- 1 -主文 原判決主文第2項から第5項までを取り消す。 本件訴えのうち,東京入国管理局長が被控訴人に対し在留資格「日本人の配偶者等,期間「3年」の在留特別許可処分をすることを求める部分を却下」する。 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 控訴人( )原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 ( )被控訴人の訴えのうち,東京入国管理局長が被控訴人に対し在留資格「日本 人の配偶者等,期間「3年」の在留特別許可処分をすることを求める部分を却」下する。 ( )被控訴人の控訴人に対するその余の請求をいずれも棄却する。 ( )訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 被控訴人( )本件控訴を棄却する。 ( )控訴費用は控訴人の負担とする。 第2事案の概要,(「」。),被控訴人はガーナ共和国以下ガーナという国籍を有する者であるが被控訴人が本邦に不法残留したことに基づく退去強制手続において,法務大臣の権限の委任を受けた東京入国管理局長(以下「東京入管局長」という。また,東「」。),(「」京入国管理局を東京入管というから出入国管理及び難民認定法以下法という)49条1項に基づく異議の申出が理由がない旨の平成18年11月7日。 付けの裁決(以下「本件裁決」という)を受け,東京入管主任審査官から平成1。 - 2 -(「」。)8年11月7日付けの退去強制令書発付処分以下本件退令発付処分というを受けたことについて,本件裁決及びこれに伴ってされた在留特別許可をしない決定には,被控訴人が日本人女性と内縁関係にあることなどの事情を看過して裁量権 制令書発付処分以下本件退令発付処分というを受けたことについて,本件裁決及びこれに伴ってされた在留特別許可をしない決定には,被控訴人が日本人女性と内縁関係にあることなどの事情を看過して裁量権を逸脱,濫用した違法があり,本件裁決を前提とする本件退令発付処分も違法であると主張し,控訴人に対し,本件裁決,在留特別許可をしない決定及び本件退令発付処分の取消しを求めるとともに,在留資格を「日本人の配偶者等」とし,在留期間を「3年」とする在留特別許可の義務付けを求める。 原判決は,( )東京入管局長の在留特別許可をしない決定の取消しを求める訴 ,(),,えは不適法であるとしてこれを却下し原判決主文第1項( )本件裁決は 裁量権の逸脱・濫用をした違法な裁決であるとしてこれを取り消し(原判決主文第2項,( )本件退令発付処分は,根拠を欠く違法な処分であるとしてこれを) 取り消し(原判決主文第3項,( )東京入管局長に対し,被控訴人の在留を特) 別に許可することを命じた原判決主文第4項が被控訴人のその余の請求在(),(留特別許可に付すべき条件を指定する部分)を棄却した(原判決主文第5項。 ),,,控訴人は原判決中の敗訴部分を不服として控訴を申し立てたが被控訴人は原判決に対し,控訴も附帯控訴もしなかった。したがって,原判決中の被控訴人が東京入管局長の在留特別許可をしない決定の取消しを求める訴えに関する部分は,当審の口頭弁論の対象ではない。 前提となる事実,争点及び争点に関する当事者の主張前提となる事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,2において当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1ないし3(原判決2頁22行目から6頁23行目まで)に 事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,2において当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1ないし3(原判決2頁22行目から6頁23行目まで)に記載するとおりであるから,これを引用する。 当審における当事者の主張( )控訴人 ア在留特別許可の義務付けの訴えの適法性について- 3 -法50条1項の在留特別許可は,退去強制事由が認められて退去させられるべき外国人について,なお特別に在留を許可すべき事情があると認めるときに,法務大臣等が恩恵的措置として特別に付与するものである。このような在留特別許可の性質に照らすと,在留特別許可の付与をするかどうかの判断を求める手続上の権利を退去強制事由が認められる外国人に付与する必要性はない。 