主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人ら各自に対し、1万円及びこれに対する平成29年7月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等(以下、略称については原判決のとおり。ただし、原判決中、 「原告」を「控訴人」と、「被告」を「被控訴人」と、「別紙」を「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。) 1 本件は、控訴人らが、平成29年6月22日、当時の衆議院又は参議院における国会議員として、他の国会議員と共に、内閣に対し、憲法53条後段に基づいて臨時会の召集を要求し、同年9月28日に臨時会が召集されたが、その 冒頭で衆議院の解散が行われたことについて、内閣は、合理的な期間である20日以内に臨時会を召集する義務があるのにこれを怠り、実質的に臨時会が召集されていないか、少なくとも召集の要求から臨時会の召集まで98日を要したことにより、控訴人らは、臨時会において国会議員としての権利を行使する機会を奪われたなどと主張して、被控訴人に対し、国賠法1条1項に基づき、 損害賠償の一部として、各自につき1万円及びこれに対する合理的な召集期限の翌日である同年7月13日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審が控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らがこれを不服と してそれぞれ控訴した。 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり訂正し、後記3のとおり当審における補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の2から してそれぞれ控訴した。 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり訂正し、後記3のとおり当審における補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の2から4までのとおりであるから、これを引用する。 原判決3頁15行目の「(本案前の争点)」を削る。 原判決8頁9行目の「判断材料」の後に「を得る場」と加える。 原判決9頁21行目の「司法審査の対象外」を「、裁判所の司法審査権の範囲外のもの」に、同22行目の「民集」を「刑集」にそれぞれ改める。 原判決10頁8行目冒頭の「そして、」の後に「後記において主張するとおり、」と加える。 原判決10頁19行目末尾に改行の上、次のとおり加える。 「 この点に関し、選挙権や弁護人の接見交通権のような公務的性格を有する権利が主観的権利として認められていることから、国会議員の内閣に対する臨時会召集要求権も、国会議員の主観的権利として認められるべきである。」原判決14頁13行目の「審議の期間」を「審議の機会」に改める。 原判決15頁5行目の「国会の召集権限は」の後に「実質的に」と加える。 原判決16頁21行目冒頭の「認める」を「積極的に争うものではない」に改める。 3 当審における補充主張(争点関係)(控訴人らの主張)臨時会召集要求は個々の議員の権利であること ア憲法53条後段において、いずれかの議院の総議員の「4分の1以上」という具体的な数字まで規定されている趣旨は、この要求の主体が国会や議院といった集合体ではなく、個々の具体的な国会議員であるというところにある。実際に、臨時会召集要求について、国家機関として各議院や国会が国会議員の総意を取りまとめるような手順は、定められていない。 憲法53 はなく、個々の具体的な国会議員であるというところにある。実際に、臨時会召集要求について、国家機関として各議院や国会が国会議員の総意を取りまとめるような手順は、定められていない。 憲法53条後段の要件を満たす人数の国会議員によって臨時会召集要求 があった場合、仮に当該召集要求について賛同しない国会議員が多数であったとしても、内閣は、臨時会の召集を決定しなければならない。憲法上、いずれかの議院の多数派の意思をもって個々の国会議員の召集要求を否認する手続は、存在しない。 憲法53条後段は、多数決によっても奪い得ない立憲主義的明文ルール として規定されたものであり、臨時会召集要求の権利を行使する主体は、機関としての各議院や国会ではなく、個々の国会議員と解すべきである。 このことは、行政機関の職員や多数派の国会議員が、少数派の国会議員に対して監禁・脅迫など何らかの不当な妨害工作を実施し、当該国会議員の召集要求の意思表示を妨害した場合を考えれば、一層明らかとなる。 