平成23(ワ)1412 国家賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年6月19日 福岡地方裁判所 棄却
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判決文本文10,946 文字)

平成24年6月19日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成23年第1412号国家賠償請求事件口頭弁論終結日平成24年4月10日判決主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求の趣旨 1 被告は,原告に対し,73万円及びこれに対する平成19年7月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 仮執行宣言(これに対し,被告は,担保を条件とする仮執行免脱宣言及び執行開始時期を被告に対する判決正本送達後14日を経過したときとすることを求めている。)第2 事案の概要本件は,担保不動産競売により別紙物件目録1記載1ないし3の各土地(以下,これらの土地を併せて「本件各土地」という。)を買い受けた原告が,本件各土地は他の土地と重複して全く存在しなかったにもかかわらず,執行官及び執行裁判所の裁判所書記官がそれぞれ過失によってこれを看過したため,納付した代金相当額の損害を被ったなどと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項又は不当利得返還請求権(選択的併合)に基づき,損害金73万円及び平成19年7月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(証拠掲記のない事実は争いがない。)⑴ 原告は,株式会社A(以下「A」という。)の代表取締役を務める者である(乙7)。 ⑵ 福岡地方裁判所小倉支部(以下「本件執行裁判所」という。)は,平成16年7月6日,根抵当権者の申立てにより,本件各土地について担保不動産競売開始決定を行った(福岡地方裁判所小倉支部平成16年第j号。以下,同開始決定による競売手続を「本件競売手続」という。)(甲6の1ないし3)。 ⑶ 本件執行裁判所は,福岡 地について担保不動産競売開始決定を行った(福岡地方裁判所小倉支部平成16年第j号。以下,同開始決定による競売手続を「本件競売手続」という。)(甲6の1ないし3)。 ⑶ 本件執行裁判所は,福岡地方裁判所小倉支部執行官に対し,本件各土地の現況調査を命じ,同支部執行官のB(以下「B執行官」という。)が本件競売手続の現況調査を担当した。B執行官は,本件各土地の現況調査を実施し(以下「本件現況調査」という。),平成16年10月22日,本件執行裁判所に対し,現況調査報告書(以下「本件報告書」という。)を提出した。 (本項につき,乙2)⑷ 本件執行裁判所は,不動産鑑定士C(以下「C評価人」という。)を本件競売手続の評価人として選任し,本件各土地の評価を命じた。C評価人は,平成16年9月22日に現地調査を行うなどした上で,同年10月25日にその評価を行い,本件執行裁判所に対し評価書(以下「本件評価書」という。)を提出した。(本項につき,乙3)⑸ 本件執行裁判所の裁判所書記官D(以下「D書記官」という。)は,平成17年11月14日,本件報告書及び本件評価書等に基づき,物件明細書(以下「本件物件明細書」という。)を作成した(甲3)。 ⑹ 本件執行裁判所は,本件各土地を一括売却することと定め,売却基準価額を72万7000円と決定した。同裁判所の裁判所書記官E(以下「E書記官」という。)は,平成19年5月8日,売却基準価額を上記金額,入札期間を同年6月6日から同月13日まで,売却決定期日を同月27日とする期間入札(以下「本件入札」という。)に付す旨を公告(以下「本件入札公告」という。)し,同年5月8日から,本件物件明細書,本件報告書及び本件評価書の各写しを福岡地方裁判所小倉支部物件明細書等閲覧室に備え置い て,一般の閲覧に供した。(本項に (以下「本件入札公告」という。)し,同年5月8日から,本件物件明細書,本件報告書及び本件評価書の各写しを福岡地方裁判所小倉支部物件明細書等閲覧室に備え置い て,一般の閲覧に供した。(本項につき,乙1)⑺ 原告は,本件入札に参加し,本件執行裁判所から代金73万円による売却許可決定を受け,平成19年7月25日までに代金全額を納付した。 ⑻ 平成19年7月26日,本件各土地について,同月25日付け担保不動産競売による売却を原因として,原告に対する所有権移転登記手続がなされた(甲6の1ないし3)。 ⑼ 原告は,平成23年2月7日付けで,福岡法務局北九州支局に対し,平成21年度登記所地図作成作業において,本件各土地と別紙物件目録2記載1ないし4の土地(以下,これらの土地を併せて「Tの土地」という。)が重複することが判明したとして,本件各土地について表題部登記を抹消するよう求める申出書を提出した(甲5)。 ⑽ 福岡法務局北九州支局は,平成23年2月16日,Tの土地との重複を原因として,本件各土地の表題部登記を閉鎖した。 2 争点及び争点に対する当事者の主張⑴ 本件現況調査においてB執行官に過失が認められるか(原告の主張)裁判所執行官は,不動産競売において不動産の現況や形状等を調査,報告する義務を負っており,その前提として,土地の現況調査において土地の存否を確認する義務を負っている。 本件各土地は,いずれもTの土地と重複していたため,全く存在しない土地であった。しかるに,B執行官は,上記義務を怠り,安易に本件各土地が存在することを前提に現況調査を進め,本件各土地が全く存在しないことを本件報告書に記載しなかった。 したがって,本件現況調査においてB執行官には過失が認められる。 (被告の主張)B執行官は,執行裁判所の現況 前提に現況調査を進め,本件各土地が全く存在しないことを本件報告書に記載しなかった。 したがって,本件現況調査においてB執行官には過失が認められる。 (被告の主張)B執行官は,執行裁判所の現況調査命令に従い,通常行うべき調査方法に より調査を尽くし,調査結果の評価及び検討を十分に行っており,本件各土地の存在を認めて,本件競売手続を進行させたことには何らの過失はない。 また,そもそも本件各土地が全く存在しないと判断したのは原告であり,その判断の結果,本件各土地の登記が抹消されたことによる不利益は原告が負担すべきものである。 したがって,本件現況調査においてB執行官に過失は認められない。 ⑵ 本件競売手続においてE書記官に過失が認められるか(原告の主張)不動産競売手続は,対象となる土地が存在しなければ行うことができないことは当然であり,裁判所書記官は,調査を行った結果,土地が存在しない可能性があるのであれば,不動産競売手続を進めない義務を負う。 前記⑴で主張したとおり,本件各土地は全く存在しない土地であった。しかるに,E書記官は,上記義務を怠り,本件公告を行い,漫然と本件競売手続を進めた結果,存在しない土地について競売手続を行った。 したがって,本件競売手続においてE書記官には過失が認められる。 (被告の主張)争う。E書記官は,執行裁判所の書記官として行うべき民事執行法及び民事執行規則所定の事項を記載して,本件入札公告を行った。また,E書記官は,B執行官により適法に作成された本件報告書を確認して,本件入札公告を行った。そして,本件土地の売却は,適法な競売手続に従って行われた。 したがって,本件競売手続においてE書記官に過失は認められない。 ⑶ 原告の損害及び各過失行為との因果関係(原告の主張)原告は,B執行官 ,本件土地の売却は,適法な競売手続に従って行われた。 したがって,本件競売手続においてE書記官に過失は認められない。 ⑶ 原告の損害及び各過失行為との因果関係(原告の主張)原告は,B執行官及びE書記官の各過失行為により,代金相当額73万円の損害を被った。 (被告の主張) 否認する。 ⑷ 被告に納付した代金相当額の不当利得が認められるか(原告の主張)原告は,本件競売手続において,被告に対し,代金73万円を納付した。 しかし,本件競売手続は,実際には存在しない土地を競売にかけたものであるから,原始的不能な競売として無効である。 したがって,被告は,原告に対し,納付した代金相当額である73万円を不当利得として返還する義務を負う。 (被告の主張)本件競売手続において,原告が納付した本件各土地の代金は,差押債権者等に対する弁済に充てられており,被告には利得が無い。また,本件競売手続は,適法に行われたものであるから,原告から納付された本件各土地の代金には法律上の原因がある。