平成12(う)1201 商法違反等被告

裁判年月日・裁判所
平成13年11月26日 東京高等裁判所
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判決文本文35,979 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は,検察官上田廣一作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,弁護人宮川光治,同並木政一,同古谷和久共同作成の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。 所論は,事実誤認の主張であるが,要するに,原判決は,「被告人は,不動産の賃貸などを目的とする株式会社aの代表取締役として同社の業務全般を統括していたものであるが,不動産等を担保とする金銭の貸付けなどを目的とするb株式会社のローン開発部副部長として,事業ローン案件の貸出しに関する審査及び貸出しを担当し,同社の行う金銭の貸付けに当たっては,同社の貸出規定等の定めを遵守するはもとより,あらかじめ貸付先の営業状態,資産,資金使途等を精査するとともに,確実にして十分な担保を徴求するなどして貸付金の回収に万全の措置を講ずるなど同社のため職務を誠実に実行すべき任務を有していたYと共謀の上,平成3年9月27日ころから同年12月13日ころまでの間,前後4回にわたり,b株式会社において,株式会社aなどの利益を図る目的をもって,Yの上記任務に背き,同社には債務の返済能力がなく,かつ,十分な担保を徴求することができないことから,同社に貸付けを行えばその回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら,十分な担保を徴求せず,貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく,実体のないc株式会社を介して株式会社aに対し合計85億円を貸し付け,もってb株式会社に同額の損害を加えた。」との商法違反の公訴事実について,無罪の言渡しをしたが,被告人は,本件融資の担保不動産に担保価値がないこと,及び,本件融資を実行することがb株式会社におけるYの任務に違背することを認識しながら,Yとの癒着関係に乗じて,Y ついて,無罪の言渡しをしたが,被告人は,本件融資の担保不動産に担保価値がないこと,及び,本件融資を実行することがb株式会社におけるYの任務に違背することを認識しながら,Yとの癒着関係に乗じて,Yに対し本件融資の実行を働きかけてYと共謀し,Yをしてその任務に違背させて本件融資を実行させたことが明らかであるのに,原判決は,証拠の取捨選択及び評価を誤って,これらの点について事実を誤認した結果,商法違反(特別背任罪)の事実につき,被告人に対して無罪を言い渡したものであって,その誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから,原判決は,到底破棄を免れない,というのである。 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果も併せて検討すると,原判決が,「一部無罪の理由」として判示するところは,当裁判所も正当として是認することができる。以下,所論にかんがみ,付言する。なお,株式会社aが,b株式会社から,c株式会社を介して,平成3年9月27日に25億円,同年11月1日に20億円,同年12月2日に20億円,同月13日に20億円,合計85億円の融資を受けたことを本件融資というが,以下においては,原判決に倣い,用語の使用につき略語を用いることがある。 第1 担保不動産の担保価値について所論は,本件融資に際し,株式会社aからb株式会社に対して提供された担保は,株式会社aが進めていた甲プロジェクトの対象用地のうち,原判決の別紙(一)の①ないし④の土地(以下,それぞれ「担保①部分」,「担保②部分」,「担保③部分」,「担保④部分」という。)であるが,その担保価値についての原判決の判断に誤りがあると主張し,その理由として,(1) 担保評価における基礎数値と算定方法に誤りがあり,担保②及び③部分の鑑定評価額は,1平方メートル当たり1605万円というm鑑定ではなく いての原判決の判断に誤りがあると主張し,その理由として,(1) 担保評価における基礎数値と算定方法に誤りがあり,担保②及び③部分の鑑定評価額は,1平方メートル当たり1605万円というm鑑定ではなく,m供述の1平方メートル当たり1562万円を採用すべきである,(2) 担保不動産は公簿面積により担保評価すべきであるのに,原判決は実測面積により担保評価している,(3) 本件融資はすべて無担保であった,すなわち,担保①部分は,n鑑定の200億円,担保②及び③部分は,m供述の1平方メートル当たり1562万円を公簿面積と乗じた約301億円であり,これに担保④部分の約90億円を加算しても全体で約591億円にとどまり,原判決認定のように,担保①ないし④部分の担保価値が合計635億7000万円となるものではない上,不動産の担保評価額は,正常価格である各鑑定評価額を下回ることは明らかであるのに,原判決は,鑑定評価額(正常価格)と担保評価額との差異を全く考慮していない,と主張する。 1 担保評価における基礎数値と算定方法の誤りの主張について(1) 所論は,原判決は,担保②及び③部分の担保価値について,検察官が主張するとおりm鑑定を採用すべきであると判示しているが,そもそも,検察官は,原審において,「別紙(二)の鑑定対象地の更地としての鑑定評価額は1平方メートル当たり約1605万円であるから,より面積が狭く不整形な担保②及び③部分の土地のみを一体として見た評価額は,本来,同鑑定対象地の評価額より低いと考えられるが,仮にこれと同じとしても」と主張していたのであり,原判決も,検察官の主張を要約した部分においては,「担保②及び③部分は多く見積もっても1605万円」と判示しているにもかかわらず,その結論においては,別紙(二)の鑑定対象地と担保②及び③部分の土地との 判決も,検察官の主張を要約した部分においては,「担保②及び③部分は多く見積もっても1605万円」と判示しているにもかかわらず,その結論においては,別紙(二)の鑑定対象地と担保②及び③部分の土地との面積や形状などの差異を全く無視した上,m鑑定の1平方メートル当たり1605万円という単価が,あたかも検察官の主張であるかのようにすり替えて計算の根拠としているのであって,不当な認定であり,この点については,mが検察官調書(平成12年4月3日付け)で,「平成3年5月当時,私が,担保②及び③部分の土地のみを鑑定評価したならば,その鑑定評価額は,株式会社aが交換により所有権を取得することが予定されていたw番<S>及びw番<T>の2筆の土地を加えて評価しても,1平方メートル当たり約1562万円であった。」旨供述しているのであるから,担保②及び③部分の鑑定評価額としては,原判決の認定した1平方メートル当たり1605万円ではなく,1562万円を採用すべきである,と主張する。 そこで,検討するに,記録によれば,原審においては,検察官は,担保②及び③部分の土地については,公簿面積に基づいて,m鑑定に従い1平方メートル当たり1605万円とし,これに掛け目を見ることなく担保不動産の価値を主張していたのであり,原判決が実測面積を採用し担保価値が増加したことから,控訴趣意書において,初めてこの点を問題としてきたことが明らかである。検察官は,上記土地の評価については,そもそも1605万円以外には主張も立証もしなかったのであって,この点が争点になるべきものであれば,本来,原審において主張され立証されなければならず,また,そうすることも十分に可能であったはずである。担保②及び③部分の土地の評価について,当審において,原判決後の取調べに基づいて作成したm不動産鑑定士の供述調 おいて主張され立証されなければならず,また,そうすることも十分に可能であったはずである。担保②及び③部分の土地の評価について,当審において,原判決後の取調べに基づいて作成したm不動産鑑定士の供述調書(平成12年4月3日付け)を提出したが,原審での訴訟経過にかんがみると,刑事訴訟法382条の2の趣旨に合致するか疑問なしとしないし,その供述調書の信用性についても疑問を生じさせるものといえよう。 この点はさておいても,mの検察官調書での鑑定評価についても疑問なしとしない。mの検察官調書(添付の意見書)によれば,m鑑定の鑑定対象地(原判決の別紙(二)の土地,A2画地)から,w番<J>,w番<K>,w番<N>,w番<O>,w番<P>,w番<R>,w番<U>,w番<V>の8筆を除いた34筆の土地(A3画地)について鑑定評価をしたものであり,A2画地とA3画地の各個別的要因を検討し,A3画地はA2画地と比較して,地積(面積)においてマイナス1,画地の形状においてマイナス2,容積率においてプラス1と査定し,A2画地の評価額を1平方メートル当たり1605万円としたのに対して,A3画地については1平方メートル当たり1562万円となるというのである。 mの上記意見書においては,A2画地とA3画地の地積(面積)と形状の相違が重視されているが,担保②ないし担保④部分は,これを一体的に見得る余地がないわけではないから,この点を無視してA3画地の地積(面積)と形状をA2画地よりも大きなマイナス要因とすることは相当でない。m鑑定に基づき,担保②及び③部分の評価額を「1平方メートル当たり1605万円」とした原判決の認定を不合理とすることはできない。 (2) なお,所論は,原判決が,担保③部分の担保評価額について,約9億3000万円であり,担保③部分の先順位担保権者であ ートル当たり1605万円」とした原判決の認定を不合理とすることはできない。 (2) なお,所論は,原判決が,担保③部分の担保評価額について,約9億3000万円であり,担保③部分の先順位担保権者であるgローンの11億円の債権については,そのうち約9億3000万円のみが担保され,残る1億7000万円は本件融資金に劣後する旨判示しているのは誤りである,と主張する。 