被控訴人には在留特別許可の付与を求める申請権がないから,被控訴人の在留特別許可をすることを求める訴えは,行政事件訴訟法3条6項1号所定の義務付けを求める訴えとなり,行政事件訴訟法37条の2第1項所定の要件を満たす必要があるところ,被控訴人が在留特別許可を受けるためには,本件裁決取消しの訴えを提起して,これに勝訴すれば,行政事件訴訟法33条により,法務大臣等は,その取消判決の主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に拘束されるからその勝訴判決後に改めてされる法務大臣等の裁決により,本邦での在留資格を得るという目的を達することができる。したがって,在留特別許可の義務付けを求める被控訴人の訴えは,行政事件訴訟法37条の2第1項所定の「その損害を避けるため他に適当な方法がないとき(補充性の要件)に当たらないから,不適法である。 」イ在留特別許可の許否についての法務大臣等の裁量権国家は,外国人を受け入れる義務を国際慣習法上負うものではなく,特別 他に適当な方法がないとき(補充性の要件)に当たらないから,不適法である。 」イ在留特別許可の許否についての法務大臣等の裁量権国家は,外国人を受け入れる義務を国際慣習法上負うものではなく,特別の条約又は取決めがない限り,外国人を受け入れるかどうか,これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを自由に決することができる。また,憲法上,外国人は,我が国に入国する自由を保障されているものでもないことはもちろん,在留の権利ないし引き続き本邦に在留することを要求する権利を保障されているものでもない。ましてや,期間更新について申請権を付与されている在留期間更新の許否についてさえ更新事由の有無の判断は,法務大臣の裁量に任せられ,その裁量の幅は極めて広いとされているところ,在- 4 -留特別許可は,退去強制事由が認められて退去させられるべき外国人に恩恵的に与えられるものにすぎないから,その裁量の範囲は,在留期間更新の許否に関する裁量の範囲よりも「質的に」格段に広範なものである。 ,,「」()なお被控訴人は在留特別許可に係るガイドライン甲4の1及び2に従って在留特別許可をすべきである旨主張するが,そもそも在留特別許可は,諸般の事情を総合的に考慮した上で個別的に決定されるべき恩恵的措置であるから,在留特別許可に係る基準はない。被控訴人の上記主張は失当である。 ( )被控訴人 ア在留特別許可の義務付けの訴えの適法性について法49条1項所定の異議の申出は,在留特別許可の審査を求める申請の意義を有し,法務大臣等は,その申請に対し,在留特別許可についての判断をすることを義務付けられるから,在留特別許可の義務付けを求める訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号所定の義務付けの訴えであり,行政事件訴訟法37条の3所定の要件を満たしていることも明 についての判断をすることを義務付けられるから,在留特別許可の義務付けを求める訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号所定の義務付けの訴えであり,行政事件訴訟法37条の3所定の要件を満たしていることも明らかである。 イガイドライン等について法務省入国管理局は,平成18年10月「在留特別許可に係るガイドライ,ン(甲4の1及び2)を公表した。このガイドラインは,在留特別許可に係」る判断を積極要素と消極要素に係らしめている。確かに,上記ガイドライン自体には,法規範性はないが,積極要素が在留資格該当性を示し,消極要素が在留の相当性を示していることは明らかであるところ,本件各処分時の被控訴人とAとの関係は法律婚に準ずるものとして保護の対象になるから,控訴人は,上記ガイドラインによっても在留特別許可をすべきものであり,控訴人が被控訴人夫婦にこれを適用しないことは,行政の平等性に反する。 また,法務省入国管理局は,平成19年11月に,ホームページ上に「在」()留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について甲44- 5 -を発表したが,これによると,平成15年に許可された(事例8,平成17)年に許可された事例1及び事例9並びに平成18年に許可された事()()(例4(事例5(事例18(事例19)及び(事例23)においては,),),),全て逮捕又は収容後に日本人又は在留資格のある外国人と婚姻届をして,在留特別許可がされている。これらの事例に照らし,被控訴人の場合は,逮捕時点でAとの同居期間が16年にわたる上,両名にはもともと婚姻届の意思があったもので,逮捕後に速やかに婚姻届の準備を開始したのであるから,入国管理当局は,平等原則に則り,両名の婚姻が遅れている理由を精査し,婚姻届を待って処分を行うべき ,両名にはもともと婚姻届の意思があったもので,逮捕後に速やかに婚姻届の準備を開始したのであるから,入国管理当局は,平等原則に則り,両名の婚姻が遅れている理由を精査し,婚姻届を待って処分を行うべきであったし,仮に収容の最長期間内に婚姻届がされないのであれば,仮放免をして様子を見るべきであった。