法は,遺言の有効要件として,相続財産に属する金融資産の全てを記載することまでを 網羅しているわけではないから,目的物の特定が不可能となり,本件遺言書の全体が無効となると主張する。 しかし,そもそも法は,遺言の有効要件として,相続財産に属する金融資産の全てを記載することまでを定めてはいないのであって,本件目録にAの金融 資産の全てが網羅されていないからといって,なにゆえに本件遺言書の全体が無効となるのか,原告の主張をみても必ずしも判然としない。また,この点を措くとしても,本件目録自体はその方式を欠いて無効というのであって(上記2(2)),無効である本件目録に金融資産の全てが網羅されていないことを理由に,本件遺言書の全体が無効となるというのは,主張自体失当であるものとい わざるを得ない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,争点(2)における原告の主張は理由がない。 4 結論よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のと おり判決する。 札幌地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官瀬 孝 裁判官宇野直紀 - 10 -裁判官佐藤克郎
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