平成21(ネ)10033 特許権侵害差止等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成22年3月31日 知的財産高等裁判所 2部 判決 原判決一部変更 大阪地方裁判所 平成18(ワ)11429
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判決文本文142,729 文字)

- 1 -判決言渡平成22年3月31日平成21年(ネ)第10033号特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地裁平成18年(ワ)第11429号。以下,パナソニック電工株式会社控訴に係る部分[大阪地裁平成21年(ワネ)第493号]を「A事件」,富士高分子工業株式会社控訴に係る部分[大阪地裁平成21年(ワネ)第498号]を「B事件」という。)口頭弁論終結日平成22年3月3日判決A事件控訴人・B事件被控訴人パナソニック電工株式会社(一審原告)(旧商号松下電工株式会社)訴訟代理人弁護士井窪保彦同北原潤一訴訟復代理人弁護士米山朋宏補佐人弁理士加藤志麻子A事件被控訴人・B事件控訴人(一審被告)富士高分子工業株式会社訴訟代理人弁護士山上和則訴訟代理人弁理士池内寛幸同若月節子主文 A事件につき控訴人パナソニック電工株式会社の控訴を棄却する。 B事件につき控訴人富士高分子工業株式会社の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。 (1)原判決中,一審被告富士高分子工業株式会社敗訴部分を取り消- 2 -す。 (2)上記に係る一審原告パナソニック電工株式会社の請求を棄却する。 訴訟費用は,第1,2審とも,一審原告パナソニック電工株式会社の負担とする。 事実及び理由 第1控訴の趣旨 一審原告パナソニック電工株式会社(A事件)(1)原判決を次のとおり変更する。 ア一審被告は,原判決別紙物件目録記載の放熱シートを製造し,販売してはならない。 イ一審被告は,前項記載の放熱シートを廃棄せよ。 ウ一審被告は,一審原告に対し,1800万円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 エ一審被告は, イ一審被告は,前項記載の放熱シートを廃棄せよ。 ウ一審被告は,一審原告に対し,1800万円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 エ一審被告は,一審原告に対し,1億0400万円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)訴訟費用は,第1,2審とも,一審被告の負担とする。 (3)仮執行宣言 一審被告富士高分子工業株式会社(B事件)(1)原判決中,一審被告の敗訴部分を取り消す。 (2)一審原告の請求をいずれも棄却する。 (3)訴訟費用は,第1,2審とも,一審原告の負担とする。 第2事案の概要【以下,略称は原判決の例による。】 一審原告は,合成樹脂及びその他の化学工業製品の製造並びに販売等を業とする株式会社である。旧商号は「松下電工株式会社」であり,平成20年10- 3 -月1日の商号変更により「パナソニック電工株式会社」となった。 一審被告は,有機硅素化合物及びその他の高分子化合物を原料とする合成ゴム成形加工並びにその販売等を業とする株式会社である。 平成18年10月30日付けで提起された本件訴訟は,平成11年8月3日に公開された下記内容の特許権の公開公報(補正前のもの)を前提として一審原告から実施許諾を受けていた一審被告が,平成14年3月22日付けで登録された上記特許権(補正後のもの)の技術的範囲に被告製品は含まれないとして,同契約を解除し実施料支払を終了したことを契機に,上記特許権を有する一審原告が原判決別紙物件目録記載の放熱シート(被告製品)を製造・販売する一審被告に対し,一審被告の上記製品は一審原告の上記特許権の請求項1及び5を侵害するとして,①上記製品の製造販売禁止,②上記製品の廃棄,③平成12年10月1日に締結 ート(被告製品)を製造・販売する一審被告に対し,一審被告の上記製品は一審原告の上記特許権の請求項1及び5を侵害するとして,①上記製品の製造販売禁止,②上記製品の廃棄,③平成12年10月1日に締結し平成15年10月1日に終了した下記内容の実施許諾契約に基づき,未受領である平成14年6月1日から平成15年10月1日までの実施料1800万円(売上高の3%)及びこれに対する訴状送達の翌日である平成18年11月9日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払,④上記特許権侵害による損害賠償として,平成15年10月2日から平成18年9月30日までの分として1億0400万円(売上高の8%)及びこれに対する訴状送達の翌日である平成18年11月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を各求めたものである。 記(1)特許権ア経過出願平成10年1月27日(特願平10-14565号)・発明の名称「熱伝導性シリコーンゴム組成物」・請求項の数4公開平成11年8月3日(特開平11-209618号)- 4 -補正平成14年2月4日・発明の名称「熱伝導性シリコーンゴム組成物及びこの熱伝導性シリコーンゴム組成物によりなる放熱シート」・請求項の数5登録平成14年3月22日(特許第3290127号)異議申立て平成14年11月27日及び同年12月9日(異議2002-72874号)訂正請求平成15年6月2日(請求項2を中心としたもの)異議決定平成16年2月23日(訂正を認める。特許第3290127号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。)なお,本件訴訟提起後の平成19年3月2日付けで富士高分子工業株式会社(一審被告)から上記請求項1~5につき特許庁に無効審判請求(無効2007-800043号)がなされたが,平成19年9 持する。)なお,本件訴訟提起後の平成19年3月2日付けで富士高分子工業株式会社(一審被告)から上記請求項1~5につき特許庁に無効審判請求(無効2007-800043号)がなされたが,平成19年9月27日付けで請求不成立の審決がなされ,これに不服の一審被告から審決取消訴訟(平成19年(行ケ)第10373号)が提起されたが,平成20年6月4日請求棄却の判決がなされ,同判決は確定している。 イ請求項1(下線部は,平成14年2月4日付け補正により付加された箇所。以下「本件特許発明1」という。)「シリコーンゴムに,下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成り,熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%であることを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム組成物。 【化1】YSiX(A) X=メトキシ基又はエトキシ基Y=炭素数6個以上18個以下の脂肪族長鎖アルキル基」- 5 -ウ請求項5(以下「本件特許発明2」という。)「請求項1乃至4のいずれかに記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物を成形して成ることを特徴とする放熱シート。」エ上記イ・ウの構成要件の分説(A~D)は,原判決4頁記載のとおりである。 (2)特許実施許諾契約(平成12年10月1日付け)「松下電工株式会社(以下甲という。)と富士高分子工業株式会社(以下乙という。)とは,次の通り合意し,本契約を締結する。 第1条(目的)本契約は,以下に定義された許諾特許について,甲が乙に実施権を許諾することに関する甲乙間の合意を証するものである。 第2条(定義)本契約において次の用語の意味は次の通りとする。 (1)許諾特許とは,甲所有の下記の特許出願及びこれに係る特許権並びにその分割又は変 ることに関する甲乙間の合意を証するものである。 第2条(定義)本契約において次の用語の意味は次の通りとする。 (1)許諾特許とは,甲所有の下記の特許出願及びこれに係る特許権並びにその分割又は変更に係る新たな出願に基づく権利をいう。 ・特開平11-209618(発明の名称:熱伝導性シリコーンゴム組成物及び該組成物によりなる放熱シート)(2)許諾製品とは,許諾特許の技術的範囲に属する熱伝導性シリコーンゴム組成物よりなる放熱シートをいう。 (3)〈省略〉第3条(実施権の許諾)甲は,乙に対し,許諾製品を日本国内において製造,使用及び販売する非独占的,譲渡不可,かつ再実施権なしの権利(以下実施権という。)を許諾する。 第4条(実施料) 乙は,第3条第1項に基づき許諾された実施権の対価として,次の契- 6 -約一時金及び継続実施料(以下総称した実施料という)並びにこれらに課される消費税等を,甲から乙への請求書発行日より30日以内に,甲の指定する甲の銀行口座宛てに現金振込にて支払う。 (1)契約一時金:〈省略〉(2)継続実施料:許諾製品の正味販売価格の1%(但し,許諾特許について特許権が成立した日の属する月の翌月以降については,3%とする) 本契約に基づいて乙から甲になされたあらゆる支払いは,許諾特許の無効,本契約の解約その他いかなる理由によっても乙に返還されないものとする。 〈第5条以下は省略〉」 原審における争点は,次のとおりのものであった(原判決7頁~8頁)。 (1)被告製品は構成要件Bを文言上充足するか(争点1)。 (2)被告製品(ただし,GR-n及びGR-iは除く。)は本件各特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか(争点2)。 (3)約定実施料及び損害の額(争点3)(4)相殺の抗弁の成否(争点4) 被告製品(ただし,GR-n及びGR-iは除く。)は本件各特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか(争点2)。 (3)約定実施料及び損害の額(争点3)(4)相殺の抗弁の成否(争点4) 原審の大阪地裁は,平成21年4月7日,構成要件Bにおける「熱伝導性無機フィラー」とは構成要件Aと同じく「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」をいうと解釈した上,「被告製品のうち『GR-n』は,本件特許発明1及び2の各技術的範囲に属するが,その余の放熱シートは本件特許発明1及び2の各技術的範囲に属しない」等と判断し,また,相殺の抗弁は契約書第4条に不返還条項があること等を根拠に理由がない等と判断して,一審原告の請求を,①被告製品のうち「GR-n」の製造,販売の差止め及び廃棄,②平成14年6月1日から平成15年10月1日までの「GR-n」の約定実施料98万7345円及びこれに対する平成18年11月9日- 7 -から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払,③平成15年10月2日以降の「GR-n」に関する損害額526万0134円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却した。 そこで,これに不服の当事者双方が本件各控訴を提起した。 当審においても,原審における上記争点(1)ないし(4)が争われたが,当審において新たに,一審原告は予備的主張1(GR-b等の熱伝導性無機フィラーは全量がカップリング処理されていること)を主張し,上記争点(2)の主張を予備的主張2としたほか,一審被告は,新たな特許無効理由(明確性要件違反等-争点5)を主張した。 第3当事者の主張当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 を予備的主張2としたほか,一審被告は,新たな特許無効理由(明確性要件違反等-争点5)を主張した。 第3当事者の主張当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第3争点に関する当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する。 当審における一審原告の主張(1)構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」と限定解釈すべきではない-争点1に関しア本件各特許発明の構成要件Bにおける「熱伝導性無機フィラー」の意味については,少なくとも,その文言上,これをカップリング処理された熱伝導性無機フィラーと限定解釈する手掛かりはない。そこで問題となるのは,同要件の文言以外の何らかの理由(明細書の記載や出願経過等)により,この「熱伝導性無機フィラー」を「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」と限定解釈することができるかということである。つまり,構成要件Bの解釈問題は,クレーム文言上は一義的に明確である「熱伝導性無機フィラー」との文言についての限定解釈の可否であり,もし限- 8 -定解釈すべき特段の事情が認められない限りは,文言通り,特段の限定の付されていない「熱伝導性無機フィラー」と解釈されるべきであるということである。 しかるところ,以下に述べるとおり,本件明細書の記載からも,出願経過からも,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」を「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」と限定解釈すべき事情は認められず,「熱伝導性無機フィラー」は,文字通り,「熱伝導性無機フィラー」と解釈されるべきである。むしろ,このような解釈こそ,本件明細書に記載された本件各特許発明の本質と構成要件Bの技術的意義に則したものといえる。 以下においては,まず,「イ」で本 熱伝導性無機フィラー」と解釈されるべきである。むしろ,このような解釈こそ,本件明細書に記載された本件各特許発明の本質と構成要件Bの技術的意義に則したものといえる。 以下においては,まず,「イ」で本件各特許発明の内容を改めて説明し,「ウ」で構成要件Bの技術的意義を述べ,「エ」で構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」の意味をまとめ,さらに,「オ」で原判決の判断の誤りを述べる。 イ本件各特許発明の内容本件各特許発明の本質的特徴については,次のとおり要約することができる。すなわち,従来の熱伝導性シリコーンゴム組成物においては,高い熱伝導性を得るためにシリコーンゴム組成物における熱伝導性無機フィラーの充填量を増加させた場合には,①粘度上昇による成形加工性の低下を招くおそれが大きい,②この組成物を成形してなる放熱シートにおいて,圧縮永久歪みが大きい,引裂強度が低い,ゴム硬度が高い,高温放置による機械的特性の低下が大きい,といった問題(以下「本件課題」という。)が生じていた。これに対し,本件各特許発明は,特定のシランカップリング剤で表面処理をした熱伝導性無機フィラーをシリコーンゴムに分散させたことにより,たとえシリコーンゴム組成物における熱伝導性無機フィラーの充填量を40vol%~80vol%にしても,本件課題が解決できることを,発明の本質的特徴とするものである。なお,充填率が4- 9 -0%以上であるということは,フィラー粒子がぎっしり密に詰まった状態である。 ウ構成要件Bの技術的意義(ア)上記イで述べた本件各特許発明の本質的特徴を踏まえると,本件各特許発明は,構成要件Bによって特定される基本的な組成(シリコーンゴムと熱伝導性無機フィラーによって構成される熱伝導性シリコーンゴム組成物において,当該熱伝導性無機フィラーの量が当該組成物全 本件各特許発明は,構成要件Bによって特定される基本的な組成(シリコーンゴムと熱伝導性無機フィラーによって構成される熱伝導性シリコーンゴム組成物において,当該熱伝導性無機フィラーの量が当該組成物全量に対して40vol%~80vol%であること)を有する熱伝導性シリコーンゴム組成物において,構成要件Aという解決手段(構成要件Aで規定するカップリング剤[以下「本件カップリング剤」という。]で表面処理された熱伝導性無機フィラーをシリコーンゴムに分散させていること)を備えることにより,本件課題の解決を図るものということができる。 (イ)本件各特許発明の本質的特徴からみて,構成要件Bの技術的意義が本件各特許発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物の基本的な成分の一つである熱伝導性無機フィラーの量を規定したものであるとの上記理解は,同要件における「40vol%~80vol%」という数値範囲の技術的意義を具体的に述べる本件明細書(甲2,3)の「発明の詳細な説明」の次の記載からも裏付けられるところである。 「【0015】また熱伝導性無機フィラー1としては,アルミナ,シリカ,酸化マグネシウム,酸化ベリリウム,酸化チタン等の金属酸化物,窒化アルミニウム,窒化ホウ素,金属アルミニウム,銅粉等を用いることができるが,金属酸化物を用いると,カップリング剤の処理効率が高くなるものであり,上記フィラーの表面の一部又は全部を酸化させることにより,カップリング剤の処理効率を向上することもできる。またこの熱伝導性無機フィラー1の形状としては,特に限定するものでは- 10 -なく,球状であっても針状であっても板状であっても構わないものである。ここで熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラー1の配合割合は,熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~ く,球状であっても針状であっても板状であっても構わないものである。ここで熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラー1の配合割合は,熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%とするものであり,40vol%に満たないと高い熱伝導率を得ることが困難であり,80vol%を超えると熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物がさらに硬く脆くなる恐れがあって好ましくない。」すなわち,上記段落では,本件各特許発明における「熱伝導性無機フィラー」について説明しているが,「熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラー1の配合割合は,熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%とするものであり」と記載されているとおり,配合割合が「40vol%~80vol%」である主体は,「熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラー1」であって,「シランカップリング剤で表面処理を施された」熱伝導性無機フィラーに限定されないことは,その文言上明らかである。そして,「40vol%」という数値範囲の下限を設定した理由について,「40vol%に満たないと高い熱伝導率を得ることが困難であり」と記載されているように,本件各特許発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物においては,高い熱伝導性を有することが当然の前提となっており,「熱伝導性無機フィラーの量を40vol%以上」にするということは,このような当然の前提を実現するための手段とみるのが合理的である。 また,この記載は,本件明細書(甲2,3)の「発明の詳細な説明」の「従来技術」の説明の箇所における,「しかし熱伝導率を上昇させるために単にシリコーンゴムに対する熱伝導性無機フィラー充填量を増加させると」(【0004】),「また熱伝導性無機フィラーの充填率が- 従来技術」の説明の箇所における,「しかし熱伝導率を上昇させるために単にシリコーンゴムに対する熱伝導性無機フィラー充填量を増加させると」(【0004】),「また熱伝導性無機フィラーの充填率が- 11 -高い場合には」(【0006】)の場合に相当する。つまり,上記の「40vol%以上」という数値は,熱伝導性シリコーンゴム組成物に高い熱伝導性という効果を実現するための必要条件を規定する要件であって,それ自体,本件課題(このような必要条件を備えた熱伝導性シリコーンゴム組成物に生じる課題)の解決手段を規定したものではない。 さらに,上記【0015】と同趣旨の記載は,本件明細書(甲2,3)の「発明の詳細な説明」の【0055】にもみられる。すなわち,「また熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%以上であることで高い熱伝導率を得ると共に,80vol%以下であることから熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物が硬く脆くなることを防止することができるものである。」との記載である。 以上のとおり,本件各特許発明の構成要件Bにおける「40vol%~80vol%」という数値範囲は,熱伝導性無機フィラーの量の範囲を示したものであることが明らかである。 (ウ)構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」を「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」と限定解釈した場合の著しい不合理仮に,一審被告が主張するように,構成要件Bにおける「40vol%~80vol%」という数値範囲はカップリング処理された熱伝導性無機フィラーの量(カップリング剤込みの量)を示すものであると解すると,次のとおり,著しい不合理が生じる。 a上記解釈によると,「40vol%」という最低値は,熱伝導性無機フィラー自体の量ではなく,これと本件カップリング剤の合計量と の量)を示すものであると解すると,次のとおり,著しい不合理が生じる。 a上記解釈によると,「40vol%」という最低値は,熱伝導性無機フィラー自体の量ではなく,これと本件カップリング剤の合計量ということになるが,そうすると,熱伝導性無機フィラー自体の量については,40vol%未満であってもよいことになる。例えば,熱伝導性無機フィラーと本件カップリング剤の合計量が40vol%の場- 12 -合,フィラー自体の量は,39vol%(カップリング剤が1vol%)でも37vol%(カップリング剤が3vol%)でも35vol%(カップリング剤が5vol%)でも30vol%(カップリング剤が10vol%)でも構わないということになる。 bしかし,そもそもシリコーンゴム組成物の熱伝導性に影響を与える因子は熱伝導性無機フィラー自体の量であって,本件カップリング剤の量は熱伝導性とは全く関係がない。したがって,高い熱伝導率を得るという目的との関係でいえば,熱伝導性無機フィラーと本件カップリング剤の合計量の最低量を定めても全く意味はなく,高い熱伝導率を得るために必要な最低量を規定するのであれば,それは熱伝導性無機フィラー自体の量以外にはありえないはずである。 同様のことは,「80vol%」という数値にもいえる。すなわち,仮に,当該数値が,本件カップリング剤処理済みの熱伝導性無機フィラーの量の上限値を定めるものであって,未処理の熱伝導性無機フィラーについては,80vol%以下の量の処理済みフィラーに加えてさらに無制限にこれを添加することができるとするならば,処理済みフィラー60vol%,未処理フィラー30vol%の比率で混合させることも可能となる。しかし,硬化成形物が硬く脆くなる原因が熱伝導性無機フィラーそのものに起因するという技術常識からすると, 理済みフィラー60vol%,未処理フィラー30vol%の比率で混合させることも可能となる。しかし,硬化成形物が硬く脆くなる原因が熱伝導性無機フィラーそのものに起因するという技術常識からすると,処理済みフィラーを60vol%含むとはいえ,総量が90vol%の熱伝導性無機フィラーと,シリコーンゴム10vol%からなる熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物が,硬く脆くならないはずがないから,「80vol%以下」の数値限定をすることの技術的意味が没却されることになる。 エ構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」の意味のまとめ以上のとおり,構成要件Bの技術的意義は,組成物における熱伝導性無- 13 -機フィラーの配合量を組成物全量に対する体積分率(vol%)で規定するものである。そうである以上,同要件の「熱伝導性無機フィラー」とは,文字通り,「熱伝導性無機フィラー」を意味するものと解すべきであって,これを「カップリング処理された」ものと限定解釈する合理的理由はない。 オ原判決の判断とその誤り(ア)原判決は,構成要件Bにいう「熱伝導性無機フィラー」とは「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」と限定解釈しつつ,同要件にいう「40vol%~80vol%」という数値限定の対象は「熱伝導性無機フィラー」であると判断した。しかし,この判断には,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」との用語を,文字通りの「熱伝導性無機フィラー」と,「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」という二重の意味に解釈するという矛盾をおかしているとの点(第1点),及び,「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」との限定解釈については合理的根拠がないとの点(第2点),という二つの誤りがある。以下,これらについて述べる。 (イ)原判決の誤り(第1点)a原 ,「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」との限定解釈については合理的根拠がないとの点(第2点),という二つの誤りがある。以下,これらについて述べる。 (イ)原判決の誤り(第1点)a原判決は,構成要件Bの「40vol%~80vol%」という数値限定の対象は「熱伝導性無機フィラー」であると判断した(59頁14行~60頁7行)が,これは正当な判断である。 b上記判断によれば,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」とは文字通り「熱伝導性無機フィラー」を意味するとの結論が導かれるはずである。ところが,原判決は,正反対の結論を導いた(60頁9行~61頁5行)。 cしかし,上記説示は意味不明といわざるをえない。原判決は,「もっとも,そうであるからといって,構成要件Bの『熱伝導性無機フィ- 14 -ラー』が構成要件Aのカップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーを指すとの前記(2)の判断を左右するものではない。」(60頁9行~12行)との判断の根拠として,「熱伝導性無機フィラーと本件カップリング剤とはもともと別の成分であること」や「インテグラルブレンド法においては,熱伝導性無機フィラーと本件カップリング剤とを熱伝導性シリコーンゴムを組成する別の成分として捉えるのが通常と考えられる」ことを挙げる(60頁12行~20行)。しかし,これは理由になっていない。むしろ,原判決がいう,「熱伝導性無機フィラーと本件カップリング剤とはもともと別の成分であること」や「インテグラルブレンド法においては,熱伝導性無機フィラーと本件カップリング剤とを熱伝導性シリコーンゴムを組成する別の成分として捉えるのが通常と考えられる」ことなどは,「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」を規定した構成要件(構成要件A)と,「単なる(カップリング処理の有無を問わ コーンゴムを組成する別の成分として捉えるのが通常と考えられる」ことなどは,「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」を規定した構成要件(構成要件A)と,「単なる(カップリング処理の有無を問わない)熱伝導性無機フィラー」を規定した構成要件(構成要件B)が本件各特許発明の構成要件として並存しうることを肯定する根拠になるというべきである。 d構成要件Bは「ある物の量を数値で特定した数値限定要件」,すなわち,ある物(「熱伝導性無機フィラー」として表現されたもの)の熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対する量を「40vol%~80vol%」と数値で特定したものであり,それ以外の意味はない。 つまり,「数値限定以外との関係」なるものは存在しない。したがって,このような構成要件Bの解釈として,当該数値限定を離れて「熱伝導性無機フィラー」の意味内容が問題になることはありえないはずであり,「40vol%~80vol%」という数値限定との関係で,同要件の「熱伝導性無機フィラー」の意味内容が,文字通りの- 15 -「熱伝導性無機フィラー」であることが確定された以上,同要件の「熱伝導性無機フィラー」とは,このような意味の「熱伝導性無機フィラー」を指すとしか解釈しようがない。 e原判決の上記解釈は,構成要件充足性の判断においても不合理な事態を生じさせる。 原判決は,「構成要件Bにおける『熱伝導性無機フィラー』は構成要件Aの熱伝導性無機フィラーと同じもの,すなわちカップリング処理を施した熱伝導性無機フィラー(ただし,その体積分率の算定に当たっては本件カップリング剤を含まない量を基準とする。)と解するのが相当である。」(61頁1行~5行)と述べた後,構成要件Bの充足性の判断について,次のとおり述べている。 「なお,本件明細書ではカップリング処理された熱 ング剤を含まない量を基準とする。)と解するのが相当である。」(61頁1行~5行)と述べた後,構成要件Bの充足性の判断について,次のとおり述べている。 「なお,本件明細書ではカップリング処理された熱伝導性無機フィラーと未処理のものとを混合使用することについて許容も禁止もされていないから,未処理の熱伝導性無機フィラーを加えたからといって,直ちに本件各特許発明の技術的範囲に含まれなくなるという訳ではなく,あくまで,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率が構成要件Bの範囲内にあるか否かによって判断することになる。」(61頁5行~10行。以下「説示①」という。)この説示によると,例えば,「熱伝導性シリコーンゴム組成物中にカップリング処理された熱伝導性無機フィラーが60vol%(ただし,カップリング剤を含まない量),未処理の熱伝導性無機フィラーが30vol%含まれる場合」には,「カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率が構成要件Bの範囲内にあるか否かによって判断する」ことになり,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーが構成要件Bの範囲内にある「60vol%」であることから,構成要件Bを充足し,本件各特許発明の技術的範囲に含まれるこ- 16 -とになる。 他方,原判決は,一審原告の「段落【0015】の『40vol%に満たないと高い熱伝導率を得ることが困難であり,80vol%を超えると熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物がさらに硬く脆くなる恐れがあって好ましくない』との記載や,段落【0055】の『熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%以上であることで高い熱伝導率を得ると共に,80vol%以下であることから熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物が硬く脆くなることを防止する が熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%以上であることで高い熱伝導率を得ると共に,80vol%以下であることから熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物が硬く脆くなることを防止することができる』との記載等に基づき,構成要件Bの『熱伝導性無機フィラー』は,シリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラーの総量を意味する。」との主張に対して,「しかし,上記記載は,『たとえ熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理しても,80vol%を超えてこれをシリコーンゴムに充填すると,熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物がさらに硬く脆くなる恐れがあって好ましくない』というように解することもできるのであり(本件明細書上,カップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーであれば80vol%を超えて充填しても硬く脆くならないことを窺わせる記載も認められない。),前記特許請求の範囲の記載,発明の効果及び実施例の記載とも併せ考慮すれば,むしろこのように解するのが自然といえる。」(51頁13行~21行。以下「説示②」という。)と述べている。 このような説示①及び説示②によると,「熱伝導性シリコーンゴム組成物中にカップリング処理された熱伝導性無機フィラーが60vol%(ただし,カップリング剤を含まない量),未処理の熱伝導性無機フィラーが30vol%含まれる場合」(事例1)は,構成要件Bを充足する(説示①からの帰結)が,「熱伝導性シリコーンゴム組成- 17 -物中にカップリング処理された熱伝導性無機フィラーが90vol%(ただし,カップリング剤を含まない量)含まれる場合」(事例2)は,構成要件Bを充足しない(説示②からの帰結)ということになるが,純粋技術的な見地からみて,全量処理でありながら熱伝導性無機フィラーが90vol%である事例2が構成要件 )含まれる場合」(事例2)は,構成要件Bを充足しない(説示②からの帰結)ということになるが,純粋技術的な見地からみて,全量処理でありながら熱伝導性無機フィラーが90vol%である事例2が構成要件Bを充足せず,本件各特許発明を実施するものではないと解する一方,事例2と同じく熱伝導性無機フィラーが90vol%でありながら,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーが60vol%である事例1が構成要件Bを充足し,本件各特許発明を実施するものであると解する原判決の上記解釈が不合理であることは一目瞭然である。 (ウ)原判決の誤り(第2点)原判決が構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」を「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」と限定解釈した理由として挙げる以下の諸点は,以下のとおり,いずれも限定解釈の合理的根拠たりえない。 a特許請求の範囲の記載原判決は,特許請求の範囲の記載に関して,「…構成要件Bの『熱伝導性無機フィラー』が構成要件Aのそれとは別の物である,すなわちカップリング処理されていないものも含めた熱伝導性無機フィラーの総量と解する根拠となる積極的な記載も認められない。」(42頁15行~18行),「…構成要件Bが構成要件Aの直後に配置され,しかも,『熱伝導性無機フィラー』との文言が構成要件Aのそれと近接して使用されている」(42頁18行~20行)との二つの理由を挙げて,「…構成要件Aのカップリング処理された熱伝導性無機フィラーを指すと読むのがどちらかといえば自然な解釈といえる。」(42頁下6行~下4行)と述べる。 しかし,上記の「どちらかといえば自然な解釈」という説示にどれ- 18 -ほどの意味があるのかは不明であるが,上記の二つの理由についてみれば,第1の理由については,構成要件Bには「熱伝導性無機フィラー」と明記され ちらかといえば自然な解釈」という説示にどれ- 18 -ほどの意味があるのかは不明であるが,上記の二つの理由についてみれば,第1の理由については,構成要件Bには「熱伝導性無機フィラー」と明記されており,構成要件Aの「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」を受けることを示す「同」,「当該」又は「該」といった接頭語が付されていないことからすれば,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は文字通りの「熱伝導性無機フィラー」を意味すると読むほうがはるかに自然である。また,第2の理由については,類似の文言が前後に近接して用いられているといって,両者を同じ意味に解するのが自然であるとはいえない。いずれにせよ,上記二つの理由は,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」という文言を限定解釈する根拠としては極めて薄弱というほかない。 b「発明の詳細な説明」の記載(a)原判決は,「このように,段落【0015】は,本件各特許発明の目的を解決する手段を開示した段落【0013】を受け,そこに記載されている熱伝導性無機フィラーに好適な素材(金属酸化物)を示し,これを用いるとカップリング剤の処理効率が高くなることを開示しているから,段落【0015】の上記記載は,熱伝導性無機フィラーの全量にカップリング処理することを前提としたものであると理解することができる。」(48頁13行~18行)と述べる。 しかし,段落【0013】の「【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態を説明する。本発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物は,シリコーンゴムに,シランカップリング剤にて表面処理された熱伝導性無機フィラーを分散させたものである。」との記載は,本件各特許発明に特有の課題解決手段(構成要件Aに対応する)を- 19 -簡潔に述べたものであり,熱伝導性シリ リング剤にて表面処理された熱伝導性無機フィラーを分散させたものである。」との記載は,本件各特許発明に特有の課題解決手段(構成要件Aに対応する)を- 19 -簡潔に述べたものであり,熱伝導性シリコーンゴム組成物にカップリング処理されていない熱伝導性無機フィラーが含まれていてはいけないことを述べたものではない。 また,段落【0013】に続く段落【0014】では,「シリコーンゴムとしては,二液型や一液型の液状タイプのシリコーンゲルやシリコーンゴム,熱加硫型のシリコーンゴム等の各種のタイプを使用することができる。」として,熱伝導性シリコーンゴム組成物の一成分であるシリコーンゴムについて説明している。さらに,段落【0015】に続く段落【0016】では,シランカップリング剤について説明している。このような記載順序,すなわち,段落【0013】は本件各特許発明の本質的な構成(課題解決手段)を記載し,段落【0014】は熱伝導性シリコーンゴム組成物の一成分であるシリコーンゴムについて,段落【0016】は熱伝導性シリコーンゴム組成物の別の成分であるシランカップリング剤について,それぞれ記載していることからすると,段落【0014】と段落【0016】の間に記載された段落【0015】にいう,「熱伝導性無機フィラー」も,熱伝導性シリコーンゴム組成物の一成分である熱伝導性無機フィラーそのものを意味するものと解するのが自然である。 したがって,段落【0015】の記載が段落【0013】の記載を受けたものであるとしても,そのことは決して,熱伝導性無機フィラーが全量カップリング剤で処理されたものであると解する根拠にはならない。 なお,原判決は,段落【0015】に,熱伝導性無機フィラーとして「金属酸化物を用いると,カップリング剤の処理効率が高くなる」との記載がある リング剤で処理されたものであると解する根拠にはならない。 なお,原判決は,段落【0015】に,熱伝導性無機フィラーとして「金属酸化物を用いると,カップリング剤の処理効率が高くなる」との記載があることをもって全量処理の根拠としている(48- 20 -頁下11行~下9行)が,理解しがたい。「処理効率の向上」とは,金属酸化物からなる熱伝導性無機フィラーはカップリング剤との反応性が良好であることを意味するにすぎず,全量処理の有無とは無関係である。 (b)原判決は,「そして,同じ段落【0015】の中で,『ここで熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラー1の配合割合は,熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%とするものであり』と記載されているから,ここで示された配合割合は,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの上記組成物に対する配合割合を示すものと解するのが自然である。」(48頁18行~23行)と述べる。 しかし,原判決自身,他の部分(59頁16行~21行,60頁2行~7行))では,段落【0015】における「40vol%~80vol%」という記載は,熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラーそのものの適正な含有量を熱伝導性や高硬度化の観点から議論しているものであり,カップリング処理の有無,しかも全量処理の有無とは無関係である。 (c)原判決は,「…かかる効果はいずれも熱伝導性無機フィラーをカップリング処理することによる相溶性の向上によってもたらされるものと解される。そうすると,かかる記載に接した当業者は,未処理の熱伝導性無機フィラーを混合使用することについて直ちには想到せず(本件証拠上,想到し得たことを窺わせる公知技術も認められない。),むしろ,未処理の熱伝導性無機フィラーの表面は疎 た当業者は,未処理の熱伝導性無機フィラーを混合使用することについて直ちには想到せず(本件証拠上,想到し得たことを窺わせる公知技術も認められない。),むしろ,未処理の熱伝導性無機フィラーの表面は疎水性の長鎖のアルキル基で覆われていないのであるから,シリコーンゴムと熱伝導性無機フィラーとの相溶性を十分に向上させることができず,上記発明の効果が低減すると考えるのが自然である。よ- 21 -って,本件各特許発明は熱伝導性無機フィラーの全量をカップリング処理した上,シリコーンゴムに充填するものと解するのが通常と考えられる。」