ところが,入国管理当局は,婚姻届の提出予定を真摯に調査検討することなく,本件各処分を急いだのであって,本件各処分は違法である。 第3当裁判所の判断 争点1(在留特別許可をしない決定の取消しを求める訴えの適法性)は,当審における口頭弁論の対象ではない。 争点2(在留特別許可の義務付けを求める訴えの適法性)について( )憲法22条1項は,日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定 するにとどまり,外国人がわが国に入国することについてはなんら規定していないものであり,このことは,国際慣習法上,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを当該国家が自由に決することができるものとされていることと,考えを同じくするものと解される(最高裁昭和29年(あ)第3594号同32年6月19日大法廷判決・刑集11巻6号1663頁参照。したがって,憲法上,外国人は,わが国に)入国する自由を保障されているものでないことはもちろん,在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものでもないと解す- 6 -るのが相当である(最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照。 )( )そして,法は,全ての人の本邦における出入国の公正な管理を図ることを目 的とし(1条,外国人 裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照。 )( )そして,法は,全ての人の本邦における出入国の公正な管理を図ることを目 的とし(1条,外国人の入国については本邦において行おうとする活動,身分)等を審査することとし(7条,本邦に在留する外国人は所定の在留資格の下で)所定の活動が許され,当該資格による在留についてはそれぞれ在留期間が定められ,これに応じて在留資格に変更が生じた場合には在留資格の変更が予定され,在留期間の更新を相当とする事由がある場合には在留期間の更新が予定されており(2条の2,第4章第1節,このような制度の枠組みは,わが国の出)入国管理の根幹をなすものである。そこで,法は,不法入国(24条1号,2号,不法就労(同条4号イ,不法残留(同条4号ロ)に該当する者などの上))記制度枠組に外れる者についての退去を強制する手続を規定している。すなわち,法は,24条に列挙されている退去強制事由に該当する者を類型的にみてわが国社会に滞在させることが好ましくない外国人であるとして,退去強制手続の対象とすることを予定しているのである。 ところで,法50条1項は,法務大臣(69条の2,法施行規則61条の2第10号により法務大臣から権限の委任を受けた地方入国管理局長を含む。以下,この場合については「法務大臣等」ということがある)が49条3項の規。 定に基づく裁決をするに当たって,外国人に退去強制事由があり,法49条1項による異議の申出に理由がないと認める場合でも,当該外国人について「永,住許可を受けているとき「かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあ」るとき「人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものである」とき」に加え「その他法務大臣が特別に在留を許可す 住許可を受けているとき「かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあ」るとき「人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものである」とき」に加え「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認める,とき」は,その在留を特別に許可することができると規定するが,この在留特別許可は,退去強制事由が認められ退去させられるべき外国人について,特別に在留を許可すべき事情があると認めるときに,法務大臣等が恩恵的処置とし- 7 -て日本に在留することを特別に許可するものであると解されるから,法24条に該当する外国人には,自己を本邦に在留させることを法務大臣に求める権利はないというべきであり,法49条1項所定の異議の申出は,たとい,在留特別許可を求める旨が明らかにされている場合であっても,行政事件訴訟法3条6項2号所定の「行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求」には当たらないものと解される。