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実,証拠(各項掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 ⑴ 本件各土地の分筆等(甲6の1ないし3,乙3)ア本件各土地は,北九州市a区b町c丁目d番の土地(以下「d番の土地」という。)として,もともと1筆の土地であった。 イ d番の土地の地積は,登記簿上,当初228㎡とされていたが,Fの申請により,昭和60年10月11日,錯誤を原因として3399㎡に変更された。Fは,同申請の際,土地家屋調査士Gの昭和60年8月24日作製に係る地積測量図等を提出した。 ウ d番の土地は,Fの申請により,昭和63年4月4日,別紙物件目録1記載1の土地(以下「物件1」という。)と北九州市 際,土地家屋調査士Gの昭和60年8月24日作製に係る地積測量図等を提出した。 ウ d番の土地は,Fの申請により,昭和63年4月4日,別紙物件目録1記載1の土地(以下「物件1」という。)と北九州市a区b町c丁目d番 2の土地(以下「d番2の土地」という。)に分筆された。Fは,同申請の際,土地家屋調査士Gの昭和63年3月24日作製に係る地積測量図等を提出した。 エ d番2の土地は,Fの申請により,平成2年6月5日,別紙物件目録1記載2の土地(以下「物件2」という。)と同記載3の土地(以下「物件3」という。)に分筆された。Fは,同申請の際,一級建築士Hの平成2年4月20日作製に係る地積測量図等を提出した。 ⑵ 福岡地方裁判所小倉支部は,平成6年10月31日,株式会社I(以下「I」という。)とJ株式会社(以下「J」という。),K及びFとの間で,Iが別紙図面のイ,ロ,ハ,ニ,ホ,ヘ,ト,チ,リ,ヌ,ル,ヲ,ワ,カ,イの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下「別件係争地」という。)の所有権を有することを確認する旨の判決を言い渡し,同判決は確定した(福岡地方裁判所小倉支部平成5年第k号土地所有権確認等請求事件。以下,同判決を「別訴判決」という。)。 なお,Iは,同訴訟において,別件係争地が別紙物件目録2記載1ないし6の各土地の一部であると主張していた。 (本項につき,乙4)⑶ 本件現況調査当時,別紙物件目録2記載1ないし6の各土地の所有名義人は,いずれもIであった。 ⑷ B執行官が行った本件現況調査の経過(乙2)ア B執行官は,平成16年7月22日,福岡法務局北九州支局において,本件各土地の字図等を閲覧した。 イ B執行官は,平成16年7月23日,福岡法務局北九州支局から,本件各土地の隣地である北九州市a区b町c丁目h番 成16年7月22日,福岡法務局北九州支局において,本件各土地の字図等を閲覧した。 イ B執行官は,平成16年7月23日,福岡法務局北九州支局から,本件各土地の隣地である北九州市a区b町c丁目h番c1,同番c2,同所i番d1及び同番d2の各土地に係る全部事項証明書を受領した。 ウ B執行官は,平成16年8月6日,本件各土地において,写真撮影を行 ったほか,近隣に居住するLと面談した。 エ B執行官は,平成16年9月9日,登記簿上に記載されたFの住所に赴いたが,同人は不在だった。 オ B執行官は,平成16年9月14日,本件各土地の所有名義人であるJ(物件1),K(物件2)及びF(物件3)に対し,照会書をそれぞれ送付した。 カ B執行官は,平成16年9月14日,a区役所課税課から,本件各土地の航空写真の写しを受領した。 キ B執行官は,平成16年9月21日,J及びKから,前記オの照会書に対する回答書をそれぞれ受領した。K及びJは,同回答書において,B執行官に対し,自己の所有する土地は自ら管理しており,境界争いもない旨を陳述した。 ク B執行官は,平成16年9月22日,本件各土地において,概測及び写真撮影を行ったほか,前記Lと面談した。 ケ前記Lは,上記ウ又はクの面談の際,B執行官に対し,物件1の北側にIの所有地があり,約20年前に同地に「立入禁止」の看板を立てたり,鉄条網を設置したりしていたことなどを陳述した。 コ B執行官は,本件現況調査において,C評価人から,Fが平成16年9月22日にC評価人に対して「本件各土地を造成しようとしたら,Iから同社の所有だとして訴訟を起こされ,平成二,三年頃敗訴した。それで,私は別訴判決によりどの土地を所有しているか分かりません。」と話していた旨を聞いた。 サ B執行官は,平成16年 としたら,Iから同社の所有だとして訴訟を起こされ,平成二,三年頃敗訴した。