令和6(行コ)69 通知処分取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和7年1月30日 名古屋高等裁判所 棄却 名古屋地方裁判所 令和4(行ウ)67
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判決文本文6,607 文字)

令和6年(行コ)第69号通知処分取消請求控訴事件令和7年1月30日名古屋高等裁判所民事第1部判決(原審・名古屋地方裁判所令和4年(行ウ)第67号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 熱田税務署長が令和元年10月15日付けでした、控訴人の平成25年4月1日から平成26年3月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。 3 熱田税務署長が令和2年5月13日付けでした、控訴人の平成26年4月1日から平成27年3月31日まで、平成27年4月1日から平成28年3月31日まで及び平成28年4月1日から平成29年3月31日までの各課税期間の消費税及び地方消費税の各更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の各通知処分を取り消す。 第2 事案の概要(以下、本判決で新たに定義するものを除き、略称は原判決別紙「略語一覧(順不同)」の定義による。) 1 本件は、社会福祉法人である控訴人が、被控訴人に対し、本件各課税期間の消費税等に係る確定申告について、控訴人が提供する本件各福祉サービスを利用して生産活動に従事する利用者に対し支払った本件工賃を消費税法上の課税 仕入れに係る支払対価の額に計上すべきであるとして、本件各更正の請求をしたところ、処分行政庁から、更正をすべき理由がない旨の本件各通知処分を受けたことから、本件各通知処分の取消しを求める事案である。 原審が、控訴人の請求をいずれも棄却する旨の判決(原判決)をしたところ、これを不服として控訴人が控訴した。 2 関係法令等の定め、前提事実、争点及びこれに関する を求める事案である。 原審が、控訴人の請求をいずれも棄却する旨の判決(原判決)をしたところ、これを不服として控訴人が控訴した。 2 関係法令等の定め、前提事実、争点及びこれに関する当事者の主張については、下記第3のとおり当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第2、1から3までに記載のとおりであるから、これを 引用する。 同第2、3のとおり、本件の争点は、控訴人が利用者に対し支払った本件工賃が、消費税法30条1項に規定する課税仕入れに係る支払対価に該当するかである。 第3 当審における控訴人の主張 1 「課税仕入れ」等の意義について消費税法は、仕入税額控除の対象となる課税仕入れにつき、事業者からの譲渡であることを要求していない。これは要するに、消費税法上、税の累積の廃除という仕組みがとられているものの、その仕組みは貫徹されていないことを意味する。したがって、税の累積の廃除という仕組みから、消費税法上の役務 の提供が具体的役務提供によって支払が生じたという対応関係が認められるような役務の提供を意味するとはいえない。また、条文上にない「対応関係」という課税要件を新たに創設することは、課税要件法定主義に反する。租税法は侵害規範であり、法的安定性の要請が強く働くから、納税者に不利になるような限定解釈は制限されるべきである。 2 本件工賃が課税仕入れに係る支払対価に該当することについて⑴ 本件各事業所における生産活動の位置付け障害福祉サービスゆたか作業所運営規程(甲1、以下「運営規程」という。)及び利用契約書によれば、本件各事業所における生産活動の機会の提供は、控訴人から利用者に対する福祉サービスの提供にとどまらず、利用者から控 ゆたか作業所運営規程(甲1、以下「運営規程」という。)及び利用契約書によれば、本件各事業所における生産活動の機会の提供は、控訴人から利用者に対する福祉サービスの提供にとどまらず、利用者から控 訴人に対する役務の提供という側面を有していること、利用者が従事する生 産活動は、自立のための活動であるとともに、社会経済活動への参加であることが明らかである。 ⑵ 本件工賃の位置付け運営規程及び利用契約書等によれば、本件各事業所の利用者は、控訴人に役務を提供した反対給付として本件工賃を受領しているのであり、福祉サー ビスの一環として本件工賃を受領しているのではない。したがって、本件工賃は、生産活動による成果物の販売代金に転嫁可能な程度に生産活動への従事と結びついているといえる。 ⑶ 生産活動の社会的有用性と就労実態について原判決は、本件各事業所の利用者の就労実態を十分考慮しておらず、明ら かに不当である。本件各事業所において生み出される成果物等は、市場での厳しい選別に耐え、十分な競争力を有しており、利用者はそのために十分な自覚や集中力等をもって作業に取り組んでいる。自らの労働によって工賃を得ることは利用者の誇りや充実感の高揚に大きな役割を果たしている。現実問題として、本件工賃は利用者の生活費等を支えている。 ⑷ 工賃の決定方法について原判決が引用した平成18年課長通知を含む通達では、実作業時間に応じた工賃の支給、欠勤等による工賃の減額、成果物の出来高による工賃差異が許容されているのであって、本件工賃の支払額を利用者の作業時間や能力に応じて決定しているとしてもそれは控訴人の内部的な問題にすぎないとする 原判決の判断には理由がない。 ⑸ 就労支援事業製造原価明細 るのであって、本件工賃の支払額を利用者の作業時間や能力に応じて決定しているとしてもそれは控訴人の内部的な問題にすぎないとする 原判決の判断には理由がない。 ⑸ 就労支援事業製造原価明細書(甲21)について社会福祉法人会計基準運用通知は、本件工賃を労務費の中に記載することを求めている。勘定科目は、その収益ないし支出の性質を踏まえて決定されるのであり、利用者工賃が労務費という勘定科目に含まれていることは、本 件工賃の消費税法上の性質を勘案するに当たり重要な要素である。就労支援 事業製造原価明細書(甲21、以下「製造原価明細書」という。)は、成果物を製造するために要した原価の明細を表示するための書面である。利用者工賃と利用者賃金が同明細に記載されていることは、これらの費目が売上げを獲得するための構成要素(対価)であることの証拠である。 ⑹ 国の施策等との整合性について 国の施策として、平成24年から工賃倍増5ヶ年計画が施行され、平成30年に引き続き令和3年から工賃向上計画が施行継続されており、就労による工賃の向上のために、官民一体となって取組が行われている。また、ILOは、労働法の適用外とされることが多い福祉施設での障害者の作業について、日本政府に対し、労働法を適用するのが重要であると勧告している(甲 52)。原判決は、国の施策やILO勧告に整合せず、不当である。 3 基本的人権の観点からの主張本件は、消費税の仕入税額控除の是非に関する裁判であるが、その根底には、利用者の就労が労働であるかどうかの問題が横たわっており、原判決は、利用者の就労が労働でないと断じたに等しい。憲法27条、障害者基本法、障 害者総合支援法等の理念や目的に照らし、本件工賃は、役務の提供の対価であると解 どうかの問題が横たわっており、原判決は、利用者の就労が労働でないと断じたに等しい。憲法27条、障害者基本法、障 害者総合支援法等の理念や目的に照らし、本件工賃は、役務の提供の対価であると解すべきである。 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所も、本件工賃は控訴人の課税仕入れに係る支払対価に該当するとは認められないから、本件各通知処分はいずれも適法であり、控訴人の請求はい ずれも理由がないと判断する。その理由は、下記2のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第3に記載のとおりであるから、これを引用する。 2 当審における控訴人の主張に対する判断⑴ 控訴人は、課税仕入れ等の意義について、前記第3、1のとおり主張する。 しかし、前記1で引用した原判決の「事実及び理由」中の第3、1及び2の とおり、消費税の仕組み及び性格に照らし、消費税法は、ある支払が転嫁が可能な程度に個別具体的な役務の提供等と結びついている場合に課税対象とする趣旨であり、消費税法2条1項8号の「対価を得て行われる・・・役務の提供」とは、具体的役務提供によって支払が生じたという対応関係が認められるような役務の提供をいうものと解される。同項12号が、消費税の課 税対象を事業者間の取引としながら、課税仕入れの相手先を事業者に限定していないのは、課税仕入れに係る消費税額の把握を、仕入先の発行する税額別記の書類(税額票)によらず、帳簿上の記録等によることとした結果、仕入先が課税事業者であるかどうかを具体的に確認した上、仕入控除税額を計算することとすると、実務上極めて煩雑となることを考慮したものと解され る。そうすると、同号が課税仕入れの相手先を事業者に限定していないことは、課税仕入れの解釈 に確認した上、仕入控除税額を計算することとすると、実務上極めて煩雑となることを考慮したものと解され る。そうすると、同号が課税仕入れの相手先を事業者に限定していないことは、課税仕入れの解釈に影響を与えるものではない。また、前記1で引用した原判決の「事実及び理由」中の第3、2⑵のとおり、租税法であってもその規定の意味内容を解釈によって明らかにすることが許されるのは当然であるし、対応関係という要件が不明確ともいえないから、課税要件法定主義に 反するとはいえない。したがって、控訴人の上記主張は採用できない。 ⑵ 控訴人は、本件各事業所における生産活動の位置付けについて、前記第3、2⑴のとおり主張する。しかし、前記1で引用した原判決の「事実及び理由」中の第3、3⑴のとおり、障害者総合支援法及び関係法令によれば、就労継続支援B型等における生産活動の提供は、事業者が利用者に対して供与すべ き便宜の一つとして法律上義務付けられている一方で、利用者が生産活動に従事することは法律上義務付けられていないことからすると、利用者はあくまで生産活動の機会の提供という障害福祉サービスを受ける立場にあるというべきである。これに加えて、控訴人の利用契約書及び運営規程もこれに沿う内容となっていることからすると、本件各事業所の利用者は、控訴人によ り提供される本件各福祉サービスの一環として、自らの知識及び能力の向上 等のための訓練として生産活動に従事しているというべきである。