(49頁16行~下1行)と述べ,「…実施例においても,熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理してシリコーンゴムに充填することが示されており,全量未処理のものと比較することにより,その効果を確認しているのであり,カップリング処理したものと未処理のものを混合使用した場合にも同じ効果が得られることは何ら開示されていない。よって,当業者としては,本件各特許発明はシリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理するものと理解すると考えられる」(50頁12行~19行)と述べた後,まとめとして,「このように,本件明細書における発明の効果及び実施例に関する各記載は,一貫してシリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理することを前提としており,ここに未処理の熱伝導性フィラーを充填することは,何らの開示も示唆もされていないのであるから,本件各特許発明はあくまでシリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理するものと解するほかない。 そうすると,構成要件Bの『熱伝導性無機フィラー』も,カップリング処理した熱伝導性無機フィラーと解するのが相当である。」(50頁20行~51頁 ィラー全量をカップリング処理するものと解するほかない。 そうすると,構成要件Bの『熱伝導性無機フィラー』も,カップリング処理した熱伝導性無機フィラーと解するのが相当である。」(50頁20行~51頁1行)と結論付ける。 しかし,まず,「本件各特許発明は熱伝導性無機フィラーの全量をカップリング処理した上,シリコーンゴムに充填するものと解するのが通常と考えられる。」との判断は明らかに誤りである。本件明細書(甲2,3)の段落【0019】,【0022】,【0023】にフィラーをカップリング処理する方法として明記されているドライコンセントレート法やインテグラルブレンド法は,シリコー- 22 -ンゴムへの充填後にカップリング処理されるものであって,「カップリング処理した上,シリコーンゴムに充填する方法」とは異なる方法であるからである。ドライコンセントレート法は,カップリング剤を大量に粉体(フィラー)に吸着させておいて,シリコーンゴム原料と未処理フィラーに混合して用いる方法であって(甲50[フィラー研究会編「機能性フィラーの最新技術」1990年(平成2年)1月26日株式会社シーエムシー発行264頁~274頁],甲51[永江利康著「粉体のシランカップリング剤による表面処理」「顔料」26巻2号9頁~15頁1982年(昭和57年)2月発行]),乙15(一審被告訴訟代理人作成に係る平成19年5月18日付け技術説明書)図7に記載のGR-b等の製造方法と同じように,未処理フィラーをあえて使用する方法なのである。また,インテグラルブレンド法は,シリコーンゴム原料と未処理のフィラーとを混合する際にカップリング剤を直接添加するもの(上記甲50,51)であり,この方法も熱伝導性無機フィラーの全量をカップリング処理した上,シリコーンゴムに充填するものとは全く別の 処理のフィラーとを混合する際にカップリング剤を直接添加するもの(上記甲50,51)であり,この方法も熱伝導性無機フィラーの全量をカップリング処理した上,シリコーンゴムに充填するものとは全く別の方法である。 次に,原判決のように,熱伝導性無機フィラーをカップリング処理することによる相溶性の向上によって本件各特許発明の効果が奏されることを根拠として,熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラーが全量処理されていることが必須であるというのは,論理の飛躍というほかない。本件各特許発明の効果をもたらす相溶性の向上にとって本質的なことは,「本件カップリング剤という特有のシランカップリング剤で表面処理をした熱伝導性無機フィラーをシリコーンゴムに分散させること」であって,シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラーのうち,全てが(換言すれば,- 23 -全てのフィラー粒子が),本件カップリング剤で処理されていること」ではないからである。この点につき,原判決は,「むしろ,未処理の熱伝導性無機フィラーの表面は疎水性の長鎖のアルキル基で覆われていないのであるから,シリコーンゴムと熱伝導性無機フィラーとの相溶性を十分に向上させることができず,上記発明の効果が低減すると考えるのが自然である。」(49頁下7行~下3行)というが,「発明の効果が低減されるかどうか」ということと「発明の効果が発現されるかどうか」ということは同義ではない。たとえ未処理フィラーが含まれることで,当該フィラーについては相溶性の向上が図られず,そのことにより発明の効果が低減されることがあり得たとしても,フィラーの系とシリコーンゴムの系との関係を全体的に捉えたときに相溶性の向上が図られ,本件各特許発明の効果が依然として発現されている限り,そのような構成は本件各特許発明が想 とがあり得たとしても,フィラーの系とシリコーンゴムの系との関係を全体的に捉えたときに相溶性の向上が図られ,本件各特許発明の効果が依然として発現されている限り,そのような構成は本件各特許発明が想定する実施態様の一つと解するのが合理的である。 (d)本件明細書(甲2,3)の段落【0018】の記載は,次のとおりである。 「ここで熱伝導性無機フィラー1に対する上記のシランカップリング剤の処理量は,〔熱伝導性無機フィラーの添加量(g)〕×〔熱伝導性無機フィラーの比表面積(m/g)〕÷〔熱伝導性無 機フィラーの最小被覆面積(m/g)〕の式で示される熱伝導性 無機フィラー1の表面にシランカップリング剤の単分子層を形成するのに必要なシランカップリング剤量の,0.1~15倍とするのが好ましいものである。ここで0.1倍に満たないと,シランカップリング剤による処理効果が少なくなる。また15倍を超えるとシランカップリング剤のコストが大きくなり,また熱伝導性シリコーンゴムの加熱処理を行う際にメタノールの発生に起因すると思われ- 24 -るボイドが発生する恐れがある。」この記載の「熱伝導性無機フィラー1の表面にシランカップリング剤の単分子層を形成するのに必要なシランカップリング剤量」は,あるカップリング剤の単分子層で,組成物に含まれるフィラーの全表面積を覆うことを試みた場合に,どれだけの量のカップリング剤が必要になるかを示すものといえるから,上記記載は,本件各特許発明の効果を得るための本件シランカップリング剤による処理の程度について,組成物に含まれるフィラーの全表面積の0.1倍(10%)以上がカップリング剤の単分子層で覆われるようにすることが好ましいことを示しているものである。 このように,段落【0018】の記載を当業者が読めば,本件各特許発明 ラーの全表面積の0.1倍(10%)以上がカップリング剤の単分子層で覆われるようにすることが好ましいことを示しているものである。 このように,段落【0018】の記載を当業者が読めば,本件各特許発明の効果の発現において重要な要素は,シリコーンゴム組成物に含まれるフィラーの重量や体積とカップリング処理との関係,すなわち,どの程度の重量や体積のフィラーがカップリング処理されているかではなく,組成物に含まれるフィラー全体の表面積とカップリング処理との関係,すなわち,組成物中のフィラーの全表面積のうちどの程度の範囲がカップリング処理されているかという点にあることが容易に理解できる。 段落【0018】に基づく上記の理解は,シリコーン樹脂とフィラーとの界面における相溶性の向上(シリコーン樹脂とフィラーとがよく混じり合うこと)が本件各特許発明の効果発現の重要なファクターであることを述べる本件明細書(甲2,3)の記載(段落【0028】,【0029】,【0055】等)とも整合的である。 以上のとおり,段落【0018】の記載は,本件各特許発明において,熱伝導性無機フィラーの全量処理が必須でないことを示している。 - 25 -これに対し,原判決は,「原告は,段落【0018】の記載から,シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラーの全表面積の0.1倍,つまり10%の表面が本件カップリング剤で覆われていれば,本件各特許発明の効果を奏するのに十分であるとも主張する。しかし,同段落の記載は,カップリング処理に使用するカップリング剤の量比を示したものであって,熱伝導性無機フィラーの全表面積の0.1倍の量のカップリング剤を使用し,その全量が熱伝導性無機フィラーの表面に結合した場合には,全ての熱伝導性無機フィラーの表面の平均10%がカップリング剤で覆われることにな フィラーの全表面積の0.1倍の量のカップリング剤を使用し,その全量が熱伝導性無機フィラーの表面に結合した場合には,全ての熱伝導性無機フィラーの表面の平均10%がカップリング剤で覆われることになるのであり,その結果,あくまで全量がカップリング処理された熱伝導性無機フィラー(表面の一部が処理されたもの)になるのであって,カップリング処理が全くされていない熱伝導性無機フィラーを混合使用することが示されているとはいえない。」(52頁18行~53頁3行)と述べて,異論を唱えている。しかし,段落【0018】の記載が,個々のフィラー粒子レベルではなく,フィラーの系のレベルでの表面状態(どの程度,カップリング剤で覆われているかどうかということ)を議論するものであることは上述したとおりであり,同段落の「0.1倍から15倍」との記載に従い,フィラーの全表面積の一部の範囲(例えば,90%)を覆う量のカップリング剤を使用する場合,これを個々のフィラー粒子レベルで見たときには,全てのフィラー粒子のそれぞれについて表面の90%部分がカップリング剤で覆われているというケース(処理フィラーのみのケース)もあれば,ある粒子は表面の100%がカップリング剤で覆われ,別の粒子は50%のみが覆われ,さらに別の粒子では全く覆われていないというケース(処理フィラーと未処理フィラーが混在するケース)もあることは,当業者であれば容易に理解で- 26 -きる。少なくとも,後者のケースが段落【0018】の教示に反するものでないことは明らかである。したがって,当業者の理解によれば,段落【0018】は,処理フィラーと未処理フィラーとが混在するケースを実質的に許容しているとみるべきであり,同段落にはカップリング処理が全くされていない熱伝導性無機フィラーを混合使用することが示され 落【0018】は,処理フィラーと未処理フィラーとが混在するケースを実質的に許容しているとみるべきであり,同段落にはカップリング処理が全くされていない熱伝導性無機フィラーを混合使用することが示されているとはいえないとの原判決の上記理解は誤りである。 なお,原判決は,相溶性に関して,「この点に関連して,原告は相溶性との関係で重要なのはカップリング処理された熱伝導性無機フィラー表面積であり,体積分率ではない旨主張するが,熱伝導性無機フィラー1個当たりの大きさが同じであれば,その表面積と体積が相関関係を有するのは自明であるから,この点をもって構成要件Bの『熱伝導性無機フィラー』全量がカップリング処理されることを要しないとは到底いえないものというほかない。」(53頁3行~9行)とも述べるが,この指摘は意味不明である。そもそも,本件各特許発明においては,無機フィラーの一つ一つの大きさが規定されているものではないし,全ての無機フィラーが同じ大きさであることも何ら要求されていないから,「熱伝導性無機フィラー1個当たりの大きさが同じであれば」という仮定に基づき議論することはできない。相溶性が良好であるか否かは,組成物中のフィラーの系全体の表面がシリコーン樹脂とどのような関係にあるかによって左右される。したがって,相溶性の向上には,「カップリング処理されたフィラーの体積がどれだけであるか」ではなく,「シリコーンゴム組成物に含まれるフィラーの全表面積のうちのどれだけがカップリング剤で表面処理されているか」が重要な意味を有するのであり,原判決のように,カップリング処理されたフィラーの体積- 27 -比率に注目して相溶性を議論することはナンセンスである。加えて,相溶性は,個々のフィラー粒子とシリコーンゴムとの相互作用の問題ではなく,フィラーの系全体 リング処理されたフィラーの体積- 27 -比率に注目して相溶性を議論することはナンセンスである。加えて,相溶性は,個々のフィラー粒子とシリコーンゴムとの相互作用の問題ではなく,フィラーの系全体とシリコーンゴムの系全体との相互作用の問題であるから,たとえ原判決のように表面積と体積が相関関係を有していると考えたとしても,そのことから,フィラーの系を構成する全てのフィラー粒子の表面の全部又は一部がカップリング剤で覆われていなければならないとの結論が導かれるものでもない。 (e)原判決は,本件明細書(甲2,3)の段落【0055】の「80vol%以下」の技術的意味について,「しかし,上記記載は,『たとえ熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理しても,80vol%を超えてこれをシリコーンゴムに充填すると,熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物がさらに堅く脆くなる恐れがあって好ましくない』というように解することもできるのであり…」(51頁13行~17行)と述べる。 しかし,このように解するのであれば,カップリング処理していないフィラーをさらに混合することは禁止されなければならないはずである。しかし,原判決は,「なお,本件明細書ではカップリング処理された熱伝導性無機フィラーと未処理のものとを混合使用することについて許容も禁止もされていないから,未処理の熱伝導性無機フィラーを加えたからといって,直ちに本件各特許発明の技術的範囲に含まれなくなるという訳ではなく,あくまで,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率が構成要件Bの範囲内にあるか否かによって判断することになる。」(61頁5行~10行)と述べているのであり,論理的に一貫していない。 (f)原判決は,「むしろ,前記ウのとおり,未処理の熱伝導性無機- 28 -フィラーは るか否かによって判断することになる。」(61頁5行~10行)と述べているのであり,論理的に一貫していない。 (f)原判決は,「むしろ,前記ウのとおり,未処理の熱伝導性無機- 28 -フィラーは,その表面が疎水性の長鎖アルキル基に全く覆われていないのであるから,これを加えた場合に本件各特許発明と同様の効果が得られるとは容易に想到できないと考えられる。」(52頁7行~10行)と述べる。 しかし,上記(d)で述べたとおり,相溶性は,シリコーンゴムの系と熱伝導性無機フィラーの系との相互作用の問題であり,個々のフィラー粒子のレベルの問題ではない。熱伝導性無機フィラーの系の中に表面が疎水性の長鎖アルキル基に全く覆われていないフィラー粒子が存在していたとしても,系全体として全体の表面のうち所定の範囲がカップリング剤で覆われていれば相溶性が良好になることは,段落【0018】の記載から容易に理解できるのであるから,原判決の上記指摘は当たらない。 (g)原判決は,「この点,原告は,自ら実験した結果(甲6)を基に…しかし,特許請求の範囲の解釈(均等侵害の成否は別論)において,明細書の記載のほか,出願経過及び公知技術を参しゃくすることを超えて,当業者にとって自明でない実験結果を考慮することはできないというべきであるから,同実験結果の信用性にかかわらず,これを根拠とすることはできない。」(52頁10行~17行)と述べる。 しかし,一審原告としては,当該実験結果そのものから構成要件Bの解釈を導こうとしたのではなく,一審原告が主張する解釈が,明細書に記載された発明の作用効果との関係においても矛盾しないことを確認的に述べたものであり,上記の判示は主張との関係では正しくない。 c出願経過原判決は,「…構成要件Bは,本件拒絶理由通知を受けた本件補正- 明の作用効果との関係においても矛盾しないことを確認的に述べたものであり,上記の判示は主張との関係では正しくない。 c出願経過原判決は,「…構成要件Bは,本件拒絶理由通知を受けた本件補正- 29 -によって,後から加えられたものであるところ,本件拒絶理由通知が明らかにするよう求めている『各成分の配合量』とは,当初明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載にあった『シリコーンゴム』と『カップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー』の各配合量を指すものと解するのが自然であるし,このことは,本件拒絶理由通知において,『全ての配合量について同等の効果を奏するものとは認められない』と指摘されていることからも窺える。そうすると,かかる拒絶理由通知に対する応答としてなされた本件補正によって加えられた構成要件Bは,『熱伝導性シリコーンゴム組成物全量』に対して,『カップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー』の配合量を定めたものと解するのが自然であり,このことは本件意見書において『「熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%」である点で限定されているので,請求項1に係る発明は明確になった。』と述べられていることとも符合する。」(56頁9行~下3行)と述べた上で,結論として,「以上からすると,本件補正における原告の主観的意図はともかく,少なくとも構成要件Bを加えた本件補正を外形的に見れば,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率を限定したものと解するのが相当であり,自らかかる補正をしておきながら,後になってこれと異なる主張をすることは,本件補正の外形を信頼した第三者の法的安定性を害するものであり,禁反言の法理に抵触し許されないというべきである。」(57頁下9行~下3行)と しておきながら,後になってこれと異なる主張をすることは,本件補正の外形を信頼した第三者の法的安定性を害するものであり,禁反言の法理に抵触し許されないというべきである。」(57頁下9行~下3行)と判示する。 しかし,以下に述べるとおり,この判断は誤りである。 (a)出願人(一審原告)が,本件補正において,「本件カップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」の配合量を規定しようと意図したのであれば,「シリコーンゴムに,下記一般式- 30 -(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを40vol%~80vol%分散させて成ることを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム組成物。」と記載すれば必要にして十分であったはずであり,敢えて,本件補正のように,「シリコーンゴムに,下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成り,熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%であることを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム組成物。」などと記載する必要はなかった。 一審原告は,本件補正に際して,本件各特許発明の本質的特徴が,当初明細書の特許請求の範囲の請求項1と同様,「シリコーンゴムに特定のシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させる」ことにあるとの認識を持っており,この認識に立った上で,各成分の配合量(組成比)の記載がない旨の拒絶理由通知の指摘に答えて,熱伝導性シリコーンゴム組成物の基本的な成分である無機フィラーの配合量を規定することを意図して,本件補正を行った。だからこそ,その補正内容は,「シリコーンゴムに,下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分 ィラーの配合量を規定することを意図して,本件補正を行った。だからこそ,その補正内容は,「シリコーンゴムに,下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成り,」というように,発明の本質を規定する構成要件を従前どおり維持した上で,「熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%」という構成要件を新たに追加する内容となったものである。 したがって,この追加された構成要件が,「本件カップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」の配合量を規定したものでないことは明らかである。 - 31 -(b)また,このことは,「40vol%~80vol%」という数値範囲の根拠となった当初明細書(公開特許公報,乙1)の記載からみても明らかである。すなわち,当初明細書において,「40vol%~80vol%」を記載した箇所は,段落【0012】だけであり,「ここで熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラー1の配合割合は,熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%とするものが好ましいものであり,40vol%に満たないと高い熱伝導率を得ることが困難であり,80vol%を超えると熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物がさらに硬く脆くなる恐れがあって好ましくない。」と記載されていたが,ここで「40vol%~80vol%」という数値範囲が指すものは,熱伝導性無機フィラー自体の配合量であり,本件カップリング剤で処理済みの熱伝導性無機フィラーの量(本件カップリング剤込みの量)でないことは明らかである。したがって,この記載を根拠とする本件補正での「40vol%~80vol%」という数値範囲の追加が,熱伝導性無機フィラー自体の配合量を の量(本件カップリング剤込みの量)でないことは明らかである。したがって,この記載を根拠とする本件補正での「40vol%~80vol%」という数値範囲の追加が,熱伝導性無機フィラー自体の配合量を規定したものであることは明らかである。 (c)さらに,平成14年2月4日付の意見書(乙4)においても,一審原告は,「40vol%~80vol%」とは「本件カップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」の配合量(本件カップリング剤込みの量)を定めたものであるとは述べていない。 上記意見書(乙4)中の「熱伝導性無機フィラーの表面が疎水性の長鎖のアルキル基に覆われてシリコーンゴムとの相溶性が向上し,」との記載(1頁下3行~下1行)によれば,「相溶性が向上し」という効果は,「長鎖アルキル基を有する本件カップリング剤を採用したこと」(「40vol%~80vol%」という数値範- 32 -囲とは無関係に)によって得られる効果であることが表明されたと解するのが,客観的かつ素直な解釈である。しかも,上記意見書(乙4)においては,「40vol%~80vol%」との数値範囲とその効果に関して,「また熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%以上であることで高い熱伝導率を得ると共に,80vol%以下であることから熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物が硬く脆くなることを防止することができる,という効果を奏したものである。」(2頁12行~16行)との記載がある。この記載によれば,「40vol%~80vol%」との数値範囲が設定された目的が,熱伝導性無機フィラー自体の配合量を規定することにあったのは明らかである。 (d)したがって,本件特許の出願経過から包袋禁反言が成立することはなく,むしろ構成要件Bについての一審原告 された目的が,熱伝導性無機フィラー自体の配合量を規定することにあったのは明らかである。 (d)したがって,本件特許の出願経過から包袋禁反言が成立することはなく,むしろ構成要件Bについての一審原告主張の解釈,すなわち,「40vol%~80vol%」は熱伝導無機フィラー自体の配合量を定めたものであるとの解釈が正当であることを裏付けているというべきである。 d以上のとおり,特許請求の範囲の記載,「発明の詳細な説明」の記載,出願経過のいずれも,「熱伝導性無機フィラー」を「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」と限定解釈する根拠にはなりえない。 (2)被告製品のうちGR-b,GR-d,GR-i,GR-k,GR-l及びGR-m(GR-b等)の熱伝導性無機フィラーについても全量がカップリング処理されている(予備的主張1)-争点1に関しア被告製品のうちGR-b等の構成について,一審被告は,当該製品は,原判決別紙「被告製品の組成」,「カップリング剤処理フィラー(vol%)」,「フィラーのみ」欄記載の各数値の本件カップリング剤で処理さ- 33 -れたフィラー(以下「処理フィラー」という。)及び上記「被告製品の組成」,「未処理フィラー(vol%)」欄記載の各数値の本件カップリング剤で処理されていないフィラー(以下「未処理フィラー」という。)を含むと主張し,原判決はこれを認めた。 しかし,上記「フィラーのみ」欄記載の各数値は,GR-b等の製造方法(乙15の図7に記載のもの。以下「本件製法」という。)の工程において投入された処理フィラーの量を示すものにすぎず,製造完了後のGR-b等におけるカップリング処理されたフィラーの量を示すものではない。現実には,本件製法においては,本件明細書にカップリング処理の方法として開示されたドライコンセントレー にすぎず,製造完了後のGR-b等におけるカップリング処理されたフィラーの量を示すものではない。現実には,本件製法においては,本件明細書にカップリング処理の方法として開示されたドライコンセントレート法やインテグラルブレンド法と同様のメカニズムによって,処理フィラーに吸着した本件カップリング剤が脱離し,これが未処理フィラーとして投入されたものに移行・吸着する結果,当該未処理フィラーを含むフィラーの全量がカップリング処理されるのである(以下,この事実を「本件事実」ということがある。)。したがって,仮に,構成要件Bを原判決のとおりに解釈したとしても,GR-b等は構成要件Bを充足する。 以下,本件事実について主張する。 イ本件事実の立証構造本件事実は,間接事実による推認により立証される。間接事実とそれによる本件事実の推認プロセスは次のとおりである。 (ア)GR-b等の分析結果によると,同製品の中には未反応の本件カップリング剤が多量に存在する。このカップリング剤は,もともと処理フィラーに吸着していたものに由来するものであり,本件製法におけるA液スラリー,B液スラリーそれぞれの「計量,混合工程」又は「A液+B液混合スラリー作成工程」での処理フィラー,未処理フィラー及びシリコーンゴム原料の攪拌・混合において,多量の本件カップリング剤が- 34 -処理フィラーから脱離することが明らかである。 (イ)上記(ア)の事実によると,上記「計量,混合工程」又は「A液+B液混合スラリー作成工程」においては,同一の容器内に未処理フィラー,本件カップリング剤(処理フィラーから脱離したもの),シリコーンゴム原料が同時に投入・混合されているものと評価できるところ,これはカップリング処理の方法として本件明細書に記載されたドライコンセントレート法やインテグラルブレ ィラーから脱離したもの),シリコーンゴム原料が同時に投入・混合されているものと評価できるところ,これはカップリング処理の方法として本件明細書に記載されたドライコンセントレート法やインテグラルブレンド法と実質的に同じである。 「シリコーンゴム原料,未処理フィラー及びカップリング剤による混合スラリーを作成すれば必然的にカップリング剤が未処理フィラーの表面に吸着され,これが本件各特許発明にいう『カップリング処理』に該当すること」は,一審被告自身が原審,本件特許の無効審判手続及び審決取消訴訟において自認するところであるから,本件製法によって製造されるGR-b等においてフィラーの全量がカップリング処理されることは,一審被告も認めざるを得ないはずである。 (ウ)処理フィラーから未処理フィラーに対して容易にカップリング剤の脱離・移行が生じることは一般的な現象であり,これは一審原告が実施した実験によっても実証されている。 処理フィラーから未処理フィラーに対して容易にカップリング剤の脱離・移行が生じるという一般的現象に加え,特に,GR-b等においては,フィラーの充填率はいずれも50vol%を超え,かなり密な充填状態(フィラーがぎっしり詰まった状態)であり,本件製法の攪拌・混合工程において処理フィラーと未処理フィラーが万遍なく衝突し得る状態にある。 本件製法中のA液スラリー,B液スラリーそれぞれの「計量,混合工程」工程においては,混合,攪拌を2~5時間行う(乙15・9頁)。 上記(ア)の分析結果によれば,検出されたカップリング剤の分子の数- 35 -は,本件製法における投入時の未処理フィラーの粒子数とは比較にならないほど圧倒的に多く,このことは,本件製法中のA液スラリー,B液スラリーそれぞれの「計量,混合工程」又は「A液+B液混合スラリー作成工程」 製法における投入時の未処理フィラーの粒子数とは比較にならないほど圧倒的に多く,このことは,本件製法中のA液スラリー,B液スラリーそれぞれの「計量,混合工程」又は「A液+B液混合スラリー作成工程」において,処理フィラーから脱離した未反応のカップリング剤が,未処理フィラーの全部をカップリング処理するのに十分すぎるほど存在していたことを示している。 さらに,被告製品が本件各特許発明の効果を享受する点に関しては,甲11~13(一審原告従業員A作成に係る平成19年7月2日付け,同月6日付け及び同月2日付け各実験報告書)の実験において立証済みである。すなわち,投入前のフィラーの半分の体積分率のフィラーに対してのみシランカップリング処理を行い,乙15に記載された一審被告の処理法に準じてA剤,B剤の混合スラリーを形成した場合であっても,そのスラリー粘度は,投入前のフィラー全量に対してシランカップリング処理した場合とほぼ同程度となり,また,当該スラリーを用いて作成したゴムシートの各物性も,投入前のフィラー全量に対してシランカップリング処理をしたゴムシートの物性とほぼ同程度となることが判明している。本件各特許発明の効果というのは,これらの物性が,未処理フィラーのみを用いた場合に比して向上するということであるから,当該実験結果からは,投入前において未処理フィラーが体積分率で半分以上であっても本件各特許発明の効果を十分奏しうるということがいえる。 被告製品においては,未処理フィラーを大粒子としたことによって,フィラーに対する被覆表面積で見た場合には,92.2~98.4%の表面積に対してカップリング剤による処理がされている(甲76[一審原告作成に係る「技術説明プレゼンテーション」]5頁)。そして,シリコーン樹脂へのフィラー投入後の間接処理によって,わずか 8.4%の表面積に対してカップリング剤による処理がされている(甲76[一審原告作成に係る「技術説明プレゼンテーション」]5頁)。そして,シリコーン樹脂へのフィラー投入後の間接処理によって,わずか1.6~- 36 -7.8%の処理が実現できれば,全量処理が完了する。このように,被告製品は,カップリング処理をしないフィラーを大粒子とすることで,シリコーン樹脂投入前の時点であっても限りなく全量処理に近い状態が実現できている。 (エ)以上によれば,本件製法によって製造されるGR-b等において,未処理フィラーの全量がカップリング処理されることは明らかである。 ウGR-b等の中には多量の未反応カップリング剤が存在すること及びこのカップリング剤は本件製法において投入された処理フィラーから脱離したものであること(ア)一審原告が依頼した複数の第三者機関(株式会社ダイヤ分析センター(現在の名称:株式会社三菱化学アナリテック)及び株式会社松下電工解析センター(現在の名称:パナソニック電工解析センター株式会社)において,GR-b等に該当するサンプル(GR-k)をガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)で分析したところ,本件カップリング剤に該当する下記の図の(A)構造のカップリング剤が検出された(甲46~48)。 - 37 -(イ)上記分析で検出された本件カップリング剤に該当するカップリング剤は,n-ヘキシルトリエトキシシランであり,その検出量(ppm[μg/試料1g])は,株式会社ダイヤ分析センターの分析においては「35ppm」,株式会社松下電工解析センターの分析においては「58ppm」であった。 (ウ)この分析結果によれば,次のことがわかる。 a一般に未反応のカップリング剤の検出は極めて困難であり,上記サンプルから検出されたカップリン 析センターの分析においては「58ppm」であった。 (ウ)この分析結果によれば,次のことがわかる。 a一般に未反応のカップリング剤の検出は極めて困難であり,上記サンプルから検出されたカップリング剤の量である数十ppmというレベルは,熱伝導性シリコーンゴムの成形品に含有される未反応カップリング剤の分析値としては非常に高い値である。このような多量のカップリング剤が検出されたということは,カップリング剤が上記サンプル中に多量に存在していたことを裏付ける。そして,このカップリング剤は,本件製法において投入された処理フィラーに吸着していたものに由来するとしか考えられないし,カップリング剤は,一旦フィラーと化学反応した後においては脱離することがない。そうすると,- 38 -検出されたカップリング剤は,本件製法において投入された処理フィラーにもともと吸着しており,かつ,フィラーと化学反応していなかったものが脱離したものと考えられる。 bそして,上記サンプルを含むGR-b等の製造方法たる本件製法では,一審被告の主張によると,乙15の図7のとおりであり,その内容は,A液スラリー,B液スラリーそれぞれの「計量,混合工程」,「A液+B液混合スラリー作成工程」,「成形工程」及び「加熱硬化工程」からなるところ,上記カップリング剤は,これらの各工程の全部又は一部,特に,A液スラリー,B液スラリーそれぞれの「計量,混合工程」や「A液+B液混合スラリー作成工程」での処理フィラー,未処理フィラー及びシリコーンゴム原料の攪拌・混合において,処理フィラーから脱離が生じた可能性が極めて高いというべきである。 (エ)一審原告は,GR-kのほか,一審被告から入手したGR-m,GR-HFdについても,複数の第三者機関(株式会社日東分析センター及び株式会社松下電工解 た可能性が極めて高いというべきである。 (エ)一審原告は,GR-kのほか,一審被告から入手したGR-m,GR-HFdについても,複数の第三者機関(株式会社日東分析センター及び株式会社松下電工解析センター[現在の名称:パナソニック電工解析センター株式会社])による分析に供している(甲65)。そのデータを示せば次のとおりである。 <日東分析センターの分析結果(甲63)>検出物質検出量ppm(μg/試料1g)GR-mn-ヘキシルトリエトキシシラン0.66n-オクチルトリエトキシシラン GR-HFdn-ヘキシルトリエトキシシラン3.3n-オクチルトリエトキシシラン <松下電工解析センターの分析結果(甲64)>検出物質検出量ppm(μg/試料1g)- 39 -GR-mn-ヘキシルトリエトキシシラン n-オクチルトリエトキシシラン GR-HFdn-ヘキシルトリエトキシシラン n-オクチルトリエトキシシラン 以上のように,GR-m,GR-HFdのいずれからも,多量の本件カップリング剤(GR-mでは合計92.66ppm~398ppm,GR-HFdでは合計60.3ppm~170ppm)が検出されているのであり,製品中に多量の未反応の本件カップリング剤が含まれるのはGR-kに限られない(甲74,75の分析結果も同様である。)。 よって,GR-kについて述べたところは,他の品番のGR-b等にも当てはまるというべきである。 処理フィラーに存在する未反応カップリング剤の実際の量は,上記甲63,64の結果よりもかなり多いと予想できる。なぜなら,処理フィラーに存在する未反応カップリング剤の定量に当たっては,①処理フィラーの段階では存在していた未反応カップリング剤のうちの一部が,シート成型時あるいは測定時 かなり多いと予想できる。なぜなら,処理フィラーに存在する未反応カップリング剤の定量に当たっては,①処理フィラーの段階では存在していた未反応カップリング剤のうちの一部が,シート成型時あるいは測定時の熱によって反応するため,検出される分子の量が処理フィラーの段階よりも少なくなること,②未反応カップリング剤のうち一部は加熱脱着GC分析で検出できない二量体を形成するため,検出できる分子の量が実際よりも少なくなることを考慮する必要があるからである。 なお,一審被告は,上記の一審原告が依頼した分析において相当量のヘキシルトリエトキシシランとオクチルトリエトキシシランが検出されたのは,加熱脱着GC分析においては,まずリファレンス試料(ヘキシルトリエトキシシランとオクチルトリエトキシシランそのもの)の分析の後に目的試料の分析を行うのが常であるところ,リファレンス分析後における加熱脱着装置のトラップ部の洗浄が不足しており,目的試料の- 40 -分析の際にも当該リファレンス試料が検出されたためである旨主張する。しかし,甲63,75の実験手順につき当該分析を行った株式会社日東分析センターに問い合わせたところ,これらの実験は,①ブランク試験→②GR-m,GR-HFdの分析→③エタノールブランク試験→④ヘキシルトリエトキシシランとオクチルトリエトキシシランのリファレンス試験の順に行われたとの回答を得た(甲78,79)。①のブランク試験とは,装置内に測定対象物質が存在しないかどうか確認するために,何も試料を入れない状態で行う試験である。また,③のエタノールブランク試験とは,④のリファレンス試験においては検量線作成のために濃度の異なるヘキシルトリエトキシシランとオクチルトリエトキシシランをエタノール溶媒を用いて作成する必要があるところ,当該エタノール中に ク試験とは,④のリファレンス試験においては検量線作成のために濃度の異なるヘキシルトリエトキシシランとオクチルトリエトキシシランをエタノール溶媒を用いて作成する必要があるところ,当該エタノール中にも測定対象物質(ヘキシルトリエトキシシランとオクチルトリエトキシシラン)等が存在しないかどうか確認するための試験である。以上のとおり,上記分析においては,リファレンス試験をGR-m,GR-HFdの分析の前に行っていないのであるから,リファレンス分析で用いた残渣としてのヘキシルトリエトキシシランとオクチルトリエトキシシランがGR-m,GR-HFdの分析で測定されるはずなどない。上記甲63,75の実験結果が正しいことを確認するために,一審原告は,当該実験を行った株式会社日東分析センターに依頼して未反応カップリング剤の再測定を行った(甲80)。再測定においては,さらに慎重を期すべく,上記②の工程において,GR-HFdを先に測定し,次いでブランク試験を行い,その後GR-mを測定するという手順を採用した。その結果,GR-HFd,GR-mの双方から甲63,75と同様に相当量のヘキシルトリエトキシシランとオクチルトリエトキシシランが検出された。この実験結果により,GR-m及びGR-HFdに未反応のヘキシルトリエトキシシランとオクチルトリエトキシシ- 41 -ランが存在するとの当初の実験結果が何ら誤りではないことが明らかとなった。 また,一審被告は,GR-HFdにつきオクチルトリエトキシシランは使用していないと主張する。しかし,一審原告が実験に使用したGR-HFdのサンプルは一審原告社員が一審被告より直接入手したものであり(甲65),しかも,一審原告の甲63,75,80の実験においては,当該サンプル以外からオクチルトリエトキシシランが混入する余地はな Fdのサンプルは一審原告社員が一審被告より直接入手したものであり(甲65),しかも,一審原告の甲63,75,80の実験においては,当該サンプル以外からオクチルトリエトキシシランが混入する余地はないから,一審被告の上記主張及び実験に誤りがあるとしか考えられない。 (オ)一審被告が依頼した分析結果(乙61,62)によれば,GR-k及びGR-dに用いられた処理フィラーからは,未反応カップリング剤は検出されなかったとのことであるが,ここで採用された方法は,処理フィラーを試料とし,これを加熱脱着ガスクロマトグラフィー(以下「加熱脱着GC」という)分析にかけて未反応のシランカップリング剤を定量するというものである。 しかし,加熱脱着GC分析は,試料を高温(一審原告・一審被告の実験では250℃)で加熱することにより脱離した分子を捕捉(トラップ)して測定する定量分析であるから,分析時の加熱によって測定対象となる分子に新たな反応が生じ,未反応のシランカップリング剤の量が激減するようであっては正確な定量ができないことになる。一審被告の分析では,分析時の加熱によって新たな反応が促進された結果,未反応カップリング剤が検出されなかった可能性があると考え,これを立証するべく新たな実験を行った(甲77[一審原告従業員A作成に係る平成22年1月25日付け実験報告書])。 甲77の実験においては,n-ヘキシルトリエトキシシラン2%で処理したフィラーと,当該フィラーを用いて作成したシリコーンゲルシー- 42 -トを試料として用意し,加熱脱着GC分析によりn-ヘキシルトリエトキシシランの量を測定した(250℃,10分の条件)。その結果,処理フィラーを試料として用いて測定した場合には,被告製品のシートを試料とした場合に比べてn-ヘキシルトリエトキシシランの検出量がか トキシシランの量を測定した(250℃,10分の条件)。その結果,処理フィラーを試料として用いて測定した場合には,被告製品のシートを試料とした場合に比べてn-ヘキシルトリエトキシシランの検出量がかなり少なくなることが確認された。処理フィラーを試料として用いた場合に,シートを試料として用いた場合に比べて検出量が少なくなる理由としては,①未反応シランカップリング剤を測定対象とする本実験の場合,いずれの試料を用いた場合であっても,測定時の熱により,フィラーと未反応シランカップリング剤の反応が促進されるため,未反応シランカップリング剤の量が少なく測定されるが,特にフィラーを試料として分析を行った場合には,フィラーが直接加熱されるため,測定時の加熱の影響をより受けやすくなること,②フィラーと未反応カップリング剤の反応における第1段階の反応は加水分解反応であり,反応が生じるには水の存在が不可欠であるが,フィラー表面には水素結合された水の分子が何層にもわたって存在しているため,上記加熱による反応が促進されやすくなるのに対し,シートを試料として用いた場合には,シリコーンポリマーの存在によって,直接の加熱が妨げられたり,処理フィラーがシリコーンポリマーに囲まれる結果,フィラー界面に存在する水分子が処理フィラーそのものに比べて少なくなっていることが考えられる。