なお、内閣は、臨時会召集決定があったことを、両議院の議長宛てではなく、臨時会召集要求をした議員(代表者数名)の個人宛てに知らせるものとしており、このような実務の運用は、内閣が、臨時会召集要求をした個々の国会議員に対して召集義務を負うことを認めていることを示すものである。 イ憲法53条後段の臨時会召集要求は、国会議員がその職責を果たすための国会という「場」を確保し、少数派の国会議員の意見を国会に反映させるために認められ、国会の多数決によっても否定できないものであるから、歳費請求権(憲法49条)、不逮捕特権(憲法50条)、発言表決の無答責(憲法51条)と同様に、あるいはそれ以上に、個々の国会議員に認めら れた重要な権利と解すべきである。 のであるから、歳費請求権(憲法49条)、不逮捕特権(憲法50条)、発言表決の無答責(憲法51条)と同様に、あるいはそれ以上に、個々の国会議員に認めら れた重要な権利と解すべきである。 臨時会召集要求には国会議員の個人的利益性があることア国会議員に臨時会召集要求権が付与された目的が、全国民の代表としての役割を果たすという公益の実現にあるからといって、付与された権利が国会議員個人の権利であるという法的性格が失われるものではない。 例えば、国会議員の歳費請求権(憲法49条)は、各議員が独立して全 国民の代表としての職務を遂行することを保障する意味を持ち、公益を実現する機能を果たすことが期待されているが、そのことは、国会議員に歳費を受ける主観的権利がないことを意味しない。不逮捕特権(憲法50条)や発言表決の無答責(憲法51条)についても同様である。 このように解しなければ、普通地方公共団体の議会の議員が、当該議会 から出席停止の懲罰を受けた場合、議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができず、住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができないにもかかわらず、公益の侵害にすぎないとして、その救済を裁判所に求めることができなくなってしまうが、そのような結論は、判例(最高裁令和2年11月25日大 法廷判決・民集74巻8号2229頁(以下「令和2年最高裁大法廷判決」という。))の是認しないところである。 イまた、憲法15条1項で保障される選挙権は、公務としての側面のほか、個人としての権利の性格を有するところ、同項は、候補者が当選した場合に開催された国会において国会議員として活動することを当然に保障して いる。そして、国民の選挙権行使と同様に、国会議員が、臨時 個人としての権利の性格を有するところ、同項は、候補者が当選した場合に開催された国会において国会議員として活動することを当然に保障して いる。そして、国民の選挙権行使と同様に、国会議員が、臨時会召集要求権や質問権等を行使することは、公務としての側面はあるが、国家の政策形成の場面や行政監督の場面を通じて、自己の政治信条や政策を実現するための主観的権利の側面を強く有している。国会(臨時会)における諸活動は、国会議員が、国民から期待された職責を果たすことを通じて、自己 実現を図り、全国民の代表として意義ある活動を行っていることを主権者たる国民に広く伝え、その信頼を得て、国会議員としての地位を保持し又は確保するという点において、個人としての国会議員の経済的・人格的利益を実現するための活動でもある。このような国会議員の諸活動の前提となる臨時会召集要求についても、公益の実現という側面にとどまらず、当 該召集要求をした国会議員の個人的利益の側面を見いだすことができる。 弁護人が、被疑者・被告人の権利擁護や公正な裁判の実現という公益を実現するために付与された接見交通権を侵害された場合に、接見交通権が固有権すなわち弁護人個人の権利であるとして、国賠法1条1項に基づく損害賠償請求をすることが認められていることに鑑みると、臨時会召集要求をした国会議員が臨時会召集要求権を侵害された場合において も、同条項に基づく損害賠償請求をすることを認めるべきである。 臨時会召集義務に違反した内閣に関して法的責任を認めるべきことア憲法53条後段は、議院内閣制の下で、国会の自律権を保障し、国会の内閣に対する他者性と独立対等性を担保するという必要不可欠な役割を果たす規定であること、憲法53条やそれ以外の憲法の規定において、憲法 後段は、議院内閣制の下で、国会の自律権を保障し、国会の内閣に対する他者性と独立対等性を担保するという必要不可欠な役割を果たす規定であること、憲法53条やそれ以外の憲法の規定において、憲法 53条後段の臨時会召集要求があった場合に、その召集決定や時期につき内閣の裁量に委ねる旨の規定は存在していないことに照らすと、憲法は、内閣にそのような裁量を与えていないと解される。 