したがって,在留特別許可をすることの義務付けを求める訴えは,同項1号所定の義務付けの訴えであると解するのが相当である。 ( )しかして,行政事件訴訟法3条6項1号所定の義務付けの訴えにおいては, 同法37条の2第1項において「一定の処分がされないことにより重大な損害,を生ずるおそれがあり,かつ,その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り,提起することができる」とされているので,この点について検討するに,法務大臣等が在留特別許可をすべきであるにもかかわらず,これがされないとして在留特別許可をすることを義務付けることを求める訴えは,在留特別許可がされずに,法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決,,がされたときに裁量権の逸脱又は濫用があるか否かを争点とするものでありその裁決を受け 付けることを求める訴えは,在留特別許可がされずに,法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決,,がされたときに裁量権の逸脱又は濫用があるか否かを争点とするものでありその裁決を受けた外国人は,当該裁決の取消しの訴えを提起し,在留特別許可がされないことに裁量権の逸脱又は濫用があるとしてこれが認容されれば,行政事件訴訟法33条により,法務大臣等は,取消判決の主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に拘束されることになるから(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照,その勝訴判決の後に改めて行われる法務大臣等の裁決により,本邦に)おける在留資格を取得するという目的を達成することができるもので,同法37条の2第1項所定の「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり,かつ,その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」に当たらないものというべきである。 - 8 -これを本件についてみるに,被控訴人は,本件裁決(東京入国管理局長が被控訴人に対して平成18年11月7日付けでした被控訴人の法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決)の取消しを求める訴えを提起することができ,現にこれを提起しているのであるから,被控訴人には,行政事件訴訟法37条の2第1項所定の「一定の処分がされないことにより重大な損害を,,」生ずるおそれがありかつその損害を避けるため他に適当な方法がないとき,,という訴えの適法要件である補充性の要件を欠くから本件義務付けの訴えは不適法な訴えとして却下を免れない(なお,同法37条の2第5項は,義務付けの訴えの本案請求権の要件として「行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認 えは不適法な訴えとして却下を免れない(なお,同法37条の2第5項は,義務付けの訴えの本案請求権の要件として「行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるとき」と定めているところ,被控訴人に対し,在留資格を「定住者」とし,在留期間を「3年」とする在留特別許可をしないことが裁量権の逸脱又は濫用となると認めることができないことは後に説示するとおりであるから,仮に,在留特別許可をすることの義務付けを求める被控訴人の訴えが適法であるとしても,その請求には理由がないことは明らかである。 。) 争点3(東京入管局長が本件裁決に当たり被控訴人に在留特別許可を与えなかった判断に裁量権の逸脱,濫用があるか否か)について( )法は,すべての人の本邦における出入国の公正な管理を図ることを目的とし (1条,外国人の入国については本邦において行おうとする活動,身分等を審)査することとし(7条,本邦に在留する外国人は所定の在留資格の下で所定の)活動が許され,当該資格による在留についてはそれぞれ在留期間が定められ,これに応じて在留資格に変更が生じた場合には在留資格の変更が予定され,在留期間の更新を相当とする事由がある場合には在留期間の更新が予定されており(2条の2,第4章第1節,このような制度の枠組みは,わが国の出入国管)理の根幹をなすものであるそこで法は刑法等の刑罰法規に触れる行為 。 ,,(- 9 -4条4号ニからリまで,4号の2)に限らず,不法入国(24条1号,2号,)不法就労(同条4号イ,不法残留(同条4号ロ)に該当する者などの上記制度)枠組に外れる者についての退去を強制する手続を規定 4条4号ニからリまで,4号の2)に限らず,不法入国(24条1号,2号,)不法就労(同条4号イ,不法残留(同条4号ロ)に該当する者などの上記制度)枠組に外れる者についての退去を強制する手続を規定している。