それで,私は別訴判決によりどの土地を所有しているか分かりません。」と話していた旨を聞いた。 サ B執行官は,平成16年10月18日,I九州支店総務部長のMから,電話で事情聴取したほか,別訴判決の判決書写しを受領した。 ⑸ B執行官は,本件報告書に,執行官の意見として,要旨次の記載をした(乙2)。 ア物件2の南東側境界線辺りは高さ約4mのコンクリート擁壁となっているが,その余の境界は不明瞭である。 イ土地所在図に記載されている図根点4か所のうち,2か所については物件所在地に標があった。これを基に概測したところ,物件2西側境界線は木杭の地点であった。 ウ物件2の土地内には,「陸軍省」と表示された境界標及び「I」と表示された境界標がある。 エ本件各土地については,登記簿とそれに符合する地積測量図が存在し,Fを除く所有者らも本件各土地を管理していると陳述していたので,本件各土地の特定は問題ない。 しかし,I提出の別訴判決写しによれば,別件係争地は同社の所有である。なお,別件係争地は別紙物件目録2記載1ないし6の各土地の一部である。 以上のとおり,物件1全部並びに物件2及び物件3の一部をIが所有し,物件2の一部をKが所有し,物件3の一部をFが所有している。 ⑹ア C評価人は,本件評価書の「第4 目的物件の位置・環境等」の項目において,特記事項として,Iが別訴判決で,地積測量図で示された本件各土地の北側と東側部分が別紙物件目録2記載1ないし6の各土地の一部であるとして,対象土地所有者との間で所有権の確認を受けており,その範囲を図面上で計測したところ,地積測量図で示された対象土地面積の約81%であった旨を記載した(乙3)。 イまた,C評価人 一部であるとして,対象土地所有者との間で所有権の確認を受けており,その範囲を図面上で計測したところ,地積測量図で示された対象土地面積の約81%であった旨を記載した(乙3)。 イまた,C評価人は,本件評価書の「第5 評価額算出の過程」の項目において,別訴判決によると,本件各土地の北側と東側部分は,I所有地の一部であるとされており,地積測量図で示された物件1全部と物件2及び物件3の多くの部分が同社所有地ということになるが,本件各土地の外周線はd番の土地が一筆であった時点から変更がないため,物件1が存在し ないとは考え難く,地積測量図における本件各土地の位置は不正確であり,その境界も不分明であると考察し,本件各土地が同じ個別格差を有するものと注記した。その上で,同評価人は,評価額算出の基礎となる価格である更地価格を算出するにあたり,他人が所有権を有する部分の存在を考慮して,「×0.19」(81%減価)を個別格差として考慮して評価を行った(乙3)。 ⑺ 本件執行裁判所は,平成17年2月25日,福岡法務局北九州支局に対し,民事執行法18条1項(平成16年法律第152号改正前であり,当時,執行官は官庁又は公署に対して援助を求める権限を有していなかった。)に基づき,別紙物件目録2記載1ないし6の各土地について,全部事項証明書及び字図の送付を請求し,同支局から,当該全部事項証明書及び字図の送付を受けた(乙6の1ないし8)。 ⑻ D書記官は,本件物件明細書の「その他買受けの参考となる事項」の項目において,本件各土地について,要旨,次のとおりの記載をした(甲3)。 ア公図等の資料により,本件各土地が本件報告書の見取図の位置にあるものと認める。ただし,本件各土地の相当部分(面積にして81%相当)について,本件各土地の所有者らとIとの間で 載をした(甲3)。 ア公図等の資料により,本件各土地が本件報告書の見取図の位置にあるものと認める。ただし,本件各土地の相当部分(面積にして81%相当)について,本件各土地の所有者らとIとの間で,当該部分の土地がIの所有であることを確認する確定判決(別訴判決)が存在する。 イ Iは,上記相当部分の土地が本件各土地と境界を接しない別紙物件目録2記載1ないし6の土地の一部であると主張している。 ウ売却基準価額は,上記事情を踏まえ,本件各土地の利用が事実上及び法律上大幅に制限される可能性があることを考慮して定めた。 ⑼ Aは,平成19年12月25日,N株式会社(以下「N」という。)から,別紙物件目録2記載1ないし6の各土地並びに北九州市a区大字e字fg番b7,同番b8,同番b9,同番b10,同番b11,同番b12,同番b13,同番b14,同番b15,同番b16ないし同番b17,同番b18及び同番b19の各土地 を代金500万円で買い受けた(甲4)。 ⑽ Aは,平成21年6月23日,Nから,同日付け売買を原因として,別紙物件目録2記載1ないし6の各土地について所有権移転登記手続を受けた(乙5の1ないし6)。 2 争点⑴(本件現況調査においてB執行官に過失が認められるか)に対する判断⑴ 民事執行手続における現況調査の目的は,執行官が執行裁判所の命令に基づいて不動産執行又は不動産競売の目的不動産の形状,占有関係その他の現況を調査し,その結果を記載した現況調査報告書を執行裁判所に提出することにより,執行裁判所に売却条件の確定や物件明細書の作成等のための判断資料を提供するとともに,現況調査報告書の写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供することにより,不動産の買受けを希望する者に判断資料を提供することにある。このような現況調査 の作成等のための判断資料を提供するとともに,現況調査報告書の写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供することにより,不動産の買受けを希望する者に判断資料を提供することにある。このような現況調査制度の目的に照らすと,執行官は,執行裁判所に対してはもとより,不動産の買受希望者に対する関係においても,目的不動産の現況をできる限り正確に調査すべき注意義務を負うものと解される。 もっとも,現況調査は,民事執行手続の一環として迅速に行わなければならず,また,目的不動産の位置や形状を正確に記載した地図が必ずしも整備されていなかったり,所有者等の関係人の協力を得ることが困難な場合があるなど調査を実施する上での制約も少なくない。これらの点を考慮すると,現況調査報告書の記載内容が目的不動産の実際の状況と異なっても,そのことから直ちに執行官が前記義務に違反したと評価するのは相当ではないが,執行官が現況調査を行うに当たり,通常行うべき調査方法を採らず,あるいは,調査結果の十分な評価,検討を怠るなど,その調査及び判断の過程が合理性を欠き,その結果,現況調査報告書と目的不動産の実際の状況との間に看過し難い相違が生じた場合には,執行官が前記注意義務に違反したものと 認められ,国は,誤った現況調査報告書の記載を信じたために損害を被った者に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償の責任を負うと解するのが相当である(最高裁平成9年7月15日第三小法廷判決・民集51巻6号2645頁参照)。 ⑵ これを本件についてみるに,前記認定事実によれば,B執行官は,本件現況調査当時,可能な限り本件各土地の字図や航空地図等の図面を入手し,その上で,現地に赴いて図根点や境界線の状況などについて詳細な調査を行ったほか,本件各土地の所有者らや関係者などから事情聴取を行ってい 調査当時,可能な限り本件各土地の字図や航空地図等の図面を入手し,その上で,現地に赴いて図根点や境界線の状況などについて詳細な調査を行ったほか,本件各土地の所有者らや関係者などから事情聴取を行っている。また,C評価人を通じて別訴判決の存在を知った後は,別訴判決の原告であり,別紙物件目録2記載1ないし6の土地の所有名義人であったIから事情を聴取し,別訴判決の写しを入手するなどしており,B執行官が選択したこれらの調査方法は,通常行うべき調査方法としていずれも合理的なものといえる。 そして,前記前提事実によれば,①別訴判決は,別件係争地の所有関係をIとJ,K及びFとの間で確認するものにすぎず,本件各土地と別件係争地との境界を確定するものではないこと,②Iは,別訴判決においても,別件係争地の範囲で同土地が別紙物件目録2記載1ないし6の各土地の一部である主張していたにすぎず,本件各土地の全部について争っていたものではないこと,③登記簿と符合する地積測量図が存在し,それらに基づき分筆登記等の登記手続が行われていたこと,④Fを除く所有者らは,本件各土地を管理し,境界争いがないと陳述していたことなどの本件現況調査当時の事情からすれば,B執行官が,上記調査結果に基づき,本件各土地の存在を前提としてその特定に問題はないと判断して,物件1全部並びに物件2及び物件3の一部をIが,物件2の一部をKが,物件3の一部をFがそれぞれ所有していると報告したことに何ら不合理な点は存在しない。 