そうすると、臨時会召集義務に違反した内閣が負う責任は、内閣の裁量を前提として、それが政治的に是認できるか否かを国会に問うというよ うな政治的責任ではない。 イ国民主権という基本原理に基づき、国会を「国権の最高機関」と明記する憲法の精神を踏まえて、三権分立における国会と内閣との均衡・抑制を機能させ、我が国における民主主義政治を担保するためには、内閣が憲法上の義務を履行し、憲法上の権利を保障することが、極めて重要である。 憲法上のこの強い要請が存することを踏まえると、内閣に臨時会の召集を強制する手段が憲法上明記されていないことを理由に、法令に基づく強制の方策について消極的・抑制的姿勢を保持することは、むしろ憲法の要請に反することになる。 そうすると、内閣が憲法上の義務である臨時会召集義務を履行できるよ うに方向付け、国会議員に憲法上付与された臨時会召集要求権を保障す べく、臨時会召集義務に違反した内閣に関して国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を認めることが相当である。 小括以上によれば、本件召集要求に基づき安倍内閣が臨時会を実質的に召集せず、又はその召集を不当に遅延させたことは、本件召集要求をした個々の国 会議員である控訴人らとの関係において、国賠法1条1項の適用上違法と評価されるものというべきである。 (被控訴人の主張) ず、又はその召集を不当に遅延させたことは、本件召集要求をした個々の国 会議員である控訴人らとの関係において、国賠法1条1項の適用上違法と評価されるものというべきである。 (被控訴人の主張)憲法53条後段は、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があった場合に、内閣において、召集のために必要な合理的な期間を超えない期間 内に臨時会の召集を決定するという憲法に規定された義務を負うことを定めたものにとどまり、内閣が同義務に違反した場合において、当該召集要求をした個々の国会議員に対し、国賠法1条1項に基づく損害賠償による救済を与えることまでをもその趣旨に含むものと解することはできない。その理由の詳細については、上記2(当審における訂正後の原判決第2の4)にお いて主張したとおりである。 内閣は、憲法53条後段に基づく臨時会召集要求があった場合、国会ないし当該召集要求をした国会議員との関係において、その召集の決定について政治的責任を負うにとどまる。その理由の詳細については、上記2(当審における訂正後の原判決第2の4)において主張したとおりである。 国家賠償制度は、個別の国民の法益侵害の救済を目的とするものであり、個別の国民の権利ないし法益の侵害が認められない場合に、これを国賠法1条1項の適用上違法と認める余地はない。 臨時会の召集によって実現されるのは、全国民の代表である国会議員(当該召集要求をした国会議員に限られない。)による討議を通じた国民全体の ための利益といえる。召集要求を受けて行われる内閣による臨時会召集決定 の適否や当不当については、本来的に国会等の政治の場で議論されるべきものであって、政治部門にその判断が委ねられており、最終的には国民の選挙を通じた政治判断に委ねられるべ よる臨時会召集決定 の適否や当不当については、本来的に国会等の政治の場で議論されるべきものであって、政治部門にその判断が委ねられており、最終的には国民の選挙を通じた政治判断に委ねられるべきものである。内閣による臨時会召集決定に関し、当該召集要求を行った個々の国会議員が、自己の職責を果たすことによって自己実現を図るという利益やこれによる地位の保持・確保という利 益が図られなかったものとして、国賠法1条1項に基づく損害賠償による救済の対象となることは、国賠法上想定されていないというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、原審同様、控訴人らの請求はいずれも棄却されるべきものと判断する。その理由は、次のとおりである。 2 争点(内閣による臨時会の召集の決定が憲法53条後段に違反するかの法的判断について、裁判所の司法審査権が及ぶか)については、原判決第3の1を引用する。 3 争点(本件召集要求に基づく内閣の召集決定が、本件召集要求をした個々の国会議員との関係において、国賠法1条1項の適用上、違法と評価されるか) について判断枠組み国賠法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するもの である(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁、最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁参照)。