また,出生その他の事由により上陸の手続を経ることなく日本に在留することとなる外国人で,法22条の2に定める在留資格の取得の許可を受けないで,在留資格を有,することなく日本に在留できる60日の期間を超えて日本にいる者についても退去強制事由に該当するとしているように(24条7号,退去強制の対象とな)る者について帰責性を要件としていない。すなわち,法は,24条に列挙されている退去強制事由に該当する者を類型的にみてわが国社会に滞在させることが好ましくない外国人であるとして,退去強制手続の対象とすることを予定しているということができる。 ところで,法50条1項は,法務大臣等が49条3項の規定に基づく裁決をするに当たって,外国人に退去強制事由があり,法49条1項による異議の申出に理由がないと認める場合でも,当該外国人について「永住許可を受けてい,るとき「かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき「人身取」」引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるときに加えそ」,「の他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」は,その在留を特別に許可することができると規定するが,在留特別許可は,法務大臣等が恩恵的処置として例外的に付与する許可であるから,在留特別許可を付与するかどうかは,法の目的とする出入国管理及び在留の規制の適正円滑な遂行というその制度目的実現の観点から,当該外国人の在留中の一切の行状,特別に在留を求める理由等の個人的な事情ばかりではなく,国内の政治・経済・社会等の諸般の事情及び国際情 び在留の規制の適正円滑な遂行というその制度目的実現の観点から,当該外国人の在留中の一切の行状,特別に在留を求める理由等の個人的な事情ばかりではなく,国内の政治・経済・社会等の諸般の事情及び国際情勢,外交関係等の諸般の事情を総合的に考慮して行われなければならないものであって,その要件の判断は,法務大臣等の広範な裁量を前提としているものと解すべきである。 ( )そして本件においては前記引用に係る原判決中の 事実及び理由 の事 ,,「」「- 10 -案の概要」欄の1の( )ア,( )ウのとおり,被控訴人は法24条4号ロに該当 すると認められるから,本件裁決が違法かどうかは,東京入管局長が,被控訴人に対し法50条1項3号の規定に基づく在留特別許可を付与しなかったことについての違法性の有無によることになる。そして,この場合において「法務,大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」に該当しないとの判断が違法となるのは,その判断が法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として,裁量判断の基礎とした重要な事実の誤認により当該事情を看過した場合又は事実に関する評価が合理性を欠くこと等により当該事情がないとした判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものであることが明らかであると認められる場合であるというべきである(最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照。 )なお,特別在留許可は,法24条各号の退去強制事由に該当し,日本からの退去を求めるべき外国人に対して,引き続き日本に在留し,日本の社会で生活していくことを許容するものであるから,法務大臣等がする在留特別許可を付与するかどうかの判断において,当該退去強制事由に係る違反行為の具体的態様等を検討す て,引き続き日本に在留し,日本の社会で生活していくことを許容するものであるから,法務大臣等がする在留特別許可を付与するかどうかの判断において,当該退去強制事由に係る違反行為の具体的態様等を検討することを要することは当然であり,また,当該外国人が,それまで日本社会において,健全な市民として平穏で安定した生活を送ってきたこと及び将来においても日本社会において健全な市民として平穏で安定した生活を送ることができる蓋然性が高いことは,最低限満たす必要があるものというべきである。 ( )以上の観点から本件について検討する。 ア本件強制退去手続に至るまでの経緯については前記引用に係る原判決事,「実及び理由」中の「第2事案の概要」欄の1のほか,次のとおり補正するほかは,原判決12頁3行目から14頁16行目までの認定事実(該当箇所に付記した証拠のほか,甲18,19,証人A及び被控訴人本人によって認- 11 -められる)と同一であるから,これをここに引用する。 