関係証拠によると,新宿通りに面した担保③部分は,本件不動産の中でも最も高額な土地であり,m鑑定においても,担保③部分及びその周辺の画地を1平方メートル当たり2311万円と鑑定評価しているのであり,これによれば,担保③部分の実測面積による担保価値は約13億3000万円になる上,競売等により担保②及び③部分を一体として換価処分する場合でも,担保③部分は新宿通りからの入り口に位置する極めて重要な土地であるから,先順位担保権者であるgローンにおいて,全体の平均価格(1平方メートル当たり1605万円)による配当だけで換価処分に応じるはずはなく,gローンの11億円の債権の一部が本件融資金に劣後するなどということはあり得ず,gローンの被担保債権11億円は全額優先的に配当されることになるはずである。この点において,原判決には誤りがあるが,この誤りは,いまだ,原判決の結論に影響はないというべきである。 2 担保不動産は公簿面積により担保評価すべきであるとの主張について(1) 所論は,公簿面積によって担保評価をすべきであったとし,その根拠として,隣接土地所有者との境界紛争を生じる可能性は十分存在する,と主張する。 しかしながら,原審においては,検察官が具体的にこの点を検討した様子は全くうかがわれない。 関係証拠によれば,原判決指摘のように,甲プロジェクト用地付近は,いわゆる縄延びが相当あり,実 張する。 しかしながら,原審においては,検察官が具体的にこの点を検討した様子は全くうかがわれない。 関係証拠によれば,原判決指摘のように,甲プロジェクト用地付近は,いわゆる縄延びが相当あり,実測面積が公簿面積を相当上回ること,同プロジェクト用地の買収に際しても,多くは実測面積により売買がなされていることが認められる上,担保①ないし担保④部分は,それぞれ単体の土地ではなく,一団となっている状況にあって,隣接所有者との境界紛争の可能性は考慮する必要性に乏しいといえるから,担保評価に当たっても,公簿面積によらず,実測面積によることが許されるというべきであって,これに基づき算定することは不合理といえない(ただし,実測面積が不明の部分については公簿面積によることになる。)。 また,b株式会社からの株式会社aへの本件融資は,本来,土地買収代金(地上げ費用)の融資であるから,本件用地のように実測面積が公簿面積を相当上回っている場合には,実測面積に応じた融資がなければ,土地の買収はできないことになるのであって,担保評価において実測面積を基準にしても不合理ではない。 (2) 所論指摘のとおり,b株式会社の鑑定評価規程8条1項には,「土地(自用地,借地を問わない)の公簿面積と実測面積が相違する場合においては,原則としていずれか小さい方を計算面積に採用するものとする。ただし,両者に著しい相違がある場合においては,実情に応じ地積,図面の訂正を要するものとする。」と明記され,b株式会社の常務取締役で不動産鑑定士の資格を有するP1は,原審公判において,「公簿面積と実測面積が相違する場合,面積の少ない方を採用することが担保評価の鉄則であり,地積訂正がなされない限り,公簿面積より大きい実測面積を計算の根拠とすることは許されない。担保評価において,将来周辺の土地を 測面積が相違する場合,面積の少ない方を採用することが担保評価の鉄則であり,地積訂正がなされない限り,公簿面積より大きい実測面積を計算の根拠とすることは許されない。担保評価において,将来周辺の土地を買収するので境界紛争が生じる恐れはないとの考え方はできない。」旨証言しているが,これは,本件融資を実行した貸手のb株式会社の担保評価の原則であって,借り手の株式会社a側から見た場合にも当然当てはまるとはいえない。確かに,本件において認定すべき適正な担保評価額は,本件融資当時,Yがb株式会社の融資担当者として担保評価すべきであった額であるが,借り手である被告人ら株式会社a側が,b株式会社の担保評価の基準を理解し,又b株式会社が公簿面積に基づいて担保評価しているものと認識し,同社側が実測面積に基づいて担保評価することなど期待していなかったとは,関係証拠上認定するには至らないのである。 (3) 本件融資の各担保不動産の公簿面積と実測面積とを比較した場合の増加率は,担保①部分の土地が約13.43パーセント(公簿面積1083.72平方メートル,実測面積合計1229.32平方メートル),担保②部分及び担保③部分の土地が約3.59パーセント(公簿面積1952.59平方メートル,実測面積については,原判決認定の1983. 14平方メートルではなく,当審で取り調べた平成12年4月24日付け捜査報告書記載の2022.82平方メートルを用いる。),担保④部分の土地が約49.92パーセント(公簿面積581.64平方メートル,実測面積872.03平方メートル)と,相当程度の増加が見られるのである。そして,その土地の評価額を考慮すると,相当高額の増加が生じるのであって,この土地の面積,評価額の増加を無視することは相当でない。 (4) 所論は,m鑑定やn鑑定が公簿面積に基づ 見られるのである。そして,その土地の評価額を考慮すると,相当高額の増加が生じるのであって,この土地の面積,評価額の増加を無視することは相当でない。 (4) 所論は,m鑑定やn鑑定が公簿面積に基づいて鑑定評価していることや,gローンの融資担当者も公簿面積によって担保評価していることを根拠に,公簿面積に基づいて担保評価するのが金融機関の慣行であった,と主張する。 確かに,一般論としては,地積の更正登記が済んでいない土地については,公簿面積によって担保評価することは固い金融実務といえよう。しかし,上記鑑定は,公簿面積を前提条件として評価しているだけであって,これを金融機関がどのように活用するかまで拘束するものではない。実測面積で担保評価することに合理性があれば,鑑定評価によって算出された平方メートル単価を参考にして,実測面積に基づき全体の担保評価を計算することは不当とはいえない。そして,本件においては,本件融資に際し提供した担保物件の担保価値について,被告人がb株式会社の融資担当者であるYと意見を交わしたことを認めるに足りる証拠はないのであって,所論は採用の限りでない。 3 本件融資はすべて無担保であったとの主張について(1) 所論は,本件不動産において,公簿面積により担保評価すると,担保①ないし③部分の鑑定評価額をそのまま担保評価額とした場合,担保①部分(公簿面積合計1083.72平方メートル)は,n鑑定の200億円であり,担保②及び③部分は,公簿面積合計1927.36平方メートルにm供述の1平方メートル当たり1562万円を乗じた合計約301億円となり,これらに担保④部分の約90億円を加算しても,全体で約591億円となるにとどまり,既設定担保権の被担保債権合計601億円に及ばないから,本件融資がすべて実質無担保であったことは明らかであ 億円となり,これらに担保④部分の約90億円を加算しても,全体で約591億円となるにとどまり,既設定担保権の被担保債権合計601億円に及ばないから,本件融資がすべて実質無担保であったことは明らかである(なお,担保②及び③部分について,仮に,m鑑定の1平方メートル当たり約1605万円をそのまま採用したとしても,同部分の担保評価額は合計約309億円で,全体で約599億円となるから,本件融資がすべて実質無担保であったとの結論には変わりはない。),と主張する。 (なお,担保②及び③部分の公簿面積は,甲221によれば,1952.59平方メートルであるから,検察官の主張する1平方メートル当たり1562万円を乗じると,約305億円となる。)しかしながら,本件不動産の担保評価において,公簿面積ではなく実測面積を基準にし,担保②及び③部分についてm鑑定に従い1平方メートル当たり1605万円と評価することが不合理といえないことは,先に述べたとおりであるから,所論は,まず,この点において採用の限りでない。 (2) 所論は,n鑑定及びm鑑定の鑑定評価額は,いずれも「正常価格」,すなわち,「市場性を有する不動産について合理的な自由市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格」であることが,各鑑定書の記載から明らかであるところ,金融機関が担保を徴求するのは,債務者が将来債務不履行に陥った場合に競売等の換価処分によって債権を回収するためであるから,買い手の有無にかかわらず,いわば売り手である金融機関側の処分の必要性が先行し,その結果,担保価値は「合理的な自由市場で形成される市場価値」よりも必然的に低額になるのであって,この点につき,b株式会社の「事務マニュアル2(担保評価の手引き)」にも,「担保の査定価格は正常価格から担保リスク(いわゆる掛け目)を引いた で形成される市場価値」よりも必然的に低額になるのであって,この点につき,b株式会社の「事務マニュアル2(担保評価の手引き)」にも,「担保の査定価格は正常価格から担保リスク(いわゆる掛け目)を引いたものであり,担保としての安全性を確保できる最高の価格を言う。」と明記されているのであり,したがって,担保①ないし③部分の実際の担保評価額が正常価格である各鑑定評価額を下回ることは明らかであり,被告人においても,金融機関による担保評価額が正常価格である鑑定評価額よりも低額であることを認識していたものであるのに,原判決は,鑑定評価額,すなわち正常価格と担保評価額との差異を全く考慮せずに,これを単純に同一視して,不当な結論を導いたものであって,その判断は明らかに誤っている,と主張する。 しかしながら,掛け目をもって担保評価するのが正当であるというのであれば,検察官はこの点についても原審で具体的に主張立証すべきであり,控訴審でいきなり争点とすることは当を得ないということもできる。 この点はさておき,不動産の担保評価に当たっては,一般的にその時価よりも低い金額でしか融資しないこと,いわゆる掛け目が考慮されていることは否定できない。しかし,関係証拠によれば,株式会社aは,b株式会社にとっては最も重要度の高い拠点会社と位置づけられており,拠点会社である株式会社aに対する支援という観点から見れば,実際の担保価値一杯まで融資することが経営判断として必ずしも不合理とはいえない上,大型プロジェクト融資にあっては,開発のスケールメリットは大きく,買収が完成すれば担保不動産の価値は飛躍的に増大する可能性を秘めているのである。 そもそも担保リスク(いわゆる掛け目)は,融資を行う金融機関において問題になることであり,借り手である被告人ら株式会社a側で検討すべきことではない 価値は飛躍的に増大する可能性を秘めているのである。 そもそも担保リスク(いわゆる掛け目)は,融資を行う金融機関において問題になることであり,借り手である被告人ら株式会社a側で検討すべきことではない。被告人は,原審公判において,「私としては,時価評価額を踏まえて借入希望金額を金融機関に示すだけで,後は金融機関が考えることであり,担保評価について自分からの説明はしていない。