したがって、公務員による公権力の行使に国賠法1条1項にいう違法があるというためには、公務員が、当該行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必 要である 務員による公権力の行使に国賠法1条1項にいう違法があるというためには、公務員が、当該行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必 要である(最高裁平成20年4月15日第三小法廷判決・民集62巻5号1 005頁参照)。 また、公権力の行使が、国賠法1条1項により救済を求める者の損害の回復等を目的とするものではなく、その者が受ける利益自体が、公益上の見地に立って行われる公権力の行使によって反射的にもたらされる事実上の利益にすぎないときは、法律上保護される利益とはいえない(最高裁平成2年2 月20日第三小法廷判決・裁判集民事159号161頁、最高裁平成17年4月21日第一小法廷判決・裁判集民事216号579頁参照)。 そうすると、内閣による憲法53条後段に基づく臨時会の召集行為の懈怠が、控訴人らとの関係において、国賠法1条1項の適用上違法となるか否かについては、まず、同条後段に基づいて内閣が負う義務がいかなる内容・性 格のものであるか、すなわち、内閣は、同条後段に基づいて臨時会召集要求をした者に対して、その者の権利利益の保護又は損害の回復を目的とした職務上の法的義務を負っているといえるか否かが問題となる。 検討ア憲法53条後段の趣旨等について 憲法上、国会の召集とは、国会の会期を開始させ、活動能力をもたせるために、期日及び場所を定めて、議員を呼び集めることをいうと解されるところ、憲法は、国会の召集につき、常会(52条)、臨時会(53条)、特別会(54条)のいずれについても、内閣の助言と承認により、天皇が行う旨を定めており(7条2号)、国会が各議院における議決又は 議長の召集によって直ちに集会する自律的集会制は採用せず、原則として、行政権 )のいずれについても、内閣の助言と承認により、天皇が行う旨を定めており(7条2号)、国会が各議院における議決又は 議長の召集によって直ちに集会する自律的集会制は採用せず、原則として、行政権を有する内閣が実質的に決定する召集を経て集会する他律的集会制を採用している。 これに対し、憲法53条後段は、「いづれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。」と 規定し、臨時会召集要求を通じて、国会が自律的に集会することができ るという例外を定めている。 この憲法53条後段の規定は、三権分立制の下で、国会の自律的集会権を補完的に保障するとともに、議院内閣制の下で、少数派の国会議員の主導により国会の活動を開始させることを可能として少数派の国民の意見を国会に反映させるという趣旨に基づくものであり、同条後段は、こ のような行政部と立法部との関係に鑑み、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求がある場合には、内閣は、召集のために必要な合理的期間内に、国会の臨時会の召集をすべき憲法上の義務を定めたものと解される。 そうすると、憲法53条後段に基づいて内閣が負担する義務は、行政部 と立法部との間の均衡・抑制関係の一部をなすものであり、内閣が国会に対して負う国家機関相互の間の公法上の義務という性格を有するものであると解される。 イ憲法53条後段の規定の文言等について憲法53条後段は、憲法において国会議員に認められている歳費請求権 (憲法49条)、不逮捕特権(憲法50条)及び発言表決の無答責(憲法51条)に係る条文とは異なり、「両議院の議員」を主語とせず、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があった場合に、内閣が国会の臨時会の召集を決定しなければならない旨を規 発言表決の無答責(憲法51条)に係る条文とは異なり、「両議院の議員」を主語とせず、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があった場合に、内閣が国会の臨時会の召集を決定しなければならない旨を規定するにとどまり、個々の国会議員に対し単独で臨時会の召集を可能にする権限を与えるもので はない。 また、憲法53条後段の規定は、「国民の権利及び義務」について定める第3章ではなく、国の統治機構の一部である「国会」について定める第4章に位置付けられている上、歳費請求権(憲法49条)、不逮捕特権(憲法50条)及び発言表決の無答責(憲法51条)に続くものとして ではなく、常会の召集(憲法52条)と特別会の召集(憲法54条)の 間に置かれている。 以上のとおり、憲法53条後段の規定の文言等からは、内閣が、国会又は国会議員全員との関係ではなく、臨時会召集要求をした個々の国会議員との関係において、憲法53条後段に基づく職務上の義務を負っていると解すべき直接の手掛かりを見出すことはできない。 