いずれにしても,フィラーの処理に用いるシランカップリング剤以外の成分からn-ヘキシルトリエトキシシランが新たに生成する余地がないことからすると,シートを試料として分析したほうが,未反応カップリング剤の量はより実体に近い値となるといえる。 以上のことからすると,シートを試料として分析したほうが,処理フィラーに存在する未反応カップリング剤の量をより適切に定量することができるといえるから,乙61,6 量はより実体に近い値となるといえる。 以上のことからすると,シートを試料として分析したほうが,処理フィラーに存在する未反応カップリング剤の量をより適切に定量することができるといえるから,乙61,62に基づく一審被告の主張は失当で- 43 -ある。 なお,一審被告が依頼した乙79(2009年12月1日付け株式会社日東分析センターの分析結果報告書)の実験において,被告製品のシートからヘキシルトリエトキシシラン及びオクチルトリエトキシシランが実質的に検出されなかったのは,シート製造後の保管の仕方に問題があり反応が過度に進んでいるためであると解さざるを得ないが,さらなる可能性としては,分析前に何らかの意図的な熱処理を行い,反応を過度に進行させている,被告製品とは内容の異なるものを測定対象シートとして用いていることも十分考えられる。 (カ)一審被告は,甲46,47の未反応カップリング剤量の測定値(35ppm,58ppm)について,GR-kの仕込みカップリング剤量(2000ppm)に基づけば,仕込み量の1.8wt%,3wt%が未反応だったことになり,反応率にして98%,97%であるところ,直接処理法によるカップリング処理において,このような反応率はあり得るから,上記未反応カップリング剤の検出量はさほど多くないかのように主張する。しかし,反応率についての一審被告の上記理解は誤りである。すなわち,甲46,47で35ppm,58ppm検出されたものは,最も脱離しやすい(A)構造のカップリング剤のみであるから,これだけの量の(A)構造のカップリング剤が検出されたということは,当該試料中には,もっと多量のカップリング剤があったことが明らかである。 仮に,一審被告のいうように1.8~3wt%のカップリング剤が未反応のまま存在していたとしても,この量は されたということは,当該試料中には,もっと多量のカップリング剤があったことが明らかである。 仮に,一審被告のいうように1.8~3wt%のカップリング剤が未反応のまま存在していたとしても,この量は未処理フィラーをカップリング処理するのに十分な量である。 さらに,乙15(一審被告訴訟代理人作成に係る平成19年5月18日付け技術説明書)によると,被告製品においてカップリング処理され- 44 -ていないと一審被告が主張するのは大粒径のフィラーであり,中小粒径のフィラーがカップリング処理されていることは一審被告も認めている。しかるところ,大粒径のフィラーと中小粒径のフィラーの表面積の比率は,甲10(一審原告従業員B作成に係る平成19年7月10日付け報告書)によると,例えばGR-kの場合,大粒径が1.6%,中小粒径が98.4%である。カップリング剤の仕込み量全体(2000ppm)を仮にインテグラルブレンド法で添加した場合,大粒径のフィラー表面処理に用いられる量は,1.6%分(2000ppm×0.016=32ppm)であり,中小粒径のフィラーの表面処理に用いられる量は,98.4%分(2000ppm×0.984=1968ppm)である(甲69[一審原告従業員A作成に係る平成21年8月17日付け陳述書]3頁)。この大粒径のフィラーの表面処理に用いられる32ppmと比較すれば,被告製品から検出された未反応カップリング剤の量である1.8~3wt%(35~58ppm)は,被告製品における大粒径のフィラーをカップリング処理するのに十分な量であることが明らかである。 一審被告は,カップリング剤の反応率が70%や82%というのはあり得ないと主張する。しかし,この数値はフィラーがアルミナであり,カップリング剤が本件各特許発明で用いられるカップリング剤のような る。 一審被告は,カップリング剤の反応率が70%や82%というのはあり得ないと主張する。しかし,この数値はフィラーがアルミナであり,カップリング剤が本件各特許発明で用いられるカップリング剤のような長鎖炭化水素基を有するものである場合には,十分にあり得る数値である(甲69,2頁)。 エ本件製法は,ドライコンセントレート法やインテグラルブレンド法と実質的に同じであること(ア)本件製法は,上記のとおり,A液スラリー,B液スラリーそれぞれの「計量,混合工程」,「A液+B液混合スラリー作成工程」,「成形工程」及び「加熱硬化工程」からなるところ,特に,上記「計量,混合- 45 -工程」及び「A液+B液混合スラリー作成工程」においては,同一の容器内で未処理フィラー,本件カップリング剤(処理フィラーから容易に脱離しうる状態のもの及び既に脱離したもの)並びにシリコーンゴム原料が長時間にわたり攪拌・混合される。 (イ)他方,本件明細書(甲2,3)にカップリング処理の方法として記載されたインテグラルブレンド法は,カップリング剤をシリコーンゴム原料とフィラーとを混合する際に直接添加するものであり,また,ドライコンセントレート法は,カップリング剤を大量に粉体(フィラー)に吸着させておいて,シリコーンゴム原料と未処理フィラーに混合して用いる方法である(甲50,51)。 (ウ)そうすると,本件製法におけるA液スラリー,B液スラリーそれぞれの「計量,混合工程」及び「A液+B液混合スラリー作成工程」は,攪拌で容易に脱離するカップリング剤が未反応の状態で大量に吸着している状態において,処理フィラー(投入時)を,シリコーンゴム原料と未処理フィラーに混合するものであるから,ドライコンセントレート法そのものといえる。また,カップリング剤が処理フィラーから脱離した ている状態において,処理フィラー(投入時)を,シリコーンゴム原料と未処理フィラーに混合するものであるから,ドライコンセントレート法そのものといえる。また,カップリング剤が処理フィラーから脱離した後においては,当該カップリング剤がシリコーンゴム原料と未処理フィラーと混合される点において,インテグラルブレンド法と同視できる。 このように,本件製法は,ドライコンセントレート法やインテグラルブレンド法と実質的に同じものであるから,未処理フィラーとして投入されたものがカップリング処理されることは明らかである。 (エ)本件製法のA液スラリー,B液スラリーそれぞれの「計量,混合工程」及び「A液+B液混合スラリー作成工程」のように,シリコーンゴム原料,未処理フィラー及びカップリング剤が容易に脱離しうる態様で吸着した処理フィラーによる混合スラリーを作成し,カップリング剤が処理フィラーからシリコーンゴム原料中に脱離すれば必然的にカップリ- 46 -ング剤が未処理フィラーの表面に吸着され,これが本件各特許発明にいう「カップリング処理」に該当することは,一審被告自身が,次のとおり,原審,本件特許の無効審判手続及び審決取消訴訟において,実質的に自認するところである。 a「シリコーンゴム原料に,直接シランカップリング剤と熱伝導性フィラーを加えると,混合しているスラリーの状態で,熱伝導性フィラーの表面にシランカップリング剤が吸着されてしまい,本件発明のインテグラルブレンド法と同一の現象が起こるであろうことは,当業者であれば容易に理解できることである。」(原審における「第9準備書面(被告)」9頁16行~20行,13頁17行~21行)b「なお,原告は,架橋剤を添加して混合スラリーを作成する際に,架橋剤はフィラー表面に吸着されるから,シランカップリング剤とし る「第9準備書面(被告)」9頁16行~20行,13頁17行~21行)b「なお,原告は,架橋剤を添加して混合スラリーを作成する際に,架橋剤はフィラー表面に吸着されるから,シランカップリング剤として用いたのと同様の結果となると主張し,甲8(原告社員Cの平成19年7月23日付け実験報告書)を提出する…」(本件特許の無効審判の審決に対する審決取消訴訟[知財高裁平成19年(行ケ)第10373号]の判決[甲45]95頁18行~21行)c一審被告は,100℃/10分の硬化条件の下で,本件明細書(甲2,3)の段落【0032】記載の直接処理法とインテグラルブレンド法を比較してほとんど同一の組成物が得られたことを示す実験報告書(乙25,上記bの甲8)を提出している(なお,同号証では「直接処理法」を「前処理法」と称している)。 (オ)以上のとおり,本件製法は,ドライコンセントレート法やインテグラルブレンド法と実質的に同じであり,投入された未処理フィラーはその全量がカップリング処理されていることになる。 (カ)なお,インテグラルブレンド法は,カップリング処理の中では最も一般的でよく用いられている手法であり,確立された技術であること- 47 -は,本件明細書の記載からも明らかであり,インテグラルブレンド法によればボイドが発生してしまい製品にならないという一審被告の主張は,事実に反する。一審被告のいう「ボイドの発生」は,シランカップリング剤を非常に大量に添加した場合や加熱硬化方法いかん(例えば,揮発分が発泡しやすい加熱方法をとった場合)によって生じ得る現象にすぎず,インテグラルブレンド法によると常にボイドが発生して製品にならないとの主張は極端である。実際,上記乙25にはインテグラルブレンド法ではボイドが発生し製品にならないとの記載は一切なく,かえ にすぎず,インテグラルブレンド法によると常にボイドが発生して製品にならないとの主張は極端である。実際,上記乙25にはインテグラルブレンド法ではボイドが発生し製品にならないとの記載は一切なく,かえってインテグラルブレンド法により本件明細書(甲2,3)の段落【0032】記載の直接処理法(乙25記載の「前処理法」)と同一の組成物が得られたことが記載されている。また,ドライコンセントレート法でもインテグラルブレンド法と同様の理由によりシリコーンゴムにボイドが発生することはない。被告製品の製法(乙15,8頁図7)における「計量・混合工程」及び「A液+B液混合スラリー作成工程」はドライコンセントレート法そのものと評価できるが,このような工程を含む製法により製造された被告製品が,実際に製品として販売されているのであるから,ボイドの発生をいう一審被告の主張は,この点からみても事実に反する。 (キ)また,一審被告は,カップリング剤の脱離・移行がありえないことの理由として,カップリング剤が熱伝導性無機フィラーと化学結合(シロキサン結合)をすると主張する。確かに,化学結合をしたカップリング剤が容易に脱離しないことはそのとおりであるが,通常のカップリング処理では,フィラーと100%化学結合させることは不可能であり,化学結合しないカップリング剤は,未反応のまま物理吸着するにとどまるのである。 これに対し,一審被告は,「シランカップリング剤が簡単に外れるよ- 48 -うな『表面処理』はそもそも本件各特許発明の『表面処理』には含まれない。」と主張する。しかし,この主張は,以下のとおり失当である。 a一般に,無機フィラー表面でのシランカップリング剤の作用機構としては,化学結合(共有結合),水素結合,物理吸着,架橋構造からの鞘状物の形成,表面からの水の排除 の主張は,以下のとおり失当である。 a一般に,無機フィラー表面でのシランカップリング剤の作用機構としては,化学結合(共有結合),水素結合,物理吸着,架橋構造からの鞘状物の形成,表面からの水の排除などが考えられている。このことは,前記甲50・265頁,前記甲51・10頁右欄,甲66(フィラー研究会編「フィラー活用事典」平成6年5月31日株式会社大成社発行)265頁に記載されている上,一審被告も乙54として提出する伊藤邦雄編「シリコーンハンドブック」1990年8月31日日刊工業新聞社発行の59頁1行~4行(甲67)にも,「シラノールを生成することができない非水系においてもシランは効果を示すことにより,共有結合形成による機構以外の,アルコキシ基の基体表面への吸着,あるいは水素結合の形成による効果も考慮されなければならない。」と記載されている。したがって,カップリング処理とは化学結合を生じる場合に限られず物理吸着をも含む概念であることは,当業者の常識である。 b一審被告は,カップリング処理が化学結合を意味するとの主張の根拠として,本件明細書(甲2,3)の【化3】【図1】が化学結合を示していることを挙げる。しかし,これらは,熱伝導性無機フィラーの表面が本件カップリング剤の疎水性長鎖アルキル基で覆われる一態様を模式的に示したものであり,無機フィラーとカップリング剤が化学結合しなければならないことを示すものではない。本件各特許発明におけるカップリング処理(表面処理)の本質は,疎水性長鎖アルキル基を有する本件カップリング剤が無機フィラーの表面を覆うことで,親水性の無機フィラーの表面を疎水化することにより,シリコーンゴムとの相溶性を著しく向上させることにあるから,カップリング- 49 -剤による無機フィラーの表面処理の態様が化学結合に限定さ とで,親水性の無機フィラーの表面を疎水化することにより,シリコーンゴムとの相溶性を著しく向上させることにあるから,カップリング- 49 -剤による無機フィラーの表面処理の態様が化学結合に限定されなければならない理由はない。そして,カップリング処理(表面処理)においては必然的に未反応のカップリング剤(簡単に外れる表面処理剤)が残ることは技術常識であり,このことは,甲46,47において,被告製品から未反応のカップリング剤が検出されたことからも裏付けられる。 c物理吸着した本件シランカップリング剤が処理フィラーの表面のみに存在し,樹脂及び未処理フィラーに全く存在しない状態というのは,系として不均一であり,界面自由エネルギーの観点からして非常に不安定である。このため,まず,処理フィラーの界面から物理吸着した本件カップリング剤の脱離が生じる。そして,物理吸着した本件シランカップリング剤が脱離して樹脂中に存在するようになると,樹脂中の本件シランカップリング剤は優先的に未処理フィラーに物理吸着するようになる。このことは以下の原理により説明できる。すなわち,もともと無機フィラーの表面は親水性でありシリコーン樹脂の表面は疎水性であるから,両者の親和性は低く,無機フィラーの全面がシリコーン樹脂に覆われている状態では界面自由エネルギーは高い状態(つまり,不安定な状態)にある(このことは,本件各特許発明の目的が無機フィラーとシリコーン樹脂の相溶性改善にあることからも明らかである)。他方,本件シランカップリング剤は,無機フィラーの表面となじむ親水基とシリコーン樹脂となじむ疎水基を有しているから,本件シランカップリング剤の親水基が無機フィラーに吸着し,疎水基が樹脂側に向いているほうが,圧倒的に安定する(つまり界面自由エネルギーが低くなる)。したがっ ーン樹脂となじむ疎水基を有しているから,本件シランカップリング剤の親水基が無機フィラーに吸着し,疎水基が樹脂側に向いているほうが,圧倒的に安定する(つまり界面自由エネルギーが低くなる)。したがって,シリコーン樹脂中で,本件シランカップリング剤の物理吸着による表面処理が実現される。 d一審被告は,上記(エ)cのとおり,乙25において,100℃/1- 50 -0分の硬化条件によるインテグラルブレンド法により作製したシートと,直接処理法による処理フィラーを用いて作製したシートが,ほとんど同一といえることを立証している。他方,一審被告は,乙58(D教授の見解書)5頁18行~22行における「被告の加熱硬化工程は連続法であるから(乙15の図7)シリコーンゴムの硬化温度(例えば甲2【0033】では120℃)で数分間に過ぎない。このような条件下で,未処理フィラーに吸着したシランカップリング剤が未処理フィラーとの間で十分な化学結合を生じるとは考えられない。」というD教授の見解を援用している。しかし,「120℃/数分間」の硬化条件で十分な化学結合を生じるとは考えられないのであれば,乙25の「100℃/10分」の硬化条件の場合にも,十分な化学結合を生じるとは考えられないはずであり,そうすると,乙25では,一審被告の主張によれば十分な化学結合が生じない条件,すなわち物理吸着にとどまる表面処理をした場合でも,本件各特許発明の作用効果を奏するとの結果が得られていることになる。したがって,一審被告自身が提出する乙25の結果に照らしても,本件各特許発明にいう「表面処理」(カップリング処理)は,必ずしも十分な化学結合を生じないものも含む,つまり,物理吸着にとどまるものも含むと解するのが合理的である。 e一審原告が行った実験結果(甲83[一審原告従業員A作成 処理」(カップリング処理)は,必ずしも十分な化学結合を生じないものも含む,つまり,物理吸着にとどまるものも含むと解するのが合理的である。 e一審原告が行った実験結果(甲83[一審原告従業員A作成に係る平成22年1月18日付け実験報告書])によれば,フィラーに対して直接法によりシランカップリング剤を付与し,さらに加熱したフィラーを用いた場合であっても,インテグラルブレンドによりシランカップリング剤を付与した場合であっても,未処理のスラリーに比して同程度の粘度の低下(すなわち相溶性の向上)が確認されている。すなわち,少なくとも一部のカップリング剤については物理吸着が存在- 51 -していると思われるインテグラルブレンドによる表面処理であっても,その効果は,直接処理のものとほとんど変わらない。 fしたがって,化学結合せず物理吸着にとどまる「表面処理」はそもそも本件各特許発明の「表面処理」には含まれないという一審被告の主張は失当である。 g一審原告は,本件特許の出願経過や無効審判及びその審決取消訴訟において,「表面処理には物理吸着は含まれない」などと主張したことは一度もない。しかも,無効審判及びその審決取消訴訟において,本件特許の有効性が認められたのは,一審被告が証拠として提出したいずれの文献にも本件各特許発明に係るシランカップリング剤の開示がなかったからであり,有効性の判断において,表面処理の定義などは一切問題とされていない。したがって,一審原告が,本件各特許発明における「表面処理には物理吸着」が含まれると主張することが,禁反言又は信義則違反に当たるとする理由はない。 オ処理フィラーから未処理フィラー全部へのカップリング剤の脱離・移行の実証(ア)処理フィラーから未処理フィラーに対して容易にカップリング剤の脱離・移行が生じる 則違反に当たるとする理由はない。 オ処理フィラーから未処理フィラー全部へのカップリング剤の脱離・移行の実証(ア)処理フィラーから未処理フィラーに対して容易にカップリング剤の脱離・移行が生じることは,ドライコンセントレート法におけるカップリング処理のメカニズムからも明らかであるところ,この点は,一審原告が実施した実験(甲49[一審原告従業員A作成に係る平成21年5月30日付け実験報告書])によっても実証される。すなわち,甲49の実験において,一審原告は,カップリング処理のみ又は同処理に加えて熱処理を行った各種の処理フィラー(いずれも水に浮く性質を有する)と未処理フィラー(水に沈む性質を有する)とを50:50(処理フィラー100g,未処理フィラー100g)の比率で混合・攪拌することにより,未処理フィラーの上記性質がどのように変わるか(又は変- 52 -わらないか)を検証した。その結果,上記いずれの処理(カップリング処理のみのもの及び同処理に熱処理を追加したもの)を施した処理フィラーと混合した場合であっても,上記未処理フィラーは水に浮くようになることが確認された。その際の混合時間については,5秒,3分,10分の3通りを実施したところ,3分と10分の場合は,混合後,水に沈んだフィラーは皆無であった。また,わずか5秒の混合時間の場合であっても,混合後,水に沈んだフィラーはわずか20%程度にすぎなかった。この結果は,カップリング処理に熱処理を加えることによってフィラーとカップリング剤の反応を促進させカップリング剤(未反応のカップリング剤)の脱離がより生じにくくなるよう工夫した処理フィラーを用いた場合でも,同様であった。 上記の実験結果によれば,処理フィラーと未処理フィラーを混合すれば,極めて容易に処理フィラーに吸着したカップリング剤が 離がより生じにくくなるよう工夫した処理フィラーを用いた場合でも,同様であった。 上記の実験結果によれば,処理フィラーと未処理フィラーを混合すれば,極めて容易に処理フィラーに吸着したカップリング剤が脱離して未処理フィラーに移行し,同フィラーがカップリング処理されることが明らかである。また,本実験でのカップリング処理条件の最小被覆率約80%,熱処理100℃2時間という条件は,通常のカップリング処理条件としては,化学反応が促進し未反応成分が残りにくい条件と考えられる。そのような条件下でもこのように容易にフィラー同士の接触でカップリング剤の移行が生じることは,本件カップリング剤がいかに脱離しやすく吸着しやすい種類のものであるかということを裏づけるものでもある。 なお,一審被告は,甲49は,処理フィラーが凝集して内部に空気を含み,空気の浮力により浮いている現象を示しているだけであると主張する。しかし,一般に凝集度が高いフィラーは空気を囲い込みやすいことから,かさ(嵩)高い(かさ密度の低い)ものとなる。未処理フィラーのかさ(嵩)高さは,処理フィラーのそれと比べて非常に大きく,処- 53 -理フィラーは,凝集度がかなり低いことが明らかである。このように,凝集度が高くかさ(嵩)高い未処理フィラーが水に沈んで,凝集度の低い処理フィラーが水に浮くという現象は,凝集度の大小からは説明がつかない。未処理フィラーの方が凝集度が高く空気の囲い込みが大きいと推定されるにもかかわらず,水に沈み,処理フィラーの方が凝集度が低く空気の囲い込みが小さいにもかかわらず,水に浮くことは,巻き込まれた空気を加味した凝集体の比重がフィラーの浮き沈みを決定する要因ではないことを意味する。もし凝集体としての比重が原因ということであれば,凝集度が高く空気の囲い込みが大きい未処理 くことは,巻き込まれた空気を加味した凝集体の比重がフィラーの浮き沈みを決定する要因ではないことを意味する。もし凝集体としての比重が原因ということであれば,凝集度が高く空気の囲い込みが大きい未処理フィラーの方が浮きやすいはずだからである。以上によれば,処理フィラーが水に浮くのは,凝集体としての比重によるのではなく,カップリング処理によりフィラーの表面がカップリング剤で覆われることにより,撥水性が付与され表面張力が増大したことによると考えるのが合理的である。 一審被告は,処理フィラーを水に加えて激しく振ると,フィラーの一部が沈むことを示している(乙50[一審被告従業員E作成に係る平成21年6月25日付け陳述書(10)]図(8))が,この現象は次のように説明できるのであり,一審被告の主張の裏付けとなるものではない。すなわち,処理フィラーは極めて疎水性の強いフィラーである。さらに水は文字通り親水性である。水中で激しく振ると,フィラーはもともと水をはじく性質があることから,水には分散せずに水を含んだ汚泥状の大きな塊を形成し,その重量によって沈みやすくなる。一審被告は,水に沈む原因が凝集体の破壊であるかのように主張するが,乙50の(8),(9)実験(振とう実験)を追試し,未処理フィラーサンプルについて同様の振とう実験を実施したところ,処理フィラーと混合フィラーの双方には汚泥状の大きな塊が形成され,その一部が沈んでいるのに対し,未処理フィラーにおいては汚泥状の塊が全く存在しない(甲- 54 -70[一審原告従業員A作成に係る平成21年8月17日付け陳述書],甲71の1・2[一審原告従業員A作成に係る実験報告書及びその実験をDVDに収録したもの])。このように,処理フィラーと混合フィラーについては,一審被告の主張(沈降の原因が凝集体の破壊であ 述書],甲71の1・2[一審原告従業員A作成に係る実験報告書及びその実験をDVDに収録したもの])。このように,処理フィラーと混合フィラーについては,一審被告の主張(沈降の原因が凝集体の破壊であること)とは全く逆の現象が生じていることが明らかである。 (イ)GR-b等におけるフィラーの充填率はいずれも50vol%を超えているところ,そのような充填率においては,フィラーの充填状態は極めて密(シリコーンゴム原料スラリー中にフィラーがぎっしり詰まった状態)であり,本件製法における攪拌・混合工程において処理フィラーと未処理フィラーは万遍なく衝突しうることが明らかである。ガラス玉による充填状態のモデルは,以下のとおりである。 このようなシリコーンゴム原料スラリー中のフィラー充填の度合いをみれば,フィラーの充填率が50vol%前後かそれ以上であるGR-b等の本件製法,特に,A液スラリー,B液スラリーそれぞれの「計量,混合工程」及び「A液+B液混合スラリー作成工程」における攪拌- 55 -・混合工程において,投入時の処理フィラーと未処理フィラーが混ざり合うことにより,未反応のカップリング剤が脱離し,まさにドライコンセントレート法やインテグラルブレンド法が実現され,投入時に未処理フィラーであったものがカップリング処理されることは,明らかである。 なお,上記ガラス玉のモデルに対し,一審被告は,ガラス球とガラス球の間には必ず水分子が存在しており,実際の放熱シートでもシリコーンポリマーが存在しているからこれらは攪拌時の力で排除できるはずはないなどと主張する。しかし,シリコーンポリマーが介在し攪拌時に排除できないという指摘は筋違いである。イメージモデルの示すところは粒子同士が接触する(百歩譲って接近する)機会が非常に多いということを示したにすぎない 。しかし,シリコーンポリマーが介在し攪拌時に排除できないという指摘は筋違いである。イメージモデルの示すところは粒子同士が接触する(百歩譲って接近する)機会が非常に多いということを示したにすぎないからである。たとえシリコーンポリマーの介在という事実があるにしても,カップリング処理の方法としてインテグラルブレンド法やドライコンセントレート法が存在し,これらの方法では,シリコーンポリマーの介在を前提として,未反応カップリング剤により未処理フィラーが表面処理されることを考えれば,一審被告の指摘が当を得ないことは明らかである。また,一審被告は,現実には処理フィラーも未処理フィラーも2次凝集体や3次凝集体で存在していると主張し,混合時において2次凝集構造は破壊されにくいと主張している。しかし,一審被告は,前記乙15において,未処理フィラーの粒子径は40~50μmの大粒子であることを認めているが,粒子径がこれほど大きな粒子の場合,凝集はほとんど起こりえない。一般的に,粒子の凝集は,粒径が1~数μm程度またはそれ以下の微粒子フィラー(顕著なものとしてアエロジルやカーボンブラックなど)の場合に議論されるものである。したがって,混合時における処理フィラーと未処理フィラーの様子は,以下のようなものと考えるべきである。 - 56 -このように,未処理フィラーは凝集しておらず,すでに1次粒子であり処理フィラーとは常に接触する環境にさらされている。乙53(一審原告従業員F・G著「フィラーを含有する樹脂液の高効率攪拌設計法」)の図4には,微粒子フィラーを従来の撹拌方法で撹拌した場合における,分散率と相対分散時間(混合時間の設計時間の目安)の関係が示されているが,相対分散時間の0.25(約25%)の時間ですでに99.6%の分散率となっている。分散率というのは 法で撹拌した場合における,分散率と相対分散時間(混合時間の設計時間の目安)の関係が示されているが,相対分散時間の0.25(約25%)の時間ですでに99.6%の分散率となっている。分散率というのはこの場合,ほぼ1次粒子化された状態(混合の終了時点)を100としたときの2次粒子の解砕度合いである。このように,微粒子(凝集の大きい小粒径フィラー)の分散においても混合時間の1/4程度の時間で99.6%程度までフィラーの凝集は解砕されるということは,残り時間である(相対分散時間の)3/4が経過した時点ではほとんどのフィラーが接触の機会を有することになる。 (ウ)上記ウで示した分析結果に基づき検出されたカップリング剤の分子数を計算すると,未処理フィラーの粒子数とは比較にならないほど圧倒的に多いことが判明する。この事実は,GR―b等の製造方法の攪拌・混合工程においてドライコンセントレート法やインテグラルブレンド法- 57 -と実質的に同一のメカニズムでカップリング処理が行われる際に使われる未反応のカップリング剤の分子数が,未処理フィラーの粒子数と比べて圧倒的に多いことを示すものであり,未処理フィラーの全部がカップリング処理されていることを一層裏付けるものである。 この点を説明したものが甲52(一審原告従業員A作成に係る平成21年6月19日付け陳述書)であり,これによれば,GR-k1gに含まれる未処理フィラーの粒子数は,1.3×10個(130万個)で あるのに対し,未反応カップリング剤の分子数は,8.5×10個 (8京5千兆個)であり,未処理フィラーの粒子数と検出された未反応カップリング剤の分子数の相対関係は,「未反応カップリング剤の数/未処理フィラーの数=(8.5×10)/(1.3×10)=6. 5×10(650億倍) フィラーの粒子数と検出された未反応カップリング剤の分子数の相対関係は,「未反応カップリング剤の数/未処理フィラーの数=(8.5×10)/(1.3×10)=6. 5×10(650億倍)」となる。 以上のとおり,GR-b等においては,脱離・移行を起こしやすい未反応(フリー)のカップリング剤の分子数が未処理フィラー(投入時)の粒子数とは比較にならないほど圧倒的に多いことから,本件製法における攪拌・混合の工程において,処理フィラーに吸着した本件カップリング剤が脱離・移行することにより,全ての未処理フィラーがカップリング処理されることは紛れもない事実である。脱離した未反応カップリング剤が未処理フィラーの一部のみをカップリング処理し,その結果として処理フィラーの体積分率が40vol%未満にとどまるという可能性は,およそ考えられない。 この点につき,甲53(一審原告従業員A作成に係る平成21年6月19日付け陳述書)において,GR-kにおける処理フィラーと未処理フィラー(いずれも投入時)の割合が,未処理フィラー15.4vol%,処理フィラー34.4vol%であることに基づき,8.5×10個の未反応のカップリング剤が,処理フィラーから脱離して1.3× - 58 -10個の未処理フィラーの一部のみに移行し,その結果,移行後の処 理フィラーの合計量が40vol%未満になる確率を計算したところ,「(4.7×10/1.3×10)=0」となっ 85000000000000000た。すなわち,移行後の処理フィラーの合計量が40vol%以上になることは確率的にも疑問の余地がないといえるのである。 (エ)一審被告は,乙72(一審被告従業員E作成に係る平成21年11月30日付け陳述書(18))に基づいて,甲52,53に基づく一審 以上になることは確率的にも疑問の余地がないといえるのである。 (エ)一審被告は,乙72(一審被告従業員E作成に係る平成21年11月30日付け陳述書(18))に基づいて,甲52,53に基づく一審原告の上記主張を争うが,以下のとおり失当である。 a一審被告は,当初乙72に記載されていた,GR-kの未処理フィラーの物性に関する記載を以下のとおり修正している。 <修正前>「被告はGR-k(他のGR-d,GR-mも同様)にそのような大粒子は使用していない。無処理フィラーとしては粒子径で3~5μm程度,比表面積で0.5m/g程度の中粒子を使用している」 <修正後>「被告は,GR-kにそのような大粒子は使用していない。GR-kで使用している無処理フィラーは,平均粒子径が8μm,比表面積が2m/g,比重が2.42の粒子である」 専門家による陳述書において,被告製品に使用したフィラーの物性を大きく誤ること自体ありえないことであるが,粒径や比表面積の値が修正前後でこれだけ大きく異なるのに,その他の陳述の内容がほとんど変わらないというのは不可解である。しかも,修正前の粒子径は,「3~5μm」であり,乙15・4頁の表に照らすと「中粒子」に当たるものであるが,修正後の「平均粒子径が8μm」というのは,その範囲を逸脱しているから,専門家がこのような重大な差異に気づかないまま陳述を行うなどということはありえない。したがっ- 59 -て,乙72は信用できない。 b乙72において,一審被告は,「大粒子は使用していない」と主張しているが,乙15においては,一審被告は,自ら,粒子径につき,大粒子:40~50μm,中粒子:3~5μm,小粒子:0.3~0.5μmと定義づけた上で(乙15・4頁),被告製品において「大粒子フィラーはシランカップリング剤処理をし 被告は,自ら,粒子径につき,大粒子:40~50μm,中粒子:3~5μm,小粒子:0.3~0.5μmと定義づけた上で(乙15・4頁),被告製品において「大粒子フィラーはシランカップリング剤処理をしなくて良い理由」について述べている(乙15・7頁)。同様に,原審における第8準備書面(被告)12頁において,一審被告は,「表面処理した小~中粒径フィラーと無処理の大粒径フィラーを併用すること」を「被告特有の技術」と主張し,また,乙24(一審被告従業員E作成に係る平成19年9月27日付け陳述書)においても,被告製品における「無処理大フィラー」の表面メカニズムについて説明している。このような主張等を繰り返しておきながら,訴訟提起から3年以上経過した段階になって初めて,「大粒子は使用していない」などと主張することは許されるべきではない。 c甲52,53は,その標題にあるとおり,「未反応カップリング剤分子数及びフィラー粒子数の相対関係」について考察するものであり,未反応カップリング剤分子数がフィラー粒子を表面処理(被覆)するのに十分であるかどうかを検証しようとするものではない。甲52,53において論じられているのは,「検出された未反応カップリング剤の分子数を基準としたとしても,その数は未処理フィラーの数に比べて桁外れに多く,しかもこれらの分子はまんべんなく未処理フィラーに移行しうる」ということである。以上の趣旨に照らすと,乙72において一審被告が主張するヘキシルトリエトキシシランの量(0.03ppm)及び未処理フィラーの物性(粒径,比表面積,比重)を仮に採用したとしても,甲52,53に基づく一審原告の主張- 60 -には影響を与えない。なぜなら,乙72においては,未反応カップリング剤の分子数が,未処理フィラー数の57万倍であることを認め, 仮に採用したとしても,甲52,53に基づく一審原告の主張- 60 -には影響を与えない。なぜなら,乙72においては,未反応カップリング剤の分子数が,未処理フィラー数の57万倍であることを認め,しかも,フィラーにまんべんなくカップリング剤が移行することについても認めているからである(乙72,4頁~5頁)。 (オ)乙70(一審被告従業員E作成に係る平成21年11月27日付け陳述書(16))において,一審被告は,GR-mに用いられた処理フィラーに存在する未反応カップリング剤で未処理フィラーを被覆した場合の被覆率は最小被覆面積の5.3%となると結論づけているが,当該結論を導くに至る実験及び計算には,以下のとおり種々の誤りがある。 aまず,一審被告は,処理アルミナ2から検出された未反応カップリング剤の量960ppmに基づいて計算を行っているが,そもそも当該未反応カップリング剤の量が誤っている。一審被告の未反応カップリング剤の測定方法は,乙61,62と同様に処理フィラーを試料として測定するものであるが,既に述べたとおり,このような方法では,測定対象となるヘキシルトリエトキシシラン及びオクチルトリエトキシシランの量が極めて少なく測定される。したがって,実際の未反応カップリング剤は,処理アルミナ2の場合には,960ppmよりもかなり多いと解される。また,処理アルミナ1及び処理アルミナ3からも本来であれば相当量のヘキシルトリエトキシシラン又はオクチルトリエトキシシランが検出されるはずである。さらに,実験条件を最適にして測定したとしても,二量体など測定されない未反応カップリング剤も存在するから,これらを考慮すると,GR-mの処理フィラーに存在する未反応カップリング剤の量はさらに多くなると考えられる。 b一審被告は,被覆率の計算においては,「フ れない未反応カップリング剤も存在するから,これらを考慮すると,GR-mの処理フィラーに存在する未反応カップリング剤の量はさらに多くなると考えられる。 b一審被告は,被覆率の計算においては,「フリーオクチルトリエトキシシランは無処理アルミナ及び処理アルミナ3の未処理部分並びに- 61 -酸化鉄に移行するはずである」として,これら3種類のフィラーにフリーオクチルトリエトキシシランが等しく移行することを前提として計算を行っている。しかし,処理アルミナ3の表面には既に66%の処理がされており,このようなフィラーと未処理フィラーとでは,「フリーオクチルトリエトキシシランが等しく移行する」とはいえないから,このような前提に基づいて計算することも正しくない(甲81[一審原告従業員A作成に係る平成22年1月12日付け陳述書])。 c乙70に示されているGR-mのフィラー組成も,乙72と同様に信用できない。乙70・8頁の記載によれば,無処理アルミナの比表面積は0.52m/gであるとされているが,この数値を乙15・ 4頁に挙げられた表に照らすと,この無処理アルミナは「中粒子」に位置づけられることになる。すなわち,乙70に示されるGR-mも未処理フィラーとして大粒子を用いていないのである。この記載も,一審被告の従来からの主張,すなわち,「被告製品は,大粒子にはカップリング処理をしないものである」との主張と齟齬するものであり,信用できないものである。 (カ)一審被告は,本件各特許発明における表面処理の作用効果を奏するには最小被覆面積の20%の被覆率が必要であると主張する。しかし,この考察は,以下のとおり誤りである。 a一審被告は,まず,乙65(一審被告従業員E作成に係る平成21年11月11日付け陳述書(14))の実験結果に基づいて「20% 必要であると主張する。しかし,この考察は,以下のとおり誤りである。 a一審被告は,まず,乙65(一審被告従業員E作成に係る平成21年11月11日付け陳述書(14))の実験結果に基づいて「20%の被覆率の必要性」が導き出せるとしている。しかし,一審被告が乙65の実験において採用した水への浮き沈みを目視により判別する実験は,一審原告が甲49において行った実験をなぞらえたものであるが,甲49の実験は,「処理フィラー」と「未処理フィラー」では水- 62 -に投入した場合の挙動が全く異なること及び「処理フィラー」と「未処理フィラー」を混合すると処理フィラーのシランカップリング剤が容易に移行し,水に投入した場合に全体として「処理フィラー」と同じ挙動を示すようになることを視覚的に示すために行った簡易実験にすぎず,当該実験によって定量的な評価が行えるというものではない。しかも,一審被告が立証しようとしているのは,「本件各特許発明における表面処理の作用効果を奏するにはどの程度の被覆率が必要か」ということであるが,乙65の実験において用いられているサンプルは,本件各特許発明の対象となる「シリコーン樹脂組成物」ではなく,シリコーン樹脂のない処理フィラーなのであるから,このようなサンプルを用いた乙65の実験によって本件各特許発明の作用効果の臨界点を検証しようとすること自体おかしい。 b一審被告は乙68(一審被告従業員C作成に係る平成21年11月26日付け実験報告書)の実験結果からも「20%の被覆率の必要性」が導けると主張する。しかし,本件各特許発明は,特定のカップリング剤を用いてフィラーを表面処理することによって,相溶性を改善し,粘度及び成形品の種々の物理的性質を向上させたものであるから,本件各特許発明の作用効果を検証する際には,「未処理フィラ のカップリング剤を用いてフィラーを表面処理することによって,相溶性を改善し,粘度及び成形品の種々の物理的性質を向上させたものであるから,本件各特許発明の作用効果を検証する際には,「未処理フィラー」を用いたサンプルとの対比ができなければ意味がない。ところが,乙68の実験において作成された未処理(すなわち被覆率0%)のサンプルは,粘度が測定不能であり,成形しても未硬化状態であり,物性の測定ができないのであるから,被覆率を変更したサンプルとの作用効果を比較しようとしても,そもそも比較自体ができない。 このような不適切なサンプルとなっているのは,一審被告が選択したフィラーに原因がある。一審被告が乙68で用いたフィラーは,アドマテックス社AO502(平均粒子径0.6μm,比表面積7.7m- 63 -/g)であるが,これは乙15・4頁に示される分類からすると, 「小粒子」の条件に近いものである。そして,このように非常に細かく比表面積の大きいフィラーのみを採用すれば,粘度が飛躍的に高くなることを利用して,一審被告は,低い被覆率で粘度が「測定不可能」となるように,しかも,「硬化」と「未硬化」が被覆率20%を境に分かれるように,フィラーの種類と添加量を意図的に調整したと推測できる。また,乙68・3頁の記載によれば,「硬化」の定義は「成形用のフィルムを剥がしたときにフィルムに材料が残らない状態」であるのに対し,「未硬化」の定義は「固まっていない状態」であり,二つの定義にはかなりの飛躍がある。そうすると,「硬化」と「未硬化」の差異が明確に生じているかどうかについても甚だ疑問があるといえる。 c乙65の実験において一審被告が導き出した「臨界点」と,当該実験とは条件の全く異なる乙68の実験により導き出した「臨界点」が一致するというのは,不可解であ かについても甚だ疑問があるといえる。 c乙65の実験において一審被告が導き出した「臨界点」と,当該実験とは条件の全く異なる乙68の実験により導き出した「臨界点」が一致するというのは,不可解である。この一致の理由を合理的に理解しようとするならば,一審被告が自己に都合のよい結論を導くべく実験条件を意図的に操作したと考えざるを得ない。 d本件各特許発明の作用効果を奏するための被覆率の臨界点などというものはそもそも存在せず,被覆率が上昇するに従って,本件シランカップリング剤の表面処理による作用効果がよりよく現れるという関係が存するだけである。このことは,一審被告が示したデータを図式化しただけでもある程度把握できる(甲82[一審原告従業員A作成に係る平成22年1月18日付け陳述書])が,この点をより具体的に示すために,一審原告は,一審被告が用いたアドマテックス社AO502をフィラーとして敢えて採用して,再実験を行った(ただし,フィラー体積充填率を下げて,未処理フィラーを用いた場合の物性を- 64 -測定できるような条件を採用した。甲82)。その結果,被覆率の上昇に伴って,スラリー粘度,硬度が共に低下し,本件シランカップリング剤の表面処理による作用効果がよりよく現れることがわかった。 そして,一審被告が主張するような「被覆率20%」の臨界点などは存在せず,被覆率が10%(あるいはそれ以下)であっても,十分に優れた効果を奏することが明らかとなった(甲82)。 (キ)一審被告は,本件明細書に,フィラーを表面処理する際のシランカップリング使用量は「0.1倍以上」と明記されているとも主張するが,本件各特許発明におけるフィラーのカップリング処理の効果というものは,フィラー表面の実効表面積を本件カップリング剤がどの程度覆ったかによって決まる。例え .1倍以上」と明記されているとも主張するが,本件各特許発明におけるフィラーのカップリング処理の効果というものは,フィラー表面の実効表面積を本件カップリング剤がどの程度覆ったかによって決まる。