担保評価は各金融機関で異なる。」,「捜査段階で,B価は,金融機関から見て融資可能な評価額,すなわち担保評価額と述べているが,そうではなく,B価は,借入希望額であり,C価は,売却可能金額のことである。私としては,抵当証券価額は,時価の70パーセントということは知っていたが,金融機関の担保評価額は分からない。」旨供述しているが,この供述を不合理として排斥するわけにはいかない。 ちなみに,検察官が当審において提出した社団法人日本不動産鑑定協会作成の「担保不動産の鑑定評価」によると,融資額査定の基礎として求められるべき価格は,合理的な市場において形成される客観的・妥当性のある正常価格でなければならないとした上,金融機関の融資実務においては,鑑定評価額に物的リスクに基づく「担保掛け目」(対象不動産の個別的要因に起因する価格低下要因,一般的要因,及び地域要因に起因する価格低下要因)を乗じて担保価格を求め,担保価格に対して人的リスクに基づく「融資掛け目」(債務者の信用力の低下による弁済能力の低下,融資条件による弁済不能の可能性の増大)を乗じて融資限度額を求め,その範囲で融資を行う手順となるが,「担保掛け目」,「融資掛け目」の割合は,金融機関の経験と営業政策により決定され,金融機関によっては,融資政策によって「担保掛け目」のみ,又は「融資掛け目」のみ適用したり,両方共に適用しない場 が,「担保掛け目」,「融資掛け目」の割合は,金融機関の経験と営業政策により決定され,金融機関によっては,融資政策によって「担保掛け目」のみ,又は「融資掛け目」のみ適用したり,両方共に適用しない場合がある,としているのであって,担保不動産の掛け目については,専ら各金融機関の経験と営業政策によって決められることを明らかにしているのである。融資金の借り手において,この掛け目の割合を正確に把握できないことは当然のことといえよう。 (3) 所論は,結論として,担保①ないし④部分の担保価値を合計635億7000万円とした原判決の認定は誤りである,と主張する。 しかし,以上によれば,原判決認定のように,担保①部分は,n鑑定に従い1平方メートル当たり1850万円と実測面積合計1229.32平方メートルを乗じて約227億4000万円,担保②部分は,m鑑定に従い1平方メートル当たり1605万円と実測面積合計1925.5平方メートルを乗じて約309億円,担保③部分は,前同様1平方メートル当たり1605万円と実測面積合計57.64平方メートルを乗じて約9億3000万円で,担保①ないし③部分の担保価値の合計は約545億7000万円となり,これに担保④部分の合計約90億円を加算すると,担保①ないし④部分の担保価値は合計約635億7000万円となる。 そして,原判決の認定する担保権の設定状況(本件融資直前の各担保部分の担保設定状況は,原判決57頁ないし59頁に判示するとおりである。)からすると,担保①ないし担保③部分で,h抵当信用の70億円全額,iリースの420億円全額,gローンの11億円全額(なお,原判決は,gローンの11億円のうちの約9億3000万円が担保され,残り1億7000万円は本件融資金に劣後すると判示しているが,これが誤りであることは,既に述べたと ,gローンの11億円全額(なお,原判決は,gローンの11億円のうちの約9億3000万円が担保され,残り1億7000万円は本件融資金に劣後すると判示しているが,これが誤りであることは,既に述べたとおりである。),b株式会社の100億円のうち,約44億7000万円が優先して担保されることになるから,結局,担保④部分の担保余力は,b株式会社の残債権約55億3000万円を控除した残りとなる。担保④部分の担保価値は,これを担保②及び③部分と切り離して評価した場合,合計で約90億円となるから(なお,このほか,甲x番<W>の土地は約4億4000万円の担保価値があるが,ここでは一応考慮の外に置く。),ここからb株式会社の上記残債権約55億3000万円を控除すると,担保④部分の担保余力は約34億7000万円となり,本件融資は,平成3年9月27日になされた25億円については,相応の担保はあったけれども,同年11月1日になされた20億円については,その半額について担保不足となり,その後になされた合計40億円について,無担保であったと認めることができる。 したがって,本件融資はすべて無担保であったとする検察官の主張は採用できない。 第2 担保価値に関する被告人の認識についての主張について所論は,原判決が,担保価値に関する被告人の認識について,「本件融資当時,被告人が,提供した担保について,担保不足であると認識していたとするにはなお合理的な疑いが残ると言うべきである。」と認定したのは誤りである,と主張し,その理由として,(1) 担保①部分の担保価値に関する被告人の認識に係る認定に誤りがあり,被告人は公簿面積についての価格と理解していた,(2) 控訴趣意書の別紙(一)記載の担保④A部分は担保②及び③部分と一体評価できない上,担保評価の主体は被告人ではなく金融 識に係る認定に誤りがあり,被告人は公簿面積についての価格と理解していた,(2) 控訴趣意書の別紙(一)記載の担保④A部分は担保②及び③部分と一体評価できない上,担保評価の主体は被告人ではなく金融機関であり,担保④A部分について虫食い状態が解消される見通しはなかったし,土地上の建物に賃借人が居住していることは隣接地との一体評価の妨げになる,(3) o鑑定に基づいて担保価値に関する被告人の認識を認定することは誤りである,(4) 被告人の捜査段階の自白は十分信用できる,と主張する。 1 担保①部分の担保価値に関する被告人の認識について所論は,被告人は,捜査段階において,「n鑑定によれば,担保①部分の土地の時価は200億円であり,これは坪単価6100万円でした。」旨供述しているように,本件融資当時,被告人が認識していたのは,担保①部分全体の公簿面積に基づく鑑定評価額とその坪単価だけであり,本件の全証拠に照らしても,被告人が,原判決認定のように,担保①部分の実測面積を計算して,これにn鑑定の1平方メートル当たりの単価を乗じ,担保①部分の担保評価額を計算し直したなどということは全く認められない,と主張する。 関係証拠によると,d銀行不動産鑑定部において不動産鑑定業務に従事し,不動産鑑定士の資格を有していたnは,平成3年6月下旬ころ,h抵当信用の担当者から,担保①部分について抵当証券を発行するに当たり,鑑定評価書の作成を依頼されて,担保①部分の土地の正式鑑定を実施した結果,同年7月1日時点における更地としての鑑定評価額は,1平方メートル当たり1850万円で,これに公簿面積1083.72平方メートルを乗じて200億円と評価したことが認められる。そして,被告人は,原審公判において,「担保①部分は,1坪当たり8000万円近くの評価はあると思っていた 万円で,これに公簿面積1083.72平方メートルを乗じて200億円と評価したことが認められる。そして,被告人は,原審公判において,「担保①部分は,1坪当たり8000万円近くの評価はあると思っていた。」と供述しているが,原判決判示のとおり,担保①部分とその余の担保部分との間には私道が介在しているから,これを一体評価することは許されないところ,被告人は,平成3年7月に実施されたn鑑定において,担保①部分の評価額が1平方メートル当たり1850万円とされていたのを認識していたと認められるから,担保①部分が1坪当たり8000万円近くの評価はあると思っていた旨の被告人の供述は信用できず,担保①部分の担保評価については,n鑑定による実測面積の評価額である約227億4000万円(1850万円×実測面積1229.32平方メートル)と認識していたと推認できる。 確かに,所論の援用する被告人の検察官調書には,所論指摘の供述記載がある。しかしながら,同調書の信用性全般については,後に判断を示すことにするが,同調書では,担保①部分について,実測面積が328坪とされているところ,担保①部分の実測面積は1229.32平方メートル(約371.8坪)であって,328坪(約1084平方メートル)というのは公簿面積であると認められれ,同調書(自白調書)は,公簿面積によるものと実測面積によるものとが混在しているのであって,同調書の所論指摘部分を根拠に,本件融資当時,被告人が認識していたのは,担保①部分全体の公簿面積に基づく鑑定評価額とその坪単価だけであるということはできない(なお,同調書には,「外苑西通りは,実測面積が328坪ということですので,担保評価としては,全体として約180億円の担保評価ということになります。」との供述記載があることからすると,同記載自体からして,被 調書には,「外苑西通りは,実測面積が328坪ということですので,担保評価としては,全体として約180億円の担保評価ということになります。」との供述記載があることからすると,同記載自体からして,被告人は担保評価に当たっては,実測面積を基準にしていたとも見得るのである。)。そして,先に述べたように,甲プロジェクト用地付近は,いわゆる縄延びが相当あり,実測面積が公簿面積を相当上回ること,同プロジェクト用地の買収に際しても,多くは実測面積により売買がなされていること,被告人ら株式会社a側のように,金融機関から融資を受ける者としては,できる限り有利な条件で融資を受けたいと願うのは当然であることなどに照らすと,被告人が本件計画地の担保価値を考える際には,自己に有利な実測面積で計算していたと推認しても決して不合理とはいえない。 したがって,被告人が,担保①部分の担保評価については,n鑑定による実測面積の評価額である約227億4000万円と認識していたと認められるとした原判決の認定が誤りとはいえない。 2 担保④A部分は担保②及び③部分と一体評価できないとの主張について(1) 所論は,融資に際して担保評価を行うのは,あくまでも金融機関であって,融資を受ける者ではないのであり,本件において認定すべき担保価値に関する被告人の認識は,借り手である被告人が自己に有利に期待ないし希望する担保価値ではなく,金融機関がどの程度の担保評価をするかについての被告人の認識である,被告人は,捜査段階において,「株式会社aの事業収益からの貸付金の回収について,客観的にかなりの不安があった平成3年9月ころ,貸手側がかなり厳しい担保評価をするであろうことは,それまでの経験で分かっていた。本件担保不動産について,貸手側から見た妥当な担保価値をまとめると合計約578億円になり, 安があった平成3年9月ころ,貸手側がかなり厳しい担保評価をするであろうことは,それまでの経験で分かっていた。