【DRY-RUN】主 文 本件各控訴を棄却する 当審における訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。 理 由 本件控訴の趣意は末尾添付の被名人両名の弁護人渡辺英男名
主文本件各控訴を棄却する当審における訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。 理由本件控訴の趣意は末尾添付の被名人両名の弁護人渡辺英男名義の各控訴趣意書記載のとおりで、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。 各控訴趣意(一)について。 背任罪の成立には自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的の存することを要件とするはいうまでもないし、本人に財産上の損害を加うべきことの認識を必要とすることも所論のとおりである。しかし背任罪の要件たる目的は自己又は第三者の利益を図る目的或いは本人に損害を加える目的のいずれか一方が存するを以つて足るとすべきこと文理上明白で、この両者の目的を併せ有する必要はない。又本人に財産上の損害を加うべきことの認識とは本人に財産上の損害を加うべきことの予見の存するを以て十分とすべく、特にこれを希望していたことを要しない。今これを本件についてみるに、原判決挙示の証拠及び当審証人Aの証言によれば、被告人両名はBとともに蓄力車の製造販売を目的とする会社の設立を企図し、工場買収等の資金の融通を当時C銀行D支店長Eに依頼し、現金融通が不可能なら被告人等の振出した手形に支店長として支払保証をして貰えば、金融業者に割引を受けて現金を入手し会社を設立すべくその節にはEを取締役に招くし、C銀行のBに対する債権の回収も一挙に解決し得るとし、いろいろ勧説に努力したので、Bに対する債権回収を苦慮していたEは遂に被告人等の右依頼に応じ、約束手形によつて被告人らに金融の途をつけてやり、かつ将来設立せられる会社の重役になることを目的とし、被告人等振出の約束手形に支店長たる資格を以つて支払保証をしてやる決意を固め、茲に以上四名共謀の上、Eはもとより被告人両名もBも支店長の てやり、かつ将来設立せられる会社の重役になることを目的とし、被告人等振出の約束手形に支店長たる資格を以つて支払保証をしてやる決意を固め、茲に以上四名共謀の上、Eはもとより被告人両名もBも支店長の手形保証がC銀行の内規により禁止されていて、Eの支払保証がその任務に反することを熟知しながら、昭和二十三年十二月三十一日小田原市内所在前記銀行D支店に於てF株式会社取締役社長G振出に係るH株式会社取締役社長Iを受取人とする約束手形四通(手形金額三百万円、三百五十万円、四百万円、四百五十万円のもの各一通)にEにおいて夫々附箋をつけ、これに支払保証文言を記載し、同支店J支店長Eの印を押捺した上、これを持参して前記B及び被告人G、Iも同伴上京し金融ブローカーK等を訪ね、右手形の割引を受け現金を入手しようとし、その中三百万円の分についてはLから割引を受け現金百九十七万円を被告人らが現実受領しているし、四百五十万円の分については昭和二十四年一月中旬頃Mに割引を受けるために交付し、爾余の三百五十万円及び四百万円の二通もその頃夫えK、Nに割引のためH株式会社社長Iの裏書をして交付したところ、その後右三百五十万円及び四百万円の分はC銀行の手により手形所持人から回収することができたが、三百万円と四百五十万円の分についてはL及び前記Mを代表者とするO株式会社から夫々C銀行を被告とする手形金請求訴訟を横浜地方裁判所に提起され前者はC銀行の敗訴となり、後者は裁判上の和解により百十万円を同銀行からO株式会社に支払<要旨>うこととなつた事実を認めることができる。してみればEが自己及び被告人G、Iらの利益を図る</要旨>目的を以てその任務に背き手形の支払保証を為したものというべきであり、かかる目的が存する以上同人がC銀行に損害を加える目的があつたことを必要としないのみなら 及び被告人G、Iらの利益を図る</要旨>目的を以てその任務に背き手形の支払保証を為したものというべきであり、かかる目的が存する以上同人がC銀行に損害を加える目的があつたことを必要としないのみならず、同人がC銀行支店長として手形に支払保証文言を記載し記名捺印した上、この手形で他から割引を受け或は割引を受けるため受取人が無記名裏書をして第三者に交付する場合、これによりC銀行をして手形上の義務を負担させ、将来履行を請求される可能性あることを予見認識していたものとするに十分である。