。 (原判決の補正)(ア)原判決12頁3行目の「原告は」の前に次のとおり加える。 ,「被控訴人は,日本語学校に通いながら日本の文化を学ぼうと考えて観光目的で入国したものの,許可された在留期間が15日間,延長された期間も15日間と短かったため,日本語学校に通うことを諦めたが,日本で暮らしたいと思ったことから不法残留することを決意して,αのゲストハ,,,ウスにそのまま残留しβのレストランの皿洗いγの金属部品加工工場δの印刷会社でアルバイトをして食い繋いできたが,ゲストハウス代を支払うことができず野宿することもあった」。 (イ)原判決12頁24行目から26行目にかけての「平成11年初めころ,原告の就労先が警察と入国管理当局による摘発を受けたことを契機として」を「平成 支払うことができず野宿することもあった」。 (イ)原判決12頁24行目から26行目にかけての「平成11年初めころ,原告の就労先が警察と入国管理当局による摘発を受けたことを契機として」を「平成11年初めころ,被控訴人の就労先が警察と入国管理当局に,よる摘発を受け,被控訴人は不法残留のフィリピン人と共に捕まったが,咄嗟に不法残留であることを隠すため,日本人と婚姻して在留資格を持っている友人の経歴を自分の経歴のように話し,妻はAであると話したところ,入国管理当局係官は被控訴人を同行してAのアパートに行って事実確認をしたが,被控訴人及びAの説明が真実であると誤信して,被控訴人を解放した。このことを契機として」に改める。 ,(ウ)原判決14頁8行目の次に行を改めて次のとおり加える。 「その間,被控訴人は,平成18年8月下旬,警察官に捕まったが,数年前に入手した他人名義の偽造に係るアメリカ合衆国の永住者カード(乙36)を提示し,その名義人になりすまして妻がAであると嘘の申告をしたところ,警察官がドイツに滞在中のAに電話で確認したところ,Aが被控訴人の説明に沿う回答をしたことから,被控訴人の説明が真実であると誤信して,被控訴人を解放した。被控訴人は,同年9月4日狭山警察署警- 12 -察官に逮捕された」。 (エ)原判決14頁16行目の次に行を改めて次のとおり加える。 「キなお,被控訴人は,Aに対して「C」と名乗っていたほか「B」,という名前も使用しており,Aが被控訴人の本名を知ったのは被控訴人が逮捕された後であった」。 イ他方,上記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1の事実及び原判決認定事実(補正後のもの)に証拠(乙3,9,被控訴人本人)を併せると,次の事実が認められる。 被控訴人は,現行犯逮捕されるま 用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1の事実及び原判決認定事実(補正後のもの)に証拠(乙3,9,被控訴人本人)を併せると,次の事実が認められる。 被控訴人は,現行犯逮捕されるまで約18年にわたって不法残留を続け,その間,不法に就労してきたほか,逮捕後の捜査において,自分の本名及び身分事項を明らかにせず,自分の氏名をBであると嘘を言い,生年月日を▲年▲月▲日(真実は▲年▲月▲日,入国年月日を1992年ころ(真実は1)988年5月11日)と偽り,警察官に対してアメリカ合衆国における自分の身分証明書であるとして,かねて入手して所持に係る偽造されたB名義の,,永住者カードを示して虚偽の事実を申し立てたほか法違反調査においても外国人登録をした事実が全くないのに,外国人登録証を紛失したとか,1993年春ころ「日本人の配偶者等(1年」の在留資格で入国し,2001,)年ころ永住許可を受けて,それ以降は永住者の在留資格で在留しているものであるなどと虚偽の事実を申告し,出入国履歴についても嘘を重ねた上,不法入国者として扱われることに納得できない旨を申し立てていた。 ウさらに,証拠(甲18,19,25,乙4,5,8ないし10,12,20,被控訴人本人)によれば,被控訴人は,本国の高校を卒業後18歳まで本国で生まれ育ち,本国には母及び弟らが居住し,退去強制により本国に帰国しても,本国での生活に特段支障はないと認められる。また,上記引用に係る原判決認定事実によると,被控訴人とAとの間には,子供が生まれず,Aも,経済的に独立しており,被控訴人の援助を必ずしも必要とはしていな- 13 -いことが認められる。 エ以上の事実関係に基づいて検討するに,被控訴人は,昭和63年5月11日に日本に入国してから平成18年9月4日に逮捕される 控訴人の援助を必ずしも必要とはしていな- 13 -いことが認められる。 エ以上の事実関係に基づいて検討するに,被控訴人は,昭和63年5月11日に日本に入国してから平成18年9月4日に逮捕されるまでの18年余の間,ゲストハウスに寝泊まりし(時には野宿し,アルバイトとして職を転々)としながら,生計を立ててきたものであり,Aと知り合って以降も同様の生活を維持してきたもので,反社会的な業務に従事したことは認められず,その生活関係に限れば,健全な市民として,平穏で安定した生活を送ってきたものと認められる。