ウ憲法53条後段に基づく内閣の義務が目的とする保護法益について国会は、国権の最高機関であり、憲法改正の発議・提案、立法、条約締結の承認、内閣総理大臣の指名、弾劾裁判所の設置、財政の監督など、国政の根幹にかかわる広範な権能を有しているところ、憲法の採用する議会制民主主義の下においては、国会は、国民の間に存する多元的な意 見及び諸々の利益を、その構成員である国会議員の自由な討論を通して調整し、究極的には多数決原理によって統一的な国家意思を形成すべき役割を担うものであり、国会がこれらの権能を有効、適切に行使するために、国会議員は、多様な国民の意向をくみつつ、国民全体の福祉の実現を目指して行動することが要請されている(最高裁平成9 を形成すべき役割を担うものであり、国会がこれらの権能を有効、適切に行使するために、国会議員は、多様な国民の意向をくみつつ、国民全体の福祉の実現を目指して行動することが要請されている(最高裁平成9年9月9日 第三小法廷判決・民集51巻8号3850頁参照)。 上記アで説示したとおり、憲法53条後段に基づいて内閣が負担する義務は、行政部と立法部との間の均衡・抑制関係の一部をなすものであることからすると、上記の義務は、国会に活動能力を付与することにより、国会が上記の広範な権能を有効、適切に行使し、多元的な意見及び諸々 の利益の調整をすることにより得られる公益を実現することを、その直接的な目的とするものと解される。 また、国会の召集は、国会において国会議員が活動することを可能とする行為であるところ、上記のような国会及び国会議員の役割及び立場に加え、国会議員は全国民の代表(憲法43条1項)という地位において 活動する全体の奉仕者(憲法15条2項)であることをも勘案すると、 国会における国会議員の活動は、憲法上、国民全体の福祉という公益の実現を目的とするものに他ならない。このことは、国会議員が国会で行うことができる演説、討論及び表決(憲法51条)や、国会法に則り行使することのできる議案発案権、動議提出権、質問権などの諸権能についても同様であると考えられる。 そうすると、憲法53条後段に基づいて内閣が義務を履行することにより国会議員の国会における活動が可能となるという関係から、個々の国会議員の活動に係る利益も同条後段の保護対象となっていると解することができるとしても、その利益は、国会議員個人の権利利益ではなく、公益であるというべきである。 エ小括以上のとおり、憲法53条後段の趣旨に照らすと、憲 の保護対象となっていると解することができるとしても、その利益は、国会議員個人の権利利益ではなく、公益であるというべきである。 エ小括以上のとおり、憲法53条後段の趣旨に照らすと、憲法53条後段に基づいて内閣が負う義務は、行政部と立法部との間の均衡・抑制関係の一部をなすものであり、国家機関相互の間の公法上の義務という性格を有すること(上記ア)、憲法53条後段の文言等からは、臨時会召集要求を した個々の国会議員との関係において内閣が義務を負っていると解すべき直接の手掛かりを見出すことはできないこと(上記イ)、憲法53条後段に基づいて内閣が負う義務は、国会に活動能力を付与することをその直接の目的とするものであり、これに加えて、臨時会における国会議員の活動に係る利益も保護法益に含まれると解したとしても、それらは公 益として観念されるべきこと(上記ウ)を指摘できる。 そうすると、内閣は、憲法53条後段の要件を充足する臨時会召集要求に応答して、召集のために必要な合理的な期間内に国会の臨時会を召集する旨の決定をする義務を負うけれども、これは、国会と内閣という国家機関相互の間の公法上の義務の性格を有するものであり、臨時会召集 要求をした国会議員に対して義務を負うものとはいえず、上記の義務は、 国会議員個人の権利利益の保護を目的とするものともいえないから、内閣は、臨時会召集要求をした国会議員との関係において、その権利利益の保護を目的とした職務上の法的義務を負っているとはいえないと解すべきである。 したがって、内閣による憲法53条後段に基づく臨時会の召集行為の懈 怠が、その召集要求をした国会議員との関係において、国賠法1条1項の適用上、違法となると解することはできない。 4 控訴人らの主張に対する判 閣による憲法53条後段に基づく臨時会の召集行為の懈 怠が、その召集要求をした国会議員との関係において、国賠法1条1項の適用上、違法となると解することはできない。 