本件担保不動産について,貸手側から見た妥当な担保価値をまとめると合計約578億円になり,これくらいの数字が,私が納得するしないにかかわらず,当時の貸手側から見た担保評価の適当な数字だった。」旨,すべて貸手側から見た担保評価という観点から述べており,また,「私の場合,土地を買ってそのまま転売するようなことはせず,個々の土地を安く仕入れて一体として付加価値をつけ,その土地上に建てるビルや収益率についても計画を立てた上で,最低これくらいは融資できるはずだという案をもって金融機関に借入れを申し込み,交渉に臨んでいた。私は,実際に買収や建築にかかると予想した費用つまり原価を『A価』,金融機関に対する説明用として,金融機関ならこれくらいは評価してくれるだろうという金額を『B価』,完成したビルやプロジェクトを販売する際の国土利用計画法上の売却上限価格を『C価』と呼んでいた。A価,B価,C価は,それぞれ価格がかなり違っていたし,使う相手や時期によっても何度も書き直していた。私は,B価を,金融機関から見て融資可能な評価,すなわち担保評価額と同じような意味として使っていた。」旨述べているとおり,金融機関から融資を受けて用地買収事業を行う者としては,自己の借入希望額のみならず金融機関側から見た担保評価を想定して事業計画を策定した上,金融機関と交渉して互いの妥協点を見出し,融資を受けて事業を展開するのが当然であり,金融機関側の担保評価を考慮しなければ,そもそも実現可能な事業計画を策定し得ない,と主張する。 しかし,被告人は,金融機関の融資担当者ではなく不動産事業の完成を目指していた事業家なのであるから,金融機関の立場に立って担保評価するわけがなく,またで 現可能な事業計画を策定し得ない,と主張する。 しかし,被告人は,金融機関の融資担当者ではなく不動産事業の完成を目指していた事業家なのであるから,金融機関の立場に立って担保評価するわけがなく,またできるわけがない。その立場からは,貸手の側に立った融資可能額の想定はある程度行うものの,所有不動産の担保価値としてはできるだけ高めに考えることは何ら不自然なことではない。すなわち,金融機関から融資を受ける者としては,できる限り有利な条件で融資を受けたいと願うのは当然であって,必ずしも融資担当者と同様の観点から担保評価しなければならないいわれはないのである。被告人も,前記検察官調書において,「担保評価というのは,かなりいい加減なところがあり,借入先によってもまちまちでしたし,ノンバンクなどは高金利を取る代わりに担保評価に甘いところがありました。それまでの取引の中で,iリースなどは非常に厳しい方でしたが,b株式会社やe銀行は比較的甘かったと思う。」旨供述しているように,金融機関の担保評価や鑑定評価規程等について知らない被告人が,金融機関の立場から担保評価することは困難である。仮に金融機関から見た担保評価額を想定したとしても,被告人のようにプロジェクト事業を計画している者としては,できる限り有利な条件で融資を受け,用地買収等の事業を遂行したいと願うのは当然であろう。 なお,所論は,被告人が原審公判で,「C価は売却可能金額,すなわち比較的売りやすい金額であり,B価は借入希望額,すなわち仕入予定価格に事業期間の金利や本社経費等を加えたものである。『C価が国土利用計画法上の売却上限価格であり,B価が金融機関側の融資可能額,担保評価額である。』とする捜査段階の供述は誤りであり,そのようなことは検事に話していない。私は,金融機関の立場で担保評価したことはない 計画法上の売却上限価格であり,B価が金融機関側の融資可能額,担保評価額である。』とする捜査段階の供述は誤りであり,そのようなことは検事に話していない。私は,金融機関の立場で担保評価したことはないし,金融機関がどのような担保評価をするかは分からない。」旨弁解するのは,虚偽である,と主張するが,上記のとおり,被告人としては,金融機関から用地買収資金等を借り入れるに際して,金融機関の側に立った融資可能額(担保評価額)の想定はある程度行うものの,これが金融機関の正確な担保評価額であるはずがなく,また,これに基づいて融資申込みをするわけではないから,所有不動産の担保価値としてはできるだけ高めに考えることは何ら不自然なことではなく,上記の供述が虚偽というわけにはいかない。また,所論は,o鑑定に二通りの鑑定評価額が存する理由について,「一つは売却上限価格,もう一つは金融機関から見た担保評価額であり,それが知りたくて二通りの鑑定をお願いした。」旨の被告人の原審公判供述は,捜査段階の供述と合致するから,被告人の前記弁解は虚偽である,と主張するが,金融機関の側に立った融資可能額(担保評価額)を知ってこれを融資申込みの参考にするとしても何ら異とするに足りない。 (2) 所論は,担保④A部分について虫食い状態が解消される見通しはなかった上,土地上の建物に賃借人が居住していることは隣接地との一体評価の妨げになる,と主張する。 この点に関し,被告人は,原審公判において,「本件融資当時,担保②及び③部分,並びに私道を挟んだ北側のy番<X>及びy番<Y>土地を除く担保④部分を一体として評価していた。」旨供述している。 関係証拠によれば,原判決判示のとおり,本件融資当時,株式会社aは,担保④部分のうち,w番<J>,w番<O>の共有持分約6分の1,w番<Q>とw番< 分を一体として評価していた。」旨供述している。 関係証拠によれば,原判決判示のとおり,本件融資当時,株式会社aは,担保④部分のうち,w番<J>,w番<O>の共有持分約6分の1,w番<Q>とw番<U>の間に存するw番<P>の土地買収が未了であったことが認められ,これらの事情は,y番<X>及びy番<Y>の土地を除く担保④部分と担保②及び担保③部分とを一体評価する妨げになるというべきで,金融機関の担当者がこれを担保に徴する場合,債権の保全の確実性という観点から,これらを一体のものと評価することは許されないものといわなければならない。 しかし,金融機関から融資を受ける者としては,できる限り有利な条件で融資を受けたいと願うのは当然で,必ずしも融資担当者と同様の観点から担保評価しなければならないいわれはなく,未買収の土地があっても,近い将来これを買収でき,用地の形が整うとともに,買収済みの用地と接続することができる(いわゆる虫食い状態を解消できる)との見込みがあれば,これを一体のものとして担保評価を考えたとしても,あながち不合理であるとは断じ得ないというべきである。 そして,本件融資当時,未買収であった共有持分,土地についての買収に関する交渉状況は,次のとおりであった。 ア関係証拠によれば,株式会社aから買収の委託を受けていたjコンサルタントは,w番<J>及びw番<O>の土地の共有持分の約6分の5と同地上にある「マンションk」の共有持分について,権利者であるqとの間で,平成3年2月2日に売買契約を締結し,同年8月21日までに売買代金を全額支払ったほか,w番<J>及びw番<O>の土地の残共有持分約6分の1と「マンションk」の残共有持分については,権利者であるrに対して,同年8月21日に補償金名下に3000万円を支払い,その後同人から売却の約束を取 w番<J>及びw番<O>の土地の残共有持分約6分の1と「マンションk」の残共有持分については,権利者であるrに対して,同年8月21日に補償金名下に3000万円を支払い,その後同人から売却の約束を取り付けたことが認められる。 そうすると,本件融資当時,上記買収の交渉状況につきjコンサルタントの代表取締役sから報告を受けていた被告人としては,w番<J>及びw番<O>の土地並びに同地上のマンションの残共有持分の取得について,相当の見通しを有していたものと認められる。 イ関係証拠によれば,jコンサルタントは,平成2年10月ころ,w番<P>の土地の所有者tとともに,国土利用計画法所定の土地売買届出書を提出したこと,その後,平成3年2月16日には同土地の測量を依頼し,tはこれを容認したことが認められる。 tは,同土地を売る意思は全くなかったと供述しているが,上記認定の事実によると,tにおいて,土地を売る意思が全くなかったとは考え難く,むしろ,備忘録に「採算合わずと決別する」旨の記載があることからすれば,同人は金額次第では売却する意思があったと認めるのが相当である。したがって,被告人において,本件融資当時,上記土地を取得できるとの見通しを相当程度有していたとしても,不合理とはいえない。 ウこのように,被告人においては,本件融資当時,w番<J>及びw番<O>の土地並びに同地上の建物の残りの共有持分,w番<P>の土地について,これを取得できるとの見通しを有していたことは否定できない。また,これに要する買収資金についても,関係証拠によれば,本件融資開始当時,iリースの融資枠の残りが約74億円であったのであるから,被告人において,買収が可能であると認識したとしても,不合理とはいえない。なお,w番<S>,w番<T>の土地については,本件融資当時,土地所 ,iリースの融資枠の残りが約74億円であったのであるから,被告人において,買収が可能であると認識したとしても,不合理とはいえない。なお,w番<S>,w番<T>の土地については,本件融資当時,土地所有者との間で,甲プロジェクトの用地外に株式会社aが所有していた甲x番<W>の土地と交換する旨の合意が成立していた。 そして,本件においては,本件融資に際し提供した担保物件の担保価値について,被告人がYと意見を交わしたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,金融機関の担当者でない被告人が,買収の見通しがあることを前提に,y番<X>及びy番<Y>の土地を除く担保④部分を,担保②及び担保③部分と一体であるとした上で,その担保価値を評価したとしても,必ずしも不合理とはいえないというべきである。 ところで,m及びoは,担保④部分のうち,w番<J>,w番<O>,w番<U>及びw番<V>の土地上にはマンションがあり,その居住者の一部と立ち退き交渉がまとまっていなかったことから,この部分を担保②及び担保③部分と一体評価することはできないと供述している。 確かに,関係証拠によれば,同地上に存するマンションの居住者との立ち退き交渉は,相当程度進展していたけれども,他方,交渉が難航していた居住者もいたことが認められる。しかし,マンションの居住者がいることが,直ちに土地を一体評価することの妨げになると考えることには疑問があり,金融機関から融資を受ける者としては,土地上に存する建物居住者との立ち退き交渉が完了していなかったとしても,これを一体評価の妨げになるとは考えず,一体評価をした上で,これから相応の立退料等を減価しさえすればよいと考えたとしても,これを不合理とはいえない。 