したがって、控訴人の上記主張は採用できない。 ⑶ 控訴人は、本件工賃の位置付けについて、前記第3、2⑵のとおり主張する。しかし、総合支援法事業基準によれば、事業者は、就労継続支援B型等の利用者に対し、生産活動に係る事業の収入から必要な経費を控除した額に 相当 の位置付けについて、前記第3、2⑵のとおり主張する。しかし、総合支援法事業基準によれば、事業者は、就労継続支援B型等の利用者に対し、生産活動に係る事業の収入から必要な経費を控除した額に 相当する金額を工賃として支払わなければならないとされ、事業者が利益を収受することは予定されていないこと、他方で、平成18年課長通知によれば、就労継続支援B型等の利用者は、その作業内容や作業量にかかわらず、生産活動に従事したことをもって、必要な経費を控除した残額について工賃として支払を受けることができるとされている。また、利用契約書(甲2) も、工賃支払について控訴人が利用者に提供すべき障害福祉サービスの一つである生産活動の機会の提供に含まれているとの理解を前提としている。以上によれば、本件工賃は、利用者が控訴人に役務を提供した反対給付として受領しているのではなく、本件各福祉サービスの一環として、生産活動に係る事業の収入から必要な経費を控除した残額(剰余金)の分配を受けている というべきである。したがって、控訴人の上記主張は採用できない。 ⑷ 控訴人は、本件各事業所の利用者の就労実態を十分考慮すべきであるとして、前記第3、2⑶のとおり主張する。しかし、前記1で引用した原判決の「事実及び理由」中の第3、3⑷のとおり、本件の争点は、本件工賃が消費税法30条1項に規定する課税仕入れに係る支払対価に該当するかであり、 その判断の前提となる就労継続支援B型等における生産活動及び工賃の法的位置付けについては、障害者総合支援法及び関係法令に規定されているのであるから、本件各事業所における利用者の生産活動の実態等が本件争点の判断に直接影響を及ぼすものとはいえない。 ⑸ 控訴人は、工賃の決定方法について、前記第3、2⑷のとおり主張する。 るのであるから、本件各事業所における利用者の生産活動の実態等が本件争点の判断に直接影響を及ぼすものとはいえない。 ⑸ 控訴人は、工賃の決定方法について、前記第3、2⑷のとおり主張する。 しかし、通達において、実作業時間に応じた工賃の支給、欠勤等による工賃 の減額、成果物の出来高による工賃差異が許容されているとしても、それによって直ちに、生産活動に係る事業の収入から必要経費を控除した残額(剰余金)の分配であるという工賃の法的性質に影響が生じるものとはいえない。 したがって、控訴人の上記主張は採用できない。 ⑹ 控訴人は、本件工賃の社会福祉法人会計基準運用通知(その別紙である製 造原価明細書)における取扱いについて、前記第3、2⑸のとおり主張する。 しかし、前記1で引用した原判決の「事実及び理由」中の第3、3⑷ウのとおり、社会福祉法人会計基準運用通知は会計上の取扱いを定めたものにすぎないから、これをもって直ちに、税法上、利用者による役務提供と本件工賃との間に対応関係があるとはいえない。また、総合支援法事業基準において、 工賃は生産活動に係る事業の収入から必要な経費を控除した額に相当する金額を支払うこととされており、生産活動に係る事業に必要な経費を構成するものとはされていないことも考慮すると、本件工賃が売上げを獲得するための構成要素(対価)とはいえない。したがって、控訴人の上記主張は採用できない。 ⑺ 控訴人は、本件工賃が利用者の役務提供の対価ではないとする判断は、国の施策等とも整合しないとして、前記第3、2⑹のとおり主張する。しかし、本件は、本件工賃が消費税法上の課税仕入れに係る支払対価に該当するか否かという税法上の取扱いが争点となっている事案であるから、国の施策等に関する控訴人の主張を踏まえても、消費 おり主張する。しかし、本件は、本件工賃が消費税法上の課税仕入れに係る支払対価に該当するか否かという税法上の取扱いが争点となっている事案であるから、国の施策等に関する控訴人の主張を踏まえても、消費税法上の課税仕入れに係る支払対価 の該当性に関する前記1の認定判断を左右しない。 ⑻ 控訴人は、憲法27条等に照らし、本件工賃は役務の提供の対価であるとして、前記第3、3のとおり主張する。しかし、本件は、本件工賃が消費税法上の課税仕入れに係る支払対価に該当するか否かという税法上の取扱いが争点となっている事案である。就労継続支援B型等における生産活動及び工 賃の法的位置付けを踏まえると、本件工賃は消費税法上の課税仕入れに係る 支払対価には該当しない。したがって、控訴人の上記主張は採用できない。 ⑼ その他、控訴人は、本件工賃は消費税法30条1項に規定する課税仕入れに係る支払対価に該当するとして種々主張するが、前記1の認定判断を左右しない。 第5 結語 よって、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第1部 裁判長裁判官 吉田彩 裁判官 加藤員祥 裁判官 加藤員祥 裁判官 本松智

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