例えば,GR-kにおいては,前記甲10に示されるように,すでにフィラー全表面積の0.984倍(98.4%)が最低でも被覆されているし,被告製品の他の品番においても,全て実効表面積の90%以上が被覆されている。このように,被告製品においては,実効表面積の90%以上が本件カップリング剤で覆われていることが明らかであるから,実効表面積の10%未満を占める未処理フィラーの表面積の0.1倍以上が本件カップリング剤で被覆されることは,本件各特許発明の作用効果を発現するために必要とはいえない。 カ 結論 以上に述べたとおり,GR-b等においては,その製法たる本件製法中のA液スラリー,B液スラリーそれぞれの「計量,混合工程」及び「A液+B液混合スラリー作成工程」における攪拌・混合において,ドライコンセントレート法やインテグラルブレンド法と実質的に同一のメカニズムでカップリング処理が行われ,投入時の処理フィラーのみならず,未処理フィラーの全量もカップリング処理されている。 したがって,仮に,構成要件Bを原判決のとおりに解釈したとしても,- 65 -GR-b等は,そのフィラーの全量がカップリング処理されており,また,当該フィラー(カップリング剤を除いたもの)の体積分率は「40vol%~80vol%」の範囲内にあるから,構成要件Bを充足する。 (3)GR-nの組成に関する一審被告の主張に対する反論-争点1に関しア一審被告は酸化鉄を着色剤として添加しており,熱伝導性の目的で添加しているのではないと主張する。このことは,「被告としては酸化鉄を熱伝導性無機フィラーとし 審被告の主張に対する反論-争点1に関しア一審被告は酸化鉄を着色剤として添加しており,熱伝導性の目的で添加しているのではないと主張する。このことは,「被告としては酸化鉄を熱伝導性無機フィラーとして捉えていなかったのではないかという疑念が払拭できない。」との原判決の指摘が正にその通りであったことを意味するのであり,乙28と一審被告の主張の矛盾が解消されていないことは明らかである。 したがって,乙26,27の内容については何ら合理的な説明が存在しないものというほかなく,これらの信用性を認めることはできない。 さらには,酸化鉄が一般的に熱伝導性無機フィラーとしての用途を有するというのであれば,その熱伝導率の数値が広く知られているはずであるが,そのような事実もない。この点からも,被告製品において,酸化鉄が熱伝導性無機フィラーとして用いられていないことは明らかである。 イ一審被告は,争いのないGR-nの実際の製品の比重である3.355~3.358が,一審被告の主張するGR-nの比重(3.4029)と相違していることについて,「両者が相違する原因としては,次のことが考えられる。①シリコーンゴム製造工程に不可避的に含まれる気泡の影響がある。②重量で約95%(体積割合で80.6vol%)添加している酸化アルミフィラー中に凸凹や空洞があり,この中に気泡が含まれる。」と主張する。しかし,乙26,27の信用性がそもそも認められず,一審被告の主張の前提である「原料の仕込量」が事実に合致していることの客観的な裏付けがない以上,このような前提に基づく比重の計算や,実際の製品の比重との相違の理由として挙げる上記①及び②は無意味というほか- 66 -ない。 一審被告は,「シリコーンゴム内には1vol%以上の気泡が存在することは明らかである。」とも主張するが,単 の製品の比重との相違の理由として挙げる上記①及び②は無意味というほか- 66 -ない。 一審被告は,「シリコーンゴム内には1vol%以上の気泡が存在することは明らかである。」とも主張するが,単なる憶測の域を出るものではなく,認められない。一審被告は,ここにおいて,「微細な気泡の定量は,現在の分析装置によっても容易なことではなく,一審被告も最善を尽くして定量を試みたが成功していない。」と自認しているのであるから,「1vol%以上の気泡が存在することが明らかである」などといえないことは明らかである。 ウ一審被告は,乙11に熱重量測定チャートを追加した乙46に基づき,GR-nの熱伝導性無機フィラー量は80vol%を超えることが示されたと主張する。 しかし,乙11の実験では,窒素雰囲気下で熱分解させる方法によって測定しているところ,一審被告は,強熱残渣にはシリコーン由来の固形成分はほとんど含まれていないと主張する(原審における被告「第8準備書面」4頁26行~5頁1行)が,伊藤邦雄編「シリコーンハンドブック」1990年8月31日日刊工業新聞社発行(乙19)の773頁に「(なお試料によってはシリコーンの熱分解が十分に進まないことがある)」と記載されていることからみても,窒素雰囲気下で熱分解させる方法であれば強熱残渣にシリコーン由来の固形成分(残渣)が含まれないなどと断定できないことは明らかである。この点,乙20(一審被告従業員E作成に係る平成19年9月27日付け陳述書)においては,3頁の図5(乙19・300頁の図9.14と同じ)に基づいて,「窒素中400℃になると,15時間で90%以上が減少した。この程度の温度では明確な実験データにはなってないが,分析で用いる条件(乙11では30℃から600℃まで30℃/分の昇温条件)では,ほぼ全量のシ 中400℃になると,15時間で90%以上が減少した。この程度の温度では明確な実験データにはなってないが,分析で用いる条件(乙11では30℃から600℃まで30℃/分の昇温条件)では,ほぼ全量のシリコーンが分解・揮発する。」(乙20・4頁3行~5行)との意見が述べられている。しか- 67 -し,400℃で15時間加熱しても10%もの残渣が生じるのに,30℃から600℃まで30℃/分の昇温条件,すなわち,30℃~600℃で19分という条件で加熱しただけの乙11の実験において,なぜ,ほぼ全量のシリコーンが分解・揮発するなどといえるのか甚だ疑問であり,当該意見は客観性を欠いている。 一審被告は,乙21(株式会社テルム作成に係る試験報告書)のIRスペクトル測定の結果によっても,乙11の実験において生じた残渣には,シリコーン成分やSiOが残っていないことが確認されている旨主張す る(原審における被告「第8準備書面」5頁19行~21行)。しかし,乙21の実験は,2007年(平成19年)5月14日付けの乙11の実験における残渣を用いて2007年(平成19年)9月6日に新たに報告された実験結果であるところ,約4か月も前にフィラー量測定のために行った乙11の実験の残渣を保管しておいて実験したこと自体疑わしく,乙21の実験はそもそも信用できない。また,乙21の実験結果を採用したとしても,残渣にシリコーンあるいはSiOが残っていないことのみが 示されているにすぎず,残渣にフィラー以外のものが含まれていないことが立証されているとはいえない。IRは有機物の分析には適しているが,検出感度が必ずしも高くないために,無機物である残渣の分析に用いることは適切ではない。乙21の実験においても,シリコーン由来の残渣成分として,シリコーンやSiOだけではなく,アル には適しているが,検出感度が必ずしも高くないために,無機物である残渣の分析に用いることは適切ではない。乙21の実験においても,シリコーン由来の残渣成分として,シリコーンやSiOだけではなく,アルミナの赤外吸収ピーク に隠れて現れない物質や,検出感度が不十分でIRのチャートからは見出すことができない物質が生成されている可能性を否定できない。 以上のとおり,熱重量測定チャートが追加された乙46を見ても,乙11についての上述の疑問点は何ら解消されていないから,乙11,46により,GR-nの熱伝導性無機フィラー量が80vol%を超えることが示されたとはいえない。 - 68 -さらに,一審原告は,乙11,46の条件で熱処理を行った場合,残渣中にアルミナ以外の成分が含まれることを,分析によって確認した(甲59,60,73[(株)三菱化学アナリテック作成に係る測定分析結果報告書],甲61[一審原告従業員A作成に係る平成21年8月17日付け陳述書])。したがって,乙11,46における95%の残渣成分にはシリコーン残渣が含まれていることになる。 ところで,一審被告は,乙46,11のデータ,すなわち,アルミナ95wt%をもとにフィラーの体積%を算出しているが,例えば乙47によれば,減量が5%(0.05)(有効数字1桁),信頼限界0.045~0.055であることを考慮すると減量フィラーvol%0.04584.2%0.05082.5%0.05580.7%というように,最大値と最小値の間に84.2-80.7=3.5%の差が生じている。さらに,試料の比重(3.35~3.45)も考慮すると,4.0%の差が生じる(甲61)。しかし,これは重大な問題である。フィラー量(カップリング剤を含まず)が79vol%(一審原告)か80.6vol%(一審被告 比重(3.35~3.45)も考慮すると,4.0%の差が生じる(甲61)。しかし,これは重大な問題である。フィラー量(カップリング剤を含まず)が79vol%(一審原告)か80.6vol%(一審被告)であるかを争っている1%の差の議論において4%の差が生じても有効数字はどうでもいいという主張はあまりに乱暴である。加えて,乙47は,そもそも誤ったアルミナの定量値(95wt%)に基づき有効数字の議論をしているから,この点においても誤りである。 乙30で一審被告が主張する,アルミナフィラーの重量(3970.1g),シート全体重量(4213.1g)のデータを用いてアルミナの重量割合をあえて算出すれば,94.2wt%となる(甲61・3頁)が,- 69 -これを一審被告が乙47で示した式(フィラー体積%=(1-0.058×3.4/0.97)×100)に適用すると,この場合,フィラーの体積%は,いずれも80vol%以下となる(甲61・4頁)。 エ乙36・7頁は,カップリング剤を含めた熱伝導性無機フィラーの値を示している。カップリング剤を含めない場合は,原審における原告「第13準備書面」3頁に示したとおりであって,80vol%以下である。 オ本件各特許発明は,「組成物発明は,重量で示すのが一般である。」と一審被告が述べるところに反して,熱伝導性無機フィラーの量と組成物との関係を,「重量」ではなく「体積」(分率)で示している発明であるから,もし組成物全体の体積中に有意な量の空気が占める部分があるのであれば,これを熱伝導性無機フィラーの体積分率の算定において無視することはできない。このことは,例えば,組成物が膨らました風船のような中空体であり,その体積の大半の部分が空気によって占められる場合に,組成物に含まれる空気以外の成分が当該中空体の組成物全体に 視することはできない。このことは,例えば,組成物が膨らました風船のような中空体であり,その体積の大半の部分が空気によって占められる場合に,組成物に含まれる空気以外の成分が当該中空体の組成物全体に占める体積割合を求めるのに,空気の占める部分を無視して算定することが不自然であることを考えてみれば明らかである。逆に,もしGR-n中の気泡の量が作用効果にも全く影響を与えず,無視できる程度のものであるとすれば,その成分たる熱伝導性無機フィラーの体積分率を算定するときも当該気泡を無視するのがむしろ自然であり,計算に当たって気泡の存在を考慮していない甲25,26に対する一審被告の批判は理由がないことに帰着する。結局,原判決が述べるとおり,一審被告の主張は一貫性を欠くものというほかない。 なお,乙48による計算(3頁)について見るに,気泡が1vol%の場合における気泡を含めずに計算されるフィラーの体積分率は,0.80451(同頁11行),すなわち,80.451vol%であるが,小数点以下を四捨五入すると「80vol%」であり,本件各特許発明の構成- 70 -要件Bの「40vol%~80vol%」を充足することになる。このように,GR-nの気泡の量が1vol%であることの客観的な裏付けはないものの,仮にこの点を肯定したとしても,フィラーの体積分率は「80vol%」ということになるのであり,一審被告の主張によっても構成要件Bの充足性が裏付けられているのである。 (4)被告製品(ただし,GR-n及びGR-iは除く。)は均等侵害の第5要件を充足している(予備的主張2)-争点2に関しア原判決は,「本件補正をするに当たっての原告の主観的意図はともかく,少なくとも構成要件Bを加えた本件補正を外形的に見れば,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体 的主張2)-争点2に関しア原判決は,「本件補正をするに当たっての原告の主観的意図はともかく,少なくとも構成要件Bを加えた本件補正を外形的に見れば,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率を限定したものと解される。したがって,原告は,熱伝導性無機フィラーの体積分率が『40vol%~80vol%』の範囲内にあるもの以外の構成を外形的に特許請求の範囲から除外したと解されるような行動をとったもの」(79頁13行~18行)と判断し,均等侵害の第5要件である「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」ことという要件を充たさないことを理由に,均等侵害の主張を排斥した。 イしかし,本件補正を外形的に見る限り,構成要件Bは,「熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%」というものであり,「上記熱伝導性無機フィラーが…」,「当該熱伝導性無機フィラーが…」,又は「該熱伝導性無機フィラーが…」といったように,「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」が「40vol%~80vol%」である主体であるとは理解できない。 また,本件拒絶理由通知の「請求項1に記載の発明は組成物に係る発明と認められるが,各成分の配合量(組成比)が記載されていない(すべての配合量(組成比)について同等の効果を奏するものとは認められない)」- 71 -との指摘部分の趣旨が,当初明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載のあった「シリコーンゴム」と「カップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」の各配合量を示すことを示唆するものであったとしても,本件補正で付加された構成要件Bは,「上記熱伝導性無機フィラーが…」,「当該熱伝導性無機フィラーが… グ剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」の各配合量を示すことを示唆するものであったとしても,本件補正で付加された構成要件Bは,「上記熱伝導性無機フィラーが…」,「当該熱伝導性無機フィラーが…」又は「該熱伝導性無機フィラーが…」といったように,「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」を指すことが明らかな表現が使われていないのであるから,当業者の目からこの出願人(控訴人)の対応を客観的に見れば,出願人はむしろ本件拒絶理由通知での指摘に素直に従っていないことが理解されるのである。したがって,本件補正を外形的に見る限り,「カップリング処理された熱伝導性無機フィラーで体積分率が40vol%~80vol%の範囲にあるもの」以外の構成を除外したと解される行動をとったものと評価することはできないのであって,GR-b等に対して均等侵害の主張をすることは,最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決(民集52巻1号113頁)のいう「特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解される行動をとったものについて,特許権者がこれと反する主張をする」場合には当たらないというべきである。 また,一審原告は,本件補正に関して,構成要件Bにいう「熱伝導性無機フィラー」がカップリング処理された熱伝導性無機フィラーを意味する旨を表明したことは一度たりともなかった。その上,特許庁が,本件補正に基づき,構成要件Bの意味内容について,「熱伝導性無機フィラー」がカップリング処理された熱伝導性無機フィラーを意味するとの解釈を前提として審査し,本件特許査定がなされたことを裏付ける証拠はないし,かえって,本件特許に対する無効審判事件において,一審被告は,「熱伝導性無機フィラー」に限定はないとの解釈を前提として新規性欠如及 提として審査し,本件特許査定がなされたことを裏付ける証拠はないし,かえって,本件特許に対する無効審判事件において,一審被告は,「熱伝導性無機フィラー」に限定はないとの解釈を前提として新規性欠如及び進歩- 72 -性欠如を理由とする無効主張(特に,熱伝導性無機フィラー自体の含有量についての,本件各特許発明と引用例との一致点の主張)を行い,特許庁は,この解釈を前提として審決をし,審決取消訴訟においても,この解釈を前提とした判断がなされている(甲45)。したがって,たとえ裁判所のクレーム解釈の結果,構成要件Bについて「熱伝導性無機フィラー」がカップリング処理された熱伝導性無機フィラーを意味するとの解釈が採用されたとしても,そのような事後的評価によって,均等侵害の主張をすることが,均等侵害に関する第5要件が前提とする矛盾挙動に当たるということはない。 ウ以上のとおり,第5要件を充足しないとした原判決の判断は誤りというほかない。 (5)実施料相当の損害額について-争点3に関し一審原告は,「8%」が妥当な数字であると考えているが,仮にこれが認められないとしても,原判決が認定した「6%」を下回ることはありえないというべきである。 (6)相殺の抗弁の成否について-争点4に関し原判決の判断に誤りがあるとはいえない。 (7)明確性要件違反等を理由とする新たな無効理由はない-争点5に関しア一審被告は,新たに平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項2号違反の無効理由を主張するが,意味不明であるから,「審理を不当に遅延させることを目的として提出されたもの」と認めるほかなく,特許法104条の3第2項に基づき却下されるべきである。また,これらの主張は理由がないものである。 イ一審被告は乙7に基づく無効理由を主張するが,乙7に基づく無効 提出されたもの」と認めるほかなく,特許法104条の3第2項に基づき却下されるべきである。また,これらの主張は理由がないものである。 イ一審被告は乙7に基づく無効理由を主張するが,乙7に基づく無効理由が成り立たないことは,知財高裁平成20年6月4日判決(甲45)の確定により決着済みである。 - 73 -一審被告は,一審原告が乙25の事実を認めたと主張し,これを前提とすれば,乙7に基づく無効の抗弁を再度主張できるとしているが,乙7に基づく無効理由が成り立たなかった理由は,乙7に本件各特許発明のシランカップリング剤が開示されていなかったという点に尽きる(甲45,95頁下5~下3行)。これに対し,乙25は,一審被告が,乙7に本件各特許発明のシランカップリング剤が開示されているとの前提を設けてインテグラルブレンド法と直接処理法の物性対比を行った実験報告書である。 そうすると,乙25に対して一審原告が何を言及したとしても,乙7に関する判決の上記認定は覆ることはない。 当審における一審被告の主張(1)構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」と限定解釈すべきである-争点1に関しア一審原告は,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は,シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーと限定解釈する手掛かりがないと主張し,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は,「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」に限定解釈されないと主張する。 しかし,原判決には,「また,構成要件Bが構成要件Aの直後に配置され,しかも,『熱伝導性無機フィラー』との文言が構成要件Aのそれと近接して使用されていることからすれば,後者が前者を指している,すなわち構成要件Bの『熱伝導性無機フィラー』が構成 件Aの直後に配置され,しかも,『熱伝導性無機フィラー』との文言が構成要件Aのそれと近接して使用されていることからすれば,後者が前者を指している,すなわち構成要件Bの『熱伝導性無機フィラー』が構成要件Aのカップリング処理された熱伝導性無機フィラーを指すと読むのがどちらかといえば自然な解釈といえる。」(42頁18行~23行)と判示されている。第三者は,「どちらかといえば自然な解釈」というよりは,むしろ「後者が前者を指している」と理解するのが通常であろう。本件特許の請求項1は短い- 74 -文章であり,特別の定義がない限り,後者は前者を指すのが自然な解釈である。異なった意味というのであれば,クレーム中に明確な定義が必要である。加えて,本件明細書(甲2,3)中には,処理フィラーと未処理フィラーを混合してもよいとの記載はない。かえって,段落【0008】には,「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー1を分散させて成り,熱伝導性無機フィラー1が熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%である」と記載されており,同一符号まで付与しているのであるから,後者は前者を指すとしか理解できない。段落【0008】は「課題を解決するための手段」の段落であるから,クレームと同じように重要な箇所であり,この定義は明細書全文及び図面全部に及ぶ。実施例も,全量処理フィラーが60vol%(【0032】)であるから,第三者は,後者は前者を指すとしか理解できない。 一審原告が主張するように,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」が,「処理フィラーに限定解釈されない」というのであれば,例えば,1vol%の処理フィラーと59vol%の未処理フィラーとを混合した場合も,本件各特許発明の技術的範囲に属することになる。しかし,そのような 理フィラーに限定解釈されない」というのであれば,例えば,1vol%の処理フィラーと59vol%の未処理フィラーとを混合した場合も,本件各特許発明の技術的範囲に属することになる。しかし,そのようなケースの作用効果は,本件各特許発明の作用効果を満足しないであろうことは,一見して誰にでも分かることである。 本件明細書のどこを精査しても,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」が「処理フィラーに限定解釈されない」との解釈は成り立たない。例えば,本件明細書(甲2,3)の段落【0004】及び【0006】の問題を解決するための段落【0007】に記載の目的は,「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%分散」させて初めて達成できる。処理フィラーが1vol%では,目的は達成できない。また,- 75 -本件明細書の段落【0055】の効果も,「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%分散」させて初めて達成できる。処理フィラーが1vol%では,効果は達成できない。加えて,実施例は全量処理フィラーが60vol%である(【0032】)。 一審原告のような解釈をするのであれば,本件特許は,サポート要件(特許法36条6項1号),実施可能要件(同36条4項1号),明確性要件(同36条6項2号)に違反して無効である。 以上のとおり,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は,全量シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーとしか解釈できない。 イ「構成要件Bの技術的意義」につき(ア)一審原告は,構成要件Aと構成要件Bの各々に対応する課題は異なると主張している。しかし,一審原告がいう本質的特 熱伝導性無機フィラーとしか解釈できない。 イ「構成要件Bの技術的意義」につき(ア)一審原告は,構成要件Aと構成要件Bの各々に対応する課題は異なると主張している。しかし,一審原告がいう本質的特徴は,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」を全量シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーと解釈して,初めて成り立つ。このことは,一審原告が,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は,シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーであることにより,顕著な効果を奏する,と自認していることからも明らかである。 (イ)一審原告は,カップリング剤量が10vol%までの極端な例を挙げて,構成要件Bにおける数値範囲は,カップリング剤込みの量と解釈することは不合理であると主張している。 しかし,構成要件Bにおける数値範囲は,争点になっていない。原判決(57頁下2行~61頁5行)においては,構成要件Bにおける数値範囲は,熱伝導性無機フィラーの量を示すと判示されている。加えて,実用的には,カップリング剤を多く使用すると未反応物が多くなり,シ- 76 -リコーンゴムにボイドが発生してしまい(本件明細書[甲2,3]段落【0018】),製品にはならない。一審原告の主張は,実用的には実現できもしない極端な例を挙げて誤導しようとするものである。 また,一審原告は,処理済みフィラーが60vol%,未処理フィラーが30vol%という配合の例を挙げて主張している。しかし,このような配合では,どのようにしても本件各特許発明の放熱シートを実現することはできない。 ウ「原判決の判断とその誤り」の主張につき(ア)「原判決の誤り(第1点)」の主張に対しa一審原告は,原判決が構成要件Bの数値範囲は「シランカップリング剤を含まない熱伝導性無機フィラー」 い。 ウ「原判決の判断とその誤り」の主張につき(ア)「原判決の誤り(第1点)」の主張に対しa一審原告は,原判決が構成要件Bの数値範囲は「シランカップリング剤を含まない熱伝導性無機フィラー」と解釈したことを根拠に,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」はシランカップリング剤処理フィラーに限定されないと主張している。 しかし,原判決は,一審原告主張の「数値範囲は,本件カップリング剤と熱伝導性無機フィラーとの合計量を示すものではなく,熱伝導性無機フィラーの総量の下限値及び上限値を各々示す」(原判決14頁1行~3行参照)を採用したものである。 b一審原告は,合計フィラー量が90vol%の例を挙げるが,このような配合では,どのようにしても本件各特許発明の放熱シートを実現することはできない。 (イ)「原判決の誤り(第2点)」の主張に対しa特許請求の範囲の記載原判決(42頁18行~23行)の判示は妥当であり,第三者は,「後者が前者を指している」としか理解できない。 b「発明の詳細な説明」の記載(a)本件明細書(甲2,3)の段落【0015】は段落【0013- 77 -】を受けたものであり,原判決(48頁13行~18行)の認定は正しい。 (b)原判決(48頁18行~23行,48頁24行~51頁1行)についても,正しい認定である。本件明細書(甲2,3)の実施例は全量処理フィラーが60vol%(段落【0032】)であるから,第三者は,全量シランカップリング剤処理されたフィラーとしか解釈できない。 (c)本件明細書(甲2,3)の段落【0018】の記載にも,処理フィラーと未処理フィラーを混ぜてもよいなどという記載はない。 比表面積の記載は,単一粒径の粒子についての記載であり,「熱伝導性無機フィラー1の表面にシランカップリング剤の単分子層 】の記載にも,処理フィラーと未処理フィラーを混ぜてもよいなどという記載はない。 比表面積の記載は,単一粒径の粒子についての記載であり,「熱伝導性無機フィラー1の表面にシランカップリング剤の単分子層を形成するのに必要なシランカップリング剤量の,0.1~15倍とするのが好ましいものである」は,量的な記載であり,混合してもよいとは解釈できない。 (d)その他,本件明細書の「発明の詳細な説明」の記載に基づく原判決の認定に誤りはない。 c出願経過(a)一審原告は,平成13年11月27日付けの拒絶理由通知書(乙2)に対して提出した,平成14年2月4日付けの手続補正書(乙3)は,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」を「カップリング処理された熱伝導性無機フィラー」に限定したものではないと主張する。 しかし,シランカップリング剤処理フィラーが1vol%では,目的も作用効果も達成できないから,特許庁の拒絶理由通知は正当であり,これに応答した一審原告の手続補正書(乙3)及び意見書(乙4)を見れば,第三者は,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラ- 78 -ー」は構成要件Aのカップリング処理された熱伝導性無機フィラーを指すとしか理解できない。 (b)一審原告は,本件補正において特許請求の範囲に構成要件Bを加えたものであり,40vol%未満と80vol%を超える範囲は,自ら意識的に削除したものである。 当初明細書(乙1)の段落【0011】には,「本発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物は,シリコーンゴムに,シランカップリング剤にて表面処理された熱伝導性フィラーを分散させたものである。」と記載されており,段落【0012】の記載は段落【0011】の記載を受けたものであるから,「40vol%~80vol%」とは,全量がカップリング処理された熱伝導性フィラーの体 散させたものである。」と記載されており,段落【0012】の記載は段落【0011】の記載を受けたものであるから,「40vol%~80vol%」とは,全量がカップリング処理された熱伝導性フィラーの体積分率を指すものと解すべきである。 一審原告は,平成14年2月4日付けの本件意見書(乙4)において,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの量が「40~80vol%」の範囲であると,「相溶性が向上し」,「成形加工性を挙げることができる」と主張している。しかし,このような作用効果は,熱伝導性無機フィラーをカップリング処理したことによるものであり,カップリング処理されていない熱伝導性無機フィラーを含むと主張することは包袋禁反言として許されない。 平成15年6月2日付けの一審原告作成「意見書」(特許異議の申立てにおける特許庁審判官による取消理由通知に対する意見書。 甲5)21頁表の「熱伝導フィラー」,「体積分率(%)」の欄には,全量シランカップリング処理したフィラー40~80vol%の例が記載され,「…熱伝導性無機フィラーをシランカップリング剤で処理することによって,圧縮永久歪みの改善,引裂強度の向上,ゴム硬度変化の低減の効果が得られることも確認される。」- 79 -(22頁2行~4行)と記載されている。この記載は,40~80vol%の熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理することを表明するものである。 (2)被告製品のうちGR-b等の熱伝導性無機フィラーについても全量がカップリング処理されているとの主張(予備的主張1)に対する反論ア時機に後れた攻撃防御方法却下の抗弁一審原告の予備的主張1は,甲46(測定分析結果報告書),甲47(結果報告書)を重要証拠としている。しかも,一審原告の予備的主張1,甲46,47は,原審では一度も主張立 後れた攻撃防御方法却下の抗弁一審原告の予備的主張1は,甲46(測定分析結果報告書),甲47(結果報告書)を重要証拠としている。しかも,一審原告の予備的主張1,甲46,47は,原審では一度も主張立証されておらず,控訴審になって初めて主張立証したものである。 しかるところ,甲46の作成日は平成19年4月25日であり,甲47の作成日は平成19年4月9日であり,いずれも2年以上も前に作成されているから,一審原告は,原審で十分に,予備的主張1を主張立証できたにもかかわらず,控訴審になって初めて主張立証してきた。これは時機に後れた主張立証であるといわざるを得ない。 したがって,本件においても時機に後れた攻撃防御方法却下の抗弁(民訴法157条)が適用されるべきである。 イ「GR-b等の中には多量の未反応カップリング剤が存在すること及びこのカップリング剤は本件製法において投入された処理フィラーから脱離したものであること」の主張に対し(ア)一審原告は,被告製品のGR-kから未反応シランカップリング剤が甲46では35ppm,甲47では58ppm検出されたことをもって,非常に高い値であり,未反応シランカップリング剤が多量に存在していたと主張している。 (イ)しかし,甲63を作成した分析会社と同一の分析会社(株式会社日東分析センター)が作成した2009年8月26日付けの分析結果報告- 80 -書(乙61)によれば,GR-kに添加しているシランカップリング剤処理フィラーにおける「ヘキシルトリエトキシシラン」は,定量下限値未満であり,検出されなかった。また,平成21年9月~10月に納入された一審被告の保有する最も新しいGR-k用及びGR-d(GR-HFd)用表面処理フィラーについて,同様の分析をしたところ,「ヘキシルトリエトキシシラン」及び「オクチル 成21年9月~10月に納入された一審被告の保有する最も新しいGR-k用及びGR-d(GR-HFd)用表面処理フィラーについて,同様の分析をしたところ,「ヘキシルトリエトキシシラン」及び「オクチルトリエトキシシラン」は,いずれも定量下限値未満であり,実質的に存在していない(乙62[株式会社日東分析センターが作成した2009年11月11日付けの分析結果報告書])。なお,一審被告がこれらに「オクチルトリエトキシシラン」を使用している事実はないので,検出されないのは当然である。 (ウ)また,原判決別紙「被告製品の組成」によれば,GR-kの仕込みカップリング剤は体積分率で0.6vol%,重量分率にすると0.2wt%,すなわち2000ppmである。したがって,硬化後のGR-k中のフリーのカップリング剤が35ppm,58ppmであったということは,それぞれ,仕込みの1.8wt%(=35/2000×100),3wt%(=58/2000×100)が未反応だったことになる。反応率にして98%(=100-1.8),97%(=100-3)である。一審被告が用いている直接処理法におけるフィラーの表面処理条件は,100~150℃で1時間乾燥であるから(本件明細書[甲2,3]の段落【0020】~【0021】),そのような条件で行っているシランカップリング剤によるフィラーの表面処理において,97~98%という反応率はあり得る(乙49[一審被告従業員E作成に係る平成21年6月25日付け陳述書(9)]2頁20行)。加えて,甲48に記載されているように,例えば検出量の10倍のフリーカップリング剤が含有されているなら,それは仕込量の18wt%,30wt%がGR-kに含有されていること,すなわち,シランカップリング剤- 81 -の反応率は82wt%,70wt%という のフリーカップリング剤が含有されているなら,それは仕込量の18wt%,30wt%がGR-kに含有されていること,すなわち,シランカップリング剤- 81 -の反応率は82wt%,70wt%ということになり,これは常識からいってあり得ない反応率である(乙49,2頁22行~25行)。 以上からすると,甲46,47の結果が正しいとしても,シランカップリング剤処理フィラーを製造する際に,1.8~3wt%程度の未反応シランカップリング剤が残り,これが甲46,47で検出されただけのことである。すなわち,熱伝導性フィラーであるアルミナ粒子には表面に微細な凸凹や内部に空洞があるものもあるから,これらに取り込まれた未反応シランカップリング剤はそのまま残り,これが甲46,47で検出されただけのことである。 したがって,一審原告の「非常に高い値」,「多量に存在していた」との推論は誤っている。そして,この推論による一審原告の「脱離が生じた可能性が極めて高い」との主張もまた誤りである。 (エ)一審被告の依頼により株式会社日東分析センターが作成した2009年11月26日付けの分析結果報告書(乙69)によれば,被告製品の「GR-m」に添加しているシランカップリング剤処理フィラーにおける「ヘキシルトリエトキシシラン」は,0.6~1.4ppm(平均1.0ppm),「オクチルトリエトキシシラン」は910~1000ppm(平均960ppm)であった。960ppmの全量が未処理フィラーに反応すると,「被覆率5.3%」になる(乙70,8頁10行)。 本件明細書(甲2,3)の段落【0018】には,「0.1倍(被告注:被覆率10%)に満たないと,シランカップリング剤による処理効果が少なくなる」と記載されており,この記載からしても,上記「被覆率5.3%」は低い値である。 とこ 0018】には,「0.1倍(被告注:被覆率10%)に満たないと,シランカップリング剤による処理効果が少なくなる」と記載されており,この記載からしても,上記「被覆率5.3%」は低い値である。 ところで,本件各特許発明の作用効果とは,スラリー粘度の低下,柔軟性(アスカー硬度Cを低く維持),引っ張り強さと引き裂き強さの向- 82 -上及び圧縮永久歪みを低減することである。しかし,本件明細書(甲2,3)には,未処理フィラーに対してどの程度のシランカップリング剤を化学結合させたら作用効果を奏するのか,具体的データは開示されていない。そこで一審被告は,未処理フィラーに対してどの程度のシランカップリング剤を化学結合させると,本件明細書(甲2,3)の実施例(表1~2)に記載の作用効果を奏するのかを追試したところ,被覆率が20%以上,添加量でいうと4880ppm(約5000ppm,0.5wt%)以上で初めて,本件各特許発明の作用効果が発揮されることが分かった(乙68[一審被告従業員C作成に係る平成21年11月26日付け実験報告書]3頁表1)。次に一審被告は,一審原告が甲49で提唱する撥水性(フィラーが水に浮くか否か)で検証してみたところ,被覆率が20%以上,添加量で言うと5000ppm(0.5wt%)以上ではじめて,撥水性が出ることがわかった(乙65[一審被告従業員E作成に係る平成21年11月11日付け陳述書(14)]2頁表2)。そうすると,被覆率が20%以上,添加量でいうと5000ppm(0.5wt%)以上が,本件各特許発明に必須の構成と判断できる。上記「被覆率5.3%」では,本件各特許発明の作用効果を奏しない。なお,一審原告は,甲82に基づき,一審被告が主張するような「被覆率20%」の臨界点などは存在せず,被覆率が10%(あるいはそれ以下 上記「被覆率5.3%」では,本件各特許発明の作用効果を奏しない。なお,一審原告は,甲82に基づき,一審被告が主張するような「被覆率20%」の臨界点などは存在せず,被覆率が10%(あるいはそれ以下)であっても,十分に優れた効果を奏することが明らかとなったと主張するが,甲82では,初期のスラリー粘度,ゴム硬度,硬化性の試験しか行っておらず,本件明細書の実施例及び効果の欄で確認している全物性を測定していない。そこで,一審被告は,本件明細書の実施例及び効果の欄で確認している全物性を測定した。その結果,ゴム硬度,引っ張り強さ,引き裂き強さ,圧縮永久歪み,150℃のエージング試験のすべてにおいて,被覆率が20%以上ないと,本件明細書でい- 83 -うカップリング剤の作用効果が発揮されず,表面処理の作用効果はないことを確認した(乙84[一審被告従業員C作成に係る平成22年2月16日付け実験報告書])。 (オ)一審原告主張の依頼に係る測定(甲46,47,63,64,74,75,80)は,ゴムシートを熱脱着ガスクロ装置によって分析している。しかし,このような方法で分析したのでは,未処理フィラーが表面処理された状態にあるか否かが分からない。また,この分析装置には,加熱槽で揮発した試料をキャリヤーガスで運んで集めるためのトラップ槽があるところ,この部分にはシランカップリング剤が残りやすいという特有の問題がある。シランカップリング剤が残りやすいのは,沸点が高く,高温での洗浄がしにくいからである。したがって,上記測定においては,トラップ槽の洗浄不足によって前の分析残渣が残っている可能性がある。 また,一審原告主張の依頼に係る上記測定結果は,データのばらつきが大きく,信用できない。 さらに,一審原告の依頼に係る測定で分析した試料は,一審被告の3製品とも 分析残渣が残っている可能性がある。 また,一審原告主張の依頼に係る上記測定結果は,データのばらつきが大きく,信用できない。 さらに,一審原告の依頼に係る測定で分析した試料は,一審被告の3製品とも同一のロットに限られていた。異なるロットの製品や,入手時期の異なる製品を分析して同じような結果を得ることは,分析結果の信用度を高めることになるはずである。一審原告は,一審原告自身が購入しているだけでなく,一審原告の多数のグループ会社で,本件訴訟の対象となっている多くの製品を購入しているから,一審原告は,いつでも,自ら購入した被告製品とか,グループ会社から入手した被告製品を利用して,容易に分析できる立場にある。それにもかかわらず,一審原告は,同一のロットの製品しか分析していない。 その上,一審原告は,分析方法について,一審原告自身が「信頼度が低いこと」を認めている「205℃加熱着脱GC/MS法」に固執して- 84 -きた。 (カ)一審原告は,加熱脱着GC分析は,分析時の加熱によって測定対象となる分子に新たな反応が生じ,未反応のシランカップリング剤の量が激減するようであっては正確な定量ができないことになると主張する。 しかし,加熱脱着GC分析においては,試料を高温で加熱するが,同時に,ヘリウムによるキャリヤーガスを流しており,試料のガス成分は,加熱と同時にキャリヤーガスにより外部に急速に運び出されてしまうから,未反応シランカップリング剤の反応が大きく起こるとは考えられない。 甲77(一審原告従業員Aの平成22年1月25日付け実験報告書)に示されている実験結果は,以下に述べる理由により,信用できない。 a甲77で作成されたシートは,被告製品とは全く異なる,気泡を含む試料である。また,甲77の実験においては,「各サンプル作製後はすぐにアルミ袋に 実験結果は,以下に述べる理由により,信用できない。 a甲77で作成されたシートは,被告製品とは全く異なる,気泡を含む試料である。また,甲77の実験においては,「各サンプル作製後はすぐにアルミ袋に入れて冷凍庫(-20℃以下)で保管を行う」操作を行っている。この操作は,一審被告における製品製造中では,系外に揮発除去される物質(空気を含む)を密閉系内に留めておくことを意味し,その点でも,被告製品の製造工程とは異なっている。