以上のとおり,y番<X>及びy番<Y>の土地を除く担保④部分を,担保②及び担保③部分 一体評価をした上で,これから相応の立退料等を減価しさえすればよいと考えたとしても,これを不合理とはいえない。 以上のとおり,y番<X>及びy番<Y>の土地を除く担保④部分を,担保②及び担保③部分と一体であると評価したとの被告人の原審公判供述は排斥できない。 (3) 所論は,① w番<J>及びw番<O>の土地と同土地上のマンション「マンションk」については,qに対する売買代金の当初の支払期限は平成3年3月30日であったのに,株式会社aはこれを準備できなかったため,同年8月30日まで支払期限を延長し,その間に合計6330万円もの遅延損害金を支払っていること,rの共有持分については,平成4年5月ころに至って口頭で売却の約束を取り付けたにすぎない上,そのころには,株式会社aの買収資金はすでに枯渇しており,その後も正式な売買契約の締結に至らなかったこと,② w番<P>の土地については,平成2年10月に国土利用計画法所定の土地売買届出書を提出し,平成3年2月に同土地の測量をしたことは認められるが,tから売却を断られたため,平成3年中は買収交渉は全く行われなかったこと,そのため,被告人は,平成4年1月ころ,sに対し,tが同土地の売却に合意した旨の虚偽の協定書を作成するように指示していること,③ 買収資金の点についても,1回目の本件融資が実行された平成3年9月27日時点で,iリースの融資枠の残りが約74億円あったことは事実であるが,2回目の本件融資が実行された平成3年11月1日時点では,同融資の残りは約49億4000万円に減少している上,上記のようにr及びtとの買収交渉状況からして,被告人において,本件融資当時,iリースの融資枠の残りを優先的にこれらの買収資金に充てるとの意思を有していたとは到底認められない,と主張するが,これらの事実自体からしても, の買収交渉状況からして,被告人において,本件融資当時,iリースの融資枠の残りを優先的にこれらの買収資金に充てるとの意思を有していたとは到底認められない,と主張するが,これらの事実自体からしても,「被告人が本件融資当時,これらの土地を取得できるとの見通しを相当程度有していたとしても,不合理とはいえない。」,「これに要する買収資金についても,本件融資開始当時,iリースの融資枠の残りが約74億円であったのであるから,被告人において,買収可能であると認識したとしても,不合理とはいえない。」とする原判決の認定が左右されるものではない。 (4) 所論は,本件融資当時,担保④A部分には,w番<J>及びw番<O>の土地上に鉄筋コンクリート造陸屋根6階建の「マンションk」が,w番<V>の土地上に木造瓦葺2階建2棟の「ハイツl」がそれぞれ存在していたところ,「マンションk」については,上記のとおり持分権が買収未了であった上,いずれの共同住宅についても現に賃借人が居住して立ち退き交渉がまとまっておらず,建物の取り壊しができない状態であったから,担保④A部分の土地とこれに隣接する担保②及び担保③部分の土地を一体利用することは不可能な現況にあり,また,一体利用が不可能な土地を競売等により一括して換価処分することが困難であることは自明であるから,その担保評価において,担保④A部分を担保②及び担保③部分と一体評価することはできないとするm及びoの不動産鑑定士の供述は,極めて自然かつ合理的であるのに,原判決は独自の考えに基づき一体評価したものであって,不当である,と主張する。 しかしながら,関係証拠によれば,「マンションk」については,上記のとおりの買収交渉状況であり,「ハイツl」については,同マンションの所有者との間で売買契約が成立し,同マンションの賃借人7人の 。 しかしながら,関係証拠によれば,「マンションk」については,上記のとおりの買収交渉状況であり,「ハイツl」については,同マンションの所有者との間で売買契約が成立し,同マンションの賃借人7人のうち6人は明渡しを承諾し,1名のuは明渡料でごねて,当面の明渡しを諦め中断していた(同人についても,その要求する金額をのめば容易に明渡しをすることは可能である。)ことが認められるところ,このような立ち退き交渉がまとまる見込みのある状況の下においては,「マンション居住者がいることが,直ちに土地を一体評価することの妨げになると考えることには疑問があり,金融機関から融資を受ける者としては,土地上に存する建物居住者との立ち退き交渉が完了していなかったとしても,これが一体評価の妨げになるとは考えず,一体評価をした上で,これから相応の立退料等を減価しさえすればよいと考えたとしても,これを不合理とはいえない。」旨の原判決の判示を不当とすることはできない。 所論の援用する不動産鑑定士のnの検察官調書中には,「底土とその上の建物の買収が完了し,その建物の賃借人の立ち退きが未了である場合において,その底土と既に買収を終えた隣接の更地とがつながっている場合には,鑑定評価上,一応両方の土地は一体のものとして把握することになりますが,・・・また,賃借人の立ち退きが未了であるとか共有持分権者の一部の持分権の買収が未了であることなどの事情により,使用収益が制約されている土地とこれに隣接する更地とがつながっている場合,両方の土地は,鑑定評価上,一応一体の土地として把握することになるとしても,土地利用の観点からは両方の土地の一体利用は不可能であり,このことも鑑定評価における大きな減価要因となります。」との供述記載もあるのであって,所論のように,原判決の判断が専門家である不動産 しても,土地利用の観点からは両方の土地の一体利用は不可能であり,このことも鑑定評価における大きな減価要因となります。」との供述記載もあるのであって,所論のように,原判決の判断が専門家である不動産鑑定士の各供述を無視した独自の見解であるということはできない。 3 o鑑定に基づいて担保価値に関する被告人の認識を認定することは誤りであるとの主張について(1) 所論は,原判決が,担保②ないし担保④A,B部分の担保評価につき,被告人において,本件当時,o鑑定の「売却可能上限価格」の評価額,1平方メートル当たり2320万円を採用できると認識していたとしても不合理ではないとしたことに対し,この場合本来o鑑定のもう一つの鑑定評価額である「金融機関から見た担保評価額」,1平方メートル当たり1930万円を採用すべきであって,原判決は不適切な証拠評価をしている,と主張する。 しかし,被告人は,金融機関の融資担当者ではなく不動産事業の完成を目指していた事業家なのであるから,金融機関の立場に立って担保評価するわけがなく,またできるわけがない。その立場からは,貸手の側に立った融資可能額の想定はある程度行うものの,所有不動産の担保価値としてはできるだけ高めに考えることは何ら不自然なことではない。 (2) また,所論は,本件融資当時の担保②ないし④A,B部分の現況は,未買収地が存し,一部には賃借人が居住する建物が存在するなど虫食い状態であり,新宿通りに通じる土地の間口が狭小であるなど,o鑑定の鑑定対象地に比し明らかに担保価値が劣る状態であったから,同鑑定が,本件融資当時に被告人が認識していた担保価値を認定する積極的な根拠にはなり得ないし,株式会社aが新宿通りに接道する土地部分につき売買契約や売買協定を成立させていても,本件融資当時の被告人の担保評価について 当時に被告人が認識していた担保価値を認定する積極的な根拠にはなり得ないし,株式会社aが新宿通りに接道する土地部分につき売買契約や売買協定を成立させていても,本件融資当時の被告人の担保評価についての認識とは関係なく,またその契約等を締結した土地部分についても一部の土地以外は結果として買収に失敗しているのであるから,当時新宿通りに面した土地部分を買収できる見込みがないことは被告人も認識していたのであり,結局本件当時,被告人がo鑑定による評価額を採用できるなどと認識していたはずはない,と主張する。 しかし,上記のとおり,被告人は担保②ないし④部分の虫食い状態が解消されるとの見通しを有していたものであり,被告人は,本件当時,新宿通りに面した土地を買収することは十分できると考えていたが,資金投下するならまず「できるだけ面積の大きいところ,しかも付加価値も高まるところ」という観点で裏地から買収していったのである。事実,新宿通りに面した土地部分につき売買契約等を締結したが,ただ,結果として資金事情で残代金等が支払えず買収できなかったのである。 確かに,oが鑑定の対象とした部分と担保②部分ないし担保④部分とを比較すれば,後者が新宿通りに通じる用地の間口が狭小であるなどの事情が認められるところ,前記mは,このような場合でも,いわゆる虫食いの状態が解消されれば(前記認定のとおり,被告人は,このような虫食い状態が解消されるとの見通しを有していた。),総合設計制度による容積率の割増しが認められる余地があることを認めている上,関係証拠によれば,株式会社aは,新宿通りに面したv番<A>,v番<C>ないし<E>,v番<F>,<G>,w番<L>及びw番<M>の各土地について,平成3年9月から平成4年2月にかけて売買契約を締結したり,買い受ける旨の合意を成立させている 面したv番<A>,v番<C>ないし<E>,v番<F>,<G>,w番<L>及びw番<M>の各土地について,平成3年9月から平成4年2月にかけて売買契約を締結したり,買い受ける旨の合意を成立させていることが認められるから,被告人において,y番<X>及びy番<Y>の土地を除く担保④部分と担保②,③部分の担保価値についても,o鑑定による評価額が採用できると認識していたとしても,あながち不合理ということはできない。 (3) 所論は,株式会社aが,平成3年9月から平成4年2月にかけて,売買契約を締結したv番<A>,v番<B>ないし<D>,v番<G>,v番<I>及びw番<L>の計7筆の土地,売買協定を締結したv番<E>,v番<H>及びw番<M>の計3筆の土地は,甲プロジェクト用地の中でも最も高額な土地であり,各土地及び同土地上の建物の買収金額の総額は合計約94億円にも達するところ,株式会社aは,売買契約締結時に合計1億6486万円(売買代金額の約2.4パーセント,正確には約1.75パーセントである。)