しかしながら,被控訴人の上記のような生活関係は,昭和63年6月10日の在留期限を越えて不法に日本に残留したことによる,18年間を超える長期の不法残留という違法行為によって築かれたものであり,そのこと自体が退去強制事由(法24条4号ロ)に該当し,被控訴人が在留期間経過後も不法に就労していた行為は,外国人の就労活動が制限されているわが国の在留資格制度(法7条1項2号,19条1項等)を乱す行為であって,その違法性は顕著である。しかも,その間,被控訴人は,平成11年初めころ,勤務先が入国管理当局に摘発された際には,不法残留であることを隠すため,日本人と婚姻して在留資格を持っている友人の経歴を自分の経歴のように話して入国管理当局を欺いて摘発を免れ,平成18年8月下旬に捕まった際にも他人になりすまして警察官を欺いて罪を免れていたものであって,全ての人の本邦における出入国の公正な管理を図るという入国管理行政の適正な執行を著しく阻害したもので,違法性の程度は重にしてかつ大である。これらのことを考慮すると,被控訴人の不法残留は,全ての人の本邦における出入国の公正な管理を図ることを目的とし(法1条,外国人の)入国については日本において行おうとする活動, にしてかつ大である。これらのことを考慮すると,被控訴人の不法残留は,全ての人の本邦における出入国の公正な管理を図ることを目的とし(法1条,外国人の)入国については日本において行おうとする活動,身分等を審査することとし(法7条,日本に在留する外国人は所定の在留資格の下で所定の活動が許さ)れ,当該資格による在留についてはそれぞれ在留期間が定められ,これに応じて在留資格に変更が生じた場合には在留資格の変更が予定され,在留期間- 14 -の更新を相当とする事由がある場合には在留期間の更新が予定されている法(2条の2,第4章第1節)というわが国の出入国管理制度の根幹を揺るがすものであり,被控訴人に対し在留特別許可を付与するかどうかの判断において,この点が重要視されることは極めて当然のことというべきである。さらに,上記引用に係る原判決認定の事実から明らかなように,被控訴人は,外国人登録法3条1項に定められた新規登録申請義務違反の罪を犯していたものであり,これは,本邦に在留する外国人の登録を実施することによって外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ,もって在留外国人の公正な管理に資することを目的とする外国人登録法の目的を達成するために,上陸後90日以内に新規登録をすることを義務付けた刑罰法規に違反するもので,,,この点も被控訴人に対し在留特別許可を付与するかどうかの判断において斟酌されることも当然のことである。 東京入管局長は,判断時までに現れた上記の諸般の事情を考慮した上で,被控訴人に対し在留特別許可を付与しないとの判断をしたものであり,このような判断に至る経緯,判断当時判明していた事実関係等に照らして,東京入管局長がした上記判断が,事実的基礎を欠くものであるか又は社会通念上。 ,著しく妥当性を欠くものであるとは認められ あり,このような判断に至る経緯,判断当時判明していた事実関係等に照らして,東京入管局長がした上記判断が,事実的基礎を欠くものであるか又は社会通念上。 ,著しく妥当性を欠くものであるとは認められない被控訴人とAとの関係は婚姻と同視することまではできず,少なくともAの両親も認める同棲生活を,,送ってきたといえるものであるがその同居生活には中断期間があったなど上記引用に係る原判決認定の経緯に照らすと,在留特別許可を付与するかどうかの判断において,一つの事情とはいえても,特に考慮すべき事情とまではいえず,両名の関係を考慮に入れても,東京入管局長がした判断に,事実的基礎を欠くものであるか又は社会通念上著しく妥当性を欠くものであるとは認められず,東京入管局長に委ねられた裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があったものとは認められない。争点3に関する被控訴人の主張は採用することができない。 - 15 -オ被控訴人は,被控訴人とAとの関係は法律婚に準ずるものとして保護の対象になるから,法務省入国管理局が平成18年10月に公表した「在留特別許可に係るガイドライン(甲4の1及び2)によっても在留特別許可をすべ」きものであり,控訴人が被控訴人夫婦にこれを適用しないことは,行政の平等性に反すると主張する。 