このような密封操作をすると,被告製品シートの本来の製造方法なら系外に揮発排出されるはずの物質がシート内に残存して,予期しない反応が起こり得る。典型例が,エチルアルコールの残存であり,エチルアルコールが残存すると,シランカップリング剤によるフィラー表面処理で生じる化学結合が解離する。 b甲77の3頁表1のデータは「フィラー単独」よりも「シート」のカップリング剤量が異常に多く,不自然である。一方,GR-mを一審被告が分析した結果によると,特定の「フィラー単独」では,「960ppm」(乙69の5頁表1)であるが,「シート」では,- 85 -「6.4ppm」(乙79の5頁表1)に過ぎなかった。これは,常識的に見て妥当なデータである。 c一審原告は,「フィラーを試料として分析を行った場合には,フィラーが直接加熱されるため,測定時の加熱の影響をより受けやすくなる」と主張する。 しかし,フィラーを分析する場合とシートを分析する場合とを比較すると,シートはフィラー間にゴム成分が介在しているから,ガス成分があると仮定しても,ゴム成分に邪魔されて外部に出にくい。それゆえ,シートのほうが加熱の影響をより受けやすくなる。また,フィラーを分析する場合には,フィラーとキャリヤーガスは常に接しているので,加熱温度で,ある程度の蒸気圧を有する されて外部に出にくい。それゆえ,シートのほうが加熱の影響をより受けやすくなる。また,フィラーを分析する場合には,フィラーとキャリヤーガスは常に接しているので,加熱温度で,ある程度の蒸気圧を有する化合物ならば,速やかに揮発してトラップ部に運ばれる。一方,シートを分析する場合,分析対象は,フィラー表面とポリマー相の全体であるから,キャリヤーガスはポリマー相の表面だけ測定試料と接することになり,キャリヤーガスは,ポリマー内部とは接していないし,ポリマーで被覆されたフィラー表面とも接していない。それゆえ,キャリヤーガスは,試料に含まれる揮発性化合物の拡散移行を加速することができない。したがって,加熱脱着GC分析する場合,加熱部に長く滞留して副反応などを起こしやすいのは,フィラーよりはシートの方であると考えるのが自然である。 d一審原告は,「フィラーと未反応カップリング剤の反応における第1段階の反応は加水分解反応であり,反応が生じるには水の存在が不可欠である」と主張する。 しかし,フィラーと未反応カップリング剤の直接反応(脱アルコールによる縮合反応)もあるから,水の反応は必ずしも必要でない。 また,一審原告は,「フィラー表面には水素結合された水の分子が- 86 -何層にもわたって存在しているため,加熱による反応が促進されやすくなるのに対し,シートを試料として用いた場合には,シリコーンポリマーの存在によって,直接の加熱が妨げられたり,処理フィラーがシリコーンポリマーに囲まれる結果,フィラー界面に存在する水分子が処理フィラーそのものに比べて少なくなっていることが考えられる」と主張する。しかし,被告製品で表面処理して使用している熱伝導性フィラーであるαアルミナは,水酸化アルミニウムを焼成して作られ,かつ,平滑な表面となるため比表面積が小さく っていることが考えられる」と主張する。しかし,被告製品で表面処理して使用している熱伝導性フィラーであるαアルミナは,水酸化アルミニウムを焼成して作られ,かつ,平滑な表面となるため比表面積が小さく,水分吸着量も少ないのが特徴である。また,甲77で測定したのは表面処理アルミナ(被覆率80%)であるが,この被覆率のアルミナは水に浮く,すなわち,疎水性表面を有しているから,フィラー表面に水分子が吸着していない。したがって,本件訴訟で問題となっている表面処理フィラーについて,「フィラー表面には水素結合された水の分子が何層にもわたって存在している」とは考えられない。 ウ「本件製法は,ドライコンセントレート法やインテグラルブレンド法と実質的に同じであること」の主張に対し(ア)一審被告が採用している製造方法は,本件明細書(甲2,3)の段落【0032】に記載されている「直接処理法」である。このことは,乙28(一審被告取締役H作成に係る平成19年11月13日付け陳述書)の2頁表2~3中の番号2~4に「シランカップリング剤処理熱伝導性フィラー」と記載されていることからも明らかである。乙28は,一審被告のGR-nについての製造方法の説明書であるが,他の製品についても,処理フィラーは全量「直接処理法」で製造されたものである。その理由は,「直接処理法」以外の方法は,シランカップリング剤をフィラーに所定量正確に反応させることができないうえ,シリコーンゴムにボイドが発生してしまい(本件明細書[甲2,3]段落【001- 87 -8】),製品にはならないからである。 (イ)加えて,本件明細書(甲2,3)の段落【0019】に記載されている「インテグラルブレンド法」,「ドライコンセントレート法」については,具体的実施例はなく,本件特許発明1の構成と作用効果が得 (イ)加えて,本件明細書(甲2,3)の段落【0019】に記載されている「インテグラルブレンド法」,「ドライコンセントレート法」については,具体的実施例はなく,本件特許発明1の構成と作用効果が得られるのか確かめられていない。 「インテグラルブレンド法」は,シランカップリング剤モノマーをそのまま直接シリコーンゴム原料に添加して混合するだけである(本件明細書[甲2,3]段落【0023】)ので,熱伝導性フィラーとは反応せず,シリコーンゴム原料の加熱硬化工程においてボイドが発生してしまい(本件明細書[甲2,3]段落【0018】),本件各特許発明の放熱シートは得られない。 「ドライコンセントレート法」とはいかなる方法かについて,本件明細書中に説明はないが,一審原告が主張する「ドライコンセントレート法」は,「多量のシランカップリング剤を無機フィラーに吸収させておいて,未処理の無機フィラーで希釈して用いる方法である」(甲50,268頁25行~26行)。一審被告が使用している表面処理フィラーに物理吸着しているカップリング剤の量は,たとえ存在してもごく少量(最大でも960ppm)である。それゆえ,甲50のドライコンセントレート法の説明とは一致しない。過剰の未反応シランカップリング剤を多量に含む処理フィラーをシリコーンゴム原料に加えると,加熱処理の際にメタノールの発生に起因するボイドが発生し,ゴムは得られない(本件明細書[甲2,3]段落【0018】)。 (ウ)一審被告は,シリコーンゴム原料に直接カップリング剤を添加していないし,処理フィラーから脱離したもの,又は,容易に脱離しうる態様で吸着したカップリング剤を存在させていない。 被告製品に使用されている処理フィラーは,全量「直接処理法」で製- 88 -造されたものであり,これは本件明細書(甲2,3 ,又は,容易に脱離しうる態様で吸着したカップリング剤を存在させていない。 被告製品に使用されている処理フィラーは,全量「直接処理法」で製- 88 -造されたものであり,これは本件明細書(甲2,3)の段落【0025】~【0027】(【化3】)及び【図1】(b)記載のように安定した結合であるから,脱離しないし,容易に脱離しうる態様でもない。すなわち,本件明細書(甲2,3)の【図1】(b)には,フィラーの表面に「-O-Si-」と記載されており,これはシロキサン結合であり,ガラスやシリコーンゴムの結合と同一であるから,一旦形成されたシロキサン結合は安定であり,簡単には分解しない。そして,本件明細書(甲2,3)の段落【0025】,【0027】には,本件各特許発明でいう「表面処理」とは,化学結合の一つであるシロキサン結合によって,シランカップリング剤を熱伝導性無機フィラーに結合させることである旨が記載されているから,シランカップリング剤が簡単に外れるような「表面処理」は,そもそも本件各特許発明でいう「表面処理」に含まれず,本件各特許発明の実施例(本件明細書[甲2,3]の段落【0032】~【0054】)を当業者は追試できず,本件各特許発明の作用効果(本件明細書[甲2,3]の段落【0055】~【0059】)も奏しない。すなわち,未処理フィラーにシランカップリング剤が「物理吸着」しても,シランカップリング剤は容易に脱離してしまうから,未処理フィラー同士の凝集が起こってしまい,未処理フィラー同士の凝集が起こると,再分散はしにくいから,本件各特許発明の作用効果は発揮できないことになる。したがって,本件各特許発明の技術的範囲に属しない。 なお,甲83(一審原告従業員Aの平成22年1月18日付け実験報告書)の実験においては,第1のフィラー系で,カップリ 果は発揮できないことになる。したがって,本件各特許発明の技術的範囲に属しない。 なお,甲83(一審原告従業員Aの平成22年1月18日付け実験報告書)の実験においては,第1のフィラー系で,カップリング剤を被覆率にして166%,第2のフィラー系で,被覆率にして142%を使用しているところ,フィラーの表面処理に効果を発揮するカップリング剤は,被覆率で100%までであり,それ以上の量(過剰量)は,シリコ- 89 -ーンと混合した組成物の系の粘度を低下させる効果のみを発揮するから,このような組成物系で,粘度を判定基準にして,直接法とインテグラルブレンド法を比較するのは正しくなく,また,直接法とインテグラルブレンド法の比較を粘度だけで行っていることも正しくない。そこで,乙85では甲83で提示された配合でシートを作成し,そのシートのゴム硬度,引っ張り強さ,引き裂き強さ,圧縮永久歪みを測定し,さらに,被覆率毎に作成したシートの150℃エージング試験を行ったところ,インテグラルブレンド法は,無処理フィラーによる組成物に比べて,若干の効果は認められるが,多くの特性では,直接処理法とはかけ離れ,むしろ,無処理フィラーの場合に近くなることが分かった(乙85[一審被告従業員C作成に係る平成22年2月23日付け実験報告書])。 エ「処理フィラーから未処理フィラー全部へのカップリング剤の脱離・移行の実証」の主張に対し(ア)一審原告は,甲49(一審原告従業員Aの平成21年5月30日付け実験報告書)により,カップリング剤の脱離・移行が起こると主張している。しかし,以下のとおり,この主張は失当である。 a甲49は,カップリング剤の脱離・移行が起こっている現象を示しているのではない。処理フィラーが凝集して内部に空気を含み,空気の浮力により浮いている現象を示 ,以下のとおり,この主張は失当である。 a甲49は,カップリング剤の脱離・移行が起こっている現象を示しているのではない。処理フィラーが凝集して内部に空気を含み,空気の浮力により浮いている現象を示しているだけである。 未処理フィラー凝集体の場合,フィラー表面は親水性であるから,水に接すると,水は空気と置換するように凝集構造内部に浸透して行くため,速やかに水中に沈降する(乙50[一審被告従業員E作成に係る平成21年6月25日付け陳述書(10)],図3)。 一方,処理されたフィラーの表面は撥水性なので,水と接してもフィラー表面で水が撥かれ,さらに水は表面張力が大きいので凝集構造- 90 -の内部に入ることができない。そこで,処理フィラーの凝集構造内部の空気は水と置換し得ず,その結果,表面処理フィラー凝集体の密度は水よりも軽くなって浮かぶ(乙50,図4)。 処理フィラーと未処理フィラーをポリエチレン袋内で混合すると,3次凝集体が生成し,この構造の中に含まれる空気によって密度が水よりも小さくなる。表面処理フィラーの2次凝集構造が未処理フィラーの2次凝集構造の外側を取り囲む構造となり,表面処理フィラーの2次凝集構造による撥水効果によって,水は3次凝集構造中に入り込むことができない状態となる。すなわち,空気を排出することができない。そのために水面に浮く(乙50,図5)。 そのような3次凝集構造は,水中で激しく振れば破壊され,大半は処理フィラーの2次凝集体と未処理フィラーの2次凝集体になる。その結果,処理フィラーの2次凝集体は水中に分散(浮遊)するものの,未処理フィラーの2次凝集体は速やかに沈降する(乙50,実験(9))。甲49は,水の上に粉体を軽く置き,激しく振っていないので,粉体は3次凝集構造のまま保持され,内部に水が入り込めず,内部に空気 ,未処理フィラーの2次凝集体は速やかに沈降する(乙50,実験(9))。甲49は,水の上に粉体を軽く置き,激しく振っていないので,粉体は3次凝集構造のまま保持され,内部に水が入り込めず,内部に空気を多量に含むため,水に沈降しないのである。 以上のとおり,甲49は,カップリング剤の脱離・移行が起こっている現象を示しているのではない。 b甲49は,各々の処理フィラーにはどの程度の未反応カップリング剤が存在していたのかについて,分析はされていない。未反応カップリング剤がどの程度含まれているか不明であるにもかかわらず,未処理フィラーと混合すると水に浮いたから,結果的にすべてのフィラーが処理フィラーに容易に転換されるというのは,飛躍しているとしかいいようがない。 一審被告は実験1として,甲49のサンプル③及び④に相当する処- 91 -理フィラーの未反応シランカップリング剤(ヘキシルトリエトキシシラン)を定量したところ,③につき0.43ppm,④につき0.28ppm検出され,次に実験2として,シランカップリング剤をどの程度反応させたら撥水性になるかを調べたところ,一審原告がいう撥水性は,熱伝導性フィラーに対してシランカップリング剤を5000ppm以上を処理させた場合に発現し,4000ppm以下では撥水性は発現しないことがわかった(乙65[一審被告従業員E作成に係る平成21年11月11日付け陳述書(14)])。このことは,万一,わずかな未反応シランカップリング剤がシリコーンゴム原料中に存在したとしても,未処理フィラーが本件各特許発明でいう「表面処理」されたことにはならないことを意味する。 c本件明細書(甲2,3)の段落【0020】及び【0021】には,「100~150℃で1時間乾燥させる」と記載され,段落【0027】には,「更に熱伝導性無機 されたことにはならないことを意味する。 c本件明細書(甲2,3)の段落【0020】及び【0021】には,「100~150℃で1時間乾燥させる」と記載され,段落【0027】には,「更に熱伝導性無機フィラー1の表面の水酸基と反応して,熱伝導性無機フィラー1の表面は図1に示すような,疎水性の長鎖のアルキル基2で覆われるものである」と記載されているように,フィラーの表面にカップリング剤を反応させるためには加熱が必要である。しかし,甲49の実験は加熱しておらず,反応させていないことは明らかである。したがって,甲49は本件明細書に支持されていない勝手な実験というべきであり,信用できない。 (イ)一審原告は,処理フィラーと未処理フィラーは極めて密であり,万遍なく衝突し,未処理フィラーもカップリング処理されると主張している。 しかし,一審原告のモデルはあまりにも簡略化しすぎており,本質から外れている。 第1の疑問は,ガラス玉とガラス玉の間には水分子は存在しないの- 92 -か,という点である。「ガラス玉は重いから,攪拌中にガラス玉間の水は排除されるはず」などというのは,科学を無視した乱暴な議論である。熱伝導性シリコーン組成物では粒子間のマトリックスは,水より粘度が数百倍~数千倍高いシリコーンポリマーである。そのような高粘度のポリマーを攪拌時の力でガラス玉とガラス玉の間から排除できるはずはない。 第2の疑問は,ポリマーマトリックスへのフィラーの混合のメカニズムを無視している点である。フィラーは,一審原告が主張するモデルのようなガラス玉ではない。ポリマー原料に添加される前に,個々のフィラー粒子同士は凝集しているのである。処理フィラー及び未処理フィラーをシリコーンゴム原料に混合した直後の3次凝集体は,初めから弱い吸着力ながらもフィラー粒子同士が接 原料に添加される前に,個々のフィラー粒子同士は凝集しているのである。処理フィラー及び未処理フィラーをシリコーンゴム原料に混合した直後の3次凝集体は,初めから弱い吸着力ながらもフィラー粒子同士が接触しているが,3次凝集体の間にはシリコーンポリマーが存在する点が重要である。ここで混合を続けて行くと,3次凝集体の粒子間に存在するシリコーンポリマーを介して伝えられる剪断力によって,3次凝集体は破壊して2次凝集体となる。ここでも,処理フィラーの2次凝集体の中で処理フィラーの1次粒子同士は接触しているが,処理フィラーと未処理フィラーは接触する機会がほとんどないことが重要である。最終的に組成物の中で2次凝集体が完全に破壊されるかは,フィラーの性質や粒子径によって異なるので一概にはいえないが,ここでも,1次粒子間にはシリコーンポリマーが介在している。そして,もうひとつ重要なのは,フィラーの単一粒子径は0. 5~50ミクロン程度であるのに対し,シリコーンポリマーの断面直径は0.001ミクロン程度しかないことである。したがって,たとえ粒子同士が接触しているように見えても,実際にはその間にシリコーンポリマーが介在し,排除されることはない。 ポリマーへのフィラーの分散プロセスを図示すると,以下のとおりで- 93 -ある。 一審原告が主張するガラス玉のモデルは,シリコーンポリマー内でのフィラーの詰まり具合を示すという試み自体を否定はしないが,それだからといって,「フィラー同士が常に衝突するような状態である」という結論が正しいとは思えない。加えて,衝突したからカップリング処理されるとの結論を導くことは,飛躍という以外に無い。 (ウ)一審原告は,甲52(一審原告従業員Aの平成21年6月19日付け陳述書)を根拠に,GR-kから検出されたシランカップリング剤の リング処理されるとの結論を導くことは,飛躍という以外に無い。 (ウ)一審原告は,甲52(一審原告従業員Aの平成21年6月19日付け陳述書)を根拠に,GR-kから検出されたシランカップリング剤の含有量をGR-kシート1グラム中のシランカップリング剤分子数に換算し,それと未処理フィラーの数を比較して論じている。 しかし,被告製品のシランカップリング剤処理フィラーは,シランカップリング剤が脱離したり移行することは無いから,前提からして誤りである。 加えて,このような議論は,本件各特許発明の技術思想と矛盾してい- 94 -る。本件明細書(甲2,3)の段落【0018】には,「熱伝導性無機フィラー1の表面にシランカップリング剤の単分子層を形成するのに必要なシランカップリング剤量の,0.1~15倍とするのが好ましいものである。ここで0.1倍に満たないと,シランカップリング剤による処理効果が少なくなる。」と記載されており,フィラーを表面処理する際のシランカップリング使用量は「0.1倍以上」と明記されている。 したがって,GR-k中のフリーのシランカップリング剤分子が,未処理フィラーの表面を「0.1倍以上」覆っているのかを論じるべきである。しかるに,甲52では,未処理フィラー表面をどの程度覆えるかではなく,シランカップリング剤の分子数と,未処理フィラーの粒子数を論じている。シランカップリング剤の分子数と,未処理フィラーの粒子数との関係は,本件明細書には記載が一切なく,どの程度の範囲であれば本件各特許発明の作用効果が奏されるかは不明であるから,論じること自体ができない。かえって,甲52は,一見して「0.1倍」にははるかに至らないことを示しているが,これでは,本件各特許発明の作用効果は発揮されない。 さらに,大粒径フィラーが真球であると仮定し,GR- 体ができない。かえって,甲52は,一見して「0.1倍」にははるかに至らないことを示しているが,これでは,本件各特許発明の作用効果は発揮されない。 さらに,大粒径フィラーが真球であると仮定し,GR-k用処理フィラーから,ヘキシルトリエトキシシランが最大0.03ppm存在すると仮定し,この全部が未処理フィラーに「化学結合」したと仮定した場合,粒子1個当たりカップリング剤分子は,57万個(a)になる(乙72[一審被告従業員E作成に係る平成21年11月30日付け陳述書(18)],10頁16行~17行)。被覆率100%に必要なカップリング剤分子数は,約15.5億個(b)である(乙72,10頁13行~14行)。a/bは,0.00037となるから,被覆率で示すと,0.037%である(乙72,10頁21行)。被覆率0.037%は,きわめて僅少と言わざるを得ない。しかし,同じ体積の物体の表- 95 -面積は,物体が球の時に最小となる。そして,実際の大粒径フィラーの比表面積は,真球であると仮定した表面積よりはるかに大きいのである。そこで,実際の比表面積の数値を使用して,被覆率を計算し直したところ,被覆率は0.0019%となり,乙72の1/20程度になった。なお,乙15は被告製品の一般的な技術説明をしたものであって,GR-kの個別具体的技術を説明したものではないから,大粒径フィラーをGR-kが使用していないからといって,非難される筋合いのものではない。 オ一審原告の乙25に基づく主張に対し一審原告は,乙25(一審被告従業員Cの平成19年7月23日付け実験報告書)に基づき,本件各特許発明にいう「表面処理」には物理吸着にとどまるものも含むと主張するが,この主張は,以下のとおり禁反言の法理又は信義則に違反し,許されない。 (ア)本訴の乙25は,本件各 報告書)に基づき,本件各特許発明にいう「表面処理」には物理吸着にとどまるものも含むと主張するが,この主張は,以下のとおり禁反言の法理又は信義則に違反し,許されない。 (ア)本訴の乙25は,本件各特許発明が乙7(特開平9-111124号公報)から進歩性がないことを実証するために,一審被告が無効審判事件(無効2007-800043)において提出した実験報告書(無効審判事件における甲8)である。 (イ)乙7には,「表面処理」することは直接記載されていないが,シランカップリング剤(オクタデシルトリメトキシシラン)をシリコーンゴム原料に添加することが記載されており,一審被告は,乙25により,本件各特許発明の実施例のシリコーンゴム原料に,乙7に記載のシランカップリング剤(オクタデシルトリメトキシシラン)を添加すれば,本件明細書(甲2,3)の【0055】に記載されている作用効果と同様の作用効果が得られることを実証した。 したがって,熱伝導性シリコーンゴム組成物にオクタデシルトリメトキシシランを架橋剤として添加すれば,オクタデシルトリメトキシシラ- 96 -ンは熱伝導性充填剤に物理吸着し,物理吸着も本件各特許発明にいう「表面処理」というのであれば,処理フィラーに該当することになる。 架橋剤がフィラーの表面処理剤としても反応することは,本件特許出願前から当業者には自明であった(乙86[特開平5-105813号公報],乙87[特開平8-269334号公報])。 (ウ)一審原告は,無効審判事件の平成19年5月18日付け「審判事件答弁書」(乙64)14頁下4行~15頁3行において,「…甲3発明(被告注:乙7に記載されている発明)において,『オクタデシルトリメトキシシラン』は架橋剤として添加されるものであることは,甲3の記載から明らかであるところ,架橋 ~15頁3行において,「…甲3発明(被告注:乙7に記載されている発明)において,『オクタデシルトリメトキシシラン』は架橋剤として添加されるものであることは,甲3の記載から明らかであるところ,架橋剤とは,樹脂に三次元架橋構造を付与するための添加剤であって,架橋反応に使われた架橋剤は,ポリマー分子中にとりこまれる。したがって,架橋剤として添加されるオクタデシルトリメトキシシランは,架橋反応に使われ,ポリマー分子中にとりこまれるものであり,充填剤の表面処理に使われるものではない。」と主張し,審決もこれを支持し(甲21,35頁9行~32行),審決取消訴訟判決もこれを支持し(甲45,95頁18行~24行),上記審決は確定した。上記の「充填剤の表面処理に使われるものではない。」は,「充填剤の物理吸着に使われるものではない。」と同義である。 (エ)このような経緯があるにもかかわらず,本件訴訟において,一審原告が乙25を持ち出し,本件各特許発明にいう「表面処理」には物理吸着にとどまるものも含むと主張することは,無効審判における上記主張と相反するものというほかない。 したがって,一審原告が上記主張をすることは,禁反言の法理又は信義則に違反し,許されないものというべきである。そして,このように解することは,特許法70条1項とは無関係に導き出されるものであり,同条項があるからといって,このような主張が許容されるものでな- 97 -い。 (3)GR-nの組成に関する原判決の認定の誤り-争点1に関しア原判決の「算定方法①」についての判示(61頁下6行~65頁4行)につき(ア)原判決は,一審被告の製造方法について,「被告は,特許法104条の2に基づき,GR-nの製造方法を記載したものとして製造標準処方(乙26,27)を提出するところ,これが信用で 4行)につき(ア)原判決は,一審被告の製造方法について,「被告は,特許法104条の2に基づき,GR-nの製造方法を記載したものとして製造標準処方(乙26,27)を提出するところ,これが信用できるものであれば,これに基づいてGR-nの組成を算出する方法(算出方法①)が最も直截な方法といえる。そこで,まず製造標準処方の信用性について検討する。」とした上,「被告は,自ら提出した製造標準処方はGR-nのものであることに間違いない旨主張する。しかし,製造標準処方には『用途』として『GR-n』との記載があるものの,原材料名は製造メーカー名も含めて全て黒塗りされており,他にも黒塗り部分が少なからず存在し,その内容を窺い知ることができないから,これらの書証の信用性をにわかに肯定することはできないというべきである。」と認定している(61頁22行~62頁6行)。 しかし,乙26,27には,原料メーカー及び商品名を含む重要なノウハウが記載されているから,原審において,一審被告はマスキングのある書類を提出し,マスキングのない書類は,弁論の際に裁判所に開示した。一審原告は他の会社にも本件特許のライセンスを許諾しているとのことであるから,一審被告にとって,乙26,27は重要な技術ノウハウとして開示できないという事情は現在に至っても何ら変っていない。 加えて,乙28(一審被告従業員H作成に係る平成19年11月13日付け陳述書)の2頁表2及び表3には,乙26及び27の内容を説明している。それにもかかわらず,「内容を窺い知ることができない」と- 98 -の原判決の批判は,理解に苦しむ。 (イ)原判決は,「…『添加剤-A~Cは顔料等であり,熱伝導性に影響するものではありません。』と述べられている。そうすると,乙28陳述書によれば,シリコーンポリマー(Siキ 批判は,理解に苦しむ。 (イ)原判決は,「…『添加剤-A~Cは顔料等であり,熱伝導性に影響するものではありません。』と述べられている。そうすると,乙28陳述書によれば,シリコーンポリマー(Siキャタリストを含む。)に配合された材料は,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーのほか,熱伝導性に関係のない顔料である添加剤AないしCのみであるから,未処理の熱伝導性無機フィラーは充填されていないことになる。しかし,被告は,GR-nには0.1vol%の未処理の熱伝導性無機フィラーが充填されていると主張しているのであるから(別紙被告製品の組成),乙28陳述書の内容は被告の主張と矛盾することになる。」(62頁下3行~63頁7行)と認定し,「…被告としては酸化鉄を熱伝導性無機フィラーとして捉えていなかったのではないかという疑念が払拭できない。そうすると,乙28陳述書の添加剤B及びC(酸化鉄)が被告の主張する未処理の熱伝導性無機フィラーに当たるものとして,乙28陳述書と被告の主張との上記矛盾が解消されたといえるのかどうかについても,少なからず疑問の残るところといわざるを得ない。」(64頁7行~12行)と認定している。 しかし,GR-nに配合しているFeOとFeOはいずれも酸化 鉄粉(乙26と乙27における「FSG7185A」のNo.7と「FSG7185B」のNo.6,乙30[一審被告従業員H作成に係る平成19年12月11日付け第2陳述書]の2頁表4の添加剤BとC)であり,その熱伝導率は,鉄(約80W/m・K。乙42[日本化学会編「化学便覧基礎編Ⅱ」丸善株式会社昭和54年3月20日第4刷発行985頁])に比べ,およそ1/2~1/6程度小さい値を示すとされている(乙41[秋山友宏ほか「緻密な酸化鉄成型体の熱伝導率」鉄と鋼第77年第 基礎編Ⅱ」丸善株式会社昭和54年3月20日第4刷発行985頁])に比べ,およそ1/2~1/6程度小さい値を示すとされている(乙41[秋山友宏ほか「緻密な酸化鉄成型体の熱伝導率」鉄と鋼第77年第2号(平成3年2月)]の46頁右欄下3~下2行,49- 99 -頁左欄下5~下4行)。また,アルミナの熱伝導率は,約36W/m・K(上記乙42)である。そうすると,酸化鉄粉も「熱伝導性フィラー」といえる。 被告製品のGR-nには0.1vol%の未処理の熱伝導性無機フィラー(酸化鉄粉)が充填されており(原判決の別紙「被告製品の組成」),乙28陳述書の内容は誤記であった。誤記の理由は,一審被告は酸化鉄を着色剤として添加しており,熱伝導性の目的で添加しているのではないからである。なお,一審被告は酸化アルミのみで80.6vol%添加しており(原判決の別紙「被告製品の組成」のGR-nの欄),酸化鉄顔料を含めなくても,本件各特許発明の技術的範囲に属しない。 (ウ)原判決は,「…乙28陳述書に示されるGR-nの組成(乙28陳述書の【表4】)に基づいてGR-nの比重を計算すると,3.4031(4213.100÷1238.01=3.4031:ただし,被告の主張によれば3.4029。)となるところ,かかる結果は,争いのない事実としてのGR-nの比重(3.355~3.358)と異なることになる。」(64頁13行~17行)と認定し,「以上からすると,GR-nの製造標準処方やこれを説明する乙28陳述書及び乙30陳述書は,これを信用することができないというべきであり,これに依拠する被告の主張は採用できない」(65頁2行~4行)として,一審被告の主張を排斥している。 しかし,乙28は原料の仕込量から求めた計算値であり,甲8(一審原告従業員A作成に係る平成19年6月 に依拠する被告の主張は採用できない」(65頁2行~4行)として,一審被告の主張を排斥している。 しかし,乙28は原料の仕込量から求めた計算値であり,甲8(一審原告従業員A作成に係る平成19年6月22日付け「実験報告書」),甲23(株式会社ダイヤ分析センター作成に係る報告書)及び甲24(株式会社住化学分析センター作成に係る報告書)は製品から測定した比重であるから,完全に同一にならないのは当然である。 - 100 -両者が相違する原因としては,次のことが考えられる。 ①シリコーンゴム製造工程に不可避的に含まれる気泡の影響がある。 ②重量で約95%(体積割合で80.6vol%)添加している酸化アルミフィラー中に凸凹や空洞があり,この中に気泡が含まれる。 上記①の事実を確認するため,乙43(一審被告従業員C作成に係る平成21年6月2日付け実験報告書)を提出する。同報告書によれば,シリコーンゴム製造時に脱泡処理を強化することにより,シリコーンゴムの比重は高くなることが確認されている。このことは,シリコーンゴム中に微細な気泡があることを証明している。また,気泡は不可避的に発生したと思われ,通常の生産条件では完全に除去することは困難である。さらに,脱泡を強化しても,仕込計算値までの高い値(約3.403)は得られず,真空による脱泡処理では取ることができない酸化アルミフィラー中の微細な凸凹や空洞中に含まれる気泡の存在があると推認される。 上記②の事実は,乙35(東研X線検査株式会社作成に係る2008年2月18日付け「X線検査報告書」)2枚目の図1及び乙37(一審被告従業員E作成に係る平成20年2月27日付け陳述書(5))3頁図1から明らかである。同図には,シリコーンゴム内に黒色の泡のように見えるミクロンオーダーの微細な気泡が観察される。さらに 37(一審被告従業員E作成に係る平成20年2月27日付け陳述書(5))3頁図1から明らかである。同図には,シリコーンゴム内に黒色の泡のように見えるミクロンオーダーの微細な気泡が観察される。さらに,乙37の4頁2行~3行には,「…画像の気泡の量から考えて,1vol%以上は存在するものと思われた。」と記載され,また,同頁9行~10行には,「…画像の気泡の量及びその面積比から1vol%以上は存在すると推認される。」と記載されている。 また,シリコーンゴム内に気泡が存在することは,フィラーが凝集し- 101 -たままであると水に浮くという事実(乙50,51)からも説明できる。 以上からすると,シリコーンゴム内には1vol%以上の気泡が存在することは明らかである。 加えて,原料の例えば熱伝導性フィラーは粉体であり,多量の空気を含んでいるが,計量時には空気の重さは測定しない。空気の重さは,地上においては計ろうとしても計れない。シリコーンゴム原料を計る場合も,同様に空気の重さは計らないから,仕込量からの計算値には空気の重さは入っていない。ところが,製品から比重を出すには,まず製品の重さを計量し(A[g]),次に,製品を4℃の水の中に入れ,多くなった水の体積を求め(B[cm]),計算式「A/B」によって比重 を出す。ここで,製品に気泡を含む場合,全く気泡を含まない製品に比べて水を押しのける体積(B[cm])が大きくなるから,比重は軽 いものとなる。したがって,気泡が存在する場合は,その存在を無視することはできず,原料の仕込量から求めた比重と,製品から測定した比重とが異なることは当然である。 (エ)原判決は,「…空気は断熱性の高いものであるから,これを1vol%も含むものは熱伝導性シリコーンゴムとして不良品ではないかという疑問が生じる…」 ら測定した比重とが異なることは当然である。 (エ)原判決は,「…空気は断熱性の高いものであるから,これを1vol%も含むものは熱伝導性シリコーンゴムとして不良品ではないかという疑問が生じる…」と認定している(64頁20行~22行)。 しかし,乙45(一審被告従業員E作成に係る平成21年6月2日付け陳述書(6))のとおり,一審原告が甲5(一審原告が平成15年6月2日付けで特許庁に提出した意見書)15頁8行~14行において引用したMaxwell-Euckenの式によれば,シリコーンゴム製造工程において,不可避的に気泡が含まれても,その程度の量では熱伝導性には影響しないことは明らかである。加えて,粒子表面が微細な凸凹で,表面に気泡が存在したとしても,粒子同士が接触していれば熱伝導には影響し- 102 -ない(乙15,2頁図1)。 原判決64頁22行~23行においては,「…甲第27号証による軟X線写真検査装置による観察でも気泡の存在は見受けられない。」と認定している。 しかし,甲27は倍率を「6倍」(甲27[一審原告従業員A作成に係る平成20年1月17日付け陳述書3],2頁下4行)としており,この倍率では小さすぎて気泡は見えない。甲27で用いた装置は,「最大拡大率300倍」(乙38の「仕様」の欄6段目)であり,一審原告は,意図的に気泡が見えない倍率を選択している。 (オ)原判決は,「…GR-nには1vol%以上の気泡が存在すると推認される旨結論づける乙第37号証についても,仮に乙第37号証で検証された試料が不良品ではないGR-nであったとしても,気泡含有量の計算を行わないで,画像のみから気泡が1vol%以上存在するとは即断し難い。」と認定している(64頁23行~65頁1行)。 しかし,微細な気泡の定量は,現在の分析装置によっても容易なこ ,気泡含有量の計算を行わないで,画像のみから気泡が1vol%以上存在するとは即断し難い。」と認定している(64頁23行~65頁1行)。 しかし,微細な気泡の定量は,現在の分析装置によっても容易なことではなく,一審被告も最善を尽くして定量を試みたが成功していない。 原判決が微細な気泡の定量まで求めているのは,酷というものである。 イ原判決の「算定方法②」についての判示(65頁5行~68頁5行)につき(ア)原判決は,「…乙11報告書では,試料の加熱前の重量及び加熱後の残渣重量が全く記載されておらず,唐突に5wt%という結論しか記載されていない。しかも,5wt%という数値の有効数字は1桁にすぎず,本件では,これに分析サンプルNの比重3.4及びシリコーンゴムの比重0.97(いずれも有効数字は2桁)を用いて乗除演算しているのであるから,結論として導き出された『82.5』という数値の有効数字も1桁であることに変わりはない。」(67頁16行~22行)と- 103 -認定している。 しかし,乙11に熱重量測定チャートを追加した乙46(株式会社テルムによる乙11の再発行試験報告書)最終頁のチャートの左上欄「Sample」に「59.212mg」と記載され,これが加熱前の試料の重量である。また,このチャートの中央下側に「-4.900%」と記載されており,この値は減量%を示している。すなわち,「1-0. 049=0.951」が試料の加熱後の残渣の割合であり,上記試料の加熱前の重量「59.212mg」を乗じると「59.212mg×0.951=56.3106mg」となる。これが試料の加熱後の残渣重量である。したがって,乙46には試料の加熱前の重量及び加熱後の残渣重量は示されている。 また,乙47(一審被告従業員E作成に係る平成21年6月2日付け陳述書(7 となる。これが試料の加熱後の残渣重量である。したがって,乙46には試料の加熱前の重量及び加熱後の残渣重量は示されている。 また,乙47(一審被告従業員E作成に係る平成21年6月2日付け陳述書(7))によれば,減量が5%(0.05)(有効1桁)であったということは,信頼範囲は0.045~0.055であることを意味する。この範囲の値をWeightLossに代入してフィラー体積を計算すると,次のとおりとなり,いずれも80体積%を超え,本件各特許発明の技術的範囲(40~80vol%)に属さないという結論が得られる。 減量フィラーvol%0.04584.2%0.05082.5%0.05580.7%(イ)なお,一審原告は,甲59~61により,残渣中にアルミナ以外の成分が含まれると主張する。 a甲59は,シリコーンゲルの熱重量分析結果を示し,甲61はその考察である。 しかし,乙60(一審被告従業員E作成に係る平成21年9月7日- 104 -付け陳述書(12))の「以上のとおり,甲59は,フィラーを含まないシリコーンゲル(東レダウコーニング製SE1885)を窒素雰囲気下で熱重量分析しており,この分析データを使用して乙46の残渣成分にシリコーン残渣が含まれているとの甲61の2頁10行目の結論は誤りである。この理由は,上記グラフから明らかなとおり,フィラーを含むシリコーンゲルの熱分解残渣量の検量線に,フィラーを含まないシリコーンゲルの熱分解残渣量は乗らないからである。」(2頁14行~19行)の記載から明らかなとおり,甲59の数値を用いること自体が誤りであり,甲61の考察もまた誤りである。 b甲60には,どのような加熱をしたのかを示すチャートがついていない。熱分析をするに当たっては,例えば,甲59の2枚目の赤色線データ,乙4 いること自体が誤りであり,甲61の考察もまた誤りである。 b甲60には,どのような加熱をしたのかを示すチャートがついていない。熱分析をするに当たっては,例えば,甲59の2枚目の赤色線データ,乙46の3枚目のデータが必須である。甲60にはこのようなデータがないから,どのような加熱をしたのか不明である。乙60の「上記グラフの600℃は,シリコーン分子の熱安定性を大きく超える温度である。酸素が存在しないから600℃であっても酸化分解は起こらない。しかしこの温度条件では,有機基の分解,特にC-H結合の分解が無視できなくなると思われる。このC-H分解が起こるとシリコーンは最終的にケイ素と酸素と炭素からなる無機物質になり,900℃まで加熱してもそれ以上分解しない可能性が高い。600℃での熱分解にはこのような疑問が大いにある。原告は,窒素雰囲気下での熱重量分析の残渣にケイ素成分が残ることを証明したいはずである。それならば,『乙46に準じた熱分解』ではなく,『乙46と同一条件での熱重量分析』の残渣についてICP分析をすべきである。」(3頁のグラフ下の1行~9行)との指摘のとおりである。 また,甲73では,組成上90%以上をアルミナが占めるGR-nの中でケイ素成分が0.14%残存したという結果が示されているか- 105 -ら,シリコーン組成物の分析技術を持つ技術者ならば,その前処理方法を疑うはずである。前処理方法の適否を調べる最初の方法は,甲73で前処理した焼成後の重量を測定し,再現性を確認することである。しかし,甲73では,焼成後の残渣重量の記録がなく,「焼成」条件の適否を確認する方法がない。また,分析に供したGR-nの重量の記載がなく,不明である。さらに,甲73では,熱重量分析装置で「焼成」を行ったとは記載されていないから,別の装置で「焼成 ,「焼成」条件の適否を確認する方法がない。また,分析に供したGR-nの重量の記載がなく,不明である。さらに,甲73では,熱重量分析装置で「焼成」を行ったとは記載されていないから,別の装置で「焼成」を行ったのではないかとの疑いが残る。以上のように,甲73の内容は疑わしい点が多く,証明力に欠ける。 c一審原告は,甲61の4頁の計算によれば,フィラーは80vol%以下になると主張する。 しかし,一審原告は,乙30で開示した組成からアルミナフィラーの重量だけを取り出しているだけであって,他の添加物を無視している。添加剤Bと添加剤Cは金属酸化物である。熱重量分析で加熱しても金属酸化物に重量変化がないことは,アルミナと同様である。さらに,添加剤Aは金属元素を含む化合物である。添加剤Aが熱重量分析で全量残ることはないが,金属元素は酸化物として残る。それらを考慮すれば,乙47のベースになる熱重量分析の残渣である95wt%(誤差を考慮して94.5~95.4wt%)が信用性に乏しいとはいえない。 ウ原判決の「算定方法③」についての判示(68頁6行~77頁18行)につき(ア)原判決は,70頁1行~12行において,最終製品から分析することの妥当性を是認し,「被告は,甲25陳述書は気泡が存在しないという前提で行っているが,GR-nには1vol%以上の気泡が存すると主張するところ,前記(1)エのとおり,GR-nに1vol%以上もの- 106 -気泡が存するとは即断し難い(ただし,乙第37号証によれば,気泡が存在する可能性も完全に否定することはできない。)」と認定している(70頁14行~18行)。 しかし,前記乙43(実験報告書)及び乙37によれば,シリコーンゴム中には気泡が1vol%以上存在していることは明らかである。 (イ)原判決は,「…他方で と認定している(70頁14行~18行)。 しかし,前記乙43(実験報告書)及び乙37によれば,シリコーンゴム中には気泡が1vol%以上存在していることは明らかである。 (イ)原判決は,「…他方で,被告が主張する『1.0273』という比例定数は,被告が主張するGR-n中の処理フィラーの体積分率と未処理フィラーの体積分率から求めた値であるところ(82.8÷80.6=1.0273),本件においては処理フィラーと未処理フィラーの各体積分率が争いになっているのであるから,被告の主張する数値を前提に比例定数を導き出しても,客観的な裏付けのある数値にはならないというべきである。」と認定している(71頁4行~9行)。 しかし,処理前の熱伝導性無機フィラーが80.6vol%,シランカップリング剤が2.2vol%,これらの合計が82.8vol%から導き出せる「比例定数1.0273」は事実である。一審原告が,これに代わるべき比例定数を使用せず,処理フィラーの体積分率として「V2+0.022」(甲25[一審原告従業員A作成に係る平成20年1月17日付け陳述書1]の2頁6行)を使用したことは誤りである。