の手付金を支払っただけで,売買協定の締結の際には支払をしておらず,その後の経緯を見ても,平成6年に至ってiリースからの融資金で例外的に買収できたv番<E>及びw番<M>の土地以外は,売買代金をほとんど支払えないまますべて買収に失敗しているのであり,これらの売買契約及び売買協定は,株式会社a側に資金調達の見込みが全くないままに締結されたものであることは明らかである上,被告人においても,相当逼迫していた当時の株式会社aの財務状況等から,本件融資当時,新宿通りに面した各土地を株式会社aが現実に買収できる見込みがないことを認識していたことも優に認められるから,本件融資当時において,被告人がo鑑定による評価額を採用できるなどと認識していたはずはない,というのであ 各土地を株式会社aが現実に買収できる見込みがないことを認識していたことも優に認められるから,本件融資当時において,被告人がo鑑定による評価額を採用できるなどと認識していたはずはない,というのである。 しかしながら,関係証拠によれば,被告人から委託を受けたjコンサルタントのsらは,新宿通りに面した土地の買収に努力し,v番<A>,v番<C>ないし<E>,v番<F>,<G>,w番<L>及びw番<M>の各土地について,平成3年9月から平成4年2月にかけて売買契約を締結したり,買い受ける旨の合意(売買協定)を成立させていたのであるから,結果として売買代金を支払えず買収に失敗しているとしても,それは,被告人の本件融資当時の認識についての上記認定を左右するものとはいえない。 (4) そこで,これらを一体評価できるとの被告人の認識を前提に,その担保価値を検討する。 原判決判示のように,関係証拠によれば,被告人は,平成3年7月ころ,甲プロジェクト用地のうち,原判決の別紙(三)表示の鑑定対象地について,o不動産鑑定士に鑑定を依頼したが,これによれば,同対象地の更地としての1平方メートル当たりの売却可能上限価格は2320万円とされていることが認められる。 そうすると,y番<X>及びy番<Y>の土地を除く担保④部分と担保②,③部分の担保価値は,1平方メートル当たりの評価額2320万円に,実測面積2593.83平方メートル(担保②,③部分については,原判決認定の実測面積1983.14平方メートルを用い,これに,w番<J>,<O>の実測面積368.78平方メートルの共有持分約6分の5である307.31平方メートル,w番<U>,<V>の実測面積198.48平方メートルとw番<Q>の公簿面積104.90平方メートルを加算したもの)を乗じた約601億8000万円とな 有持分約6分の5である307.31平方メートル,w番<U>,<V>の実測面積198.48平方メートルとw番<Q>の公簿面積104.90平方メートルを加算したもの)を乗じた約601億8000万円となり,ここから用地上に存するマンション居住者に支払うべき相応の立退料等を減じても,さらに担保①部分については約227億4000万円の担保価値があると認識していたのであるから,上記の担保権設定状況に照らして,本件融資金を担保することができることになり(なお,本件融資金の担保としては,この外にy番<X>,y番<Y>の土地があり,また甲x番<W>の土地がiリースの融資の担保に供されている。),したがって,本件融資金は十分に担保されているものと認識していた旨の被告人の弁解は排斥できないことになる。 4 被告人の捜査段階の自白は十分信用できるとの主張について所論は,被告人は,本件融資当時,担保不動産について,公簿面積によって担保価値を把握し,金融機関側から見た担保評価もしていたと認められる上,担保④A部分につき,その虫食い状態が解消されて担保②及び③部分と一体評価が可能になる見込みはなく,ましてやo鑑定の鑑定評価額を採用できるような用地買収はおよそ不可能であり,さらに,被告人がb株式会社に融資を申し込んだ際に甲プロジェクト用地全体を平均した担保評価額をせいぜい1坪当たり約5436万円(1平方メートル当たり約1647万円)としていたことも考慮すれば,被告人の捜査段階における供述は,その内容自体極めて合理的かつ自然であり,その信用性は極めて高いというべきである,というのである。 しかしながら,原判決判示のとおり,被告人は,捜査段階において,担保①ないし④部分の土地の担保評価に関して,「甲プロジェクト用地の担保評価額については,iリースと最初に交渉したとき うのである。 しかしながら,原判決判示のとおり,被告人は,捜査段階において,担保①ないし④部分の土地の担保評価に関して,「甲プロジェクト用地の担保評価額については,iリースと最初に交渉したときはB価(私は,B価という意味を,金融機関から見て融資可能な評価,すなわち担保評価額と同じ様な意味として使っていました。)を1坪当たり5000万円位,b株式会社に融資を申し込んだときは1坪当たり約5436万円としていたが,これは全体の買収が完了し一体となることを前提として,それを平均した担保評価額であった。本件犯行当時,担保①部分ないし担保④部分の土地は一体化しておらず,それぞれ場所や地形に違いがあり,更地か否かの点でも大きな差があったので,平均5436万円というのは一応の参考程度で,各ブロックごとに評価を個別的に考える必要があった。担保①部分の土地については,h抵当信用が依頼した鑑定から考えて,掛け目9割の坪当たり約5500万円(1平方メートル当たり1670万円)が担保評価としては妥当で,実測面積328坪を乗じ,全体として約180億円になる。担保②,③部分ほかの土地(自白調書中では,『凸部分』と表現されている部分)については,新宿通りに接するものの,その間口が狭く奥の方が広い土地で,地形的にも利用方法が制限されることなどから,せいぜい担保①部分と同程度の評価をすると思う。妥当な担保価値は合計約355億円ということになる。担保④部分のうち,私道の北側の土地(y番<X>,<Y>)は,担保②部分の土地と一体化していないため担保評価の対象に入れてなかった。私道の南側の土地(w番<J>,<O>,<U>,<V>)も,担保②部分の土地と一応は一体評価が可能だが,地形上のマイナスがあり,しかもw番<J>やw番<V>の土地上にアパートが建っており,その共有持分が 南側の土地(w番<J>,<O>,<U>,<V>)も,担保②部分の土地と一応は一体評価が可能だが,地形上のマイナスがあり,しかもw番<J>やw番<V>の土地上にアパートが建っており,その共有持分が取得未了であることや,立ち退き交渉が未了で更地でなかったことなどから,担保②部分の土地の半分以下の担保評価坪当たり2525万円と評価されてもやむを得ない。実測で約171坪なので,約43億円以下の評価ということになる。担保①ないし担保④部分合計で約578億円であった。」旨供述し,本件融資が担保不足であったことを認める供述をしている。 しかしながら,被告人の自白には,原判決指摘のように,以下のような問題があり,これをそのまま信用することには躊躇を感じる。 ア被告人の自白調書では,担保①部分について,実測面積が328坪とされているが,上記認定のとおり,担保①部分の実測面積は1229.32平方メートル(約371.8坪)であって,328坪(約1084平方メートル)というのは公簿面積であると認められる。 また,担保②,③部分ほかの土地(凸部分)について,その担保価値が約355億円となるのは,当時いまだ所有権を取得していなかったw番<S>,w番<T>の土地を含めた公簿面積によると推認されるところ,他方,被告人の自白調書中ではw番<J>,<O>,<U>及び<V>の土地については,実測面積によって担保価値を計算しているから,結局,被告人の自白は,公簿面積によるものと実測面積によるものとが混在している上,いまだ所有権を取得していなかったw番<S>,w番<T>の土地をも担保物件に含めて評価していることになるなど,明らかに不合理な点が認められる。 このように被告人の自白調書には,初歩的な誤りがあるのであって,担保評価に関する部分については,被告人が自ら供述したという 物件に含めて評価していることになるなど,明らかに不合理な点が認められる。 このように被告人の自白調書には,初歩的な誤りがあるのであって,担保評価に関する部分については,被告人が自ら供述したというよりは,取調官に誘導されるがままに,これに異を唱えなかったにすぎないのではないかとの疑念を生じさせるというべきである。 イ被告人の自白によれば,担保④部分のうち,私道北側の土地(y番<X>,y番<Y>)は,担保②部分の土地と一体化していないため担保評価の対象に入れていなかったとされているが,これらの土地が担保②及び担保③部分と比較して,その評価額が大幅に減価されることは当然であるとしても,できる限り多くの融資を受けたいと考えている被告人が,担保評価の対象に入れていなかったというのは,いかにも不自然で不合理である。 ウ前記認定のとおり,被告人は,平成3年7月,o不動産鑑定士に依頼して甲プロジェクト用地全体,及び担保②ないし担保④部分を含む原判決の別紙(三)の鑑定対象地について,鑑定評価を実施しているのであるから,被告人の本件融資当時における担保②ないし担保④部分の担保価値に関する認識は,当然oの鑑定を意識したものとなるはずであるのに,被告人の自白調書にはo鑑定に触れた供述記載がなく,この点において,いささか不自然な感を免れない。 以上のとおり,担保評価に関する被告人の自白には不自然,不合理な部分があり,被告人の当時置かれた立場からは,触れるのが自然であると考えられる事項について,全く記載がなされていないなどの事情があるので,これに高度の信用性を置くことには躊躇を感じざるを得ない。 第3 Yの任務違背に関する被告人の認識について所論は,原判決が,「本件融資当時,被告人がYの任務違背を認識していたとするにはなお合理的な疑いが残る。」と認 くことには躊躇を感じざるを得ない。 第3 Yの任務違背に関する被告人の認識について所論は,原判決が,「本件融資当時,被告人がYの任務違背を認識していたとするにはなお合理的な疑いが残る。」と認定したのは誤りである,と主張し,その理由として,(1) Yの任務違背に関する被告人の認識を判断する上で重要な前提事実として,被告人はYの任務の重要性を認識していた上,b株式会社の株式会社aに対する融資に関し有利な取り計らいを受けたいとの意図で,Yと癒着していたこと,(2) 被告人は,Yが本件融資に係る稟議資料の作成に当たって株式会社aの便宜を図っているものと認識していたこと,(3) 被告人は,Yが自己の働きかけに応じてくれたことにより本件融資が実行されたものと認識していたこと,(4) 被告人は,Yが融資金の使途管理を怠ったことが任務に違背するものであると認識していたこと,(5) 被告人の捜査段階の自白は十分信用できること,を指摘している。 