【DRY-RUN】主 文 本件控訴を棄却する。 当審の未決勾留日数中一〇〇日を本刑に算入する。 理 由 弁護人吉田勘三の控訴趣意について。 原判示事実は、要するに、
主文 本件控訴を棄却する。 当審の未決勾留日数中一〇〇日を本刑に算入する。 理由 弁護人吉田勘三の控訴趣意について。 原判示事実は、要するに、被告人が別居中の実兄Aの所有であると誤信して親族でないB所有のラジオ一台と雨靴一足を窃取したというのであつて、所論は、これに対し、右は事実の錯誤に該当するから刑法第三八条第二項を適用して親族相盗の例に準じ軽きに従つて処断すべきものである。というのである。 思うに、故意は罪となるべき事実の認識をいうのであるから、事実の錯誤が故意を阻却する可能性のあるのは、その錯誤が罪となるべき事実について存する場合に限るのであり、刑法第三八条第二項もまた右の場合に限つて適用されるに止るのである。しかして、窃取した財物が別居の親族の所有である場合においては、告訴を待つてその罪を論ずるだけのことであつて、進んで窃盗罪の成立を阻却するものでないことは刑法第二四四条第一項が「第二百三十五条ノ罪及ヒ其未遂罪ヲ犯シタル者」と規定していることからしても明かであるから窃盗罪の客体としてはその財物が他人の所有であるを以て足り、その他人が刑法第二四四条第一項所定の親族<要旨>であるや否やは窃罪盗の成否に影響を及ぼすものではない。従つて、財物の所有者たる他人が別居の親族であ</要旨>るとの錯誤は窃盗罪の故意の成立を阻却するものではなく、この点については刑法第三八条第二項もまた適用の余地がないのである。ただBの財物をAの財物であると誤信した点において罪となるべき事実に関する具体的の錯誤が存するけれども、他人の物を他人の物と信じたことは相違がなく、その認識とその発生せしめた事実との間には法定的事実の範囲内において符合が存するから、右の錯誤を以て窃盗の故意を阻却するものということができず るけれども、他人の物を他人の物と信じたことは相違がなく、その認識とその発生せしめた事実との間には法定的事実の範囲内において符合が存するから、右の錯誤を以て窃盗の故意を阻却するものということができず、この点についても刑法第三八条第二項を適用することができない。被告人の本件所為に対し刑法第三二五条を適用した原審の措置は結局相当であつて、その間所論のような違法があるということはできない。論旨引用の福岡高等裁判例は同居の親族の物と誤信した場合に関するものであつて、本件には適切ではない。 (なお大正一二年四月二七日大審院判例参照)。 よつて刑事訴訟法第三九六条刑法第二一条に則り主文のように判決する。 (裁判長判事梶田幸治判事井関照夫判事西尾貢一)
▼ クリックして全文を表示