なお,前記前提事実のとおり,原告の申し出に基づいて,平成23年2月16日,登記官が本件各土地とTの土地が重複していると判断し本件各土地 の表題部登記が閉鎖された事情が認められるが,原告が本件各土地を所有し,かつ,原告が代表者であるAが別紙物件目録2記載1ないし6の各土地を 件各土地とTの土地が重複していると判断し本件各土地 の表題部登記が閉鎖された事情が認められるが,原告が本件各土地を所有し,かつ,原告が代表者であるAが別紙物件目録2記載1ないし6の各土地を所有している状況にあって,関係土地の所有者間に争いのない前提のもとにその登記手続が進捗したことを考慮すると,B執行官がその報告をした当時には存在しなかった前記事情を考慮して,現時点で本件各土地の不存在を認識すべきであったということはできない。 そうすると,B執行官は,現況調査として通常行うべき調査方法を採り,目的不動産の現況をできる限り正確に調査した上で,その調査の結果を踏まえて,本件報告書を作成したものと認められるから,前記⑴の注意義務に違反したと判断することはできない。 したがって,本件現況調査においてB執行官に過失は認められない。 3 争点⑵(本件競売手続においてE書記官に過失が認められるか)に対する判断前記2のとおり,本件現況調査においてB執行官に過失は認められない。 また,前記前提事実及び前記認定事実によれば,D書記官は,本件報告書及び本件評価書等を検討し,さらに,確実に本件各土地の形状等を把握するためにTの土地を含む別紙物件目録2記載1ないし6の各土地の全部事項証明書及び字図を取り寄せた上で,適法に本件物件明細書を作成したことが認められる。 そして,E書記官は,本件報告書,本件評価書及び本件物件明細書を確認し,これらを前提に,執行裁判所の書記官として行うべき民事執行法及び民事執行規則所定の事項を記載して,本件入札公告を行ったことが認められるところ,他に本件競売手続に違法な点を認めるに足りる証拠もない。 したがって,本件競売手続においてE書記官に過失を認めることはできない。 4 以上のとおり,B執行官及びE書記官には過失が認 められるところ,他に本件競売手続に違法な点を認めるに足りる証拠もない。 したがって,本件競売手続においてE書記官に過失を認めることはできない。 4 以上のとおり,B執行官及びE書記官には過失が認められないことから,争点⑶(原告の損害及び各過失行為との因果関係)については判断するまでもなく,原告の被告に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求には理由が ない。 5 争点⑷(被告に納付した代金相当額の不当利得が認められるか)に対する判断前記2及び3のとおり,B執行官及びE書記官には過失は認められず,他に本件競売手続が違法であると認めるに足りる証拠はないから,原告が納付した代金相当額について「法律上の原因」がないと評価することはできない。 また,原告が本件競売手続において納付した代金73万円は,売却代金として債権者に配当されるべきことは法律上明らかである(民事執行法87条1項)から,原告の納付によって,被告に同額の利得が生じたと認めることもできない。 したがって,原告の被告に対する不当利得返還請求には理由がない。 第4 結論よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官永井裕之 裁判官住山真一郎 裁判官佐藤丈宜 (別紙)物件目録 1 1 所在北九州市a区b町c丁目地番 d番a1地目原野地積 1549㎡ 2 所在北九州市a区b町c丁目地番 d番a2地目原野地積 1573㎡ 3 所在北九州市a区b町c丁目地番 d番a3地目原野 在北九州市a区b町c丁目地番d番a2地目原野地積1573㎡ 所在北九州市a区b町c丁目地番d番a3地目原野地積277㎡ (別紙)物件目録 所在北九州市a区大字e字f地番g番b1地目山林地積376㎡ 所在北九州市a区大字e字f地番g番b2地目山林地積320㎡ 所在北九州市a区大字e字f地番g番b3地目山林地積185㎡ 所在北九州市a区大字e字f地番g番b4地目山林地積776㎡ 所在北九州市a区大字e字f地番g番b5地目山林地積1157㎡ 所在北九州市a区大字e字f地番g番b6地目雑種地地積2486㎡ (別紙)別紙図面省略

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