1 Yの任務違背に関する被告人の認識を判断する上で重要な前提事実について所論は,本件当時,被告人が,b株式会社から融資を受けるためには,同社の株式会社a担当者として,担保査定や上司への報告などの融資業務を直接担当していたYの役割が極めて重要であることを明確に認識していたのは明らかであり,また,被告人は,b株式会社の株式会社aに対する融資に関し有利な取り計らいを受けたいとの意図で,Yと癒着していたことも明らかであるのに,原判決は,「検察官が指摘するように,被告人は,Yに対して,1億8000万円もの無担保融資を行うなど,金融機関の融資担当者と取引先という関係に照らして,到底許されない癒着関係にあった。」旨判示するのみであり,このことが,Yの任務違背に関する被告人の認識,さらには,被告人とYとの共謀に関する原判 ,金融機関の融資担当者と取引先という関係に照らして,到底許されない癒着関係にあった。」旨判示するのみであり,このことが,Yの任務違背に関する被告人の認識,さらには,被告人とYとの共謀に関する原判決の認定の誤りに大きく影響している,というのである。 関係証拠によれば,Yに対し,株式会社aから,株取引による損失補てん等の資金として,平成2年2月14日に1億円,同年4月27日に5000万円,平成3年8月20日に3000万円を無担保で貸し付けているほか,餞別,昇進祝い等として平成2年10月から平成4年5月までの間に合計350万円が贈与されているが,これらの貸付け等が本件融資をb株式会社から引き出すために行われたと認めるに足りる証拠はない。被告人も捜査段階において,「b株式会社からの融資もどんどん増加していた時期で,個人的に株式会社aが所有していた不動産の売却先を紹介してくれたり金融機関も紹介してもらっていたことで,日頃から非常にお世話になっているYさんに対しては,やはり何かこちらからもお礼をしなければならないと思っていたときに,1億円の借入れを申し込まれた記憶です。・・・aリースからの貸付けをリベートとして融資を引き出したわけではありませんので,その点だけは理解してもらえると幸いです。」と述べているのである。 2 被告人は,Yが本件融資に係る稟議資料の作成に当たって株式会社aの便宜を図っているものと認識していたとの主張について所論は,原判決が,「Yは,役員協議会に提出する稟議資料に,担保を水増しするなど虚偽ないし誇張した内容の事項を記載していたが,被告人が本件融資を受けるに当たり,これを認識していたと認めるに足りる証拠はない。」と判示したのは皮相な判断であり,誤っている,と主張する。 関係証拠によれば,原判決判示のとおり,Yが,b株式会社 被告人が本件融資を受けるに当たり,これを認識していたと認めるに足りる証拠はない。」と判示したのは皮相な判断であり,誤っている,と主張する。 関係証拠によれば,原判決判示のとおり,Yが,b株式会社の役員協議会の決裁を通りやすくするために,本件融資の可否を決定する役員協議会に虚偽ないし誇張した内容を記載した稟議資料を提出したことが認められるが,被告人が本件融資を受けるに当たり,これを認識していたと認めるに足りる証拠はない。被告人は捜査段階において,これを認識していなかった旨供述しているのである。所論指摘の被告人の同調書中の「私もある程度,Yが融資の稟議を通すために,私の希望的な話にすぎないことを,稟議資料にオーバーに記載しているであろうことは予想していた。」旨の供述記載も,被告人の認識を認める根拠として不十分といわなければならない。 3 被告人は,Yが自己の働きかけに応じてくれたことにより本件融資が実行されたものと認識していたとの主張について所論は,本件融資は,継続融資ではなく,被告人がその都度Yに働きかけ,これにYが応じてくれたことによって実行されたものであり,原判決が,「被告人において,本件融資が,殊更Yが便宜を図ってくれたために可能となったとの認識をもたなかったとしても不合理ではない。」旨認定したのは明らかな誤りである,と主張する。 関係証拠によれば,b株式会社が甲プロジェクトに関し,株式会社aに資金を融資するようになった経緯について,原判決判示の事実を認めることができる。すなわち,(1) 被告人は,平成3年5月ころ,今後の事業展開についてb株式会社の常務取締役P2と相談するなどして,乙プロジェクトを一時中断し,甲プロジェクトと丙プロジェクトに資金を集中することもやむを得ないと考えるに至ったが,そのころ,株式会社aを訪れたY ついてb株式会社の常務取締役P2と相談するなどして,乙プロジェクトを一時中断し,甲プロジェクトと丙プロジェクトに資金を集中することもやむを得ないと考えるに至ったが,そのころ,株式会社aを訪れたYに対し,甲プロジェクトは買収が進んでいるのに,iリースが基本協定を締結していながら貸し渋っているため困っている,などと説明した上,b株式会社が甲プロジェクトに融資してくれないかとの打診をした。 (2) その後,被告人は,同年6月中旬ないし下旬ころ,Yに対し,甲プロジェクトについて,買収交渉は順調に進み,年内には買収完了見込みであること,しかし,iリースが基本協定を締結していながら,追加資金の融資を渋っており,融資上限を設けると主張されて困っていること,資金調達が大変で,自分の法人税法違反事件の裁判のこともあるので,買収の遅れている乙プロジェクトを一時凍結して,甲プロジェクトと丙プロジェクトに力を注ぎたいこと,丙プロジェクトはe銀行がメインで今後も融資してくれるので,b株式会社には乙プロジェクトの融資枠を甲プロジェクトに回して融資して欲しいこと,甲プロジェクト全体で約1300億円の資金が必要であり,調達の目処がついている約500億円を除いて残り800億円が必要であることなどを説明して,融資の依頼をした。これに対し,Yは,即答を避け,被告人に,直接P2に説明してもらうよう依頼した。 (3) この間,P2は,同年5月ころ,Yから被告人の意向を聞くなどし,被告人の意向に沿いたいと考え,同月下旬ころ,f銀行出身のP3総合企画部長,P4業務推進部長,P5財務部長の意見を聴取した。その結果,P2は,株式会社aはプロジェクトを絞るほかないと考えたが,同年6月28日ころ,b株式会社を訪れた被告人から,「甲プロジェクトは,iリースとその後も強い姿勢で交渉しているが 意見を聴取した。その結果,P2は,株式会社aはプロジェクトを絞るほかないと考えたが,同年6月28日ころ,b株式会社を訪れた被告人から,「甲プロジェクトは,iリースとその後も強い姿勢で交渉しているが,基本協定書を出しておきながら資金を出してくれず,420億円で融資ストップと言ってきており,大変困っている。自分自身の法人税法違反の裁判のこともあるし,甲プロジェクトと丙プロジェクトについては買収交渉も順調に進んでいるので,年内にはどちらも地上げを完了したいと考えているが,今のような金融引き締め状況では,三つのプロジェクトを同時並行で進めることは難しいことがよく分かった。乙は地上げ交渉が一番遅れているし,b株式会社も毎月大きな額の資金を出すのは難しいということなので,乙は当分の間凍結し,甲プロジェクトと丙プロジェクトを先に仕上げようと思う。どちらか一つでも仕上がれば,資金の回転もぐんと楽になる。丙プロジェクトは,今後もe銀行が出してくれることになっているので,b株式会社には甲プロジェクトに資金を出して欲しい。iリースとは基本協定書があるので,今後も強気で交渉するし,並行して抵当証券による資金集めについてもいろいろと当たりをつけているところであり,それまでのつなぎを是非b株式会社にお願いしたい。」などと,乙プロジェクトを当分の間凍結し,その分を甲プロジェクトへ融資することを依頼された。P2は,被告人の依頼の趣旨をb株式会社の代表取締役社長のP6に報告し,受け入れる方向で対処したいと具申した。 (4) その後,被告人は,同年7月10日ころ,b株式会社を訪れ,直接P6に対して,甲プロジェクトの概要を説明した上,6月28日ころにP2にしたのと同様の内容を述べて,甲プロジェクトへの融資を依頼するとともに,iリースが融資を再開するまで,できるだけ多くの融 ,直接P6に対して,甲プロジェクトの概要を説明した上,6月28日ころにP2にしたのと同様の内容を述べて,甲プロジェクトへの融資を依頼するとともに,iリースが融資を再開するまで,できるだけ多くの融資を受けたいが,取りあえずとして,100億円の融資を希望した。 (5) P6は,被告人が帰った後,被告人の依頼を受け入れ,乙プロジェクトを当分凍結して,その分の資金を甲プロジェクトに回すようにとP2に指示した。そして,P6とP2は,当時,b株式会社も資金調達が厳しくなっていたので,被告人から依頼のあった100億円は,7月と8月の2回に分けて50億円ずつ融資することを決めた。 (6) その後,P2は,平成3年7月16日,b株式会社の創立15周年パーティーに被告人が出席してくれたことへの返礼に株式会社aを訪れた際,被告人に対し,甲プロジェクトへの融資の内諾と,7月と8月に50億円ずつを融資することを伝えた。なお,P6及びP2は,その後,株式会社aに対し,いつまで,どれくらいの額を融資するのかについては,具体的に考えていなかった。 上記認定の事実によると,P6らが甲プロジェクトへの融資を決断した時点で,同人らとしては,その後,株式会社aに対し,いつまで,どれくらいの額を融資するのか,という具体的な内容までは決めていなかったものの,その後も同プロジェクトに関し,可能な範囲で融資することを想定していたものと認めるのが相当である。P2は,検察官調書において,「乙プロジェクトの進行を一時凍結し,その資金枠を甲プロジェクトに回すことに決めました。」,「新しいプロジェクトへの融資であり,今後しばらく継続的に大きな額を融資していくことになる。」旨の供述をしており,被告人においても,甲プロジェクトに対する継続融資であることを認識していたものと認められるのである。 トへの融資であり,今後しばらく継続的に大きな額を融資していくことになる。」旨の供述をしており,被告人においても,甲プロジェクトに対する継続融資であることを認識していたものと認められるのである。 そして,被告人は,原審公判において,「本件融資を受けるに際し,Yがその任務に違背しているとの認識はなかった。」