Eの先代某のC銀行に対する功績或はE自身が多年同銀行に勤務していた事実のみでは、同人がC銀行に損害を加うる希望、目的がなかつたことの資料としては格別、被告人両名の利益を図る目的がなかつたものとすることはできない。又Eが、Bに対するD支店の債権回収を企図したことが本件手形保証の一つの動機となつたことは所論のとおりであるが、この債権回収の意図は手形保証の主たる目的とは認められず、単にその附随的な目的というに過ぎないこと前掲証拠に照らし明白であり、かかる附随的な目的が存したからとて、Eの所為が、自己及び被告人G、Iらの利益を図る目的を以つて為されたことを否定し得るものではない。なお所論は被告人GからEに対しP所有の不動産、Q炭鉱及びH株式会社R工場の登記済権利証に処分承諾書、白紙委任状を添付して交付し更に保証手形と同額の見返り手形を保管させていたことを挙げて原判決の事実誤認をいうが、Eが手形保証をした手形により第三者から手形の割引を受けるため第三者に手形を裏書することにより本人たるC銀行は手形上の義務を負担するに至つたもので、C銀行が手形金の請求を受けてその支払義務を履行したと否とを問わず、同銀行に財産上の損害を発生させたものというべく、所論事実を以つてC銀行に財産上の たるC銀行は手形上の義務を負担するに至つたもので、C銀行が手形金の請求を受けてその支払義務を履行したと否とを問わず、同銀行に財産上の損害を発生させたものというべく、所論事実を以つてC銀行に財産上の損害が発生しないとはいえないことはもちろん、Eに於てかかる損害の発生を予見しなかつたとすることもできない。所論はC銀行がたとえ手形上の義務を履行しても、前記物件により同銀行の損害を弁償できるとするに止まり(果して弁償が可能か否か問題ではあるが)本件背任罪の成否に少しも影響を及ぼすものではない。 所論は更に当時各地銀行支店に支店長保証が行はれ、C銀行もその例外ではなかつたし、それ故同銀行に内規として支店長保証を厳禁していた事実自体を否定するのであるが、この点Eは右銀行内規の存していた事実を原審公判廷に於て明らかに供述しているところであるし、証人Sも亦同様である。たとえ現実に銀行内規に違反し支店長保証の事例が多数存しているとしても、それ故に銀行内規の存した事実を否定するのは失当である。それ故論旨は理由がない。 同(二)、(三)について。 背任罪は刑法第六十五条第一項にいう身分に因り構成すべき犯罪であるが、身分のない者でも身分ある者と共謀関係の存するときは同条の共同正犯者なりといわなければたらたい。然るに前記(一)に説明のとおり、被告人両名がC銀行D支店長Eに手形の支払保証を求めるに至つた事情並びにEに於てこれに応じ支払保証文言に手形に記載した後これが割引に奔走した事実関係に徴しても被告人G、I両名はEと共謀の上前記(一)のとおりの犯行をしたものと認めなければならない。従つて被告人両名に対し背任罪の成立を認めた原判決に失当はない。所論は被告人両名にはC銀行に損害を加える意思なく、又損害を生ずべき事実を認識していないと主張するが、前記(一)に於て ければならない。従つて被告人両名に対し背任罪の成立を認めた原判決に失当はない。所論は被告人両名にはC銀行に損害を加える意思なく、又損害を生ずべき事実を認識していないと主張するが、前記(一)に於て説明を与えたとおりで所論事実を以つてしては犯罪の情状に関するものとしてはとも角、犯罪の成立自体を否定することはできない。 又被告人両名が、C銀行に支店長の支払保証を禁ずる趣旨の内規が存することをE上り聞知していたものと認められ、右内規が銀行外部に公表されないこと所論のとおりとしても、被告人両名がEの所為がその任務に反することを熟知していたとするを妨げない。その他所論事実は少しも背任罪の成立に影響を来すものでないから論旨は理由がない。 よつて本件控訴はいずれもその理由がないから、刑事訴訟法第三百九十六条に則つてこれを棄却し、当審における訴訟費用につき同法第一八一条第一八二条を適用し主文のとおり判決する。 (裁判長判事近藤隆蔵判事吉田作穂判事山岸薫一)
▼ クリックして全文を表示