4 控訴人らの主張に対する判断臨時会召集要求の主体とその権利性について控訴人らは、憲法53条後段はいずれかの議院の総議員の「4分の1以上」 という具体的な数字まで規定されていること、憲法上、いずれかの議院の多数派の意思をもって個々の国会議員の臨時会召集要求を否認する手続が存在しないことなどから、臨時会召集要求の主体は個々の国会議員であると解すべきこと、また、憲法53条後段の臨時会召集要求が、国会議員においてその職責を果たすための国会という「場」を確保し、少数派の国会議員の意見 を国会に反映させるという機能を有していることなどから、歳費請求権、不逮捕特権等と同様に、臨時会召集要求は、権利と認められる本質を有すると解すべき旨を主張する。 しかしながら、憲法53条後段の文言上、内閣が臨時会の召集決定をする義務が生じるのは、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求が存在す る場合であって、個々の国会議員の要求により内閣が上記の義務を負うことになるのではないことは明らかである。上記の文言は、個々の国会議員に対し、臨時会召集要求を行うことができるという権能を付与しているといえるとしても、内閣に義務を負わせるという意味における権利を付与しているということはできない。内閣において、臨時会召集要求をした国会議員らを名 宛人として召集決定をした旨を応答しているという実務があるとしても、そ れ自体に法的効果が付与されているわけではないから、上記の応答の存在は、直ちに当該国会議員らに権利があることの根拠となるとはいえない。 また、いずれかの議院の いう実務があるとしても、そ れ自体に法的効果が付与されているわけではないから、上記の応答の存在は、直ちに当該国会議員らに権利があることの根拠となるとはいえない。 また、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求がされた場合は、いずれかの議院の多数派の意思をもってこれを否定することができないことは、前記3アで説示した同条後段の趣旨(少数派の尊重)に照らすと、当然の ことであり、個々の国会議員に上記の権利が付与されていると解さなければならない根拠となるものではない。 さらに、憲法53条後段の臨時会召集要求が、国会議員がその職責を果たすための「場」の確保などの機能を有するとしても、国会議員個人の権利利益として認められることが明らかな歳費請求権、不逮捕特権等と、国会とい う国家機関に活動能力を付するという組織上の作用である召集要求とでは、その性質が著しく異なるものであるから、機能に何らかの類似性を見出せるからといって、個々の国会議員に憲法53条後段の臨時会召集要求に係る権利が付与されていることを根拠付けるものということはできない。 この点に関連して、控訴人らは、行政機関の職員や多数派の国会議員が、 少数派の国会議員に対して監禁・脅迫など何らかの不当な妨害工作を実施し、当該国会議員の召集要求の意思表示を妨害した場合との均衡についても主張するが、上記の場合は、臨時会召集要求に係る権能の行使を行う過程における個人的法益の保護に係る職務上の法的義務が問題となるのであり、憲法53条後段の要件を充足する臨時会召集要求がされた後の内閣の職務上の法的 義務の問題とは場面を異にする。 控訴人らの上記主張は、いずれも採用することができない。 国会議員の個人的利益性についてア控訴人らは、国会議員に臨時会召集要求権が付 閣の職務上の法的 義務の問題とは場面を異にする。 控訴人らの上記主張は、いずれも採用することができない。 国会議員の個人的利益性についてア控訴人らは、国会議員に臨時会召集要求権が付与された目的が、全国民の代表としての役割を果たすという公益の実現にあるからといって、付与 された権利が国会議員個人の権利であるという法的性格が失われるもので はない旨を主張し、その理由として、国会議員の歳費請求権(憲法49条)、不逮捕特権(憲法50条)及び発言表決の無答責(憲法51条)が国会議員の主観的権利として認められていることを挙げる。 しかしながら、上記の歳費請求権等は、いずれもその性質上、個人の権利利益という側面を当然に有するものであり、これらと異なり、それ自 体では個人の権利利益を目的とするものとは言い難い臨時会召集要求の権能については、同列に論じることはできない。 また、控訴人らは、普通地方公共団体の議会の議員が、当該議会から出席停止の懲罰を受けた場合に、司法上の救済を受けることができるという判例(令和2年最高裁大法廷判決)の存在を挙げる。 しかしながら、上記判例は、個別の議員につき、具体的な懲罰処分が存在する上、定例会につき23日間の出席停止を余儀なくされて議会における活動を現実的に阻害されたという事案に関するものであって、個別の処分が存在せず、かつ、議会自体が開催されていない状態における議員の権利利益の侵害が問題とされている本件とは事情を異にする。 控訴人らの上記主張は、いずれも採用することができない。 イ控訴人らは、憲法15条1項は、選挙権のほか、当選後に国会議員として活動していることを保障しており、国会議員が国会(臨時会)でその権限を行使することは、公務としての側面はあるが、自己 きない。 