旨供述しているところ,① 上記認定のように,Yは,役員協議会に提出する稟議資料に,担保を水増しするなど虚偽ないし誇張した内容の事項を記載していたが,被告人が本件融資を受けるに当たり,これを認識していたと認めるに足りる証拠はないこと,② b株式会社は,株式会社aを拠点会社と位置づけ,営業戦略上最重要の取引先としていたこと,b株式会社においては,P6とその部下であるP2は,強い発言力を有しており,融資の可否を決定する役員協議会でも,P6らの意向が強い影響力をもっていたのであり,これらのことは,被告人も,b株式会社との取引を通じて,認識していたものと推認できること,③ 被告人は,本件融資を受けるに当たり,P6及びP2に対し,直接甲プロジェクトの概要やiリースとの関係を説明した上,乙プロジェクトの資金を甲プロジェクトに回して欲しいと述べて融資を依頼し,その基本的な了解を得たこと,その際,平成3年7月及び8月に実行された100億円のほかに,その後も可能な範囲で融資がなされることは,P6,P2及び被告人間の了解事項であったこと,などを併せ考慮すれば,被告人において,本件融資は,P6やP2の判断とこれに基づくb株式会社の方針によりなされたものであると考え,殊更Yが便宜を図ってくれたために可能となったとの認識を持たなかったとしても,必ずしも不合理といえない。その旨の原判決の認定は相当であり,所論は採用できない。 4 被告人は,Yが融資金の使途管理を怠っ Yが便宜を図ってくれたために可能となったとの認識を持たなかったとしても,必ずしも不合理といえない。その旨の原判決の認定は相当であり,所論は採用できない。 4 被告人は,Yが融資金の使途管理を怠ったことが任務に違背するものであると認識していたとの主張について所論は,Yが本件融資金の使途管理を怠ったことについて,被告人がYの任務違背を認識しなかったとしても不合理とはいえないとした原判決の認定は誤りである,と主張する。 関係証拠によれば,Yは,b株式会社の融資担当者として,融資後,契約書や登記簿謄本を徴するなどして,株式会社aが融資金を約定どおり使ったのか管理すべきであったのに,Yは,このような使途管理は全くせず,結果として,株式会社aが,甲プロジェクト資金として融資を受けた本件融資金を,同社の利払い,運転資金等として費消することを防げなかったことが認められる。 このようにYが本件融資に関し,その資金使途管理を怠っており,被告人も当然これを認識していたものと認められるが,他方,株式会社aは,b株式会社から融資を受けた際,従前もY等ローン開発部の担当者から売買契約書の提出等の使途管理を受けたことがないことが認められるから,被告人が殊更この点をYの任務違背だと認識しなかったとしてもあながち不合理とはいえない。被告人は,捜査段階において,「b株式会社は甲プロジェクトの買収資金として融資をしていると思いますが,使途の具体的説明を求めたり,事後的に調査するという使途管理は全くなかった。」旨,原審公判においても,「本件融資の場合に限らず,b株式会社との融資取引において,融資金の使途を管理されたことはない。」旨供述しているのである。 所論は,過去のb株式会社の株式会社aに対する融資の際,多くの場合に担保権が設定されているから,b株式会社の株式会社 資取引において,融資金の使途を管理されたことはない。」旨供述しているのである。 所論は,過去のb株式会社の株式会社aに対する融資の際,多くの場合に担保権が設定されているから,b株式会社の株式会社aに対する事業ローン融資について,従前から使途管理が全く行われていなかったとする原判決の認定は誤りである,と主張するが,担保権の設定がどうして直ちに資金使途を管理していたことになるのか分明でないし,本件融資においても担保権設定はなされているのであるから,所論の指摘は当を得ない。 5 被告人の捜査段階の自白は十分信用できるとの主張について所論は,Yの任務違背を認識していた旨の被告人の自白は,本件融資当時の被告人の認識として極めて自然かつ合理的なものであり,その信用性に何ら疑問の余地はない,というのである。 被告人は,捜査段階において,「株式会社aの財務状況や決算内容の実態をよく知っていたYさんが,そのことを上司に正確に報告していたら,まず甲プロジェクトへの融資は無理だったと思いますし,買収の見込みをきちんと調査して抵当証券化の話なども相手に確認すれば,いずれも話だけで具体的には何もないこともはっきりしていたと思いますので,その点も手を抜いていたことは分かっていました。また,資金使途管理についても,iリースのようにきちんとやられたらほとんど融資は受けられなかったと思います。」と供述し,Yの任務違背を認識していた旨の自白をしている。 しかしながら,原判決が判示するように,上記のとおり,本件融資当時,被告人としては,本件融資は,P6やP2の判断とこれに基づくb株式会社の方針によりなされたものであると認識していた上,従前もb株式会社から融資金の使途管理を受けたことはなかったことを考慮すると,被告人において,Yが本件融資に際し,株式会社aや被告人のた づくb株式会社の方針によりなされたものであると認識していた上,従前もb株式会社から融資金の使途管理を受けたことはなかったことを考慮すると,被告人において,Yが本件融資に際し,株式会社aや被告人のために殊更便宜を図ってくれていると考えていたとするには疑問の余地があるといわなければならず,被告人の上記自白は,これをそのまま受け入れることはできない。その旨の原判決の判断に誤りはない。 第4 被告人とYとの共謀について所論は,原判決は,被告人がYとの間で,同人の特別背任について,共謀を遂げたものとは認め難いと判示しているが,被告人及びYは,それぞれ,損害の発生及び任務違背を十分認識しつつ,同様の図利目的の下,互いに意思を通じて共謀を遂げた上,本件融資の実行に及んだことが明らかであるから,被告人とYとの共謀を否定した原判決の認定は誤りであるとし,その理由として,被告人は,b株式会社におけるYの役割の重要性を認識して,b株式会社の株式会社aに対する融資に関し有利な取り計らいを得たいとの意図の下に,Yに対し,多額の金品を贈与し,合計1億8000万円を無担保で貸し付けるなど,Yとの甚だしい癒着関係を築いた上,それによりYが被告人に対し恩義あるいは負い目を感じていることを十分認識しながら,株式会社aあるいは被告人の利益を図るため,回収が危ぶまれ担保もない本件融資が実行されるように,Yが担保評価や稟議書類の作成などにおいて株式会社aに有利に取り計らってくれることを期待して,本件融資の実行をYに働きかけたのであるから,本件は,正に,被告人が,Yとの癒着関係に乗じ,それを利用して影響力を行使し,融資を実行させた事案というべきであり,被告人には,Yの背任行為に対する共同加功の意思が優に認められ,また,被告人は,Yが被告人に対し恩義あるいは負い目を感じている じ,それを利用して影響力を行使し,融資を実行させた事案というべきであり,被告人には,Yの背任行為に対する共同加功の意思が優に認められ,また,被告人は,Yが被告人に対し恩義あるいは負い目を感じていることに乗じて本件融資の実行を働きかけたのであるから,Yの図利目的,すなわち,Yが株式会社a及び被告人の利益を図り,かつ,株式会社aが倒産して被告人との癒着が発覚することを回避する自己保身を図る目的で,その任務に違背して本件融資を実行したことも認識していたものと認められる,と主張する。 しかしながら,関係証拠を検討すると,原判決が,被告人がYとの間で,同人の特別背任について,共謀を遂げたものとは認め難いと認定したのは正当である。すなわち,(1) Yは,本件融資当時,株式会社aの財務状況が逼迫していたこと,資金調達の見通しが立たなかったことから,甲プロジェクトの完成は困難であったこと,本件融資に際し株式会社aから徴求した担保では,平成3年11月1日に実行された20億円の融資から,実質的に担保不足あるいは無担保となること,したがって,本件融資金のうち,同20億円以降のものは,株式会社aに返済能力がなかったことを認識しながら,役員協議会に提出する稟議資料に,担保価値を水増しするなどの虚偽ないし誇張した内容を記載するなどして,自己の任務に違背した上,本件融資を実行したものであり,その結果,b株式会社に財産上の損害を与えたものである。また,このように,Yが自己の任務に違背してまで,株式会社aに本件融資を受けさせたのは,被告人から1億8000万円もの無担保融資を受けていたことなどから,その恩に報いるため,株式会社aの利益を図ろうとしたものと認められる。 (2) 被告人は,本件融資当時,株式会社aの財務状況が逼迫していた上,資金調達の確実な見通しが立た を受けていたことなどから,その恩に報いるため,株式会社aの利益を図ろうとしたものと認められる。 (2) 被告人は,本件融資当時,株式会社aの財務状況が逼迫していた上,資金調達の確実な見通しが立たなかったことから,甲プロジェクトの完成は相当の困難を伴うことを認識していたことは認められるが,他方,本件融資に際しb株式会社に提供した担保に不足があるとは認識しておらず,本件融資は,P6やP2の判断とこれに基づくb株式会社の方針によりなされたものであると認識するとともに,Yが本件融資に際し,株式会社aや被告人のために,自己の任務に違背してまで便宜を図ってくれているとは考えなかったものである。確かに,所論が指摘するように,被告人は,Yに対し,1億8000万円もの無担保融資を行うなど,金融機関の融資担当者と取引先という関係に照らして,到底許されない癒着関係にあったものであり,本件融資当時,被告人がYに対し心理的に優越的な立場にあったことは明らかであるが,本件においては,被告人がこのような立場を殊更利用して,Yに融資を迫ったことを認めるに足りる証拠はない。 (3) そうすると,被告人がYとの間で,同人の特別背任について,共謀を遂げたものとは認め難いといわなければならない。 第5 結論以上検討したところによれば,被告人がYの行為の任務違背性を認識していたとまで認めることはできない上,被告人とYとの間で特別背任の共謀が成立したとも認められないから,本件特別背任の公訴事実について,犯罪の証明がないとして,無罪を言い渡した原判決の認定判断に,所論のいうような事実誤認は認められない。 論旨は理由がない。 よって,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 平成13年11月26日東京高等裁判所第5刑事部 主文 誤認は認められない。論旨は理由がない。よって、刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 平成13年11月26日東京高等裁判所第5刑事部裁判長裁判官高橋省吾裁判官本間榮一裁判官山田耕司

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