しかしながら,そもそも在留特別許可は,法24条各号の退去強制事由に該当し,日本国内に居させることが好ましくないとして日本から退去させるべき外国人に対して,引き続き日本に在留し,日本の社会で生活していくことを許容するものであるから,法務大臣等が個々の事案ごとに,当該外国人の在留を希望する理由,家族状況,生活状況,素行,内外の諸情勢,人道的な配慮の必要性等の諸般の事情を総合的に考慮して個別的に決定される恩恵的措置であり,被控訴人の主張のガイドラ 案ごとに,当該外国人の在留を希望する理由,家族状況,生活状況,素行,内外の諸情勢,人道的な配慮の必要性等の諸般の事情を総合的に考慮して個別的に決定される恩恵的措置であり,被控訴人の主張のガイドラインには,被控訴人も自認するとおり法規範性がないし,在留特別許可は,上記ガイドラインにも記載されているとおり,法務大臣等が個々の事案ごとに,当該外国人の在留を希望する理由,家族状況,生活状況,素行,内外の諸情勢,人道的な配慮の必要性等の諸般の事情を総合的に勘案して行うものであり,在留特別許可の基準といわれるものはないから,被控訴人に上記ガイドラインに記載された積極要素があるからといって,直ちに被控訴人に在留特別許可を付与しないことが違法とはいえない。 さらに,被控訴人は,法務省入国管理局が公表した「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について(甲44)中の在留特別許」可がされた事例に照らすと,被控訴人の場合は,逮捕時点でAとの同居期間が16年にわたる上,両名にはもともと婚姻届の意思があったもので,逮捕後に速やかに婚姻届の準備を開始したのであるから,入国管理当局は,平等原則に則り,両名の婚姻が遅れている理由を精査し,婚姻届を待って処分を,,行うべきであったし仮に収容の最長期間内に婚姻届がされないのであれば- 16 -仮放免をして様子を見るべきであったと主張する。しかしながら,被控訴人は,本件裁決時にはAとの婚姻関係にあったものではないのであるから,被控訴人が指摘する平成15年許可の(事例8,平成17年許可の(事例1))及び(事例9)並びに平成18年許可の(事例4(事例5(事例18)),),及び(事例23)とは事案を異にし,平成18年許可の(事例19)は「定,住者」で正規在留中の日系三世の女性との婚姻届の び(事例9)並びに平成18年許可の(事例4(事例5(事例18)),),及び(事例23)とは事案を異にし,平成18年許可の(事例19)は「定,住者」で正規在留中の日系三世の女性との婚姻届の意思があったが書類の不備により届け出には至らなかったという点では被控訴人と類似しているが,同女性との間に子が出生している事案であり,また,法違反以外に法令違反の事実のない事案で,子が出生しておらず,法違反以外に外国人登録法違反の罪を犯している被控訴人とは結局事案を異にするというべきである。平成(),,18年許可の事例23については不明であるものの同事例を除いては上記各事例は,法違反以外に法令違反を犯していない点においても,被控訴人とは事案を異にするものであるし,婚姻の届出を待って処分を行うべきで,,あったとか仮放免をして様子を見るべきであったいうこともできないから被控訴人の上記主張も採用することができない。 本件裁決及び本件退令発付処分の適法性について以上のとおり,本件裁決には,裁量権を逸脱,濫用した違法な点があるとはいえないし,退去強制令書は,法49条1項の異議の申出に理由がない旨の法務大臣の裁決を前提として発付されるものであるところ,本件裁決に裁量権の逸脱,濫用等の違法な点があると認めることができないし,本件退令発付処分固有の違法性を認めるに足りる証拠もないから,いずれも適法であって上記各処分の取消しを求める被控訴人の各請求は理由がない。 当審における被控訴人の主張について被控訴人は,上記第2の2( )のア及びイのとおり主張するが,上記各主張が理 由のないことは上記説示から明らかであり,採用することができない。 第4結論- 17 -以上の認定及び判断の結果によれば,本件訴えのうち被控訴人の在留を特別に り主張するが,上記各主張が理 由のないことは上記説示から明らかであり,採用することができない。 第4結論- 17 -以上の認定及び判断の結果によれば,本件訴えのうち被控訴人の在留を特別に,,許可することを義務付けることを求める部分は不適法であるからこれを却下し被控訴人のその余の請求は,いずれも理由がないからこれを棄却すべきところ,当裁判所の上記判断と結論を異にする原判決は不当であるから,原判決主文2項から5項までを取り消した上,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第21民事部裁判長裁判官渡邉等裁判官西口元裁判官高世三郎は差し支えのため署名押印することができない。 裁判長裁判官渡邉等
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