なぜならば,万一,処理前の熱伝導性無機フィラーの量が変われば,それに比例してシランカップリング剤の量も変わるからである。 (ウ)原判決は,「…気泡の存在自体は完全に否定できないが,1vol%以上存在するとまでは認め難いことから,この点をもって甲26陳述書の信用性を完全に覆滅させるものとまではいえない。」と認定している(72頁下1行~73頁3行)。 しかし,前記乙43,37によれば,シリコーンゴム中には気泡が1vol%以上存在していることは明らかである。 - 107 -(ウ)原判決は,乙36陳述書の上記計算結果によっても本件カップリング剤を除く熱伝導性無機 ,37によれば,シリコーンゴム中には気泡が1vol%以上存在していることは明らかである。 - 107 -(ウ)原判決は,乙36陳述書の上記計算結果によっても本件カップリング剤を除く熱伝導性無機フィラーの体積分率は80vol%を下回る,と認定している(74頁12行~下1行)。 しかし,乙36(一審被告従業員E作成に係る平成20年2月27日付け陳述書(4))は,その1頁下2行~2頁2行に書いたように,①気泡の有無問題とは無関係である甲25,26の基本的誤りを指摘しており,また,②GR-n中に気泡が含まれていないという一審原告の主張を認めているのではなく,気泡が含まれていないと仮定しても成り立たないことを立証したのである。このような仮定の計算式は,GR-n中に気泡が1%程度以上含まれていることが明らかになれば,当然に成り立たない。 (エ)原判決は,76頁16行~77頁14行において,甲28陳述書について認定し,「そもそも,被告は,甲25陳述書については,気泡の存在を考慮していないとして,その信用性を争い,他方において,甲28陳述書については,気泡を計算に入れたことを論難しているのであって,その主張は一貫性を欠くものといわざるを得ない。」(77頁14行~18行)と結論付けている。 しかし,得られるGR-n中の処理フィラー体積%を計算するに際して,甲28のように気泡の重さも含めた体積%を結論として採用した点は,受け入れることはできない。組成物発明は,重量で示すのが一般的である。ポリマーとフィラーから構成される組成物もしかりである。そのような組成物に空気が持ち込まれることを防ぐことは非常に難しく,実際にはいくつかの例外を除いて空気を含有したままになっている。通常このような空気は組成物の構成成分としては扱われない。GR-nにおける気泡(空 物に空気が持ち込まれることを防ぐことは非常に難しく,実際にはいくつかの例外を除いて空気を含有したままになっている。通常このような空気は組成物の構成成分としては扱われない。GR-nにおける気泡(空気)も同じである。甲28で仮定した気泡の体積分率が1vol%でも,2vol%でも,3vol%でもよいが,フィラー体- 108 -積%は空気を含めずに計算しなければならない。甲28の2頁表1の最下段では,空気の真比重(重量)まで計算式に加えているが,この空気の真比重(重量)は,宇宙空間の無重力状態と,地球の海面とを比較したときに初めて必要になるのであり,このような計算式はおかしい。そこで,空気を含めずに計算してみると,乙48(一審被告従業員E作成に係る平成21年6月2日付け陳述書(8))のようになり,分析値から計算しても,空気を重量組成に含めずにGR-n中のフィラー体積%を計算すれば,たとえ気泡の体積%が1vol%であっても,GR-n中のフィラー体積%は80%を下回ることは決してない。 なお,一審原告は,乙48による計算について,気泡が1vol%の場合における気泡を含めずに計算されるフィラーの体積分率は,80. 451vol%であるから,小数点以下を四捨五入すると「80vol%」であり,本件各特許発明の構成要件Bの「40vol%~80vol%」を充足することになると主張するが,この主張は,一審原告が,本件特許の出願経過において「40vol%~80vol%」と限定したことに照らすと,禁反言に反する主張である。 (4)被告製品(ただし,GR-n及びGR-iは除く。)は均等侵害の第5要件を充足しているとする主張(予備的主張2)に対し-争点2に関しア原判決の別紙「被告製品の組成」に記載されているように,被告製品のGR-b,GR-d,GR-k,GR iは除く。)は均等侵害の第5要件を充足しているとする主張(予備的主張2)に対し-争点2に関しア原判決の別紙「被告製品の組成」に記載されているように,被告製品のGR-b,GR-d,GR-k,GR-l及びGR-mは,カップリング剤処理フィラーの量が,いずれも「40vol%~80vol%」から大きく外れている。その上,カップリング剤を除いたカップリング剤処理フィラーの量は,さらに低いものとなる。 このように,数値が大きく外れている場合は,均等論が適用される余地はない。 イ一審原告は,平成14年2月4日付けの手続補正書(乙3)において,- 109 -本件明細書(甲2,3)の段落【0008】につき,「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー1を分散させて成り,熱伝導性無機フィラー1が熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%である」と記載したから,これは,シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー1が熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%であるとの意識的限定をしたものにほかならない。加えて,一審原告は,平成14年2月4日付けの意見書(乙4)において,「40vol%~80vol%」の構成を加えたことによる特有の作用効果,例えば,「相溶性」,「スラリー粘度の上昇防止」,「成形加工性の向上」を主張している。これも意識的限定に当たる。したがって,均等論の第5要件(意識的限定等の特段の事情がないこと)に該当しない。 ウなお,本件各特許発明の「表面処理」は,本件各特許発明の本質的部分であり,「物理吸着」では,フィラーからカップリング剤が簡単に外れてしまうから,本件明細書の段落【0055】に記載の作用効果を奏することはない。そうすると,均等論の第1要件(特許発明 明の本質的部分であり,「物理吸着」では,フィラーからカップリング剤が簡単に外れてしまうから,本件明細書の段落【0055】に記載の作用効果を奏することはない。そうすると,均等論の第1要件(特許発明の本質的部分)及び第2要件(作用効果の同一性)に該当しない。 (5)実施料相当の損害額について-争点3に関し特許法102条3項の実施料相当の損害額については,一審原告が「8%」を主張し,一審被告が「3%」を主張したのに対し,原判決は「6%」と認定した。 しかし,①警告も受けていないのに,一審被告の方から自発的・自主的に実施許諾を求めていったこと,②原判決の認定によっても,補正書提出の消極的な通知義務があると認められる事案であり,「6%」は,約定実施料(3%)に比べて余りにも高額に過ぎる。せいぜい「5%」が妥当である。 (6)相殺の抗弁を否定した原判決の誤り-争点4に関し- 110 -原判決が判示する各理由への反論は次のとおりである。 ア一審被告の第2次的主張及び第3次的主張に対する判断(原判決83頁下6行~86下5行)につき(ア)原判決は,「本件実施契約締結時点では本件特許は未だ出願段階であったから,補正により特許請求の範囲が減縮されることがあり得ることは当然に想定できたはずであるのに,本件実施契約書上,特許請求の範囲が補正により減縮された場合について何らの定めもされていない。」という(84頁16行~19行)。 しかし,「実施契約書上,何の定めもない」ということは,実質的理由たり得ない。 (イ)原判決は,「…未だ出願段階であるが故に特許出願が拒絶されたり,補正により特許請求の範囲が減縮されることもあり得ることを前提として,実施料率が特許権発生後に比して低率(1%)に抑えられていると解され,これとの均衡においても,特許出願が拒絶され が拒絶されたり,補正により特許請求の範囲が減縮されることもあり得ることを前提として,実施料率が特許権発生後に比して低率(1%)に抑えられていると解され,これとの均衡においても,特許出願が拒絶された場合や特許請求の範囲が減縮された場合のリスクは被許諾者において負担すべきである。」という(84頁20行~24行)。 特許出願中の発明が出願公開された後に出願人に付与される補償金請求権(特許法65条1項)は,特許法が特に認めた請求権であるとするのが通説であり,不法行為法上の損害賠償請求権ではない。また,請求権を行使するには原則として警告を要し,さらに,補償金も実施料相当額にとどまる。以上のことは,上記公開中の出願人の地位が,登録後に比して本質的に脆弱であることを示している。 したがって,出願中の発明の実施料が特許登録後の実施料よりも低率なのは当然であって,そのことと,クレームの減縮に伴う既払実施料の返還請求の可否という問題とは次元の異なる事柄であって,論理的必然性はない。 - 111 -(ウ)原判決は,「…補正によって確定的に減縮の効果が生じるわけではなく,その後の補正によっても変動し得るものであるから,補正を出願の一部取下げと同視することはできず,本件補正書の提出日に遡って減縮の効果が生じると解することはできない。」という(85頁4行~7行)。 「その後の補正によっても変動し得るものである」ことは原判決のとおりであるが,現実に,補正により特許請求の範囲を減縮したことは,一部取下げと同視することに何ら支障はない。 (エ)原判決は,「…被告は,最高裁判所平成4年(オ)第364号同5年10月19日第三小法廷判決を引用するが,同判例は減縮の遡及効について判断したものではないから,本件に適切でない。」という(85頁15行~17行)。確かに,当 高裁判所平成4年(オ)第364号同5年10月19日第三小法廷判決を引用するが,同判例は減縮の遡及効について判断したものではないから,本件に適切でない。」という(85頁15行~17行)。確かに,当該最高裁判決は,減縮の遡及効について判断したものではないが,減縮の将来効については論じている。したがって,本件についていえば,被告の第3次的主張(既払実施料の一部に係る不当利得返還請求権)には関係するものであり,最高裁判決の判旨から,「補正後については,実施料の支払義務がない」との結論が導かれる。 (オ)原判決は,「(不返還条項)の文言上,契約締結後に生じたあらゆる事由がこれに含まれることになるから,本件における特許請求の範囲の減縮も,文言上『その他いかなる理由』に含まれることになる。」という(85頁下1行~86頁3行)が,この点は形式的理由に過ぎない。 (カ)原判決は,「…本件実施契約上,被告が原告に対して実施品の態様を開示する義務は定められておらず,基本的に被告の責任において当該実施品が『許諾製品』に該当するかを判断することが前提されている…」という(86頁6行~9行)。 - 112 -この点は原判決が指摘するとおりである。しかし,だからといって,「特許権が発生している以上,被告の支払う実施料を受領することは,むしろ通常のことといえる。」(86頁9行~10行)という結論に飛躍することは誤りであって,その間に,「許諾者である原告が,補正手続の事実と補正内容とを被告に通知した場合には」という前提条件が入らなければならない。 被許諾者が補正の通知を受けた際に,①依然として侵害と考え,実施料の支払を継続したが,後に無効特許と判明することもあれば,②非侵害と考え,実施料の支払を中止したが,クレーム解釈で判断が一致せず,許諾者が勝訴すること 知を受けた際に,①依然として侵害と考え,実施料の支払を継続したが,後に無効特許と判明することもあれば,②非侵害と考え,実施料の支払を中止したが,クレーム解釈で判断が一致せず,許諾者が勝訴することがあるかもしれない。①又は②のいずれの場合にせよ,このような場合には,被許諾者が,補正の通知に対する判断リスクを負うのである。 イ第4次主張に対する判断(原判決86頁下4行~88頁12行)につき(ア)原判決は,「…原告が本件補正書を提出したというだけでは直ちに本件実施契約上の権利義務に影響を及ぼすものではないから,そもそも補正の事実を通知する実益に乏しく,信義上,かかる義務を認めることはできない。」という(86頁下1行~87頁3行)。 しかし,本件補正の場合,一部取下げと同視できるものであり,「非侵害」として補償金請求のおそれもなく,一審被告も実施料を支払わずに済んだわけである。また,限定された数値ぎりぎりの微妙な被告製品については,①製造販売を中止するとか,②全く紛れのない数値の製品に設計変更することも可能であった。このように,まさに「実施契約上の権利義務に影響を及ぼすもの」なのである。したがって,許諾者にとっては,「通知する実益に乏しい」かもしれないが,被許諾者にとっては,「大いに実益がある」のである。 そして,本件実施契約には,許諾者(一審原告)にとってのみ利益が- 113 -ある不返還条項が規定されているのであるから,そのこととのバランス上,許諾者に,補正の事実を通知すべき信義則上の義務が課せられると解すべきである。 (イ)原判決は,「(実施)契約書外において通知義務を認める旨の合意の存在を推認させる具体的事情は何ら認められない…」という(87頁16行~17行)が,「信義則上ないし条理上,通知義務がある」というのが一審被告の 「(実施)契約書外において通知義務を認める旨の合意の存在を推認させる具体的事情は何ら認められない…」という(87頁16行~17行)が,「信義則上ないし条理上,通知義務がある」というのが一審被告の主張である。 (ウ)原判決は,補正により特許請求の範囲が減縮されることは「当然に想定できる事柄」であるという(87頁下6行~下4行)。しかし,「誤記の訂正」とか,「明瞭でない記載の釈明」の補正のケースはそれなりにあるとして,「請求項の削除」や「特許請求の範囲の減縮」の補正のケースは,必ずしも「当然」とはいえないのではないか。 また,原判決は,「…減縮があった場合に許諾者から通知して欲しいのであれば,その旨を契約書に明記しておくべき…」という(87頁下4行~下2行)が,それをいうなら,許諾者としても,「補正をしても,通知する義務を負わない」旨の同意を被許諾者から取り付けて,契約書に明記すべきといえるのではないか。 さらに,原判決は,「かかる交渉を経ずに許諾者一般にかかる義務を負わせることはむしろ許諾者に予期しない不利益を被らせるおそれがある。」という(87頁下2行~下1行)。しかし,「許諾者に予期しない不利益」として,具体的にどのようなものが考えられるのか。「何もない」と,一審被告は考える。かえって,被許諾者こそ,「予期しない不利益」を被るおそれがある。例えば,本件において,もし一審被告が「40vol%~80vol%」との減縮補正を補正書の提出時点で通知されておれば,第1に,①GR-nシリーズのような,上限数値付近の紛らわしい製品の製造販売を中止するとか,②全く疑義の生じないも- 114 -のへの設計変更をするといった対応策をとることは十分可能だったし,また,第2に,警告も受けていないのに自発的・自主的に出願中の発明のライセンスを求めてい とか,②全く疑義の生じないも- 114 -のへの設計変更をするといった対応策をとることは十分可能だったし,また,第2に,警告も受けていないのに自発的・自主的に出願中の発明のライセンスを求めている一審被告のことであるから,当然,上記①又は②のような対策をとっていたはずである。 (エ)原判決が許諾者への問合せとか特許公報等の参照を要求する(87頁下1行~88頁3行)のは,被許諾者に酷である。原判決に従えば,被許諾者(一審被告)は,毎日のように,許諾者への問合せとか,厖大な特許公報を参照しなければいけない,ということになり,非現実的であるし,被許諾者の負担が大き過ぎる。 他方,許諾者(一審原告)にとっては,一審被告以外の者との実施契約は他に存在してもせいぜい1~2社であろうから,ほんの一挙手一投足の労力で済むことである。仮に,原判決のように,被許諾者が自ら許諾者に問い合わせるべきであるというのであれば,許諾者は,被許諾者から,毎日のように補正の有無の問い合わせを受けることとなろうが,許諾者にとっても,その方が煩瑣であって,本件実施契約の両当事者いずれにとっても合理的とはいえない。 (7)明確性要件違反等を理由とする本件各特許発明の新たな無効理由-争点5に関しア原判決は,70頁1行~12行において,最終製品から分析することの妥当性を是認した。 しかし,既に(3)で述べたように,熱伝導性シリコーンゴム製造時には不可避的に気泡が含まれてしまい,気泡を含んだ熱伝導性シリコーンゴム製品の比重から分析することは,不可能である。加えて,原判決76頁16行~77頁18行では,甲28を採用してGR-nの組成を特定しているが,甲28の2頁表1の最下段の「X5」は「空気の真比重」,3頁①式右端の「X5×V5」は空気の重さであり,宇宙の無重力空間と地上 6行~77頁18行では,甲28を採用してGR-nの組成を特定しているが,甲28の2頁表1の最下段の「X5」は「空気の真比重」,3頁①式右端の「X5×V5」は空気の重さであり,宇宙の無重力空間と地上と- 115 -の比較をしている。本件各特許発明を実施するのは地上であるから,宇宙の無重力空間と比較することは誤りであり,このような式でないと物を特定できないのであれば,本件各特許発明は不明瞭である(平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項2号違反)。 イ本件特許発明1は,「物の発明」であり,その物自体から分析できなければならない。 ところが,本件特許発明1の構成要件Bの「40vol%~80vol%」は,その物自体からは分析できないという重要な欠陥がある。すなわち,当業者には理解できないという不明瞭さがある(平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項2号違反)。 本件特許発明2は,本件特許発明1に従属しているので,本件特許発明2についても同様の欠陥がある。 ウ本件特許発明1の構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は,構成要件Aの「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」を示すのではないとすれば,本件明細書中には処理フィラーと未処理フィラーを混合してもよいとの記載はなく,かえって,本件明細書(甲2,3)の段落【0008】には,「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー1を分散させて成り,熱伝導性無機フィラー1が熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%である」と記載されており,同一符号まで付与しているのであるから,後者は前者を指し,「40vol%~80vol%」も「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー1」を指すとしか理解できない。段落 されており,同一符号まで付与しているのであるから,後者は前者を指し,「40vol%~80vol%」も「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー1」を指すとしか理解できない。段落【0008】は「課題を解決するための手段」の段落であるから,クレームと同じように重要な箇所であり,この定義は明細書全文及び図面全部に及ぶ。実施例も全量処理フィラーが60vol%(段落【0032】)であるから,第三者は,後者は前者を指すとしか理解できない。 - 116 -したがって,本件特許発明1は,サポート要件(平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項1号),実施可能要件(同36条4項),明確性要件(同36条6項2号)に違反して無効である。 エ本件特許発明1の構成要件Aの「一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」は,どのようにして分析できるのか,本件明細書中には記載がない上,現在の科学技術でも分析することができない。一審原告は,「一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」を分析することができないから,「間接事実による推認により立証する」というのであり,直接立証はしていない。直接立証ができないからである。 本件明細書(甲2,3)の段落【0025】~【0027】には,次のように記載されている。 「ここで,上記のようにしてシランカップリング剤にて表面処理が成された熱伝導性無機フィラー1の表面の様子は,図1に示すようになる。すなわち,シランカップリング剤としてYSi(OMe)3(OMeはメトキシ基,Yは炭素数6以上の脂肪族長鎖アルキル基を示す)を用いるとすると,シランカップリング剤は,下記の式のようにYSi(OH)3まで加水分解された後,数個の分子が脱水反 (OMe)3(OMeはメトキシ基,Yは炭素数6以上の脂肪族長鎖アルキル基を示す)を用いるとすると,シランカップリング剤は,下記の式のようにYSi(OH)3まで加水分解された後,数個の分子が脱水反応によりオリゴマー化する。 【化3】更に熱伝導性無機フィラー1の表面の水酸基と反応して,熱伝導性無機- 117 -フィラー1の表面は図1に示すような,疎水性の長鎖のアルキル基2で覆われるものである。」と記載されている。このように,本件明細書に明確に記載されているのであるから,被告製品が上記【化3】のようになっていることを,一審原告は直接立証すべきである。 したがって,本件特許発明1は,サポート要件(平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項1号),実施可能要件(同36条4項1号),明確性の要件(同36条6項2号)に違反して無効である。 オ乙7には,熱伝導性シリコーンゴム組成物にオクタデシルトリメトキシシランを架橋剤として添加すること,熱伝導性無機フィラーの量はシリコーンゴム組成物全量に対して18.6~75.5vol%であることが記載されており,オクタデシルトリメトキシシランをシリコーンゴム原料と共に混合すれば,オクタデシルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)は熱伝導性無機フィラーに物理吸着する。そうすると,本件特許発明1と乙7に記載された発明とは,「表面処理」の点を除き,すべての構成が一致する。 乙7には,本件特許発明1の「表面処理」は直接記載されていない点が相違するが,一審原告は,物理吸着も本件特許発明1にいう「表面処理」であると主張し,シリコーンゴム製造時に組成物中にシランカップリング剤が存在すれば未処理フィラーを含むフィラーの全量がカップリング処理される(「本件事実」)と自白するのであるし,架橋剤がフィラーの表面処 と主張し,シリコーンゴム製造時に組成物中にシランカップリング剤が存在すれば未処理フィラーを含むフィラーの全量がカップリング処理される(「本件事実」)と自白するのであるし,架橋剤がフィラーの表面処理剤としても反応することは,本件特許出願前から当業者には自明であった(乙86[特開平5-105813号公報],乙87[特開平8-269334号公報])から,本件特許発明1は進歩性のみならず新規性も欠如して無効である。 乙7の段落【0047】の「実施例5」において,「メチルトリメトキシシラン」に代えて,段落【0026】に記載の「オクタデシルトリメト- 118 -キシシラン」を使用したシリコーンゴムから6ppmのオクタデシルトリメトキシシランが検出された(乙66[株式会社日東分析センターが作成した2009年11月13日付けの分析結果報告書],乙67[一審被告従業員E作成に係る平成21年11月13日付け陳述書(15)])。この事実は,甲46,47,63,64及び74と同じであり,シリコーンゴムにシランカップリング剤が存在すれば「フィラーの全量がカップリング処理される」という一審原告の主張と同一である。 乙7には,放熱シートが記載されており(段落【0034】,【0035】),本件特許発明2を充足するから,本件特許発明2も新規性,進歩性が欠如して無効である。 なお,前記(2)オのとおり,無効審判事件について請求不成立審決が確定しているが,一審原告の当審における「予備的主張1」は,乙25(本件各特許発明が乙7から進歩性がないことを実証するために提出した実験報告書)の事実を認めることを前提としているから,上記無効審判事件とは「同一の事実」ではない。また,上記のとおり,実験に用いたシリコーンゴムからシランカップリング剤が6ppm検出された(乙66,67) 書)の事実を認めることを前提としているから,上記無効審判事件とは「同一の事実」ではない。また,上記のとおり,実験に用いたシリコーンゴムからシランカップリング剤が6ppm検出された(乙66,67)ので,この証拠は,上記無効審判事件とは「同一の証拠」にも該当しない。 カ既に述べたとおり,「物理吸着」ではシランカップリング剤がフィラーからは脱離しやすく,離脱すると未処理フィラー同士は凝集してしまい,本件各特許の作用効果を奏しないことになる。 したがって,本件各特許発明の「表面処理」に「物理吸着」を含むとすると,本件各特許は,サポート要件(平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項1号),実施可能要件(同36条4項),明確性要件(同36条6項2号)に違反して無効である。 第4当裁判所の判断- 119 - 当裁判所は,一審原告の本訴請求の一部を認容した原判決と異なり,本訴請求は全て理由がないと判断する。その理由は,以下に述べるとおりである。 なお,一審原告の本訴請求は,①被告製品の製造販売禁止(請求の趣旨第1項),②被告製品の廃棄(同第2項),③平成14年6月1日から平成15年10月1日までの未払実施料等の支払(同第3項),④平成15年10月2日から平成18年9月30日までの特許権侵害を理由とする損害賠償等の支払(同第4項)を各求めるものであるところ,上記①・②・④の各請求は被告製品が本件各特許発明の技術的範囲に属することを前提とするものである。一方,上記③の未払実施料等の請求は,平成12年10月1日に締結された実施許諾契約(本件実施契約)の解釈適用に関するものである。 そこで,以下の2において被告製品が本件各特許発明の技術的範囲に属するかについて検討し,次いで3において本件実施契約の解釈適用について検討することとする。 契約)の解釈適用に関するものである。 そこで,以下の2において被告製品が本件各特許発明の技術的範囲に属するかについて検討し,次いで3において本件実施契約の解釈適用について検討することとする。 被告製品は本件各特許発明の技術的範囲に属するか(1)構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」の解釈一審被告及び原判決は,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」は「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」と限定解釈すべきであると主張又は判断し,これに対し一審原告は上記のような限定解釈をすべきでないと主張するので,まず上記構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」の解釈について判断する。 ア特許請求の範囲の記載(ア)a一審原告が平成10年1月27日に出願し(特願平10-14565号),平成11年8月3日に公開された公開特許公報(特開平11-209618号,乙1)における本件特許の請求項1は,下記のとおりのものであった。 記- 120 -「【請求項1】シリコーンゴムに,下記一般式(A)及び(B)で示されるシランカップリング剤から選択されたシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成ることを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム組成物。 【化1】YSiX(A) YSiX(B) X=メトキシ基又はエトキシ基Y=炭素数6個以上の脂肪族長鎖アルキル基又はフェニル基」bその後,一審原告は,平成13年11月27日付けで特許庁審査官から拒絶理由通知(乙2)を受け,その中で請求項1の組成物に関し各成分の配合量(組成比)が記載されていない等の指摘を受けたことから,平成14年2月4日付けで明細書全文の補正(乙3)を行った。上記補正後の【請求項1】は,前記第2,2(1)のとおり,下記のようなものであった(下 組成比)が記載されていない等の指摘を受けたことから,平成14年2月4日付けで明細書全文の補正(乙3)を行った。上記補正後の【請求項1】は,前記第2,2(1)のとおり,下記のようなものであった(下線部は補正部分)。 記「【請求項1】シリコーンゴムに,下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成り,熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%であることを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム組成物。 【化1】YSiX(A) X=メトキシ基又はエトキシ基Y=炭素数6個以上18個以下の脂肪族長鎖アルキル基」c一審原告の上記出願は,上記bの補正後の内容に基づいて平成14- 121 -年2月26日に特許査定を受け,平成14年3月22日に登録された(甲2)。 なお,本件各特許発明の構成要件Bは,上記【請求項1】のうち「熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%である」との部分である。 (イ)上記のとおり,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」の文言の前に「同」,「当該」又は「該」といった,構成要件Aの「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」であることを示す接頭語は付されていない。しかし,同記載において,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」が構成要件A(「シリコーンゴムに,下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成り,」「YSiX(A)X=メトキシ基 又はエトキシ基Y=炭素数6個以上18個以下の脂肪族長鎖アルキル基」)のそれとは別の物である,すなわちカップリング処理されていないものも含めた熱伝導性無機フィラーの総 (A)X=メトキシ基 又はエトキシ基Y=炭素数6個以上18個以下の脂肪族長鎖アルキル基」)のそれとは別の物である,すなわちカップリング処理されていないものも含めた熱伝導性無機フィラーの総量と解する根拠となる積極的な記載も認められない。また,構成要件Bが構成要件Aの直後に配置され,しかも,「熱伝導性無機フィラー」との文言が構成要件Aのそれと近接して使用されていることからすれば,後者(構成要件B)が前者(構成要件A)を指している,すなわち構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」が構成要件Aのカップリング処理された熱伝導性無機フィラーを指すと読むのがどちらかといえば自然な解釈といえる。 イ発明の詳細な説明の記載等(ア)証拠(甲2,3)によれば,本件明細書の「発明の詳細な説明」及び「図面」には,以下の記載があることが認められる。 a発明の属する技術分野「本発明は,トランジスター,コンピューターのCPU(中央演算- 122 -処理装置)等の電気部品と放熱器との間に配置され,電子・電気部品から発生する熱を放熱器に伝導する放熱シートを形成するために好適な熱伝導性シリコーンゴム組成物及びこの熱伝導性シリコーンゴム組成物にて成形された放熱シートに関するものである。」(段落【0001】)b従来の技術・「近年パソコン,ワークステーション等のクロック数の増加や,集積度の増加に伴い,電子部品4からの発熱量が増加している。またパワーIC等の発熱も様々な問題を抱えている。これらの電子部品4からの発熱を効率よく放熱するためには,図2(a)に示すように半田バンプ等の実装用電極8を介して基板6に実装された電子部品4に放熱器5を設けることが一般的に行なわれている。ここで電子部品4と放熱器5との間に図2(c)のように空隙7が生じた場合,この空隙7 に半田バンプ等の実装用電極8を介して基板6に実装された電子部品4に放熱器5を設けることが一般的に行なわれている。ここで電子部品4と放熱器5との間に図2(c)のように空隙7が生じた場合,この空隙7が熱伝導の大きな抵抗となるため,放熱器5と電子部品4との間に放熱シート3を配置し,図2(b)のように放熱器5と電子部品4の接合面の微妙な反りやうねりに放熱シート3を沿わせることによって,空隙7が生じることを防ぎ,電子部品4から発する熱を放熱器5に効率良く伝導させるようにしている。」(段落【0002】)・「従来このような放熱シート3のための材料として,柔軟性を持ったゴムシート,両面に接着剤をコーティングしたテープ,あるいは接着剤やグリース等のような形態のものが用いられており,いずれの形態のものにおいても熱伝導性フィラーをマトリックス樹脂に混合分散することが行なわれている。この場合マトリックス樹脂としては,耐熱性,耐寒性に優れ,広い温度範囲で良好な圧縮復元性を有するシリコーンゴムが用いられることが多く,また熱伝導性フ- 123 -ィラーとしては,アルミナ,酸化マグネシウム,窒化ホウ素等の高熱伝導性の無機フィラーを用いるものであり,この熱伝導性無機フィラーをマトリックス樹脂に高充填量で混合分散することによって得られる熱伝導性シリコーンゴム組成物を加熱成形して放熱シート3を形成することが行なわれている。ここで,熱伝導性フィラーは放熱シート3の熱抵抗をできる限り低減するために用いられるものであり,電子機器の小型化,放熱器5の小型化,更には電子部品4の発熱量の増加の傾向に伴い,電子部品4から発生した熱をできる限り効率よく放熱器5から放熱させようとするものである。」(段落【0003】)c発明が解決しようとする課題・「しかし熱伝導率を上昇 の発熱量の増加の傾向に伴い,電子部品4から発生した熱をできる限り効率よく放熱器5から放熱させようとするものである。」(段落【0003】)c発明が解決しようとする課題・「しかし熱伝導率を上昇させるために単にシリコーンゴムに対する熱伝導性無機フィラー充填量を増加させると,熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形スラリー粘度が上昇し,成形加工性が低下したり,成形したシートの硬度が高硬度化することになる。このように放熱シート3が高硬度化すると,電子部品4や放熱器5の接合面の微妙なうねりや反りに対しての追随性が低下し,放熱器5と電子部品4との間の空隙7を充分に埋めることができないという問題が発生する。またこのような高硬度の放熱シート3を微妙なうねりや反りに追随させようとすると,電子部品4と放熱シート3の間にかなりの荷重を掛ける必要があり,電子部品4に対して大きなダメージを与える恐れがある。」(段落【0004】)・「このような放熱シート3の高硬度化の問題に対しては,樹脂中の主剤と硬化剤との組成比を変えることにより,すなわち樹脂の架橋密度を下げることにより,低硬度化と高充填化を両立することが可能であるが,そのような場合,放熱シート3のゴム弾性を低下さ- 124 -せ,圧縮永久歪み測定では歪みが著しく大きくなったり,引裂強度が低下したりという新たな問題が生じることになる。」(段落【0005】)・「また熱伝導性無機フィラーの充填率が高い場合には,ゴムの機械物性の耐熱信頼性を著しく低下させる。例えば150~200℃で長時間放置する際の機械特性変化のデータを測定してみると,熱伝導性無機フィラーの充填率を大きくすると,ゴム硬度が大きく上昇すると共に,材料が脆化する(硬く脆くなる)。従って熱伝導性無機フィラーの充填率を大きくすると,ゴム硬度が のデータを測定してみると,熱伝導性無機フィラーの充填率を大きくすると,ゴム硬度が大きく上昇すると共に,材料が脆化する(硬く脆くなる)。従って熱伝導性無機フィラーの充填率を大きくすると,ゴム硬度が大きくなると共に,引裂強度,引張強度が低下するものである。」(段落【0006】)・「本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり,熱伝導性無機フィラーを高充填化しても,成形物に柔軟性と耐熱機械特性が付与される熱伝導性シリコーンゴム組成物及び放熱シートを提供することを目的とするものであり,更に具体的には,成形スラリーの粘度低下,成形物の圧縮永久歪みの低下(ゴム弾性の付与)及び引裂強度の向上の効果をもたらす熱伝導性シリコーンゴム組成物及び放熱シートを提供することを目的とするものである。」(段落【0007】)d課題を解決するための手段・「本発明の請求項1に記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物は,シリコーンゴムに,上記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー1を分散させて成り,熱伝導性無機フィラー1が熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%であることを特徴とするものである。」(段落【0008】)- 125 -・「また本発明の請求項5に記載の放熱シートは,請求項1乃至4のいずれかに記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物にて成形されることを特徴とするものである。」(段落【0012】)e発明の実施の形態(a)・「以下,本発明の実施の形態を説明する。本発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物は,シリコーンゴムに,シランカップリング剤にて表面処理された熱伝導性無機フィラーを分散させたものである。」(段落【0013】)・「シリコーンゴムとしては,二液型や一液型の液状タイプのシリ 成物は,シリコーンゴムに,シランカップリング剤にて表面処理された熱伝導性無機フィラーを分散させたものである。」(段落【0013】)・「シリコーンゴムとしては,二液型や一液型の液状タイプのシリコーンゲルやシリコーンゴム,熱加硫型のシリコーンゴム等の各種のタイプを使用することができる。」(段落【0014】)・「また熱伝導性無機フィラー1としては,アルミナ,シリカ,酸化マグネシウム,酸化ベリリウム,酸化チタン等の金属酸化物,窒化アルミニウム,窒化ホウ素,金属アルミニウム,銅粉等を用いることができるが,金属酸化物を用いると,カップリング剤の処理効率が高くなるものであり,上記フィラーの表面の一部又は全部を酸化させることにより,カップリング剤の処理効率を向上することもできる。またこの熱伝導性無機フィラー1の形状としては,特に限定するものではなく,球状であっても針状であっても板状であっても構わないものである。ここで熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラー1の配合割合は,熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%とするものであり,40vol%に満たないと高い熱伝導率を得ることが困難であり,80vol%を超えると熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物がさらに硬く脆くなる恐れがあって好ましくない。」(段落【0015】)- 126 -・「ここで熱伝導性無機フィラー1に対する上記のシランカップリング剤の処理量は,〔熱伝導性無機フィラーの添加量(g)〕×〔熱伝導性無機フィラーの比表面積(m/g)〕÷〔熱伝導性 無機フィラーの最小被覆面積(m/g)〕の式で示される熱伝導 性無機フィラー1の表面にシランカップリング剤の単分子層を形成するのに必要なシランカップリング剤量の,0.1~15倍とするのが好まし 無機フィラーの最小被覆面積(m/g)〕の式で示される熱伝導 性無機フィラー1の表面にシランカップリング剤の単分子層を形成するのに必要なシランカップリング剤量の,0.1~15倍とするのが好ましいものである。ここで0.1倍に満たないと,シランカップリング剤による処理効果が少なくなる。また15倍を超えるとシランカップリング剤のコストが大きくなり,また熱伝導性シリコーンゴムの加熱処理を行う際にメタノールの発生に起因すると思われるボイドが発生する恐れがある。」(段落【0018】)・「以下に本発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物を形成する方法を説明する。熱伝導性無機フィラー1へのシランカップリング剤による表面処理は,熱伝導性無機フィラー1への直接処理法,インテグラルブレンド法,ドライコンセントレート法等を用いることができる。直接処理法には,乾式法,スラリー法,スプレー法等があり,インテグラルブレンド法としては,直接法,マスターバッチ法等があるが,このうち乾式法,スラリー法,直接法が良く用いられる。」(段落【0019】)・「乾式法にて処理を行なう場合は,例えば所定量のシランカップリング剤を水又はアルコール水溶液(水/アルコール=1/9)で2~5倍に希釈したものを均一になるまで攪拌する。一方所定量の熱伝導性無機フィラー1をヘルシェンミキサー等の装置に仕込んで攪拌し,この攪拌されている熱伝導性無機フィラー1に上記のシランカップリング剤溶液を数十分かけて滴下又はスプ- 127 -レー噴霧する。シランカップリング剤全量を添加したら,この状態のまま10分間攪拌を続ける。このようにして処理した熱伝導性無機フィラー1を浅いトレー等に均一に拡げ,100~150℃で1時間乾燥させる。乾燥後,熱伝導性無機フィラー1によっては凝集するのでボールミル ま10分間攪拌を続ける。このようにして処理した熱伝導性無機フィラー1を浅いトレー等に均一に拡げ,100~150℃で1時間乾燥させる。乾燥後,熱伝導性無機フィラー1によっては凝集するのでボールミル等で粉砕する。」(段落【0020】)・「またスラリー法にて処理を行なう場合は,例えば所定量の熱伝導性無機フィラー1に水又はアルコール水溶液(水/アルコール=1/9)を加えてスラリー状にし,所定量のシランカップリング剤をスラリー状の熱伝導性無機フィラー1に添加する。添加後数十分攪拌を続けた後,デカンテーション又は濾過を行い,シランカップリング剤で処理した熱伝導性無機フィラー1を取り出す。このようにして処理した熱伝導性無機フィラー1を浅いトレー等に均一に拡げ,100~150℃で1時間乾燥させる。乾燥後,熱伝導性無機フィラー1によっては凝集するのでボールミル等で粉砕する。」