令和4年2月2日東京地方裁判所刑事第6部宣告令和元年合(わ)第140号住居侵入,強盗殺人被告事件 主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中500日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,家人を殺害して金品を強奪する目的で,平成14年12月21日頃,東京都足立区ab 丁目c 番d 号B207号室A方に,訪問を装って玄関ドアから侵入し,同所において,A(当時23歳)に対し,殺意をもって,その頭部及び背部等を刃物で数回切りつけるとともに,その頭部等をフライパンで数回殴るなどし,よって,その頃,同所において,同人を脳幹部損傷により死亡させて殺害した上,同人所有の現金約1万円,商品券十数枚及び財布1個等2点を強奪した。 (量刑の理由)本件は,野宿生活を余儀なくされた被告人が,飢えと寒さをしのぐため,住居に押し入り相手を襲って金品を強奪しようなどと考え,集合住宅のインターホンを軒並み押すなどした上,家の中から玄関先に出てきた被害者に対し,いきなり包丁で切り付け,更に判示のとおり家の中にあったフライパンで被害者の頭部を多数回殴り付けるなどして殺害し,金品を強奪した強盗殺人の事案である(以上は,被告人の捜査段階における供述調書(乙2)を含む関係証拠によって認めた。)。なお,被告人は,公判では,家の中に押し入ってもみ合いになった後に初めて包丁を取り出したなどと述べているが,供述変遷の理由も明確ではなく,むしろ,他人の家に押し入って金品を奪おうとしたというのであるから,最初から包丁を用いたとする供述調書の方がより自然であり,信用することができる。その後の一連の 攻撃の流れからすると,包丁で襲った当初の時点から相手を殺害して金 おうとしたというのであるから,最初から包丁を用いたとする供述調書の方がより自然であり,信用することができる。その後の一連の 攻撃の流れからすると,包丁で襲った当初の時点から相手を殺害して金品を強奪しようとしたことは明らかである。 その上で,本件犯行について見ていくと,本件は,金品目当てに人を殺すという人命軽視も甚だしい残虐な犯行である。被告人は,玄関先に出てきた被害者をいきなり包丁で切り付け,逃げる相手を部屋の奥まで追いかけて更に切り付けただけでなく,包丁の切れ味が悪いと判断すると,凶器をフライパンに変えて,相手の頭部を複数回にわたり強く殴り付けた。これにより,被害者は,一旦は動かなくなったが,被告人が目を離した隙に,被害者が玄関ドアまで逃げているのを見つけると,被告人は,再度フライパンで被害者の頭部を複数回強打し,部屋の奥まで引っ張り戻して,その両足を電気コードで結束するなどした。このような犯行の具体的態様は,人を人とも思わない極めて無慈悲なものである。凶器のフライパンが大きく変形するなど,被告人の暴行の強烈さや危険さが十分に窺われる。さらに,被告人は,返り血の付いたダウンジャケットを被害者宅で洗濯したり,犯行後,玄関ドアを施錠して立ち去り,凶器等を草むらに捨てるなど罪証隠滅行為に及んでいる。本件により,何の落ち度もない被害者の尊い命が奪われるという取り返しのつかない結果が生じてしまった。最も安心できるはずの自宅で,突如見ず知らずの被告人に襲われ,上記のような執拗かつ残虐な犯行態様で殺害された被害者の恐怖や苦しみは計り知れず,若くして前途を絶たれた無念さも察するに余りある。被害者の父親は,「犯行から20年近くが経った今でも息子のことを思い出さない日はない。被告人には命をかけて償いをしてほしい。被害現場を目の当たりにした くして前途を絶たれた無念さも察するに余りある。被害者の父親は,「犯行から20年近くが経った今でも息子のことを思い出さない日はない。被告人には命をかけて償いをしてほしい。被害現場を目の当たりにした(被害者の)姉は特に大きなショックを受けて体調を崩すなどしており,今も息子のことに関しては,時が止まったままのようである。」などと述べ,悲痛な心の内を語っている。本件が,被害者及び遺族に与えた衝撃,あるいは被害者らから奪い取ったものは,誠に大きく,被告人の犯した犯行の重大性 がこうした形でもあらわれている。また,財産的被害も軽視できない。 被告人の刑事責任は極めて重い。 ところで,被告人は,現在は統合失調症に罹患しており,本件犯行当時も,統合失調症の前駆状態であったか,あるいは発症するなどして,一定の精神症状を示していた様子が窺われる。被告人が,かねてより引きこもりがちになり働くことができなかったのも,そうした病気の影響もあるであろうし,経済力がない中で,居住場所から退去せざるを得なくなった事情についても,一定程度同情の余地はある。しかし,こうした精神障害が強盗殺人に関係しているというのであれば格別,2名の精神科医が当公判廷で述べるとおり,被告人に精神障害があるからといって,それが本件強盗殺人の犯行に直接影響したとは全く認められないのであるから,強盗殺人の犯行に関する酌むべき事情としてこれを斟酌するにも限界がある。 次いで,本件では自首が成立するが,犯行から自首に至るまでに16年もの期間が経過している。自首に至る経緯を見ても,被告人は平成30年に至り,精神障害の影響により頭の中を読み取られる機械が脳内に埋め込まれたという妄想等をきっかけにして,もう逃げられないと思い,自首に至ったというのである。被告人の刑事責任が極めて重いことは 30年に至り,精神障害の影響により頭の中を読み取られる機械が脳内に埋め込まれたという妄想等をきっかけにして,もう逃げられないと思い,自首に至ったというのである。被告人の刑事責任が極めて重いことは既に見たとおりであり,その上で,自首が成立するとは言っても,その自首までの期間や経緯等を踏まえると,斟酌するにも自ずと限度があり,強盗殺人罪の刑を減軽するのが相当とは思われない。 被告人は公判において,犯罪の成立を争わず,被告人なりに反省の言葉を述べており,前科もないが,そうした点を加味しても,結局のところ,無期懲役刑を有期懲役刑に減軽するほどの事情は認められない(ちなみに本件で無期懲役刑を減軽する場合には,処断刑の上限は懲役15年となる。)。無期懲役刑が相当である。 (求刑無期懲役刑,弁護人の科刑意見懲役25年) 令和4年2月4日東京地方裁判所刑事第6部 裁判長裁判官佐伯恒治 裁判官遠藤圭一郎 裁判官名取桂
▼ クリックして全文を表示