イ控訴人らは、憲法15条1項は、選挙権のほか、当選後に国会議員として活動していることを保障しており、国会議員が国会(臨時会)でその権限を行使することは、公務としての側面はあるが、自己の政治信条や政策を実現するための主観的権利の側面を強く有しているから、そうした活動 の前提となる臨時会召集要求についても、公益の実現という側面にとどまらず、当該召集要求をした国会議員の個人的利益の側面を見いだすことができる旨を主張する。 この点、国会議員が行う活動は、国民の代表者としての地位で行う公務という性格にとどまらず、その活動態様や内容に応じて、個人としての 経済的・人格的利益を実現するという性格を併有する場合があることは 否定できない(当審における控訴人A本人尋問)。しかしながら、本件で問題とされているのは、憲法53条後段の規定の解釈として、内閣が、国会議員の経済的・人格的利益を保護することを目的とした職務上の法的義務を負っていると解することができるかという点であり、この点を否定に解すべきことは前記3エで判示したとおりである。したがって、 控訴人らが主張する上記の個人的な権利利益は、憲法53条後段との関係においては、反射的にもたらされる事実上の利益にとどまる。 また、控訴人らは、公益を実現するために付与された個人の権利が違法に侵害された場合でも国賠法1条1項の違法が認められるべきであるとして、その例として、弁護人の接見交通権を挙げる。 しかし、接見交通権は、憲法34条前段の弁護人依頼権に由来し、接見を通じた弁護人による援助の刑事事件手続上の重要性にかんがみて、身柄拘束中の被疑者・被告人の権利を守るために弁護人の固有権として判例法理上認められた権利である上(最高裁昭和53年7月10日第一小法廷 通じた弁護人による援助の刑事事件手続上の重要性にかんがみて、身柄拘束中の被疑者・被告人の権利を守るために弁護人の固有権として判例法理上認められた権利である上(最高裁昭和53年7月10日第一小法廷判決・民集32巻5号820頁、最高裁平成25年12月10日第 三小法廷判決・民集67巻9号1761頁参照)、面会の許否に関して権限を有する公務員が負う職務上の法的義務の内容や保護法益は、憲法53条後段において内閣が負う職務上の法的義務の内容や保護法益と著しく異なるものであるから、本件と同列に論じることはできない。 控訴人らの上記主張は、いずれも採用することができない。 臨時会召集義務違反による法的責任について控訴人らは、臨時会召集義務に違反した内閣が負う責任は、政治的責任にとどまるものではなく、臨時会召集義務に違反した内閣に関して国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を認めることが、憲法上の要請に合致する旨を主張する。 この点、憲法53条後段に基づく内閣の義務は、行政部と立法部との間の 均衡・抑制関係の一部をなすものであり、憲法15条1項で保障された国民の選挙権の行使を通じて表れた国民の意見を多数派・少数派を含めて国会に反映させるという観点からも、上記の義務の履行は極めて重要な憲法上の要請であることは論を俟たない。 しかしながら、国賠法1条1項にいう違法があるというためには、公務員 の行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必要であることは前記3で説示したとおりであり、内閣は、憲法53条後段に基づく臨時会召集要求をした個々の国会議員との関係で、その権利利益の保護を目的とした職務上の法的義務を負うものではないから、国賠法1条1項の適用上違法となると解 おりであり、内閣は、憲法53条後段に基づく臨時会召集要求をした個々の国会議員との関係で、その権利利益の保護を目的とした職務上の法的義務を負うものではないから、国賠法1条1項の適用上違法となると解することはできな いことは、前記3で説示したとおりであって、国賠法1条1項に基づく法的責任を肯定することができないとの帰結は、現行法上、やむを得ないというべきである。 5 結論以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人らの被控 訴人に対する国賠法1条1項に基づく損害賠償請求には理由がない。 よって、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は正当であり、本件各控訴はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所那覇支部民事部 裁判長裁判官谷口豊 裁判官下和弘 裁判官平山俊輔
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