(段落【0021】)・「またインテグラルブレンド法の直接法にて処理を行なう場合は,シリコーンゴム中に熱伝導性無機フィラー1を混練する際にシランカップリング剤を同時に配合するものであるが,この場合はスラリー法や乾式法等の直接処理法の場合よりもシランカップリング剤の添加量を多くすることが好ましい。」(段落【0022】)・「シリコーンゴムと熱伝導性無機フィラー1を混練する際,シリコーンゴムとして一液型のものを用いる場合は,予めシランカップリング剤によるカップリング処理を施した熱伝導性無機フィラー1を混練機を用いてシリコーンゴムと混練することができ,- 128 -このようにして熱伝導性シリコーンゴム組成物を形成することができる。また上記のようにインテグラルブレンド法の直接法のように,未処理の熱伝導性無機フィラー,シランカップリング剤,及びシリコーンゴムをインテグラル て熱伝導性シリコーンゴム組成物を形成することができる。また上記のようにインテグラルブレンド法の直接法のように,未処理の熱伝導性無機フィラー,シランカップリング剤,及びシリコーンゴムをインテグラルブレンドすることもできる。 またシリコーンゴムとして二液型のものを用いる場合は,予め主剤と硬化剤にそれぞれ目的量の熱伝導性無機フィラー1を混合してスラリーを形成しておき,その主剤スラリーと硬化剤スラリーを混練して熱伝導性シリコーンゴム組成物を形成することができるものであり,また主剤と硬化剤を混合した後,熱伝導性無機フィラー1を添加してもよい。」(段落【0023】)・「上記のようにして形成される熱伝導性シリコーンゴム組成物は,スラリー状に形成されるものである。この熱伝導性シリコーンゴム組成物をシート状にプレス成形した後,加熱硬化させることによって,放熱シート3を形成することができる。またこのようにコンパウンドの状態で成形する他,ガラス布等の基材にシリコーンゴム組成物を含浸させた後成形したものを,加熱硬化させることもできる。このようにして形成される放熱シート3は,図2(a)に示すように基板6上に半田バンプ等からなる実装用電極8を介して実装されたIC,電源モジュール,パワートランジスタ,CPU等の電子部品4と,ヒートシンク,ヒートパイプ,筺体等の放熱器5と間に配置され,図2(b)のように放熱器5と電子部品4の接合面の微妙な反りやうねりに放熱シートを沿わせることによって,放熱器5と電子部品4の接合面に図2(c)に示すような熱抵抗の大きい空隙7が生じることを防ぎ,電子部品4から発する熱を放熱器5に効率良く伝導させるようにしている。」(段落【0024】)- 129 -・「ここで,上記のようにしてシランカップリング剤にて表面処理が成された熱 ことを防ぎ,電子部品4から発する熱を放熱器5に効率良く伝導させるようにしている。」(段落【0024】)- 129 -・「ここで,上記のようにしてシランカップリング剤にて表面処理が成された熱伝導性無機フィラー1の表面の様子は,図1に示すようになる。すなわち,シランカップリング剤としてYSi(OMe)(OMeはメトキシ基,Yは炭素数6以上の脂肪族 長鎖アルキル基を示す)を用いるとすると,シランカップリング剤は,下記の式のようにYSi(OH)まで加水分解された 後,数個の分子が脱水反応によりオリゴマー化する。」(段落【0025】)・「【化3】」(段落【0026】)・「更に熱伝導性無機フィラー1の表面の水酸基と反応して,熱伝導性無機フィラー1の表面は図1に示すような,疎水性の長鎖のアルキル基2で覆われるものである。このように親水性の熱伝導性無機フィラー1の表面が疎水性の長鎖のアルキル基2で覆われることにより,熱伝導性無機フィラー1とマトリックスのシリコーンゴムとの相溶性が著しく向上するものである。上記の式(A)中にYで表されているアルキル基の炭素数は,大きければ大きいほど熱伝導性無機フィラー1とマトリックスのシリコーンゴムとの相溶性が向上するものであるが,現時点ではこのアルキル基の炭素数が18のものまでが,安定に存在することが確認さ- 130 -れており,Yで表されているアルキル基の炭素数の上限は18となっている。」(段落【0027】)・「上記のように本発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物では,熱伝導性無機フィラー1とマトリックスのシリコーンゴムとの相溶性を向上することができるため,熱伝導性を高めるためにマトリックスのシリコーンゴムに熱伝導性無機フィラー1を高充填化しても,スラリー状の熱伝導性シリコーンゴム組 マトリックスのシリコーンゴムとの相溶性を向上することができるため,熱伝導性を高めるためにマトリックスのシリコーンゴムに熱伝導性無機フィラー1を高充填化しても,スラリー状の熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形スラリー粘度が上昇して成形加工性が低下するようなことがなく,熱伝導性無機フィラー1を高充填化して熱伝導性を高めた熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形加工性を向上することができる。」(段落【0028】)・「またシリコーンゴムとの相溶性を向上させたことにより,熱伝導性無機フィラー1同士の凝集を防ぎ,シリコーンゴムのマトリックス中での熱伝導性無機フィラー1の二次凝集の少ない良好な分散状態を可能とすることができ,従って熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の柔軟性が向上し,ゴム弾性が向上すると共に,引張強度,引裂強度,圧縮永久歪み特性を著しく改善することができる。」(段落【0029】)・「またシリコーンゴムとの相溶性を向上すると耐熱エージング(高温放置)によるシリコーンゴムの酸化を起こしにくくさせ,またこのときの熱伝導性無機フィラー1同士の凝集も,上記のように起こりにくいことから,この熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の,耐熱試験における機械特性変化を低減することができるものである。」(段落【0030】)・「従って本発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物で放熱シート3を形成する際の成形性を向上することができるものであり,ま- 131 -た形成された放熱シート3はゴム弾性が高いと共に強度が高いため,放熱器5と電子部品4との間に配置する際,電子部品4に強い荷重を掛けなくても放熱器5と電子部品4の接合面の反りやうねりを容易に埋めることができ,放熱器5と電子部品4の間に熱抵抗が高い空隙7が形成されることがなく,かつこの放熱シー する際,電子部品4に強い荷重を掛けなくても放熱器5と電子部品4の接合面の反りやうねりを容易に埋めることができ,放熱器5と電子部品4の間に熱抵抗が高い空隙7が形成されることがなく,かつこの放熱シート3は熱伝導性が高いので,電子部品4から放熱器5への熱伝導効率を向上し,電子部品4からの発熱を容易に放熱することができるものである。また耐熱試験における機械特性変化が低いため,電子部品4からの発熱による機械特性の変化が小さく,長期間に亘って安定して使用することができるものである。このように本発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物は,放熱シート3を形成するために好適なものである。」(段落【0031】)(b)実施例・「以下,本発明を実施例によって詳述する。 (実施例1)シリコーンゴムとして,主剤と硬化剤の二液よりなる付加反応型シリコーンゲル(東レダウコーニング社製,品番「SE1885」)を,熱伝導性無機フィラー1としてアルミナ(昭和電工社製)を,シランカップリング剤としてn-ヘキシルトリメトキシシランをそれぞれ用い,熱伝導性無機フィラー1に上記の直接処理法の乾式法にて,シランカップリング剤を,熱伝導性無機フィラー100重量部に対して0.5重量部の割合で処理し,シリコーンゴムの主剤と硬化剤のそれぞれに,この表面処理を施した熱伝導性無機フィラー1を,熱伝導性無機フィラー1の体積分率(Vf)が60%となるように配合した。この混練物の主剤と硬化剤を一対一の比率で混練して,スラリー状の熱伝導性シリコー- 132 -ンゴム組成物を得た。」(段落【0032】)・「またこの熱伝導性シリコーンゴム組成物を離型フィルムで挟み込み,プレス成形により2mm厚のシート状に成形し,これを120℃,2hの条件下で硬化させて,放熱シート3を形成した。 (実施例 】)・「またこの熱伝導性シリコーンゴム組成物を離型フィルムで挟み込み,プレス成形により2mm厚のシート状に成形し,これを120℃,2hの条件下で硬化させて,放熱シート3を形成した。 (実施例2~8,比較例1~9)シランカップリング剤及びその処理量を下記のようにした他は,実施例1と同様に行なった。」(段落【0033】)・「実施例2n-ヘキシルトリメトキシシラン1.0重量部(対フィラー100重量部)実施例3n-ヘキシルトリエトキシシラン0.5重量部(対フィラー100重量部)実施例4n-ヘキシルトリエトキシシラン1.0重量部(対フィラー100重量部)実施例5n-オクチルトリエトキシシラン0.5重量部(対フィラー100重量部)実施例6n-オクチルトリエトキシシラン1.0重量部(対フィラー100重量部)実施例7n-デシルトリメトキシシラン0.5重量部(対フィラー100重量部)実施例8n-デシルトリメトキシシラン1.0重量部(対フィラー100重量部)比較例1シランカップリング剤未処理比較例2メチルトリメトキシシラン0.5重量部(対フィラー100重量部)比較例3メチルトリメトキシシラン- 133 -1.0重量部(対フィラー100重量部)比較例4メチルトリエトキシシラン0.5重量部(対フィラー100重量部)比較例5メチルトリエトキシシラン1.0重量部(対フィラー100重量部)比較例6ジメチルジメトキシシラン0.5重量部(対フィラー100重量部)比較例7ジメチルジメトキシシラン1.0重量部(対フィラー100重量部)比較例8ジメチルジエトキシシラン0.5重量部(対フィラー100重量部)比較例9ジメチルジエトキシシラン1.0重量部(対フィラー100重量部) ン1.0重量部(対フィラー100重量部)比較例8ジメチルジエトキシシラン0.5重量部(対フィラー100重量部)比較例9ジメチルジエトキシシラン1.0重量部(対フィラー100重量部)(実施例9~11,比較例10~12)実施例9~11ではシランカップリング剤としてn-デシルトリメトキシシランをフィラー100重量部に対して1.0重量部処理し,比較例10~12ではシランカップリング剤は未処理とし,熱伝導性無機フィラー1として下記のものを用いた以外は,実施例1と同様に行なった。」(段落【0034】)・「実施例9シリカ(龍森(株)製)実施例10酸化マグネシウム(協和化学(株)製)実施例11酸化チタン(石原産業(株)製)比較例10シリカ(龍森(株)製)比較例11酸化マグネシウム(協和化学(株)製)比較例12酸化チタン(石原産業(株)製)上記の各実施例及び比較例について,下記のような評価試験- 134 -を行なった。 (成形スラリー粘度測定)各実施例及び比較例のスラリー状の熱伝導性シリコーンゴム組成物について,レオメーターにより,せん断速度5(1/S)の条件で粘度を測定した。 (圧縮永久歪み測定)各実施例及び比較例の放熱シート3を50%圧縮し,120℃で10h処理した後,圧縮分の何%が歪みとして残ったかを測定した。 (引裂強度測定)各実施例及び比較例の放熱シート3について,JISK6301により,2号型A型に準拠して測定した。 (ゴム硬度測定)各実施例及び比較例の放熱シート3について,JISK6301Aに準拠して測定した。また各実施例及び比較例の放熱シートを150℃で1000h処理した後,同様にゴム硬度を測定し,加熱後のゴム硬度の変化を測定した。」(段落【0035】)・「…実施例1乃至11の 準拠して測定した。また各実施例及び比較例の放熱シートを150℃で1000h処理した後,同様にゴム硬度を測定し,加熱後のゴム硬度の変化を測定した。」(段落【0035】)・「…実施例1乃至11のものは,比較例1乃至12のものに対して全体的に,圧縮永久歪みの低減,引裂強度の向上,及び加熱後のゴム硬度変化の低減が生じていることが確認できた。」(段落【0040】)f発明の効果・「上記のように本発明の請求項1に記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物は,シリコーンゴムに,上記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散- 135 -させて成り,熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%であるため,熱伝導性無機フィラーの表面が疎水性の長鎖のアルキル基に覆われてシリコーンゴムとの相溶性が向上し,熱伝導性を高めるためにマトリックスのシリコーンゴムに熱伝導性無機フィラーを高充填化しても,スラリー状の熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形スラリー粘度が上昇して成形加工性が低下するようなことがなく,熱伝導性無機フィラーを高充填化した熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形加工性を向上することができるものであり,また熱伝導性無機フィラー同士の凝集を防ぎ,シリコーンゴムのマトリックス中での熱伝導性無機フィラーの二次凝集の少ない良好な分散状態を可能とすることができ,熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の柔軟性が向上し,ゴム弾性が向上すると共に,引張強度,引裂強度の向上及び圧縮永久歪みを低減することができるものであり,また耐熱エージング(高温放置)によるシリコーンゴムの酸化を起こしにくくさせると共に上記のように熱伝導性無機フィラー同士の凝集も起こりにくいものであって, 永久歪みを低減することができるものであり,また耐熱エージング(高温放置)によるシリコーンゴムの酸化を起こしにくくさせると共に上記のように熱伝導性無機フィラー同士の凝集も起こりにくいものであって,この熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の,耐熱試験におけるゴム硬度変化等の機械特性変化を低減することができるものである。また熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%以上であることで高い熱伝導率を得ると共に,80vol%以下であることから熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物が硬く脆くなることを防止することができるものである。」(段落【0055】)・「また本発明の請求項2に記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物は,請求項1の構成に加えて,上記熱伝導性無機フィラーとして金属酸化物,金属窒化物,及び金属単体から選択されたものを用いる- 136 -ため,熱伝導性シリコーンゴム組成物の熱伝導性を効率良く向上することができると共に,熱伝導性無機フィラーに対して容易にシランカップリング処理を施すことができるものである。」(段落【0056】)・「また本発明の請求項3に記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物は,熱伝導性無機フィラーとしてアルミナを用いるため,熱伝導性無機フィラーとシランカップリング剤との反応性が良く,熱伝導性無機フィラーに対するシランカプリング剤の処理効率を向上するとができるものであり,また熱伝導性無機フィラーのコストを安くすることができ,熱伝導性無機フィラーの充填量を多くできるものである。」(段落【0057】)・「また本発明の請求項4に記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物は,熱伝導性無機フィラーとしてシリカを用いるため,熱伝導性無機フィラーとシランカップリング剤との反応性が良く,熱伝導性無機 57】)・「また本発明の請求項4に記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物は,熱伝導性無機フィラーとしてシリカを用いるため,熱伝導性無機フィラーとシランカップリング剤との反応性が良く,熱伝導性無機フィラーに対するシランカプリング剤の処理効率を向上することができるものであり,また熱伝導性無機フィラーのコストを安くすることができ,熱伝導性無機フィラーの充填量を多くできるものである。」(段落【0058】)・「また本発明の請求項5に記載の放熱シートは,請求項1乃至4のいずれかに記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物を成形したため,放熱シートを形成する際の成形性を向上することができるものであり,またこの放熱シートはゴム弾性が高いと共に強度が高いため,放熱器と電子部品との間に配置する際,電子部品に強い荷重を掛けなくても放熱器と電子部品の接合面の反りやうねりを容易に埋めることができ,放熱器と電子部品の間に熱抵抗が高い空隙が形成されることがなく,かつこの放熱シートは熱伝導性が高いので,電- 137 -子部品から放熱器への熱伝導効率を向上し,電子部品からの発熱を容易に放熱することができるものである。また耐熱試験における機械特性変化が低いため,電子部品からの発熱による機械特性の変化が小さく,長期間に亘って安定して使用することができるものである。」(段落【0059】)g【図1】(本発明の実施の形態の一例を示すものであり,(a)はシランカップリング剤で表面処理を施された熱伝導性無機フィラーを示す模式図,(b)は(a)の一部拡大した模式図)(イ)本件特許請求の範囲【請求項1】及び【請求項5】の記載に,上記(ア)の記載を総合すると,本件各特許発明は,トランジスター,コンピューターのCPU(中央演算処理装置)等の電気部品と放熱器との間に配置され,電子 求の範囲【請求項1】及び【請求項5】の記載に,上記(ア)の記載を総合すると,本件各特許発明は,トランジスター,コンピューターのCPU(中央演算処理装置)等の電気部品と放熱器との間に配置され,電子・電気部品から発生する熱を放熱器に伝導する放熱シートを形成するための熱伝導性シリコーンゴム組成物及びこの熱伝導性シリコーンゴム組成物にて成形された放熱シートに関するものであって,本件各特許発明の構成を採用することにより,①熱伝導性無機フィラー- 138 -のシリコーンゴムとの相溶性が向上するので,シリコーンゴムに熱伝導性無機フィラーを高充填化しても,スラリー状の熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形スラリー粘度が上昇して成形加工性が低下することがない,②熱伝導性無機フィラー同士の凝集を防ぎ,シリコーンゴム中での熱伝導性無機フィラーの二次凝集の少ない良好な分散状態を可能とすることができるので,熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の柔軟性,ゴム弾性が向上し(圧縮永久歪みの低下),引張強度,引裂強度が向上する,③熱伝導性無機フィラーのシリコーンゴムとの相溶性が向上することによって,耐熱エージング(高温放置)によるシリコーンゴムの酸化が起こりにくくなるとともに,上記のように熱伝導性無機フィラー同士の凝集も起こりにくくなるので,熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の耐熱試験におけるゴム硬度変化等の機械特性変化を低減することができる,④熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%以上であることで高い熱伝導率を得るとともに,80vol%以下であることから熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物が硬く脆くなることを防止することができる,というものであると認められる。 (ウ)ところで,上記(ア)dのとおり,本件明細書の 80vol%以下であることから熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物が硬く脆くなることを防止することができる,というものであると認められる。 (ウ)ところで,上記(ア)dのとおり,本件明細書の段落【0008】(課題を解決するための手段)には,「本発明の請求項1に記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物は,シリコーンゴムに,上記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー1を分散させて成り,熱伝導性無機フィラー1が熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%であることを特徴とするものである。」と記載されている。この記載によれば,「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%である熱伝導性無機フィラー」には,「1」という符号が付されているとこ- 139 -ろ,「上記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」にも,「1」という符号が付されており,この記載から,「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%である熱伝導性無機フィラー」は,「上記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」であるとしか解することができない。 また,上記(ア)e(a)のとおり,本件明細書の段落【0015】は,熱伝導性無機フィラー1に好適な素材(金属酸化物)を示した上,「ここで熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラー1の配合割合は,熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%とするものであり」と記載されているから,ここでも,「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%である熱伝導性無機フィラー」は,「1」という符号が付された「熱 ~80vol%とするものであり」と記載されているから,ここでも,「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%である熱伝導性無機フィラー」は,「1」という符号が付された「熱伝導性無機フィラー」であることが示されており,やはり,「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%である熱伝導性無機フィラー」は,「上記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」であるとしか解することができない。 (エ)のみならず,本件明細書(甲2,3)には,熱伝導性無機フィラーの表面をシランカップリング剤で処理することによって,上記(イ)①~③の作用効果を奏することの記載があるのみであって,シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーと未処理の熱伝導性無機フィラーを混合使用することの記載は全くなく,カップリング処理したものと未処理のものを混合使用した場合にも本件各特許発明の効果が得られることは何ら開示されていない。本件明細書に記載された実施例においては,上記(ア)e(b)のとおり,カップリング処理した熱伝導性- 140 -無機フィラーを,シリコーンゴムの主剤と硬化剤のそれぞれに熱伝導性無機フィラーの体積分率(Vf)が60%となるように配合し,その混練物の主剤と硬化剤を1対1の比率で混練して熱伝導性シリコーンゴム組成物を作成する実施例(実施例1)が示され,カップリング剤の種類や,カップリング剤の対熱伝導性無機フィラーの重量割合を変えて熱伝導性シリコーンゴムを作成する実施例(実施例2~8)及び熱伝導性無機フィラーの素材を変えた実施例(実施例9~11)が示されており,これらの実施例とカップリング処理をしない比較例等を比較して,成形スラリー粘度測定,圧縮永久歪み 実施例(実施例2~8)及び熱伝導性無機フィラーの素材を変えた実施例(実施例9~11)が示されており,これらの実施例とカップリング処理をしない比較例等を比較して,成形スラリー粘度測定,圧縮永久歪み測定,引裂強度測定及びゴム強度測定をそれぞれ行い,本件各特許発明の効果が確認されている。このように,実施例においても,熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理してシリコーンゴムに充填することが示されており,全量未処理のものと比較することにより,その効果を確認している。したがって,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)としては,本件各特許発明はシリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理するものと理解すると考えられる。 なお,一審原告は,自ら実験した結果(甲6)を基に,熱伝導性無機フィラーの半量を処理した場合であっても,本件各特許発明の効果を奏するに十分であると主張する(原審における原告第3準備書面15頁6行~16頁9行)。しかし,特許請求の範囲の解釈において,明細書の記載のほか,出願経過及び公知技術を参しゃくすることを超えて,当業者にとって自明でない実験結果を考慮することはできないというべきであるから,同実験結果の信用性にかかわらず,これを根拠とすることはできない。 また,一審原告は,上記(ア)e(a)の段落【0018】の記載から,シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラーの全表面積の0.1- 141 -倍,つまり10%の表面が本件カップリング剤で覆われていれば,本件各特許発明の効果を奏するのに十分であるとも主張する。しかし,同段落の記載は,カップリング処理に使用するカップリング剤の量比を示したものにすぎず,カップリング処理が全くされていない熱伝導性無機フィラーを混合使用することが示さ 十分であるとも主張する。しかし,同段落の記載は,カップリング処理に使用するカップリング剤の量比を示したものにすぎず,カップリング処理が全くされていない熱伝導性無機フィラーを混合使用することが示されているとはいえない。 以上述べたところからすると,本件各特許発明の構成要件には,シリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理するとの明示的な限定はないものの,本件各特許発明は,シリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理するものに限られるというべきであり,構成要件Aの「下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」はそのように解すべきである。 (オ)小括上記(イ)④のとおり,「熱伝導性無機フィラー」が「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%である」ことの技術的な意義は,「熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%以上であることで高い熱伝導率を得るとともに,80vol%以下であることから熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物が硬く脆くなることを防止することができる」というものである(本件明細書の段落【0015】,【0055】参照)が,シリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理するのであれば,そのような全量処理された熱伝導性無機フィラーが「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して80vol%以下」である場合には,それ以外には熱伝導性無機フィラーはないのであるから,上記の「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して80vol%以下」とする技術的な意義が達成できると考えられる。この点に関連し- 142 -て,一審原告は,「熱伝導性シリコーンゴム組成物中にカップリング処理され シリコーンゴム組成物全量に対して80vol%以下」とする技術的な意義が達成できると考えられる。この点に関連し- 142 -て,一審原告は,「熱伝導性シリコーンゴム組成物中にカップリング処理された熱伝導性無機フィラーが60vol%,未処理の熱伝導性無機フィラーが30vol%含まれる場合」(事例1)は,構成要件Bを充足するが,「熱伝導性シリコーンゴム組成物中にカップリング処理された熱伝導性無機フィラーが90vol%含まれる場合」(事例2)は,構成要件Bを充足しないということは不合理であると主張するが,本件各特許発明は,シリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理するものに限られると解すれば,一審原告が主張するような不合理な事態が生ずることはなく,このような不合理な事態を生じさせないためにも,本件各特許発明は,シリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理するものに限られると解すべきである。 また,シリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理したとしても,そのような全量処理された熱伝導性無機フィラーが「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%以上」である場合には,一審原告が主張するとおり,「熱伝導性無機フィラー」自体は,「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%以上」でない場合が考えられる(原判決が採用したように,構成要件Bの解釈において,体積分率の算定に当たって本件カップリング剤を含まない量を基準とすれば,このようなことは起こらないが,後記エのとおり,そのような解釈を採用することはできない。)。しかし,前記(ア)e(b)のとおり,本件明細書の実施例においては,熱伝導性無機フィラー100重量部に対してシランカップリング剤0.5~1重量部でカップ そのような解釈を採用することはできない。)。しかし,前記(ア)e(b)のとおり,本件明細書の実施例においては,熱伝導性無機フィラー100重量部に対してシランカップリング剤0.5~1重量部でカップリング処理されるのであって,この割合と異なる割合が技術常識であるとの証拠もないから,それぞれの比重を考慮したとしても,カップリング処理による体積分率の変動が大きいものとはいえず,また,そ- 143 -もそも「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%以上」という数値に臨界的な意義があるともいえないから,「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%以上である熱伝導性無機フィラー」が「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」であると解したとしても,その技術的な意義が達成できなくなるとまでは考えることができない。 仮に,一審原告が主張するように,本件各特許発明は,シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーと未処理の熱伝導性無機フィラーを混合使用したものを含み,かつ,「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%である」熱伝導性無機フィラーを「熱伝導性無機フィラー」自体と解すると,熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%である「熱伝導性無機フィラー」のうち,シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーが1%,未処理の熱伝導性無機フィラーが39%~79%でもよいということになり,上記(イ)認定に係る本件各特許発明の作用効果を奏することができないもののも含まれてしまうおそれがあるから,相当でない。 ウ出願経過本件において,構成要件Bは前記のとおり本件出願後の補正(本件補正)によって加えられたものであることから,本件特許の出願経過に ないもののも含まれてしまうおそれがあるから,相当でない。 ウ出願経過本件において,構成要件Bは前記のとおり本件出願後の補正(本件補正)によって加えられたものであることから,本件特許の出願経過についても検討する。 (ア)事実関係a当初明細書の記載一審原告は,平成10年1月27日に本件出願をしたものであるところ,当初明細書には以下の記載のあることが認められる(乙1)。 (a)特許請求の範囲- 144 -「【請求項1】シリコーンゴムに,下記一般式(A)及び(B)で示されるシランカップリング剤から選択されたシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成ることを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム組成物。 【化1】YSiX(A) YSiX(B) X=メトキシ基又はエトキシ基Y=炭素数6個以上の脂肪族長鎖アルキル基又はフェニル基」(b)発明の詳細な説明の記載・「また熱伝導性無機フィラー1としては,アルミナ,シリカ,酸化マグネシウム,酸化ベリリウム,酸化チタン等の金属酸化物,窒化アルミニウム,窒化ホウ素,金属アルミニウム,銅粉等を用いることができるが,金属酸化物を用いると,カップリング剤の処理効率が高くなるものであり,上記フィラーの表面の一部又は全部を酸化させることにより,カップリング剤の処理効率を向上することもできる。またこの熱伝導性無機フィラー1の形状としては,特に限定するものではなく,球状であっても針状であっても板状であっても構わないものである。ここで熱伝導性シリコーンゴム組成物中の熱伝導性無機フィラー1の配合割合は,熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%とするものが好ましいものであり,40vol%に満たないと高い熱伝導率を得ることが困難であり,80 導性無機フィラー1の配合割合は,熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%とするものが好ましいものであり,40vol%に満たないと高い熱伝導率を得ることが困難であり,80vol%を超えると熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物がさらに硬く脆くなる恐れがあって好ましくない。」(段落【0012】)・「【発明の効果】上記のように本発明の請求項1に記載の熱伝- 145 -導性シリコーンゴム組成物は,シリコーンゴムに,上記一般式(A)及び(B)で示されるシランカップリング剤から選択されたシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成るため,熱伝導性無機フィラーの表面が疎水性の長鎖のアルキル基又はフェニル基に覆われてシリコーンゴムとの相溶性が向上し,熱伝導性を高めるためにマトリックスのシリコーンゴムに熱伝導性無機フィラーを高充填化しても,スラリー状の熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形スラリー粘度が上昇して成形加工性が低下するようなことがなく,熱伝導性無機フィラーを高充填化した熱伝導性シリコーンゴム組成物の成形加工性を向上することができるものであり,また熱伝導性無機フィラー同士の凝集を防ぎ,シリコーンゴムのマトリックス中での熱伝導性無機フィラーの二次凝集の少ない良好な分散状態を可能とすることができ,熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の柔軟性が向上し,ゴム弾性が向上すると共に,引張強度,引裂強度の向上及び圧縮永久歪みを低減することできるものであり,また耐熱エージング(高温放置)によるシリコーンゴムの酸化を起こしにくくさせると共に上記のように熱伝導性無機フィラー同士の凝集も起こりにくいものであって,この熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の,耐熱試験におけるゴム硬度変化等の機 コーンゴムの酸化を起こしにくくさせると共に上記のように熱伝導性無機フィラー同士の凝集も起こりにくいものであって,この熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化成形物の,耐熱試験におけるゴム硬度変化等の機械特性変化を低減することができるものである。」(段落【0046】)b本件拒絶理由通知の内容一審原告は,平成13年11月27日付けで特許庁審査官より本件拒絶理由通知(乙2)を受けた。これには「請求項1に記載の発明は組成物に係る発明と認められるが,各成分の配合量(組成比)が記載- 146 -されていない(すべての配合量(組成比)について同等の効果を奏するものとは認められない)」として,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を充たしていないと記載されていた。 c本件補正本件拒絶理由通知に対し,一審原告は,平成14年2月4日に本件補正書(乙3)を提出し,当初明細書の特許請求の範囲【請求項1】に構成要件Bを加えるなどの本件補正をした。本件補正によって,上記段落【0012】は段落【0015】となり,上記段落【0046】は段落【0055】となった(上記段落【0015】と上記段落【0055】の補正後の内容は,前記のとおり)。また一審原告が同日特許庁審査官に提出した本件意見書(乙4)には発明の効果に係る説明として,上記段落【0055】と同じ記載があるほか,本件拒絶理由通知に対する意見として以下の記載がある(3頁11行以下)。 「審査官殿は,『請求項1に記載の発明は組成物に係る発明と認められるが,各成分の配合量(組成比)が記載されていない(すべての配合量(組成比)について同等の効果を奏するものとは認められない)。』とのご認定である。これに対して,本意見書と同日付けで提出する手続補正書による補正後の請求項1の記載では,既述のように すべての配合量(組成比)について同等の効果を奏するものとは認められない)。』とのご認定である。これに対して,本意見書と同日付けで提出する手続補正書による補正後の請求項1の記載では,既述のように『熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%』である点で限定されているので,請求項1に係る発明は明確になったものと思料する。」(イ)検討上記(ア)認定のとおり,構成要件Bは,本件拒絶理由通知を受けた本件補正によって,後から加えられたものであるところ,本件拒絶理由通知が明らかにするように求めている「各成分の配合量」とは,当初明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載のあった「シリコーンゴム」と- 147 -「カップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」の各配合量を指すものと解するのが相当であるし,このことは,本件拒絶理由通知において,「全ての配合量について同等の効果を奏するものとは認められない」と指摘されていることからもうかがえる。 そうすると,このような拒絶理由通知に対する応答としてなされた本件補正によって加えられた構成要件Bは,「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量」に対して,「カップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」の配合量を定めたものと解するのが相当であり,このことは,本件意見書において「『熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%』である点で限定されているので,請求項1に係る発明は明確になった」と述べられていることとも符合する。 この点,一審原告は,本件補正においてカップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーの配合量を規定しようと意図したのであれば,本件特許発明1のようには記載しないと主張するが,特許請求の範囲をどの 。 この点,一審原告は,本件補正においてカップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーの配合量を規定しようと意図したのであれば,本件特許発明1のようには記載しないと主張するが,特許請求の範囲をどのように記載するかについて,その具体的表現には相当の幅があるのであり,本件においても,カップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーの配合量を規定する場合に,本件特許請求の範囲のような記載にはなり得ないとはいえない。 また,一審原告は,当初明細書の段落【0012】の「40vol%~80vol%」という数値範囲が指すものは熱伝導性無機フィラー自体の配合量であると主張するが,同段落は本件明細書の段落【0015】とほぼ同じであり,同段落の「熱伝導性無機フィラー」がカップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーを指すと解されることは,前記イ(ウ)で説示したとおりである。 さらに,一審原告は本件意見書における記載をもって,本件補正の目- 148 -的が熱伝導性無機フィラー自体の配合量を規定することにあったと主張するが,一審原告が指摘する記載は本件明細書の段落【0055】と同じ内容であり,段落【0055】の記載を考慮しても,「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%である熱伝導性無機フィラー」がカップリング処理を施した熱伝導性無機フィラーを指すと解されることは,前記イ(オ)で説示したとおりである。 (ウ)以上からすると,構成要件Bを加えた本件補正を外形的に見れば,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率を限定したものと解するのが相当である。 エ構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」の解釈に関する当裁判所の結論以上のア~ウで述べたところを総合すると,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対 が相当である。 エ構成要件Bの「熱伝導性無機フィラー」の解釈に関する当裁判所の結論以上のア~ウで述べたところを総合すると,構成要件Bの「熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%であること」の「熱伝導性無機フィラー」は,「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」と解するのが相当である。そして,その場合,「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」の「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量」に対するシランカップリング剤を含む割合が「40vol%~80vol%」であると解することが,文言上全く無理のない解釈であり,そのように解してもその技術的意義に反することがないことは,前記イ(オ)で述べたとおりである。したがって,構成要件Bは,「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」の「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量」に対するシランカップリング剤を含む割合が「40vol%~80vol%」であると解するのが相当である。 なお,原判決が,構成要件Bの解釈において,「熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%であること」の「熱伝導性無機フィラー」は「シランカップリング剤で- 149 -表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」であると解したのは相当であるが,この体積分率の算定に当たって本件カップリング剤を含まない量を基準とした点は相当でない。 (2)被告製品の本件各特許発明の構成要件該当性の有無被告製品のうち,GR-b,GR-d,GR-i,GR-k,GR-l,GR-m(これらのうち,製造販売されていないGR-iを除く各製品を前記のとおり「GR-b等」という。)の各組成が,原判決別紙の「被告製品の組成」のうち b,GR-d,GR-i,GR-k,GR-l,GR-m(これらのうち,製造販売されていないGR-iを除く各製品を前記のとおり「GR-b等」という。)の各組成が,原判決別紙の「被告製品の組成」のうち「カップリング剤処理フィラー(vol%)」中の「フィラーのみ」欄の各数値(ただし,被告製品の製造時にシランカップリング剤で表面処理が施された熱伝導性無機フィラーとして製造工程に投入されたフィラーの量)及び「未処理フィラー(vol%)」欄の各数値のとおりであることは,当事者間に争いがない。 この当事者間に争いがない事実に弁論の全趣旨を総合すると,これらの被告製品は,カップリング剤で表面処理を施したフィラーと未処理フィラーから成るものであり,GR-iを除く各製品(GR-b等)はカップリング剤で表面処理が施されたフィラーとして製造工程に投入されたフィラーの組成物全量に対するカップリング剤を含む体積分率が40vol%に満たないことが認められ,これらの点から,これらの被告製品が本件各特許発明の構成要件に該当すると認めることはできない。 また,GR-nについては,組成に争いがあるものの,シランカップリング剤で表面処理を施したフィラーの組成物全量に対するシランカップリング剤を含む体積分率が40vol%~80vol%であることを認めるに足りる証拠はない。一審原告は,GR-nについて,「熱伝導性無機フィラーが熱伝導性シリコーンゴム組成物全量に対して40vol%~80vol%である」と主張するが,一審原告の主張は,当裁判所が採用する構成要件Bについての解釈,すなわち,「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝- 150 -導性無機フィラー」の「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量」に対するシランカップリング剤を含む割合が「40vol%~80vol%」であるとの シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝- 150 -導性無機フィラー」の「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量」に対するシランカップリング剤を含む割合が「40vol%~80vol%」であるとの解釈に基づくものではないから,採用することができない。 (3)被告製品のうちGR-b等の熱伝導性無機フィラーについても全量がカップリング処理されているとの主張(予備的主張1)についてア時機に後れた攻撃防御方法却下の抗弁に対する判断一審被告は,「一審原告は,原審で十分に,予備的主張1を主張立証できたにもかかわらず,控訴審になって初めて主張立証してきたのは,時機に後れた主張立証である」と主張する。 しかし,予備的主張1は,当審において,原判決に対する控訴理由を審理する際に,それと共に審理することができるものであり,訴訟の完結を遅延にさせるとは認められないから,民訴法157条1項により却下すべきものとは認められない。 イ構成要件Aの解釈との関係本件各特許発明の構成要件Aは,前記のとおり「シリコーンゴムに,下記一般式(A)で示されるシランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラーを分散させて成り,」等というものであって,シランカップリング剤で表面処理する方法については,限定されていない。しかも,前記(1)イ(ア)e(a)のとおり,本件明細書の「発明の詳細な説明」の「発明の実施の形態」は,シランカップリング剤で表面処理を施す方法として,直接処理法,インテグラルブレンド法,ドライコンセントレート法が例示されているところ,前記(1)イ(ア)e(a)の本件明細書の記載に証拠(甲50[フィラー研究会編「機能性フィラーの最新技術」1990年(平成2年)1月26日株式会社シーエムシー発行264頁~274頁],甲51[永江利康著「粉体のシランカップ の本件明細書の記載に証拠(甲50[フィラー研究会編「機能性フィラーの最新技術」1990年(平成2年)1月26日株式会社シーエムシー発行264頁~274頁],甲51[永江利康著「粉体のシランカップリング剤による表面処理」「顔料」26巻2号9頁~15頁・1982年(昭和57年)2月発行- 151 -])を総合すると,①直接処理法は,シランカップリング剤を熱伝導性無機フィラーに直接処理した後,シリコーンゴムに添加する方法であること,②インテグラルブレンド法は,シリコーンゴムと未処理の熱伝導性無機フィラーとを混合する際にシランカップリング剤を添加する方法であり,直接処理法より多くのシランカップリング剤を添加する必要があること,③ドライコンセントレート法は,多量のシランカップリング剤を熱伝導性無機フィラーに吸着させておいて,未処理の熱伝導性無機フィラーで希釈して用いる方法であり,シランカップリング剤の品質を変えずに熱伝導性無機フィラーに吸着させることと製品のライフの点で難しさがあることが認められる(なお,一審被告は,インテグラルブレンド法とドライコンセントレート法は,実用的な方法でないかのように主張するが,上記の本件明細書の記載及び証拠に照らし採用できない)。そうすると,本件各特許発明においてシランカップリング剤で表面処理する方法には,熱伝導性無機フィラーに吸着させたシランカップリング剤が離脱し,未処理の熱伝導性無機フィラーに移行するような態様で処理されるものも含むものと認められる。 また,本件各特許発明の構成要件Aは,シランカップリング剤で表面処理する方法について上記のとおり限定していない上,証拠(甲50,51,甲66[フィラー研究会編「フィラー活用事典」平成6年5月31日株式会社大成社発行264頁~265頁],甲67[伊藤邦雄編「シ 処理する方法について上記のとおり限定していない上,証拠(甲50,51,甲66[フィラー研究会編「フィラー活用事典」平成6年5月31日株式会社大成社発行264頁~265頁],甲67[伊藤邦雄編「シリコーンハンドブック」1990年(平成2年)8月31日日刊工業新聞社発行55頁~59頁],甲86[「最新フィラー技術全集」株式会社技術情報協会2008年(平成20年)8月29日発行19頁・22頁~25頁・28頁~29頁],甲87[中村吉伸・永田員也編「シランカップリング剤の効果と使用法」2006年(平成18年)6月20日サイエンス&テクノロジー株式会社発行12頁~15頁])によれば,無機フィラー表- 152 -面でのシランカップリング剤の作用機構には,化学結合のみならず,物理吸着も含まれると認められるから,構成要件Aにおける表面処理には物理吸着も含まれるものと認められる。なお,本件明細書の【化3】【図1】は,前記(1)イ(ア)e(a)及びgのとおりのものであって,これらは,無機フィラー表面でシランカップリング剤が化学結合することを示しており,また,本件明細書の段落【0025】には,前記(1)イ(ア)e(a)のとおり,表面処理について,上記【化3】【図1】を引用して記載され,本件明細書の段落【0027】には,前記(1)イ(ア)e(a)のとおり,「更に熱伝導性無機フィラー1の表面の水酸基と反応して,熱伝導性無機フィラー1の表面は図1に示すような,疎水性の長鎖のアルキル基2で覆われるものである。」と記載されているが,これらは表面処理の1実施態様を示したものと解され,シランカップリング剤が化学結合しなければならないことまでも示すものではないと解される。また,一審被告は,未処理フィラーにシランカップリング剤が「物理吸着」しても,シランカップリン たものと解され,シランカップリング剤が化学結合しなければならないことまでも示すものではないと解される。また,一審被告は,未処理フィラーにシランカップリング剤が「物理吸着」しても,シランカップリング剤は容易に脱離してしまうから,未処理フィラー同士の凝集が起こってしまい,未処理フィラー同士の凝集が起こると,再分散はしにくいから,本件各特許発明の作用効果は発揮できないことになると主張するが,「物理吸着」であれば常にそのような凝集が起こることを認めるに足りる証拠はないから,上記認定が左右されることはない。また,乙77(一審被告社員Cの平成22年1月21日付け実験報告書)や乙88(一審被告社員Cの平成22年2月27日付け実験報告書)も,一定の条件の下で物理吸着表面処理フィラーと化学結合表面処理フィラーとを比較したものにすぎず,さらに,フィラーに物理吸着する化合物として乙77,88で用いられているポリオクチルメチルシロキサンは,化学結合で用いられているオクチルトリエトキシシランと同じものであるともいえないから,上記認定を覆すに足りるものということはできない。 - 153 -そして,前記(1)イ(オ)のとおり,本件各特許発明の構成要件Aは,シリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理するものに限られると解すべきところ,GR-b等について,一審原告が主張するように,熱伝導性無機フィラーに吸着させたシランカップリング剤が離脱し,未処理の熱伝導性無機フィラーに移行することによって,熱伝導性無機フィラー全量がカップリング処理されるのであれば,構成要件Aを充足し,さらに,構成要件Bも充足すると解する余地がある。 そこで,GR-b等について,一審原告が主張するように,熱伝導性無機フィラーに吸着させたシランカップリング剤が離脱し,未処理 ば,構成要件Aを充足し,さらに,構成要件Bも充足すると解する余地がある。 そこで,GR-b等について,一審原告が主張するように,熱伝導性無機フィラーに吸着させたシランカップリング剤が離脱し,未処理の熱伝導性無機フィラーに移行することによって,熱伝導性無機フィラー全量がカップリング処理されるかどうかについて,以下判断する。 ウGR-b等において熱伝導性無機フィラー全量がカップリング処理されるかどうかにつき(ア)GR-b等中に含まれる本件カップリング剤の量a一審原告の依頼による測定結果(a)一審原告が株式会社ダイヤ分析センター(現在の名称:株式会社三菱化学アナリテック)及び株式会社松下電工解析センター(現在の名称:パナソニック電工解析センター株式会社)に,被告製品GR-k中の本件カップリング剤の定量を依頼したところ,株式会社ダイヤ分析センターの定量結果は,n-ヘキシルトリエトキシシラン35μg/試料1gであり,株式会社松下電工解析センターの定量結果は,n-ヘキシルトリエトキシシラン58μg/試料1gであったことが認められる(甲46[平成19年4月25日付け株式会社ダイヤ分析センターの測定分析結果報告書],甲47[2007年4月9日付け株式会社松下電工解析センターの結果報告書])。 - 154 -(b)一審原告が株式会社日東分析センター及び株式会社松下電工解析センター(現在の名称:パナソニック電工解析センター株式会社)に,被告製品GR-m,GR-HFd中の本件カップリング剤の定量を依頼したところ,その結果は,次のとおりであったことが認められる(甲63[2007年3月23日付け株式会社日東分析センターの分析結果報告書],甲64[2007年2月23日付け株式会社松下電工解析センターの結果報告書])。 <日東分析センターの分析 が認められる(甲63[2007年3月23日付け株式会社日東分析センターの分析結果報告書],甲64[2007年2月23日付け株式会社松下電工解析センターの結果報告書])。 <日東分析センターの分析結果>検出物質検出量ppm(μg/試料1g)GR-mn-ヘキシルトリエトキシシラン0.66n-オクチルトリエトキシシラン GR-HFdn-ヘキシルトリエトキシシラン3.3n-オクチルトリエトキシシラン <松下電工解析センターの分析結果>検出物質検出量ppm(μg/試料1g)GR-mn-ヘキシルトリエトキシシラン n-オクチルトリエトキシシラン GR-HFdn-ヘキシルトリエトキシシラン n-オクチルトリエトキシシラン (c)一審原告が株式会社日東分析センター及び株式会社松下電工解析センター(現在の名称:パナソニック電工解析センター株式会社)に,被告製品GR-m,GR-HFd中の本件カップリング剤の定量を依頼したところ,その結果は,次のとおりであったことが認められる(甲74[2009年10月6日付け株式会社パナソニック電工解析センターの結果報告書],甲75[2009年11月2日付け株式会社日東分析センターの分析結果報告書])。 - 155 -<日東分析センターの分析結果>検出物質検出量ppm(μg/試料1g)GR-mn-ヘキシルトリエトキシシラン1.2n-オクチルトリエトキシシラン GR-HFdn-ヘキシルトリエトキシシラン5.7n-オクチルトリエトキシシラン <パナソニック電工解析センターの分析結果>検出物質検出量ppm(μg/試料1g)GR-mn-ヘキシルトリエトキシシラン検出せずn-オクチルトリエトキシシラン GR-HFdn-ヘキ パナソニック電工解析センターの分析結果>検出物質検出量ppm(μg/試料1g)GR-mn-ヘキシルトリエトキシシラン検出せずn-オクチルトリエトキシシラン GR-HFdn-ヘキシルトリエトキシシラン n-オクチルトリエトキシシラン (d)一審原告が株式会社日東分析センターに,被告製品GR-m,GR-HFd中の本件カップリング剤の定量を依頼したところ,その結果は,次のとおりであったことが認められる(甲80[2010年1月25日付け株式会社日東分析センターの分析結果報告書])。 検出物質検出量ppm(μg/試料1g)GR-mn-ヘキシルトリエトキシシラン1.5n-オクチルトリエトキシシラン GR-HFdn-ヘキシルトリエトキシシラン6.9n-オクチルトリエトキシシラン b一審被告の依頼による測定結果(a)一審被告が株式会社日東分析センターに,被告製品GR-kに添加しているシランカップリング剤処理フィラー中のヘキシルトリエトキシシランの定量を依頼したところ,その結果は,「検出せ- 156 -ず」であったことが認められる(乙61[2009年8月26日付け株式会社日東分析センターの分析結果報告書])。 (b)一審被告が株式会社日東分析センターに,被告製品GR-kとGR-dに添加しているシランカップリング剤処理フィラー中のヘキシルトリエトキシシランとオクチルトリエトキシシランの定量を依頼したところ,その結果は,「検出せず」であったことが認められる(乙62[2009年11月11日付け株式会社日東分析センターの分析結果報告書])。 (c)一審被告が株式会社日東分析センターに,被告製品GR-mに添加しているシランカップリング剤処理フィラー中のヘキシルトリエトキシシランとオクチル 式会社日東分析センターの分析結果報告書])。 (c)一審被告が株式会社日東分析センターに,被告製品GR-mに添加しているシランカップリング剤処理フィラー中のヘキシルトリエトキシシランとオクチルトリエトキシシランの定量を依頼したところ,その結果は,次のとおりであったことが認められる(乙69[2009年11月26日付け株式会社日東分析センターの分析結果報告書])。 検出物質検出量ppm(μg/試料1g)処理アルミナ2ヘキシルトリエトキシシラン0.6~1.4オクチルトリエトキシシラン910~1000処理アルミナ3ヘキシルトリエトキシシラン検出せずオクチルトリエトキシシラン0.55(d)一審被告が株式会社日東分析センターに,被告製品GR-d,GR-HFd,GR-m中のヘキシルトリエトキシシランとオクチルトリエトキシシランの定量を依頼したところ,その結果は,次のとおりであったことが認められる(乙79[2009年12月1日付け株式会社日東分析センターの分析結果報告書])。 検出物質検出量ppm(μg/試料1g)検出せずGR-dヘキシルトリエトキシシラン- 157 -検出せずオクチルトリエトキシシランGR-HFdヘキシルトリエトキシシラン痕跡程度検出せずオクチルトリエトキシシランGR-mヘキシルトリエトキシシラン痕跡程度オクチルトリエトキシシラン5.5~7.3c上記a(a)とb(a),(b)によれば,一審原告の依頼により被告製品(GR-k)を分析した結果(甲46,47)は,同じ製品に用いたフィラーを一審被告の依頼により分析した結果(乙61,62)と整合しない。 この点について,一審原告は,処理フィラーを試料として用いて測定した場合には,被告製品のシートを試料とした場合に比べてn-ヘキシルト 一審被告の依頼により分析した結果(乙61,62)と整合しない。 この点について,一審原告は,処理フィラーを試料として用いて測定した場合には,被告製品のシートを試料とした場合に比べてn-ヘキシルトリエトキシシランの検出量がかなり少なくなることが確認されたと主張し,甲77(一審原告従業員A作成に係る平成22年1月25日付け実験報告書)を提出する。そして,甲77には,n-ヘキシルトリエトキシシラン2%で処理したフィラーと,当該フィラーをシリコーンポリマーと混合しシートに成形したものを試料として用意し,加熱脱着GC-MS分析によりn-ヘキシルトリエトキシシランの量を測定した(250℃,10分の試料加熱条件)ところ,処理フィラーを試料として用いた場合には,シートを試料とした場合に比べてn-ヘキシルトリエトキシシランの検出量がかなり少なくなることが示されている(なお,一審被告は,甲77の実験では,エチルアルコールがシート内に残存し,これがシランカップリング剤をフィラーから解離する反応を起こす旨主張するが,甲77によれば,当該シートは,製造後すぐに-20℃で保管されているので,直ちに一審被告が主張するような反応が起こると認めることはできない)。しかし,上記b(d)のとおり,一審被告の依頼により被告製品(GR-m,G- 158 -R-HFd)を分析した結果(乙79)は,同じ製品の一審原告の分析結果(上記a(b)~(d))とは異なっている。この点について,一審原告は,乙79の実験において,被告製品のシートからヘキシルトリエトキシシラン及びオクチルトリエトキシシランが実質的に検出されなかった理由として,シート製造後の保管の仕方に問題があり反応が過度に進んでいるためである,分析前に何らかの意図的な熱処理を行い,反応を過度に進行させている,被告製品 トキシシランが実質的に検出されなかった理由として,シート製造後の保管の仕方に問題があり反応が過度に進んでいるためである,分析前に何らかの意図的な熱処理を行い,反応を過度に進行させている,被告製品とは内容の異なるものを測定対象シートとして用いていると主張するが,そのような事実を認めるに足りる的確な証拠はない。したがって,上記の一審原告の主張を直ちに採用することはできない。 他方,一審被告は,①一審原告の依頼による測定結果は,トラップ槽の洗浄不足によって前の分析残渣が残っている可能性があり,②データのばらつきが大きく,信用できない,③一審原告は,同一のロットの製品しか分析しておらず,同じ分析方法に固執していると主張する。しかし,上記a(d)の測定は,トラップ槽に前の分析残渣が残ることがないように十分に確認した上で行われたと認められる(甲80)ところ,この測定結果が上記a(b),(c)の測定結果と大きく異ならないことからすると,一審被告の上記①の主張を採用することはできず,また,上記aの測定結果程度のばらつきであれば,特にばらつきが大きいということもできないから,上記②の主張を採用することもできない。さらに,同一のロットの製品しか分析していないことや同じ分析方法を採っていることもその信用性を否定する理由とはなり得ない。 dさらに,一審原告は,試料中には,一審原告の依頼による測定で検出されたものより多量のシランカップリング剤があったことが明らかであると主張し,甲48には,検出量の数倍から数十倍は存在してい- 159 -るものと考えられるとの記載がある。しかし,仮に試料中に一審原告の依頼による測定で検出されたものより多くのシランカップリング剤があるとしても,甲48の上記記載は,その裏付けとなる根拠に乏しく,どの程度多くのカップリング 記載がある。しかし,仮に試料中に一審原告の依頼による測定で検出されたものより多くのシランカップリング剤があるとしても,甲48の上記記載は,その裏付けとなる根拠に乏しく,どの程度多くのカップリング剤があったかを示す他の証拠もない。 e以上のとおり,一審原告の依頼によるものと一審被告の依頼によるものとで測定数値が異なっている理由は,必ずしも明らかでない点があるものの,一審原告の依頼による測定結果を積極的に信用できないとまでいう事情も認められないので,以下,この測定結果に基づき検討することとする。 (イ)処理フィラーから未処理フィラーに対するシランカップリング剤の脱離・移行a証拠(甲56~58,乙54,57,58,74)及び弁論の全趣旨によれば,①シランカップリング剤が熱伝導性無機フィラーに化学結合した場合には,その結合は安定しており,容易に脱離することはない,②熱伝導性無機フィラーに化学結合しなかったシランカップリング剤は,処理フィラーから脱離し,未処理フィラーに物理吸着をすることがあり得る,③物理吸着は,吸着速度及び脱離速度が比較的大きいことが認められる。 b一審原告は,①処理フィラーから未処理フィラーに対して容易にカップリング剤の脱離・移行が生じるという一般的現象に加え,特に,GR-b等においては,フィラーの充填率はいずれも50vol%を超え,かなり密な充填状態(フィラーがぎっしり詰まった状態)であり,本件製法の攪拌・混合工程において処理フィラーと未処理フィラーが万遍なく衝突し得る状態にある(甲55),②本件製法では,処理フィラーと未処理フィラーの混合,攪拌を2~5時間にわたって行- 160 -う,③検出されたカップリング剤の分子の数は,本件製法における投入時の未処理フィラーの粒子数とは比較にならないほど圧倒的に多 ラーと未処理フィラーの混合,攪拌を2~5時間にわたって行- 160 -う,③検出されたカップリング剤の分子の数は,本件製法における投入時の未処理フィラーの粒子数とは比較にならないほど圧倒的に多く,このことは,処理フィラーから脱離した未反応のカップリング剤が,未処理フィラーの全部をカップリング処理するのに十分すぎるほど存在していたことを示している(甲52,53)と主張する。 ところで,乙15(一審被告訴訟代理人作成に係る平成19年5月18日付け技術説明書)によれば,被告製品の製法(本件製法)は,①「シリコーンゴム原料A液,シランカップリング剤処理フィラー,未処理フィラー,添加物,白金系硬化触媒」からなるA液スラリーと,「シリコーンゴム原料B液,シランカップリング剤処理フィラー,未処理フィラー,添加物」からなるB液スラリーを,別々に室温で長時間(2~5時間)かけて混合する,②A液スラリーとB液スラリーを室温で混合して,混合スラリーを作成する,③混合スラリーを室温でシート成形し,続いてシート成形物を加熱硬化し,所定の大きさに切って製品となる,というものであると認められる。 GR-b等におけるフィラーの充填状態が一審原告が主張するようなものであるとしても,フィラーの間には,シリコーンゴム原料が存在していると考えられるから,必ずしも一審原告が甲55(前記第3,1(2)オ(イ)の写真)で主張するようなものとは解されない。この点について,一審原告は,未処理フィラーは凝集しておらず,すでに1次粒子であり処理フィラーとは常に接触する環境にさらされていると主張する。この主張は,乙15の記載に基づき,未処理フィラーがすべて大粒子であることを前提としているところ,乙15は,一審被告代理人が被告製品について一般的な技術を説明したものであって,実際の個々 主張する。この主張は,乙15の記載に基づき,未処理フィラーがすべて大粒子であることを前提としているところ,乙15は,一審被告代理人が被告製品について一般的な技術を説明したものであって,実際の個々の製品がこの記載に合致しているかどうかは明らかでない。乙72(一審被告従業員E作成に係る平成21年11月30日- 161 -付け陳述書(18))には,GR-kについて,大粒子は使用しておらず,平均粒子径は8μmであると記載されている(なお,この数値は,乙72提出後訂正されたものであるが,大粒子を使用していないという点では一致しており,そのことによって信用性がないとまでいうことはできない。)。 また,一審原告の依頼した測定結果(上記(ア)a(a))によれば,カップリング剤の分子の数が,一審原告が主張するようなものであるとしても,未処理フィラーが表面処理されるかどうかは,必ずしも分子の数のみで決まるものではないと考えられる上,一審原告の計算(甲52,53)は,被告製品においては,未処理フィラーは大粒径フィラーのみであるとの前提で計算されているところ,未処理フィラーの粒子径が異なると,上記計算も異なる結果となる。 そうすると,前記(ア)の一審原告の依頼による測定結果を基にしたとしても,上記各証拠から直ちにGR-b等において,熱伝導性無機フィラーに化学結合しなかったシランカップリング剤が,処理フィラーから脱離し,未処理フィラーが全量カップリング処理されるとまで認めることは困難である。一審原告の主張には論理の飛躍があるといわざるを得ない。 cこの点について,一審原告は,「もともと無機フィラーの表面は親水性でありシリコーン樹脂の表面は疎水性であるから,両者の親和性は低く,無機フィラーの全面がシリコーン樹脂に覆われている状態では界面自由エネルギーは て,一審原告は,「もともと無機フィラーの表面は親水性でありシリコーン樹脂の表面は疎水性であるから,両者の親和性は低く,無機フィラーの全面がシリコーン樹脂に覆われている状態では界面自由エネルギーは高い状態にある。他方,本件シランカップリング剤は,無機フィラーの表面となじむ親水基とシリコーン樹脂となじむ疎水基を有しているから,本件シランカップリング剤の親水基が無機フィラーに吸着し,疎水基が樹脂側に向いているほうが,圧倒的に安定する,つまり界面自由エネルギーが低くなるから,シリコーン- 162 -樹脂中で,本件シランカップリング剤の物理吸着による表面処理が実現される。」と主張する。しかし,仮に,そのようなことがいえるとしても,それは,処理フィラーから脱離したシランカップリング剤が未処理フィラーに物理吸着する原理を示したにとどまり,一審被告製品において未処理フィラーが全量カップリング処理されるとまで認めることができるものではない。 また,一審原告は,甲49の実験に基づき,カップリング処理のみ又は同処理に加えて熱処理を行った各種の処理フィラー(いずれも水に浮く性質を有する)と未処理フィラー(水に沈む性質を有する)とを50:50(処理フィラー100g,未処理フィラー100g)の比率で混合・攪拌することにより,未処理フィラーは水に浮くようになることが確認されたが,この実験結果から,処理フィラーと未処理フィラーを混合すれば,極めて容易に処理フィラーに吸着したカップリング剤が脱離して未処理フィラーに移行し,同フィラーがカップリング処理されることが明らかになったと主張する。しかし,この実験結果については,一審被告が主張するように,撥水性のある処理フィラーが凝集して,(カップリング処理されていない)未処理フィラーとともに内部に空気を含み,空気の浮 になったと主張する。しかし,この実験結果については,一審被告が主張するように,撥水性のある処理フィラーが凝集して,(カップリング処理されていない)未処理フィラーとともに内部に空気を含み,空気の浮力により浮いている現象を示しているだけである可能性があり(乙50),直ちに一審原告の主張を裏付けるものと認めることはできない。なお,この点について,一審原告は,凝集度が高くかさ(嵩)高い未処理フィラーが水に沈んで,凝集度の低い処理フィラーが水に浮くという現象は,凝集度の大小からは説明がつかないのであり,カップリング処理によりフィラーの表面がカップリング剤で覆われることにより,撥水性が付与され表面張力が増大したことによると考えるのが合理的であると主張するが,この主張は,一審被告の上記説明を覆すに足りるものではない。 - 163 -さらに,一審原告は,処理フィラーから未処理フィラーに対するシランカップリング剤の脱離・移行が生じることは,インテグラルブレンド法やドライコンセントレート法に照らしても明らかであると主張するが,前記イのとおり,これらは,多量のシランカップリング剤を用い,各方法に適した条件の下で混合することによって実施されるものであって,それらの方法が用いられているからといって,被告製品において未処理フィラーが全量カップリング処理されるとまで認めることはできない。 なお,本件明細書記載の直接処理法(段落【0032】)とインテグラルブレンド法を比較してほとんど同一の性質を有する物が得られたことを示す実験報告書(乙25)及び直接処理法とインテグラルブレンド法を比較してほとんど同一のスラリー粘度を有する物が得られたことを示す実験報告書(甲83),インテグラルブレンド法によって処理したフィラーから,直接処理法によって処理したフィラーの6 ルブレンド法を比較してほとんど同一のスラリー粘度を有する物が得られたことを示す実験報告書(甲83),インテグラルブレンド法によって処理したフィラーから,直接処理法によって処理したフィラーの60%のヘキサンが検出されていることを示す実験報告書(甲92,93)があるが,これらは,直接処理法とインテグラルブレンド法とでほとんど同一の性質を有する物が得られること及びインテグラルブレンド法でも化学結合が生じていることを示すのみであり,被告製品において未処理フィラーが全量カップリング処理されるとまで認めることはできない。 d一審原告は,甲11~13(一審原告従業員A作成に係る平成19年7月2日付け,同月6日付け及び同月2日付け各実験報告書)に基づき,投入前において未処理フィラーが体積分率で半分以上であっても本件各特許発明の効果を十分奏しうるということがいえると主張するが,そうであるからといって,そのことが直ちに被告製品において未処理フィラーが全量カップリング処理されることと結びつくという- 164 -ことはできない。 また,一審原告は,被告製品は,カップリング処理をしないフィラーを大粒子とすることで,シリコーン樹脂投入前の時点であっても限りなく全量処理に近い状態が実現できていると主張し,甲94(一審原告従業員A作成に係る平成22年2月24日付け実験報告書)には,カップリング処理に関しては,小・中粒子への処理効果が大きく,大粒子の寄与が小さいことが記載されているが,これらも,被告製品において未処理フィラーが全量カップリング処理されることと直接結びつくものではない。 (ウ)以上のとおりであるから,GR-b等において熱伝導性無機フィラー全量がカップリング処理されていると認めることはできず,したがって,一審原告の予備的主張1は理由がない。 びつくものではない。 (ウ)以上のとおりであるから,GR-b等において熱伝導性無機フィラー全量がカップリング処理されていると認めることはできず,したがって,一審原告の予備的主張1は理由がない。 (4)被告製品(ただし,GR-n及びGR-iは除く。)は均等侵害の第5要件を充足しているとの主張(予備的主張2)についてア最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決(民集52巻1号113頁)は,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合に,なお均等なものとして特許発明の技術的範囲に属すると認められるための要件の一つとして,「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」旨を掲げており,この要件が必要な理由として,「特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないからである」と判示している。 そうすると,第三者から見て,外形的に特許請求の範囲から除外された- 165 -と解されるような行動をとった場合には,上記特段の事情があるものと解するのが相当である。そこで,本件において上記特段の事情が認められるかどうかについて検討する。 イ前記(1)で述べたところからすると,一審原告は,本件特許の出願経過において,本件補正によって,本件各特許発明は,シリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理することを前提として,「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」のシランカップリング剤を含む「熱 特許発明は,シリコーンゴムに充填する熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理することを前提として,「シランカップリング剤で表面処理を施した熱伝導性無機フィラー」のシランカップリング剤を含む「熱伝導性シリコーンゴム組成物全量」に対する割合が「40vol%~80vol%」である旨の構成要件Bを付加したものであるから,一審原告が,その範囲を超えて本件各特許発明の技術的範囲の主張をすることは,外形的に特許請求の範囲から除外されたと解されるものについて技術的範囲に属すると主張することになり,上記特段の事情に該当するというべきである。 ウこれにつき一審原告は,「本件補正に関して,構成要件Bにいう『熱伝導性無機フィラー』がカップリング処理された熱伝導性無機フィラーを意味する旨を表明したことは一度たりともなかったし,特許庁が,本件補正に基づき,構成要件Bの意味内容について,『熱伝導性無機フィラー』がカップリング処理された熱伝導性無機フィラーを意味するとの解釈を前提として審査し,本件特許査定がなされたことを裏付ける証拠はない,かえって,本件特許に対する無効審判事件において,一審被告は,『熱伝導性無機フィラー』に限定はないとの解釈を前提として新規性欠如及び進歩性欠如を理由とする無効主張を行い,特許庁は,この解釈を前提として審決をし,審決取消訴訟においても,この解釈を前提とした判断がなされている」旨主張する。 しかし,一審原告が,構成要件Bにいう「熱伝導性無機フィラー」がカップリング処理された熱伝導性無機フィラーを意味する旨を明示的に表明- 166 -したことがなく,特許査定において特許庁がその点をどのように解したかが明らかでないとしても,本件補正が上記のとおり解される以上,上記特段の事情に該当すると解することができるのであって,無効審判及び審決 たことがなく,特許査定において特許庁がその点をどのように解したかが明らかでないとしても,本件補正が上記のとおり解される以上,上記特段の事情に該当すると解することができるのであって,無効審判及び審決取消訴訟の経過も,その点を左右するものではない。 エ以上のとおり,GR-b等について,「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」ことという要件を充たさないから,これらを本件各特許発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。したがって,一審原告の予備的主張2も理由がない。 (5)まとめ以上の(1)ないし(4)によれば,被告製品はいずれも一審原告の有する本件各特許発明の技術的範囲には属しないことになる。 そうすると,その余の争点について判断するまでもなく,一審原告の本訴請求のうち,被告製品の製造販売禁止請求(請求の趣旨第1項),被告製品の廃棄請求(同第2項),平成15年10月2日から平成18年9月30日までの損害賠償等の請求(同第4項)は,理由がないことになる。 本件実施契約の適用として一審被告は未払実施料(平成14年6月1日から平成15年10月1日までの分1800万円等)の支払義務を負うか(1)証拠(甲4,乙10)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件特許実施許諾契約の締結及びその後の事情は,以下のとおりであったことが認められる。 ア一審原告と一審被告は,平成12年10月1日,一審原告が一審被告に対し,本件特許に係る出願及び本件特許権の技術的範囲に属する熱伝導性シリコーンゴム組成物からなる放熱シートを日本国内において製造,使用及び販売することについて非独占的実施を許諾し,一審被告から一審原告に対し,許諾製品の正味販売価格の1%(ただし,本件出願に係る特許権- ーンゴム組成物からなる放熱シートを日本国内において製造,使用及び販売することについて非独占的実施を許諾し,一審被告から一審原告に対し,許諾製品の正味販売価格の1%(ただし,本件出願に係る特許権- 167 -が成立した日の属する月の翌月以降については3%)を実施料として支払うこと等を内容とする特許実施許諾契約(本件実施契約)を締結した。 イ上記契約書の第2条においては,用語の意味について次のとおり定められている。 「(1)許諾特許とは,甲所有の下記の特許出願及びこれに係る特許権並びにその分割又は変更に係る新たな出願に基づく権利をいう。 ・特開平11-209618(発明の名称:熱伝導性シリコーンゴム組成物及び該組成物によりなる放熱シート)(2)許諾製品とは,許諾特許の技術的範囲に属する熱伝導性シリコーンゴム組成物よりなる放熱シートをいう。 (3)〈省略〉」ウ一審被告は,本件実施契約に基づき,遅くとも平成12年10月より原判決別紙物件目録記載の放熱シート(被告製品)の製造,販売を開始し,その後,平成14年5月までの被告製品の販売について,その売上高の1%相当の実施料を一審原告に支払った。その詳細は,原判決36頁記載のとおり合計729万5377円であることが認められる。 なお,一審被告は,現在,被告製品のうち,GR-i,GR-Hi,GR-Fi及びGR-HFiを製造販売していない。 エ一審被告は,本件特許が登録された後の平成14年7月17日,被告製品が本件各特許発明の技術的範囲に属さず,許諾製品に該当しないとして,実施料の支払を拒絶する旨を一審原告に通知し,同年12月13日,本件実施契約を解除する旨の意思表示をした。これにより,本件実施契約は,平成15年10月1日をもって終了した。 オ一審原告が本訴の請求の趣旨第3項において求め を一審原告に通知し,同年12月13日,本件実施契約を解除する旨の意思表示をした。これにより,本件実施契約は,平成15年10月1日をもって終了した。 オ一審原告が本訴の請求の趣旨第3項において求めているのは,実施料の支払がなされていない平成14年6月1日以降の分で,解除により実施契約が終了した平成15年10月1日までの分1800万円(売上高6億円- 168 -の実施料率3%)と遅延損害金である。 (2)ところで,上記未払実施料1800万円等の支払請求は,本件実施契約に基づく契約債権によるものであると解され,支払義務の有無及び金額等は,第1次的には契約の定め方により決せられるものであるところ,上記契約に基づき一審被告が一審原告に実施料を支払う法的義務を負うに至るのは,契約書第2条(2)に「許諾製品とは,許諾特許の技術的範囲に属する熱伝導性シリコーンゴム組成物よりなる放熱シート」と記載されていることからして,一審被告の製造販売した製品が許諾特許の技術的範囲に属することを要すると解される。そして,一審被告が現実に製造販売している被告製品は全て一審原告が特許権を有する本件各特許発明の技術的範囲に属するものではないことは,前記2で述べたとおりであるから,一審被告は一審原告に対して上記未払実施料1800万円等を支払う法的義務はないことになる(なお,だからといって,一審被告が既に支払った729万5377円を一審原告に返還請求できるものでもないことは,原判決も説示するとおり,同契約第4条2項に「本契約に基づいて乙から甲になされたあらゆる支払いは,許諾特許の無効,本契約の解約その他いかなる理由によっても乙に返還されないものとする。」と定められていることからも明らかである。)。 そうすると,未払実施料1800万円等の支払を求める本訴請求(請求の趣旨 許の無効,本契約の解約その他いかなる理由によっても乙に返還されないものとする。」と定められていることからも明らかである。)。 そうすると,未払実施料1800万円等の支払を求める本訴請求(請求の趣旨第3項)も理由がない。 結論 以上のとおりであるから,一審原告の本訴請求は理由がない。 よって,一審原告の本訴請求を一部認容した原判決はこれを変更することとし,一審原告勝訴部分の拡張を求めるA事件控訴人パナソニック電工株式会社の控訴は理由がないから棄却し,一審原告勝訴部分の取消しを求めるB事件控訴人富士高分子工業株式会社の控訴は認容することとして,主文のとおり判決する。 - 169 -知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官中野哲弘裁判官森義之裁判官澁谷勝海

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